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審決分類 審判 全部申し立て 発明同一  H01M
審判 全部申し立て 2項進歩性  H01M
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  H01M
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  H01M
管理番号 1379817
異議申立番号 異議2020-700652  
総通号数 264 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-12-24 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-09-02 
確定日 2021-10-07 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6658744号発明「非水電解質蓄電素子用負極」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6658744号の明細書、特許請求の範囲を訂正請求書に添付した訂正明細書、訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?3、6〕、〔4、5、7?9〕について訂正することを認める。 特許第6658744号の請求項4?5、7?9に係る特許を維持する。 特許第6658744号の請求項1?3、6に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。  
理由 第1 手続の経緯
特許第6658744号(以下、「本件特許」という。)の請求項1?9に係る特許についての出願(以下、「本願」という。)は、2016年(平成28年) 4月25日(優先権主張 平成27年 4月28日)を国際出願日とする出願であって、令和 2年 2月10日にその特許権の設定登録がされ、令和 2年 3月 4日に特許掲載公報が発行され、その後、その請求項1?9に係る特許について、令和 2年 9月 2日に特許異議申立人 松村 朋子(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。
特許異議申立て後の手続の経緯は次のとおりである。
令和 3年 1月 6日付け 取消理由通知
同年 3月10日 特許権者による意見書・訂正請求書の受理
同年 4月26日付け 訂正請求があった旨の通知(特許法第120条の5第5項)

なお、令和3年 4月26日付けの訂正請求があった旨の通知に対して、申立人からの応答はなかった。

第2 訂正の適否
1 本件訂正請求の趣旨、及び訂正の内容について
令和 3年 3月10日に受理した訂正請求書による訂正請求(以下、「本件訂正請求」という。)に係る訂正(以下、「本件訂正」という。)は、本件特許の明細書、特許請求の範囲を訂正請求書に添付した訂正明細書、訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1?9について訂正を求めるものであり、その訂正の内容は、以下のとおりである。
なお、訂正箇所には当審が下線を付した。

(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項4に「前記難黒鉛化性炭素の平均粒子径が2μm以上4μm以下である請求項1に記載の非水電解質蓄電素子用負極。」と記載されているのを、「黒鉛と難黒鉛化性炭素と結着剤とを含有し、前記難黒鉛化性炭素の平均粒子径が2μm以上4μm以下であり、前記黒鉛と前記難黒鉛化性炭素との合計質量に対する前記難黒鉛化性炭素(ただし、黒鉛粒子の表面上に被覆された難黒鉛化性炭素は含まない)の比率が10質量%以上20質量%以下であり、前記結着剤が水性結着剤である非水電解質蓄電素子用負極。」と訂正する(請求項4の記載を直接的又は間接的に引用する請求項5、請求項7?9も同様に訂正する。)。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項1を削除する。

(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項2を削除する。

(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項3を削除する。

(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項5の引用する請求項を「請求項4」と訂正する。

(6)訂正事項6
特許請求の範囲の請求項6を削除する。

(7)訂正事項7
特許請求の範囲の請求項7の引用する請求項を「請求項4又は5」と訂正する。

(8)訂正事項8
特許請求の範囲の請求項8の引用する請求項を「請求項4又は5」と訂正する。

(9)訂正事項9
本願の願書に添付した明細書の段落【0010】に記載された「本発明は、黒鉛と難黒鉛化性炭素と結着剤とを含有し、前記難黒鉛化性炭素の平均粒子径が8μm以下であり、前記黒鉛と前記難黒鉛化性炭素との合計質量に対する前記難黒鉛化性炭素の比率が10質量%以上50質量%以下である非水電解質蓄電素子用負極である。」を「本発明は、黒鉛と難黒鉛化性炭素と結着剤とを含有し、前記難黒鉛化性炭素の平均粒子径が2μm以上4μm以下であり、前記黒鉛と前記難黒鉛化性炭素との合計質量に対する前記難黒鉛化性炭素の比率が10質量%以上20質量%以下である非水電解質蓄電素子用負極である。」と訂正する。

(10)訂正事項10
本願の願書に添付した明細書の段落【0039】の「さらに、本発明の実施形態においては、難黒鉛化性炭素の粒子形状を非球状とすることが好ましい。これにより、負極合剤層中の黒鉛と難黒鉛化性炭素との分散性が高まり、黒鉛と難黒鉛化性炭素との接触割合をより高くすることができるため、非水電解質蓄電素子用負極の低温時の直流抵抗を一層低減させることができるため好ましい。」を削除する。

(11)訂正事項11
本願の願書に添付した明細書の段落【0040】の「ここで、難黒鉛化性炭素の粒子形状が非球状であることは、難黒鉛化性炭素粒子の最も長い径(長径)と最も短い径(短径)の比によって判別する。具体的には、難黒鉛化性炭素粒子の長径をa、短径をbとした場合に、b/a≦0.85の関係を満たすものを非球状とする。」を削除する。

(12)訂正事項12
本願の願書に添付した明細書の段落【0065】の「b/a=0.8」を削除する。

(13)訂正事項13
本願の願書に添付した明細書の段落【0080】の「b/a=0.8」を削除する。

(14)別の訂正単位とする求め
訂正後の請求項4と、訂正後の請求項4の記載を引用する訂正後の請求項5、7?9については、当該請求項についての訂正が認められる場合には、一群の請求項の他の請求項とは別途訂正することを求める。

2 訂正の適否についての当審の判断
(1)訂正の目的、特許請求の範囲の実質上の拡張又は変更の存否、及び新規事項追加の有無
ア 訂正事項1について
(ア)訂正の目的について
訂正事項1は、本件訂正前の請求項4が訂正前の請求項1を引用する記載であったものを、請求項間の引用関係を解消し、訂正前の請求項1を引用しないものとし、訂正前の請求項1を引用する請求項4について、独立形式請求項へ改めるための訂正をするものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第4号に掲げる「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とするものに該当する。
さらに、訂正事項1に係る訂正は、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項4に「前記難黒鉛化性炭素の平均粒子径が2μm以上4μm以下である請求項1に記載の非水電解質蓄電素子用負極。」と記載されているのを、「黒鉛と難黒鉛化性炭素と結着剤とを含有し、前記難黒鉛化性炭素の平均粒子径が2μm以上4μm以下であり、前記黒鉛と前記難黒鉛化性炭素との合計質量に対する前記難黒鉛化性炭素(ただし、黒鉛粒子の表面上に被覆された難黒鉛化性炭素は含まない)の比率が10質量%以上20質量%以下であり、前記結着剤が水性結着剤である非水電解質蓄電素子用負極。」と記載することにより、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項4が引用する請求項1に記載されていた「前記黒鉛と前記難黒鉛化性炭素との合計質量に対する前記難黒鉛化性炭素(ただし、黒鉛粒子の表面上に被覆された難黒鉛化性炭素は含まない)の比率が10質量%以上50質量%以下であり」との記載における「比率」を「10質量%以上50質量%以下」から、「10質量%以上20質量%以下」に限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものにも該当する。

(イ)特許請求の範囲の実質上の拡張又は変更の存否、新規事項追加の有無について
訂正事項1は、上記(ア)で示したとおり、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとした上で、「前記黒鉛と前記難黒鉛化性炭素との合計質量に対する前記難黒鉛化性炭素(ただし、黒鉛粒子の表面上に被覆された難黒鉛化性炭素は含まない)の比率」を「10質量%以上50質量%以下」から「10質量%以上20質量%以下」に限定するものであり、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものとはいえない。
また、本願の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「本件明細書等」という。)の請求項3には、「前記黒鉛と前記難黒鉛化性炭素との合計質量に対する前記難黒鉛化性炭素(ただし、黒鉛粒子の表面上に被覆された難黒鉛化性炭素は含まない)の比率が10質量%以上20質量%以下である」と記載され、実施例には、平均粒子径3.5μmで、黒鉛と難黒鉛化性炭素の質量比率を90:10若しくは80:20(実施例1、2)とすることが記載されていることから、訂正事項1に係る訂正は、本件明細書等の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものではなく、新規事項を追加するものとはいえない。
したがって、訂正事項1に係る訂正は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。

イ 訂正事項2?4、6について
(ア)訂正の目的について
訂正事項2?4、6に係る訂正は、それぞれ、訂正前の請求項1?3、6を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当する。

(イ)特許請求の範囲の実質上の拡張又は変更の存否、新規事項追加の有無について
訂正事項2?4、6に係る訂正は、それぞれ、訂正前の請求項1?3、6を削除するものであるから、本件明細書等に記載した事項の範囲内での訂正であり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものともいえない。
したがって、訂正事項2?4、6に係る訂正は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。

ウ 訂正事項5について
(ア)訂正の目的について
訂正事項5に係る訂正は、本件訂正前の請求項5が請求項1の記載を引用する記載であるところ、訂正後の請求項1の削除(訂正事項2)に伴って、削除された請求項を引用しないようにする訂正であるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものに該当する。
(イ)特許請求の範囲の実質上の拡張又は変更の存否、新規事項追加の有無について
訂正事項5に係る訂正は、削除された請求項を引用しないようにするための訂正にすぎないから、本件明細書等に記載した事項の範囲内での訂正であり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものともいえない。
したがって、訂正事項5は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。

エ 訂正事項7、8について
(ア)訂正の目的について
訂正事項7、8に係る訂正は、本件訂正前の請求項7、8が請求項1?6の記載を引用する記載であるところ、訂正後の請求項1?3、6の削除(訂正事項2?4、6)に伴って、削除された請求項を引用しないようにする訂正であるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものに該当する。

(イ)特許請求の範囲の実質上の拡張又は変更の存否、新規事項追加の有無について
訂正事項7、8に係る訂正は、削除された請求項を引用しないようにするための訂正にすぎないから、本件明細書等に記載した事項の範囲内での訂正であり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものともいえない。
したがって、訂正事項7、8は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。

オ 訂正事項9について
(ア)訂正の目的について
訂正事項9に係る訂正は、上記訂正事項1に係る訂正に伴い、特許請求の範囲の記載と明細書の記載との整合を図るための訂正であるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものに該当する。

(イ)特許請求の範囲の実質上の拡張又は変更の存否、新規事項追加の有無について
訂正事項9に係る訂正は、特許請求の範囲の記載と、発明の詳細な説明の記載との整合を図るための訂正にすぎないから、本件明細書等に記載した事項の範囲内での訂正であり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものともいえない。
したがって、訂正事項9に係る訂正は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。

カ 訂正事項10?13について
(ア)訂正の目的について
訂正事項10?13に係る訂正は、上記訂正事項6に係る訂正に伴い、特許請求の範囲の記載と明細書の記載との整合を図るための訂正であるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものに該当する。

(イ)特許請求の範囲の実質上の拡張又は変更の存否、新規事項追加の有無について
訂正事項10?13に係る訂正は、特許請求の範囲の記載と、発明の詳細な説明の記載との整合を図るための訂正にすぎないから、本件明細書等に記載した事項の範囲内での訂正であり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものともいえない。
したがって、訂正事項10?13に係る訂正は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。

(2)一群の請求項及び明細書の訂正に関係する請求項について
ア 一群の請求項について
本件訂正前の請求項1?9について、訂正前の請求項2?9はそれぞれ訂正前の請求項1を直接又は間接的に引用するものであって、請求項1の訂正に連動して訂正されるものであるので、本件訂正前の請求項1?9は、一群の請求項である。
そして、本件訂正請求は、上記一群の請求項ごとに訂正の請求をするものであるから、特許法第120条の5第4項の規定に適合するものである。
また、本件訂正請求は、上記1(14)で記載したとおり、別の訂正単位とする求めがあることから、訂正後の請求項〔1?3、6〕、〔4、5、7?9〕を訂正単位とする訂正を請求するものである。

イ 明細書の訂正と関係する請求項について
(ア)訂正事項9に係る明細書の訂正は、訂正後の請求項4に関するものであり、訂正後の請求項〔4、5、7?9〕に対応する。

(イ)訂正事項10?12に係る明細書の訂正は、訂正後の請求項6に関するものであり,訂正後の請求項〔1?3、6〕に対応する。

(ウ)そうすると、明細書の訂正に係る一群の請求項の全てが訂正の対象となっているものであるから、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第4項の規定に適合するものである。

(3)独立特許要件について
本件は、訂正前の全請求項について特許異議の申立てがされているので、訂正事項1ないし訂正事項12について、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項の独立特許要件は課されない。

3 本件訂正請求についてのむすび
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号、第3号及び第4号に掲げる事項を目的とするものであり 、かつ、同条第4項及び第9項において準用する同法第126条第4項から第6項の規定に適合するものである。
したがって、本件特許の明細書、特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書、特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?3、6〕、〔4、5、7?9〕について訂正することを認める。

第3 本件発明
上記第2の3のとおり、本件訂正請求による訂正は認められるから、本件訂正請求によって訂正された請求項1?9に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」?「本件発明9」といい、総称して「本件発明」ということがある。)は、本件訂正後の特許請求の範囲の請求項1?9に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「 【請求項1】
(削除)
【請求項2】
(削除)
【請求項3】
(削除)
【請求項4】
黒鉛と難黒鉛化性炭素と結着剤とを含有し、前記難黒鉛化性炭素の平均粒子径が2μm以上4μm以下であり、前記黒鉛と前記難黒鉛化性炭素との合計質量に対する前記難黒鉛化性炭素(ただし、黒鉛粒子の表面上に被覆された難黒鉛化性炭素は含まない)の比率が10質量%以上20質量%以下であり、前記結着剤が水性結着剤である非水電解質蓄電素子用負極。
【請求項5】
前記難黒鉛化性炭素の平均粒子径が3μm以上4μm以下である請求項4に記載の非水電解質蓄電素子用負極。
【請求項6】
(削除)
【請求項7】
請求項4又は5のいずれかに記載の非水電解質蓄電素子用負極を備えた非水電解質蓄電素子。
【請求項8】
請求項4又は5のいずれかに記載の非水電解質蓄電素子用負極と、式Li_(w)Ni_(x)Mn_(y)Co_(1-x-y)O_(2)(0<w≦1.2、0.3<x≦0.8、0≦y<1)で表される正極活物質を用いた非水電解質蓄電素子用正極、を備えた非水電解質蓄電素子。
【請求項9】
請求項7又は8に記載の非水電解質蓄電素子を備えた蓄電装置。」

第4 特許異議申立ての概要
申立人は、証拠方法として、後記する甲第1?12号証(以下、単に「甲1」?「甲12」という。)を提出し、以下の申立理由1?4-4により、本件特許の請求項1?9に係る特許は取り消されるべきものであると主張している(なお、本件訂正請求に係る訂正前の特許請求の範囲の請求項1?9に係る発明を「訂正前本件発明1」?「訂正前本件発明9」といい、総称して、「訂正前本件発明」ということがある。)。
なお、各申立理由について、取消理由として採用したか否かを「()」内に示している。

1 申立理由1(拡大先願:取消理由として採用)
訂正前本件発明1?5、7?9は、甲1に記載された発明と同一であるから、同発明に係る特許は、特許法第29条の2の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

2 申立理由2(サポート要件:取消理由として不採用)
訂正前本件発明1?9は、発明の詳細な説明に記載されたものではないから、同発明に係る特許は、特許法第36条第6項第1号の規定を満たしていない特許出願についてされたものであり、同法113条4号に該当し、取り消されるべきものである。

3 申立理由3(明確性:取消理由として採用)
訂正前本件発明6?9は、明確でないから、同発明に係る特許は、特許法第36条第6項第2号の規定を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。

4 申立理由4(進歩性)
(1)申立理由4-1(取消理由として不採用)
訂正前本件発明1?5、7、9は、甲2に記載された発明及び甲3?7に記載された事項に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、訂正前本件発明6は、甲2に記載された発明及び甲3?7、11に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、訂正前本件発明8は、甲2に記載された発明及び甲3?7、12に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、同発明に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

(2)申立理由4-2(取消理由として不採用)
訂正前本件発明1?5、7、9は、甲8に記載された発明及び甲3?7に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、訂正前本件発明6は、甲8に記載された発明及び甲3?7、11に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、訂正前本件発明8は、甲8に記載された発明及び甲3?7、12に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、同発明に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

(3)申立理由4-3(取消理由として不採用)
訂正前本件発明1?5、7、9は、甲9に記載された発明及び甲3?7に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、訂正前本件発明9は、甲9に記載された発明及び甲3?7、11に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、訂正前本件発明9は、甲9に記載された発明及び甲3?7、12に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、同発明に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

(4)申立理由4-4(取消理由として一部採用)
訂正前本件発明1?7、9は、甲7に記載された発明及び甲2、8?10に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、訂正前本件発明8は、甲7に記載された発明及び甲2?4、8?10、12に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、同発明に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

<証拠方法>
甲1:国際公開第2015/152092号
甲2:特開2002-252028号公報
甲3:特開2002-279995号公報
甲4:特開平4-342966号公報
甲5:特開2012-114024号公報
甲6:特開2013-134896号公報
甲7:特開2003-142075号公報
甲8:国際公開第2013/035859号
甲9:国際公開第2011/092990号
甲10:特開2013-173663号公報
甲11:特開2014-194852号公報
甲12:「化学便覧 応用化学編 第7版 II」、日本化学会編、平成26年1月30日、第1486?1487頁

第5 取消理由
申立理由1、申立理由3及び申立理由4の一部を採用し、また、一部職権により、令和 3年 1月 6日付け取消理由通知において通知した取消理由は、以下のとおりである。

1 取消理由1(拡大先願:申立理由1に対応)
本件発明1?5、7?9は、本願の優先権主張の日前の他の特許出願であって、本願の出願後に国際公開がされた甲1に係る国際特許出願の国際出願日における国際出願の明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「甲1当初明細書等」という。)に記載された発明と同一であり、しかも、本願の発明者が甲1に係る上記の発明をした者と同一ではなく、また本願の出願の時において、本願の出願人が甲1に係る国際特許出願の出願人と同一でもないので、特許法第29条の2の規定により、特許を受けることができない。
よって、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

2 取消理由2(明確性要件:申立理由3に対応)
本件発明6?9は、明確でないから、同発明に係る特許は、特許法第36条第6項第2号の規定を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。

3 取消理由3(実施可能要件:職権により追加)
本件明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者が本件発明6?9を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものとはいえないものであり、同発明に係る特許は、特許法第36条第4項第1号の規定を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。

4 取消理由4(進歩性:申立理由4のうち申立理由4-4に対応)
本件発明1?5、7?9は、甲7に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

第6 当審の判断
1 本件明細書の記載事項
本件訂正後の明細書(以下、「本件明細書」という。)には以下の記載がある。(なお、下線は、当審にて付し、「…」は記載の省略を表すものである。以下同様である。)
「【0001】
本発明は、非水電解質蓄電素子用負極と、それを用いた非水電解質蓄電素子及び蓄電装置に関する。」

「 【0007】
負極に用いる結着剤として負極集電箔上に水系溶媒を用いた負極合剤ペーストを使用することにより、非水溶媒を使用する場合と比較して、溶媒の回収工程の省略が可能、ペーストの取り扱いが容易等の製造工程上のコストメリットが大きい。また、環境負荷も小さくすることができる。しかしながら、この様にして作製した負極合剤層を備えた負極を用いた非水電解質蓄電素子は、低温時の直流抵抗が増大することを本発明者らは見出した。
【0008】
特許文献1及び2では、負極活物質として黒鉛及び難黒鉛化性炭素(ハードカーボン)を使用することが記載されている。
しかしながら、低温時の直流抵抗の増大を克服する手段については言及されていない。
【0009】
本発明は、上記の従来技術に鑑みなされたものであり、水系溶媒を用いて作製した負極合剤層を備えた非水電解質蓄電素子用負極の低温時の直流抵抗を低減することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、黒鉛と難黒鉛化性炭素と結着剤とを含有し、前記難黒鉛化性炭素の平均粒子径が2μm以上4μm以下であり、前記黒鉛と前記難黒鉛化性炭素との合計質量に対する前記難黒鉛化性炭素の比率が10質量%以上20質量%以下である非水電解質蓄電素子用負極である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、非水電解質蓄電素子用負極の低温時の直流抵抗を低減することができる。」

「 【0034】
また、本発明の実施形態においては、黒鉛と難黒鉛化性炭素との合計質量に対する難黒鉛化性炭素の比率を10質量%以上30質量%以下とすることが好ましい。
これにより、非水電解質蓄電素子用負極の低温時の直流抵抗を低く保ちつつ、エネルギー密度を高めることができるため好ましい。
【0035】
さらに、黒鉛と難黒鉛化性炭素との合計質量に対する難黒鉛化性炭素の比率を10質量%以上20質量%以下とすることがより好ましい。
これにより、後述する実施例に示す様に、非水電解質蓄電素子用負極の高温保管耐性を高めることができる。
【0036】
また、本発明の実施形態においては、難黒鉛化性炭素の平均粒子径は黒鉛の平均粒子径よりも小さいことが好ましい。これにより、非水電解質蓄電素子用負極の低温時の直流抵抗をより低減させることができるため好ましい。
【0037】
また、本発明の実施形態においては、難黒鉛化性炭素の平均粒子径を2μm以上4μm以下とすることが好ましく、…。
この構成により、黒鉛と難黒鉛化性炭素とを混合した際に、黒鉛粒子の隙間に難黒鉛化性炭素が効率よく入り込むようになるので、非水電解質蓄電素子用負極の低温時の直流抵抗をより低減させることができるため好ましい。」

「【0065】
(実施例1)
(負極の作製)
黒鉛と難黒鉛化性炭素(平均粒子径3.5μm、d(002)=0.37nm)、結着剤であるスチレン-ブタジエンゴム(SBR)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、及び溶媒である水を用いて負極ペーストを作製した。黒鉛と難黒鉛化性炭素の質量比率は90:10、黒鉛及び難黒鉛化性炭素の合計質量とSBRとCMCの質量比率は96:2:2とした。
負極合剤ペーストは、水の量を調整することにより、固形分(質量%)を調整し、マルチブレンダーミルを用いた混練工程を経て作製した。この負極ペーストを銅箔の両面に、未塗布部(負極合剤層非形成領域)を残して間欠塗布し、乾燥することにより負極合剤層を作製した。
上記の様に負極合剤層を作製した後、負極合剤層の厚みが70μmとなるようにロールプレスを行った。
【0066】
(正極の作製)
正極活物質であるリチウムコバルトニッケルマンガン複合酸化物(LiCo_(1/3)Ni_(1/3)Mn_(1/3)O_(2))、導電剤であるアセチレンブラック(AB)、結着剤であるポリフッ化ビニリデン(PVDF)及び非水系溶媒であるN-メチルピロリドン(NMP)を用いて正極ペーストを作製した。ここで、前記PVDFは12%NMP溶液(株式会社クレハ製#1100)を用いた。なお、正極活物質、結着剤及び導電剤の質量比率は90:5:5(固形分換算)とした。この正極ペーストをアルミ箔の両面に、未塗布部(正極合剤層非形成領域)を残して間欠塗布し、乾燥した。その後、ロールプレスを行い、正極を作製した。
【0067】
(非水電解液)
非水電解質は、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネートを、それぞれ30体積%、40体積%、30体積%となるように混合した溶媒に、塩濃度が1.2mol/lとなるようにLiPF_(6)を溶解させて作製した。非水電解質中の水分量は50ppm未満とした。
【0068】
(セパレータ)
セパレータには、厚み21μmのポリエチレン微多孔膜を用いた。
【0069】
(電池の組み立て)
正極と、負極と、セパレータとを積層して巻回した。その後、正極の正極合剤層非形成領域及び負極の負極合剤層非形成領域を正極リード及び負極リードにそれぞれ溶接して容器に封入し、容器と蓋板とを溶接後、非水電解質を注入して封口した。この様にして、実施例1の電池を作製した。
【0070】
(実施例2)
黒鉛と難黒鉛化性炭素の質量比率を80:20としたことを除いては、実施例1と同様にして実施例2の電池を作製した。
【0071】
(実施例3)
黒鉛と難黒鉛化性炭素の質量比率を70:30としたことを除いては、実施例1と同様にして実施例3の電池を作製した。
【0072】
(実施例4)
黒鉛と難黒鉛化性炭素の質量比率を50:50としたことを除いては、実施例1と同様にして実施例4の電池を作製した。
【0073】
(比較例1)
黒鉛と難黒鉛化性炭素の質量比率を100:0としたことを除いては、実施例1と同様にして比較例1の電池を作製した。
【0074】
(比較例2)
難黒鉛化性炭素(d(002)=0.37nm)の平均粒子径を9μmとしたことを除いては、実施例1と同様にして比較例2の電池を作製した。
【0075】
(比較例3)
難黒鉛化性炭素の代わりに易黒鉛化性炭素(平均粒子径15μm、d(002)=0.345nm)を用いたことを除いては、実施例1と同様にして比較例3の電池を作製した。
【0076】
(容量測定)
上記のようにして作製された実施例1?4及び比較例1?3の各電池について、25℃に設定した恒温槽中で、以下の容量測定を実施し、電池の公称容量と同等の電気量の充放電が可能であることを確認した。
容量測定の充電条件は、電流値1CA、電圧4.2Vの定電流定電圧充電とした。充電時間は通電開始から3時間とした。放電条件は、電流1CA、終止電圧2.75Vの定電流放電とした。充電と放電の間には、10分間の休止時間を設けた。
なお、上記電流値である1CAとは、電池に1時間の定電流通電を行った時に、電池の公称容量と同じ電気量となる電流値である。
【0077】
(低温直流抵抗測定)
容量測定の後、電流値0.1CA、電圧4.2Vの定電流定電圧充電を行った。充電時間は通電開始から15時間とした。10分の休止後、電流値0.1CAにて定電流放電を行った。放電は、電池の公称容量の50%の電気量を通電した時点で停止した。
各電池を-10℃に設定した恒温槽中に移して5時間静置した。
その後、各率放電電流でそれぞれ10秒放電する試験を行った。具体的には、まず、電流0.2CAにて10秒放電し、2分の休止後、電流0.2CAにて10秒の補充電を行った。さらに2分の休止後、電流0.5CAにて10秒放電し、2分の休止後、電流0.2CAにて25秒の補充電を行った。さらに2分の休止後、電流1CAにて10秒放電した。以上の結果を各率放電の10秒後の電圧をその電流値に対してプロットし、最小二乗法によるフィッティングを行ったグラフの傾きから、直流抵抗値を算出した。
比較例1の電池の直流抵抗値を100%とした場合の、各電池の直流抵抗値を比較例1の電池の直流抵抗値に対する相対値として算出した値を「直流抵抗相対値」として表1に記録した。
【0078】
【表1】

【0079】
(実施例5)
黒鉛と難黒鉛化性炭素の質量比率を85:15としたことを除いては、実施例1と同様にして実施例5の電池を作製した。
【0080】
(比較例4)
(負極の作製)
黒鉛と難黒鉛化性炭素(平均粒子径3.5μm、d(002)=0.37nm)、結着剤であるポリフッ化ビニリデン(PVDF)及び溶媒であるN-メチルピロリドン(NMP)を用いて負極ペーストを作製した。黒鉛と難黒鉛化性炭素の質量比率は90:10、黒鉛及び難黒鉛化性炭素の合計質量と結着剤の質量比率は92:8とした。
負極合剤ペーストは、NMPの量を調整することにより、固形分(質量%)を調整し、マルチブレンダーミルを用いた混練工程を経て作製した。この負極ペーストを銅箔の両面に、未塗布部(負極合剤層非形成領域)を残して塗布し、乾燥することにより負極合剤層を作製した。
上記の様に負極合剤層を作製した後、負極合剤層の厚みが70μmとなるようにロールプレス行った。
【0081】
この様にして作製した負極を用いたことを除いては、実施例1と同様にして比較例4の電池を作製した。
【0082】
(比較例5)
黒鉛と難黒鉛化性炭素の質量比率を85:15としたことを除いては、比較例4と同様にして比較例5の電池を作製した。
【0083】
(比較例6)
黒鉛と難黒鉛化性炭素の質量比率を80:20としたことを除いては、比較例4と同様にして比較例6の電池を作製した。
【0084】
(容量測定)
上記のようにして作製された実施例1、実施例2、実施例5及び比較例4?6の各電池について、25℃に設定した恒温槽中で、以下の容量測定を実施し、電池の公称容量と同等の電気量の充放電が可能であることを確認した。
容量測定の充電条件は、電流値1CA、電圧4.2Vの定電流定電圧充電とした。充電時間は通電開始から3時間とした。放電条件は、電流1CA、終止電圧2.75Vの定電流放電とした。充電と放電の間には、10分間の休止時間を設けた。
なお、上記電流値である1CAとは、電池に1時間の定電流通電を行った時に、電池の公称容量と同じ電気量となる電流値である。
【0085】
(保管前直流抵抗測定)
容量測定の後、電流値0.1CA、電圧4.2Vの定電流定電圧充電を行った。充電時間は通電開始から15時間とした。10分の休止後、電流値0.1CAにて定電流放電を行った。放電は、電池の公称容量の50%の電気量を通電した時点で停止した。
各電池を-10℃に設定した恒温槽中に移して5時間静置した。
その後、各率放電電流でそれぞれ10秒間放電する試験を行った。具体的には、まず、電流0.2CAにて10秒放電し、2分の休止後、電流0.2CAにて10秒の補充電を行った。さらに2分の休止後、電流0.5CAにて10秒放電し、2分の休止後、電流0.2CAにて25秒の補充電を行った。さらに2分の休止後、電流1CAにて10秒放電した。以上の結果を各率放電の10秒後の電圧をその電流値に対してプロットし、最小二乗法によるフィッティングを行ったグラフの傾きから、直流抵抗値を算出した。この直流抵抗値を「保管前直流抵抗値」とする。
【0086】
(高温保管工程)
低温直流抵抗測定の後、電流値1CA、終止電圧2.75Vの定電流放電を行った。10分の休止を挟んだ後、充電電流値1CA、電圧4.2Vの定電流定電圧充電を行った。充電時間は通電開始から3時間とした。充電後の電池を60℃に設定した恒温槽に移し、25日間保管した。
【0087】
(保管後直流抵抗測定)
高温保管工程後の電池を25℃に設定した恒温槽に移して1日静置した。その後、電流値1CA、終止電圧2.75Vの定電流放電を行った。
この後、保管前直流抵抗測定と同じ工程により、高温保管後の直流抵抗値を測定した。この時の直流抵抗値を「保管後直流抵抗値」とする。
実施例1、実施例2、実施例5及び比較例4?6の各電池において測定した「保管前直流抵抗値」と「保管後直流抵抗値」について、以下の式に基づいて算出した値を「直流抵抗減少率」として表2に記録した。
「直流抵抗減少率」=(「保管前直流抵抗値」-「保管後直流抵抗値」)/「保管前直流抵抗値」
【0088】
【表2】

