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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 取り消して特許、登録 H01F
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H01F
管理番号 1379608
審判番号 不服2021-2961  
総通号数 264 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-12-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2021-03-05 
確定日 2021-11-30 
事件の表示 特願2017-135371「磁石材料、永久磁石、回転電機、及び車両」拒絶査定不服審判事件〔平成30年 8月 9日出願公開、特開2018-125512、請求項の数(17)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成29年7月11日(優先権主張 2016年8月24日、2017年2月3日)の出願であって、令和2年4月13日付けで拒絶理由通知がされ、令和2年6月18日に手続補正がされ、令和2年11月30日付けで拒絶査定され、令和3年3月5日に拒絶査定不服審判が請求され、同時に手続補正がされたものである。

第2 原査定の概要
原査定(令和2年11月30日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。
「(進歩性)この出願の下記の請求項に係る発明は、以下の引用文献1-3に基づいて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

(1)引用文献1が主引用文献の場合
・請求項 1-19
・引用文献等 1

(2)引用文献2が主引用文献の場合
・請求項 1-19
・引用文献等 2

(3)引用文献3が主引用文献の場合
・請求項 3-19
・引用文献等 3
<引用文献等一覧>
1.特開昭64-76703号公報
2.国際公開第2015/159612号
3.特開2001-93713号公報」

第3 審判請求時の補正について
審判請求時の補正は、特許法第17条の2第3項から第6項までの要件に違反しているものとはいえない。
審判請求時の補正は、特許請求の範囲について、補正前の請求項1、3を削除して補正前の請求項2を新たな請求項1とし、補正前の請求項4に「前記組成式2のR元素の50原子%以上は、Ndであり、」「前記組成式2のA元素は、Nを含み、」との限定を付加して新たな請求項2とし、補正前の請求項5ないし19の項番及び引用する請求項の項番を整理して新たな請求項3ないし17とし、明細書の段落【0007】の記載を特許請求の範囲の記載に合わせるものであるから、請求項の削除、特許請求の範囲の減縮及び明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
また、上記補正は出願当初の明細書、特許請求の範囲及び図面に記載された事項であり、新規事項を追加するものではないといえる。
そして、「第4 本願発明」から「第6 対比・判断」までに示すように、補正後の請求項1ないし17に係る発明は、当業者であっても原査定に引用されたいずれの文献から容易に発明をすることができたものではないから、特許請求の範囲の減縮を目的とした補正後の請求項2ないし17に係る発明は、独立特許要件を満たすものである。

第4 本願発明
本願請求項1ないし17に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」ないし「本願発明17」という。)は、令和3年3月5日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1ないし17に記載された事項により特定される発明であり、以下のとおりの発明である(下線部は、補正箇所である。)。
「 【請求項1】
組成式1:(R_(1-x)Y_(x))_(a)M_(b)T_(c)
(式中、Rは1種類以上の希土類元素であり、TはTi、V、Nb、Ta、Mo、及びWから選ばれる少なくとも一つの元素であり、MはFe又はFe及びCoであり、xは0.01≦x≦0.8を満足する数であり、aは4≦a≦20原子%を満足する数であり、bはb=100-a-c原子%を満足する数であり、cは0<c<7原子%を満足する数である)により表される磁石材料であって、
ThMn_(12)型結晶相からなる主相を具備し、
前記組成式1のR元素の50原子%以上は、Smであり、
前記組成式1のM元素の30原子%以上は、Feであり、
前記磁石材料のX線回折パターンにおいて、前記ThMn_(12)型結晶相に起因するピーク強度の最大値とα-(Fe,Co)相に起因するピーク強度の最大値との和に対する前記α-(Fe,Co)相に起因するピーク強度の最大値の比は、0.20未満である、磁石材料。
【請求項2】
組成式2:(R_(1-x)Y_(x))_(a)M_(b)T_(c)A_(d)
(式中、Rは1種類以上の希土類元素であり、TはTi、V、Nb、Ta、Mo、及びWから選ばれる少なくとも一つの元素であり、MはFe又はFe及びCoであり、AはN、C、B、H、及びPから選ばれる少なくとも一つの元素であり、xは0.01≦x≦0.8を満足する数、aは4≦a≦20原子%を満足する数、cは0<c<7原子%を満足する数、bはb=100-a-c-d原子%を満足する数、dは0<d≦18原子%を満足する数である)により表される磁石材料であって、
ThMn_(12)型結晶相からなる主相を具備し、
前記組成式2のR元素の50原子%以上は、Ndであり、
前記組成式2のM元素の30原子%以上は、Feであり、
前記組成式2のA元素は、Nを含み、
前記磁石材料のX線回折パターンにおいて、前記ThMn_(12)型結晶相に起因するピーク強度の最大値とα-(Fe,Co)相に起因するピーク強度の最大値との和に対する前記α-(Fe,Co)相に起因するピーク強度の最大値の比は、0.20未満である、磁石材料。
【請求項3】
前記磁石材料のX線回折パターンにおいて、前記ThMn_(12)型結晶相に起因するピーク強度の最大値とα-(Fe,Co)相に起因するピーク強度の最大値との和に対する前記α-(Fe,Co)相に起因するピーク強度の最大値の比は、0.15未満である、請求項1または請求項2に記載の磁石材料。
【請求項4】
前記組成式1又は前記組成式2のY元素の50原子%以下は、Zr及びHfから選ばれる少なくとも一つの元素に置換されている、請求項1ないし請求項3のいずれか一項に記載の磁石材料。
【請求項5】
前記組成式1又は前記組成式2のT元素の50原子%以上は、Ti又はNbである、請求項1ないし請求項4のいずれか一項に記載の磁石材料。
【請求項6】
前記組成式1又は前記組成式2のM元素の20原子%以下は、Al、Si、Cr、Mn、Ni、Cu、及びGaから選ばれる少なくとも一つの元素に置換されている、請求項1ないし請求項5のいずれか一項に記載の磁石材料。
【請求項7】
前記主相中のM元素の濃度は、前記主相中のR元素、Y元素、M元素、及びT元素の総量の87.4原子%以上である、請求項1ないし請求項6のいずれか一項に記載の磁石材料。
【請求項8】
前記組成式1又は前記組成式2の前記Mは、Fe_(1-y)Co_(y)で表され、
前記yは、0.01≦y≦0.3を満足する数である、請求項1ないし請求項7のいずれか一項に記載の磁石材料。
【請求項9】
前記組成式1又は前記組成式2において前記xは0.3<x≦0.6を満足する数であり、前記cは3<c≦3.8原子%を満足する数である、請求項1ないし請求項8のいずれか一項に記載の磁石材料。
【請求項10】
前記磁石材料のX線回折パターンにおいて、前記ThMn_(12)型結晶相に起因するピーク強度の最大値とNd_(3)(Fe,Ti)_(29)型結晶相に起因するピーク強度の最大値との和に対する前記Nd_(3)(Fe,Ti)_(29)型結晶相に起因するピーク強度の最大値の比は、0.040未満である、請求項9に記載の磁石材料。
【請求項11】
前記主相の飽和磁化は、1.43T以上である、請求項1ないし請求項10のいずれか一項に記載の磁石材料。
【請求項12】
請求項1ないし請求項11のいずれか一項に記載の磁石材料を含む永久磁石。
【請求項13】
請求項1ないし請求項11のいずれか一項に記載の磁石材料の焼結体を具備する永久磁石。
【請求項14】
ステータと、
ロータと、を具備し、
前記ステータ又は前記ロータは、請求項13に記載の永久磁石を有する、回転電機。
【請求項15】
前記ロータは、シャフトを介してタービンに接続されている、請求項14に記載の回転電機。
【請求項16】
請求項14に記載の回転電機を具備する、車両。
【請求項17】
前記ロータは、シャフトに接続されており、
前記シャフトに回転が伝達される、請求項16に記載の車両。」

第5 引用文献、引用発明等
1 引用文献1について
(1)引用文献1に記載された事項について
原査定の拒絶の理由で引用された、特開昭64-76703号公報(以下「引用文献1」という。)には、図面とともに、次の記載がある(下線は、当審で付与した。)。
ア 「本発明は各種電機、電子機器材料として有用な磁気特性に優れた希士類磁石に関する。」
(第1頁左下欄第12-14行)

イ 「そこでこの点を改良するため鋭意検討を重ね、Feの一部をCoで置換することによりキュリー点が大幅に向上し磁化の温度変化が改善されることをみいだし本発明に到達したのである。」
(第2頁右上8-12行)

ウ 「本発明は前記した高価なCo金属の使用を極力抑え、Sm-Co系磁石と同等あるいはそれ以上の磁気特性をもつ、特にキュリー点の高い希士類磁石の提供を目的にしており、その要旨とするところは式 R_(x)Ti_(y)Co_(z)Fe_(100-x-y-z)
(式中RはYを含む希土類元素の1種または2種以上であり、重量百分率で、xは12≦ x≦30%、 yは1≦ y≦10%、zは0< z≦34% である)で示され、主相が体心正方晶構造を有すことを特徴とする希士類永久磁石にある。」(第2頁右上欄第14行-同頁左下欄第3行)

