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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  H02K
審判 全部申し立て 2項進歩性  H02K
管理番号 1378718
異議申立番号 異議2020-700898  
総通号数 263 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-11-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-11-25 
確定日 2021-08-16 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6698514号発明「回転電機及び回転電機の異常検出方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6698514号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-15〕、〔16-17〕について訂正することを認める。 特許第6698514号の請求項1-15、請求項17に係る特許を維持する。 特許第6698514号の請求項16に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6698514号の請求項1-17に係る特許(以下、それぞれ「本件特許1」-「本件特許17」といい、総称して「本件特許」という。)についての出願は、平成28年12月22日(先の出願に基づく優先権主張 平成28年2月25日)に出願され、令和2年5月1日にその特許権の設定登録がされ、令和2年5月27日に特許掲載公報が発行された。本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。
令和 2年11月25日付け: 特許異議申立人 桜井 裕(以下、「特許異議申立人」という。)による特許異議の申立て
令和 3年 2月 3日付け: 取消理由通知書
令和 3年 4月 9日付け: 特許権者 三菱パワー株式会社(以下、「特許権者」という。)による意見書及び訂正請求書の提出
令和 3年 4月23日付け: 通知書(訂正請求があった旨の通知)


第2 訂正の適否についての判断
1.請求の趣旨
令和3年4月9日付け訂正請求書による訂正の請求(以下「本件訂正請求」という。)の趣旨は、「特許第6698514号の特許請求の範囲を、本件訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1-17について訂正することを求める。」というものである。

2.訂正の内容
本件訂正請求において特許権者が求める訂正の内容は、以下のとおりである。なお、下線は訂正箇所を示す。
(1)請求項1-15に係る訂正
ア 訂正事項1-1
特許請求の範囲の請求項1に
「固定子コアと固定子コイルとを備える円筒形の固定子と、
前記固定子の内径側に設置された回転子と、
前記固定子コアの外周部に設けられており前記固定子の軸方向に延伸するキーバーと、
前記キーバーに設けられており前記キーバーに流れる電流を計測する電流検出器と、
を備えることを特徴とする回転電機。」
と記載されているのを、
「固定子コアと固定子コイルとを備える円筒形の固定子と、
前記固定子の内径側に設置された回転子と、
前記固定子コアの外周部に設けられており前記固定子の軸方向に延伸するキーバーと、
前記キーバーに設けられており前記キーバーに流れる電流を計測する電流検出器と、
を備え、
前記電流検出器は、前記固定子コイルと前記固定子コアとの間の放電であるバイブレーションスパーキングが発生した際に生じる、前記キーバーに流れる電流の波形のパルス状の瞬時変化を検出することで、前記バイブレーションスパーキングの発生を検出する、
ことを特徴とする回転電機。」
に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項2-15も同様に訂正する)。

(2)請求項16-17に係る訂正
ア 訂正事項2-1
特許請求の範囲の請求項16を削除する。

イ 訂正事項2-2
特許請求の範囲の請求項17に
「前記電流の波形の変化は、パルス状の瞬時変化である、請求項16に記載の回転電機の異常検出方法。」
と記載されているのを、
「固定子コアと固定子コイルとを備える円筒形の固定子を備える回転電機の、前記固定子コアの外周部に設けられており前記固定子の軸方向に延伸するキーバーに流れる電流を、前記キーバーに設けられている電流検出器で、前記回転電機の運転中に計測する工程と、
前記回転電機の運転中に前記電流の波形の変化を検出する工程と、
を備え、
前記電流の波形の変化は、パルス状の瞬時変化である、回転電機の異常検出方法。」
に訂正する。

3.訂正の適否
(1)訂正事項1-1について
ア 訂正の目的
訂正事項1-1は、訂正前の請求項1における「電流検出器」の検出対象について、「前記固定子コイルと前記固定子コアとの間の放電であるバイブレーションスパーキングが発生した際に生じる、前記キーバーに流れる電流の波形のパルス状の瞬時変化を検出することで、前記バイブレーションスパーキングの発生を検出する」と限定するものであり、発明を特定するための事項の直列的付加に該当するから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないこと
訂正事項1-1により、「電流検出器」が、「前記固定子コイルと前記固定子コアとの間の放電であるバイブレーションスパーキングが発生した際に生じる、前記キーバーに流れる電流の波形のパルス状の瞬時変化を検出することで、前記バイブレーションスパーキングの発生を検出する」ものに減縮された。
したがって、訂正事項1-1は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
願書に添付した明細書の段落【0017】には「バイブレーションスパーキングが発生すると、キーバー2に流れる電流値に変化が発生する。本発明による回転電機は、キーバー2に電流検出器を備え、この電流検出器でキーバー2 に流れる電流を計測する。そして、バイブレーションスパーキングが発生した際に生じる循環電流の波形の変化を検出することで、バイブレーションスパーキングを検出する。」との記載があることから、「電流検出器は、バイブレーションスパーキングが発生した際に生じる、キーバーに流れる電流の波形の変化を検出することで、前記バイブレーションスパーキングの発生を検出する」ことが示されている。また、段落【0002】には「固定子は、積層電磁鋼板からなる固定子コア( 以下「コア」とも称する) と、導体と主絶縁と低抵抗コロナシールドからなる固定子コイル( 以下「コイル」とも称する) とを備える。」との記載が、段落【0003】には「コイルとコアとの間で放電(バイブレーションスパーキング)が発生する」との記載があることから、「固定子コイルと固定子コアとの間の放電であるバイブレーションスパーキング」が示されている。さらに、段落【0024】には「電流検出器4は、回転電機の運転中に循環電流13を計測して循環電流13の波形の変化(例えば、パルス状の瞬時変化)を検出することで、バイブレーションスパーキングの発生を回転電機の運転中に検出することができる。」との記載があることから、「電流の波形の変化であるパルス状の瞬時変化を検出することで、前記バイブレーションスパーキングの発生を検出する」ことが示されている。
そうすると、訂正事項1-1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものである。
したがって、訂正事項1-1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものである。

(2)訂正事項2-1について
ア 訂正の目的
訂正事項2-1は、特許請求の範囲の請求項16を削除する訂正であるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないこと
訂正事項2-1は、特許請求の範囲の請求項16を削除する訂正であるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
訂正事項2-1は、特許請求の範囲の請求項16を削除する訂正であるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものである。
したがって、訂正事項2-1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものである。