【0089】
表1からわかるように、黒鉛と平均粒子径8μm以下の難黒鉛化性炭素を用いた実施例1?4の電池の直流抵抗相対値は、難黒鉛化性炭素を用いていない比較例1の電池よりも小さくなっている。つまり、実施例1?4の電池の直流抵抗値は比較例1の電池よりも小さく、直流抵抗が低減されている。このことから、黒鉛と平均粒子径8μm以下の難黒鉛化性炭素を共存させることにより、電池及び負極の低温時の直流抵抗値を低減することが可能である。
【0090】
一方、黒鉛と平均粒子径9μmの難黒鉛化性炭素を用いた比較例2の電池では、比較例1の電池よりも直流抵抗相対値が大きくなっている。つまり、比較例2の電池の直流抵抗値は比較例1の電池よりも大きく、直流抵抗が増大している。このことから、平均粒子径が8μmより大きい難黒鉛化性炭素を用いても、電池及び負極の低温時の直流抵抗値を低減する効果は得られないことが判る。
【0091】
また、黒鉛と易黒鉛化性炭素を用いた比較例3の電池も、比較例1の電池よりも直流抵抗相対値が大きくなっている。つまり、比較例3の電池の直流抵抗値は比較例1の電池よりも大きく、直流抵抗が増大している。このことから、易黒鉛化性炭素を用いた場合も、電池及び負極の低温時の直流抵抗値を低減する効果は得られないことが判る。
【0092】
実施例1?4の様に、黒鉛と平均粒子径8μm以下の難黒鉛化性炭素を用いることによって、黒鉛と難黒鉛化性炭素とを混合した際に、黒鉛粒子の隙間に難黒鉛化性炭素が入り込むことで、非水電解質蓄電素子用負極合剤層の充填性が向上し、負極合剤層の集電性が改善されるために、電池及び負極の低温時の直流抵抗を低減することができると考えられる。
一方、難黒鉛化性炭素の平均粒子径が8μmを超えると、黒鉛粒子の隙間に難黒鉛化性炭素が入り込む量が少なすぎるため、非水電解質蓄電素子用負極合剤層の充填性が向上せず、負極合剤層の集電性が改善されにくいため、電池及び負極の低温時の直流抵抗値を低減する効果は得られないと考えられる。
【0093】
表2からわかるように、黒鉛と平均粒子径8μm以下の難黒鉛化性炭素を用いた負極において、水性結着剤を採用した実施例1の電池の直流抵抗減少率は、非水溶媒系の結着剤を使用した比較例4の電池よりも大きくなっている。つまり、負極に水性結着剤を採用することで、電池及び負極の低温時の直流抵抗減少率をより高めることが可能である。
なお、「直流抵抗減少率」が高いことは、高温保管した際に、電池の直流抵抗を減少させる方向に作用する効果が高いことを示すものである。よって、高温保管により直流抵抗が増大するような電池であっても、直流抵抗の増大量を抑制することが可能と考えられる。
【0094】
また、実施例5と比較例5、実施例2と比較例6との比較においても、実施例の電池の方が比較例の電池よりも直流抵抗減少率は高い。このことから、難黒鉛化性炭素の比率が変化しても、負極に水性結着剤を採用することで、電池及び負極の低温時の直流抵抗減少率は高くなることがわかる。
【0095】
本実施例では、各率放電の開始後10秒目の電圧を基に直流抵抗値を算出している。本発明者らは、各率放電の放電開始後30秒目の電圧を基に算出した直流抵抗値においても、上記実施例と同じ傾向になることを、実験により確認している。
【産業上の利用可能性】
【0096】
本発明は、非水電解質蓄電素子用負極及びそれを備えた非水電解質蓄電素子の低温時の直流抵抗を低減することができるので、電気自動車用電源、電子機器用電源、電力貯蔵用電源等の幅広い用途の非水電解質蓄電素子に有用である。」

2 甲号証の記載事項及び甲号証の記載の発明
(1)甲1の記載事項及び甲1に記載の発明
ア 甲1当初明細書等には、以下の事項が記載されている。

「[0001] 本発明は、非水電解質二次電池負極材料、非水電解質二次電池用負極合剤、非水電解質二次電池用負極電極、非水電解質二次電池及び車両に関する。」

「[0005] 本発明の目的は、体積当たりエネルギー密度が高くかつサイクル特性に優れる非水電解質二次電池用負極材料、非水電解質二次電池用負極合剤、非水電解質二次電池用負極電極並びにこの非水電解質二次電池用負極電極を備える非水電解質二次電池及び車両を提供することにある。
また、本発明の目的は、体積当たりエネルギー密度が高くかつ入出力特性に優れる非水電解質二次電池用負極材料、非水電解質二次電池用負極合剤、非水電解質二次電池用負極電極並びにこの非水電解質二次電池用負極電極を備える非水電解質二次電池及び車両を提供することにある。」

「[0018] 本発明によれば、特定の非黒鉛性炭素材料と黒鉛質材料とを含有する炭素材混合物を活物質として用いることにより、体積当たり放電容量が増大し、非黒鉛性炭素材料を単体で含む負極材料と比べて体積当たりのエネルギー密度が高くかつサイクル特性も維持された非水電解質二次電池用負極材料が提供される。
また、本発明によれば、特定の非黒鉛性炭素材料と黒鉛質材料とを含有する炭素材混合物を活物質として用いることにより、入出力特性が向上し、非黒鉛性炭素材料を単体で含む負極材料と比べて、体積当たりのエネルギー密度が高い非水電解質二次電池用負極材料が提供される。」

「[0029] 非黒鉛性炭素材料は、真密度(ρ_(Bt))が1.52g/cm^(3)以上1.70g/cm^(3)の非黒鉛性炭素材料に相当する難黒鉛化性炭素材料(ハードカーボン)を使用できる。この真密度(ρ_(Bt))の範囲に含まれる非黒鉛性炭素材料から2種以上を選択し混合して使用してもよい。
[0030] 非黒鉛性炭素材料は、真密度(ρ_(Bt))が1.70g/cm^(3)より大きく2.15g/cm^(3)未満の非黒鉛性炭素材料に相当する易黒鉛化性炭素材料(ソフトカーボン)を使用できる。この真密度(ρ_(Bt))の範囲に含まれる非黒鉛性炭素材料から2種以上を選択し混合して使用してもよい。」

「[0036] (平均層面間隔d_(002)、結晶子厚みL_(c(002)))
炭素質材料の(002)面の平均層面間隔d002は、X線回折法により求められるが、結晶完全性が高いほど小さな値を示し、構造が乱れるほどその値が増加する傾向があるので、炭素の構造を示す指標として有効である。本発明における黒鉛質材料は、(002)面の平均層面間隔d_(002)が0.347nm以下であると、結晶性が高くなって体積当たりのエネルギー密度が向上するので好ましい。本発明における非黒鉛性炭素材料としては、当該平均層面間隔が0.365nm以上0.390nm以下の難黒鉛化性炭素材料を使用してもよい。この場合は、d_(002)が0.365nm未満では、充放電サイクル特性が低下する傾向にあり、0.390nmを超えると不可逆容量が大きくなり、好ましくない。また、本発明における非黒鉛性炭素材料としては、当該平均層面間隔d_(002)が0.340nm以上0.375nm以下の易黒鉛化性炭素材料を使用してもよい。この場合は、d_(002)が0.340nm未満では、入出力特性が低下し、0.375nmを超えると不可逆容量が大きくなる傾向にあり、好ましくない。
本発明における非黒鉛性炭素材料は、c軸方向の結晶子厚みL_(c(002))が15nmを超えると、充放電の繰り返しにより崩壊や電解液分解が起こりやすく、サイクル特性にとって好ましくない。
[0037] (平均粒子径(D_(v50)))
本発明における非黒鉛性炭素材料の平均粒子径(D_(v50))は、小さいほど粒子表面積が増大するので、反応性が高まるとともに電極抵抗が低下するので、入力特性が向上する。しかし、平均粒子径が小さ過ぎると、反応性が過度に高まり不可逆容量が大きくなる傾向にある。また、粒子が小さすぎると電極にするために必要な結着材量が多くなり、電極の抵抗が増加する。一方、平均粒子径が大きくなると、電極を薄く塗工することが困難になり、さらに粒子内でのリチウムの拡散自由行程が増加するため急速な充放電が困難となる。このため、平均粒子径D_(V50)(すなわち累積容積が50%となる粒子径)は、1?8μmであることが好ましく、より好ましくは2?6μm以下である。」

「[0039] 本発明における非黒鉛性炭素材料の平均粒子径(D_(v50))と黒鉛質材料の平均粒子径(D_(v50))の比は1.5倍以上であることが好ましい。粒子径の比が1.5倍以上であると、大きい粒子によりできた隙間に小さい粒子が入り込むことが可能となるため、活物質の充填率が上がり、電極密度を高めることができる。非黒鉛性炭素材料の粒子径の方が大きい場合でも、黒鉛質材料の粒子径の方が大きい場合でも、同様の効果を得ることができる。より好ましくは2.0倍以上であり、さらに好ましくは2.5倍以上である。」

「[0064] (負極合剤の製造)
本発明の負極合剤は、本発明の炭素材混合物に結着材(バインダー)を添加し、適当な溶媒を適量添加、混練して調製される。
結着材としては、電解液と反応しないものであれば特に限定されない。例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、ポリアクリロニトリル(PAN)、エチレン-プロピレン-ジエン共重合体(EPDM)、フッ素ゴム(FR)、アクリロニトリル-ブタジエンゴム(NBR)、ポリアクリル酸ナトリウム、プロピレン又はカルボキシメチルセルロース(CMC)などを使用できる。溶媒としては、PVDFを溶解しスラリーを形成するためにN-メチルピロリドン(NMP)などの極性溶媒が好ましく用いられる。
[0065] 水溶性高分子系結着材としては、水に溶解するものであれば特に限定されることなく使用できる。具体例には、セルロース系化合物、ポリビニルアルコール、スターチ、ポリアクリルアミド、ポリ(メタ)アクリル酸、エチレン-アクリル酸共重合体、エチレン-アクリルアミド-アクリル酸共重合体、ポリエチレンイミン等及びそれらの誘導体又は塩が挙げられる。これらのなかでも、セルロース系化合物、ポリビニルアルコール、ポリ(メタ)アクリル酸及びそれらの誘導体が好ましい。また、カルボキシメチルセルロース(CMC)誘導体、ポリビニルアルコール誘導体、ポリアクリル酸塩を用いることが、更に好ましい。これらは、単独または2種類以上を組み合わせて使用することができる。」

「実施例
[0080] 以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、これらは本発明の範囲を限定するものではない。
[0081] 以下に本発明の非水電解質二次電池用負極材料の物性値(ρ_(Bt)、ρ_(He)、比表面積(SSA)、平均粒子径(D_(v50))、水素/炭素の原子比(H/C)、d_(002)、L_(c(002))、充電容量、放電容量、不可逆容量、吸湿量、50%充電状態の入出力値、直流抵抗値、容量維持率、交流抵抗値)の測定法を記載するが、実施例を含めて、本明細書中に記載する物性値は、以下の方法により求めた値に基づくものである。
[0082] (ブタノール法による真密度(ρ_(Bt)))
真密度は、JIS R 7212に定められた方法に従い、ブタノール法により測定した。内容積約40mLの側管付比重びんの質量(m_(1))を正確に量る。次に、その底部に試料を約10mmの厚さになるように平らにいれた後、その質量(m_(2))を正確に量る。これに1-ブタノールを静かに加えて、底から20mm程度の深さにする。次に比重びんに軽い振動を加えて、大きな気泡の発生がなくなったのを確かめた後、真空デシケーター中にいれ、徐々に排気して2.0?2.7kPaとする。その圧力に20分間以上保ち、気泡の発生が止まった後に、取り出し、さらに1-ブタノールを満たし、栓をして恒温水槽(30±0.03℃に調節してあるもの)に15分間以上浸し、1-ブタノールの液面を標線に合わせる。次に、これを取り出して外部をよくぬぐって室温まで冷却した後質量(m_(4))を正確に量る。
[0083] 次に、同じ比重びんに1-ブタノールだけを満たし、前記と同じようにして恒温水槽に浸し、標線を合わせた後、質量(m_(3))を量る。また、使用直前に沸騰させて溶解した気体を除いた蒸留水を比重びんに採取し、前記と同様に恒温水槽に浸し、標線を合わせた後質量(m_(5))を量る。ρ_(Bt)は、次の式により計算する。
[0084][数1]

このとき、dは、水の30℃における比重(0.9946)である。」

「[0095] (X線回折法による平均層面間隔(d_(002))および結晶子厚み(L_(c(002))))
炭素質材料粉末を試料ホルダーに充填し、PANalytical社製X’Pert PROを用いて、対称反射法にて測定した。走査範囲は8<2θ<50°で印加電流/印加電圧は45kV/40mAの条件で、Niフィルターにより単色化したCuKα線(λ=1.5418Å)を線源とし、X線回折図形を得た。回折図形の補正は、ローレンツ変更因子、吸収因子、及び原子散乱因子などの関する補正を行わず、標準物質用高純度シリコン粉末の(111)面の回折線を用いて、回折角を補正した。Braggの公式によりd_(002)を計算した。」
「[0096][数6]



「[0099] (レーザー回折法による平均粒子径(D_(v50))、粒度分布)
試料約0.01gに対し、分散剤(カチオン系界面活性剤「SNウェット366」(サンノプコ社製))を3滴加え、試料に分散剤を馴染ませる。次に純水を加えて、超音波により分散させた後、粒径分布測定器(日機装株式会社製「Microtrac MT3300EX」)で、粒子径0.02?1500μmの範囲の粒度分布を求めた。得られた粒度分布から累積(積算)容積粒子径が50%となる粒子径をもって体積平均粒子径D_(v50)(μm)とした。また、容積粒子径がそれぞれ90%、10%となる粒子径をもって、D_(v90)(μm)、D_(v10)(μm)とした。そして、D_(v90)からD_(v10)を差し引き、D_(v50)で除した値((D_(v90)-D_(v10))/D_(v50))を粒度分布の指標とした。
また、累積(積算)容積粒子径が100%となる粒子径をもって最大粒子径とした。」

「[0101] (活物質の電極性能および電池性能試験)
非黒鉛性炭素材の製造例で得られた非黒鉛性炭素質材料a-1?a-5、b-1?b-7、黒鉛質炭素材の製造例で得られた炭素質材料a-6?a-7を用いて、実施例の炭素材混合物および比較例の比較炭素材混合物を調製し、以下の(a)?(e)の操作を行い、負極電極及び非水電解質二次電池を作製し、そして電極性能の評価を行った。
[0102] (a)負極電極の作製
上記炭素材混合物95質量部、導電助剤(電気化学工業製デンカブラック)2質量部、SBR(分子量25万?30万)2質量部、CMC(第一工業製薬製セロゲン4H)1質量部に超純水を加えてペースト状にした負極合剤を調製し、銅箔上に均一に塗布した。乾燥した後、銅箔より直径15mmの円板状に打ち抜き、これをプレスして電極とした。なお、電極中の炭素質材料の量は約10mgになるように調整した。
結着材としてポリフッ化ビニリデンを用いた場合には、電極の組成を、上記炭素材混合物90質量部、導電助剤(電気化学工業製デンカブラック)2質量部、ポリフッ化ビニリデン(株式会社クレハ製「KF#9100」)8質量部に変更して負極電極を作製した。これを乾燥した後、銅箔より直径15mmの円板状に打ち抜き、これをプレスして電極とした。
[0103] (b)試験電池の作製
本発明の炭素材混合物は、非水電解質二次電池の負極電極を構成するのに適しているが、電池活物質の放電容量(脱ドープ量)及び不可逆容量(非脱ドープ量)を、対極の性能のバラツキに影響されることなく精度良く評価するために、特性の安定したリチウム金属を対極として、上記で得られた電極を用いてリチウム二次電池を構成し、その特性を評価した。
[0104] リチウム極の調製は、Ar雰囲気中のグローブボックス内で行った。予めCR2016サイズのコイン型電池用缶の外蓋に直径16mmのステンレススチール網円盤をスポット溶接した後、厚さ0.8mmの金属リチウム薄板を直径15mmの円盤状に打ち抜いたものをステンレススチール網円盤に圧着し、電極(対極)とした。」

「[0107] (d)入出力特性試験およびサイクル特性試験用電池の作製
正極は、LiNi_(1/3)Co_(1/3)Mn_(1/3)O_(2)(UMICORE製Cellcore MX6)94質量部、カーボンブラック(TIMCAL製Super P)3質量部、ポリフッ化ビニリデン(クレハ製KF#7200)3質量部にNMPを加えてペースト状にし、アルミニウム箔上に均一に塗布した。乾燥した後、塗工電極を直径14mmの円板上に打ち抜き、これをプレスし電極とした。なお、電極中のLiNi_(1/3)Co_(1/3)Mn_(1/3)O_(2)の量は約15mgになるように調整した。
負極は、負極活物質の充電容量の95%となるよう負極電極中の炭素質材料の量を調整した以外、上記(a)と同様の手順で負極電極を作製した。なお、LiNi_(1/3)Co_(1/3)Mn_(1/3)O_(2)の容量を165mAh/gとして計算し、1C(Cは時間率を表す)を2.475mAとした。
このようにして調製した電極の対を用い、電解液としてはエチレンカーボネートとメチルエチルカーボネートを容量比で3:7で混合した混合溶媒に1.2mol/Lの割合でLiPF_(6)を加えたものを使用し、直径17mmの硼珪酸塩ガラス繊維製微細細孔膜をセパレータとして使用し、ポリエチレン製のガスケットを用いて、Arグローブボックス中で、CR2032サイズのコイン型非水電解質系リチウム二次電池を組み立てた。」

「[0131] 本発明に係る第一の実施態様に関して、以下のように試験を行った。
(非黒鉛性炭素材の製造例a?1)
軟化点205℃、H/C原子比0.65の石油ピッチ70kgと、ナフタレン30kgとを、撹拌翼および出口ノズルのついた内容積300リットルの耐圧容器に仕込み、190℃で加熱溶融混合を行った後、80?90℃に冷却し、耐圧容器内を窒素ガスにより加圧して、内容物を出口ノズルから押出し、直径約500μmの紐状成型体を得た。次いで、この紐状成型体を直径(D)と長さ(L)の比(L/D)が約1.5になるように粉砕し、得られた破砕物を93℃に加熱した0.53質量%のポリビニルアルコール(ケン化度88%)を溶解した水溶液中に投入し、撹拌分散し、冷却して球状ピッチ成型体スラリーを得た。大部分の水をろ過により取り除いた後、球状ピッチ成形体の約6倍量の質量のn-ヘキサンでピッチ成形体中のナフタレンを抽出除去した。このようにして得た多孔性球状ピッチを、流動床を用いて、加熱空気を通じながら、270℃まで昇温し、270℃に1時間保持して酸化し、多孔性球状酸化ピッチを得た。
次に酸化ピッチを窒素ガス雰囲気中(常圧)で650℃まで昇温し、650℃で1時間保持して予備炭素化を実施し、揮発分2%以下の炭素前駆体を得た。得られた炭素前駆体を粉砕して粒度分布を調整し、平均粒子径約10μmの粉末状炭素前駆体とした。
この粉末状炭素前駆体60gを黒鉛ボードに堆積し、直径300mmの横型管状炉に入れ、窒素ガスを1分間に5リットル流しながら、250℃/hの速度で1180℃まで昇温し、1180℃で1時間保持して、平均粒子径9μmの炭素質材料a-1を得た。
[0132] (非黒鉛性炭素材の製造例a-2)
多孔性球状ピッチの酸化温度を240℃に、粒度分布を調整して粉砕粒子径を約4μmに変更した以外は非黒鉛性炭素材の製造例a-1と同様にして平均粒子径3.5μmの炭素質材料a-2を得た。
[0133](非黒鉛性炭素材の製造例a-3)
多孔性球状ピッチの酸化温度を230℃に、粒度分布を調整して粉砕粒子径を約5μmに変更した以外は非黒鉛性炭素材の製造例a-1と同様にして平均粒子径4.6μmの炭素質材料a-3を得た。
[0134](非黒鉛性炭素材の製造例a-4)
多孔性球状ピッチの酸化温度を210℃に、粒度分布を調整して粉砕粒子径を約8μmに変更した以外は非黒鉛性炭素材の製造例a-1と同様にして平均粒子径7.3μmの炭素質材料a-4を得た。
[0135](非黒鉛性炭素材の製造例a-5)
多孔性球状ピッチの酸化温度を190℃に、粒度分布を調整して粉砕粒子径を約7μmに変更した以外は非黒鉛性炭素材の製造例a-1と同様にして平均粒子径6.4μmの炭素質材料a-5を得た。
[0136] (黒鉛質炭素材の製造例a-6)
人造黒鉛(上海杉杉製CMS-G10)の粒度分布を調整して平均粒子径10μmとし、炭素質材料a-6とした。
[0137] (黒鉛質炭素材の製造例a-7)
人造黒鉛(上海杉杉製CMS-G10)の粒度分布を調整して平均粒子径3.5μmとし、炭素質材料a-7とした。
[0138](実施例a-1?a-14)
表3に示すように、実施例a-1は、遊星型混練機によって、炭素質材料a-2を80質量%、炭素質材料a-7を20質量%で混合された炭素材混合物を調製し、それを負極活物質に用いた試験電池を作製した。実施例a-2?a-14についても、表3に示すような割合で混合された炭素材混合物を調製し、試験電池を作製した。」
「[0141] 実施例および比較例で得られた炭素質材料、炭素材混合物の特性、それを用いて作製した負極および電池性能の測定評価結果を表1?5に示す。
[0142] 各実施例および比較例について、真密度(ρ_(Bt))、真密度(ρ_(He))、平均粒子径、比表面積(SSA)、吸湿量、充放電容量、50%充電状態の入出力値および直流抵抗値、サイクル試験後の容量維持率、体積容量および交流抵抗値、正極容量と負極容量との比を測定した。
表に示すように、比較例a-1?a-2の比較炭素材混合物を用いた負極電極は、本発明の範囲内の黒鉛質材料を含まないため、50mV設定時の体積当たり放電容量が低く、実用上の体積当たりのエネルギー密度が不十分であった。比較例a-3においては、粒子径が本発明の範囲外であるため、50%充電状態の入力特性が不十分であった。比較例a-4においては、黒鉛質材料のみで比較炭素材混合物が構成されているため、50℃サイクル試験後の容量保持率が低い結果となった。
これに対し、本発明における非黒鉛性炭素と黒鉛質材料を混合した実施例a-1?a-14の炭素材混合物a-1?a-14を含む負極電極は、50mV設定時の体積当たり放電容量が高く、実用上の体積当たりのエネルギー密度が向上し、かつ入力特性およびサイクル特性の両面で向上した。」

「[0144][表1]



「[0146]
[表3]

[0147]
[表4]



イ(ア)上記アの各記載事項(特に[0102]、[0107]、[0131]?[0138]、表1、3、4等に記載の実施例a-4)を総合勘案すると、甲1当初明細書等には、次の発明が記載されていると認められる。なお、表1より、ブタノール法による真密度ρ_(Bt)と平均層面間隔d_(002)の値を、表4より結着材としてSBR/CMCを用いていることを読み取った。また、[0138]の「表3に示すように、実施例a-1は、遊星型混練機によって、炭素質材料a-2を80質量%、炭素質材料a-7を20質量%で混合された炭素材混合物を調製し、それを負極活物質に用いた試験電池を作製した。実施例a-2?a-14についても、表3に示すような割合で混合された炭素材混合物を調製し、試験電池を作製した。」との記載と、表3では実施例a-1の混合量のAの値は「80%」と、同Bの値は「20%」と「質量%」とは明記されていないものの[0138]と同じ数値が記載されていることより、表3のA、Bの混合量は「質量%」で表記されているものと認めた。

「軟化点205℃、H/C原子比0.65の石油ピッチ70kgと、ナフタレン30kgとを、撹拌翼および出口ノズルのついた内容積300リットルの耐圧容器に仕込み、190℃で加熱溶融混合を行った後、80?90℃に冷却し、耐圧容器内を窒素ガスにより加圧して、内容物を出口ノズルから押出し、直径約500μmの紐状成型体を得、次いで、この紐状成型体を直径(D)と長さ(L)の比(L/D)が約1.5になるように粉砕し、得られた破砕物を93℃に加熱した0.53質量%のポリビニルアルコール(ケン化度88%)を溶解した水溶液中に投入し、撹拌分散し、冷却して球状ピッチ成型体スラリーを得、大部分の水をろ過により取り除いた後、球状ピッチ成形体の約6倍量の質量のn-ヘキサンでピッチ成形体中のナフタレンを抽出除去し、このようにして得た多孔性球状ピッチを、流動床を用いて、加熱空気を通じながら、210℃まで昇温し、210℃に1時間保持して酸化し、得た多孔性球状酸化ピッチを、窒素ガス雰囲気中(常圧)で650℃まで昇温し、650℃で1時間保持して予備炭素化を実施し、揮発分2%以下の炭素前駆体を得、得られた炭素前駆体を粉砕して粒度分布を調整し、平均粒子径約8μmの粉末状炭素前駆体とし、この粉末状炭素前駆体60gを黒鉛ボードに堆積し、直径300mmの横型管状炉に入れ、窒素ガスを1分間に5リットル流しながら、250℃/hの速度で1180℃まで昇温し、1180℃で1時間保持して、平均粒子径7.3μmの、ブタノール法による真密度ρ_(Bt)は1.63g/cm^(3)、平均層面間隔d_(002)は0.379nmの炭素質材料a-4と、
人造黒鉛(上海杉杉製CMS-G10)の粒度分布を調整して平均粒子径3.5μmとした炭素質材料a-7とを得て、
炭素質材料a-4を20質量%、炭素質材料a-7を80質量%で混合された炭素材混合物95質量部、導電助剤(電気化学工業製デンカブラック)2質量部、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)(分子量25万?30万)2質量部、カルボキシメチルセルロース(CMC)(第一工業製薬製セロゲン4H)1質量部に超純水を加えてペースト状にした負極合剤を調製し、銅箔上に均一に塗布し、乾燥した後、銅箔より直径15mmの円板状に打ち抜き、これをプレスして電極として作成された負極電極。」(「甲1a-4発明1」という。)

(イ)また、上記アの各記載事項(特に[0064]、[0102]、[0107]、[0131]?[0138]、表1、3,4等に記載の実施例a-8)を総合勘案すると、甲1当初明細書等には、次の発明が記載されていると認められる。

「軟化点205℃、H/C原子比0.65の石油ピッチ70kgと、ナフタレン30kgとを、撹拌翼および出口ノズルのついた内容積300リットルの耐圧容器に仕込み、190℃で加熱溶融混合を行った後、80?90℃に冷却し、耐圧容器内を窒素ガスにより加圧して、内容物を出口ノズルから押出し、直径約500μmの紐状成型体を得、次いで、この紐状成型体を直径(D)と長さ(L)の比(L/D)が約1.5になるように粉砕し、得られた破砕物を93℃に加熱した0.53質量%のポリビニルアルコール(ケン化度88%)を溶解した水溶液中に投入し、撹拌分散し、冷却して球状ピッチ成型体スラリーを得、大部分の水をろ過により取り除いた後、球状ピッチ成形体の約6倍量の質量のn-ヘキサンでピッチ成形体中のナフタレンを抽出除去し、このようにして得た多孔性球状ピッチを、流動床を用いて、加熱空気を通じながら、240℃まで昇温し、240℃に1時間保持して酸化し、得た多孔性球状酸化ピッチを、窒素ガス雰囲気中(常圧)で650℃まで昇温し、650℃で1時間保持して予備炭素化を実施し、揮発分2%以下の炭素前駆体を得て、この得られた炭素前駆体を粉砕して粒度分布を調整し、平均粒子径約4μmの粉末状炭素前駆体とし、この粉末状炭素前駆体60gを黒鉛ボードに堆積し、直径300mmの横型管状炉に入れ、窒素ガスを1分間に5リットル流しながら、250℃/hの速度で1180℃まで昇温し、1180℃で1時間保持して、平均粒子径3.5μmの、ブタノール法による真密度ρ_(Bt)は1.55g/cm^(3)、平均層面間隔d_(002)は0.383nmの非黒鉛質炭素材の炭素質材料a-2と、
人造黒鉛(上海杉杉製CMS-G10)の粒度分布を調整して平均粒子径10μmとした黒鉛質炭素材の炭素質材料a-6とを得て、
炭素質材料a-2を30質量%、炭素質材料a-6を70質量%で混合された炭素材混合物95質量部、導電助剤(電気化学工業製デンカブラック)2質量部、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)(分子量25万?30万)2質量部、カルボキシメチルセルロース(CMC)(第一工業製薬製セロゲン4H)1質量部に超純水を加えてペースト状にした負極合剤を調製し、銅箔上に均一に塗布し、乾燥した後、銅箔より直径15mmの円板状に打ち抜き、これをプレスして電極として作成された負極電極。」(「甲1a-8発明2」という。)

