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審決分類 審判 一部申し立て 2項進歩性  C08J
審判 一部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  C08J
審判 一部申し立て 1項3号刊行物記載  C08J
審判 一部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C08J
管理番号 1379780
異議申立番号 異議2020-700978  
総通号数 264 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-12-24 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-12-16 
確定日 2021-09-15 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6711876号発明「繊維強化樹脂組成物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6711876号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項[8-9]について、訂正することを認める。 特許第6711876号の請求項1ないし4、6及び7に係る特許を維持する。 特許第6711876号の請求項8及び9に係る特許に対する特許異議申立を却下する。 
理由 第1 手続の経緯

特許第6711876号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし9に係る特許についての出願は、平成26年 7月31日(優先権主張 平成26年 6月18日)に出願した特願2014-155712号の一部を平成30年 9月 6日に新たな特許出願(特願2018-166598号)としたものであって、令和 2年 6月 1日にその特許権の設定登録(請求項の数9)がされ、同年同月17日に特許掲載公報が発行されたものである。
その後、その特許に対し、令和 2年12月16日に特許異議申立人 森 智香子(以下、「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立て(対象請求項:請求項1ないし4及び6ないし9)がされ、令和 3年 3月26日付けで取消理由が通知され、同年 5月28日に特許権者 ダイセルミライズ株式会社(以下、「特許権者」という。)より意見書の提出及び訂正の請求がされ、同年 6月 4日付けで特許法第120条の5第5項に基づく通知を行ったところ、同年同月30日に特許異議申立人より意見書の提出がされたものである。

第2 訂正の許否についての判断

1 訂正の内容

本件訂正の内容は、以下のとおりである。

(1) 訂正事項1

特許請求の範囲の請求項8を削除する。

(2) 訂正事項2

特許請求の範囲の請求項9を削除する。

2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否

(1) 訂正事項1に係る請求項8の訂正について

請求項8に係る訂正は、請求項8の削除を目的とするものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものであるから、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことも明らかである。

(2) 訂正事項2に係る請求項9の訂正について

請求項9に係る訂正は、請求項9の削除を目的とするものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものであるから、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことも明らかである。

3 小括

以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、明細書及び特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項[8-9]について訂正することを認める。

第3 本件発明

上記第2のとおり、訂正後の請求項[8-9]について訂正することを認めるので、本件特許の請求項1ないし4及び6ないし9に係る発明(以下、「本件発明1」ないし「本件発明4」及び「本件発明6」ないし「本件発明9」という。また、総称して「本件発明」という。)は、令和 3年 5月28日に提出された訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1ないし4及び6ないし9に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。

「【請求項1】
(A)熱可塑性樹脂(ポリアミド系樹脂を除く)および(B)レーヨン繊維を含む樹脂付着長繊維束を含む繊維強化樹脂組成物であって、
(B)成分のレーヨン繊維が、下記の要件(b1)、要件(b2)および要件(b3)を満たしているものであり、
前記樹脂付着長繊維束が、(B)成分のレーヨン繊維を長さ方向に揃えた状態で束ねたものに(A)成分の熱可塑性樹脂(ポリアミド系樹脂を除く)を溶融させた状態で付着させて一体化した後に、6?30mmの長さに切断したものであり、
前記樹脂付着長繊維束中の(A)成分と(B)成分の含有割合が、(A)80?40質量%、(B)20?60質量%である、繊維強化樹脂組成物。
(b1)繊維径が5?30μm
(b2)引張り伸びが10?20%
(b3)幅方向断面における長軸長さと短軸長さの比(長軸長さ/短軸長さ)が1.2?1.8の扁平形状であること。
【請求項2】
樹脂付着長繊維束が、(B)成分のレーヨン繊維を長さ方向に揃えた状態で束ねたものに(A)成分の熱可塑性樹脂(ポリアミド系樹脂を除く)を溶融させた状態でレーヨン繊維束の表面を被覆し、かつレーヨン繊維束内に含浸させて一体化したものである請求項1記載の繊維強化樹脂組成物。
【請求項3】
樹脂付着長繊維束が、(B)成分のレーヨン繊維を長さ方向に揃えた状態で束ねたものに(A)成分の熱可塑性樹脂(ポリアミド系樹脂を除く)を溶融させた状態でレーヨン繊維束の表面を被覆し、かつレーヨン繊維束内に含浸させることなく一体化したものである請求項1記載の繊維強化樹脂組成物。
【請求項4】
(B)成分のレーヨン繊維が、下記方法により求めた湿潤度が40?55%である、請求項1?3のいずれか1項記載の繊維強化樹脂組成物。
<湿潤度試験>
レーヨン繊維0.03?0.06gをサンプル繊維として使用した。
サンプル繊維を50℃で真空乾燥した後、電子天秤で計量した。
純水を入れたシャーレ中にサンプル繊維を1分間室温(20?25℃)で浸漬した。
純水から取り出したサンプル繊維を遠心分離処理(10,000r/m、10分)した後、電子天秤で計量した。湿潤度は、次の式から求めた。
湿潤度(%)=(遠心分離処理後の質量-真空乾燥後の質量)/真空乾燥後の質量×100
【請求項6】
(A)成分の熱可塑性樹脂(ポリアミド系樹脂を除く)が、ポリプロピレンと、マレイン酸変性ポリプロピレンおよび/または無水マレイン酸変性ポリプロピレンを含むものであり、
(A)成分中の酸量が、無水マレイン酸換算で平均0.005?0.5質量%である、請求項1?5のいずれか1項記載の繊維強化樹脂組成物。
【請求項7】
請求項1?6のいずれか1項記載の繊維強化樹脂組成物から得られる成形体。
【請求項8】
(削除)
【請求項9】
(削除)」

第4 特許異議申立人が主張する特許異議申立理由について

特許異議申立人が、請求項1ないし4及び6ないし9に係る特許に対して申し立てた特許異議申立理由の要旨は、次のとおりである。

申立理由1(新規性) 本件特許の請求項1、2に係る発明は、本件特許の原出願の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであるから、それらの特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

申立理由2-1(進歩性) 本件特許の請求項3、4及び6ないし9に係る発明は、本件特許の原出願の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1号証に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

申立理由2-2(進歩性) 本件特許の請求項1ないし4及び6ないし9に係る発明は、本件特許の原出願の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第3号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

申立理由2-3(進歩性) 本件特許の請求項1ないし4及び6ないし9に係る発明は、本件特許の原出願の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第5号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

申立理由3(実施可能要件) 本件特許の請求項8及び9についての特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。

なお、申立理由3の具体的理由の要旨はおおむね次のとおりである。

(請求項8に対して)
本件特許明細書の実施例で用いられているレーヨン繊維の引張強度が低いものであるのに、どのようにすればシャルピー衝撃強さが50KJ/m^(2)以上の成形体を得ることができるのか理解できない。

(請求項9に対して)
強度が格段に低いレーヨン繊維を用いて、いかなる手段を講じれば、引張強度が126MPa以上の成形体が得られるのか、理解できない。

申立理由4(サポート要件) 本件特許の請求項1ないし4及び6ないし9についての特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。

なお、申立理由4の具体的理由の要旨はおおむね次のとおりである。

レーヨン繊維自体の引張強度が、該レーヨン繊維によって強化された繊維強化樹脂成形体の引張強度よりも格段に低い値であり、どうして「機械的性能の良い」成形品が得られるのか理解できないし、その記載の信憑性に欠けるものである。

<証拠方法>
甲第1号証:68th Annual Technical Conference of the Society of Plastic Engineers 2010、2266-2271
甲第2号証:特開2020-84382号公報
甲第3号証:Cellulose 2008年、第15巻、561?569頁
甲第4号証:国際公開第2013/051369号
甲第5号証:POLIMERY、2013年、第58巻、No.6、423?434頁
甲第6号証:神戸製鋼技報、Vol.47、No.2(Sep.1997)、73?76頁
(なお、証拠の表記は、特許異議申立書の記載にしたがった。)