(3)訂正事項2-2について
ア 訂正の目的
訂正事項2-2は、訂正前の請求項17の記載が訂正前の請求項16の記載を引用する記載であったものを、請求項16の記載を引用しないものとするものであるから、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものである。
イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないこと
訂正事項2-2は、訂正前の請求項17の記載が訂正前の請求項16の記載を引用する記載であったものを、請求項16の記載を引用しないものとするものであり、訂正前の請求項17は、もともと訂正後の請求項17と同じことを意味していたことは明らかであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
訂正事項2-2は、訂正前の請求項17の記載が訂正前の請求項16の記載を引用する記載であったものを、請求項16の記載を引用しないものとするものであり、訂正前の請求項17は、もともと訂正後の請求項17と同じことを意味していたことは明らかであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものである。
したがって、訂正事項2-2は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものである。

(4)一群の請求項について
訂正事項1-1に係る訂正前の請求項1-15について、請求項2-15は直接的又は間接的に請求項1を引用しているものであって、訂正事項1-1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。
また、訂正事項2-1及び訂正事項2-2に係る訂正前の請求項16-17について、請求項17は直接的に請求項16を引用しているものであって、訂正事項2-1によって記載が訂正される請求項16に連動して訂正されるものである。
したがって、訂正前の請求項1-15に対応する訂正後の請求項1-15に係る訂正、及び、訂正前の請求項16-17に対応する訂正後の請求項16-17に係る訂正は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項に対してされたものである。

4.まとめ
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、全て、特許法第120条の5第2項ただし書第1号又は第4号に掲げる事項を目的とするものである。また、同訂正は、同法同条第9項において準用する同法第126条第4項-第6項の規定に適合する。
よって、結論に記載のとおり、特許第6698514号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-15〕、〔16-17〕について訂正することを認める。


第3 訂正後の本件発明
本件訂正請求により訂正された請求項1-17に係る発明(以下、請求項の番号とともに「本件発明1」などという。また、これらの発明を総称して「本件発明」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1-17に記載された次の事項により特定されるとおりの、以下のものである。

【請求項1】
固定子コアと固定子コイルとを備える円筒形の固定子と、
前記固定子の内径側に設置された回転子と、
前記固定子コアの外周部に設けられており前記固定子の軸方向に延伸するキーバーと、
前記キーバーに設けられており前記キーバーに流れる電流を計測する電流検出器と、
を備え、
前記電流検出器は、前記固定子コイルと前記固定子コアとの間の放電であるバイブレーションスパーキングが発生した際に生じる、前記キーバーに流れる電流の波形のパルス状の瞬時変化を検出することで、前記バイブレーションスパーキングの発生を検出する、
ことを特徴とする回転電機。
【請求項2】
前記電流検出器を複数備える、請求項1に記載の回転電機。
【請求項3】
前記キーバーは、前記固定子の周方向に複数設けられ、
前記電流検出器は、前記キーバーのそれぞれに設けられる、
請求項2に記載の回転電機。
【請求項4】
前記電流検出器は、前記キーバーの前記軸方向の両端部に設けられる、
請求項2又は3に記載の回転電機。
【請求項5】
前記電流検出器は、前記軸方向に1つだけ設けられる、
請求項1又は3に記載の回転電機。
【請求項6】
前記電流検出器は、前記軸方向に複数設けられる、
請求項1又は3に記載の回転電機。
【請求項7】
前記電流検出器が計測した前記電流のデータに対して信号処理を行う電流処理装置をさらに備える、
請求項1から6のいずれか1項に記載の回転電機。
【請求項8】
前記電流処理装置は、前記電流の波形の高周波成分を取り出す処理を行うフィルタ回路を備える、
請求項7に記載の回転電機。
【請求項9】
前記電流処理装置は、前記電流の波形の高周波成分を増幅する回路を備える、
請求項7に記載の回転電機。
【請求項10】
前記電流検出器が計測した前記電流のデータと前記電流処理装置が信号処理を行った前記電流のデータとのうち、少なくとも1つを表示する表示装置をさらに備える、
請求項7に記載の回転電機。
【請求項11】
前記固定子コイルのコイルエンドに設けられており前記固定子コイルの振動を検出する振動検出装置をさらに備える、
請求項1から10のいずれか1項に記載の回転電機。
【請求項12】
前記固定子コイルのコイルエンドに設けられており前記固定子コイルの振動を検出する振動検出装置をさらに備え、
前記電流処理装置は、前記電流検出器が計測した前記電流のデータと、前記振動検出装置が検出した前記固定子コイルの前記振動のデータとを保存する、
請求項7に記載の回転電機。
【請求項13】
前記固定子コアの前記軸方向の端部領域に設けられており前記固定子コアの磁束密度を検出する磁束密度検出コイルをさらに備える、
請求項1から12のいずれか1項に記載の回転電機。
【請求項14】
前記固定子コアの前記軸方向の外側の空間に設けられており前記固定子コイルから発生した放電を検出する放電検出装置をさらに備える、
請求項1から13のいずれか1項に記載の回転電機。
【請求項15】
前記固定子コイルを固定する固定子ウェッジに設けられており前記固定子コイルの振動を検出する振動検出装置をさらに備える、
請求項1から14のいずれか1項に記載の回転電機。
【請求項16】(削除)
【請求項17】
固定子コアと固定子コイルとを備える円筒形の固定子を備える回転電機の、前記固定子コアの外周部に設けられており前記固定子の軸方向に延伸するキーバーに流れる電流を、前記キーバーに設けられている電流検出器で、前記回転電機の運転中に計測する工程と、
前記回転電機の運転中に前記電流の波形の変化を検出する工程と、
を備え、
前記電流の波形の変化は、パルス状の瞬時変化である、回転電機の異常検出方法。


第4 取消理由通知に記載した取消理由について
1.取消理由の概要
当審が令和3年2月3日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。
請求項1-2、7、10、13、16に係る発明は、引用文献1(大久保憲悦(外1名),”新系列2極空気冷却タービン発電機の測定技術”,富士時報,富士電機,平成11年5月10日,第72巻,第5号,p.287?291(甲第1号証))、又は、引用文献2(R.A.Hilliar(外4名),”Measurement of the currents flowing in the stator frame of a 500 MW turbogenerator”,IEE PROCEEDINGS ?C,英国,The Institution of Electrical Engineers,1986年1月,Volume133,Part C,Number 1,p.16?25(甲第2号証))に記載された発明であるか、引用文献1又は引用文献2に記載された発明に基いて当業者が容易に発明することができたものである。よって、請求項1-2、7、10、13、16に係る特許は、特許法第29条第1項第3号に該当する発明にされたものであり、又は、同第2項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである。

