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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G06F
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 取り消して特許、登録 G06F
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 G06F
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 取り消して特許、登録 G06F
管理番号 1379127
審判番号 不服2020-9031  
総通号数 264 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-12-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-06-29 
確定日 2021-11-02 
事件の表示 特願2016-128124「電子機器、文字入力制御方法、及び文字入力制御プログラム」拒絶査定不服審判事件〔平成30年 1月11日出願公開、特開2018- 5349、請求項の数(3)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成28年6月28日の出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。
令和 元年 5月28日付け:拒絶理由通知書
令和 元年 8月 2日 :意見書、手続補正書の提出
令和 元年 8月 8日付け:拒絶理由通知書(最後の拒絶理由)
令和 元年10月18日 :意見書の提出
令和 2年 3月25日付け:拒絶査定
令和 2年 6月29日 :拒絶査定不服審判の請求
令和 3年 6月 1日付け:拒絶理由(当審拒絶理由)通知書
令和 3年 8月 6日 :意見書、手続補正書の提出

第2 原査定の概要
原査定(令和2年3月25日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。

1 理由1
本願請求項1?3に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された以下の引用文献1に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。

2 理由2
本願請求項1?3に係る発明は、以下の引用文献1に記載された発明に基づいて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献1:特開2004-38789号公報

第3 本願発明
本願請求項1?3に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」?「本願発明3」という。)は、令和3年8月6日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?3に記載された事項により特定される、以下のとおりの発明である(下線は補正箇所を示す。)。
「【請求項1】
筐体と、
前記筐体の縁の側近くに寄った位置に沿って並ぶ複数の物理キーと、
前記物理キーの操作に基づいて、点字キーと文字との対応関係を示す点字規則に従った文字入力処理を実行するコントローラと
を備え、
前記コントローラは、
前記点字規則に従って文字を表す点字を入力する点字キーの役割を前記物理キーに割り当てるためのキー割り当てデータに基づいて、複数の前記物理キーに、複数の前記点字キーに対応する役割を重複しないように個別に割り当てて、
1又は複数の前記物理キーに対する操作を検出すると、該操作が検出された1又は複数の物理キーに対応する文字を前記点字規則および前記キー割り当てデータに照らし合わせて特定する電子機器。
【請求項2】
筐体と、
前記筐体の縁の側近くに寄った位置に沿って並ぶ複数の物理キーと
を備える電子機器が実行する制御方法であって、
点字キーと文字との対応関係を示す点字規則に従って文字を表す点字を入力する前記点字キーの役割を前記物理キーに割り当てるためのキー割り当てデータに基づいて、複数の前記物理キーに、複数の前記点字キーに対応する役割を重複しないように個別に割り当てるステップと、
1又は複数の前記物理キーに対する操作を検出すると、該操作が検出された1又は複数の物理キーに対応する文字を前記点字規則および前記キー割り当てデータに照らし合わせて特定するステップと
含む文字入力制御方法。
【請求項3】
筐体と、
前記筐体の縁の側近くに寄った位置に沿って並ぶ複数の物理キーと
を備える電子機器に、
点字キーと文字との対応関係を示す点字規則に従って文字を表す点字を入力する前記点字キーの役割を前記物理キーに割り当てるためのキー割り当てデータに基づいて、複数の前記物理キーに、複数の前記点字キーに対応する役割を重複しないように個別に割り当てるステップと、
1又は複数の前記物理キーに対する操作を検出すると、該操作が検出された1又は複数の物理キーに対応する文字を前記点字規則および前記キー割り当てデータに照らし合わせて特定するステップと
を実行させる文字入力制御プログラム。」

第4 引用文献の記載、引用発明
1 引用文献1の記載
原査定の拒絶の理由にて引用された引用文献1(特開2004-38789号公報)には、図面とともに次の事項が記載されている(下線は当審による。)。

