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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  F16L
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  F16L
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  F16L
審判 全部申し立て 特17条の2、3項新規事項追加の補正  F16L
管理番号 1379811
異議申立番号 異議2020-700251  
総通号数 264 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-12-24 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-04-10 
確定日 2021-09-30 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6595787号発明「多層配管」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6595787号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-4〕、5について訂正することを認める。 特許第6595787号の請求項1ないし5に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6595787号の請求項1?5に係る特許についての出願は、平成27年4月3日に出願され、令和1年10月4日にその特許権の設定登録がされ、令和1年10月23日に特許掲載公報が発行された。本件異議申立ての経緯は、次のとおりである。
令和 2年 4月10日:特許異議申立人奥村一正(以下「申立人」という。)による請求項1?5に係る特許に対する特許異議の申立て
同年 6月25日付け :取消理由通知書
同年 8月27日 :特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
同年 9月14日付け :手続補正指令書(方式)
同年10月 9日 :特許権者による手続補正書(方式)の提出
同年10月23日 :訂正請求があった旨の通知(特許法第120条の5第5項)
同年11月26日 :申立人による意見書の提出
同年12月25日付け :訂正拒絶理由通知書
令和 3年 2月 9日:特許権者による意見書及び手続補正書の提出
同年 3月19日付け :取消理由通知書(決定の予告)
同年 5月21日 :特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
同年 5月28日 :訂正請求があった旨の通知(特許法第120条の5第5項)
同年 7月 5日 :申立人による意見書の提出
なお、特許法120条の5第7項の規定により、令和2年8月27日にされた訂正の請求は取り下げられたものとみなす。

第2 訂正の適否
1 令和3年5月21日の訂正請求書による訂正(以下「本件訂正」という。)の内容は、次の事項からなる(なお、下線を付した箇所は訂正箇所である。)。
(1) 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1の「軸心から外周の方向に、少なくとも、第1層、第2層および第3層を含み、前記第2層の厚みは、多層配管の総厚みに対して50%以上80%以下であり、」を、「軸心から外周の方向に、少なくとも、第1層、第2層および第3層を含む多層配管であって、前記第2層の厚みは、前記多層配管の総厚みに対して50%以上80%以下であり、」と訂正する。
(2) 訂正事項2
特許請求の範囲の請求項1の「前記ガラス繊維が前記第1層の外周に沿う方向に配向されており、」を、「前記ガラス繊維が前記第1層の周方向に沿う方向に配向されており、」と訂正する。
(3) 訂正事項3
特許請求の範囲の請求項1の「前記ガラス繊維は、少なくとも80%の配向方向が、前記ガラス繊維の中点と前記軸心とを結んだ直線の垂線方向に対して±15°以内であり、」を、「前記ガラス繊維は、前記軸心に垂直な面で前記多層配管を切断した場合の断面において、前記ガラス繊維の平均繊維長の10%以上の長さを有する繊維のうち、少なくとも80%の配向方向が、前記ガラス繊維の中点と前記軸心とを結んだ前記多層配管の径方向の直線の垂線に対して±15°以内であり、」と訂正する。
(4) 訂正事項4
特許請求の範囲の請求項1の「前記第2層がポリオレフィン系樹脂とガラス繊維とを含む繊維強化樹脂層であり、」を、「前記第2層が、ポリオレフィン系樹脂と、繊維長が0.1mm以上3mm以下のガラス繊維と、シラン変性ポリオレフィンと、を含む繊維強化樹脂層であり、」と訂正する。
(5) 訂正事項5
特許請求の範囲の請求項1に「前記第2層に含まれる前記ガラス繊維の量は20重量%以上50重量%以下であり、前記第2層に含まれる前記シラン変性ポリオレフィンの量は2重量%以上9重量%以下であり、」を追加する。
(6) 訂正事項6
特許請求の範囲の請求項5の「軸心から外周の方向に、少なくとも、第1層、第2層および第3層を含み、前記第2層の厚みは、多層配管の総厚みに対して50%以上80%以下であり、」を、「軸心から外周の方向に、少なくとも、第1層、第2層および第3層を含む多層配管であって、前記第2層の厚みは、前記多層配管の総厚みに対して50%以上80%以下であり、」と訂正する。
(7) 訂正事項7
特許請求の範囲の請求項5の「前記ガラス繊維が前記第1層の外周に沿う方向に配向されており、」を、「前記ガラス繊維が前記第1層の周方向に沿う方向に配向されており、」と訂正する。
(8) 訂正事項8
特許請求の範囲の請求項5の「前記ガラス繊維は、少なくとも80%の配向方向が、前記ガラス繊維の中点と前記軸心とを結んだ直線の垂線方向に対して±15°以内であり、」を、「前記ガラス繊維は、前記軸心に垂直な面で前記多層配管を切断した場合の断面において、前記ガラス繊維の平均繊維長の10%以上の長さを有する繊維のうち、少なくとも80%の配向方向が、前記ガラス繊維の中点と前記軸心とを結んだ前記多層配管の径方向の直線の垂線に対して±15°以内であり、」と訂正する。
(9) 訂正事項9
特許請求の範囲の請求項5の「前記第2層がポリオレフィン系樹脂とガラス繊維とを含む繊維強化樹脂層であり、」を、「前記第2層が、ポリオレフィン系樹脂と、繊維長が0.1mm以上3mm以下のガラス繊維と、シラン変性ポリオレフィンと、を含む繊維強化樹脂層であり、」と訂正する。
(10) 訂正事項10
特許請求の範囲の請求項5に「前記第2層に含まれる前記ガラス繊維の量は20重量%以上50重量%以下であり、前記第2層に含まれる前記シラン変性ポリオレフィンの量は2重量%以上9重量%以下であり、」を追加する。

