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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A61B
管理番号 1378690
審判番号 不服2020-9180  
総通号数 263 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-11-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-07-01 
確定日 2021-10-08 
事件の表示 特願2016- 3619「心拍再現装置」拒絶査定不服審判事件〔平成29年 7月20日出願公開、特開2017-123915〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成28年1月12日の出願であって、令和元年12月2日付けで拒絶理由が通知され、令和2年2月3日付けで意見書及び手続補正書が提出され、同年3月30日付けで拒絶査定されたところ、同年7月1日に拒絶査定不服審判の請求がなされ、同時に手続補正書が提出されたものである。その後、当審において令和3年5月10日付けで拒絶理由が通知され、同年7月12日付けで意見書及び手続補正書が提出されたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1及び2に係る発明は、令和2年7月1日付けの手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された事項により特定されるものであり、そのうち請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。

「 【請求項1】
第1人物の脈拍を特定する第1脈拍信号を生成する第1センサーと、
第1チャネル経由で前記第1脈拍信号を送信する送信回路と、
前記第1チャネルから相違する第2チャネルに基づき、前記第1脈拍信号の送信中であっても、前記第1センサーと対となる第2センサーで生成され第2人物の脈拍を特定する第2脈拍信号を受信する受信回路と、
前記第2脈拍信号で特定される脈拍に従って振動する振動源と、
を備えることを特徴とする心拍再現装置。」

第3 当審の拒絶の理由
令和3年5月10日付けで当審が通知した本願発明に対する拒絶理由の概要は、次のとおりのものである。

本願発明は、本願の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった以下の引用文献1に記載された発明及び引用文献3及び4に記載された周知技術に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献1:特開2009-239773号公報
引用文献3:特開平2-17736号公報(周知技術を示す文献)
引用文献4:特開2016-5115号公報(周知技術を示す文献)

第4 引用文献の記載及び引用発明
1 引用文献1について
(1)引用文献1に記載された事項
引用文献1には以下の事項が記載されている。(なお、下線は、当審にて付した。以下同様である。)

(引1a)「【0032】
[携帯電話端末1、2の構成例について]
次に、この発明による通信機器の一実施の形態が適用された、この第1の実施の形態の携帯電話端末1、2の構成例について説明する。図2は、この第1の実施の形態の携帯電話端末1、2の構成例を説明するためのブロック図である。すなわち、この第1の実施の形態の通信システムにおいては、送り手側の携帯電話端末1と受け手側の携帯電話端末2とは同じ構成を有するものである。しかし、以下においては、説明を簡単にするため、主に携帯電話端末1の構成として説明することとする。
【0033】
図2に示すように、この第1の実施の形態の携帯電話端末1は、送受信アンテナ101、アンテナ共用器102、受信部103、ベースバンド処理部104、コーデック105、受話器(スピーカ)106、送話器(マイクロホン)107、送信部108、局発部109、制御部120、キーインターフェース(以下、キーI/Fと略称する。)131、キー操作部132、LCD(Liquid Crystal Display)141、リンガ142、バイブレータ143、脈拍センサ151を備えたものである。」

(引1b)「【0059】
[通信システムの動作について]
次に、この第1の実施の形態の通信システムの動作について説明する。図3?図5は、この第1の実施の形態の通信システムの動作の概要を説明するためのシーケンス図である。上述もしたように、送り手側の携帯電話端末1が発信元であり、受け手側の携帯電話端末2が着信元である。
【0060】
そして、図3に示すように、送り手側の携帯電話端末1の使用者が電話をかけるために、携帯電話端末1を手に取り、脈拍センサ151に指などを接触させると、携帯電話端末1の脈拍センサ151は、使用者の脈拍を計測する処理を開始する(ステップS1)。そして、携帯電話端末1の制御部120は、キー操作部132を通じて使用者からのダイヤル入力や電話帳データからの相手先の選択入力などを受け付けて、目的とする通信の相手先(この例においては携帯電話端末2)に対する着信要求を形成し、ベースバンド処理部104、送信部108、アンテナ共用器102、送受信アンテナ101を通じて携帯電話端末2に対して送信する(ステップS2)。
【0061】
受け手側の携帯電話端末2の制御部120は、送受信アンテナ101、アンテナ共用器102、受信部103、ベースバンド処理部104を通じて携帯電話端末1からの着信要求を受信すると、自機のリンガ142やバイブレータ143を駆動して、着信音や振動により着信があることを携帯電話端末2の使用者に通知する。そして、携帯電話端末2の制御部120は、着信に応答するためのオフフック操作を受け付けると、着信応答を形成し、これを発信元の携帯電話端末1に対して送信する(ステップS3)。
【0062】
これにより、携帯電話端末1と携帯電話端末2との間に通信回線が接続され、通話ができるようにされる(ステップS4)。すなわち、上述もしたように、双方の携帯電話端末の送受信アンテナ101、アンテナ共用器102、受信部103、ベースバンド処理部104、コーデック105、受話器106、送話器107、送信部108を通じて、携帯電話端末1と携帯電話端末2との間において、通話を行うことができるようにされる。
【0063】
このようにして、通話を行うことができるようにされた後に、送り手側の携帯電話端末1の制御部120においては、使用者の脈拍を正確に測定することができたか否かを判断する(ステップS5)。具体的には、使用者の脈拍を正確に計測可能な所定時間の間、脈拍の計測を行うようにしたか否かが判断される。
【0064】
そして、使用者の脈拍を正確に計測することができるまで、ステップS5の判断処理が繰り返し行われる。ステップS5の判断処理において、使用者の脈拍を正確に計測することができたと判断したときには、携帯電話端末1の制御部120は、測定した脈拍データを取得する(ステップS6)。制御部120は、ステップS6において取得した脈拍データから送信用の脈拍データを形成し、これをベースバンド処理部104、送信部105、アンテナ共用器102、送受信アンテナ101を通じて、携帯電話端末2に送信する(ステップS7)。
【0065】
携帯電話端末2の制御部120は、携帯電話端末1からの脈拍データを受信すると、当該脈拍データに基づいて、単位時間当たりの振動数が、脈拍データによって示される回数と同じになるように、バイブレータ143を制御して駆動させる(ステップS8)。そして、図4に示す処理に進み、携帯電話端末2は、携帯電話端末1からの脈拍データを受信して利用したことを示す脈拍データ受信応答を形成して、これを携帯電話端末1に送信する(ステップS9)。」