また、特許異議申立人は、令和 3年 6月30日に提出した意見書において、次の参考資料1ないし5を添付している。
参考資料1:FC2 ブログ 理科とか苦手で
https://rikatime.blog.fc2.com/blog-entry-2222.html
参考資料2:東京書籍 新編 新しい科学 中学校理科用 文部科学省検定済教科書 2東書 理科 727
参考資料3:MISUMI社ホームページ
https://jp.misumi-ec.com/vona2/detail/223000490134/?utm_medium=ppc&utm_source=yahoo&utm_campaign=ypc-211-n-1131710&lisid=lisid_yahoo_ypc-211-n-1131710&yclid=YSS.100402900.EAIaIQobChMI8uz9ga-Z8QIVk6uWCh3PXADxEAAYASAAEgJQCfD_BwE&gclid=CK72iYSvmfECFYhAvAodBGkFNQ&gclsrc=ds
参考資料4:ものたろう社ホームページ
https://www.monotaro.com/p/0956/5376/?utm_source=Overture&utm_medium=cpc&utm_campaign=568056_6493295470&utm_content=78172182855&utm_term=b_381676628098_x_dsa-1293357533976&yclid=YSS.1000110717.EAIaIQobChMIwaH146-Z8QIVB6yWChOpjw_iEAAYAiAAEgKqjPD_BwE&gclid=CNbamu-vmfECFQLsvAodCk0PrQ&gclsrc=ds
参考文献5:Macromol.Symp.2006,244,107-118
(なお、参考資料の記載は、意見書の記載にしたがった。)

第5 令和 3年 3月26日付けで特許権者に通知した取消理由の概要

請求項1ないし4及び6ないし9に係る特許に対して、当審が令和 3年 3月26日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は次のとおりである。(なお、特許異議申立理由のうち、申立理由1ないし3はいずれも、取消理由に包含される。)

取消理由1(新規性) 本件特許の請求項1、2及び7に係る発明は、本件特許の原出願の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第1号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであるから、それらの特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

取消理由2-1(進歩性) 本件特許の請求項1ないし4及び6ないし9に係る発明は、本件特許の原出願の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第1号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

取消理由2-2(進歩性) 本件特許の請求項1ないし4及び6ないし9に係る発明は、本件特許の原出願の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第3号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

取消理由2-3(進歩性) 本件特許の請求項1ないし4及び6ないし9に係る発明は、本件特許の原出願の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第5号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

取消理由3(実施可能要件) 本件特許の請求項8及び9についての特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。

なお、取消理由3の具体的理由は次のとおり。

請求項8の「ISO179/1eAに準拠して測定したノッチ付きシャルピー衝撃強さが、50KJ/m^(2)以上」、請求項9の「ISO527に準拠して測定した引張強度が、126MPa以上」であることについて

本件の実施例に関し、明細書の段落【0038】の【表1】には、「レーヨン繊維1」(引張強度が46MPa)のものが用いられ、その結果、引張強さやノッチ付シャルピー強度が向上したことが示されている(段落【0045】の【表2】)。
この点について、繊維強化樹脂組成物から得られる成形体は、強化に用いられる繊維の強度が高いものとすることにより、その強度の向上が図られるものと考えられるところ、本件の実施例で用いられている「レーヨン繊維1」は、その引張強さが成形体の強さに比して明らかに低いものである(実施例1ないし5の引張強さは、103?145MPa、シャルピー衝撃強度は22?61KJ/m^(2))。
してみると、強度が低いレーヨン繊維1を用いて、いかなる手段を講じれば、シャルピー衝撃強さが50KJ/m^(2)以上、引張強さが126MPa以上の成形体を得ることができるのか、当業者が理解し過度の試行錯誤なく実施できる程度に明細書に記載されているものと認めることができない。すなわち、本件発明8、9を実施するにあたり、本件明細書に開示されていない、ノウハウ(製造条件等)が必要であり、当業者に過度の試行錯誤を必要とするものと認められる。

したがって、本件発明8及び9は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。

第6 当審の判断

1 取消理由について

(1) 主な証拠の記載事項

ア 甲第1号証の記載事項等

(ア) 甲第1号証の記載事項
甲第1号証には次の事項が記載されている。なお、原文については摘記せず、翻訳文のみを摘記する(他の外国語書面による証拠においても同様。)。また、下線は、合議体で付したものである(以下、他の証拠についても同様。)

「概要
射出成形によって成形されたCordenka人工セルロースレーヨン繊維で強化されたNatureworks PLA 3251D の複合材料は、そのニート樹脂と比較して強化された機械的特性を示します。複合材料は、好ましい引張特性と衝撃特性の両方のバランスの取れた性能を備えています。複合材料の原材料は、既存の配合規模または工業規模で利用できます。プレゼンテーションでは、Cordenkaの繊維特性とタイヤおよびホース補強の分野での現在の応用を紹介します。PLA-Cordenka複合材料の配合と処理の結果を報告し、複合材料の性能の詳細を示します。結論の考察は、工業化シナリオの見通しを示しています。」
(第2266頁左欄第1ないし15行)

「ポリ乳酸(PLA)は、今日市販されている最も重要なバイオベースのプラスチックポリマーの1つです。たとえば、参考文献[2]を参照してください。」
(第2266頁左欄第26ないし28行)

「Cordenka人工セルロースレーヨン繊維は、PLAの強化材として、特に好ましい複合特性を提供することがわかっています。たとえば、参考文献[7]を参照してください。繊維は高レベルの引張強度に加えて、破壊伸び率を持っています。その補強能力は、自動車部門で最も一般的に使用されている熱可塑性プラスチックであるポリプロピレン(PP)について集中的に調査されており[8-11]、ガラス繊維強化PPおよびPC/ABSの結果と一致しています。
強度と弾性率の向上に加えて、Cordenkaレーヨンは、高い破断点伸びと構造の均一性により、優れた耐衝撃改良剤であることが証明されました。すぐに、これらの特性を使用して、PLAの悪名高い低衝撃強度を向上させることもできることが明らかになりました[9]。
ここに示した調査の枠組みでは、長繊維強化熱可塑性プラスチックの製造に関する既存の工業的方法は、PLA-Cordenka複合材料の既存の工業的方法に特に適していることが分かりました。ここで達成された複合材料の繊維長の高いレベルは、たとえば、参考文献(12)を参照して、以前に文献で報告された値を大幅に超える、顕著に高いノッチ付き衝撃強度値を促進します。」
(第2266頁右欄第4ないし27行)

「表1 単繊維測定による、セルロース人工繊維の径と機械的強度

s.d.は標準偏差である」
(第2267頁左欄)

「実験室規模で製造された複合材料は、参考文献[9]に記載されている方法で、プルトリュージョン成形技術とそれに続く溶融均質化を使用して製造され、複合材料ペレット内の繊維の配向が分散しました。工業規模の複合材料は、長繊維強化熱可塑性プラスチックの工業生産者のパイロットプラントで製造されました。これにより、複合ペレットの長さは、組み込まれた繊維の長さと同じでした。」
(第2267頁右欄第第7ないし15行)

「結果と考察
この論文は最初に、異なる質量比率のレーヨンで強化された、2つの異なるPLAグレードを使用したラボスケールの配合試験の結果を報告します。その後、さまざまな複合材料製造方法(実験室規模と工業規模)から生じる複合材料の特性の比較を行います。
表2に、Cordenka700で強化されたPLAの引張強度と弾性率を、そのニート樹脂で測定された値と比較して、繊維含有量が20および30重量%の場合について示します。
表2:PLAおよびCordenkaで強化されたPLAの引張特性

s.d.は標準偏差である」
(第2267頁右欄第16行ないし下から第6行)




(第2269頁左欄表5)

「しかしながら、図4に示すように、射出成形されたテストバーで大幅に長い繊維長を得ることができます。射出成形前の複合ペレットと組み込まれた繊維の長さは7mmです。

図4:繊維含有量が30%の射出成形複合材料における工業規模の配合からのCordenka強化PLAの繊維長分布。」
(第2269頁右欄下から第3行ないし第2270頁左欄)



図6 PLA-Cordenkaのラボスケール複合材料のSEM低温断面表面」
(第2270頁右欄)