エ 「本発明者らは、R-Ti-Fe-Co四元化合物を種々作成し詳細に調べたところ、体心正方晶構造が体心正方晶ThMn_(12)構造である四元化合物R(Fe_(1-a)Co_(a))_(12-b)Ti_(b)が存在することをみいだした。そして磁化の温度変化もほぼ単相に近いことがわかり、Tiの導入によりR(Fe_(1-a)Co_(a))_(12)化合物が安定化されたことがわかった。さらに検討を重ねた結果、この化合物はSm同様全ての希土類元素およびYについても適応しうることをみいだした。
キュリー点について熱磁気曲線を測定したところ第1表に示すような結果を得た。これによりたとえば、10%の置換で90℃以上の上昇を示し磁化の温度変化は顕著に改善されることがわかった。
前記Rとしては、La, Ce, Pr, Nd, Sm, Eu, Gd, Tb, Dy, Ho, Er, Tm, Yb, Luの希土類元素およびYが挙られ、これら一種または二種以上の混合物が使用される。磁石として好ましいのは軽希土類元素である。この理由として、重希土類元素を使用した場合には飽和磁化が低下するためである。Rの割合が前記した範囲外のときは、体心正方晶ThMn_(12)構造が安定せず、しかも12% 以下では保持力(iHc)、また30% 以上では飽和磁化(4πIs)がそれぞれ大きく低下するため前記範囲内が必要である。また、Tiの割合が前記した範囲外のときも、体心正方晶ThMn_(12)構造が安定せず、特に10% を超えるときは正方晶構造の割合が少なくなるため前記範囲内が必要である。さらに、Coを使用することによりキュリー点が改善され、この場合の使用割合は40% までとされる。これは40% を超えて使用してもキュリー点の改善にそれほどの効果が得られず、一方、磁気異方性が低下するほか高価なコバルトの使用を抑えることによるものである。なお、Feの使用量に対するCoの置換量は40wt% 以下が好ましい。」(第2頁左下欄第4行-同頁右下欄第18行)

オ 本発明による希土類永久磁石は、前記のようにTiにより体心立方晶ThMn12構造の安定な結晶構造をもつ化合物を主体とするものであり、二元系のR_(2)Fe_(12)化合物に比べてキュリー点も高く、飽和磁化も同様に大幅な向上を示し高い磁気特性が得られる。」(第3頁左上欄第3-8行)

カ 「実施例2
各々純度99.9%のNd,Sm,Dy,Y, とTi,Fe,Coを第3表に示す割合で秤量し実施例1と同1条件で製造して異方性燒結体No.9?12を作成した。このものについて磁気特性を測定したところ第3表に示す結果が得られた。」(第3頁左下欄第15-20行)

キ 「第3表

」(第4頁)

(2)引用文献1に記載された技術的事項について
上記記載から、引用文献1には、次の技術的事項が記載されているものと認められる。
ア (1)ウより、「式 R_(x)Ti_(y)Co_(z)Fe_(100-x-y-z)(式中RはYを含む希土類元素の1種または2種以上であり、重量百分率で、xは12≦ x≦30%、 yは1≦ y≦10%、zは0< z≦34% である)で示され、主相が体心正方晶構造を有すことを特徴とする希士類永久磁石」との技術的事項を読み取ることができる。

イ (1)エより、「体心正方晶構造が体心正方晶ThMn_(12)構造である」との技術的事項を読み取ることができる。

ウ (1)エより、「Rとしては、La, Ce, Pr, Nd, Sm, Eu, Gd, Tb, Dy, Ho, Er, Tm, Yb, Luの希土類元素およびYが挙られ、これら一種または二種以上の混合物が使用され」との技術的事項を読み取ることができる。

エ (1)エより、「Feの使用量に対するCoの置換量は40wt% 以下が好ましい。」との技術的事項を読み取ることができる。

オ (1)オより、「Tiにより体心立方晶ThMn_(12)構造の安定な結晶構造をもつ化合物を主体とする」との技術的事項を読み取ることができる。

(3)引用文献1に記載された発明について
上記(2)アないしオから、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されているものと認められる。
「式 R_(x)TiyCo_(z)Fe_(100-x-y-z)(式中RはYを含む希土類元素の1種または2種以上であり、重量百分率で、xは12≦ x≦30%、 yは1≦ y≦10%、zは0< z≦34% である)で示され、主相が体心正方晶構造を有すことを特徴とする希士類永久磁石であって、
体心正方晶構造が体心正方晶ThMn_(12)構造であり、
Rとしては、La, Ce, Pr, Nd, Sm, Eu, Gd, Tb, Dy, Ho, Er, Tm, Yb, Luの希土類元素およびYが挙られ、これら一種または二種以上の混合物が使用され、
Feの使用量に対するCoの置換量は40wt% 以下が好ましく、
Tiにより体心立方晶ThMn_(12)構造の安定な結晶構造をもつ化合物を主体とする、
希士類永久磁石。」

2 引用文献2について
(1)引用文献2に記載された事項について
原査定の拒絶の理由で引用された、国際公開第2015/159612号(以下「引用文献2」という。)には、図面とともに、次の記載がある(下線は、当審で付与した。)。

ア 「[0001]本発明は、希土類永久磁石に関し、特に希土類元素の一部および全部にCeを含む高い磁気異方性を利用した永久磁石に関する。」

イ 「[0011]本発明はこうした状況を認識してなされたものであり、希土類永久磁石において、磁気異方性が大きく、かつ耐食性が高く、資源的に豊富なCeを使用した希土類永久磁石を提供することを目的とする。」

ウ 「[0017]本発明の希土類永久磁石は、主相粒子がThM_(12)型結晶構造(空間群14/mmm)を有するR-T化合物であり、RはCeを必須とするY、La、pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、YbおよびLuの1種以上からなる希土類元素、TはFeまたはFeおよびCoを必須とする1種以上の遷移金属元素、またはその一部をM(Ti、V、Cr、Mo、W、Zr、Hf、Nb、Ta、Al、Si、Cu、Zn、Ga、Geの1種以上)で置換した元素であることが好ましい。
[0018]前記ThMn_(12)型結晶構造(空間群I4/mmm)を有するR-T化合物であって、主相粒子が、さらに侵入元素X(XはN、H、Be、Cの1種以上からなる元素)を含むことが好ましい。」

エ 「[0042]ThMn_(12)型R-T化合物のRの量は、4.2at%以上25.0at%以下が好ましい。Rの量が4.2at%未満であると、主相の生成が十分でなく、軟磁性を持つa-Feなどが析出し、保磁力が著しく低下する。一方、Rが25.0at%を超えると主相の体積比率が低下し、飽和磁束密度が低下する。かかる範囲とすることで、飽和磁束密度を向上させることができる。
[0043]ThMn_(12)型R-T化合物のTは、FeまたはFeおよびCoを必須とする1種以上の遷移金属元素、またはその一部をM(Ti、V、Cr、Mo、W、Zr、Hf、Nb、Ta、Al、Si、Cu、Zn、Ga、Geの1種以上)で置換した元素とする。Co量はT総量に対して0at%より大きく、50at%以下が望ましい。適切な量のCoを加えることで飽和磁束密度を向上させることができる。また、Co量の増加によって希土類永久磁石の耐食性を向上させることができる。M量はT総量に対して0.4at%以上25at%以下が望ましい。MがT総量に対して0.4at%未満では軟磁性を持つR_(2)Fe_(17)やα-Feが析出して主相の体積比率が低下し、25at%を超えると飽和磁束密度が著しく低下する。
[0044]ThMn_(12)型R-T化合物は、侵入元素Xを含んでもよく、XはN、H、Be、Cの1種以上からなる元素とする。Xの量は0at%以上14at%以下が望ましい。Xが結晶格子内に侵入することで保磁力を向上させることができる。これは、侵入元素によって結晶磁気異方性が向上するためと考えられる。」

オ 「[0103]次に、主相粒子がThMn_(12)型結晶構造(空間群I4/mmm)を有するR-T化合物の実施例を説明する。以下、実施例および比較例に基づき、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
[0104][実施例33?実施例39、比較例19?比較例24]
主相粒子の組成がCeFe_(11)TiとなるようにCeメタル、Feメタル、Tiメタルを所定量秤量し、ストリップキャスト法にて薄板状のCe-FeTi合金を作製した。
・・・
[0108][実施例33?35、比較例19]
CeFe_(11)Tiに対し、焼結温度のみを750℃?1000℃まで変化させた。
・・・
[0109][実施例33、36、37、比較例20」
CeFe_(11)Tiに対し、焼結時間のみを15h?30hまで変化させた。
・・・
[0110][実施例37、比較例21]
CeFe_(11)Tiに対し、焼結時間を30hで焼結温度のみ700℃、900℃に変化させた。
・・・
[0111][実施例33、38、39、比較例22?24]
CeFe_(11)Tiに対し、焼結圧力のみを1.0GPa?10.0GPaまで変化させた。」

カ 「[0120][実施例44、46?48]
(Ce_(1-m)R3_(m))Fe_(11)TiX4_(n)(R3=Y、Gd、Nd、Dy、m=0.5、X4=N、n=1.5)において、何れのR3元素についても3価のCe状態が確認され、HcJ(組成予想値)より大きな値となった。このことからR3の元素によらず3価のCeに起因する高い磁気異方性を有した永久磁石が得られることが分かった。」

キ 「[表5]



(2)引用文献2に記載された技術的事項について
上記記載から、引用文献2には、次の技術的事項が記載されているものと認められる。
ア 段落[0017]より、「希土類永久磁石」との技術的事項を読み取ることができる。

イ 段落[0017]より、「主相粒子がThM_(12)型結晶構造」「R-T化合物であり、RはCeを必須とするY、La、pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、YbおよびLuの1種以上からなる希土類元素、TはFeまたはFeおよびCoを必須とする1種以上の遷移金属元素、またはその一部をM(Ti、V、Cr、Mo、W、Zr、Hf、Nb、Ta、Al、Si、Cu、Zn、Ga、Geの1種以上)で置換した元素である」との技術的事項を読み取ることができる。

ウ 段落[0018]より、「主相粒子が、さらに侵入元素X(XはN、H、Be、Cの1種以上からなる元素)を含むことが好ましい。」との技術的事項を読み取ることができる。

エ 段落[0042]より、「ThMn_(12)型R-T化合物のRの量は、4.2at%以上25.0at%以下が好まし」く、「Rの量が4.2at%未満であると、主相の生成が十分でなく、軟磁性を持つa-Feなどが析出し」との技術的事項を読み取ることができる。

