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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 H05K
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H05K
管理番号 1379105
審判番号 不服2020-16479  
総通号数 264 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-12-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-12-01 
確定日 2021-11-02 
事件の表示 特願2016-563396「セラミック複合シート及びその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 6月16日国際公開、WO2016/092735、請求項の数(6)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2015年10月28日(優先権主張 平成26年12月11日)を国際出願日とする出願であって、その手続きの経緯は以下のとおりである。
平成29年 6月 7日 :手続補正書の提出
令和 1年10月16日付け:拒絶理由通知
令和 2年 2月25日 :意見書、手続補正書の提出
令和 2年 8月24日付け:拒絶査定
令和 2年12月 1日 :審判請求書、手続補正書の提出
令和 3年 5月31日付け:拒絶理由通知(当審)
令和 3年 7月30日 :意見書、手続補正書の提出

第2 原査定の概要
原査定(令和2年8月24日付け拒絶査定)の概要は次の通りである。
2.(新規性)この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。

3.(進歩性)この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

●理由2(新規性),3(進歩性)について

・請求項 1,4,7,11
・引用文献等 1

・請求項 1,7,8,11
・引用文献等 2

●理由3(進歩性)について

・請求項 2,3,5,6,9,10
・引用文献等 1

・請求項 8
・引用文献等 1,2

・請求項 12ないし16
・引用文献等 1,3

・請求項 3,10
・引用文献等 2

・請求項 13
・引用文献等 2,3

<引用文献等一覧>
1.特開2013-225565号公報
2.特開2008-296431号公報
3.実公昭47-31405号公報

第3 当審拒絶理由の概要
当審拒絶理由(令和3年5月31日付け拒絶理由)の概要は次の通りである。
1.(進歩性)この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
2.(明確性)この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。
3.(サポート要件)この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。

●理由1(進歩性)について

・請求項1ないし11
・引用文献等1、2

・請求項13、14、16
・引用文献等1ないし3

●理由2(明確性)について
・請求項7ないし16
請求項7に記載された「連続した誘引溝からなる連続した分割ラインで細片に分割し」は不明確であり、請求項7に係る発明及び請求項7を引用する請求項8-16に係る発明は明確でない。

・請求項12ないし14
請求項12に記載された「前記第1方向群のみに相当する平行な誘引溝を予め設け」は不明確であり、請求項12に係る発明及び請求項12を引用する請求項13、14に係る発明は明確でない。

・請求項15、16
請求項15に記載された「前記第1方向群のみに相当する平行な誘引溝を予め設け」は不明確であり、請求項15に係る発明及び請求項15を引用する請求項16に係る発明は明確でない。

●理由3(サポート要件)について

・請求項7-10、13、14、16
請求項7において「誘引溝」は、焼成工程の前に、セラミックグリーンシートに設けることが特定されておらず、請求項7に係る発明は、発明の詳細な説明の記載と対応していない。よって、請求項7に係る発明、及び、請求項7を引用する請求項8-10、13、14、16に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものでない。

引 用 文 献 等 一 覧
A.特開2008-124197号公報(当審において新たに引用した文献)
B.特開2013-225565号公報(拒絶査定時の引用文献1)
C.実公昭47-31405号公報(拒絶査定時の引用文献3)

第4 本願発明
本願の請求項1ないし6に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」ないし「本願発明6」という。)は、令和3年7月30日の手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1ないし6に記載された事項により特定される発明であり、以下のとおりと認める。