(イ) 甲第1号証に記載された発明

(ア)の記載、特に表1で示される繊維を用いて作製される表2の例を中心に整理すると、甲第1号証には次の発明が記載されていると認める。

「ポリ乳酸(PLA)およびCordenka700人工セルロースレーヨン繊維を含む長繊維強化熱可塑性プラスチックであって、
Cordenka700は、下記の要件(a)、要件(b2)を満たしているものであり、
前記長繊維強化熱可塑性プラスチックは、プルトリュージョン成形技術とそれに続く溶融均質化を使用して製造され、7mmの長さとされたものであり、繊維含有量が20および30重量%である、長繊維強化熱可塑性プラスチック。
(a)繊維径が12μm
(b2)引張伸び率が平均13%」(以下、「甲1発明」という。)

イ 甲第3号証の記載事項等

(ア) 甲第3号証の記載事項

甲第3号証には次の事項が記載されている。

「イントロダクション
ビスコースやリヨセルなどのセルロース人工繊維は、繊維産業で主な用途があります。ただし、ビスコースプロセスは、たとえば、50cN/texを超える靱性、約1300cN/texの弾性率、および10%をはるかに超える伸びを備えた工業用セルロース繊維を製造するように設定できます。セルロースタイヤコードヤムと呼ばれるこの種のビスコース繊維は、高速タイヤの補強に優先的に使用されます。通常のポリエステル補強材は、高温での繰り返し荷重下での寸法安定性に欠けます。
これらの種類の繊維の適用範囲を拡大できるかどうかを調べるために、ポリプロピレン(PP)などの疎水性の高い熱可塑性プラスチックをセルロース人工繊維で強化する可能性が最近研究されました(Weigel et al.2002;Paukanillio et al.2003,2004;Ganster et al.2006;Ganster and Fink 2006)。この方向での最初の試みは、モデル複合材料についてAmash and Zugenmeier(1998、2000)によって行われました。この研究室(Weigel et al.2002;Ganster et al.2006;Ganster and Fink 2006)では、レーヨンタイヤコードヤーンが、自動車用途向けのPPベースの複合材料を開発するために大規模に使用されています。適切な配合技術を使用して、短いガラス繊維強化PPおよびPC/ABSブレンドと競合する顕著な機械的特性を備えた複合材料が得られました。20?30%の中程度の繊維負荷で、強度と弾性率は元のPPに対して約3倍になり、天然繊維強化PPとは大きく異なり、ノッチ付き衝撃強度は2倍以上になり、ガラス強化PPよりも優れています。
本論文では、試験時間の関数としての標準セルロースタイヤコードヤムCordenka 700の強度特性についてより詳細に説明し、ワイブルパラメーターを決定して文献のガラス繊維値と比較します(Phani 1988)。Cordenka GmbHが提供するさまざまな直径と繊維特性のタイヤコードタイプのさまざまな繊維を使用して、以前に開発された二重プルトリュージョン成形法によって標準のPPブロック共重合体を強化します(Gassan et al.2003)。射出成形された試験片は、強度、弾性率、破断点伸び、および衝撃特性に関して調査されます。繊維の特性、特に伸びと破断と、複合材料の引張および衝撃特性との相関関係が研究されています。」
(第561頁右欄第1行ないし第562頁左欄第20行)

「セルロース繊維
この研究で使用されたすべての繊維は、Cordenka GmbH Obemburg、Germanyによって製造されています。繊維は力価と機械的特性の点で異なり、すべてタイヤコードヤーンプロセスの変形によって紡がれます。フィラメント数とメーカーのケーブルカ価データから計算されたサンプルコードと繊維力価を表1に示します。したがって、繊維密度l.5g/cm^(2)を使用した繊維の公称直径は、6μm(T9)から23μm(T34)です。RT 700は、直近の結果(Weigel et al.2002;Ganster et al.2006;Ganster and Fink 2006)と共に、標準のSuper3材料を表しています。残りの繊維は、紡糸効率を高めた特別な試験装置によって製造されます。

マトリックス材料
この研究で使用されたポリプロピレン(PP)は、表2(いくつかのメーカーのデータがリストされている)ように、射出成形用途に適した高流動性ブロックコポリマーです。セルロース繊維をPPマトリックスにカップリングするために、無水マレイン酸グラフト化ポリプロピレン(MAPP)が
MFIとグラフト化レベル1重量%未満を備えたカップリング剤として使用されています(表2を参照)。

メソッド
単繊維の機械的試験
単繊維測定は、lONロードセルを備えたZwick Z 020 ユニバーサル試験機(Zwick Co., Germany)、さまざまなクランプ分離(テキストを参照)、および1分あたりのクランプ分離の半分の試験速度を使用して実行されました。Cordenka RT700,100のワイブルによる分析では、クランプの間隔ごとに100本のフィラメントがテストされています。他の繊維は、20mm、10mm/minの試験速度のクランプ間隔で測定され、フィラメントの数は30でした。測定は、23℃、相対湿度50%の空調された実験室で行われました。
周囲の湿度との平衡が速いため、乾燥繊維の単繊維測定を実行できませんでした。ただし、繊維束のテストでは、乾燥した繊維束(110℃で6時間)の強度と弾性率が、調整したものと比較してそれぞれ約20%と10%増加し、伸びは15%減少しました。

コンパウンド
プルトリュージョン成形技術は、コーティングダイアセンブリを備えた従来の共回転二軸スクリュー押出機(Haake Rheocord 9000 PTW 25)で適用され、レーヨンタイヤコードヤムの多数の(連続)フィラメントを、溶融マトリックス-カップリング剤混合物で覆いました。前記混合物は、3重量%のカップリング剤MAPPを含み、押出機に供給する前に予備混合されたものです。押出機とダイの最高温度はそれぞれ200℃と195℃でした。コーティングされた糸は、水で冷やし、長さ約4mmのペレットにカットされました。次に、ペレットを110℃で一晩乾燥させました。第2のステップでは、ペレットを同じ押出機で同じ条件下で押し出し、繊維-マトリックス混合物を均質化した。スクリュー構成は、マトリックス内の繊維の分散を保証するために適切な混合要素が含まれるように選択されました。冷却後、糸を定められた長さである4mmにカットされた最終ペレットを得ました。この研究で使用されたすべての複合材料は、繊維含有量が30重量%でした。見掛けペレット密度(かさ密度)は、すべての場合で300g/Lを超えています。

射出成形
標準試験片は、DIN EN ISO 527-2 (引張試験用)およびDIN EN ISO 179(曲げおよびシャルピー衝撃試験用)に従って、射出成形機(Allrounder 270M 500-90、Arburg、ドイツ)を使用し、30kNのラム圧と50cm^(3)/s送り速度で準備しました。ゾーンの温度は、フィードから設定ノズルまで、170℃、180℃、190℃および 200℃に設定され、ノズル温度は200℃、噴射圧力は400?700バールの範囲でした。このツールは、2つの小さな標準テストバー(シャルピーと曲げ)と1つのドックボーン形状のバー(引張)を一度に成形するように設計されており、それぞれにエッジゲートがあります。

複合機械試験
複合材料の引張強度と弾性率は、射出成形された標準試験片を使用して、万能試験機(Zwick 020)を使用して、それぞれDIN EN IS0527と178に従って測定されました。ただし、引張弾性率は50mm/minの試験速度で測定され、応力-ひずみ曲線の開始時、つまり0.05%から0.25%のひずみの最大導関数として決定されました。複合材料のシャルピー衝撃強度は、DIN EN ISO 179規格に準拠した衝撃試験機(PSW 4J)を使用して、フラットワイズ、ノーノッチ、またはエッジワイズノッチ(ノッチタイプA)モードで測定しました。試験サンプルは、試験前に数日間、23℃、相対湿度50%で調整され、すべての試験は同じ条件下で実施されました。」
(第562頁左欄第23行ないし第563頁右欄第8行)




(第565頁表4)

