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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  G01N
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  G01N
管理番号 1377834
異議申立番号 異議2021-700633  
総通号数 262 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-10-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 2021-07-05 
確定日 2021-09-15 
異議申立件数
事件の表示 特許第6810286号発明「ガスセンサ」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6810286号の請求項1ないし8に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6810286号(以下「本件特許」という。)に係る出願(以下「本願」という。)は、2019年(平成31年)1月22日(優先権主張 平成30年2月6日)を国際出願日とするものであって、令和2年12月14日にその請求項1-8に係る発明について特許権の設定登録がされ、令和3年1月6日に特許掲載公報が発行され、その後、請求項1-8に係る特許に対して、令和3年7月5日付けで特許異議申立人 大行尚哉(以下「申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。

第2 本件特許発明
本件特許の請求項1-8に係る発明(以下「本件発明1」ないし「本件発明8」という。)は、本件特許の特許請求の範囲の請求項1-8に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。
「【請求項1】
センサ素子と、前記センサ素子が内部を軸方向に貫通する貫通孔を有する金属製の筒状体と、前記貫通孔内に配置され該貫通孔の内周面と前記センサ素子との間に充填された1以上の圧粉体と、気孔率が10%未満であり前記貫通孔内に配置されると共に内部を前記センサ素子が貫通し前記圧粉体を前記軸方向に押圧する中空柱状の1以上の緻密体と、
を備えたガスセンサであって、
前記センサ素子は、
長手方向に沿った両端である前端及び後端と、該長手方向に沿った表面である1以上の側面と、を有する長尺な素子本体と、
前記素子本体の前記前端側に配設された複数の電極を有し、被測定ガス中の特定ガス濃度を検出するための検出部と、
前記1以上の側面のいずれかの前記後端側に1以上配設され、外部と電気的に導通するためのコネクタ電極と、
前記コネクタ電極が配設された前記側面のうち少なくとも前記前端側を被覆し且つ気孔率が10%以上の多孔質層と、
前記多孔質層を前記長手方向に沿って分割するか又は前記多孔質層よりも前記後端側に位置するように前記側面に配設され、前記コネクタ電極よりも前記前端側に位置し、前記長手方向の存在範囲と前記1以上の緻密体の内周面の前記長手方向の存在範囲との連続した重複部分の長さである重複距離Wが0.5mm以上であり、前記側面を被覆し且つ気孔率が10%未満の緻密層と該緻密層に隣接し且つ前記多孔質層が存在しない隙間領域とのうち少なくとも前記緻密層を有し、前記長手方向に沿った水の毛細管現象を抑制する水侵入抑制部と、
を備えている、
ガスセンサ。
【請求項2】
前記緻密層は、前記長手方向の長さLeが0.5mm以上である、
請求項1に記載のガスセンサ。
【請求項3】
前記緻密層は、前記長手方向の長さLeが20mm以下である、
請求項1又は2に記載のガスセンサ。
【請求項4】
前記隙間領域は、前記長手方向の長さLgが1mm以下である、
請求項1?3のいずれか1項に記載のガスセンサ。
【請求項5】
前記水侵入抑制部は、前記隙間領域を備えない、
請求項4に記載のガスセンサ。
【請求項6】
前記センサ素子は、前記コネクタ電極が配設された前記側面に配設され前記複数の電極のいずれかと前記コネクタ電極とを導通する外側リード部を備えており、
前記多孔質層は、前記外側リード部の少なくとも一部を被覆している、
請求項1?5のいずれか1項に記載のガスセンサ。
【請求項7】
前記多孔質層は、前記水侵入抑制部が存在する領域を除いて、前記コネクタ電極が配設された前記側面のうち該側面の前記前端から前記コネクタ電極の前記前端側の端部までの領域を少なくとも覆っており、
前記水侵入抑制部は、前記多孔質層を前記長手方向に沿って分割するように前記側面に配設されている、
請求項1?6のいずれか1項に記載のガスセンサ。
【請求項8】
前記素子本体は、直方体形状をしており、前記長手方向に沿った表面である4つの前記側面を有しており、
前記コネクタ電極は、前記4つの側面のうち互いに対向する第1側面及び第2側面にそれぞれ1以上配設されており、
前記多孔質層は、前記第1側面及び前記第2側面をそれぞれ被覆しており、
前記水侵入抑制部は、前記第1側面及び前記第2側面にそれぞれ配設されている、
請求項1?7のいずれか1項に記載のガスセンサ。」

第3 異議申立理由の概要
申立人は、証拠として甲第1号証ないし甲第9号証を提出し、以下の異議申立理由(以下「異議申立理由」という。)によって、本件発明1ないし8に係る特許を取り消すべきものである旨を主張している。
<異議申立理由>
1.特許法第29条第2項(進歩性)について
甲第1号証:特開2012-108104号公報
甲第2号証:特開2018-119901号公報
甲第3号証:特開2012-21895号公報
甲第4号証:特開2012-173146号公報
甲第5号証:特開2012-189579号公報
甲第6号証:特開2009-80099号公報
甲第7号証:特開2007-285961号公報
甲第8号証:特開2007-278945号公報
甲第9号証:特開2016-14659号公報

本件発明1ないし5は、甲第1号証と甲第7号証に記載された発明と周知技術及び技術常識から当業者が容易に想到し得たことである。
本件発明6は、甲第1号証と甲第7号証と甲8号証に記載された発明と周知技術及び技術常識から当業者が容易に想到し得たことである。
本件発明7は、甲第1号証と甲第7号証と甲8号証と甲9号証に記載された発明と周知技術及び技術常識から当業者が容易に想到し得たことである。
本件発明8は、甲第1号証と甲第7号証と甲8号証と甲9号証に記載された発明と周知技術及び技術常識から当業者が容易に想到し得たことである。
(いずれも、甲第1号証に記載された発明を主発明としている。)
したがって、本件発明1ないし8に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものである。
よって、その特許は、同法第113条第2号に該当し取り消されるべきものである。

2.特許法第36条第6項第1号(サポート要件)について
本件発明1は、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えるものであるから、本件の請求項1の記載は特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。
よって、その特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。

3.特許法第36条第6項第2号(明確性)について
本件発明1は、明確に把握することができないから、本件の請求項1の記載は特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。
よって、その特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。

第4 異議申立理由についての判断
1.甲第1ないし9号証の記載事項及び甲第1ないし9号証から認定される発明
(1)甲第1号証
本願の優先日前に日本国内で頒布された刊行物である特開2012-108104号公報(甲第1号証)には、図面とともに次の技術事項が記載されている。(下線は当審が付与した。以下同様。)
ア 「【0001】
本発明は、測定対象ガス中の特定ガス成分の濃度を検出するためのガスセンサに関する。」

イ 「【0006】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものである。本発明は、製造工程において焼成用セッタから発生した脱粒屑等が未焼成のガスセンサ素子の表面に付着した場合であっても、必要な抗折強度を確保することができ、ガスセンサ素子の破損の発生を抑制することのできるガスセンサを提供することを目的とする。」

ウ 「【0008】
上記構成の本発明のガスセンサ素子では、積層体の積層方向の両側端部に設けられたアルミナを主成分とする絶縁基体の積層方向の両側端面のうち、少なくとも素子挿通部材と対向する部位には、アルミナよりも高靭性な第1材料を主成分とする塗布層が形成されている。これにより、塗布層が設けられている部分の抗折強度を高めることができる。よって、製造工程において焼成用セッタから発生した脱粒屑等が未焼成のガスセンサ素子の表面に付着した場合であっても、必要な抗折強度を確保することができ、ハウジングへの組み付け時におけるガスセンサ素子の破損の発生を抑制することができる。また、ガスセンサの測定時において、内燃機関等からの振動により、素子挿通部材にガスセンサ素子が接触したとしても、塗布層を設けることで必要な抗折強度を確保することできるため、ガスセンサ素子の破損の発生を抑制することができる。なお、上記の塗布層を積層体の側面(積層方向と平行な面)には設けないようにしている。積層方向と平行な面においては、素子幅が素子厚みよりも比較的に大きいために、脱粒屑等が未焼成のガスセンサ素子の表面に付着した場合であっても、塗布層を設けなくとも、必要な抗折強度を確保することができ、ガスセンサ素子の破損の発生を抑制することができる。よって、塗布層を設けることなく、生産性やコスト低減を図っている。」

