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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  B65D
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  B65D
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  B65D
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  B65D
管理番号 1379793
異議申立番号 異議2020-700600  
総通号数 264 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-12-24 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-08-14 
確定日 2021-09-28 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6648131号発明「低い製品保持率を有する中空成形多層容器」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6648131号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-9〕について訂正することを認める。 特許第6648131号の請求項1?8に係る特許を維持する。 特許第6648131号の請求項9に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6648131号の請求項1?9に係る特許についての出願は、2015年(平成27年)7月29日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2014年10月31日 米国)を国際出願日とする出願であって、令和2年1月17日に特許権の設定登録がされ、令和2年2月14日に特許掲載公報が発行された。その特許についての本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。

令和2年8月14日:特許異議申立人千野肇(以下「申立人」という。)による特許異議の申立て
令和2年10月20日付け:取消理由通知書
令和3年2月19日:特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
令和3年5月11日:申立人による意見書の提出
令和3年6月22日付け:訂正拒絶理由通知書
令和3年8月5日:特許権者による意見書及び手続補正書の提出


第2 訂正の請求についての判断
1 訂正の内容
令和3年8月5日の手続補正で補正された令和3年2月19日提出の訂正請求書による訂正の請求は、「特許第6648131号の特許請求の範囲を、本請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1?9について訂正することを求める。」ものであり、その訂正(以下「本件訂正」という。)の内容は以下のとおりである。
なお、訂正事項2は、令和3年8月5日の手続補正により、「訂正前の特許請求の範囲の請求項9を削除する。」と補正された。

(1)訂正事項1
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1に
「100以下のMz/Mn比」とあるのを、
「20以下のMz/Mn比」に訂正する。(請求項1を引用する請求項2?8についても同様に訂正する。)
(2)訂正事項2
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項9を削除する。

ここで、訂正前の請求項1?9は、請求項2?9が、訂正の請求の対象である請求項1の記載を引用する関係にあるから、本件訂正は、一群の請求項〔1?9〕について請求されている。

3 訂正の適否
(1)訂正事項1について
ア 訂正の目的
上記訂正事項1は、請求項1のエチレン系ポリマーについて、本件訂正前の「100以下のMz/Mn比」の範囲から「20以下のMz/Mn比」の範囲とすることでその範囲を狭めるものであるから、特許請求の範囲の減縮に該当するものである。
イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないこと
上記訂正事項1は、上記アのとおりであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
上記訂正事項1は、本件特許明細書の【0016】の記載に基づくものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものである。

(2)訂正事項2について
ア 訂正の目的
上記訂正事項2は、請求項9を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮に該当するものである。
イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないこと
上記訂正事項2は、上記アのとおりであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
上記訂正事項2は、上記アのとおりであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものである。

(3)小括
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、並びに同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1?9〕について訂正することを認める。


第3 本件特許発明
上記のとおり本件訂正は認められるから、本件特許の請求項1?8に係る発明(以下「本件発明1?8」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1?8に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。

「【請求項1】
多層構造から中空成形された容器であって、
0.940g/cc以下の密度、62%以下の結晶化度、及び20以下のMz/Mn比を有するエチレン系ポリマーを含む、製品に面する内層を備え、
前記製品に面する内層は、40nm以下の小規模二乗平均平方根粗さを有する、容器。
【請求項2】
前記製品に面する内層は、30nm以下の小規模二乗平均平方根粗さを有する、請求項1に記載の容器。
【請求項3】
前記製品に面する内層は、25nm以下の小規模二乗平均平方根粗さを有する、請求項1または2に記載の容器。
【請求項4】
前記エチレン系ポリマーは、0.930g/cc以下の密度を有する、請求項1?3のいずれか1項に記載の容器。
【請求項5】
前記エチレン系ポリマーは、0.915?0.930g/ccの密度を有する、請求項1?4のいずれか1項に記載の容器。
【請求項6】
前記エチレン系ポリマーは、56%以下の結晶化度を有する、請求項1?5のいずれか1項に記載の容器。
【請求項7】
前記製品に面する内層は、0.950g/ccを超える密度を有するオレフィン系ポリマーから形成されるオレフィン系ポリマー外層と共に共押出される、請求項1?6のいずれか1項に記載の容器。
【請求項8】
前記製品に面する内層の厚さは、前記多層構造の全体の厚さの5?50%である、請求項1?7のいずれか1項に記載の容器。
【請求項9】(削除)」


第4 当審の判断
1 取消理由の概要
本件訂正前の本件特許に対して通知した取消理由の概要は、以下のとおりである。
なお、下記の取消理由は、本件特許異議申立理由の全てである。

(1)(明確性要件)本件特許は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
(2)(サポート要件)本件特許は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
(3)(実施可能要件)本件特許は、明細書の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
(4)(進歩性)下記の請求項に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、下記の請求項に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。


<引用文献等>
甲第1号証:特開2011-6151号公報
甲第2号証:特開2003-89177号公報
甲第3号証:特開平10-315357号公報
甲第4号証:特開平6-106606号公報
参考資料1:旭化成株式会社のウエブページ、"ポリエチレンの基礎知識(4)"、[online]、<URL:http://www.ak-sunfine.com/jpn/peodf/pe-004.pdf>

(1)明確性要件について
ア 請求項1中の「Mz/Mn比」は、【0037】に「各サンプルを、約175℃で薄膜に融解プレスし、その後、融解サンプルを室温(?25℃)まで空冷」したものを分析しているから、「容器」を形成する内層に使用するエチレン系ポリマーの成分を分析しているとも理解されるところ、「容器」を形成した後の内層の物性なのか、「容器」の内層に使用するエチレン系ポリマーの物性なのか明確でない。
請求項2?8も同様である。
イ 内層の表面粗さが口部内面、胴内面、底部内面等、容器の内面の場所によって異なることが技術常識であるところ、請求項1中の「前記製品に面する内層は、40nm以下の小規模二乗平均平方根粗さを有する」は、発明の詳細な説明を参酌しても、容器のどの部分を計測した数値であるのか明確でないから、当該事項はその特定する構造が明確でない。
請求項2?8も同様である。
ウ 請求項9中の「20以下の粘度比(0.1/100)を有する」は、本件特許明細書の【0017】、【0052】及び【0053】の記載を参酌しても、粘度比の測定温度や測定条件を明確に理解できない。

(2)サポート要件について
本件特許明細書の記載からは、実施例IE-1?IE-8が本件発明が解決しようとする課題を解決することは理解できるが、Mz/Mn比が実施例IE-1?IE-8以外の本件発明1の範囲のものが、本件発明が解決しようとする課題を解決できるとは、理解できない。
したがって、本件発明は、本件特許明細書に記載されたものでない。

(3)実施可能要件について、
本件発明は、「前記製品に面する内層は、40nm以下の小規模二乗平均平方根粗さを有する」ものであるところ、本件特許明細書には、具体的に、小規模二乗平均平方根粗さを調整する手段は記載されていない。また、実施例として、特定のエチレン系ポリマーを内層に使用し、ブロー成形ラインでボストンラウンドボトルへ中空成形したことが記載されているが、使用する樹脂の取り扱い温度や添加剤等が記載されていない。
したがって、本件特許明細書には、内層を40nm以下の小規模二乗平均平根粗さとすることについて、当業者が実施できる程度に記載されているとはいえない。
ゆえに、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本件発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものでない。

(4)進歩性について
請求項1?9に係る発明は、甲第1号証?甲第4号証に記載された発明に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものである。

