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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  B32B
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  B32B
管理番号 1378725
異議申立番号 異議2020-700675  
総通号数 263 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-11-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-09-08 
確定日 2021-08-13 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6669468号発明「光透過性導電フィルム、及び、アニール処理された光透過性導電フィルムの製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6669468号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-7〕について訂正することを認める。 特許第6669468号の請求項1、2、4?7に係る特許を維持する。 特許第6669468号の請求項3に係る特許に係る特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6669468号の請求項1?7に係る特許についての出願は、平成27年10月26日に特許出願したものであって、令和2年3月2日にその特許権の設定登録がされ、令和2年3月18日に特許掲載公報が発行された。その特許についての本件特許異議の申立て以降の経緯は、次のとおりである。

令和2年9月8日:特許異議申立人岩崎勇(以下「申立人」という。)による特許異議の申立て
令和2年11月20日付け:取消理由通知書
令和3年1月20日:特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
令和3年3月9日付け:取消理由通知書(決定の予告)
令和3年4月27日:特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
令和3年6月22日:申立人による意見書の提出

なお、令和3年1月20日提出の訂正請求書は、令和3年4月27日に訂正請求書が提出されたことにより、特許法第120条の5第7項の規定より、取り下げられたものとみなす。


第2 訂正の請求についての判断
1 訂正の内容
令和3年4月27日提出の訂正請求書による訂正の請求は、「特許第6669468号の特許請求の範囲を、本訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1?7について訂正することを求める。」ものであり、その訂正(以下「本件訂正」という。)の内容は以下のとおりである。

(訂正事項1)
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1に
「光透過性及び導電性を有する導電層と、
前記導電層の一方の表面側に配置されている保護フィルムと、
前記導電層と前記保護フィルムとの間に配置されている基材とを備え、
前記保護フィルムの水蒸気透過度が10g/(m^(2)・day)以下であり、
前記基材は、基材フィルムとして、ポリエチレンテレフタレートフィルムを有する、光透過性導電フィルム。」とあるのを、
「光透過性及び導電性を有する導電層と、
前記導電層の一方の表面側に配置されている保護フィルムと、
前記導電層と前記保護フィルムとの間に配置されている基材とを備え、
前記保護フィルムが単層であり、
前記保護フィルムの材料が樹脂であり、
前記保護フィルムの水蒸気透過度が10g/(m^(2)・day)以下であり、
前記基材は、基材フィルムとして、ポリエチレンテレフタレートフィルムを有し、
前記基材フィルムの前記保護フィルム側の表面上に、第1のハードコート層が積層されており、
前記基材フィルムの前記導電層側の表面上に、第2のハードコート層が積層されている、光透過性導電フィルム。」に訂正する。(請求項1を引用する請求項2、4?7についても同様に訂正する。)

(訂正事項2)
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項3を削除する。

(訂正事項3)
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項4に
「請求項1?3のいずれか1項に記載の光透過性導電フィルム。」とあるのを、
「請求項1又は2に記載の光透過性導電フィルム。」に訂正する。(請求項4を引用する請求項5?7についても同様に訂正する。)

(訂正事項4)
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項5に
「請求項1?4のいずれか1項に記載の光透過性導電フィルム。」とあるのを、
「請求項1、2、4のいずれか1項に記載の光透過性導電フィルム。」に訂正する。(請求項5を引用する請求項6及び7についても同様に訂正する。)

(訂正事項5)
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項6に
「請求項1?5のいずれか1項に記載の光透過性導電フィルム。」とあるのを、
「請求項1、2、4、5のいずれか1項に記載の光透過性導電フィルム。」に訂正する。(請求項6を引用する請求項7についても同様に訂正する。)

(訂正事項6)
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項7に
「請求項1?6のいずれか1項に記載の光透過性導電フィルム」とあるのを、
「請求項1、2、4?6のいずれか1項に記載の光透過性導電フィルム」に訂正する。

ここで、訂正前の請求項1?7は、請求項2?7が、訂正の請求の対象である請求項1の記載を引用する関係にあるから、本件訂正は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項〔1?7〕について請求されている。

