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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A61F
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  A61F
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  A61F
審判 全部申し立て 2項進歩性  A61F
管理番号 1378744
異議申立番号 異議2020-700988  
総通号数 263 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-11-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-12-17 
確定日 2021-10-01 
異議申立件数
事件の表示 特許第6710303号発明「吸収性物品及びその製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6710303号の請求項1ないし3に係る特許を維持する。 
理由 第1.手続の経緯
特許第6710303号の請求項1?3に係る特許についての出願は、平成31年3月22日(優先権主張 平成31年1月30日)にされた出願であって、令和2年5月28日にその特許権の設定登録がされ、同年6月17日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許について、同年12月17日に特許異議申立人株式会社日本触媒(以下「申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、当審は、令和3年3月29日付けで取消理由を通知した。特許権者は、その指定期間内である同年5月31日に意見書の提出を行った。

第2.本件発明
本件請求項1?3に係る発明(以下「本件発明1」等という。)は、特許請求の範囲の請求項1?3に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
液体不透過性シート、吸収体、及び液体透過性シートを備え、前記液体不透過性シート、前記吸収体及び前記液体透過性シートがこの順に配置されている、吸収性物品であって、
前記吸収体が、吸水性樹脂粒子を含み、
前記吸水性樹脂粒子が、(メタ)アクリル酸及びその塩からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物を含むエチレン性不飽和単量体に由来する単量体単位を有する架橋重合体を含む重合体粒子と、該重合体粒子の表面上に配置された複数の無機粒子と、を含み、
(メタ)アクリル酸及びその塩の割合が前記架橋重合体中の単量体単位全量に対して70?100モル%であり、
下記式(1):
しみわたり指数=無加圧DWの1分値(mL/g)+10倍膨潤時の人工尿通液速度(g/分)・・・(1)
で表される、前記吸水性樹脂粒子のしみわたり指数が10.0以上で、前記無加圧DWの1分値が7.0mL/g以上で、前記10倍膨潤時の人工尿通液速度が1.0g/分以上であり、
前記吸水性樹脂粒子の生理食塩水に対する吸水量が50.0g/g以上である、
吸収性物品。
【請求項2】
前記吸水性樹脂粒子のしみわたり指数が13.0以上である、請求項1に記載の吸収性物品。
【請求項3】
下記式(1):
しみわたり指数=無加圧DWの1分値(mL/g)+10倍膨潤時の人工尿通液速度(g/分)・・・(1)
で表されるしみわたり指数が10.0以上で、前記無加圧DWの1分値が7.0mL/g以上で、前記10倍膨潤時の人工尿通液速度が1.0g/分以上であり、生理食塩水に対する吸水量が50.0g以上である、吸水性樹脂粒子を選別することと、
選別された前記吸水性樹脂粒子を含む吸収体を、液体不透過性シート及び液体透過性シートの間に配置することと、
を含み、
前記吸水性樹脂粒子が、(メタ)アクリル酸及びその塩からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物を含むエチレン性不飽和単量体に由来する単量体単位を有する架橋重合体を含む重合体粒子と、該重合体粒子の表面上に配置された複数の無機粒子と、を含み、
(メタ)アクリル酸及びその塩の割合が前記架橋重合体中の単量体単位全量に対して70?100モル%である、
吸収性物品を製造する方法。」

第3.取消理由通知の概要
本件発明1?3に対して、当審が令和3年3月29日付けで、特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。
1.本件発明1?2は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
2.本件発明1?3は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
<引用文献等一覧>
引用文献1:国際公開第2016/104374号