2 取消理由についての判断
(1)明確性要件について
ア 請求項1には、「0.940g/cc以下の密度、62%以下の結晶化度、及び20以下のMz/Mn比を有するエチレン系ポリマーを含む、製品に面する内層を備え、」と記載されており、その文言から、「Mz/Mn比」は、エチレン系ポリマーの物性を特定していると理解される。
そして、Mz、Mnは、それぞれ、「Z平均分子量」、「数平均分子量」を意味することは技術常識であり、本件特許明細書の【0041】?【0051】に記載されたポリエチレンサンプルのとおり測定され、測定されたMz、Mnから、Mz/Mnを算出するものである。
したがって、請求項1中の「Mz/Mn比」は、「容器」の内層に使用するエチレン系ポリマーの物性を示しており、当該記載は明確である。
請求項2?8も同様である。
イ 請求項1の「前記製品に面する内層は、40nm以下の小規模二乗平均平方根粗さを有する」とは、製品と接触する内層全体が「40nm以下の小規模二乗平均平方根粗さを有する」と理解するのが相当であり、参考までに、本件特許明細書の【0002】?【0005】を参照すると、本件発明は、容器内の製品の無駄及び容器の無駄を減らすために、製品の取り出し性を改善することであって、容器の内層の表面が平坦であれば、製品の取り出し性が改善できることは技術常識であるから、本件発明は、「40nm以下の小規模二乗平均平方根粗さを有する」「内層」を用いることで、当該課題を解決すると理解される。
また、本件特許明細書には、内層の粗さと製品の取り出し性との関係を確認したものとして、【0034】の【表3】が記載されており、その試験方法である【0054】の記載を参照すると、【表3】は、容器を圧迫して、容器内の製品を排出した後の重量保持率により、製品の取り出し性を評価している。
したがって、本件特許明細書の記載は、上記理解と整合する。
ウ 請求項9は、本件訂正により削除されたから、不明確であるとする理由はない。

(2)サポート要件について
ア 本件発明が解決しようとする課題は、「製品の取り出しの改善」を含む(【0002】)。
イ 本件特許明細書の【0002】には、容器の内容物として、「固形製品」が挙げられているところ、本件特許明細書において、本件発明が解決しようとする課題を具体的に解決することを確認しているのは、内容物がボディソープのものである。
しかし、本件発明は、「前記製品に面する内層は、40nm以下の小規模二乗平均平方根粗さを有する」ものであって、滑らかな表面を有しているから、容器の内容物が固体の場合であっても、内層との摩擦力は小さいものとなり、内容物がボディソープのものと同様に、取り出し性が改善されると理解できる。
ウ また、本件特許明細書で、具体的に、上記課題を解決することが、確認されているのは、実施例IE-1?IE-8の「Mz/Mn比」が3.5?13.6のものであり、【0016】には、Mz/Mn比が「20以下であり得る。」と記載されている。
そして、密度、結晶化度が同程度であって、Mz/Mn比が異なるIE-2とIE-4をみると、Mz/Mn比により、大きく重量保持率が変化するとはいえないから、Mz/Mn比が異なっても、密度と結晶化度が同程度であれば、実施例IE-1?IE-8と同程度の重量保持率となると予想され、0.940g/cc以下の密度、62%以下の結晶化度、及び20以下のMz/Mn比を有するエチレン系ポリマーからなる内層は、製品の取り出しが改善されると理解できる。
また、通常、複数の樹脂を混合した樹脂の性状は、混合する各樹脂の性状が反映されることが技術常識であるから、本件発明1の特定の「エチレン系ポリマーを含む、製品に面する内層」は、特定の「エチレン系ポリマー」を含まない内層に比べて、特定の「エチレン系ポリマー」の性状が反映され、製品の取り出しが改善されると理解できる。
エ したがって、本件発明は、本件特許明細書に記載されたものである。

(3)実施可能要件について
本件特許明細書の【0030】には、本件発明の「容器」について、具体的に、A/B/C層からなるボトルを成形する方法、及びB層、C層について、「コア層B及び外層Cを一定に保つ(バイモーダル高密度PE、PE-13、密度:0.958g/cc、メルトインデックス:190℃/2.16kgで0.28dg/分)」ことが記載されており、また、内層であるA層について、【0031】の【表1】に、実施例IE-1?IE-8の内層が具体的な物性で記載されている。
そして、【0034】の【表3】には、上記記載に基づいて製造された実施例IE-1?IE-8のA層を用いたA/B/C層からなるボトルが、40nm以下の小規模二乗平均平方根粗さの製品に面する内層を有し、製品の取り出しが改善された重量保持率を有することが、具体的に記載されている。
そうすると、当業者であれば、上記記載から、本件発明に係る容器を製造することができるといえる。
ゆえに、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本件発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものである。