(イ) 甲第3号証に記載された発明

(ア)の記載、特に表4で「基準」として示される材料を用いた例を中心に整理すると、甲第3号証には次の発明が記載されていると認める。

「Cordenka RT700と、無水マレイン酸グラフト化ポリプロピレン(MAPP)を含む複合材料であって、
Cordenka RT700は、引張伸び率が13%であり、
前記複合材料は、プルトリュージョン成形技術により、Cordenaka RT700の多数のフィラメントを、MAPPを含むマトリックス材料で覆い、均質化することで製造されたものであって、4mmの長さとされたものであり、
繊維含有量が30重量%である、複合材料。」(以下、「甲3発明」という。)

ウ 甲第5号証の記載事項等

(ア) 甲第5号証の記載事項

甲第5号証には次の事項が記載されている。

「要約 - ポリ(乳酸)などのバイオベースの熱可塑性プラスチックは、学界と産業界の両方で、オイルベースのプラスチックの代替品として近年大きな注目を集めています。再生可能な原材料に基づいて、これらのポリマーは、持続可能性のアイデアと気候保護に一致して、化石資源への依存を減らし、CO_(2)フットプリントを減らすという点で利点を提供します。これらの材料の特性を改善するために、バイオベースの繊維による強化は有望なオプションを表しています。ガラスと天然繊維の強化への代替ルートが取られ、集中的に調査されました。新しいアプローチは、生体強化成分として、セルロース人工繊維、特にレーヨンタイヤコードヤーンの使用に基づいています。短繊維レーヨン強化は、さまざまなバイオベースおよび部分的にバイオベースのマトリックス材料の機械的特性の劇的な改善につながることが実証されました。天然繊維でも剛性は容易に向上しますが、レーヨンを使用すると、天然繊維の強化とは対照的に、強度と衝撃特性が大幅に向上します。たとえば、ポリ乳酸のノッチ付きシャルピー衝撃強度では、500%を超える増強が観察されました。」
(第423頁下から第13行ないし末行)

「実験
材料
レーヨンタイヤコード糸
これらの研究で主に使用される補強繊維は、数千トン規模でドイツのオーベルンブルクにあるCordenka GmbHによって製造されたレーヨンタイヤコードヤーンCordenka○R(合議体注:○の中にRの記号を示す。以下同様。)RT 700です。主な用途は、高速ランフラットタイヤ用のカーカス補強です。直径12μmに対応する1.8dtexの1.350フィラメントを糸で結合し、ガラス繊維ロービングに似たボビンに巻き付けます。
レーヨンおよび他のセルロース紡糸繊維の単一フィラメントの機械的特性は、独自の測定によってある程度詳細に特徴付けられています[12,13]。ガラス繊維と比較したいくつかの結果を表1に示します。830 MPaのCordenka繊維は、市販の人工セルロース繊糸の中で最も高い引張強度を持っています。標準のビスコースと比較して、強度と弾性率は約2倍になります。ガラス繊維と比較して、特性はかなり低いです。しかしながら、後で説明するように、複合材料の特性レベルは同じ範囲にあり、さらに、レーヨンにはガラス繊維に比べて一連の利点があります。

表1 レーヨンタイヤコード糸の単繊維の機械的特性 ビスコースとE-ガラス基準

1)自身の測定の測定によりなされた
a)標準偏差
b)文献[6]からの値

まず、1.5g/cm^(3)であるレーヨンの密度は、ガラス密度2.5g/cm^(3)より低く、軽量構造に関する可能性を有している。繊維の特性が柔らかく(異方性)、研磨性が低いため、加工装置の摩耗が大幅に減少します。同じ理由で、繰り返し配合する際の繊維不足が少なくなり、リサイクル作業に有利になります。そして最後に、繊維の有機性により焼却が容易になります。欠点としては、剛性が低いことに加えて、熱処理ウィンドウが減少するため、溶融性の高い、例えば、250℃におくことが困難になります。この温度ではセルロースの分子鎖切断は大幅に加速し、その結果、熱分解生成物(レボグルコサンなど)が多数発生するため、繊維特性が低下します[14-16]。最後に、複合材料の調製は、レーヨンの親水性の影響を受ける可能性があります。

マトリックス材料と添加剤
レーヨン繊維強化材との組み合わせとして研究されたマトリックス材料の選択肢は、表2に与えられる。」
(第425頁左欄第19行ないし同頁右欄第23行)




(第425頁 「Table 2.」)

「連続製造のために、図1に概略的に示すように、2段階の配合方法が開発されました[4]。
最初のステップでは、繊維がクリールから取り出されてコーティングダイに供給され、繊維束が熱可塑性マトリックス材料で覆われます。水浴で冷却した後、ストランドを市販のペレタイザーで切断してペレットG1を得る。


図1 コーティングステップ(上部)と均質化ステップ(下部)を備えた二段階コンパウンド

乾燥後、これらのペレットは、均質化と最終的な水分除去のために最適化されたスクリュー構成(混合および混練要素)を備えた二軸スクリュー押出機(Rheocord 9000 PTW 25)に供給され、ペレットG2が得られ、乾燥後、射出成形に使用されます。(Arburg Allrounder 270 M 500-90)。この方法では、図2のPP-レーヨンテストバーの光学顕微鏡写真に示すように、非常に均質な複合材料が得られます。」
(第426頁左欄下から第11行ないし同頁右上欄第5行)

「機械的性質
機械的特性、すなわち、引張強度(α_(max))、ヤング率または引張弾性率(E)、および破断点伸び(ε_(B))は、準静的応力下で、Zwick GmbH&Co.KGの引張試験機Zwick1445で、DINEN IS0527および178規格に従い、測定されました。衝撃特性、すなわち、室温でのシャルピー衝撃強さ(a_(c))およびノッチ付き衝撃強さ(a_(cN))は、凍結状態でのもの(a_(c)^(-18℃),a_(cN)^(-18℃))と共に、Wolfgang Ohst,Rathenow、ドイツによって製造された振り子衝撃試験機の規格DINEN ISOl79に従って、測定された。すべての試験片は、23℃および50%の相対湿度の機構管理テスト実験室において、一定期間調整されました。」
(第427頁左欄第12行ないし第25行)

「繊維含有量
繊維含有量は、複合材料の特性に影響を与える第一の重要でシンプルな要因です。PP-レーヨン複合材料の場合、これはある程度詳細に調査されました[8]。引張弾性率、強度、およびノッチ付きシャルピー衝撃強度については、顕著な正のほぼ直線上の相関が見られましたが、ノッチなしのシャルピー値は、80kJ/m^(2)の高レベルでほぼ一定でした。42重量%までの繊維含有量%は、処理が非常に困難になる前に実現されました。これは、30体積%の繊維と相関関係があり、ガラス繊維強化の場合、55%という異常に高い重量分率になります。」
(第427頁左欄下から第12行ないし末行)

(イ) 甲第5号証に記載された発明

(ア)の記載を整理すると、甲第5号証には次の発明が記載されていると認める。

「Cordenka○R RT700と、ポリプロピレンを含む複合材料であって、
Cordenka○R RT700の伸びは13±2%であり、
前記複合材料は、Cordenka○R RT700の繊維束がポリプロピレンを含む熱可塑性マトリックス材料で覆われ、均質化し製造されたものであって、
繊維含有量は42重量%である、複合材料。」(以下、「甲5発明」という。)

(2) 取消理由1(甲第1号証を根拠とする新規性)、取消理由2-1(甲第1号証を主引用例とする進歩性)について

ア 本件発明1について

本件発明1と甲1発明を対比する。
甲1発明の「ポリ乳酸(PLA)」、「Cordenka700人工セルロースレーヨン繊維」、「長繊維強化熱可塑性プラスチック」はそれぞれ、本件発明1の「熱可塑性樹脂(ポリアミド系樹脂を除く)」、「レーヨン繊維」、「繊維強化樹脂組成物」に相当する。
また、甲1発明の長繊維強化熱可塑性プラスチックは、「プルトリュージョン成形技術とそれに続く溶融均質化を使用して製造され、7mmの長さとされたものであり、繊維含有量が20および30重量%である」から、その成形技術法及び材料から見るに、本件発明1の「(B)成分のレーヨン繊維を長さ方向に揃えた状態で束ねたものに(A)成分の熱可塑性樹脂(ポリアミド系樹脂を除く)を溶融させた状態で付着させて一体化した後に、6?30mmの長さに切断したもの」であり、「前記樹脂付着長繊維束中の(A)成分と(B)成分の含有割合が、(A)80?40質量%、(B)20?60質量%である」との特定事項を満たすものであるといえる。
さらに、甲1発明の人工セルロース繊維「Cordenka700」の繊維径、引張伸び率はそれぞれ12μm、平均13%であるから、本件発明1の(b1)、(b2)の特定事項も満たしている。

