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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H01H
管理番号 1378460
審判番号 不服2021-348  
総通号数 263 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-11-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2021-01-08 
確定日 2021-10-19 
事件の表示 特願2017-535910「電子装置」拒絶査定不服審判事件〔平成28年7月14日国際公開、WO2016/110705、平成30年3月8日国内公表、特表2018-506819、請求項の数(13)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2016年(平成28年)1月7日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2015年1月7日 GB(英国))を国際出願日とする出願であって、令和2年2月18日付けで拒絶理由通知がされ、令和2年5月7日に意見書が提出されるとともに手続補正がされ、令和2年9月4日付けで拒絶査定(以下、「原査定」という。)がされ、これに対し、令和3年1月8日に拒絶査定不服審判の請求がされたものである。

第2 原査定の概要
原査定の概要は次のとおりである。

本願の請求項1?6に係る発明は、その出願前に日本国内において頒布された以下の引用文献1?3に記載された発明に基いて、請求項7?9に係る発明は、その出願前に日本国内において頒布された以下の引用文献1?5に記載された発明に基いて、請求項10?13に係る発明は、その出願前に日本国内において頒布された以下の引用文献1?6に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献等一覧
1.特開2004-31185号公報
2.実願平2-116806号(実開平4-72524号)のマイクロフィルム
3.特開平5-101743号公報
4.特開昭57-128421号公報
5.特開2014-199443号公報
6.特表2012-512682号公報

第3 本願発明
本願の請求項1?13に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」?「本願発明13」という。)は、令和2年5月7日にされた手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1?13に記載された事項により特定される以下のとおりの発明である。

「 【請求項1】
電子装置であって、
電気接点を有するプリント回路基板を収容する内部と外部とを画定するプラスチックケーシングであって、前記ケーシングの内部に撓ませることができる外部の一体的な可撓性部分を組み込んだケーシングと、
導電性経路と神経筋刺激用の一対の電極とを支持する電気絶縁性の可撓性基板と
を含み、
前記電極は、前記電極が前記ケーシングの外側にあるように、前記可撓性基板の前記ケーシングを越えて延びている部分に配置され、
前記可撓性基板の少なくとも一部分は、前記一体的な可撓性部分を前記ケーシングの内部に撓ませると、前記一体的な可撓性部分が前記可撓性基板の前記少なくとも一部分を前記プリント回路基板と接触させ、前記導電性経路が前記電気接点に接触して電気回路を完成するように、前記少なくとも一部分が前記プリント回路基板に隣接するが前記プリント回路基板から離間するように前記ケーシングによって保持され、
前記可撓性基板及び前記導電性経路は、前記電極を駆動するために前記ケーシングを越えて延びている装置。
【請求項2】
前記外部の一体的な可撓性部分は、前記一体的な可撓性部分に力を加えると前記可撓性部分が前記ケーシングの内部に撓み、力を加えないと前記可撓性部分がもはや撓まないように弾性を有する、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記外部の一体的な可撓性部分はドーム形状に形成されている、請求項1又は2に記載の装置。
【請求項4】
前記可撓性基板の前記少なくとも一部分は、張力により前記ケーシングによって保持されている、請求項1から3のいずれか一項に記載の装置。
【請求項5】
前記可撓性基板は、前記可撓性基板が前記ケーシングに保持されるように、前記ケーシング内に形成された蛇行経路内に配置されている、請求項1から4のいずれか一項に記載の装置。
【請求項6】
前記ケーシングは互いに固定された2つの部分から形成され、前記蛇行経路は前記2つの部分の間に形成されている、請求項5に記載の装置。
【請求項7】
前記可撓性基板は高分子基板である、請求項1から6のいずれか一項に記載の装置。
【請求項8】
前記可撓性基板は、二軸配向ポリエチレンテレフタレートフィルムである、請求項7に記載の装置。
【請求項9】
前記一体的な可撓性部分は、前記可撓性基板を前記プリント回路基板と接触させるのに役立つような大きさ及び形状にされた内方への突起を含む、請求項1から8のいずれか一項に記載の装置。
【請求項10】
前記ケーシングは電気セルを更に含む、請求項1から9のいずれか一項に記載の装置。
【請求項11】
複数の外部の一体的な可撓性部分と、前記プリント回路基板の上の対応する複数の電気接点とを含む、請求項1から10のいずれか一項に記載の装置。
【請求項12】
前記ケーシングは、水分の侵入に対して実質的に密封されている、請求項1から11のいずれか一項に記載の装置。
【請求項13】
前記ケーシングは射出成形されている、請求項1から12のいずれか一項に記載の装置。」

