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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01L
管理番号 1379431
審判番号 不服2020-10822  
総通号数 264 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-12-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-08-04 
確定日 2021-10-28 
事件の表示 特願2016- 91294「積層構造体および半導体装置」拒絶査定不服審判事件〔平成29年 6月29日出願公開、特開2017-118090〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成28年4月28日(優先権主張 平成27年12月21日)の出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。
令和2年 1月14日付け :拒絶理由通知書
令和2年 3月19日 :意見書、手続補正書の提出
令和2年 4月27日付け :拒絶査定
令和2年 8月 4日 :審判請求書、手続補正書の提出
令和3年 3月31日付け :拒絶理由通知書(当審)
令和3年 6月 7日 :意見書、手続補正書の提出

第2 本願発明
本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、令和3年6月7日付けの手続補正書によって補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された以下のとおりである。

「【請求項1】
ショットキー電極と、前記ショットキー電極上に直接または他の層を介して積層されている第1の半導体層と、前記第1の半導体層上に積層されている第2の半導体層と、前記第2の半導体層上に直接または他の層を介して積層されているオーミック電極とを少なくとも備える半導体装置であって、前記第1の半導体層および第2の半導体層が、コランダム構造を有する結晶性酸化物半導体を主成分として含み、前記ショットキー電極が複数の層を有し、Tiまたは/およびAuを含み、前記オーミック電極が複数の層を有し、Tiまたは/およびAuを含むことを特徴とする半導体装置。」

第3 当審拒絶理由の概要
令和3年3月31日付け拒絶理由通知書(当審)(以下、「当審拒絶理由通知書」という。)で通知された拒絶理由の概要は、以下のとおりである。
(進歩性)この出願の請求項1に係る発明は、その優先日前に日本国内または外国において頒布された下記引用文献2に記載された発明と、下記引用文献1に記載された技術的事項に基いて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献1:国際公開第2013/035844号
引用文献2:特開2015-227279号公報

第4 引用文献の記載及び引用発明
1 引用文献1の記載
(1)当審拒絶理由通知書で引用された引用文献1には、以下の事項が記載されている(下線は当審にて付与した。以下同様。)。