(引1c)「【0075】
図5は、脈拍データ受信応答を返信するのに代えて、受け手側の携帯電話端末2の使用者の脈拍を計測し、これを送り手側の携帯電話端末1に対して送信するようにした場合のこの実施の形態の通信システムの動作を説明するためのシーケンス図である。
【0076】
この場合にも、図3に示したステップS1?ステップS8までの処理は、そのまま上述した通りに行われる。そして、この例の場合には、ステップS8の処理の後、図5に示す処理に進み、携帯電話端末2の脈拍センサ151は、携帯電話端末2の使用者の脈拍を計測する処理を開始する(ステップS12)。
【0077】
この後、携帯電話端末2の制御部120は、携帯電話端末2の使用者の脈拍を正確に計測することができたか否かを判断する(ステップS13)。このステップS13の処理は、図3に示したステップS5の処理と同様に、携帯電話端末2の使用者の脈拍を正確に計測可能な所定時間の間、脈拍の計測を行うようにしたか否かを判断する処理である。
【0078】
そして、使用者の脈拍を正確に計測することができるまで、ステップS13の判断処理が繰り返し行われる。ステップS13の判断処理において、携帯電話端末2の使用者の脈拍を正確に測定することができたと判断したときには、携帯電話端末2の制御部120は、測定した脈拍データを取得する(ステップS14)。制御部120は、ステップS14において取得した脈拍データから送信用の脈拍データを形成し、これをベースバンド処理部104、送信部105、アンテナ共用器102、送受信アンテナ101を通じて、携帯電話端末1に送信する(ステップS15)。
【0079】
携帯電話端末1の制御部120は、携帯電話端末2からの脈拍データを受信すると、当該脈拍データに基づいて、単位時間当たりの振動数が、脈拍データによって示される回数と同じになるように、バイブレータ143を制御して駆動させる(ステップS16)。この後、携帯電話端末1または携帯電話端末2のいずれかが、回線切断操作(オンフック操作)を行った場合に、図3に示したステップS4において接続するようにした通信回線を切断(通信回線を解放)し、一連の処理を終了させる(ステップS17)。
【0080】
このように、受け手側の携帯電話端末2からも、携帯電話端末2の使用者の脈拍データを携帯電話端末1に送信することによって、携帯電話端末1の使用者が、携帯電話端末2の使用者の状態を知ることができるようにすることも可能である。
【0081】
また、この図5に示した例の場合にも、図3、図5を用いて説明した通信システムの動作において、ステップS17の通信回線が切断されるまでの間において、所定のタイミング毎に、ステップS5?ステップS8までの処理及びステップS12?ステップS16までの処理を繰り返し行うようにすることもできる。このようにした場合には、通話中において変化した携帯電話端末1、携帯電話端末2のそれぞれの使用者の脈拍の変化の状態を、通信の相手先に通知することができる。」

(引1d)「【0095】
なお、ステップS115の判断処理において、通信回線が切断されていないと判断したときに、図6に示したステップS109からの処理を行うようにすることによって、通信回線の接続中において、携帯電話端末1、携帯電話端末2のそれぞれの使用者の脈拍を継続して計測し、脈拍データの交換を行うようにすることができる。このようにした場合には、通話中に脈拍が変化した場合であっても、これをリアルタイムに通知することができる。」

(引1e)「【0106】
なお、図9に示したステップS115の判断処理において、通信回線が切断されていないと判断したときに、図8に示したステップS208からの処理を行うようにすることによって、通信回線の接続中において、携帯電話端末1、携帯電話端末2のそれぞれの使用者の脈拍を継続して計測し、脈拍データの交換を行うようにすることができる。このようにした場合には、通話中に脈拍が変化した場合であっても、これをリアルタイムに通知することができる。」

(引1f)「【0111】
なお、ここでは、通信の相手先の携帯電話端末の使用者の脈拍データに基づいて、バイブレータの振動を制御させる場合について説明したが、これに限るものではない。例えば、携帯電話端末が、LEDを備えるものであれば、送信されてくる脈拍データに応じて、当該LEDの点灯、消灯の周期を制御するようにしたり、あるいは、LCD141への画像の表示、非表示の周期を制御したりすることもできる。また、リンガ142を制御して、放音するリンガ音を、受信した脈拍データに応じて周期的なものしたりすることも可能である。」