オ 段落[0043]より、「ThMn_(12)型R-T化合物のTは、FeまたはFeおよびCoを必須とする1種以上の遷移金属元素、またはその一部をM(Ti、V、Cr、Mo、W、Zr、Hf、Nb、Ta、Al、Si、Cu、Zn、Ga、Geの1種以上)で置換した元素とする。」との技術的事項を読み取ることができる。

カ 段落[0043]より、「M量はT総量に対して0.4at%以上25at%以下が望まし」く、「MがT総量に対して0.4at%未満では軟磁性を持つR_(2)Fe_(17)やα-Feが析出して主相の体積比率が低下し」との技術的事項を読み取ることができる。

キ 段落[0044]より、「ThMn_(12)型R-T化合物は、侵入元素Xを含んでもよく、XはN、H、Be、Cの1種以上からなる元素と」し、「Xの量は0at%以上14at%以下が望ましい。Xが結晶格子内に侵入することで保磁力を向上させることができる」との技術的事項を読み取ることができる。

(3)上記(2)アないしキから、引用文献2には、次の発明(以下「引用発明2」という。)が記載されているものと認められる。
「希土類永久磁石であって、
主相粒子がThM_(12)型結晶構造を有するR-T化合物であり、RはCeを必須とするY、La、pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、YbおよびLuの1種以上からなる希土類元素、TはFeまたはFeおよびCoを必須とする1種以上の遷移金属元素、またはその一部をM(Ti、V、Cr、Mo、W、Zr、Hf、Nb、Ta、Al、Si、Cu、Zn、Ga、Geの1種以上)で置換した元素であり、
主相粒子が、さらに侵入元素X(XはN、H、Be、Cの1種以上からなる元素)を含むことが好ましく、
ThMn_(12)型R-T化合物のRの量は、4.2at%以上25.0at%以下が好ましく、Rの量が4.2at%未満であると、主相の生成が十分でなく、軟磁性を持つa-Feなどが析出し、
ThMn_(12)型R-T化合物のTは、FeまたはFeおよびCoを必須とする1種以上の遷移金属元素、またはその一部をM(Ti、V、Cr、Mo、W、Zr、Hf、Nb、Ta、Al、Si、Cu、Zn、Ga、Geの1種以上)で置換した元素とし、
M量はT総量に対して0.4at%以上25at%以下が望ましく、MがT総量に対して0.4at%未満では軟磁性を持つR_(2)Fe_(17)やα-Feが析出して主相の体積比率が低下し、
ThMn_(12)型R-T化合物は、侵入元素Xを含んでもよく、XはN、H、Be、Cの1種以上からなる元素とし、Xの量は0at%以上14at%以下が望ましく、Xが結晶格子内に侵入することで保磁力を向上させることができる、
希土類永久磁石」。

3 引用文献3について
(1)引用文献3に記載された事項について
原査定の拒絶の理由で引用された、特開2001-93713号公報(以下「引用文献3」という。)には、図面とともに、次の記載がある(下線は、当審で付与した。)。
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、TnMn_(12)型の結晶構造を有する多元系希土類-鉄格子浸入型永久磁石材料に関し、特に、硬磁性材料、たとえば異方性永久磁石材料および等方性永久磁石材料、およびそれからなる永久磁石、ならびにそれらの製造方法に関する。」

「【0011】本発明は、一般式(R_(1-α)R′_(α))x(Mo_(1-β)M_(β))_(y)Fe_(100-x-y-z)I_(z)で表わされる多元系希土類-鉄格子浸入型永久磁石材料である。
【0012】ここで、RはPr、Nd、Pr-Nd富集物およびPrとNdの混合物からなる群から選択される軽希土類元素、R′はGd、Tb、Dy、Ho、Er、Yおよびそれらの2種以上の混合物からなる群から選択される重希土類元素、MはB、Ti、V、Cr、Mn、W、Si、Al、Ga、Nb、Ta、Zrおよびそれらの2種以上の混合物からなる群から選択される元素、IはH、C、N、Fおよびそれらの2種以上の混合物からなる群から選択される元素、α、βはそれぞれモル分率で、αは0.01?0.14、βは0.01?0.98、x、y、zはそれぞれ原子%で、xは4?15原子%、yは3?20原子%、zは5?20原子%である。ここで富集物とは、希土類元素を含む鉱石から希土類元素を精製するときに、その原料鉱石からPd、Nd以外の多数の希土類元素を抽出してPr-Nd含有量を高めていき、PrとNdが主成分となった残留物をいう。」

「【0016】また、本発明者らは、本発明の高性能の永久磁石材料を提供するためには、合金成分中に、一種以上の適切な量の重希土類元素、たとえばGd、Tb、Dy、Ho、Er、Yを同時に含まなければならないことを見出した。重希土類元素は、モル分率αとして0.01?0.14であることが好ましい。これにより、高性能かつ温度に対する安定性が良好な永久磁石材料を製造することができる。さらに、希土類元素RとR′の合計の量(x)が、4?15原子%、好ましくは、6?10原子%含まれていることが望ましい。
【0017】また、希土類-鉄系永久磁石材料として、1:12型結晶構造を有する永久磁石材料には、Feのほかに、適切な量の第三元素を添加することが必須であることが公知である。しかし、本発明では、単一の第三元素のみを含有するR(FeM)_(12)系の合金では、高性能な永久磁石材料を得ることができないことを見出した。気相-固相反応を進展させて材料の磁性特性を改善し、結晶粒を微細化して微粉末を製造し易くするためには、単一の第三元素のみではなく、第三元素として、MoとMo以外の第三元素Mとを組合わせて使用することが必要である。ここで、Mo以外の第三元素Mは、B、Ti、V、Cr、Mn、W、Si、Al、Ga、Nb、Sr、Ta、Zrがあげられ、これらの元素を2種以上を組み合わせて使用することもできる。すなわち、本発明は、1:12型結晶構造の窒化物からなる高性能の永久磁石材料を製造するために、合金成分として、Moが不可欠であり、さらに、Mo以外の第三元素Mを同時に含有しなければならない。また、MoとMo以外の第三元素Mの合計の量(y)は、合金中に3?20原子%、好ましくは6?12原子%含有されていることが望ましい。
【0018】MoおよびMo以外の第三元素Mに関して、本発明には、二つの実施態様がある。一つは、第三元素がMoを主成分にする場合は、好ましいモル分率βは、0.01?0.40であり、第三元素がMo以外の元素Mを主成分にする場合は、特に、MがNb、B、Ti、VまたはSiの一種以上の場合は、好ましいモル分率βは、0.80?0.98である。」

「【0022】(3)前記IがH、N、またはFのときは、前記(2)の工程の処理を終えた微粉末を、前記雰囲気I中で、所定温度のもとで、気相-固相反応を行わせる。たとえば、Iが窒素(N)の場合は、温度300?650℃、圧力1?10気圧の窒素ガス雰囲気中で、1?20時間窒化処理を行う。この気相-固相反応により、組成成分が(R_(1-α)R′_(α))_(x)(Mo_(1-β)M_(β))_(y)Fe_(100-x-y-z)N_(z)の窒化物が形成される。この窒化物はまた、TnMn_(12)型立方晶構造を有することが特徴であり、以下では、1:12型窒化物という。本発明の多元系合金は気相-固相反応が容易に進むという利点を有している。また、合金の酸化が抑制され、α-Feが発生しない条件のもとで、充分に窒化した合金を得ることができるので、本発明の永久磁石材料の窒素含有量は5?20原子%にも達する。1:12型母合金と比較すると、窒化後の1:12型窒化物は、キューリー温度と飽和磁束密度が著しく高くなり、希土類元素の結晶磁気異方性が変化する。特に、Pr、Nd、Tb、Dy、Hoを含有する1:12型窒化物では、絶対温度0Kからキューリー温度までの広い温度範囲で、c軸が磁気容易軸となり、強い異方性を備えることができる。」

「【0073】実施例14
組成比がNd_(0.9)Y_(0.1)Fe_(10.0)Mo_(1.8)Ti_(0.2)、およびNd_(0.9)Y_(0.1)Fe_(10.5)Mo_(0.2)V_(1.3)の1:12型母合金を溶製し凝固し、温度200?300℃の水素ガス中で2?4時間水素化処理を行い、水素化物磁性粉を形成した。水素化処理前後の磁気特性の変化を対比して表19に示す。
【0074】
【表19】



(2)引用文献3に記載された技術的事項について
上記記載から、引用文献3には、次の技術的事項が記載されているものと認められる。
ア 段落【0001】、【0011】より、「TnMn_(12)型の結晶構造を有する」「一般式(R_(1-α)R′_(α))_(x)(Mo_(1-β)M_(β))_(y)Fe_(100-x-y-z)I_(z)で表わされる多元系希土類-鉄格子浸入型永久磁石材料」との技術的事項を読み取ることができる。

イ 段落【0012】より、「ここで、RはPr、Nd、Pr-Nd富集物およびPrとNdの混合物からなる群から選択される軽希土類元素、R′はGd、Tb、Dy、Ho、Er、Yおよびそれらの2種以上の混合物からなる群から選択される重希土類元素、MはB、Ti、V、Cr、Mn、W、Si、Al、Ga、Nb、Ta、Zrおよびそれらの2種以上の混合物からなる群から選択される元素、IはH、C、N、Fおよびそれらの2種以上の混合物からなる群から選択される元素、α、βはそれぞれモル分率で、αは0.01?0.14、βは0.01?0.98、x、y、zはそれぞれ原子%で、xは4?15原子%、yは3?20原子%、zは5?20原子%である。」との技術的事項を読み取ることができる。