第4.取消理由に対する当審の判断
1.引用文献1に記載された事項、引用文献1に記載された発明
引用文献1には、以下の記載がある(下線は当審が付した。以下同様。)。
(1)「技術分野
[0001] 本発明は、吸水性樹脂組成物に関する。更に詳しくは、優れた吸水性能、即ち高い保水性能、高い液体吸引性能を有し、かつ通液性にも優れる吸水性樹脂組成物に関する。
背景技術
[0002] 紙おむつ、生理用ナプキン、失禁パッド等の衛生材料における吸収性物品は、身体に接触する側に配された液体透過性シートと、身体に接触する側の反対側に配された液体不透過性シートとの間に、吸収体が保持された構造を有している。また、吸収体は、体から排泄される尿や血液等の水性液体を吸収して保持する性質を有し、通常、吸水性樹脂と親水性繊維を主成分として構成されている。」
(2)「[0006] しかしながら、吸収体を薄型にするために、嵩高い親水性繊維を減らして、その分の吸収量を補うために吸水性樹脂の保水能等の吸水性能を高める必要がある。しかしながら、吸水性樹脂の保水能等の吸水性能を高めると、吸水後の膨潤ゲルがゲルブロッキングを起こしやすいために、吸収体や吸収性物品において液体がスムーズに吸収されにくくなったり、吸収後の尿や体液の戻り量が増加する問題があった。」
(3)「[0014] 本発明において用いられる水溶性エチレン性不飽和単量体としては、例えば、(メタ)アクリル酸(本明細書においては「アクリ」及び「メタクリ」を合わせて「(メタ)アクリ」と表記する。以下同様。)、マレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸等のα,β-不飽和カルボン酸及びその塩;(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、N-メチロール(メタ)アクリルアミド、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート等の非イオン性単量体;N,N-ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N-ジエチルアミノプロピル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド等のアミノ基含有不飽和単量体及びその4級化物等;ビニルスルホン酸、スチレンスルホン酸、2-(メタ)アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、2-(メタ)アクリロイルエタンスルホン酸及びそれらの塩等のスルホン酸系単量体等が挙げられる。これらの水溶性エチレン性不飽和単量体は、単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
[0015] 前記水溶性エチレン性不飽和単量体のなかでも、工業的に入手が容易である点から、(メタ)アクリル酸及びその塩、(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミドが好適に用いられる。さらに、得られる吸水性樹脂の吸水性能が高いという観点から、(メタ)アクリル酸及びその塩がより好適に用いられる。前記(メタ)アクリル酸及びその塩に、他の水溶性エチレン性不飽和単量体を共重合させて用いる場合もある。この場合、前記(メタ)アクリル酸及びその塩は、主となる水溶性エチレン性不飽和単量体として、総水溶性エチレン性不飽和単量体に対して70?100モル%用いられることが好ましい。」
(4)「[0057] このようにして、水溶性エチレン性不飽和単量体をアゾ系重合開始剤存在下で重合させることにより得られる吸水性樹脂に、湿潤促進剤を添加することで、以下(A)?(D)の性能を満たす吸水性樹脂組成物が得られる。
(A)生理食塩水保水能が、38?44g/g
(B)無加圧DWの5分値が、50mL/g以上
(C)無加圧DWの60分値が、60mL/g以上
(D)生理食塩水通液速度が、5g/分以上」
(5)「[0066] (3)生理食塩水通液速度
図2に概略構成を示す測定装置を用いて測定した。測定部は、ナイロンメッシュシート(250メッシュ)が接着された、内径19mm、外径25mm、高さ120mmで、約30gの重さを有するプレキシグラス製の円筒状容器(A)21と、同様のナイロンメッシュシートが接着された、内径26mm、外径40mm、高さ80mmのプレキシグラス製円筒状容器(B)22と膨潤ゲル23とから成る。測定部が載置されている金網24は、100mm×100mmのサイズで、2mm四方の格子状開口部を有する。シャーレ25の内径は約90mmである。
測定は、約25℃の室温で行った。円筒状容器(B)22に、あらかじめ250?500μmのサイズに分級した吸水性樹脂組成物0.20gを均一に入れ、上部から円筒状容器(A)21を挿入し、測定部とした。生理食塩水を適量入れたシャーレに、測定部のメッシュ側を浸漬して30分間膨潤させ、膨潤ゲル23を形成した。
次に、測定部全体を空のシャーレ上に移動させ、200gの重りを円筒状容器(A)21の上部にゆっくりと載置し、膨潤ゲル23を3分間荷重した。
あらかじめ空の質量を測定したシャーレ(We)25上に、目開き2mmの金網24を載置し、さらに膨潤ゲル23を含む測定部を載置した。次いで、円筒状容器(A)21の上部から生理食塩水を添加すると同時にストップウォッチをスタートさせた。以降、測定終了まで、液面の高さが円筒状容器(A)の下端から6?7cmを保つように、生理食塩水を適宜追加した。投入から30秒間(0.5分間)が経過するまでに、膨潤ゲル23を通過して流出した生理食塩水を含むシャーレ質量(Wf)を測定し、通液速度(g/分)を、以下の式により求めた。
通液速度(g/分)=(Wf-We)/0.5」
(6)「[0072] 実施例1
還流冷却器、滴下ロート、窒素ガス導入管、撹拌機として、翼径50mmの4枚傾斜パドル翼を2段で有する撹拌翼を備えた内径100mmの丸底円筒型セパラブルフラスコを準備した。このフラスコにn-ヘプタン340gをとり、界面活性剤としてHLB3のショ糖ステアリン酸エステル(三菱化学フーズ社製、リョートーシュガーエステルS-370)0.8gを添加し、60℃まで昇温して界面活性剤を溶解したのち、50℃まで冷却した。
[0073] 別途、500mLの三角フラスコに80質量%のアクリル酸水溶液92gをとり、外部より冷却しつつ、イオン交換水6.8gを加え、更に30質量%の水酸化ナトリウム水溶液102.0gを滴下して75モル%の中和を行ったのち、室温にて撹拌して完全に溶解させた。さらに、2,2’-アゾビス(2-アミジノプロパン)二塩酸塩0.11g、エチレングリコールジグリシジルエーテル20.2mgをイオン交換水36.9gに溶解し加えて、第1段目の単量体水溶液を調製した。
[0074] 撹拌機の回転数を450rpmとして、前記単量体水溶液を前記セパラブルフラスコに添加して、系内を窒素で置換しながら、35℃で30分間保持した後、70℃の水浴に浸漬して昇温し、重合を行うことにより、第1段目の重合後スラリーを得た。
[0075] また、別途、別の500mLの三角フラスコに80質量%のアクリル酸水溶液128.8gをとり、外部より冷却しつつ、イオン交換水9.7gを加え、更に30質量%の水酸化ナトリウム水溶液143.0gを滴下して75モル%の中和を行なったのち、溶解させた。さらに、2,2’-アゾビス(2-アミジノプロパン)二塩酸塩0.15g、エチレングリコールジグリシジルエーテル11.6mgをイオン交換水6.45gに溶解して加え、第2段目の単量体水溶液を調製した。
[0076] 前記重合後スラリーの撹拌回転数を1000rpmに変更した後、22℃に冷却し、前記第2段目の単量体水溶液を系内に添加し、窒素で置換しながら30分間保持したのち、再度、フラスコを70℃の水浴に浸漬して昇温し、重合を行うことにより、第2段目の重合後スラリーを得た。
[0077] 次いで、125℃の油浴を使用して昇温し、水とn-ヘプタンとを共沸することにより、n-ヘプタンを還流しながら、分留管に溜まった水の抜き出し量が計245gになった時点で後架橋剤としてエチレングリコールジグリシジルエーテルの2質量%水溶液4.42gを添加し、内温80℃で2時間保持し反応させた。その後、更に加熱してn-ヘプタンと水とを留去させて乾燥させたものを、850μmの篩を通過させ、球状の1次粒子が凝集した粒子の形態を有する吸水性樹脂220gを得た。この吸水性樹脂100gを分取し、親水性シリカ(エボニックデグサジャパン社:カープレックス#80)を1.00g(吸水性樹脂に対して1.0質量%)添加し、卓上クロスロータリー混合機で30分混合して、実施例1の吸水性樹脂組成物とした。得られた吸水性樹脂組成物の中位粒子径は460μmであった。各性能の測定結果を表1に示す。」
(7)「[0099][表1]