エ 「【0016】
以下、本発明の実施形態に係る積層型のガスセンサ素子100を、図面を参照して説明する。図1は、全体形状が板状とされたガスセンサ素子100の構造を示す分解斜視図であり、ガスセンサ素子100は、ガスセンサ素子本体3と、ヒータ2を積層させて構成されている。
【0017】
ガスセンサ素子本体3は、酸素濃度検出セル130と酸素ポンプセル140とを備えている。酸素濃度検出セル130と酸素ポンプセル140との間には、ガス検出室形成層160が設けられ、酸素ポンプセル140の外側(図中上側)に、保護層12が設けられている。
【0018】
酸素濃度検出セル130は、固体電解質体11と、その固体電解質体11の両面に形成された基準電極13及び検知電極14とを具備している。固体電解質体11は、例えば、安定化剤としてイットリア(Y_(2)O_(3))あるいはカルシア(CaO)を添加したジルコニア(ZrO_(2))系焼結体やLaGaO_(3)系焼結体等から構成された酸素濃淡電池用の、酸素イオン導電性を有するものである。本実施形態では、イットリアを安定化剤として添加したジルコニアにアルミナが10?80質量%含有された固体電解質体11を用いている。」

オ 「【0023】
なお、基準電極リード部131の末端は、固体電解質体11に設けられたスルーホール110、絶縁層160に設けられたスルーホール164、第2固体電解質体181に設けられたスルーホール182及び保護層12に設けられたスルーホール123を介して3個設けられた信号取出し用端子126のうちの1つと電気的に接続されている。検知電極リード部141の末端は、絶縁層160に設けられたスルーホール165、第2固体電解質体181に設けられたスルーホール183及び保護層12に設けられたスルーホール124を介して信号取出し用端子126のうちの1つと電気的に接続されている。
【0024】
また、第3リード部171の末端は、第2固体電解質体181に設けられたスルーホール183及び保護層12に設けられたスルーホール124を介して1つの信号取出し用端子126と電気的に接続されている。第4リード部191の末端は、保護層12に設けられたスルーホール125を介して1つの信号取出し用端子126と電気的に接続されている。なお、検知電極リード部141と第3リード部171は、スルーホール165を介して同電位となっている。
【0025】
ヒータ2は、抵抗発熱体21を備え、この抵抗発熱体21は、絶縁性に優れるアルミナからなるセラミック焼結体から構成される第1絶縁基体22及び第2絶縁基体23(特許請求の範囲の「絶縁基体」に相当)に挟持されている。この抵抗発熱体21は、蛇行状に形成される発熱部212と、この発熱部212の端部とそれぞれ接続され、長手方向に沿って延びる一対のヒータリード部213とを有している。また、このヒータリード部213の発熱部212と接続される側と反対側の端部は、第2絶縁基体23を貫通する2つのスルーホール231を介して、外部回路接続用の外部端子と接続される一対のヒータ通電端子232とそれぞれ電気的に接続されている。」

カ 「【0029】
上記のガスセンサ素子本体3とヒータ2を積層して構成されるガスセンサ素子100において、その積層方向の両側端部(図1中上側端部と下側端部)には、アルミナからなる強化保護層121と、アルミナからなる第2絶縁基体23が位置している。そして、強化保護層121と第2絶縁基体23の積層方向の両側端面(図中強化保護層121の上側面と第2絶縁基体23の下側面)のうち、少なくとも後述するガスセンサ素子100が挿通される素子挿通部材(具体的には、金属ホルダ34、セラミックホルダ35、滑石36及びスリーブ39)に対向する部位には、塗布層151,152が形成されている。本実施形態では、ガスセンサ素子100の先端から約12mmの位置から約30mmの位置まで、塗布層151,152が形成されている。また、積層体の積層方向と平行な強化保護層121の側面153及び第2絶縁基体23の側面154には、このような塗布層が形成されていない。また、第2固体電解質体181の側面、ガス検出室形成層160の側面、固体電解質体11の側面、第1絶縁基体22の側面にも、同様に上記のような塗布層は形成されていない。
【0030】
塗布層151,152は、ジルコニアを主成分としており、例えば、ジルコニアを50%程度含むペーストを印刷によって未焼成の積層体の塗布層151,152の形成部位に塗布し、積層体とともに脱脂、焼成することによって形成することができる。なお、塗布層151、152はジルコニア以外に、アルミナ、ムライト、チタニア等の絶縁セラミックが含有されていても良い。
【0031】
このようにガスセンサ素子本体3とヒータ2を積層して構成されるガスセンサ素子100のうちで測定対象ガスに晒される先端側の部分には、周囲の全周に亘って、多孔質保護層(図示せず)が形成される。
【0032】
以上のように、酸素ポンプセル140と酸素濃度検出セル130とを備えたガスセンサ素子100では、酸素ポンプセル140の酸素ポンプ作用により、ガス検出室162内の被測定ガス中に含まれる酸素を導入及び導出でき、酸素濃度検出セル130の濃淡電池作用により酸素濃度を測定できるようになっており、空燃比センサ等として用いることができる。
【0033】
図2は、上述したガスセンサ素子100が組み込まれたガスセンサであり、具体的には内燃機関の排気管に取り付けられ、排ガス中の酸素濃度の測定等に使用されるガスセンサ200の一例を示した全体断面図である。
【0034】
図2に示す主体金具(ハウジング)30は、ガスセンサを排気管に取り付けるための雄ねじ部31と、取り付け時に取り付け工具をあてがう六角部32とを有している。また、主体金具30には、径方向内側に向かって突出する金具側段部33が設けられており、この金具側段部33はガスセンサ素子100を保持するための金属ホルダ34を支持している。そしてこの金属ホルダ34の内側にはガスセンサ素子100を所定位置に配置するセラミックホルダ35、滑石36が先端側から順に配置されている。
【0035】
この滑石36は、金属ホルダ34内に配置される第1滑石37と、金属ホルダ34の後端に渡って配置される第2滑石38とからなる。そして第2滑石38の後端側には、アルミナ製のスリーブ39が配置されている。このスリーブ39は多段の円筒状に形成されており、軸線に沿うように軸孔391が設けられ、内部にガスセンサ素子100を挿通している。そして、主体金具30の後端側のかしめ部301が内側に折り曲げられており、ステンレス製のリング部材40を介してスリーブ39が主体金具30の先端側に押圧されている。」

キ 「【0039】
また、セパレータ50には、ガスセンサ素子100のリード線111?115(図2には、111から113のみを示す。)を挿入するための通孔502が先端側から後端側に
かけて貫設されている。通孔502内には、リード線111?115とガスセンサ素子100の外部端子とを接続する接続端子116が収容されている。各リード線111?115は、外部において、図示しないコネクタに接続されるようになっている。このコネクタを介してECU等の外部機器と各リード線111?115とは電気信号の入出力が行われることになる。また、各リード線111?115は詳細に図示しないが、導線を樹脂からなる絶縁皮膜にて被覆した構造を有している。
【0040】
さらに、セパレータ50の後端側には、外筒25の後端側の開口部252を閉塞するための略円柱状のゴムキャップ52が配置されている。このゴムキャップ52は、外筒25の後端内に装着された状態で、外筒25の外周を径方向内側に向かってかしめることにより、外筒25に固着されている。ゴムキャップ52にも、リード線111?115を挿入するための通孔521が先端側から後端側にかけて貫設されている。
【0041】
上記構成の本実施形態のガスセンサ200では、図1,2に示したように、ガスセンサ素子100を構成する積層体の外側に位置する強化保護層121と第2絶縁基体23の積層方向の両側端面(図1中強化保護層121の上側面と第2絶縁基体23の下側面)のうち、少なくとも金属ホルダ34、セラミックホルダ35、滑石36、及びスリーブ39といった素子挿通部材と対向する部位には、アルミナよりも高靭性なジルコニアを主成分とする塗布層151,152が形成されている。これによって、ガスセンサ素子100を焼成する際に、焼成用セッタから発生した脱粒屑等が、未焼成のガスセンサ素子100の表面に付着した場合であっても、必要な抗折強度を確保することができ、主体金具30への組み付け時におけるガスセンサ素子100の破損の発生を抑制することができる。また、ガスセンサ200の測定時においても、内燃機関等からの振動により、素子挿通部材にガスセンサ素子100が接触したとしても、塗布層151、152を設けることで必要な抗折強度を確保することができるため、ガスセンサ素子100の破損の発生を抑制することができる。」

