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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H04W |
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管理番号 | 1379448 |
審判番号 | 不服2020-15549 |
総通号数 | 264 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2021-12-24 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2020-11-10 |
確定日 | 2021-11-16 |
事件の表示 | 特願2015-216341「無線通信装置及び無線通信プログラム」拒絶査定不服審判事件〔平成29年 5月25日出願公開、特開2017- 92549、請求項の数(4)〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は,平成27年11月4日の出願であって,その手続の経緯は以下のとおりである。 令和元年 6月20日付け 拒絶理由通知書 令和元年 8月26日 意見書及び手続補正書の提出 令和2年 1月24日付け 拒絶理由通知書(最後) 令和2年 3月26日 意見書及び手続補正書の提出 令和2年 7月31日付け 拒絶査定 令和2年11月10日 審判請求書及び手続補正書の提出 令和3年 4月20日付け 拒絶理由通知書(最後)(当審) 令和3年 6月23日 意見書及び手続補正書の提出 第2 原査定の概要 原査定(令和2年7月31日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。 (進歩性)この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 記 ・請求項1,5ないし7に対して,引用文献等1,5ないし7 ・請求項2に対して,引用文献等1,2,5ないし7 ・請求項3に対して,引用文献等1ないし3,5ないし7 ・請求項4に対して,引用文献等1ないし7 <引用文献等一覧> 1.特開2008-306314号公報 2.特開2010-166135号公報 3.特開2011-66568号公報 4.国際公開第2011/061990号 5.特開2012-95235号公報 6.特開2004-23790号公報 7.特開2008-301445号公報 第3 本願発明 本願の請求項1ないし4に係る発明(以下,「本願発明1」ないし「本願発明4」という。)は,令和3年6月23日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された事項により特定される発明であり,以下のとおりの発明である。 「 【請求項1】 マルチホップ無線通信ネットワークを形成し、移動可能な無線通信装置であって、 当該無線通信装置と通信可能な固定局を、所定信号を送信し、当該所定信号に対する応答信号を受信することにより探索する探索手段と、 前記探索手段により探索された通信可能な固定局を登録する登録手段と、 前記登録手段により登録された固定局毎に、マルチホップ無線通信ネットワークを形成する複数の固定局の中のいずれかの固定局との間で通信を行う際の通信経路の通信コストを算出する通信コスト算出手段と、 固定局から受信した無線信号の電波強度を計測する電波強度計測手段と、 前記通信コスト算出手段により算出した通信コストが最も低い前記通信経路を使用通信経路として決定する通信経路決定手段とを有し、 前記通信経路決定手段は、過去に計測した接続先として選択されている固定局の電波強度と、現在計測した新規接続先候補の固定局との電波強度の差が閾値未満の場合には、前記使用通信経路の変更を行わず、一方、過去に計測した接続先として選択されている固定局の電波強度と、現在計測した新規接続先候補の固定局との電波強度の差が、閾値以上の場合には、新たな前記通信コスト算出手段により算出した通信コストが最も低い前記通信経路を前記使用通信経路として決定する ことを特徴とする無線通信装置。 【請求項2】 移動速度を計測する移動計測手段をさらに有し、 前記探索手段による探索は、前記移動計測手段によって計測された移動速度に基づき、実行される ことを特徴とする請求項1に記載の無線通信装置。 【請求項3】 前記登録手段は、登録した固定局の数が上限値に達した場合には、前記通信コストの算出結果に基づき、登録する固定局を決定することを特徴とする請求項1又は2に記載の無線通信装置。 【請求項4】 マルチホップ無線通信ネットワークを形成し、移動可能な無線通信装置に搭載されるコンピュータを、 当該無線通信装置と通信可能な固定局を、所定信号を送信し、当該所定信号に対する応答信号を受信することにより探索する探索手段と、 前記探索手段により探索された通信可能な固定局を登録する登録手段と、 前記登録手段により登録された固定局毎に、マルチホップ無線通信ネットワークを形成する複数の固定局の中のいずれかの固定局との間で通信を行う際の通信経路の通信コストを算出する通信コスト算出手段と、 固定局から受信した無線信号の電波強度を計測する電波強度計測手段と、 前記通信コスト算出手段により算出した通信コストが最も低い前記通信経路を使用通信経路として決定する通信経路決定手段として機能させ、 前記通信経路決定手段は、過去に計測した接続先として選択されている固定局の電波強度と、現在計測した新規接続先候補の固定局との電波強度の差が閾値未満の場合には、前記使用通信経路の変更を行わず、一方、過去に計測した接続先として選択されている固定局の電波強度と、現在計測した新規接続先候補の固定局との電波強度の差が、閾値以上の場合には、新たな前記通信コスト算出手段により算出した通信コストが最も低い前記通信経路を前記使用通信経路として決定する ことを特徴とする無線通信プログラム。」 