請求項3-6、8-9に係る発明は、引用文献1又は引用文献2に記載された発明に基いて当業者が容易に発明することができたものである。
請求項11-12に係る発明は、引用文献1又は引用文献2に記載された発明と、引用文献3(実願昭57-126055号(実開昭59-30664号)のマイクロフィルム(甲第3号証))に記載されている技術事項に基いて、当業者が容易に発明することができたものである。
請求項14に係る発明は、引用文献1又は引用文献2に記載された発明と、引用文献4(特開平4-296673号公報(甲第4号証))に記載されている技術事項に基いて、当業者が容易に発明することができたものである。
よって、請求項3-6、8-9、11-12、14に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである。

2.甲第1号証の記載
甲第1号証には以下の事項が記載されている。
(1)「1 まえがき
新系列2極空気冷却タービン発電機の開発目標は,発電機利用率の向上と品質の確保であり,この両者を実現すべく新系列機には多くの改善が盛り込まれている。この改善の効果と品質を検証することは,今回の新系列機開発の最重要課題であった。このために最も確実な検証方法として出力126MVAの試作実験機を製作し,種々の試験を行い,検証する方法を選んだ。
126MVA試作実験機では,電気諸量を含め,温度,磁束,振動など1,015点の測定を行い,検証試験により得られる膨大な測定データは,新たに導入された多点自動計測システム装置により処理される。
本稿では試作実験機の主要部品に対する測定の概要,ならびに新たに開発した回転子温度測定装置および多点自動計測システム装置を紹介する。」(287頁左欄1行?右欄2行)
(2)「例えば,発電機の利用率を向上させれば,損失密度の増大による固定子巻線および回転子巻線の温度上昇の増大が予想される。」(288頁左欄3行?5行)
(3)「3.3 固定子鉄心はり
試作実験機では,固定子鉄心ヨークの磁束密度を旧来より高く採っているため,ヨーク内の磁気飽和度が増し,外部に向けて漏れる磁束が,至近の構造物中に渦電流を誘起することが予想される。また,鉄心を外周部で固定する複数のはりは,その両端に位置するプレスリングにより短絡され,閉回路を構成するので,この部分には循環電流が流れることが想定される。この循環電流を測定すべく,非常に細密な線を多数回巻き付けたロゴスキーコイルを製作し鉄心はりに取り付けた。図3にロゴスキーコイルの取付け状態を示す。」(288頁右欄12行?22行)
(4)「5.2 計測データの構成
データのなかには瞬時性を要しないものがある。同時計測データの75%を占める温度や,軸トルク,回転速度,電圧,電流,潤滑油量,冷却水量,軸振動などは,低速データとして収録し機器の処理能力を考え合わせて計測データのサンプリング周波数を0.1Hz(10秒に1回)にした。表示には数値表示と曲線による傾向表示の両様式がある。図8に低速データの監視画面を示す。低速データの表示画面は監視画面を含めて11画面から成り,用途に応じて使い分けられる。
磁束波形,振動波形,応力波形はいずれも高速データとして収録している。図9に磁束波形画面を示す。
磁束は,出現する周波数の上限を考慮して4.8kHzでのサンプリングとした。分割計測でも,重複して測定するセンサを設け,センサ間の位相判別が容易にできるようにしている。
振動は,基本周波数の10倍を正確に測定するため,サンプリング周波数を1.2 kHzとした。波形をFFT(Fast Fourier Transform)にて周波数分析する機能も備えた。」(290頁左欄13行?右欄15行)
(5)「5.3 多点自動計測システムの特徴
計測データとしては,低速データと高速データが混在しており,これらを安定して収録するために,機能をブロックに分割したことが,この多点自動計測システムの特徴である。測定データはすべてハードディスクに収録され,収録後,膨大なデータから必要とするデータを瞬時に呼び出せるようにしている。
低速ブロックは,低速データ収録と高速データ収録との収録指示をする機能を有し,高速データを収録しつつ,低速データにより各部の状況を把握する。
高速ブロックは,高速データの収録のみ扱う。
高速モニタブロックは,高速部の両面表示の負担を軽減し,高速ブロックを助ける。」(291頁左欄1行?13行)
(6)290頁の表2からは、「測定項目 はり電流、測定センサ ロゴスキーコイル、総数4、同時計測数4」「測定項目 部分放電、測定センサ スロットセンサなど、総数13、同時計測数0」などが読み取れる。

以上の記載によれば、甲第1号証には以下の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
「固定子鉄心と固定子巻線とを備える固定子と、
回転子と、
前記固定子鉄心の外周部に設けられており、その両端に位置するプレスリングにより短絡されるはりと、
前記はりに設けられており前記はりに流れる電流を計測するロゴスキーコイルと、
を備え、
2極空気冷却タービン発電機。」

また、甲第1号証には以下の発明(以下、「甲1’発明」という。)が記載されていると認められる。
「固定子鉄心と固定子巻線とを備える固定子を備える2極空気冷却タービン発電機の、前記固定子鉄心の外周部に設けられており固定子鉄心の両端に位置するプレスリングにより短絡されるはりに流れる電流を、前記はりに設けられているロゴスキーコイルで、前記2極空気冷却タービン発電機の運転中に計測する工程と、
前記2極空気冷却タービン発電機の運転中に曲線による計測データの傾向表示をする工程と、
を備える、
前記2極空気冷却タービン発電機の監視方法。」