ク 「【図1】



ケ 「【図2】



コ 上記「オ、カ、ク及びケ」より、「ガスセンサ素子100は、長手方向に沿った両端である前端及び後端と、該長手方向に沿った表面である1以上の側面とを有する長尺な素子本体に、ガスセンサ素子100の前端側にガス検出室、基準電極13及び検知電極14を備え、ガスセンサ素子100の後端側に信号取り出し用端子126を備えたものである」ことが読み取れる。

サ 上記「アないしコ」より、甲第1号証には次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
「測定対象ガス中の特定ガス成分の濃度を検出するためのガスセンサにおいて、
内燃機関の排気管に取り付けられ、排ガス中の酸素濃度の測定等に使用されるガスセンサ200はガスセンサ素子100が組み込まれたガスセンサであり、
ガスセンサ200を排気管に取り付けるための雄ねじ部31と、取り付け時に取り付け工具をあてがう六角部32とを有した主体金具(ハウジング)30を備え、
主体金具30には、径方向内側に向かって突出する金具側段部33が設けられており、この金具側段部33はガスセンサ素子100を保持するための金属ホルダ34を支持しており、
金属ホルダ34の内側にはガスセンサ素子100を所定位置に配置するセラミックホルダ35、滑石36が先端側から順に配置されており、
この滑石36は、金属ホルダ34内に配置される第1滑石37と、金属ホルダ34の後端に渡って配置される第2滑石38とからなり、そして第2滑石38の後端側には、アルミナ製のスリーブ39が配置されており、
このスリーブ39は多段の円筒状に形成されており、軸線に沿うように軸孔391が設けられ、内部にガスセンサ素子100を挿通しており、
主体金具30の後端側のかしめ部301が内側に折り曲げられており、ステンレス製のリング部材40を介してスリーブ39が主体金具30の先端側に押圧されており、
ガスセンサ素子100は、ガスセンサ素子本体3と、ヒータ2を積層させて構成されており、
ガスセンサ素子100は、長手方向に沿った両端である前端及び後端と、該長手方向に沿った表面である1以上の側面とを有する長尺な素子本体に、ガスセンサ素子100の前端側にガス検出室、基準電極13及び検知電極14を備え、ガスセンサ素子100の後端側に信号取り出し用端子126を備えたものであり、
ガスセンサ素子本体3は、酸素濃度検出セル130と酸素ポンプセル140とを備えており、酸素濃度検出セル130と酸素ポンプセル140との間には、ガス検出室形成層160が設けられ、酸素ポンプセル140の外側に、保護層12が設けられており、
酸素濃度検出セル130は、固体電解質体11と、その固体電解質体11の両面に形成された基準電極13及び検知電極14とを具備しており、
基準電極リード部131の末端は、固体電解質体11に設けられたスルーホール110、絶縁層160に設けられたスルーホール164、第2固体電解質体181に設けられたスルーホール182及び保護層12に設けられたスルーホール123を介して3個設けられた信号取出し用端子126のうちの1つと電気的に接続され、検知電極リード部141の末端は、絶縁層160に設けられたスルーホール165、第2固体電解質体181に設けられたスルーホール183及び保護層12に設けられたスルーホール124を介して信号取出し用端子126のうちの1つと電気的に接続され、第3リード部171の末端は、第2固体電解質体181に設けられたスルーホール183及び保護層12に設けられたスルーホール124を介して1つの信号取出し用端子126と電気的に接続され、第4リード部191の末端は、保護層12に設けられたスルーホール125を介して1つの信号取出し用端子126と電気的に接続されており、
ヒータ2は、抵抗発熱体21を備え、この抵抗発熱体21は、絶縁性に優れるアルミナからなるセラミック焼結体から構成される第1絶縁基体22及び第2絶縁基体23に挟持されており、
ガスセンサ素子100において、その積層方向の両側端部には、アルミナからなる強化保護層121と、アルミナからなる第2絶縁基体23が位置しており、強化保護層121と第2絶縁基体23の積層方向の両側端面のうち、少なくともガスセンサ素子100が挿通される素子挿通部材(具体的には、金属ホルダ34、セラミックホルダ35、滑石36及びスリーブ39)に対向する部位には、塗布層151,152が形成されており、
ガスセンサ素子100の先端から約12mmの位置から約30mmの位置まで、塗布層151,152が形成されており、
塗布層151,152は、ジルコニアを主成分としており、例えば、ジルコニアを50%程度含むペーストを印刷によって未焼成の積層体の塗布層151,152の形成部位に塗布し、積層体とともに脱脂、焼成することによって形成することができ、
ガスセンサ素子100のうちで測定対象ガスに晒される先端側の部分には、周囲の全周に亘って、多孔質保護層が形成され、
塗布層151,152によって、ガスセンサ素子100を焼成する際に、焼成用セッタから発生した脱粒屑等が、未焼成のガスセンサ素子100の表面に付着した場合であっても、必要な抗折強度を確保することができ、主体金具30への組み付け時におけるガスセンサ素子100の破損の発生を抑制することができる、
ガスセンサ。」

(2)甲第2号証
本願の優先日後で出願前に日本国内で頒布された刊行物である特開2018-119901号公報(甲第2号証)には、図面とともに次の技術事項が記載されている。
ア 「【0001】
本発明は、例えば燃焼器や内燃機関等の燃焼ガスや排気ガス中に含まれる特定ガスのガス濃度を検出するのに好適に用いられるガスセンサに関する。」

イ 「【0018】
第1セラミックホルダ135に押圧された滑石粉末133は、主体金具110内で押し潰されて細部にわたって充填され、この滑石粉末133によってセンサ素子120が、主体金具110内で位置決めされて保持されている。主体金具110内の気密は、加締め部118と第1セラミックホルダ135との間に介在される加締めパッキン143によって維持され、ガスの流出が防止される。」

ウ 「【図1】



(3)甲第3号証
本願の優先日前に日本国内で頒布された刊行物である特開2012-21895号公報(甲第3号証)には、図面とともに次の技術事項が記載されている。
ア 「【0001】
本発明は、検知対象ガス中の特定ガスを検知するガスセンサに関する。」

イ 「【0023】
第2滑石リング138は、主体金具130の内側のうち、金属カップ120及び第1滑石リング123の後端側に、検知素子110を挿通した状態で配置されている。スリーブ139は、第2滑石リング138を後端側から押さえるようにして、主体金具130内に嵌め込まれている。スリーブ139には、段状をなす肩部140が形成されている。肩部140の後端側の面には、円環状の加締めパッキン141が配置されている。主体金具130の加締め部136は、加締めパッキン141を介してスリーブ139の肩部140を先端側に押圧するようにして、加締められている。スリーブ139によって押圧された第2滑石リング138は、主体金具130内で押し潰されて細部にわたって充填される。第2滑石リング138と、第1滑石リング123とによって、金属カップ120及び検知素子110が、主体金具130内で位置決めされて保持されている。加締めパッキン141によって、主体金具130内の機密が維持されるため、燃焼ガスの流出が防止される。」

ウ 「【図1】



(4)甲第4号証
本願の優先日前に日本国内で頒布された刊行物である特開2012-173146号公報(甲第4号証)には、図面とともに次の技術事項が記載されている。
ア 「【0001】
本発明は、例えば燃焼器や内燃機関等の燃焼ガスや排気ガス中に含まれる特定ガスのガス濃度を検出するのに好適に用いられるガスセンサ素子及びガスセンサに関する。」

イ 「【0049】
【表1】



ウ 上記「アおよびイ」より、「ガスセンサの多孔質保護層の気孔率は、内側多孔質層は62-65%であり、外側多孔質層は38%である。」ことが読み取れる。

(5)甲第5号証
本願の優先日前に日本国内で頒布された刊行物である特開2012-189579号公報(甲第5号証)には、図面とともに次の技術事項が記載されている。
ア 「【0001】
本発明は、例えば燃焼器や内燃機関等の燃焼ガスや排気ガス中に含まれる特定ガスのガス濃度を検出するのに好適に用いられるガスセンサ素子及びガスセンサに関する。」

