• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  G06F
管理番号 1378778
異議申立番号 異議2021-700528  
総通号数 263 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-11-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 2021-05-31 
確定日 2021-10-14 
異議申立件数
事件の表示 特許第6796116号発明「センサフィルム、タッチセンサ及び該センサの製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6796116号の請求項1ないし4に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6796116号の請求項1ないし4に係る特許についての出願は、平成30年8月28日に出願され、令和2年11月17日にその特許権の設定登録がされ、令和2年12月2日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許に対し、令和3年5月31日に特許異議申立人 松本文彦(以下、「特許異議申立人」という。)により、特許異議の申立てがされた。

第2 本件発明
特許第6796116号の請求項1ないし4の特許に係る発明は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
熱により延伸する基材フィルムと、
導電性材料に熱可塑性樹脂が混練された電極材料で前記基材フィルムの少なくとも一面に形成される電極部と、
前記電極部を覆うように形成される絶縁性樹脂材料からなる絶縁層と、
を備え、
前記電極部に練り込まれる熱可塑性樹脂のガラス転移点及び前記絶縁層となる絶縁性樹脂材料のガラス転移点は、前記基材フィルムのガラス転移点よりも低いことを特徴とするセンサフィルム。
【請求項2】
前記熱可塑性樹脂と前記絶縁性樹脂材料の各ガラス転移点が前記基材フィルムのガラス転移点よりも10℃以上低いことを特徴とする請求項1記載のセンサフィルム。
【請求項3】
請求項1記載のセンサフィルムを加熱して所定形状に立体成形してなることを特徴とするタッチセンサ。
【請求項4】
請求項1記載のセンサフィルムを加熱するステップと、
前記センサフィルムの表面側と裏面側に差圧を持たせた状態で加熱により延伸した基材フィルムを基台部に押し付けて立体成形するステップと、
を含むことを特徴とするタッチセンサの製造方法。」

第3 申立理由の概要
特許異議申立人は、主たる証拠として特開2013-89305号公報(以下、「甲1号証」という。)及び従たる証拠として特開平6-188537号公報(以下、「甲2号証」という。)、特開2004-81712号公報(以下、「甲3号証」という。)、国際公開第03/070100号(以下、「甲4号証」という。)、国際公開第2017/081948号(以下、「甲5号証」という。)、特表2017-538247号公報(以下、「甲6号証」という。)、化学工学便覧改訂七版、2011年9月20日、丸善出版株式会社、第101頁ないし第102頁(以下、「甲7号証」という。)、ゼオノアフィルムのカタログ、2013年6月、日本ゼオン株式会社、第3頁ないし第4頁(以下、「甲8号証」という。)を提出し、請求項1ないし4に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、請求項1ないし4に係る特許を取り消すべきものである旨主張する。

第4 甲号証の記載
1 甲1号証には、図面とともに以下の記載がある。

「【技術分野】
【0001】
本発明は、静電容量センサー及びその製造方法並びに配線基板に関する。」

「【0003】
三次元成形された静電容量センサーの一般的な製造方法としては、まず、樹脂等からなるシート上にセンサー電極と配線パターンとを印刷等によって形成する。その後、センサー電極と配線パターンとが形成されたシートを、圧空成形やインサート成形などを用いて三次元成形する。
このような製造方法では、センサー電極と配線パターンが形成されたシートを三次元成形するときに、シート上のセンサー電極や配線パターンの一部が引き延ばされる。これにより、センサー電極や配線パターンの電気抵抗が上昇したり断線したりするという問題がある。」

「【0011】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであって、その目的は、三次元成形されてもセンサー電極の電気抵抗の上昇が抑えられた静電容量センサー及びその製造方法を提供することである。
また、本発明の他の目的は、三次元成形されても配線端部のピッチの変化が少ない配線基板を提供することである。」

「【発明の効果】
【0021】
本発明の静電容量センサー及びその製造方法によれば、三次元成形されてもセンサー電極の電気抵抗の上昇が抑えられている。
また、本発明の配線基板によれば、三次元成形されても配線端部のピッチの変化が少ない。」

「【0023】
(第1実施形態)
本発明に係る静電容量センサーおよびその製造方法の実施形態について説明する。
まず、本実施形態の静電容量センサーの構成について説明する。図1は、本実施形態の静電容量センサーを模式的に示す平面図である。図2は、図1のA-A線における断面図である。図3は、図1のB-B線における断面図である。
図1及び図2に示すように、本実施形態の静電容量センサー1は、三次元成形された静電容量センサーであって、加飾層8、基材2、センサー電極3及び配線4、保護層6、及び補強層7がこの順に積層された層状構造を有する。なお、本明細書では、加飾層8が下にあり、補強層7が上にあるものとして説明を行なうが、静電容量センサー1の製造時及び使用時の上下関係はこの限りでない。また、図1において、静電容量センサー1の形状は便宜的に平板状に図示されているが、静電容量センサー1には、凹凸形状や湾曲形状などを形成するための三次元成形が適宜施されている。また、静電容量センサー1は、三次元成形後、センサー電極3及び配線4を囲む所定の輪郭線L(図1参照)においてトリミングされる。
【0024】
基材2は、板状、シート状、フィルム状、若しくは膜状の部材であり、光透過性を有する。基材2の材質としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、アクリル樹脂製のフィルム、PC/PBTのアロイ、あるいはこれらのラミネート品などを採用することができる。
【0025】
センサー電極3は、基材2の外面に沿って設けられ、導電材料によって形成された光透過性部材である。本実施形態では、センサー電極3は、その厚さ方向から見たときに矩形形状を有している。また、センサー電極3は基材2上に複数設けられており、各センサー電極3がそれぞれ静電容量の変化を検出できるようになっている。センサー電極3の材料としては、ポリチオフェン系導電ポリマー、金属ナノワイヤー、ITO(インジウムスズ酸化物)インク等を採用することができる。なお、ポリチオフェン系導電ポリマーや金属ナノワイヤーなどがセンサー電極3の材料として採用されている場合には、静電容量センサー1の三次元成形時にセンサー電極3が伸びてもセンサー電極3が断線しにくい。
本実施形態では、センサー電極3の材料として透明導電性ポリマー(信越ポリマー株式会社製SEPLEGYDA(登録商標))が採用されている。」

「【0029】
保護層6は、センサー電極3及び配線4を覆うように基材2上に設けられた絶縁性部材であり、センサー電極3及び配線4が腐食したり外力により損傷するのを防止する目的で設けられている。保護層6の材料は、UV硬化型樹脂や熱硬化性樹脂など、所定の処理により硬化する材質であることが好ましい。具体的には、UV硬化型の例としてはアクリル系やウレタンアクリレート系のUV硬化型樹脂、熱硬化型の例としてはアクリル系、ウレタン系、ポリエステル系の熱硬化型樹脂を好適に使用することができる。また、保護層6は、絶縁インキや、インサート成形用インキのクリア(メジウム)によって構成されていてもよい。また、本実施形態では、保護層6は光透過性を有する。」

「【0033】
次に、本実施形態の静電容量センサーの製造方法について、上述の静電容量センサー1を製造する場合を例に説明する。図4は、本実施形態の静電容量センサーの製造方法を示すフローチャートである。図5ないし図8は、同製造方法における一ステップを示す説明図である。図9は、同製造方法により三次元成形された静電容量センサーを示す斜視図である。
【0034】
まず、基材2の外面に沿ってセンサー電極3を形成する(図4に示すステップS1、図5参照)。
ステップS1では、図5に示すように、センサー電極3の材料となるSEPLEGYDA(登録商標)を基材2の外面の所定の位置に印刷等によって付着させ、SEPLEGYDA(登録商標)が付着した基材2を加熱することによりSEPLEGYDA(登録商標)を硬化させる。本実施形態では、SEPLEGYDA(登録商標)の印刷はスクリーン印刷によって行う。また、本実施形態では、SEPLEGYDA(登録商標)の硬化は、SEPLEGYDA(登録商標)が付着した基材2をオーブンに入れて加熱して行なう。なお、センサー電極3の材料として他の材料が採用される場合には、材料に応じて印刷方法や硬化方法を適切に選択することが好ましい。
これでステップS1は終了し、ステップS2へ進む。」

「【0036】
ステップS3は、保護層6を形成するステップである。
ステップS3では、図7に示すように、センサー電極3、配線4、及び補助電極5を覆うように、基材2に、所定の処理により硬化する光透過性レジスト(以下、「第一レジスト6a」と称する。)を印刷する。第一レジスト6aの材料は、上述のUV硬化型樹脂や熱硬化性樹脂からなる絶縁性インキである。第一レジスト6aは、硬化することにより保護層6となる。
これでステップS3は終了し、ステップS4へ進む。」

「【0039】
ステップS6は、平板状の静電容量センサー1aを三次元成形するステップである。
ステップS6では、まず、保護層6及び補強層7に、バインダー(不図示)を印刷する。バインダーは、後述するインサート成形時に成形樹脂との接着力を高める目的で印刷される。
続いて、平板状の静電容量センサー1aを圧空成形により所望の形状に成形する。圧空成形では、平板状の静電容量センサー1aが加熱され、加熱された平板状の静電容量センサー1aを気体の圧力によって雄金型の表面に押し付ける。なお、本実施形態の場合には、平板状の静電容量センサー1aには、基材2側からバインダー側へと圧力がかけられ、平板状の静電容量センサー1aが変形する。図2に、圧力がかかる方向を符号Pを用いて模式的に示している。これにより、例えば図9に示すように、雄金型の表面形状に沿った三次元形状を有する静電容量センサー1が製造される。本実施形態では、ステップ6において、基材2側からバインダー側へと図2に示すように圧力がかけられ、平板状の静電容量センサー1aは、バインダー側から基材2側へ向かって凸となるように三次元成形される(図9参照)。このとき、加飾層8は、三次元成形された静電容量センサー1における外面側の最表層となっている。なお、三次元成形によって成形された凹凸形状は、前述の形状には限られない。
なお、必要に応じて、三次元成形後の静電容量センサー1から不要な部分(図1に符号Lで示す範囲の外側部分)を切り取るトリミングを行なってもよい。
また、本実施形態では、ステップS6において三次元成形が終了した後、配線4の他端4b部分(図9に符号Xで示す領域)に上記スティフナー7xを取り付ける。
これでステップS6は終了し、ステップS7へ進む。」