「【請求項1】
所定形状のセラミックグリーンシートを焼成して、焼成セラミック層を形成する焼成工程と、
前記焼成セラミック層の少なくとも片面に、粘着材層を介して、樹脂層を粘着してセラミック複合シートを形成するラミネート工程と、
ラミネートされた前記セラミック複合シートを、分割装置に通して、前記焼成セラミック層を、第1方向群を備え、連続した誘引溝に沿って焼成セラミック層を分割して連続した分割ラインを形成し、かつ前記樹脂層は分割しない分割工程とを有し、
前記分割工程では、前記第1方向群に対して、該第1方向群と直交する第2方向群の単位幅当たりの平均分割ライン数を多くし、
前記焼成工程の前に、前記セラミックグリーンシートに前記第1方向群のみに相当する平行な誘引溝を予め設け、
前記分割工程において、前記セラミック複合シートを前記分割装置に通して前記誘引溝に沿って前記第1方向群に分割した後、前記第1方向群に分割されたセラミック複合シートを前記分割装置に通して前記第2方向群に分割することを特徴とするセラミック複合シートの製造方法。
【請求項2】
前記ラミネート工程で前記焼成セラミック層の端面を含む部分を前記樹脂層で覆うことを特徴とする請求項1に記載のセラミック複合シートの製造方法。
【請求項3】
前記分割工程で前記セラミック複合シートを分割する分割装置は、互いに対向して接触する2つのローラからなるローラ対を備え、
前記セラミック複合シートを、前記ローラ対の間に通して分割することを特徴とする請求項1または請求項2に記載のセラミック複合シートの製造方法。
【請求項4】
前記分割工程では、前記セラミック複合シートを前記ローラ対に通して前記第1方向群に沿うように分割し、
前記ローラ対を通る前記セラミック複合シートの向きを前記第1方向群と異なる前記第2方向群に変えて前記ローラ対に通して前記第2方向群に沿うように分割することを特徴とする請求項3に記載のセラミック複合シートの製造方法。
【請求項5】
所定形状のセラミックグリーンシートを焼成して、焼成セラミック層を形成する焼成工程と、
前記焼成セラミック層の少なくとも片面に、粘着材層を介して、樹脂層を粘着してセラミック複合シートを形成するラミネート工程と、
ラミネートされた前記セラミック複合シートを、分割装置に通して、前記焼成セラミック層を、第1方向群を備え、連続した誘引溝に沿って焼成セラミック層を分割して連続した分割ラインを形成し、かつ前記樹脂層は分割しない分割工程とを有し、
前記分割工程では、前記第1方向群に対して、該第1方向群と直交する第2方向群の単位幅当たりの平均分割ライン数を多くし、
前記焼成工程の前に、前記セラミックグリーンシートに前記第1方向群のみに相当する平行な誘引溝を予め設け、
前記分割工程において、前記セラミック複合シートを前記分割装置に通して前記誘引溝に沿って前記第1方向群に分割した後、前記第1方向群に分割されたセラミック複合シートを前記分割装置に通して前記第2方向群に分割し、
前記分割工程で前記セラミック複合シートを分割する分割装置は、互いに対向して接触する2つのローラからなるローラ対を2つ備え、
前記セラミック複合シートを、前記ローラ対の間に通して分割するものであり、
前記2つのローラ対において、
前方側にある前記ローラ対を通して前記第1方向群に沿うように分割し、
前記セラミック複合シートの方向を前記第1方向群と異なる前記第2方向群にして、後方側にある前記ローラ対を通して前記第2方向群に沿うように分割することを特徴とするセラミック複合シートの製造方法。
【請求項6】
前記ローラ対は、一方のローラが他方のローラに圧接されて、前記一方のローラの表面に、前記他方のローラの表面に沿って円弧状の凹みが形成されており、
前記ローラ対の間に前記セラミック複合シートを通して分割することを特徴とする請求項4または請求項5に記載のセラミック複合シートの製造方法。」

第5 当審拒絶理由についての判断
1 理由1(進歩性)について
令和3年7月30日の手続補正は、理由1の対象となっていない補正前の請求項7を引用する請求項12を新たな請求項1とし、理由1の対象となっていない補正前の請求項7を引用する請求項15を新たな請求項5としたものである。
そして、補正前の請求項8、13、14を、それぞれ、新たな請求項1を直接又は間接的に引用する請求項2、3、4とし、補正前の請求項16を、請求項4又は新たな請求項5を引用する請求項6としたものである。
そうすると、本願発明1ないし6は、当審拒絶理由において理由1の対象となっていない補正前の請求項12、15に対応する発明(本願発明1、5)と、それらを引用する発明(本願発明2ないし4、6)であり、理由1は解消した。

