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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 A61B
管理番号 1378382
審判番号 不服2021-3482  
総通号数 263 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-11-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2021-02-24 
確定日 2021-10-12 
事件の表示 特願2016- 11122「眼底撮影装置」拒絶査定不服審判事件〔平成29年 7月27日出願公開、特開2017-127597、請求項の数(2)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成28年1月22日の出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。
平成31年 1月21日 :手続補正書の提出
令和 元年10月29日付け:拒絶理由通知書
令和 2年 3月 4日 :意見書、手続補正書の提出
令和 2年 6月15日付け:拒絶理由(最後の拒絶理由)通知書
令和 2年 8月24日 :意見書、手続補正書の提出
令和 2年11月18日付け:令和2年8月24日の手続補正についての
補正の却下の決定、拒絶査定
令和 3年 2月24日 :審判請求書、手続補正書の提出

第2 原査定の概要
原査定(令和2年11月18日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。
本願の請求項1ないし3に係る発明は、以下の引用文献1?3に基づいて、当業者が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献1:特開2015-195876号公報
引用文献2:特開2015-43844号公報
引用文献3:特開昭64-34321号公報

第3 審判請求時の補正(令和3年2月24日提出の手続補正書による手続補正)について
審判請求時の補正は、特許法第17条の2第3項から第6項までの要件に違反しているものとはいえない。審判請求時の補正によって請求項1において「アライメント指標形成光学系」に「前記アライメント光源からのアライメント光による角膜反射像を撮像する撮像素子であって前記受光素子とは別体で且つ眼底共役位置に配置された撮像素子を更に備え」という事項を追加する補正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。また、当該事項は、第2実施形態として段落【0084】?【0098】に記載され、当初明細書等に記載された事項であるから、新規事項を追加するものではないといえる。
そして、「第4 本願発明」から「第6 対比・判断」までに示すように、補正後の請求項1及び2に係る発明は、独立特許要件を満たすものである。

第4 本願発明
本願の請求項1及び2に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」及び「本願発明2」という。)は、令和3年2月24日提出の手続補正書により手続補正された特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された事項により特定される以下のとおりの発明である。(下線は補正箇所を示す。)

「 【請求項1】
眼底に照明光を照射するための照射光学系、前記照明光による前記眼底からの光を受光素子に受光させる受光光学系、および、前記照射光学系と前記受光光学系との共通光路上の前眼部共役位置に配置されており、前記照明光を被検眼の眼底上で走査するための光スキャナ、を備え、前記受光素子からの受光信号に基づいて前記眼底の正面画像を取得するための走査型眼底撮影光学系と、
被検眼が予め定められた適正作動距離に位置するときの前眼部共役位置に配置されるアライメント光源を備え、前記アライメント光源からのアライメント光を前記照射光学系の光路を介して被検眼の角膜に向けて出射すると共に、前記アライメント光源からのアライメント光による角膜反射像を撮像する撮像素子であって前記受光素子とは別体で且つ眼底共役位置に配置された撮像素子を更に備え、前記アライメント光の角膜反射像を、作動距離方向のアライメント状態に応じた眼底共役面での結像状態で撮像するためのアライメント指標形成光学系と、
前記照射光学系における前記光スキャナと被検眼との間の光路に配置され、前記アライメント光の投受光光路を結合するダイクロイックミラーと、
前記撮像素子によって撮像された角膜反射像と前記受光素子からの受光信号に基づく前記眼底の正面画像のライブ画像とを、随時、モニタ上に同時に表示する表示制御部と、
を備える眼底撮影装置。
【請求項2】
被検眼からの測定光と参照光との干渉信号を受光して前記被検眼の断層像を取得するためのOCT光学系と、
前記前記OCT光学系と前記走査型眼底撮影光学系の光路と結合させるための光路結合部と、
を備え、被検眼に対する前記OCT光学系のアライメントは、前記撮像画像に形成されたアライメント指標を用いて行われることを特徴とする請求項1記載の眼底撮影装置。」

第5 引用文献、引用発明等

1 引用文献1について

(1)引用文献1の記載
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1には、図面とともに次の事項が記載されている。(下線は当審が付与した。以下同じ。)