ウ 段落【0022】より、「Iが窒素(N)の場合は、」「組成成分が(R_(1-α)R′_(α))_(x)(Mo_(1-β)M_(β))_(y)Fe_(100-x-y-z)N_(z)の窒化物が形成される。この窒化物はまた、TnMn_(12)型立方晶構造を有する」「α-Feが発生しない条件のもとで、充分に窒化した合金を得ることができる」との技術的事項を読み取ることができる。

(3)引用文献3に記載された発明について
上記(2)アないしウから、引用文献3には、次の発明(以下「引用発明3」という。)が記載されていると認められる。
「TnMn_(12)型の結晶構造を有する、一般式(R_(1-α)R′_(α))_(x)(Mo_(1-β)M_(β))_(y)Fe_(100-x-y-z)I_(z)で表わされる多元系希土類-鉄格子浸入型永久磁石材料であって、
ここで、RはPr、Nd、Pr-Nd富集物およびPrとNdの混合物からなる群から選択される軽希土類元素、R′はGd、Tb、Dy、Ho、Er、Yおよびそれらの2種以上の混合物からなる群から選択される重希土類元素、MはB、Ti、V、Cr、Mn、W、Si、Al、Ga、Nb、Ta、Zrおよびそれらの2種以上の混合物からなる群から選択される元素、IはH、C、N、Fおよびそれらの2種以上の混合物からなる群から選択される元素、α、βはそれぞれモル分率で、αは0.01?0.14、βは0.01?0.98、x、y、zはそれぞれ原子%で、xは4?15原子%、yは3?20原子%、zは5?20原子%であり、
Iが窒素(N)の場合は、組成成分が(R_(1-α)R′_(α))_(x)(Mo_(1-β)M_(β))_(y)Fe_(100-x-y-z)N_(z)の窒化物が形成され、この窒化物はまた、TnMn_(12)型立方晶構造を有し、α-Feが発生しない条件のもとで、充分に窒化した合金を得ることができる、
永久磁石材料。」

また、引用文献3には、段落【0073】より、次の発明(以下「非浸入型の引用発明3」という。)が記載されていると認められる。
「1:12型(すなわちTnMn_(12)型)の結晶構造を有するNd_(0.9)Y_(0.1)Fe_(10.0)Mo_(1.8)Ti_(0.2)、およびNd_(0.9)Y_(0.1)Fe_(10.5)Mo_(0.2)V_(1.3)の永久磁石材料合金。」

第6 対比・判断
1 引用発明1を主引用例とした場合
(1)本願発明1について
ア 対比
本願発明1と引用発明1とを対比すると、次のことがいえる。
(ア)引用発明1における「主相が」「体心立方晶ThMn_(12)構造」の「希士類磁石」と本願発明1とは、「ThMn_(12)型結晶相からなる主相を具備」する「磁石材料」の点で一致する。

(イ)引用発明1では「Feの使用量に対するCoの置換量は40wt% 以下」であるから、Feの原子量(56)とCoの原子量(59)がほぼ等しいことを踏まえると、引用発明1における式「R_(x)Ti_(y)Co_(z)Fe_(100-x-y-z)」は「R_(x)Ti_(y)(Co_(α)Fe_(1-α))_(100-x-y)」(式中RはYを含む希土類元素の1種または2種以上であり、重量百分率で、xは12≦ x≦30%、 yは1≦ y≦10%、0< α≦40%)zは0< z≦34% である)と書き直すことができる。
そして、本願発明1における「T」は「Ti、V、Nb、Ta、Mo、及びWから選ばれる少なくとも一つの元素であ」るから、引用発明1における「Ti」を候補元素の一つとして含んでいる。
また、Tiの重量百分率y(1≦y≦10%)も、Tiの原子量(49)がFeの原子量(59)のおおよそ8割(原子数換算で約1.2倍)であることを踏まえれば、本願発明1における「cは0<c<7原子%」の範囲と大部分で重複している。
さらに、希土類元素の原子量(Yが89、ランタノイドが139?175)がFeの原子量(56)の約1.5?約3倍であることを考慮すれば、引用発明1における希土類元素の重量百分率x(12≦x≦30%)についても、ほぼ4?20原子%の範囲といえる。

よって、本願発明1と引用発明1とは、
「組成式1:R’_(a)M_(b)T_(c)(式中、R’は1種類以上の希土類元素(Yも希土類元素の範囲に含める)であり、TはTi、V、Nb、Ta、Mo、及びWから選ばれる少なくとも一つの元素であり、MはFe又はFe及びCoであり、xは0.01≦x≦0.8を満足する数、aは4≦a≦20原子%を満足する数、bはb=100-a-c原子%を満足する数、cは0<c<7原子%を満足する数である)」点で一致している。

しかしながら、希土類元素「R’」について、本願発明1では、「(R_(1-x)Y_(x))」(Rは1種類以上の希土類元素)」であり」、「前記組成式1のR元素の50原子%以上は、Smであ」り、「xは0.01≦x≦0.8を満足する数であ」るのに対し、引用発明1では、「Yを含む希土類元素の1種または2種以上であ」るものの、希土類元素を上記組成とすることは示されていない点で相違する(なお、引用発明1における「Yを含む希土類元素」とは、「Yを希土類元素の必須成分として含む」という意味ではなく「希土類元素の範囲には、ランタノイドだけでなく、Yも含める」という意味である。以下、同様。)。

(ウ)引用発明1における組成式「R_(x)Ti_(y)(Co_(α)Fe_(1-α))_(100-x-y)」、「重量百分率」で「α」は「0< α≦40%」であることは、Fe及びCoのうち、重量百分率で60%以上はFeであることを意味するから、本願発明1における、「前記組成式1のM元素の30原子%以上は、Feであ」ることに相当する。

(エ)本願発明1では、「前記磁石材料のX線回折パターンにおいて、前記ThMn_(12)型結晶相に起因するピーク強度の最大値とα-(Fe,Co)相に起因するピーク強度の最大値との和に対する前記α-(Fe,Co)相に起因するピーク強度の最大値の比」(以下、「前記比」という。)「は、0.20未満である」のに対し、引用発明1では「Tiにより体心立方晶ThMn_(12)構造の安定な結晶構造をもつ化合物を主体とする」ものの、「前記比は、0.20未満である」か不明である点で相違する。

(オ)したがって、本願発明1と引用発明との間には、次の一致点、相違点があるといえる。

(一致点)
「組成式1:R’_(a)M_(b)T_(c)(式中、R’は1種類以上の希土類元素(Yも希土類元素の範囲に含める)であり、TはTi、V、Nb、Ta、Mo、及びWから選ばれる少なくとも一つの元素であり、MはFe又はFe及びCoであり、xは0.01≦x≦0.8を満足する数、aは4≦a≦20原子%を満足する数、bはb=100-a-c原子%を満足する数、cは0<c<7原子%を満足する数である)により表される磁石材料であって、
ThMn_(12)型結晶相からなる主相を具備し、
前記組成式1のM元素の30原子%以上は、Feである、磁石材料。」

(相違点1)希土類元素「R’」について、本願発明1では、「(R_(1-x)Y_(x))」(Rは1種類以上の希土類元素)」であり」、「前記組成式1のR元素の50原子%以上は、Smであ」り、「xは0.01≦x≦0.8を満足する数」であるのに対し、引用発明1では、希土類元素を上記組成とすることは示されていない点。

(相違点2)本願発明1では、「前記磁石材料のX線回折パターンにおいて、前記ThMn_(12)型結晶相に起因するピーク強度の最大値とα-(Fe,Co)相に起因するピーク強度の最大値との和に対する前記α-(Fe,Co)相に起因するピーク強度の最大値の比」(以下、「前記比」という。)「は、0.20未満である」のに対し、引用発明1では「α-(Fe,Co)相」がどの程度生成しているか不明である点。

イ 判断
(ア)相違点1について
上記相違点1について検討すると、引用発明1には、「Yを含む希土類元素の1種または2種以上であ」ると包括的な記載があるものの、希土類元素として特に「Y」及び「Sm」とを組み合わせ、組成式における希土類元素を、「(R_(1-x)Y_(x))」(Rは1種類以上の希土類元素)」であり」、「前記組成式1のR元素の50原子%以上は、Smであ」り、「xは0.01≦x≦0.8を満足する数」であるとすることは、記載も示唆もされていない。
また、引用文献1の「第3表」に記載された実施例2の組成をみても、「Y」または「Sm」をそれぞれ単独で添加する例が示されているにすぎない。
よって、引用発明1において、希土類元素として「Y」及び「Sm」を必須元素として組み合わせ、「(R_(1-x)Y_(x))」「(Rは1種類以上の希土類元素)」であり、「前記組成式1のR元素の50原子%以上は、Smであ」り、「xは0.01≦x≦0.8を満足する数」であるものとすることは、当業者といえども、容易になし得たことではない。

(イ)相違点2について
引用発明1には、「Tiにより体心立方晶ThMn_(12)構造の安定な結晶構造をもつ化合物を主体とする」ことができることが示されているに過ぎず、「ThMn_(12)」「結晶」に対して相対的に「α-(Fe,Co)相」がどの程度生成しているのかについては何も示されていない。
よって、引用発明1において、その「希士類永久磁石」の材料における「X線回折パターン」が、「前記ThMn_(12)型結晶相に起因するピーク強度の最大値とα-(Fe,Co)相に起因するピーク強度の最大値との和に対する前記α-(Fe,Co)相に起因するピーク強度の最大値の比は、0.20未満である」構成とすることは、当業者といえども容易になし得たことではない。

ウ まとめ
したがって、本願発明1は、当業者であっても引用文献1に記載された発明に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。

(2)本願発明2について
ア 対比
本願発明2は、本願発明1における磁石材料の「組成式1」において、「N、C、B、H、及びPから選ばれる少なくとも一つの元素」「A」を組成式全体に対し、「4原子%」以上「20原子%」以下となる範囲で添加する一方、「前記組成式1のR元素の50原子%以上は、Smであ」るとの要件を削除するとともに「前記組成式2のR元素の50原子%以上は、Ndであり、」との要件を付加したものである。