してみると、両者は、
「(A)熱可塑性樹脂(ポリアミド系樹脂を除く)および(B)レーヨン繊維を含む樹脂付着長繊維束を含む繊維強化樹脂組成物であって、
(B)成分のレーヨン繊維が、下記の要件(b1)および要件(b2)を満たしているものであり、
前記樹脂付着長繊維束が、(B)成分のレーヨン繊維を長さ方向に揃えた状態で束ねたものに(A)成分の熱可塑性樹脂(ポリアミド系樹脂を除く)を溶融させた状態で付着させて一体化した後に、6?30mmの長さに切断したものであり、
前記樹脂付着長繊維束中の(A)成分と(B)成分の含有割合が、(A)80?40質量%、(B)20?60質量%である、繊維強化樹脂組成物。
(b1)繊維径が5?30μm
(b2)引張り伸びが10?20%であること。」
で一致し、次の点で一応相違する。

・相違点1
レーヨン繊維の形状について、本件発明1は「(b3)幅方向断面における長軸長さと短軸長さの比(長軸長さ/短軸長さ)が1.2?1.8の扁平形状である」と特定されるのに対し、甲1発明にはそのような特定がない点。

上記相違点について検討する。
・相違点1について
甲第1号証の図6には、「PLA-Cordenkaのラボスケール複合材料のSEM低温断面表面」が示されており、該図6の断面写真から見て、Cordenkaの幅方向断面は、「扁平形状」であることは看取できるものの、「長軸長さと短軸長さの比(長軸長さ/短軸長さ)が1.2?1.8」との特定事項を満たすものであるとまでは言えない。

なお、この点について、特許異議申立人は意見書において、特許権者が意見書において主張する測定値は、その測定方法において妥当性に欠けるものであること(意見書第2頁ないし第3頁)、Cordenka700は、甲第5号証の図3b、参考資料5の図3の断面写真から測定すれば、「長軸長さと短軸長さの比(長軸長さ/短軸長さ)が1.2?1.8」との特定事項を満たすものである(意見書第5頁ないし第7頁)ことなどを主張する。

しかしながら、本件発明1の「長軸長さと短軸長さの比(長軸長さ/短軸長さ)が1.2?1.8」とは、本件特許の明細書の段落【0039】に記載されるように、「100本のレーヨン繊維について長軸長さと短軸長さを測定し、その数平均を長軸長さと短軸長さの比(長軸長さ/短軸長さ)とした」ものである。
これに対し、特許異議申立人の主張は、あくまで、一断面を計測してみたにすぎず、断面写真により比の値は変動していることからみて、100本のレーヨン繊維の数平均を示しているものとはいえないから、その主張は採用できない。

よって、相違点1は、実質的な相違点である。

また、甲第1号証には、レーヨン繊維の形状について、幅方向断面における長軸長さと短軸長さの比(長軸長さ/短軸長さ)を調整することを示唆する記載はないし、また、他の証拠を見ても、レーヨン繊維の形状に関し、幅方向断面における長軸長さと短軸長さの比(長軸長さ/短軸長さ)を調整することを示唆する記載もない。
そして、本件発明1は、相違点1に係る本件発明1の特定事項を満たすことにより、「軽量であり、機械的特性が優れる」との格別の効果を奏するものである。

したがって、本件発明1は、甲1発明ではなく、また、甲1発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

イ 本件発明2ないし4、6及び7について

本件発明2ないし4、6及び7はいずれも、直接又は間接的に請求項1を引用する発明であり、本件発明1の特定事項を全て有するものである。
そして、上記アのとおり、本件発明1は、甲1発明と同一ではないから、本件発明2及び7も、甲1発明と同一ではない。
また、本件発明1は、甲1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件発明2ないし4、6及び7も同様に、甲1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(3) 取消理由2-2(甲第3号証を主引用例とする進歩性)について

ア 本件発明1について

本件発明1と甲3発明を対比する。
甲3発明の「無水マレイン酸グラフト化ポリプロピレン(MAPP)」は、本件発明1の「熱可塑性樹脂(ポリアミド系樹脂を除く)」に相当する。
甲3発明の「Cordenka RT700」は、甲第1号証の記載(「Cordenka700」と同じ)によると、人工セルロースレーヨン繊維であるから、本件発明1の「レーヨン繊維」に相当する。
そして、甲3発明はCordenka RT700で強化された複合材料を得ていることから見て、甲3発明の「複合材料」は、本件発明1の「繊維強化樹脂組成物」に相当する。
また、甲3発明の複合材料は、「プルトリュージョン成形技術により、Cordenaka RT700の多数のフィラメントを、MAPPを含むマトリックス材料で覆い、均質化することで製造されたもの」であって、「繊維含有量が30重量%である」ことから、本件発明1の「(B)成分のレーヨン繊維を長さ方向に揃えた状態で束ねたものに(A)成分の熱可塑性樹脂(ポリアミド系樹脂を除く)を溶融させた状態で付着させて一体化した後に、切断したもの」であり、「前記樹脂付着長繊維束中の(A)成分と(B)成分の含有割合が、(A)80?40質量%、(B)20?60質量%である」との特定事項のうち、「(B)成分のレーヨン繊維に(A)成分の熱可塑性樹脂(ポリアミド系樹脂を除く)を溶融させた状態で付着させて一体化したもの」であり、「前記樹脂付着長繊維中の(A)成分と(B)成分の含有割合が、(A)80?40質量%、(B)20?60質量%である」との限りにおいて満たすものであるといえる。
さらに、甲3発明の人工セルロース繊維「Cordenka RT700」の引張伸び率は13%であり、本件発明1の(b2)の特定事項を満たしている。

してみると、両者は、
「(A)熱可塑性樹脂(ポリアミド系樹脂を除く)および(B)レーヨン繊維を含む樹脂付着長繊維を含む繊維強化樹脂組成物であって、
(B)成分のレーヨン繊維が、下記の要件(b2)を満たしているものであり、
前記樹脂付着長繊維が、(B)成分のレーヨン繊維に(A)成分の熱可塑性樹脂(ポリアミド系樹脂を除く)を溶融させた状態で付着させたものであり、
前記樹脂付着長繊維中の(A)成分と(B)成分の含有割合が、(A)80?40質量%、(B)20?60質量%である、繊維強化樹脂組成物。
(b2)引張り伸びが10?20%であること。」
で一致し、次の点で相違する。

・相違点2
繊維強化樹脂組成物に関し、本件発明1は、「(A)熱可塑性樹脂(ポリアミド系樹脂を除く)および(B)レーヨン繊維を含む樹脂付着長繊維束を含む」ものであって、「前記樹脂付着長繊維束が、(B)成分のレーヨン繊維を長さ方向に揃えた状態で束ねたものに(A)成分の熱可塑性樹脂(ポリアミド系樹脂を除く)を溶融させた状態で付着させて一体化した後に、6?30mmの長さに切断したもの」であるのに対し、甲3発明にはそのような特定がない点。

・相違点3
レーヨン繊維について、本件発明1は、「(b1)繊維径が5?30μm」、「(b3)幅方向断面における長軸長さと短軸長さの比(長軸長さ/短軸長さ)が1.2?1.8の扁平形状である」と特定するのに対し、甲3発明にはそのような特定がない点。