(2)甲2の記載事項及び甲2に記載の発明
ア 本願の優先日前に頒布された刊行物である甲2には、以下の事項が記載されている。
「【請求項1】 正極と、負極と、非水電解液とを備えたリチウム二次電池において、上記の正極に、一般式LiNi_(1-x )Co_(x )O_(2 )(但し、0.1≦x≦0.6の条件を満たす。)で表されるリチウム含有ニッケル・コバルト複合酸化物を用いると共に、上記の負極に、天然黒鉛が60?90重量%の範囲で含まれると共に難黒鉛化炭素が40?10重量%の範囲で含まれる炭素材料を用い、さらに上記の非水電解液として、パルス磁場勾配NMR法によって算出される^(7)Li核の自己拡散係数が1.5×10^(-6)cm^(2)/s以上になった非水電解液を用いたことを特徴とするリチウム二次電池。
【請求項2】 請求項1に記載したリチウム二次電池において、上記の正極に用いるリチウム含有ニッケル・コバルト複合酸化物が、LiNi_(0.7 )Co_(0.3)O_(2 )であることを特徴とするリチウム二次電池。
【請求項3】 請求項1又は2に記載したリチウム二次電池において、上記の負極に用いる炭素材料における天然黒鉛と難黒鉛化炭素との混合比率が80重量%:20重量%であることを特徴とするリチウム二次電池。
【請求項4】 請求項1?3の何れか1項に記載したリチウム二次電池において、上記の炭素材料における上記の天然黒鉛の平均粒径が15μm?20μmの範囲であると共に、上記の難黒鉛化炭素の平均粒径が3μm?7μmの範囲であることを特徴とするリチウム二次電池。」

「【0004】ここで、リチウム二次電池を電力貯蔵用電源として利用する場合、高容量及び高出力であると共にサイクル寿命に優れていることが要求される。
【0005】このため、最近においては、正極における正極材料として、リチウム含有ニッケル・コバルト複合酸化物を用いると共に、負極における負極材料として、高結晶性炭素材料である天然黒鉛と、低結晶性炭素材料であるコークス又は難黒鉛化炭素とを混合した炭素材料を用いるようにしたリチウム二次電池が提案されている[Extended Abstracts of the 10th IMLB, Abstract No.337 (2000) 及び第41回電池討論会予稿集、p558 (2000) ]。
【0006】しかし、このようなリチウム二次電池を家庭用の電力貯蔵用電源として使用するにあたり、10年の使用を想定すると、約3500サイクルという極めて長いサイクル寿命が要求されることになり、上記のような正極や負極を用いたリチウム二次電池においても、これに対応するような十分なサイクル寿命が得られないという問題があった。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】この発明は、正極と、負極と、非水電解液とを備えたリチウム二次電池における上記のような問題を解決することを課題とするものであり、家庭用の電力貯蔵用電源等のように長期にわたって使用される場合において、リチウム二次電池が十分なサイクル寿命をもつようにすることを課題とするものである。」

「【0009】そして、この発明におけるリチウム二次電池のように、正極に、一般式LiNi_(1-x )Co_(x )O_(2 )(但し、0.1≦x≦0.6の条件を満たす。)で表されるリチウム含有ニッケル・コバルト複合酸化物を用いると、他の材料を用いる場合に比べて正極の容量が大きくなって、サイクル特性が向上する。
【0010】ここで、このようなリチウム含有ニッケル・コバルト複合酸化物としては、例えば、LiNi_(0.7 )Co_(0.3 )O_(2 )を用いることが好ましい。また、このようなリチウム含有ニッケル・コバルト複合酸化物を得るにあたっては、LiOH等のリチウム化合物と、Ni(OH)_(2 )等のニッケル化合物と、Co(OH)_(2 )等のコバルト化合物とを適当なモル比で混合させ、乾燥空気中において700?900℃の温度で20時間程度加熱処理することによって製造することができる。
【0011】また、この発明におけるリチウム二次電池のように、負極に天然黒鉛が60?90重量%の範囲で含まれると共に難黒鉛化炭素が40?10重量%の範囲で含まれる炭素材料を用いると、天然黒鉛のみを用いる場合等に比べて、サイクル特性が向上し、好ましくは、天然黒鉛と難黒鉛化炭素との重量比率が80:20になるようにする。
【0012】ここで、上記の天然黒鉛としては、X線回析法によって求められる(002)面の面間隔d_(002 )が0.335nm?0.337nmであり、結晶子の大きさLcが80nm以上であり、またその平均粒径が15μm?20μmの範囲のものを用いることが好ましい。
【0013】また、上記の難黒鉛化炭素としては、X線回析法によって求められる(002)面の面間隔d_(002 )が0.38nm?0.41nmであり、結晶子の大きさLcが0.5nm?10nmの範囲であり、またその平均粒径が3μm?7μmの範囲のものを用いることが好ましい。」

「【0026】(実施例1)実施例1においては、下記のようにして作製した正極と負極と非水電解液とを用いて、直径が30mm,高さが65mmになった図1に示すような円筒型のリチウム二次電池を作製した。
【0027】[正極の作製]正極を作製するにあたっては、正極材料としてリチウム含有ニッケル・コバルト複合酸化物であるLiNi_(0.7 )Co_(0.3 )O_(2 )の粉末を用い、このLiNi_(0.7)Co_(0.3 )O_(2 )粉末と、導電剤である炭素粉末と、結着剤であるポリフッ化ビニリデンとを90:5:5の重量比で混合し、この混合物にN-メチル-2-ピロリドンを加えてスラリー化させ、このスラリーを正極集電体であるアルミニウム箔の両面にドクターブレード法により塗布し、乾燥させた後、これを圧延し、所定の幅に切断して正極を作製した。
【0028】[負極の作製]負極を作製するにあたっては、負極材料として、平均粒径が18μm,(002)面の面間隔d_(002 )が0.3356nm,結晶子の大きさLcが100nm以上の天然黒鉛の粉末と、平均粒径が3.6μm,(002)面の面間隔d_(002 )が0.390nm,結晶子の大きさLcが1nmの難黒鉛化炭素の粉末とを80:20の重量比率で混合させたものを用いるようにした。
【0029】そして、上記の負極材料と結着剤であるポリフッ化ビニリデンとを97:3の重量比で混合し、この混合物にN-メチル-2-ピロリドンを加えてスラリー化させ、このスラリーを負極集電体である銅箔の両面にドクターブレード法により塗布し、乾燥させた後、これを圧延し、所定の幅に切断して負極を作製した。
【0030】[非水電解液の作成]非水電解液を作成するにあたっては、溶媒としてエチレンカーボネートとエチルメチルカーボネートとを30:70の体積比率で混合させた混合溶媒を用い、この混合溶液に、電解質としてヘキサフルオロリン酸リチウムLiPF_(6)を1mol/lの濃度になるように溶解させて非水電解液を作成した。なお、この非水電解液においては、パルス磁場勾配NMR方によって算出される^(7)Li核の自己拡散係数が、下記の表1に示すように、2.05×10^(4)cm^(2)/sになっていた。
【0031】[電池の作製]電池を作製するにあたっては、図1に示すように、上記のようにして作製した正極1と負極2との間に、セパレータ3としてリチウムイオン透過性のポリエチレン製の微多孔膜を介在させ、これらをスパイラル状に巻いて電池缶4内に収容させた後、この電池缶4内に上記のようにして作製した非水電解液を注液して封口し、正極1を正極リード5を介して正極外部端子6に接続させると共に負極2を負極リード7を介して電池缶4に接続させ、正極外部端子6と電池缶4とを絶縁パッキン8により電気的に分離させた。」

「【図1】



イ 上記アの各記載事項(特に【0026】、【0028】?【0031】の実施例1)を総合勘案すると、甲2には、次の発明が記載されていると認められる。
「平均粒径が18μm,(002)面の面間隔d_(002 )が0.3356nm,結晶子の大きさLcが100nm以上の天然黒鉛の粉末と、平均粒径が3.6μm,(002)面の面間隔d_(002 )が0.390nm,結晶子の大きさLcが1nmの難黒鉛化炭素の粉末とを80:20の重量比率で混合させた負極材料と、結着剤であるポリフッ化ビニリデンとを97:3の重量比で混合し、この混合物にN-メチル-2-ピロリドンを加えてスラリー化させ、このスラリーを負極集電体である銅箔の両面にドクターブレード法により塗布し、乾燥させた後、これを圧延し、所定の幅に切断して作製した非水電解液を注液した円筒型のリチウム二次電池の負極。」(以下、「甲2発明」という。)

(3)甲3の記載事項
本願の優先日前に頒布された刊行物である甲3には、以下の事項が記載されている。
「【請求項1】 正極および負極と共に電解質を備えた電池であって、
前記負極の容量は、軽金属の吸蔵および離脱による容量成分と、軽金属の析出および溶解による容量成分との和により表され、
前記負極は、軽金属を吸蔵および離脱可能な負極材料と、主としてスチレン-ブタジエン共重合体からなる結着剤と、主としてカルボキシメチルセルロース誘導体からなる増粘剤により構成される負極合剤を含み、
前記結着剤の前記負極合剤に占める重量割合が0.5質量%以上4質量%以下であり、
前記負極材料の比表面積(m^(2) /g)に対する前記結着剤の前記負極合剤に占める重量割合(質量%)の比が0.25以上4以下であり、
かつ、前記結着剤の重量に対する前記増粘剤の重量の比が1/3以上2以下であることを特徴とする電池。」

「【請求項5】 前記負極は炭素材料を含むことを特徴とする請求項4記載の電池。
【請求項6】 前記負極は、黒鉛、易黒鉛化性炭素および難黒鉛化性炭素からなる群のうちの少なくとも1種を含むことを特徴とする請求項5記載の電池。
【請求項7】 前記負極は黒鉛を含むことを特徴とする請求項6記載の電池。」

「【0014】リチウムを吸蔵および離脱することが可能な正極材料としては、例えば、リチウム酸化物,リチウム硫化物あるいはリチウムを含む層間化合物などのリチウム含有化合物が適当であり、これらの2種以上を混合して用いてもよい。特に、エネルギー密度を高くするには、一般式Li_(x )MO_(2 )で表されるリチウム複合酸化物あるいはリチウムを含んだ層間化合物が好ましい。なお、Mは1種類以上の遷移金属が好ましく、具体的には、コバルト(Co),ニッケル(Ni),マンガン(Mn),鉄(Fe),アルミニウム(Al),バナジウム(V)およびチタン(Ti)のうちの少なくとも1種が好ましい。xは、電池の充放電状態によって異なり、通常、0.05≦x≦1.10の範囲内の値である。また、他にも、スピネル型結晶構造を有するLiMn_(2)O_(4)、あるいはオリビン型結晶構造を有するLiFePO_(4 )なども高いエネルギー密度を得ることができるので好ましい。」

「【0018】負極合剤層22bは、軽金属であるリチウムを吸蔵および離脱することが可能な負極材料のいずれか1種または2種以上を含んで構成されており、本実施の形態では、主としてスチレン-ブタジエン共重合体からなる結着剤を含むと共に、主としてセルロース誘導体からなる増粘剤を含んでいる。ここでいうスチレン-ブタジエン共重合体とは、ブタジエンとスチレンの乳化重合による共重合体であり、共重合体の結合スチレン量は50%以下のものを指し、スチレンおよびブタジエンの2成分からなるものだけでなく、更に第3,第4あるいはそれ以上の成分を含んでいてもよい。このようなスチレン-ブタジエン共重合体は、従来より結着剤として用いられているポリフッ化ビニリデン等が点結着するのに対し、面結着する性質を有している。そのために、結着剤の負極合剤層22bに占める割合を減少させることができる。特に、カルボニル基およびシアノ基の少なくとも一方を有しているスチレン-ブタジエン共重合体は、従来より用いられているポリフッ化ビニリデンよりも負極合剤に占める割合を低減させることができ、結着剤として好ましい。」

「【0026】リチウムを吸蔵および離脱することが可能な負極材料としては、例えば、黒鉛,難黒鉛化性炭素あるいは易黒鉛化性炭素などの炭素材料が挙げられる。これら炭素材料は、充放電時に生じる結晶構造の変化が非常に少なく、高い充放電容量を得ることができると共に、良好な充放電サイクル特性を得ることができるので好ましい。特に黒鉛は、電気化学当量が大きく、高いエネルギー密度を得ることができ好ましい。」

「【0033】難黒鉛化性炭素としては、(002)面の面間隔が0.37nm以上、真密度が1.70g/cm3 未満であると共に、空気中での示差熱分析(differentialthermal analysis ;DTA)において700℃以上に発熱ピークを示さないものが好ましい。」

「【0087】(実施例1)まず、炭酸リチウム(Li_(2 )CO_(3 ))と炭酸コバルト(CoCO_(3 ))とを、リチウム原子とコバルト原子とが1:1の組成比となるように混合し、空気中において900℃で5時間焼成して、リチウム・コバルト複合酸化物(LiCoO_(2))を得た。得られたリチウム・コバルト複合酸化物についてX線回折測定を行ったところ、JCPDSファイルに登録されたLiCoO_(2 )のピークとよく一致していた。次いで、このリチウム・コバルト複合酸化物を粉砕し、粉末状の正極材料とした。
【0088】続いて、このリチウム・コバルト複合酸化物粉末95質量%、導電剤として平均粒径7μmのKS-15グラファイト(ロンザ社製)2質量%、および、結着剤としてポリフッ化ビニリデン3質量%を混合して正極合剤を調製した。この正極合剤を溶剤であるN-メチル-2-ピロリドンに分散させて正極合剤スラリーとし、厚み20μm,幅58mmの帯状アルミニウム箔よりなる正極集電体21aの両面に均一に塗布して乾燥させ、ロールプレス機で圧縮成型して正極合剤層21bを形成して正極21を作製した。そののち、正極集電体21aの一端側にアルミニウム製の正極リード25を取り付けた。
【0089】また、粉砕して比表面積が2g/m^(2)となったピッチコークスを負極材料とし、このピッチコークス96質量%、結着剤としてスチレン-ブタジエン共重合体の主鎖にカルボニル基およびシアノ基を有するスチレン-ブタジエン重合体2質量%、増粘剤として分子量15万のカルボキシメチルセルロースアンモニウム(以下、単にカルボキシメチルセルロースアンモニウムと記載)2質量%を混合して負極合剤を調整した。なお、以下に述べる全ての実施例,比較例において、結着剤として用いるスチレン-ブタジエン重合体とは上記のものを指すものとする。続いて、この負極合剤を蒸留水に分散させてスラリー状としたのち、厚さ10μm,幅59mmの銅箔よりなる負極集電体22aの両面に均一に塗布し、乾燥させ、ロールプレス機で圧縮成型して帯状の負極22を作製した。その後、負極集電体22aの一端側にニッケル製の負極リード26を取り付けた。」

(4)甲4の記載事項
本願の優先日前に頒布された刊行物である甲4には、以下の事項が記載されている。
「【請求項1】
有機化合物の焼成体である炭素質物と該炭素質物に担持されたリチウム又はリチウムを主体とするアルカリ金属とから成る負極体と、セパレータと、リチウム含有複合酸化物を正極活物質とする正極体とを、この順序で一体的に積層してなる発電要素を具備する非水溶媒二次電池において、該負極体の結着剤として、カルボキシメチルセルロースとスチレンブタジエンゴムとを用いることを特徴とする非水溶媒二次電池。」

「【0004】このような問題を回避するために、負極に各種の有機化合物を焼成した炭素質物に、リチウム又はリチウムを主体とするアルカリ金属を担持させて構成する二次電池が試みられている。このような負極を用いることにより、リチウムデンドライトの析出が防止されサイクル特性が向上し、かつ、金属リチウムを使用していないため安全性についても向上されてきている。
【0005】一方、これらマンガン酸化物と異なる反応形態である層状化合物のインターカレーション又はドーピング現象を利用した電極活物質が注目を集めている。これらの電極活物質は、充電、放電反応時において複雑な化学反応を起こさないことから、極めて優れた充放電サイクル特性を有することが期待される。中でも炭素質材料を負極担持体とし、正極活物質としてLiCoO_(2)/LiNiO_(2)やTiS_(2)、MoS_(2)を用いた電池系が提案されている。しかし、炭素質材料を負極活物質とした場合、TiS_(2)、MoS_(2)等の金属カルコゲン化合物を正極活物質としてもちいると起電力が小さい(1.0?1.2V)。そこで、正極活物質としては、3.5V程度の平均作動電圧を示すLiCoO_(2)、LiNiO_(2)、LiCo_(x)Ni_((1-x))O_(2)等が検討されてきている。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】しかし、炭素質材料を負極担持体として使用した電池は、充放電サイクル寿命が短く又十分な容量維持率を得ることができなかった。即ち、ここでは結着剤としてポリテトラフルオロエチレンを用いたが、充放電サイクルの進行と共にリチウムと結着剤であるポリテトラフルオロエチレンとが反応・分解し、負極体の結着能力を大幅に低下させる。その結果、集電体と負極担持体との導電性が損なわれ電池内部抵抗を大幅に増加させた。また結着能力の低下による負極担持体の脱落、及び内部短絡等の問題があった。又、結着剤としてエチレン-プロピレン-環状ジエンの三元共重合体を用いたものは負極担持体を覆うような結着形態をとるため電池内部抵抗を大幅に増加させ充分な特性を得ることができなかった。
【0007】本発明はかかる問題点を改善するためになされたもので、充放電サイクル寿命に優れ、かつ高い容量維持率をもつ非水溶媒二次電池を提供しようとするものである。
【0008】
【課題を解決するための手段】本発明の非水溶媒二次電池は、有機化合物の焼成体である炭素質物と該炭素質物に担持されたリチウム又はリチウムを主体とするアルカリ金属とから成る負極体と、セパレータと、リチウム合有複合酸化物を正極活物質とする正極体とを、この順序で一体的に積層してなる発電要素を具備する非水溶媒二次電池において、該負極体の結着剤として、カルボキシメチルセルロースとスチレンブタジエンゴムの混合溶媒を用いることを特徴とする。
【0009】本発明で用いられるリチウム含有複合酸化物は、一般的に次のような方法で合成される。すなわち、リチウムと、Co,Ni,Fe,またはMnから選ばれる1種又は2種以上の遷移金属の炭素塩、硝酸塩、硫酸塩、水酸化物などを出発原料として、これらを化学量論比で混合し、焼成することによって得られる。なお出発原料としては炭酸塩が好ましい。焼成温度は出発原料により多少異なるが、通常は600?1,000℃の温度範囲で、好ましくは600?800℃の範囲である。
【0010】負極担持体である炭素質材料は、電池特性の向上のために、好ましくは有機化合物を焼成してなる炭素質材を用いる。この炭素質材料の原料となる有機化合物としては、通常使用されているものであれば特に限定されるものではなく、フェノール樹脂、とくにノボラック樹脂、ならびにポリアクリロニトリル等を用いることができる。またこの炭素質材料としては、特願平1-283086号に示すような有機化合物焼成体の特性を有するものが、とくに好ましい。
【0011】本発明で結着剤として用いられるカルボキシメチルセルロース(以下CMC)は、特に限定はなく一般に市販品を用いることができるが、なかでもエーテル化度0.5?2.5、平均重合度100?2,000、平均分子量25,000?400,000のもので中和剤としてアンモニウム塩を用いたものが特に好ましい。又、スチレン・ブタジエンゴム(以下SBR)にいても特に限定はなく一般品を用いることができるが、なかでも重合率60?95%、結合スチレン20?50%で、変性のSBRラテックスを用いることが好ましい。
【0012】なお、負極体における負極担持体量は全体の90重量%以上であり結着剤量は0.5?5重量%である。そのうちCMC量は0.5?3重量%好ましくは1?1.5重量%であり、SBR量は1?5重量%好ましくは2?3重量%である。結着剤量が5%を越えると、負極の内部抵抗が増加し、電池の重負荷放電の能力を大幅に低下させるので好ましくない。またCMC量が3%を越えると増粘効果が大きくなり後述するようなスラリー化が困難なため好ましくなく、SBR量が5%を越えると、結着効果が大きくなり電池の内部抵抗を増加させる原因となるため好ましくない。」

「【0014】
【作用】本発明の二次電池において、負極体の結着剤にCMCとSBRを用いることによりリチウムと結着剤との反応はなくなり、その結果、充放電サイクルを繰り返しても集電体と負極担持体との導電性を損なうことにより生ずる電池内部抵の増加、また結着能力の低下による負極担持体の脱落、及び内部短絡はなくなる。従って、充放電サイクル寿命が向上され、しかも電池性能が安定した非水溶媒二次電池を得ることができる。
【0015】
【実施例】以下、本発明を実施例及び比較例により、図面を参照しつつ詳細に説明する。
実施例
市販の炭酸リチウム、炭酸コバルトを、LiとCoのモル比でLi/Co=1.10になるように秤量し、乳鉢において充分混合した。この混合物をアルミナ製のルツボにいれ、電気炉において、800℃で6時間加熱処理を行った。得られた焼成物は、冷却後再度粉砕し、同様に800℃で6時間加熱処理を行い、その後、蒸留水で充分に洗浄し、未反応のアルカリ分を洗い流した。この生成物は粉末X線法でLiCoO_(2)と確認された。この生成物90重量%、導電材としてアセチレンブラック7重量%及び結着剤としてエチレン-プロピレン-環状ジエンの三元共重合体3重量%をヘキサン中で混練してスラリー状の正極合剤を調整し、この正極合剤を厚さ10μmのステンレス基板上に塗布・風乾した後、加圧して一定厚にし、つづいて、0.26mm厚の正極合剤層を有する板上の正極を製造した。
【0016】一方、負極担持体である炭素質材料は、ノボラック樹脂を窒素雰囲気下で950℃で焼成した後、さらに、2,000℃に加熱して炭素化することによって製造し、粉砕して平均径10μmの粉末とした。結着剤に用いるCMCとSBRはそれぞれ蒸留水で溶解させ、上記した炭素質材料と結着剤の割合が重量比で96:4(またCMCとSBRの割合が重量比で1:2)となるように分散させスラリー状の負極合剤を製造した。この負極合剤を厚さ10μmのステンレス基板上に塗布・乾燥して厚さ0.2mmの負極合剤層を有する板状の負極を製造した。このようにして得られた正・負極を用いて、図1に示すような単三(AA)サイズの非水溶媒二次電池を組み立てた。」

(5)甲5の記載事項
本願の優先日前に頒布された刊行物である甲5には、以下の事項が記載されている。
「【請求項1】
下記式で示される初期吸湿速度(X)が 0.1mg/m^(2)・h以上、5mg/m^(2)・h以下の範囲であり、且つX線回折スペクトル法からBragg式を用いて算出される炭素材の平均面間隔d002が、3.40Å以上、4.00Å以下、さらに窒素吸着におけるBET3点法による比表面積が0.001m^(2)/mg以上、0.015m^(2)/mg以下であることを特徴とする、リチウムイオン二次電池用炭素材。
初期吸湿速度(X)(mg/m^(2)・h)=((40℃、湿度90%の恒温恒湿下で60分放置後の粉末の重量)-(測定前の粉末の重量))/(測定前の粉末の重量×窒素吸着におけるBET3点法による比表面積)
(ただし、前記粉末の重量の単位はmg、比表面積はm^(2)/mgである。)
【請求項2】
請求項1記載のリチウムイオン二次電池用炭素材と、結着剤と、水とを含むリチウムイオン二次電池用負極合剤。
【請求項3】
前記結着剤が、合成ゴム系ラテックス型接着剤と水溶性高分子とを含む請求項2に記載のリチウムイオン二次電池用負極合剤。
【請求項4】
前記合成ゴム系ラテックス型接着剤が、スチレンブタジエンゴムラテックスである請求項3記載のリチウムイオン二次電池用負極合剤。
【請求項5】
前記水溶性高分子がカルボキシメチルセルロース及び/又はカルボキシメチルセルロース塩である請求項3または請求項4記載のリチウムイオン二次電池用負極合剤。」

「【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池用炭素材、リチウムイオン二次電池用負極合剤、リチウムイオン二次電池用負極、およびリチウムイオン二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、リチウムイオン電池は高エネルギー密度及び高出力密度を有することから、パソコンや携帯機器などの電源として広く使用されている。また、環境に配慮した自動車として電気自動車及びハイブリッド自動車の開発が進む中、リチウムイオン電池は自動車用の電源へ適用が検討されている。一般に、リチウムイオン二次電池を構成する負極は、粉末状の炭素材料からなる負極活物質に結着剤を混合し、適当な溶媒を加えてペースト状にした負極合剤を、金属箔集電体の表面に塗布乾燥することにより形成される。結着剤としては、ポリフッ化ビニリデン等のフッ素系樹脂が主として用いられ、結着剤を溶解し負極活物質を分散させる溶媒としては、N-メチル-2-ピロリドン等の有機溶剤が主として用いられている。
しかしながら、有機溶剤の使用は、環境保全への配慮やコストの低減等の観点から好ましくなく、最近ではスチレンブタジエン系ゴム、等の水系バインダーが添加量を少なくできることや、水系分散液で用いるため電極製造工程が簡易化されることなどのメリットから多く用いられるようになってきた。
特許文献1には、樹脂組成物を炭化処理してなる、温度40℃、湿度90%RHの条件下7日後の吸湿率が4.0%以下であり、炭素材の密度が1.1g/cm^(3)以上、2.2g/cm^(3)以下である炭素材が開示されている。特許文献1に開示された炭素材は吸湿率を抑制することにより、放電容量、充放電効率を向上させることに成功しているが、水系バインダーと併用した場合において放電容量、充放電効率のさらなる向上を達成する技術の開示はない。」

(6)甲6の記載事項
本願の優先日前に頒布された刊行物である甲6には、以下の事項が記載されている。
「【請求項1】
リチウムイオン二次電池に用いられる負極活物質を含む負極用合剤であって、
前記負極用合剤は負極活物質、結着剤、層状化合物、および分散媒を含み、かつ該分散媒が水であることを特徴とする負極用合剤。
【請求項2】
前記層状化合物が、粘土鉱物を含む請求項1に記載の負極用合剤。
【請求項3】
前記粘土鉱物がベントナイト、スメクタイト、モンモリロナイト、サポナイト、バイデライト、ヘクトライト、スチブンサイト、ソーコナイト、ハイドロタルサイト、およびノントロナイトの群からなる1種以上を含む請求項2に記載の負極用合剤。
【請求項4】
前記層状化合物の含有量が、前記負極用合剤全体の0.08重量%以上2.00重量%以下である請求項1?3のいずれかに記載の負極用合剤。
【請求項5】
前記結着剤が、水分散型結着剤を含む請求項1?4のいずれかに記載の負極用合剤。
【請求項6】
前記水分散型結着剤が、エマルジョン樹脂および水溶性樹脂の少なくともいずれか一方の樹脂を含む請求項5に記載の負極用合剤。
【請求項7】
前記水溶性樹脂がカルボキシメチルセルロースを含む請求項6に記載の負極用合剤。
【請求項8】
前記エマルジョン樹脂がスチレンブタジエンゴムを含む請求項6または7に記載の負極用合剤。
【請求項9】
前記エマルジョン樹脂の含有量が、前記負極用合剤全体の0.1重量%以上1.5重量%以下である請求項6?8のいずれかに記載の負極用合剤。
【請求項10】
前記負極用合剤における前記エマルジョン樹脂の含有量が、前記負極用合剤における前記均一溶解樹脂の含有量以上である請求項6?9のいずれかに記載の負極用合剤。
【請求項11】
前記負極活物質にハードカーボンを含む請求項1?10のいずれかに記載の負極用合剤。
【請求項12】
前記負極活物質に黒鉛を含む請求項1?11のいずれかに記載の負極用合剤。
【請求項13】
請求項1?12に記載の負極用合剤を用いてなるリチウムイオン二次電池用負極。
【請求項14】
請求項13に記載のリチウムイオン二次電池用負極を含むリチウムイオン二次電池。」

「【0024】
[ハードカーボン]
ハードカーボン(難黒鉛化性炭素)とは、例えばグラファイト結晶構造が発達しにくい高分子等を焼成して得られる炭素材であって、アモルファス(非晶質)な物質である。言い換えると、ハードカーボンとは、樹脂または樹脂組成物等を炭化処理することにより得られる炭素素材である。
【0025】
このようなハードカーボンは、水との親和性が高いことにより、前記負極用合剤が、保管時や、乾燥時に分離、偏析することをより抑制することができる。また、リチウムイオン二次電池としたときに、サイクル時の安定性が高く、大電流の出し入れを容易に行うことができる。しかしながら、ハードカーボンで構成された炭素材を負極として用いた場合、充放電効率が低下し易い傾向がある。また、ハードカーボンは、分散媒としての水との親和性が高いため、乾燥時に分散媒である水が除去しにくいという傾向がある。そのため、前述の通りに黒鉛と併用することで、負極用合剤としたときに、乾燥時に分散媒が残存することをより抑制することができ、また、リチウムイオン二次電池としたときに、充放電効率を優れたものとしつつ、サイクル時の安定性、および、大電流の入出力特性にも優れたものとすることができる。
【0026】
負極活物質におけるハードカーボンの含有量は、5?45重量%であるのが好ましく、15?40重量%であるのがより好ましい。ハードカーボンの含有量が上記範囲であると、前記負極用合剤が、保管時や、乾燥時に分離、偏析を抑制する効果を向上することができ、リチウムイオン二次電池としたときに、優れた充放電効率を損なうことなく、サイクル時の安定性、および、大電流の入出力特性をより効果的に高いものとすることができる。
【0027】
負極活物質中におけるハードカーボンの粒径は、特に限定されないが、1?50μmであるのが好ましく、2?30μmであるのがより好ましい。ハードカーボンの粒径が上記範囲であると、前記負極用合剤が、保管時や、乾燥時に分離、偏析を抑制する効果を向上することができ、リチウムイオン二次電池としたときに、優れた充放電効率を損なうことなく、サイクル時の安定性、および、大電流の入出力特性をより効果的に高いものとすることができる。ここで、ハードカーボンの粒径は、前記黒鉛の粒径と同様に、粒子形状とMie理論を用いて測定量を粒子径に算出した値とし、有効径と称されるものである。ハードカーボンの粒径は、例えば分散媒として水を、分散剤として市販の界面活性剤を使用して、超音波処理によってハードカーボンを水中に分散させたものを用いて、レーザー回折式粒度分布測定法により測定される体積換算で頻度が50%となる粒子径を平均粒径D50%として求めることができる。
【0028】
また、前記負極活物質は、黒鉛とハードカーボンを併用することが好ましい。特に、負極活物質における黒鉛の含有量をA[重量%]、ハードカーボンの含有量をB[重量%]としたとき、1.2≦A/B≦19の関係を満足するのが好ましく、1.5≦A/B≦5.6の関係を満足するのがより好ましい。このような関係を満足することにより、前記負極用合剤が、保管時や、乾燥時に分離、偏析を抑制する効果をさらに向上することができ、リチウムイオン二次電池としたときに、優れた充放電効率を損なうことなく、サイクル時の安定性、および、大電流の入出力特性をさらに効果的に高いものとすることができる。」

