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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 取り消して特許、登録 G10K
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G10K
管理番号 1379566
審判番号 不服2020-11131  
総通号数 264 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-12-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-08-11 
確定日 2021-11-24 
事件の表示 特願2016-152789「能動振動制御装置、及び能動振動制御方法」拒絶査定不服審判事件〔平成30年 2月 8日出願公開、特開2018- 22029、請求項の数(5)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成28年8月3日の出願であって、令和1年5月13日付けで手続補正がされ、令和2年1月15日付けで拒絶の理由が通知され、令和2年3月13日付けで意見書が提出され、令和2年5月7日付けで拒絶査定がされたものである。これに対し、令和2年8月11日に本件審判の請求がされ、同時に手続補正がされた。

第2 拒絶査定の概要
令和2年5月7日付け拒絶査定の概要は次のとおりである。

1.(新規性)この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。

2.(進歩性)この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。


●理由1(新規性)、理由2(進歩性)について
・請求項 1、5
・引用文献等 1

●理由2(進歩性)について
・請求項 2、3
・引用文献等 1

・請求項 4
・引用文献等 1、2

引用文献1 特開2011-107272号公報
引用文献2 特開2006-133301号公報(周知技術を示す文献)

第3 審判請求時の補正について
審判請求時の補正は、特許法第17条の2第3項から第6項までの要件に違反しているものとはいえない。
審判請求時の補正により、補正前の請求項1-4は、補正後に請求項1-4に補正され(補正事項1)、補正前の請求項5は、補正後に請求項5に補正された(補正事項2)。また、請求項1、5の補正に伴い、明細書の段落0006、段落0017が請求項1、5と同様に補正された(補正事項3)。
補正事項1は、補正前の請求項1および請求項1を引用する請求項2-4の「前記振動加速度計測部にて計測される前記振動加速度A×e^(iwt)の位相と前記加振器へ入力される前記調整信号の位相との位相差wτを、-π/2<wτ<π/2の範囲に調整するように事前に設定自在なアナログ回路から成る位相調整部」を、補正後に「前記振動加速度計測部にて計測される前記振動加速度A×e^(iwt)と前記加振器へ入力される前記調整信号の位相とに遅延時間τが生じている場合において、前記振動加速度計測部にて計測される前記振動加速度A×e^(iwt)の位相と前記加振器へ入力される前記調整信号の位相との位相差wτを、-π/2<wτ<π/2の範囲に調整するように事前に設定自在なアナログ回路から成る位相調整部」とするものであり、この補正事項1は、当初明細書の段落【0007】の記載に基づいて請求項1-5を限定するものである。
補正事項2は、補正前の請求項5の「前記振動加速度計測部にて計測される前記振動加速度A×e^(iwt)の位相と前記加振器へ入力される前記調整信号の位相との位相差wτを、-π/2<wτ<π/2の範囲に調整するように事前に設定自在なアナログ回路から成る位相調整ステップ」を、補正後に「前記振動加速度計測部にて計測される前記振動加速度A×e^(iwt)と前記加振器へ入力される前記調整信号の位相とに遅延時間τが生じている場合において、前記振動加速度計測部にて計測される前記振動加速度A×e^(iwt)の位相と前記加振器へ入力される前記調整信号の位相との位相差wτを、-π/2<wτ<π/2の範囲に調整するように事前に設定自在なアナログ回路から成る位相調整ステップ」とし、かつ、補正前の請求項5の「増幅係数。」を補正後の請求項5の「増幅係数で正数。」とするものであり、この補正事項2は、当初明細書の段落【0007】、段落【0006】の記載に基づいて請求項5を限定するものである。
補正事項3は、請求項1、5に係る補正事項1、2に明細書の記載が整合するようにするため、段落0006、段落0017の記載を補正するものである。
したがって、審判請求時の補正は、特許請求の範囲の減縮、明りようでない記載の釈明を目的とするものであり、新規事項を追加するものではなく、また、シフト補正をするものでもない。
そして、後述の「第4 本願発明」から「第6 対比・判断」までに示すように、補正後の請求項1-5に係る発明は、独立特許要件を満たすものである。