【図2】

【図4】

【図9】

上記記載から、甲1号証には以下の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。

「三次元成形された静電容量センサであって、加飾層8,基材2、センサ電極3及び配線4、保護層6、及び補強層7がこの順に積層された層状構造を有し、
ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、アクリル樹脂製のフィルム、PC/PBTのアロイ、あるいはこれらのラミネート品などからなる基材2と、
基材2の外面に沿って設けられ、ポリチオフェン系導電ポリマー、金属ナノワイヤー、ITO(インジウムスズ酸化物)インク等からなる導電材料によって形成された光透過性部材であるセンサー電極3と、
センサー電極3を覆うように基材2上に設けられた、UV硬化型樹脂(アクリル系やウレタンアクリレート系のUV硬化型樹脂)や熱硬化性樹脂(アクリル系、ウレタン系、ポリエステル系の熱硬化型樹脂)など所定の処理により硬化する材質からなる、絶縁性部材である保護層6と、
を備える、静電容量センサ1であって、
加熱された平板状の静電容量センサー1を圧空成形により所望の形状に成形することを特徴とする、三次元成形された静電容量センサ1。」

2 甲2号証には、図面とともに以下の記載がある。

「【0001】
【産業上の利用分野】この発明は配線基板に関し、特に熱可塑性樹脂を用いた配線基板の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】電子機器の部品実装方式の多様化に伴い、再加工(再成型)が可能な熱可塑性樹脂成型物に配線導体(回路パタ-ン)を付加する方法が試みられている。
【0003】これまで熱可塑性樹脂成型物に配線導体を形成する方法としては、一般的に次のような方法がとられている。即ち第1の方法としては、成型物の表面に銅などの導体層を設けるために、先ず化学めっき(無電解めっき)を施し、ついで電気めっき(電解めっき)を施す。次に前記電気めっき層上にエッチングレジストを印刷し、所要の露光、現像処理を施してから、配線導体(回路パタ-ン)形成領域以外の前記めっき層を選択的にエッチングして除去する。こうして射出成型品の表面に所要の配線導体を形成してから、前記エッチングレジストを剥離などにより除去し、所望の配線基板を得る。
【0004】第2の方法としては、導電性粉と樹脂結合剤と溶剤より構成された導電性ペーストを、成型物の表面にスクリーン印刷等の方法で付加し、加熱硬化させて所望の配線導体(回路パタ-ン)を形成する。」

「【0006】次に第2の方法では、パターン形成面が立体である場合はスクリーン印刷は困難で、フィルム上に印刷した回路パタ-ンを転写する方法等が試みられているが、やはり工程が繁雑になる。パターン形成面が平面である場合は、所望の配線導体をスクリーン印刷で容易に形成できる。そこで立体配線が必要な場合は、成型物(配線基材)の平面に配線導体を形成してから、再加工(再成型)して立体形状を付与する方法もとられている。
【0007】しかしながら導電ペーストの樹脂結合剤が熱硬化性樹脂であると、再加工(再成型)して立体形状を付与する場合は、再加工による配線基材の塑性変形に配線導体が追随できない。再加工による配線基材の塑性変形に配線導体を追随させるためには、導電ペーストの樹脂結合剤は、熱硬化性樹脂よりも配線基材と同系素材である熱可塑性樹脂の方が好ましいが、配線基材と配線導体の熱可塑性樹脂の組み合せが熱変形温度のような熱的な性質において不適切であると、加熱加圧後の両者のなじみが充分でなく、やはり密着強度が劣る場合があった。加えて熱可塑性樹脂は一般的に耐熱性が低く、配線基板に電子部品等を半田付けすると、配線導体の密着性が落ちパターン剥離等が生ずることがあった。」

「【0011】
【作用】一般に熱可塑性樹脂成型物の熱変形温度より、配線導体の熱変形温度が高いと、加熱加圧して再加工した際、配線導体が成型物の形状変化に追随できず導体の密着性が劣化する。一方配線導体は導電性粉と樹脂結合剤の混合物であるため、その熱変形温度は、結合剤である熱可塑性樹脂の熱変形温度より30?40℃程度高くなる。
【0012】そこで熱可塑性樹脂成型物の熱変形温度より、配線導体の結合剤である熱可塑性樹脂の熱変形温度を40℃以上低くすると、配線導体の熱変形温度は熱可塑性樹脂成型物の熱変形温度以下となり、前記配線導体は前記熱可塑性樹脂成型物再加工時の温度では充分軟化し、その形状変化に追随できるようになる。その結果前記熱可塑性樹脂成型物と前記配線導体の密着性が上がり、再加工により立体配線基板も容易に製造することができる。加えて配線導体を配線基材の表面に埋設することにより、導体密着強度をより大きくすることができる。
【0013】
【実施例】以下、本発明の実施例を図1乃至図10を参照して説明する。
【0014】第1の実施例は、図1に斜視図で示すように0.4mm厚のポリサルホン樹脂(熱変形温度174℃)の基板1上に、導電性ペースト2を10μm厚でスクリーン印刷し,70℃で1時間乾燥して前記導電性ペースト2を硬化し配線導体2´を得た。前記導電性ペースト2は導電剤として粒径2μmの銀粉を92重量部、結合剤としてポリカーボネイト樹脂(熱変形温度132℃)を8重量部、溶剤としてN-メチルピロドリンを30重量部を混合して調整した。この場合の前記基板1と前記導電性ペースト2の結合剤の熱変形温度の差は、42℃であった。
【0015】これを前記ポリサルホン樹脂の熱変形温度以上の温度である240℃に上げると、前記基板1と前記配線導体2´が軟化状態となり、10kg/cm^(2) の条件で一次プレスすると、図2に斜視図で示すように配線導体2´が基板1内に埋設され強固に密着する。この場合の配線導体接着強度は図9に斜視図で示すように2×2mm^(2) の配線導体22に銅めっきを15μm施した後、図10に断面図で示すように直径0.8mmの錫メッキ軟銅線23を、共晶半田24で半田付けし垂直方向に引っ張ったとき、平均0.8kg/mm^(2) の強度が得られた。実用的には0.7kg/mm^(2) 以上あれば充分であり、実用上充分な強度が得られた。次に図2の状態の基板をさらに240℃、10kg/cm^(2) の条件で二次プレスしたものが図3である。このような加工をしても、基板平面部分と加工曲面の境界部3にパターンの断裂は生じなかった。」

「【0024】次に図6の状態の基板をさらに300℃、5kg/cm^(2) の条件で二次プレスして図7の状態を得る。このような加工をしても、基板平面部分と加工曲面の境界部14にパターンの断裂は生じなかった。」

「【0027】ここで基板として使用できる樹脂は、上記実施例の他にポリカーボネイト樹脂、塩化ビニル樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリエチレン樹脂、、ポリアリレート樹脂、ポリエーテルサルホン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリアミド樹脂、、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリアセタール樹脂、アクリル樹脂、ABS樹脂、液晶ポリマ樹脂等、およびこれらの混合物がある。さらに上記の樹脂にガラス繊維、アルミナ繊維、シリカ等の無機物の結晶や粉末を混合したものも使用できる。
【0028】導電ペーストの結合材としては、上記実施例の他に塩化ビニル樹脂、、ポリアリレート樹脂、ポリエーテルサルホン樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリアセタール樹脂等があり、基板として採用した樹脂の熱変形温度より、その熱変形温度が40℃以上低いものを選択すればよい。
【0029】導電ペーストの導電材としては、銀、金、銅、パラジウム、アルミニウム、炭素、白金、ニッケル、タングステン等の粉末或いは合金粉末が使用できるが、導電性、経済性を考慮すると、銀と銅が適当である。
【0030】
【発明の効果】以上説明したように、本発明によれば、熱可塑性樹脂成型物に、この熱可塑性樹脂の熱変形温度より40℃以上低い熱変形温度の熱可塑性樹脂を結合剤とした導電ペーストを用いて配線導体を形成するので、加熱加圧時前記配線導体が前記熱可塑性樹脂成型物の塑性変形に追随でき、さらに前記配線導体が前記熱可塑性樹脂成型物に埋設されるので、前記配線導体の前記熱可塑性樹脂成型物への密着度が向上する。従って板状の配線基板を再加工することにより、容易に立体配線基板を得ることもできる。」

上記記載から、甲2号証には以下の事項(以下、「甲2記載事項」という。)が記載されている。

「熱可塑性樹脂を用いた配線基板において、
熱可塑性樹脂成型物の熱変形温度より、配線導体の結合剤である熱可塑性樹脂の熱変形温度を40℃以上低くすることにより、配線導体の熱変形温度は熱可塑性樹脂成型物の熱変形温度以下となり、前記配線導体は前記熱可塑性樹脂成型物再加工時の温度では充分軟化し、その形状変化に追随できるようになり、その結果前記熱可塑性樹脂成型物と前記配線導体の密着性が上がり、再加工により立体配線基板も容易に製造することができること。」

3 甲3号証には、図面とともに以下の記載がある。

「【0001】
【発明の属する技術分野】
この発明は、病気の治療や診断の医療分野で用いる生体適用の電極装置であり、特に、電極装置の構成要素である電極層や絶縁層の割れの防止を図った電極装置に関する。」