そうすると、上記「(1)」「ア 対比」を踏まえれば、本願発明2と引用発明1とは次の点で一致し、また、相違点3で一応相違し、さらに相違点4、5で相違する。

(一致点)
「主たる組成式が、R’_(a)M_(b)T_(c)(式中、R’は1種類以上の希土類元素(Yも希土類元素の範囲に含める)であり、TはTi、V、Nb、Ta、Mo、及びWから選ばれる少なくとも一つの元素であり、MはFe又はFe及びCoであり、xは0.01≦x≦0.8を満足する数であり、aは4≦a≦20原子%を満足する数であり、bはb=100-a-c原子%を満足する数であり、cは0<c<7原子%を満足する数である)により表される磁石材料であって、
ThMn_(12)型結晶相からなる主相を具備し、
前記組成式1のM元素の30原子%以上は、Feである、磁石材料。」

(相違点3)
希土類元素「R’」について、本願発明2では、「(R_(1-x)Y_(x))」(Rは1種類以上の希土類元素)」であり」、「xは0.01≦x≦0.8を満足する数であり、」「前記組成式2のR元素の50原子%以上は、Ndであ」るのに対し、引用発明1では、希土類元素を上記組成とすることは示されていない点。

(相違点4)
本願発明2では、上記(一致点)に記載した組成式において、「N、C、B、H、及びPから選ばれる少なくとも一つの元素」「A」を、組成式全体に対し「4原子%」以上「20原子%」以下となる範囲で添加し、磁石材料の組成式を「組成式2:(R_(1-x)Y_(x))_(a)M_(b)T_(c)A_(d)(AはN、C、B、H、及びPから選ばれる少なくとも一つの元素であり、aは4≦a≦20原子%を満足する数、bはb=100-a-c-d原子%を満足する数、dは0<d≦18原子%を満足する数である)」と特定しているのに対し、引用発明1では、「N、C、B、H、及びPから選ばれる少なくとも一つの元素」「A」を添加することは示されていない点。

(相違点5)
本願発明2では、「前記磁石材料のX線回折パターンにおいて、前記ThMn_(12)型結晶相に起因するピーク強度の最大値とα-(Fe,Co)相に起因するピーク強度の最大値との和に対する前記α-(Fe,Co)相に起因するピーク強度の最大値の比」(以下、「前記比」という。)「は、0.20未満である」のに対し、引用発明1では「α-(Fe,Co)相」がどの程度生成しているか不明である点。

イ 判断
(ア)相違点3について
引用文献1の「第3表」の「組成10」には、NdとYを、材料全体の重量に対する重量百分率で「Nd 16.31w%」及び「Y 2.05w%」とした実施例が記載されている。これをNdとYの原子数比に換算すると、「Nd_(0.83)Y_(0.17)」となるから、本願発明2における「(R_(1-x)Y_(x))」(Rは1種類以上の希土類元素)であり、「前記組成式2のR元素の50原子%以上は、Ndであり、」「xは0.01≦x≦0.8を満足する数」であるとの要件を満足する。
よって、相違点3は実質的な相違点ではない。

(イ)相違点4について
引用文献1には、「N、C、B、H、及びPから選ばれる少なくとも一つの元素」「A」を添加することは記載も示唆もされていない。
よって、引用発明1において、「N、C、B、H、及びPから選ばれる少なくとも一つの元素」「A」を、組成式全体に対し「4原子%」以上「20原子%」以下となる範囲で添加し、本願発明2における組成式2で表されるものとすることは、当業者であっても容易なし得たことではない。

(ウ)相違点5について
相違点5が当業者であっても容易になし得たものでないことは、上記「(1)(イ) 相違点2について」で述べたとおりである。

ウ まとめ
したがって、本願発明2は、当業者であっても引用文献1に記載された発明に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。

(3)本願発明3ないし5について
本願発明3ないし5に係る請求項3ないし5は、請求項1または請求項2を引用し、さらに所定の技術的限定を付加したものであるから、本願発明3ないし5は、前記「(1)」「イ」及び「(2)」「イ」に記載したのと同じ理由によって、当業者であっても引用文献1に記載された発明に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。

(4)本願発明6について
本願発明6に係る請求項6は、請求項1、2または請求項5を引用し、さらに「前記組成式1又は前記組成式2のM元素の20原子%以下は、Al、Si、Cr、Mn、Ni、Cu、及びGaから選ばれる少なくとも一つの元素に置換されている」としたものである。
よって、本願発明6は、上記相違点1及び相違点2、または、相違点4及び相違点5に係る構成を備えるものであるから、本願発明6は、前記「(1)」「イ」及び「(2)」「イ」「(イ)」「(ウ)」に記載したのと同じ理由によって、当業者であっても引用文献1に記載された発明に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。

(5)本願発明7ないし11について
本願発明7ないし11に係る請求項7ないし11は、請求項1、2または請求項6を引用し、さらに所定の技術的限定を付加したものである。
よって、本願発明7ないし11は、前記「(1)」「イ」、「(2)」「イ」「(イ)」「(ウ)」及び「(4)」に記載したのと同じ理由によって、当業者であっても引用文献1に記載された発明に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。

(6)本願発明12ないし17について
本願発明12ないし17は、請求項1、2または請求項6に記載された磁石材料を発明特定事項として含むものである。
よって、本願発明12ないし17は、「(1)」「イ」、「(2)」「イ」「(イ)」「(ウ)」及び「(4)」に記載したのと同じ理由によって、当業者であっても引用文献1に記載された発明に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。

2 引用文献2を主引用例とした場合
(1)本願発明1について
ア 対比
本願発明1と引用発明2とを対比すると、次のことがいえる。
(ア)引用発明2における「主相粒子がThM_(12)型結晶構造を有するR-T化合物」である「希土類永久磁石」と本願発明1とは、「ThMn_(12)型結晶相からなる主相を具備」する「磁石材料」の点で一致する。

(イ)引用発明2では「ThMn_(12)型R-T化合物のTは、FeまたはFeおよびCoを必須とする1種以上の遷移金属元素」「の一部をM(Ti、V、Cr、Mo、W、Zr、Hf、Nb、Ta、Al、Si、Cu、Zn、Ga、Geの1種以上)で置換した元素とし、M量はT総量に対して0.4at%以上25at%以下」であるから、Tが「Fe」である場合に、本願発明1とは、「MはFe又はFe及びCoであ」り、「M元素の30原子%以上は、Feであ」る点で一致する。

(ウ)引用発明2における「ThMn_(12)型R-T化合物のRの量は、4.2at%以上25.0at%以下」である。そして引用文献2に「主相粒子の組成がCeFe_(11)Ti」である実施例が記載されていることを踏まえれば、引用発明2の組成式は、本願発明1に倣って書き直せば、
「R_(a)M_(b)T_(c)(式中、RはCeを必須とするY、La、pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、YbおよびLuの1種以上からなる希土類元素であり、TはTi元素であり、MはFeであり、aは4.2≦a≦25.0原子%を満足する数であり、cは0<c≦24原子%(=(1-0.42)×0.25×100%)であり、bはb=100-a-c原子%を満足する数である」となる。
よって、本願発明1と引用発明2とは、
「R’_(A’)M_(b)'T_(c)'(式中、R’は希土類元素であり、TはTi、V、Nb、Ta、Mo、及びWから選ばれる少なくとも一つの元素であり、MはFeであ」点で一致し、組成式における希土類元素の原子%「a」についても大部分で重複する点で一致する。
また、本願発明1と引用発明2とは、組成式における「T」(請求項1の意味)元素の原子%「c」が0原子%より大きい数である点で一致する。
しかしながら、
a 希土類元素R’について、本願発明1では、「(R_(1-x)Y_(x))」(Rは1種類以上の希土類元素)」であり」、「前記組成式1のR元素の50原子%以上は、Smであ」り、「xは0.01≦x≦0.8を満足する数であ」るのに対し、引用発明2では、「Ceを必須とするY、La、pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、YbおよびLuの1種以上からなる希土類元素」であるものの、希土類元素を上記組成とすることは示されていない点、
及び、
b 組成式における「T」(請求項1の意味)元素の原子%「c」について、本願発明1では、cは0<c<7原子%を満足する数であるのに対し、引用発明2では、0<c≦24at%(実施例においては7.7at%(=(1/13)×100%)である点、
で相違する。

(エ)本願発明1では、「前記磁石材料のX線回折パターンにおいて、前記ThMn_(12)型結晶相に起因するピーク強度の最大値とα-(Fe,Co)相に起因するピーク強度の最大値との和に対する前記α-(Fe,Co)相に起因するピーク強度の最大値の比」「(以下「前記比」という。)「は、0.20未満である」のに対し、引用発明2では「ThMn_(12)型R-T化合物のRの量」が「4.2at%未満であると、主相の生成が十分でなく、軟磁性を持つa-Feなどが析出し」、「T」「の一部をM」で置換する際、「MがT総量に対して0.4at%未満では軟磁性を持つR_(2)Fe_(17)やα-Feが析出して主相の体積比率が低下」することは示されているものの、「ThMn_(12)型結晶相に起因するピーク強度の最大値とα-(Fe,Co)相に起因するピーク強度の最大値との和に対する前記α-(Fe,Co)相に起因するピーク強度の最大値の比」(以下「前記比」という。)については不明である点で相違する。