第4 引用文献,引用発明及び技術的事項 1 引用文献1について 原査定の拒絶の理由で引用され、本願出願日前に公開された引用文献1(特開2008-306314号公報)には,図面とともに以下の記載がある。(なお,下線は当審で付与した。) (1)「【0001】 本発明は、通信ネットワーク上に存在するノード間で通信する際に、他のノードによる通信の中継を可能にしたマルチホップ通信ネットワークにおいて、情報を伝送するノード間で適切なルートを選択するためのマルチホップ通信ネットワークにおける隣接ノード確認方法と、当該隣接ノード確認方法に対応したマルチホップ通信ネットワークのノードに関するものである。 【背景技術】 【0002】 従来から、通信ネットワーク上に存在するノード(すなわち、通信端末)間で通信する際に、情報を伝送しようとするノード間で通信を直接行うことができない場合に、他のノードを通信の中継に用いることによって通信を可能にする技術が知られており、とくに通信ネットワークの一つである無線ネットワークにおいてこの技術を用いることが提案されている。この種の無線ネットワークは、マルチホップ無線ネットワークと呼ばれている。 【0003】 無線ネットワークでは、ノードが移動したり雑音の影響を受ける」 (2)「【0032】 (基本構成) マルチホップ通信ネットワークにおいて、通信データの出発点と到着点となるノードの間のルートを決めるには、他のノードの中継なしに直接通信が可能なノードの対を検出するとともに、対になる各ノード間のリンクにおける通信品質を評価することが必要である。また、通信データの出発点と到着点との間で取りうる通信経路(ルート)を探索し、通信可能なルートのうち通信品質の高いルートを選択することが必要である。 【0033】 以下に説明する実施形態では、ルートの通信品質に関する評価に、隣接するノードが送信した信号の受信強度と、情報を伝送するルート内に含まれるノードについて隣接するノードを結ぶリンクの本数(以下、「ホップ数」と呼ぶ)とを用いる(ノードが隣接するとは、2つのノード間で他のノードによる中継なしに通信が可能であることを意味し、隣接ノードの間はホップ数が1である)。したがって、ホップ数は、ルートを構成するノード(ルートの両端のノードを含む)の個数から1を引いた値になる。ルートの通信品質は、信号強度が大きくホップ数が少ないほどよいと評価し、探索されたルートのなかで通信品質ができるだけよいルートを選択する。」 (3)「【0036】 ところで、ルートコストのうち各リンクごとのSQ値に重み係数Kaを乗じた値は、直接通信が可能な互いに隣接ノードとなる2個のノード間のリンクに関する通信品質の評価値であって、以下ではこの評価値をリンクコストと呼ぶ。」 (4)「【0040】 いま、図5に示すように、リンクコストを求める2個のノードA,Bに着目し、ノードAが最初にハローメッセージを送信する場合を想定する。ノードAからハローメッセージH1を送信すると、ノードBがノードAが送信したハローメッセージH1を直接受信できる場合には、ノードBにおいて受信リンクコストを取得する。ノードBが取得した受信リンクコストは、図6(a)のように、ノードBの隣接ノードテーブルにおいて、ノードAの隣接ノードアドレスに対応付けて登録される(ここでは、受信リンクコストが「8」)。ハローメッセージH1の送信は適時に行うが、通常は一定の時間間隔で定期的に行う。 【0041】 次に、ノードBでは、ハローメッセージH1の送信元であるノードAのアドレスと受信リンクコストとを情報に含めたハローメッセージH2を送信する。このハローメッセージH2を受信したノードAでは、ハローメッセージH2によってノードBからの信号を受信したときの受信リンクコストを求めることができるから、図6(b)のように、この受信リンクコストをノードBのアドレスに対応付けて隣接ノードテーブルに登録する(ここでは、受信リンクコストが「5」)。また、ハローメッセージH2には、自アドレスと相手ノードBがハローメッセージH1を受信したときの受信リンクコストとが含まれているから、この受信リンクコストをノードAからノードBへの送信リンクコストとしノードBのアドレスに対応付けて隣接ノードテーブルに登録する(つまり、ノードBに対する送信リンクコストは「8」)。 【0042】 その後、ノードAはふたたびハローメッセージH3を送信する。このハローメッセージH3は、ノードBからハローメッセージH2を受信したときの受信リンクコストとノードBのアドレスとを情報に含んでいる。したがって、ノードBではハローメッセージH3に含まれる情報としてノードAにハローメッセージH2を送信したときの送信リンクコストを取得することができる(つまり、ノードAに対する送信リンクコストは「5」)。ノードBでは、図6(c)のように、ノードAから受け取った受信リンクコストをノードBからノードAへの送信リンクコストとしノードAのアドレスに対応付けて隣接ノードテーブルに登録する。」 (5)「【0046】 ・・・(中略)・・・マルチホップ通信ネットワークでは、隣接ノードテーブルにデータが登録されるまでは、中継なしに直接通信することができるノードN0?N6が未知であるから、隣接ノードを探索するために送信するハローメッセージH1?H3はブロードキャストで送信される。 【0047】 すなわち、各ノードN0?N6では、それぞれブロードキャストによってハローメッセージ(ハローメッセージH1に相当)を送信する。」 (6)「【0057】 ・・・(中略)・・・この2個の子ノードN1,N5に対してのみ子ノードN6からハローメッセージ(図5のハローメッセージH2に相当)を送信する。 