「【0064】
前記結着剤は、特に限定されないが、例えば水分散型の結着剤、有機溶媒分散型の結着剤が挙げられる。中でも、水分散型の結着剤が好ましく、水分散型の結着剤を含むことにより、負極用合剤の保管時や、乾燥時に分離、偏析を抑える効果が向上する。
【0065】
前記水分散型の結着剤は、特に限定されないが、例えばエマルジョン樹脂、水溶性樹脂等が挙げられ、好ましくは、エマルジョン樹脂、水溶性樹脂を併用することである。これにより、負極用合剤の保管時や、乾燥時に分離、偏析を抑える効果を向上させ、併せて負極活物質と集電体の密着を上昇させることができる。
【0066】
前記エマルジョン樹脂としては、特に限定されないが、ブタジエンゴム、スチレンブタジエンゴム(SBRラテックス)等のゴム状高分子が挙げられ、中でもスチレンブタジエンゴムが好ましい。スチレンブタジエンゴムを含むことで、負極としたときの活物質と集電体、および活物質同士の結着性が向上し、併せて、負極としたときの柔軟性が向上し、乾燥後の巻き取りの際に、耐折り返し性が向上するという効果が得られる。」

「【0072】
<負極用合剤>
本発明の負極用合剤は、例えば、前記負極用活物質と前記層状化合物と、分散媒である水とを混合・混練してスラリー状にすることにより調製することができる。混合・混練する方法は、特に限定されないが、ロール混錬、ボールミル混錬、プラネタリーミキサー等を使用したミキサー混錬のようにすることができる。このような方法で負極用合剤を製造することで、負極用合剤の均一分散性を向上させるという効果が得られる。」

「【0085】
正極21は、図1に示すように、正極材20と正極集電体22とを有している。
正極材20としては、特に限定されず、例えば、リチウムコバルト酸化物(LiCoO_(2))、リチウムニッケル酸化物(LiNiO_(2))、リチウムマンガン酸化物(LiMn_(2)O_(4))などの複合酸化物や、ポリアニリン、ポリピロールなどの導電性高分子などを用いることができる。」

「【0089】
(実施例1)[1]炭素材の製造 樹脂組成物として、フェノール樹脂PR-217(住友ベークライト(株)製)を以下の工程(a)?(f)の順で処理を行い、負極活物質としてハードカーボンを得た。
【0090】
(a)還元ガス置換、不活性ガス置換、還元ガス流通、不活性ガス流通のいずれも無しで、室温から500℃まで、100℃/時間で昇温
(b)還元ガス置換、不活性ガス置換、還元ガス流通、不活性ガス流通のいずれも無しで、500℃で2時間脱脂処理後、冷却
(c)振動ボールミルで微粉砕
(d)不活性ガス(窒素)置換および流通下、室温から1200℃まで、100℃/時間で昇温
(e)不活性ガス(窒素)流通下、1200℃で8時間炭化処理
(f)不活性ガス(窒素)流通下、600℃まで自然放冷後、600℃から100℃以下まで、100℃/時間で冷却
【0091】
[2]負極用合剤1の作製
負極活物質として作製したハードカーボン(以下、HCとも言う。)を100部、導電助剤(デンカ製、アセチレンブラック、以下、ABとも言う。)2.0部、結着剤として、エマルジョン樹脂であるスチレンブタジエンラテックス(JSR製、TRDー2001、以下、SBRとも言う)1.5部、水溶解性樹脂であるカルボキシメチルセルロース(ダイセルファインケム製、CMCダイセル2200、以下、CMCとも言う。)0.5部、層状化合物として合成スメクタイト(コープケミカル製、SWF、以下、SWFとも言う。)0.4部、イオン交換水115部をプラネタリーミキサーで十分撹拌して負極用合剤1を得た。作製した負極用合剤1を60℃2週間オーブンで保管したが、結着剤の偏析は見られなかった。」

「【0098】
(実施例2)
負極活物質として実施例1と同様に作製したハードカーボンを35部および球状化した天然黒鉛を65部、導電助剤(デンカ製、アセチレンブラック)2.0部、結着剤として、エマルジョン樹脂であるスチレンブタジエンラテックス(JSR製、TRDー2001)1.5部、水溶解性樹脂であるカルボキシメチルセルロース(ダイセルファインケム製、CMCダイセル2200)1.0部、層状化合物として合成スメクタイト(コープケミカル製、SWF)0.3部、イオン交換水120部をプラネタリーミキサーで十分撹拌して負極用合剤2を得た。作製した負極用合剤2を60℃2週間オーブンで保管したが、結着剤の偏析は見られなかった。作製した負極用合剤2の配合を表1に示し、評価結果を表2に示す。
【0099】
(実施例3)
負極活物質として実施例1と同様に作製したハードカーボンを35部および球状化した天然黒鉛を65部、導電助剤(デンカ製、アセチレンブラック)2.0部、結着剤として、エマルジョン樹脂であるスチレンブタジエンラテックス(JSR製、TRDー2001)1.25部、水溶解性樹脂であるカルボキシメチルセルロース(ダイセルファインケム製、CMCダイセル2200)0.5部、層状化合物として合成スメクタイト(コープケミカル製、SWF)1.0部、イオン交換水130部をプラネタリーミキサーで十分撹拌して負極用合剤3を得た。作製した負極用合剤3を60℃2週間オーブンで保管したが、結着剤の偏析は見られなかった。作製した負極用合剤3の配合を表1に示し、評価結果を表2に示す。
【0100】
(実施例4)
負極活物質として実施例1と同様に作製したハードカーボンを35部および球状化した天然黒鉛を65部、導電助剤(デンカ製、アセチレンブラック)2.0部、結着剤として、エマルジョン樹脂であるスチレンブタジエンラテックス(JSR製、TRDー2001)1.5部、水溶解性樹脂であるカルボキシメチルセルロース(ダイセルファインケム製、CMCダイセル2200)0.7部、層状化合物として合成スメクタイト(コープケミカル製、SWF)2.2部、イオン交換水155部をプラネタリーミキサーで十分撹拌して負極用合剤4を得た。作製した負極用合剤4を60℃2週間オーブンで保管したが、結着剤の偏析は見られなかった。作製した負極用合剤4の配合を表1に示し、評価結果を表2に示す。」

「【図1】



(7)甲7の記載事項及び甲7に記載の発明
ア 本願の優先日前に頒布された刊行物である甲7には、以下の事項が記載されている。
「【請求項1】 銅箔と、前記銅箔上に形成された密度が1.4?1.8g/cm^(3)の負極合材層とからなる負極、アルミニウム箔と、前記アルミニウム箔上に形成された密度が3.3?3.7g/cm^(3)の正極合材層とからなる正極、ならびに非水電解液を具備してなるリチウム二次電池であって、
前記負極合材層が、黒鉛と難黒鉛化性炭素とを含み、前記正極合材層が、LiMn_(2)O_(4)とLiNiO_(2)とからなる活物質(a)、LiMn_(x)Ni_(1-x)O_(2)からなる活物質(b)、LiMn_(2)O_(4)とLiNiO_(2)とLiCoO_(2)とからなる活物質(c)、およびLiMn_(y)Ni_(z)Co_(1-y-z)O_(2)からなる活物質(d)よりなる群から選ばれた少なくとも1種を含むことを特徴とするリチウム二次電池。
【請求項2】 活物質(a)または(c)において、LiNiO_(2)は、ニッケルイオンの一部が、コバルトイオンおよびアルミニウムイオンよりなる群から選ばれた少なくとも1種のイオンで置換されたLiNi_(1-a-b)Co_(a)Al_(b)O_(2)(0<a+b≦0.25)の組成を有する請求項1記載のリチウム二次電池。
【請求項3】 活物質(a)において、LiMn_(2)O_(4)の含有率は、LiMn_(2)O_(4)とLiNiO_(2)との総重量の20?50重量%である請求項1記載のリチウム二次電池。
【請求項4】 活物質(b)において、x値が、0<x<0.5である請求項1記載のリチウム二次電池。
【請求項5】 活物質(c)において、LiMn_(2)O_(4)の含有率は、LiMn_(2)O_(4)とLiNiO_(2)とLiCoO_(2)との総重量の20?40重量%である請求項1記載のリチウム二次電池。
【請求項6】 活物質(c)において、LiNiO_(2)の含有率は、LiMn_(2)O_(4)とLiNiO_(2)とLiCoO_(2)との総重量の20?40重量%である請求項1記載のリチウム二次電池。
【請求項7】 活物質(d)において、y値が、0<y<0.4、z値が、0<z<0.4である請求項1記載のリチウム二次電池。
【請求項8】 前記難黒鉛化性炭素の含有率は、黒鉛と難黒鉛化性炭素との総量の10?30重量%である請求項1記載のリチウム二次電池。
【請求項9】 前記黒鉛は、塊状天然黒鉛、人造黒鉛、黒鉛化されたメソカーボンマイクロビーズ、バルクメソフェーズ粉砕粒の黒鉛化材および黒鉛化されたメソフェーズ系炭素繊維よりなる群から選ばれた少なくとも1種からなる請求項1記載のリチウム二次電池。
【請求項10】 前記黒鉛の平均粒子径は、10?40μmであり、前記難黒鉛化性炭素の平均粒子径は、前記黒鉛の平均粒子径の70%以下である請求項1記載のリチウム二次電池。」

「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、炭素材料からなる負極と、リチウムを含む遷移金属複合酸化物からなる正極と、非水電解液とからなるリチウム二次電池に関する。」

「【0007】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、LiMn_(2)O_(4)とLiNiO_(2)の混合材、LiMn_(x)Ni_(1-x)O_(2)、LiMn_(y)Co_(z)Ni_(1-y-z)O_(2)といった複合酸化物を正極活物質に用い、広く採用されている黒鉛を負極に用いたリチウム二次電池においても、正極中のマンガン種に起因する問題は解決されていない。すなわち、高温雰囲気で電池を保存した際に、正極活物質中のマンガン種が電解液に溶出し、正極容量が低下し、同時に負極の黒鉛に金属マンガンが析出して負極が不活性化するという問題は、解決されていない。電池設計の観点を踏まえると、低い充電状態(SOC)の電池、極端な例として完全放電状態の電池の高温保存による劣化に関して、以下のような解釈がある。
【0008】図1は、一般的な正極:LiCoO_(2)、負極:黒鉛の構成を有するリチウム二次電池の容量設計バランスの概念を表している。リチウム二次電池の充電制御(例えば4.2Vの定電圧制御など)では、主に充電時の電位変化の大きい正極の電位変化を検知して充電を終止させている。図1中のXに充電終止位置を示す。ここで、正極活物質と負極活物質は、負極理論容量C_(2)が正極理論容量C_(1)よりも大きくなるように電池内に収容する。これは、負極は充電挙動を十分に制御することができないため、負極において過充電が発生したり、金属リチウムが析出してしまうのを抑止するためである。正極理論容量C_(1)は、LiCoO_(2)の0.5電子反応に基づく容量:137mAh/g、負極理論容量C_(2)は、黒鉛のLiC_(6)形成反応に基づく容量:372mAh/gから算出する場合が多い。
【0009】正極では、LiCoO_(2)からのLi^(+)とe^(-)の引き抜きが起こる初期充電時に、CoO_(2)層状構造の局所的な崩壊が起こる。このため、それに続く放電は、完全に可逆的なものとはならない。使用するLiCoO_(2)の結晶性にもよるが、通常、5mAh/g程度の正極充放電ロス:ΔC+が生ずる。一方、負極では、初期の充電時に、黒鉛粒子表面で電解液の分解による皮膜形成等が起こり、余分な電気量が消費される。このため、例えばエチレンカーボネートとエチルメチルカーボネートとの混合溶媒にLiPF_(6)を溶解させた、比較的副反応の少ない電解液を使用した場合にも、30?40mAh/g程度の負極充放電ロス:ΔC^(-)が生ずる。従って、リチウム二次電池の実作動域における電池容量(4?3V付近までの電池容量)は、図1中に示したC_(3)となり、放電容量は負極の黒鉛に規制される。図1中のYに放電終止位置を示す。
【0010】次に、LiMn_(2)O_(4)とLiNiO_(2)の混合材、LiMn_(x)Ni_(1-x)O_(2)、LiMn_(y)Co_(z)Ni_(1-y-z)O_(2)といった複合酸化物を正極活物質に用いた場合の容量設計バランスを図2に示す。LiNiO_(2)、LiMn_(x)Ni_(1-x)O_(2)、LiMn_(y)Co_(z)Ni_(1-y-z)O_(2)結晶では、初期充電時におけるNiO_(2)層状構造の局所的崩壊の程度がLiCoO_(2)に比べて大きいことから、正極の不可逆容量が過大となる。このため、これを通常の黒鉛からなる負極と組み合わせて電池を構成すると、放電容量が正極に規制される。
【0011】ここで、正極のマンガン含有複合酸化物から溶出するマンガン種は、前記酸化物の固相内で形成される2価マンガンイオン(Mn^(2+))が主と考えられている。Mn^(2+)の形成反応としては、次の2つが考えられる。
2Mn^(3+) → Mn^(4+ )+ Mn^(2+) (式1)
Mn^(n+) → Mn^(2+ )+ (n-2)e^(- )(3≦n≦4) (式2)
式1に示した反応は、3価のマンガンイオンの構造的不安定性(配位子場理論におけるヤーン・テラー不安定性)に起因する。この不均化反応は、正極の電位に関わらず、Mn^(3+)の濃度に応じて起こる。式2に示した反応は、低電位におかれた3価以上のマンガンイオンが電気化学的にMn^(2+)に還元される反応である。
【0012】上記のように正極構成元素としてマンガン種を含んでおり、放電末期の容量が正極に規制された電池を、低いSOC状態で保存すると、Mn^(3+)の濃度が高いために式1の不均化反応が起こりやすい。また、正極の電位そのものが低い状態に保たれるため、式2の高次マンガンイオンの電気化学的な還元反応も起こり、正極活物質の固相内に多量のMn^(2+)が形成される。そして、電池が高温下で保存された場合には、Mn^(2+)の電解液中への溶解度が増し、溶出したMn^(2+)が式3のように反応して、負極表面に金属Mnが析出する。
Mn^(2+) + 2e^(-) → Mn (式3)
このため、高温下での保存が長期間に及ぶと、いわば自己放電的な反応として式2と式3の反応が継続して進行し、正極活物質の崩壊(変質)と、負極表面の不活性化が起こり、電池容量が大幅に低下する。
【0013】
【課題を解決するための手段】上記を鑑み、本発明は、銅箔と、前記銅箔上に形成された密度が1.4?1.8g/cm^(3)の負極合材層とからなる負極、アルミニウム箔と、前記アルミニウム箔上に形成された密度が3.3?3.7g/cm^(3)の正極合材層とからなる正極、ならびに非水電解液を具備してなるリチウム二次電池であって、前記負極合材層が、黒鉛と難黒鉛化性炭素とを含み、前記正極合材層が、LiMn_(2)O_(4)とLiNiO_(2)とからなる活物質(a)、LiMn_(x)Ni_(1-x)O_(2)からなる活物質(b)、LiMn_(2)O_(4)とLiNiO_(2)とLiCoO_(2)とからなる活物質(c)、およびLiMn_(y)Ni_(z)Co_(1-y-z)O_(2)からなる活物質(d)よりなる群から選ばれた少なくとも1種を含むことを特徴とするリチウム二次電池に関する。」

「【0019】本発明では、難黒鉛化性炭素の含有率を、黒鉛と難黒鉛化性炭素との総量の10?30重量%に設定することが好ましい。このようにすると、負極の充放電ロスの大きさを上記したような適正な範囲に制御することが可能となり、かつ、高密度電極を作製する際の負極合材の圧延成形性も充分に確保することができる。この際、主材となる黒鉛の平均粒子径は10?40μmとし、助材となる難黒鉛化性炭素の平均粒子径は、黒鉛の平均粒子径の70%以下とする。それぞれの平均粒子径をこのように設定することで、主材である黒鉛の粒子間の空隙を埋める形で、真密度の低い助材の難黒鉛化性炭素粒子を配置または充填することが可能となり、電極の高密度化を最も容易にすることができる。本発明は、このような負極活物質を用いて、バインダー等も含めた塗膜としての負極合材層の密度を1.4?1.8g/cm^(3)という高い範囲に設定し、より一層の電池の高エネルギー密度化を図るものである。」

「【0033】
【実施例】以下、本発明を実施例に基づいて詳しく説明する。
[予備検討]まず、電池の作製に先立って、本発明で使用する負極と正極の単極評価を実施した。
【0034】1.負極評価○1(当審注:実際は○付き数字を表す。以下同様。)
負極材料X、Y、Zの調製
(i)スリランカ原鉱の天然黒鉛を粉砕・高純度化して得た鱗片状天然黒鉛粒子に対し、機械的な衝撃を加えて塊状に形状調整(球形化)して、塊状天然黒鉛を得た。これを黒鉛Xとした。
(ii)フェノール樹脂を不活性ガス雰囲気下で焼成した後に粒度調整を行い、難黒鉛化性炭素を得た。これを助材Yとした。
(iii)塊状黒鉛Xを分級して微粒のみを抽出し、これを助材Zとした。負極材料X、Y、Zの物性の概略を表1に示す。なお、D_(50)は、レーザー回折式粒度分布測定(湿式法)により求めた体積分率50%時の粒径である。
【0035】
【表1】

【0036】負極の作製
(i)評価負極x
100重量部の黒鉛Xに、1重量%のカルボキシメチルセルロース(CMC:増粘材)水溶液を100重量部と、結着材であるスチレンブタジエンラバー(SBR)の水性ディスパージョンとを加え、十分に混練して、負極合材スラリを作製した。ここで、SBRの添加量は、黒鉛Xの100重量部に対して、固形分で2重量部となるように調整した。こうして作製したスラリをドクターブレードを用いて銅箔(厚さ10μm)上に一定の厚さに塗布し、これを80℃の熱風で乾燥させた後に、ロールプレスを用いて圧延し、厚さ75μmで、密度が1.6g/cm^(3)の負極合材層を形成した。そして、これを所定の大きさに裁断加工して、集電のためのニッケル製リードを取りつけ、評価負極xとした。
【0037】(ii)評価負極y
助剤Yを用いて、上記と同様にして、評価負極yを作製した。ただし、助剤Yは、粉末の真密度が低く、負極合材層の密度を1.6g/cm^(3)まで上げるのは実質上極めて困難であるため、ロールプレスによる圧延では、合材層の密度を1.0g/cm^(3)に調整した。
(iii)評価負極z
助剤Zを用いて、上記と同様にして、評価負極zを作製した。ただし、評価負極yと同様に、負極合材層の密度を1.0g/cm^(3)に調整した。
【0038】作製した評価負極x?zを100℃の真空雰囲気下で8時間乾燥させた。その後、対極と参照極には金属リチウム、電解液にはエチレンカーボネート(EC)とエチルメチルカーボネート(EMC)を体積比1:3で混合した溶媒に、1.5Mの濃度となるようにLiPF_(6)を溶解させた溶液、セパレータにはポリエチレンの多孔膜を用いて3極式のビーカーセルを構成した。次いで、下記に示す充電と放電を3サイクル繰り返し、負極の可逆容量と初回充放電ロス(不可逆容量)の測定を実施した。
【0039】充電:定電流定電圧(CCCV)方式
定電流0.5mA/cm2、カット電圧0V(vsLi/Li^(+))
定電圧0V維持、カット電流0.05mA/cm^(2)
雰囲気温度20℃
放電:定電流(CC)方式
定電流1.0mA/cm^(2)、カット電圧1.5V(vsLi/Li^(+))
雰囲気温度20℃
【0040】この測定により得られた、3サイクル目の放電容量(可逆容量)、及び1サイクル目の充電容量と1サイクル目の放電容量との差(充放電ロスあるいは不可逆容量)を表2に示す。なお、放電容量に関しては、0?0.5Vまでの容量と、0?1.5Vまでの容量を読み取るものとした。
【0041】
【表2】

【0042】この結果から、黒鉛Xは、ほぼ黒鉛の理論値に近い可逆容量と、35mAh/gの充放電ロスを持つことが解った。助材Yは、放電電位の平坦性が乏しいため、0.5Vまでの放電容量は290mAh/gと小さいものの、1.5Vまでの容量は黒鉛の理論容量を越える高い可逆容量(420mAh/g)を有していた。また、助材Yは、不可逆容量も大きい点から、極めて多くのサイトにリチウムを吸蔵しうるという一般に知られている特徴が確認された。一方、助材Zは、黒鉛Xと殆ど同じ値を示す点が確認された。
【0043】2.負極評価○2
次に、黒鉛Xに、助材Y、Zを混合した負極材料の特性を評価した。
活物質A?Fの調製
(i)95重量部の黒鉛Xに、5重量部の助材Yを加え、乾式のミキサー内で十分に混合分散させて、活物質Aを作製した。
(ii)90重量部の黒鉛Xに、10重量部の助材Yを加え、乾式のミキサー内で十分に混合分散させて、活物質Bを作製した。
(iii)80重量部の黒鉛Xに、20重量部の助材Yを加え、乾式のミキサー内で十分に混合分散させて、活物質Cを作製した。
(iv)70重量部の黒鉛Xに、30重量部の助材Yを加え、乾式のミキサー内で十分に混合分散させて、活物質Dを作製した。
(v)65重量部の黒鉛Xに、35重量部の助材Yを加え、乾式のミキサー内で十分に混合分散させて、活物質Eを作製した。
(vi)80重量部の黒鉛Xに、20重量部の助材Zを加え、乾式のミキサー内で十分に混合分散させて、活物質Fを作製した。
【0044】作製した6種類の活物質を用いて、それぞれ負極評価○1の際と同様の手順で負極合材スラリを作製し、これらを銅箔上に塗布して熱風乾燥させた後、ロールプレスを用いて圧延し、負極合材層の厚さが75μmで、密度が1.6g/cm^(3)になるように調整した。そして、これらを所定の大きさに裁断加工し、集電のためのニッケル製リードを取りつけて6種類の評価負極を作製した。以下では、活物質A?Fに対応する負極をそれぞれa?fと表す。
【0045】これら6種の負極を、負極評価○1と同様に100℃の真空雰囲気下で8時間乾燥させた。その後、対極と参照極には金属リチウム、電解液にはエチレンカーボネート(EC)とエチルメチルカーボネート(EMC)を体積比1:3で混合した溶媒に、1.5Mの濃度となるようにLiPF_(6)を溶解させた溶液、セパレータにはポリエチレン多孔膜を用いて3極式のビーカーセルを構成した。次いで、負極評価○1の際と同じ試験条件で単極評価を実施した。この測定で得られた、3サイクル目の放電容量(可逆容量)、及び1サイクル目の充電容量と1サイクル目の放電容量との差(充放電ロス)をまとめて表3に示す。
【0046】
【表3】

【0047】これより、混合材料を用いて作製した各負極は、負極評価○1で得られた負極x、y、zでの実測値と、混合材料の各材料の配合比率とから加成計算で予想される値と、ほぼ同じだけの放電容量(可逆容量)、充放電ロスを与えることが解った。
【0048】3.負極評価○3
上記の負極評価○2において、黒鉛Xに助材Y、Zを混合した負極活物質の電気化学的な特性は明らかとなった。一方、電極作製時の負極活物質のハンドリング(扱いやすさ)も、例えば製造工程内で安定して電極を作製するといった観点から非常に重要である。そこで、その代表的な簡易評価として上記の活物質A?F、及び黒鉛Xのスラリを銅箔上に塗布・乾燥させて所定の大きさに裁断した電極(未圧延状態)を用意した。この電極の圧延を、一定ギャップのロールプレス機(プレスのロール直径:300mm)を用いて5回繰り返し、圧延回数と合材層密度との関係を調べた。結果を図5にまとめる。
【0049】この結果から、80重量部の黒鉛Xに20重量部の助材Zを添加した活物質Fは、主材の黒鉛Xを単独で用いたものよりも、合材層の圧延性が向上しており、高密度の成形が非常に容易となっている点が解る。これは活物質Fを用いた合材においては、塗布?圧延時に主材の塊状天然黒鉛粒子Xの空隙を埋める形で、助材の微粒天然黒鉛粒子Zが配置(充填)された効果と考えられる。
【0050】一方、助材Yを黒鉛Xに添加した活物質の場合、ある程度の添加量(5?20重量%)までは、主材の塊状天然黒鉛粒子の空隙を埋める形で難黒鉛化性炭素粒子が配置(充填)される。従って、活物質A?Cを用いた場合には、負極を高密度化するための圧延成形性は損なわれない。しかし、助材Yは、材料自身の真密度が黒鉛XあるいはZに比較して非常に小さいため、その添加量が30重量%の活物質Dの場合、1.4?1.6g/cm^(3)程度までの圧延成形がほぼ限界である。また、助材Yの添加量が35重量%の活物質Eでは、4?5回の圧延を実施しなければ密度が1.4g/cm^(3)をこえる合材層にすることができず、製造工程内で安定して電極作製するのは実質上困難と推察された。このように、高密度電極を作製する上での圧延成形性という観点から、難黒鉛化性炭素Yの添加量は30重量%以下に抑える必要のある点が解った。
【0051】4.正極評価○1
上記1?3の予備検討で、負極の基本的な特性は明らかになったため、続いて正極の評価を行った。
正極活物質の調製
(i)Co_(3)O_(4)とLi_(2)CO_(3)の混合物を大気雰囲気下950℃で焼成後、粉砕・粒度調整してLiCoO_(2)を作製した。
(ii)Ni(OH)_(2)とLiOH・H_(2)Oの混合物を酸素雰囲気下750℃で焼成後、粉砕・粒度調整してLiNiO_(2)を作製した。
(iii)MnO_(2)とLiOH・H_(2)Oの混合物を大気雰囲気下800℃で焼成後、粉砕・粒度調整して、スピネル型構造のLiMn_(2)O_(4)を作製した。
【0052】(iv)反応晶析でNi^(2+)とMn^(2+)を同時に共沈させてMn_(0.4)Ni_(0.6)(OH)_(2)を得、これにLiOH・H_(2)Oを混合して酸素雰囲気下800℃で焼成後、粉砕・粒度調整してLiMn_(0.4)Ni_(0.6)O_(2)を作製した。
(v)反応晶析でNi^(2+)とMn^(2+)とCo^(2+)を同時に共沈させてMn_(0.3)Ni_(0.3)Co_(0.4)(OH)_(2)とし、これにLiOH・H_(2)Oを加えて酸素雰囲気下800℃で焼成後、粉砕・粒度調整してLiMn_(0.3)Ni_(0.3)Co_(0.4)O_(2)を作製した。
【0053】これら5種の正極活物質を用いて、以下の手順で正極を作製した。正極の作製
(i)95重量部のLiCoO_(2)に導電材としてのアセチレンブラック5重量部を加えて乾式のミキサー内で十分に混合分散した後、結着材としてのポリフッ化ビニリデン(PVDF)5重量部を添加し、分散媒のN-メチル-2-ピロリドン(NMP)を適宜加えながら混練して正極合材スラリを作製した。こうして作製したスラリをドクターブレードを用いてアルミニウム箔(厚さ20μm)上に一定の厚さに塗布し、これを80℃のドライエアで乾燥させた後に、ロールプレスを用いて圧延し、厚さが65μmで、密度が3.5g/cm^(3)の正極合材層を形成した。そして、これを所定の大きさに裁断加工して、集電のためのアルミニウム製リードを取りつけ、評価正極gとした。
【0054】(ii)LiCoO_(2)の代わりにLiNiO_(2)を用いたこと以外、正極gと同様にして、評価正極hを作製した。
(iii)LiCoO_(2)の代わりにLiMn_(2)O_(4)を用いたこと以外、正極gと同様にして、評価正極iを作製した。
(iv)LiCoO_(2)の代わりにLiMn_(0.4)Ni_(0.6)O_(2)を用いたこと以外、正極gと同様にして、評価正極jを作製した。
(v)LiCoO_(2)の代わりにLiMn_(0.3)Ni_(0.3)Co_(0.4)O_(2)を用いたこと以外、正極gと同様にして、評価正極kを作製した。作製した5種の評価正極g?kを100℃の真空雰囲気下で8時間乾燥させた。その後、対極と参照極には金属リチウム、電解液にはエチレンカーボネート(EC)とエチルメチルカーボネート(EMC)を体積比1:3で混合した溶媒に、1.5Mの濃度となるようにLiPF_(6)を溶解させた溶液、セパレータにはポリエチレンの多孔膜を用いて3極式のビーカーセルを構成した。次いで、下記に示す充電と放電を3サイクル繰り返し、正極の可逆容量と初回充放電ロス(不可逆容量)の測定を実施した。
【0055】充電:定電流定電圧(CCCV)方式
定電流0.5mA/cm^(2)、カット電圧4.25V(vsLi/Li^(+))
定電圧4.25V維持、カット電流0.05mA/cm^(2)
雰囲気温度20℃
放電:定電流(CC)方式
定電流1.0mA/cm^(2)、カット電圧3.0V(vs Li/Li^(+))
雰囲気温度20℃
【0056】この測定により得られた、3サイクル目の放電容量(可逆容量)とその際の放電平均電圧、及び1サイクル目の充電容量と1サイクル目の放電容量との差(充放電ロスあるいは不可逆容量)をまとめて表4に示す。
【0057】
【表4】