(オ)したがって、本願発明1と引用発明2との間には、次の一致点、相違点があるといえる。

(一致点)
「組成式1:R’_(a)M_(b)T_(c)(式中、R’は1種類以上の希土類元素であり、TはTi、V、Nb、Ta、Mo、及びWから選ばれる少なくとも一つの元素であり、MはFe又はFe及びCoであり、xは0.01≦x≦0.8を満足する数、aは4≦a≦20原子%を満足する数、bはb=100-a-c原子%を満足する数、cは0原子%より大きい数である)により表される磁石材料であって、
ThMn_(12)型結晶相からなる主相を具備し、
前記組成式1のM元素の30原子%以上は、Feである、磁石材料。」

(相違点6)
希土類元素R’について、本願発明1では、「(R_(1-x)Y_(x))」(Rは1種類以上の希土類元素)」であり」、「前記組成式1のR元素の50原子%以上は、Smであ」り、「xは0.01≦x≦0.8を満足する数」であるのに対し、引用発明2では、希土類元素を上記組成とすることは示されていない点。

(相違点7)
組成式における「T」元素の原子%「c」について、本願発明1では、「cは0<c<7原子%を満足する数」であるのに対し、引用発明2では、0<c≦24at%(実施例においては7.7at%)である点。

(相違点8)
本願発明1では、「前記磁石材料のX線回折パターンにおいて、前記ThMn_(12)型結晶相に起因するピーク強度の最大値とα-(Fe,Co)相に起因するピーク強度の最大値との和に対する前記α-(Fe,Co)相に起因するピーク強度の最大値の比は、0.20未満である」のに対し、引用発明2では、前記比については不明である点。

イ 判断
事案に鑑みて、まず、相違点6、8について検討する。
(ア)相違点6について
上記相違点6について検討すると、引用発明2には、「Ceを必須とするY、La、pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、YbおよびLuの1種以上からなる希土類元素」と包括的な記載があるものの、希土類元素として、必須元素である「Ce」の他に、「Y」及び「Sm」とを組み合わせることは、記載も示唆もされていない。
また、引用文献2の実施例の組成をみても、「Y」を添加した例が実施例43、44に記載されているだけで、「Sm」を添加した例は何ら記載されていない。
よって、引用発明2において、希土類元素として「Y」及び「Sm」を必須元素として組み合わせ、「(R_(1-x)Y_(x))」「(Rは1種類以上の希土類元素)」であり、「前記組成式1のR元素の50原子%以上は、Smであ」り、「xは0.01≦x≦0.8を満足する数」であるものとすることは、当業者といえども、容易になし得たことではない。

(イ)相違点8について
引用発明2には、ThMn_(12)型R-T化合物のRの量」や、「T」「の一部をM」で置換する量によっては「a-Feなどが析出」することが示されているものの、「ThMn_(12)型R-T化合物」に対して相対的に「a-Fe」がどの程度析出しているのかについては何も示されていない。
また、本願明細書の段落【0023】に「図1は組成式:(Sm_(0.82)Y_(0.18))_(7.7)(Fe_(0.70)Co_(0.30))_(88.4)Ti_(3.9)で表される磁石材料のX線回折パターンの例を示す図であり、図2は組成式:(Sm_(0.68)Zr_(0.32))_(7.8)(Fe_(0.70)Co_(0.30))_(88.2)Ti_(4.0)で表される磁石材料のX線回折パターンの例を示す図である。」と記載され、段落【0024】に「図1に示すX線回折パターンのα-(Fe,Co)相に起因するピーク強度の最大値Iα-(Fe,Co)は、図2に示すX線回折パターンのα-(Fe,Co)相に起因するピーク強度の最大値Iα-(Fe,Co)よりも小さい。」と記載されているとおり、希土類元素の種類や組み合わせによって、α-(Fe,Co)相に起因するピーク強度の最大値が変化するのであるから、引用発明2における組成によれば、必ず「前記ThMn_(12)型結晶相に起因するピーク強度の最大値とα-(Fe,Co)相に起因するピーク強度の最大値との和に対する前記α-(Fe,Co)相に起因するピーク強度の最大値の比」が「0.20未満」となるものでなく、該比の値を「0.20未満」するには、希土類元素の種類と組み合わせを含め、磁石材料の組成に特別な工夫が必要であることは明らかである。
よって、相違点8は当業者といえども、引用発明2に基づいて容易になし得たこととはいえない。

ウ まとめ
したがって、上記相違点7について判断するまでもなく、本願発明1は、当業者であっても引用文献2に記載された発明に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。

(2)本願発明2について
ア 対比
本願発明2は、本願発明1における磁石材料の「組成式1」において、「N、C、B、H、及びPから選ばれる少なくとも一つの元素」「A」を組成式全体に対し、「4原子%」以上「20原子%」以下となる範囲で添加する一方、「前記組成式1のR元素の50原子%以上は、Smであり、」との要件を削除するとともに、「前記組成式2のR元素の50原子%以上は、Ndであり、」との要件を付加したものである。

ここで、引用発明2では「ThMn_(12)型R-T化合物は、侵入元素Xを含んでもよく、XはN、H、Be、Cの1種以上からなる元素とし、Xの量は0at%以上14at%以下」としてもよいとされているから、上記「X」として「N、H」を選択したものは、本願発明2における「組成式2:(R_(1-x)Y_(x))_(a)M_(b)T_(c)A_(d)」において「A」元素が満たすべき条件、すなわち「AはN、C、B、H、及びPから選ばれる少なくとも一つの元素であり」、「dは0<d≦18原子%を満足する数である)」との条件を満たしている。
すると、上記「(1)」「ア 対比」を踏まえれば、本願発明2と引用発明2とは次の点で一致し、また相違点9、10で相違する。

(一致点)
「組成式2:R’_(a)M_(b)T_(c)A_(d)(式中、R’は1種類以上の希土類元素であり、TはTi、V、Nb、Ta、Mo、及びWから選ばれる少なくとも一つの元素であり、MはFe又はFe及びCoであり、AはN、C、B、H、及びPから選ばれる少なくとも一つの元素であり、aは4≦a≦20原子%を満足する数、cは0原子%より大きい数、bはb=100-a-c-d原子%を満足する数、dは0<d≦18原子%を満足する数である)により表される磁石材料であって、
ThMn_(12)型結晶相からなる主相を具備し、
前記組成式2のM元素の30原子%以上は、Feであり、
前記組成式2のA元素は、Nを含む、磁石材料。」

(相違点9)
希土類元素R’について、本願発明2では、「(R_(1-x)Y_(x))」(Rは1種類以上の希土類元素)」であり」、「xは0.01≦x≦0.8を満足する数」であり、「R元素の50原子%以上は、Ndであ」るのに対し、引用発明2では、希土類元素を上記組成とすることは示されていない点。

(相違点10)
組成式2における「T」元素の原子%「c」について、本願発明2では、「cは0<c<7原子%を満足する数」であるのに対し、引用発明2では、0<c≦24at%(実施例においては7.7at%)である点。

(相違点11)
本願発明2では、「前記磁石材料のX線回折パターンにおいて、前記ThMn_(12)型結晶相に起因するピーク強度の最大値とα-(Fe,Co)相に起因するピーク強度の最大値との和に対する前記α-(Fe,Co)相に起因するピーク強度の最大値の比」(以下「前記比」という。)「は、0.20未満である」のに対し、引用発明2では、前記比については不明である点。

イ 判断
事案に鑑みて、まず、相違点9、11について検討する。
(ア)相違点9について
上記相違点9について検討すると、引用発明2には、「Ceを必須とするY、La、pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、YbおよびLuの1種以上からなる希土類元素」と包括的な記載があるものの、希土類元素として、必須元素である「Ce」の他に、「Y」及び「Nd」とを組み合わせて用いることは、記載も示唆もされていない。
また、引用文献2の実施例の組成をみても、「Y」を添加した例が実施例43、44に記載され、また、これとは別に「Nd」を添加した例が実施例47に記載されているに過ぎない。、
よって、引用発明2において、希土類元素として「Y」及び「Nd」を必須元素として組み合わせ、「(R_(1-x)Y_(x))」「(Rは1種類以上の希土類元素)」「xは0.01≦x≦0.8を満足する数」であり、「R元素の50原子%以上は、Ndであ」るものとすることは、当業者といえども、容易になし得たことではない。

(イ)相違点11について
引用発明2には、は「ThMn_(12)型R-T化合物のRの量」や、「T」「の一部をM」で置換する量によっては「a-Feなどが析出」することが示されているものの、「ThMn_(12)型R-T化合物」に対して相対的に「a-Fe」がどの程度析出しているのかについては何も示されていない。
また、引用発明2における組成によれば、必ず「前記ThMn_(12)型結晶相に起因するピーク強度の最大値とα-(Fe,Co)相に起因するピーク強度の最大値との和に対する前記α-(Fe,Co)相に起因するピーク強度の最大値の比」が「0.20未満」となるものでなく、該比の値を「0.20未満」するには、希土類元素の種類と組み合わせを含め、磁石材料の組成に特別に特別な工夫が必要であることも、前記「(1)」「(イ)相違点8について」で述べたとおりである。
よって、相違点11は当業者といえども、引用発明2に基づいて容易になし得たこととはいえない。

ウ まとめ
したがって、上記相違点10について判断するまでもなく、本願発明2は、当業者であっても引用文献2に記載された発明に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。

(3)本願発明3ないし5について
本願発明3ないし5に係る請求項3ないし5は、請求項1または請求項2を引用し、さらに所定の技術的限定を付加したものである。
よって、本願発明3ないし5は、前記「(1)」「イ」及び「(2)」「イ」に記載したのと同じ理由によって、当業者であっても引用文献2に記載された発明に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。

(4)本願発明6について
本願発明6に係る請求項6は、請求項1、2または請求項5を引用し、さらに「前記組成式1又は前記組成式2のM元素の20原子%以下は、Al、Si、Cr、Mn、Ni、Cu、及びGaから選ばれる少なくとも一つの元素に置換されている」としたものである。
よって、本願発明6は、上記相違点6及び相違点8、または、相違点9及相違点11に係る構成を備えるものであるから、本願発明6は、前記「(1)」「イ」及び「(2)」「イ」に記載したのと同じ理由によって、当業者であっても引用文献2に記載された発明に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。