上記相違点について検討する。

・相違点2について
甲第3号証の「コンパウンド」の項にも記載されているように、甲3発明は、「レーヨンタイヤコードヤムの多数の(連続)フィラメントを、溶融マトリックス-カップリング剤混合物で覆い」、「コーティングされた糸」を「長さ約4mmのペレットにカット」し、次に、「第2のステップでは、ペレットを同じ押出機で同じ条件下で押し出し、繊維-マトリックス混合物を均質化」することにより「最終ペレット」を得るものであり、ペレットにおける繊維-マトリックス混合物として均質化するものである。
すると、甲3発明は繊維-マトリックス混合物として均質化することを指向するものであって、相違点2に係る本件発明1の特定事項である「樹脂付着長繊維束」とすることには、阻害要因があると言える。

したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲3発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

イ 本件発明2ないし4、6及び7について

本件発明2ないし4、6及び7はいずれも、直接又は間接的に請求項1を引用する発明であり、本件発明1の特定事項を全て有するものである。
そして、上記アのとおり、本件発明1は、甲3発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件発明2ないし4、6及び7も同様に、甲3発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(4) 取消理由2-3(甲第5号証を主引用例とする進歩性)について

ア 本件発明1について

本件発明1と甲5発明を対比する。
甲5発明の「ポリプロピレン」は、本件発明1の「熱可塑性樹脂(ポリアミド系樹脂を除く)」に相当する。
甲5発明の「Cordenka○R RT700」は、甲第1号証の記載(「Cordenka700」と同じ)によると、人工セルロースレーヨン繊維であるから、本件発明1の「レーヨン繊維」に相当する。
そして、甲5発明はCordenka○R RT700で強化された複合材料を得ていることから見て、甲5発明の「複合材料」は、本件発明1の「繊維強化樹脂組成物」に相当する。
また、甲5発明の複合材料は、「Cordenka○R RT700の繊維束がポリプロピレンを含む熱可塑性マトリックス材料で覆われ、均質化し製造され」ることにより得られるものであり、得られた複合材料の「繊維含有量は42重量%」であるから、本件発明1の「(B)成分のレーヨン繊維を長さ方向に揃えた状態で束ねたものに(A)成分の熱可塑性樹脂(ポリアミド系樹脂を除く)を溶融させた状態で付着させて一体化した後に、切断したもの」であり、「前記樹脂付着長繊維束中の(A)成分と(B)成分の含有割合が、(A)80?40質量%、(B)20?60質量%である」との特定事項のうち、「(B)成分のレーヨン繊維に(A)成分の熱可塑性樹脂(ポリアミド系樹脂を除く)を溶融させた状態で付着させたもの」であり、「前記樹脂付着長繊維中の(A)成分と(B)成分の含有割合が、(A)80?40質量%、(B)20?60質量%である」との限りにおいて満たすものであるといえる。
さらに、甲5発明の人工セルロース繊維「Cordenka○R RT700」の伸びは13±2%であるから、本件発明1の(b2)の特定事項を満たしている。

してみると、両者は、
「(A)熱可塑性樹脂(ポリアミド系樹脂を除く)および(B)レーヨン繊維を含む樹脂付着長繊維を含む繊維強化樹脂組成物であって、
(B)成分のレーヨン繊維が、下記の要件(b2)を満たしているものであり、
前記樹脂付着長繊維が、(A)成分の熱可塑性樹脂(ポリアミド系樹脂を除く)を溶融させた状態で付着させたものであり、
前記樹脂付着長繊維中の(A)成分と(B)成分の含有割合が、(A)80?40質量%、(B)20?60質量%である、繊維強化樹脂組成物。
(b2)引張り伸びが10?20%であること。」
で一致し、次の点で相違する。

・相違点4
繊維強化樹脂組成物に関し、本件発明1は、「(A)熱可塑性樹脂(ポリアミド系樹脂を除く)および(B)レーヨン繊維を含む樹脂付着長繊維束を含む」ものであって、「前記樹脂付着長繊維束が、(B)成分のレーヨン繊維を長さ方向に揃えた状態で束ねたものに(A)成分の熱可塑性樹脂(ポリアミド系樹脂を除く)を溶融させた状態で付着させて一体化した後に、6?30mmの長さに切断したもの」であるのに対し、甲5発明にはそのような特定がない点。

・相違点5
レーヨン繊維について、本件発明1は、「(b1)繊維径が5?30μm」、「(b3)幅方向断面における長軸長さと短軸長さの比(長軸長さ/短軸長さ)が1.2?1.8の扁平形状である」と特定するのに対し、甲5発明にはそのような特定がない点。

上記相違点について検討する。
・相違点4について
甲第5号証の複合材料は、第426頁左欄下から第11行ないし同頁右上欄第5行及び図1に記載されているように、2段階の配合方法を経て、「非常に均質な複合材料」を得るものである。
すると、甲5発明は繊維と熱可塑性マトリックス材料が「非常に均質な」複合材料とすることを指向するものであって、相違点4に係る本件発明1の特定事項である「樹脂付着長繊維束」とすることには、阻害要因があると言える。

したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲5発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

イ 本件発明2ないし4、6及び7について

本件発明2ないし4、6及び7はいずれも、直接又は間接的に請求項1を引用する発明であり、本件発明1の特定事項を全て有するものである。
そして、上記アのとおり、本件発明1は、甲5発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件発明2ないし4、6及び7も同様に、甲5発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(5) 取消理由3(請求項8、9に対する実施可能要件)について

上記第2のとおり、請求項8、9は訂正により削除された。

2 採用しなかった異議申立理由について

●申立理由4(サポート要件)について

(1) サポート要件の判断基準
特許請求の範囲の記載が、サポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。

(2) 特許請求の範囲の記載
特許請求の範囲の記載は、上記「第3 本件発明」に記載のとおりである。

(3) 明細書の発明の詳細な説明の記載
本件特許の明細書の発明の詳細な説明には、次の記載がある。

「【技術分野】
【0001】
本発明は、軽量で機械的性質の良い成形体が得られる繊維強化樹脂組成物と、それから得られる成形体に関する。」

「【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、軽量で機械的性質の良い成形品が得られる繊維強化樹脂組成物と、それから得られる成形体を提供することを課題とする。」

「【発明の効果】
【0011】
本発明の組成物から得られた成形体は、軽量であり、機械的性質が優れている。」

「【0013】
<繊維強化樹脂組成物>
本発明の組成物は、(A)成分及び(B)成分を含有する樹脂付着長繊維束(樹脂付着レーヨン長繊維束)を含むものであり、前記樹脂付着長繊維束のみからなるものでもよいし、必要に応じてさらに他の成分を含有するものでもよい。
本発明の組成物に含まれる樹脂付着長繊維束は、
(I)(B)成分のレーヨン繊維を長さ方向に揃えた状態で束ねたものに(A)成分の熱可塑性樹脂を溶融させた状態でレーヨン繊維束の表面を被覆し、かつレーヨン繊維束内に含浸させて一体化したもの、
(II)(B)成分のレーヨン繊維を長さ方向に揃えた状態で束ねたものに(A)成分の熱可塑性樹脂を溶融させた状態でレーヨン繊維束の表面を被覆し、かつレーヨン繊維束内に含浸させることなく一体化したもの、の(I)および(II)のいずれかであるものが好ましい。」

「【0014】
〔(A)成分〕
(A)成分の熱可塑性樹脂としては、ポリオレフィン系樹脂、ポリアミド系樹脂、スチレン系樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリカーボネート系樹脂、アクリル系樹脂、メタクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアセタール系樹脂、ポリフェニレンスルフィド系樹脂を挙げることができる。
(A)成分の熱可塑性樹脂としては、ポリオレフィン系樹脂、ポリアミド系樹脂から選ばれるものを含むものが好ましく、ポリオレフィン系樹脂、ポリアミド系樹脂から選ばれるものがより好ましい。」

「【0018】
〔(B)成分〕
(B)成分のレーヨン繊維は、下記の要件(b1)と要件(b2)、要件(b1)と要件(b3)、並びに要件(b1)、要件(b2)および要件(b3)から選ばれるいずれかの組み合わせを満たしているものである。
(B)成分のレーヨン繊維として上記要件を満たしているものを使用することによって、組成物から得られる成形体の機械的強度が改善される。
要件(b1)の繊維径は、5?30μmであり、好ましくは6?20μm、より好ましくは7?15μmである。
要件(b2)の引張伸びは、好ましくは10%以上であり、より好ましくは10?20%であり、さらに好ましくは10?16%である。引張伸びは、実施例に記載の方法により測定する。
要件(b3)の幅方向断面における長軸長さと短軸長さの比(長軸長さ/短軸長さ)は1.1以上であり、好ましくは1.1?3.0、より好ましくは1.2?1.8である。長軸長さと短軸長さは、実施例に記載の方法により測定する。」