「【0072】[リチウム二次電池の作製]以上の結果から、本検討で使用する負極・正極の基本的な電気特性は明らかとなったため、次に、実際にリチウム二次電池を作製して各種特性の評価を行うものとした。ここで、リチウム二次電池の作製に際しては、すべて以下の手順によるものとした。
【0073】(1)負極
100重量部の負極活物質に1重量%のカルボキシメチルセルロース(CMC:増粘材)水溶液100重量部と、結着材であるスチレンブタジエンラバー(SBR)の水性ディスパージョンを加えて十分に混練して、合材スラリを作製した。ここでSBRの添加量は、負極活物質の100重量部に対する固形分の比率が2重量部となるように調整した。こうして作製したスラリを銅箔(厚さ10μm)の両面に塗工機を用いて一定の厚さに塗布し、100℃の熱風で乾燥させ、その後、ロールプレスを用いて圧延して厚さが75μm(電極の厚さとしては約160μm)で、密度が1.6g/cm^(3)の負極合材層を形成した。そして、これを所定の大きさに裁断加工して、集電のためのニッケル製リードを取りつけて負極とした。
【0074】(2)正極
95重量部の正極活物質に導電材としてのアセチレンブラック5重量部を加えて乾式のミキサー内で十分に混合分散した後、結着材としてのポリフッ化ビニリデン(PVDF)5重量部を添加し、分散媒のN-メチル-2-ピロリドン(NMP)を適宜加えながら混練して合材スラリを作製した。こうして作製したスラリをアルミニウム箔(厚さ20μm)の両面に塗工機を用いて一定の厚さに塗布し、100℃のドライエアで乾燥させ、ロールプレスを用いて圧延して厚さが65μm(電極の厚さとしては約150μm)で、密度が3.5g/cm^(3)の正極合材層を形成した。そして、これを所定の大きさに裁断加工して、集電のためのアルミニウム製リードを取りつけて正極とした。
【0075】(3)電池の構成
作製した負極、正極、及び両者の間に介在させるポリエチレン多孔膜セパレータ(厚さ30μm)を、余分な水分を除去する目的で、負極と正極は100℃で8時間、セパレータは50℃で12時間、真空乾燥させた。
【0076】以上の負極および正極をセパレータを挟持して捲回し、図6に示すように概四角柱状(横断面形状がおよそ長方形状)の極板群1を形成した。この概四角柱状の極板群1を633450サイズ(厚さ6.3mm×幅34mm×高さ50mm)の角型アルミニウム合金製電池ケース4に挿設した。次いで、上部の封口板5に正極リード2を、絶縁性ガスケットにより封口板とは電気的に隔絶された負極端子6に負極リード3をそれぞれ溶接した後、封口板5をレーザー溶接によって電池ケース4に接合した。そして、封口板に具備された注入口より非水電解液を注入し、真空含浸させた。そして、注入口が開いたままの状態で初回の部分充電を施し、初回充電の初期段階に負極上で電解液の分解等が起こって生ずるガスを十分に拡散除去させた。その後、注入口にアルミニウム合金製の封栓7をかぶせ、これをレーザーで溶接することにより、完全にケースを密閉し、リチウム二次電池とした。予備検討のデータに基づくこの電池の設計容量は900?950mAh程度である。
【0077】上記において、極板群の構成、正・負極リードの溶接、封口板のケースへの接合、電解液の注入・含浸、初回の部分充電、封栓による密閉の各工程は、すべて露点が-40℃以下のドライエア雰囲気下で実施した。また、非水電解液には、エチレンカーボネート(EC)とエチルメチルカーボネート(EMC)を体積比1:3で混合した溶媒に、1.5Mの濃度となるようにLiPF6を溶解させた溶液を使用した。さらに初回の部分充電に関しては、20℃雰囲気下で、充電レート0.1C(ここでは1C=900mAと仮定して90mA)で3時間実施するものとした。
【0078】表8および9に示すような負極(負極活物質)と正極(正極活物質)の組み合わせで、上記した手順に従って、リチウム二次電池1?62を作製した。
【0079】
【表8】


「【0081】ここで電池1?14は、予備検討においてデータ収集を行った14種の正極g?tと負極x(黒鉛X)の組み合わせである。電池15、16、17は、それぞれ正極g(LiCoO_(2))、正極h(LiNiO_(2))、正極i(LiMn_(2)O_(4))と負極c(黒鉛Xと助材Yを80:20で混合)の組み合わせである。電池18?22は、本発明の実施例となる電池で、正極j(LiMn_(0.4)Ni_(0.6)O_(2))と負極a?e(黒鉛Xと助材Yの混合)を組み合わせたものである。電池23は、この比較例として正極jと負極f(黒鉛Xと助材Zを80:20で混合)を組み合わせたものである。電池24?28は、本発明の実施例となる電池で、正極k(LiMn_(0.3)Ni_(0.3)Co_(0.4)O_(2))と負極a?eを組み合わせたものであり、電池29は、この比較例である。電池30?32は、ニッケルイオンの占有サイトをコバルトイオン及び/またはアルミニウムイオンによって部分的に置換して寿命特性を改善したLiNiO_(2)正極(正極l?正極n)と負極c(黒鉛Xと助材Yを80:20で混合)を組み合わせたものである。電池33?37は、本発明の実施例となる電池で、正極o(LiMn_(2)O_(4)とLiNiO_(2)を30:70で混合)と負極a?e(黒鉛Xと助材Yの混合)を組み合わせたものである。電池38はこの比較例として正極oと負極f(黒鉛Xと助材Zを80:20で混合)を組み合わせたものである。電池39?44は、正極p(LiMn_(2)O_(4)とLiCo_(0.15)Ni_(0.85)O_(2)を30:70で混合)と負極a?fを組み合わせたものである。電池45?50は、正極q(LiMn_(2)O_(4)とLiAl_(0.15)Ni_(0.85)O_(2)を30:70で混合)と負極a?fを組み合わせたものである。電池51?56は、正極r(LiMn_(2)O_(4)とLiAl_(0.10)Co_(0.05)Ni_(0.85)O_(2)を30:70で混合)と負極a?fを組み合わせたものである。電池57?62は、正極s(LiMn_(2)O_(4)とLiNiO_(2)とLiCoO_(2)とを30:30:40で混合)と負極a?fを組み合わせたものである。」

「【図1】


「【図5】


【図6】



イ(ア)上記アの各記載事項(【0033】?【0036】、【0043】?【0050】、特に実施例の負極c)を総合勘案すると、甲7には、次の発明が記載されていると認められる。なお、【0035】表1より、助剤Yの平均粒子径D_(50)[μm]を読み取った。また、【0036】には、黒鉛Xの100重量部に対して、1重量%のカルボキシルメチルセルロース(CMC)を加え、スチレンブタジエンラバー(SBR)を固形分で2重量部加える旨が記載され、さらに【0044】?【0045】には、活物質Cは、黒鉛Xの80の重量部に対して、20重量部の助材Yを加えている旨記載されていることから、活物質Cの125重量部(=100重量部(黒鉛X)+25重量部(=100×20/80)(助材Y))に、1重量%のカルボキシルメチルセルロース(CMC)と固形分で2重量部のSBRを加えているものと認めた。

「スリランカ原鉱の天然黒鉛を粉砕・高純度化して得た鱗片状天然黒鉛粒子に対し、機械的な衝撃を加えて塊状に形状調整(球形化)して、得た塊状天然黒鉛である80質量部の黒鉛Xと、フェノール樹脂を不活性ガス雰囲気下で焼成した後に粒度調整を行うことで得られた平均粒子径D_(50)が9.2μmであって20質量部の難黒鉛化性炭素である助材Yを加え、乾式のミキサー内で十分に混合分散させて、作製した125重量部の活物質Cに、1重量%のカルボキシメチルセルロース(CMC:増粘材)水溶液を100重量部と、活物質Cの125重量部に対して、固形分で2重量部となるように調整した結着材であるスチレンブタジエンラバー(SBR)の水性ディスパージョンとを加え、十分に混練して、作製した負極合材スラリを、銅箔上に塗布して熱風乾燥させた後、ロールプレスを用いて圧延し、負極合材層の厚さが75μmで、密度が1.6g/cm^(3)になるように調整して、これらを所定の大きさに裁断加工し、集電のためのニッケル製リードを取りつけて作製した負極c。」(「甲7発明」という。)

(8)甲8の記載事項及び甲8に記載の発明
ア 本願の優先日前に頒布された刊行物である甲8には、以下の事項が記載されている。
(ア)「[0003] このような炭素材としては、リチウムイオン二次電池の充放電効率を高めることができることから、黒鉛(グラファイト)が用いられてきた(例えば、特許文献1参照)。しかしながら、黒鉛を負極材として用いた場合、充放電サイクルを繰り返し行った際のリチウムイオン二次電池の充放電容量の低下が著しく、また、リチウムイオン二次電池に大電流の入出力特性を付与し難いという欠点がある。
[0004] このような充放電特性の問題を解決する炭素材として、グラファイト結晶構造が発達しにくい高分子を焼成して得られるハードカーボン(難黒鉛化性炭素)が開発されている(例えば、特許文献2参照)。
しかしながら、ハードカーボンを負極材として用いた場合、充放電サイクル時のリチウムイオン二次電池の安定性を高め、その大電流の入出力特性を改善することができるが、充放電効率が十分に得られないという問題がある。
先行技術文献
特許文献
[0005]特許文献1:特開平5-74457号公報
特許文献2:特開2006-083012号公報
発明の概要
発明が解決しようとする課題
[0006] 本発明の目的は、高い充放電容量と優れた充放電効率とをバランスよく備えるリチウムイオン二次電池を得ることができるリチウムイオン二次電池用炭素材、リチウムイオン二次電池用負極材および上記特性を備えるリチウムイオン二次電池を提供することにある。」

「[0029] これに対して、本発明のリチウムイオン二次電池用炭素材では、その主材としての黒鉛に上記特性を有するハードカーボンを添加することにより、リチウムイオン二次電池の充放電効率を優れたものとしつつ、充放電サイクル時の安定性、および、大電流の入出力特性にも優れたものとすることができる。
[0030] このようなハードカーボンのリチウムイオン二次電池用炭素材中における含有量は、5重量%以上45重量%以下であるのが好ましく、15重量%以上40重量%以下であるのがより好ましい。これにより、リチウムイオン二次電池は、優れた充放電効率を損なうことなく、その充放電サイクル時の安定性、および、大電流の入出力特性がより効果的に高くなる。
[0031] 特に、黒鉛の含有量をA[重量%]、ハードカーボンの含有量をB[重量%]としたとき、1.2≦A/B≦19の関係を満足するのが好ましく、1.5≦A/B≦5の関係を満足するのがより好ましい。このような関係を満足することにより、リチウムイオン二次電池は、優れた充放電効率を損なうことなく、その充放電サイクル時の安定性、および、大電流の入出力特性がさらに効果的に高くなる。」

「[0162] 6.充電容量、放電容量、充放電効率等
(1)二次電池評価用二極式コインセルの製造 各実施例、比較例および参考例で得られた炭素材100部に対して、結合剤としてポリフッ化ビニリデン10部、希釈溶媒としてN-メチル-2-ピロリドンを適量加え混合し、スラリー状の負極混合物(負極材)を調製した。調製したスラリー状の負極混合物を18μmの銅箔の両面に塗布し、その後、110℃で1時間真空乾燥した。真空乾燥後、負極混合物が塗布された銅箔をロールプレスによって加圧成形し、成形体を得た。この成形体を、直径16.156mmの円形として切り出すことにより、負極を作製した。
[0163] 正極は、リチウム金属を用いて作製し、電解液は、体積比が1:1のエチレンカーボネートとジエチルカーボネートとの混合液に、過塩素酸リチウムを1モル/リットル溶解させることにより調製した。これらを用いて、二次電池評価用二極式コインセルを製造し、この二極式コインセルについて、以下の評価を行った。」

「[0170] 7.粒度分布
堀場製作所社製レーザー回折式粒度分布測定装置LA-920を用いて、レーザー回折法により、炭素材を構成する粒子全体(黒鉛の粒子およびハードカーボンの粒子)の粒度分布、黒鉛の粒子の粒度分布、ハードカーボンの粒子の粒度分布を測定した。測定結果から、体積基準の累積分布における、粒子全体の小径側から5%累積時の粒径(D5)、50%累積時の粒径(D50、平均粒径)、および95%累積時の粒径(D95)を求め、黒鉛の粒子およびハードカーボンの粒子の50%累積時の粒径(D50、平均粒径)をそれぞれ求めた。」

「[0187]
(実施例1B) 樹脂組成物として、フェノール樹脂PR-217(住友ベークライト(株)製)を、以下の工程(a)?(f)の順で処理して、ハードカーボンの粒子を得た。
[0188] (a)還元ガス置換、不活性ガス置換、還元ガス流通、不活性ガス流通のいずれも無しで、室温から500℃まで、100℃/時間で昇温
(b)還元ガス置換、不活性ガス置換、還元ガス流通、不活性ガス流通のいずれも無しで、500℃で2時間脱脂処理後、冷却
(c)振動ボールミルで微粉砕
(d)不活性ガス(窒素)置換および流通下、室温から1200℃まで、100℃/時間で昇温
(e)不活性ガス(窒素)流通下、1200℃で8時間炭化処理
(f)不活性ガス(窒素)流通下、600℃まで自然放冷後、600℃から100℃以下まで、100℃/時間で冷却
[0189] 黒鉛の粒子(メソフェーズカーボンマイクロビーズ)100重量部と、得られたハードカーボンの粒子43重量部とを乳鉢を用いて混合し、黒鉛の粒子とハードカーボンの粒子とから構成される炭素材を得た。
[0190] (実施例2B)
黒鉛の粒子およびハードカーボンの粒子の含有量を、表2に示すように変更した以外は、前記実施例1Bと同様にして炭素材を得た。
[0191] (実施例3B)
上記(c)の工程の条件を変更し、ハードカーボンの粒子のD50が2になるように調製した以外は、前記実施例1Bと同様にして炭素材を得た。
[0192] (実施例4B)
黒鉛の粒子およびハードカーボンの粒子の含有量を、表2に示すように変更した以外は、前記実施例3Bと同様にして炭素材を得た。」

「[0203] 前記各実施例、比較例および参考例で得られた炭素材について、炭素材を構成する粒子全体のD50、D5、D95、黒鉛の粒子およびハードカーボンの粒子のD50、D5、D95、黒鉛の粒子の含有量、ハードカーボンの粒子の含有量、ハードカーボンの陽電子寿命、XPS、平均面間隔、結晶子の大きさ、比表面積、炭素含有量および窒素含有量を、表2に示した。
[0204] また、各実施例、比較例および参考例で得られた炭素材を用いて形成された負極を備える二極式コインセル(リチウムイオン二次電池)の充電容量、放電容量および充放電効率等を、表3に示した。
[0205][表2]

[0206][表3]

[0207] 表から明らかなように、粒子全体のD50およびD95/D5が所定の範囲内の値である本発明では、優れた結果が得られたのに対し、比較例では満足のいく結果が得られなかった。」

「[請求項1] リチウムイオン二次電池に用いられる炭素材であって、
前記炭素材の主材としての黒鉛と、ハードカーボンとを含み、
前記黒鉛の含有量をA[重量%]、前記ハードカーボンの含有量をB[重量%]としたとき、1.2≦A/B≦19の関係を満足し、かつ、前記黒鉛の含有量が55重量%以上95重量%以下であることを特徴とするリチウムイオン二次電池用炭素材。
[請求項2] 前記ハードカーボンの含有量は、5重量%以上45重量%以下である請求項1に記載のリチウムイオン二次電池用炭素材。
[請求項3] 前記炭素材は、複数個の粒子で構成され、
体積基準の累積分布において、前記粒子の小径側から5%累積時の粒径、50%累積時の粒径、および95%累積時の粒径を、それぞれD5、D50およびD95としたとき、
D50が1.0μm以上50μm以下であり、
D95/D5が2.0以上30以下である請求項1に記載のリチウムイオン二次電池用炭素材。
[請求項4] 前記黒鉛および前記ハードカーボンは、それぞれ複数個の粒子で構成され、
体積基準の累積分布において、前記黒鉛の粒子の50%累積時の粒径が、5μm以上50μm以下であり、前記ハードカーボンの粒子の50%累積時の粒径が、1μm以上50μm以下である請求項3に記載のリチウムイオン二次電池用炭素材。」

(イ)甲8の[0205][表2]から、「実施例3Bの炭素材は、黒鉛の粒子の含有量が70重量%であり、ハードカーボンの粒子の含有量は30重量%で、D50は2μmである。」ことが看取できる。

イ 上記アの各記載事項([0162]?[0163]、[0187]?[0189]、[0191]、[0205][表2]、[0206][表3]、(イ)で看取した事項、特に実施例3B)を総合勘案すると、甲8には、次の発明が記載されていると認められる。

「黒鉛の粒子の含有量が70重量%であり、ハードカーボンの粒子の含有量は30重量%で、当該ハードカーボンの粒子のD50は2μmである炭素材100部に対して、結合剤としてポリフッ化ビニリデン10部、希釈溶媒としてN-メチル-2-ピロリドンを適量加え混合し、スラリー状の負極混合物(負極材)を調製し、調製したスラリー状の負極混合物を18μmの銅箔の両面に塗布し、その後、110℃で1時間真空乾燥した後、負極混合物が塗布された銅箔をロールプレスによって加圧成形し、成形体を得て、この成形体を、直径16.156mmの円形として切り出すことにより、作製した体積比が1:1のエチレンカーボネートとジエチルカーボネートとの混合液に、過塩素酸リチウムを1モル/リットル溶解させることにより調整した電解液を用いた二次電池評価用二極式コインセルの負極。」(以下、「甲8発明」という。)

(9)甲9の記載事項及び甲9に記載の発明
ア 本願の優先日前に頒布された刊行物である甲9には、以下の事項が記載されている。
(ア)「発明が解決しようとする課題
[0006] 上記構造体により、電気二重層キャパシタの瞬発力とリチウムイオン電池の持続力を併せ持つ電力貯蔵デバイスセルを実現することができた。しかしながら、上記構造体の電力貯蔵デバイスセルで、急速な充放電を繰り返すと、キャパシタ単体のときには顕れなかった静電容量の早期減少が発生し、信頼性が低下するという問題があることがわかった。
[0007] この発明は、上述のような課題を解決するためになされたもので、瞬発力と持続力を兼ね備えるとともに、急速充放電を繰り返しても静電容量を維持できる信頼性の高い電力貯蔵デバイスセルを提供するものである。」

「[0015]<ハイブリッド構造の構成>
図1において、共通負極7は、複数の透過孔を面内に分散して設けた負極集電箔3の表裏に、黒鉛粒子とハードカーボン粒子の混合したものを塗布してキャパシタ負極電極層5とリチウム電池負極電極層6を形成することにより構成される。正極としては、正極集電箔10の表裏に、活性炭粒子を含むキャパシタ正極電極層8と、リチウム含有金属化合物粒子を含むリチウム電池正極電極層9を形成したハイブリッド正極11として構成している。キャパシタ正極電極層8とキャパシタ負極電極層5を第1のセパレータ12を介して対峙させ、キャパシタ部を構成し、リチウムイオンの電池正極電極層9とリチウム電池負極電極層6を第2のセパレータ13を介して対峙させている。つまり、集電箔10の一方の面に、キャパシタ正極電極層8、他方の面にリチウム電池正極電極層9が形成された同仕様のハイブリッド正極11を、図1では配置の違い(使用する面の違い)により、11aをキャパシタ正極、11bをリチウム電池正極と、それぞれ役割を変えるようにしている。」

「[0019] <共通負極について>
共通負極7に用いられるキャパシタ負極電極層5とリチウム電池負極電極層6の材料としては、一般のリチウムイオン電池に使われている高電位からリチウムの吸蔵放出を行うことのできるハードカーボン系粒子と、低電位で大量のリチウムイオンの吸蔵放出を行うことのできる黒鉛系粒子とを混合したものを用いることができる。平均粒子径は、それぞれ1?20μm程度が望ましい。」

「[0035]実施例1
[共通負極の作製]
負極電極層5、6として、平均粒径7μmのハードカーボン5部と平均粒径5μmの黒鉛粒子95部とを混合(ハードカーボンの添加量5重量%)した後、バインダーとしてのポリフッ化ビニリデンと、溶媒としてのn-メチルピロリドンからなる電極ペーストを混合調製した。次にこのペーストを負極集電箔3として、幅300mm、厚さ20μmで、直径1mmの孔(透過孔4)が5mmピッチでパンチングされた銅箔の両面に塗工形成して乾燥し150℃でホットプレスし共通負極とした。この負極を32mm×52mmの短冊に切断し、角から20mm×20mmの部分を切除して、7mm×20mmのタブ部を設け電流端子タブ部とした。
[0036][キャパシタ正極の作製]
キャパシタ正極電極層として、平均粒径5μmの活性炭とバインダーとしてのアクリル系ポリマー、溶媒としての水からなる電極ペーストを混合調製した。次にこのペーストを幅300mm、厚さ50μmの純アルミニウム製の集電箔10Cの片面に塗工し厚さ100μmのキャパシタ正極電極層8を形成して、キャパシタ正極11Cを得た。この正極11Cを30mm×50mmの短冊に切断し、角から23mm×20mmの部分を切除して、7mm×20mmのタブ部を設け、その部分のキャパシタ正極電極層8を剥がし、箔部を露出させて電流端子タブ部とした。」

「[0038][セルの作製]
キャパシタ正極11C(電極層8のみ片面形成)、共通負極7、リチウム電池正極11L(電極層9のみ片面形成)の順に互いの電極層が対向するように中心を揃えて積層し、間にそれぞれ厚さ35μmのセルロース系紙セパレータを1枚ずつはさんだ。2枚の正極11C、11Lの集電タブを重ねてこの集電タブにアルミニウム箔を超音波溶接により接続(短絡)して正極集電端子TPとした。この電極積層体を図5のようにアルミラミネートフィルムの外装に収納し、電解液として、1.8mol/lのLiPF_(6)を含む、エチレンカーボネート-ジエチルカーボネート3:7混合溶媒を注液し、最後にアルミラミネート外装19を封口し試験用セルとした。図5は、アルミラミネート外装を施した試験用セルの半透過図である。図において、アルミラミネートフィルムの外装19は2つ折りして、3辺を熱可塑性樹脂で熱融着20する。電流端子部TP、TNには、金属との密着性を改善した熱可塑性樹脂17を装着した後、外装に熱融着している。図5の底辺については、真空引きを行って電解液を含浸した後、最終的に熱融着して封止した。なお、図5において、外装19が電極部分の大きさと較べて長くなっているのは、3cm×3cmの電極部に面圧をかけて充放電試験を実施する際に、電極から劣化に伴うガスが発生しても、長くなった外装部に発生したガスを溜めて、試験を継続できるようにするためである。なお、正極11C、11Lよりも負極7を外形で4辺とも1mm大きくして、正極と負極のずれによる測定誤差を防いでいる。 」

「[0041]実施例3
キャパシタ負極電極層5およびリチウム負極電極層6のハードカーボン1の添加量を30重量%としたこと以外は、実施例1と同じとした。」

「[0050]
[表1]


「[請求項1]
第1の集電箔の一方の面に活性炭の微粒子を含む第1の電極層が形成された第1の電極と、
第2の集電箔の一方の面にリチウム含有金属化合物の粒子を含んだ第2の電極層が形成された第2の電極と、
第3の集電箔の少なくとも一方の面に第3の電極層が形成された第3の電極と、
多孔質の絶縁フィルムからなる第1のセパレータと、
多孔質の絶縁フィルムからなる第2のセパレータと、を備え、
前記第3の集電箔には透過孔が形成され、前記第1の電極層と前記第3の電極の一方の面との間に前記第1のセパレータを挟持して前記第3の電極を負極とするキャパシタを形成し、前記第2の電極層と前記第3の電極の他方の面との間に前記第2のセパレータを挟持して前記第3の電極を前記キャパシタとの共通負極とするリチウムイオン電池を形成し、前記第1の電極と前記第2の電極を短絡接続した電力貯蔵デバイスセルであって、
前記第3の電極層は、黒鉛粒子とハードカーボン粒子とを混合した炭素系材料で構成され、前記炭素系材料中の前記ハードカーボン粒子の比率が5重量%以上70重量%以下であることを特徴とする電力貯蔵デバイスセル。」

「[図1]



「[図5]



(イ)甲9の[0041]と[0050][表1]の記載より、以下の事項が看取できる。「実施例3のキャパシタ負極電極層とリチウム負極電極層のハードカーボン添加量は30重量%であり、黒鉛添加量は70重量%である。」

イ 上記アの各記載事項([0035]、[0041]、[0050][表1]、(イ)で看取した事項、特に実施例3)を総合勘案すると、甲9には、次の発明が記載されていると認められる。

「負極電極層5、6として、平均粒径7μmのハードカーボン30重量%と平均粒径5μmの黒鉛粒子70重量%とを混合した後、バインダーとしてのポリフッ化ビニリデンと、溶媒としてのn-メチルピロリドンからなる電極ペーストを混合調製し、次にこのペーストを負極集電箔3として、幅300mm、厚さ20μmで、直径1mmの孔(透過孔4)が5mmピッチでパンチングされた銅箔の両面に塗工形成して乾燥し150℃でホットプレスして得られる共通電極であって、電解液として、1.8mol/lのLiPF_(6)を含む、エチレンカーボネート-ジエチルカーボネート3:7混合溶媒を注液した試験用セルの共通負極。」(以下、「甲9発明」という。)

(10)甲10の記載事項
本願の優先日前に頒布された刊行物である甲10には、以下の事項が記載されている。
「【請求項1】
難黒鉛化性炭素材料の原料に架橋処理を施して架橋処理品を得る工程と、 前記架橋処理品に不融化処理を施して不融化処理品を得る工程と、
前記不融化処理品に対して粉砕処理を施す工程と、
前記粉砕処理が施された前記不融化処理品を900?1300℃で焼成して難黒鉛化性炭素材料を得る工程と、を備える難黒鉛化性炭素材料の製造方法。」

「【0032】
〔粉砕処理〕
本発明においては、不融化ピッチ等の不融化処理品に対して、粉砕処理を施して、粒度調整を行う。このため、最終的に得られる難黒鉛化性炭素材料の粒度をコントロールしやすく、目的とする平均粒子径が得られやすい。
これは、焼成する前の不融化処理品は、炭素化が進んでいない状態であるため粉砕しやすいのに対して、焼成後においては炭素化が進んだ状態であるため、同じ条件で粉砕処理を施しても、粉砕が不十分となって目標の粒子径にコントロールすることが困難になるためと推測される。
【0033】
このとき、粉砕処理後の不融化処理品の平均粒子径が、1?15μmとなるように粉砕するのが好ましく、1?7μmとなるように粉砕するのがより好ましい。
なお、ここでいう平均粒子径とは、レーザー回折式粒度分布計の累積度数が体積百分率で50%となる粒子径(D_(50))である。
【0034】
粉砕処理に用いる粉砕機としては、特に限定されず、従来公知の方法を用いることができ、例えば、ジェットミル、ピンミル、ボールミル、ハンマーミル、ローラーミル、振動ミル等が挙げられる。 これらの粉砕機を用いる場合、粉砕処理後の不融化処理品の平均粒子径が上記範囲となるように、その粉砕条件を設定する。」

「【0036】
[難黒鉛化性炭素材料]
以上説明したような本発明の製造方法によって得られる難黒鉛化性炭素材料(以下、「本発明の難黒鉛化性炭素材料」ともいう。)は、リチウムイオン二次電池用負極材料として好適に使用できる。
【0037】
本発明の難黒鉛化性炭素材料の平均粒子径は、高出力目的の薄膜電極のためには塗布膜厚よりも小さいことが必要であり、粒子内拡散の高速化という観点から、1?15μm以下であるのが好ましく、1?7μmであるのがより好ましい。
なお、本発明の難黒鉛化性炭素材料の平均粒子径は、レーザー回折式粒度分布計の累積度数が体積百分率で50%となる粒子径(D_(50))である。」