2 訂正の適否
(1)訂正事項1について
ア 訂正の目的
上記訂正事項1は、本件訂正前の請求項1の「保護フィルム」について、「単層であり」、その「材料が樹脂」であるものに限定し、「前記基材フィルムの前記保護フィルム側の表面上に、第1のハードコート層が積層されており、前記基材フィルムの前記導電層側の表面上に、第2のハードコート層が積層されている」ものに限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮に該当する。
イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないこと
上記訂正事項1は、上記アのとおりであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
上記訂正事項1は、訂正前の【請求項3】の記載、本件特許明細書の【0031】?【0039】の記載及び【図1】の記載に基づくものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものである。

(2)訂正事項2について
ア 訂正の目的
上記訂正事項2は、請求項3を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮に該当する。
イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないこと
上記訂正事項2は、上記アのとおりであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
上記訂正事項2は、上記アのとおりであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものである。

(3)訂正事項3?6について
ア 訂正の目的
上記訂正事項3?6は、訂正事項2で請求項3が削除されたことにより、訂正前の請求項4?7において請求項3を引用するものを含んでいたことから、請求項3を引用するものを削除するものである。
したがって、特許請求の範囲の減縮に該当する。
イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないこと
上記訂正事項3?6は、上記アのとおりであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
上記訂正事項3?6は、上記アのとおりであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものである。

(4)小括
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、並びに同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1?7〕について訂正することを認める。


第3 本件特許発明
上記のとおり本件訂正は認められるから、本件特許の請求項1?7に係る発明(以下「本件発明1?7」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1?7に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。
「【請求項1】
光透過性及び導電性を有する導電層と、
前記導電層の一方の表面側に配置されている保護フィルムと、
前記導電層と前記保護フィルムとの間に配置されている基材とを備え、
前記保護フィルムが単層であり、
前記保護フィルムの材料が樹脂であり、
前記保護フィルムの水蒸気透過度が10g/(m^(2)・day)以下であり、
前記基材は、基材フィルムとして、ポリエチレンテレフタレートフィルムを有し、
前記基材フィルムの前記保護フィルム側の表面上に、第1のハードコート層が積層されており、
前記基材フィルムの前記導電層側の表面上に、第2のハードコート層が積層されている、光透過性導電フィルム。
【請求項2】
光透過性導電フィルムを130℃で1時間放置した後に、60℃及び湿度90%で1時間放置したときに、放置前の光透過性導電フィルムに対して放置後の光透過性導電フィルムの寸法変化率が0.1%以下である、請求項1に記載の光透過性導電フィルム。
【請求項3】(削除)
【請求項4】
前記保護フィルムの材料がポリプロピレンである、請求項1又は2に記載の光透過性導電フィルム。
【請求項5】
前記保護フィルムの厚みが25μm以上である、請求項1、2、4のいずれか1項に記載の光透過性導電フィルム。
【請求項6】
前記保護フィルムを130℃で1時間放置したときに、放置前の前記保護フィルムに対して放置後の保護フィルムの収縮率が10%以下である、請求項1、2、4、5のいずれか1項に記載の光透過性導電フィルム。
【請求項7】
請求項1、2、4?6のいずれか1項に記載の光透過性導電フィルムをアニール処理する工程と、
アニール処理後に、前記光透過性導電フィルムを水洗する工程とを備える、アニール処理された光透過性導電フィルムの製造方法。」


第4 令和3年3月9日付け取消理由通知書(決定の予告)で通知した取消理由の概要
1 本件発明1は、本件特許出願前に日本国内において、頒布された甲第1号証に記載された発明であって、本件発明1に係る特許は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものである。
2 本件発明1、2、4?7は、甲第1号証に記載された発明又は甲第2-1号証に記載された発明、及び甲第1、3、4号証記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明1、2、4?7に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
3 本件特許明細書で、具体的に当該課題を解決することを確認しているのは、基材フィルムの両面に特定のハードコート層を設け、さらに、一方のハードコート層上に、保護フィルムを設けたもののみであって、特定のハードコート層を有さない光透過性導電フィルムにおいても、同様の寸法変化率となるとはいえないから、本件特許明細書の記載からは、特定のハードコート層を両面に有さない本件発明が、当該課題を解決するとは、理解できない。
したがって、本件発明1、2、4?7は、本件特許明細書に記載されたものでないから、特許法第36条第6項第1号の規定に違反してされたものである。