(引1ア)
「【技術分野】
【0001】
被検眼の眼底を撮影するための眼底撮影装置に関する。」

(引1イ)
「【0011】
<第1の概要>
本装置1は、干渉光学系(OCT光学系)200と、眼底照明光学系(以下、照明光学系と省略する場合あり)10と、眼底撮影光学系(以下、撮影光学系と省略する場合あり)30と、制御部(例えば、PC90、制御部70)と、を主に備える(図2参照)。なお、干渉光学系200の光軸L2と、眼底照明光学系10及び眼底撮影光学系30の光軸L1は、光路分岐部材によって同軸に配置されることが好ましい。もちろん、これらは、同軸でなくてもよい。
・・・
【0031】
<第1正面画像(例えば、OCT正面画像84)と第2正面画像(例えば、FC正面画像92)の表示(例えば、図3参照)>
制御部(例えば、PC90、制御部70)は、例えば、表示制御部として用いられてもよい。表示制御部は、表示部(例えば、表示部75、表示部95)の表示を制御する。この場合、表示制御部は、例えば、干渉光学系200の光検出器からの出力信号に基づく第1の正面画像と、眼底撮影光学系30の二次元撮像素子からの撮像信号に基づく眼底Efの正面観察画像である第2の正面画像と、を異なる表示領域に同時に表示してもよい。(図3参照)。
【0032】
これによって、例えば、第1の正面画像を用いた干渉光学系200の調整と、第2の正面画像を用いた眼底照明光学系10又は眼底撮影光学系30の調整を適正に実行できる。干渉光学系200の調整としては、例えば、走査位置の調整、固視灯位置の調整、フォーカス調整、偏波コントロール等がありうる。眼底照明光学系10又は眼底撮影光学系30の調整としては、被検眼に対するアライメント又はフォーカス調整等がありうる。その結果として、良好な断層画像と、良好な眼底正面画像(例えば、カラー眼底画像、蛍光眼底画像)をスムーズに撮影できる。
【0033】
なお、第1の正面画像と、第2の正面画像は、好ましくは、ライブ画像として表示される。検者は、ライブ画像を見ながら、被検眼又は装置の状態を容易に把握できる。
・・・
【0045】
<第2の正面画像への指標の表示>
なお、本装置1には、被検眼に指標を投影するための指標投影光学系が設けられてもよい。指標投影光学系としては、被検眼眼底にフォーカス指標(例えば、スプリット指標)を投影するための指標投影光学系(例えば、フォーカス指標投影光学系40)、被検眼にアライメント指標を投影するための指標投影光学系(例えば、赤外光源55)、被検眼に対して固視標を投影するための指標投影光学系、の少なくともいずれかが考えられる。
【0046】
指標投影光学系による被検眼からの反射光は、眼底撮影光学系30の二次元撮像素子(例えば、二次元撮像素子38)によって撮像されてもよい。この場合、表示制御部は、二次元撮像素子からの撮像信号に基づく指標を第2の正面画像上に表示してもよい(例えば、S1・S2、W1・W2)。なお、指標の表示手法としては、例えば、撮像された指標を直接的に表示する手法の他、指標の上に電子表示(例えば、着色表示)を重畳させる手法、さらに、指標の位置検出結果に基づくインジケータ表示、の少なくともいずれかが考えられる。」

(引1ウ)
「【0055】
<その他>
なお、本実施形態は、上記に限定されず、他の光学系においても、上記制御の実施は可能である。例えば、眼底照明光学系10は、被検眼眼底上を照明光により照明するための光学系であってもよい。眼底撮影光学系30は、照明光により照明された眼底の正面画像を受光素子によって撮影するための光学系であってもよい。
【0056】
眼底照明光学系10、眼底撮影光学系30としては、例えば、前述のように眼底の二次元領域を同時に照明し、受光素子(例えば、二次元撮像素子)によって眼底正面画像を撮影する構成であってもよい。また、眼底照明光学系10、眼底撮影光学系30としては、例えば、SLOであってもよい。SLOは、例えば、眼底をレーザ走査し、その反射光を受光素子(例えば、ポイントセンサ)によって受光することによって眼底正面画像を撮影できる。」