2 理由2(明確性)について
(1)当審では、請求項7の「連続した誘引溝からなる連続した分割ラインで細片に分割し」という記載の意味が不明確であるとの拒絶の理由を通知しているが、令和3年7月30日の補正において、「連続した誘引溝に沿って焼成セラミック層を分割して連続した分割ラインを形成し」と補正された結果、この拒絶理由は解消した。

(2)当審では、請求項12に記載された「前記第1方向群のみに相当する平行な誘引溝を予め設け」は、請求項12が引用する請求項7に記載された「前記焼成セラミック層を第1方向群と該第1方向群と直交する第2方向群とを備え、連続した誘引溝からなる連続した分割ラインで細片に分割し」と矛盾しているとの拒絶の理由を通知しているが、令和3年7月30日の補正において、補正前の請求項7を引用する請求項12を新たな請求項1としたものにおいて「前記焼成セラミック層を、第1方向群を備え、連続した誘引溝に沿って焼成セラミック層を分割して連続した分割ラインを形成し」と補正された結果、この拒絶理由は解消した。

(3)当審では、請求項7を引用する請求項15の「前記第1方向群のみに相当する平行な誘引溝を予め設け」の記載も、同様に請求項7の記載と矛盾しているとの拒絶の理由を通知しているが、令和3年7月30日の補正において、補正前の請求項7を引用する請求項15を新たな請求項5としたものにおいて「前記焼成セラミック層を、第1方向群を備え、連続した誘引溝に沿って焼成セラミック層を分割して連続した分割ラインを形成し」と補正された結果、この拒絶理由は解消した。

3 理由3(サポート要件)について
当審では、請求項7において「誘引溝」は、焼成工程の前に、セラミックグリーンシートに設けることが特定されておらず、請求項7に係る発明は、発明の詳細な説明の記載と対応していないとの拒絶の理由を通知しているが、令和3年7月30日の補正において、補正前の請求項7を引用する請求項12を新たな請求項1としたものにおいて「前記焼成工程の前に、前記セラミックグリーンシートに前記第1方向群のみに相当する平行な誘引溝を予め設け」と補正された結果、この拒絶理由は解消した。
また、補正前の請求項7を引用する請求項15を新たな請求項5としたものについても、同様である。

4 まとめ
以上のとおり、当審拒絶理由によって、本願発明1ないし6を拒絶することはできない。

第6 原査定についての判断
1 理由2(新規性)について
令和3年7月30日の手続補正は、理由2の対象となっていない補正前の請求項7を引用する請求項12を新たな請求項1とし、理由2の対象となっていない補正前の請求項7を引用する請求項15を新たな請求項5としたものである。
そして、補正前の請求項8、13、14を、それぞれ、新たな請求項1を直接又は間接的に引用する請求項2、3、4とし、補正前の請求項16を、請求項4又は新たな請求項5を引用する請求項6としたものである。
そうすると、本願発明1ないし6は、原査定において理由2の対象となっていない補正前の請求項12、15に対応する発明(本願発明1、5)と、それらを引用する発明(本願発明2ないし4、6)であり、理由2は解消した。

2 理由3(進歩性)について
令和3年7月30日の手続補正は、補正前の請求項7を引用する請求項12を新たな請求項1とし、補正前の請求項7を引用する請求項15を新たな請求項5としたものである。
そして、補正前の請求項8、13、14を、それぞれ、新たな請求項1を直接又は間接的に引用する請求項2、3、4とし、補正前の請求項16を、請求項4又は新たな請求項5を引用する請求項6としたものである。

ここで、原査定の理由3を、補正後の請求項1ないし6に係る発明(本願発明1ないし6)に基づいて整理すると次のとおりとなる。
・補正後の請求項1ないし6に係る発明は上記引用文献1、3に基いて、当業者が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないとの理由になる。
・補正後の請求項1を直接又は間接的に引用する請求項3に係る発明は上記引用文献2、3に基いて、当業者が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないとの理由になる。