【0058】 このハローメッセージを受け取った子ノードN1,N5は、ハローメッセージ(図5のハローメッセージH3に相当)を用いて子ノードN6に対して、子ノードN1,N5に登録した受信リンクコストを返送する。すなわち、図9のように、子ノードN6では子ノードN1,N5に対する送信リンクコストを取得することができる。このように送信リンクコストを取得した子ノードN1,N5を通って親ノードN0に至るルートについては、送信リンクコストと上位コストとを加算することによって、仮のルートコストではなく正式のルートコストを得ることができるから、ルートコストの値を更新する。」 (7)「【0060】 子ノードN6が親ノードN0と通信を行う際には、ルートコスト(親ノードN0に向かうリンクコストの総和)が最小であるルートを最良のルートとして選択する。」 (8)「【0100】 上述した構成例は、従来構成において説明したPLCネットワークに用いることを想定しているが、他の有線の伝送路を用いる通信ネットワーク、あるいは小電力無線による無線LANのように無線の伝送路を用いる無線ネットワークなど、種々のマルチホップ通信ネットワークに上述の技術を適用してもよい。」 (9)図9として以下の図が記載されている。 「 」 引用文献1の上記記載,及び通信分野における技術常識を考慮すると,次のことがいえる。 ア 上記「(1)」の段落【0001】の「本発明は、通信ネットワーク上に存在するノード間で通信する際に、他のノードによる通信の中継を可能にしたマルチホップ通信ネットワークにおいて、情報を伝送するノード間で適切なルートを選択するためのマルチホップ通信ネットワークにおける隣接ノード確認方法と、当該隣接ノード確認方法に対応したマルチホップ通信ネットワークのノードに関するものである。」との記載によれば,引用文献1には,通信ネットワーク上に存在するノード間で通信するマルチホップ通信ネットワークのノードに関する発明が記載されているといえる。 さらに,上記「(8)」の「小電力無線による無線LANのように無線の伝送路を用いる無線ネットワークなど、種々のマルチホップ通信ネットワークに上述の技術を適用してもよい。」との記載,及び段落【0003】の「無線ネットワークでは、ノードが移動したり」との記載によれば,マルチホップ通信ネットワークは無線ネットワークであり,無線ネットワークでは,ノードが移動したりするものであるといえる。 そして,上記「(2)」の段落【0032】の「マルチホップ通信ネットワークにおいて、通信データの出発点と到着点となるノードの間のルートを決めるには、他のノードの中継なしに直接通信が可能なノードの対を検出するとともに、対になる各ノード間のリンクにおける通信品質を評価することが必要である。」との記載,上記「(3)」の段落【0036】の「ルートコストのうち各リンクごとのSQ値に重み係数Kaを乗じた値は、直接通信が可能な互いに隣接ノードとなる2個のノード間のリンクに関する通信品質の評価値であって、以下ではこの評価値をリンクコストと呼ぶ。」との記載,及び上記「(4)」の段落【0040】の「リンクコストを求める2個のノードA,Bに着目し、ノードAが最初にハローメッセージを送信する場合を想定する。」との記載によれば,ノードBは,マルチホップ通信ネットワークにおいて,各ノード間のリンクにおける通信品質の評価値であるリンクコストを求めるものであるから,マルチホップ通信ネットワーク上に存在するノードであることが明らかである。 以上を総合すると,通信ネットワーク上に存在するノード間で通信するマルチホップ通信ネットワークは無線ネットワークであり,無線ネットワークでは,ノードが移動したりするものであり,マルチホップ通信ネットワーク上に存在するノードBであるといえる。 イ 上記「(3)」の「直接通信が可能な互いに隣接ノード」との記載,及び上記「(5)」の段落【0046】の「マルチホップ通信ネットワークでは、隣接ノードテーブルにデータが登録されるまでは、中継なしに直接通信することができるノードN0?N6が未知であるから、隣接ノードを探索するために送信するハローメッセージH1?H3はブロードキャストで送信される。」との記載,及び段落【0047】の「すなわち、各ノードN0?N6では、それぞれブロードキャストによってハローメッセージ(ハローメッセージH1に相当)を送信する。」との記載によれば,各ノードは,直接通信が可能な互いに隣接ノードを探索するためにハローメッセージH1?H3を送信するものといえる。 また,上記「(4)」の段落【0040】の「ノードAからハローメッセージH1を送信すると、ノードBがノードAが送信したハローメッセージH1を直接受信できる場合には、ノードBにおいて受信リンクコストを取得する。ノードBが取得した受信リンクコストは、図6(a)のように、ノードBの隣接ノードテーブルにおいて、ノードAの隣接ノードアドレスに対応付けて登録される」との記載,及び段落【0041】の「次に、ノードBでは、ハローメッセージH1の送信元であるノードAのアドレスと受信リンクコストとを情報に含めたハローメッセージH2を送信する。このハローメッセージH2を受信したノードAでは、ハローメッセージH2によってノードBからの信号を受信したときの受信リンクコストを求めることができる」との記載,及び段落【0042】の「その後、ノードAはふたたびハローメッセージH3を送信する。このハローメッセージH3は、ノードBからハローメッセージH2を受信したときの受信リンクコストとノードBのアドレスとを情報に含んでいる。したがって、ノードBではハローメッセージH3に含まれる情報としてノードAにハローメッセージH2を送信したときの送信リンクコストを取得することができる・・・(中略)・・・ノードBでは、図6(c)のように、ノードAから受け取った受信リンクコストをノードBからノードAへの送信リンクコストとしノードAのアドレスに対応付けて隣接ノードテーブルに登録する。」