2 訂正の目的の適否、新規事項の追加の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1) 訂正事項1
ア 訂正の目的について
訂正事項1は、「軸心から外周の方向に、少なくとも、第1層、第2層および第3層を含み、」を、「軸心から外周の方向に、少なくとも、第1層、第2層および第3層を含む多層配管であって、」とすることにより、「軸心から外周の方向に、少なくとも、第1層、第2層および第3層を含む」ものが、「多層配管」であることを明確にするものである。また、この訂正にともない、その後に記載される「多層配管」について、「前記多層配管」として、記載を整合させるものである。
したがって、訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
イ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
訂正事項1について、本件特許明細書には、「上記本発明の目的を達成するために、本発明は以下の発明を含む。
(1)
本発明の多層配管は、軸心から外周の方向に、少なくとも、第1層、第2層および第3層を含む。」(【0008】)、
「[多層配管]
(基本構成)
図1は、本発明の一実施形態の多層配管を、軸心に垂直な面で切断した場合の模式的断面図である。図2は、図1の四角囲み部分の模式的拡大断面図である。
・・・多層配管100は、軸心Oから外周の方向に、第1層110、第2層120および第3層130が積層されている。第1層110、第2層120および第3層130は、たとえば共押出層であってよい。それぞれの層の間には、接着剤層などを介在してもよい。また、多層配管100がさらに1または2以上の他の層を含んでいてもよい。」(【0019】)、「多層配管100の製造方法としては、第1層110を製造するための樹脂組成物、第2層120を製造するための樹脂組成物、第3層130を製造するための樹脂組成物を調製し、第2層120を製造するための樹脂組成物を、成型管の周方向に相当する方向へ流動させることが可能な方法を特に限定することなく用いることができる。たとえば、多層配管100は、次の方法によって製造することができる。」(【0060】)と記載され、多層配管が「軸心から外周の方向に、少なくとも、第1層、第2層および第3層を含む」ものであることが記載されている(当審注:「・・・」は、記載の省略を意味する。以下同様である。)。
よって、訂正事項1は、これらの記載に基づく訂正であるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した範囲内の訂正である。
したがって、訂正事項1は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項の規定に適合するものである。
ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
訂正事項1は、上記アのように訂正前の請求項1における記載を明確なものとするものであって、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものに該当しない。
したがって、訂正事項1は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項の規定に適合するものである。
(2) 訂正事項2
ア 訂正の目的について
訂正事項2は、「前記ガラス繊維」が「外周に沿う」としていたものを、「周方向に沿う」として、ガラス繊維が沿う方向が周方向であることを明確にするものである。
したがって、訂正事項2は、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
イ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
訂正事項2について、本件特許明細書には、「このように、第2層に周方向の配向層を含むことにより、耐圧性能を有する。」(【0009】)、「製造された三層配管の、軸心に垂直な面で切断した断面を、日本電子社製走査電子顕微鏡JSM-671Fを用い、蒸着厚み10nm、加速電圧15kV、倍率25倍の条件で目視観察し、ガラス繊維が周方向に配向していることを確認した。」(【0065】)と記載されている。
よって、訂正事項2は、これらの記載に基づく訂正であるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した範囲内の訂正である。
したがって、訂正事項2は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項の規定に適合するものである。
ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
訂正事項2は、上記アのように訂正前の請求項1における記載を明確なものとするものであって、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものに該当しない。
したがって、訂正事項2は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項の規定に適合するものである。
(3) 訂正事項3
ア 訂正の目的について
訂正事項3は、訂正前の「前記ガラス繊維は、少なくとも80%の配向方向が、前記ガラス繊維の中点と前記軸心とを結んだ直線の垂線方向に対して±15°以内であり、」における「配向方向」について、「前記軸心に垂直な面で前記多層配管を切断した場合の断面にお」けるものであること、同じく「少なくとも80%」の「ガラス繊維」は、「前記ガラス繊維の平均繊維長の10%以上の長さを有する繊維のうち、少なくとも80%」であることを明確にするものである。
したがって、訂正事項3は、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
イ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること 訂正事項3について、本件特許明細書には、「[第2層]
第2層120は、マトリックス樹脂と繊維とを含む繊維強化樹脂層である。第2層120は配向層によって構成される。」(【0032】)、「(配向層)
第2層120では、繊維が第1層110の外周に沿う方向に配向されている。具体的には、軸心Oに垂直な面で多層配管100を切断した場合の断面において、繊維の平均繊維長の10%以上の長さを有する繊維のうち、少なくとも10%、好ましくは少なくとも15%、より好ましくは少なくとも80%のものの方向が、繊維の中点と軸心Oとを結んだ直線の垂線方向に対して±15°以内に収まっている。このような配向層を第2層120として含むことによって、多層配管100が良好な耐圧性能を有する。」(【0033】)と記載されている。
よって、訂正事項3は、これらの記載に基づく訂正であるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した範囲内の訂正である。
したがって、訂正事項3は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項の規定に適合するものである。
ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
訂正事項3は、上記アのとおり、訂正前の請求項1における記載を明確なものとするものであって、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものに該当しない。
したがって、訂正事項3は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項の規定に適合するものである。
(4) 訂正事項4
ア 訂正の目的について
訂正事項4は、「前記第2層」の「繊維強化樹脂層」に含まれる「ガラス繊維」について、「繊維長が0.1mm 以上3mm以下」であることを特定し、さらに、当該「繊維強化樹脂層」「シラン変性ポリオレフィン」を含むことを特定するものである。また、当該訂正にともない、「前記第2層が」の後に、読点(、)を挿入し、文意を明瞭にするものである。
したがって、訂正事項4は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮及び特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
イ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
訂正事項4について、本件特許明細書には、「ガラス繊維は短繊維、すなわち不連続長繊維であり、その繊維長はたとえば0.01mmから20mm以下、好ましくは0.05mm以上10mm以下である。繊維長が上記下限値以上であることにより、好ましい耐圧性能を得ることができる。繊維長が上記上限値以下であることにより、繊維を配向させ易い。さらに、ガラス繊維の繊維長をこの範囲内とすることにより、成形体の強度、寸法安定性を高め、高温下での伸び率を向上させることができる。以上の効果をより一層高める観点からは、ガラス繊維の繊維長は好ましくは0.1mm以上3mm以下である。なお、繊維長とは、第2層120に含まれる繊維の長さの平均(すなわち平均繊維長)を意味する。」(【0037】)と記載され、また、「第2層120には相溶化剤が含まれてよい。相溶化剤としては、たとえば、変性ポリオレフィンおよび塩素化ポリオレフィンなどが挙げられる。変性ポリオレフィンとしては、たとえば、マレイン酸変性ポリオレフィンおよびシラン変性ポリオレフィンなどが挙げられる。相溶化剤は、1種を単独で用いても良いし、2種以上を併用してもよい。第2層120に低線膨張係数を具備させる観点からは、相溶化剤はシラン変性ポリオレフィンであることが好ましく、さらに、繊維がガラス繊維であることが好ましい。」(【0044】)と記載されている。
よって、訂正事項4は、これらの記載に基づく訂正であるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した範囲内の訂正である。
したがって、訂正事項4は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項の規定に適合するものである。
ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
訂正事項4は、上記アのとおり、発明特定事項をさらに限定するものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものに該当しない。
したがって、訂正事項4は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項の規定に適合するものである。
(5) 訂正事項5
ア 訂正の目的について
訂正事項5は、特許請求の範囲の請求項1に「前記第2層に含まれる前記ガラス繊維の量は20重量%以上50重量%以下であり、前記第2層に含まれる前記シラン変性ポリオレフィンの量は2重量%以上9重量%以下であり、」を追加するものであり、当該訂正により、「前記第2層」に含まれる「ガラス繊維の量」について、「20重量%以上50重量%以下であ」ることを特定し、「前記第2層」に含まれる「シラン変性ポリオレフィンの量」について、「2重量%以上9重量%以下であ」ることを特定するものである。
したがって、訂正事項5は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
訂正事項5について、本件特許明細書には、「第2層120にガラス繊維を含ませることにより、第2層120の強度および寸法安定性を向上させることができる。さらに、第2層120に含まれるガラス繊維の量は、第2層120を製造するための樹脂組成物全体を100重量%として、10重量%以上60重量%未満である。ガラス繊維の量の下限を上述のとおりとすることにより、多層配管100の良好な耐圧性を効率よく得ることができる。また、ガラス繊維の量の上限を上述のとおりとすることにより、第2層120の破壊モードを延性的破壊へ遷移させ易くすることができる。したがって、第2層120の脆性的破壊を生じにくくさせることができる。このような効果をより一層効果的に高める観点からは、第2層120に含まれる繊維の量は、好ましくは20重量%以上50重量%以下である。」(【0040】)、「第2層120には相溶化剤が含まれてよい。相溶化剤としては、たとえば、変性ポリオレフィンおよび塩素化ポリオレフィンなどが挙げられる。変性ポリオレフィンとしては、たとえば、マレイン酸変性ポリオレフィンおよびシラン変性ポリオレフィンなどが挙げられる。相溶化剤は、1種を単独で用いても良いし、2種以上を併用してもよい。第2層120に低線膨張係数を具備させる観点からは、相溶化剤はシラン変性ポリオレフィンであることが好ましく、さらに、繊維がガラス繊維であることが好ましい。」(【0044】)、「なお、相溶化剤としての変性ポリオレフィンは、上述の収束剤としての変性ポリオレフィンとは区別される。第2層120に含まれる相溶化剤の量は、第2層120を製造するための樹脂組成物全体を100重量%として、たとえば1重量%以上10重量%以下である。相溶化剤の含有量をこのような範囲とすることによって、成形体の強度、寸法安定性及び高温下での伸び率を向上させることができる。成形体の強度、寸法安定性及び高温下での伸び率をより一層効果的に高める観点からは、第2層120に含まれる相溶化剤の量は、好ましくは2重量%以上9重量%以下である。」(【0045】)、「[実施例1] 第1層および第3層を製造するための樹脂組成物として、高密度ポリエチレン(PE100相当、密度0.94g/cm^(3))、第2層を製造するための樹脂組成物として、高密度ポリエチレン(PE100相当、密度0.94g/cm^(3)、65重量%)、ガラス繊維(チョップドストランド形状、繊維長3mm、繊維径13μm、オレフィン収束剤、シラン表面処理品、30重量%)、相溶化剤(シラン変性ポリエチレン、密度0.94?0.96g/cm^(3)、5重量%)を含む樹脂組成物を調製した。」(【0063】)と記載されている。
よって、訂正事項5は、これらの記載に基づく訂正であるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した範囲内の訂正である。
したがって、訂正事項5は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項の規定に適合するものである。
ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
訂正事項5は、上記アのとおり、発明特定事項をさらに限定するものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものに該当しない。
したがって、訂正事項5は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項の規定に適合するものである。
(6) 訂正事項6?10についての「訂正の目的について」、「願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること」及び「実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと」は、上記(1)?(5)で、訂正事項1?5について検討したことと、それぞれ同様である。
3 一群の請求項について
訂正事項1?5に係る訂正前の請求項1?4について、請求項2?4はそれぞれ請求項1を直接又は間接的に引用するものであって、訂正事項1?5によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。
訂正事項6?10は、訂正前の請求項5について、訂正するものである。
したがって、本件訂正は、訂正前の請求項〔1?4〕の一群の請求項及び訂正前の請求項5について請求されたものであるから、特許法第120条の5第4項の規定に適合するものである。
4 むすび
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第4項ないし第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1?4〕、5について訂正することを認める。