以上を総合し、特に実施例1に注目すると、引用文献1には以下の吸収性物品に係る物の発明(以下、「引用発明」という。)及び製造方法の発明(以下、「引用方法発明」という。)が記載されている。

引用発明
「身体に接触する側に配された液体透過性シートと、身体に接触する側の反対側に配された液体不透過性シートとの間に、吸収体が保持された構造を有した吸収性物品であって、吸収体は、吸水性樹脂と親水性繊維を主成分として構成されており、水溶性エチレン性不飽和単量体としてのアクリル酸を重合させることにより得られる吸水性樹脂に、湿潤促進剤としての親水性シリカを添加し、混合して、吸水性樹脂組成物とし、吸水性樹脂の無加圧DW5分値が61ml/g、無加圧DW60分値が70ml/gであって、生理食塩水を適量入れたシャーレに、測定部のメッシュ側を浸漬して30分間膨潤させた膨潤ゲル23の生理食塩水通液速度が7g/分である、吸収性物品。」

引用方法発明
「身体に接触する側に配された液体透過性シートと、身体に接触する側の反対側に配された液体不透過性シートとの間に、吸収体が保持された構造を有した吸収性物品の製造方法であって、吸収体は、吸水性樹脂と親水性繊維を主成分として構成されており、水溶性エチレン性不飽和単量体としてのアクリル酸を重合させることにより得られる吸水性樹脂に、湿潤促進剤としての親水性シリカを添加し、混合して、吸水性樹脂組成物とし、吸水性樹脂の無加圧DW5分値が61ml/g、無加圧DW60分値が70ml/gであって、生理食塩水を適量入れたシャーレに、測定部のメッシュ側を浸漬して30分間膨潤させた膨潤ゲル23の生理食塩水通液速度が7g/分である、吸収性物品の製造方法。」

2.本件発明1
本件発明1と引用発明を対比する。
引用発明の「液体不透過性シート」は、本件発明1の「液体不透過性シート」に相当し、以下同様に、「吸収体」は「吸収体」に、「液体透過性シート」は「液体透過性シート」に、「吸収性物品」は「吸収性物品」に、「吸水性樹脂」は「吸水性樹脂粒子」に、「水溶性エチレン性不飽和単量体」は「エチレン性不飽和単量体」に、「親水性シリカ」は「無機粒子」に、「生理食塩水通液速度」は「人工尿通液速度」にそれぞれ相当する。
そして、引用発明の「吸水性樹脂」は、単量体としてアクリル酸のみを重合させたものであるから、引用発明の「水溶性エチレン性不飽和単量体としてのアクリル酸を重合させることにより得られる」ことは、本件発明1の「(メタ)アクリル酸及びその塩の割合が前記架橋重合体中の単量体単位全量に対して70?100モル%」であることに相当する。
そうすると、本件発明1と引用発明は、以下の点で一致し、相違する。
<一致点>
「液体不透過性シート、吸収体、及び液体透過性シートを備え、前記液体不透過性シート、前記吸収体及び前記液体透過性シートがこの順に配置されている、吸収性物品であって、
前記吸収体が、吸水性樹脂粒子を含み、
前記吸水性樹脂粒子が、(メタ)アクリル酸及びその塩からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物を含むエチレン性不飽和単量体に由来する単量体単位を有する架橋重合体を含む重合体粒子と、複数の無機粒子とを含み、
(メタ)アクリル酸及びその塩の割合が前記架橋重合体中の単量体単位全量に対して70?100モル%である吸収性物品。」
<相違点1>
無機粒子について、本件発明1は、「該重合体粒子の表面上に配置され」ているのに対し、引用発明は、その配置について特定されていない点。
<相違点2>
本件発明1は、「しみわたり指数=無加圧DWの1分値(mL/g)+10倍膨潤時の人工尿通液速度(g/分)・・・(1)
で表される、前記吸水性樹脂粒子のしみわたり指数が10.0以上で、前記無加圧DWの1分値が7.0mL/g以上で、前記10倍膨潤時の人工尿通液速度が1.0g/分以上」であるのに対し、引用発明は、吸水性樹脂の無加圧DW5分値が61ml/gであって、生理食塩水を適量入れたシャーレに、測定部のメッシュ側を浸漬して30分間膨潤させた膨潤ゲル23の生理食塩水通液速度が7g/分である点。
<相違点3>
吸水性樹脂粒子の生理食塩水に対する吸水量について、本件発明1は、50.0g/g以上であるのに対し、引用発明は、不明である点。