そして、補正後の請求項1、5、及び請求項1又は5を引用する請求項2ないし4、6は、それぞれ、「前記焼成工程の前に、前記セラミックグリーンシートに前記第1方向群のみに相当する平行な誘引溝を予め設け」る構成を有するものとなっており、下記「第8 1ないし3」のとおり、本願発明1ないし6は、引用文献1に記載された発明及び引用文献3に記載された技術に基づいて容易に発明をすることができたものではない。
また、補正後の請求項3についても「前記焼成工程の前に、前記セラミックグリーンシートに前記第1方向群のみに相当する平行な誘引溝を予め設け」る構成を有するものとなっており、下記「第8 3」のとおり、本願発明3は、引用文献2に記載された発明及び引用文献3に記載された技術に基づいて容易に発明をすることができたものではない。
したがって、原査定の理由3を維持することはできない。

3 まとめ
以上のとおり、原査定の理由によって、本願発明1ないし6を拒絶することはできない。


第7 引用文献、引用発明等
1 引用文献1について
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1(特開2013-225565号公報)には、図面とともに次の事項が記載されている。(下線は当審で付与した。以下同様。)
「【0024】
次に、板状のフェライト焼結体と、前記フェライト焼結体の少なくとも片方の主面に貼付された保護シートとを備えた、本発明に係る磁性シートの製造方法を、図1および図5?7を参照しながら説明する。フェライト焼結体の製造工程は、フェライトグリーンシートに、互いに平行に形成された複数の分割線からなる第1の分割線群と、互いに平行に、かつ前記第1の分割線群の分割線と直交する方向に形成された複数の分割線からなる第2の分割線群を形成する第1の工程と、前記第1および第2の分割線群が形成されたフェライトグリーンシートを焼成する第2の工程とを有する。かかるフェライトグリーンシートに形成した第1の分割線群と第2の分割線群が図1に示すフェライト焼結体の第1の分割線群5と第2の分割線群6となる。以下、グリーンシートにおいても、焼結体と対応する部分に関しては同じ符号を用いて説明する。フェライトグリーンシートの製造方法は従来から知られている方法を採用すればよい。例えば、フェライトの原料粉末をバインダ、可塑剤等と混練してスラリーを形成し、該スラリーをドクターブレード法等によってシート成形することによって得られる。第1の工程において形成される第1および第2の分割線群5、6の各分割線は、直線状に並んだ複数の帯状の貫通孔7によって構成されている。これらの帯状の貫通孔7は、フェライトグリーンシートの一方の主面側から帯状の刃先を有する刃を押し込み、他方の主面側では前記刃の押し込みによって破断させることで、前記一方の主面側では、開口部の長手方向に沿った縁は直線状に、他方の主面側では、開口部の長手方向に沿った縁は破断線状に形成される。」

「【0028】
第1の分割線群と第2の分割線群を形成する第1の工程を経たフェライトグリーンシートは焼成(第2の工程)に供される。かかる焼成を経て、一方の主面側では長手方向に沿った縁が直線状で、他方の主面側では長手方向に沿った縁が破断線状の、帯状の開口部を有する貫通孔7が形成されたフェライト焼結体が得られる。上記貫通孔を形成した部分には、自由焼成面が形成される。すなわち、貫通孔を形成した部分では、自由焼成面を呈す壁面の端部に、グリーンシートにおいて形成した破断線状の縁が現れる。また、磁性シートにおいて、分割線に沿ってフェライト焼結体を個片化した場合は、貫通孔が形成されていた自由焼成面と、貫通孔と貫通孔の間のフェライト焼結体の破断面とが現れることになる。第2の工程を経て得られた板状のフェライト焼結体には、少なくとも片方の主面に保護シートが貼付されて磁性シートが構成される。フェライト焼結体を、保護シートが貼付された状態で第1の分割線群および第2の分割線群に沿って個片化することで、磁性シートに可撓性が付与される。なお、かかる個片化の際には貫通孔以外の焼結体部分の破断を伴うが、焼結体の破断面の凹凸は、貫通孔の破断線状の凹凸よりもはるかに小さなものになる。」