との記載によれば,ノードBは,ノードAからハローメッセージH1を受信し,次に,ハローメッセージH2を送信し,その後,ハローメッセージH2を受信したノードAが送信した受信リンクコストを含むハローメッセージH3を受信するものであるといえる。 ウ 上記「(4)」の段落【0040】の「ノードAからハローメッセージH1を送信すると、ノードBがノードAが送信したハローメッセージH1を直接受信できる場合には、ノードBにおいて受信リンクコストを取得する。ノードBが取得した受信リンクコストは、図6(a)のように、ノードBの隣接ノードテーブルにおいて、ノードAの隣接ノードアドレスに対応付けて登録される」との記載によれば,ノードBは,ハローメッセージH1から受信リンクコストを取得し,ノードBの隣接ノードテーブルにおいて,受信リンクコストをノードAの隣接ノードアドレスに対応付けて登録するものであるといえる。 エ 上記「(4)」の段落【0042】の「その後、ノードAはふたたびハローメッセージH3を送信する。このハローメッセージH3は、ノードBからハローメッセージH2を受信したときの受信リンクコストとノードBのアドレスとを情報に含んでいる。」との記載、及び,上記「(6)」の段落【0057】の「この2個の子ノードN1,N5に対してのみ子ノードN6からハローメッセージ(図5のハローメッセージH2に相当)を送信する。」との記載,及び段落【0058】の「このハローメッセージを受け取った子ノードN1,N5は、ハローメッセージ(図5のハローメッセージH3に相当)を用いて子ノードN6に対して、子ノードN1,N5に登録した受信リンクコストを返送する。すなわち、図9のように、子ノードN6では子ノードN1,N5に対する送信リンクコストを取得することができる。このように送信リンクコストを取得した子ノードN1,N5を通って親ノードN0に至るルートについては、送信リンクコストと上位コストとを加算することによって、仮のルートコストではなく正式のルートコストを得ることができるから、ルートコストの値を更新する。」との記載によれば,「子ノードN6」はハローメッセージH2に相当するハローメッセージを「子ノードN1,N5」へ送信し,「子ノードN1,N5」はハローメッセージH3に相当するハローメッセージを「子ノードN6」へ送信するのであるから,「子ノードN6」は「ノードB」に対応し,「子ノードN1,N5」は「ノードA」に対応することが明らかである。よって,子ノードN6,すなわちノードBは,ハローメッセージH3から送信リンクコストを取得し,送信リンクコストを取得したノードA(子ノードN1,N5)を通って親ノードN0に至るルートについては,送信リンクコストと上位コストを加算することによりルートコストを得ることができるといえる。また,同記載及び上記「(9)」の図9の記載によれば,隣接ノードごとに,送信リンクコストが取得されルートコストが求められることも明らかである。 してみれば,ノードBは,隣接ノードごとに,ハローメッセージH3から送信リンクコストを取得し,送信リンクコストを取得したノードA(子ノードN1,N5)を通って親ノードN0に至るルートについては,送信リンクコストと上位コストを加算することによりルートコストを得ることができるといえる。 オ 上記「(7)」の「子ノードN6が親ノードN0と通信を行う際には、ルートコスト(親ノードN0に向かうリンクコストの総和)が最小であるルートを最良のルートとして選択する。」との記載によれば,子ノードN6,すなわちノードBが,ルートコストが最小であるルートを最良のルートとして選択するといえる。 カ 上記「(2)」の段落【0032】の「通信可能なルートのうち通信品質の高いルートを選択することが必要である。」との記載,及び段落【0033】の「ルートの通信品質に関する評価に、隣接するノードが送信した信号の受信強度・・・(中略)・・・を用いる」との記載によれば,ルートを選択するために,隣接するノードが送信した信号の受信強度を用いるといえる。 したがって,上記「ア」ないし「カ」を総合すると,引用文献1には,次の発明(以下,「引用発明」という)が記載されていると認められる。 「通信ネットワーク上に存在するノード間で通信するマルチホップ通信ネットワークは無線ネットワークであり,無線ネットワークでは,ノードが移動したりするものであり,マルチホップ通信ネットワーク上に存在するノードBであって, 各ノードは,直接通信が可能な互いに隣接ノードを探索するためにハローメッセージH1?H3を送信するものであり,ノードBは,ノードAからハローメッセージH1を受信し,次に,ハローメッセージH2を送信し,その後,ハローメッセージH2を受信したノードAが送信した受信リンクコストを含むハローメッセージH3を受信するものであり, ハローメッセージH1から受信リンクコストを取得し,ノードBの隣接ノードテーブルにおいて,受信リンクコストをノードAの隣接ノードアドレスに対応付けて登録するものであり, 隣接ノードごとに,ハローメッセージH3から送信リンクコストを取得し,送信リンクコストを取得したノードA(子ノードN1,N5)を通って親ノードN0に至るルートについては,送信リンクコストと上位コストを加算することによりルートコストを得ることができるものであり, ルートコストが最小であるルートを最良のルートとして選択するものであり,ルートを選択するために,隣接するノードが送信した信号の受信強度を用いるものである, ノードB。」 2 引用文献2について 原査定の拒絶の理由で引用され,本願出願日前に公開された引用文献2(特開2010-166135号公報)には,以下の事項が記載されている。(なお,下線は当審で付与した。) (1)「無線による通信を行う無線端末装置は、その無線端末装置の無線電波の到達範囲を超えてデータを送受信するために、無線中継装置を用いることがある。