事案に鑑み、まず<相違点2>について検討する。
引用発明の吸水性樹脂組成物は、生理食塩水を適量入れたシャーレに、測定部のメッシュ側を浸漬して30分間膨潤させた膨潤ゲル23の生理食塩水通液速度が7g/分となるものであるものの、吸収性樹脂組成物が大きく膨潤しているほどその通液速度は小さくなるという技術常識もないから、引用発明の吸水性樹脂組成物が30分間膨潤し、ほぼ飽和膨潤しているとしても、ほぼ飽和状態の通液速度から、10倍膨張時の通液速度を推定することはできない。
そもそも、引用文献1には、「吸収性物品の液体漏れを改善するには、吸収体に含まれる吸水性樹脂粒子の集合体に接触した液体を、集合体全体にしみわたり易くすることが重要であると考え」、「液体が吸水性樹脂粒子の集合体に接触してから短時間の間(初期)における吸水性樹脂粒子の吸水速度(DW)と通液速度とが吸収性物品の液体漏れに影響を及ぼす」(本件明細書の段落【0006】)という知見に基づき、飽和膨潤前の10倍膨張の段階での通液速度に着目して、本件発明1の「しみわたり指数=無加圧DWの1分値(mL/g)+10倍膨潤時の人工尿通液速度(g/分)・・・(1)で表される、吸水性樹脂粒子のしみわたり指数が10.0以上で、無加圧DWの1分値が7.0mL/g以上で、10倍膨潤時の人工尿通液速度が1.0g/分以上」とすることついて、記載も示唆もない。また出願前において周知技術であるともいえないから、引用発明において、本件発明1の<相違点2>に係る発明の構成とすることは当業者にとって容易ではない。
したがって、その他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、引用発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものということができない。

3.本件発明2
本件発明2は、本件発明1の発明特定事項を全て含み、更に限定するものであるから、本件発明1と同様の理由から、引用発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものということができない。

4.本件発明3
本件発明3と引用方法発明とを対比すると、以下の点で相違し、その余の点で一致する。
<相違点4>
本件発明3は、「しみわたり指数=無加圧DWの1分値(mL/g)+10倍膨潤時の人工尿通液速度(g/分)・・・(1)
で表される、前記吸水性樹脂粒子のしみわたり指数が10.0以上で、前記無加圧DWの1分値が7.0mL/g以上で、前記10倍膨潤時の人工尿通液速度が1.0g/分以上」であるのに対し、引用方法発明は、吸水性樹脂の無加圧DW5分値が61ml/gであって、生理食塩水を適量入れたシャーレに、測定部のメッシュ側を浸漬して30分間膨潤させた膨潤ゲル23の生理食塩水通液速度が7g/分である点。
<相違点5>
吸水性樹脂粒子の生理食塩水に対する吸水量について、本件発明3は、50.0g/g以上であるのに対し、引用方法発明は、不明である点。
<相違点6>
無機粒子について、本件発明3は、「該重合体粒子の表面上に配置され」ているのに対し、引用方法発明は、その配置について特定されていない点。

まず、<相違点4>について検討する。
上記2.において検討したとおり、引用文献1には、10倍膨潤時の人工尿通液速度を1.0g/分以上とすることの記載も示唆もないから、引用方法発明に基いて、本件発明3の<相違点4>に係る発明の方法とすることは当業者にとって容易ではない。
したがって、その他の相違点について検討するまでもなく、本件発明3は、引用方法発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものということができない。

第5.取消理由に採用しなかった特許異議申立理由について
1.申立人の主張する申立理由のうち、取消理由としなかった申立理由
(1)申立人の主張する甲第2、4?6、9、10、21、22、25号証に基づく特許法第29条第1項第3号及び特許法第29条第2項に係る理由
ア.本件発明1?3は、甲第2号証に記載された発明であるか、甲第2号証の記載に基づき容易に想到できる。
イ.本件発明1?3は、甲第4号証に記載された発明であるか、甲第4号証の記載に基づき容易に想到できる。
ウ.本件発明1?3は、甲第5号証に記載された発明であるか、甲第5号証の記載に基づき容易に想到できる。
エ.本件発明1?3は、甲第6号証に記載された発明であるか、甲第6号証の記載に基づき容易に想到できる。
オ.本件発明1?3は、甲第9号証に記載された発明であるか、甲第9号証の記載に基づき容易に想到できる。
カ.本件発明1?3は、甲第10号証に記載された発明であるか、甲第10号証の記載に基づき容易に想到できる。
キ.本件発明1?3は、甲第21号証に記載された発明であるか、甲第21号証の記載に基づき容易に想到できる。
ク.本件発明1?3は、甲第22号証に記載された発明であるか、甲第22号証の記載に基づき容易に想到できる。
ケ.本件発明1?3は、甲第25号証に記載された発明であるか、甲第25号証の記載に基づき容易に想到できる。
(2)申立人の主張する甲第3?5、7、8号証に基づく特許法第29条第1項第3号に係る理由
ア.本件発明1?3は、甲第3号証及びその実施例2に記載された発明である。
イ.本件発明1?3は、甲第4号証及びその実施例32に記載された発明である。
ウ.本件発明1?3は、甲第5号証及びその実施例2、実施例11-5に記載された発明である。
エ.本件発明1?3は、甲第7号証及びその実施例3に記載された発明である。
オ.本件発明1?3は、甲第8号証及びその実施例3に記載された発明である。
(3)申立人の主張する甲第1号証及び甲第4号証に基づく特許法第29条第2項に係る理由
本件発明1?3は、甲第1号証の記載と、甲第4号証の記載とを組み合わせることによって容易に想到できる。
(4)申立人の主張する特許法第36条第4項第1号及び特許法第36条第6項第1号に係る理由
ア.本件明細書の発明の詳細な説明は、本件発明1?3を当業者が実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものではない。
イ.本件発明1?3は、発明の詳細な説明に記載されたものではない。