イ 「【0054】
【表1】



ウ 上記「アおよびイ」より、「ガスセンサの多孔質保護層の気孔率は、内側領域(内側層)は62%であり、外側領域(外側層)は38-40%である。」ことが読み取れる。

(6)甲第6号証
本願の優先日前に日本国内で頒布された刊行物である特開2009-80099号公報(甲第6号証)には、図面とともに次の技術事項が記載されている。
ア 「【0001】
本発明は、酸素、窒素酸化物、炭化水素等の特定ガス成分の濃度を検出するためのガスセンサ素子及びその製造方法に関する。」

イ 「【0029】
また、発熱部401における長手方向の他方端P2から該長手方向の他方側へ多孔質保護層5が突出した突出部52は、上記長手方向に直交する断面において最も薄くなる部分すなわち角部において、長手方向の80?95%の範囲が、30μm以上の厚みを有している。そして、多孔質保護層5の長手方向Lの残りの範囲には、上記傾斜状の端部51が形成されている。
また、本例の多孔質保護層5は、セラミックス粒子としてのアルミナ粒子によって多数の気孔を形成してなる。そして、多孔質保護層5の単位体積当たりの気孔率は、20%以上になっている。」

(7)甲第7号証
本願の優先日前に日本国内で頒布された刊行物である特開2007-285961号公報(甲第7号証)には、図面とともに次の技術事項が記載されている。
ア 「【0001】
本発明は、被測定ガス中の特定ガス濃度を検出するガスセンサ素子及びその製造方法に関する。」

イ 「【0006】
そして、この後、これらの水分除去やセラミックの焼き付けを目的とした熱処理が実施されることとなる。その際、電極リード線部等に浸入した水分は急速に蒸発(ガス化)することとなる。この蒸発による蒸気圧が、電極リード線を覆う気密質保護層の強度を上回ると、破壊に至り、その際、電極リード線部が気密質保護層と一緒に剥れ、電極リード線部の断線を招くおそれがあるという問題がある。」

ウ 「【0019】
しかし、本発明の製造方法によれば、上記のごとく、平滑化工程においては、上記緻密保護層の基端部よりも0.5mm以上先端側の部分においてプレスを行うため、上記の厚みの大きい基端部は被測定ガス側リード部に食込むこともない。それ故、この部分における被測定ガス側リード部の空隙を充分に確保することができる。その結果、当該部分において上記被測定ガス側リード部の空隙に栓がされた状態を回避することができ、上記被測定ガス側リード部に浸入した水分を、上記緻密保護層よりも基端側から外部へ充分に放出することができる。それ故、被測定ガス側リード部の剥離を充分に防ぐことができる。」

エ 「【0024】
(実施例1)
本発明の実施例にかかるガスセンサ素子及びその製造方法につき、図1?図10を用いて説明する。
本例のガスセンサ素子1は、図1?図3に示すごとく、酸素イオン伝導性の固体電解質体11と、該固体電解質体11の一方の面に形成された被測定ガス側電極121及びその基端側に連続形成された被測定ガス側リード部122と、固体電解質体11の他方の面に形成された基準ガス側電極131及びその基端側に連続形成された基準ガス側リード部132とを有する。また、ガスセンサ素子1は、被測定ガス側リード部122を覆うように固体電解質体11に配置された緻密保護層14と、被測定ガス側電極121を覆うように緻密保護層14に積層された多孔質保護層15とを有する。
【0025】
図1、図4に示すごとく、緻密保護層14の基端部141は、被測定ガス側リード部122上に配されている。
被測定ガス側リード部122は、緻密保護層14の基端部141よりも基端側の部分(領域A)の空隙率をQA、緻密保護層の基端部から0.5mm先端側までの間の部分(領域B)の空隙率をQBとしたとき、QB≧0.8QAを満たす。
【0026】
ここで、上記空隙率は、例えば、以下のようにして求める。即ち、図7に示すごとく、被測定ガス側リード部122の断面を撮像し、その画像についてコンピュータの画像解析を行うことにより、充分に奥まで連通している空隙6の面積の総和を求めることができる。そして、被測定ガス側リード部122の断面において、充分に奥まで連通している空隙6の面積の総和を、被測定ガス側リード部122の総断面積で割った値を上記空隙率とする。
なお、図7は、被測定ガス側リード部122及びその周囲の固体電解質体11及び緻密保護層14の断面の電子顕微鏡写真(倍率約4000倍)を表し、空隙6と判定された領域に白抜きのマーキングを施したものである。
【0027】
ガスセンサ素子1は、図1、図2に示すごとく、先端部付近にガス濃度を検出する検出部を設けており、該検出部に被測定ガス側電極121と基準ガス側電極131とを有する。この検出部においては、図2に示すごとく、以下の構成となっている。
即ち、固体電解質体11(図9(A))における被測定ガス側電極121(図9(B))を設けた面には、被測定ガス側電極121の周囲に緻密保護層14(図9(C))が積層されている。緻密保護層14は、被測定ガス側電極121に対応する位置に開口部143を有する。そして、図2に示すごとく、被測定ガス側電極121を覆うように、接着層152を介して、緻密保護層14に多孔質保護層15(図9(D))が積層されている。接着層152は、多孔質保護層15と同様の構成を有し、実質的に多孔質保護層15の一部となる。
【0028】
また、固体電解質体11における基準ガス側電極131を設けた面には、接着層171を介して、ダクト形成層17が積層されている。このダクト形成層17と固体電解質体11との間に、基準ガス(大気)を導入するダクト170が形成されている。該ダクト170に、基準ガス側電極131が面している。
また、ダクト形成層17には、ガスセンサ素子1を加熱するためのヒータ18が埋め込まれている。
【0029】
また、基準ガス側電極131の基端側には、基準ガス側リード部132が連続形成されており、ガスセンサ素子1の基端部の電極端子133に接続されている。一方、被測定ガス側リード部122は、ガスセンサ素子1の基端部の電極端子123に接続されている。
また、図1、図4に示すごとく、緻密保護層14の基端部141は、電極端子123、133よりも先端側に配されており、緻密保護層14の基端部と電極端子123との間の領域が、上記領域Aとなる。
【0030】
上記固体電解質体11はジルコニアからなり、緻密保護層14、多孔質保護層15、接着層152、171、ダクト形成層17は、アルミナからなる。
また、緻密保護層14はガス透過性を有さず、多孔質保護層15(及び接着層152)はガス透過性を有する。
また、被測定ガス側電極121、被測定ガス側リード部122、基準ガス側電極131、基準ガス側リード部132、電極端子123、133は、白金等の金属とセラミックとを混合したサーメット材料からなる。
【0031】
また、ガスセンサ素子1は、図10に示すごとく、ガスセンサ2に内蔵される。即ち、ガスセンサ2は、ガスセンサ素子1と、該ガスセンサ素子1を挿通保持する素子側絶縁碍子3と、該素子側絶縁碍子3を内側に保持するハウジング4とを有する。ここで、ガスセンサ素子1の多孔質保護層15は、基端部を素子側絶縁碍子3の先端部31よりも基端側に配置している。
【0032】
上記素子側絶縁碍子3の基端部には、該素子側絶縁碍子3とガスセンサ素子1との間の隙間を封止するガラスからなる封止材21が配置されている。
また、ハウジング4の先端側には、ガスセンサ素子1の先端部をカバーする素子カバー26が固定されている。該素子カバー26は二重構造となっており、各素子カバー26には、被測定ガスを通過させる通気孔261が形成されている。
また、素子側絶縁碍子3の基端側には、大気側絶縁碍子22が配されており、該大気側絶縁碍子22の内側に、ガスセンサ素子1の電極端子123、133に接触する金属端子221が配設されている。
【0033】
また、ハウジング4の基端側には、大気側絶縁碍子22の外側を覆うように形成された大気側カバー23が固定されている。該大気側カバー23の基端部には、該基端部を密閉するゴムブッシュ231が配置している。該ゴムブッシュ231には、金属端子221に電気的に接続される外部リード部222が挿通されている。
また、大気側絶縁碍子22とゴムブッシュ231との間における大気側カバー23の側面には、大気導入口232が形成されている。」