第4 引用文献、引用発明等
1.引用文献1について
原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献1には、次の事項が記載されている(下線は当審で付したものである。)。
「【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、電気機器をはじめとする様々なものの操作部分に使用される薄型スイッチに関する。」
「【0019】
図1において、引用符号1で示される本発明の薄型スイッチは、表面シート2と、弾性部材3と、スペーサ4と、可動側の接点5を有するドームシート6と、第二スペーサ7と、固定側の接点8を有する回路体9と、を外側から順に備えて構成されている。また、このような構成を有する本発明の薄型スイッチ1は、被取り付け部材としてのベースプレート10に貼り付け固定されるように形成されている。尚、引用符号11は上記各構成部材同士を固定するための既知の接着層を示している。以下、上記構成部材について詳細に説明する。
【0020】
上記表面シート2は、例えばポリエチレンテレフタレート(PET)又はポリエチレンナフタレート(PEN)からなる合成樹脂製の柔軟性を有する薄肉のシート部材であって、本形態においては、その表面全体がデザイン部としても機能するように形成されている。また、表面シート2の裏面の所定位置には、適宜固定手段(例えば接着剤)を用いて弾性部材3が固定されている。表面シート2における上記所定位置の周辺内は、スイッチ操作部分12であって下方(矢線方向)への撓みが可能となるように形成されている。」
「【0023】
上記ドームシート6は、例えばポリエチレンテレフタレート(PET)又はポリエチレンナフタレート(PEN)からなる合成樹脂製のシート部材であって、熱プレスを施すことにより形成された一又は複数のドーム部14を有している。そのドーム部14は、表面シート2の表面側に突出するとともに裏面側に反転可能なドーム形状に形成されている。ドーム部14の裏面には、上記可動側の接点5が設けられている(この位置に限定されないものとする)。その可動側の接点5は、カーボン等からなりドーム部14の裏面頂部に例えば印刷によって設けられている。尚、ドーム部14の表面頂部には、弾性部材3の下端が接触若しくは固定されるようになっている。」
「【0026】
上記回路体9は、本形態においてFPC(フレキシブル・プリント・サーキット)を用いて構成されている(既知のプリント基板(PCB)を用いてもよいものとする)。また、回路体9は、所望のパターンに配索された図示しないスイッチ回路を有する回路体本体16と、外部との電気的な接続に用いられる図示しない外部接続手段とを備えて構成されている。
【0027】
回路体本体16の表面、すなわち第二スペーサ7側には、上記可動側の接点5に対向し且つ接触する固定側の接点8が設けられている。また、回路体本体16の裏面には、接着層11が設けられている。その接着層11は、薄型スイッチ1をベースプレート10に固定するために設けられている。図示しない外部接続手段は、回路体本体16から引き出される結線回路部と、その結線回路部の先端部分に設けられる例えばエッジコネクタ端子やコネクタ等とを備えて構成されている。」
「【0030】
スイッチ操作前となるスイッチ操作部分12に荷重が掛かっていない状態では、表面シート2、弾性部材3、及びドーム部14自体の保形性によって、その形状が保持された状態にある。そして、スイッチ操作がなされ、表面シート2のスイッチ操作部分12がスイッチ操作をする者の指17により矢線方向に押圧されると(下方向に押圧荷重を掛ける押圧操作)、先ず、表面シート2が下方向に撓むとともに弾性部材3が圧縮方向に弾性変形する。次いで、表面シート2及び弾性部材3を介在させた状態でドーム部14が指17の押圧による荷重に抗しながら、ある荷重を境にして座屈し反転する(この時、クリック感が生じる)。
【0031】
ドーム部14が座屈、反転すると下方向の荷重が減少し、ドーム部14の押圧がスムーズに進行する。反転したドーム部14は更に押し込まれて第二スペーサ7の貫通孔15に挿通され、ドーム部14に設けられた可動側の接点5が貫通孔15を介して回路体9の固定側の接点8に接触する。
【0032】
これにより、回路体9の図示しないスイッチ回路が導通状態となり、薄型スイッチ1はONされる。一方、指17が離され下方向の荷重が解除されると、ドーム部14、弾性部材3、及び表面シート2はもとの状態に復帰する(ドーム部14の反発力は弾性部材3に吸収される)。そして、これに伴って導通状態が解除され、薄型スイッチ1はOFFされる。」
【図1】