「【0024】
〔樹脂付着長繊維束〕
樹脂含付着繊維束は、(B)成分のレーヨン繊維を長さ方向に揃えた状態で2,000?30,000本程度を束ねたものに(A)成分の熱可塑性樹脂を溶融させた状態で付着させ、一体化して得ることができる。」

「【0026】
樹脂付着長繊維束の長さ(即ち、樹脂付着長繊維束に含まれている(B)成分のレーヨン繊維の長さ)は、3?30mmの範囲であり、好ましくは5mm?30mm、より好ましくは6mm?25mmである。3mm以上であると組成物から得られる成形体の機械的強度を高めることができ、30mm以下であると成形性が良くなる。
【0027】
樹脂付着長繊維束中の(A)成分と(B)成分の含有割合は、
(A)成分は95?30質量%が好ましく、90?40質量%がより好ましく、80?40質量%がさらに好ましく、
(B)成分は5?70質量%が好ましく、10?60質量%がより好ましく、20?60質量%がさらに好ましい。」

「【0029】
<繊維強化樹脂組成物からなる成形体>
本発明の成形体は、上記した樹脂付着長繊維束を含む繊維強化樹脂組成物を成形して得られるものである。
本発明の成形体を得るときは、上記した樹脂付着長繊維束を含む繊維強化樹脂組成物に加えて、必要に応じて上記した(A)成分の熱可塑性樹脂を加えることができる。
本発明の繊維強化樹脂組成物に含まれている樹脂付着長繊維束は、溶融した樹脂に対する分散性が良いので、得られた成形体中に(B)成分のレーヨン繊維を均一に分散することができる。
【0030】
本発明の樹脂付着長繊維束を含む繊維強化樹脂組成物を成形するとき、成形時に加えられる力によって、樹脂付着長繊維束に含まれているレーヨン繊維が破損して短くなることが避けられないが、本発明では引張伸びの良いレーヨン繊維を使用しているので、繊維の強度が高く、前記のような破損によりレーヨン繊維が短くなることが抑制される。
また繊維そのものの強度や弾性率も高いことから、得られた成形体の機械的強度(曲げ弾性率等)を大きくすることができる。
【0031】
さらに、本発明の繊維強化樹脂組成物から得られた成形体は、ガラス繊維等の無機繊維を含有するものと比べると軽量であることから(即ち、密度を小さくできることから)、比弾性率(曲げ弾性率/比重)の大きな成形体を得ることができる。
そして、例えばレーヨン長繊維含有ポリプロピレン成形体とガラス長繊維含有ポリプロピレン成形体を比較すると、レーヨン繊維またはガラス繊維の配合量が高くなるに従い比弾性率は大きくなってくるが、その度合いは、レーヨン長繊維含有ポリプロピレン成形体の方が大きくなる。
本発明の繊維強化樹脂組成物から得られた成形体は、厚さ4mmの成形体の比弾性率が4,000MPa以上のものであることが好ましく、より好ましくは4,500MPa以上のものであり、さらに好ましくは5,000MPa以上のものである。
【0032】
本発明の成形体は、用途に応じた所望形状にすることができるが、上記のとおり、比弾性率を大きくすることができるため、薄い板状成形体にした場合には、軽量でかつ高い機械的強度を有するものを得ることができる。
本発明の成形体を薄い板状成形体にする場合には、例えば1?5mmの厚さにした場合でも、高い機械的強度のものを得ることができる。
また本発明の繊維強化樹脂組成物から得られた成形体は、レーヨン繊維を含有していることから、燃焼したときにもガラス繊維のような燃焼残渣が残らない。
【0033】
本発明の成形体は、軽量で機械的強度(特に比弾性率)が高いため、電気・電子機器、通信機器、自動車、建築材料、日用品等の各種分野で使用されている金属部品の代替品として使用することができ、特に各種機器のハウジング、板状の外装材として好適である。」

「【実施例】
【0034】
製造例1(樹脂含浸長繊維束の製造)
表1に示す実施例1?3と比較例1、2で使用した樹脂含浸長繊維束を製造した。
レーヨン長繊維からなる繊維束(表1に示す繊度のもの)をクロスヘッドダイに通した。そのとき、クロスヘッドダイには、2軸押出機(シリンダー温度250℃)から溶融状態の表1に示す(A)成分を表1に示す量だけ供給し、その溶融物をレーヨン繊維束に含浸させた。
その後、クロスヘッドダイ出口の賦形ノズルで賦形し、整形ロールで形を整えた後、ペレタイザーにより所定長さ(表1の繊維束の長さ)に切断し、ペレット状(円柱状)の樹脂含浸長繊維束〔(I)の長繊維束〕を得た。
このようにして得た樹脂含浸長繊維束を切断して確認したところ、実施例1?3、比較例1、2は、レーヨン繊維が長さ方向にほぼ平行になっており、中心部まで樹脂が含浸されていた。
【0035】
実施例1?3、比較例1、2
製造例1で得た樹脂含浸長繊維束からなる組成物を得た。
【0036】
<使用成分>
(A)成分
PP(ポリプロピレン):J139((株)プライムポリマー製)
酸変性PP:OREVAC CA100(アトフィナ・ジャパン(株)製),無水マレイン酸変性1.0%
PA1010:製品名VESTAMID BS1393 natural(ダイセル・エボニック(株))
PA610:製品名 VESTAMID BS1177(ダイセル・エボニック(株))
【0037】
(B)成分
表1に示すレーヨン繊維1(Cordenka社製のCR500TEX)とレーヨン繊維2、3を使用した。
レーヨン繊維1の幅方向断面(図1)は扁平形状であったが、レーヨン繊維2、3の幅方向の断面形状は円形(図2、図3)であった。
比較例3、4は、レーヨン繊維1?3の代わりに木材パルプ(パルプNDP?T,日本製紙株式会社製,繊維径25μm,平均繊維長1.8mm)を表2に示す含有量(質量%)で使用して、国際公開第2013/051369号の比較例2と同様にして木材パルプ(セルロース繊維)を含む造粒物を得た。但し、ポリプロピレンやMPP(酸変性PP)に代えて表2に示すポリアミドを使用した。
【0038】
【表1】

【0039】
<レーヨン繊維の測定方法>
(1)長軸長さと短軸長さの測定
レーヨン繊維をエポキシ樹脂で包埋し、ミクロトームで断面出しを行ってSEM写真を撮影した(図1?図3)。SEM写真から下記の方法で長軸および短軸を計測した。
扁平形状が楕円形の場合には、図4(a)に示す長軸長さと短軸長さとした。
扁平形状が不定形の場合には、図4(b)に示すように、最長部分を長軸とし、前記長軸と直交する線(軸)の最長部分を短軸とした。
100本のレーヨン繊維について長軸長さと短軸長さを測定し、その数平均を長軸長さと短軸長さの比(長軸長さ/短軸長さ)とした。
【0040】
(2)引張強度
23℃、50%RHで1週間調湿後、サンプル繊維長2.5cm、クロスヘッドスピード2.5cm/mmにて測定。
【0041】
(3)引張伸び
23℃、50%RHで1週間調湿後、サンプル繊維長2.5cm、クロスヘッドスピード2.5cm/mmにて測定。
【0042】
(4)湿潤度試験
レーヨン繊維0.03?0.06gをサンプル繊維として使用した。
サンプル繊維を50℃で真空乾燥した後、電子天秤で計量した。
純水を入れたシャーレ中にサンプル繊維を1分間室温(20?25℃)で浸漬した。
純水から取り出したサンプル繊維を遠心分離処理(10,000r/m、10分)した後、電子天秤で計量した。湿潤度は、次の式から求めた。
湿潤度(%)
=(遠心分離処理後の質量?真空乾燥後の質量)/真空乾燥後の質量×100
【0043】
<成形体>
(試験片作製方法)
下記条件にてISO多目的試験片A型形状品(厚み2mm)を作製して、下記の各測定用の試験片とした。
装置:(株)日本製鋼所製、J?150EII
シリンダー温度230℃
金型温度:50℃
スクリュー:長繊維専用スクリュー
スクリュー径:51mm
ゲート形状20mm幅サイドゲート
【0044】
(1)引張強度(MPa)
ISO527に準拠して測定した。
(2)引張伸び(%)
ISO527に準拠して測定した。
(3)曲げ強度(MPa)
ISO178に準拠して測定した。
(4)曲げ弾性率(MPa)
ISO178に準拠して測定した。
(5)シャルピー衝撃強度(kJ/m^(2))
ISO179/1eAに準拠して、ノッチ付きシャルピー衝撃強さを測定した。
(6)荷重たわみ温度(℃)
ISO 75に準拠して測定した。
【0045】
【表2】