(4)進歩性について
ア 甲第1号証を主引用例とした場合の本件発明1の進歩性について
A 甲第1号証に記載された発明
甲第1号証には、以下の記載がある。
・「【請求項1】
エチレンに基づく単量体単位と炭素数3?20のα-オレフィンに基づく単量体単位とを有し、密度(d)が860?950kg/m^(3)であり、メルトフローレート(MFR)が0.01?5(g/10分)であり、重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)が4?30であり、Z平均分子量(Mz)と重量平均分子量(Mw)との比(Mz/Mw)が3?5であり、メルトテンション(MT)が8cN以上であるエチレン-α-オレフィン共重合体を中空成形して得られる食品容器。」
・「【0232】
実施例1
(1)固体触媒成分の調製
窒素置換した撹拌機を備えた反応器に、窒素流通下で300℃において加熱処理したシリカ(デビソン社製 Sylopol948;50%体積平均粒子径=55μm;細孔容量=1.67ml/g;比表面積=325m^(2)/g)2.8kgとトルエン24kgとを入れて、撹拌した。その後、5℃に冷却した後、1,1,1,3,3,3-ヘキサメチルジシラザン0.9kgとトルエン1.4kgとの混合溶液を反応器の温度を5℃に保ちながら30分間で滴下した。滴下終了後、5℃で1時間撹拌し、次に95℃に昇温し、95℃で3時間撹拌し、ろ過した。得られた固体生成物をトルエン20.8kgで6回、洗浄を行った。その後、トルエン7.1kgを加えスラリーとし、一晩静置した。
【0233】
上記で得られたスラリーに、ジエチル亜鉛のヘキサン溶液(ジエチル亜鉛濃度:50重量%)1.73kgとヘキサン1.02kgとを投入し、撹拌した。その後、5℃に冷却した後、3,4,5-トリフルオロフェノール0.78kgとトルエン1.44kgとの混合溶液を、反応器の温度を5℃に保ちながら60分間で滴下した。滴下終了後、5℃で1時間撹拌し、次に40℃に昇温し、40℃で1時間撹拌した。その後、22℃に冷却し、H_(2)O0.11kgを反応器の温度を22℃に保ちながら1.5時間で滴下した。滴下終了後、22℃で1.5時間撹拌し、次に40℃に昇温し、40℃で2時間撹拌し、更に80℃に昇温し、80℃で2時間撹拌した。撹拌後、室温にて、残量16Lまで上澄み液を抜き出し、トルエン11.6kgを投入し、次に、95℃に昇温し、4時間撹拌した。撹拌後、室温にて、上澄み液を抜き出し、固体生成物を得た。得られた固体生成物をトルエン20.8kgで4回、ヘキサン24リットルで3回、洗浄を行った。その後、乾燥することにより、固体触媒成分を得た。
【0234】
(2)予備重合触媒成分の調製
予め窒素置換した内容積5リットルの撹拌機付きオートクレーブに、ブタン836gを投入した後、オートクレーブを50℃まで昇温して、次にエチレンを28g仕込み、系内が安定させた。次に、別途50mlのフラスコに窒素雰囲気下でジフェニルメチレン(シクロペンタジエニル)(9-フルオレニル)ジルコニウムジクロライド[遷移金属化合物(A2)に相当]0.25gと、ラセミ-エチレンビス(1-インデニル)ジルコニウムジフェノキシド[遷移金属化合物(A1)に相当]0.52gと、トリイソブチルアルミニウム濃度が1mmol/mLであるトリイソブチルアルミニウムのヘキサン溶液を4.3mLを混合して50℃で4時間撹拌混合した溶液をオートクレーブに投入した。その後さらに、実施例1(1)で得られた固体触媒成分10.3gを投入して重合を開始した。水素濃度が0.2%であるエチレンと水素の混合ガスを連続供給しながら50℃で100分の予備重合を実施した。重合終了後、エチレン、ブタン、水素などをパージして残った固体を室温にて乾燥し、固体触媒成分1g当り15.9gのポリエチレンを含有する予備重合触媒成分を得た。
【0235】
(3)重合
減圧乾燥後アルゴンで置換した5リットルの撹拌機付きオートクレーブ内を真空にし、水素をその分圧が0.037MPaになるように加え、1-ヘキセン200mL、ブタンを1065g仕込み、系内の温度を70℃まで昇温した後、エチレンを、その分圧が1.6MPaになるように導入し、系内を安定させた。ガスクロマトグラフィーの結果、系内のガス組成は、水素=2.05mol%であった。これにトリイソブチルアルミニウム濃度が1mmol/mLであるトリイソブチルアルミニウムのヘプタン溶液を2.0mL投入した。次に実施例1(2)で得られた予備重合触媒成分358mgを投入した。重合中は全圧、およびガス中の水素濃度を一定に維持するように、エチレン/水素混合ガス(水素=0.44mol%)を連続的に供給しながら、70℃で160分重合した。その後、ブタン、エチレン、水素をパージして、エチレン-1-ヘキセン共重合体156gを得た。得られた共重合体の物性を表1に示した。
【0236】
実施例2
(1)予備重合触媒成分の調製
予め窒素置換した内容積5リットルの撹拌機付きオートクレーブに、ブタン833gを投入した後、オートクレーブを50℃まで昇温して、ジフェニルメチレン(シクロペンタジエニル)(9-フルオレニル)ジルコニウムジクロライド[遷移金属化合物(A2)に相当]0.26gと、ラセミ-エチレンビス(1-インデニル)ジルコニウムジフェノキシド[遷移金属化合物(A1)に相当]0.50gを粉体で投入し、50℃で75分間撹拌を行った。次にエチレンを28g仕込み、系内が安定した後、上記実施例1(1)で得られた固体触媒成分10.6gを投入し、続いて、有機アルミニウム化合物(C)としてトリイソブチルアルミニウム濃度が1mmol/mLであるトリイソブチルアルミニウムのヘプタン溶液を4.2mLを投入して重合を開始した。水素濃度が0.2%であるエチレンと水素の混合ガスを連続供給しながら50℃で130分の予備重合を実施した。重合終了後、エチレン、ブタン、水素などをパージして残った固体を室温にて乾燥し、固体状助触媒成分1g当り17.5gのポリエチレンを含有する予備重合触媒成分を得た。
【0237】
(2)重合
減圧乾燥後アルゴンで置換した5リットルの撹拌機付きオートクレーブ内を真空にし、水素をその分圧が0.055MPaになるように加え、1-ヘキセン200ml、ブタンを1066g仕込み、系内の温度を70℃まで昇温した後、エチレンを、その分圧が1.6MPaになるように導入し、系内を安定させた。ガスクロマトグラフィーの結果、系内のガス組成は、水素=3.14mol%であった。これに、トリエチルアミン濃度が0.1mmol/mLであるトリエチルアミンのトルエン溶液1.0mLを投入し、次に有機アルミニウム化合物(C)としてトリイソブチルアルミニウム濃度が1mmol/mLであるトリイソブチルアルミニウムのヘキサン溶液を2.0mL投入した。次に実施例2の(1)で調製した予備重合触媒成分を401mg投入した。重合中は全圧、およびガス中の水素濃度を一定に維持するように、エチレン/水素混合ガス(水素=0.49mol%)を連続的に供給しながら、70℃で210分重合した。その後、ブタン、エチレン、水素をパージして、エチレン-1-ヘキセン共重合体171gを得た。得られた共重合体の物性を表1に示した。
【0238】
実施例3
(1)重合
減圧乾燥後アルゴンで置換した5リットルの撹拌機付きオートクレーブ内を真空にし、水素をその分圧が0.029MPaになるように加え、1-ヘキセン200ml、ブタンを1065g仕込み、系内の温度を70℃まで昇温した後、エチレンを、その分圧が1.6MPaになるように導入し、系内を安定させた。ガスクロマトグラフィーの結果、系内のガス組成は、水素=1.58mol%であった。これに、有機アルミニウム化合物(C)としてトリイソブチルアルミニウム濃度が1mmol/mLであるトリイソブチルアルミニウムのヘキサン溶液を2.0mL投入した。次に実施例2の(1)で調製した予備重合触媒成分を374mg投入した。重合中は全圧、およびガス中の水素濃度を一定に維持するように、エチレン/水素混合ガス(水素=0.20mol%)を連続的に供給しながら、70℃で220分重合した。その後、ブタン、エチレン、水素をパージして、エチレン-1-ヘキセン共重合体106gを得た。得られた共重合体の物性を表1に示した。
【0239】
実施例4
(1)予備重合触媒成分の調製