「【0025】
図1?図2を参照して、図示の本発明の実施の形態に係るキーボードシステム10は、キーを入力操作することにより例えば携帯用のパーソナルコンピュータなどの情報端末機や携帯電話などの通信機器において文字コードもしくは制御コードに対応する電気信号を発生させるものである。そしてこの本発明の実施の形態に係るキーボードシステム10は、特にキーの数を低減して小型軽量で操作性の良いキーボードシステムを実現するために、少なくとも1個以上を組み合わせて入力操作することにより一の文字コードもしくは一の制御コードに対応する電気信号を発生させる6個もしくは8個のコンビネーションキー1(1a、1b、1c、1d、1e、1f)を備えている(図においては、6個の場合について記載し、8個の場合については省略する)。」
「【0028】
上記6個もしくは8個のコンビネーションキー1は、ケース3において3個もしくは4個ずつ2列に配列された同形状の押しボタン式スイッチで構成されており、このコンビネーションキー1の組み合わせのパターンと、そのパターンの意味する文字との対応関係は、点字コードのパターンとこの点字コードのパターンの意味する文字との対応関係を含んでいる。そのため、このコンビネーションキー1の組み合わせのパターンは、3個ずつ2列に配列された場合は、図3に示すように、母音のパターンと子音のパターンとの組み合わせで文字を表現する構成になっており、その意味する文字との対応関係を覚えやすい構成となっている。」

「【0034】
上記ケース3は、操作者が両手で保持した状態で、キーから指を離すことなく、これらコンビネーションキー1と補助キー2とを操作することができるように設けられた合成樹脂製の箱状部材であり、ケース3の側面3aに3個もしくは4個ずつ左右2列のコンビネーションキー1を配置し、ケース3の上面3bもしくは背面3cに補助キー2を配置している。」

「【0046】
図5と図6を参照して、本実施形態において、例えば、「さ」という文字を入力する場合、CPU7が文字コードに対応する電気信号を発生させる要領は以下のとおりである。
【0047】
「さ」という文字を入力する場合、図5に示すように、1b、1c、1dのキーが押されるが、図6のグラフは時間Tの経過においてそれぞれのキーが押された時にCPU7の各ピンが+5Vから0Vに電圧が下がることを示している。そして、CPU7は、いずれかのキーが押された時Tsから全てのキーが離される時Teまでをチェックし、その間に押されたキーの組み合わせを判断して、この組み合わせに合った文字コードに対応する電気信号をシリアルデータとしてクロック信号とともに6ピン小型DINコネクタ5に出力するように構成されている。」

「【図1】



2 引用発明
上記1から、引用文献1には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「少なくとも1個以上を組み合わせて入力操作することにより一の文字コードもしくは一の制御コードに対応する電気信号を発生させる6個のコンビネーションキー1を備えているキーボードシステム10であって、
上記6個のコンビネーションキー1は、ケース3において3個ずつ2列に配列された同形状の押しボタン式スイッチで構成されており、このコンビネーションキー1の組み合わせのパターンと、そのパターンの意味する文字との対応関係は、点字コードのパターンとこの点字コードのパターンの意味する文字との対応関係を含んでおり、
上記ケース3は、操作者が両手で保持した状態で、キーから指を離すことなく、これらコンビネーションキー1を操作することができるように設けられた箱状部材であり、
CPU7が、いずれかのキーが押された時から全てのキーが離される時までをチェックし、その間に押されたキーの組み合わせを判断して、この組み合わせに合った文字コードに対応する電気信号を出力する、キーボードシステム10。」

第5 対比・判断
1 本願発明1について
(1)対比
ア 本願発明1と引用発明とを対比すると、次のことがいえる。
(ア)引用発明の「キーボードシステム10」は、「6個のコンビネーションキー1」が「ケース3において3個ずつ2列に配列され」るから、「ケース3」を備えるものであり、当該「ケース3」は、本願発明1の「筐体」に相当する。

(イ)引用発明は、上記(ア)で述べた構成に加えて、「上記ケース3は、操作者が両手で保持した状態で、キーから指を離すことなく、これらコンビネーションキー1を操作することができるように設けられた箱状部材であ」るとの構成を有するものである。
ここで、引用文献1の図1を参照すると、「6個のコンビネーションキー1」の「2列」の各「配列」は、いずれも「ケース3」の面の中央よりも「縁の側」に「寄った位置に沿って並ぶ」ものであることが見て取れる。
また、「コンビネーションキー1」は、「ケース3」を「操作者が両手で保持した状態で」、「キーから指を離すことなく、操作することができる」ものであり、そのため、「ケース3」の「縁の側近く」に位置しているといえる(「ケース3」の「縁の側近く」でなければ、必ずしも「ケース3」を「操作者が両手で保持した状態」で「キー」を「操作する」ことはできない。)。
そして、引用発明の「6個のコンビネーションキー1」は、いずれも物理的に設けられたものであり、本願発明1の「複数の物理キー」に含まれる。
以上の点について上記(ア)で更に検討した点も踏まえると、引用発明の「キーボードシステム10」は、本願発明1の
「前記筐体の縁の側近くに寄った位置に沿って並ぶ複数の物理キー」
に相当する構成を備えている。