<刊行物>
甲第1号証:特開2012-111141号公報
甲第2-1号証:特開2014-209440号公報
甲第2-2号証:特開2002-197926号公報
甲第3号証:特開2009-110897号公報
甲第4号証:特開2001-14952号公報
甲第5号証:葛良忠彦、”包装材料としてのガスバリヤー性高分子”、高分子、2008年、第57巻、12月号、p.974?977
(以下単に「甲1」等という。)


第5 当審の判断
1 新規性進歩性について
(1)本件発明1について
ア 甲1を主引用発明とする理由
(ア)甲1記載事項と甲1発明
甲1には、以下の記載がある。
A「【請求項1】
基材プラスチックフィルムの一方の面にガスバリア機能層を有し、他方の面に透明導電層を有する透明導電性フィルムであって、前記ガスバリア機能層の水蒸気透過度を0.01g/m^(2)/day以下とし、前記透明導電層の水蒸気透過度を1.0g/m^(2)/day以上としたことを特徴とする透明導電性フィルム。」
B「【0008】
具体的には、プラスチックフィルムは吸湿性があり、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムの場合、標準状態で重量比0.2?0.3%程度の水分を保持する。厚み100μmのフィルムの場合、1m^(2)あたり0.2?0.3gの水分を保持することを意味する。そして、上記のようなガスバリア層と透明導電層とを形成した透明導電性フィルムにおいては、表示素子の製造に使用されるまでの搬送および保管の期間において徐々に大気中の水分を吸湿し含有している。そして、この含有水分が、これを用いた液晶表示素子、有機EL素子等の表示素子の表示性能を劣化させるという問題があるため、表示素子の組立時には、この含有水分を除去する必要がある。しかし、上記の透明導電性フィルムを乾燥し含有水分を除去するためには、ITO膜などの透明導電層もガスバリア性を有するため、短時間では困難であり、極めて長時間を必要とする。つまり、上記透明導電性フィルムの透明導電層の水蒸気透過度(WVTR:Water Vapor Transmission Rate)が0.1g/m^(2)/dayで、ガスバリア層の水蒸気透過度(WVTR)が0.01g/m^(2)/dayである場合、約2?3日間の乾燥日数が必要である。この問題は、形成した膜の水蒸気透過度(WVTR)が小さければ小さいほど、また、フィルムの吸水率が高ければ高いほど顕著になる。
【0009】
本発明は、上記課題を解決するもので、水分に対する高いガスバリア性を有するにもかかわらず、プラスチックフィルムが吸湿した含有水分の除去が容易であり、表示素子の表示性能の低下などの問題が生じにくい、液晶表示素子、有機EL素子等の表示素子、および有機薄膜太陽電池などへの用途に適した透明導電性フィルムを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明の透明導電性フィルムは、基材プラスチックフィルムの一方の面にガスバリア機能層を有し、他方の面に透明導電層を有する透明導電性フィルムであって、前記ガスバリア機能層の水蒸気透過度を0.01g/m^(2)/day以下とし、前記透明導電層の水蒸気透過度を1.0g/m^(2)/day以上としたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明の透明導電性フィルムによれば、ガスバリア機能層の水蒸気透過度を極めて小さくしているので、ガスバリア機能層によって水分に対する高いバリア性を確保することができる。一方、透明導電層の水蒸気透過度を大きくしているので、プラスチックフィルムが吸湿した含有水分の除去が容易であり、短時間の乾燥で水分除去が可能である。そして、乾燥後、これを用いて表示素子として組み立てた場合には、ガスバリア機能層によって水分に対する高いバリア性が維持され、プラスチックフィルムの吸湿水分に由来する表示素子の表示性能の低下などの問題が生じにくく、液晶表示素子、有機EL素子等の表示素子、および有機薄膜太陽電池などへの用途に適した透明導電性フィルムとなる。」
C「【0013】
本発明で用いられるプラスチックフィルムの材質は、透明性または透光性を有するものであれば特に限定されず、各種プラスチックフィルムを用いることができる。具体的には、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、シクロオレフィンポリマー(COP)、ポリカーボネート(PC)、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)等のプラスチックフィルムを用いることができ、これらの中でも、安価でかつ強度に優れ、透明性と柔軟性とを兼ね備えている等の観点から、PETフィルムまたはPENフィルムが好ましく、より高品質が求められる用途には、耐熱性ほか諸特性に優れているPENフィルムが特に好ましい。また、プラスチックフィルムの厚さは、25?200μmが好ましい。なお、本発明では、ガスバリア機能層および透明導電層を形成したプラスチックフィルムを基材プラスチックフィルムと称し、透明導電層を形成していない他のプラスチックフィルムをカバープラスチックフィルムと称している。
そして、基材プラスチックフィルムおよびカバープラスチックフィルムの材質および厚さは、それぞれ異なっても良いが、生産性や品質の安定性の面から同一であることが好ましい。」
D「【0017】
さらに、ガスバリア層は、有機膜と無機膜とを交互に積層した構造とすることや、2層以上の金属酸化物の層を積層した構造とすることも、水蒸気バリア性を高め、水蒸気透過度を極めて小さくできるので、好ましい。」
E「【0024】
〔ガスバリアフィルムの作製〕
まず、作製した3種のガスバリアフィルムNo.1?3の内容と作製方法について、具体的に説明する。
【0025】
ガスバリアフィルムNo.1は、以下のようにして作製した。まず、プラスチックフィルムとして、厚さ100μmのPENフィルムを準備した。このPENフィルムの一面に、乾燥膜厚100nmのウレタンアクリレートを形成し、これにパーヒドロポリシラザンを塗布し加水分解して酸化ケイ素を主成分とする50nmの膜を形成して、平坦化コーティングを施した。PENフィルムに平坦化コーティング(UC)を施した後、スパッタリング法で酸化ケイ素(SiOx)を膜厚100nm積層し、ガスバリア層を形成したフィルムを得た。得られたフィルムを2枚用意し、ガスバリア層側同士を、アクリル系接着層25μmを介して貼り付けて、ガスバリアフィルムNo.1を作製した。
【0026】
具体的には、ガスバリアフィルムNo.1は、PENフィルム/UC/スパッタリングSiOx100nm/接着層/スパッタリングSiOx100nm/UC/PENフィルムという構成である。そして、このガスバリアフィルムNo.1の水蒸気透過度は、0.0001g/m^(2)/day未満であった。」
F 甲1発明
甲1の【請求項1】に着目すると、甲1には、以下の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されている。
「基材プラスチックフィルムの一方の面にガスバリア機能層を有し、他方の面に透明導電層を有する透明導電性フィルムであって、前記ガスバリア機能層の水蒸気透過度を0.01g/m^(2)/day以下とし、前記透明導電層の水蒸気透過度を1.0g/m^(2)/day以上とした透明導電性フィルム。」