予め窒素置換した内容積5リットルの撹拌機付きオートクレーブに、ブタン833gを投入した後、オートクレーブを50℃まで昇温して、次にエチレンを28g仕込み、系内が安定させた。次に、別途50mlのフラスコに窒素雰囲気下でジフェニルメチレン(シクロペンタジエニル)(9-フルオレニル)ジルコニウムジクロライド[遷移金属化合物(A2)に相当]57mgと、ラセミ-エチレンビス(1-インデニル)ジルコニウムジフェノキシド[遷移金属化合物(A1)に相当]0.67gと、有機アルミニウム化合物(C)としてトリイソブチルアルミニウム濃度が1mmol/mLであるトリイソブチルアルミニウムのヘキサン溶液を4.1mLを混合して50℃で4時間撹拌混合した溶液をオートクレーブに投入した。続いて実施例1で調製した固体触媒成分10.4gを投入して重合を開始した。水素濃度が0.2%であるエチレンと水素の混合ガスを連続供給しながら50℃で80分の予備重合を実施した。重合終了後、エチレン、ブタン、水素などをパージして残った固体を室温にて乾燥し、固体触媒成分1g当り17.5gのポリエチレンを含有する予備重合触媒成分を得た。
(2)重合
減圧乾燥後アルゴンで置換した3リットルの撹拌機付きオートクレーブ内を真空にし、水素をその分圧が0.015MPaになるように加え、1-ヘキセン180ml、ブタンを650g仕込み、系内の温度を70℃まで昇温した後、エチレンを、その分圧が1.6MPaになるように導入し、系内を安定させた。ガスクロマトグラフィーの結果、系内のガス組成は、水素=0.93mol%であった。これに、有機アルミニウム化合物(C)としてトリイソブチルアルミニウム濃度が1mmol/mLであるトリイソブチルアルミニウムのヘキサン溶液を0.9mL投入した。次に実施例4の(1)で得られた予備重合触媒成分を363mg投入した。重合中は全圧、およびガス中の水素濃度を一定に維持するように、エチレン/水素混合ガス(水素=0.23mol%)を連続的に供給しながら、70℃で60分重合した。その後、ブタン、エチレン、水素をパージして、エチレン-1-ヘキセン共重合体214gを得た。得られた共重合体の物性を表1に示した。
【0240】
実施例5
(1)重合
減圧乾燥後アルゴンで置換した3リットルの撹拌機付きオートクレーブ内を真空にし、水素をその分圧が0.025MPaになるように加え、1-ヘキセン180ml、ブタンを650g仕込み、系内の温度を70℃まで昇温した後、エチレンを、その分圧が1.6MPaになるように導入し、系内を安定させた。ガスクロマトグラフィーの結果、系内のガス組成は、水素=2.26mol%であった。これに、有機アルミニウム化合物(C)としてトリイソブチルアルミニウム濃度が1mmol/mLであるトリイソブチルアルミニウムのヘキサン溶液を0.9mL投入した。次に実施例4(1)で得られた予備重合触媒成分を364mg投入した。重合中は、エチレン/水素混合ガス(水素=0.21mol%)を連続的に供給しながら、70℃で60分重合した。その後、ブタン、エチレン、水素をパージして、エチレン-1-ヘキセン共重合体172gを得た。得られた共重合体の物性を表1に示した。
【0241】
実施例6
(1)予備重合
予め窒素置換した内容積210リットルの撹拌機付き反応器に、常温下でブタン80リットルを投入し、次に、ラセミ-エチレンビス(1-インデニル)ジルコニウムジフェノキシド32.4mmolを投入した。その後、反応器内の温度を50℃まで上昇させ、2時間攪拌した。反応器内の温度を30℃まで降温し、エチレンを0.1 kg、水素を常温常圧として 0.1 L投入した。次に、特開2009-79182号公報の実施例1(1)および(2)に記載の方法と同様にして調製した、粒子状固体触媒成分697 gを投入した。その後、トルエン300mlに溶解したジフェニルメチレン(シクロペンタジエニル)(9-フルオレニル)ジルコニウムジクロライド2.59mmolを投入した。系内が安定した後、トリイソブチルアルミニウム140mmolを投入して重合を開始した。
【0242】
重合開始後、反応器内の重合温度を30℃で0.5時間運転を行い、その後30分かけて50℃まで昇温して、その後は50℃で重合を行った。最初の0.5時間は、エチレンを0.6kg/hrで供給し、水素を常温常圧として0.7リットル/hrの速度で供給し、重合開始後0.5時間からは、エチレンを3.2kg/hr、水素を常温常圧として9.6リットル/hrの速度で供給し、合計6時間の予備重合を実施した。重合終了後、反応器内圧力を0.6MPaGまでパージし、スラリー状予備重合触媒成分を乾燥器に移送して、窒素流通乾燥を実施して、予備重合触媒成分を得た。該予備重合触媒成分中のエチレン重合体の予備重合量は、粒子状固体触媒成分1g当り21.3gであり、予備重合触媒成分の嵩密度は461kg/m^(3)であった。
【0243】
(2)気相重合
連続式流動床気相重合装置を用い、重合温度:86℃、圧力:2.0MPaG、ホールドアップ量:80kg、ガス組成:エチレン88.5mol%、水素0.69mol%、1-ヘキセン1.33mol%、窒素8.7mol%、循環ガス線速度:0.34m/s、上記実施例6(1)で得た予備重合触媒成分の供給量:66.0g/hr、トリイソブチルアルミニウムの供給量:20mmol/hrの条件で、エチレンと1-ヘキセンとの共重合を行ったところ、18.6kg/hrの生成速度でエチレン-1-ヘキセン共重合体の粒子を得た。得られたエチレン-1-ヘキセン共重合体の粒子を押出機(神戸製鋼所社製 LCM50)を用いて、フィード速度50kg/hr、スクリュー回転数450rpm、ゲート開度50%、サクション圧力0.1MPa、樹脂温度200?230℃の条件で造粒することによりエチレン-1-ヘキセン共重合体を得た。得られたエチレン-1-ヘキセン共重合体を用いた物性評価の結果を表3に示した。
【0244】
比較例1
(1)予備重合触媒の調製
予め窒素置換した内容積210リットルの撹拌機付き反応器に、常温の条件下でブタン80リットルを投入した。次に、ラセミ-エチレンビス(1-インデニル)ジルコニウムジフェノキシド66mmolを投入した。その後、槽内温度を35℃に調整し、エチレンを0.1kg投入し、次に、実施例1記載の固体生成物(a-1)を0.49kg投入した。系内が安定した後、トリイソブチルアルミニウム190mmolを投入して重合を開始した。重合開始後、槽内の重合温度を35℃で0.5時間運転を行い、その後30分かけて50℃まで昇温して、その後は50℃で重合を行った。最初の0.5時間は、エチレンを0.4kg/時間で供給し、重合開始後0.5時間からは、エチレン3.6kg/時間、水素を常温常圧として10.9リットル/時間の速度で供給し、合計4時間の予備重合を実施した。重合終了後、反応器内圧力を0.5MPaGまでパージし、スラリー状の予備重合触媒を乾燥器に移送して、窒素流通乾燥を実施して予備重合触媒を得た。該予備重合触媒中のエチレン重合体の予備重合量は、固体生成物(a-1)1g当り35.2gであった。
【0245】
(2)エチレンと1-ブテンと1-ヘキセンとの共重合
上記の予備重合触媒を用い、連続式流動床気相重合装置でエチレンと1-ブテンと1-ヘキセンの共重合を実施した。重合条件は、温度85℃、全圧2MPa、ガス線速度0.31m/s、エチレンに対する水素モル比は1.4%、エチレンに対する1-ブテンのモル比は2.4%、エチレンに対する1-ヘキセンのモル比は0.7%で、重合中はガス組成を一定に維持するためにエチレン、1-ブテン、1-ヘキセン、水素を連続的に供給した。さらに、流動床の総パウダー重量を80kgに維持し、平均重合時間3.2hrとなるように、上記予備重合触媒と、トリイソブチルアルミニウムとを一定の割合で連続的に供給した。重合により、25.2kg/hrの生産効率でエチレン?1ブテン?1-ヘキセン共重合体(以下、PE-2と記す。)を得、神戸製鋼所社製LCM50押出機を用いて、フィード速度50kg/hr、スクリュー回転数450rpm、ゲート開度4.2mm、サクション圧力0.2MPa、樹脂温度200?230℃条件で造粒を行った。得られた共重合体の物性を表2に示した。
【0246】
比較例2
(1)重合