第4 本願発明
本願の請求項1-5に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」-「本願発明5」という。)は、令和2年8月11日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1-5に記載された事項により特定される以下のとおりの発明である。なお、請求項1の記号(A)?(E)は、当審により付与したものである。

「【請求項1】
(A)騒音が伝播する剛体と仮定できる材料の振動を低減する能動振動制御装置であって、
(B)前記材料の振動加速度A×e^(iwt)を測定する振動加速度計測部と、
(C)前記振動加速度計測部にて計測された信号の位相を反転させると共に振幅の増減を行う信号調整部と、
(D)前記信号調整部にて調整された調整信号に基づいて前記材料を加振圧力Fにて加振する加振器と、
(E)前記振動加速度計測部にて計測される前記振動加速度A×e^(iwt)と前記加振器へ入力される前記調整信号の位相とに遅延時間τが生じている場合において、前記振動加速度計測部にて計測される前記振動加速度A×e^(iwt)の位相と前記加振器へ入力される前記調整信号の位相との位相差wτを、-π/2<wτ<π/2の範囲に調整するように事前に設定自在なアナログ回路から成る位相調整部とを備え、
(F)上述の各パラメータが以下の(式1)に示す関係を有することを特徴とする能動振動制御装置。
F=-B×e^(-iwτ)(A×e^(iwt)+F) (式1)
ただし、Bは、前記加振器による加振圧力Fの増幅係数で正数。
【請求項2】
前記位相調整部は、少なくとも0Hz以上200Hz以下の低周波数の振動に対して、前記位相差wτを、-π/2<wτ<π/2の範囲に調整するよう設定される請求項1に記載の能動振動制御装置。
【請求項3】
前記材料は、平面形状を有すると共に、平面に直交する方向視において中心点に対して点対称形状を有する平面状部材であり、
前記振動加速度計測部及び前記加振器を、前記中心点に配設する請求項1又は2に記載の能動振動制御装置。
【請求項4】
前記振動加速度計測部及び前記加振器は、一体に設けられている請求項1?3の何れか一項に記載の能動振動制御装置。
【請求項5】
騒音が伝播する剛体と仮定できる材料の振動を低減する能動振動制御方法であって、
前記材料の振動加速度A×e^(iwt)を計測する振動加速度計測部にて計測された信号の位相を反転させると共に振幅の増減を行う信号調整ステップと、
前記信号調整ステップにて調整された調整信号に基づいて前記材料を加振器により加振圧力Fにて加振する加振ステップと、
前記振動加速度計測部にて計測される前記振動加速度A×e^(iwt)と前記加振器へ入力される前記調整信号の位相とに遅延時間τが生じている場合において、前記振動加速度計測部にて計測される前記振動加速度A×e^(iwt)の位相と前記加振器に入力される前記調整信号の位相との位相差wτを、-π/2<wτ<π/2の範囲に調整するようにアナログ回路にて事前に設定する位相調整ステップとを有し、
上述の各パラメータが以下の(式1)に示す関係を有することを特徴とする能動振動制御方法。
F=-B×e^(-iwτ)(A×e^(iwt)+F) (式1)
ただし、Bは、前記加振器による加振圧力Fの増幅係数で正数。」