(5)本願発明7ないし11について
本願発明7ないし11に係る請求項7ないし11は、請求項1、2または請求項6を引用し、さらに所定の技術的限定を付加したものである。
よって、本願発明7ないし11は、前記「(1)」「イ」、「(2)」「イ」及び「(4)」に記載したのと同じ理由によって、当業者であっても引用文献2に記載された発明に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。

(6)本願発明12ないし17について
本願発明12ないし17は、請求項1、2または請求項6に記載された磁石材料を発明特定事項として含むものである。
よって、本願発明12ないし17は、「(1)」「イ」、「(2)」「イ」及び「(4)」に記載したのと同じ理由によって、当業者であっても引用文献2に記載された発明に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。

3 引用文献3を主引用例とした場合
(1)本願発明1について
ア 対比
本願発明1と「非浸入型の引用発明3」(以下「引用発明3」という。)とを対比すると、次のことがいえる。
(ア)引用発明3における「「1:12型(すなわちTnMn_(12)型)の結晶構造」を有する「永久磁石材料合金。」が、本願発明1における「ThMn_(12)型結晶相からなる主相を具備」する「磁石材料」に相当する。

(イ)引用発明3における組成式「Nd_(0.9)Y_(0.1)Fe_(10.0)Mo_(1.8)Ti_(0.2)」、「Nd_(0.9)Y_(0.1)Fe_(10.5)Mo0.2V_(1.3)」を本願発明1における組成式1に倣って書き換えると、
「(Nd_(0.9)Y_(0.1))_(0.08)Fe_(0.77)(Mo_(0.9)Ti_(0.1))_(0.15)」、「(Nd_(0.9)Y_(0.1)) _(0.08)Fe_(0.77)(Mo_(0.9)V_(0.1)) _(0.15)となる。
よって、引用発明3と本願発明1とは、組成式が「(R_(1-x)Y_(x))_(a)M_(b)T_(c)(式中、Rは1種類以上の希土類元素であり、TはTi、V、Nb、Ta、Mo、及びWから選ばれる少なくとも一つの元素であり、MはFe又はFe及びCoであり、xは0.01≦x≦0.8を満足する数であり、aは4≦a≦20原子%を満足する数であり、bはb=100-a-c原子%を満足する数であり、cは0原子%より大きい数である)により表される」点で一致する。
しかしながら、
a 組成式における「T」元素の原子%「c」について、本願発明1では、「cは0<c<7原子%を満足する数」であるのに対し、引用発明3では、16at%である点、

b 本願発明1では、「前記組成式1のR元素の50原子%以上は、Smであ」るのに対し、引用発明3では、希土類元素として「Sm」を添加していない点で相違する。

(ウ)本願発明1では、「前記磁石材料のX線回折パターンにおいて、前記ThMn_(12)型結晶相に起因するピーク強度の最大値とα-(Fe,Co)相に起因するピーク強度の最大値との和に対する前記α-(Fe,Co)相に起因するピーク強度の最大値の比」(以下「前記比」という。)「は、0.20未満である」のに対し、引用発明3では「α-(Fe,Co)相」がどの程度生成しているか不明である点で相違する。

(エ)すると、本願発明3と引用発明1とは次の点で一致し、また相違点11、12で相違する。
(一致点)
「組成式 :(R_(1-x)Y_(x))_(a)M_(b)T_(c)(式中、Rは1種類以上の希土類元素であり、TはTi、V、Nb、Ta、Mo、及びWから選ばれる少なくとも一つの元素であり、MはFe又はFe及びCoであり、xは0.01≦x≦0.8を満足する数であり、aは4≦a≦20原子%を満足する数であり、bはb=100-a-c原子%を満足する数であり、cは0原子%より大きい数である)により表される磁石材料であって、
ThMn_(12)型結晶相からなる主相を具備し、
前記組成式のM元素の30原子%以上は、Feである、磁石材料。」

(相違点12)
本願発明1では、希土類元素「(R_(1-x)Y_(x))」における「R元素の50原子%以上は、Smであ」るのに対し、引用発明3では、希土類元素として「Y」と「Sm」とを共に添加するものではない点。

(相違点13)
組成式における「T」元素の原子%「c」について、本願発明1では、「cは0<c<7原子%を満足する数」であるのに対し、引用発明3では、16at%である点。

(相違点14)
本願発明1では、「前記磁石材料のX線回折パターンにおいて、前記ThMn_(12)型結晶相に起因するピーク強度の最大値とα-(Fe,Co)相に起因するピーク強度の最大値との和に対する前記α-(Fe,Co)相に起因するピーク強度の最大値の比」(以下「前記比」という。」「は、0.20未満である」のに対し、引用発明3では「α-(Fe,Co)相」がどの程度生成しているか不明である点。

イ 判断
事案に鑑みて、まず、相違点12、14について検討する。
(ア)相違点12について
上記相違点12について検討すると、引用文献3の実施例の組成をみても、希土類元素として、「Y」と「Sm」とを必須元素として共に添加することは、何ら記載されていない。
よって、引用発明3において、希土類元素として「Y」及び「Sm」を必須元素として組み合わせ、「(R_(1-x)Y_(x))」「(Rは1種類以上の希土類元素)」「R元素の50原子%以上は、Smであ」るものとすることは、当業者といえども、容易になし得たことではない。

(イ)相違点14について
引用発明3には、「α-(Fe,Co)相」がどの程度生成しているのかについては何も示されていない。
よって、引用発明3において、その材料における「X線回折パターン」が、「前記ThMn_(12)型結晶相に起因するピーク強度の最大値とα-(Fe,Co)相に起因するピーク強度の最大値との和に対する前記α-(Fe,Co)相に起因するピーク強度の最大値の比は、0.20未満である」構成とすることは、当業者といえども容易になし得たことではない。

ウ まとめ
したがって、上記相違点13について判断するまでもなく、本願発明1は、当業者であっても引用文献3に記載された発明(「非浸入型の引用発明3」)に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。

(2)本願発明2について
ア 対比
(ア)引用発明3における、「TnMn_(12)型立方晶構造を有」する「窒化物」である「多元系希土類-鉄格子浸入型永久磁石材料」が、本願発明2における「ThMn_(12)型結晶相からなる主相を具備」する「磁石材料」に相当する。

(イ)Ndは重希土類元素であり、Yは軽希土類元素である。
この点を踏まえると、引用発明3における「一般式(R_(1-α)R′_(α))_(x)(Mo_(1-β)M_(β))_(y)Fe_(100-x-y-z)I_(z)で表わされ」、「ここで、RはPr、Nd、Pr-Nd富集物およびPrとNdの混合物からなる群から選択される軽希土類元素、R′はGd、Tb、Dy、Ho、Er、Yおよびそれらの2種以上の混合物からなる群から選択される重希土類元素、MはB、Ti、V、Cr、Mn、W、Si、Al、Ga、Nb、Ta、Zrおよびそれらの2種以上の混合物からなる群から選択される元素、IはH、C、N、Fおよびそれらの2種以上の混合物からなる群から選択される元素、α、βはそれぞれモル分率で、αは0.01?0.14、βは0.01?0.98、x、y、zはそれぞれ原子%で、xは4?15原子%、yは3?20原子%、zは5?20原子%であ」らわされる組成式と、本願発明2における「組成式2:(R_(1-x)Y_(x))_(a)M_(b)T_(c)A_(d)(式中、Rは1種類以上の希土類元素であり、TはTi、V、Nb、Ta、Mo、及びWから選ばれる少なくとも一つの元素であり、MはFe又はFe及びCoであり、AはN、C、B、H、及びPから選ばれる少なくとも一つの元素であり、xは0.01≦x≦0.8を満足する数、aは4≦a≦20原子%を満足する数、cは0<c<7原子%を満足する数、bはb=100-a-c-d原子%を満足する数、dは0<d≦18原子%を満足する数である)」とは、「組成式:(R_(1-x)R’_(x))_(a)M_(b)T’_(c)A’_(d)(式中、Rは1種類以上の重希土類元素(Ndを選択肢として含む)であり、R’は1種類以上の軽希土類元素(Yを選択肢として含む)、T’はB、Ti、V、Cr、Mn、W、Si、Al、Ga、Nb、Ta、Moから選ばれる少なくとも一つの元素であり、MはFeであり、A’はH、C、N、Fおよびそれらの2種以上の混合物からなる群から選択される元素であり、xは0.01≦x≦0.8を満足する数、aは4≦a≦20原子%を満足する数、cは0原子%より大きい数、bはb=100-a-c-d原子%を満足する数)」である点で一致する。
また、引用発明3における「H、C、N、Fおよびそれらの2種以上の混合物からなる群から選択される元素」「I」の添加量zは、「5?20原子%」であるから、本願発明2における「N、C、B、H、及びPから選ばれる少なくとも一つの元素」「A」の添加量dである「0<d≦18原子%」と十分重複している。
しかしながら、
a 重希土類元素R、軽希土類元素R’、及び元素A’に関して、本願発明2では、「(R_(1-x)Y_(x))」「(式中、Rは1種類以上の希土類元素であり」、「R元素の50原子%以上は、Ndであ」る(つまり、重希土類元素Rが「Nd」、軽希土類元素R’が「Y」である)ともに、元素A’が「N、C、B、H、及びPから選ばれる少なくとも一つの元素」で「Nを含み、」と、それらの組み合わせが特定しているのに対し、引用発明3では、「RはPr、Nd、Pr-Nd富集物およびPrとNdの混合物からなる群から選択される軽希土類元素、R′はGd、Tb、Dy、Ho、Er、Yおよびそれらの2種以上の混合物からなる群から選択される重希土類元素」であり、元素A’については「H、C、N、Fおよびそれらの2種以上の混合物からなる群から選択される元素」とされ、「窒素(N)の場合は、組成成分が(R_(1-α)R′_(α))_(x)(Mo_(1-β)M_(β))_(y)Fe_(100-x-y-z)N_(z)の窒化物が形成され」るとの指摘はあるものの、具体的に本願発明2における希土類元素(NdとYとを必須希土類元素として含む)と元素A’(Nを必須元素として含む)との組み合わせについては示されていない点、
及び、

b T’について、本願発明2では「Ti、V、Nb、Ta、Mo、及びWから選ばれる少なくとも一つの元素であり」、含有量「c」は「0<c<7原子%を満足する数」であるのに対し、引用発明3では「B、Ti、V、Cr、Mn、W、Si、Al、Ga、Nb、Ta、Zrおよびそれらの2種以上の混合物からなる群から選択される元素」であって含有量「y」は「3?20原子%」である点、
で相違する。