「【0059】
<実施例1>
錨型攪拌装置を付したオートクレーブに、石炭系QIレスピッチ(QI:0.1?0.5質量%、軟化点:82.5℃)1000gを入れ、窒素気流下で320℃まで加熱した後、圧縮空気を2L/分で流通させながらピッチ中に吹き込み、320℃で2時間加熱することにより、エアーブローイング反応による架橋処理を施した。その後、室温まで冷却し、内容物(エアーブロンピッチ)を取り出した。
次に、取り出したエアーブロンピッチをアトマイザーで粗粉砕した後、回転式の炉に入れ、圧縮空気を2L/分で流通させながら20℃/時間で昇温させ、250℃で3時間保持して不融化処理を施すことにより、不融化ピッチを得た。
得られた不融化ピッチに対して、ジェットミル(FS-4、セイシン企業社製)を用いて、粉砕物の平均粒子径が3μmとなるような条件で粉砕処理を施し、粉砕処理を施した不融化ピッチ100gを黒鉛製の蓋付き容器に入れ、窒素気流下で、100℃/時間の昇温速度で1100℃まで昇温させ、1100℃で2時間の焼成を行い、炭素粉末を得た。
【0060】
<実施例2?4>
実施例2?4では、粉砕処理の条件(粉砕時間)のみを実施例1とは異ならせて炭素粉末を得た。すなわち、不融化ピッチに対して、ジェットミル(FS-4、セイシン企業社製)を用いて、実施例2では粉砕物の平均粒子径が4.5μmとなるような条件で、実施例3では粉砕物の平均粒子径が7μmとなるような条件で、実施例4では粉砕物の平均粒子径が11μmとなるような条件で粉砕処理を施した。
【0061】
<実施例5,6>
錨型撹拌装置を付したオートクレーブに、石油系QIレスピッチ(QI:0.1?0.5質量%、軟化点:100℃)1000gを入れ、窒素気流下で320℃まで加熱した後、圧縮空気を2L/分で流通させながらピッチ中に吹き込み、320℃で2時間加熱することにより、エアーブローイング反応による架橋処理を施した。その後、室温まで冷却し、内容物(エアーブロンピッチ)を取り出した。
次に、取り出したエアーブロンピッチをアトマイザーで粗粉砕した後、回転式の炉に入れ、圧縮空気を2L/分で流通させながら20℃/時間で昇温させ、250℃で2時間保持して不融化処理を施すことにより、不融化ピッチを得た。
得られた不融化ピッチに対して、ジェットミル(FS-4、セイシン企業社製)を用いて、実施例5では実施例2と同じ粉砕条件で、実施例6では実施例4と同じ粉砕条件で粉砕処理を行った。
次に、粉砕処理を施した不融化ピッチ100gを黒鉛製の蓋付き容器に入れ、窒素気流下で、100℃/時間の昇温速度で1100℃まで昇温させ、1100℃で2時間の焼成を行い、炭素粉末を得た。」

「【0074】
【表1】



(11)甲11の記載事項
本願の優先日前に頒布された刊行物である甲11には、以下の事項が記載されている。
「【0006】
ところで、フラットな放電電位を示し、高容量であることを特徴とする黒鉛材料に対し、近年、傾斜型の放電電位と入出力特性を重視する車載用電池などの用途において、非晶質系炭素材料が選択される場面が増えつつある。
【0007】
そこで、本願発明者らが先に挙げた黒鉛材料の製造過程の途中で得られる非晶質炭素材料を評価したところ、十分な初期効率及び充填性を有する非晶質炭素材料を得ることは難しかった。
【0008】
また、黒鉛材料についても、従来の方法では、初期効率やサイクル特性、及び高密度化などの特性をバランス良く高いレベルで備えた材料を得ることは難しかった。
【0009】
本発明の目的は、初期効率とサイクル特性とをバランス良く高いレベルで有し、且つ高密度化できるリチウムイオン二次電池負極用炭素材料を提供することにある。」

「【0018】
-語句の定義-
本明細書中で用いる「円形度」とは、粒子等の丸さの指標であって、次式(1)で求められる値である。
【0019】
(円形度)={4×π×(投影面の面積)}/{(周囲長)^(2)} ・・・(1)
また、「コークスの炭化工程」とは、加熱によりコークスに含まれる揮発成分(VM)を除去する工程であり、「黒鉛化工程」とは、加熱により炭素材料の結晶構造を変化させ、黒鉛質炭素材料を生成する工程である。
【0020】
(実施形態)
-炭素材料の説明-
本発明の一実施形態に係る炭素材料には、非晶質炭素材料と、リチウムイオン二次電池用の負極材料として用いられる黒鉛質炭素材料とが含まれる。非晶質炭素材料は黒鉛質炭素材料を作製する際の中間体であるが、それ自体をリチウムイオン二次電池用の負極材料として用いることもできる。以下、これら炭素材料について詳細に説明する。」

(12)甲12の記載事項
本願の優先日前に頒布された刊行物である甲12には、以下の事項が記載されている。

「c.主要な正極材料実用化されているおもな正極材料はLiCoO_(2),LiNi_(0.8),Al_(0.05)Co_(0.15)O_(2),LiNi_(1/3)Mn_(1/3)Co_(1/3)O_(2),LiMn_(2)O_(4),LiFePO_(4)である.」(第1486頁左欄)



」(第1487頁右欄)

3 取消理由1(拡大先願:申立理由1に対応)について
(1)まず、甲1の発明者は「小林 正太」、「池山 泰史」、「多田 靖浩」、「園部 直弘」及び「小松 真友」であり、本願に係る発明の発明者である「遠藤 裕章」、「青木 寿之」及び「降矢 博」とは同一でなく、また、本願の出願時において、甲1の出願人である「株式会社クレハ」及び「株式会社クレア・バッテリー・マテリアルズ・ジャパン」と本願の出願人である「株式会社GSユアサ」とは同一でない。

(2)本件発明と甲1a-4発明1との対比、判断
ア 本件発明4と甲1a-4発明1とを対比する。
(ア)甲1a-4発明1の「人造黒鉛(上海杉杉製CMS-G10)の粒度分布を調整して平均粒子径3.5μmとした黒鉛質炭素材の炭素質材料a-7」は、本件発明4の「黒鉛」に相当する。
甲1a-4発明1の「スチレン-ブタジエンゴム(SBR)(分子量25万?30万)」は、甲1の[0064]、表3によれば、結着材であり、本件明細書の【0020】?【0021】によれば、スチレン-ブタジエンゴムは水性結着剤であると認められ、さらに、甲1の[0064]、[0065]、表3によれば、結着材であるカルボキシメチルセルロース(CMC)は水溶性であると認められることから、甲1a-4発明1の「スチレン-ブタジエンゴム(SBR)(分子量25万?30万)2質量部、カルボキシメチルセルロース(CMC)(第一工業製薬製セロゲン4H)1質量部」は、本件発明4の「水性結着剤である」「結着剤」に相当する。
甲1における非黒鉛性炭素材として、難黒鉛化性炭素材料と易黒鉛化性炭素材料があると認められる。そして、甲1の[0029]?[0030]には、難黒鉛化性炭素材料の真密度ρ_(Bt)はブタノール法による真密度ρ_(Bt)が1.52g/cm^(3)以上1.70g/cm^(3)である一方、易黒鉛化性炭素材料の真密度ρ_(Bt)はブタノール法による真密度ρ_(Bt)が1.70g/cm^(3)より大きく2.15g/cm^(3)未満である旨、甲1の[0036]には、難黒鉛化性炭素材料の平均層面間隔d_(002)は0.365nm以上、0.390nm以下である一方、易黒鉛化性炭素材料の平均層面間隔d_(002)は0.340nm以上、0.375nm以下である旨が記載されている。甲1a-4発明1の「炭素質材料a-4」の「ブタノール法による真密度ρ_(Bt)は1.63g/cm^(3)、d_(002)は0.379nm」であって、「炭素質材料a-4」のブタノール法による真密度ρ_(Bt)、平均層面間隔d_(002)はそれぞれ難黒鉛化性炭素材料の範囲内にあり、甲1a-4発明1の「炭素質材料a-4」は、難黒鉛化性炭素材料であると認められるから、本件発明4の「難黒鉛化性炭素」に相当し、さらに、「炭素質材料a-4」は「炭素質材料a-7」と別体のものであり、「黒鉛質炭素材の炭素質材料a-7」粒子の表面上に被覆されたものではないから、当該「炭素質材料a-4」は「(ただし、黒鉛粒子の表面上に被覆された難黒鉛化性炭素は含まない)」ものであると認められる。 甲1a-4発明1の「炭素質材料a-4を20質量%、炭素質材料a-7を80質量%で混合された」は、本件発明4の「前記黒鉛と前記難黒鉛化性炭素との合計質量に対する前記難黒鉛化性炭素(ただし、黒鉛粒子の表面上に被覆された難黒鉛化性炭素は含まない)の比率が10質量%以上20質量%以下」に相当する。
甲1a-4発明1の「負極電極」は、非水電解質系リチウム二次電池に用いられるものであるから、本件発明4の「非水電解質蓄電素子用負極」に相当する。

(イ)そうすると、本件発明4と甲1a-4発明1との一致点と相違点1は以下のとおりである。
<一致点>
「黒鉛と難黒鉛化性炭素と結着剤とを含有し、前記黒鉛と前記難黒鉛化性炭素との合計質量に対する前記難黒鉛化性炭素(ただし、黒鉛粒子の表面上に被覆された難黒鉛化性炭素は含まない)の比率が10質量%以上20質量%以下であり、前記結着剤が水性結着剤である非水電解質蓄電素子用負極。」

<相違点1>
難黒鉛化性炭素の平均粒子径について、本件発明4は、「前記難黒鉛化性炭素の平均粒子径が2μm以上4μm以下」であるのに対し、甲1a-4発明1は、「炭素質材料a-4」の「平均粒子径」が「7.3μm」である点。

イ(ア)相違点1における、本件発明4の「前記難黒鉛化性炭素の平均粒子径が2μm以上4μm以下」であることに対して、甲1a-4発明1の「炭素質材料a-4」の「平均粒子径」が「7.3μm」であることは、平均粒子径の数値範囲が重なり合っていないため、実質的な相違点ではないということはできない。そこで、次に、本件発明と引用発明との間の相違点が課題解決のための具体化手段における微差(周知技術、慣用技術の付加、削除、転換等であって、新たな効果を奏するものではないもの)ではないのか、すなわち、本件発明4と甲1a-4発明1は実質同一であるといえるか検討する。

(イ)本件発明4では、「前記難黒鉛化性炭素の平均粒子径が2μm以上4μm以下」としているが、「この構成により、黒鉛と難黒鉛化性炭素とを混合した際に、黒鉛粒子の隙間に難黒鉛化性炭素が効率よく入り込むようになるので、非水電解質蓄電素子用負極の低温時の直流抵抗をより低減させる(本件明細書の【0037】)との効果を奏するものである。
他方、甲1は、体積当たりエネルギー密度が高くかつサイクル特性に優れる非水電解質二次電池用負極電極を提供することを目的としているものの([0005])、非水電解質二次電池用負極電極の低温時の直流抵抗を低減させることについて、記載も示唆もされていない。
そうすると、本件発明4に係る「前記難黒鉛化性炭素の平均粒子径が2μm以上4μm以下」とすることには、少なくとも非水電解質蓄電素子用負極の低温時の直流抵抗をより低減させるとの新たな効果を奏するものと解され、相違点1は課題解決のための具体化手段における微差であるということはできない。

ウ よって、本件発明4と甲1a-4発明1は実質同一であるとはいえない。また、本件発明4に係る発明特定事項を全て備える本件発明5、7?9も甲1a-4発明1と実質同一であるとはいえない。

(3)本件発明と甲1a-8発明2との対比、判断
ア 本件発明4と甲1a-8発明2とを対比する。
(ア)甲1a-8発明2の「人造黒鉛(上海杉杉製CMS-G10)の粒度分布を調整して平均粒子径10μmとした黒鉛質炭素材の炭素質材料a-6」は、本件発明4の「黒鉛」に相当する。
甲1a-8発明2の「スチレン-ブタジエンゴム(SBR)(分子量25万?30万)」は、甲1の[0064]、表3によれば、結着材であり、本件明細書の【0020】?【0021】によれば、スチレン-ブタジエンゴムは水性結着剤であると認められ、また、甲1の[0064]、[0065]、表3によれば、結着材であるカルボキシメチルセルロースは水溶性であると認められることから、甲1a-8発明2の「スチレン-ブタジエンゴム(SBR)(分子量25万?30万)2質量部、カルボキシメチルセルロース(CMC)(第一工業製薬製セロゲン4H)1質量部」は、本件発明4の「水性結着剤である」「結着剤」に相当する。
上記(1)ア(ア)において、説示したとおり、甲1において、非黒鉛性炭素材として、難黒鉛化性炭素材料と易黒鉛化性炭素材料の炭素材があると認められるところ、甲1a-8発明2の「炭素質材料a-2」の「ブタノール法による真密度ρ_(Bt)は1.55g/cm^(3)、平均層面間隔d_(002)は0.383nm」で、難黒鉛化性炭素材料のブタノール法による真密度ρ_(Bt)と難黒鉛化性炭素材料の平均層面間隔d_(002)の範囲内にあり、甲1a-8発明2の「炭素質材料a-2」は、難黒鉛化性炭素材料であると認められるから、本件発明4の「難黒鉛化性炭素」に相当し、そして、「炭素質材料a-2」は「炭素質材料a-6」と別体のものであり、黒鉛粒子の表面上に被覆されたものではないから、当該「炭素質材料a-2」は「(ただし、黒鉛粒子の表面上に被覆された難黒鉛化性炭素は含まない)」ものであると認められる。
そして、甲1a-8発明2の「炭素質材料a-2」の「平均粒子径」は「3.5μm」であり、本件発明4の「前記難黒鉛化性炭素の平均粒子径が2μm以上4μm以下」に相当する。
甲1a-8発明2の「負極電極」は、非水電解質系リチウム二次電池に用いられるものであるから、本件発明1の「非水電解質蓄電素子用負極」に相当する。

(イ)そうすると、本件発明4と甲1a-8発明2との一致点と相違点2は以下のとおりである。
<一致点>
「黒鉛と難黒鉛化性炭素と結着剤とを含有し、前記難黒鉛化性炭素の平均粒子径が2μm以上4μm以下であり、前記黒鉛と前記難黒鉛化性炭素との合計質量に対する前記難黒鉛化性炭素(ただし、黒鉛粒子の表面上に被覆された難黒鉛化性炭素は含まない)の比率が10質量%以上であり、前記結着剤が水性結着剤である非水電解質蓄電素子用負極。」

<相違点2>
難黒鉛化性炭素の比率について、本件発明4は、「前記黒鉛と前記難黒鉛化性炭素との合計質量に対する前記難黒鉛化性炭素(ただし、黒鉛粒子の表面上に被覆された難黒鉛化性炭素は含まない)の比率が10質量%以上20質量%以下」であるのに対し、甲1a-8発明2は、「炭素質材料a-2を30質量%、炭素質材料a-6を70質量%で混合」している点。

イ(ア)相違点2において、本件発明4の「前記難黒鉛化性炭素(ただし、黒鉛粒子の表面上に被覆された難黒鉛化性炭素は含まない)の比率が10質量%以上20質量%以下」であることに対し、甲1a-8発明2の「炭素質材料a-2を30質量%」「で混合」していることは、難黒鉛化性炭素の混合比率の数値範囲が重なり合っていないため、実質的な相違点ではないということはできない。そこで、次に、本件発明と引用発明との間の相違点が課題解決のための具体化手段における微差(周知技術、慣用技術の付加、削除、転換等であって、新たな効果を奏するものではないもの)ではないのか、すなわち、本件発明4と甲1a-8発明2は実質同一であるといえるか検討する。

(イ)本件明細書には、黒鉛と難黒鉛化性炭素との合計質量に対する難黒鉛化性炭素の比率を10質量%以上20質量%以下とすることにより、後述する実施例に示すように、非水電解質蓄電素子用負極の高温保管耐性を高める(【0035】)旨の記載があることから、本件発明4では、「前記黒鉛と前記難黒鉛化性炭素との合計質量に対する前記難黒鉛化性炭素(ただし、黒鉛粒子の表面上に被覆された難黒鉛化性炭素は含まない)の比率が10質量%以上20質量%以下」とすることで、非水電解質蓄電素子用負極の高温保管耐性を高めるとの効果を奏するものである。
他方、甲1は、体積当たりエネルギー密度が高くかつサイクル特性に優れる非水電解質二次電池用負極電極を提供することを目的としているものの([0005])、高温保管耐性を高めることについて、記載も示唆もされていない。
そうすると、本件発明4に係る「前記黒鉛と前記難黒鉛化性炭素との合計質量に対する前記難黒鉛化性炭素(ただし、黒鉛粒子の表面上に被覆された難黒鉛化性炭素は含まない)の比率が10質量%以上20質量%以下」とすることには、少なくとも、高温保管耐性を高めるとの新たな効果を奏するものと解され、相違点2は課題解決のための具体化手段における微差であるということはできない。

ウ(ア)申立人は、異議申立書3(4)イ(イ)c.において、概略、本件明細書の【0078】【表1】には、実施例1として、黒鉛と難黒鉛化性炭素との合計質量に対する難黒鉛化性炭素の比率が10質量%の負極、実施例2として、黒鉛と難黒鉛化性炭素との合計質量に対する難黒鉛化性炭素の比率が20質量%の負極、実施例3として、黒鉛と難黒鉛化性炭素との合計質量に対する難黒鉛化性炭素の比率が30質量%の負極が記載され、実施例1?3の直流抵抗相対値はそれぞれ、89%、83%、及び、80%であり、実施例の間に効果上の相違はほとんど見られず、むしろ、実施例1、2は実施例3に比べて直流抵抗の低減度が小さいことが分かるところ、発明の作用効果に格別の差異が生じないような単なる構成の変更、例えば、単なる数値限定に相当する場合には、発明は実質的に同一であるとされるところ、本件発明3(当審注:本件訂正後では請求項4)における黒鉛と難黒鉛化性炭素との合計質量に対する難黒鉛化性炭素の比率が「10質量%以上20質量%以下であること」は、発明の作用効果に格別の差異が生じない単なる数値限定であり、その数値限定に臨界的意義はなく、本件発明3(当審注:本件訂正後では請求項4)は、甲1発明と実質的に同一である旨を主張している。
そして、数値限定発明における特許法第29条の2の「同一」の解釈については、東京高裁平成17年 2月17日(平成16年(行ケ)第83号)、知財高裁平成30年 5月30日(平成29年(行ケ)第10167号)を挙げる。

(イ)しかしながら、本件発明4は、非水電解質蓄電素子用負極の低温時の直流抵抗をより低減させる効果に加え、上記イ(イ)で説示したとおり、黒鉛と難黒鉛化性炭素との合計質量に対する難黒鉛化性炭素の比率が「10質量%以上20質量%以下であること」により、少なくとも高温保管耐性を高めるとの新たな効果を奏するものであり、この効果を奏するかについては、甲1から明らかなものではなく、やはり本件発明4と甲1a-8発明2は同一であるとはいえない。
また、東京高裁平成17年 2月17日(平成16年(行ケ)第83号)、知財高裁平成30年 5月30日(平成29年(行ケ)第10167号)は、先願発明と当該事件における本件発明における数値範囲が重なっている可能性がある事件であり、本件発明4では、「前記黒鉛と前記難黒鉛化性炭素との合計質量に対する前記難黒鉛化性炭素(ただし、黒鉛粒子の表面上に被覆された難黒鉛化性炭素は含まない)の比率が10質量%以上20質量%以下」であるのに対し、甲1a-8発明2では「炭素質材料a-2を30質量%、炭素質材料a-6を70質量%で混合」と、数値範囲が重なっていない本件とは事案が異なる。

エ よって、本件発明4と甲1a-8発明2は実質同一であるとはいえない。また、本件発明4に係る発明特定事項を全て備える本件発明5、7?9も、上記ア?ウと同様の理由により、甲1a-8発明2と実質同一であるとはいえない。

(4)小括
したがって、上記取消理由1によっては、本件訂正後の請求項4?5、7?9に係る特許を取り消すことはできない。

4 取消理由2(明確性要件:申立理由3に対応)、取消理由3(実施可能要件:職権により追加)について
上記第3のとおり、本件訂正によって訂正前の請求項6は削除されたから、訂正前の請求項6及び請求項6を引用する請求項7?9が対象となっていた取消理由2、3は解消した。

5 取消理由4(進歩性:申立理由4-4に対応)について
(1)本件発明と甲7発明との対比、判断
ア 本件発明4について
(ア)本件発明4と甲7発明とを対比する。
甲7発明の「塊状天然黒鉛である」「黒鉛X」は、本件発明4の「黒鉛」に相当する。
甲7発明の「難黒鉛化性炭素である助材Y」は、本件発明4の「難黒鉛化性炭素」に相当し、「黒鉛X」と「助材Y」は別体であり、「黒鉛X」粒子の表面上には被覆されていないから、「助材Y」は「(ただし、黒鉛粒子の表面上に被覆された難黒鉛化性炭素は含まない)」ものと認められる。
本件明細書の【0020】?【0021】によれば、スチレン-ブタジエンゴムは水性結着剤であると認められることから、甲7発明の「固形分で2重量部となるように調整した結着材であるスチレンブタジエンラバー(SBR)の水性ディスパージョン」は、本件発明4の「水性結着剤である」「結着剤」に相当する。
そして、甲7発明の「黒鉛X」が「80質量部」、「助材Y」が「20質量部」であることは、本件発明4の「前記黒鉛と前記難黒鉛化性炭素との合計質量に対する前記難黒鉛化性炭素(ただし、黒鉛粒子の表面上に被覆された難黒鉛化性炭素は含まない)の比率が10質量%以上20質量%以下であ」ることに相当する。
甲7の【0045】、【0076】?【0077】より、甲7に記載の負極は非水電解液と共に用いられるものと認められ、甲7発明の「負極c」は、本件発明4の「非水電解質蓄電素子用負極」に相当する。

(イ)そうすると、本件発明4と甲7発明との一致点と相違点3は以下のとおりである。
<一致点>
「黒鉛と難黒鉛化性炭素と結着剤とを含有し、前記黒鉛と前記難黒鉛化性炭素との合計質量に対する前記難黒鉛化性炭素(ただし、黒鉛粒子の表面上に被覆された難黒鉛化性炭素は含まない)の比率が10質量%以上20質量%以下であり、前記結着剤が水性結着剤である非水電解質蓄電素子用負極。」

<相違点3>
難黒鉛化性炭素の平均粒子径について、本件発明4は、「前記難黒鉛化性炭素の平均粒子径が2μ以上4μm以下であ」るのに対し、甲7発明は、「助材Y」の「平均粒子径D_(50)」が「9.2μm」である点。

(ウ)相違点3について検討する。
a 令和 3年 1月 6日付け取消理由通知における相違点3に関連した説示
本件訂正前の請求項1と甲7発明との相違点に対し、令和 3年 1月 6日付け取消理由通知第4 4(3)ア(ウ)では、「甲7の請求項10、【0019】に記載のとおり、真密度の低い助材の難黒鉛化性炭素粒子の平均粒子径を、主材である黒鉛の平均粒子径の70%以下とすることで、主材である黒鉛の粒子間の空隙を埋める形で、真密度の低い助材の難黒鉛化性炭素粒子を配置または充填することが可能となり、電極の高密度化させているものと認められる。そして、空隙を埋める粒子の平均粒子径が小さいほど、空隙に入りやすくなることから、高密度で充填可能であることは例示するまでもなく技術常識である。以上を考慮すれば、甲7発明1においても、電極をより高密度化するために「主材X」の粒子間の空隙を埋める「助材Y」の「平均粒子径D_(50)」を「9.2μm」より小さくすることは、当業者が適宜なし得たものにすぎず、「助材Y」の「平均粒子径D_(50)」を小さくした結果、「8μm以下」とすることは設計事項にすぎない。」と説示した。
そして、本件発明の効果についても「本件明細書の【0092】の「実施例1?4の様に、黒鉛と平均粒子径8μm以下の難黒鉛化性炭素を用いることによって、黒鉛と難黒鉛化性炭素とを混合した際に、黒鉛粒子の隙間に難黒鉛化性炭素が入り込むことで、非水電解質蓄電素子用負極合剤層の充填性が向上し、負極合剤層の集電性が改善されるために、電池及び負極の低温時の直流抵抗を低減することができると考えられる。」「一方、難黒鉛化性炭素の平均粒子径が8μmを超えると、黒鉛粒子の隙間に難黒鉛化性炭素が入り込む量が少なすぎるため、非水電解質蓄電素子用負極合剤層の充填性が向上せず、負極合剤層の集電性が改善されにくいため、電池及び負極の低温時の直流抵抗値を低減する効果は得られないと考えられる。」との記載から、本件発明1は、黒鉛と平均粒子径8μm以下の難黒鉛化性炭素を用いることで、黒鉛と難黒鉛化性炭素とを混合した際に、黒鉛粒子の隙間に難黒鉛化性炭素が入り込んで、非水電解質蓄電素子用負極合剤層の充填性が向上し、負極合剤層の集電性が改善されるために、電池及び負極の低温時の直流抵抗を低減すると、特許権者は予想しているものと認められる。」「ここで、「主材X」の粒子間の空隙を、「助材Y」で充填させて高密度化させている甲7発明1では、上記aのとおり「助材Y」の「平均粒子径D_(50)」を「8μm以下」とした場合に、より充填性が向上していると認められる。その結果、特許権者が予想する、黒鉛と平均粒子径8μm以下の難黒鉛化性炭素を用いることで、黒鉛と難黒鉛化性炭素とを混合した際に、黒鉛粒子の隙間に難黒鉛化性炭素が入り込んで、非水電解質蓄電素子用負極合剤層の充填性が向上し、負極合剤層の集電性が改善されるとの機序により生じる、電池及び負極の低温時の直流抵抗を低減するとの効果は、甲7発明1において「助材Y」の「平均粒子径D_(50)」を「8μm以下」とした際に付随して生じるものであって、当業者が予想しえない格別顕著なものであるとは認められない。」と説示した。

b 令和 3年 3月10日に受理された意見書における相違点3に関連した主張
特許権者は、令和 3年 3月10日に受理された意見書の5(3)「取消理由に対する意見」ウにおいて、概略、本件明細書の【0092】に記載された難黒鉛化性炭素の平均粒子径に大きさによる電池及び負極の低温時の直流抵抗値を低減する機序、効果は、本件発明によって初めて見いだされたものであり、さらに、甲7には電池及び負極の低温時の直流抵抗値を低減する効果については全く示唆されておらず、そもそも甲7発明は本件明細書に記載された比較例2に相当するものであり、本件発明4が上限とする4μmを遥かに超える範囲でも、電池の高エネルギー密度化を図ることができるという効果が予測し得るだけであり、非水電解質蓄電素子用負極の低温時の直流抵抗を低減するために、難黒鉛化性炭素の平均粒子径を「2μm以上4μm以下」とする動機付けはない旨主張する。
さらに、特許権者は、上記意見書の同項において「前記黒鉛と前記難黒鉛化性炭素との合計質量に対する前記難黒鉛化性炭素(ただし、黒鉛粒子の表面上に被覆された難黒鉛化性炭素は含まない)の比率が10質量%以上20質量%以下」とすることで、非水電解質蓄電素子用負極の高温保管耐性を高めることができるとの効果の主張もしている。

c 当該相違点3についての判断
本件明細書の【0078】【表1】を参照すると、難黒鉛化性炭素の平均粒子径は、本件訂正後の請求項4の難黒鉛化性炭素の平均粒子径と質量比の数値範囲に含まれる実施例1?2では、直流抵抗相対値はそれぞれ89%、83%であるのに対し、難黒鉛化性炭素の平均粒子径の数値が同請求項4の数値範囲に含まれず、かつ、甲7発明の「助剤Y」の「平均粒子径D_(50)」に近い比較例2の直流抵抗相対値はそれぞれ102%であることから、同請求項4の難黒鉛化性炭素における平均粒子径とすることで、非水電解質蓄電素子用負極の低温時の直流抵抗を低減するとの効果は、【0078】【表1】等の記載から本件明細書に明示的に示されていると解される。
そして、甲7の請求項10、【0019】には、助材となる難黒鉛海性炭素の平均粒子径は、黒鉛の平均粒子径の70%以下として、主材である黒鉛の粒子間の空隙を埋める形で、真密度の低い助材の難黒鉛化性炭素粒子を配置または充填することが可能になる旨は記載されており、甲7において「助剤Y」の「平均粒子径D_(50)」を「9.2μm」より小さいものとすることができたとしても、本件明細書の【0078】【表1】等で示される非水電解質蓄電素子用負極の低温時の直流抵抗を低減するとの効果については、甲7には記載されていない。
また、甲2?6、8?12にも非水電解質蓄電素子用負極の低温時の直流抵抗を低減するとの効果について、記載も示唆もされていない。
そうすると、少なくとも本件明細書の【0078】【表1】等で示される非水電解質蓄電素子用負極の低温時の直流抵抗を低減するとの効果については、当業者が予測し得ない顕著な効果であるといえ、甲7発明若しくは、甲7発明及び甲2?6、8?12の記載事項から当業者が予測し得たものとは言えない。

(エ)以上より、本件発明4は、甲7発明及び甲2?6、8?12の記載事項から当業者が容易に想到しえたものとはいえない。

イ 本件発明5、7?9について
本件発明4に係る発明特定事項を全て備える本件発明5、7?9も、上記アと同様の理由により、甲7発明若しくは、甲7発明及び甲2?6、8?12の記載事項から当業者が容易に想到しえたものとはいえない。

(2)小括
したがって、上記取消理由4によっては、本件訂正後の請求項4?5、7?9に係る特許を取り消すことはできない。

6 申立理由2(サポート要件:取消理由として不採用)について
(1)特許請求の範囲の記載が、明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものであり、明細書のサポート要件の存在は、特許権者が証明責任を負うと解するのが相当である(知的財産高等裁判所、平成17年(行ケ)第10042号、同年11月11日特別部判決)。以下、検討する。

(2)本件発明4について
ア 上記本件明細書【0001】、【0007】?【0009】の記載から、本件発明の解決すべき課題(以下、「本件課題」という。)は、水系溶媒を用いて作製した負極合剤層を備えた非水電解質蓄電素子用負極の低温時の直流抵抗を低減することである。