第5 引用文献、引用発明等
1.引用文献1について
拒絶査定の拒絶の理由に引用された引用文献1には、図面とともに次の事項が記載されている。

「【0022】
更に詳しく説明すると、消音装置10は、騒音波を受けて電気信号に変換する騒音波変換手段と、この騒音波変換手段からの微弱な電気信号を増幅して、スピーカを駆動可能なレベルの電気信号である駆動信号を生成する駆動信号生成アンプと、この駆動信号生成アンプからの駆動信号を受けて、騒音波と逆位相の干渉音波を発する干渉音波発生手段とを有するものとなっている。
具体的には、騒音波変換手段としては、5個の平面スピーカ9のうち、図1中、中央に配置された平面スピーカ9が採用されている。換言すると、5個の平面スピーカ9のうち中央に配置されているものが、騒音波を受けて電気信号に変換する入力用平面スピーカ9Aとなっている。
【0023】
一方、干渉音波発生手段としては、図1中、中央に配置されたもの以外の4個の平面スピーカ9が採用されている。換言すると、中央以外の4個の平面スピーカ9が、駆動信号を音圧に変換して干渉音波を発生する出力用平面スピーカ9Bとなっている。
そして、入力用平面スピーカ9A及び出力用平面スピーカ9Bとしては、図1及び図2の如く、互いに同一の材質、構造、形状及び寸法を有する同一の製品が採用されている。
また、入力用平面スピーカ9A及び出力用平面スピーカ9Bは、図2に示すように、それらの振動板であるガラス板6の表面16が同一平面を形成するように当該建物の外壁1に設けられている。
【0024】
また、駆動信号生成アンプとしては、間仕切り壁13に埋め込まれた増幅装置20が採用されている。
この増幅装置20は、入力用平面スピーカ9Aからの電気信号を増幅するとともに当該電気信号の位相を調整することで、出力用平面スピーカ9Bを駆動する駆動信号を生成するとともに、この駆動信号で出力用平面スピーカ9Bを駆動することで、騒音波と逆位相の干渉音波を出力用平面スピーカ9Bから発生させるものとなっている。
図3には、増幅装置20の一例が示されている。図3において、増幅装置20は、入力された電気信号を構成する周波数の異なる周波数成分のうち、通過させる周波数成分を選別する通過帯域選別手段21と、この通過帯域選別手段21を通過した電気信号を増幅するとともに当該電気信号の位相を調整するパワーアンプ22とを備えたものである。
【0025】
通過帯域選別手段21は、入力用平面スピーカ9Aから出力された電気信号を内部処理可能なレベルに増幅するオペアンプ等からなるプリアンプ21A と、プリアンプ21A からの電気信号を構成する各周波数成分のうち、最も振幅の大きい周波数成分の周波数を検出する最大振幅周波数検出部21B と、通過帯域が設定変更可変となっているとともに、最大振幅周波数検出部21B が検出した周波数を中心とする周波数帯域を、その通過帯域として設定する通過帯域可変BPF(バンドパスフィルタ)21C とを備えたものとなっている。
このような通過帯域選別手段21によって、入力用平面スピーカ9Aからの電気信号は、最も振幅の大きい周波数成分のみがパワーアンプ22へ送られるようになっている。
【0026】