オ 「【図1】



カ 「【図10】



キ 上記「アないしカ」より、甲第7号証には次の発明(以下「甲7発明」という。)が記載されていると認められる。
「被測定ガス中の特定ガス濃度を検出するガスセンサ素子1を内蔵するガスセンサ2において、
ガスセンサ2は、ガスセンサ素子1と、該ガスセンサ素子1を挿通保持する素子側絶縁碍子3と、該素子側絶縁碍子3を内側に保持するハウジング4とを有し、
上記素子側絶縁碍子3の基端部には、該素子側絶縁碍子3とガスセンサ素子1との間の隙間を封止するガラスからなる封止材21が配置されており、
ガスセンサ素子1は、酸素イオン伝導性の固体電解質体11と、該固体電解質体11の一方の面に形成された被測定ガス側電極121及びその基端側に連続形成された被測定ガス側リード部122と、固体電解質体11の他方の面に形成された基準ガス側電極131及びその基端側に連続形成された基準ガス側リード部132とを有し、
ガスセンサ素子1は、被測定ガス側リード部122を覆うように固体電解質体11に配置された緻密保護層14と、被測定ガス側電極121を覆うように緻密保護層14に積層された多孔質保護層15とを有し、
ガスセンサ素子1は、先端部付近にガス濃度を検出する検出部を設けており、該検出部に被測定ガス側電極121と基準ガス側電極131とを有し、固体電解質体11における被測定ガス側電極121を設けた面には、被測定ガス側電極121の周囲に緻密保護層14が積層されており、被測定ガス側電極121を覆うように、接着層152を介して、緻密保護層14に多孔質保護層15が積層されており、緻密保護層14はガス透過性を有さず、多孔質保護層15(及び接着層152)はガス透過性を有し、
基準ガス側電極131の基端側には、基準ガス側リード部132が連続形成されており、ガスセンサ素子1の基端部の電極端子133に接続され、一方、被測定ガス側リード部122は、ガスセンサ素子1の基端部の電極端子123に接続され、
上記被測定ガス側リード部に浸入した水分を、上記緻密保護層よりも基端側から外部へ充分に放出することができ、それ故、被測定ガス側リード部の剥離を充分に防ぐことができる、
ガスセンサ素子1を内蔵するガスセンサ2。」

(8)甲第8号証
本願の優先日前に日本国内で頒布された刊行物である特開2007-278945号公報(甲第8号証)には、図面とともに次の技術事項が記載されている。
ア 「【0001】
本発明は、被測定ガス中の特定ガス濃度を検出するためのガスセンサに関する。」

イ 「【0022】
(実施例1)
本発明の実施例に係るガスセンサにつき、図1?図10を用いて説明する。
本例のガスセンサ1は、図1、図4に示すごとく、被測定ガス中の特定ガス濃度を検出するガスセンサ素子2と、該ガスセンサ素子2を挿通保持する素子側絶縁碍子3と、該素子側絶縁碍子3を内側に保持するハウジング4とを有する。
【0023】
ガスセンサ素子2は、図3、図6に示すごとく、酸素イオン伝導性の固体電解質体21を有する。該固体電解質体21の一方の面には、図5に示すごとく、被測定ガス側電極221が形成され、その基端側に被測定ガス側リード部222が連続形成されている。固体電解質体21の他方の面には、図6に示すごとく、基準ガス側電極231が形成されている。
また、図2、図6、図7、図10に示すごとく、被測定ガス側リード部222を覆うように、緻密保護層24が固体電解質体21に積層され、被測定ガス側電極221を覆うように、多孔質保護層25が緻密保護層24に積層されている。
【0024】
図1に示すごとく、多孔質保護層25の基端側への緻密保護層24のはみ出し量L1は5mm以下である。また、多孔質保護層25の基端部251は、素子側絶縁碍子3の先端部31よりも基端側に配されている。
即ち、緻密保護層24の基端部241と多孔質保護層25の基端部251との距離が上記はみ出し量L1となり、L1≦5mmである。また、多孔質保護層25の基端部251と素子側絶縁碍子3の先端部31との距離L2は、L2>0である。
【0025】
ガスセンサ素子2は、図5?図9に示すごとく、先端部付近にガス濃度を検出する検出部を設けており、該検出部に被測定ガス側電極221と基準ガス側電極231とを有する。この検出部においては、図6に示すごとく、以下の構成となっている。
即ち、固体電解質体21(図3(A))における被測定ガス側電極221(図3(B))を設けた面には、被測定ガス側電極221の周囲に緻密保護層24(図3(C))が積層されている。緻密保護層24は、被測定ガス側電極221に対応する位置に開口部243を有する。そして、図6、図10に示すごとく、被測定ガス側電極221を覆うように、接着層252を介して、緻密保護層24に多孔質保護層25(図3(D))が積層されている。接着層252は、多孔質保護層25と同様の構成を有し、実質的に多孔質保護層25の一部となる。
【0026】
また、固体電解質体21における基準ガス側電極231を設けた面には、接着層272を介して、チャンバ形成層27が積層されている。このチャンバ形成層27と固体電解質体21との間に、基準ガス(大気)を導入するチャンバ270が形成されている。該チャンバ270に、基準ガス側電極231が面している。
また、チャンバ形成層27には、ガスセンサ素子2を加熱するためのヒータ18が埋め込まれている。
【0027】
また、図5に示すごとく、基準ガス側電極231の基端側には、基準ガス側リード部232が連続形成されており、ガスセンサ素子2の基端部の電極端子233に接続されている。一方、被測定ガス側リード部222は、ガスセンサ素子2の基端部の電極端子223に接続されている。
【0028】
上記固体電解質体21はジルコニアからなり、緻密保護層24、多孔質保護層25、接着層252、271、チャンバ形成層27は、アルミナからなる。
また、緻密保護層24はガス透過性を有さず、多孔質保護層25(及び接着層252)はガス透過性を有する。
また、被測定ガス側電極221、被測定ガス側リード部222、基準ガス側電極231、基準ガス側リード部232、電極端子223、233は、白金等の金属とセラミックとを混合したサーメット材料からなる。
【0029】
また、図1、図4に示すごとく、上記素子側絶縁碍子3の基端部には、該素子側絶縁碍子3とガスセンサ素子2との間の隙間を封止するガラスからなる封止材11が配置されている。
また、ハウジング4の先端側には、ガスセンサ素子2の先端部をカバーする素子カバー16が固定されている。該素子カバー16は二重構造となっており、各素子カバー16には、被測定ガスを通過させる通気孔161が形成されている。
また、図4に示すごとく、素子側絶縁碍子3の基端側には、大気側絶縁碍子12が配されており、該大気側絶縁碍子12の内側に、ガスセンサ素子2の電極端子223、233に接触する金属端子121が配設されている。
【0030】
また、ハウジング4の基端側には、大気側絶縁碍子12の外側を覆うように形成された大気側カバー13が固定されている。該大気側カバー13の基端部には、該基端部を密閉するゴムブッシュ131が配置している。該ゴムブッシュ131には、金属端子121に電気的に接続される外部リード部122が挿通されている。
また、大気側絶縁碍子12とゴムブッシュ131との間における大気側カバー13の側面には、大気導入口132が形成されている。
【0031】
次に、本例の作用効果につき説明する。
上記ガスセンサ1においては、多孔質保護層25の基端部251が絶縁碍子3の先端部31よりも基端側に配されている。これにより、ガスセンサ素子2における被測定ガスに直接接触する部分を、多孔質保護層25によって覆うことができる。そのため、被測定ガス中のカーボン等の燃焼残渣を、多孔質保護層25によって捕捉することができ、被測定ガス側電極221や被測定ガス側リード部222に上記燃焼残渣が堆積、成長することを防ぐことができる。それ故、燃焼残渣の堆積、成長に起因する被測定ガス側リード部24の剥離を抑制することができる。
【0032】
また、多孔質保護層25の基端側への緻密保護層24のはみ出し量L1は5mm以下である。これにより、被測定ガス側リード部222に水分が浸入しても、この水分に起因する被測定ガス側リード部222の剥離を防ぐことができる。即ち、例えば製造過程において被測定ガス側リード部222に水分が浸入した場合、その後の加熱処理等によって水分がガス化し膨張しようとする。このとき、緻密保護層24が被測定ガス側リード部222を大きく覆っている場合には、膨張した水分(水蒸気)の逃げ場がないために緻密保護層の破壊が起こり、被測定ガス側リード部222の剥離、断線を招くおそれがある。
【0033】
ここで、緻密保護層24の外側に多孔質保護層25が積層されていれば、その強度が保たれるため、緻密保護層24を破壊することなく、水分は緻密保護層24の基端側から外部へ逃げることとなる。ところが、緻密保護層24の外側に多孔質保護層25が積層されていない部分については強度が低下するおそれがあり、この部分に破壊が起こると、それとともに被測定ガス側リード部222の剥離が起こるおそれがある。
そこで、上記多孔質保護層25の基端側への上記緻密保護層24のはみ出し量L1を5mm以下とすることにより、多孔質保護層25が外側に積層されていない緻密保護層25の領域を小さくして、水分の膨張に起因する被測定ガス側リード部222の剥離を防ぐことができる。
【0034】
以上のごとく、本例によれば、被測定ガス側リード部の剥離を防ぐことができるガスセンサを提供することができる。
【0035】
(実施例2)
本例は、図11に示すごとく、ガスセンサ素子2における封止材11と密着する領域の表面にも緻密保護層24を形成してなるガスセンサ1の例である。
また、封止材11の基端側及び先端側への緻密保護層24のはみ出し量L3、L4は、それぞれ5mm以下である。
その他は、実施例1と同様である。
【0036】
本例の場合には、封止材11の配設位置付近における被測定ガス側リード部222の剥離、断線を防ぐことができる。
即ち、素子側絶縁碍子3の基端部における該素子側絶縁碍子3とガスセンサ素子2との間を、ガラスからなる封止材11によって封着するにあたっては、素子側絶縁碍子3の基端部に溶融状態のガラスを配置し、その後これを冷却して固化させる。溶融ガラスは、固化する際に収縮する。このとき、被測定ガス側リード部222に直接封止材11(溶融ガラス)が接触していると、封止材11の収縮と共に被測定ガス側リード部222の一部が引張られ、剥離、断線が発生するおそれがある。そこで、上記封止材11と密着する領域の表面にも上記緻密保護層24を形成することにより、被測定ガス側リード部222の剥離、断線を防ぐことができる。
【0037】
また、封止材11の基端側及び先端側への緻密保護層24のはみ出し量L3、L4は、それぞれ5mm以下であるため、被測定ガス側リード部222に水分が浸入しても、この水分の膨張に起因する緻密保護層24の破壊を防ぎ、被測定ガス側リード部222の剥離を防ぐことができる。
その他、実施例1と同様の作用効果を有する。」