イ 本件明細書の記載によれば、難黒鉛化性炭素の平均粒子径を8μm以下とするとの要件で、本件課題である非水電解質蓄電素子用負極の低温時の直流抵抗を低減させることができ(【0014】)、解決することができる。

ウ また、本件明細書の【0078】【表1】には、各種の負極の例が記載されている。
本件明細書の【0078】【表1】中の実施例1?4の負極は、難黒鉛化性炭素の平均粒子径を3.5μmで上記イの要件を満たすものであり、これら実施例1?4の負極の直流抵抗相対値は、黒鉛のみからなる比較例1の負極の直流抵抗相対値より低いものとなっている。他方、上記イの要件を満たさない比較例2はの負極の直流抵抗相対値は、黒鉛のみからなる比較例1の負極の直流抵抗相対値より高いものとなっている。
そうすると、実施例1?4の負極は、上記イの要件を備えるものである一方、比較例2の負極は上記イの要件を全て満たすものではないところ、上記イの要件を備えた上記実施例1?4の負極は、直流抵抗相対値が低く、非水電解質蓄電素子用負極の低温時の直流抵抗を低減させることができ、本件課題を解決できることが理解できる。

エ 以上のとおり、本件明細書の記載を総合すれば、上記イの要件を備える本件発明4は、本件明細書の発明の詳細な説明に記載されたものであって、当業者が出願時の技術常識に照らして発明の詳細な説明の記載により本件発明の課題を解決できると認識できる範囲のものということができる。 以上のとおりであるから、特許請求の範囲の請求項4の記載は特許法第36条第6項第1号(サポート要件)に適合するものである。

オ(ア)なお、申立人は、異議申立書3(4)ウ、第22頁第15?23行において、概略、粒子Aと粒子Bとを混合したときに粒子Aの隙間に粒子Bを入り込ませるためには、粒子Aの隙間が粒子Bよりも大きいことが必要となるところ、本件特許の各請求項では、黒鉛(粒子A)の隙間の大きさと黒鉛化性炭素(粒子B)の大きさとの関係が特定されておらず、「難黒鉛化性炭素の平均粒子径が8μm以下」(当審注:本件訂正前の請求項1の構成)であっても、黒鉛の隙間の大きさがこれよりも小さく制限されている場合には、負極合材層の充填性が向上せず、本件課題は解決されないと主張する。

(イ)当該主張について検討するに、粉末は粒度分布を有していることは技術常識であり、本件発明における黒鉛においても粒度分布を有しているものと解される。そして、本件特許の請求項には、黒鉛の平均粒子径についての特定は無いが、難黒鉛化性炭素の粒径よりも大きい黒鉛も存在しうるものと解され、この難黒鉛化性炭素の粒径よりも大きい粒径を有する黒鉛間の隙間に、難黒鉛化性炭素が入り込みうるため、負極合材層の充填性は向上しうるものであり、本件課題は解決できないとはいえないため、上記(ア)における申立人の主張を採用することはできない。

カ(ア)さらに、申立人は、同異議申立書3(4)ウ、第23頁第1?19行において、概略、【0078】【表1】には、難黒鉛化炭素の平均粒子径が「3.5μm」についての結果のが示されており、
A.各実施例における黒鉛の平均粒子径が不明であるから、黒鉛の隙間の大きさも推定できず、難黒鉛化炭素の平均粒子径が「3.5μm」よりも大きい場合、特にその2倍をも上回る「8μm」程度であっても、若しくは、「4μm」であったとしても、本件課題が「3.5μm」の場合と同様に解決するとは限らず、
B.技術常識によると、径が小さすぎる粒子は凝集する傾向が顕著になるから、平均粒子径が「3.5μm」よりも大幅に小さい粒子について、負極の充填性が向上するかについても予測できない旨主張する。

(イ)当該主張について検討する。
まず、上記(ア)におけるA.の主張については、上記オ(イ)で説示したのと同様の理由で、難黒鉛化性炭素の粒径よりも大きい黒鉛も存在しうるものと解され、この難黒鉛化性炭素の粒径よりも大きい粒径を有する黒鉛間の隙間に、難黒鉛化性炭素が入り込みうるため、負極合材層の充填性は向上しうるものであり、本件課題を解決できないとはいえないため採用できない。
また、上記(ア)におけるB.の主張については、本件訂正後の請求項4では、難黒鉛化炭素の平均粒子径は「2μm以上4μm以下」とされているため、下限の「2μm」の平均粒子径の難黒鉛化炭素であれば、平均粒子径が「3.5μm」よりも大幅に小さい粒子とはいえず、凝集するものか不明であり、負極の充填性が阻害されるかについても不明なものであることから、本件課題を解決できないとはいえないため採用できない。

(3)本件発明5、7?9について
本件発明5、7?9は、本件発明4を引用するものであるが、上記(2)で本件発明4について述べたのと同様の理由により、本件発明5、7?9は、発明の詳細な説明に記載したものであり、特許請求の範囲の請求項5、7?9の記載は特許法第36条第6項第1号(サポート要件)に適合するものである。

(4)小括
したがって、上記申立理由2によっては、本件訂正後の請求項4?5、7?9に係る特許を取り消すことはできない。

7 申立理由4-1(進歩性:取消理由として不採用)について
(1)本件発明と甲2発明との対比、判断
ア 本件発明4について
(ア)本件発明4と甲2発明とを対比する。
甲2発明の「天然黒鉛」は、本件発明4の「黒鉛」に相当する。
甲2発明の「難黒鉛化炭素」は、本件発明4の「難黒鉛化性炭素」に相当し、「天然黒鉛」と「難黒鉛化炭素」は別体であり、「天然黒鉛」粒子の表面上には被覆されていないから、「難黒鉛化炭素」は「(ただし、黒鉛粒子の表面上に被覆された難黒鉛化性炭素は含まない)」ものと認められる。 甲2発明の「結着剤」は、本件発明4の「結着剤」に相当する。
甲2発明の「難黒鉛化炭素の粉末」の「平均粒径が3.6μm」であることは、本件発明4の「前記難黒鉛化性炭素の平均粒子径が2μ以上4μm以下」であることに相当する。
そして、甲2発明の「天然黒鉛の粉末」と「難黒鉛化炭素の粉末」との「重量比率」が「80:20」であることは、本件発明4の「前記黒鉛と前記難黒鉛化性炭素との合計質量に対する前記難黒鉛化性炭素(ただし、黒鉛粒子の表面上に被覆された難黒鉛化性炭素は含まない)の比率が10質量%以上20質量%以下であ」ることに相当する。
甲2発明の「非水電解液を注液した円筒型のリチウム二次電池の負極」は、本件発明4の「非水電解質蓄電素子用負極」に相当する。

(イ)そうすると、本件発明4と甲2発明との一致点と相違点4は以下のとおりである。
<一致点>
「黒鉛と難黒鉛化性炭素と結着剤とを含有し、前記難黒鉛化性炭素の平均粒子径が2μ以上4μm以下であり、前記黒鉛と前記難黒鉛化性炭素との合計質量に対する前記難黒鉛化性炭素(ただし、黒鉛粒子の表面上に被覆された難黒鉛化性炭素は含まない)の比率が10質量%以上20質量%以下である非水電解質蓄電素子用負極。」

<相違点4>
結着剤について、本件発明4は、「前記結着剤が水性結着剤である」のに対し、甲2発明は、「結着剤」が「ポリフッ化ビニリデン」である点。

(ウ)相違点4について検討する。
a 甲3の請求項1、【0018】、甲4の【0011】、【0016】には、結着剤として「水性結着剤」と認められるスチレン-ブタジエン共重合体を用いる旨、甲5の【0002】には、有機溶剤の使用に代えてスチレンブタジエン系ゴム等の水系バインダーを用いる旨、甲6の請求項5、8、【0064】?【0066】には、スチレンブタジエンゴム等のエマルジョン樹脂等の水分散型の結着剤をを用いる旨、甲7の【0036】には、結着材としてスチレンブタジエンラバーの水性ディスパージョンを用いる旨が記載されており、リチウム二次電池の負極にスチレン-ブタジエン共重合体等の「水性結着剤」を用いることは周知であると認められる。

b しかしながら、甲2発明は、リチウム二次電池が十分なサイクル寿命をもつようにすることを課題としており(【0010】)、甲2発明において、「結着剤」を「ポリフッ化ビニリデン」から周知の「水性結着剤」に代えても、「結着剤」が「ポリフッ化ビニリデン」である場合と同等の十分なサイクル寿命をもつことができるのか明らかではなく、敢えて「結着剤」を「ポリフッ化ビニリデン」から周知の「水性結着剤」に代える動機付けはない。

c そして、本件発明4が有する、結着剤が水性結着剤である場合に非水電解質蓄電素子用負極の低温時の直流抵抗を低減させるとの効果については、甲2?12には記載されておらず、当業者が予測し得ない顕著な効果であるといえる。

d 以上より、本件発明4は、甲2発明及び甲3?12の記載事項から当業者が容易に想到しえたものとはいえない。

イ 本件発明4に係る発明特定事項を全て備える本件発明5、7?9も、上記アと同様の理由により、甲2発明若しくは、甲2発明及び甲3?12の記載事項から当業者が容易に想到しえたものとはいえない。

(2)小括
したがって、上記申立理由4-1によっては、本件訂正後の請求項4?5、7?9に係る特許を取り消すことはできない。

8 申立理由4-2(進歩性:取消理由として不採用)について
(1)本件発明と甲8発明との対比、判断
ア 本件発明4について
(ア)本件発明4と甲8発明とを対比する。
甲8発明の「黒鉛」は、本件発明4の「黒鉛」に相当する。
甲8発明の「ハードカーボン」は、甲8の[0004]に「ハードカーボン(難黒鉛化性炭素)」と記載され、難黒鉛化性炭素であると認められることから、本件発明4の「難黒鉛化性炭素」に相当し、「黒鉛」と「ハードカーボン」は別体であり、黒鉛粒子の表面上には被覆されていないから、「難黒鉛化炭素」は「(ただし、黒鉛粒子の表面上に被覆された難黒鉛化性炭素は含まない)」ものと認められる。
甲8発明の「結合剤」は、本件発明4の「結着剤」に相当する。
甲8発明の「ハードカーボンの粒子」の「D50は2μm」であることは、本件発明4の「前記難黒鉛化性炭素の平均粒子径が2μ以上4μm以下」であることに相当する。
甲8発明の「体積比が1:1のエチレンカーボネートとジエチルカーボネートとの混合液に、過塩素酸リチウムを1モル/リットル溶解させることにより調整した電解液」は「非水電解質」といえるから、同甲8発明の「エチレンカーボネートとジエチルカーボネートとの混合液に、過塩素酸リチウムを1モル/リットル溶解させることにより調整した電解液を用いた二次電池評価用二極式コインセルの負極」は、本件発明4の「非水電解質蓄電素子用負極」に相当する。

(イ)そうすると、本件発明4と甲8発明との一致点と相違点5、6は以下のとおりである。
<一致点>
「黒鉛と難黒鉛化性炭素と結着剤とを含有し、前記難黒鉛化性炭素の平均粒子径が2μm以上4μm以下であり、前記黒鉛と前記難黒鉛化性炭素との合計質量に対する前記難黒鉛化性炭素(ただし、黒鉛粒子の表面上に被覆された難黒鉛化性炭素は含まない)の比率が10質量%以上である非水電解質蓄電素子用負極。」

<相違点5>
難黒鉛化性炭素の比率について、本件発明4は、「前記黒鉛と前記難黒鉛化性炭素との合計質量に対する前記難黒鉛化性炭素(ただし、黒鉛粒子の表面上に被覆された難黒鉛化性炭素は含まない)の比率が10質量%以上20質量%以下」であるのに対し、甲8発明は、「黒鉛の粒子の含有量が70重量%であり、ハードカーボンの粒子の含有量は30重量%で」ある点。

<相違点6>
結着剤について、本件発明4は、「前記結着剤が水性結着剤である」のに対し、甲8発明は、「結合剤」は「ポリフッ化ビニリデン」である点。

(ウ)事案を鑑み、相違点6より検討する。
a 上記7(1)ア(ウ)aで検討したとおり、リチウム二次電池の負極にスチレン-ブタジエン共重合体等の「水性結着剤」を用いることは周知であると認められる。

b しかしながら、甲8発明は、高い充放電容量と優れた充放電効率とをバランスよく備えるリチウムイオン二次電池を得ることができるリチウムイオン二次電池用負極材を提供することを課題としており([0006])、甲8発明において、「結着剤」を「ポリフッ化ビニリデン」から周知の「水性結着剤」に代えても、「結着剤」が「ポリフッ化ビニリデン」である場合と同等に高い充放電容量と優れた充放電効率とをバランスよく備えるのか明らかではなく、「結着剤」を「ポリフッ化ビニリデン」から周知の「水性結着剤」に代える動機付けはない。

c そして、本件発明4が有する、結着剤が水性結着剤である場合に非水電解質蓄電素子用負極の低温時の直流抵抗を低減させるとの効果については、甲2?12には記載されておらず、当業者が予測し得ない顕著な効果であるといえる。

d 以上より、相違点5を検討するまでもなく、本件発明4は、甲8発明及び甲2?7、9?12の記載事項から当業者が容易に想到しえたものとはいえない。

イ 本件発明4に係る発明特定事項を全て備える本件発明5、7?9も、上記アと同様の理由により、甲8発明若しくは、甲8発明及び甲2?7、9?12の記載事項から当業者が容易に想到しえたものとはいえない。

(2)小括
したがって、上記申立理由4-2によっては、本件訂正後の請求項4?5、7?9に係る特許を取り消すことはできない。

9 申立理由4-3(進歩性:取消理由として不採用)について
(1)本件発明と甲9発明との対比、判断
ア 本件発明4について
(ア)本件発明4と甲9発明とを対比する。
甲9発明の「黒鉛」は、本件発明4の「黒鉛」に相当する。
甲9発明の「ハードカーボン」は、甲8の[0004]における「ハードカーボン(難黒鉛化性炭素)」との記載を参酌すれば、難黒鉛化性炭素であると認められることから、本件発明4の「難黒鉛化性炭素」に相当し、「黒鉛」と「ハードカーボン」は別体であり、黒鉛粒子の表面上には被覆されていないから、「難黒鉛化炭素」は「(ただし、黒鉛粒子の表面上に被覆された難黒鉛化性炭素は含まない)」ものと認められる。
甲9発明の「バインダー」は、本件発明4の「結着剤」に相当する。
甲9発明の「1.8mol/lのLiPF_(6)を含む、エチレンカーボネート-ジエチルカーボネート3:7混合溶媒」とした「電解液」は「非水電解質」といえるから、同甲9発明の「電解液として、1.8mol/lのLiPF_(6)を含む、エチレンカーボネート-ジエチルカーボネート3:7混合溶媒を注液した試験用セルの共通負極」は、本件発明4の「非水電解質蓄電素子用負極」に相当する。

(イ)そうすると、本件発明4と甲9発明との一致点と相違点7?9は以下のとおりである。
<一致点>
「黒鉛と難黒鉛化性炭素と結着剤とを含有し、前記黒鉛と前記難黒鉛化性炭素との合計質量に対する前記難黒鉛化性炭素(ただし、黒鉛粒子の表面上に被覆された難黒鉛化性炭素は含まない)の比率が10質量%以上である非水電解質蓄電素子用負極。」

<相違点7>
難黒鉛化性炭素の平均粒子径について、本件発明4は、「前記難黒鉛化性炭素の平均粒子径が2μ以上4μm以下であ」るのに対し、甲9発明では「ハードカーボン」の「平均粒径」が「7μm」である点。

<相違点8>
難黒鉛化性炭素の比率について、本件発明4は、「前記黒鉛と前記難黒鉛化性炭素との合計質量に対する前記難黒鉛化性炭素(ただし、黒鉛粒子の表面上に被覆された難黒鉛化性炭素は含まない)の比率が10質量%以上20質量%以下」であるのに対し、甲9発明では「ハードカーボン30重量%」と「黒鉛粒子70重量%」とを混合したものである点。

<相違点9>
結着剤について、本件発明4は、「前記結着剤が水性結着剤である」のに対し、甲8発明では「バインダー」が「ポリフッ化ビニリデン」である点。

(ウ)事案を鑑み、相違点9より検討する。
a 上記7(1)ア(ウ)aで検討したとおり、リチウム二次電池の負極にスチレン-ブタジエン共重合体等の「水性結着剤」を用いることは周知であると認められる。

b しかしながら、甲9発明は、電気二重層キャパシタの瞬発力とリチウムイオンの持続力を兼ね備えるとともに、急速充放電を繰り返しても静電容量を維持できる信頼性の高い電力貯蔵デバイスセルを提供することを課題としており([0006]?[0007])、甲8発明において、「バインダー」を「ポリフッ化ビニリデン」から周知の「水性結着剤」に代えても、「バインダー」が「ポリフッ化ビニリデン」である場合と同等に電気二重層キャパシタの瞬発力とリチウムイオンの持続力を兼ね備えるとともに、急速充放電を繰り返しても静電容量を維持できるのか明らかではなく、「バインダー」を「ポリフッ化ビニリデン」から周知の「水性結着剤」に代える動機付けはない。

c そして、本件発明4が有する、結着剤が水性結着剤である場合に非水電解質蓄電素子用負極の低温時の直流抵抗を低減させるとの効果については、甲2?12には記載されておらず、当業者が予測し得ない顕著な効果であるといえる。

d 以上より、相違点7、8を検討するまでもなく、本件発明4は、甲9発明及び甲2?8、10?12の記載事項から当業者が容易に想到しえたものとはいえない。

イ 本件発明4に係る発明特定事項を全て備える本件発明5、7?9も、上記アと同様の理由により、甲9発明若しくは、甲9発明及び甲2?8、10?12の記載事項から当業者が容易に想到しえたものとはいえない。

(2)小括
したがって、上記申立理由4-3によっては、本件訂正後の請求項4?5、7?9に係る特許を取り消すことはできない。

10 むすび
以上のとおり、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した申立理由によっては、本件訂正後の請求項4?5、7?9に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件訂正後の請求項4?5、7?9に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
さらに、請求項1?3、6は、本件訂正により削除されたから、請求項1?3、6に係る特許に対する特許異議の申立ては、その対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
非水電解質蓄電素子用負極
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解質蓄電素子用負極と、それを用いた非水電解質蓄電素子及び蓄電装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電気自動車用電源、電子機器用電源、電力貯蔵用電源等の幅広い用途において、リチウムイオン二次電池に代表される非水電解質蓄電素子が活用されるようになっている。
【0003】
非水電解質蓄電素子が広く普及するに伴い、低コストで高性能な非水電解質蓄電素子の開発が求められている。
この様な、開発の取り組みの一つとして、負極の構成に関する検討が行われている。
【0004】
特許文献1には、「リチウムイオン二次電池に用いられる負極活物質を含む負極用合剤であって、前記負極用合剤は負極活物質、結着剤、層状化合物、および分散媒を含み、かつ該分散媒が水であることを特徴とする負極用合剤。」(請求項1)とする技術が開示されている。
さらに、「前記負極活物質にハードカーボンを含む請求項1?10のいずれかに記載の負極用合剤。」(請求項11)、「前記負極活物質に黒鉛を含む請求項1?11のいずれかに記載の負極用合剤。」(請求項12)とすることが開示されている。
【0005】
また、特許文献2には、「正極と、負極と、非水電解液とを備えたリチウム二次電池において、上記の正極に、一般式LiNi_(1-x)Co_(x)O_(2)(但し、0.1≦x≦0.6の条件を満たす。)で表されるリチウム含有ニッケル・コバルト複合酸化物を用いると共に、上記の負極に、天然黒鉛が60?90重量%の範囲で含まれると共に難黒鉛化炭素が40?10重量%の範囲で含まれる炭素材料を用い、さらに上記の非水電解液として、パルス磁場勾配NMR法によって算出される^(7)Li核の自己拡散係数が1.5×10^(-6)cm^(2)/s以上になった非水電解液を用いたことを特徴とするリチウム二次電池。」(請求項1)とする技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】 特開2013-134896号公報
【特許文献2】 特開2002-252028号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
負極に用いる結着剤として負極集電箔上に水系溶媒を用いた負極合剤ペーストを使用することにより、非水溶媒を使用する場合と比較して、溶媒の回収工程の省略が可能、ペーストの取り扱いが容易等の製造工程上のコストメリットが大きい。また、環境負荷も小さくすることができる。しかしながら、この様にして作製した負極合剤層を備えた負極を用いた非水電解質蓄電素子は、低温時の直流抵抗が増大することを本発明者らは見出した。
【0008】
特許文献1及び2では、負極活物質として黒鉛及び難黒鉛化性炭素(ハードカーボン)を使用することが記載されている。
しかしながら、低温時の直流抵抗の増大を克服する手段については言及されていない。
【0009】
本発明は、上記の従来技術に鑑みなされたものであり、水系溶媒を用いて作製した負極合剤層を備えた非水電解質蓄電素子用負極の低温時の直流抵抗を低減することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、黒鉛と難黒鉛化性炭素と結着剤とを含有し、前記難黒鉛化性炭素の平均粒子径が2μm以上4μm以下であり、前記黒鉛と前記難黒鉛化性炭素との合計質量に対する前記難黒鉛化性炭素の比率が10質量%以上20質量%以下である非水電解質蓄電素子用負極である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、非水電解質蓄電素子用負極の低温時の直流抵抗を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明に係る非水電解質蓄電素子の一実施形態を示す外観斜視図
【図2】本発明に係る非水電解質蓄電素子を複数個集合して構成した蓄電装置を示す概略図
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の構成及び効果について、技術思想を交えて説明する。但し、作用機構については推定を含んでおり、その正否は、本発明を制限するものではない。なお、本発明は、その精神又は主要な特徴から逸脱することなく、他のいろいろな形で実施することができる。そのため、後述の実施の形態若しくは実験例は、あらゆる点で単なる例示に過ぎず、限定的に解釈してはならない。さらに、特許請求の範囲の均等範囲に属する変形や変更は、すべて本発明の範囲内のものである。
【0014】
本発明の実施形態においては、非水電解質蓄電素子用負極は、黒鉛と、難黒鉛化性炭素と、結着剤を含有し、前記難黒鉛化性炭素の平均粒子径が8μm以下であり、前記黒鉛と前記難黒鉛化性炭素との合計質量に対する前記難黒鉛化性炭素の比率が10質量%以上50質量%以下である。
この様な構成の非水電解質蓄電素子用負極とすることにより、低温時の直流抵抗を低減することができる。
【0015】
ここで、黒鉛とは、(002)面の格子面間隔d(002)が0.34nm以下の炭素を指す。例えば、天然黒鉛、人造黒鉛等の黒鉛または黒鉛化品等が挙げられる。
また、黒鉛粒子の表面の一部或いは全体に渡り、黒鉛以外の炭素材が被覆されていても良い。なお、炭素材に難黒鉛化性炭素が含まれる場合、黒鉛粒子の表面上に被覆された難黒鉛化性炭素は、黒鉛粒子の一部と判断し、難黒鉛化性炭素の質量には含まない。
【0016】
また、黒鉛の平均粒子径としては、5μm以上50μm以下のものを使用することができる。好ましくは、8μm以上40μm以下である。
【0017】
また、難黒鉛化性炭素とは、(002)面の格子面間隔d(002)が0.36nmより大きい炭素物質である。
【0018】
ここで、黒鉛及び難黒鉛化性炭素の平均粒子径とは、体積標準の粒度分布における累積度50%(D50)の粒径を示す。
具体的には、測定装置としてレーザー回折式粒度分布測定装置(SALD-2200、株式会社島津製作所製)、測定制御ソフトとしてWing SALD-2200を用いる。
測定手法としては、散乱式の測定モードを採用し、難黒鉛化性炭素を分散溶媒中に分散させた分散液を入れた測定用湿式セルを5分間超音波環境下に置いた後、装置にセットし、レーザー光を照射して測定を行い散乱光分布を得る。得られた散乱光分布を対数正規分布により近似し、その粒度分布(横軸、σ)において最小を0.1μm、最大を100μmに設定した範囲の中で累積度50%(D50)にあたる粒径を平均粒径とする。
【0019】
なお、黒鉛や難黒鉛化性炭素には、本発明の効果を損なわない範囲で、少量のB、N、P、F、Cl、Br、I等の典型非金属元素、Li、Na、Mg、Al、K、Ca、Zn、Ga、Ge等の典型金属元素、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Mo、Zr、Ta、Hf、Nb、W等の遷移金属元素を含有することを排除するものではない。
さらに、非水電解質蓄電素子用負極には、黒鉛及び難黒鉛化性炭素以外の活物質が含まれていても良い。
【0020】
非水電解質蓄電素子用負極に用いる結着剤としては、水性結着剤を使用する。
水性結着剤は、合剤(電極ペースト)を調整する際に水系溶媒を用いることが可能な結着剤、と定義することができる。より具体的には、水性結着剤は、活物質と混合してペースト化する際の溶媒として水または水を主体とする混合溶媒を用いることが可能な結着剤、と定義することができる。このような結着剤としては、非溶剤系の各種の高分子を用いることができる。
水性結着剤としては、水系溶媒に溶解又は分散可能な、ゴム系高分子及び樹脂系高分子から選択される少なくとも1つを用いることが好ましい。ここで、水系溶媒とは、水又は水を主体とする混合溶媒を表す。混合溶媒を構成する水以外の溶媒としては、水と均一に混合し得る有機溶媒(低級アルコールや低級ケトン等)を例示することができる。
【0021】
水系溶媒に溶解又は分散可能なゴム系高分子としては、スチレン‐ブタジエンゴム(SBR)、アクリロニトリル‐ブタジエンゴム(NBR)、メチルメタクリレート‐ブタジエンゴム(MBR)等を例示することができる。これらは、好ましくは水に分散させた状態で結着剤として用いることができる。すなわち、使用可能な水性結着剤の一例として、スチレン‐ブタジエンゴム(SBR)の水分散体、アクリロニトリル‐ブタジエンゴム(NBR)の水分散体、メチルメタクリレート‐ブタジエンゴム(MBR)の水分散体等が挙げられる。また、これら水系溶媒に溶解又は分散可能なゴム状高分子の中でも、スチレン‐ブタジエンゴム(SBR)を用いることが好ましい。
【0022】
水系溶媒に溶解又は分散可能な樹脂系高分子としては、アクリル樹脂、オレフィン系樹脂、フッ素系樹脂及びニトリル系樹脂等を例示することができる。アクリル樹脂としては、アクリル酸エステルやメタクリル酸エステル等を例示することができる。オレフィン系樹脂としては、ポリプロピレン(PP)やポリエチレン(PE)等を例示することができる。フッ素系樹脂としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)や親水性ポリフッ化ビニリデン(PVDF)等を例示することができる。ニトリル系樹脂としてはポリアクリロニトリル(PAN)等を例示することができる。
【0023】
また、水性結着剤としては、モノマーを2つ以上含む共重合体を用いることもできる。このような共重合体としては、エチレン‐プロピレン共重合体、エチレン‐メタクリル酸共重合体、エチレン‐アクリル酸共重合体、プロピレン‐ブテン共重合体、アクリロニトリル‐スチレン共重合体、メチルメタクリレート‐ブタジエン‐スチレン共重合体等を例示することができる。
【0024】
水性結着剤としては、変性により官能基を導入した高分子や架橋構造を有している高分子を用いることもできる。
【0025】
また、水性結着剤は、ガラス転移温度(Tg)が-30℃以上50℃以下であれば、極板の製造時及び加工時に問題のない密着性を維持しつつ、非水電解質蓄電素子用負極の柔軟性が向上するため好ましい。
【0026】
水性結着剤の添加量は、非水電解質蓄電素子用負極の負極合剤層の総質量に対して0.5?50質量%が好ましく、1?30質量%がより好ましく、1?10質量%が特に好ましい。また、水性結着剤は、上記の高分子を単独で、又は、複数の高分子を組み合わせて用いることができる。
【0027】
また、非水電解質蓄電素子用負極には、増粘剤を含ませることができる。増粘剤としては、澱粉系高分子、アルギン酸系高分子、微生物系高分子及びセルロース系高分子等を例示することができる。
【0028】
ここで、セルロース系高分子は、ノニオン性、カチオン性及びアニオン性に分類することができる。ノニオン性セルロース系高分子としては、アルキルセルロース、ヒドロキシアルキルセルロース等を例示することができる。カチオン性セルロース系高分子としては、塩化-[2-ヒドロキシ-3-(トリメチルアンモニオ)プロピル]ヒドロキシエチルセルロース(ポリクオタニウム-10)等を例示することができる。アニオン性セルロース系高分子としては、ノニオン性セルロース系高分子を各種誘導基により置換した下記一般式(1)又は(2)の構造を有するアルキルセルロース及びそれらの金属塩やアンモニウム塩等を例示することができる。
【0029】
【化1】