減圧乾燥後アルゴンで置換した内容積3リットルの撹拌機付きオートクレーブ内を真空にし、水素をその分圧が0.08MPaになるように加え、1-ブテンを31g、重合溶媒としてブタンを720g仕込み、70℃まで昇温した。その後、エチレンを、その分圧が1.6MPaになるように加え系内を安定させた。ガスクロマトグラフィー分析の結果、系内のガス組成は、水素=4.57mol%、1-ブテン=1.83mol%であった。これに、有機アルミニウム化合物(C)として濃度を1mol/lに調整したトリイソブチルアルミニウムのヘキサン溶液 0.9mlを投入した。次に、濃度を0.2μmol/mlに調整したラセミ-ジメチルシリレンビス(1-インデニル)ジルコニウムジクロライド[遷移金属化合物(A1)に相当]のトルエン溶液0.75mlと濃度を2μmol/mlに調整したジフェニルメチレン(シクロペンタジエニル)(9-フルオレニル)ジルコニウムジクロライド[遷移金属化合物(A2)に相当]のトルエン溶液0.75mlを投入し、続いて上記実施例1(1)得られた固体触媒成分11.8mgを投入した。重合中は全圧、およびガス中の水素濃度を一定に維持するように、エチレン/水素混合ガス(水素=1.24mol%)を連続的に供給しながら、70℃で60分間重合した。その後、ブタン、エチレン、水素をパージして、エチレン-1-ブテン共重合体38gを得た。得られた共重合体の物性を表2に示した。
【0247】
比較例3
(1)重合
減圧乾燥後、アルゴンで置換した5リットルの撹拌機付きオートクレーブ内を真空にし、水素をその分圧が0.015MPaになるように加え、1-ヘキセン310mL、ブタンを992g仕込み、系内の温度を70℃まで昇温した後、エチレンを、その分圧が1.6MPaになるように導入し、系内を安定させた。ガスクロマトグラフィーの結果、系内のガス組成は、水素=0.88mol%であった。これにトリイソブチルアルミニウム濃度が1mmol/mLであるトリイソブチルアルミニウムのヘプタン溶液を2.0mL投入した。次にラセミ-エチレンビス(1-インデニル)ジルコニウムジフェノキシド濃度が2μmol/mLであるラセミ-エチレンビス(1-インデニル)ジルコニウムジフェノキシドのトルエン溶液を0.25mL投入し、続いて、上記実施例1(1)で調製した固体触媒成分36.0mgを投入した。重合中は全圧、およびガス中の水素濃度を一定に維持するように、エチレン/水素混合ガス(水素=0.15mol%)を連続的に供給しながら、70℃で180分重合した。その後ブタン、エチレン、水素をパージして、エチレン-1-ヘキセン共重合体223.6gを得た。得られたエチレン-1-ヘキセン共重合体の物性を表2に示した。
【0248】
比較例4
(1)固体触媒成分(S)の調製
窒素置換した攪拌機付きの反応器に、成分(b)固体状担体として窒素流通下で300℃において加熱処理したシリカ(デビソン社製 Sylopol948;平均粒子径=55μm;細孔容量=1.67ml/g;比表面積=325m^(2)/g)9.68kgを入れた。トルエンを100リットル加えた後、2℃に冷却した。これにメチルアルモキサンのトルエン溶液(2.9M)26.3リットルを一時間かけて滴下した。5℃にて30分間攪拌した後、90分間かけて95℃まで加熱し、4時間攪拌を行った。その後40℃へ冷却した後、40分間静置し、固体成分を沈降させ、上層のスラリー部分を取り除いた。洗浄操作として、これに、トルエン100リットルを加え、10分間攪拌した後、攪拌を停止して静置し固体成分を沈降させ、同様に上層のスラリー部分を取り除いた。以上の洗浄操作を計3回繰り返した。さらに、トルエン100リットルを加え、攪拌を行った後、攪拌を止めると同時にろ過を行った。この操作をもう1回繰り返した後、ヘキサン110リットルを加え、同様の方法にてろ過を行った。この操作をもう一度繰り返した。その後、窒素流通下70℃で7時間乾燥を行うことにより、固体触媒成分12.6kgを得た。元素分析の結果、Al=4.4mmol/gであった。
【0249】
(2)スラリー状触媒成分(Cat-1)の調製
窒素置換した100mlのガラス製フラスコに上記(1)で調製した固体触媒成分(S)を200mg加えた。次に、濃度を2μmol/mlに調整したジメチルシランジイルビス(シクロペンタジエニル)ジルコニウムジクロリド[遷移金属化合物(A1)に相当]のトルエン溶液 12.5mlと、濃度を2μmol/mlに調整したジフェニルメチレン(シクロペンタジエニル)(9-フルオレニル)ジルコニウムジクロライド[遷移金属化合物(A2)に相当]のトルエン溶液 1mlを投入し、室温で5分間反応させた。その後、上澄み液をデカンテーションにより除いた後、ヘキサンで2回洗浄し、6mlのヘキサンスラリーとした。
【0250】
(3)重合
減圧乾燥後アルゴンで置換した内容積3リットルの撹拌機付きオートクレーブ内を真空にし、1-ヘキセンを180ml、重合溶媒としてブタンを650g仕込み、70℃まで昇温した。その後、エチレン/水素混合ガス(水素=0.33mol%)を、混合ガスの分圧が1.6MPaになるように加え、系内を安定させた。ガスクロマトグラフィー分析の結果、系内のガス組成は、水素=0.15mol%であった。これに、有機アルミニウム化合物(C)として濃度を1mol/lに調整したトリイソブチルアルミニウムのヘキサン溶液 0.9mlを投入した。次に、上記(2)で調製したスラリー状触媒成分(Cat-1)を6ml投入した。重合中は、エチレン/水素混合ガス(水素=0.33mol%)を連続的に供給しながら、70℃で60分間重合した。その後、ブタン、エチレン、水素をパージして、エチレン-1-ヘキセン共重合体71gを得た。得られた共重合体の物性を表2に示した。
【0251】
比較例5
(1)固体触媒成分の調製
窒素置換した撹拌機を備えた反応器に、窒素流通下で300℃において加熱処理したシリカ(デビソン社製 Sylopol948;50%体積平均粒子径=55μm;細孔容量=1.67ml/g;比表面積=325m^(2)/g)2.8kgとトルエン24kgとを入れて、撹拌した。その後、5℃に冷却した後、1,1,1,3,3,3-ヘキサメチルジシラザン0.9kgとトルエン1.4kgとの混合溶液を反応器の温度を5℃に保ちながら30分間で滴下した。滴下終了後、5℃で1時間撹拌し、次に95℃に昇温し、95℃で3時間撹拌し、ろ過した。得られた固体生成物をトルエン20.8kgで6回、洗浄を行った。その後、トルエン7.1kgを加えスラリーとし、一晩静置した。
【0252】
(2)予備重合触媒成分の調製
予め窒素置換した内容積210リットルの撹拌機付きオートクレーブに、ブタン70リットルを投入した後、ラセミ-エチレンビス(1-インデニル)ジルコニウムジフェノキシド106mmolを投入し、オートクレーブを50℃まで昇温して撹拌を2時間行った。次にオートクレーブを30℃まで降温して系内が安定した後、エチレンをオートクレーブ内のガス相圧力で0.06MPa分仕込み、前述の固体触媒成分の調製で得られた固体触媒成分0.7kgを投入し、続いてトリイソブチルアルミニウム158mmolを投入して重合を開始した。エチレンを0.7kg/Hrで連続供給しながら30分経過した後、50℃へ昇温するとともに、エチレンと水素をそれぞれ3.5kg/Hrと21リットル(常温常圧体積)/Hrで連続供給することによって合計4時間の予備重合を実施した。重合終了後、エチレン、ブタン、水素ガスなどをパージして残った固体を室温にて真空乾燥し、上記固体触媒成分1g当り16gのポリエチレンが予備重合された予備重合触媒成分を得た。
【0253】
(3)連続気相重合
上記の予備重合触媒成分を用い、連続式流動床気相重合装置でエチレンと1-ヘキセンの共重合を実施した。重合条件は、温度86℃、全圧2MPa、ガス線速度0.35m/s、エチレンに対する水素モル比は1.1%、エチレンに対する1-ヘキセンモル比は1.0%で、重合中はガス組成を一定に維持するためにエチレン、ヘキセン-1、水素を連続的に供給した。さらに、流動床の総パウダー重量を80kgに維持し、平均重合時間3.5hrとなるように、上記予備重合触媒成分と、トリイソブチルアルミニウムとを一定の割合で連続的に供給した。重合により、23.2kg/hrの生産効率でエチレン-1-ヘキセン共重合体のパウダーを得た。
【0254】
(4)エチレン-1-ヘキセン共重合体パウダーの造粒
上記で得たパウダーを、神戸製鋼所社製LCM50押出機を用いて、フィード速度50kg/hr、スクリュー回転数450rpm、ゲート開度4.2mm、サクション圧力0.2MPa、樹脂温度200?230℃条件で造粒することにより、ペレットを得た。該ペレットの物性を表3に示した。該ペレットを用いて中空成形を行い、中空容器を得た。中空成形時の成形記録を表4に、得られた中空容器の評価結果を表5に示した。
【0255】
【表1】