パワーアンプ22は、通過帯域選別手段21からの電気信号を出力用平面スピーカ9Bの駆動レベルまで増幅するとともに、増幅の際に、当該電気信号の位相調整動作として、その位相を逆転させる位相反転動作を行うものである。
これにより、増幅装置20は、入力用平面スピーカ9Aから出力された電気信号と逆位相の駆動信号で出力用平面スピーカ9Bを駆動し、この結果、入力用平面スピーカ9Aで受けた騒音波と逆位相の干渉音波を出力用平面スピーカ9Bから出力させるようになっている。
また、パワーアンプ22には、パワーアンプ22の増幅率の設定を変更するために、ゲイン設定器22A が設けられている。このゲイン設定器22A を操作することで、パワーアンプ22は、増幅率を調節することができるようになっている。
【0027】
このようなゲイン設定器22A を適宜操作することにより、増幅装置20は、増幅装置20がハウリングを起こさない範囲で、最も騒音の消音率が高くなるように、パワーアンプ22の増幅率を設定することが可能となっている。
前述のような本第1実施形態によれば、次のような効果が得られる。
すなわち、平板状に形成されたガラス板6を振動板として備えた入力用平面スピーカ9Aで騒音波を受けるようにするとともに、同様に、平板状に形成されたガラス板6を振動板として備えた出力用平面スピーカ9Bで干渉音波を発するようにし、且つ、それらのガラス板6の表面が同一平面を形成するように、入力用平面スピーカ9A及び出力用平面スピーカ9Bを設けたので、建物から離れた位置に存在する騒音源から入力用平面スピーカ9Aのガラス板6までの距離と、騒音源から出力用平面スピーカ9Bのガラス板6までの距離とが同じ距離であると見なすことができる。
【0028】
そして、入力用平面スピーカ9Aで変換した騒音波の電気信号を増幅装置20で増幅する際に、その出力が入力の逆位相となるようにしたので、出力用平面スピーカ9Bから出力される干渉音波が騒音波の逆位相となり、これにより、騒音波の波長の長短によらず、干渉音波で騒音波を有効に相殺することができる。
しかも、出力用平面スピーカ9Bは、窓4のガラス板6を振動板とすることで、その振動板の面積を充分確保したので、その振動板から放出される干渉音波は、騒音波と同様に平面波と見なすことができ、このような干渉音波と騒音波とを干渉させれば、平面波同士の干渉となり、干渉音波は、その全体にわたって、山の位置を騒音波の谷の位置に一致させ、且つ、谷の位置を騒音波の山の位置に一致させることができ、これにより、位置によらず、騒音を有効に低減することができる。
【0029】
従って、建物の外部で周波数の異なる様々な騒音が発生しても、出力用平面スピーカ9Bから発せられる干渉音波で当該騒音の騒音波が相殺可能となるので、騒音建物の外部で発生する不特定な騒音を有効に低減することできる。
また、入力用平面スピーカ9A及び出力用平面スピーカ9Bとして、互いに同一の材質、構造、形状及び寸法を有する同一のものを採用したので、入力用平面スピーカ9Aと、出力用平面スピーカ9Bとは、音響特性や電気的特性が一致するようになり、入力用平面スピーカ9Aで変換した騒音波の電気信号を増幅装置20で増幅すれば、出力用平面スピーカ9Bから出力した干渉音波の波形は、騒音の波形から大きく変化することがない。」