3.甲第2号証の記載
甲第2号証には以下の事項が記載されている。
(1)「Measurements of the currents flowing in the stator frame of a 500 MW turbogenerator」(16頁標題)
(当審仮訳)
「500MWタービン発電機の固定子フレームに流れる電流の測定」
(2)「2 Design of the stator frame
Before describing detailed measurements it is useful to describe briefly the structure of, and the principal current paths in, the stator frame. Fig.1 shows a schematic representation of the stator end region. The cylinder of laminations forming the stator core is located on 32 building bars which are supported on a series of annular ribs (the inner frame ribs) spaced, at approximately 0.5m intervals, along the length of the core. These ribs are connected by axial struts to complete the inner frame, which is suspended from the outer frame and cooling gas casing. At the end of the stator core, an end plate holds the laminations in axial compression. This is held in place by a series of keyblocks which are located in notches at the ends of the keybars. In some designs, additional blocks, referred to as 'T-blocks', are fitted between the keyblock positions to provide additional strength. A copper end screen is fitted over the end plate to minimise the effects of axial magnetic fluxes in the core. Shorting links are fitted between the core end screen and the inner frame rib to provide a low-impedance path for currents flowing between the screen and the inner frame, thus minimising heating in the keyblocks. The number and location of these links varies between units of similar design. For the core which was instrumented, the links are fitted from the core end screen to the ends of the building bars at each keyblock position, as shown in Fig.1. Where T-blocks are fitted between the keyblock positions, additional long links pass from the core end screen directly to the inner frame rib.」(16頁右欄11行?17頁左欄15行)
(当審仮訳)
「2. 固定子フレームのデザイン
詳細な測定手段を説明する前に、固定子フレームの構造及び主な電流経路を簡単に説明することが有用である。図1は固定子の端部領域の概要図である。固定子鉄心を形成する円筒状の薄板は、相互に鉄心の長さ方向に沿って0.5mの間隔で配置された一連の環状リブ(内側フレームリブ)に支持された32のビルディングバーに設置されている。これらのリブは軸方向支柱により連結され内側フレームを形成し、内側フレームは外側フレームと冷却ガスケースにより支持されている。固定子鉄心の端部ではエンドプレートが軸方向を押圧するように薄板を保持している。このエンドプレートは、キーバーの端部にあるノッチ内に設けられた一連のキーブロックによって保持される。他の設計例では、T?ブロックと称される付加的なブロックがさらなる強度を付与するためにキーブロックの間に設けられる。銅製のエンドプレートが鉄心中の軸方向磁束の影響を少なくするためにエンドプレートを覆って設けられる。短絡リンクは電流の低インピーダンス経路を形成し、キーブロックの過熱を最小化するために、鉄心端部スクリーンと内側フレームリブの間に設けられる。これらのリンクの数、配置は同様なユニット間で変更される。計器が装着される鉄心では、図1に示すように、リンクは、各キーブロックの位置で、鉄心エンドスクリーンからビルディングバーの端部に設けられる。キーブロックの間にT?ブロックが配置される場所では、付加的なロングリンクが鉄心端部スクリーンから内側フレームリブヘ直接設けられている。」
(3)「3 Measurements of stator frame currents
3.1 Transducers
Transducers were installed to measure as far as practicable the currents and magnetic fields associated with one keybar position. The instrumentation comprised search coils to measure the axial and radial leakage fields, Rogowski coils to measure the total currents in discrete members of the frame and J-probes to measure the surface electric fields where the current density was expected to vary across the surface of the frame.
The search coils comprised 100 turns of enamelled wire on a 38 mm (1.5 inch) diameter bobbin. Seven coils were mounted close to the back of the stator core in a Tufnol frame bolted to existing lugs of the stator frame (see Fig.3). Five coils measuring radial fields were recessed into the bar so that the coil centres were some 9 mm from the core back. Two coils measuring axial fields were set in slots in the Tufnol frame with their common axis 13 mm from the core back. A single coil was bolted to the face of the gas baffle plate in the 'window' between the end plate and the inner frame rib (see Fig. 4).
The Rogowski coils comprised a uniformly wound, constant cross-section coil of fine enamelled wire on a flexible former protected by shrink-fit sleeving [6]. Five coils were used to measure the circumferential current in the inner frame rib at the end of the stator core. Three coils, made especially narrow to pass through radial cooling ducts in the core, were used to measure the currents in the building bars. Four coils were fitted at the end of the core to measure the radial currents in three keyblocks, and one T-block and four further coils were wrapped around shorting links to measure the radial currents flowing from the core end screen (see Fjg. 4)」(17頁左欄下から4行?18頁左欄8行)
(当審仮訳)
「3.固定子フレーム電流の測定
3.1 トランスジューサ
トランスジューサは、可能な限り、一つのキーバー位置に関連した電流と磁場を測定するために設けられている。この測定装置は、軸方向及び径方向の漏洩磁場を測定するためのサーチコイルと、離間した一群のフレームの全電流を測定するロゴスキーコイルと、電流密度がフレームを横切る方向に変化すると予想される表面電場を測定するJプローブと、から構成される。
サーチコイルは直径が38mm(1.5インチ)のボビンに設けられた100ターンのエナメルワイヤーからなる。7つのコイルは、固定子フレームの突出ラグにボルト止めされたTufnol フレーム中の固定子鉄心の背後に近接して設置される(図3参照)。径方向磁場を測定する5つのコイルはコイルの中心が鉄心の背面から約9mmとなるようにバー中に凹設される。軸方向磁場を測定する2つのコイルは、それらの共通軸が鉄心の背面から13mmとなるようにTufnol フレーム中のスロットに設置される。一つのコイルは、エンドプレートと内側フレームリブとの間の窓にあるガスバッフルプレートの表面にボルト固定されている(図4参照)。
ロゴスキーコイルは一定の断面積を有し均一に巻かれた細いエナメルワイヤーのコイルからなり、シュリンクフィットスリーブによって保護された可撓性の成形体に巻かれている。5つのコイルは固定子鉄心端部の内側フレームリブにおける周方向電流を測定する。鉄心中の径方向冷却ダクトを通るように特に薄く作られた3つのコイルは、ビルディングバー中の電流を測定する。3つのキーブロック中の径方向電流を測定するために、4つのコイルが鉄心の端部に設けられ、鉄心端部スクリーンから流れてくる径方向電流を測定するために、1つのT?ブロックコイル及び4つの付加的なコイルが短絡リンクの周囲に巻かれている(図4参照)。」
(4)「3.2 Measurements
The principal measurements were taken over a four-day period following the unit's return to service after overhaul. Thirteen tests were recorded at loads between 142MW and 480MW to establish the variation of core frame currents with generator loading. The magnitude and phase of the first and third harmonic components of the transducer voltages were measured using a Solartron 1170 frequency analyser and the result scaled and, where appropriate, integrated to give the corresponding magnetic fields, electric fields and currents for each test. Voltages were also recorded using a Nicolet 4094 digital storage oscilloscope and processed to give the signal waveforms.
Fig.5 shows typical waveforms recorded at a load of 450MW, unity power factor. The currents show a sinusoidal waveform, as do the electric fields. Typically, the third harmonic component is less than 10% of the fundamental voltage; thus it was considered sufficient to consider only the fundamental component in analysing core frame currents. Whilst the axial field impinging on the core end shows a sinusoidal waveform, the fields measured at the back of the core show a large third harmonic component, suggesting they arise in part from saturation of the stator core.」(18頁右欄8行?31行)
(当審仮訳)
「3.2計測
主要な測定値は、オーバーホール後ユニットのサービス復帰後の4日間にわたって行われた。
142MWと480MWとの間の負荷で13つの試験を記録して、発電機負荷によるコアフレーム電流の変化を確立した。
トランデューサー電圧の第1および第3高調波成分の大きさおよび位相を、Solartron1170周波数分析器を使用して測定し、結果をスケーリングし、適切な場合には積分して、各試験について対応する磁場、電場および電流を得た。
Nicolet4094デジタルストレージオシロスコープを用いて電圧も記録し、処理して信号波形を得た。
図5は、450MW、単位力率の負荷で記録された典型的な波形を示す。電流は、電界と同様に正弦波形を示す。典型的には、第3高調波成分は基本波電圧の10%未満であり、したがって、コアフレーム電流を分析する際に基本波成分のみを考慮すれば十分であると考えられた。コア端部に衝突する軸方向磁界は正弦波形を示すが、コアの後部で測定された磁界は、大きな第3高調波成分を示し、これは、それらがステータコアの飽和から部分的に生じることを示唆している。」
(5)「4.3 Currents in the building bars and ribs
The currents in the building bars were measured about 0.5m from the end of the stator core. Although there is a 60% variation in the magnitude of the currents between bars, they all showed the same strong dependence on stator current, suggesting that close to the core end the currents in the building bars arise principally from the axial fields impinging on the core ends. From the mean value of the measured currents it was deduced that the building bars carried a total axial current of 4.2 kA per pole at rated stator current.
The circumferential current in the inner frame rib also depended strongly on stator current varying from -0.4 kA at zero to 4.6 kA at rated stator current.」(19頁右欄31?44行)
(当審仮訳)「4.3 ビルディングバー及びリブの電流
ビルディングバーの電流は固定子鉄心の端部から約0.5mのところで測定される。複数のバーの間における電流の大きざは約60%の変動があるが、それらは全て固定子電流に対し同じような強固な依存性を示しており、主に鉄心端部へ入る軸方向磁場により生じるビルディングバーの鉄心端部に近接した電流であることを示している。測定された電流の平均値から、ビルディングバーは、定格固定子電流に対し1極あたり4.2kAの全軸方向電流が流れることが推測される。内側フレームリブの周方向電流も固定子電流に強固に依存し、ゼロ固定子電流では-0.4kA、定格固定子電流では4.6kAに変化した。」
(6)16頁の図1からは、図面の上方から下方に向かって半径が小さくなっているため下方が円筒の内径側であること、キーバーエンドがインナーフレームリブの内径側に配置され、キーバーエンドにショートリンクが接続されていることが看取される。
16頁の図1と17頁の図2を合わせ見ると、ビルディングバーがインナーフレームリブの内径側に配置されていること、回転子は固定子の内径側に設置されていること、固定子は固定子鉄心と固定子コイルとを備えることが看取される。
17頁の図4中にあるキーバーの平面図からはキーバーの内の3つ(B,D,F)にロゴスキーコイルが設けられていることが看取される。
これらのことから、キーバー、ビルディングバー、コアバーは同一の部材であり、キーバーに設けられているロゴスキーコイルにより、キーバーに流れる電流を計測していることが理解できる。
(7)18頁の図5には検出された波形が示されているが、電流の波形のパルス状の瞬時変化は看取できない。