(引1g)「【図6】



(引1h)「【図8】



(2)引用文献1に記載された発明
ア 上記(引1a)より、引用文献1には、
「送り手側の携帯電話端末1と受け手側の携帯電話端末2とは同じ構成を有するものであって、
携帯電話端末1は、送受信アンテナ101、アンテナ共用器102、受信部103、ベースバンド処理部104、コーデック105、受話器(スピーカ)106、送話器(マイクロホン)107、送信部108、局発部109、制御部120、キーインターフェース(以下、キーI/Fと略称する。)131、キー操作部132、LCD(Liquid Crystal Display)141、リンガ142、バイブレータ143、脈拍センサ151を備え」たものである旨記載されている。

イ 上記(引1b)には、「送り手側の携帯電話端末1と受け手側の携帯電話端末2と」が使用する「通信システムの動作について」以下の構成が記載されている。

「携帯電話端末1の脈拍センサ151は、携帯電話端末1の使用者の脈拍を計測する処理を開始するステップS1と、

携帯電話端末1の制御部120は、
携帯電話端末2に対する着信要求を形成し、
ベースバンド処理部104、送信部108、アンテナ共用器102、送受信アンテナ101を通じて携帯電話端末2に対して送信するステップS2と、

携帯電話端末2の制御部120は、
送受信アンテナ101、アンテナ共用器102、受信部103、ベースバンド処理部104を通じて携帯電話端末1からの着信要求を受信し、
自機のリンガ142やバイブレータ143を駆動して、着信音や振動により着信があることを携帯電話端末2の使用者に通知し、
着信に応答するためのオフフック操作を受け付けると、着信応答を形成し、これを発信元の携帯電話端末1に対して送信するステップS3と、

これにより、双方の携帯電話端末の送受信アンテナ101、アンテナ共用器102、受信部103、ベースバンド処理部104、コーデック105、受話器106、送話器107、送信部108を通じて、携帯電話端末1と携帯電話端末2との間において、通話ができるようにされるステップS4と、

携帯電話端末1の制御部120は、
携帯電話端末1の使用者の脈拍を正確に測定することができたか否かを判断するステップS5と、

携帯電話端末1の使用者の脈拍を正確に計測することができたと判断したときには、携帯電話端末1の制御部120は、測定した脈拍データを取得するステップS6と、

脈拍データから送信用の脈拍データを形成し、これをベースバンド処理部104、送信部105、アンテナ共用器102、送受信アンテナ101を通じて、携帯電話端末2に送信するステップS7と、

携帯電話端末2の制御部120は、携帯電話端末1からの脈拍データを受信すると、当該脈拍データに基づいて、単位時間当たりの振動数が、脈拍データによって示される回数と同じになるように、バイブレータ143を制御して駆動させるステップS8と
を有する通信システム。」

ウ 上記(引1b)の「使用者」は、「携帯電話端末1の脈拍センサ151」が「脈拍を計測する」使用者であって、「携帯電話端末1」の「使用者」であるから、(引1c)の「携帯電話端末2の使用者」と区別するために、「携帯電話端末1の使用者」として整理した。

エ 上記ウを踏まえると、上記(引1c)より、引用文献1には、「脈拍データ受信応答を返信するのに代えて、受け手側の携帯電話端末2の使用者の脈拍を計測し、これを送り手側の携帯電話端末1に対して送信するようにした場合のこの実施の形態の通信システムの動作」として、以下の構成が記載されている。

「ステップS1?ステップS8までの処理は、そのまま上述した通りに行われ、ステップS8の処理の後、

携帯電話端末2の脈拍センサ151は、携帯電話端末2の使用者の脈拍を計測する処理を開始するステップS12と、

携帯電話端末2の制御部120は、
携帯電話端末2の使用者の脈拍を正確に計測することができたか否かを判断するステップS13と、

携帯電話端末2の使用者の脈拍を正確に測定することができたと判断したときには、測定した脈拍データを取得するステップS14と、

脈拍データから送信用の脈拍データを形成し、これをベースバンド処理部104、送信部105、アンテナ共用器102、送受信アンテナ101を通じて、携帯電話端末1に送信するステップS15と、

携帯電話端末1の制御部120は、携帯電話端末2からの脈拍データを受信すると、当該脈拍データに基づいて、単位時間当たりの振動数が、脈拍データによって示される回数と同じになるように、バイブレータ143を制御して駆動させるステップS16と、

携帯電話端末1または携帯電話端末2のいずれかが、回線切断操作(オンフック操作)を行った場合に、ステップS4において接続するようにした通信回線を切断(通信回線を解放)し、一連の処理を終了させるステップS17と、
を有し、

ステップS17の通信回線が切断されるまでの間において、所定のタイミング毎に、ステップS5?ステップS8までの処理及びステップS12?ステップS16までの処理を繰り返し行うようにする通信システム。」

オ 上記イの「ステップS7」の「送信部105」及び上記エの「送信部105」は、その機能から見て、上記アの「送信部108」、上記イの「ステップS2」及び「ステップS3」の「送信部108」と、同じ送信部を示しているものであることは明らかであるから、「送信部108」とした。

カ そうすると、上記ア?オより、引用文献1には、「脈拍データ受信応答を返信するのに代えて、受け手側の携帯電話端末2の使用者の脈拍を計測し、これを送り手側の携帯電話端末1に対して送信するようにした場合のこの実施の形態」として、以下の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。

「送り手側の携帯電話端末1と受け手側の携帯電話端末2とは同じ構成を有するものであって、
携帯電話端末1は、送受信アンテナ101、アンテナ共用器102、受信部103、ベースバンド処理部104、コーデック105、受話器(スピーカ)106、送話器(マイクロホン)107、送信部108、局発部109、制御部120、キーインターフェース(以下、キーI/Fと略称する。)131、キー操作部132、LCD(Liquid Crystal Display)141、リンガ142、バイブレータ143、脈拍センサ151を備え、