「【0030】
図1に示す構成の磁性シートを作製した。Ni-Zn系フェライト材料の、厚さ120μmのグリーンシートに、図5に示す刃を用い、互いに平行な複数の分割線からなる第1の分割線群と、互いに平行で、かつ第1の分割線群の分割線と直交する方向に形成された複数の分割線からなる第2の分割線群を、それぞれ2.5mmの分割線ピッチで形成した。使用した刃の凸部の幅は1mm、凹部の幅は1mmであり、フェライトグリーンシートには2mmのピッチで帯状の貫通孔が形成された。また、刃先の角度は20度とした。貫通孔を形成したグリーンシートを焼成し、一方の主面側では、貫通孔の開口部の長手方向に沿った縁は直線状であり、他方の主面側では、貫通孔の開口部の長手方向に沿った縁は破断線状である貫通孔を有するフェライト焼結体を得た。焼結体における分割線のピッチは2mm、一方の主面側の開口部の長手方向の長さは0.8mm、長手方向に垂直な方向の幅は11μm、開口部と開口部の間のフェライト焼結体部分は0.9mmであり、貫通孔のピッチは1.7mmmであった。また、フェライト焼結体の厚さは0.1mmであり、開口部の、長手方向に垂直な方向の幅は、フェライト焼結体の厚さの11%であった。貫通孔の、一方の主面側の開口部の形状の写真を図8(a)に、他方の主面側の開口部の形状の写真を図8(b)に示す。図8(b)には紙面の横方向を長手方向とする貫通孔に加えて、紙面の上下方向を長手方向とする貫通孔の一部も示されている。なお、図8に示す(a)および(b)は同一の貫通孔の写真ではないが、一方の主面側および他方の主面側において、それぞれ開口部の形態は図8(a)、(b)と同様である。図8(a)に示すように刃を入れた主面側では、開口部の長手方向に沿った縁は直線状に、他方の主面側では破断線状に形成されており、破断線状に形成された開口部の、長手方向に垂直な方向の幅が非常に小さなものになっていることがわかる。
【0031】
得られたフェライト焼結体の一方の面には、厚さ30μmの両面テープ付のPETシートを貼り合せた。また他方の面には厚さ30μmの両面テープを貼り合せて、磁性シートを得た。得られた磁性シートに外力を加えてフェライト焼結体を個片化した(No1)。また、得られた磁性シートを内径10mm、外径14mmのリング状に打ち抜き、6枚重ねて、1ターンのコイルを用い、13.56MHzの条件でインダクタンス値を測定した。また、比較のために、分割線を設けないフェライト焼結体を用いて磁性シートを構成し(No2)、同様の評価を行った。結果を表1に示す。」

「【0033】
No1の磁性シートは、第1、第2の分割線群に沿って個片化されており、良好な可撓性を示した。一方、分割線を施していないNo2の磁性シートは可撓性に劣り、ハンドリングの際に不定形に割れていた。また、No1の磁性シートは、貫通孔によって構成した分割線に沿ってフェライト焼結体が個片化されているにもかかわらず、個片化されていないNo2の磁性シートに比べて透磁率の低下は5%以下であり、ほとんど透磁率が低下していないことがわかる。また、分割性に沿って、フェライト焼結体を個片化することで、No2の磁性シートに比べてQは1.5倍以上に向上していることがわかる。」

上記記載より、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されている(括弧内は、引用文献1の記載箇所を示す。)。
「板状のフェライト焼結体と、フェライト焼結体の少なくとも片方の主面に貼付された保護シートとを備えた磁性シートの製造方法であって(【0024】)、
フェライト材料のグリーンシートに、各分割線が直線状に並んだ複数の帯状の貫通孔によって構成されている、互いに平行な複数の分割線からなる第1の分割線群と、互いに平行で、かつ第1の分割線群の分割線と直交する方向に形成された複数の分割線からなる第2の分割線群を、それぞれ2.5mmの分割線ピッチで形成し(【0024】、【0030】)、
グリーンシートを焼成しフェライト焼結体を得て(【0030】)、
フェライト焼結体の一方の面に両面テープ付のPETシートを貼り合せ磁性シートを得て(【0031】)、
保護シートが貼付された状態で(【0028】)、磁性シートに外力を加えてフェライト焼結体を第1、第2の分割線群に沿って個片化した(【0031】、【0033】)、
磁性シートの製造方法。」