ウ 「【図2】



エ 「【図3】



オ 「【図11】



カ 上記「アないしオ」より、甲第8号証には次の発明(以下「甲8発明」という。)が記載されていると認められる。
「被測定ガス中の特定ガス濃度を検出するためのガスセンサにおいて、
ガスセンサ1は、被測定ガス中の特定ガス濃度を検出するガスセンサ素子2と、該ガスセンサ素子2を挿通保持する素子側絶縁碍子3と、該素子側絶縁碍子3を内側に保持するハウジング4とを有し、
ガスセンサ素子2は、酸素イオン伝導性の固体電解質体21を有し、該固体電解質体21の一方の面には、被測定ガス側電極221が形成され、その基端側に被測定ガス側リード部222が連続形成されており、固体電解質体21の他方の面には、基準ガス側電極231が形成されており、被測定ガス側リード部222を覆うように、緻密保護層24が固体電解質体21に積層され、被測定ガス側電極221を覆うように、多孔質保護層25が緻密保護層24に積層されており、
ガスセンサ素子2は、先端部付近にガス濃度を検出する検出部を設けており、該検出部に被測定ガス側電極221と基準ガス側電極231とを有し、固体電解質体21における被測定ガス側電極221を設けた面には、被測定ガス側電極221の周囲に緻密保護層24が積層され、緻密保護層24は、被測定ガス側電極221に対応する位置に開口部243を有し、被測定ガス側電極221を覆うように、接着層252を介して、緻密保護層24に多孔質保護層25が積層されており、
固体電解質体21における被測定ガス側電極221を設けた面には、被測定ガス側電極221の周囲に緻密保護層24が積層され、緻密保護層24は、被測定ガス側電極221に対応する位置に開口部243を有し、被測定ガス側電極221を覆うように、接着層252を介して、緻密保護層24に多孔質保護層25が積層されており、緻密保護層24はガス透過性を有さず、多孔質保護層25(及び接着層252)はガス透過性を有し、
上記素子側絶縁碍子3の基端部には、該素子側絶縁碍子3とガスセンサ素子2との間の隙間を封止するガラスからなる封止材11が配置され、ガスセンサ素子2における封止材11と密着する領域の表面にも緻密保護層24を形成し、
上記封止材11と密着する領域の表面にも上記緻密保護層24を形成することにより、封止材11の収縮と共に被測定ガス側リード部222の一部が引張られ、剥離、断線が発生することにより生じる被測定ガス側リード部222の剥離、断線を防ぐことができる、
ガスセンサ1。」

(9)甲第9号証
本願の優先日前に日本国内で頒布された刊行物である特開2016-14659号公報(甲第9号証)には、図面とともに次の技術事項が記載されている。
ア 「【0001】
本発明は、センサ素子及びガスセンサに関する。」

イ 「【0070】
また、センサ素子101の積層体の上面には、少なくとも外側ポンプ電極23を覆う多孔質保護層24が配設されている。本実施形態では、多孔質保護層24は、センサ素子101の上面の前端側から後端側までのうち、上部コネクタパッド91が形成された部分を含む後端側の一部を除いた領域を、全て覆っているものとした(図1(a),図3)。これにより、多孔質保護層24は、外側ポンプ電極23の全てと、外側阻止層67及び外側ポンプ電極用リード線93のほとんどを覆っている。また、多孔質保護層24は上部コネクタパッド91を覆っていないため、上部コネクタパッド91は外部に露出している。そのため、上部コネクタパッド91と外部との接続を多孔質保護層24が妨げないようになっている。多孔質保護層24は、被測定ガスに含まれるオイル成分等が外側ポンプ電極23等に付着するのを抑制する役割を果たす。多孔質保護層24は、例えばアルミナ多孔質体、ジルコニア多孔質体、スピネル多孔質体、コージェライト多孔質体,チタニア多孔質体、マグネシア多孔質体などの多孔質体からなる。特にこれに限定するものではないが、多孔質保護層24の気孔率は、例えば10?50%である。また、多孔質保護層24の厚みは、例えば5?40μmである。多孔質保護層24は、例えばプラズマ溶射,スクリーン印刷,ディッピングなどにより形成することができる。なお、本実施形態では、多孔質保護層24はセンサ素子101の上面を覆うものとしたが、下面,左側面,右側面,前端面のうち1以上をさらに覆っていてももよい。」

ウ 「【図1】(a)



エ 上記「アおよびウ」より、「ガスセンサのセンサ素子101の積層体の上面には、少なくとも外側ポンプ電極23を覆う多孔質保護層24が配設されており、多孔質保護層24の気孔率は、例えば10?50%である」ことが読み取れる。

2.特許法第29条第2項(進歩性)について
(1)甲1発明と本件発明1との対比・判断について
ア 対比
本件発明1と甲1発明とを比較する。
(ア)甲1発明の「ガスセンサ素子100」は、本件発明1の「センサ素子」に相当する。
(イ)甲1発明の「ガスセンサ素子100を保持するための金属ホルダ34」は、「金属ホルダ34の内側にはガスセンサ素子100を所定位置に配置するセラミックホルダ35、滑石36が先端側から順に配置されており、この滑石36は、金属ホルダ34内に配置される第1滑石37と、金属ホルダ34の後端に渡って配置される第2滑石38とからなり、そして第2滑石38の後端側には、アルミナ製のスリーブ39が配置されており、このスリーブ39は多段の円筒状に形成されており、軸線に沿うように軸孔391が設けられ、内部にガスセンサ素子100を挿通してお」ることから、本件発明1の「センサ素子が内部を軸方向に貫通する貫通孔を有する金属製の筒状体」に相当する。
(ウ)甲1発明の「測定対象ガス中の特定ガス成分の濃度を検出するためのガスセンサ」に「組み込まれた」「ガスセンサ素子100」が、「長手方向に沿った両端である前端及び後端と、該長手方向に沿った表面である1以上の側面とを有する長尺な素子本体に、ガスセンサ素子100の前端側にガス検出室、基準電極13及び検知電極14を備え、ガスセンサ素子100の後端側に信号取り出し用端子126を備えたものであ」ることは、本件発明1の「センサ素子」が「長手方向に沿った両端である前端及び後端と、該長手方向に沿った表面である1以上の側面と、を有する長尺な素子本体」と「前記素子本体の前記前端側に配設された複数の電極を有し、被測定ガス中の特定ガス濃度を検出するための検出部」と「前記1以上の側面のいずれかの前記後端側に1以上配設され、外部と電気的に導通するためのコネクタ電極」を備えていることと共通する。
(エ)甲1発明は、「ガスセンサ素子100の」「測定対象ガスに晒される先端側の部分」の「、周囲の全周に亘って、」「形成され」た「多孔質保護層」は、甲1発明の「前記コネクタ電極が配設された前記側面のうち」「前記前端側を被覆」する「多孔質層」に相当する。