第3 本件発明
上記第2のとおり、本件訂正は認められるので、本件特許の請求項1?5に係る発明(以下、それぞれを「本件発明1」?「本件発明5」といい、総称して「本件発明」という。)は、本件特許請求の範囲の請求項1?5に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「【請求項1】
軸心から外周の方向に、少なくとも、第1層、第2層および第3層を含む多層配管であって、
前記第2層の厚みは、前記多層配管の総厚みに対して50%以上80%以下であり、
前記第1層および前記第3層がポリオレフィン系樹脂を主成分として構成された樹脂層であり、
前記第2層が、ポリオレフィン系樹脂と、繊維長が0.1mm以上3mm以下のガラス繊維と、シラン変性ポリオレフィンと、を含む繊維強化樹脂層であり、かつ、前記ガラス繊維が前記第1層の周方向に沿う方向に配向されており、
前記第2層に含まれる前記ガラス繊維の量は20重量%以上50重量%以下であり、前記第2層に含まれる前記シラン変性ポリオレフィンの量は2重量%以上9重量%以下であり、
前記ガラス繊維は、前記軸心に垂直な面で前記多層配管を切断した場合の断面において、前記ガラス繊維の平均繊維長の10%以上の長さを有する繊維のうち、少なくとも80%の配向方向が、前記ガラス繊維の中点と前記軸心とを結んだ前記多層配管の径方向の直線の垂線に対して±15°以内であり、
前記ガラス繊維の表面はシランカップリング処理が行われており、
下記式1で算出される円周応力が35MPa以下である、多層配管。

【請求項2】
前記ガラス繊維の表面は、メタクリルシラン、アクリルシラン、アミノシラン、イミダゾールシラン、ビニルシラン、または、エポキシシランにより処理されている、請求項1に記載の多層配管。
【請求項3】
前記ガラス繊維の表面は、アミノシランにより処理されている、請求項1または2に記載の多層配管。
【請求項4】
前記第2層は、変性ポリオレフィンまたは塩素化ポリオレフィンを含む、請求項1乃至3のいずれか1項に記載の多層配管。
【請求項5】
軸心から外周の方向に、少なくとも、第1層、第2層および第3層を含む多層配管であって、
前記第2層の厚みは、前記多層配管の総厚みに対して50%以上80%以下であり、
前記第1層および前記第3層がポリオレフィン系樹脂を主成分として構成された樹脂層であり、
前記第2層が、ポリオレフィン系樹脂と、繊維長が0.1mm以上3mm以下のガラス繊維と、シラン変性ポリオレフィンと、を含む繊維強化樹脂層であり、かつ、前記ガラス繊維が前記第1層の周方向に沿う方向に配向されており、
前記第2層に含まれる前記ガラス繊維の量は20重量%以上50重量%以下であり、前記第2層に含まれる前記シラン変性ポリオレフィンの量は2重量%以上9重量%以下であり、
前記ガラス繊維は、前記軸心に垂直な面で前記多層配管を切断した場合の断面において、前記ガラス繊維の平均繊維長の10%以上の長さを有する繊維のうち、少なくとも80%の配向方向が、前記ガラス繊維の中点と前記軸心とを結んだ前記多層配管の径方向の直線の垂線に対して±15°以内であり、
破壊水圧試験の耐圧性が6.8MPa以上であり、
前記ガラス繊維の表面には、メタクリルシラン、アクリルシラン、アミノシラン、イミダゾールシラン、ビニルシラン、または、エポキシシランによる表面処理層が形成され、
下記式1で算出される円周応力が35MPa以下である、多層配管。


第4 先に通知した取消理由の概要
理由1(新規事項)
本件特許は、令和1年5月27日付けの手続補正書による補正が、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「当初明細書等」という。)に記載した事項の範囲内においてしたものでなく、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであるから、同法第113条第1号に該当し、取り消すべきものである。

理由2(サポート要件)
本件特許の請求項1?5に係る特許は、特許請求の範囲の記載が不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。

理由3(明確性)
本件特許の請求項1?5に係る特許は、特許請求の範囲の記載が不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。

理由4(実施可能要件)
本件特許の請求項1?5に係る特許は、発明の詳細な説明の記載が不備のため、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。

理由5(進歩性)
本件特許の請求項1?5に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許の請求項1?5に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

第5 「第4」の先に通知した取消理由についての当審の判断
1 理由1(新規事項)について
令和1年5月27日付け手続補正書でした補正は、次の補正事項を含む補正である。
<補正事項>
「前記ガラス繊維は、少なくとも80%の配向方向が、前記ガラス繊維の中点と前記軸心とを結んだ直線の垂線方向に対して±15°以内であり、」(請求項1及び5)

上記補正事項について、当初明細書には次のとおり記載されている。ただし、下線は、理解の一助のために当審で付与した。
「【0010】
なお、上記(1)において、第1層および第3層には実質的に繊維を含んでいない。また、上記(1)におけるガラス繊維は、短繊維、つまり不連続長繊維である。さらに、「ガラス繊維が第1層の外周に沿う方向に配向された」とは、軸心に垂直な面で多層配管を切断した場合の断面において、ガラス繊維の平均繊維長の10%以上の長さを有する繊維のうち、少なくとも1%、好ましくは少なくとも15%、より好ましくは少なくとも80%のものの方向が、繊維の中点と軸心とを結んだ直線の垂線方向に対して±15°以内であることをいう。」
「【0033】
(配向層)
第2層120では、繊維が第1層110の外周に沿う方向に配向されている。具体的には、軸心Oに垂直な面で多層配管100を切断した場合の断面において、繊維の平均繊維長の10%以上の長さを有する繊維のうち、少なくとも10%、好ましくは少なくとも15%、より好ましくは少なくとも80%のものの方向が、繊維の中点と軸心Oとを結んだ直線の垂線方向に対して±15°以内に収まっている。このような配向層を第2層120として含むことによって、多層配管100が良好な耐圧性能を有する。」

そうしてみると、当初明細書等に記載された事項は、「繊維の平均繊維長の10%以上の長さを有する繊維のうち、」「少なくとも80%の配向方向が、前記ガラス繊維の中点と前記軸心とを結んだ直線の垂線方向に対して±15°以内であ」ることである。
そして、本件訂正により、本件発明1?5は、「前記ガラス繊維は、前記軸心に垂直な面で前記多層配管を切断した場合の断面において、前記ガラス繊維の平均繊維長の10%以上の長さを有する繊維のうち、少なくとも80%の配向方向が、前記ガラス繊維の中点と前記軸心とを結んだ前記多層配管の径方向の直線の垂線に対して±15°以内であ」るとの特定事項を含むこととなり、当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものではなくなった。
したがって、本件特許は、当初明細書等に記載した事項の範囲内の補正をした特許出願に対してされたものであり、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものではなく、同法第113条第1号に該当せず、取り消すことはできない。

2 理由2(サポート要件)について
上記「理由1」で示したとおり、本件発明1及び2は、「前記ガラス繊維は、前記軸心に垂直な面で前記多層配管を切断した場合の断面において、前記ガラス繊維の平均繊維長の10%以上の長さを有する繊維のうち、少なくとも80%の配向方向が、前記ガラス繊維の中点と前記軸心とを結んだ前記多層配管の径方向の直線の垂線に対して±15°以内であ」るとの特定事項を含むものとなり、当該事項は、上記【0010】及び【0033】に記載されているから、本件発明1及び5は、発明の詳細な説明に記載されたものである。
このことは、本件発明1の発明特定事項を包含する本件発明2?4についても同様である。
したがって、本件発明1?5は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものではなく、同法第113条第4号に該当せず、取り消すことはできない。