したがって、上記引用文献1には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
[引用発明]
「薄型スイッチ1を備えた電気機器であって、
薄型スイッチ1は、撓みが可能となるようにスイッチ操作部12が形成されている表面シート2と、弾性部材3と、スペーサ4と可動側の接点5が設けられているドーム部14を有するドームシート6と、第二スペーサ7と、固定側の接点8を有する回路体9と、を外側から順に備えて構成されているものであり、
スイッチ操作部12が下方向の押圧加重により押圧されると、表面シート2が下方向に撓み、ドームシート6のドーム部14が反転し、可動側の接点5が回路体9の固定側の接点8に接触し回路体9のスイッチ回路を導通状態とし、下方向の押圧加重が解除されるとドーム部14及び表面シート2がもとの状態に復帰し導通状態が解除されるものである、
電気機器。」

2.引用文献2について
原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献2には、次の事項が記載されている。
「即ち、本実施例のキーボードは、オペレータがデータを入力する際押下点となるキートップ1と前記キートップ1の下部に位置し、上下に摺動可能なステム2と前記ステム2を摺動ガイドする複数の開口部を有する一体ハウジング3と前記ステム2と相対応する位置に接して下部に位置するラバーカップシート4と前記ラバーカップシート4の下部に位置し、接点機能を有するペットアッシー5と前記ラバーカップシート4とペットアッシー5を一体ハウジング3と挟み込んでネジ止めによって固定するフィックスプレート6とを含む薄型キーボード・・・以下略」(明細書第5ページ第8行?第19行)
第1図(A)?(C)


上記記載から、引用文献2には、「ラバーカップシート4とペットアッシー5を一体ハウジング3とフィックスプレート6によって挟み込まれた状態で固定するキーボード」が記載されているといえる。

3.引用文献3について
原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献3には、次の事項が記載されている。
「【0001】
【産業上の利用分野】この発明は、電子機器のパネル面などに配置され、押圧操作により動作する押圧スイッチ装置に関する。」
「【0011】メンブレンシート4はスイッチを形成したメンブレンシートスイッチ部4Aと、このメンブレンシートスイッチ部4Aの各スイッチから発信される接点信号を出力するための回路パターンを収納したメンブレンシートリード部4Bとによって構成される。図1の例ではメンブレンシート支持体3のシート支持面3Bに形成したメンブレンシートスイッチ部4Aを収納する凹部面6Aと、メンブレンシートリード部4Bを収納する凹溝6Bによって平面方向制止手段6を構成した場合を示す。凹部面6Aと凹溝6Bの深さはメンブレンシートスイッチ部4Aとメンブレンシートリード部4Bの厚みにほゞ等しいか、あるいはこれよりわずかに浅く形成する。」
【図1】

引用文献3の【図1】より、メンブレンシートリード部4Bは、メンブレンシート支持体3を越えて延びている点が看取できる。

上記記載及び看取事項から、引用文献3には、「メンブレンシートスイッチ部4Aとメンブレンシートリード部4Bとによって構成されるメンブレンシート4と、メンブレンシート支持体3とを含む押圧スイッチ装置であって、メンブレンシートリード部4Bは、メンブレンシート支持体3を越えて延びている、押圧スイッチ装置」が記載されているといえる。