携帯電話端末1の脈拍センサ151は、携帯電話端末1の使用者の脈拍を計測する処理を開始するステップS1と、

携帯電話端末1の制御部120は、
携帯電話端末2に対する着信要求を形成し、
ベースバンド処理部104、送信部108、アンテナ共用器102、送受信アンテナ101を通じて携帯電話端末2に対して送信するステップS2と、

携帯電話端末2の制御部120は、
送受信アンテナ101、アンテナ共用器102、受信部103、ベースバンド処理部104を通じて携帯電話端末1からの着信要求を受信し、
自機のリンガ142やバイブレータ143を駆動して、着信音や振動により着信があることを携帯電話端末2の使用者に通知し、
着信に応答するためのオフフック操作を受け付けると、着信応答を形成し、これを発信元の携帯電話端末1に対して送信するステップS3と、

これにより、双方の携帯電話端末の送受信アンテナ101、アンテナ共用器102、受信部103、ベースバンド処理部104、コーデック105、受話器106、送話器107、送信部108を通じて、携帯電話端末1と携帯電話端末2との間において、通話ができるようにされるステップS4と、

携帯電話端末1の制御部120は、
携帯電話端末1の使用者の脈拍を正確に測定することができたか否かを判断するステップS5と、

携帯電話端末1の使用者の脈拍を正確に計測することができたと判断したときには、携帯電話端末1の制御部120は、測定した脈拍データを取得するステップS6と、

脈拍データから送信用の脈拍データを形成し、これをベースバンド処理部104、送信部108、アンテナ共用器102、送受信アンテナ101を通じて、携帯電話端末2に送信するステップS7と、

携帯電話端末2の制御部120は、携帯電話端末1からの脈拍データを受信すると、当該脈拍データに基づいて、単位時間当たりの振動数が、脈拍データによって示される回数と同じになるように、バイブレータ143を制御して駆動させるステップS8と、

ステップS8の処理の後、
携帯電話端末2の脈拍センサ151は、携帯電話端末2の使用者の脈拍を計測する処理を開始するステップS12と、

携帯電話端末2の制御部120は、
携帯電話端末2の使用者の脈拍を正確に計測することができたか否かを判断するステップS13と、

携帯電話端末2の使用者の脈拍を正確に測定することができたと判断したときには、測定した脈拍データを取得するステップS14と、

脈拍データから送信用の脈拍データを形成し、これをベースバンド処理部104、送信部108、アンテナ共用器102、送受信アンテナ101を通じて、携帯電話端末1に送信するステップS15と、

携帯電話端末1の制御部120は、携帯電話端末2からの脈拍データを受信すると、当該脈拍データに基づいて、単位時間当たりの振動数が、脈拍データによって示される回数と同じになるように、バイブレータ143を制御して駆動させるステップS16と、

携帯電話端末1または携帯電話端末2のいずれかが、回線切断操作(オンフック操作)を行った場合に、ステップS4において接続するようにした通信回線を切断(通信回線を解放)し、一連の処理を終了させるステップS17と、
を有し、

ステップS17の通信回線が切断されるまでの間において、所定のタイミング毎に、ステップS5?ステップS8までの処理及びステップS12?ステップS16までの処理を繰り返し行うようにする
携帯電話端末1及び携帯電話端末2。」

2 引用文献3及び4について
(1)引用文献3に記載された事項
引用文献3には、以下の事項が記載されている。

(引3a)「従来から、シリアルデータを通信するに当たって、全2重方式と半2重方式との2つの方式が一般的に用いられる。全2重方式においては、2本の信号線を使用し、1本の信号線は一方方向のシリアルデータの転送に用いられ、もう1本の信号線は他方方向のシリアルデータの伝送に用いられる。このような全2重方式はたとえば音響信号をリアルタイムで通信する場合などに用いられる。」(1頁右下欄下から4行-2頁左上欄4行)

(2)引用文献4に記載された事項
引用文献4には、以下の事項が記載されている。

(引4a)「【0009】
全二重方式は、リアルタイム同時通信を実行可能な通信方式である。全二重方式には、複数チャンネルを利用して高速双方向通信を行う方法や、低速コマンド通信用の専用信号線を設ける方法などがある。後述する半二重方式と全二重方式を比較すると、全二重方式は、伝送路を構成するケーブル数(信号線数)が多くなるので、コスト高になる。」

(3)周知技術について
上記(引3a)より、引用文献3には、「音響信号をリアルタイムで通信する場合」に、「2本の信号線を使用し、1本の信号線は一方方向のシリアルデータの転送に用い」、「もう1本の信号線は他方方向のシリアルデータの伝送に用い」る「全2重方式」が「用いられる」技術事項が記載されている。
また、上記(引4a)より、引用文献4には、「複数チャンネルを利用して高速双方向通信を行う方法」である「全二重方式は、リアルタイム同時通信を実行可能な通信方式である」ことが記載されていることから、引用文献4には、「リアルタイム同時通信を」行う場合には、「複数チャンネルを利用して高速双方向通信を行う方法」である「全二重方式」が用いられる技術事項が記載されているといえる。
上記引用文献3の「1本の信号線」は引用文献4の「チャンネル」に相当し、引用文献3の「2本の信号線を使用し、1本の信号線は一方方向のシリアルデータの転送に用い」、「もう1本の信号線は他方方向のシリアルデータの伝送に用い」る方法は、引用文献4の「複数チャンネルを利用して高速双方向通信を行う方法」に相当する。また、引用文献3に記載の「音響信号」のリアルタイム」での「通信」は、一般に、「1本の信号線」での「一方方向のシリアルデータの転送」中であっても、「もう1本の信号線」での、「他方方向のシリアルデータの伝送」を行う「リアルタイム同時通信」である。
そうすると、引用文献3及び4には、何れにも「リアルタイム同時通信を行う場合には、複数チャンネルを利用して高速双方向通信を行う方法である全二重方式が用いられる技術事項」が記載されているといえるから、該技術事項は、周知技術であるといえる。