「[0014](Ga_(2)O_(3)系半導体素子の構成)
図1は、実施の形態に係るGa_(2)O_(3)系MESFETの断面図である。Ga_(2)O_(3)系MESFET10は、α-Al_(2)O_(3)基板2上に形成されたn型α-(Al_(x)Ga_(1-x))_(2)O_(3)単結晶膜3と、n型α-(Al_(x)Ga_(1-x))_(2)O_(3)単結晶膜3上に形成されたソース電極12及びドレイン電極13と、n型α-(Al_(x)Ga_(1-x))_(2)O_(3)単結晶膜3中にソース電極12及びドレイン電極13の下にそれぞれ形成されたコンタクト領域14、15と、n型α-(Al_(x)Ga_(1-x))_(2)O_(3)単結晶膜3のソース電極12とドレイン電極13の間の領域上に形成されたゲート電極11とを含む。
[0015] ソース電極12とドレイン電極13は、n型β-Ga_(2)O_(3)単結晶膜3を介して電気的に接続されている。また、ゲート電極11とn型β-Ga_(2)O_(3)単結晶膜3の界面はショットキー接合を形成し、n型β-Ga_(2)O_(3)単結晶膜3中のゲート電極11下に空乏層が形成される。この空乏領域の厚さにより、Ga_(2)O_(3)系MESFET10は、ノーマリーオフ型のトランジスタ又はノーマリーオン型のトランジスタとして機能する。
[0016] n型α-(AlxGa1-x)_(2)O_(3)単結晶膜3は、α-Al_(2)O_(3)基板2上に形成されたα-(Al_(x)Ga_(1-x))_(2)O_(3)(0≦x<1)の単結晶膜である。n型α-(Al_(x)Ga_(1-x))_(2)O_(3)単結晶膜3は、Sn、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Mo、W、Ru、Rh、Ir、C、Si、Ge、Pb、Mn、As、Sb、Bi、F、Cl、Br、I等のn型ドーパントを含む。n型α-(Al_(x)Ga_(1-x))_(2)O_(3)単結晶膜3は、例えば、1×10^(15)/cm^(3)以上、1×10^(19)/cm^(3)以下の濃度のn型ドーパントを含む。また、n型α-(Al_(x)Ga_(1-x))_(2)O_(3)単結晶膜3の厚さは、例えば、0.1?10μmである。
[0017] なお、α-Al_(2)O_(3)基板2とn型α-(Al_(x)Ga_(1-x))_(2)O_(3)単結晶膜3との間に、アンドープβ-Ga_(2)O_(3)単結晶膜等の他の膜が形成されてもよい。この場合、α-Al_(2)O_(3)基板2上にアンドープβ-Ga_(2)O_(3)単結晶膜がエピタキシャル成長により形成され、アンドープβ-Ga_(2)O_(3)単結晶膜上にn型α-(Al_(x)Ga_(1-x))_(2)O_(3)単結晶膜3がエピタキシャル成長により形成される。
[0018] ゲート電極11、ソース電極12、及びドレイン電極13は、例えば、Au、Al、Ti、Sn、Ge、In、Ni、Co、Pt、W、Mo、Cr、Cu、Pb等の金属、これらの金属のうちの2つ以上を含む合金、又はITO等の導電性化合物、導電性ポリマーからなる。導電性ポリマーとしては、ポリチオフェン誘導体(PEDOT:ポリ(3、4)-エチレンジオキシチオフェン)にポリスチレンスルホン酸(PSS)をドーピングしたものや、ポリピロール誘導体にTCNAをドーピングしたもの等が用いられる。また、異なる2つの金属からなる2層構造、例えばAl/Ti、Au/Ni、Au/Co、を有してもよい。
[0019] コンタクト領域14、15は、n型α-(Al_(x)Ga_(1-x))_(2)O_(3)単結晶膜3中に形成されたn型ドーパントの濃度が高い領域であり、それぞれソース電極12及びドレイン領域13が接続される。コンタクト領域14、15に主に含まれるn型ドーパントとn型α-(Al_(x)Ga_(1-x))_(2)O_(3)単結晶膜3に含まれるn型ドーパントは、同じであってもよいし、異なっていてもよい。コンタクト領域14、15は、例えば、1×10^(18)/cm^(3)以上、5×10^(19)/cm^(3)以下の濃度のn型ドーパントを含む。なお、コンタクト領域14、15は、Ga_(2)O_(3)系MESFET10に含まれなくてもよい。」

なお、段落[0015]には、「n型β-Ga_(2)O_(3)単結晶膜3」という記載が3箇所になされているが、いずれの記載も「n型α-(Al_(x)Ga_(1-x))_(2)O_(3)単結晶膜3」の誤記と認めた。

「[請求項1] α-Al_(2)O_(3)基板上に直接、又は他の層を介して形成されたα-(Al_(x)Ga_(1-x))_(2)O_(3)単結晶(0≦x<1)からなるα-(Al_(x)Ga_(1-x))_(2)O_(3)単結晶膜と、
前記α-(Al_(x)Ga_(1-x))_(2)O_(3)単結晶膜上に形成されたソース電極及びドレイン電極と、
前記α-(Al_(x)Ga_(1-x))_(2)O_(3)単結晶膜の前記ソース電極と前記ドレイン電極との間の領域上に形成されたゲート電極と、
を含むGa_(2)O_(3)系半導体素子。」

「[図1]



(2)上記(1)から、引用文献1には、次の技術的事項が記載されていると認められる。
ア n型α-Ga_(2)O_(3)単結晶膜3上に形成されたソース電極12、ドレイン電極13及びゲート電極11を含むGa_(2)O_(3)系半導体素子において、ソース電極12とドレイン電極13は、n型α-Ga_(2)O_(3)単結晶膜3を介して電気的に接続されており、ゲート電極11とn型α-Ga_(2)O_(3)単結晶膜3の界面はショットキー接合を形成すること。([請求項1]、[0014]?[0015]、[図1])

イ n型α-Ga_(2)O_(3)単結晶膜3上の、n型α-Ga_(2)O_(3)単結晶膜3とショットキー接合を形成する電極(ゲート電極11)が、異なる2つの金属からなる2層構造、例えばAl/Ti、Au/Ni、Au/Co、を有してもよいこと。([0015]、[0018])

ウ n型α-Ga_(2)O_(3)単結晶膜3上のソース電極12、ドレイン電極13が、異なる2つの金属からなる2層構造、例えばAl/Ti、Au/Ni、Au/Co、を有してもよいこと。([0018])