3 理由3(明確性)について
(1) 訂正後の本件発明1及び5は、「前記第2層が、ポリオレフィン系樹脂と、繊維長が0.1mm以上3mm以下のガラス繊維と、シラン変性ポリオレフィンと、を含む繊維強化樹脂層であり、かつ、前記ガラス繊維が前記第1層の周方向に沿う方向に配向されており、
前記第2層に含まれる前記ガラス繊維の量は20重量%以上50重量%以下であり、前記第2層に含まれる前記シラン変性ポリオレフィンの量は2重量%以上9重量%以下であり、
前記ガラス繊維は、前記軸心に垂直な面で前記多層配管を切断した場合の断面において、前記ガラス繊維の平均繊維長の10%以上の長さを有する繊維のうち、少なくとも80%の配向方向が、前記ガラス繊維の中点と前記軸心とを結んだ前記多層配管の径方向の直線の垂線に対して±15°以内であ」るとの事項を含むものとなり、「前記ガラス繊維が前記第1層の周方向に沿う方向に配向されて」いること、「前記ガラス繊維は、前記軸心に垂直な面で前記多層配管を切断した場合の断面」において、「前記ガラス繊維の平均繊維長の10%以上の長さを有する繊維のうち、少なくとも80%の配向方向が、前記ガラス繊維の中点と前記軸心とを結んだ前記多層配管の径方向の直線の垂線に対して±15°以内であ」ることが特定されており、不明確とするところはない。
そして、当該特定事項に従い、多層配管の軸心に垂直な面で切断した断面の走査電子顕微鏡(SEM)写真に基づき、繊維の長さ、中点及び配向は特定できるものである。
また、平均繊維長は、当業者が、第2層に含まれる繊維の長さの平均として、樹脂成分を焼き飛ばして繊維のみを取り出し平均繊維長を特定できることを当業者が容易に理解できる程度のことである。そして、ガラス繊維の測定方法について、特段、長さの平均を求める算出方法について、具体的な記載がなされていないことからすると、通常の測定方法によるものと理解され、「ガラス繊維一般試験方法 JIS R 3420:2013」において、「20本の測定結果の算術平均を求め」るとされていること(「7.8.3 結果の表し方」参照)を参酌すると、ガラス繊維の繊維長は、数平均繊維長によるものと理解できる(以下、参考までに、「7.8.3 結果の表し方」を摘記する。)。



以上については、本件発明1の発明特定事項を包含する本件発明2?4及び同様な記載を有する本件発明5についても同様である。
したがって、本件発明1?5に係る特許請求の範囲の記載は明確であり、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものではなく、同法第113条第4号に該当せず、取り消すことはできない。

4 理由4(実施可能要件)について
訂正後の本件発明1及び5は、「前記第2層が、ポリオレフィン系樹脂と、繊維長が0.1mm以上3mm以下のガラス繊維と、シラン変性ポリオレフィンと、を含む繊維強化樹脂層であり、かつ、前記ガラス繊維が前記第1層の周方向に沿う方向に配向されており、
前記第2層に含まれる前記ガラス繊維の量は20重量%以上50重量%以下であり、前記第2層に含まれる前記シラン変性ポリオレフィンの量は2重量%以上9重量%以下であり、
前記ガラス繊維は、前記軸心に垂直な面で前記多層配管を切断した場合の断面において、前記ガラス繊維の平均繊維長の10%以上の長さを有する繊維のうち、少なくとも80%の配向方向が、前記ガラス繊維の中点と前記軸心とを結んだ前記多層配管の径方向の直線の垂線に対して±15°以内であ」るとの事項を含むものとなり、当該事項は、発明の詳細な説明の【0009】、【0032】、【0033】、【0065】に記載された事項であり、当業者がその実施するに際して、過度の試行錯誤を要するものでもない。
このことは、本件発明1の発明特定事項を包含する本件発明2?4についても同様である。
したがって、本件特許の発明の詳細な説明は、当業者が本件発明1?5を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものであり、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものではないから、同法第113条第4号に該当せず、取り消すことはできない。

5 理由5(進歩性)について
(1) 刊行物(特許異議申立書に添付された甲各号証)
甲第1号証 :特開平9-309140号公報
甲第3号証 :特開2001-304463号公報
甲第6号証 :特開2001-304462号公報
甲第12号証:特開平6-134904号公報
甲第13号証:特開2004-306265号公報

(2) 刊行物に記載された事項
ア 甲第1号証
(ア)甲第1号証には、以下の事項が記載されている(下線は、理解の一助のために当審が付与した。以下、同様である。)。
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、周方向の強度、剛性に優れたパイプ、ポール等に使用される管状体を製造する方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】この種の管状体としては、既に、金属により構成された管状体、ガラス繊維や炭素繊維を混合した繊維強化樹脂(FRP)により構成された管状体が提案されている。
【0003】特に、管状体の強度を大きくするために、成形時に分子を配向させたり、補強材を混入することが行なわれているが、例えば補強材として短繊維を用いて従来法により押出成形をした場合には、混入されている短繊維は押出方向に沿って配向するので、周方向の強度に関して短繊維を混入した補強効果が得られないという問題があった。
・・・
【0007】本発明の目的は、上記の従来技術の問題に鑑み、強化繊維により周方向に効率的に補強された周方向の強度・剛性に優れた管状体を連続的に成形する方法を提供しようとするにある。
・・・
【0040】本発明の方法により製造された図3に示す管状体成形品(55)について説明すると、管状体成形品(55)の内径および外径は、その用途に応じて適宜設定され、管状芯材(51)の厚みおよび樹脂被覆層(52)(53)の厚みは、管状体成形品(55)の内外径の範囲内で適宜設定できる。しかし、管状体成形品(55)の周方向の強度および剛性向上の効果を発現させるためには、管状芯材(51)の厚みは、0.5mm以上とするのが好ましく、通常、0.5?30.0mm、望ましくは1.0?20.0mmとする。また樹脂被覆層(52)(53)の厚みは、0.1mm以上とするのが好ましく、通常、0.1?5.0mm、望ましくは1.0?3.0mmとする。
【0041】本発明の方法によれば、強化繊維(40)と熱可塑性樹脂(41)とを含む樹脂溶融混合物を、第1押出機(11)よりクロスヘッドダイ(14)の円筒状第1流路(31)内に導入し、該円筒状第1流路(31)の内外両側のうち少なくとも一方に、樹脂の押出方向と同方向にのびる回転軸を中心として回転する回転型(22)を配置して、上記混合物を円筒状第1流路(31)を通過する間にねじりせん断を受けるように賦形することにより、繊維強化管状芯材(51)を形成し、ついで繊維強化管状芯材(51)を、上記円筒状第1流路(31)に連なりかつクロスヘッドダイ(14)の外型(21)前端部の固定壁部(21b) とこれの内側の固定内型(23)との間に形成された円筒状第2流路(32)内に導くとともに、第2流路(32)内において該管状芯材(51)の内外両面のうち少なくとも一方に、他の押出機(12)(13)からの溶融熱可塑性樹脂(42)(43)を被覆して、共押出により被覆層(52)(53)を有する繊維強化管状体(54)を製造するので、管状芯材(51)中の強化繊維(40)が周方向に効率良く配向され、ひいては周方向の強度、剛性が改善された管状体成形品(55)を得ることができる。
・・・
【0044】実施例1
本発明の方法により図3に示す強化繊維(40)と熱可塑性樹脂(41)とよりなる管状芯材(51)の外周面に、熱可塑性樹脂被覆層(52)(53)が設けられた管状体成形品(55)を製造した。
・・・
【0047】ここで、管状芯材(51)の強化繊維(40)としては、直径10μm、長さ3mmのガラス繊維チョップドストランド(日東紡績社製、CS3E-471S)を用い、熱可塑性樹脂(41)としては、ポリエチレン(昭和電工社製、TR418)を用いた。
【0048】なお、ポリエチレンに対するガラス繊維の混合量を10重量%とし、タンブラーミキサーによりポリエチレンとガラス繊維との予備混合を行った。
・・・
【0053】そして、該円筒状第2流路(32)内において該管状芯材(51)の内周面及び外周面に、それぞれスクリュー径40mmの単軸押出機よりなる他の第2及び第3押出機(12)(13)から、第2および第3熱可塑性樹脂(42)(43)として、上記熱可塑性樹脂(41)と同じポリエチレンよりなるものを、180℃の樹脂温度で押し出した。
・・・
【0055】そして、円筒状第2流路(32)の内周部分に管状芯材(51)の軸方向と平行な内部流路(33)を経て、内側の溶融熱可塑性樹脂(42)が導入され、かつ第2流路(32)の外周部分に分岐流路(マニホルド)(35)を経て、溶融熱可塑性樹脂(43)が円筒状に展開されて導入されて、共押出により管状芯材(51)の内外両側に熱可塑性樹脂被覆層(52)(53)が設けられて、樹脂被覆繊維強化管状体(54)が成形された。」
「【図3】