第5 対比
本願発明と引用発明とを対比する。

1 引用発明の「携帯電話端末1の使用者」及び「携帯電話端末2の使用者」は、それぞれ、本願発明の「第1人物」及び「第2人物」に相当する。

2 引用発明の「ステップS16」では、「携帯電話端末1の制御部120は、携帯電話端末2からの脈拍データを受信すると、当該脈拍データに基づいて、単位時間当たりの振動数が、脈拍データによって示される回数と同じになるように、バイブレータ143を制御して駆動させる」から、引用発明の「携帯電話端末1の制御部120」が、「携帯電話端末2からの脈拍データを受信すると、当該脈拍データに基づいて、単位時間当たりの振動数が、脈拍データによって示される回数と同じになるように、バイブレータ143を制御して駆動させる」「携帯電話端末1」は、本願発明の「心拍再現装置」に相当する。

3 引用発明は、「ステップS6」で、「携帯電話端末1の使用者の脈拍を正確に計測することができたと判断したときには、携帯電話端末1の制御部120は、測定した脈拍データを取得し」、「ステップS7」で「、脈拍データから送信用の脈拍データを形成」しており、「ステップS6」の「測定した脈拍データ」は、「携帯電話端末1の脈拍センサ151」により「計測」された「携帯電話端末1の使用者の脈拍」のデータであるから、引用発明の「携帯電話端末1の脈拍センサ151」により「計測」された「携帯電話端末1の使用者の」「脈拍データから」形成された「送信用の脈拍データ」は、本願発明の「第1人物の脈拍を特定する第1脈拍信号」に相当する。
また、引用発明の「ステップS6」で取得された「携帯電話端末1の使用者の」「脈拍データ」から形成された「ステップS7」の「送信用の脈拍データ」は、「携帯電話端末1の脈拍センサ151」により「計測」された「携帯電話端末1の使用者の」「脈拍データから」「携帯電話端末1の制御部120」により形成されたものであるから、引用発明の「携帯電話端末1の脈拍センサ151」及び「携帯電話端末1の制御部120」は、「送信用の脈拍データ」を生成しているといえる。
そうすると、引用発明の「携帯電話端末1の使用者の」「脈拍データから」形成された「送信用の脈拍データ」を生成する「携帯電話端末1の脈拍センサ151」及び「携帯電話端末1の制御部120」は、本願発明の「第1人物の脈拍を特定する第1脈拍信号を生成する第1センサー」に相当する。

4 引用発明の「ステップS7」では、「携帯電話端末1の制御部120」は、「送信用の脈拍データ」を、「ベースバンド処理部104、送信部105、アンテナ共用器102、送受信アンテナ101を通じて、携帯電話端末2に送信し」ているから、該「送信用の脈拍データ」を「送信」する「ベースバンド処理部104、送信部105、アンテナ共用器102、送受信アンテナ101」は、本願発明の「前記第1脈拍信号を送信する送信回路」に相当する。

5 引用発明の「ステップS13」において、「携帯電話端末2の制御部120は、携帯電話端末2の使用者の脈拍を正確に計測することができたか否かを判断」し、「ステップS14」において、「携帯電話端末2の使用者の脈拍を正確に測定することができたと判断したときには、測定した脈拍データを取得」し、「ステップS15」において、「脈拍データから送信用の脈拍データを形成し」、ここで「測定した脈拍データ」は、「携帯電話端末2の脈拍センサ151」により「計測」された「携帯電話端末2の使用者の脈拍」のデータであるから、引用発明の「携帯電話端末2の脈拍センサ151」により「計測」された「携帯電話端末2の使用者の」「脈拍データから」形成された「送信用の脈拍データ」は、本願発明の「第2人物の脈拍を特定する第2脈拍信号」に相当する。
また、引用発明の「ステップS14」で取得した「携帯電話端末2の使用者の」「脈拍データ」から形成された「ステップS15」の「送信用の脈拍データ」は、「携帯電話端末2の脈拍センサ151」により「計測」された「携帯電話端末2の使用者の」「脈拍データから」「携帯電話端末2の制御部120」により形成されたものであるから、引用発明の「携帯電話端末2の使用者の」「脈拍データから」形成された「送信用の脈拍データ」は、携帯電話端末2の脈拍センサ151」及び「携帯電話端末2の制御部120」により生成されているといえる。
そして、引用発明の「送り手側の携帯電話端末1と受け手側の携帯電話端末2とは同じ構成を有するもの」であることから、引用発明の引用発明の「携帯電話端末2の脈拍センサ151」及び「携帯電話端末2の制御部120」は、引用発明の「携帯電話端末1の脈拍センサ151」及び「携帯電話端末1の制御部120」と対となっているといえる。
そうすると、引用発明の「携帯電話端末1の脈拍センサ151」及び「携帯電話端末1の制御部120」と対となる「携帯電話端末2の脈拍センサ151」及び「携帯電話端末2の制御部120」は、本願発明1の「前記第1センサーと対となる第2センサー」に相当し、引用発明の「携帯電話端末1の脈拍センサ151」及び「携帯電話端末1の制御部120」と対となる「携帯電話端末2の脈拍センサ151」及び「携帯電話端末2の制御部120」で生成された「携帯電話端末2の使用者の」「脈拍データから」形成された「送信用の脈拍データ」は、本願発明の「前記第1センサーと対となる第2センサーで生成され第2人物の脈拍を特定する第2脈拍信号」に相当する。