すると両者は、以下の点で一致する。
「センサ素子と、前記センサ素子が内部を軸方向に貫通する貫通孔を有する金属製の筒状体と、
を備えたガスセンサであって、
前記センサ素子は、
長手方向に沿った両端である前端及び後端と、該長手方向に沿った表面である1以上の側面と、を有する長尺な素子本体と、
前記素子本体の前記前端側に配設された複数の電極を有し、被測定ガス中の特定ガス濃度を検出するための検出部と、
前記1以上の側面のいずれかの前記後端側に1以上配設され、外部と電気的に導通するためのコネクタ電極と、
前記コネクタ電極が配設された前記側面のうち前記前端側を被覆する多孔質層と、
を備えている、
ガスセンサ。」

一方で、両者は、次の点で相違する。
<相違点1>
金属製の筒状体の貫通孔内に、本件発明1は「前記貫通孔内に配置され該貫通孔の内周面と前記センサ素子との間に充填された1以上の圧粉体と、気孔率が10%未満であり前記貫通孔内に配置されると共に内部を前記センサ素子が貫通し前記圧粉体を前記軸方向に押圧する中空柱状の1以上の緻密体と、を備え」ているのに対し、甲1発明は金属ホルダ34の内側に「ガスセンサ素子100を所定位置に配置するセラミックホルダ35、滑石36が先端側から順に配置されており、この滑石36は、金属ホルダ34内に配置される第1滑石37と、金属ホルダ34の後端に渡って配置される第2滑石38とからなり、そして第2滑石38の後端側には、アルミナ製のスリーブ39が配置されており、このスリーブ39は多段の円筒状に形成されており、軸線に沿うように軸孔391が設けられ、内部にガスセンサ素子100を挿通して」いる点。
<相違点2>
コネクタ電極が配設された側面のうち前端側を被覆する多孔質層が、本件発明1は「気孔率が10%以上」であるのに対し、甲1発明の多孔質保護層の気孔率が不明な点。
<相違点3>
本件発明1は、「前記多孔質層を前記長手方向に沿って分割するか又は前記多孔質層よりも前記後端側に位置するように前記側面に配設され、前記コネクタ電極よりも前記前端側に位置し、前記長手方向の存在範囲と前記1以上の緻密体の内周面の前記長手方向の存在範囲との連続した重複部分の長さである重複距離Wが0.5mm以上であり、前記側面を被覆し且つ気孔率が10%未満の緻密層と該緻密層に隣接し且つ前記多孔質層が存在しない隙間領域とのうち少なくとも前記緻密層を有し、前記長手方向に沿った水の毛細管現象を抑制する水侵入抑制部」を備えるのに対し、甲1発明はそのような構成を備えていない点。

イ 判断
上記各相違点について検討する。
(ア)相違点1及び相違点3について
a 本件発明1は、「センサ素子が内部を軸方向に貫通する貫通孔を有する金属製の筒状体に気孔率が10%未満であり前記貫通孔内に配置されると共に内部を前記センサ素子が貫通し前記圧粉体を前記軸方向に押圧する中空柱状の1以上の緻密体」を設け、「センサ素子の側面に気孔率が10%未満の緻密層」を設け、「センサ素子が中空柱状の1以上の緻密体の内部を貫通した際に、1以上の緻密体(金属製の筒状体側)と緻密層(センサ素子側)との重複距離Wを0.5mm以上とする、または1以上の緻密体(金属製の筒状体側)と緻密層と隙間領域(センサ素子側)との重複距離Wを0.5mm以上とする」、ことにより、「長手方向に沿った水の毛細管現象を抑制する」発明である。

b 一方、甲1発明は、金属ホルダ34の内側にはガスセンサ素子100を所定位置に配置するセラミックホルダ35、滑石36が先端側から順に配置され、その後端側には、アルミナ製のスリーブ39が配置されており、ガスセンサ素子100の金属ホルダ34、セラミックホルダ35、滑石36及びスリーブ39に対向する部位には、塗布層151,152が形成されていることから、セラミックホルダ35、滑石36及びスリーブ39(本件発明1の金属製の筒状体側)と塗布層151,152(本件発明1のセンサ素子側)とは重複距離をもって接していると認められる。

c しかしながら、甲1発明の「塗布層151,152」は、「ジルコニアを主成分としており、例えば、ジルコニアを50%程度含むペーストを印刷によって未焼成の積層体の塗布層151,152の形成部位に塗布し、積層体とともに脱脂、焼成することによって形成する」ことにより「必要な抗折強度を確保」し「組み付け時におけるガスセンサ素子100の破損の発生を抑制する」ためのものであることから、長手方向に沿った水の毛細管現象を抑制するものではない。さらに、甲1発明のセラミックホルダ35、滑石36及びスリーブ39はガスセンサ素子100を保持する機能はあるものの、長手方向に沿った水の毛細管現象を抑制するものではない。

d そうすると、甲1発明において、「必要な抗折強度を確保」し「組み付け時におけるガスセンサ素子100の破損の発生を抑制する」ための「塗布層151,152」を、「長手方向に沿った水の毛細管現象を抑制するもの」に替える動機はなく、さらに、「組み付け時におけるガスセンサ素子100の破損の発生を抑制する」ための「必要な抗折強度を確保」したまま「長手方向に沿った水の毛細管現象を抑制するもの」にすることの動機もない。

e さらに、他の上記甲号証を検討するに、甲第7号証に開示された甲7発明には、ガスセンサ素子1の先端部と基端側の間に緻密保護層24を設けることが開示されているが、この緻密保護層24は、測定ガス側リード部に浸入した水分を、上記緻密保護層よりも基端側から外部へ充分に放出して被測定ガス側リード部の剥離を充分に防ぐものである。そして、甲7発明では、ガスセンサ素子1と該ガスセンサ素子1を挿通保持する素子側絶縁碍子3との間の隙間を封止するガラスからなる封止材21が配置されていることにより、ガスセンサ素子1の長手方向への水の浸入を防いでいることから、緻密保護層24と素子側絶縁碍子3の気孔率を10%未満とし、重複距離Wを0.5mm以上とすることにより、長手方向に沿った水の毛細管現象を抑制するという技術は、甲第7号証には開示されていない。

f さらに、甲第8号証に開示された甲8発明には、ガスセンサ素子2の先端部と基端側の間に緻密保護層24を設けること、及び該ガスセンサ素子2を挿通保持する素子側絶縁碍子3の基端部には、該素子側絶縁碍子3とガスセンサ素子2との間の隙間を封止するガラスからなる封止材11が配置され、ガスセンサ素子2における封止材11と密着する領域の表面にも緻密保護層24を形成すること、が開示されているが、この緻密保護層24は、封止材11の収縮と共に被測定ガス側リード部222の一部が引張られ、剥離、断線が発生することにより生じる被測定ガス側リード部222の剥離、断線を防ぐものである。そして、甲8発明では、ガスセンサ素子2と該ガスセンサ素子2を挿通保持する素子側絶縁碍子3との間の隙間を封止するガラスからなる封止材21が配置されていることにより、ガスセンサ素子1の長手方向への水の浸入を防いでいることから、緻密保護層24と素子側絶縁碍子3の気孔率を10%未満とし、重複距離Wを0.5mm以上とすることにより、長手方向に沿った水の毛細管現象を抑制するという技術は、甲第8号証には開示されていない。

g また、ガスセンサの分野において、上記相違点1及び3のように、ガスセンサ素子を取り付ける側とガスセンサ素子側にそれぞれ気孔率が10%未満の緻密体や緻密層を設けて取り付け時にそれらの緻密体と緻密層の重複部分の距離を0.5mm以上として、長手方向に沿った水の毛細管現象を抑制する技術は、上記甲第2ないし9号証には開示されておらず、本願の優先日前において周知の技術であるとも認められない。
なお、甲第2号証は、上記「1.(2)」で述べたとおり、本願の優先日後で出願前に頒布された刊行物であるから、本件発明1が、優先権を主張する特願2018-19445号の特許請求の範囲、明細書又は図面(以下「優先権主張明細書等」という。)に記載されている場合には、証拠として採用されないものであるが、本件発明1?8が、優先権主張明細書等に記載されていないとして、甲2を証拠として採用しても、上記判断に変わりはない(以下、本件発明2?8についても同様である)。

h そうすると、他の甲号証を参照しても、上記相違点1及び3の構成が記載されていなのであるから、甲1発明に、甲第2ないし9号証に開示された事項を組み合わせても、上記相違点1及び3に係る本件発明1の発明特定事項を有するものとはならない。

i 以上のことから、甲1発明において、上記相違点1及び3に係る本件発明1の発明特定事項を有するものとすることを、甲第2ないし9号証に開示された事項を採用したとしても当業者が容易になし得るものではない。