(イ) 上記(ア)の記載事項を総合すると、甲第1号証には、以下の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
「管状芯材(51)の内外両側に熱可塑性樹脂被覆層(52)(53)が設けられており、
管状芯材(51)の厚みは、望ましくは1.0?20.0mmであり、また樹脂被覆層(52)(53)の厚みは、望ましくは1.0?3.0mmであり、
樹脂被覆層(52)(53)はポリエチレンよりなる熱可塑性樹脂であり、
管状芯材(51)の強化繊維(40)として、直径10μm、長さ3mmのガラス繊維チョップドストランドを用い、熱可塑性樹脂(41)として、ポリエチレンを用い、ポリエチレンに対するガラス繊維の混合量を10重量%とし、かつ、管状芯材(51)中の強化繊維(40)が周方向に効率良く配向され、ひいては周方向の強度、剛性が改善された、樹脂被覆繊維強化管状体(54)。」
イ 甲第3号証
甲第3号証には、以下の事項が記載されている。
「【請求項1】合成樹脂と繊維状フィラーを含む組成物からなる繊維強化樹脂製パイプであって、繊維状フィラーがパイプ表面と平行な面に沿って面配向していることを特徴とする繊維強化樹脂製パイプ。
・・・
【請求項4】繊維状フィラーがガラス繊維であることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の繊維強化樹脂製パイプ。
【請求項5】合成樹脂がポリオレフィン、ポリアミド、ポリアリーレンスルフィド及びポリ塩化ビニルからなる群から選ばれた少なくとも1種である請求項1ないし4のいずれかに記載の繊維強化樹脂製パイプ。」
「【0013】本発明で用いられる合成樹脂としては、特に限定されず、公知の熱可塑性、熱硬化性の合成樹脂を用いることができる。
【0014】具体的に、熱可塑性樹脂としては、高密度ポリエチレン、超高分子量ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン等のポリオレフィン、1-ブテン、1-ヘキセン、1-オクテン等のα-オレフィンとエチレンまたはプロピレンとの共重合体等のオレフィン系共重合体、ポリスチレン、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体、スチレン-無水マレイン酸共重合体、スチレン-フェニルマレイミド共重合体等のスチレン系樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル、ポリアミド6、ポリアミド11、ポリアミド12、ポリアミド4・6、ポリアミド6・6、ポリアミド6・10、ポリアミド6・12、ポリアミド6T、ポリアミド6I、ポリアミド6T/6I、ポリアミドMXD6、ポリアミド6/6・6共重合体、ポリアミド6/6・10等のポリアミド、ポリ塩化ビニル、ポリアリーレンスルフィド、ポリメチルメタクリレート、ポリサルホン、ポリカーボネート、ポリフェニレンエーテル系樹脂、ポリアセタール、ポリアミドイミド、ポリアリレート、ポリエーテルサルホン、ポリエーテルイミド、ポリエーテルエーテルケトン、フッ素含有エチレン系共重合体等が挙げられる。
・・・
【0016】上記の合成樹脂は、単独または二種以上を組み合わせて用いることができる。また組合せてもちいる場合に、無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水シトラコン酸、エンドビシクロ-[2,2,1]-ヘプト-5-エン-2,3-ジカルボン酸無水物等の不飽和ジカルボン酸無水物によりポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィンをグラフト等により変性した変性ポリオレフィン樹脂をはじめとする各種の変性樹脂を添加したものも用いることができる。また、変性ポリオレフィン樹脂はパイプが多層の場合の接着層としても用いることができる。
・・・
【0020】また、繊維状フィラーは合成樹脂との接着性を改良するため、各種の表面処理を施すことが好ましい。表面処理に使用される表面処理剤としては、例えば、シランカップリング剤、チタネート系カップリング剤、アルミネート系カップリング剤等が挙げられる。
・・・
【0038】比較例
実施例と同様の方法で溶融混練したペレットを作成し、外径32mmのパイプ用ダイを取りつけたφ32mm単軸押出機を用いて押出成形を行った。押出成形はシリンダー温度220℃で可塑化し、ダイ温度220℃で溶融状態で押出した後、外径32mm、厚さ2mmになるように、押出機の吐出量及び引取機の引取速度を調整した。押出されたパイプは、サイザー及びシャワー式の冷却装置を通った後、キャタピラ式引取機で引取られ、所定の長さに切断された。
・・・
【0040】
【表1】