「【図1】



「【図3】



以上の記載事項(特に、下線部)によれば、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。なお、記号(a)?(e)は当審により付与した。

[引用発明]
(a)消音装置10は、騒音波を受けて電気信号に変換する騒音波変換手段と、この騒音波変換手段からの微弱な電気信号を増幅して、スピーカを駆動可能なレベルの電気信号である駆動信号を生成する駆動信号生成アンプと、この駆動信号生成アンプからの駆動信号を受けて、騒音波と逆位相の干渉音波を発する干渉音波発生手段とを有し、

(b)具体的には、5個の平面スピーカ9のうち中央に配置されているものが、騒音波を受けて電気信号に変換する入力用平面スピーカ9A、中央以外の4個の平面スピーカ9が、駆動信号を音圧に変換して干渉音波を発生する出力用平面スピーカ9Bとなっており、
入力用平面スピーカ9A及び出力用平面スピーカ9Bは、それらの振動板であるガラス板6の表面16が同一平面を形成するように当該建物の外壁1に設けられ、

(c) 駆動信号生成アンプとしては、間仕切り壁13に埋め込まれた増幅装置20が採用され、
この増幅装置20は、入力用平面スピーカ9Aからの電気信号を増幅するとともに当該電気信号の位相を調整することで、出力用平面スピーカ9Bを駆動する駆動信号を生成するとともに、この駆動信号で出力用平面スピーカ9Bを駆動することで、騒音波と逆位相の干渉音波を出力用平面スピーカ9Bから発生させるものとなっており、
増幅装置20は、入力された電気信号を構成する周波数の異なる周波数成分のうち、通過させる周波数成分を選別する通過帯域選別手段21と、この通過帯域選別手段21を通過した電気信号を増幅するとともに当該電気信号の位相を調整するパワーアンプ22とを備え、
通過帯域選別手段21は、入力用平面スピーカ9Aから出力された電気信号を内部処理可能なレベルに増幅するオペアンプ等からなるプリアンプ21A と、プリアンプ21A からの電気信号を構成する各周波数成分のうち、最も振幅の大きい周波数成分の周波数を検出する最大振幅周波数検出部21B と、通過帯域が設定変更可変となっているとともに、最大振幅周波数検出部21B が検出した周波数を中心とする周波数帯域を、その通過帯域として設定する通過帯域可変BPF(バンドパスフィルタ)21C とを備え、
パワーアンプ22は、通過帯域選別手段21からの電気信号を出力用平面スピーカ9Bの駆動レベルまで増幅するとともに、増幅の際に、当該電気信号の位相調整動作として、その位相を逆転させる位相反転動作を行い、
これにより、増幅装置20は、入力用平面スピーカ9Aから出力された電気信号と逆位相の駆動信号で出力用平面スピーカ9Bを駆動し、この結果、入力用平面スピーカ9Aで受けた騒音波と逆位相の干渉音波を出力用平面スピーカ9Bから出力させるようになっており、
また、パワーアンプ22には、パワーアンプ22の増幅率の設定を変更するために、ゲイン設定器22A が設けられ、このゲイン設定器22A を操作することで、パワーアンプ22は、増幅率を調節することができ、

(d)すなわち、平板状に形成されたガラス板6を振動板として備えた入力用平面スピーカ9Aで騒音波を受けるようにするとともに、同様に、平板状に形成されたガラス板6を振動板として備えた出力用平面スピーカ9Bで干渉音波を発するようにし、且つ、それらのガラス板6の表面が同一平面を形成するように、入力用平面スピーカ9A及び出力用平面スピーカ9Bを設けたので、建物から離れた位置に存在する騒音源から入力用平面スピーカ9Aのガラス板6までの距離と、騒音源から出力用平面スピーカ9Bのガラス板6までの距離とが同じ距離であると見なすことができ、
そして、入力用平面スピーカ9Aで変換した騒音波の電気信号を増幅装置20で増幅する際に、その出力が入力の逆位相となるようにしたので、出力用平面スピーカ9Bから出力される干渉音波が騒音波の逆位相となり、これにより、騒音波の波長の長短によらず、干渉音波で騒音波を有効に相殺することができ、
しかも、出力用平面スピーカ9Bは、窓4のガラス板6を振動板とすることで、その振動板の面積を充分確保したので、その振動板から放出される干渉音波は、騒音波と同様に平面波と見なすことができ、このような干渉音波と騒音波とを干渉させれば、平面波同士の干渉となり、干渉音波は、その全体にわたって、山の位置を騒音波の谷の位置に一致させ、且つ、谷の位置を騒音波の山の位置に一致させることができ、これにより、位置によらず、騒音を有効に低減することができ、

(e)従って、建物の外部で周波数の異なる様々な騒音が発生しても、出力用平面スピーカ9Bから発せられる干渉音波で当該騒音の騒音波が相殺可能となるので、騒音建物の外部で発生する不特定な騒音を有効に低減することできる、

(a)消音装置10。

2.引用文献2について
拒絶査定の拒絶の理由に引用された引用文献2には、図面とともに次の事項が記載されている。

「【0004】
本発明が前記従来の問題を解決すべく採用した騒音緩和装置の特徴を、図1の(A)を参照して説明すると、請求項1に記載の如く、振動を受ける制振対象部材Qに取り付けられる振動検知手段及び振動発生手段と、前記振動検知手段から出力される振動検知信号に基づき、前記振動発生手段へ振動干渉信号を出力する制御手段とを備え、前記制振対象部材Qが振動を発生させたときに、この振動を抑制する干渉振動を前記振動発生手段が発生させることである。前記振動検知手段としては振動センサーが用いられ、振動発生手段には、超磁歪素子や圧電素子を用いたアクチュエータを使用することができる。また振動検知手段と振動発生手段とは、一体化して同一箇所に設けてもよく、別体に設けて異なる箇所に配置してもよい。」