(引1エ)
「【0073】
<実施例>
・・・
【0080】
図2に示すように、本実施例の光学系は、照明光学系10、撮影光学系30、干渉光学系200(以下、OCT光学系ともいう)200を主に備える。さらに、光学系は、フォーカス指標投影光学系40、アライメント指標投影光学系50、前眼部観察光学系60を備えてもよい。照明光学系10及び撮影光学系30は、眼底を可視光によって撮影(例えば、無散瞳状態)することによってカラー眼底画像を得るための眼底カメラ光学系(FC光学系)100として用いられる。撮影光学系30は、被検眼の眼底画像を撮像する。OCT光学系200は、被検眼眼底の断層画像を光干渉の技術を用いて非侵襲で得る。
【0081】
<眼底カメラ光学系(FC光学系)>
以下、眼底カメラ光学系100の光学配置の一例を示す。
【0082】
<照明光学系>
照明光学系10は、例えば、観察照明光学系と撮影照明光学系を有する。撮影照明光学系は、撮影光源14、コンデンサレンズ15、リングスリット17、リレーレンズ18、ミラー19、黒点板20、リレーレンズ21、孔あきミラー22、対物レンズ25を主に備える。撮影光源14は、フラッシュランプ、LED等であってもよい。黒点板20は、中心部に黒点を有する。撮影光源14は、例えば、被検眼の眼底を可視域の光によって撮影するために用いられる。
【0083】
また、観察照明光学系は、観察光源11、赤外フィルタ12、コンデンサレンズ13、ダイクロイックミラー16、リングスリット17から対物レンズ25までの光学系を主に備える。観察光源11は、ハロゲンランプ、LED等であってもよい。観察光源11は、例えば、被検眼の眼底を近赤外域の光によって観察するために用いられる。赤外フィルタ12は、波長750nm以上の近赤外光を透過し、750nmよりも短い波長帯域の光をカットするために設けられている。ダイクロックミラー16は、コンデンサレンズ13とリングスリット17との間に配置される。また、ダイクロイックミラー16は、観察光源11からの光を反射し撮影光源14からの光を透過する特性を持つ。なお、観察光源11と撮影光源14は、同じ光軸上に直列的に配置された構成であってもよい。
【0084】
<撮影光学系>
撮影光学系30は、例えば、対物レンズ25、撮影絞り31、フォーカシングレンズ32、結像レンズ33、撮像素子35が主に配置されている。撮影絞り31は、孔あきミラー22の開口近傍に位置する。フォーカシングレンズ32は、光軸方向に移動可能である。撮像素子35は、可視域に感度を有する撮影に利用可能である。撮影絞り31は対物レンズ25に関して被検眼Eの瞳孔と略共役な位置に配置されている。フォーカシングレンズ32は、モータを備える移動機構49により光軸方向に移動される。
【0085】
また、結像レンズ33と撮像素子35の間には、赤外光及び可視光の一部を反射し、可視光の大部分を透過する特性を有するダイクロイックミラー37が配置される。ダイクロイックミラー37の反射方向には、赤外域に感度を有する観察用撮像素子38が配置されている。なお、ダイクロイックミラー34の代わりに、跳ね上げミラーが用いられても良い。跳ね上げミラーは、例えば、眼底観察時に光路に挿入され、眼底撮影時に光路から退避される。
・・・
【0088】
観察光源11を発した光束は、赤外フィルタ12により赤外光束とされ、コンデンサレンズ13、ダイクロイックミラー16により反射されてリングスリット17を照明する。そして、リングスリット17を透過した光は、リレーレンズ18、ミラー19、黒点板20、リレーレンズ21を経て孔あきミラー22に達する。孔あきミラー22で反射された光は、補正ガラス28、ダイクロイックミラー24を透過し、対物レンズ25により被検眼Eの瞳孔付近で一旦収束した後、拡散して被検眼眼底部を照明する。
【0089】
また、眼底からの反射光は、対物レンズ25、ダイクロイックミラー24、補正ガラス28、孔あきミラー22の開口部、撮影絞り31、フォーカシングレンズ32、結像レンズ33、ダイクロイックミラー37、を介して撮像素子38に結像する。なお、撮像素子38は、眼底と共役位置に配置されている。なお、撮像素子38の出力は制御部70に入力され、制御部70は、撮像素子38によって撮像される被検眼の眼底観察画像(OCT正面画像82)を表示部75に表示する(図3参照)。
・・・
【0093】
<アライメント指標投影光学系>
アライメント用指標光束を投影するアライメント指標投影光学系50には、図2における左上の点線内の図に示すように、撮影光軸L1を中心として同心円上に45度間隔で赤外光源が複数個配置されている。本実施例における眼科撮影装置は、第1視標投影光学系(0度、及び180)と、第2視標投影光学系と、を主に備える。第1視標投影光学系は、赤外光源51とコリメーティングレンズ52を持つ。第2視標投影光学系は、第1指標投影光学系とは異なる位置に配置され、6つの赤外光源53を持つ。赤外光源51は、撮影光軸L1を通る垂直平面を挟んで左右対称に配置される。この場合、第1指標投影光学系は被検眼Eの角膜に無限遠の指標を左右方向から投影する。第2指標投影光学系は被検眼Eの角膜に有限遠の指標を上下方向もしくは斜め方向から投影する構成となっている。なお、図2の本図には、便宜上、第1指標投影光学系(0度、及び180度)と、第2指標投影光学系の一部のみ(45度、135度)が図示されている。
【0094】
<前眼部観察光学系>
被検眼の前眼部を撮像する前眼部観察(撮影)光学系60は、ダイクロイックミラー24の反射側に、ダイクロイックミラー61、絞り63、リレーレンズ64、二次元撮像素子(受光素子:以下、撮像素子65と省略する場合あり)65を主に備える。撮像素子65は、赤外域の感度を持つ。また、撮像素子65はアライメント指標検出用の撮像手段を兼ね、赤外光を発する前眼部照明光源58により照明された前眼部とアライメント指標が撮像される。前眼部照明光源58により照明された前眼部は、対物レンズ25、ダイクロイックミラー24及びダイクロイックミラー61からリレーレンズ64の光学系を介して撮像素子65により受光される。また、アライメント指標投影光学系50が持つ光源から発せられたアライメント光束は被検眼角膜に投影される。その角膜反射像は対物レンズ25?リレーレンズ64を介して撮像素子65に受光(投影)される。
【0095】
二次元撮像素子65の出力は制御部70に入力され、図3及び図4に示すように表示部75には、二次元撮像素子65によって撮像された前眼部像が表示される。なお、前眼部観察光学系60は、被検眼に対する装置本体のアライメント状態を検出するための検出光学系を兼用する。
【0096】
なお、孔あきミラー22の穴周辺には、被検者眼の角膜上に光学アライメント指標(ワーキングドットW1)を形成するための赤外光源(本実施例では、2つだが、これに限定されない)55が配置されている。なお、光源55には、孔あきミラー22の近傍位置に端面が配置される光ファイバに、赤外光を導く構成でも良い。なお、光源55による角膜反射光は、被検者眼Eと撮影部3(装置本体)との作動距離が適切となったときに、撮像素子38の撮像面上に結像される。これにより、検者はモニタ8に眼底像が表示された状態で、光源55により形成されるワーキングドットを用いてアライメントの微調整を行えるようになる。」