無線中継装置を複数経由して通信を行うマルチホップネットワークでは、通信相手と通信を行うために、目的の通信相手に到達する通信経路を確立することが必要である。この通信経路を確立する技術は、プロアクティブ型、リアクティブ型などさまざまな技術がある。」(段落【0002】) (2)「無線中継装置テーブル30で管理する近傍の無線中継装置20の電波強度(電波強度302)が変化したか判定する(S245)。自無線端末装置10または近傍の無線中継装置20の移動などによる、自無線端末装置10の近傍の電波状態の変化を検出し、自無線端末装置10を端点とする通信経路の再確立を行わなければならないほどの自無線端末装置10の近傍の電波状態の変化を検出したとき(S245:YES)・・・(中略)・・・無線端末装置10は、現在帰属している無線中継装置20の電波強度より強い電波強度の無線中継装置20を検出して、より電波状態のよい無線中継装置20に帰属するために無線中継装置20の帰属先を変更しようという要求を監視する(S247)。」(段落【0034】,【0035】) 上記記載によれば,引用文献2には,次の技術的事項が記載されていると認められる。 「マルチホップネットワークでは,無線中継装置テーブル30で管理する近傍の無線中継装置20の電波強度が変化したか判定し,自無線端末装置10または近傍の無線中継装置20の移動などによる,自無線端末装置10の近傍の電波状態の変化を検出し,自無線端末装置10を端点とする通信経路の再確立を行わなければならないほどの自無線端末装置10の近傍の電波状態の変化を検出したとき,無線端末装置10は,現在帰属している無線中継装置20の電波強度より強い電波強度の無線中継装置20を検出して,より電波状態のよい無線中継装置20に帰属するために無線中継装置20の帰属先を変更しようという要求を監視する。」 3 引用文献5について 原査定の拒絶の理由で引用され,本願出願日前に公開された引用文献5(特開2012-95235号公報)には,以下の事項が記載されている。(なお,下線は当審で付与した。) (1)「まず、ノード局Aは、新規に設置されてネットワークに参入する場合、あるいは定期的に再参入処理を行う場合、1ホップのブロードキャストにより近隣経路探索信号を送信し、ゲートウエイ局への経路を問い合わせる(ステップS101)。ここでは、ノード局B、C、Eが、近隣経路探索信号を受信する。 近隣経路探索信号を受信した隣接ノード局のノード局B、Cは、自身が保持しているゲートウエイ局GW1へのホップ数の情報を含めて応答する。」(段落【0020】,【0021】) (2)「探索応答信号を受信したノード局Aは、隣接ノード局(ノード局B、C、E)からの探索応答信号の無線信号品質とゲートウエイ局までのホップ数の情報に基づいて、冗長経路の隣接ノード局を選択する(ステップS105)。」(段落【0023】) 上記記載によれば,引用文献5には,次の技術的事項が記載されていると認められる。 「ノード局Aは,新規に設置されてネットワークに参入する場合,あるいは定期的に再参入処理を行う場合,近隣経路探索信号を送信し,探索応答信号を受信したノード局Aは,探索応答信号の情報に基づいて,冗長経路の隣接ノード局を選択する。」 4 引用文献6について 原査定の拒絶の理由で引用され,本願出願日前に公開された引用文献6(特開2004-23790号公報)には,以下の事項が記載されている。(なお,下線は当審で付与した。) (1)「また第1クライアント12は、ハローメッセージを周知のIPアドレスへマルチキャスティングすることにより、同じサブネット上にあるサーバ14を見つけることが可能である。サーバ14は、ユニキャスト・ハローメッセージを生成し、第1クライアント12へ返信することにより、当該ハローメッセージに応答する。」(段落【0018】) 上記記載によれば,引用文献6には,次の技術的事項が記載されていると認められる。 「第1クライアントは,ハローメッセージをマルチキャスティングすることにより,サーバを見つけることが可能であり,サーバは,ユニキャスト・ハローメッセージを生成し,第1クライアントへ返信することにより,当該ハローメッセージに応答する。」 5 引用文献7について 原査定の拒絶の理由で引用され,本願出願日前に公開された引用文献7(特開2008-301445号公報)には,以下の事項が記載されている。(なお,下線は当審で付与した。) 「いま、図5に示すように、リンクコストを求める2個のノードA,Bに着目し、ノードAが最初にハローメッセージを送信する場合を想定する。ノードAからハローメッセージH1を送信すると、ノードBがノードAが送信したハローメッセージH1を直接受信できる場合には、ノードBにおいて受信リンクコストを取得する。ノードBが取得した受信リンクコストは、図6(a)のように、ノードBの隣接ノードテーブルにおいて、ノードAの隣接ノードアドレスに対応付けて登録される(ここでは、受信リンクコストが「8」)。ハローメッセージH1の送信は適時に行うが、通常は一定の時間間隔で定期的に行う。 次に、ノードBでは、ハローメッセージH1の送信元であるノードAのアドレスと受信リンクコストとを情報に含めたハローメッセージH2を送信する。このハローメッセージH2を受信したノードAでは、ハローメッセージH2によってノードBからの信号を受信したときの受信リンクコストを求めることができるから、図6(b)のように、この受信リンクコストをノードBのアドレスに対応付けて隣接ノードテーブルに登録する(ここでは、受信リンクコストが「5」)。」(段落【0032】) 上記記載によれば,引用文献7には,次の技術的事項が記載されていると認められる。 「ノードAからハローメッセージH1を送信し,ノードBがハローメッセージH1を直接受信し,ノードBがハローメッセージH2を送信し,このハローメッセージH2を受信したノードAは,受信リンクコストをノードBのアドレスに対応付けて隣接ノードテーブルに登録する。」 