第6 対比・判断
1.本願発明1について
本願発明1と引用発明とを対比すると、次のことがいえる。
本願発明1は、「騒音が伝播する剛体と仮定できる材料の振動を低減する能動振動制御装置」(A)であり、この「騒音が伝播する剛体と仮定できる材料の振動を低減する」ことを実現するために、本願発明1は、「前記材料の振動加速度・・・を測定」(B)し、「計測された信号・・・に基づいて前記材料を・・・加振する」(C)(D)ものである。すなわち、振動を測定する対象と加振する対象とは同一の「騒音が伝播する剛体と仮定できる材料」である。
これに対し、引用発明は、「消音装置10」(a)であって、「騒音波と逆位相の干渉音波を発する」(a)ことで、「騒音建物の外部で発生する不特定な騒音を有効に低減することできる」(e)ものであって、「能動振動制御装置」といえる点では本願発明1と共通するものの、振動を測定する対象と加振する対象とは同一のものではない。
すなわち、引用発明の(b)によれば、引用発明における「騒音波を受けて電気信号に変換する入力用平面スピーカ9A」と「駆動信号を音圧に変換して干渉音波を発生する出力用平面スピーカ9B」とは、互いに異なるものであって、(d)によれば、「入力用平面スピーカ9Aで変換した騒音波の電気信号」を用いて「出力用平面スピーカ9Bから出力される干渉音波」をつくり、「干渉音波で騒音波を有効に相殺する」ことで消音をするものである。
まとめると、本願発明1と引用発明とは、「能動振動制御装置」といえる点では共通するものの、本願発明1は、「騒音が伝播する剛体と仮定できる材料の振動を低減する」ものであるのに対し、引用発明は、互いに異なるスピーカである、騒音波を検出する入力用平面スピーカ9Aと、干渉音波を出力する出力用平面スピーカ9Bとで、干渉音波により騒音波を相殺するものである点で両者は相違する。
したがって、本願発明1と引用発明は同一ではなく、本願発明1は引用文献1に記載された発明であるとはいえない。
また、引用発明において、入力用平面スピーカ9Aと、出力用平面スピーカ9Bは、それぞれ、空気振動である「騒音波を検出する」、「干渉音波を出力する」という役割を担っているものであり、これらを「騒音が伝播する剛体と仮定できる材料の振動を低減する」ために、前記材料の振動を測定したり、計測された信号に基づいて前記材料を加振するように変更する動機はない。
さらに、上記引用文献2の記載事項は、引用発明において、上記変更をする動機となるものではない。
したがって、本願発明1は、引用発明(及び引用文献2に記載された周知技術)に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

2.本願発明2-5について
本願発明2-4は、本願発明1を引用し、さらに発明特定事項を付加するものであるから、本願発明1と同じ理由により、引用発明(及び引用文献2に記載された周知技術)に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
本願発明5は、本願発明1と同じ「騒音が伝播する剛体と仮定できる材料の振動を低減する」との発明特定事項を有するから、本願発明1と同じ理由により、引用文献1に記載された発明であるとはいえず、また、引用発明(及び引用文献2に記載された周知技術)に基いて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。

第7 むすび
以上のとおり、拒絶査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。

 
審決日 2021-11-08 
出願番号 特願2016-152789(P2016-152789)
審決分類 P 1 8・ 113- WY (G10K)
P 1 8・ 121- WY (G10K)
最終処分 成立  
前審関与審査官 殿川 雅也柴垣 俊男  
特許庁審判長 五十嵐 努
特許庁審判官 渡辺 努
千葉 輝久
発明の名称 能動振動制御装置、及び能動振動制御方法  
代理人 特許業務法人R&C  

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