(ウ)引用発明の「キーボードシステム10」は、「CPU7が、いずれかのキーが押された時から全てのキーが離される時までをチェックし、その間に押されたキーの組み合わせを判断して、この組み合わせに合った文字コードに対応する電気信号をシリアルデータとして出力する」ものであるから、「CPU7」を備えるものであり、当該「CPU7」は、本願発明1の「コントローラ」に相当する。
また、「押されたキーの組み合わせ」は、「コンビネーションキー1」の操作により特定されるものであり、当該操作に基づいて「この組み合わせに合った文字コードに対応する電気信号をシリアルデータとして出力する」ものであって、当該「出力する」処理は、本願発明1の「文字入力処理を実行する」ことに相当する。
以上の点について上記(イ)も踏まえると、本願発明1の
「前記物理キーの操作に基づいて、点字キーと文字との対応関係を示す点字規則に従った文字入力処理を実行するコントローラ」
に関して、引用発明の「キーボードシステム10」は、
「前記物理キーの操作に基づいて、文字入力処理を実行するコントローラ」
を備える点で、本願発明1と共通している。

(エ)引用文献1の
引用発明の「6個のコンビネーションキー1」は、「少なくとも1個以上を組み合わせて入力操作することにより一の文字コードもしくは一の制御コードに対応する電気信号を発生させる」ものである。
この点に加え、上記(ウ)で述べた引用発明の構成及び当該構成について検討した点によれば、本願発明1の
「前記コントローラは」、
「1又は複数の前記物理キーに対する操作を検出すると、該操作が検出された1又は複数の物理キーに対応する文字を前記点字規則および前記キー割り当てデータに照らし合わせて特定する」こと
に関して、引用発明と本願発明1とは、
「前記コントローラは」、
「1又は複数の前記物理キーに対する操作を検出すると、該操作が検出された1又は複数の物理キーに対応する文字を特定する」こと
において、共通している。

(オ)引用発明の「キーボードシステム10」は、本願発明1の「電子機器」に相当する。

イ 上記アから、本願発明1と引用発明との間には、次の一致点、相違点があるといえる。
(一致点)
「 筐体と、
前記筐体の縁の側近くに寄った位置に沿って並ぶ複数の物理キーと、
前記物理キーの操作に基づいて、文字入力処理を実行するコントローラと
を備え、
前記コントローラは、
1又は複数の前記物理キーに対する操作を検出すると、該操作が検出された1又は複数の物理キーに対応する文字を特定する電子機器。」

(相違点)
本願発明1では、「文字入力処理」が、「点字キーと文字との対応関係を示す点字規則に従った」ものであるとともに、「前記コントローラ」が、「前記点字規則に従って文字を表す点字を入力する点字キーの役割を前記物理キーに割り当てるためのキー割り当てデータに基づいて、複数の前記物理キーに、複数の前記点字キーに対応する役割を重複しないように個別に割り当て」るものであり、そして、「該操作が検出された1又は複数の物理キーに対応する文字」を「特定する」ことを「前記点字規則および前記キー割り当てデータに照らし合わせて」行うものであるのに対し、
引用発明は、単に、「押されたキーの組み合わせを判断して、この組み合わせに合った文字コードに対応する電気信号を出力する」ものであり、「点字キー」(論理的なキー)を備えるものとは特定されず、「点字キーと文字との対応関係を示す点字規則」及び「点字キーの役割を前記物理キーに割り当てるためのキー割り当てデータ」に関する処理を行うと特定されるものでもない点。