「【0004】
【先の提案】
このような屈曲部をもつ電極装置における大きな技術的課題は、屈曲部の付近で生じやすい電極層や絶縁層の割れを有効に防止することである。電極層の割れは電気的な断線を生じるおそれがあるし、また、絶縁層の割れは電極層を露出し、漏電のおそれがあるので、それらの割れを有効に防止しなければならない。発明者らが、電極層や絶縁層の割れの原因についていろいろ検討したところ、外力を受けるとき、基材フィルムと、その上の電極層および絶縁層との伸びが互いに異なることが割れの主因であることを判明した。電極装置に加わる主な外力は、屈曲部を加工する際の圧縮力であるが、そのほか、電極装置を使用する際に加わる力も外力となりうる。」

「【0006】
【発明の解決すべき課題】
屈曲部における基材フィルム/電極層/絶縁層の伸びの違いは、より上層に位置する絶縁層により大きな影響を与えるであろう。絶縁層の割れをより確実に防止するためには、絶縁層を構成する誘電体として、ガラス転移温度がより低い樹脂を用いることが好ましい。しかし、そのようにガラス転移温度がより低い樹脂を用いた場合、電極装置を積み重ねた際に、隣り合う電極装置が互いに粘着する現象、つまりブロッキングを生じるおそれがあることが新たに判明した。ブロッキングは、電極装置を量産する場合などに、多数の電極装置を取り扱う上で障害となる。そこで、この発明では、基材フィルム上の電極層や絶縁層、特に絶縁層の割れを防止し、しかもまた、ブロッキングをも防止することができる技術を提供することを目的とする。」

「【0007】
【発明の解決手段および好ましい実施形態】
この発明は、ガラス転移温度の異なる二種類の樹脂をブレンド(混合)するとき、ブレンドされた樹脂組成物が、ブレンドした二種類の樹脂のそれぞれのガラス転移温度を独立に示すような特性をもつ、という発見に基づく。先の提案のように、ガラス転移温度が25℃以下、好ましくは0℃以下、さらに好ましくは-20℃以下の樹脂材料を用いることによって、絶縁層の柔軟性を増し、その割れを防止することができる。また、絶縁層を構成する誘電体として、ガラス転移温度が室温以上、好ましくは40℃以上の樹脂材料を用いることによって、ブロッキングを有効に防止することができる。そこで、この発明では、前記の発見に基づいて、絶縁層を構成する誘電体として、ガラス転移温度が25℃以下の低Tg樹脂と、その低Tg樹脂のガラス転移温度よりもガラス転移温度が高い高Tg樹脂とを少なくとも含む樹脂組成物を用いるようにしている。ここで、「少なくとも含む」とは、樹脂のほか樹脂を溶解するための溶剤、また、シリカやベントナイトなどの周知の添加剤を含むという意味、さらには、コスト低減や塗工適正などの観点から、他の樹脂を混合することもできるという意味である。他の樹脂は、この発明の目的を損なわない範囲で少量、たとえば3重量%以下で混合することができる。また、絶縁層を構成する誘電体としては、ポリエステル系、ポリエチレン系、ポリプロピレン系、アクリル系、ポリイミド系などの共重合体を含む電気的絶縁性の各種の樹脂材料を用いることができる。それらの中から、所定のガラス転移温度をもつ低Tg樹脂および高Tg樹脂を適宜選択して用いることができる。その中でも、熱可塑性飽和共重合ポリエステル樹脂は特に好ましい。低Tg樹脂および高Tg樹脂のブレンドに際しては、同系列の樹脂が相溶性などの観点から望ましいが、異種の樹脂でも問題なく混合することができ、混合したものを用いて絶縁層を塗工できるものであれば適用することができる。
【0008】
基材フィルム自体は、前記した特開2000-316991号の公報のものと同様、プラスチックフィルムと金属フィルムとをラミネートした部材を広く適用することができる。使用時に電極装置自体をある程度変形させて皮膚に密着させるようにするため、基材フィルムは、手で容易に屈曲可能であり、しかも、曲げた状態を保持することができるようにすると良い。その点、特開平11-54855号の公報が示すように、プラスチックフィルムと金属フィルムとのそれぞれの厚さを10?200μmとし、しかも、プラスチックフィルムの曲げた状態を元に戻そうとする復元特性と、金属フィルムの曲げた状態を保持しようとする形状保持力とを考慮した層構成にすべきである。金属フィルムの厚さ1に対し、プラスチックフィルムの厚さ2が境界条件であり、この形状保持性のほかコスト等を考慮すると、好ましくは30?100μm、特には、各層の厚さを同等にし、それぞれ40?80μmにすると良い。プラスチックフィルムの材料としては、電気的な絶縁性にすぐれたポリエチレンテレフタレートが好適であるが、そのほか、ポリイミド、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系、あるいはポリエチレンナフタレートを代表としたポリエステル系のものを用いることができる。他方、金属フィルムの材料としては、アルミニウムあるいはその合金が好適であるが、そのほか、銅、すず、銀、金、鉛、あるいはそれらの各合金を用いることもできる。基材フィルムの最も好適なラミネ-ト形態は、金属フィルムの上下面をプラスチックフィルムで挟んだサンドイッチ形態である。
【0009】
屈曲部をもつ電極装置は、基材フィルムの一面に電極層、ついで電極層の少なくとも一部を被うように絶縁層をそれぞれ形成した後、電極層および絶縁層の熱的な破壊を避けるため、冷間プレス加工によって屈曲部(通常は、窪みあるいは凹部を区画し、その内周が容器部分となる)を成形し、その後、所定形状に抜き加工を行うことによって得る。したがって、屈曲部をもつ電極装置は、一般には、屈曲部を境に高さの低い第1部分(窪み)と、高さの高い第2部分(電極端子部)とを備える。基材フィルム上へ電極層や絶縁層を形成するには、スクリーン印刷やグラビア印刷などの印刷を適用するのが好ましい。特に、スクリ-ン印刷によれば、厚さのコントロ-ルがしやすく、しかも、印刷によるパタ-ンを正確に描くことができる。電極層の材料としては、各種の電極材料を適用することができ、印刷で電極層を形成する場合には、たとえば導電性ペーストインキ(特には、カ-ボンを主成分とするインキのように伸びやすいものが好ましい)を用いることができる。また、絶縁層は、電極層の部分が皮膚と直接接触することを防ぐように設けるため、必然的に屈曲部を含むように電極層の上を被う。したがって、絶縁層の厚さは、成形加工に伴って伸びた場合でも、有効な電気的な絶縁性を保つように、たとえば、0.5μm?100μm、より好ましくは1μm?30μmに設定すべきである。
【0010】
【第1の実験例】
この発明を凹部(窪み)をもつアルミラミネートカップタイプの電極装置に適用し、絶縁層の割れおよびブロッキングの発生を確認した。図1が印刷したパタ-ンを示す上面図、図2がその側断面図である。また、図3は、屈曲して窪みを設けた後、抜き加工した後の電極装置の一形態の上面図、図4がその側断面図である。まず、厚さ38μmのアルミニウム板の表面全体に、厚さ25μmのポリエチレンテレフタレートをラミネ-トしたアルミラミネート部材を用意し、それを基材フィルム10とする。その基材フィルム10上、電気絶縁性のポリエチレンテレタレ-トの一面に、銀含量が90%の銀ペ-ストを用いてスクリ-ン印刷により電極層20を厚さ40μmほどに形成した。電極層20は、円形部分201と長方形部分202とを含み、両部分が部分的に重なり合った形状である。電極層20を乾燥させた後、長方形部分202の一部を被うように数種類の誘電体をスクリ-ン印刷により厚さ15μmに塗工し、4角形状の絶縁層30を形成した。数種類の誘電体として、ガラス転移温度Tgが85℃と-29℃の二つの樹脂をブレンドしたものを用いた。ブレンドは、一方の樹脂を85部、75部、75部、65部、50部、25部と変え、しかもまた、比較の意味で100部および0部のもの、つまり、ガラス転移温度Tgが85℃と-29℃との各樹脂をそれぞれ単独に用いたものも比較の意味から準備した。ここで、「部」とは、重量%を意味する。絶縁層30の印刷を終えた後、圧縮成形により窪み50を設け、窪み50の周囲の屈曲部500の部分の割れ(特には絶縁層30の割れ)を確認した。なお、絶縁層30を構成する樹脂としては、熱可塑性飽和共重合ポリエステルを用いた。」

「【0012】
【表1】



「【0013】
表1の結果から次のようなことが分かる。ガラス転移温度85℃の樹脂(高Tg樹脂)を100部にしたサンプル1では、測定総数10個のすべてにおいて絶縁層30の割れが発生している。それに対し、ガラス転移温度-29℃の樹脂(低Tg樹脂)を100部にしたサンプル7をはじめ、その低Tg樹脂と高Tg樹脂とをブレンドしたサンプル2?6の各場合には、絶縁層30の割れは見られない。したがって、絶縁層30の割れの発生を防止するために、ガラス転移温度の低い低Tg樹脂を絶縁層30の誘電体として含ませることが有効である(第1の知見)。一方、高Tg樹脂を100部にしたサンプル1をはじめ、高Tg樹脂の含量が高いサンプル2?5では、ブロッキンブ現象は見られないが、低Tg樹脂を100部にしたサンプル7および低Tg樹脂の含量が高いサンプル6において、ブロッキング現象が見られた。とすると、ブロッキングの防止のためには、ガラス転移温度の高い高Tg樹脂を絶縁層30の誘電体として比較的に多く(たとえば50部以上)含ませることが有効である(第2の知見)。
【0014】
【第2の実験例】
第1の実験例の結果をさらに確認するため、低Tg樹脂としてガラス転移温度1℃のポリエステル系樹脂(ユニチカ株式会社製の商品名:エリ-テルUE‐3223)を用い、また、高Tg樹脂としては、第1の実験例のものと同じガラス転移温度85℃のポリエステル系樹脂(ユニチカ株式会社製の商品名:エリ-テルUE‐9800)を用い、前記の第1の実験例と同様の実験を行った。表2が、それによる第2の実験例の結果を示す。
【0015】
【表2】