(イ)対比
本件発明1と甲1発明とを対比する。
A 甲1発明の「基材プラスチックフィルム」、「ガスバリア層」及び「透明導電層」は、それぞれ本件発明1の「基材」、「保護フィルム」及び「光透過性及び導電性を有する導電層」に相当する。
B 甲1発明の「基材プラスチックフィルムの一方の面にガスバリア機能層を有し、他方の面に透明導電層を有する」態様は、透明導電層の一方側にガスバリア機能層が配置され、透明導電層とガスバリア機能層との間に基材プラスチックフィルムが配置されていることであるから、本件発明1の「前記導電層の一方の表面側に配置されている保護フィルムと、前記導電層と前記保護フィルムとの間に配置されている基材とを備え」る態様に相当する。
C 甲1発明の「前記ガスバリア機能層の水蒸気透過度を0.01g/m^(2)/day以下と」することは、本件発明1の「前記保護フィルムの水蒸気透過度が10g/(m^(2)・day)以下であ」ることに相当する。

したがって、本件発明1と甲1発明とは、以下の点で一致し、相違する。
<一致点1>
「光透過性及び導電性を有する導電層と、
前記導電層の一方の表面側に配置されている保護フィルムと、
前記導電層と前記保護フィルムとの間に配置されている基材とを備え、
前記保護フィルムの水蒸気透過度が10g/(m^(2)・day)以下である、光透過性導電フィルム。」