ウ 甲第6号証
甲第6号証には、以下の事項が記載されている。
「【請求項1】ポリアミド樹脂と繊維状フィラーを含む組成物からなる繊維強化樹脂製パイプであって、繊維状フィラーがパイプ表面と平行な面に沿って面配向していることを特徴とするヒートシステム用樹脂製パイプ。
・・・
【請求項4】繊維状フィラーがアミノシラン系カップリング剤で表面処理されたガラス繊維であることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載のヒートシステム用樹脂製パイプ。」
「【0015】本発明におけるガラス繊維としては、具体的には、従来からポリアミド樹脂等に配合されているものであり、特に制限はない。ガラス繊維の径は5μm?15μmが好ましい。また、パイプ中におけるガラス繊維の長さは長い方が良く、好ましくは平均アスペクト比10以上、更に好ましくは平均アスペクト比100以上である。ガラス繊維はポリアミド樹脂との接着性を改良するため、各種の表面処理を施すことが好ましい。
【0016】本発明におけるガラス繊維用の表面処理剤としては、例えば、シランカップリング剤、チタネート系カップリング剤、アルミネート系カップリング剤等が挙げられる。これらの表面処理剤のうち、好ましくはシランカップリング剤であり、より好ましくは、ポリアミド樹脂との相容性が良いと言う点から、アミノシラン系カップリング剤である。」
エ 甲第12号証
甲第12号証には、以下の事項が記載されている。
「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、強靭なプレート材料、各種製品を得るためのプレス成形用材料であるいわゆるスタンパブルシートにおいて一方向に高耐荷重強度を要求される成形部品をスタンピング成形するのに好適な繊維強化熱可塑性樹脂シートに関する。
・・・
【0011】熱可塑性樹脂としては、加熱により溶融軟化するポリオレフィン系樹脂が好ましく、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-プロピレンブロック共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体、マレイン酸グラフトポリプロピレン、アクリル酸グラフトポリプロピレン、シラン変性ポリエチレン等が使用される。また、これらのポリオレフィン系樹脂を混合して使用してもよい。その他、剛性の高い樹脂、例えば、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリアミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリフッ化ビニリデン、ポリフェニレンサルファイド、ポリフェニレンオキサイド、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルエーテルケトン等が用いられる。
【0012】また、前記の樹脂を主成分とする共重合体やグラフト樹脂や変性樹脂、例えば、エチレン-塩化ビニル共重合体、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体、ウレタン-塩化ビニル共重合体、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体、マレイン酸変性ポリエチレン、アクリル酸変性ポリプロピレン等も用いられる。そして、前記熱可塑性樹脂には、安定剤、滑剤、加工助剤、可塑剤、耐衝撃性改良剤、紫外線吸収剤、着色剤のような添加剤が配合されてもよい。」
オ 甲第13号証
甲第13号証には、以下の事項が記載されている。
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、強化繊維束が、繊維強化樹脂中間材の長手方向と所定の角度で配向して引き揃えられた繊維強化樹脂中間材の製造方法に関する。
・・・
【0014】<樹脂組成物> 本発明で使用する樹脂組成物は、繊維強化樹脂中間材を構成する樹脂として公知のものでよく、熱硬化性樹脂、熱硬化性樹脂のいずれであってもよい。 熱硬化性樹脂としては、特に制限はなく、一般に市販されている種々のものが使用可能であるが、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、ポリイミド樹脂等が挙げられる。
【0015】熱可塑性樹脂としては、特に制限はなく、一般に市販されている種々のものが使用可能であるが、加熱溶融軟化するポリオレフィン系樹脂が好ましく、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-プロピレンブロック共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体、マレイン酸グラフトポリプロピレン、アクリル酸グラフトポリプロピレン、シラン変性ポリエチレン等が使用される。また、これらの樹脂を混合して使用してもよい。
【0016】その他、剛性の高い樹脂、例えば、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリアミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリフッ化ビニリデン、ポリフェニレンサルファイド、ポリフェニレンオキサイド、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルエーテルケトン等が用いられる。耐溶剤性などの点からは、フッ素系樹脂(ETFE、PTFE、PVDF等)、フェニール樹脂等が用いられる。また、前記の樹脂を主成分とする共重合体やグラフト樹脂や変性樹脂、例えば、エチレン-塩化ビニル共重合体、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体、ウレタン-塩化ビニル共重合体、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体、マレイン酸変性ポリエチレン、アクリル酸変性ポリプロピレン等も用いられる。」
(3) 本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲1発明とを対比する。
(ア) 甲1発明の「管状芯材(51)の内外両側に熱可塑性樹脂被覆層(52)(53)が設けられて」いる点は、管状部材の内側から外側に向けて、熱可塑性樹脂被覆層(52)、管状芯材(51)、熱可塑性樹脂被覆層(53)と積層されていることであるから、本件発明1の「軸心から外周の方向に、少なくとも、第1層、第2層および第3層を含」む点に相当する。
(イ) 甲1発明の「樹脂被覆層(52)(53)はポリエチレンよりなる熱可塑性樹脂であ」る点は、本件発明1の「前記第1層および前記第3層がポリオレフィン系樹脂を主成分として構成された樹脂層であ」る点に相当する。
(ウ) 上記(ア)及び(イ)を踏まえると、甲1発明の「管状芯材(51)の強化繊維(40)として、直径10μm、長さ3mmのガラス繊維チョップドストランドを用い、熱可塑性樹脂(41)として、ポリエチレンを用い、ポリエチレンに対するガラス繊維の混合量を10重量%とし、かつ、管状芯材(51)中の強化繊維(40)が周方向に効率良く配向され、ひいては周方向の強度、剛性が改善された」点は、本件発明1の「前記第2層が、ポリオレフィン系樹脂と、繊維長が0.1mm以上3mm以下のガラス繊維と、シラン変性ポリオレフィンと、を含む繊維強化樹脂層であり、かつ、前記ガラス繊維が前記第1層の周方向に沿う方向に配向されており、
前記第2層に含まれる前記ガラス繊維の量は20重量%以上50重量%以下であり、前記第2層に含まれる前記シラン変性ポリオレフィンの量は2重量%以上9重量%以下であ」ることと、「前記第2層が、ポリオレフィン系樹脂と、繊維長が0.1mm以上3mm以下のガラス繊維と、を含む繊維強化樹脂層であり、かつ、前記ガラス繊維が前記第1層の周方向に沿う方向に配向されて」いる限りで一致する。
(エ) 甲1発明の「樹脂被覆繊維強化管状体(54)」は、「管状芯材(51)の内外両側に熱可塑性樹脂被覆層(52)(53)が設けられて」いるから、本件発明1の「多層配管」に相当する。
(オ) したがって、本件発明1と甲1発明とは、
「軸心から外周の方向に、少なくとも、第1層、第2層および第3層を含む多層配管であって、
前記第1層および前記第3層がポリオレフィン系樹脂を主成分として構成された樹脂層であり、
前記第2層が、ポリオレフィン系樹脂と、繊維長が0.1mm以上3mm以下のガラス繊維と、を含む繊維強化樹脂層であり、かつ、前記ガラス繊維が前記第1層の周方向に沿う方向に配向されている、
多層配管。」である点で一致し、以下の点で相違する。

[相違点1-1]
本件発明1においては、「前記第2層の厚みは、多層配管の総厚みに対して50%以上80%以下であ」るのに対し、甲1発明においては、「管状芯材(51)の厚みは、望ましくは1.0?20.0mmであり、また樹脂被覆層(52)(53)の厚みは、望ましくは1.0?3.0mmであ」る点。

[相違点1-2]
第2層について、本件発明1においては、「シラン変性ポリオレフィン」を含み、「前記第2層に含まれる前記ガラス繊維の量は20重量%以上50重量%以下であり、前記第2層に含まれる前記シラン変性ポリオレフィンの量は2重量%以上9重量%以下であ」るのに対し、甲1発明においては、「ポリエチレンに対するガラス繊維の混合量を10重量%」とされ、「シラン変性ポリオレフィン」の添加については特定されていない点。

[相違点1-3]
本件発明1においては「前記ガラス繊維は、前記軸心に垂直な面で前記多層配管を切断した場合の断面において、前記ガラス繊維の平均繊維長の10%以上の長さを有する繊維のうち、少なくとも80%の配向方向が、前記ガラス繊維の中点と前記軸心とを結んだ前記多層配管の径方向の直線の垂線に対して±15°以内であ」るのに対し、甲1発明においては、管状芯材(51)の強化繊維(40)が、そのような構成を有するか不明な点。

[相違点1-4]
本件発明1においては「前記ガラス繊維の表面はシランカップリング処理が行われて」いるのに対し、甲1発明においては、管状芯材(51)の強化繊維(40)の表面において、シランカップリング処理が行われるか不明な点。