第5 対比及び判断 1 本願発明1について (1)対比 本願発明1と引用発明とを対比すると,次のことがいえる。 ア 引用発明の「ノードB」はマルチホップ通信ネットワーク上に存在するものであって,ノード間で通信する装置であることは明らかであり,またマルチホップ通信ネットワークは無線ネットワークであるから,「ノードB」は無線通信を行う装置といえる。よって,引用発明の「ノードB」は本願発明1の「無線通信装置」に相当する。また,引用発明の「通信ネットワーク上に存在するノード間で通信するマルチホップ通信ネットワーク」は,「無線ネットワーク」であるから,本願発明1の「マルチホップ無線通信ネットワーク」に相当する。 そして,引用発明の「マルチホップ通信ネットワーク上に存在するノードB」は,マルチホップ通信ネットワーク上に存在することによりマルチホップ通信ネットワークの一部を成していることが明らかであるから,マルチホップ通信ネットワークを形成する「ノードB」と言い換えることができる。 以上のことから,引用発明の「通信ネットワーク上に存在するノード間で通信するマルチホップ通信ネットワークは無線ネットワークであり」,「マルチホップ通信ネットワーク上に存在するノードB」は,本願発明1の「マルチホップ無線通信ネットワークを形成」する「無線通信装置」に相当する。 また,引用発明の「無線ネットワークではノードが移動したり」することは,本願発明1の「移動可能」であることに相当するから,引用発明の「無線ネットワーク」である「マルチホップ通信ネットワーク」上に存在し,「移動したり」する「ノードB」は,本願発明1の「移動可能な無線通信装置」に相当する。 してみれば,引用発明の「通信ネットワーク上に存在するノード間で通信するマルチホップ通信ネットワークは無線ネットワークであり,無線ネットワークでは,ノードが移動したりするものであり,マルチホップ通信ネットワーク上に存在するノードB」は,本願発明1の「マルチホップ無線通信ネットワークを形成し、移動可能な無線通信装置」に相当する。 イ 引用発明の「ノード」は,無線通信ネットワークにおいて「局」とも呼ばれるものであることが技術常識である。そうすると,本願発明1の「当該無線通信装置と通信可能な固定局を」「探索する」ことと,引用発明の「直接通信が可能な互いに隣接ノードを探索するために」「ノードB」が「ノードAからハローメッセージH1を受信し,次に,ハローメッセージH2を送信し,その後,ハローメッセージH2を受信したノードAが送信した受信リンクコストを含むハローメッセージH3を受信する」こととは,無線通信装置と通信可能な局を探索する点で共通する。ここで,引用発明の「ハローメッセージH3」は,「ハローメッセージH2」を受信した後に送信されるものである。そして,ノードBが「ハローメッセージH2」を送信し,ノードBが「ハローメッセージH3」を受信するのであるから,「ハローメッセージH3」は「ハローメッセージH2」を送信したノードが受信するものである。そうすると,引用発明の「ハローメッセージH3」は,「ハローメッセージH2」に対する応答ということができる。そして,「ハローメッセージH1?H3」は,「直接通信が可能な互いに隣接ノードを探索するために」送信されるものであり,信号であることは明らかであるから,引用発明の「ハローメッセージH2」及び「ハローメッセージH3」は,本願発明1の「所定信号」及び「当該所定信号に対する応答信号」に相当する。また,「ノードB」が,「直接通信が可能な互いに隣接ノードを探索するために」,ハローメッセージH1を受信し,ハローメッセージH2を送信し,ハローメッセージH3を受信するための手段を有することは明らかである。 してみれば,本願発明1の「当該無線通信装置と通信可能な固定局を、所定信号を送信し、当該所定信号に対する応答信号を受信することにより探索する探索手段」を有する「無線通信装置」と,引用発明の「ノードB」であって「各ノードは,直接通信が可能な互いに隣接ノードを探索するためにハローメッセージH1?H3を送信するものであり,ノードBは,ノードAからハローメッセージH1を受信し,次に,ハローメッセージH2を送信し,その後,ハローメッセージH2を受信したノードAが送信した受信リンクコストを含むハローメッセージH3を受信するもの」であることとは,無線通信装置と通信可能な局を,所定信号を送信し,当該所定信号に対する応答信号を受信することにより探索する探索手段を有する無線通信装置である点で共通する。 ウ 引用発明の「ハローメッセージH1から受信リンクコストを取得し,ノードBの隣接ノードテーブルにおいて,受信リンクコストをノードAの隣接ノードアドレスに対応付けて登録するもの」であることについて,隣接ノードアドレスを登録することは隣接ノードを登録することに含まれる。また,引用発明の「ノードB」が登録するための手段を有することは明らかである。よって,本願発明1の「前記探索手段により探索された通信可能な固定局を登録する登録手段」と,引用発明の「ハローメッセージH1から受信リンクコストを取得し,ノードBの隣接ノードテーブルにおいて,受信リンクコストをノードAの隣接ノードアドレスに対応付けて登録するもの」とは,探索された通信可能な局を登録する登録手段である点で共通する。 してみれば,本願発明1の「前記探索手段により探索された通信可能な固定局を登録する登録手段」を有する「無線通信装置」と,引用発明の「ノードB」であって「ハローメッセージH1から受信リンクコストを取得し,ノードBの隣接ノードテーブルにおいて,ノードAの隣接ノードアドレスに対応付けて登録するもの」であることとは,探索された通信可能な局を登録する登録手段を有する無線通信装置である点で共通する。 