2 引用文献2の記載
(1)当審拒絶理由通知書で引用された引用文献2には、以下の事項が記載されている。

「【請求項1】
一軸に配向している金属を主成分として含む金属層上に、直接又は他の層を介して、結晶性酸化物半導体を主成分として含む半導体層を備えている結晶性積層構造体であって、前記結晶性酸化物半導体が、ガリウム、インジウムおよびアルミニウムから選ばれる1または2以上の金属を含む酸化物半導体であり、さらに、一軸に配向していることを特徴とする結晶性積層構造体。」

「【請求項9】
請求項1?8のいずれかに記載の結晶性積層構造体からなることを特徴とする半導体装置。」

「【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体装置、特に電力用または受発光用半導体装置に有用な結晶性積層構造体および前記結晶性積層構造体からなる半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
高耐圧、低損失および高耐熱を実現できる次世代のスイッチング素子として、バンドギャップの大きな酸化ガリウム(Ga_(2)O_(3))を用いた半導体装置が注目されており、インバータなどの電力用半導体装置への適用が期待されている。しかも、広いバンドギャップからLEDやセンサー等の受発光装置としての応用も期待されている。当該酸化ガリウムは非特許文献1によると、インジウムやアルミニウムをそれぞれ、あるいは組み合わせて混晶することによりバンドギャップ制御することが可能であり、InAlGaO系半導体として極めて魅力的な材料系統を構成している。ここでInAlGaO系半導体とはIn_(X)Al_(Y)Ga_(Z)O_(3)(0≦X≦2、0≦Y≦2、0≦Z≦2、X+Y+Z=1.5?2.5)を示し、酸化ガリウムを内包する同一材料系統として俯瞰することができる。」

「【0020】
本発明の結晶性積層構造体は、一軸に配向している金属を主成分として含む金属層上に、直接又は他の層を介して、結晶性酸化物半導体を主成分として含む半導体層を備えている。
・・・
【0023】
前記結晶性酸化物半導体は、ガリウム、インジウムおよびアルミニウムから選ばれる1または2以上の金属を含む酸化物半導体であって、さらに、一軸に配向していれば、特に限定されない。「一軸に配向している酸化物半導体」は、膜厚方向及び膜面内方向、もしくは膜厚方向などの一定の方向に単一の結晶方位をもつ酸化物半導体であれば、特に限定されず、一軸に優先配向している酸化物半導体も含まれる。本発明においては、膜厚方向に一軸に配向しているのが好ましい。配向については、上記金属層の場合と同様であり、一軸に配向しているのか否かをX線回折法により確認することができる。例えば、一軸に配向している結晶面に由来するピークとその他の結晶面に由来するピークとの積分強度比と、ランダムに配向した同一結晶粉末の一軸に配向している結晶面に由来するピークとその他の結晶面に由来するピークとの積分強度比と比較して、大きい場合(好ましくは倍以上大きい場合、より好ましくは一桁以上大きい場合)に、一軸に配向していると判断することができる。本発明においては、前記一軸に配向している結晶性酸化物半導体が単結晶であるのが好ましい。酸化物半導体の種類としては、例えば、In_(X)Al_(Y)Ga_(Z)O_(3)(0≦X≦2、0≦Y≦2、0≦Z≦2、X+Y+Z=1.5?2.5)などが挙げられる。本発明においては、前記酸化物半導体が、ガリウムを含む酸化物半導体であるのが好ましく、コランダム構造またはβガリア構造を有する酸化物半導体であるのも好ましく、α-Ga_(2)O_(3)またはβ-Ga_(2)O_(3)であるのがより好ましい。このような好ましい酸化物半導体を、上記した好ましい金属と共に用いることにより、より電気特性に優れた結晶性積層構造体を得ることができる。
なお、前記半導体層は、結晶性酸化物半導体を主成分として含んでいれば、特に限定されないが、通常、前記結晶性酸化物半導体を50モル%以上含む半導体層であり、好ましくは、80モル%以上含む半導体層であり、より好ましくは、90モル%以上含む半導体層である。」