6 引用発明の「ステップS16」では、「携帯電話端末1の制御部120は、携帯電話端末2からの脈拍データを受信すると、当該脈拍データに基づいて、単位時間当たりの振動数が、脈拍データによって示される回数と同じになるように、バイブレータ143を制御して駆動させ」る。
そして、「ステップS3」において「携帯電話端末2の制御部120は、送受信アンテナ101、アンテナ共用器102、受信部103、ベースバンド処理部104を通じて携帯電話端末1からの着信要求を受信し」ている。
また、「送り手側の携帯電話端末1と受け手側の携帯電話端末2とは同じ構成を有するものであって」、「双方の携帯電話端末の送受信アンテナ101、アンテナ共用器102、受信部103、ベースバンド処理部104、コーデック105、受話器106、送話器107、送信部108を通じて、携帯電話端末1と携帯電話端末2との間において、通話を行う」ものである。
そうすると、引用発明の「携帯電話端末1の制御部120は、携帯電話端末2からの脈拍データ」の「受信」を、「送受信アンテナ101、アンテナ共用器102、受信部103、ベースバンド処理部104を通じて受信」しているといえ、引用発明の「携帯電話端末2からの脈拍データ」は、「携帯電話端末1の脈拍センサ151」及び「携帯電話端末1の制御部120」と対となる「携帯電話端末2の脈拍センサ151」及び「携帯電話端末2の制御部120」で生成された「携帯電話端末2の使用者の」「脈拍データから」形成された「送信用の脈拍データ」であるから、引用発明の「携帯電話端末1の脈拍センサ151」及び「携帯電話端末1の制御部120」と対となる「携帯電話端末2の脈拍センサ151」及び「携帯電話端末2の制御部120」で生成された「携帯電話端末2の使用者の」「脈拍データから」形成された「送信用の脈拍データ」を「受信」する「送受信アンテナ101、アンテナ共用器102、受信部103、ベースバンド処理部104」は、本願発明の「前記第1センサーと対となる第2センサーで生成され第2人物の脈拍を特定する第2脈拍信号を受信する受信回路」に相当する。
そして、引用発明の「当該脈拍データに基づいて、単位時間当たりの振動数が、脈拍データによって示される回数と同じになるよう」に、「制御して駆動させ」る「バイブレータ143」は、本願発明の「前記第2脈拍信号で特定される脈拍に従って振動する振動源」に相当する。

7 以上1?6より、本願発明と引用発明との間には、以下の一致点及び相違点がある。

(一致点)「第1人物の脈拍を特定する第1脈拍信号を生成する第1センサーと、
前記第1脈拍信号を送信する送信回路と、
前記第1センサーと対となる第2センサーで生成され第2人物の脈拍を特定する
第2脈拍信号を受信する受信回路と、
前記第2脈拍信号で特定される脈拍に従って振動する振動源と、
を備える心拍再現装置。」

(相違点)送信回路における送信及び受信回路における受信が、本願発明は、送信回路における送信が、「第1チャネル経由で」「送信」するものであって、受信回路における受信が、「前記第1チャネルから相違する第2チャネルに基づき、前記第1脈拍信号の送信中であっても」「受信」するものであるのに対し、引用発明は、「携帯電話端末1と携帯電話端末2との間」の通信のチャンネルについての特定はなく、「携帯電話端末2の使用者の」「送信用の脈拍データを」「携帯電話端末1に送信するステップS15」は、「ステップS8の処理の後」であることから、「携帯電話端末1の使用者の」「送信用の脈拍データを」「携帯電話端末2に送信するステップS7」の後に行うものであって、その後、「ステップS17の通信回線が切断されるまでの間において、所定のタイミング毎に、ステップS5?ステップS8までの処理及びステップS12?ステップS16までの処理を繰り返し行う」ものであるが、どのようなタイミングで行うのか特定されていないことから、「携帯電話端末1の使用者の」「送信用の脈拍データ」を「送受信アンテナ101を通じて、携帯電話端末2に送信するステップS7」の処理中であっても、「ステップS15」において送信される「携帯電話端末2からの脈拍データを受信する」との特定がない点。

第6 判断
1 相違点について
上記相違点について検討する。

(1)引用発明の「ステップS5?ステップS8までの処理及びステップS12?ステップS16までの処理」について

ア 引用文献1には、「通信回線が切断されていないと判断したときに、図6に示したステップS109からの処理を行うようにすることによって、通信回線の接続中において、携帯電話端末1、携帯電話端末2のそれぞれの使用者の脈拍を継続して計測し、脈拍データの交換を行うようにすることができる。このようにした場合には、通話中に脈拍が変化した場合であっても、これをリアルタイムに通知することができる」旨(引1d)及び「通信回線が切断されていないと判断したときに、図8に示したステップS208からの処理を行うようにすることによって、通信回線の接続中において、携帯電話端末1、携帯電話端末2のそれぞれの使用者の脈拍を継続して計測し、脈拍データの交換を行うようにすることができる。このようにした場合には、通話中に脈拍が変化した場合であっても、これをリアルタイムに通知することができる」旨(引1e)記載されている。