以上のことから、甲第2号証には以下の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されていると認められる。
「固定子鉄心と固定子コイルとを備える円筒形の固定子と、
前記固定子の内径側に設置された回転子と、
前記固定子鉄心の外周部に設けられており前記固定子の軸方向に延伸するキーバーと、
前記キーバーに設けられており前記キーバーに流れる電流を計測するロゴスキーコイルと、
を備え、
前記ロゴスキーコイルで計測した、前記キーバーに流れる電流についてSolartron1170周波数分析器やオシロスコープ等で分析する、
タービン発電機。」

また、甲第2号証には以下の発明(以下、「甲2’発明」という。)が記載されていると認められる。
「固定子鉄心と固定子コイルとを備える円筒形の固定子を備えるタービン発電機の、前記固定子鉄心の外周部に設けられており前記固定子の軸方向に延伸するキーバーに流れる電流を、前記キーバーに設けられているロゴスキーコイルで、前記タービン発電機の運転中に計測する工程と、
前記タービン発電機の運転中の前記電流についてSolartron1170周波数分析器やオシロスコープ等で分析する工程と、
を備える、
タービン発電機の波形分析方法。」


4.当審の判断
(1)甲第1号証を主引例とする場合
本件発明1と甲1発明とを対比すると、後者の「固定子鉄心」は前者の「固定子コア」に相当し、同様に、「固定子巻線」は「固定子コイル」に相当する。
甲1発明における「その(固定子鉄心の)両端に位置するプレスリングにより短絡されるはり」とは、プレスリングが発電機の固定子鉄心の軸方向両端に位置しており、はりは、これらプレスリング間を接続していると解されるから、本件発明1の「前記固定子の軸方向に延伸するキーバー」に相当する。
また、甲1発明の「ロゴスキーコイル」は本件発明1の「電流検出器」に相当し、同様に「2極空気冷却タービン発電機」は「回転電機」に相当する。
したがって、本件発明1と甲1発明との間には、次の一致点、相違点があるといえる。

<一致点>
「固定子コアと固定子コイルとを備える固定子と、
回転子と、
前記固定子コアの外周部に設けられており前記固定子の軸方向に延伸するキーバーと、
前記キーバーに設けられており前記キーバーに流れる電流を計測する電流検出器と、
を備え、
回転電機。」