「【0051】
本発明の結晶性積層構造体は、様々な半導体装置に有用であり、とりわけ、パワーデバイスに有用である。また、半導体装置は、電極が半導体層の片面側に形成された横型の素子(横型デバイス)と、半導体層の表裏両面側にそれぞれ電極を有する縦型の素子(縦型デバイス)に分類することができ、本発明においては、前記結晶性積層構造体を横型デバイスにも縦型デバイスにも好適に用いることができるが、中でも、縦型デバイスに用いることが好ましい。前記半導体装置としては、例えば、ショットキーバリアダイオード(SBD)、金属半導体電界効果トランジスタ(MESFET)、高電子移動度トランジスタ(HEMT)、金属酸化膜半導体電界効果トランジスタ(MOSFET)、静電誘導トランジスタ(SIT)、接合電界効果トランジスタ(JFET)、絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ(IGBT)または発光ダイオードなどが挙げられる。本発明においては、前記半導体装置が、SBD、MOSFETまたはSITであるのが好ましい。また、本発明においては、前記半導体装置が、p型半導体層を含まないのが好ましい。 なお、本発明の結晶性積層構造体を半導体装置に用いる場合には
、本発明の結晶性積層構造体をそのまま又は所望により基板の剥離等を行って、半導体装置に用いることができる。
【0052】
以下、本発明の結晶性積層構造体の結晶性酸化物半導体薄膜をn型半導体層(n+型半導体やn-型半導体等)に適用した場合の好適な例を、図面を用いて説明するが、本発明は、これらの例に限定されるものではない。なお、以下に例示する半導体装置において、本発明の目的を阻害しない限り、さらに他の層(例えば絶縁体層、半絶縁体層、導体層、半導体層、緩衝層またはその他中間層等)などが含まれていてもよいし、また、緩衝層(バッファ層)なども適宜省いてもよい。
【0053】
(SBD)
図7は、本発明に係るショットキーバリアダイオード(SBD)の一例を示している。図7のSBDは、n-型半導体層101a、n+型半導体層101b、ショットキー電極105aおよびオーミック電極105bを備えている。
【0054】
ショットキー電極およびオーミック電極の材料は、公知の電極材料であってもよく、前記電極材料としては、例えば、Al、Mo、Co、Zr、Sn、Nb、Fe、Cr、Ta、Ti、Au、Pt、V、Mn、Ni、Cu、Hf、W、Ir、Zn、In、Pd、NdもしくはAg等の金属またはこれらの合金、酸化錫、酸化亜鉛、酸化インジウム、酸化インジウム錫(ITO)、酸化亜鉛インジウム(IZO)等の金属酸化物導電膜、ポリアニリン、ポリチオフェン又はポリピロ-ルなどの有機導電性化合物、またはこれらの混合物などが挙げられる。」

「【0095】
1-6.評価
表1の実験についてのX線回折結果を図24?図27に示す。サファイア基板上に形成した試料である図24では白金、図25では金が{111}面に配向していることが確認された。そしてそれぞれの薄膜上に一軸に配向しているコランダム構造の酸化ガリウム(α-Ga_(2)O_(3))単結晶が形成されていることを確認した。白金薄膜・金薄膜が一軸に配向し、その結果、白金薄膜・金薄膜上に結晶性の酸化ガリウム単結晶薄膜が形成されたと考えられる。また、酸化ガリウムの成膜温度を600℃にして白金又は金の薄膜上に酸化ガリウム薄膜を成膜したところ、β型の酸化ガリウム単結晶薄膜を形成することができた。この場合にも、白金薄膜・金薄膜は成膜後に一軸に配向していることを確認した。」

「【図7】


図7から、上から、ショットキー電極105a、n-型半導体層101a、n+型半導体層101b、およびオーミック電極105bが積層されていることが見てとれる。

(2)上記(1)から、引用文献2には次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。
「結晶性酸化物半導体を主成分として含む半導体層を備え、前記結晶性酸化物半導体が、ガリウム、インジウムおよびアルミニウムから選ばれる1または2以上の金属を含む酸化物半導体である結晶性積層構造体からなる半導体装置であって、
前記結晶性酸化物半導体は、α-Ga_(2)O_(3)であり、
当該結晶性積層構造体の結晶性酸化物半導体薄膜をn型半導体層(n+型半導体やn-型半導体等)に適用したショットキーバリアダイオード(SBD)は、n-型半導体層101a、n+型半導体層101b、ショットキー電極105aおよびオーミック電極105bを備え、
ショットキー電極105a、n-型半導体層101a、n+型半導体層101b、およびオーミック電極105bが積層され、
ショットキー電極105aおよびオーミック電極105bの材料は、公知の電極材料であってもよく、前記電極材料としては、例えば、Al、Mo、Co、Zr、Sn、Nb、Fe、Cr、Ta、Ti、Au、Pt、V、Mn、Ni、Cu、Hf、W、Ir、Zn、In、Pd、NdもしくはAg等の金属またはこれらの合金、酸化錫、酸化亜鉛、酸化インジウム、酸化インジウム錫(ITO)、酸化亜鉛インジウム(IZO)等の金属酸化物導電膜、ポリアニリン、ポリチオフェン又はポリピロ-ルなどの有機導電性化合物、またはこれらの混合物などが挙げられる、
半導体装置。」