【0256】
【表2】

(注1):内訳は、エチル分岐8.8/1000C、ブチル分岐13.0/1000C
【0257】
【表3】

【0258】
【表4】

【0259】
【表5】



そして、甲第1号証の実施例1?5には、以下の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されている。
「密度、Mw/Mn比、Mz/Mw比が、それぞれ、(924、16.7、4.5)、(923、13.3、3.9)、(928、10.3、4.7)、(917、5.9、3.5)、(919、6、3.8)であるエチレン-1-ヘキセン共重合体のペレットを用いて中空成形した中空容器。」

B 対比
本件発明1と甲1発明とを対比する。
・甲1発明の「中空成形した中空容器」は、本件発明1の「中空成形された容器」に相当する。
・甲1発明の「密度、Mw/Mn比、Mz/Mw比が、それぞれ、(924、16.7、4.5)、(923、13.3、3.9)、(928、10.3、4.7)、(917、5.9、3.5)、(919、6、3.8)であるエチレン-1-ヘキセン共重合体」であることは、Mz/Mn比を計算すると、それぞれ75.15、51.87、48.41、20.65、22.8である。そうすると、甲1発明の当該事項と、本件発明1の「0.940g/cc以下の密度、62%以下の結晶化度、及び20以下のMz/Mn比を有するエチレン系ポリマー」とは、0.940g/cc以下の密度のエチレン系ポリマーの限りで一致する。

したがって、本件発明1と甲1発明とは、以下の点で一致し、相違する。

<一致点>
「中空成形された容器であって、
0.940g/cc以下の密度のエチレン系ポリマーを含む、製品に面する内層を備える、容器。」

<相違点1>
容器について、本件発明1は、「多層構造」であるのに対して、単層である点。
<相違点2>
0.940g/cc以下の密度のエチレン系ポリマーについて、本件発明1は、「62%以下の結晶化度、及び20以下のMz/Mn比を有する」のに対して、甲1発明は、結晶化度が不明であって、Mz/Mn比が、それぞれ75.15、51.87、48.41、20.65、22.8である点。
<相違点3>
本件発明1は、「前記製品に面する内層は、40nm以下の小規模二乗平均平方根粗さを有する」のに対して、甲1発明は、そのように特定されていない点。

C 判断
<相違点2について>
事案に鑑みて、相違点2について検討する。
Mz/Mn比が、本件発明1は、「20以下」であるのに対し、甲1発明は、75.15、51.87、48.41、20.65、22.8である。
そして、甲第2?4号証にも、Mz/Mn比が20以下のエチレン系ポリマーを内層に用いることは記載されていない。
したがって、甲1発明の内層として、20以下のMz/Mn比を有するエチレン系ポリマーを用いる理由はない。

D 小括
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明及び甲第2?4号証記載の事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

イ 甲第2号証を主引用例とした場合の本件発明1の進歩性について
A 甲第2号証に記載された発明
甲第2号証には、以下の記載がある。
・「【0019】
【実施例】つぎに、図面に基づいて、本発明のプラスチック容器の実施例について説明するが、本発明は以下の具体例に限定されるものではない。以下の例においては、常法により多層多重ダイスを使用し、共押出して得られたパリソンをロータリーブロー成形機でブロー成形することによって、多層ブローボトルを製造した。
【0020】(実施例1)コモノマーとしてヘキセン-1を使用し、メタロセン系シングルサイト触媒を用いて重合することによって、密度0.905g/cm^(3)、MFR2.0g/10min、分子量分布Mw/Mn4.5のエチレン・αオレフィン共重合体を得た。つぎに、密度0.928g/cm^(3)、MFR0.7g/10min、オルゼン曲げ剛性320MPaのHP-LDPE85.7重量部に、上記共重合体14.3重量部を配合することによって、多層ブローボトルの内層及び外層を構成する樹脂組成物Aを得た。また、この樹脂組成物A70重量部に多層ブローボトルの成形時に発生するバリ等のスクラップ樹脂30重量部を配合することによって、密度0.923g/cm^(3)、MFR0.8g/10min、オルゼン曲げ剛性340MPaの主層を構成する樹脂組成物Bを得た。この樹脂組成物B中の共重合体の含有量は10重量%、スクラップ樹脂の含有量は30重量%である。
【0021】これらの樹脂組成物A及びBを使用して、図2に示される、樹脂組成物Aからなる外層1/無水マレイン酸変性LDPE(密度0.930g/cm^(3)、MFR1.5g/10min)接着剤層2/エチレン含量32モル%のエチレン・酢酸ビニル共重合体ケン化物(EVOH)からなるガスバリヤー性樹脂層3/2と同じ接着剤層4/樹脂組成物Bからなる主層5/樹脂組成物Aからなる内層6(層比:15/3/7/3/52/20重量%)、の4種6層の層構成を有する内容量800ml、質量25gの多層薄肉ボトルを、毎分55本の速度にてロータリーブロー成形した。その際に、ロゴマーク入りの金型を使用することによって、ボトル胴部の表裏にロゴマークを配設した。」

そうすると、甲第2号証の実施例1には、以下の発明(以下「甲2発明」という。)が記載されている。
「密度0.928g/cm^(3)、MFR0.7g/10min、オルゼン曲げ剛性320MPaのHP-LDPE85.7重量部に、上記共重合体14.3重量部を配合した樹脂組成物Aからなる内層を備えた、
内容量800ml、質量25gのロータリーブロー成形した多層薄肉ボトル。」

B 対比
本件発明1と甲2発明とを対比する。
・甲2発明の「ロータリーブロー成形した多層薄肉ボトル」は、本件発明1の「多層構造から中空成形された容器」に相当する。
・甲2発明の「密度0.928g/cm^(3)、MFR0.7g/10min、オルゼン曲げ剛性320MPaのHP-LDPE85.7重量部に、上記共重合体14.3重量部を配合した樹脂組成物A」と、本件発明1の「0.940g/cc以下の密度、62%以下の結晶化度、及び20以下のMz/Mn比を有するエチレン系ポリマー」とは、0.940g/cc以下の密度のエチレン系ポリマーの限りで一致する。

そうすると、本件発明1と甲2発明とは、以下の点で一致し、相違する。
<一致点>
「多層構造から中空成形された容器であって、
0.940g/cc以下の密度のエチレン系ポリマーを含む、製品に面する内層を備える、容器。」

<相違点4>
0.940g/cc以下の密度のエチレン系ポリマーについて、本件発明1は、「62%以下の結晶化度、及び20以下のMz/Mn比を有する」のに対して、甲2発明は、結晶化度及びMz/Mn比が不明である点。
<相違点5>
本件発明1は、「前記製品に面する内層は、40nm以下の小規模二乗平均平方根粗さを有する」のに対して、甲2発明は、そのように特定されていない点。

C 判断
ここで、上記相違点について検討する。
<相違点4について>
甲2発明のHP-LDPEのMFRと甲第1号証の【0255】の表1におけるMFRと分子量分布とを比較すると、甲第1号証には、20以下のMz/Mn比を有するHP-LDPEが記載されていないから、甲2発明のHP-LDPEのMz/Mn比が、20以下であるとする理由がない。
そして、甲第1、3、4号証にも、Mz/Mn比が20以下のエチレン系ポリマーを内層に用いることは記載されていない。
したがって、甲2発明の内層として、20以下のMz/Mn比を有するエチレン系ポリマーを用いることは、容易に想到し得たものでない。

D 小括
したがって、相違点5について検討するまでもなく、本件発明1は、甲2発明及び甲第1、3、4号証記載の事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