イ 上記(引1g)より、「図6に示したステップS109からの処理」は、引用発明の「ステップS5」からの処理に、上記(引1h)より、「図8に示したステップS208からの処理」は、引用発明の「ステップS8」の処理に相当しているといえる。

ウ 上記ア及びイより、引用発明の「ステップS5?ステップS8までの処理」は、「通信回線が切断されていないと判断したときに」、「通信回線の接続中において、携帯電話端末1、携帯電話端末2のそれぞれの使用者の脈拍を継続して計測し、脈拍データの交換を行うようにすることができ」、「通話中に脈拍が変化した場合であっても、これをリアルタイムに通知する」ために行うステップであるといえる。

エ 引用発明の「送り手側の携帯電話端末1と受け手側の携帯電話端末2とは同じ構成を有するもの」であるから、「携帯電話端末1」を受け手側とし、「携帯電話端末2」を送り手側とした場合においても、同じことがいえることは明らかである。

オ すると、「携帯電話端末1」を受け手側とし、「携帯電話端末2」を送り手側とした場合の「ステップS12?ステップS16までの処理」も、「ステップS5?ステップS8までの処理」と同様に、「通信回線が切断されていないと判断したときに」、「通信回線の接続中において、携帯電話端末1、携帯電話端末2のそれぞれの使用者の脈拍を継続して計測し、脈拍データの交換を行うようにすることができ」、「通話中に脈拍が変化した場合であっても、これをリアルタイムに通知する」ために行うステップであるといえる。

カ 以上のことから、引用発明の「ステップS5?ステップS8までの処理及びステップS12?ステップS16までの処理」は、何れも、「通信回線が切断されていないと判断したときに」、「通信回線の接続中において、携帯電話端末1、携帯電話端末2のそれぞれの使用者の脈拍を継続して計測し、脈拍データの交換を行うようにすることができ」、「通話中に脈拍が変化した場合であっても、これをリアルタイムに通知する」ために行うステップであるといえる。

(2)2つに機器間の通信を、上記「全二重方式」で行うか、一つチャンネルを利用して切り替えながら通信を行う「半2重方式」で行うかは、通信環境や送信するデータの内容等により適宜選択できるものであるといえる。
また、一般的に、2つの処理をリアルタイムで行う場合、該2つの処理を同時並行に行えば、よりリアルタイムに処理できることは明らかである。
そして、上記第4の2(3)で検討したとおり、「複数チャンネルを利用して」「リアルタイム同時通信を行う」「高速双方向通信を行う方法である全二重方式が用いられる技術事項」は周知技術である。

(3)引用発明において、「ステップS12?ステップS16までの処理」は、「ステップS8の処理の後」に行う処理である旨特定されているものの、「ステップS12?ステップS16までの処理」が、「ステップS5?ステップS8までの処理」の後でなければならないという特段の事情は認められない。
また、引用発明は、「ステップS17の通信回線が切断されるまでの間において、所定のタイミング毎に、ステップS5?ステップS8までの処理及びステップS12?ステップS16までの処理を繰り返し行うようにする」ものであって、この場合に、「ステップS12?ステップS16までの処理」の後に「ステップS5?ステップS8までの処理」を行うこともあるものであり、そして、「ステップS12?ステップS16までの処理」の「所定のタイミング」は、「ステップS5?ステップS8までの処理」と同じタイミングであることが排除されているものでもない。

(4)以上のことから、引用発明の「携帯電話端末1の使用者」及び「携帯電話端末2の使用者」の「脈拍データから」形成された「送信用の脈拍データ」の交換をリアルタイムで行う通信方式として、該周知の「複数チャンネルを利用して高速双方向通信を行う方法である全二重方式」を適用し、引用発明の「携帯電話端末1」と「携帯電話端末2」との間の通信において、チャンネルを複数使用し、引用発明の「携帯電話端末1」の「ベースバンド処理部104、送信部105、アンテナ共用器102、送受信アンテナ101」は、「携帯電話端末1の使用者の」「脈拍データから」形成された「送信用の脈拍データ」を、前記複数のチャンネルの内の一方のチャンネルで送信し、「送受信アンテナ101、アンテナ共用器102、受信部103、ベースバンド処理部104」は、「携帯電話端末1の使用者の」「脈拍データから」形成された「送信用の脈拍データ」を送信中であっても、「携帯電話端末2の使用者の」「脈拍データから」形成された「送信用の脈拍データ」を、前記複数のチャンネルの内の他方のチャンネルで受信する構成とすることは、当業者が容易に想到できたことであるといえる。

2 効果について
本願発明の奏する作用効果は、引用文献1、3及び4に記載された技術の奏する作用効果から予測される範囲内のものにすぎず、格別顕著なものということはできない。

3 小括
本願発明は、引用発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に想到できたものであるといえる。

第7 請求人の主張について
1 意見書における請求人の主張について
令和3年7月12日付け意見書において請求人は、

「審判官合議体は、拒絶理由通知書の備考「(3)対比・判断」「ア本願発明1について」「(イ)判断」(第11頁)で『そして、上記(2)ウ(ウ)で検討したとおり、「リアルタイム同時通信を行う場合には、複数チャネル…」は周知技術である』と認定する。しかしながら、この認定は正しくないと思料する。確かに、審判官合議体が指摘するように、引用文献1の段落[0106]には『…図8に示したステップS208からの処理を行うようにすることによって…脈拍データの交換を行う…これをリアルタイムに通知することができる』と記述される。ここで、「図8に示したステップS208からの処理」を確認すると、図8に示されるように、ステップS208で「脈拍データは受信され」、ステップS210で「バイブレー夕を駆動し」、続く図9に示されるように、ステップS211で「脈拍計測が開始され」、ステップS213で「脈拍データが取得され」、ステップS214で「脈拍データが送信され」る。すなわち、一連の処理では、送り手側から送信される脈拍データに基づきバイブレータが駆動された後に受け手側から脈拍データは返信される。バイブレータの駆動にあたって受け手側は必ず相手方(送り手側)から脈拍データを受信する。受け手側は、バイブレータの振動の証左として脈拍データを送信する。