<証拠方法一覧>
甲第1号証:国際公開第2016/104374号(引用文献1)
甲第2号証:特開2009-19065号公報
甲第3号証:特開2006-68731号公報
甲第4号証:特開2005-111474号公報
甲第5号証:国際公開第2017/170605号
甲第6号証:国際公開第2018/155591号
甲第7号証:特開平9-124955号公報
甲第8号証:国際公開第2008/15980号
甲第9号証:特表2009-531158号公報
甲第10号証:国際公開第2015/129917号
甲第21号証:国際公開第2012/043821号
甲第22号証:特開2004-261797号公報
甲第25号証:特開2012-12451号公報

2.上記主張についての検討
(1)申立人の主張する甲第2、4?6、9、10、21、22、25号証に基づく特許法第29条第1項第3号及び特許法第29条第2項に係る理由
ア.上記1.(1)ア.について
甲第2号証に記載された発明(以下、「甲2発明」等という。)は、加圧通液速度の測定において、重合体粒子1.0gを0.9%食塩水約150mLの入ったビーカー中に30分間浸漬し、十分に膨潤させるものであるが、30分間膨潤させた時点で何倍膨潤しているものであるのか不明である。
そうすると、30分間膨潤させた時点での通液速度は、何倍膨潤させた時点での通液速度であるのか不明であって、10倍膨潤時の通液速度とは言えない。
したがって、本件発明1?3と甲2発明を対比すると、本件発明1?3が「しみわたり指数=無加圧DWの1分値(mL/g)+10倍膨潤時の人工尿通液速度(g/分)・・・(1)
で表される、前記吸水性樹脂粒子のしみわたり指数が10.0以上で、前記無加圧DWの1分値が7.0mL/g以上で、前記10倍膨潤時の人工尿通液速度が1.0g/分以上」であるのに対し、甲2発明は不明である点で相違し、上記相違点は実質的な相違点である。
よって、甲2発明は本件発明1?3ではない。
また、本件発明1?3で特定された「しみわたり指数=無加圧DWの1分値(mL/g)+10倍膨潤時の人工尿通液速度(g/分)・・・(1)
で表される、前記吸水性樹脂粒子のしみわたり指数が10.0以上で、前記無加圧DWの1分値が7.0mL/g以上で、前記10倍膨潤時の人工尿通液速度が1.0g/分以上」とする構成について、甲第1?10、21、22、25号証に記載も示唆もなく、また出願前において周知技術であるともいえないから、甲2発明において、本件発明1?3の上記構成とすることは当業者にとって容易ではない。
イ.上記1.(1)イ.について
申立人が提出した甲第12号証(実験成績証明書)によると、甲第4号証に記載された実施例32の吸収剤と、当該実施例32の吸収剤とほぼ同一の方法によって調製した吸収剤とでは、吸収剤の吸収性能に関わる「CRCs(0.9重量%食塩水の吸収倍率)」、「SFC(0.69重量%食塩水流れ誘導性)」、「AAPs(0.9重量%食塩水の加圧下吸収倍率)」において、測定結果が異なっている。
そうすると、甲第4号証に記載された実施例32の吸収剤は、その調製方法によっては吸収性能が変化し得るものであるから、甲第12号証で調製された吸収剤の測定結果が、「しみわたり指数=無加圧DWの1分値(mL/g)+10倍膨潤時の人工尿通液速度(g/分)・・・(1)
で表される、前記吸水性樹脂粒子のしみわたり指数が10.0以上で、前記無加圧DWの1分値が7.0mL/g以上で、前記10倍膨潤時の人工尿通液速度が1.0g/分以上」であったとしても、甲4発明が、そのようなものであるとはいえない。
したがって、本件発明1?3と甲4発明を対比すると、本件発明1?3が「しみわたり指数=無加圧DWの1分値(mL/g)+10倍膨潤時の人工尿通液速度(g/分)・・・(1)
で表される、前記吸水性樹脂粒子のしみわたり指数が10.0以上で、前記無加圧DWの1分値が7.0mL/g以上で、前記10倍膨潤時の人工尿通液速度が1.0g/分以上」であるのに対し、甲4発明は不明である点で相違し、上記相違点は実質的な相違点である。
よって、甲4発明は本件発明1?3ではない。
そして、甲第4号証には、10倍膨潤時の人工尿通液速度を1.0g/分以上とすることの記載も示唆もないから、甲4発明に基いて、本件発明1?3の構成とすることは当業者にとって容易ではない。
ウ.上記1.(1)ウ.について
甲5発明は、粒子状吸水剤の食塩水流れ誘導性(SFC)が4(×10^(-7)・cm^(3)・s・g^(-1))であるが、甲第19号証に示される10倍膨潤時の人工尿通液速度とSFCの相関関係を示すグラフを参照しても、当該相関関係を示すグラフが十分に立証されていないため、食塩水流れ誘導性(SFC)が4(×10^(-7)・cm^(3)・s・g^(-1))である場合には、10倍膨潤時の人工尿通液速度5g/minとなることが読み取れない。
したがって、本件発明1?3と甲5発明を対比すると、本件発明1?3が「しみわたり指数=無加圧DWの1分値(mL/g)+10倍膨潤時の人工尿通液速度(g/分)・・・(1)
で表される、前記吸水性樹脂粒子のしみわたり指数が10.0以上で、前記無加圧DWの1分値が7.0mL/g以上で、前記10倍膨潤時の人工尿通液速度が1.0g/分以上」であるのに対し、甲5発明は不明である点で相違し、上記相違点は実質的な相違点である。
よって、甲5発明は本件発明1?3ではない。
そして、甲第5号証には、10倍膨潤時の人工尿通液速度を1.0g/分以上とすることの記載も示唆もないから、甲5発明に基いて、本件発明1?3の構成とすることは当業者にとって容易ではない。
エ.上記1.(1)エ.について
上記ウ.と同様の理由により、甲6発明は本件発明1?3ではない。
そして、甲6発明に基いて、本件発明1?3の構成とすることは当業者にとって容易ではない。
オ.上記1.(1)オ.について
上記イ.と同様の理由により、甲9発明は本件発明1?3ではない。
そして、甲9発明に基いて、本件発明1?3の構成とすることは当業者にとって容易ではない。
カ.上記1.(1)カ.について
上記ウ.と同様の理由により、甲10発明は本件発明1?3ではない。
そして、甲10発明に基いて、本件発明1?3の構成とすることは当業者にとって容易ではない。
キ.上記1.(1)キ.について
甲第21号証には、10倍膨潤時の人工尿通液速度を1.0g/分以上とすることの記載も示唆もないから、甲21発明は本件発明1?3ではない。
そして、甲21発明に基いて、本件発明1?3の構成とすることは当業者にとって容易ではない。
ク.上記1.(1)ク.について
甲第22号証には、10倍膨潤時の人工尿通液速度を1.0g/分以上とすることの記載も示唆もないから、甲22発明は本件発明1?3ではない。
そして、甲22発明に基いて、本件発明1?3の構成とすることは当業者にとって容易ではない。
ケ.上記1.(1)ケ.について
甲第25号証には、10倍膨潤時の人工尿通液速度を1.0g/分以上とすることの記載も示唆もないから、甲25発明は本件発明1?3ではない。
そして、甲25発明に基いて、本件発明1?3の構成とすることは当業者にとって容易ではない。