<相違点1>
固定子の形状に関し、本件発明1では「円筒形」であるのに対し、甲1発明では形状が明らかではない点。
<相違点2>
固定子と回転子の位置関係に関し、本件発明1では回転子が「固定子の内径側に設置された」ものであるのに対し、甲1発明では位置関係が明らかではない点。
<相違点3>
本件発明1では、電流検出器は、「前記固定子コイルと前記固定子コアとの間の放電であるバイブレーションスパーキングが発生した際に生じる、前記キーバーに流れる電流の波形のパルス状の瞬時変化を検出することで、前記バイブレーションスパーキングの発生を検出する」のに対し、甲1発明では、電流の波形のパルス状の瞬時変化や、バイブレーションスパーキングの発生の検出をしていない点。

事案に鑑みて、相違点3について先に検討する。
甲1発明の目的は、上記「2(1)」によれば、新系列2極空気冷却タービン発電機の改善の効果と品質を検証するために、試作実験機で電気諸量を含め、温度、磁束、振動など1015点の計測を行い、多点自動計測システム装置により処理することであり、上記「2(4)」によれば、電流は低速データとしてサンプリング周波数0.1Hz(10秒に1回)で収録される。また、多点自動計測システム装置の特徴は、上記「2(5)」によれば、計測データとしては低速データと高速データとが混在しており、これらを安定して収録するために機能をブロックに分割したことである。これらのことから、甲1発明は、電流の波形のパルス状の瞬時変化や、バイブレーションスパーキングの発生の検出は意図していないと解される。したがって、「前記固定子コイルと前記固定子コアとの間の放電であるバイブレーションスパーキングが発生した際に生じる、前記キーバーに流れる電流の波形のパルス状の瞬時変化を検出することで、前記バイブレーションスパーキングの発生を検出する」点は、甲第1号証には記載されておらず、甲第1号証の記載から自明の事項ともいえず、また、本願優先日前において周知技術であるともいえない。
そして、本件発明1は相違点3に係る構成を備えることによって、コイルとコアとの間に発生するバイブレーションスパーキングを早期に発見できるといった特有の効果を奏する。
したがって、他の相違点について判断するまでもなく、本件発明1は、甲1発明であるとはいえず、また、当業者であっても甲1発明に基いて容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

また、本件発明2-14は本件発明1を直接的又は間接的に引用する発明であるから、本件発明2-14と甲1発明とを対比すると、本件発明2-14は少なくとも相違点3において甲1発明と相違する。そして、「前記固定子コイルと前記固定子コアとの間の放電であるバイブレーションスパーキングが発生した際に生じる、前記キーバーに流れる電流の波形のパルス状の瞬時変化を検出することで、前記バイブレーションスパーキングの発生を検出する」点は、甲第3号証及び甲第4号証にも記載されていない。したがって、本件発明1と同様に本件発明2-14は、甲1発明であるとはいえず、また、当業者であっても甲1発明、甲3号証及び甲第4号証に記載の事項に基いて容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(2)甲第2号証を主引例とする場合
本件発明1と甲2発明とを対比すると、後者の「固定子鉄心」は前者の「固定子コア」に相当し、以下同様に、「ロゴスキーコイル」は「電流検出器」に、「前記ロゴスキーコイルで計測した、前記キーバーに流れる電流についてSolartron1170周波数分析器やオシロスコープ等で分析する」という事項は「前記電流検出器は、前記キーバーに流れる電流の波形の変化を検出する」という事項に、「タービン発電機」は「回転電機」に、それぞれ相当する。
したがって、本件発明1と甲2発明との間には、次の一致点、相違点があるといえる。

<一致点>
「固定子コアと固定子コイルとを備える円筒形の固定子と、
前記固定子の内径側に設置された回転子と、
前記固定子コアの外周部に設けられており前記固定子の軸方向に延伸するキーバーと、
前記キーバーに設けられており前記キーバーに流れる電流を計測する電流検出器と、
を備え、
前記電流検出器は、前記キーバーに流れる電流の波形の変化を検出する
回転電機。」

<相違点4>
本件発明1における電流検出器は、「前記固定子コイルと前記固定子コアとの間の放電であるバイブレーションスパーキングが発生した際に生じる、」前記キーバーに流れる電流の波形の「パルス状の瞬時」変化を検出することで、「前記バイブレーションスパーキングの発生を検出する」のに対し、甲2発明は、キーバーに流れる電流についてSolartron1170周波数分析器やオシロスコープ等で分析しているものの、上記「3(7)」のとおり、電流の波形のパルス状の瞬時変化は検出していない点。

相違点4について検討する。
甲第2号証では、上記「3(4)」のとおり、第3高調波成分は基本波電圧の10%未満であり、したがって、コアフレーム電流を分析する際に基本波成分のみを考慮すれば十分であると考えているから、甲2発明は、パルス状の瞬時変化の検出や、バイブレーションスパーキングの発生を検出することを意図したものではない。したがって、「前記固定子コイルと前記固定子コアとの間の放電であるバイブレーションスパーキングが発生した際に生じる、」前記キーバーに流れる電流の波形の「パルス状の瞬時」変化を検出することで、「前記バイブレーションスパーキングの発生を検出する」点は、甲第2号証には記載されておらず、甲2号証の記載から自明の事項ともいえず、また、本願優先日前において周知技術であるともいえない。
そして、本件発明1は相違点4に係る構成を備えることによって、コイルとコアとの間に発生するバイブレーションスパーキングを早期に発見できるといった特有の効果を奏する。
したがって、本件発明1は、甲2発明であるとはいえず、また、当業者であっても甲2発明に基いて容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

また、本件発明2-14は本件発明1を直接的又は間接的に引用する発明であるから、本件発明2-14と甲2発明とを対比すると、本件発明2-14は少なくとも相違点4において甲2発明と相違する。そして、「前記固定子コイルと前記固定子コアとの間の放電であるバイブレーションスパーキングが発生した際に生じる、前記キーバーに流れる電流の波形のパルス状の瞬時変化を検出することで、前記バイブレーションスパーキングの発生を検出する」点は、甲第3号証及び甲第4号証にも記載されていない。したがって、本件発明1と同様に本件発明2-14は、甲2発明であるとはいえず、また、当業者であっても甲2発明、甲第3号証及び甲第4号証に記載の事項に基いて容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(3)特許異議申立人の意見について
令和3年4月9日付けで特許権者より訂正の請求があったため、特許法第120条の5第5項の規定に基づいて、当審から令和3年4月23日付け通知書により、特許異議申立人に対して意見書を提出する機会を与えたが、特許異議申立人から意見書の提出はなされなかった。