このことは、段落[0065]の記述『…携帯電話端末2は…脈拍データ受信応答を形成して、これを携帯電話端末1に送信する』、段落[0074]の記述『…脈拍データ受信応答…に代えて…脈拍を計測し…携帯電話端末1に対して送信する』、段落[0011]?[0012]の記述『…通知手段を通じて通知を行った場合には…通知を行ったことを示す情報が…相手先に送信するように…』『…相手先に対して…明確に通知することができ…通信の相手先が、再度、…送信するなどのことをしなくてもよいようにされ』ることからも明からである。さらに言えば、引用文献1から特許された[請求項1](特許第4613974号)に『…生体情報検出手段により検出された脈拍に応じた情報を、当該通知をしたことを示す情報として前記通信の相手先に送信する送信手段』が規定されることからも明らかである(ここで、「当該通知」は受信した脈拍データに基づくバイブレータの振動に相当する)。脈拍データの交換にあたって「先に受信」が条件づけられる。

本願の請求項1では受信回路は「第1脈拍信号の送信中であっても…第2脈拍信号を受信す」る。相手方は第1脈拍信号の到達に関係なく第2脈拍信号を送信してくる。送信回路は、他機から送信されてくる脈拍信号の受信を待たずに、自機のセンサーから受信した脈拍信号を送信する。脈拍信号のやりとりにあたって「先に受信」は条件づけられない。その結果、個々の心拍再現装置では良好に「鼓動」が再現されることができる。

引用文献1では、通知手段であるバイブレータ(引用文献1の請求項6の記述)は、受信した脈拍データが示す回数と同じ回数分、駆動される(引用文献1の段落[0027]の記述)。脈動(パルス)が検出されない限りバイブレータ(通知手段)は振動しないのであるから、通知(振動)の時間間隔は脈動の時間間隔(例えば1分間に60回の脈動なら1秒間隔)よりも短縮されることはできない。すなわち、自機の脈拍データの送信中に相手から脈拍データを受信する可能性は全く生じない。本願の請求項1に記載の「第1脈拍信号の送信中であっても…第2脈拍信号を受信す」は引用文献1には全く開示されない。示唆さえされない。

ちなみに、「リアルタイム」は「同時」「即時(=すぐその時)」の意味を持つ。特にコンピューターの分野ではリアルタイム処理から類推されて「即時に」すなわち「すぐその時に」と一般に解釈される。必ずしも「同時進行」ではない。審判官合議体の認定「同時進行」は引用文献1から読み取られることはできない。「同時進行」の認定は、請求項1に記載の発明を知る以前にはなし得なかったものと思料する。「同時進行」の認定はいわゆる「後知恵」に相当すると思料する。」

旨、主張している。
まず、「リアルタイム同時通信を行う場合には、複数チャンネルを利用して高速双方向通信を行う方法である全二重方式が用いられる技術事項」は、上記第4の2(3)で検討したとおり、引用文献3及び4に記載された技術事項から、周知技術であるといえる。
また、引用文献1より認定した引用発明は、「ステップS12?ステップS16までの処理」を「ステップS5?ステップS8までの処理」と同時に行う旨の認定はしていないし、本願発明の同時に行う旨の構成である、送信回路における送信が、「第1チャネル経由で」「送信」するものであって、受信回路における受信が、「前記第1チャネルから相違する第2チャネルに基づき、前記第1脈拍信号の送信中であっても」「受信」するものである構成は、相違点としている。
そして、上記第6の1(4)で検討したとおり、引用発明において、「ステップS12?ステップS16までの処理」は、「ステップS8の処理の後」に行う処理である旨特定されているものの、「ステップS12?ステップS16までの処理」が、「ステップS5?ステップS8までの処理」の後でなければならないという特段の事情は認められないし、また、引用発明の「ステップS17の通信回線が切断されるまでの間において、所定のタイミング毎に、ステップS5?ステップS8までの処理及びステップS12?ステップS16までの処理を繰り返し行う」際の「ステップS12?ステップS16までの処理」の「所定のタイミング」が、「ステップS5?ステップS8までの処理」と同じタイミングであることを排除するものではない。
そうすると、本願発明は、引用発明に、引用文献3及び4に記載された技術事項などに見られるような周知技術である「リアルタイム同時通信を行う場合には、複数チャンネルを利用して高速双方向通信を行う方法である全二重方式が用いられる技術事項」を適用することにより、当業者が容易に想到できたものであるといえるから、上記請求人の主張は採用できない。

第8 むすび
以上のとおり、本願発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献1に記載された発明及び周知技術に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。

 
審理終結日 2021-08-02 
結審通知日 2021-08-04 
審決日 2021-08-23 
出願番号 特願2016-3619(P2016-3619)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (A61B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 清水 裕勝  
特許庁審判長 三崎 仁
特許庁審判官 井上 博之
福島 浩司
発明の名称 心拍再現装置  
代理人 山▲崎▼ 薫  

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