(2)申立人の主張する甲第3?5、7、8号証に基づく特許法第29条第1項第3号に係る理由
ア.上記1.(2)ア.について
申立人が提出した甲第11号証(実験成績証明書)によると、甲第3号証に記載された実施例2の粒子状吸収剤と、当該実施例2の粒子状吸収剤とほぼ同一の方法によって調製した粒子状吸収剤とでは、粒子状吸収剤の吸収性能に関わる「無加圧下吸収倍率」、「1.9KPaでの加圧下吸収倍率」、「16時間水可溶分」、「吸収速度」、「質量平均粒子径D50」、「対数標準偏差」において、測定結果が異なっている。
そうすると、甲第3号証に記載された実施例2の粒子状吸収剤は、その調製方法によっては吸収性能が変化し得るものであるから、甲第11号証で調製された粒子状吸収剤の測定結果が、「しみわたり指数=無加圧DWの1分値(mL/g)+10倍膨潤時の人工尿通液速度(g/分)・・・(1)
で表される、前記吸水性樹脂粒子のしみわたり指数が10.0以上で、前記無加圧DWの1分値が7.0mL/g以上で、前記10倍膨潤時の人工尿通液速度が1.0g/分以上」であったとしても、甲3発明が、そのようなものであるとはいえない。
したがって、本件発明1?3と甲3発明を対比すると、本件発明1?3が「しみわたり指数=無加圧DWの1分値(mL/g)+10倍膨潤時の人工尿通液速度(g/分)・・・(1)
で表される、前記吸水性樹脂粒子のしみわたり指数が10.0以上で、前記無加圧DWの1分値が7.0mL/g以上で、前記10倍膨潤時の人工尿通液速度が1.0g/分以上」であるのに対し、甲3発明は不明である点で相違し、上記相違点は実質的な相違点である。。
よって、甲第3号証の実施例2に係る発明は本件発明1?3ではない。
イ.上記1.(2)イ.について
上記2.(1)イ.のとおり。
ウ.上記1.(2)ウ.について
上記2.(1)ウ.のとおり。
エ.上記1.(2)エ.について
申立人が提出した甲第14号証(実験成績証明書)によると、甲第7号証に記載された実施例3の吸収剤組成物と、当該実施例3の吸収剤組成物とほぼ同一の方法によって調製した吸収剤組成物とでは、吸収剤組成物の吸収性能に関わる「吸収倍率」、「拡散吸収倍率」、「拡散吸収指数」において、測定結果が異なっている。
そうすると、甲第7号証に記載された実施例3の吸収剤組成物は、その調製方法によっては吸収性能が変化し得るものであるから、甲第14号証で調製された吸収剤組成物の測定結果が、「しみわたり指数=無加圧DWの1分値(mL/g)+10倍膨潤時の人工尿通液速度(g/分)・・・(1)
で表される、前記吸水性樹脂粒子のしみわたり指数が10.0以上で、前記無加圧DWの1分値が7.0mL/g以上で、前記10倍膨潤時の人工尿通液速度が1.0g/分以上」であったとしても、甲7発明が、そのようなものであるとはいえない。
したがって、本件発明1?3と甲7発明を対比すると、本件発明1?3が「しみわたり指数=無加圧DWの1分値(mL/g)+10倍膨潤時の人工尿通液速度(g/分)・・・(1)
で表される、前記吸水性樹脂粒子のしみわたり指数が10.0以上で、前記無加圧DWの1分値が7.0mL/g以上で、前記10倍膨潤時の人工尿通液速度が1.0g/分以上」であるのに対し、甲7発明は不明である点で相違し、上記相違点は実質的な相違点である。
よって、甲第7号証の実施例3に係る発明は本件発明1?3ではない。
オ.上記1.(2)オ.について
申立人が提出した甲第15号証(甲第8号証の実施例3を再現して試験した実験成績証明書)に記載された吸水性樹脂粒子と、甲第8号証の実施例3の記載との間には、測定項目である生理食塩水保水能、加圧吸水能、吸水速度、質量平均粒子径の4項目において、測定値にずれが生じており、甲第8号証の実施例3を完全に再現できているものとは言えないから、甲第8号証の実施例3の吸水性樹脂粒子の10倍膨潤時の人工尿通液速度が、1.0g/分以上であるか否かは不明である。そもそも、甲第8号証には、吸収剤組成物の10倍膨潤時の人工尿通液速度を測定することは記載されておらず、甲第8号証に、本件発明1の「下記式(1):しみわたり指数=無加圧DWの1分値(mL/g)+10倍膨潤時の人工尿通液速度(g/分)・・・(1)で表される、前記吸水性樹脂粒子のしみわたり指数が10.0以上で、前記無加圧DWの1分値が7.0mL/g以上で、前記10倍膨潤時の人工尿通液速度が1.0g/分以上であ」ることが、記載されているとはいえない。
したがって、本件発明1?3と甲第8号証の実施例3に係る発明を対比すると、本件発明1?3が「しみわたり指数=無加圧DWの1分値(mL/g)+10倍膨潤時の人工尿通液速度(g/分)・・・(1)
で表される、前記吸水性樹脂粒子のしみわたり指数が10.0以上で、前記無加圧DWの1分値が7.0mL/g以上で、前記10倍膨潤時の人工尿通液速度が1.0g/分以上」であるのに対し、甲第8号証の実施例3に係る発明は不明である点で相違し、上記相違点は実質的な相違点である。
よって、甲第8号証の実施例3に係る発明は本件発明1?3ではない。