4.引用文献4について
原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献4には、次の事項が記載されている。
「キーボード18は可撓的積層回路アセンブリを具備し、該可撓的積層回路アセンブリは、汎用の可撓的印刷配線板用絶縁性材料である可撓的誘電体製のフィルム又は基板シート62・・・略・・・とを有する。」(公報第6ページ左上欄第1行?第12行)

上記記載から、引用文献4には、「可撓的誘電体製のフィルム又は基板シート62を有するキーボード18」が記載されているといえる。

5.引用文献5について
原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献5には、次の事項が記載されている。
「【0012】
図2は、ドラム形状を有する多層電子写真画像化部材または感光体の例示的実施形態である。基材は、さらに、円筒形状であってもよい。分かるように、この例示的画像化部材は、剛性支持基材10、導電性接地面12、アンダーコート層14、電荷発生層18および電荷輸送層20を備える。必要に応じた、電荷輸送層上に配置されたオーバーコート層32もまた、備えられ得る。剛性基材は、金属、合金、アルミニウム、ジルコニウム、ニオブ、タンタル、バナジウム、ハフニウム、チタン、ニッケル、ステンレス鋼、クロミウム、タングステン、モリブデンおよびこれらの混合物からなる群より選択される材料から構成され得る。この基材はまた、金属、ポリマー、ガラス、セラミックおよび木材からなる群より選択される材料をも含み得る。」
「【0017】
(基材)
感光体支持基材10は、不透明であっても、または実質的に透明であってもよく、必須の機械的特性を有する任意の好適な有機材料もしくは無機材料を含み得る。基材全体は、導電性表面におけるものと同じ材料を含んでもよく、または導電性表面は、基材上のコーティングとなり得るにすぎない。任意の好適な導電性材料、例えば、金属もしくは合金などが、使用可能である。これは、単一の金属化合物であっても、または異なる金属および/もしくは酸化物の二重層であってもよい。
【0018】
基材10はまた、導電性材料で完全に配合されてもよく、または、導電性チタンもしくはチタン/ジルコニウムコーティングを含む接地面層12を有する無機ポリマー材料もしくは有機ポリマー材料を含む絶縁材料(例えば、DuPontから市販されている二軸配向ポリエチレンテレフタレートであるMYLAR、またはKALEDEX 2000として入手可能なポリエチレンナフタレート)であってもよく、そうでなければ例えばインジウムスズ酸化物、アルミニウム、チタンなどの半導体表面層を有する有機材料もしくは無機材料の層であってもよく、または例えばアルミニウム、クロム、ニッケル、真鍮、他の金属などの導電性材料のみで作製されていてもよい。」

上記記載から、引用文献5には、「有機ポリマー材料を含む感光体支持基材10」が記載されているといえる。

6.引用文献6について
原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献6には、次の事項が記載されている。
「【請求項1】
患者の対向する脚筋に分布する神経に電気的刺激を施して前記脚筋の等尺性収縮を生じさせるための正電極及び負電極と、前記正電極及び前記負電極に接続可能な電源と、前記正電極及び前記負電極を作動させるための制御手段と、前記正電極及び前記負電極と前記電源と前記制御手段とが取り付けられているフレキシブル基板とを備えたデバイス。」
「【0123】
本発明によるデバイスの好ましい実施形態が図14から図17に示されている。デバイス10は、フレキシブルで非伸縮性の熱可塑性エラストマーの基板12を備え、その基板12は、一端に細長のタン部14を含み、他端に成形凹部16を含む。
【0124】
タン部14上に正電極18及び負電極20が印刷されている。正電極は負電極よりも僅かに大きい。各電極は、その電極から、凹部16内に位置する各コンタクトポイント26、28へとつながる導電性トラック22、24を含む。
【0125】
図示されていないが、絶縁性ストリップが、正トラック22と負電極20との間に配置され、同様のストリップがタン部の縁に配置されて、望ましくない電流漏れを防止する。
【0126】
凹部16内に、電池(図示せず)と、電極を制御する適切な回路を含むPCB(図示せず)とが配置されている。導電性トラック22、24及びコンタクトポイント26、28と共に、PCBが完全な回路を形成する。プラスチックカバーが凹部16上に超音波溶接されて、部品を密封する。ゲル層がデバイス10全体の上に配置されて、使用者の肢との電気コンタクトを提供し、デバイスが使用者に接着していることを維持するのに役立つ。ゲルは、貼り直し可能なバッキング層によって、輸送中に保護可能である。
【0127】
凹部16の外面は、集積ダイヤフラムボタン30と、LEDを表示するための開口部32とを備えて形成される。ボタン30は、バッテリーハウジング又はPCB上の対応するボタン30と接触してデバイスを作動させるように配置される。開口部32は、デバイスが動作しているかどかを示すLEDを表示する。」
【図14】