(2)判断
そこで、上記相違点について検討する。
検出された1又は複数の物理キーに対する操作から文字を特定するために、点字規則に従って文字を表す点字を入力する点字キーの役割を物理キーに割り当てるためのキー割り当てデータに基づいて、複数の物理キーに、複数の点字キーに対応する役割を重複しないように個別に割り当てた上で、点字規則およびキー割り当てデータに照らし合わせて、操作が検出された1又は複数の物理キーに対応する文字を特定することは、引用文献1には記載されておらず、本願の出願日前において周知技術であったとも認められない。
よって、本願発明1は、当業者であっても引用文献1に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

2 本願発明2,3について
本願発明2,3は、それぞれ、本願発明1に対応する方法、プログラムの発明であり、上記相違点に対応する発明特定事項を含む。
そうすると、本願発明2,3も本願発明1と同様の理由により、当業者であっても引用文献1に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

第6 原査定についての判断
令和3年8月6日提出の手続補正書による補正の結果、本願発明1?3は、それぞれ上記相違点に係る発明特定事項又はそれらに対応する発明特定事項を有するものとなっており、上記第5のとおり、引用文献1に記載された発明ではなく、また、引用文献1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。したがって、原査定(上記第2)を維持することはできない。

第7 当審拒絶理由について
1 当審が令和3年6月1日付けで通知した拒絶理由の概要は、次のとおりである。
この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。
また、この出願は、発明の詳細な説明の記載が下記の点で、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。
請求項1において、
(1)「点字規則」とはどのような内容の情報であるのか
(2)「前記点字規則に従って文字を表わす点字を入力するための複数の点字キー」とは、「点字規則」と「点字キー」との間にどのような関係があることを特定しているのか
(3)「該操作が検出された1又は複数の物理キーに対応する文字を点字規則と照らし合わせて特定する」とはどのような処理であるのか
が明確でない。
発明の詳細な説明の段落【0038】には、図13が「点字規則データ9Dの一例」であり、「ひらがな入力ロジックファイルの概要を示す」こと、及び、「ひらがな入力ロジックファイル」は、「文字と、第1キーユニット3aを構成する1又は複数の物理キーに対する操作パターンとの対応関係を規定している」ことが記載されているが、当該段落の記載と図13とが整合していないから、発明の詳細な説明は、請求項1の記載事項に関して、当業者が容易に実施し得る程度に記載されているとは認められない。
請求項2,3にもそれぞれ請求項1と同様の記載がある。

2 これに対し、令和3年8月6日に提出の手続補正書により請求項1の記載が補正された結果、「点字規則」が「点字キーと文字との対応関係を示す」こと、「前記点字規則に従って文字を表す点字を入力する前記点字キーの役割を前記物理キーに割り当てるためのキー割り当てデータに基づいて、複数の前記物理キーに、複数の前記点字キーに対応する役割を重複しないように個別に割り当て」ること、及び、「該操作が検出された1又は複数の物理キーに対応する文字」を「特定する」ために「照らし合わせる」ものが「前記点字規則および前記キー割り当てデータ」であること、が記載されているものとなり、請求項2,3においても同様に記載されている。
そして、これらの記載により、「点字規則」の内容、「点字規則」と「点字キー」との関係、及び「該操作が検出された1又は複数の物理キーに対応する文字」を「特定する」処理の内容が明確なものとなった。
また、上記のように補正された経緯からすれば、段落【0038】の、図13が「文字と、第1キーユニット3aを構成する1又は複数の物理キーに対する操作パターンとの対応関係を規定している」旨の記載の「対応関係」は、間接的なもの(図6の「キー割り当てデータ」(段落【0036】)によって媒介された「対応関係」)であって、図13と整合的に理解するのが自然であり、請求項1?3に係る発明を当業者が容易に実施し得る程度のものである。
以上のことから、当審拒絶理由は解消した。

第8 むすび
以上のとおり、本願発明1?3は、引用文献1に記載された発明ではなく、また、当業者が引用文献1に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものではない。したがって、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2021-10-12 
出願番号 特願2016-128124(P2016-128124)
審決分類 P 1 8・ 537- WY (G06F)
P 1 8・ 536- WY (G06F)
P 1 8・ 113- WY (G06F)
P 1 8・ 121- WY (G06F)
最終処分 成立  
前審関与審査官 菅原 浩二  
特許庁審判長 角田 慎治
特許庁審判官 富澤 哲生
北川 純次
発明の名称 電子機器、文字入力制御方法、及び文字入力制御プログラム  
代理人 特許業務法人酒井国際特許事務所  

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