ウ 甲第3号証を主引用例とした場合の本件発明1の進歩性について
A 甲第3号証に記載された発明
甲第3号証には、以下の記載がある。
・「【0018】[II] 樹脂製容器の製造
本発明の樹脂製容器は、射出成形、中空成形、回転成形、押出成形等、熱可塑性樹脂の成形方法として一般に用いられている加工方法により、単層或いは複数層で構成される樹脂製容器とすることができる。」
・「【0025】[実施例1]
A 層
A層としては、以下に記載する方法で製造したエチレン・1-ヘキセン共重合体を使用した。
エチレン・1-ヘキセン共重合体の製造
触媒の調製は、特開昭61-130314号公報に記載された方法で実施した。すなわち、錯体エチレンビス(4,5,6,7ーテトラヒドロィンデニル)ジルコニウムジクロライド2.0ミリモルに、アルベマール社製メチルアルモキサンを上記錯体に対して1,000モル倍加え、トルエンで20リットルに希釈して触媒溶液を調製し、以下の条件で重合を行った。内容積1.5リットルの攪拌式オートクレーブ型連続反応機に、エチレンと1-ヘキセンとの混合物を供給し、反応器内の圧力を1,000kg/cm^(2)に保ち、160℃の温度で反応を行った。反応終了後、MFRが1.5g/10分、密度が0.935g/cm^(3)、1-ヘキセン含量が3%、TREF溶出曲線のピーク温度が92℃、H/Wが28、H/W温度幅が6℃の、エチレン・1-ヘキセン共重合体を得た。
【0026】B 層
B層としては、MFRが0.03g/10分、密度が0.954g/cm^(3)の高密度ポリエチレンを使用した。
成形、評価
以下の条件で多層ブロー成形を行い、表1に示す層構成の樹脂製容器を製造した。得られた樹脂製容器のサンプルについて評価を行った。その結果を表1に示す。
機種 : 日本製鋼所社製多層ブロー成形機
押出機 : 65mmφ/40mmφ/40mmφ
ダイリップ: 200mmφ
押出機温度: 190℃/200℃/190℃
金型温度 : 40℃
金型寸法 : 78×60×25cm、厚み2mm
型締圧力 : 60トン
【0027】[実施例2]B層に、MFRが0.1g/10分、密度が0.925g/cm^(3)の高圧法低密度ポリエチレンを使用した以外は、実施例1と同様に成形し、評価を行った。表1に示す樹脂を使用し、実施例1と同様に成形し、評価を行った。その結果を表1に示す。」
・「【0040】[比較例5]実施例1のエチレン・1一ヘキセン共箪合体○1(○内に数字の1、以下同じ。)に変えて、以下に示すエチレン・1-ヘキセン共重合体○5を用いた以外は、実施例1と同様に成形し、評価を行った。結果を表3に示す。エチレン・1-ヘキセン共重合体の製造触媒の調製は、特開昭61一130314号公報に記載された方法で実施した。すなわち、錯体エチレンビス(4,5,6,7ーテトラヒドロインデニル)ジルコニウムジクロライド2.Oミリモルに、アルベマール社製メチルアルモキサンを上記錯体に対して1,000モル倍加え、トルエンで20リットルに希釈して触媒溶液を調製し、以下の条件で重合を行った。内容積1.5リットルの攪拌式オートクレーブ型連続反応器に、エチレンと1-ヘキセンとの混合物を供給し、反応器内の圧力を1,100kg/cm^(2)に保ち、120℃の温度で反応を行った。反応終了後、MFRが3g/10分、密度が0.916g/cm^(3)、1一へキセン含量が8重量%、TREF溶出曲橡のピーク温度が74℃、H/Wが6、H/W温度幅が23℃の、エチレン・1一ヘキセン共重合体を得た。
【0041】
【表1】


・「【0043】


・【0041】の表1及び【0043】の表3の実施例1、2及び比較例5の「層構成 厚み(mm)」の欄は、「A/B/A」と記載されているから、内層はA層である。
そして、実施例1及び2のA層は、「MFRが1.5g/10分、密度が0.935g/cm^(3)、1-ヘキセン含量が3%、TREF溶出曲線のピーク温度が92℃、H/Wが28、H/W温度幅が6℃の、エチレン・1-ヘキセン共重合体」(【0025】)からなり、比較例5のA層は、「、MFRが3g/10分、密度が0.916g/cm^(3)、1一へキセン含量が8重量%、TREF溶出曲橡のピーク温度が74℃、H/Wが6、H/W温度幅が23℃の、エチレン・1一ヘキセン共重合体」からなる。
・【0018】には、中空成形により樹脂製容器を製造することが記載されている。

そうすると、甲第3号証の実施例1、2及び比較例5の樹脂を用いた中空成形された樹脂製容器に着目すると、甲第3号証には、以下の発明(以下「甲3発明」という。)が記載されている。
「中空成形されたA/B/Aの層構成を有する樹脂製容器であって、
MFRが1.5g/10分、密度が0.935g/cm^(3)、1-ヘキセン含量が3%、TREF溶出曲線のピーク温度が92℃、H/Wが28、H/W温度幅が6℃のエチレン・1-ヘキセン共重合体、又は、MFRが3g/10分、密度が0.916g/cm^(3)、1-ヘキセン含量が8%、TREF溶出曲線のピーク温度が74℃、H/Wが6、H/W温度幅が23℃のエチレン・1-ヘキセン共重合体からなるA層である内層を備える、
樹脂製容器。」

B 対比
本件発明1と甲3発明とを対比する。
・甲3発明の「中空成形されたA/B/Aの層構成を有する樹脂製容器」は、本件発明1の「多層構造から中空成形された容器」に相当する。
・甲3発明の「MFRが1.5g/10分、密度が0.935g/cm^(3)、1-ヘキセン含量が3%、TREF溶出曲線のピーク温度が92℃、H/Wが28、H/W温度幅が6℃の、エチレン・1-ヘキセン共重合体、又は、MFRが3g/10分、密度が0.916g/cm^(3)、1-ヘキセン含量が8%、TREF溶出曲線のピーク温度が74℃、H/Wが6、H/W温度幅が23℃のエチレン・1-ヘキセン共重合体」と、本件発明1の「0.940g/cc以下の密度、62%以下の結晶化度、及び20以下のMz/Mn比を有するエチレン系ポリマー」とは、0.940g/cc以下の密度のエチレン系ポリマーの限りで一致する。

そうすると、本件発明1と甲3発明とは、以下の点で一致し、相違する。
<一致点>
「多層構造から中空成形された容器であって、
0.940g/cc以下の密度のエチレン系ポリマーを含む、製品に面する内層を備える、容器。」

<相違点6>
0.940g/cc以下の密度のエチレン系ポリマーについて、本件発明1は、「62%以下の結晶化度、及び20以下のMz/Mn比を有する」のに対して、甲3発明は、結晶化度及びMz/Mn比が不明である点。
<相違点7>
本件発明1は、「前記製品に面する内層は、40nm以下の小規模二乗平均平方根粗さを有する」のに対して、甲3発明は、そのように特定されていない点。

C 判断
ここで、上記相違点について検討する。
<相違点6について>
甲3発明のエチレン・1-ヘキセン共重合体と甲第1号証の【0255】の表1とを比較すると、甲第1号証には、20以下のMz/Mn比を有するエチレン・1-ヘキセン共重合体が記載されていないから、甲3発明のエチレン・1-ヘキセン共重合体のMz/Mn比が、20以下であるとする理由がない。
そして、甲第1、2、4号証にも、Mz/Mn比が20以下のエチレン系ポリマーを内層に用いることは記載されていない。
したがって、甲3発明の内層として、20以下のMz/Mn比を有するエチレン系ポリマーを用いるいることは、容易に想到し得たものでない。

D 小括
したがって、相違点7について検討するまでもなく、本件発明1は、甲3発明及び甲第1、2、4号証記載の事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