(引1オ)図2


(引1カ)図3


(2)引用文献1に記載された発明
上記(1)の記載事項及び図面から、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「 被検眼の眼底を撮影するための眼底撮影装置であって、
眼底照明光学系10と、眼底撮影光学系30と、制御部と、を備え、制御部は、表示制御部として用いられ、眼底照明光学系10及び眼底撮影光学系30は、眼底カメラ光学系100として用いられ、眼底撮影光学系30は、被検眼の眼底画像を撮像し、
眼底照明光学系10は、観察照明光学系と撮影照明光学系を有し、
撮影照明光学系は、撮影光源14、コンデンサレンズ15、リングスリット17、リレーレンズ18、ミラー19、黒点板20、リレーレンズ21、孔あきミラー22、対物レンズ25を備え、
観察照明光学系は、観察光源11、赤外フィルタ12、コンデンサレンズ13、ダイクロイックミラー16、リングスリット17から対物レンズ25までの光学系を備え、
眼底撮影光学系30は、対物レンズ25、撮影絞り31、フォーカシングレンズ32、結像レンズ33、撮像素子35が配置され、撮影絞り31は、孔あきミラー22の開口近傍に位置し、撮影絞り31は対物レンズ25に関して被検眼Eの瞳孔と略共役な位置に配置され、結像レンズ33と撮像素子35の間には、ダイクロイックミラー37が配置され、ダイクロイックミラー37の反射方向には、撮像素子38が配置されており、
観察光源11を発した光束は、被検眼Eの瞳孔付近で一旦収束した後、拡散して被検眼眼底部を照明し、眼底からの反射光は、眼底と共役位置に配置されている撮像素子38に結像し、
孔あきミラー22の穴周辺には、被検者眼の角膜上に光学アライメント指標を形成するための赤外光源55が配置され、赤外光源55による角膜反射光は、被検者眼Eと装置本体との作動距離が適切となったときに、撮像素子38の撮像面上に結像され、
表示制御部は、撮像素子38からの撮像信号に基づく眼底像をライブ画像として表示させ、撮像素子38からの撮像信号に基づく光学アライメント指標を眼底像上に表示させ、
これにより、検者はモニタに眼底像が表示された状態で、赤外光源55により形成される光学アライメント指標を用いてアライメントの微調整を行えるようになる、
眼底撮影装置。」

2 引用文献2について
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献2には、図面とともに次の事項が記載されている。

(引2ア)
「【0055】
<観察光学系(SLO光学系)>
次に、ダイクロイックミラー40の透過方向に配置されたSLO光学系(共焦点光学系)300について説明する。SLO光学系300は、被検眼眼底の正面画像を取得するための観察光学系として用いられる。SLO光学系300は、照明光学系、受光光学系に大別される。照明光学系は、被検眼眼底を照明する。受光光学系は、照明光学系によって照明された被検眼の反射光を受光素子によって受光する。制御部70は、受光素子から出力される受光信号に基づいて被検眼眼底の正面画像を得る。
【0056】
光出射部61は、第1の光源(SLO光源)61a、第2の光源(固視光源)61b、ミラー69、ダイクロイックミラー101、を有する。
【0057】
SLO光源61aは、高コヒーレントな光を発する光源であり、例えば、λ=780nmの光源(レーザダイオード光源やSLD光源等)が用いられる。固視光源61bは、可視域の波長の光であり、例えば、λ=630nmの光源(レーザダイオード光源やSLD光源等)が用いられる。SLO光源61を出射したレーザ光は、ダイクロイックミラー101を透過し、コリメートレンズ102を介して、ビームスプリッタ62に進む。固視光源61bを出射した可視光は、ミラー69によって折り曲げられた後、ダイクロイックミラー101によって反射され、SLO光源61aから出射したレーザ光と同軸とされる。
【0058】
SLO光源61aから発せられるレーザ光を被検眼Eに向けて出射する光路には、コリメートレンズ102、被検眼の屈折誤差に合わせて光軸方向に移動可能なフォーカシングレンズ63、図示無き走査駆動機構の駆動により眼底上でXY方向に測定光を高速で走査させることが可能なガルバノミラーとポリゴンミラーとの組み合せからなる走査部64、リレーレンズ65、対物レンズ10が配置されている。また、走査部64のガルバノミラー及びポリゴンミラーの反射面は、被検眼瞳孔と略共役な位置に配置される。
【0059】
また、SLO光源61aとフォーカシングレンズ63との間には、ビームスプリッタ62が配置されている。そして、ビームスプリッタ62の反射方向には、共焦点光学系を構成するための集光レンズ66と、眼底に共役な位置に置かれる共焦点開口67と、SLO用受光素子68とが設けられている。
【0060】
ここで、SLO光源61aから発せられたレーザ光(測定光)は、ビームスプリッタ62を透過した後、フォーカシングレンズ63を介して、走査部64に達し、ガルバノミラー及びポリゴンミラーの駆動により反射方向が変えられる。そして、走査部64で反射されたレーザ光は、リレーレンズ65を介して、ダイクロイックミラー40を透過した後、対物レンズ10を介して、被検眼眼底に集光される。
【0061】
そして、眼底で反射したレーザ光は、対物レンズ10、リレーレンズ65、走査部64のガルバノミラー及びポリゴンミラー、フォーカシングレンズ63を経て、ビームスプリッタ62にて反射される。その後、集光レンズ66にて集光された後、共焦点開口67を介して、受光素子68によって検出される。そして、受光素子68にて検出された受光信号は制御部70へと入力される。制御部70は受光素子68にて得られた受光信号に基づいて被検眼眼底の正面画像を取得する。取得された正面画像はメモリ72に記憶される。なお、SLO画像の取得は、走査部64に設けられたガルバノミラーによるレーザ光の縦方向の走査(副走査)とポリゴンミラーによるレーザ光の横方向の走査(主走査)によって行われる。
【0062】
<アライメント指標投影光学系>
投影光学系150は、角膜に指標を投影するために用いられる。投影光学系150には、図2の左下の点線内の図に示すように、光軸を中心として同心円上に45度間隔で近赤外光源が複数個配置されている。投影光学系150は、光軸L1を通る垂直平面を挟んで左右対称に配置された赤外光源151とコリメーティングレンズ152を持つ第1指標投影光学系(0度、及び180)と、第1指標投影光学系とは異なる位置に配置され6つの近赤外光源153を持つ第2指標投影光学系と、を備える。なお、図2の本図には、便宜上、第1指標投影光学系(0度、及び180度)と、第2指標投影光学系の一部のみ(45度、135度)が図示されている。光源151は前眼部照明を兼ねる。もちろん、前眼部証明用の光源を別途設ける構成としてもよい。
【0063】
<前眼部観察光学系>
前眼部観察光学系90は、眼Eを撮像し前眼部像を得るために配置されている。前眼部観察光学系90は、対物レンズ10、ダイクロイックミラー91、結像レンズ95、二次元撮像素子(二次元受光素子)97を備える。
【0064】
投影光学系150による前眼部反射光及びアライメント光束は、対物レンズ10を介してダイクロイックミラー91によって反射された後、結像レンズ95を介して二次元撮像素子97により受光される。二次元撮像素子97の出力は制御部70に送信され、モニタ75には二次元撮像素子97によって撮像された前眼部像が表示される。
【0065】
なお、本実施形態において、投影光学系150及び前眼部観察光学系90は、眼Eに対して装置本体3を所定の位置関係に誘導させるためのアライメント検出光学系として用いられる。例えば、投影光学系150及び前眼部観察光学系90は、眼Eと装置本体3を所定の適正作動距離に誘導するために利用される。」