【0016】
表2から分かるように、ガラス転移温度1℃の低Tg樹脂を絶縁層30の誘電体として所定以上(20部を越えるよう、好ましくは50部以上)含ませること(サンプル10?14)によって、絶縁層30の割れを防止することができる。これは、前記第1の実験例による第1の知見と同様である。また、ガラス転移温度85℃の高Tg樹脂を絶縁層30の誘電体として所定以上(50部を越えるよう)含ませること(サンプル8?11)によって、ブロッキングの発生を防止することができる。これは、前記第1の実験例による第2の知見と同様である。また、第1および第2の両実験例の結果を比較すると、ブロッキング防止の観点からすると、ガラス転移温度の高い高Tg樹脂を含ませるとともに、ブレンドするガラス転移温度の低い低Tg樹脂として、ガラス転移温度が高めのもの(たとえば、-29℃よりも1℃の樹脂)を選択するのが好ましい(第3の知見)。前記第1の実験例の結果に加えて、第2の実験例の結果をも考慮すると、ガラス転移温度が-20℃以下の低Tg樹脂と、ガラス転移温度が65℃以上の高Tg樹脂とをブレンドする場合、低Tg樹脂を1?50重量部にすれば良いことが分かる。」

「【0020】
ガラス転移温度85℃と67℃の各樹脂に関する表3の結果から、両樹脂ともにブロッキングを防止する上で有効であるが、絶縁層30の割れを防止する上では、ガラス転移温度がより低い67℃の樹脂の方が85℃の樹脂に比べてより効果的なようであり、しかもまた、共役角がより大きい250°の場合に比べて共役角230°の場合の方が有効である。また、高Tg樹脂としてガラス転移温度が40℃の熱可塑性飽和ポリエステル系樹脂(ユニチカ株式会社製の商品名:エリ-テルUE‐3216)、67℃(商品名:エリ-テルUE‐3200)、85℃(商品名:エリ-テルUE‐9800)のものを用い、また、低Tg樹脂としてガラス転移温度が-29℃の熱可塑性飽和ポリエステル系樹脂(ユニチカ株式会社製の商品名:エリ-テルUE‐3401)、-20℃(商品名:エリ-テルUE‐3400)、1℃(商品名:エリ-テルUE‐3223)のものを用い、高Tg樹脂と低Tg樹脂とを1:1の割合で混合し、ブロッキングのテストを行った表4は、前記の第3の知見を明らかにしている。すなわち、ブロッキング防止の観点からは、高Tg樹脂として、ガラス転移温度がより高い樹脂を用いるのが好ましく、しかも、低Tg樹脂としても、絶縁層の割れ防止を損なわない範囲でガラス転移温度がより高い樹脂(たとえば、0℃近くの樹脂)を用いるのが好ましい。また、表4は、ガラス転移温度が1℃以下の低Tg樹脂と、ガラス転移温度が40℃以上の高Tg樹脂とをブレンドする場合、その混合割合を1:1の近傍(たとえば、45/55?55/45)にすると良いことを教えている。なお、表4に関係する実験では、いずれの場合でも絶縁層に微細な割れの発生はなかった。」

上記記載から、甲3号証には以下の事項(以下、「甲3記載事項」という。)が記載されている。

「屈曲部をもつ電極装置において、屈曲部における基材フィルム/電極層/絶縁層の伸びの違いは、より上層に位置する絶縁層により大きな影響を与えることから、絶縁層の割れをより確実に防止するために、絶縁層を構成する誘電体として、ガラス転移温度がより低い樹脂を用いることが好ましいこと。」

4 甲4号証には、図面とともに以下の記載がある。

「技術分野
本発明は、治療や診断の医療分野において用いられる生体適用電極として好適な電極構造体に関するものである。この種の電極構造体は、電気的エネルギーを利用して生体内へ生理活性物質を送達するための装置や、生体内から生体外へ診断物質を抽出するための装置に利用される。」(第1頁5行ないし9行)

「通常、電極構造体には、電解質を含む高分子などのゲルを添加するための窪みが設けられる。電極構造体は例えば次のようにして作製される。まず、端子付き電極層を平坦なフィルム上に塗工し、さらに電極として機能する部位以外に電気的絶縁層を設け、この電極層および絶縁層を塗工した平坦なフィルムを成形することにより、窪みを有するカツプ状の電極構造体を作製する。
しかしながら、従来においては、窪みを有するカップ状の電極構造体を作製する場合、成形時に屈曲加工部において電極層や絶縁層に割れが生ずるという問題があった。このような割れは、電極層の露出により漏電のおそれがあるので是非とも避けなければならない。
従って本発明の目的は、屈曲加工部において電極層や絶縁層に割れの生じにくい電極構造体を提供することにある。
発明の開示
上記目的は、屈曲加工部を有する支持体と、支持体上で屈曲加工部を通して形成された電極層と、屈曲加工部を通る電極層上に形成された絶縁層とを備え、絶縁層を構成する誘電体のうち少なくとも1つの誘電体のガラス転移温度が25℃以下である電極構造体により、達成される。ここで、絶縁層の厚さは0.5μm?100μmとすることができる。また、支持体はポリエチレンテレフ夕レートフィルムまたはアルミニウムに絶縁フィルムをコ一ティングまたはラミネ一卜した絶縁基材から構成することができる。電極層は銀、塩化銀および力一ボンからなる群の少なくとも1つの材料を含むことができる。屈曲加工部を通る電極層の部分は力一ボンを主成分とするペーストにより構成することができる。屈曲加工部の内角及びその共役角は90度?270度とすることができる。
また、本発明に係る電極構造体の製造方法は、支持体上に端子部を有する電極層を形成する工程と、電極層の端子部上にガラス転移温度が25℃以下の誘電体を含む絶縁層を形成する工程と、絶縁層を含む支持体の特定部分を屈曲加工する工程とを含むものである。ここで、絶縁層はスクリーン印刷により形成されることが好ましい。
このように構成することによって、屈曲加工部において電極層や絶縁層に割れの生じにくい電極構造体を得ることができる。」(第1頁23行ないし第3頁3行)

「発明を実施するための最良の形態
以下、本発明の実施の形態について説明する。
図1は、成形前の本発明に係る電極構造体の一構成例を示す図で、(a)は平面図、(b)は(a)のX-X’'断面図である。図示のように、支持体3の上に端子部5を有する電極層1が形成されており、さらに、電極層1の端子部5を含む支持体3の上に絶縁層2が形成されている。絶縁層2は、誘電体のペーストを例えばスクリーン印刷により塗工したものである。
図2は、成形後の本発明に係る電極構造体の一構成例を示す断面図である。図のように、支持体3は、絶縁層2を含む部分において屈曲加工されている。これにより支持体3に窪みが形成される。したがって支持体3は、成形時に形成された屈曲加工部4を有する。電極層1の端子部5は支持体3上で屈曲加工部4を通して外部に引き出されている。絶縁層2は、屈曲加工部4を通る電極層1の端子部5上に位置する。
成形時において電極層や絶縁層に割れを生じる原因は主に次の2つであることを本発明者は見出した。
(1)成形時に絶縁層が延びない。
(2)成形時に電極層がフィルムの延びに追従しない。
本発明はこれらの原因究明をもとになされたものである。
まず、絶縁層に用いられる誘電体を種々試した。その結果、誘電体のガラス転移温度が25℃以下のものを用いると成形時に割れを生じず、さらにガラス転移温度が0℃以下のもの、特に-20℃以下のものを使用することで屈曲加工部の角度が大きい(共役角が大きい)場合にも割れが生じないことを見出した。
誘電体の絶縁層の厚さは、0.5μm?100μm、好ましくは2μm?50μmとされる。この厚さがあれば、絶縁層は、絶縁性を保持したまま柔軟に延びに対応できる。
誘電体の材料としては、例えば、ポリジェン、ポリアクリル、ポリメ タクリル、アクリルアミド、ポリエチレン、ポリビニルエステル、ポリ エステル、ポリウレタン、ポリシロキサン、ポリアミド (ナイロン)、ポリァセタール、ポリプロピレンが挙げられるが、これらに限定されない。
誘電体の塗工方法としてはスクリーン印刷が用いられる。この方法は、塗工厚をコントロールしゃすく、また印刷部位を正確なパターンで描けるなどの点で優れている。
次に、電極層(電極および端子部)は、銀、塩化銀およびカーボンの少なくとも1つを主成分とするペーストを用いるとよい。特に、陽極側の電極材料には銀、 陰極側の電極材料には銀を含む塩化銀(銀/塩化銀)を用いることが分極しないのでよい。また、窪み成形時に電極端子部のストレスがかかる部分、即ち折れ曲がる部分(屈曲加工部)に割れを生じやすい。特にこの部分には、カーボンを主成分とする導電性ペーストを用いるとよい。カーボンを主成分とする導電性ペーストを印刷することで、電極端子部が追従性に富むようになり、電極層の端子部(カーボン層)だけでなく、その上部に積層される絶縁層にまで割れを生じにくくすることを本発明者は見出したのである。このときカーボン層の塗工厚は、0.5μm?100μm、好ましくは1μm?75μm、さらに好ましくは2μm?25μmとされる。この厚さにおいて電極層の端子部は導電性および追従性に優れている。
支持体は、絶縁基材からなり、その上に電極や電極端子が塗工され、さらに窪みを有するカップ状に成形され、その窪みに薬物や電解質ゲルが保持される。そのため、支持体は成形性に富み、また成形後は変形し にくい材料でなければならない。支持体としては、例えば、ポリエチレンテレフタレ一トフイルムがこの条件に当てはまり、しかもこのフィルムは絶縁体なので、支持体として好適に用いることができる。
また支持体として、成形性に優れているアルミニウム等の金属ベースのものを用いることができる。これは導電性であるので、そのまま用いることはできず、これら金属の表面に絶縁コートまたは、ラミネートを施す必要がある。絶縁コートの材料としては、例えば、ポリジエン、ポリアクリル、ポリメタクリル、アクリルアミド、ポリビニルアルコール、ポリエチレン、ポリビニルエステル、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリウレタン、ポリシロキサン、ポリアミド、ポリアセタール、ポリアクリロニトリルが挙げられるが、これらに限定されない。絶縁ラミネートの材料としては、例えば、ポリエステル、ナイロン、ポリプロピレン、ポリエチレン、セロファン、ポリアクリロニトリルが挙げられるが、これに限定されない。」(第3頁12行ないし第5頁23行)