エ 甲第4号証を主引用例とした場合の本件発明1の進歩性について
A 甲第4号証に記載された発明
甲第4号証には、以下の記載がある。
・「【請求項1】最外層樹脂としてポリエステル系樹脂、中間層として接着性樹脂、最内層樹脂として密度が0.94以下のポリエチレン樹脂を用いたことを特徴とする少なくとも3種3層の樹脂構成からなる多層プラスチック容器。」
・「【0015】
【実施例】
<実施例1>3本のスクリュー押出機を有する多層ブロー成形機を用いて、スクリューAには、非結晶性ポリエチレンテレフタレート樹脂、スクリューBには、中間層としてグリシジルメタクリレート/エチレン共重合体(エチレン88%含有)を、スクリューCには、密度0.938のポリエチレン樹脂を供給し、下記条件で可塑化押出しし、同時合流タイプのヘッドを介して積層パリソンを成形し、該パリソンをブロー成形金型中にはさみ、パリソン上部を切断後、圧縮空気を用いてブロー成形を行い、500mlの円筒形状の容器を得た。容器重量は35gであった。得られたボトルは表面光沢性、落下衝撃性に優れた性能を有していた。(表1)に落下衝撃強度の試験結果を示す。
【0016】

【0017】<実施例2>3本のスクリュー押出機を有する多層ブロー成形機を用いて、スクリューAには、非結晶性ポリエチレンテレフタレート樹脂、スクリューBには、中間層としてグリシジルメタクリレート/エチレン共重合体(エチレン88%含有)を、スクリューCには、密度0.922の低密度ポリエチレンを用い、下記条件で可塑化押出しし、同時合流タイプのヘッドを介して積層パリソンを成形し、該パリソンをブロー成形金型中にはさみ、パリソン上部を切断後、圧縮空気を用いてブロー成形を行い、500mlの円筒形状の容器を得た。容器重量は35gであった。得られたボトルは表面光沢性、落下衝撃性に優れた性能を有していた。(表1)に落下衝撃強度の試験結果を示す。
【0018】

【0019】<実施例3>最内層として密度0.924の直鎖状低密度ポリエチレンを用いた以外は、実施例2と同様の条件で成形を行い、800mlの偏平形状の容器を得た。容器重量は54gであった。得られたボトルは表面光沢性、落下衝撃性に優れた性能を有していた。(表1)に落下衝撃強度の試験結果を示す。」

そうすると、甲第4号証の実施例1?3の樹脂を用いた中空成形された樹脂製容器に着目すると、甲第3号証には、以下の発明(以下「甲3発明」という。)が記載されている。
「最外層樹脂としてポリエステル系樹脂、中間層として接着性樹脂、最内層樹脂として密度が0.938、0.922又は0.924のポリエチレン樹脂を用いて、ブロー成形された500mlの円筒形状の容器。」

B 対比
本件発明1と甲4発明とを対比する。
・甲4発明の「ブロー成形された500mlの円筒形状の容器」は、「最外層」、「中間層」及び「最内層」からなるから、本件発明1の「多層構造から中空成形された容器」に相当する。
・甲4発明の「最内層樹脂として密度が0.938、0.922又は0.924のポリエチレン樹脂」と本件発明1の「0.940g/cc以下の密度、62%以下の結晶化度、及び20以下のMz/Mn比を有するエチレン系ポリマー」とは、0.940g/cc以下の密度のエチレン系ポリマーの限りで一致する。

そうすると、本件発明1と甲4発明とは、以下の点で一致し、相違する。
<一致点>
「多層構造から中空成形された容器であって、
0.940g/cc以下のエチレン系ポリマーを含む、製品に面する内層を備える、容器。」

<相違点8>
0.940g/cc以下の密度のエチレン系ポリマーについて、本件発明1は、「62%以下の結晶化度、及び20以下のMz/Mn比を有する」のに対して、甲4発明は、結晶化度及びMz/Mn比が不明である点。
<相違点9>
本件発明1は、「前記製品に面する内層は、40nm以下の小規模二乗平均平方根粗さを有する」のに対して、甲4発明は、そのように特定されていない点。

C 判断
ここで、上記相違点について検討する。
<相違点8について>
甲4発明のポリエチレン樹脂と甲第1号証の【0255】の表1とを比
較すると、甲第1号証には、20以下のMz/Mn比を有するポリエチレン樹脂が記載されていないから、甲4発明のポリエチレン樹脂のMz/Mn比が、20以下であるとする理由はない。
そして、甲第1?3号証にも、Mz/Mn比が20以下のエチレン系ポリマーを内層に用いることは記載されていない。
したがって、甲4発明の内層として、20以下のMz/Mn比を有するエチレン系ポリマーを用いるいることは、容易に想到し得たものでない。

D 小括
したがって、相違点9について検討するまでもなく、本件発明1は、甲3発明及び甲第1?3号証記載の事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

オ 本件発明2?8の進歩性について
本件発明2?8は、本件発明1の技術的事項を全て含み、さらに限定を加えるものであるから、上記ア?エで検討したのと同じ理由により、甲1?4発明及び甲第1?4号証記載の事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。


第5 むすび
以上のとおり、取消理由通知に記載した取消理由によっては、本件発明1?8に係る特許を取り消すことはできない。
また、請求項9に係る特許は、本件訂正により、削除されたため、本件特許の請求項9に対して、申立人がした特許異議の申立てについては、対象となる請求項が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。

 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多層構造から中空成形された容器であって、
0.940g/cc以下の密度、62%以下の結晶化度、及び20以下のMz/Mn比を有するエチレン系ポリマーを含む、製品に面する内層を備え、
前記製品に面する内層は、40nm以下の小規模二乗平均平方根粗さを有する、容器。
【請求項2】
前記製品に面する内層は、30nm以下の小規模二乗平均平方根粗さを有する、請求項1に記載の容器。
【請求項3】
前記製品に面する内層は、25nm以下の小規模二乗平均平方根粗さを有する、請求項1または2に記載の容器。
【請求項4】
前記エチレン系ポリマーは、0.930g/cc以下の密度を有する、請求項1?3のいずれか1項に記載の容器。
【請求項5】
前記エチレン系ポリマーは、0.915?0.930g/ccの密度を有する、請求項1?4のいずれか1項に記載の容器。
【請求項6】
前記エチレン系ポリマーは、56%以下の結晶化度を有する、請求項1?5のいずれか1項に記載の容器。
【請求項7】
前記製品に面する内層は、0.950g/ccを超える密度を有するオレフィン系ポリマーから形成されるオレフィン系ポリマー外層と共に共押出される、請求項1?6のいずれか1項に記載の容器。
【請求項8】
前記製品に面する内層の厚さは、前記多層構造の全体の厚さの5?50%である、請求項1?7のいずれか1項に記載の容器。
【請求項9】(削除)
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2021-09-14 
出願番号 特願2017-522504(P2017-522504)
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (B65D)
P 1 651・ 536- YAA (B65D)
P 1 651・ 537- YAA (B65D)
P 1 651・ 113- YAA (B65D)
最終処分 維持  
前審関与審査官 新田 亮二田中 佑果  
特許庁審判長 井上 茂夫
特許庁審判官 藤原 直欣
佐々木 正章
登録日 2020-01-17 
登録番号 特許第6648131号(P6648131)
権利者 ダウ グローバル テクノロジーズ エルエルシー
発明の名称 低い製品保持率を有する中空成形多層容器  
代理人 小林 浩  
代理人 鈴木 康仁  
代理人 鈴木 康仁  
代理人 片山 英二  
代理人 大森 規雄  
代理人 大森 規雄  
代理人 田村 恭子  
代理人 小林 浩  
代理人 片山 英二  
代理人 田村 恭子  

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