2 引用文献2について
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献2(特開2008-296431号公報)には、図面とともに次の事項が記載されている。
「【0043】
次に、本発明の実施形態について、具体的な例を挙げて説明する。
[第1実施形態]
図1(a)は、本発明の一実施形態として例示するセラミックシートの斜視図、同図(b)は同セラミックシートの構造を示す分解図である。
【0044】
このセラミックシート1は、可撓性のある樹脂シート層3、セラミック材料によって形成されたセラミック層5、および可撓性のある樹脂シート層3を、この順序で積層した3層構造になっている。
【0045】
これらの内、樹脂シート層3は、本実施形態の場合、厚さ0.1mmのPETシートによって構成されている。
また、セラミック層5は、本実施形態の場合、軟磁性フェライト(例えば、Ni-Zn系フェライト)の焼結体によって構成されたもので、複数のセラミック小片5aが縦横に配列された構造になっている。
【0046】
より詳しく説明すると、これら複数のセラミック小片5aは、薄板状セラミック5b(図2(a)参照)の一方の面に、あらかじめ凹部5c(図2(b)参照)を形成しておき、この薄板状セラミック5bを樹脂シート層3の間に挟み込んでから(図2(c)参照)、凹部5cに沿って割ることによって形成されている(図2(d)参照)。」

「【0058】
ところで、上記凹部5cは、図3(a)に示すように、複数の凹部5cが破線状に形成されたものである。より具体的には、複数の凹部5cからなる破線は、複数本が縦横に延びて格子状のパターンをなす位置に形成されている。」

上記記載より、引用文献2には、次の発明(以下、「引用発明2」という。)が記載されている(括弧内は、引用文献2の記載箇所を示す。)。
「樹脂シート層3、セラミック層5、樹脂シート層3を、この順序で積層したセラミックシート1であって(【0044】)、
あらかじめ複数本が縦横に延びて格子状のパターンをなす凹部5cからなる破線を形成した薄板状セラミック5bを、樹脂シート層3の間に挟み込んでから、凹部5cに沿って割ることによって形成された(【0046】、【0058】)、
セラミックシート1。」

3 引用文献3について
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献3(実公昭47-31405号公報)には、図面とともに次の事項が記載されている。
「第1図は本考案の装置によって破折さるべき被覆ウエハーを示す。半導体ウエハー1の上面には素子片4に細分するための格子状の罫掻線5が縦横に引かれ、ウエハー両面にはプラスチック薄膜2,3が密着している。」(第2欄第15-19行)

「被覆ウエハーは弾性ローラー13側を罫掻面として罫掻線をローラー軸線と平行させて両ローラー間に送り込むものとする。これによりウエハーは各罫掻線が両ローラーの挾圧部を通過するごとに罫掻線に沿って破折されながら進行する。このようにして一方向の罫径線に沿った破折を終ったのち、ウェハーを直角に回して再びローラー間に送り込めば、プラスチック薄膜に密着した状態で素子片群に細分されたウェハーが得られる。」(第3欄第26-35行)」

上記記載より、引用文献3には次の技術が記載されている。
「ウエハーの上面に格子状の罫掻線を縦横に引き、ウエハーを罫掻線をローラー軸線と平行させて両ローラー間に送り込み、ウエハーを罫掻線に沿って破折し、一方向の罫径線に沿った破折を終ったのち、ウェハーを直角に回して再びローラー間に送り込み素子片群に細分されたウェハーを得る技術。」

第8 対比、判断
1 本願発明1について
本件発明1に対する原査定の理由3は、上記引用文献1、3に基いて、当業者が容易に発明できたものであるというものなので(上記「第6 2」)、以下、引用文献1を主引例として対比、判断を行う。

(1)対比
本願発明1と引用発明1とを対比すると、次のことがいえる。
ア 引用発明1の「フェライト材料のグリーンシート」、「フェライト焼結体」、「両面テープ」、「PETシート」(「保護シート」も同様)、「磁性シート」、「分割線」は、それぞれ、本願発明1の「セラミックグリーンシート」、「焼成セラミック層」、「粘着材層」、「樹脂層」、「セラミック複合シート」、「誘引溝」に相当する。

イ 引用発明1の「グリーンシートを焼成しフェライト焼結体を得」る工程は、本願発明1の「所定形状のセラミックグリーンシートを焼成して、焼成セラミック層を形成する焼成工程」に相当する。