(3)申立人の主張する甲第1号証及び甲第4号証に基づく特許法第29条第2項に係る理由
引用文献1及び甲第4号証には、10倍膨潤時の人工尿通液速度を1.0g/分以上とすることの記載も示唆もないから、引用発明及び甲4発明に基いて、本件発明1?3の構成とすることは当業者にとって容易ではない。

(4)申立人の主張する特許法第36条第4項第1号及び特許法第36条第6項第1号に係る理由
ア.上記1.(4)ア.について
申立人は、特許異議申立書(以下、「申立書」という。)の第142頁第23行目?第143頁第4行目において、「本件請求項1には無機微粒子の添加量または含有量がなんら規定されていない。それゆえ、当業者は、無機粒子の添加量または含有量が規定されていない場合に、どのようにして、本件発明の請求項1及び2に規定の物性を有する吸水性樹脂粒子を製造することができるかを理解することができない。したがって、本件明細書には本件発明の課題を解決するための手段が開示されているとは言えず、当業者は本件発明1および2を実施することができない。また、本件発明3についても無機粒子の添加量が規定されていないことから、同様に当業者は本件発明3を実施することができない。」と主張する。
しかしながら、本件特許明細書の段落【0063】には、「吸水性樹脂粒子は、重合体の表面上に配置された複数の無機粒子を含んでいてもよい。例えば、重合体粒子と無機粒子とを混合することにより、重合体粒子の表面上に無機粒子を配置することができる。この無機粒子は、非晶質シリカ等のシリカ粒子であってもよい。吸水性樹脂粒子が重合体粒子の表面上に配置された無機粒子を含む場合、重合体粒子の質量に対する無機粒子の割合は、0.2質量%以上、0.5質量%以上、1.0質量%以上、又は1.5質量%以上であってもよく、5.0質量%以下、又は3.5質量%以下であってもよい。・・・」と記載されており、また、段落【0097】には、「表面架橋反応後の反応液から、125℃での加熱により、n-ヘプタンを留去して、重合体粒子(乾燥品)を得た。この重合体粒子を目開き850μmの篩に通過させた。その後、重合体粒子の質量に対して0.5質量%の非晶質シリカ(オリエンタルシリカズコーポレーション、トクシールNP-S)を重合体粒子に混合し、非晶質シリカを含む吸水性樹脂粒子を231.0g得た。該吸水性樹脂粒子の中位粒子径は355μmであった。」と記載されており、無機微粒子、すなわち非晶質シリカの添加量または含有量が明記されているから、上記申立人の主張は根拠がなく採用できない。
イ.上記1.(4)イ.について
(ア)申立人は、申立書の第141頁第5行目?同頁第9行目において、「無機粒子の添加量が本件発明の課題の達成に大きく影響を及ぼすと推察される。ところが、本件請求項1には無機微粒子の添加量または含有量がなんら規定されていないので、[0063]で記載されている好適な添加量を満たさない範囲、すなわち発明の課題が解決できない範囲(例えば比較例1の0.1質量%)を含むことになる。」と主張する。
しかしながら、請求項1には、無加圧DWの1分値が「7.0mL/g以上」と規定されており、本件特許明細書の段落【0120】【表1】を参照すれば、例えば比較例1?4の無加圧DWの1分値(比較例1:0.7、比較例2:3.4、比較例3:3.2、比較例4:2.0)は、いずれも請求項1に記載された範囲外のものであるから、無機微粒子の添加量または含有量がなんら規定されていないことを理由として、発明の課題が解決できない範囲(例えば比較例1の0.1質量%)を含むこととは言えない。
よって、上記申立人の主張は根拠がなく採用できない。
(イ)申立人は、申立書の第144頁第5行目?同頁第8行目において、「無機粉末として非晶質のシリカのみを開示する本件において、甲第23号証の[請求項1]に記載の疎水性無機粉末も含むすべての無機粉末を添加した場合、およびどのような量の無機粉末を添加した場合にも、吸水性樹脂粒子の無加圧DW1分値が7ml/g以上であるとは言えない。」と主張する。
しかしながら、本件特許明細書の段落【0062】には、「本実施形態に係る吸水性樹脂粒子は、重合体粒子のみから構成されていてもよいが、例えば、ゲル安定剤、金属キレート剤、及び流動性向上剤(滑剤)等から選ばれる各種の追加の成分を更に含むことができる。追加の成分は、重合体粒子の内部、重合体粒子の表面上、又はそれらの両方に配置され得る。追加の成分としては、流動性向上剤(滑剤)が好ましく、そのなかでも無機粒子がより好ましい。無機粒子としては、例えば、非晶質シリカ等のシリカ粒子が挙げられる。」と記載されており、また、段落【0063】には、「吸水性樹脂粒子は、重合体の表面上に配置された複数の無機粒子を含んでいてもよい。例えば、重合体粒子と無機粒子とを混合することにより、重合体粒子の表面上に無機粒子を配置することができる。この無機粒子は、非晶質シリカ等のシリカ粒子であってもよい。