第5 対比
1 本願発明と引用発明とを対比する。
(1)引用発明の「ショットキー電極105a」は、本願発明の「ショットキー電極」に相当する。

(2)本願発明の「前記ショットキー電極上に直接または他の層を介して積層されている第1の半導体層と、前記第1の半導体層上に積層されている第2の半導体層」と、引用発明の「n-型半導体層101a」及び「n+型半導体層101b」とを対比する。
引用発明の「n-型半導体層101a」は、「ショットキー電極105a」に積層されている半導体層である。また、「n+半導体層101b」は、「n-型半導体層101a」に積層されている半導体層である。よって、引用発明の「n-型半導体層101a」、「n+半導体層101b」は、それぞれ、本願発明の「第1の半導体層」、「第2の半導体層」に相当する。
したがって、本願発明と引用発明とは、「前記ショットキー電極上に直接積層されている第1の半導体層と、前記第1の半導体層上に積層されている第2の半導体層」を備える点で一致する。

(3)本願発明の「前記第2の半導体層上に直接または他の層を介して積層されているオーミック電極」と、引用発明の「オーミック電極105b」とを対比する。
引用発明の「オーミック電極105b」は、本願発明の「オーミック電極」に相当する。
そして、引用発明の「オーミック電極105b」は「n+半導体層101b」に積層されているから、本願発明と引用発明とは、「前記第2の半導体層上に直接積層されているオーミック電極」を備える点で一致する。

(4)本願発明の「前記第1の半導体層および第2の半導体層が、コランダム構造を有する結晶性酸化物半導体を主成分として含」むことと、引用発明の「n-型半導体層101a」及び「n+型半導体層101b」とを対比する。
引用発明の「n-型半導体層101a」及び「n+型半導体層101b」は「α-Ga_(2)O_(3)」であり、「結晶性酸化物半導体薄膜」を適用したものであるといえるところ、「α-Ga_(2)O_(3)」は「コランダム構造」をとるから、本願発明と引用発明とは、「前記第1の半導体層および第2の半導体層が、コランダム構造を有する結晶性酸化物半導体を主成分として含」む点で一致する。

(5)引用発明の「半導体装置」は、本願発明の「半導体装置」に対応する。

2 以上のことから、本願発明と引用発明の一致点及び相違点は、次のとおりである。

【一致点】
「ショットキー電極と、前記ショットキー電極上に直接積層されている第1の半導体層と、前記第1の半導体層上に積層されている第2の半導体層と、前記第2の半導体層上に直接積層されているオーミック電極とを少なくとも備える半導体装置であって、前記第1の半導体層および第2の半導体層が、コランダム構造を有する結晶性酸化物半導体を主成分として含む半導体装置。」

【相違点1】
本願発明は、「前記ショットキー電極が複数の層を有し、Tiまたは/およびAuを含」むのに対し、引用発明では当該事項について特定されていない点。

【相違点2】
本願発明は、「前記オーミック電極が複数の層を有し、Tiまたは/およびAuを含」むのに対し、引用発明では当該事項について特定されていない点。

第6 判断
上記相違点1及び相違点2について、まとめて検討する。

1 上記第4の2(2)のとおり、引用発明は、「前記結晶性酸化物半導体は、α-Ga_(2)O_(3)であり、当該結晶性積層構造体の結晶性酸化物半導体薄膜をn型半導体層(n+型半導体やn-型半導体等)に適用したショットキーバリアダイオード(SBD)は、n-型半導体層101a、n+型半導体層101b・・・を備え」たものであるから、引用発明の「n-型半導体層101a」、「n+型半導体層101b」は、n型α-Ga_(2)O_(3)から形成されるものである。
また、上記第4の2(2)のとおり、引用発明は、「ショットキー電極105a、n-型半導体層101a、n+型半導体層101b、およびオーミック電極105bが積層され」たものである。
したがって、引用発明において、「ショットキー電極105a」、「オーミック電極105b」は、n型α-Ga_(2)O_(3)半導体層上に設けられた電極であり、それぞれ、n型α-Ga_(2)O_(3)半導体層とショットキー接触、オーミック接触をしているものである。