[相違点1-5]
本件発明1においては、「下記式1で算出される円周応力が35MPa以下である」

のに対し、甲1発明においては、円周応力に関して上記式1に当てはめた場合の値が35MPa以下であるか不明な点。

イ 相違点に関する判断
(ア) 相違点1-1?相違点1-3及び相違点1-5は、相互に関連するので、纏めて以下に検討する。
甲1発明において、管状芯材(51)(本件発明1の「第2層」に相当する)の厚みは、樹脂被覆繊維強化管状体(54)の総厚みに対して約14%(管状芯材(51)の厚みを1.0mm、樹脂被覆層(52)(53)の厚みを3.0mmとした場合)?約91%(管状芯材(51)の厚みを20.0mm、樹脂被覆層(52)(53)の厚みを1.0mmとした場合)である。
また、甲1発明は、「管状芯材(51)中の強化繊維(40)が周方向に効率良く配向され、ひいては周方向の強度、剛性が改善された、樹脂被覆繊維強化管状体(54)」を得ることができるというものであるから、周方向の強度及び剛性を向上させるために、なるべく多くの強化繊維(40)を周方向に配向させることは、当業者が当然に考慮することである。
しかしながら、上記取消理由で通知した各甲号証には、第1層、第2層および第3層を含む多層管の第2層について、その厚みを多層配管の総厚みに対して50%以上80%以下とし、第2層に含まれるシラン変性ポリオレフィンの量を2重量%以上9重量%以下とし、第2層にガラス繊維を20重量%以上50重量%以下の範囲で含ませたものでも、軸心に垂直な面で多層配管を切断した場合の断面において、ガラス繊維の平均繊維長の10%以上の長さを有する繊維のうち、少なくとも80%の配向方向が、ガラス繊維の中点と軸心とを結んだ多層配管の径方向の直線の垂線に対して±15°以内とできることが記載されていない。このことは、他の各甲号証においても記載されていない。
そして、本件発明1は、「第2層にガラス繊維を20重量%以上50重量%以下の範囲で含ませたもの」であって、「軸心に垂直な面で多層配管を切断した場合の断面において、ガラス繊維の平均繊維長の10%以上の長さを有する繊維のうち、少なくとも80%の配向方向が、ガラス繊維の中点と軸心とを結んだ多層配管の径方向の直線の垂線に対して±15°以内とでき」たものが、水圧試験値が6.9MPaで、円周応力が35MPaとの結果を得られたというのであるから(本件特許明細書【0073】)、当業者が適宜なし得た事項であるともいえない。
そうしてみると、甲1発明において、相違点1-1?相違点1-3及び相違点1-5に係る本件発明1の構成を採用することが、当業者が容易に想到し得たものとすることはではない。
ウ 以上のとおりであるから、本件発明1は、甲1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(4) 本件発明2について
本件発明2と甲1発明とを対比すると、上記相違点1-1?相違点1-3及び相違点1-5に加えて、本件発明2が「前記ガラス繊維の表面は、メタクリルシラン、アクリルシラン、アミノシラン、イミダゾールシラン、ビニルシラン、または、エポキシシランにより処理されている」点(以下「相違点2-1」という。)で相違する。
そして、上記相違点1-1?相違点1-3及び相違点1-5は、上記「(3) 本件発明1について イ 相違点に関する判断」で検討したとおり、当業者が容易に想到し得たものではないので、本件発明2も、甲1発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(5) 本件発明3について
本件発明3と甲1発明とを対比すると、少なくとも上記相違点1-1?相違点1-3及び相違点1-5に加えて、本件発明3が「前記ガラス繊維の表面は、アミノシランにより処理されている」点(以下「相違点3-1」という。)で相違する。
そして、上記相違点1-1?相違点1-3及び相違点1-5は、上記「(3) 本件発明1について イ 相違点に関する判断」で検討したとおり、当業者が容易に想到し得たものではないので、本件発明3も、甲1発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(6) 本件発明4について
本件発明4と甲1発明とを対比すると、少なくとも上記相違点1-1?相違点1-3及び相違点1-5に加えて、本件発明4が「前記第2層は、変性ポリオレフィンまたは塩素化ポリオレフィンを含む、」点(以下「相違点4-1」という。)で相違する。
そして、上記相違点1-1?相違点1-3及び相違点1-5は、上記「(3) 本件発明1について イ 相違点に関する判断」で検討したとおり、当業者が容易に想到し得たものではないので、本件発明4も、甲1発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(7) 本件発明5について
本件発明5と甲1発明とを対比すると、上記相違点1-1?相違点1-3、相違点1-5及び相違点2-1に加えて、本件発明5が「破壊水圧試験の耐圧性が6.8MPa以上であ」る点(以下「相違点5-1」という。)で相違する。
そして、上記相違点1-1?相違点1-3及び相違点1-5は、上記「(3) 本件発明1について イ 相違点に関する判断」で検討したとおり、当業者が容易に想到し得たものではないので、本件発明5も、甲1発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
6 申立人の意見について
(1) 申立人は、令和3年7月5日の意見書において、概略、以下のことを述べている。
ア サポート要件違反について
本件発明に係る多層配管について円周応力の測定結果が示されているのは実施例1のみで、仮に本件発明に何らかの効果が奏されるとしても、かかる効果は実施例1以外の多層配管については不明であり、本件発明1?5の範囲全体にまで、実施例1の多層配管についての効果を拡張ないし一般化できるとも認められない。
明確性要件違反、実施可能要件違反
「長さ」および「中点」を特定することはできず、ガラス繊維の「繊維各々の長さ」を具体的にどのように測定するかについて記載されていなし、仮にガラス繊維の個々の長さが測定できるとしても、その長さの平均値である「平均繊維長」には、数平均、重量平均等のどのような平均値であるのか不明であるため、不明確であり、そのため、本件特許の発明の詳細な説明は、当業者が本件発明1?5を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものではない。
(2) そこで、以下に検討する。
ア 本件特許明細書には、
「【0005】
特開2006-327154号公報(特許文献1)に記載のポリオレフィン樹脂管は、ポリオレフィン樹脂本管の外周表面に薄いテープ状の保護層が施工されているに過ぎないため、耐圧性能に劣る。
【0006】
特開2007-216555号公報(特許文献2)に記載の繊維強化剛性樹脂パイプは、それぞれの層を構成するために様々な態様の特殊な繊維材料を何種類も用意する必要がある。
【0007】
本発明の目的は、耐圧性能を有し、特殊な材料を要さず構成される多層管を提供することにある。」と記載され、これらの記載から本件発明の課題は、「耐圧性能を有し、特殊な材料を要さず構成される多層管を提供すること」であるといえる。
そして、本件発明1及び5で特定される「前記第2層が、ポリオレフィン系樹脂と、繊維長が0.1mm以上3mm以下のガラス繊維と、シラン変性ポリオレフィンと、を含む繊維強化樹脂層であり、かつ、前記ガラス繊維が前記第1層の周方向に沿う方向に配向されており、
前記第2層に含まれる前記ガラス繊維の量は20重量%以上50重量%以下であり、前記第2層に含まれる前記シラン変性ポリオレフィンの量は2重量%以上9重量%以下であ」る実施例1で、円周応力が35(MPa)のものが示されていて、また、当該実施例1は、当然「少なくとも、第1層、第2層および第3層を含む多層管であって、前記第2層の厚みは、前記多層配管の総厚みに対して50%以上80%以下であ」り、その周の配向は、「前記ガラス繊維は、前記軸心に垂直な面で前記多層配管を切断した場合の断面において、前記ガラス繊維の平均繊維長の10%以上の長さを有する繊維のうち、少なくとも80%の配向方向が、前記ガラス繊維の中点と前記軸心とを結んだ前記多層配管の径方向の直線の垂線に対して±15°以内であ」るものが前提であると認められる。
また、本件発明1?5は、「軸心から外周の方向に、少なくとも、第1層、第2層および第3層を含む多層管であって、
前記第2層の厚みは、前記多層配管の総厚みに対して50%以上80%以下であり、
前記第1層および前記第3層がポリオレフィン系樹脂を主成分として構成された樹脂層であり、
前記第2層が、ポリオレフィン系樹脂と、繊維長が0.1mm以上3mm以下のガラス繊維と、シラン変性ポリオレフィンと、を含む繊維強化樹脂層であり、かつ、前記ガラス繊維が前記第1層の周方向に沿う方向に配向されており、
前記第2層に含まれる前記ガラス繊維の量は20重量%以上50重量%以下であり、前記第2層に含まれる前記シラン変性ポリオレフィンの量は2重量%以上9重量%以下であり、
前記ガラス繊維は、前記軸心に垂直な面で前記多層配管を切断した場合の断面において、前記ガラス繊維の平均繊維長の10%以上の長さを有する繊維のうち、少なくとも80%の配向方向が、前記ガラス繊維の中点と前記軸心とを結んだ前記多層配管の径方向の直線の垂線に対して±15°以内であり、
前記ガラス繊維の表面はシランカップリング処理が行われて」いるもの(以下「特定物A」という。)で、「下記式1で算出される円周応力が35MPa以下である、多層配管。

」を特定しているのであるから、上記特定物Aの各数値の範囲のもので、上記式1で35MPaを超えているものがあるとしても、当該のものは、円周応力が35MPa以下である条件を満たしていないから排除されることになるから、実施例1から一般化できないことをいう申立人の主張は採用できない。
イ 「長さ」、「中点」及び「平均繊維長」については、上記「3 理由3(明確性)について」において、検討したとおり、それぞれ、明確に特定することができるので、申立人の主張は採用できない。

第6 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
1 特許法第36条第6項第2号(明確性要件違反)
申立人は、特許異議申立書において、訂正前の特許請求の範囲に関し、「本発明の目的は、耐圧性能を有し、特殊な材料を要さず構成される多層管を提供することにある。」(【0007】)の記載からすると、請求項1及び請求項5に記載の「前記ガラス繊維の表面はシランカップリング処理が行われており、 下記式1で算出される円周応力が35MPa以下である、多層配管。