【0046】
実施例1?5は、引張伸びの良いレーヨン繊維1を使用していることから、引張強さ、伸び、曲げ強さ、衝撃強度が特に良かった。」

(4) 発明の課題
本件特許の明細書の発明の詳細な説明の段落【0007】によると、本件特許発明が解決しようとする課題「以下、単に「発明の課題」という。」は、「軽量で機械的性質の良い成形品が得られる繊維強化樹脂組成物と、それから得られる成形体を提供すること」である。

(5) サポート要件についての判断
本件特許の明細書の発明の詳細な説明には、「本発明の組成物は、(A)成分及び(B)成分を含有する樹脂付着長繊維束(樹脂付着レーヨン長繊維束)を含むものであり、前記樹脂付着長繊維束のみからなるものでもよいし、必要に応じてさらに他の成分を含有するものでもよい」(【0013】)こと、(A)成分の熱可塑性樹脂として好ましいもの(【0014】)が記載され、(B)成分のレーヨン繊維として、「要件(b1)と要件(b2)、要件(b1)と要件(b3)、並びに要件(b1)、要件(b2)および要件(b3)から選ばれるいずれかの組み合わせを満たしているもの」を使用することによって、「組成物から得られる成形体の機械的強度が改善される」(【0018】)こと、樹脂付着長繊維束の長さが、「3mm以上であると組成物から得られる成形体の機械的強度を高めることができ、30mm以下であると成形性が良くなる」(【0026】)こと、及びこれらの条件を満たす実施例が記載されており、これらの記載から、「(A)成分及び(B)成分を含有する樹脂付着長繊維束(樹脂付着レーヨン長繊維束)を含むもの」であり、「(A)成分が熱可塑性樹脂」であり、「(B)成分がレーヨン繊維」であって、「要件(b1)と要件(b2)、要件(b1)と要件(b3)、並びに要件(b1)、要件(b2)および要件(b3)から選ばれるいずれかの組み合わせを満たしている」ものであり、「樹脂付着繊維束の長さが3mm以上30mm以下」との特定事項を有する「繊維強化樹脂組成物」であれば、発明の課題を解決できると認識する。
そして、本件発明1ないし4、6及び7は、上記特定事項を有するものであるから、発明の詳細な説明に記載された発明であって、発明の詳細な説明の記載により当業者が発明の課題を解決できるものである。

よって、本件特許の発明の詳細な説明の記載に特許異議申立人の主張するような不備はない。

したがって、本件発明1ないし4、6及び7は、本件特許の明細書の発明の詳細な説明に記載された発明であって、発明の詳細な説明の記載により当業者が発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるからというべきであり、本件特許出願は、サポート要件を満足する。

第7 結語

以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由、及び、特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件特許の請求項1ないし4、6及び7に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1ないし4、6及び7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
本件特許の請求項8及び9に係る特許は、訂正により削除されたため、特許異議申立人による請求項8及び9に係る特許異議の申立ては、いずれも、申立ての対象が存在しないものとなったので、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。

 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)熱可塑性樹脂(ポリアミド系樹脂を除く)および(B)レーヨン繊維を含む樹脂付着長繊維束を含む繊維強化樹脂組成物であって、
(B)成分のレーヨン繊維が、下記の要件(b1)、要件(b2)および要件(b3)を満たしているものであり、
前記樹脂付着長繊維束が、(B)成分のレーヨン繊維を長さ方向に揃えた状態で束ねたものに(A)成分の熱可塑性樹脂(ポリアミド系樹脂を除く)を溶融させた状態で付着させて一体化した後に、6?30mmの長さに切断したものであり、
前記樹脂付着長繊維束中の(A)成分と(B)成分の含有割合が、(A)80?40質量%、(B)20?60質量%である、繊維強化樹脂組成物。
(b1)繊維径が5?30μm
(b2)引張り伸びが10?20%
(b3)幅方向断面における長軸長さと短軸長さの比(長軸長さ/短軸長さ)が1.2?1.8の扁平形状であること。
【請求項2】
樹脂付着長繊維束が、(B)成分のレーヨン繊維を長さ方向に揃えた状態で束ねたものに(A)成分の熱可塑性樹脂(ポリアミド系樹脂を除く)を溶融させた状態でレーヨン繊維束の表面を被覆し、かつレーヨン繊維束内に含浸させて一体化したものである請求項1記載の繊維強化樹脂組成物。
【請求項3】
樹脂付着長繊維束が、(B)成分のレーヨン繊維を長さ方向に揃えた状態で束ねたものに(A)成分の熱可塑性樹脂(ポリアミド系樹脂を除く)を溶融させた状態でレーヨン繊維束の表面を被覆し、かつレーヨン繊維束内に含浸させることなく一体化したものである請求項1記載の繊維強化樹脂組成物。
【請求項4】
(B)成分のレーヨン繊維が、下記方法により求めた湿潤度が40?55%である、請求項1?3のいずれか1項記載の繊維強化樹脂組成物。
<湿潤度試験>
レーヨン繊維0.03?0.06gをサンプル繊維として使用した。
サンプル繊維を50℃で真空乾燥した後、電子天秤で計量した。
純水を入れたシャーレ中にサンプル繊維を1分間室温(20?25℃)で浸漬した。
純水から取り出したサンプル繊維を遠心分離処理(10,000r/m、10分)した後、電子天秤で計量した。湿潤度は、次の式から求めた。
湿潤度(%)=(遠心分離処理後の質量-真空乾燥後の質量)/真空乾燥後の質量×100
【請求項5】
(B)成分のレーヨン繊維が、23℃、50%RHで1週間調湿後、サンプル繊維長2.5cm、クロスヘッドスピード2.5cm/mmにて測定した引張強度が40?80MPaである、請求項1?4のいずれか1項記載の繊維強化樹脂組成物。
【請求項6】
(A)成分の熱可塑性樹脂(ポリアミド系樹脂を除く)が、ポリプロピレンと、マレイン酸変性ポリプロピレンおよび/または無水マレイン酸変性ポリプロピレンを含むものであり、
(A)成分中の酸量が、無水マレイン酸換算で平均0.005?0.5質量%である、請求項1?5のいずれか1項記載の繊維強化樹脂組成物。
【請求項7】
請求項1?6のいずれか1項記載の繊維強化樹脂組成物から得られる成形体。
【請求項8】
(削除)
【請求項9】
(削除)
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2021-09-03 
出願番号 特願2018-166598(P2018-166598)
審決分類 P 1 652・ 537- YAA (C08J)
P 1 652・ 113- YAA (C08J)
P 1 652・ 121- YAA (C08J)
P 1 652・ 536- YAA (C08J)
最終処分 維持  
前審関与審査官 芦原 ゆりか  
特許庁審判長 細井 龍史
特許庁審判官 岩田 健一
植前 充司
登録日 2020-06-01 
登録番号 特許第6711876号(P6711876)
権利者 ダイセルミライズ株式会社
発明の名称 繊維強化樹脂組成物  
代理人 古谷 聡  
代理人 義経 和昌  
代理人 義経 和昌  
代理人 古谷 聡  

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