2 上記第4の1(2)イのとおり、引用文献1には、「n型α-Ga_(2)O_(3)単結晶膜3上の、n型α-Ga_(2)O_(3)単結晶膜3とショットキー接合を形成する電極が、異なる2つの金属からなる2層構造、例えばAl/Ti、Au/Ni、Au/Co、を有してもよいこと。」、という技術的事項が記載されている。
また、上記第4の1(2)ウのとおり、引用文献1には、「n型α-Ga_(2)O_(3)単結晶膜3上のソース電極12、ドレイン電極13が、異なる2つの金属からなる2層構造、例えばAl/Ti、Au/Ni、Au/Co、を有してもよいこと。」、という技術的事項が記載されている。なお、引用文献1において、「ソース電極12」及び「ドレイン電極13」が、「n型α-Ga_(2)O_(3)単結晶膜3」とオーミック接合をしていることは明らかである。
すると、引用文献1には、ショットキー電極やオーミック電極を複数の層から形成すること、及び、その電極材料としてTiまたはAuを用いることが記載されている。

3 ここで、引用発明においても、「前記電極材料としては、例えば、Al、Mo、Co、Zr、Sn、Nb、Fe、Cr、Ta、Ti、Au、Pt、V、Mn、Ni、Cu、Hf、W、Ir、Zn、In、Pd、NdもしくはAg等の金属またはこれらの合金」と、「電極材料」の候補としてTiやAuが含まれているように、ショットキー電極やオーミック電極の材料として,TiやAuは一般的なものであり、また、電極材料を様々な材料から最適化することは、当業者の通常の創作能力の発揮にすぎないものと認められる。
そして、引用発明の、α-Ga_(2)O_(3)からなるn型半導体層上に積層された、「ショットキー電極105a」、「オーミック電極105b」の構造や材料として、引用文献1の技術的事項を適用し、「ショットキー電極105a」、「オーミック電極105b」を、いずれも「複数層を有し」、「TiまたはAuを含む」ものとすることにより、相違点1、2に係る本願発明の構成とすることは、当業者であれば容易になし得たことである。