」との特定(以下「特定事項A」という。)は、技術的意義が明らかでなく、課題を解決し得るか否かが不明であるため、不明確である、と主張する。

2 特許法第36条第6項第1号(サポート要件違反)、特許法第36条第4項第1号(実施可能要件違反)
申立人は、特許異議申立書において、請求項1及び5に記載の特定事項A
について、本件特許明細書には、どのようにすれば円周応力が35MPa以下となる多層配管が得られるのかが開示されておらず、本願の発明の詳細な説明は、当業者が本件特許発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されていない、と主張する。
また、請求項1及び5に記載の特定事項Aについて本件特許明細書において確認できるのは実施例1のみであるから、実施例1以外の多層配管については課題が解決できるものか不明であるから、本件特許発明1ないし5は、発明の詳細な説明に開示された内容を超えるものであると主張する。

3 そこで、以下に検討する。
(1) 「第5 3 理由3(明確性)について」において、検討したとおり、本件発明1?5の特許請求の範囲の記載は明確であり、特許請求の範囲の記載は、文言上明確であって、特定事項Aについて、技術的意義が明らかでないことが直接影響するものでもない。
なお、特定事項Aは、「軸心から外周の方向に、少なくとも、第1層、第2層および第3層を含む多層配管であって、
前記第2層の厚みは、前記多層配管の総厚みに対して50%以上80%以下であり、
前記第1層および前記第3層がポリオレフィン系樹脂を主成分として構成された樹脂層であり、
前記第2層が、ポリオレフィン系樹脂と、繊維長が0.1mm以上3mm以下のガラス繊維と、シラン変性ポリオレフィンと、を含む繊維強化樹脂層であり、かつ、前記ガラス繊維が前記第1層の周方向に沿う方向に配向されており、
前記第2層に含まれる前記ガラス繊維の量は20重量%以上50重量%以下であり、前記第2層に含まれる前記シラン変性ポリオレフィンの量は2重量%以上9重量%以下であり、
前記ガラス繊維は、前記軸心に垂直な面で前記多層配管を切断した場合の断面において、前記ガラス繊維の平均繊維長の10%以上の長さを有する繊維のうち、少なくとも80%の配向方向が、前記ガラス繊維の中点と前記軸心とを結んだ前記多層配管の径方向の直線の垂線に対して±15°以内であ」る多層配管について、その有する円周応力について、「下記式1で算出される円周応力が35MPa以下である」「

」との特定をしていること自体は、不明確で理解できないというものではない。
したがって、上記1の特許法第36条第6項第2号(明確性要件違反)についての申立人の主張は採用できない。
(2) 本件特許明細書には、特定事項Aを備えた多層配管の製造方法について、以下の事項が記載されている。
「【0063】
[実施例1] 第1層および第3層を製造するための樹脂組成物として、高密度ポリエチレン(PE100相当、密度0.94g/cm^(3))、第2層を製造するための樹脂組成物として、高密度ポリエチレン(PE100相当、密度0.94g/cm^(3)、65重量%)、ガラス繊維(チョップドストランド形状、繊維長3mm、繊維径13μm、オレフィン収束剤、シラン表面処理品、30重量%)、相溶化剤(シラン変性ポリエチレン、密度0.94?0.96g/cm^(3)、5重量%)を含む樹脂組成物を調製した。
【0064】
これらの樹脂組成物を用いて、金型中間部分の流路が上流から下流に向けてトーナメント分岐(具体的には8分岐)した金型を用い、押出成型した。これによって、第2層の内外周表面に第1層および第3層が積層された三層配管を製造した。
【0065】
製造された三層配管の、軸心に垂直な面で切断した断面を、日本電子社製走査電子顕微鏡JSM-671Fを用い、蒸着厚み10nm、加速電圧15kV、倍率25倍の条件で目視観察し、ガラス繊維が周方向に配向していることを確認した。」



そうすると、上記【0063】及び【0064】に記載された事項に従い、多層配管を作成し、得られた多層配管について、その円周応力(MPa)が35MPaのものが【0073】表1において示されており、当該事項を参考として、当業者が本件発明1?5を実施できないとするところはない。 また、上記【0063】及び【0064】に記載された事項に従い、多層配管を作成し、得られた多層配管について、その円周応力(MPa)が35MPaの実施例1によるものが【0073】表1において示されており、少なくとも実施例1のものは上記特定事項Aに対応するから、本件特許発明1ないし5の上記特定事項Aが発明の詳細な説明に記載されていないとまではいえない。
したがって、上記2の特許法第36条第6項第1号(サポート要件違反)及び特許法第36条第4項第1号(実施可能要件違反)についての申立人の主張は採用できない。

第7 むすび
以上のとおり、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件特許の請求項1?5に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1?5に係る特許取り消すべき理由を発見できない。

よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸心から外周の方向に、少なくとも、第1層、第2層および第3層を含む多層配管であって、
前記第2層の厚みは、前記多層配管の総厚みに対して50%以上80%以下であり、
前記第1層および前記第3層がポリオレフィン系樹脂を主成分として構成された樹脂層であり、
前記第2層が、ポリオレフィン系樹脂と、繊維長が0.1mm以上3mm以下のガラス繊維と、シラン変性ポリオレフィンと、を含む繊維強化樹脂層であり、かつ、前記ガラス繊維が前記第1層の周方向に沿う方向に配向されており、
前記第2層に含まれる前記ガラス繊維の量は20重量%以上50重量%以下であり、前記第2層に含まれる前記シラン変性ポリオレフィンの量は2重量%以上9重量%以下であり、
前記ガラス繊維は、前記軸心に垂直な面で前記多層配管を切断した場合の断面において、前記ガラス繊維の平均繊維長の10%以上の長さを有する繊維のうち、少なくとも80%の配向方向が、前記ガラス繊維の中点と前記軸心とを結んだ前記多層配管の径方向の直線の垂線に対して±15°以内であり、
前記ガラス繊維の表面はシランカップリング処理が行われており、
下記式1で算出される円周応力が35MPa以下である、多層配管。

【請求項2】
前記ガラス繊維の表面は、メタクリルシラン、アクリルシラン、アミノシラン、イミダゾールシラン、ビニルシラン、または、エポキシシランにより処理されている、請求項1に記載の多層配管。
【請求項3】
前記ガラス繊維の表面は、アミノシランにより処理されている、請求項1または2に記載の多層配管。
【請求項4】
前記第2層は、変性ポリオレフィンまたは塩素化ポリオレフィンを含む、請求項1乃至3のいずれか1項に記載の多層配管。
【請求項5】
軸心から外周の方向に、少なくとも、第1層、第2層および第3層を含む多層配管であって、
前記第2層の厚みは、前記多層配管の総厚みに対して50%以上80%以下であり、
前記第1層および前記第3層がポリオレフィン系樹脂を主成分として構成された樹脂層であり、
前記第2層が、ポリオレフィン系樹脂と、繊維長が0.1mm以上3mm以下のガラス繊維と、シラン変性ポリオレフィンと、を含む繊維強化樹脂層であり、かつ、前記ガラス繊維が前記第1層の周方向に沿う方向に配向されており、
前記第2層に含まれる前記ガラス繊維の量は20重量%以上50重量%以下であり、前記第2層に含まれる前記シラン変性ポリオレフィンの量は2重量%以上9重量%以下であり、
前記ガラス繊維は、前記軸心に垂直な面で前記多層配管を切断した場合の断面において、前記ガラス繊維の平均繊維長の10%以上の長さを有する繊維のうち、少なくとも80%の配向方向が、前記ガラス繊維の中点と前記軸心とを結んだ前記多層配管の径方向の直線の垂線に対して±15°以内であり、
破壊水圧試験の耐圧性が6.8MPa以上であり、
前記ガラス繊維の表面には、メタクリルシラン、アクリルシラン、アミノシラン、イミダゾールシラン、ビニルシラン、または、エポキシシランによる表面処理層が形成され、
下記式1で算出される円周応力が35MPa以下である、多層配管。

 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2021-09-17 
出願番号 特願2015-76735(P2015-76735)
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (F16L)
P 1 651・ 537- YAA (F16L)
P 1 651・ 561- YAA (F16L)
P 1 651・ 536- YAA (F16L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 渡邉 聡  
特許庁審判長 松下 聡
特許庁審判官 山崎 勝司
後藤 健志
登録日 2019-10-04 
登録番号 特許第6595787号(P6595787)
権利者 積水化学工業株式会社
発明の名称 多層配管  
代理人 特許業務法人クレイア特許事務所  
代理人 特許業務法人 クレイア特許事務所  

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