<相違点1>
本件発明1は、「前記基材は、基材フィルムとして、ポリエチレンテレフタレートフィルムを有する」のに対して、甲1発明は、基材プラスチックフィルムの材料が具体的に特定されていない点。
<相違点2>
本件発明1は、「前記保護フィルムが単層であり、前記保護フィルムの材料が樹脂であ」るのに対して、甲1発明は、保護フィルムの材質が具体的に特定されていない点。
<相違点3>
本件発明1は、「前記基材フィルムの前記保護フィルム側の表面上に、第1のハードコート層が積層されており、前記基材フィルムの前記導電層側の表面上に、第2のハードコート層が積層されている」のに対して、甲1発明は、そのように特定されていない点。
(ウ)判断
<相違点2及び3について>
まず上記相違点2及び3について検討する。
本件発明1は、「前記保護フィルムが単層であり、前記保護フィルムの材料が樹脂であ」るから、保護フィルムは、樹脂の単層で形成されるものである。
一方、甲1の【0017】に「ガスバリア層は、有機膜と無機膜とを交互に積層した構造とすることや、2層以上の金属酸化物の層を積層した構造とすることも、水蒸気バリア性を高め、水蒸気透過度を極めて小さくできるので、好ましい。」と記載されており、【0024】?【0026】に具体的に「PENフィルム/UC/スパッタリングSiOx100nm/接着層/スパッタリングSiOx100nm/UC/PENフィルム」が記載されているから、甲1発明のガスバリア機能層が樹脂の層を含むことは記載されているが、樹脂の単層で形成することまでは、記載されておらず、相違点2は実質的な相違点である。
申立人は、この点について、令和3年6月22日提出の意見書において、参考資料1(特開2014-209440号公報)及び参考資料2(特開2015-30157号公報)に記載されるように「導電層/第1のハードコート層/基材/第2のハードコート層/保護フィルム」の光透過性導電フィルム(以下「5層からなる光透過性導電フィルム」という。)は周知であるから、甲1発明において、相違点2及び3に係る本件発明1の事項とすることは、当業者が容易に想到し得たことである旨主張する。
しかし、甲1発明の「ガスバリア機能層」は、甲1の【0007】?【0011】を参照すると、水分に対する高いガスバリア性を目的とするものであるのに対し、申立人が令和3年6月22日提出の意見書に添付した参考資料1(【0058】等)及び参考資料2(【0002】?【0007】、【0016】等)に記載された「保護フィルム」は、いづれも水分に対する高いバリア性を備えるために上記5層からなる光透過性導電フィルムの構造を備えるものではないから、上記5層からなる光透過性導電フィルムが周知のものであるとしても、甲1発明において、それを採用する動機付けはない。
そして、本件発明1は、上記相違点2及び3に係る事項を有することで、アニール処理及び水洗処理されても、寸法変化し難い光透過性導電フィルムを得るという格別の効果(【0008】)を奏するものである。
よって、本件発明1の上記相違点2及び3に係る構成は、当業者が容易に想到し得たものではない。

(ウ)小括
したがって、本件発明1は、上記相違点1について検討するまでもなく、甲1に記載された発明であるとはいえず、甲1発明及び周知の事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