(イ)相違点2について
甲第4ないし6号証には、ガスセンサ素子の多孔質保護層の気孔率の例が開示されている。よって、甲1発明の多孔質保護層を甲第4ないし6号証に開示された一般周知の事項をもとに、気孔率が10%以上の多孔質層とする周知技術を適用することは、当業者ならば容易になしえたことである。

(ウ)申立人の特許異議申立書における主張について
申立人は令和3年7月5日付け特許異議申立書の申立ての理由において、上記相違点1及び3に係る本件発明1の発明特定事項については、甲第2ないし7号証に開示された技術から、または周知技術から、当業者が容易になし得たものである旨主張している。
しかしながら、上記「(ア)」で検討したとおり、甲1発明において、上記相違点1及び3に係る本件発明1の発明特定事項を有するものとすることを、甲7発明及び甲第2ないし6号証に開示された事項を採用したとしても当業者が容易になし得るものではない。
よって、上記申立人の特許異議申立書における主張は採用することはできない。

(エ)小括
以上のとおりであるので、本件発明1を、甲第1号証と甲第7号証に記載された発明と周知技術及び技術常識から当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

(2)甲1発明と本件発明2ないし8との対比・判断について
本件発明2ないし8は、本件発明1を直接的又は間接的に引用する発明であり、本件発明1の発明特定事項を全て備えた発明である。
したがって、上記「(1)イ(ア)」で検討したとおり、甲1発明において、上記相違点1及び3に係る本件発明1の発明特定事項を有するものとすることを、甲第2ないし9号証に開示された事項を採用したとしても当業者が容易になし得るものではないから、本件発明2ないし8においても、甲1発明において、上記相違点1及び3に係る本件発明1の発明特定事項を有するものとすることを、甲第2ないし9号証に開示された事項を採用したとしても当業者が容易になし得るものではない。
ゆえに、本件発明2ないし8を、甲第1号証と甲第7号証と甲8号証と甲9号証に記載された発明と周知技術及び技術常識から当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

(3)まとめ
以上のことから、本件発明1ないし8を、甲1発明に自明な事項及び甲第7号証記載事項を適用することで当業者が容易に発明をすることができたとはいえないから、申立人の特許法第29条第2項についての異議申立理由は、理由がない。

3.特許法第36条第6項第1号(サポート要件)について
申立人は、本件特許発明の課題は、センサ素子表面の多孔質層の毛細管現象により、センサ素子先端からの水分が後端のコネクタ電極まで到達するという課題であり、そもそも請求項1に係る発明が「多孔質層は、コネクタ電極が配設された側面のうち、該側面の前端からコネクタ電極の前端側の端部までの領域を少なくとも覆っている」という構成を備えていなければ、上記課題は発生しないのであるから、上記構成を備えていない請求項1に係る発明は、「発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲」を超えて特許を請求することとなり、特許法第36条第6項第1号に規定された要件を満たしていない旨主張する。
しかしながら、本願の発明の詳細な説明には、【発明が解決しようとする課題】として、段落【0004】に、「多孔質層がセンサ素子の表面に存在する場合、排ガス中の水分が毛細管現象によって多孔質層内を移動することがあった。その結果、水分がコネクタ電極まで到達してしまい」と記載され、段落【0005】に「本発明はこのような課題を解決するためになされたものであり、水分がコネクタ電極に到達するのを抑制することを主目的とする」と記載されていることから、請求項1に係る発明である本件発明1の課題は、センサ素子先端からの水分がセンサ素子の表面の多孔質層で起こる毛細管現象によって後端のコネクタ電極に到達するという課題であると認められる。
したがって、ガスセンサのセンサ素子に「多孔質層は、コネクタ電極が配設された側面のうち、該側面の前端からコネクタ電極の前端側の端部までの領域を少なくとも覆っている」という構成がない本件発明1においても、「前記コネクタ電極が配設された前記側面のうち少なくとも前記前端側を被覆し且つ気孔率が10%以上の多孔質層」を備えていることから、センサ素子前端側にて排ガス中の水分が毛細管現象によって多孔質層内を移動してセンサ素子先端からの水分が後端のコネクタ電極に到達することは当業者が把握し得た課題であり、「前記多孔質層を前記長手方向に沿って分割するか又は前記多孔質層よりも前記後端側に位置するように前記側面に配設され、前記コネクタ電極よりも前記前端側に位置し、前記長手方向の存在範囲と前記1以上の緻密体の内周面の前記長手方向の存在範囲との連続した重複部分の長さである重複距離Wが0.5mm以上であり、前記側面を被覆し且つ気孔率が10%未満の緻密層と該緻密層に隣接し且つ前記多孔質層が存在しない隙間領域とのうち少なくとも前記緻密層を有し、前記長手方向に沿った水の毛細管現象を抑制する水侵入抑制部」という構成により上記の課題を解決できることは、当業者が認識できると認められる。
ゆえに、本件発明1に対応する請求項1の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定された要件を満たしているから、申立人の特許法第36条第6項第1号についての異議申立理由は、理由がない。

4.特許法第36条第6項第2号(明確性)について
申立人は、請求項1の「該緻密層に隣接し且つ前記多孔質層が存在しない隙間領域」という記載は、緻密層の反対側で隙間を構成する対のものが請求項1に書いておらず、請求項1を引用する請求項7に記載された「前記多孔質層は、前記水侵入抑制部が存在する領域を除いて、前記コネクタ電極が配設された前記側面のうち該側面の前記前端から前記コネクタ電極の前記前端側の端部までの領域を少なくとも覆っており、」という前提がないと隙間は生まれないものであるから、その前提がない請求項1の隙間領域は不明であり、よって、請求項1に係る発明は不明確である旨主張する。
しかしながら、請求項1の隙間領域は「該緻密層に隣接し且つ前記多孔質層が存在しない隙間領域」と特定されているのであるから、隙間を構成する対のものの記載がなくても「センサ素子本体」と「内部を」「センサ素子が貫通」する「中空柱状の1以上の緻密体」との間で「緻密層に隣接し」「且つ」「多孔質層が存在しない」「隙間」となっている領域であると認識できる。そして、本願の明細書の段落【0053】、【0060】及び【図6】に隙間領域93,96が示されていることから、本願明細書及び図面を参酌することによっても、請求項1の隙間領域を把握することができる。
したがって、「該緻密層に隣接し且つ前記多孔質層が存在しない隙間領域」という記載は明確であり、上記記載により発明を特定する請求項1に係る発明は、明確である。
ゆえに、本件発明1に対応する請求項1の記載は、特許法第36条第6項第2号に規定された要件を満たしているから、申立人の特許法第36条第6項第2号についての異議申立理由は、理由がない。

5.小括
以上のとおりであるので、上記「第3」の異議申立理由はいずれも理由がない。

第5 むすび
以上のとおり、申立人が特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件発明1ないし8に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1ないし8に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2021-09-03 
出願番号 特願2019-570655(P2019-570655)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (G01N)
P 1 651・ 537- Y (G01N)
最終処分 維持  
前審関与審査官 黒田 浩一  
特許庁審判長 三崎 仁
特許庁審判官 伊藤 幸仙
樋口 宗彦
登録日 2020-12-14 
登録番号 特許第6810286号(P6810286)
権利者 日本碍子株式会社
発明の名称 ガスセンサ  
代理人 特許業務法人アイテック国際特許事務所  

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