エ 本願発明1の「マルチホップ無線通信ネットワークを形成する複数の固定局の中のいずれかの固定局との間で通信を行う際の通信経路」と,引用発明の「通信ネットワーク上に存在するノード間で通信するマルチホップ通信ネットワークは無線ネットワークであり」,当該ネットワークにおける「送信リンクコストを取得したノードA(子ノードN1,N5)を通って親ノードN0に至るルート」とは,マルチホップ無線通信ネットワークを形成する複数の局の中のいずれかの局との間で通信を行う際の通信経路である点で共通する。また,引用発明の「ルートコスト」は本願発明1の「通信コスト」に相当し,引用発明の「送信リンクコストと上位コストを加算することによりルートコストを得ること」は,本願発明1の「通信コストを算出する」ことに相当する。そして,引用発明の「ノードB」が「送信リンクコストと上位コストを加算することによりルートコストを得る」ための手段を有することは明らかである。 してみれば,本願発明1の「前記登録手段により登録された固定局毎に、マルチホップ無線通信ネットワークを形成する複数の固定局の中のいずれかの固定局との間で通信を行う際の通信経路の通信コストを算出する通信コスト算出手段」を有する「無線通信装置」と,引用発明の「通信ネットワーク上に存在するノード間で通信するマルチホップ通信ネットワークは無線ネットワークであり」,当該ネットワークにおける「ノードB」であって「隣接ノードごとに,ハローメッセージH3から送信リンクコストを取得し,送信リンクコストを取得したノードA(子ノードN1,N5)を通って親ノードN0に至るルートについては,送信リンクコストと上位コストを加算することによりルートコストを得ることができるもの」であることとは,登録手段により登録された局毎に,マルチホップ無線通信ネットワークを形成する複数の局の中のいずれかの局との間で通信を行う際の通信経路の通信コストを算出する通信コスト算出手段を有する無線通信装置である点で共通する。 オ 引用発明の「ルートを選択するために,隣接するノードが送信した信号の受信強度を用いるもの」であることについて,引用発明の各ノードは無線ネットワークのノードであるから,「隣接するノードが送信した信号」が無線信号であることは明らかであり,無線信号の受信強度を,受信した無線信号の電波強度と言い換えることができることは技術常識である。また,「隣接するノードが送信した信号の受信強度」は,信号を受信したノードが計測することにより得られるものであることは明らかであり,信号を受信したノードが計測のための手段を有することも明らかである。 してみれば,本願発明1の「固定局から受信した無線信号の電波強度を計測する電波強度計測手段」を有する「無線通信装置」と,引用発明の「ノードB」であって「ルートを選択するために,隣接するノードが送信した信号の受信強度を用いるもの」であることとは,局から受信した無線信号の電波強度を計測する電波強度計測手段を有する無線通信装置である点で共通する。 カ 引用発明の「ルートコストが最小であるルートを最良のルートとして選択する」ことは,本願発明1の「前記通信コスト算出手段により算出した通信コストが最も低い前記通信経路を使用通信経路として決定する」ことに相当する。そして,引用発明の「ノードB」が,「ルートコストが最小であるルートを最良のルートとして選択する」ための手段を有することは明らかである。 してみれば,引用発明の「ノードB」であって「ルートコストが最小であるルートを最良のルートとして選択するものである」ことは,本願発明1の「前記通信コスト算出手段により算出した通信コストが最も低い前記通信経路を使用通信経路として決定する通信経路決定手段」を有する「無線通信装置」に相当する。 したがって,上記「ア」ないし「カ」を総合すれば,本願発明1と引用発明は,以下の点で一致し,また相違する。 <一致点> 「マルチホップ無線通信ネットワークを形成し、移動可能な無線通信装置であって、 当該無線通信装置と通信可能な局を、所定信号を送信し、当該所定信号に対する応答信号を受信することにより探索する探索手段と、 探索された通信可能な局を登録する登録手段と、 前記登録手段により登録された局毎に、マルチホップ無線通信ネットワークを形成する複数の局の中のいずれかの局との間で通信を行う際の通信経路の通信コストを算出する通信コスト算出手段と、 局から受信した無線信号の電波強度を計測する電波強度計測手段と、 前記通信コスト算出手段により算出した通信コストが最も低い前記通信経路を使用通信経路として決定する通信経路決定手段とを有する、 無線通信装置。」 <相違点1> 本願発明1における局が「固定局」であるのに対して,引用発明においては「隣接ノード」であって,当該発明特定事項について特定されていない点。 <相違点2> 「登録手段」に関し,本願発明1が「前記探索手段により」探索された通信可能な固定局を登録するものであるのに対して,引用発明は,「ハローメッセージH1」を受信して隣接ノードアドレスを登録するものであって,当該発明特定事項について特定されていない点。 <相違点3> 本願発明1において「前記通信経路決定手段は、過去に計測した接続先として選択されている固定局の電波強度と、現在計測した新規接続先候補の固定局との電波強度の差が閾値未満の場合には、前記使用通信経路の変更を行わず、一方、過去に計測した接続先として選択されている固定局の電波強度と、現在計測した新規接続先候補の固定局との電波強度の差が、閾値以上の場合には、新たな前記通信コスト算出手段により算出した通信コストが最も低い前記通信経路を前記使用通信経路として決定する」ものであるのに対して,引用発明においては当該発明特定事項について特定されていない点。 (2)相違点についての判断 上記相違点について検討するにあたり,事案に鑑みて,上記相違点3について先に検討する。 