「実験例1
ガラス転移温度が、85,67,45,40,35,25,5,1,-20,-29℃の誘電体を塗工した支持体(絶縁基材)を圧縮成形したときの屈曲加工部における割れの発生を評価した。
(実施例1)
図1に示すように、支持体3として厚さ50μmのアルミ板に厚さ38μmのポリエステルをラミネ一トしたアルミ絶縁フィルムに、端子部5として厚さ約20μmのカーボンペーストをスクリーン印刷により塗工した。また、電極層1として銀含量が90%(W/W)の銀ペーストを厚さ40μmで端子部5と一部重なるように円型に塗工した。乾燥後、絶縁層としてガラス転移温度が25℃の誘電体(ポリエステル系樹脂、東洋紡(株)製、商品名バイロンGK150)を端子部5の一部を覆うようにスクリーン印刷により厚さ15μmで塗工した。これを圧縮成形により図2に示すような窪みを設けた。このときの屈曲加工部4における割れの発生を評価した。」(第6頁20行ないし第7頁8行)

「表1に示すように、共役角230°で加工した場合、誘電体のガラス転移温度が5?-29℃のものは、電極構造体の総数18個中、割れを生じたものは無かった。また、誘電体のガラス転移温度が25℃のものでは割れを生じたものはあったが、わずかであった。また共役角250°で加工した場合、誘電体のガラス転移温度が-20から-29℃のものについては割れを生じたものはなく、また25℃でも割れが発生しないものが観察された。」(第9頁1行ないし7行)

上記記載から、甲4号証には、以下の事項(以下、「甲4記載事項」という。)が記載されている。

「治療や診断の医療分野において用いられる生体適用電極において、
窪みを有するカップ状の電極構造体を作製する場合、成形時に屈曲加工部において電極層や絶縁層に割れが生ずるという問題を解決するために、
屈曲加工部を有する支持体と、支持体上で屈曲加工部を通して形成された電極層と、屈曲加工部を通る電極層上に形成された絶縁層とを備え、絶縁層を構成する誘電体のうち少なくとも1つの誘電体のガラス転移温度が25℃以下とすること。」

5 甲5号証には、図面とともに以下の記載がある。

「技術分野
[0001] この発明は、タッチセンサ用導電積層体に係り、特に、加飾層を有し且つ三次元形状に成形されたタッチセンサ用導電積層体に関する。
また、この発明は、このようなタッチセンサ用導電積層体の製造方法にも関している。」

「発明が解決しようとする課題
[0004] このようなタッチセンサにおいては、紫外線硬化性化合物等を含むインクを用いて、例えばインクジェット方式によりセンサの表面上に加飾層を形成すれば、その後の工程でさらなる加工や修飾が不要となり、オンデマンドで少量多品種のタッチセンサを容易に製造することができる。特に、検出電極部の周辺には、検出電極部からの引き出し配線を含む周辺配線部が存在し、従来は、タッチセンサに周辺縁部材を取り付けて周辺配線部を隠していたが、周辺配線部の上に加飾層を形成して、加飾層により周辺配線部を隠すことができれば、周辺縁部材を取り付ける必要がなくなり、タッチセンサの薄型化および製造工程の簡略化を達成することが可能となる。
しかしながら、タッチセンサを三次元形状に成形する際に、検出電極部および周辺配線部を延伸させることとなるが、紫外線硬化型のインクを用いて加飾層を形成すると、延伸時に検出電極部および周辺配線部等の導電部材の断線、加飾層の割れおよび剥離等の故障を発生して、タッチセンサとしての信頼性および品質の低下を招くおそれがある。」

「課題を解決するための手段
[0006] この発明に係るタッチセンサ用導電積層体は、三次元形状に成形されたタッチセンサ用導電積層体であって、透明な基板と、基板の少なくとも一方の面上に形成された導電層と、導電層の上に形成された紫外線硬化樹脂からなる加飾層とを備え、加飾層は、温度180℃の雰囲気中で引っ張り試験を行ったときに
R(%)=[(破断時の長さ-延伸前の長さ)/延伸前の長さ]×100で表される延伸率Rが10?400%である。」

「[0009] 加飾層を形成する工程は、導電層上に重合性基を有する化合物および重合開始剤を含有する紫外線硬化性インクを打滴する工程と、打滴された紫外線硬化性インクを硬化させる工程とを含むことができる。
紫外線硬化性インクは、ガラス転移温度が25℃?100℃のポリマーを含有していることが好ましい。
[0010] この発明によれば、導電層上に形成された紫外線硬化樹脂からなる加飾層が、温度180?200℃の雰囲気中で引っ張り試験を行ったときに
R(%)=[(破断時の長さ-延伸前の長さ)/延伸前の長さ]×100で表される延伸率Rが10?400%であるので、紫外線硬化樹脂からなる加飾層を有し且つ三次元形状に成形されながらも信頼性および品質の低下を防止することが可能となる。」

「[0018] 加飾層2が、温度180℃の雰囲気中で引っ張り試験を行ったときに10?400%の延伸率Rを有することによって、図1に示したタッチセンサ用導電積層体を、例えば図5に示される箱形状等の三次元形状に成形しても、透明基板1の表面1A上の複数の第1電極11および複数の第1周辺配線12の断線、加飾層2の割れおよび剥離等を発生することがなく、信頼性が高く且つ高品質のタッチセンサを構成することが可能となる。」

「[0046] 紫外線硬化性インクには上述した重合性基を有する化合物(重合性化合物)および重合開始剤以外の成分が含まれていてもよい。
例えば、紫外線硬化性インクは、ガラス転移温度(Tg)が25℃?100℃であるポリマーを含有することが好ましい。なお、上記ポリマーのガラス転移温度は、35℃?95℃であることが好ましく、60℃?90℃であることがより好ましい。
上記ポリマーのガラス転移温度(Tg)が上記範囲内であれば、インクジェット吐出性、基板への密着性および得られる加飾印刷物の耐ブロッキング性に優れ、また、真空成形後のトリミング加工時における後加工割れを抑制することができ、本発明の効果がより優れる。」

「[0061] これに対し、不透明な紫外線硬化樹脂から形成された加飾層2を周辺領域S2だけでなくアクティブエリアS1内の検知電極部の一部まで覆うように形成し、加飾層2で覆われていない検知電極部の残部を表示装置の表示画面に重ねて配置すれば、この検知電極部の残部を表示画面内における検知手段として作用させ、かつ、加飾層2で覆われている検知電極部の一部を表示画面の周辺における検知手段として作用させることが可能となる。
また、タッチセンサを表示装置と組み合わせることなく単独で使用するために、透明な領域を形成する必要がない場合には、タッチセンサのアクティブエリアS1と周辺領域S2の全面を不透明な紫外線硬化樹脂から形成された加飾層2で覆い、周辺領域S2に配置されている周辺配線部とアクティブエリアS1に配置されている検知電極部のすべての上に加飾層2を形成することができる。」

「[0066]<ポリマー1の合成>
n-ブチルメタクリレート10gとメチルメタクリレート10gとの混合液20g、メチルエチルケトン30gを窒素置換した三口フラスコに導入し、撹拌機(新東科学(株)製スリーワンモータ)にて撹拌し、窒素をフラスコ内に流しながら加熱して65℃まで昇温した。
1段階目:上記の混合液に2,2-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル(V-65、和光純薬工業(株)製)を80mgだけ加え、65℃にて30分加熱撹拌を行った。
2段階目:V-65を80mgだけ加え、65℃にて更に1時間加熱撹拌した。
得られた反応液をヘキサン1,000mLに撹拌しながら注ぎ、生じた沈殿を加熱乾燥させることでポリマー1を得た。ポリマー1のガラス転移温度(Tg)は、70℃である。ポリマー1の重量平均分子量(ポリスチレン換算)をGPCにより測定した結果、30,000?35,000の範囲であった。」

「[0091][表5]



「[0095] 評価結果AAは、延伸率Rが400%より大きく、評価結果Aは、延伸率Rが200%以上400%以下、評価結果Bは、延伸率Rが10%以上200%未満、評価結果Cは、延伸率Rが10%未満であることを示している。評価結果がA、Bのいずれかであれば、温度180℃の加熱条件下における延伸性に優れ、加熱加工適性が良好であると評価され、評価結果がCであれば、三次元形状に成形する際に加飾層の加熱時延伸性が不足して、導電層の断線、加飾層の割れおよび剥離等を発生するおそれがあり、評価結果がAAであれば、加飾層の延伸性が大きすぎ、膜厚が不均一な状態となって三次元形状に成形するには問題が生じると評価される。」

「[0098][表6]