ウ 引用発明1の「フェライト焼結体の一方の面に両面テープ付のPETシートを貼り合せ磁性シートを得」る工程は、本願発明1の「前記焼成セラミック層の少なくとも片面に、粘着材層を介して、樹脂層を粘着してセラミック複合シートを形成するラミネート工程」に相当する。

エ 引用発明1の「保護シート」は「PETシート」であるから、引用発明1の「保護シートが貼付された状態で、磁性シートに外力を加えてフェライト焼結体を第1、第2の分割線群に沿って個片化し」する工程は本願発明1と、「ラミネートされた前記セラミック複合シートを、」「第1方向群を備え」た「誘引溝に沿って焼成セラミック層を分割して連続した分割ラインを形成し、かつ前記樹脂層は分割しない分割工程」である点で共通する。
但し、分割工程において、本願発明1は、セラミック複合シートを「分割装置に通」すのに対して、引用発明1はそのような特定がない点で相違する。
また、誘引溝が、本願発明1は「連続した誘引溝」であるのに対して、引用発明1は「直線状に並んだ複数の帯状の貫通孔によって構成されている」点で相違する。
そして、分割工程において、本願発明1は「前記第1方向群に対して、該第1方向群と直交する第2方向群の単位幅当たりの平均分割ライン数を多く」するのに対して、引用発明1は、第1の分割線群と第2の分割線群が「それぞれ2.5mmの分割線ピッチで」ある点で相違する。
さらに、分割工程において、本願発明1は「前記セラミック複合シートを前記分割装置に通して前記誘引溝に沿って前記第1方向群に分割した後、前記第1方向群に分割されたセラミック複合シートを前記分割装置に通して前記第2方向群に分割する」のに対して、引用発明1はそのような特定がない点で相違する。

オ 引用発明1の「フェライト材料のグリーンシートに、」「互いに平行な複数の分割線からなる第1の分割線群と、互いに平行で、かつ第1の分割線群の分割線と直交する方向に形成された複数の分割線からなる第2の分割線群を」「形成」することは本願発明1と、「前記焼成工程の前に、前記セラミックグリーンシートに」「平行な誘引溝を予め設け」る点で共通する。
但し、本願発明1は、セラミックグリーンシートに「前記第1方向群のみに相当する平行な誘引溝を予め設け」るのに対して、引用発明1は「第1の分割線群」と、第1の分割線群と直交する「第2の分割線群」を形成する点で相違する。

カ 引用発明1の「磁性シートの製造方法」は、本願発明1の「セラミック複合シートの製造方法」に相当する。

上記アないしカによれば、本願発明1と引用発明1との間には、次の一致点及び相違点があるといえる。
(一致点)
「所定形状のセラミックグリーンシートを焼成して、焼成セラミック層を形成する焼成工程と、
前記焼成セラミック層の少なくとも片面に、粘着材層を介して、樹脂層を粘着してセラミック複合シートを形成するラミネート工程と、
ラミネートされた前記セラミック複合シートを、第1方向群を備えた誘引溝に沿って焼成セラミック層を分割して連続した分割ラインを形成し、かつ前記樹脂層は分割しない分割工程とを有し、
前記焼成工程の前に、前記セラミックグリーンシートに平行な誘引溝を予め設ける、
セラミック複合シートの製造方法。」

(相違点1)
分割工程において、本願発明1は、セラミック複合シートを「分割装置に通」すのに対して、引用発明1はそのような特定がない点。
(相違点2)
誘引溝が、本願発明1は「連続した誘引溝」であるのに対して、引用発明1は「直線状に並んだ複数の帯状の貫通孔によって構成されている」点。
(相違点3)
分割工程において、本願発明1は「前記第1方向群に対して、該第1方向群と直交する第2方向群の単位幅当たりの平均分割ライン数を多く」するのに対して、引用発明1は、第1の分割線群と第2の分割線群が「それぞれ2.5mmの分割線ピッチで」ある点。
(相違点4)
分割工程において、本願発明1は「前記セラミック複合シートを前記分割装置に通して前記誘引溝に沿って前記第1方向群に分割した後、前記第1方向群に分割されたセラミック複合シートを前記分割装置に通して前記第2方向群に分割する」のに対して、引用発明1はそのような特定がない点。
(相違点5)
本願発明1は、セラミックグリーンシートに「前記第1方向群のみに相当する平行な誘引溝を予め設け」るのに対して、引用発明1は「第1の分割線群」と、第1の分割線群と直交する「第2の分割線群」を形成する点。