(引2イ)図1


3 引用文献3について
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献3には、図面とともに次の事項が記載されている。

(引3ア)第2頁右上欄第17行?第3頁右下欄第13行
「(実施例)
次に、この発明を図面に基づいて説明する。
第1図?第3図はこの発明の一実施例を示す変倍式眼底カメラである。図中、Eは被検眼、Rは眼底、Sは角膜表面である。この被検眼Eの眼底Rを照明するための照明光学系は、タングステンランプ等の観察用光源1から被検眼Eに至る光学系である。
観察用光源1から出た光束はコンデンサレンズ3で集光され、赤外フィルタ5で赤外光束とされ、キセノンランプ等の撮影用光源35を透過してリング状絞り7に集光する。そして、このリング状絞り7から出射する光束は、リレーレンズ9によって中央に開孔を有する孔あきミラー11の位置にリング絞り像を形成すると共に、この孔あきミラー11で反射され、被検眼Eに対向して配置されている対物レンズ13を介して被検眼Eの瞳孔に再びリング絞り像を形成し、瞳孔の周辺部から眼底Rを一様に赤外光束で照明する。なお、リング状絞り7とリレーレンズ9との間の眼底Rと共役な位置には後述する機能を有する黒点36が設けられている。
照明された眼底Rの眼底像を観察・撮影する観察・撮影光学系は、眼底Rからフィルム15および撮像装置17に至る光学系である。眼底Rで反射した光束は、瞳孔中央部を通り、対物レンズ13の後方の点Pに一旦眼底像を形成し、孔あきミラー11の開孔部、孔あきミラー11の後方に位置する撮影絞り18、後述する光学特性を有する第1ダイクロイックミラー37を透過し1合焦レンズ19、変倍レンズ21、結像レンズ23、クイックリターンミラー25を経てフィルム15と共役なフィールドレンズ27の位置に再び眼底像を形成する。この光束は更にリレーレンズ29を経て第1ミラー31で偏向され、後述する第2ダイクロイックミラー47を透過して撮像装置17上に眼底像を形成する。
この撮像装置117は赤外光束により照明された眼底像を光電的に変換し、撮像装置17からの電気信号により眼底像を可視像として表示するモニター装置33に接続されており、検者はこのモニター装置33によって眼底像を観察することができる。
撮影を行う際には、赤外フィルタ5とリング状絞り7との間に置かれた撮影用光源35を閃光させると同時に、クイックリターンミラー25を図中破線で示したようにフィルム15に至る光路から外部に跳ね上げる。これによって眼底Rからの反射光がフィルム15に到達してこれを露光し、フィルム15に眼底像が写し込まれる。
ところで、変倍レンズ21は種々の倍率の異なったレンズをターレット状の回転枠22に取付けることによって構成されており、この回転枠22を回転させることにより倍率の異なるレンズを光路中に入れ換えることができるようになっている。そして、レンズの入れ換えによるF値の変化に応じて撮影光源の必要光量も変化するため、撮影光の光量を決定するリング状絞り7も開口面積の異なる数種の内から適当なものを選択することにより光量調節ができるようになっている。
なお、変倍レンズ21としてはこの例で示したようなターレット式のユニットのみでなく、合焦レンズ19との組合わせによるズームレンズユニットとして構成することもできる。
一方、対物レンズ13を介して被検眼Eの角膜Sに向けてアライメント指標光束を投影する指標投影光学系は、発光素子55から角膜Sに至る光学系であり、角膜Sによって反射された指標光束を撮像装置17へ導く指標観察光学系と共にアライメント指標系を構成している。以下このアライメント指標系について述べる。
55は、アライメント指標光束投影のためのLED等の発光素子であり、例えば730nmの特定波長の近赤外光を発する。2つの凹面鏡53は、2つの発光素子55からの光束をそれぞれ集光し、アライメント用指標であるピンホール51の位置に発光素子55の像を等倍で形成するためのものである。
ピンホール51は、被検眼Eが適正位置に配置された時に、被検眼Eの角膜曲率中心と共役となる位置に設けられており、ピンホール51からは光軸に対してそれぞれ傾斜した2光束のアライメント指標光束が出射されることとなる。ピンホール51から出射された2光束はハーフミラー41を透過し、投影レンズ39を介して第1ダイクロイックミラー37に至る。この第1ダイクロイックミラー37は、アライメント指標光束の波長域の光だけを反射し、他の波長域の光を透過させるものであり、アライメント指標光束を被検眼Eへ向けて投影すると共に、被検眼Eにより反射され対物レンズ13を通過した指標光束を反射させる反射部材としての機能を有し、対物レンズ13と変倍レンズ21との間、更にこの例では孔あきミラー11と合焦レンズ19との間の光路中に設けられている。すなわち、この第1ダイクロイックミラー37は、発光素子55から発するアライメント指標光束に対しては全反射に近いミラーとして機能し、観察用光源1及び撮影用光源35から発する照明用光束については略全部を透過させるものである。
第1ダイクロイックミラー37で反射された2つのアライメント指標光束は、撮影用絞り18及び孔あきミラー11の開孔を通過して対物レンズ13に導かれ、被検眼Eが対物レンズ13に対して適正位置となったとき、被検眼Eの角膜Sの曲率中心に2光束によるピンホール51の像が重合して形成されるように投影される。
なお、ピンホール51への光源の投光方式の変形例としては、第2図に示すように凹面鏡53の代わりに凸レンズ57を用いる構成、あるいは第3図に示すように2つの反射面を有する三角柱状の反射部材59を用いる構成等が考えられる。
このように角膜Sに向けて投影されたアライメント指標光束は角膜Sにより反射され対物レンズ13を介して再び第1ダイクロイックミラー37に至り、この第1ダイクロイックミラー37で反射されて投影レンズ39に入射する。そして、ハーフミラー41で反射して一旦角膜反射指標像を形成した後、リレーレンズ43、第2ミラー45及び第2ダイクロイックミラー47を介して撮像装置17に角膜反射指標像を形成する。」