「[0101] 実施例5?10および比較例3および4のいずれにおいても、硬化性の評価結果がAとなり、ベトツキを生じない十分な硬化性を示していることが確認された。
また、実施例5?10および比較例3および4のいずれにおいても、密着性の評価結果がAまたはBとなり、優秀な密着性あるいは良好な密着性を示していることが確認された。
加熱時延伸性については、実施例5?10の評価結果がいずれもAまたはBとなり、三次元形状に成形する際に加飾層が十分な加熱時延伸性を有することが確認された。
比較例3は、評価結果がCとなり、加飾層の割れが発生し、比較例4は、評価結果がAAとなり、加飾層の加熱時延伸性が400%を越え、加飾層の膜厚が不均一な状態であり、比較例3および4のいずれも、三次元形状に成形するには問題があることがわかる。
[0102] 導電層の抵抗値については、実施例5?10の評価結果がいずれもAまたはBとなった。すなわち、実施例5?10のタッチセンサ用導電積層体を用いれば、延伸しても良好な特性を維持している、あるいは、延伸による導電性の変化がわずかに認められるが、補正によって正常なタッチ機能を持たせることができ、導電層の断線、加飾層の割れおよび剥離等を発生することなく、信頼性が高く且つ高品質の三次元形状のタッチセンサを構成することが可能となる。
これに対して、比較例3および4の導電層の抵抗値に関する評価結果がいずれもCとなった。すなわち、比較例3および4のタッチセンサ用導電積層体を用いると、複数の電極に対してそれぞれ設定を補正しても誤作動が生じてしまい、実用的なタッチセンサを構成することが困難であることがわかる。」

上記記載から、甲5号証には、以下の事項(以下、「甲5記載事項」という。)が記載されている。

「タッチセンサ用導電積層体に係り、特に、加飾層を有し且つ三次元形状に成形されたタッチセンサ用導電積層体に関し、
タッチセンサを三次元形状に成形する際に、検出電極部および周辺配線部を延伸させることとなるが、紫外線硬化型のインクを用いて加飾層を形成すると、延伸時に検出電極部および周辺配線部等の導電部材の断線、加飾層の割れおよび剥離等の故障を発生して、タッチセンサとしての信頼性および品質の低下を招くおそれがあるところ、
加飾層について、温度180℃の雰囲気中で引っ張り試験を行ったときにR(%)=[(破断時の長さ-延伸前の長さ)/延伸前の長さ]×100で表される延伸率Rが10?400%とすることにより、
紫外線硬化樹脂からなる加飾層を有し且つ三次元形状に成形されながらも信頼性および品質の低下を防止することが可能とし、
紫外線硬化性インクは、インクジェット吐出性、基板への密着性および得られる加飾印刷物の耐ブロッキング性に優れ、また、真空成形後のトリミング加工時における後加工割れを抑制するために、ガラス転移温度(Tg)が25℃?100℃であるポリマーを含有することが好ましいこと。」

6 甲6号証には、図面とともに以下の記載がある。

「【0002】
発明の分野
本発明は、プリンテッドエレクトロニクスデバイスおよび熱成形エレクトロニクスデバイスに好適する熱成形可能なインクおよびコーティングに関する。熱成形は、真空熱成形またはインモールディング(例えば、インモールド加飾デバイス(IMD)またはインモールドエレクトロニクスデバイス(IME)用のプロセス)などの任意の好適なプロセスによるものであってよい。プリンテッドエレクトロニクス熱成形デバイスは、例えば、自動車用コンソール、対話型アプライアンスパネル、静電容量式および抵抗式スイッチ装置、遮蔽装置、無線周波数認識装置、ライトアセンブリ、および多くのその他の用途に使用することができる。プリンテッドエレクトロニクス熱成形デバイスに使用することができる熱成形可能な導電性インクおよびコーティングが提供される。これらの導電性インクおよびコーティングは、多層インクまたはコーティングを使って印刷されたプリンテッドエレクトロニクスデバイスの1つまたは複数の印刷層(印刷積層アレイ)としての使用に好適する。本発明はまた、プリンテッドエレクトロニクス熱成形デバイスの製造方法にも関する。」

「【発明が解決しようとする課題】
【0009】
層化設計において一緒に使用して加飾および機能性部品を作製することができる加飾および機能性インクおよびコーティングの系を作り出すために解決されるべき問題が残されている。例えば、加飾層上に印刷される導電層は、下層の加飾層による干渉のために、抵抗が増加することがある。別の問題は、印刷導電性回路上に層形成した誘電体層である熱成形系は、誘電体層とプリンテッドエレクトロニクス回路との不適合に起因して、または熱成形プロセス中に印刷回路にクラックを発生させることなく変形することができないために、著しいクラックを生ずる。さらに別の解決すべき問題は、クラック発生なしに変形を可能にする結合剤系を含む印刷回路の低抵抗の維持である。多くの場合、結合剤系は、プリンテッドおよび熱成形デバイスにおいて、回路がクラック発生なしに成形できるが、信頼性よく機能する十分な導電性を有さないという程度に、導電性分散相に対して絶縁材として作用する。好結果が得られる解決策には、熱成形中にフレキシビリティを有し、熱成形後も導電性を維持でき、隣接する印刷層との適合性があり、優れた層間接着性を有する印刷可能流体が必要である。」

「【0015】
本発明の配合導電性インクを使って、グラフィック層、導電層、および誘電体層を含む相互適合性層の印刷積層体を含む高品質IMD/IME部品を作製することができる。さらに、これらの層は、熱成形プロセス中のクラック発生および層間剥離が起こらないように、ほぼ同等の延伸特性を有する。」

「【0020】
図3および4は、Formech 300XQ真空熱成形機の使用例として、工業環境または検査室テスト環境において行われている積層印刷フレキシブルフィルムの熱成形ステップを示す。図3および4には個別層を明示的に示していないが、この印刷フィルムは、グラフィック、導電性、および誘電性インクなどの図2に示す印刷層のいずれかまたは全てを有することになる。印刷フレキシブルフィルムは、約1ミル?30ミルまたはそれ超える範囲の厚さであってよく、ポリカーボネート、アクリル、ポリエステル、またはその他の種類のフィルム基材であってよい。図3に示すように、印刷したフレキシブルフィルムは、固定フレームブラケットに取り付けられ、熱が加えられて、印刷されたフィルムがその軟化温度に達する。熱成形装置中で、成形ツールを昇降台上にセットし、熱成形装置を真空ポンプに連結することもできる。図4は、熱成形プロセスを示し、このプロセスでは、成形ツールを支持する下段の昇降台が加熱された印刷フィルムの高さまで上昇し、同時に、真空が適用されて、印刷フィルムが成形ツールの形状に合致する3次元形状に成形される。」

「【0055】
したがって、このグラフィックインク層の上に印刷される導電層(この配合が本発明の目的である)は、溶媒系または水系熱硬化系、部品的にエネルギー硬化性樹脂を含む部分溶媒系または部分水系熱硬化インク(いわゆる、「ハイブリッド系」または「ハイブリッドインク」)、または全体エネルギー硬化系であってよい。印刷可能回路の極めて高い導電性を必要とする場合には、溶媒系の熱硬化系が好ましい。これは、非常に低いバルク抵抗率は、特定の配合例の導電性インクを使った印刷回路で達成できるという理由による。溶媒または水系導電性インクの使用は、許容可能である。理由は、第1下層のグラフィック層がエネルギー硬化性層であり、導電性インク層の溶媒は第1層を可溶化できず、そのために、導電層を短絡させるまたは抵抗を増やすことができないためである。しかし、樹脂は、プリンテッドエレクトロニクス回路の可能な最大の導電性のためのみでなく、基材への接着およびグラフィックインク層と一致する延伸と収縮プロファイルのためにも、最適化するように選択する必要がある。これを達成するために、塩化ビニルまたは酢酸ビニルタイプまたは塩化ビニル/酢酸ビニルなどのビニル樹脂が使用されるのが好ましい。さらに、ビニル樹脂は、カルボキシル修飾もしくはエポキシ修飾、またはヒドロキシル修飾ビニル樹脂などの官能基を有してもよい。ビニル樹脂は、30℃?120℃の範囲、または好ましくは50℃?90℃の範囲のガラス転移温度(Tg)を有してよい。エポキシ化大豆油またはその他のエポキシド、ならびにフタレート、アジペート、セバケート、シトレート、ホスフェート、ジベンゾエート、ジカルボキシレート、イソソルビドジエステル、完全硬化ヒマシ油のアセチル化モノグリセリド、または塩素化パラフィンなどの可塑剤を使用してもよい。ビニル樹脂の例としては、Vinnol E15/45M TF(Wacker);Vinnol H11/59;UM50;UMOH;VAOH;LPOH(Wuxi);これらの組み合わせ、などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0056】
ビニル樹脂は、低Tgポリウレタンまたはポリウレタンコポリマー樹脂などのポリウレタン樹脂と組み合わせて使用してよい。-60℃?75℃、または-55℃?25℃の範囲のTgを有するポリウレタンホモポリマーまたはコポリマー、好ましくは、-40℃?-20℃の範囲のTgを有するポリウレタンコポリマーを使用してもよい。ビニル樹脂とポリウレタン樹脂のブレンドを使用してもよい。水系導電性インクも使用してよい。ポリウレタン樹脂の例としては、Macroplast QC 4891(Henkel);Estane 5703;Estane 5717(Lubrizol);これらの組み合わせ、などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0057】
クラック発生なしに高延伸性を達成することができ、導電性を維持できるポリエステルまたはコポリエステル樹脂は、単独で、またはその他の樹脂と組み合わせて使用してよい。ポリエステル樹脂は、いずれかの上述ビニル樹脂と組み合わせて使用してよい。単独でまたは組み合わせて使用されるポリエステル樹脂は、直鎖または分岐鎖、飽和または不飽和、非晶質または部分結晶であってよく、また、10,000?40,000の分子量を有してよいが、好ましくは、15,000?36,000の範囲、特に15,000?28,000の範囲の分子量である。ポリエステル樹脂は、30℃?80℃、好ましくは40℃?70℃の範囲のTgであってよい。好適なポリエステル樹脂の例としては、Vitel 2700B(Bostik);Dynapol L208(Evonik);Vylon103、Vylon240、Vylon630、およびBX-7000A(Toyobo);これらの組み合わせ、などが挙げられるが、これらに限定されない。特に好ましい材料は、数平均分子量23,000、ガラス転移温度47℃、およびOH値5mgKOH/gの非晶質直鎖ポリエステルであるVylon103である。」