(2)相違点についての判断
事案に鑑み、まず、相違点5について検討する。
引用発明1は「フェライト焼結体を第1、第2の分割線群に沿って個片化」するものである。そうすると、「第1の分割線群」と、第1の分割線群と直交する「第2の分割線群」のうち一方を省略することは、第1、第2の分割線群に沿って個片化するという目的が達成できなくなる恐れがあるので、当業者が想定しないことである。

また、引用文献3には、ウエハーの上面に格子状の罫掻線を縦横に引き、ウエハーを罫掻線をローラー軸線と平行させて両ローラー間に送り込み、ウエハーを罫掻線に沿って破折し、一方向の罫径線に沿った破折を終ったのち、ウェハーを直角に回して再びローラー間に送り込み素子片群に細分されたウェハーを得る技術が記載されている(上記「第7 3」)。
しかし、引用文献3には、細分されたウェハーを得る際に、格子状の罫掻線を縦横の一方向のみにすることは記載されていないし、そのようにすることの示唆もない。
そうすると、たとえ、引用発明1に引用文献3に記載の上記技術を適用しても、「第1の分割線群」と、第1の分割線群と直交する「第2の分割線群」のうち一方を省略することには至らない。

したがって、上記相違点5に係る構成を得ることは、引用発明1及び引用文献3に記載された技術に基づいて、当業者が当業者が容易になしえたこととはいえない。

(3)まとめ
よって、他の相違点について判断するまでもなく、本願発明1は、当業者であっても、引用発明1及び引用文献3に記載された技術に基づいて容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

2 本願発明2、4ないし6について
本願発明2、4ないし6も、本願発明1の「前記焼成工程の前に、前記セラミックグリーンシートに前記第1方向群のみに相当する平行な誘引溝を予め設け」(上記相違点5に係る構成)と同一の構成を備えるものであるから、本願発明1と同じ理由により、当業者であっても、引用発明1及び引用文献3に記載された技術に基づいて容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

3 本願発明3について
本願発明3も、本願発明1の「前記焼成工程の前に、前記セラミックグリーンシートに前記第1方向群のみに相当する平行な誘引溝を予め設け」(上記相違点5に係る構成)と同一の構成を備えるものであるから、本願発明1と同じ理由により、当業者であっても、引用発明1及び引用文献3に記載された技術に基づいて容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

また、本願発明3についての原査定の理由3は、上記引用文献1、3に基いて、当業者が容易に発明できたものであるという理由に加えて、上記引用文献2、3に基いて、当業者が容易に発明できたものであるという理由も示されている(上記「第6 2」)。
しかしながら、引用発明2は「樹脂シート層3、セラミック層5、樹脂シート層3を、この順序で積層したセラミックシート1であって、あらかじめ複数本が縦横に延びて格子状のパターンをなす凹部5cからなる破線を形成した薄板状セラミック5bを、樹脂シート層3の間に挟み込んでから、凹部5cに沿って割ることによって形成された、セラミックシート1。」であるが、「前記焼成工程の前に、前記セラミックグリーンシートに前記第1方向群のみに相当する平行な誘引溝を予め設け」る構成(上記相違点5に係る構成)は特定されておらず、本願発明1と同様な理由により、当業者であっても、引用文献2に記載された発明及び引用文献3に記載された技術に基づいて容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

第9 むすび
以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。

 
審決日 2021-10-12 
出願番号 特願2016-563396(P2016-563396)
審決分類 P 1 8・ 537- WY (H05K)
P 1 8・ 121- WY (H05K)
最終処分 成立  
前審関与審査官 五貫 昭一  
特許庁審判長 山田 正文
特許庁審判官 畑中 博幸
須原 宏光
発明の名称 セラミック複合シート及びその製造方法  
代理人 特許業務法人前田特許事務所  

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