【図15】

上記記載より、引用文献6には、「一端に細長のタン部14を含み、他端に電池を配置した成形凹部16を含む、フレキシブルで非伸縮性の熱可塑性エラストマーの基板12に、脚筋に分布する神経に電気的刺激を施す、導電性トラック22、24を含む正電極18及び負電極20を印刷したデバイス」が記載されている。

第5 対比・判断
1.本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明とを対比すると、次のことがいえる。
ア 引用発明の「薄型スイッチを備えた電気機器」は、本願発明1の「電子装置」乃至「装置」に相当する。
イ 引用発明の「固定側の接点8」及び「回路体9」は、本願発明1の「電気接点」及び「プリント回路基板」に相当するから、引用発明の「固定側の接点8を有する回路体9」は、本願発明1の「電気接点を有するプリント回路基板」に相当する。
ウ 引用発明の「撓みが可能となるようにスイッチ操作部12が形成されている表面シート2」は、「スイッチ操作部12が下方向の押圧加重により押圧されると、表面シート2が下方向に撓」むものであることから、表面シート2のうち、指で操作される側を外側、指が触れない側を内部ということができ(引用文献1の段落【0030】及び【図1】を参照。)、本願発明1の「内部に撓ませることができる外部の一体的な可撓性部分」に相当するといえる。
したがって、引用発明の「薄型スイッチ1は、撓みが可能となるようにスイッチ操作部12が形成されている表面シート2と」、「固定側の接点8を有する回路体9と、を外側から順に備えて構成されている」ことは、本願発明1の「電気接点を有するプリント回路基板を収容する内部と外部とを画定するプラスチックケーシングであって、前記ケーシングの内部に撓ませることができる外部の一体的な可撓性部分を組み込んだケーシングと」「を含」むこととの対比において、「電気接点を有するプリント回路基板と、内部に撓ませることができる外部の一体的な可撓性部分を組み込んだ部材と」「を含」むことの限度で共通する。
エ 引用発明の「可動側の接点5」は、本願発明1の「導電性経路」に相当するといえ、引用発明の「ドームシート6」は、ドーム部14で可動側の接点5を支持しているものであり、電気絶縁性であることは自明であるとともに、ドーム部14は反転するものであるから可撓性であるといえるので、本願発明1の「電気絶縁性の可撓性基板」に相当するといえる。
したがって、引用発明の「薄型スイッチ1は」、「可動側の接点5が設けられているドーム部14を有するドームシート6と」、を「備えて構成されている」ことは、本願発明1の「導電性経路と神経筋刺激用の一対の電極を支持する電気絶縁性の可撓性基板とを含」むこととの対比において、「導電性経路を支持する電気絶縁性の可撓性基板とを含」むことの限度で共通する。
オ 引用発明の「ドームシート6」は「ドーム部14を有する」ものであるから、引用発明の「ドーム部14」は、ドームシート6の少なくとも一部分であるといえ、本願発明1の「可撓性基板の少なくとも一部分」に相当する。
カ 引用発明の「スイッチ回路」は、本願発明1の「電気回路」に相当する。
引用発明の「ドームシート6のドーム部14が反転し、可動側の接点5が回路体9の固定側の接点8に接触し回路体9のスイッチ回路を導通状態と」することは、本願発明1の「前記一体的な可撓性部分が前記可撓性基板の前記少なくとも一部分を前記プリント回路基板と接触させ、前記導電性経路が前記電気接点に接触して電気回路を完成する」ことに相当する。
引用発明の「ドーム部14及び表面シート2がもとの状態に復帰し導通状態が解除」されることは、ドーム部14が「もとの状態」にあっては可動側の接点5が回路体9の固定側の接点8から離れていることと理解できる。