4 請求人の令和3年6月7日提出の意見書における主張については、以下のとおりである。
ア 請求人は、上記意見書の4-1-1において、
「 本願請求項1に記載の発明(以下、「本発明」ともいう。)は、積層された関係にあり、各々がコランダム構造を有するとともに結晶性酸化物半導体を主成分とする第1の半導体層および第2の半導体層に対して、ショットキー電極が第1の半導体層上に積層され、オーミック電極が第2の半導体層上に積層されており、ショットキー電極が複数の層を有し、Tiまたは/およびAuを含み、オーミック電極が複数の層を有し、Tiまたは/およびAuを含むことを特徴とする半導体装置の発明です。
このように、ショットキー電極とオーミック電極の両方が複数の層を有し、かつTiまたは/およびAuを含む電極構成を、第1の半導体層および第1の半導体層上に積層されてなる第2の半導体層と組合せて半導体装置を構成することにより、段落番号[0032]に記載のとおり、コランダム構造を有する半導体の半導体特性(例えば、耐久性、絶縁破壊電圧、耐圧、オン抵抗、安定性など)をより良好なものとすることができ、ショットキー特性も良好に発揮することができるだけでなく、段落番号[0034]に記載のとおり、オーミック特性を良好に発揮することができます。特に、本発明によれば、ショットキー電極およびオーミック電極による上記した相乗効果として、半導体特性、特に、オン抵抗および耐圧を優れたものとすることができるという顕著な効果を有します(本願明細書の段落番号[0032]、[0062]、[0063]、[0064]等ご参照)。 また、第1の半導体層上に第2の半導体層が積層されているため、例えば、半導体層へドーパントをイオン注入することによって新たな半導体領域(例えばMESFETにおけるコンタクト領域)が設けられるといった、積層工程を伴わない場合と比べて、高温のアニール処理などの熱処理が不要となります。一般にイオン注入後のアニール処理は高温(例えば800℃以上)での熱処理を伴いますので、本願発明の構成の場合、例えば結晶性酸化物半導体が準安定相のα-Ga_(2)O_(3)である場合、結晶性酸化物半導体の結晶構造がコランダム構造(準安定相)からβガリア構造(安定相)に変化してしまうという問題が発生します。すなわち、第1の半導体層上に第2の半導体層が積層される構成からなる本発明は、イオン注入後の高温のアニール処理を必要としませんので、コランダム構造(準安定相)を維持することができます。そして、上述しましたように、優れた半導体特性を持つ半導体装置を提供することが可能となります。」
と、また、上記意見書の4-1-3において、
「 しかしながら、引用文献2に開示された上記の材料名は、ショットキー電極およびオーミック電極の材料候補全般として挙げられているだけに過ぎず、ショットキー電極の材料として好適な材料が何であるかを選択させるためのものではありません。すなわち、引用文献2には、上記したとおり、ショットキー電極とオーミック電極の両方が複数の層を有し、かつTiまたは/およびAuを含む電極構成を、第1の半導体層および第1の半導体層上に積層されてなる第2の半導体層と組合せて半導体装置を構成することにより、コランダム構造を有する半導体の半導体特性(例えば、耐久性、絶縁破壊電圧、耐圧、オン抵抗、安定性など)をより良好なものとすることができ、ショットキー特性も良好に発揮することができるだけでなく、オーミック特性を良好に発揮することができる点について何ら記載されておらず、示唆さえもありません。また、ショットキー電極の材料として引用文献2中に具体的に開示されている材料はMoとAlとの積層体のみであります。
さらには、引用文献2の発明は、ショットキー電極やオーミック電極に着目した発明ではなく、結晶性酸化物半導体の材料を適切に選定することで半導体特性の向上を図ろうとする発明です。つまり、引例文献2に開示されたショットキー電極とオーミック電極の材料は、引用文献2の発明の目的や効果に影響を及ぼすものではなく、列挙されたショットキー電極およびオーミック電極の材料は、例示の範囲を超えるものではありません。さらに、上述のとおり、引用文献1においても、ショットキー電極およびオーミック電極の適切な材料および構成を特定することは困難です。」
と主張している。
当該主張について以下のとおり検討する。
まず、本願明細書の段落0060-0067には、ショットキー電極およびオーミック電極として、「TiおよびAu」を含むものは記載されているが、「TiまたはAu」を含むものは記載されておらず、顕著な効果を有するという請求人の主張は、請求項1に特定される本願発明に基づくものではない。
また、引用発明においても、「前記電極材料としては、例えば、Al、Mo、Co、Zr、Sn、Nb、Fe、Cr、Ta、Ti、Au、Pt、V、Mn、Ni、Cu、Hf、W、Ir、Zn、In、Pd、NdもしくはAg等の金属またはこれらの合金」と、「電極材料」の候補としてTiやAuが含まれているように、ショットキー電極やオーミック電極の材料として,TiやAuは一般的な材料である。
ここで、半導体装置の技術分野において、半導体の特性をより良好なものとすることは、極めて一般的な技術的課題にすぎず、「電極材料」を最適化することは、当業者の通常の創作能力の発揮にすぎない。
そして、引用文献1には、ショットキー電極やオーミック電極を複数の層から形成すること、及び、その電極材料としてTiまたはAuを用いることが記載されており、引用発明において、それぞれ、α-Ga_(2)O_(3)からなるn型半導体層上に積層された、「ショットキー電極105a」、「オーミック電極105b」の構造や材料を設計するに際し、引用文献1に記載の具体的な例を適用し、これらの「ショットキー電極105a」、「オーミック電極105b」を、いずれも「複数層を有し」、「TiまたはAuを含む」ものとすることは、当業者であれば容易になし得たことである。

第7 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明及び引用文献1に記載された技術的事項に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。

 
審理終結日 2021-08-04 
結審通知日 2021-08-10 
審決日 2021-09-07 
出願番号 特願2016-91294(P2016-91294)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 杉山 芳弘  
特許庁審判長 恩田 春香
特許庁審判官 ▲吉▼澤 雅博
辻本 泰隆
発明の名称 積層構造体および半導体装置  

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