第5 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
特許異議申立人は、特許異議申立書において、訂正前の請求項15に係る発明は甲第1号証及び特公平8-12219号公報(甲第5号証)に記載の発明に基いて当業者が容易に発明することができたものであり、訂正前の請求項17に係る発明は甲第1号証又は甲第2号証に記載の発明、及び、周知技術に基いて当業者が容易に発明することができたものである旨を主張する。
また、特許異議申立人は特許異議申立書において、訂正前の請求項17に係る発明に関して次のように主張している。
「(b)対比判断(その1)
甲第1号証には、検出する波形の変化がパルス状の瞬時変化である旨の記載はない。
しかしながら、計測データの波形をウオッチングする際に、波形の瞬時的なピークを含む波形の変化を見ることは、機器の異常診断や雑音解析分野において周知技術である。
したがって、本件特許発明17は甲第1号証に記載の発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明することができたものである。
(c)対比判断(その2)
上記(b)と同様な理由により、本件特許発明17は甲第2号証に記載の発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明することができたものである。
特に、甲第2号証の図5(18頁左欄)の電流波形の図からも計測データの波形を見ていることは明らかであり、その際、波形の瞬時的な変化もみることができるのは当然の技術的事項である。」

1.本件発明15(訂正前の請求項15に係る発明に対応)について
本件発明15は本件発明1を直接的又は間接的に引用する発明であるから、本件発明15と甲1発明とを対比すると、本件発明15は少なくとも相違点3において甲1発明と相違する。そして、「前記固定子コイルと前記固定子コアとの間の放電であるバイブレーションスパーキングが発生した際に生じる、前記キーバーに流れる電流の波形のパルス状の瞬時変化を検出することで、前記バイブレーションスパーキングの発生を検出する」点は、甲第5号証にも記載されていない。
したがって、上記「第4 4(1)」で検討した本件発明1と同様に、本件発明15は当業者であっても甲1発明及び甲第5号証に記載された事項に基いて容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

2.本件発明17(訂正前の請求項17に係る発明に対応)について
(1)甲第1号証を主引例とする場合
本件発明17と甲1’発明とを対比すると、後者の「固定子鉄心」は前者の「固定子コア」に相当し、以下同様に、「固定子巻線」は「固定子コイル」に、「2極空気冷却タービン発電機」は「回転電機」に、「固定子鉄心の両端に位置するプレスリングにより短絡される」という事項は「前記固定子の軸方向に延伸する」という事項に、「はり」は「キーバー」に、「ロゴスキーコイル」は「電流検出器」に、それぞれ相当する。
また、甲1’発明の「前記2極空気冷却タービン発電機の運転中に曲線による計測データの傾向表示をする工程」は、計測データの波形を曲線表示することで傾向を表示していると解することが自然であり、表示された曲線から波形の変化が看取されると解されるため、本件発明17の「前記回転電機の運転中に前記電流の波形の変化を検出する工程」に相当し、甲1’発明の「監視」は本件発明17の「異常検出」に相当する。
したがって、本件発明17と甲1’発明との間には、次の一致点、相違点があるといえる。

<一致点>
「固定子コアと固定子コイルとを備える固定子を備える回転電機の、前記固定子コアの外周部に設けられており前記固定子の軸方向に延伸するキーバーに流れる電流を、前記キーバーに設けられている電流検出器で、前記回転電機の運転中に計測する工程と、
前記回転電機の運転中に前記電流の波形の変化を検出する工程と、
を備える、
回転電機の異常検出方法。」

<相違点5>
固定子の形状に関し、本件発明17では「円筒形」であるのに対し、甲1’発明では形状が明らかではない点。
<相違点6>
電流検出器が検出する電流の波形に関し、本件発明17では「電流の波形の変化は、パルス状の瞬時変化である」のに対し、甲1’発明では、曲線による計測データの傾向表示をしているものの、電流の波形のパルス状の瞬時変化を検出していない点。

事案に鑑みて、相違点6について先に検討する。
上記「第4 4(1)」で検討したとおり、甲第1号証では、電流の波形のパルス状の瞬時変化の検出や、バイブレーションスパーキングの発生の検出を意図していないと解される。また、キーバーに流れる「電流の波形の変化は、パルス状の瞬時変化である」点は、甲第1号証には記載されておらず、本願優先日前において周知技術であるともいえない。さらに、甲第1号証の目的は、上記「第4 2(1)」によれば、新系列2極空気冷却タービン発電機の改善の効果と品質を検証することであるから、計測データの波形をウオッチングする際に、波形の瞬時的なピークを含む波形の変化を見ることが、機器の異常診断や雑音解析分野において周知技術であったとしても、甲1’発明に上記周知技術を適用する動機がない。
そして、本件発明17は相違点6に係る構成を備えることによって、コイルとコアとの間に発生するバイブレーションスパーキングを早期に発見できるといった特有の効果を奏する。
したがって、他の相違点について判断するまでもなく、本件発明17は、当業者であっても甲1’発明及び周知技術に基いて容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(2)甲第2号証を主引例とする場合
本件発明17と甲2’発明とを対比すると、後者の「固定子鉄心」は前者の「固定子コア」に相当し、以下同様に、「ロゴスキーコイル」は「電流検出器」に、「前記タービン発電機の運転中の前記電流についてSolartron1170周波数分析器やオシロスコープ等で分析する工程」は「前記回転電機の運転中に前記電流の波形の変化を検出する工程」に、「タービン発電機」は「回転電機」に、「波形分析」は「異常検出」に、それぞれ相当する。
したがって、本件発明17と甲2’発明との間には、次の一致点、相違点があるといえる。

<一致点>
「固定子コアと固定子コイルとを備える円筒形の固定子を備える回転電機の、前記固定子コアの外周部に設けられており前記固定子の軸方向に延伸するキーバーに流れる電流を、前記キーバーに設けられている電流検出器で、前記回転電機の運転中に計測する工程と、
前記回転電機の運転中に前記電流の波形の変化を検出する工程と、
を備える、
回転電機の異常検出方法。」