そして、引用発明において上述の「スイッチ回路を導通状態」とすることは、ドーム部14が「もとの状態」から反転して可動側の接点5を回路体9の固定側の接点8に接触させるものと理解できるので、「もとの状態」では、ドーム部14は回路体9から離間しているがすぐに接触できる位置に保持された状態といえる。
したがって、引用発明のドーム部14の「もとの状態」は、本願発明1の「前記少なくとも一部分が前記プリント回路基板に隣接するがプリント回路基板から離間するように」「保持され」ることに相当する。
キ 上記カを踏まえると、引用発明の「スイッチ操作部12が下方向の押圧加重により押圧されると、表面シート2が下方向に撓み、ドームシート6のドーム部14が反転し、可動側の接点5が回路体9の固定側の接点8に接触し回路体9のスイッチ回路を導通状態とし、下方向の押圧加重が解除されるとドーム部14及び表面シート2がもとの状態に復帰し導通状態が解除されるものである」ことは、本願発明1の「前記可撓性基板の少なくとも一部分は、前記一体的な可撓性部分を前記ケーシングの内部に撓ませると、前記一体的な可撓性部分が前記可撓性基板の前記少なくとも一部分を前記プリント回路基板と接触させ、前記導電性経路が前記電気接点に接触して電気回路を完成するように、前記少なくとも一部分が前記プリント回路基板に隣接するが前記プリント回路基板から離間するように前記ケーシングによって保持され」ていることとの対比において、「前記可撓性基板の少なくとも一部分は、前記一体的な可撓性部分を内部に撓ませると、前記一体的な可撓性部分が前記可撓性基板の前記少なくとも一部分を前記プリント回路基板と接触させ、前記導電性経路が前記電気接点に接触して電気回路を完成するように、前記少なくとも一部分が前記プリント回路基板に隣接するが前記プリント回路基板から離間するように保持され」ているとの限度で共通する。
ク したがって、本願発明1と引用発明との間には、次の一致点及び相違点があるといえる。
[一致点]
「電子装置であって、
電気接点を有するプリント回路基板と、内部に撓ませることができる外部の一体的な可撓性部分を組み込んだ部材と、
導電性経路を支持する電気絶縁性の可撓性基板と
を含み、
前記可撓性基板の少なくとも一部分は、前記一体的な可撓性部分を内部に撓ませると、前記一体的な可撓性部分が前記可撓性基板の前記少なくとも一部分を前記プリント回路基板と接触させ、前記導電性経路が前記電気接点に接触して電気回路を完成するように、前記少なくとも一部分が前記プリント回路基板に隣接するが前記プリント回路基板から離間するように保持されている装置。」
[相違点1]
本願発明1の「ケーシング」が「プリント回路基板を収容する内部と外部とを画定するプラスチックケーシングであって、前記ケーシングの内部に撓ませることができる外部の一体的な可撓性部分を組み込んだケーシング」とされているのに対し、引用発明の表面シート2と回路体9とを備えて構成されているものが、ケーシングであるとはされていないし、その材質もプラスチックであるとはされていない点。
[相違点2]
本願発明1は、「可撓性基板」が、「導電性経路と神経筋刺激用の一対の電極とを支持する」ものであり、「前記電極は、前記電極が前記ケーシングの外側にあるように、前記可撓性基板の前記ケーシングを越えて延びている部分に配置され」、「前記可撓性基板及び前記導電性経路は、前記電極を駆動するために前記ケーシングを越えて延びている」ものであるのに対し、引用発明は、「ドームシート6」が、「可動側の接点5が設けられているドーム部14を有する」とされるに留まり、本願発明1のケーシングに相当する部材を越えて延び、可動側の接点5もケーシングに相当する部材を越えて延びているとはされてないし、また、当該ケーシングに相当する部材を越えて延びている部分に、神経筋刺激用の一対の電極を配置支持するものでもない点。