(引3イ)第1図


4 その他の文献について
また、令和2年11月18日付けの補正の却下の決定において引用された引用文献4(特開2013-179979号公報)には、図面とともに次の事項が記載されている。

(引4ア)
「【0010】
図2は眼底撮影装置(眼底カメラ)の光学系及び制御系の概略構成図である。光学系は、照明光学系10、眼Eの眼底観察・撮影を行う眼底観察・撮影光学系30、眼Eの眼底にスプリット指標(フォーカス指標)を投影するスプリット指標投影光学系40、眼Eの前眼部にアライメント用指標光束を投影するアライメント検出光学系50、眼Eの前眼部を撮影する前眼部観察光学系60、眼Eの視線を誘導する固視標呈示光学系70から構成される。
・・・
【0028】
撮像素子65は眼Eの瞳孔と(略)共役位置に置かれ、光源58で照明された前眼像を撮像する他、後述するアライメント検出光学系50の光源の点灯で照明された前眼部(角膜)からの反射光を受光して眼Eと装置とのアライメント状態を検出する。
【0029】
<アライメント検出光学系>
アライメント検出光学系50は、前眼部観察光学系60の光路を共有し、更に眼Eの前眼部にアライメント指標を投影するための赤外のアライメント用光源51(51a、51b)と、第2絞り67を有する。図3は光軸L2方向からアライメント指標光学系50を見たときの説明図である。
・・・
【0056】
またアライメント用光源51は対物レンズ25を介して眼にアライメント指標を投影出来る位置に設けられれば良く、前眼部観察光学系60以外の光路中に置かれても良い。例えば撮影光学系や照明光学系の光路中に置かれても良い。なお光源51が撮影光学系や照明光学系に置かれる場合、例えば図2のダイクロイックミラー24に変えてハーフミラーを用いる。これによりアライメント指標がハーフミラーと対物レンズ25を介して前眼部に投影され、その反射光が対物レンズ25とハーフミラーを介して前眼部観察光学系60に導かれるようになる。」