イ 甲2-1を主引用発明とする理由
(ア)甲2-1記載事項と甲2-1発明
甲2-1には、以下の記載がある。
A「【技術分野】
【0001】
本発明は、積層フィルム及びそのフィルムロール、並びにそれから得られうる光透過性導電性フィルム及びそれを利用したタッチパネルに関する。」
B「【0012】
【図1】光透過性支持層(A-1)の片面に光透過性導電層(A-2)が配置されている光透過性導電性フィルム(A)、及び保護フィルム(B)からなる本発明の積層フィルムを示す断面図である。」
C「【0023】
光透過性支持層(A-1)の素材は、特に限定されないが、例えば、各種の有機高分子等を挙げることができる。有機高分子としては、特に限定されないが、例えば、ポリエステル系樹脂、アセテート系樹脂、ポリエーテル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリアクリル系樹脂、ポリメタクリル系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリアセタール系樹脂、ポリ塩化ビニリデン系樹脂及びポリフェニレンサルファイド系樹脂等が挙げられる。ポリエステル系樹脂としては、特に限定されないが、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)及びポリエチレンナフタレート(PEN)等が挙げられる。光透過性支持層(A-1)の素材は、ポリエステル系樹脂が好ましく、中でも特にPETが好ましい。光透過性支持層(A-1)は、これらのうちいずれか単独からなるものであってもよいし、複数種からなるものであってもあってもよい。また、複数の光透過性支持層を粘着剤等で貼り合わせたものであってもよい。複数の光透過性支持層を使用する場合は、同種のものを複数使用してもよいし、複数種のものを使用してもよい。」
D「【0060】
保護フイルム(B)の素材は、特に限定されないが、例えば、ポリエステル、ポリプロピレン及びポリエチレン等が挙げられる。これらの中でも、耐熱性の点においてポリエステルが好ましい。」
E「【0064】
保護フィルム(B)と、光透過性導電性フィルム(A)の熱収縮率を互いに概ね近い数値とすることにより、積層フィルムとしたときにカールしてしまう程度を抑制できる。」
F[【0093】
1.2 実施例1
厚さ125μmの易接着性ポリエステルフィルム(東洋紡株式会社製、商品名:A4300)を光透過性支持層として、その一方の面に、液状のハードコート用材料(H1)をバーコーターで塗布し、さらにその塗工膜を、ドライヤーオーブンを用いて、100℃×1分の条件で加熱乾燥した。次いで、乾燥後の塗工膜に対して紫外線を照射することにより(照射量:300mJ/cm^(2))、光透過性支持層上に厚さ約2μmのハードコート層を配置した。
【0094】
光透過性支持層の他方の面に対しても同一の作業を施すことにより、光透過性支持層の両面に厚さ約2μmのハードコート層が配置されているフィルム(ハードコートフィルム)のロールを得た。このフィルムロールを巻き上げる前にハードコートフィルムの片面に保護フィルムR1をラミネートした。
【0095】
このようにして得られたフィルムの、保護フィルムR1をラミネートした面とは反対側の面に、酸化インジウム95重量%及び酸化スズ5重量%からなる焼結体材料をターゲット材として用いて、DCマグネトロンスパッタリング法により、光透過性導電層を形成した。具体的には、チャンバー内を5×10^(-4)Pa以下となるまで真空排気した後に、かかるチャンバー内にArガス95%及び酸素ガス5%からなる混合ガスを導入し、チャンバー内圧力を0.2?0.3Paとしてスパッタリングを実施した。なお、最終的に得られる透明導電層の膜厚が20nmとなるように、スパッタリングを実施した。得られた膜のアニール処理後(150℃、1時間)のシート抵抗値は150Ω/□であった。」
G「【図1】


H 甲2-1発明
上記の記載に着目すると、甲2-1には、以下の発明(以下「甲2-1発明」という。)が記載されている。
「光透過性支持層(A-1)の片面に光透過性導電層(A-2)が配置されている光透過性導電性フィルム(A)、及び保護フィルム(B)からなる積層フィルム。」

(イ)対比
本件発明1と甲2-1発明とを対比する。
A 甲2-1発明の「光透過性支持層(A-1)」、「光透過性導電層(A-2)」、「保護フィルム」及び「積層フィルム」は、それぞれ本件発明1の「基材」、「光透過性及び導電性を有する導電層」、「保護フィルム(B)」及び「光透過性導電フィルム」に相当する。
B 甲2-1発明の「光透過性支持層(A-1)の片面に光透過性導電層(A-2)が配置されている光透過性導電性フィルム(A)、及び保護フィルム(B)」の態様は、図1を参照すると、保護フィルム(B)、光透過性支持層(A-1)、光透過性導電層(A-2)の順で積層されたものであるから、本件発明1の「前記導電層の一方の表面側に配置されている保護フィルムと、前記導電層と前記保護フィルムとの間に配置されている基材とを備え」る態様に相当する。

そうすると、本件発明1と甲2-1発明とは、以下の点で一致し、相違する。
<一致点2>
「光透過性及び導電性を有する導電層と、
前記導電層の一方の表面側に配置されている保護フィルムと、
前記導電層と前記保護フィルムとの間に配置されている基材とを備える、光透過性導電フィルム。」