<相違点7>
電流検出器が検出する電流の波形に関し、本件発明17では「電流の波形の変化は、パルス状の瞬時変化である」のに対し、甲2’発明ではタービン発電機の運転中の前記電流についてSolartron1170周波数分析器やオシロスコープ等で分析をしているものの、上記「第4 3(7)」のとおり、電流の波形のパルス状の瞬時変化は検出していない点。

相違点7について検討する。
上記「第4 4(2)」で検討したとおり、甲第2号証は、電流の波形のパルス状の瞬時変化の検出や、バイブレーションスパーキングの発生の検出を意図したものではない。また、キーバーに流れる「電流の波形の変化は、パルス状の瞬時変化である」点は、甲第2号証には記載されておらず、本願優先日前において周知技術であるともいえない。さらに、甲第2号証の図5(18頁左欄)の電流波形の図からも計測データの波形を見ていることは明らかであるが、上記「第4 4(2)」で検討したとおり、甲第2号証では、第3高調波成分は基本波電圧の10%未満であり、コアフレーム電流を分析する際に基本波成分のみを考慮すれば十分であると考えているから、甲2’発明は、パルス状の瞬時変化の検出を意図したものではない。したがって、波形の瞬時的なピークを含む波形の変化を見ることが、機器の異常診断や雑音解析分野において周知技術であったとしても、甲2’発明に上記周知技術を適用する動機がない。
そして、本件発明17は相違点7に係る構成を備えることによって、コイルとコアとの間に発生するバイブレーションスパーキングを早期に発見できるといった特有の効果を奏する。
したがって、本件発明17は、当業者であっても甲2’発明及び周知技術に基いて容易に発明をすることができたものであるとはいえない。


第6 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1-15、請求項17に係る特許を取り消すことはできない。
そして、他に本件請求項1-15、請求項17に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
また、本件訂正請求により、請求項16は削除されたため、請求項16に係る特許についての特許異議の申立ては、その対象となる特許が存在しないものとなったから、特許法第120条の8第1項で準用する同法135条の規定により、その申立てを却下する。
よって、結論のとおり決定する。

 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定子コアと固定子コイルとを備える円筒形の固定子と、
前記固定子の内径側に設置された回転子と、
前記固定子コアの外周部に設けられており前記固定子の軸方向に延伸するキーバーと、
前記キーバーに設けられており前記キーバーに流れる電流を計測する電流検出器と、
を備え、
前記電流検出器は、前記固定子コイルと前記固定子コアとの間の放電であるバイブレーションスパーキングが発生した際に生じる、前記キーバーに流れる電流の波形のパルス状の瞬時変化を検出することで、前記バイブレーションスパーキングの発生を検出する、
ことを特徴とする回転電機。
【請求項2】
前記電流検出器を複数備える、請求項1に記載の回転電機。
【請求項3】
前記キーバーは、前記固定子の周方向に複数設けられ、
前記電流検出器は、前記キーバーのそれぞれに設けられる、
請求項2に記載の回転電機。
【請求項4】
前記電流検出器は、前記キーバーの前記軸方向の両端部に設けられる、
請求項2又は3に記載の回転電機。
【請求項5】
前記電流検出器は、前記軸方向に1つだけ設けられる、
請求項1又は3に記載の回転電機。
【請求項6】
前記電流検出器は、前記軸方向に複数設けられる、
請求項1又は3に記載の回転電機。
【請求項7】
前記電流検出器が計測した前記電流のデータに対して信号処理を行う電流処理装置をさらに備える、
請求項1から6のいずれか1項に記載の回転電機。
【請求項8】
前記電流処理装置は、前記電流の波形の高周波成分を取り出す処理を行うフィルタ回路を備える、
請求項7に記載の回転電機。
【請求項9】
前記電流処理装置は、前記電流の波形の高周波成分を増幅する回路を備える、
請求項7に記載の回転電機。
【請求項10】
前記電流検出器が計測した前記電流のデータと前記電流処理装置が信号処理を行った前記電流のデータとのうち、少なくとも1つを表示する表示装置をさらに備える、
請求項7に記載の回転電機。
【請求項11】
前記固定子コイルのコイルエンドに設けられており前記固定子コイルの振動を検出する振動検出装置をさらに備える、
請求項1から10のいずれか1項に記載の回転電機。
【請求項12】
前記固定子コイルのコイルエンドに設けられており前記固定子コイルの振動を検出する振動検出装置をさらに備え、
前記電流処理装置は、前記電流検出器が計測した前記電流のデータと、前記振動検出装置が検出した前記固定子コイルの前記振動のデータとを保存する、
請求項7に記載の回転電機。
【請求項13】
前記固定子コアの前記軸方向の端部領域に設けられており前記固定子コアの磁束密度を検出する磁束密度検出コイルをさらに備える、
請求項1から12のいずれか1項に記載の回転電機。
【請求項14】
前記固定子コアの前記軸方向の外側の空間に設けられており前記固定子コイルから発生した放電を検出する放電検出装置をさらに備える、
請求項1から13のいずれか1項に記載の回転電機。
【請求項15】
前記固定子コイルを固定する固定子ウェッジに設けられており前記固定子コイルの振動を検出する振動検出装置をさらに備える、
請求項1から14のいずれか1項に記載の回転電機。
【請求項16】(削除)
【請求項17】
固定子コアと固定子コイルとを備える円筒形の固定子を備える回転電機の、前記固定子コアの外周部に設けられており前記固定子の軸方向に延伸するキーバーに流れる電流を、前記キーバーに設けられている電流検出器で、前記回転電機の運転中に計測する工程と、
前記回転電機の運転中に前記電流の波形の変化を検出する工程と、
を備え、
前記電流の波形の変化は、パルス状の瞬時変化である、回転電機の異常検出方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2021-08-04 
出願番号 特願2016-248911(P2016-248911)
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (H02K)
P 1 651・ 113- YAA (H02K)
最終処分 維持  
前審関与審査官 小林 紀和  
特許庁審判長 柿崎 拓
特許庁審判官 岡澤 洋
小川 恭司
登録日 2020-05-01 
登録番号 特許第6698514号(P6698514)
権利者 三菱パワー株式会社
発明の名称 回転電機及び回転電機の異常検出方法  
代理人 ポレール特許業務法人  
代理人 ポレール特許業務法人  

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