(引4イ)図2


第6 対比・判断

1 本願発明1について

(1)対比
本願発明1と引用発明とを対比する。


(ア)引用発明の「観察光源11を発した光束は、被検眼Eの瞳孔付近で一旦収束した後、拡散して被検眼眼底部を照明」する「眼底照明光学系10」は、本願発明1の「眼底に照明光を照射するための照射光学系」に相当する。
(イ)引用発明の「眼底からの反射光は、眼底と共役位置に配置されている撮像素子38に結像」させる「眼底撮影光学系30」は、本願発明1の「前記照明光による前記眼底からの光を受光素子に受光させる受光光学系」に相当する。
(ウ)引用発明の「眼底撮影光学系30は、被検眼の眼底画像を撮像」する「眼底カメラ光学系100」と、本願発明1の「前記受光素子からの受光信号に基づいて前記眼底の正面画像を取得するための走査型眼底撮影光学系」とは、「前記受光素子からの受光信号に基づいて前記眼底の正面画像を取得するための眼底撮影光学系」の点で共通する。
(エ)上記(ア)?(ウ)での対比を踏まえると、引用発明の「観察光源11を発した光束は、被検眼Eの瞳孔付近で一旦収束した後、拡散して被検眼眼底部を照明」する「眼底照明光学系10」、「眼底からの反射光は、眼底と共役位置に配置されている撮像素子38に結像」させる「眼底撮影光学系30」を備え、「眼底撮影光学系30は、被検眼の眼底画像を撮像」する「眼底カメラ光学系100」と、本願発明1の「眼底に照明光を照射するための照射光学系、前記照明光による前記眼底からの光を受光素子に受光させる受光光学系、および、前記照射光学系と前記受光光学系との共通光路上の前眼部共役位置に配置されており、前記照明光を被検眼の眼底上で走査するための光スキャナ、を備え、前記受光素子からの受光信号に基づいて前記眼底の正面画像を取得するための走査型眼底撮影光学系」とは、「眼底に照明光を照射するための照射光学系、前記照明光による前記眼底からの光を受光素子に受光させる受光光学系、を備え、前記受光素子からの受光信号に基づいて前記眼底の正面画像を取得するための眼底撮影光学系」の点で共通する。


(ア)引用発明では、「撮影絞り31は、孔あきミラー22の開口近傍に位置し、」「撮影絞り31は対物レンズ25に関して被検眼Eの瞳孔と略共役な位置に配置され」るから、「孔あきミラー22」も「被検眼Eの瞳孔と略共役な位置に配置され」るといえる。
すると、引用発明の「被検眼Eの瞳孔と略共役な位置に配置され」る「孔あきミラー22の穴周辺に」「配置され」、その「角膜反射光は、被検者眼Eと装置本体との作動距離が適切となったときに、撮像素子38の撮像面上に結像され」、「被検者眼の角膜上に光学アライメント指標を形成するための赤外光源55」は、「被検眼Eの瞳孔と略共役な位置に配置され」るといえることから、本願発明1の「被検眼が予め定められた適正作動距離に位置するときの前眼部共役位置に配置されるアライメント光源」に相当する。
(イ)引用発明の「照明光学系10」の「孔あきミラー22の穴周辺に」「配置され」た「赤外光源55」により「被検者眼の角膜上に光学アライメント指標を形成する」ことは、本願発明1の「前記アライメント光源からのアライメント光を前記照射光学系の光路を介して被検眼の角膜に向けて出射する」ことに相当する。
(ウ)引用発明の「赤外光源55による角膜反射光は」、「撮像面上に結像され」る「撮像素子38」は、本願発明1の「前記アライメント光源からのアライメント光による角膜反射像を撮像する撮像素子」に相当する。
(エ)引用発明の「眼底と共役位置に配置されている撮像素子38」と、本願発明1の「前記受光素子とは別体で且つ眼底共役位置に配置された撮像素子」とは、「眼底共役位置に配置された撮像素子」の点で共通する。
(オ)引用発明の「被検眼Eの瞳孔と略共役な位置に配置され」ている「赤外光源55による角膜反射光」を、「被検者眼Eと装置本体との作動距離が適切となったときに」、「眼底と共役位置に配置されている撮像素子38の撮像面上に結像さ」せるための光学系は、前記作動距離に応じた眼底共役面での結像状態で撮像させるものであるから、本願発明1の「前記アライメント光の角膜反射像を、作動距離方向のアライメント状態に応じた眼底共役面での結像状態で撮像するためのアライメント指標形成光学系」に相当する。
(カ)上記(ア)?(オ)での対比を踏まえると、引用発明の「被検眼Eの瞳孔と略共役な位置に配置され」る「孔あきミラー22の穴周辺に」「配置され」、その「角膜反射光は、被検者眼Eと装置本体との作動距離が適切となったときに、撮像素子38の撮像面上に結像され」、「被検者眼の角膜上に光学アライメント指標を形成するための赤外光源55」を備え、「照明光学系10」の「孔あきミラー22の穴周辺に」「配置され」た「赤外光源55」により「被検者眼の角膜上に光学アライメント指標を形成する」と共に、「赤外光源55による角膜反射光は」、「撮像面上に結像され」る「撮像素子38」であって「眼底と共役位置に配置されている撮像素子38」を更に備え、「被検眼Eの瞳孔と略共役な位置に配置され」ている「赤外光源55による角膜反射光」を、「被検者眼Eと装置本体との作動距離が適切となったときに」、「眼底と共役位置に配置されている撮像素子38の撮像面上に結像さ」せるための光学系と、本願発明1の「被検眼が予め定められた適正作動距離に位置するときの前眼部共役位置に配置されるアライメント光源を備え、前記アライメント光源からのアライメント光を前記照射光学系の光路を介して被検眼の角膜に向けて出射すると共に、前記アライメント光源からのアライメント光による角膜反射像を撮像する撮像素子であって前記受光素子とは別体で且つ眼底共役位置に配置された撮像素子を更に備え、前記アライメント光の角膜反射像を、作動距離方向のアライメント状態に応じた眼底共役面での結像状態で撮像するためのアライメント指標形成光学系」とは、「被検眼が予め定められた適正作動距離に位置するときの前眼部共役位置に配置されるアライメント光源を備え、前記アライメント光源からのアライメント光を前記照射光学系の光路を介して被検眼の角膜に向けて出射すると共に、前記アライメント光源からのアライメント光による角膜反射像を撮像する撮像素子であって眼底共役位置に配置された撮像素子を更に備え、前記アライメント光の角膜反射像を、作動距離方向のアライメント状態に応じた眼底共役面での結像状態で撮像するためのアライメント指標形成光学系」の点で共通する。