<相違点4>
本件発明1は、「前記保護フィルムが単層であり、前記保護フィルムの材料が樹脂であり、前記保護フィルムの水蒸気透過度が10g/(m^(2)・day)以下であ」るのに対して、甲2-1発明は、保護フィルムの材質及び水蒸気透過度が不明である点。
<相違点5>
本件発明1は、「前記基材は、基材フィルムとして、ポリエチレンテレフタレートフィルムを有する」のに対して、甲2-1発明は、光透過性支持層の材料が具体的に特定されていない点。
<相違点6>
本件発明1は、「前記基材フィルムの前記保護フィルム側の表面上に、第1のハードコート層が積層されており、前記基材フィルムの前記導電層側の表面上に、第2のハードコート層が積層されている」のに対して、甲2-1発明は、そのように特定されていない点。

(イ)判断
上記相違点について検討する。
<相違点4及び6について>
甲2-1の【0060】には、「保護フイルム(B)の素材は、特に限定されないが、例えば、ポリエステル、ポリプロピレン及びポリエチレン等が挙げられる。これらの中でも、耐熱性の点においてポリエステルが好ましい。」と記載されているから、甲2-1には、保護フィルムの材質として樹脂を用いることが記載されている。
しかし、甲2-1発明において、保護フィルムを単層で水蒸気透過度が10g/(m^(2)・day)以下のものとする動機はない。
また、申立人は、令和3年6月22日提出の意見書において、上記5層からなる光透過性導電フィルムが周知であって、さらに、参考資料1(【0060】)及び参考資料2(【0020】、【0022】)には、単層の保護層の素材として、ポリプロピレンフィルムを用いる点が記載されており、ポリプロピレンフィルムは、水蒸気透過度が10g/(m^(2)・day)以下である(令和3年6月22日提出の意見書に添付した参考資料3(特開2011-197617号公報の【請求項1】、【0021】、【0022】等)、参考資料4(特開2015-193688号公報の【請求項1】、【0022】)及び参考資料5(特開2004?215218号公報の【0043】)から、甲2-1発明において、相違点4及び6に係る本件発明1の事項とすることは、当業者が容易に想到し得たことである旨主張する。
しかし、上記5層からなる光透過性導電フィルムが周知のものであるとしても、甲2-1発明において、光透過性支持層(A-1)の表裏にハードコート層を設ける動機付けはない。
また、フィルムの水蒸気透過度は、その具体的な成分やフィルムの厚さによって、変化することが技術常識であるから、甲2-1の【0060】の記載から、甲2-1発明の保護フィルムを単層のポリプロピレンフィルムとしたとしても、その水蒸気透過度が10g/(m^(2)・day)以下であるとまではいえない。

そして、本件発明1は、上記相違点4及び6に係る事項を有することで、アニール処理及び水洗処理されても、寸法変化し難い光透過性導電フィルムを得るという格別の効果(【0008】)を奏するものである。
よって、本件発明1の上記相違点4及び6に係る構成は、当業者が容易に想到し得たものではない。

(ウ)小括
したがって、本件発明1は、上記相違点5について検討するまでもなく、甲2-1に記載された発明及び甲1、3?5記載の事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(2)本件発明2、4?7について
本件発明2、4?7は、本件発明1の発明特定事項を全て有し、さらに限定を加えるものであるから、本件発明2?7と甲1発明又は甲2-1発明とを対比すると、少なくとも上記<相違点1>?<相違点6>の点で相違する。
そして、<相違点2>、<相違点3>、<相違点4>及び<相違点6>についての判断は、上記<相違点2及び3について>及び<相違点4及び6について>と同じである。

したがって、本件発明2、4?7は、甲1に記載された発明又は甲2-1に記載された発明及び甲1、3?5記載の事項及び周知の事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

2 サポート要件について
本件発明1、2、4?7は、本件訂正により、「前記基材フィルムの前記保護フィルム側の表面上に、第1のハードコート層が積層されており、前記基材フィルムの前記導電層側の表面上に、第2のハードコート層が積層されている」ものに限定されたから、本件特許明細書に記載されたものとなった。
したがって、本件発明1、2、4?7は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たすものである。