(2)判断
事案に鑑み、相違点2について検討する。
ア 本願発明1の「可撓性基板」が、「導電性経路と神経筋刺激用の一対の電極とを支持する」ものであり、「前記電極は、前記電極が前記ケーシングの外側にあるように、前記可撓性基板の前記ケーシングを越えて延びている部分に配置され」、「前記可撓性基板及び前記導電性経路は、前記電極を駆動するために前記ケーシングを越えて延びている」構成は、引用文献2及び3には記載も示唆もされていない
このように、引用文献2及び3は相違点2に係る本願発明1の構成を示唆するものではないから、当業者といえども、引用発明及び引用文献2及び3に記載された技術的事項から、相違点2に係る本願発明1の構成を容易に想到することはできない。
なお、引用文献3?6にも、相違点2に係る本願発明1の構成については、記載も示唆もされていないし、当該構成が自明であるとの証拠もない(引用文献6の段落【0124】?【0127】及び【図14】?【図15】には、フレキシブルで非伸縮性の熱可塑性エラストマーの基板12に、導電性トラック22、24を含む正電極18及び負電極20が印刷されている構成が開示されているが、斯かる構成の基板12は、ケーシングを越えて延びているとの記載も示唆もない。)。
イ 引用発明の「ドームシート6」に設けられた「可動側の接点5」は、「固定側の接点8」と対向し、押圧操作により両接点同士が離接することによって薄型スイッチ1を構成し、スイッチ機能を発揮する構成(スイッチ機能を発揮させるためには必要十分な構成)であるから、引用発明において、ドームシート6をさらに延在させ、斯かる延在部分に可動側の接点5を設ける技術的必要性は無く、本願発明1の「前記可撓性基板及び前記導電性経路は、前記電極を駆動するために前記ケーシングを越えて延びている」に相当する構成を採用する動機付けは存在しない。
ウ したがって、相違点1について判断するまでもなく、本願発明1は、当業者であっても、引用発明及び引用文献2及び3に記載された技術的事項に基いて容易に発明をすることができたものとはいえない。

2.本願発明2?13について
本願発明2?6は、本願発明1の発明特定事項を全て含みさらに限定したものであるから、上記1.(2)と同様の理由により、当業者であっても、引用発明及び引用文献2及び3に記載された技術的事項に基いて容易に発明をすることができたものとはいえない。
本願発明7?9も、本願発明1の発明特定事項を全て含みさらに限定したものであるから、上記1.(2)と同様の理由により、当業者であっても、引用発明及び引用文献2?5に記載された技術的事項に基いて容易に発明をすることができたものとはいえない。
本願発明10?13も、本願発明1の発明特定事項を全て含みさらに限定したものであるから、上記1.(2)と同様の理由により、当業者であっても、引用発明及び引用文献2?6に記載された技術的事項に基いて容易に発明をすることができたものとはいえない。

第6 むすび
以上のとおり、本願発明1?6は、当業者が引用発明及び引用文献2及び3に記載された技術的事項に基いて容易に発明をすることができたものではない、また、本願発明7?9は、当業者が引用発明及び引用文献2?5に記載された技術的事項に基いて容易に発明をすることができたものではない。さらに、本願発明10?13は、当業者が引用発明及び引用文献2?6に記載された技術的事項に基いて容易に発明をすることができたものではない。
したがって、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2021-09-29 
出願番号 特願2017-535910(P2017-535910)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (H01H)
最終処分 成立  
前審関与審査官 片岡 弘之  
特許庁審判長 平田 信勝
特許庁審判官 内田 博之
尾崎 和寛
発明の名称 電子装置  
代理人 原 裕子  
代理人 大渕 一志  
代理人 伊藤 正和  
代理人 三好 秀和  

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