上記「第4」の「2」に説示したとおり,引用文献2には「マルチホップネットワークにおいて,無線中継装置テーブル30で管理する近傍の無線中継装置20の電波強度が変化したか判定し,自無線端末装置10または近傍の無線中継装置20の移動などによる,自無線端末装置10の近傍の電波状態の変化を検出し,自無線端末装置10を端点とする通信経路の再確立を行わなければならないほどの自無線端末装置10の近傍の電波状態の変化を検出したとき,無線端末装置10は,現在帰属している無線中継装置20の電波強度より強い電波強度の無線中継装置20を検出して,より電波状態のよい無線中継装置20に帰属するために無線中継装置20の帰属先を変更しようという要求を監視する。」という技術的事項が記載されている。 しかしながら,上記相違点3に係る「前記通信経路決定手段は、過去に計測した接続先として選択されている固定局の電波強度と、現在計測した新規接続先候補の固定局との電波強度の差が閾値未満の場合には、前記使用通信経路の変更を行わず、一方、過去に計測した接続先として選択されている固定局の電波強度と、現在計測した新規接続先候補の固定局との電波強度の差が、閾値以上の場合には、新たな前記通信コスト算出手段により算出した通信コストが最も低い前記通信経路を前記使用通信経路として決定する」という発明特定事項は,当該引用文献2には記載も示唆もされておらず,また通信分野における周知技術であるともいえない。また,当該発明特定事項は,引用文献5ないし引用文献7にも,記載も示唆もされていないものである。 よって,引用発明において,上記相違点3に係る構成とすることは,当業者といえども,容易に想到し得たとはいえない。 したがって,上記相違点1及び相違点2について判断するまでもなく,本願発明1は,当業者であっても,引用発明並びに引用文献2,引用文献5ないし引用文献7に記載された技術的事項に基いて容易に発明をすることができたものとはいえない。 2 本願発明2ないし4について 本願発明2及び3は,本願発明1の発明特定事項を全て備えるものであり,また上記相違点3に係る上記発明特定事項は,引用文献3及び引用文献4には明らかに記載も示唆もされていないから,本願発明1と同じ理由により,本願発明2は,当業者であっても引用発明並びに引用文献2,引用文献3,引用文献5ないし引用文献7に記載された技術的事項に基いて容易に発明をすることができたものとはいえず,本願発明3は,当業者であっても引用発明並びに引用文献2ないし引用文献7に記載された技術的事項に基いて容易に発明をすることができたものともいえない。 また,本願発明4は,本願発明1とカテゴリーが異なる発明であって,本願発明1の発明特定事項に対応する発明特定事項を全て備えるものであるから,本願発明1と同様の理由により,当業者であっても引用発明並びに引用文献2,引用文献5ないし引用文献7に記載された技術的事項に基いて容易に発明をすることができたものとはいえない。 第6 原査定についての判断 令和3年6月23日にされた手続補正により,本願発明1ないし4は,いずれも「前記通信経路決定手段は、過去に計測した接続先として選択されている固定局の電波強度と、現在計測した新規接続先候補の固定局との電波強度の差が閾値未満の場合には、前記使用通信経路の変更を行わず、一方、過去に計測した接続先として選択されている固定局の電波強度と、現在計測した新規接続先候補の固定局との電波強度の差が、閾値以上の場合には、新たな前記通信コスト算出手段により算出した通信コストが最も低い前記通信経路を前記使用通信経路として決定する」という発明特定事項を,少なくとも備えるものとなっている。してみれば,上記「第5」の「1」及び「2」で説示したとおり,当業者であっても,本願発明1及び4は,引用発明並びに引用文献2,引用文献5ないし引用文献7に記載された技術的事項に基いて,本願発明2は,引用発明並びに引用文献2,引用文献3,引用文献5ないし引用文献7に記載された技術的事項に基いて,本願発明3は,引用発明並びに引用文献2ないし引用文献7に記載された技術的事項に基いて,それぞれ容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 したがって,原査定の理由を維持することはできない。 第7 当審拒絶理由について 1.特許法第36条第6項第1号及び特許法第36条第6項第2号について 当審では,令和3年4月20日付けで,発明の詳細な説明には「過去決定した使用通信経路」との記載がなく,発明の詳細な説明のどの記載に基づくものであるのか,対応関係が明確でなく(サポート要件),また,「過去決定した使用通信経路」とは,どのような「使用通信経路」を表しているのか明確でない(明確性)との拒絶の理由を通知しているが,令和3年6月23日にされた手続補正により,「過去決定した使用通信経路・・・(中略)・・・を使用通信経路として決定する」との記載が「前記使用通信経路の変更を行わず」との記載に補正された結果,この拒絶理由は解消した。 第8 むすび 以上のとおり,原査定の理由によっては,本願を拒絶することはできない。 また,他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。 よって,結論のとおり審決する。 |
審決日 | 2021-10-27 |
出願番号 | 特願2015-216341(P2015-216341) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WY
(H04W)
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最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 吉村 真治▲郎▼ |
特許庁審判長 |
廣川 浩 |
特許庁審判官 |
森田 充功 國分 直樹 |
発明の名称 | 無線通信装置及び無線通信プログラム |
代理人 | 若林 裕介 |
代理人 | 吉田 倫太郎 |