第6 令和3年3月9日付け取消理由通知書(決定の予告)に採用しなかった本件特許異議申立の取消理由について
1 実施可能要件(特許法第36条第4項第1号)について
申立人は、「水蒸気透過度が10g/(m^(2)・day)以下」の「保護フィルム」は、どのような保護フィルムであれば発明を実施できるのかが理解できず、実施できない旨主張する。
しかし、本件特許明細書の【0076】?【0078】に保護フィルムとして、どのようなものを用いることができるかが記載されており、実施例として、【0090】に製品名とともに具体的に記載されているから、当該保護フィルムは、当業者が実施できる程度に記載されている。
したがって、本件特許明細書は、特許法第36条第4項第1号の規定を満たすものである。

2 明確性要件(特許法第36条第6項第2号)について
申立人は、「水蒸気透過度が10g/(m^(2)・day)以下」の「保護フィルム」は、不明確である旨主張する。
しかし、本件特許明細書の【0076】?【0078】に保護フィルムとして、どのようなものを用いることができるかが記載されており、実施例として、【0090】に製品名とともに記載されている。また、水蒸気透過度の測定方法は、【0023】に記載されている。
したがって、「水蒸気透過度が10g/(m^(2)・day)以下」の「保護フィルム」は、明確であるから、本件発明1、2、4?7は、特許法第36条第6項第2号の規定を満たすものである。


第7 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1、2、4?7に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1、2、4?7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
また、本件訂正により、請求項3に係る特許は削除されたため、請求項3に対して申立人がした特許異議の申立ては、不適法であって、その補正をすることができないものであることから、特許法第120条の8で準用する特許法第135条の規定により、却下すべきものである。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光透過性及び導電性を有する導電層と、
前記導電層の一方の表面側に配置されている保護フィルムと、
前記導電層と前記保護フィルムとの間に配置されている基材とを備え、
前記保護フィルムが単層であり、
前記保護フィルムの材料が樹脂であり、
前記保護フィルムの水蒸気透過度が10g/(m^(2)・day)以下であり、
前記基材は、基材フィルムとして、ポリエチレンテレフタレートフィルムを有し、
前記基材フィルムの前記保護フィルム側の表面上に、第1のハードコート層が積層されており、
前記基材フィルムの前記導電層側の表面上に、第2のハードコート層が積層されている、光透過性導電フィルム。
【請求項2】
光透過性導電フィルムを130℃で1時間放置した後に、60℃及び湿度90%で1時間放置したときに、放置前の光透過性導電フィルムに対して放置後の光透過性導電フィルムの寸法変化率が0.1%以下である、請求項1に記載の光透過性導電フィルム。
【請求項3】(削除)
【請求項4】
前記保護フィルムの材料がポリプロピレンである、請求項1又は2に記載の光透過性導電フィルム。
【請求項5】
前記保護フィルムの厚みが25μm以上である、請求項1、2、4のいずれか1項に記載の
光透過性導電フィルム。
【請求項6】
前記保護フィルムを130℃で1時間放置したときに、放置前の前記保護フィルムに対して放置後の保護フィルムの収縮率が10%以下である、請求項1、2、4、5のいずれか1項に記載の光透過性導電フィルム。
【請求項7】
請求項1、2、4?6のいずれか1項に記載の光透過性導電フィルムをアニール処理する工程と、
アニール処理後に、前記光透過性導電フィルムを水洗する工程とを備える、アニール処理された光透過性導電フィルムの製造方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2021-08-03 
出願番号 特願2015-210035(P2015-210035)
審決分類 P 1 651・ 113- YAA (B32B)
P 1 651・ 121- YAA (B32B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 清水 晋治  
特許庁審判長 井上 茂夫
特許庁審判官 村山 達也
佐々木 正章
登録日 2020-03-02 
登録番号 特許第6669468号(P6669468)
権利者 積水ナノコートテクノロジー株式会社 積水化学工業株式会社
発明の名称 光透過性導電フィルム、及び、アニール処理された光透過性導電フィルムの製造方法  
代理人 田口 昌浩  
代理人 虎山 滋郎  
代理人 虎山 滋郎  
代理人 特許業務法人 宮▲崎▼・目次特許事務所  
代理人 田口 昌浩  
代理人 虎山 滋郎  
代理人 田口 昌浩  
代理人 田口 昌浩  
代理人 特許業務法人宮▲崎▼・目次特許事務所  
代理人 虎山 滋郎  

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