「【0066】
本発明の別の実施形態は、銀、銅、金、銀コート銅、バイメタル粉末、黒鉛、グラフェン、カーボンナノチューブ、もしくはその他の炭素同素体、その他の金属もしくは金属酸化物、またはその他の導電性粉末、これらの組み合わせなどの導電性粉末を含む溶媒系結合剤ベースの導電性インクを含む。溶媒系結合剤は、ビニル樹脂もしくはビニル樹脂の組み合わせ、またはビニル樹脂と低Tgで高延伸性のポリウレタンとのブレンド、またはポリウレタンの組み合わせ、またはビニル樹脂とポリウレタンの組み合わせ、またはポリエステル樹脂、またはコポリエステル樹脂、またはポリエステルもしくはコポリエステルとビニルおよび/またはポリウレタン樹脂のブレンドをベースにするのが好ましい。」

「【0073】
一実施形態では、ビニルコポリマーまたはターポリマーおよび低Tgポリウレタンで配合されたインクは、特有の性質を有する。ビニル-ポリウレタン樹脂系の使用により、ビニルポリマーのより高い導電性と、低Tgポリウレタンの大きなフレキシビリティおよび延伸特性が組み合わされる。この配合はまた、非常に良好な接着性を有し、機能性部品の製造に必要な積層構成を可能とする。このポリマー樹脂の組み合わせをベースにした導電性インクは、ポリカーボネートなどフレキシブル基材上に印刷してよく、3次元形状に熱成形することができ、また、依然として、その導電性を維持する。このようなインクまたはコーティングはまた、グラフィックインク層および誘電体絶縁層を含む、インク/コーティング層の積層構成で印刷することができる。この印刷積層体は、その後、層間剥離およびウォッシュアウトを起こすことなく、射出成形することができる。」

「【0082】
導電性インクは、ビニル樹脂またはポリウレタン樹脂のブレンドから構成されてよい。可塑剤は、0.05%?5%の範囲で存在してよい。可塑剤は、約0.1%?約3%、または約0.2%?約4%の量で存在してよい。」

上記記載から、甲6号証には、以下の事項(以下、「甲6記載事項」という。)が記載されている。

「印刷フレキシブルフィルムであって、
フィルム基材は、ポリカーボネート、アクリル、ポリエステル、またはその他の種類であり、
印刷される導電層は、
ビニル樹脂は、塩化ビニルまたは酢酸ビニルタイプまたは塩化ビニル/酢酸ビニルなどであり、
ビニル樹脂は、30℃?120℃の範囲、または好ましくは50℃?90℃の範囲のガラス転移温度(Tg)を有し、
クラック発生なしに高延伸性を達成することができ、導電性を維持できるポリエステル樹脂を、上記ビニル樹脂と組み合わせて使用し、
ポリエステル樹脂は、30℃?80℃、好ましくは40℃?70℃の範囲のTgであること。」

7 甲7号証には、以下の記載がある。

(第101頁)

(第102頁)

8 甲8号証には、以下の記載がある。

(第3頁)

(第4頁)

第5 当審の判断
1 本件発明1について
(1)対比
ア 甲1発明の「三次元成形された静電容量センサ1」は、「加熱された平板状の静電容量センサー1を圧空成形により所望の形状に成形する」ものであり、また、「平板状の静電容量センサ1」を構成する「基材2」は、「ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、アクリル樹脂製のフィルム、PC/PBTのアロイ、あるいはこれらのラミネート品などからなる」ものであるから、「基材2」は、熱により延伸するものであると認められる。
そうすると、甲1発明の「基材2」は、本件発明1の「熱により延伸する基材フィルム」に相当する。

イ 甲1発明の「センサ電極3」は、本件発明1の「電極部」に対応する。
また、甲1発明の「センサ電極3」は、「ポリチオフェン系導電ポリマー、金属ナノワイヤー、ITO(インジウムスズ酸化物)インク等からなる導電材料によって形成された光透過性部材である」から、導電性材料を含む導電材料によって形成された「センサ電極3」である。そして、導電材料は、「センサ電極3」を形成する材料であるから、電極材料ということができる。
加えて、「センサ電極3」が、「基材2の外面に沿って設けられ」ることは、本件発明1の「電極部」が「前記基材フィルムの少なくとも一面に形成される」ことに対応する。
そうすると、甲1発明の「センサ電極3」と本件発明1の「電極部」は「導電性材料によって形成された電極材料で前記基材フィルムの少なくとも一面に形成される電極部」である点で共通する。

ウ 甲1発明の「保護層6」は、「センサー電極3を覆うように基材2上に設けられた、UV硬化型樹脂や熱硬化性樹脂など所定の処理により硬化する材質からなる、絶縁性部材である」から、本件発明1の「前記電極部を覆うように形成される絶縁性樹脂材料からなる絶縁層」に相当する。

エ そして、引用発明の「三次元成形された静電容量センサ1」は、「ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、アクリル樹脂製のフィルム、PC/PBTのアロイ、あるいはこれらのラミネート品などからなる基材2」を備えており、「加熱された平板状の静電容量センサー1を圧空成形により所望の形状に成形」されるのであるから、成形後もフィルムであるということができる。そうすると、引用発明の「三次元成形された静電容量センサ1」は、本件発明1の「センサフィルム」に対応する。

オ そうすると、本件発明1と甲1発明とは、以下の点で一致し、又相違する。

[一致点]
「熱により延伸する基材フィルムと、
導電性材料によって形成された電極材料で前記基材フィルムの少なくとも一面に形成される電極部と、
前記電極部を覆うように形成される絶縁性樹脂材料からなる絶縁層と、
を備えることを特徴とするセンサフィルム。」

[相違点1]
本件発明1が「導電性材料に熱可塑性樹脂が混練された電極材料で前記基材フィルムの少なくとも一面に形成される電極部」を備えるのに対して、甲1発明は、電極材料が熱可塑性樹脂が混練されたものであるとの特定がされていない点。

[相違点2]
本件発明1が「前記電極部に練り込まれる熱可塑性樹脂のガラス転移点」は、「前記基材フィルムのガラス転移点よりも低い」のに対して、甲1発明は「基材2」のガラス転移点と、「センサー電極3」を構成する樹脂のガラス転移点の関係について特定されていない点。

[相違点3]
本件発明1が「前記絶縁層となる絶縁性樹脂材料のガラス転移点は、前記基材フィルムのガラス転移点よりも低い」のに対して、甲1発明は「基材2」のガラス転移点と、「保護層6」のガラス転移点の関係について特定されていない点。

(2)判断
事案に鑑み、ガラス転位点に関する、相違点2及び3について、まとめて検討する。
上記の通り、甲2号証ないし甲8号証には、「前記電極部に練り込まれる熱可塑性樹脂のガラス転移点及び前記絶縁層となる絶縁性樹脂材料のガラス転移点は、前記基材フィルムのガラス転移点よりも低いことを特徴とするセンサフィルム」は記載されておらず、またこのことが「センサフィルム」において周知の技術であるともいえない。
そうすると、本件発明1は、相違点1について検討するまでもなく、甲1発明および甲2号証ないし甲8号証の記載に基づいて、当業者が容易に想到し得るものではない。

(3)特許異議申立人の主張について
ア 特許異議申立人は、相違点3について、
甲1発明は、基材2のガラス転移点は、例えばポリカーボネートの142℃であるのに対して、保護層と6となる絶縁性部材のガラス転移点は、「アクリル系」のPMMAで約100?125℃、「ウレタン系」のPUで約-20℃、「ポリエステル系」のPETで74℃、PBTで24℃であり(甲1号証段落0029、甲7号証)、それらはいずれも基材2のガラス転移点よりも低いから、甲1発明は、本件発明1の「前記絶縁層となる絶縁性樹脂材料のガラス転移点は、前記基材フィルムのガラス転移点よりも低い」と一致する旨主張する。(特許異議申立書第36頁)
しかしながら、例えば、甲1号証の段落0029には、
「保護層6は、センサー電極3及び配線4を覆うように基材2上に設けられた絶縁性部材であり、センサー電極3及び配線4が腐食したり外力により損傷するのを防止する目的で設けられている。保護層6の材料は、UV硬化型樹脂や熱硬化性樹脂など、所定の処理により硬化する材質であることが好ましい。具体的には、UV硬化型の例としてはアクリル系やウレタンアクリレート系のUV硬化型樹脂、熱硬化型の例としてはアクリル系、ウレタン系、ポリエステル系の熱硬化型樹脂を好適に使用することができる。また、保護層6は、絶縁インキや、インサート成形用インキのクリア(メジウム)によって構成されていてもよい。また、本実施形態では、保護層6は光透過性を有する。」
と記載されているだけであり、甲1発明の「保護層6」となる「絶縁性部材」が、PMMA(アクリル樹脂)、PU(ポリウレタン)、PET(ポリエチレンテレフタレート)、PBT(ポリブチレンテレフタレート)であるとの特定はされていない。
そして、上記のとおり、甲1発明の「保護層6」となる「絶縁性部材」がどのような材料であるのか、またそのガラス転位点がどのような温度であるのか具体的に記載されていないから、甲1発明の「保護層6」のガラス転移点を特定することはできない。
加えて、甲1発明の「基材2」は、「アクリル樹脂製のフィルム」からなるものも含まれており、「基材2」を「アクリル樹脂製のフィルム」とし、「保護層6」の「絶縁性部材」をアクリル系の熱硬化樹脂とした際の、「基材2」と「保護層6」のガラス転移点の高低について、甲1号証の記載だけでは特定することはできない。
そうすると、甲1号証の記載から、甲1発明の「保護層6」のガラス転移点が「基材2」のガラス転移点よりも低いということはできない。