ウ 引用発明の「撮像素子38からの撮像信号に基づく眼底像をライブ画像として表示させ、撮像素子38からの撮像信号に基づく光学アライメント指標を眼底像上に表示させ」る「表示制御部」は、本願発明1の「前記撮像素子によって撮像された角膜反射像と前記受光素子からの受光信号に基づく前記眼底の正面画像のライブ画像とを、随時、モニタ上に同時に表示する表示制御部」に相当する。

してみると、本願発明1と引用発明とは、次の点で一致し、次の各点で相違する。

(一致点)
「 眼底に照明光を照射するための照射光学系、前記照明光による前記眼底からの光を受光素子に受光させる受光光学系、を備え、前記受光素子からの受光信号に基づいて前記眼底の正面画像を取得するための眼底撮影光学系と、
被検眼が予め定められた適正作動距離に位置するときの前眼部共役位置に配置されるアライメント光源を備え、前記アライメント光源からのアライメント光を前記照射光学系の光路を介して被検眼の角膜に向けて出射すると共に、前記アライメント光源からのアライメント光による角膜反射像を撮像する撮像素子であって眼底共役位置に配置された撮像素子を更に備え、前記アライメント光の角膜反射像を、作動距離方向のアライメント状態に応じた眼底共役面での結像状態で撮像するためのアライメント指標形成光学系と、
前記撮像素子によって撮像された角膜反射像と前記受光素子からの受光信号に基づく前記眼底の正面画像のライブ画像とを、随時、モニタ上に同時に表示する表示制御部と、
を備える眼底撮影装置。」

(相違点1)
眼底撮影光学系は、本願発明1では、「前記照射光学系と前記受光光学系との共通光路上の前眼部共役位置に配置されており、前記照明光を被検眼の眼底上で走査するための光スキャナ」を備える「走査型」眼底撮影光学系であるのに対し、引用発明では、「眼底カメラ光学系100」であって、「走査型」眼底撮影光学系ではない点。

(相違点2)
アライメント指標形成光学系で用いる眼底共役位置に配置された撮像素子は、本願発明1では、眼底からの光を受光させる受光光学系の「受光素子とは別体」で設けられたものであるのに対し、引用発明では、「眼底画像を撮像」する「撮像素子38」と兼用する点。

(相違点3)
本願発明1では、「前記照射光学系における前記光スキャナと被検眼との間の光路に配置され、前記アライメント光の投受光光路を結合するダイクロイックミラー」を備えているのに対し、引用発明では、このような構成を備えていない点。

(2)判断
事案に鑑み相違点2について検討する。

引用文献2(上記第5の2参照。)及び引用文献4(上記第5の4参照。)では、アライメント光源からのアライメント光による角膜反射像を撮像する撮像素子は、眼底からの光を受光させる受光素子とは別体で設けられたものであるが、前眼部像を撮像するための前眼部共役位置に配置されており眼底共役位置に配置されていない。そして、当該撮像素子は前眼部像を撮像するためのものであるから、当該撮像素子を前眼部共役位置から眼底共役位置に変更することには阻害要因があるといえる。
また、引用文献3(上記第5の3参照。)では、引用文献1と同様に、アライメント光源からのアライメント光による角膜反射像を撮像する撮像素子は、眼底像を撮像するため眼底共役位置に配置されているが、眼底からの光を受光させる受光光学系の受光素子とは別体でない。そして、当該受光素子とは別の撮像素子を新たに設けて別体とする動機は見当たらず、仮に当該受光素子とは別の撮像素子を新たに設けて別体とした場合、新たに設けた撮像素子は角膜反射像を撮像するためのものであるから角膜共役位置に配置することが自然であるといえる。
以上のことから、上記相違点2に係る本願発明1の構成、すなわち、アライメント指標形成光学系で用いる眼底共役位置に配置された撮像素子を、眼底からの光を受光させる受光光学系の「受光素子とは別体」で設けられたものにすることは、引用文献2?4に記載も示唆もなく、また当該構成が周知技術であるといえる証拠も見当たらない。
よって、上記相違点2に係る本願発明1の構成は、引用発明及び引用文献2?4に基づいて当業者が容易に想到し得ることではない。

(3)小括
したがって、その余の相違点について判断するまでもなく、本願発明1は、当業者であっても引用発明及び引用文献2?4に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。

2 本願発明2について
本願発明2は、本願発明1を引用する発明であり、本願発明1の上記相違点2に係る発明特定事項を備えるものであるから、本願発明1と同じ理由により、当業者であっても、引用発明及び引用文献2?4に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。

第7 原査定について
上記「第5」で検討したように、本願発明1及び2は、引用発明及び引用文献2?4に基づいて容易に発明できたものとはいえないから、拒絶査定において引用された引用文献1?3に基づいて当業者が容易に発明できたものとはいえない。
したがって、原査定を維持することはできない。

第8 むすび
以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。

 
審決日 2021-09-27 
出願番号 特願2016-11122(P2016-11122)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (A61B)
最終処分 成立  
前審関与審査官 佐藤 秀樹  
特許庁審判長 三崎 仁
特許庁審判官 伊藤 幸仙
▲高▼見 重雄
発明の名称 眼底撮影装置  

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