(ウ)本願発明2では、「前記磁石材料のX線回折パターンにおいて、前記ThMn_(12)型結晶相に起因するピーク強度の最大値とα-(Fe,Co)相に起因するピーク強度の最大値との和に対する前記α-(Fe,Co)相に起因するピーク強度の最大値の比」(以下「前記比」という。)は、「0.20未満である」のに対し、引用発明3では、「窒化物はまた、TnMn_(12)型立方晶構造を有し、α-Feが発生しない条件のもとで、充分に窒化した合金を得ることができる、」ことが示されているものの、「前記比」が「0.20未満である」ことは示されていない点で相違する。

(エ)したがって、本願発明2と引用発明3との間には、次の一致点、相違点があるといえる。
(一致点)
「組成式:(R_(1-x)R’_(x))_(a)M_(b)T’_(c)A’_(d)(式中、Rは1種類以上の重希土類元素(Ndを選択肢として含む)であり、R’は1種類以上の軽希土類元素(Yを選択肢として含む)、T’はB、Ti、V、Cr、Mn、W、Si、Al、Ga、Nb、Ta、Moから選ばれる少なくとも一つの元素であり、MはFeであり、A’はH、C、N、Fおよびそれらの2種以上の混合物からなる群から選択される元素であり、xは0.01≦x≦0.8を満足する数、aは4≦a≦20原子%を満足する数、cは0原子%より大きい数、bはb=100-a-c-d原子%を満足する数である)、により表される磁石材料であって、
ThMn_(12)型結晶相からなる主相を具備する、磁石材料。」

(相違点15)
重希土類元素R、軽希土類元素R’、及び元素A’に関して、本願発明2では、「(R_(1-x)Y_(x))」「(式中、Rは1種類以上の希土類元素であり」、「R元素の50原子%以上は、Ndであ」る(つまり、重希土類元素Rが「Nd」、軽希土類元素R’が「Y」である)ともに、元素A’が「N、C、B、H、及びPから選ばれる少なくとも一つの元素」で「Nを含み、」と、それらの組み合わせを特定しているのに対し、引用発明3では、そのような希土類元素(NdとYとを必須希土類元素として含む)と元素A’(Nを必須元素として含む)との組み合わせについては示されていない点。

(相違点16)
T’について、本願発明2では「Ti、V、Nb、Ta、Mo、及びWから選ばれる少なくとも一つの元素であり」、含有量「c」は「0<c<7原子%を満足する数」であるのに対し、引用発明3では「B、Ti、V、Cr、Mn、W、Si、Al、Ga、Nb、Ta、Zrおよびそれらの2種以上の混合物からなる群から選択される元素」であって含有量「y」は「3?20原子%」である点。

(相違点17)
本願発明2では、「前記磁石材料のX線回折パターンにおいて、前記ThMn12型結晶相に起因するピーク強度の最大値とα-(Fe,Co)相に起因するピーク強度の最大値との和に対する前記α-(Fe,Co)相に起因するピーク強度の最大値の比」(以下「前記比」という。)は、「0.20未満である」のに対し、引用発明3では、「前記比」が「0.20未満である」ことは示されていない点。

イ 判断
事案に鑑みて、まず、相違点15、17について検討する。
(ア)相違点15について
上記相違点15について検討すると、引用文献3には、実施例14に、重希土類元素Rとして「Nd」、軽希土類元素R’として「Y」を含む例が実施例14に示されているが、「非浸入型の引用発明3」において、水素Hを用いて水素化処理を行い、水素化物磁性粉とした例が記載されているにすぎず、重希土類元素Rとして「Nd」、軽希土類元素R’として「Y」を組み合わせつつ、さらに「窒素(N)」を用いて「窒化物」を形成することは記載も示唆もされていない。
そして、本願明細書の段落【0022】に「R元素の50原子%以上がSmである場合(R元素の主成分がSmである場合)、A元素の侵入によってThMn12型結晶相の磁気異方性がc軸方向からc軸に垂直な面内に変化し、保磁力を減少させる。このため、不可避不純物を除きA元素は添加されないことが好ましい。これに対し、R元素の50原子%以上がCe、Pr、Nd、Tb、及びDyから選ばれる少なくとも一つの元素である場合(R元素の主成分がCe、Pr、Nd、Tb、及びDyから選ばれる少なくとも一つの元素である場合)、A元素の侵入によってThMn12型結晶相の磁気異方性がc軸に垂直な面内からc軸方向に変化し、保磁力を増加させることができる。このため、A元素は添加されることが好ましい。」と記載されているとおり、「Y」と組み合わせる希土類元素Rの種類によって、元素A(N)を添加した場合の保磁力は増加することも減少することもあり、予測がつかないのであるから、希土類元素として、特に「Y」と、「Nd」を50原子%以上含む希土類元素Rとを特定割合で組み合わせた場合、元素A(N)を添加すると保磁力が増加するとの上記相違点15における知見は、新たな発見に基づくものであって、当業者といえども、容易に想到し得たことではない。

(イ)相違点17について
引用発明3には、「Iが窒素(N)の場合は、組成成分が(R_(1-α)R′_(α))_(x)(Mo_(1-β)M_(β))_(y)Fe_(100-x-y-z)N_(z)の窒化物が形成され、この窒化物はまた、TnMn_(12)型立方晶構造を有し、α-Feが発生しない条件のもとで、充分に窒化した合金を得ることができる」ことが示されているものの、「TnMn_(12)型立方晶構造」に対して相対的に「α-Fe」がどの程度発生しているのかについては具体的に示されていない。
また、引用発明3における、組成成分が「(R_(1-α)R′_(α))_(x)(Mo_(1-β)M_(β))_(y)Fe_(100-x-y-z)N_(z)の窒化物組成」によれば、必ず「前記ThMn_(12)型結晶相に起因するピーク強度の最大値とα-(Fe,Co)相に起因するピーク強度の最大値との和に対する前記α-(Fe,Co)相に起因するピーク強度の最大値の比」が「0.20未満」となるものでなく、該比の値を「0.20未満」するには、希土類元素の種類と組み合わせを含め、磁石材料の組成に特別な工夫が必要であることも、前記「2」「(1)」「(イ)相違点8について」で述べたとおりである。
よって、相違点17は当業者といえども、引用発明3に基づいて容易になし得たこととはいえない。

ウ まとめ
したがって、上記相違点16について判断するまでもなく、本願発明2は、当業者であっても引用文献3に記載された発明に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。

(3)本願発明3ないし5について
本願発明3ないし5に係る請求項3ないし5は、請求項1または請求項2を引用し、さらに所定の技術的限定を付加したものである。
よって、本願発明3ないし5は、前記「(1)」「イ」及び「(2)」「イ」に記載したのと同じ理由によって、当業者であっても引用文献3に記載された発明に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。

(4)本願発明6について
本願発明6に係る請求項6は、請求項1、2または請求項5を引用し、さらに「前記組成式1又は前記組成式2のM元素の20原子%以下は、Al、Si、Cr、Mn、Ni、Cu、及びGaから選ばれる少なくとも一つの元素に置換されている」としたものである。
よって、本願発明6は、上記相違点12及び相違点14、または、相違点15及び相違点17に係る構成を備えるものであるから、本願発明6は、前記「(1)」「イ」及び「(2)」「イ」に記載したのと同じ理由によって、当業者であっても引用文献3に記載された発明に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。

(5)本願発明7ないし11について
本願発明7ないし11に係る請求項7ないし11は、請求項1、2または請求項6を引用し、さらに所定の技術的限定を付加したものである。
よって、本願発明7ないし11は、前記「(1)」「イ」、「(2)」「イ」及び「(4)」に記載したのと同じ理由によって、当業者であっても引用文献3に記載された発明に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。

(6)本願発明12ないし17について
本願発明12ないし17は、請求項1、2または請求項6に記載された磁石材料を発明特定事項として含むものである。
よって、本願発明12ないし17は、「(1)」「イ」、「(2)」「イ」及び「(4)」に記載したのと同じ理由によって、当業者であっても引用文献3に記載された発明に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。

第7 原査定について
本願発明1ないし17が引用文献1に記載された発明に基づいて、容易に発明できたものとはいえないこと、引用文献2に記載された発明に基づいて、容易に発明できたものとはいえないこと、引用文献3に記載された発明に基づいて、容易に発明できたものとはいえないことは前記「第6」「1」ないし「3」で述べたとおりである。
したがって、原査定の理由2を維持することはできない。

第8 むすび
以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2021-11-09 
出願番号 特願2017-135371(P2017-135371)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (H01F)
P 1 8・ 113- WY (H01F)
最終処分 成立  
前審関与審査官 久保田 昌晴  
特許庁審判長 酒井 朋広
特許庁審判官 山本 章裕
清水 稔
発明の名称 磁石材料、永久磁石、回転電機、及び車両  
代理人 特許業務法人サクラ国際特許事務所  

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