イ 相違点2について
(ア)特許異議申立人は、甲2号証には、「前記電極部に練り込まれる熱可塑性樹脂のガラス転移点」は、「前記基材フィルムのガラス転移点よりも低い」ことが記載されているから、甲1発明に対して、甲2号証に記載された事項を適用し、甲1発明に相違点2に係る構成を採用することは、当業者による通常の創作能力の発揮である旨主張する。(特許異議申立書第38頁ないし第40頁)
しかしながら、甲2号証には、甲2記載事項にあるように、
「熱可塑性樹脂を用いた配線基板において、
熱可塑性樹脂成型物の熱変形温度より、配線導体の結合剤である熱可塑性樹脂の熱変形温度を40℃以上低くすることにより、配線導体の熱変形温度は熱可塑性樹脂成型物の熱変形温度以下となり、前記配線導体は前記熱可塑性樹脂成型物再加工時の温度では充分軟化し、その形状変化に追随できるようになり、その結果前記熱可塑性樹脂成型物と前記配線導体の密着性が上がり、再加工により立体配線基板も容易に製造することができること。」
が記載されており、「配線基板」と「配線導体の結合剤である熱可塑性樹脂」の熱変形温度について記載されているものの、そのガラス転移点については記載されていないから、甲2号証の記載から、甲1発明の「センサー電極3」を構成する樹脂のガラス転移点を「基材2」のガラス転移点よりも低くすることを想到することはできない。

(イ)特許異議申立人は、相違点2ついて、甲3号証および甲4号証には、基材フィルムのガラス転移点よりも、それに積層する熱可撓性樹脂のガラス転移点を低くすることで、三次元成形時に熱可撓性樹脂の割れを抑制する、という技術的思想は公知である旨主張する。(特許異議申立書第41頁ないし第43頁)
しかしながら、甲3号証には、甲3号証記載事項にあるように、
「屈曲部をもつ電極装置において、屈曲部における基材フィルム/電極層/絶縁層の伸びの違いは、より上層に位置する絶縁層により大きな影響を与えることから、絶縁層の割れをより確実に防止するために、絶縁層を構成する誘電体として、ガラス転移温度がより低い樹脂を用いることが好ましいこと。」
が記載されており、甲3号証の「電極層」を構成する樹脂と「絶縁層」のガラス転移点温度の高低については記載されていない。
また、甲4号証には、甲4号証記載事項にあるように、
「治療や診断の医療分野において用いられる生体適用電極において、
窪みを有するカップ状の電極構造体を作製する場合、成形時に屈曲加工部において電極層や絶縁層に割れが生ずるという問題を解決するために、
屈曲加工部を有する支持体と、支持体上で屈曲加工部を通して形成された電極層と、屈曲加工部を通る電極層上に形成された絶縁層とを備え、絶縁層を構成する誘電体のうち少なくとも1つの誘電体のガラス転移温度が25℃以下とすること。」
が記載されており、「電極層」を構成する樹脂と「絶縁層」のガラス転移点温度の高低については記載されていない。
そうすると、基材フィルムのガラス転移点よりも、それに積層する熱可撓性樹脂のガラス転移点を低くすることで、三次元成形時に熱可撓性樹脂の割れを抑制することが公知の技術であるとはいえないから、甲3号証および甲4号証の記載から、甲1発明の「センサー電極3」を構成する樹脂のガラス転移点を「基材2」のガラス転移点よりも低くすることを想到することはできない。

(ウ)特許異議申立人は、相違点2について、甲5号証には、基材フィルムのガラス転移点よりも、それに積層する熱可撓性樹脂のガラス転移点を低くすることで、三次元成形時に熱可撓性樹脂の割れを抑制することが記載されている旨主張する。(特許異議申立書第43頁ないし第44頁)
しかしながら、甲5号証には、甲5号証記載事項にあるように、
「タッチセンサ用導電積層体に係り、特に、加飾層を有し且つ三次元形状に成形されたタッチセンサ用導電積層体に関し、
タッチセンサを三次元形状に成形する際に、検出電極部および周辺配線部を延伸させることとなるが、紫外線硬化型のインクを用いて加飾層を形成すると、延伸時に検出電極部および周辺配線部等の導電部材の断線、加飾層の割れおよび剥離等の故障を発生して、タッチセンサとしての信頼性および品質の低下を招くおそれがあるところ、
加飾層について、温度180℃の雰囲気中で引っ張り試験を行ったときにR(%)=[(破断時の長さ-延伸前の長さ)/延伸前の長さ]×100で表される延伸率Rが10?400%とすることにより、
紫外線硬化樹脂からなる加飾層を有し且つ三次元形状に成形されながらも信頼性および品質の低下を防止することが可能とし、
紫外線硬化性インクは、インクジェット吐出性、基板への密着性および得られる加飾印刷物の耐ブロッキング性に優れ、また、真空成形後のトリミング加工時における後加工割れを抑制するために、ガラス転移温度(Tg)が25℃?100℃であるポリマーを含有することが好ましいこと。」
が記載されており、ガラス転移温度(Tg)が25℃?100℃であるポリマーを含有する「紫外線硬化性インク」は、「加飾層」に含まれるものであるから、ガラス転移温度(Tg)が25℃?100℃であるポリマーを含有する「紫外線硬化性インク」を「センサー電極3」を構成する樹脂に採用する動機付けはない。
そうすると甲5号証の記載から、甲1発明の「センサー電極3」を構成する樹脂のガラス転移点を「基材2」のガラス転移点よりも低くすることを想到することはできない。

(エ)特許異議申立人は、相違点2について、甲6号証には、基材フィルムの材料樹脂をポリカーボネイト(PC:Tg142℃(甲7))とし、導電層の樹脂結合材が塩化ビニル樹脂(Tg:30?120℃、好ましくは50?90℃)及び/またはポリエステル樹脂(Tg:30?80℃、好ましくは40?70℃)とする構成が示されており、それにより高延伸性を達成し、クラックの発生を防止できるとの硬化が示されていることから、甲6号証には、基材フィルムのガラス転移点よりも、それに積層する電極部の樹脂結合材である熱可撓性樹脂のガラス転移点を低くすることで、三次元成形時に電極部の割れを抑制する、という技術的思想が記載されている旨主張する。(特許異議申立書第44頁)
しかしながら、甲6号証には甲6号証記載事項にあるように、
「印刷フレキシブルフィルムであって、
フィルム基材は、ポリカーボネート、アクリル、ポリエステル、またはその他の種類であり、
印刷される導電層は、
ビニル樹脂は、塩化ビニルまたは酢酸ビニルタイプまたは塩化ビニル/酢酸ビニルなどであり、
ビニル樹脂は、30℃?120℃の範囲、または好ましくは50℃?90℃の範囲のガラス転移温度(Tg)を有し、
クラック発生なしに高延伸性を達成することができ、導電性を維持できるポリエステル樹脂を、上記ビニル樹脂と組み合わせて使用し、
ポリエステル樹脂は、30℃?80℃、好ましくは40℃?70℃の範囲のTgであること。」
が記載されており、印刷される導電層を構成する樹脂のガラス転移点温度がフィルム基材(ポリカーボネート、アクリル、ポリエステル、またはその他の種類)のガラス転移温度より低くなることは記載されていない。
また、フィルム基材は、ポリカーボネートだけでなく、ポリエステルの一種であるポリエチレンテレフタレート(PBT Tg:約24℃)を採用することができ、この際には、導電層を構成する樹脂であるポリエステル樹脂のガラス転移温度(30?80℃、好ましくは40?70℃)より低くなる。
そうすると、甲6号証には、導電層を構成する樹脂のガラス転移温度が、フィルム基材のガラス転移温度より低いことが記載されているとはいえないから、甲6号証の記載から、甲1発明の「センサー電極3」を構成する樹脂のガラス転移点を「基材2」のガラス転移点よりも低くすることを想到することはできない。

(4)本件発明1についてのまとめ
上記(2)で検討したように、本件発明1は、相違点2及び3に係る発明特定事項を含むから、甲1発明及び甲2号証ないし甲8号証に基づいて、当業者が容易に想到し得るものではない。

2 本件発明2ないし4について
本件発明2及び3は、本件発明1を更に限定した発明であり、また、本件発明4は、本件発明1の「センサフィルム」を用いた「タッチセンサの製造方法」である。
そうすると、本件発明2ないし4は、上記1(2)で検討した「前記電極部に練り込まれる熱可塑性樹脂のガラス転移点及び前記絶縁層となる絶縁性樹脂材料のガラス転移点は、前記基材フィルムのガラス転移点よりも低い」という発明特定事項を含むものであるから、本件発明2ないし4は、甲1発明及び甲2号証ないし甲8号証に基づいて、当業者が容易に想到し得るものではない。

第6 むすび
したがって、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1ないし4に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1ないし4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2021-10-05 
出願番号 特願2018-159548(P2018-159548)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (G06F)
最終処分 維持  
前審関与審査官 三吉 翔子田川 泰宏  
特許庁審判長 ▲吉▼田 耕一
特許庁審判官 小田 浩
野崎 大進
登録日 2020-11-17 
登録番号 特許第6796116号(P6796116)
権利者 双葉電子工業株式会社
発明の名称 センサフィルム、タッチセンサ及び該センサの製造方法  
代理人 西村 教光  
代理人 鈴木 典行  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