吸水性樹脂粒子が重合体粒子の表面上に配置された無機粒子を含む場合、重合体粒子の質量に対する無機粒子の割合は、0.2質量%以上、0.5質量%以上、1.0質量%以上、又は1.5質量%以上であってもよく、5.0質量%以下、又は3.5質量%以下であってもよい。ここでの無機粒子は、通常、重合体粒子の大きさと比較して微小な大きさを有する。例えば、無機粒子の平均粒子径が、0.1?50μm、0.5?30μm、又は1?20μmであってもよい。ここでの平均粒子径は、動的光散乱法、又はレーザー回折・散乱法によって測定される値であることができる。無機粒子の添加量が上述の範囲内であることによって、吸水性樹脂粒子の吸水特性、なかでも、しみわたり指数が好適な吸水性樹脂粒子が得られ易い。」と記載されており、「無機粒子」は、「吸水性樹脂粒子の吸水特性、なかでも、しみわたり指数が好適な吸水性樹脂粒子」とするために添加されるものであるから、無機粒子及びその添加量は、しみわたり指数等の数値範囲が本件発明を満たすように、決められるものである。
よって、上記申立人の主張は根拠がなく採用できない。
(ウ)申立人は、申立書の第144頁第15行目?同頁第27行目において、「本件請求項1の10倍膨潤時の人口尿通液速度・・・については上限が規定されていない。しかし、本件明細書の[0114]に記載の測定法によれば、「20gの人工尿」すなわち約20mlの人工尿が「30秒間」で流れる絶対量から、・・・理論的に上限は40ml/分・・・であるので、・・・10倍膨潤時の人口尿通液速度の上限を規定しない本件発明1およびこれを引用する本件発明2は、発明の詳細な説明に記載されたものではない。」と主張する。
しかしながら、本件発明は、初期の吸水速度と吸水後の通液性を反映するしみわたり指数を大きくすることで、吸水性樹脂粒子の集合体に接触した液体が、集合体全体にしみわたり易くなり、吸収性樹脂粒子が液体漏れを抑制するものである。
そうすると、本件発明は、10倍膨潤時の人工尿通液速度の上限によらず下限を特定することで、発明の課題が解決できることを当業者が認識できるものである。
よって、上記申立人の主張は根拠がなく採用できない。
(エ)申立人は、申立書の第145頁第6行目?同頁第14行目において、「本件特許権者は・・・本件の審査過程で・・・拒絶理由に対して提出した意見書・・・にて、吸水性樹脂粒子の吸水特性に関連すると考えられる「無加圧DWの1分値」及び「10倍膨潤時の人工尿通液速度」によって決定される「しみわたり指数」については、「イオンの浸透圧」、「高分子電解質の水との親和力」、及び「橋かけ密度」が支配的であるという技術常識があると述べている。それにも関わらず、本件請求項1では「イオンの浸透圧」、「高分子電解質の水との親和力」及び「橋かけ密度」に影響するアクリル酸の中和率と架橋剤量をなんら規定していない。」と主張する。
しかしながら、本件特許明細書を参照しても、「イオンの浸透圧」、「高分子電解質の水との親和力」及び「橋かけ密度」と、「しみわたり指数」の相関関係については一切記載されておらず、また、「中和率」及び「架橋剤量」が本件発明の必須の構成要件であるとも記載されていないから、請求項1に記載されたしみわたり指数等の数値を満たす限りにおいて、如何なるアクリル酸の中和率、如何なる架橋剤量であっても良いことは当業者にとって自明である。
よって、上記申立人の主張は根拠がなく採用できない。

第6.むすび
以上のとおりであるから、本件発明1?3に係る特許は、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては取り消すことができず、また、他に本件発明1?3に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。



 
異議決定日 2021-09-21 
出願番号 特願2019-55332(P2019-55332)
審決分類 P 1 651・ 536- Y (A61F)
P 1 651・ 113- Y (A61F)
P 1 651・ 121- Y (A61F)
P 1 651・ 537- Y (A61F)
最終処分 維持  
前審関与審査官 石塚 寛和  
特許庁審判長 井上 茂夫
特許庁審判官 村山 達也
藤井 眞吾
登録日 2020-05-28 
登録番号 特許第6710303号(P6710303)
権利者 住友精化株式会社
発明の名称 吸収性物品及びその製造方法  
代理人 福島 直樹  
代理人 清水 義憲  
代理人 沖田 英樹  
代理人 長谷川 芳樹  
代理人 吉住 和之  
代理人 特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK  

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