【0030】
【化2】

【0031】
上記一般式中、Xはアルカリ金属、NH4又はHであることが好ましい。また、Rは2価の炭化水素基であることが好ましい。炭化水素基の炭素数は特に限定されないが、通常は1?5程度である。また、さらにRは、カルボキシ基などを含む炭化水素基もしくはアルキレン基であってもよい。
【0032】
アニオン性セルロース系高分子の具体例としては、カルボキシメチルセルロース(CMC)、メチルセルロース(MC)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、セルロース硫酸ナトリウム、メチルセルロース、メチルエチルセルロース、エチルセルロース及びそれらの塩等を例示することができる。これらの中でも、カルボキシメチルセルロース(CMC)、メチルセルロース(MC)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)であることが好ましく、カルボキシメチルセルロース(CMC)であることがより好ましい。
【0033】
セルロース中の無水グルコース単位1個当たりのヒドロキシ基(3個)のカルボキシメチル基等の置換体への置換度をエーテル化度といい、理論的に0?3までの値をとり得る。エーテル化度が小さいほどセルロース中のヒドロキシ基が増加し、置換体が減少することを示す。本発明では、負極合剤層に含まれる増粘剤としてのセルロースは、エーテル化度が1.5以下であることが好ましく、1.0以下であることがより好ましく、0.8以下であることがさらにより好ましい。
【0034】
また、本発明の実施形態においては、黒鉛と難黒鉛化性炭素との合計質量に対する難黒鉛化性炭素の比率を10質量%以上30質量%以下とすることが好ましい。
これにより、非水電解質蓄電素子用負極の低温時の直流抵抗を低く保ちつつ、エネルギー密度を高めることができるため好ましい。
【0035】
さらに、黒鉛と難黒鉛化性炭素との合計質量に対する難黒鉛化性炭素の比率を10質量%以上20質量%以下とすることがより好ましい。
これにより、後述する実施例に示す様に、非水電解質蓄電素子用負極の高温保管耐性を高めることができる。
【0036】
また、本発明の実施形態においては、難黒鉛化性炭素の平均粒子径は黒鉛の平均粒子径よりも小さいことが好ましい。これにより、非水電解質蓄電素子用負極の低温時の直流抵抗をより低減させることができるため好ましい。
【0037】
また、本発明の実施形態においては、難黒鉛化性炭素の平均粒子径を2μm以上4μm以下とすることが好ましく、平均粒子径を2.5μm以上4μm以下とすることがより好ましく、平均粒子径を3μm以上4μm以下とすることが特に好ましい。
この構成により、黒鉛と難黒鉛化性炭素とを混合した際に、黒鉛粒子の隙間に難黒鉛化性炭素が効率よく入り込むようになるので、非水電解質蓄電素子用負極の低温時の直流抵抗をより低減させることができるため好ましい。
【0038】
本発明の実施形態においては、難黒鉛化性炭素が、特定の1軸方向に対しての配向を示さない結晶構造を有していることが好ましい。特定の1軸方向に対しての配向を示さない結晶構造とすることで、リチウムイオンの吸蔵放出を行うサイトが増加するために、非水電解質蓄電素子用負極の入出力特性が向上するため好ましい。また、負極合剤層内において、負極合剤層の厚み方向に結晶が配向しにくくなることから、充放電時の負極合剤層の膨張収縮が抑制され、非水電解質蓄電素子のサイクル性能が向上するため好ましい。
【0039】
(削除)
【0040】
(削除)
【0041】
非水電解質蓄電素子用負極は、黒鉛と難黒鉛化性炭素を含む負極活物質、水性結着剤、増粘剤及び水等の水系溶媒を加え、混練して負極用ペーストとした後、この負極用ペーストを銅箔等の集電体の上に塗布して、50?250℃程度の温度で加熱処理することにより好適に作製される。前記塗布方法については、例えば、アプリケーターロールなどのローラーコーティング、スクリーンコーティング、ドクターブレード方式、スピンコーティング、バーコータ、ダイコーター等の手段を用いて任意の厚さ及び任意の形状に塗布することが望ましいが、これらに限定されるものではない。
負極用ペーストは導電剤を含んでいても良い。また、負極用ペーストは増粘剤を含んでいなくても良い。
【0042】
非水電解質蓄電素子用負極は充放電特性の観点から、負極合剤層の厚みは30μm以上120μm以下が好ましく、負極合剤層の多孔度は15%以上40%以下が好ましい。
【0043】
また、非水電解質蓄電素子の安全性を高める観点から、非水電解質蓄電素子用負極の負極合剤層上にフィラーを含有する被覆層を備えていても良い。
フィラーとしては、満充電状態の非水電解質蓄電素子の負極電位においても電気化学的に安定な無機酸化物が好ましい。さらに、被覆層の耐熱性を高める観点から、250℃以上の耐熱性を有する無機酸化物がより好ましい。例えば、アルミナ、シリカ、ジルコニア、チタニアなどを挙げることができる。中でも、アルミナやチタニアが特に好ましい。また、フィラーの粒径(モード径)は0.1μm以上が好ましい。
フィラーは上記の一種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いても良い。
【0044】
被覆層の厚みは、非水電解質蓄電素子のエネルギー密度の観点から0.1μm以上30μm以下が好ましい。さらに、非水電解質蓄電素子の信頼性向上の観点から、1μm以上30μm以下がより好ましく、非水電解質蓄電素子の充放電特性の観点から、1μm以上10μm以下が特に好ましい。
【0045】
被覆層用のバインダーとしては、以下に示すものが挙げられるが、これらに限定されることは無い。
例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)等のフッ素樹脂や、ポリアクリル酸誘導体、ポリアクリロニトリル誘導体、ポリエチレン、スチレン-ブタジエンゴム等のゴム系結着剤、さらには、ポリアクリロニトリル誘導体等がある。
【0046】
非水電解質蓄電素子用負極に使用する集電箔等の集電体の材質としては、銅、ニッケル、ステンレス鋼、ニッケルメッキ鋼、クロムメッキ鋼等の金属材料が挙げられる。これらの中でも、加工し易さとコスト及び電気伝導性の観点から、銅が好ましい。
【0047】
正極活物質としては、負極活物質よりも充放電による伴う可逆電位が貴であるものであれば特に限定されるものではない。一例としては、LiCoO_(2)、LiMn_(2)O_(4)、LiNi_(x)Co_(1-x)O_(2)、Li_(w)Ni_(x)Mn_(y)Co_(1-x-y)O_(2)、Li(Ni_(0.5)Mn_(1.5))O_(4)、Li_(4)Ti_(5)O_(12)、LiV_(3)O_(8)等のリチウム遷移金属複合酸化物、Li[Li_(a)Ni_(x)Mn_(y)Co_(1-a-x-y)]O_(2)等のリチウム過剰型遷移金属複合酸化物、LiFePO_(4)、LiMnPO_(4)、Li_(3)V_(2)(PO_(4))_(3)、Li_(2)MnSiO_(4)等のポリアニオン化合物、硫化鉄、フッ化鉄、硫黄等を挙げることができる。
中でも、式Li_(w)Ni_(x)Mn_(y)Co_(1-x-y)O_(2)(0<w≦1.2、0<x≦1、0≦y<1)で表されるリチウム遷移金属複合酸化物を正極活物質の主成分として使用した非水電解質蓄電素子用正極と、本発明の実施形態の非水電解質蓄電素子用負極と組み合わせた非水電解質蓄電素子は、エネルギー密度、充放電特性、高温放置等の寿命特性のバランスに優れ、本発明の効果も高いことから好ましい。なお、正極活物質の主成分として使用するとは、正極活物質の全質量の中で、式Li_(w)Ni_(x)Mn_(y)Co_(1-x-y)O_(2)で表されるリチウム遷移金属複合酸化物の質量が最も多いことを意味する。
また、Li_(w)Ni_(x)Mn_(y)Co_(1-x-y)O_(2)のニッケルのモル数xの割合が多い程、非水電解質蓄電素子の高温保存前後の直流抵抗の増加をより抑制することができるため好ましい。このため、x>0.3が好ましく、x≧0.33であることがより好ましい。
一方、x>0.8では、Li_(w)Ni_(x)Mn_(y)Co_(1-x-y)O_(2)の初期クーロン効率が低下する傾向がある。
これらの観点から、Li_(w)Ni_(x)Mn_(y)Co_(1-x-y)O_(2)のxは、x>0.3が好ましく、x≧0.33がより好ましく、0.33≦x≦0.8とすることが特に好ましい。
【0048】
非水電解質蓄電素子用正極は、正極活物質、導電剤、結着剤及びN-メチルピロリドン、トルエン等の有機溶媒又は水を加えて混練してペーストとした後、このペーストをアルミ箔等の集電体の上に塗布して、50?250℃程度の温度で加熱処理することにより好適に作製される。前記塗布方法については、例えば、アプリケーターロールなどのローラーコーティング、スクリーンコーティング、ドクターブレード方式、スピンコーティング、バーコータ等の手段を用いて任意の厚さ及び任意の形状に塗布することが望ましいが、これらに限定されるものではない。
【0049】
本発明の実施形態において、非水電解質は特に限定されるものではなく、一般にリチウム電池やリチウムイオンキャパシター等への使用が提案されているものが使用可能である。
【0050】
非水電解質に用いる非水溶媒としては、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ビニレンカーボネート等の環状炭酸エステル類;γ-ブチロラクトン等の環状エステル類;ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート等の鎖状カーボネート類;酢酸メチル等の鎖状エステル類;テトラヒドロフランまたはその誘導体;1,3-ジオキサン、1,4-ジオキサン、メチルジグライム等のエーテル類;アセトニトリル等のニトリル類;ジオキソランまたはその誘導体;エチレンスルフィド、スルホラン、スルトンまたはその誘導体等の単独またはそれら2種以上の混合物等を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0051】
非水電解質に用いる電解質塩としては、例えば、LiClO_(4),LiBF_(4),LiPF_(6),Li_(2)SO_(4),NaClO_(4),NaSCN,KClO_(4),KSCN等のリチウム(Li)、ナトリウム(Na)またはカリウム(K)の1種を含む無機イオン塩、LiCF_(3)SO_(3),LiN(CF_(3)SO_(2))_(2),LiN(C_(2)F_(5)SO_(2))_(2),LiN(CF_(3)SO_(2))(C_(4)F_(9)SO_(2)),LiC(CF_(3)SO_(2))_(3),LiC(C_(2)F_(5)SO_(2))_(3),(CH_(3))_(4)NBF_(4),(C_(2)H_(5))_(4)N-benzoate、ステアリルスルホン酸リチウム、ドデシルベンゼンスルホン酸リチウム等の有機イオン塩等が挙げられ、これらのイオン性化合物を単独、あるいは2種類以上混合して用いることが可能である。
【0052】
さらに、LiPF_(6)又はLiBF_(4)と、LiN(C_(2)F_(5)SO_(2))_(2)のようなパーフルオロアルキル基を有するリチウム塩とを混合して用いることにより、さらに電解質の粘度を下げることができるので、低温特性をさらに高めることができ、また、自己放電を抑制することができ、より望ましい。
【0053】
また、非水電解質として常温溶融塩やイオン液体を用いてもよい。
【0054】
非水電解液におけるリチウムイオン(Li^(+))の濃度としては、高い充放電特性を有する非水電解質蓄電素子を得るために、0.1mol/l?5mol/lが好ましく、さらに好ましくは、0.5mol/l?2.5mol/lであり、特に好ましくは、0.8mol/l?1.0mol/lである。
【0055】
本発明の実施形態において、セパレータは、優れた高率放電性能を示す多孔膜や不織布等を、単独あるいは併用することが好ましい。セパレータを構成する材料としては、例えばポリエチレン,ポリプロピレン等に代表されるポリオレフィン系樹脂、ポリエチレンテレフタレート等に代表されるポリエステル系樹脂、ポリフッ化ビニリデン、フッ化ビニリデン共重合体、各種アミド系樹脂,各種セルロース類,ポリエチレンオキサイド系樹脂等を挙げることができる。
また、アクリロニトリル、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、メチルメタアクリレート、ビニルアセテート、ビニルピロリドン、ポリフッ化ビニリデン等のポリマーと非水電解質とで構成されるポリマーゲルを挙げることができる。
【0056】
さらに、上述したような多孔膜や不織布等とポリマーゲルを併用して用いると、非水電解質の保液性が向上するため望ましい。即ち、ポリエチレン微孔膜の表面及び微孔壁面に厚さ数μm以下の親溶媒性ポリマーを被覆したフィルムを形成し、前記フィルムの微孔内に非水電解質を保持させることで、前記親溶媒性ポリマーがゲル化する。
前記親溶媒性ポリマーとしては、ポリフッ化ビニリデンの他、エチレンオキシド基やエステル基等を有するアクリレートモノマー、エポキシモノマー、イソシアナート基を有するモノマー等が架橋したポリマー等が挙げられる。該モノマーは、ラジカル開始剤を併用して加熱や紫外線(UV)を用いたり、電子線(EB)等の活性光線等を用いて架橋反応を行わせることが可能である。
【0057】
また、セパレータの表面に無機フィラーを含有する表面層を備えていても良い。無機フィラーを含有する表面層を備えたセパレータを使用することにより、セパレータの熱収縮が抑制されることで、非水電解質蓄電素子が通常使用温度域を超えるような状態になったとしても、内部短絡を軽減または防止できるようになる。よって、本発明の非水電解質蓄電素子の安全性をより向上させることができるので好ましい。
【0058】
上記無機フィラーとしては、無機酸化物、無機窒化物、難溶性のイオン結合性化合物、共有結合性化合物、モンモリロナイトの粘土、等が挙げられる。
無機酸化物の例としては、酸化鉄、シリカ(SiO_(2))、アルミナ(Al_(2)O_(3))、酸化チタン(TiO_(2))、チタン酸バリウム(BaTiO_(3))、酸化ジルコニウム(ZrO_(2))等がある。
無機窒化物の例としては、窒化アルミニウム、窒化ケイ素等がある。
難溶性のイオン結合性化合物の例としては、フッ化カルシウム、フッ化バリウム、硫酸バリウム等がある。
【0059】
さらに、非水電解質蓄電素子を構成するに当たり、無機フィラーを含有する表面層が正極と対向するように配置すると、本発明の実施形態の非水電解質蓄電素子の安全性をさらに向上させることができることから、より好ましい。
【0060】
セパレータの空孔率は強度の観点から98体積%以下が好ましい。また、充放電特性の観点から空孔率は20体積%以上が好ましい。
【0061】
図1に、本発明に係る非水電解質蓄電素子の一実施形態である矩形状の非水電解質蓄電素子1の概略図を示す。なお、同図は、容器内部を透視した図としている。図2に示す非水電解質蓄電素子1は、電極群2が外装体3に収納されている。電極群2は、正極活物質を備える正極と、負極活物質を備える負極とが、セパレータを介して捲回されることにより形成されている。正極は、正極リード4’を介して正極端子4と電気的に接続され、負極は、負極リード5’を介して負極端子5と電気的に接続されている。そして、外装体内部やセパレータに、非水電解質が保持されている。
【0062】
本発明に係る非水電解質蓄電素子の構成については特に限定されるものではなく、円筒型、角型(矩形状)、扁平型等の非水電解質蓄電素子が一例として挙げられる。
【0063】
本発明は、上記の非水電解質蓄電素子を複数備える蓄電装置としても実現することができる。蓄電装置の一実施形態を図2に示す。図2において、蓄電装置30は、複数の蓄電ユニット20を備えている。それぞれの蓄電ユニット20は、複数の非水電解質蓄電素子1を備えている。前記蓄電装置30は、電気自動車(EV)、ハイブリッド自動車(HEV)、プラグインハイブリッド自動車(PHEV)等の自動車用電源として搭載することができる。
【0064】
以後に記載する実施例においては、非水電解質蓄電素子としてリチウムイオン二次電池を例示するが、本発明はリチウムイオン二次電池に限らず、他の非水電解質蓄電素子にも適用可能である。
【0065】
(実施例1)
(負極の作製)
黒鉛と難黒鉛化性炭素(平均粒子径3.5μm、d(002)=0.37nm)、結着剤であるスチレン-ブタジエンゴム(SBR)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、及び溶媒である水を用いて負極ペーストを作製した。黒鉛と難黒鉛化性炭素の質量比率は90:10、黒鉛及び難黒鉛化性炭素の合計質量とSBRとCMCの質量比率は96:2:2とした。
負極合剤ペーストは、水の量を調整することにより、固形分(質量%)を調整し、マルチブレンダーミルを用いた混練工程を経て作製した。この負極ペーストを銅箔の両面に、未塗布部(負極合剤層非形成領域)を残して間欠塗布し、乾燥することにより負極合剤層を作製した。
上記の様に負極合剤層を作製した後、負極合剤層の厚みが70μmとなるようにロールプレスを行った。
【0066】
(正極の作製)
正極活物質であるリチウムコバルトニッケルマンガン複合酸化物(LiCo_(1/3)Ni_(1/3)Mn_(1/3)O_(2))、導電剤であるアセチレンブラック(AB)、結着剤であるポリフッ化ビニリデン(PVDF)及び非水系溶媒であるN-メチルピロリドン(NMP)を用いて正極ペーストを作製した。ここで、前記PVDFは12%NMP溶液(株式会社クレハ製#1100)を用いた。なお、正極活物質、結着剤及び導電剤の質量比率は90:5:5(固形分換算)とした。この正極ペーストをアルミ箔の両面に、未塗布部(正極合剤層非形成領域)を残して間欠塗布し、乾燥した。その後、ロールプレスを行い、正極を作製した。
【0067】
(非水電解液)
非水電解質は、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネートを、それぞれ30体積%、40体積%、30体積%となるように混合した溶媒に、塩濃度が1.2mol/lとなるようにLiPF_(6)を溶解させて作製した。非水電解質中の水分量は50ppm未満とした。
【0068】
(セパレータ)
セパレータには、厚み21μmのポリエチレン微多孔膜を用いた。
【0069】
(電池の組み立て)
正極と、負極と、セパレータとを積層して巻回した。その後、正極の正極合剤層非形成領域及び負極の負極合剤層非形成領域を正極リード及び負極リードにそれぞれ溶接して容器に封入し、容器と蓋板とを溶接後、非水電解質を注入して封口した。この様にして、実施例1の電池を作製した。
【0070】
(実施例2)
黒鉛と難黒鉛化性炭素の質量比率を80:20としたことを除いては、実施例1と同様にして実施例2の電池を作製した。
【0071】
(実施例3)
黒鉛と難黒鉛化性炭素の質量比率を70:30としたことを除いては、実施例1と同様にして実施例3の電池を作製した。
【0072】
(実施例4)
黒鉛と難黒鉛化性炭素の質量比率を50:50としたことを除いては、実施例1と同様にして実施例4の電池を作製した。
【0073】
(比較例1)
黒鉛と難黒鉛化性炭素の質量比率を100:0としたことを除いては、実施例1と同様にして比較例1の電池を作製した。
【0074】
(比較例2)
難黒鉛化性炭素(d(002)=0.37nm)の平均粒子径を9μmとしたことを除いては、実施例1と同様にして比較例2の電池を作製した。
【0075】
(比較例3)
難黒鉛化性炭素の代わりに易黒鉛化性炭素(平均粒子径15μm、d(002)=0.345nm)を用いたことを除いては、実施例1と同様にして比較例3の電池を作製した。
【0076】
(容量測定)
上記のようにして作製された実施例1?4及び比較例1?3の各電池について、25℃に設定した恒温槽中で、以下の容量測定を実施し、電池の公称容量と同等の電気量の充放電が可能であることを確認した。
容量測定の充電条件は、電流値1CA、電圧4.2Vの定電流定電圧充電とした。充電時間は通電開始から3時間とした。放電条件は、電流1CA、終止電圧2.75Vの定電流放電とした。充電と放電の間には、10分間の休止時間を設けた。
なお、上記電流値である1CAとは、電池に1時間の定電流通電を行った時に、電池の公称容量と同じ電気量となる電流値である。
【0077】
(低温直流抵抗測定)
容量測定の後、電流値0.1CA、電圧4.2Vの定電流定電圧充電を行った。充電時間は通電開始から15時間とした。10分の休止後、電流値0.1CAにて定電流放電を行った。放電は、電池の公称容量の50%の電気量を通電した時点で停止した。
各電池を-10℃に設定した恒温槽中に移して5時間静置した。
その後、各率放電電流でそれぞれ10秒放電する試験を行った。具体的には、まず、電流0.2CAにて10秒放電し、2分の休止後、電流0.2CAにて10秒の補充電を行った。さらに2分の休止後、電流0.5CAにて10秒放電し、2分の休止後、電流0.2CAにて25秒の補充電を行った。さらに2分の休止後、電流1CAにて10秒放電した。以上の結果を各率放電の10秒後の電圧をその電流値に対してプロットし、最小二乗法によるフィッティングを行ったグラフの傾きから、直流抵抗値を算出した。
比較例1の電池の直流抵抗値を100%とした場合の、各電池の直流抵抗値を比較例1の電池の直流抵抗値に対する相対値として算出した値を「直流抵抗相対値」として表1に記録した。
【0078】
【表1】

【0079】
(実施例5)
黒鉛と難黒鉛化性炭素の質量比率を85:15としたことを除いては、実施例1と同様にして実施例5の電池を作製した。
【0080】
(比較例4)
(負極の作製)
黒鉛と難黒鉛化性炭素(平均粒子径3.5μm、d(002)=0.37nm)、結着剤であるポリフッ化ビニリデン(PVDF)及び溶媒であるN-メチルピロリドン(NMP)を用いて負極ペーストを作製した。黒鉛と難黒鉛化性炭素の質量比率は90:10、黒鉛及び難黒鉛化性炭素の合計質量と結着剤の質量比率は92:8とした。
負極合剤ペーストは、NMPの量を調整することにより、固形分(質量%)を調整し、マルチブレンダーミルを用いた混練工程を経て作製した。この負極ペーストを銅箔の両面に、未塗布部(負極合剤層非形成領域)を残して塗布し、乾燥することにより負極合剤層を作製した。
上記の様に負極合剤層を作製した後、負極合剤層の厚みが70μmとなるようにロールプレス行った。
【0081】
この様にして作製した負極を用いたことを除いては、実施例1と同様にして比較例4の電池を作製した。
【0082】
(比較例5)
黒鉛と難黒鉛化性炭素の質量比率を85:15としたことを除いては、比較例4と同様にして比較例5の電池を作製した。
【0083】
(比較例6)
黒鉛と難黒鉛化性炭素の質量比率を80:20としたことを除いては、比較例4と同様にして比較例6の電池を作製した。
【0084】
(容量測定)
上記のようにして作製された実施例1、実施例2、実施例5及び比較例4?6の各電池について、25℃に設定した恒温槽中で、以下の容量測定を実施し、電池の公称容量と同等の電気量の充放電が可能であることを確認した。
容量測定の充電条件は、電流値1CA、電圧4.2Vの定電流定電圧充電とした。充電時間は通電開始から3時間とした。放電条件は、電流1CA、終止電圧2.75Vの定電流放電とした。充電と放電の間には、10分間の休止時間を設けた。
なお、上記電流値である1CAとは、電池に1時間の定電流通電を行った時に、電池の公称容量と同じ電気量となる電流値である。
【0085】
(保管前直流抵抗測定)
容量測定の後、電流値0.1CA、電圧4.2Vの定電流定電圧充電を行った。充電時間は通電開始から15時間とした。10分の休止後、電流値0.1CAにて定電流放電を行った。放電は、電池の公称容量の50%の電気量を通電した時点で停止した。
各電池を-10℃に設定した恒温槽中に移して5時間静置した。
その後、各率放電電流でそれぞれ10秒間放電する試験を行った。具体的には、まず、電流0.2CAにて10秒放電し、2分の休止後、電流0.2CAにて10秒の補充電を行った。さらに2分の休止後、電流0.5CAにて10秒放電し、2分の休止後、電流0.2CAにて25秒の補充電を行った。さらに2分の休止後、電流1CAにて10秒放電した。以上の結果を各率放電の10秒後の電圧をその電流値に対してプロットし、最小二乗法によるフィッティングを行ったグラフの傾きから、直流抵抗値を算出した。この直流抵抗値を「保管前直流抵抗値」とする。
【0086】
(高温保管工程)
低温直流抵抗測定の後、電流値1CA、終止電圧2.75Vの定電流放電を行った。10分の休止を挟んだ後、充電電流値1CA、電圧4.2Vの定電流定電圧充電を行った。充電時間は通電開始から3時間とした。充電後の電池を60℃に設定した恒温槽に移し、25日間保管した。
【0087】
(保管後直流抵抗測定)
高温保管工程後の電池を25℃に設定した恒温槽に移して1日静置した。その後、電流値1CA、終止電圧2.75Vの定電流放電を行った。
この後、保管前直流抵抗測定と同じ工程により、高温保管後の直流抵抗値を測定した。
この時の直流抵抗値を「保管後直流抵抗値」とする。
実施例1、実施例2、実施例5及び比較例4?6の各電池において測定した「保管前直流抵抗値」と「保管後直流抵抗値」について、以下の式に基づいて算出した値を「直流抵抗減少率」として表2に記録した。
「直流抵抗減少率」=(「保管前直流抵抗値」-「保管後直流抵抗値」)/「保管前直流抵抗値」
【0088】
【表2】

【0089】
表1からわかるように、黒鉛と平均粒子径8μm以下の難黒鉛化性炭素を用いた実施例1?4の電池の直流抵抗相対値は、難黒鉛化性炭素を用いていない比較例1の電池よりも小さくなっている。つまり、実施例1?4の電池の直流抵抗値は比較例1の電池よりも小さく、直流抵抗が低減されている。このことから、黒鉛と平均粒子径8μm以下の難黒鉛化性炭素を共存させることにより、電池及び負極の低温時の直流抵抗値を低減することが可能である。
【0090】
一方、黒鉛と平均粒子径9μmの難黒鉛化性炭素を用いた比較例2の電池では、比較例1の電池よりも直流抵抗相対値が大きくなっている。つまり、比較例2の電池の直流抵抗値は比較例1の電池よりも大きく、直流抵抗が増大している。このことから、平均粒子径が8μmより大きい難黒鉛化性炭素を用いても、電池及び負極の低温時の直流抵抗値を低減する効果は得られないことが判る。
【0091】
また、黒鉛と易黒鉛化性炭素を用いた比較例3の電池も、比較例1の電池よりも直流抵抗相対値が大きくなっている。つまり、比較例3の電池の直流抵抗値は比較例1の電池よりも大きく、直流抵抗が増大している。このことから、易黒鉛化性炭素を用いた場合も、電池及び負極の低温時の直流抵抗値を低減する効果は得られないことが判る。
【0092】
実施例1?4の様に、黒鉛と平均粒子径8μm以下の難黒鉛化性炭素を用いることによって、黒鉛と難黒鉛化性炭素とを混合した際に、黒鉛粒子の隙間に難黒鉛化性炭素が入り込むことで、非水電解質蓄電素子用負極合剤層の充填性が向上し、負極合剤層の集電性が改善されるために、電池及び負極の低温時の直流抵抗を低減することができると考えられる。
一方、難黒鉛化性炭素の平均粒子径が8μmを超えると、黒鉛粒子の隙間に難黒鉛化性炭素が入り込む量が少なすぎるため、非水電解質蓄電素子用負極合剤層の充填性が向上せず、負極合剤層の集電性が改善されにくいため、電池及び負極の低温時の直流抵抗値を低減する効果は得られないと考えられる。
【0093】
表2からわかるように、黒鉛と平均粒子径8μm以下の難黒鉛化性炭素を用いた負極において、水性結着剤を採用した実施例1の電池の直流抵抗減少率は、非水溶媒系の結着剤を使用した比較例4の電池よりも大きくなっている。つまり、負極に水性結着剤を採用することで、電池及び負極の低温時の直流抵抗減少率をより高めることが可能である。
なお、「直流抵抗減少率」が高いことは、高温保管した際に、電池の直流抵抗を減少させる方向に作用する効果が高いことを示すものである。よって、高温保管により直流抵抗が増大するような電池であっても、直流抵抗の増大量を抑制することが可能と考えられる。
【0094】
また、実施例5と比較例5、実施例2と比較例6との比較においても、実施例の電池の方が比較例の電池よりも直流抵抗減少率は高い。このことから、難黒鉛化性炭素の比率が変化しても、負極に水性結着剤を採用することで、電池及び負極の低温時の直流抵抗減少率は高くなることがわかる。
【0095】
本実施例では、各率放電の開始後10秒目の電圧を基に直流抵抗値を算出している。本発明者らは、各率放電の放電開始後30秒目の電圧を基に算出した直流抵抗値においても、上記実施例と同じ傾向になることを、実験により確認している。
【産業上の利用可能性】
【0096】
本発明は、非水電解質蓄電素子用負極及びそれを備えた非水電解質蓄電素子の低温時の直流抵抗を低減することができるので、電気自動車用電源、電子機器用電源、電力貯蔵用電源等の幅広い用途の非水電解質蓄電素子に有用である。
【符号の説明】
【0097】
1 非水電解質蓄電素子
2 電極群
3 外装体
4 正極端子
4’ 正極リード
5 負極端子
5’ 負極リード
20 蓄電ユニット
30 蓄電装置
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(削除)
【請求項2】
(削除)
【請求項3】
(削除)
【請求項4】
黒鉛と難黒鉛化性炭素と結着剤とを含有し、前記難黒鉛化性炭素の平均粒子径が2μm以上4μm以下であり、前記黒鉛と前記難黒鉛化性炭素との合計質量に対する前記難黒鉛化性炭素(ただし、黒鉛粒子の表面上に被覆された難黒鉛化性炭素は含まない)の比率が10質量%以上20質量%以下であり、前記結着剤が水性結着剤である非水電解質蓄電素子用負極。
【請求項5】
前記難黒鉛化性炭素の平均粒子径が3μm以上4μm以下である請求項4に記載の非水電解質蓄電素子用負極。
【請求項6】
(削除)
【請求項7】
請求項4又は5に記載の非水電解質蓄電素子用負極を備えた非水電解質蓄電素子。
【請求項8】
請求項4又は5に記載の非水電解質蓄電素子用負極と、式Li_(w)Ni_(x)Mn_(y)Co_(1-x-y)O_(2)(0<w≦1.2、0.3<x≦0.8、0≦y<1)で表される正極活物質を用いた非水電解質蓄電素子用正極、を備えた非水電解質蓄電素子。
【請求項9】
請求項7又は8に記載の非水電解質蓄電素子を備えた蓄電装置。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2021-09-27 
出願番号 特願2017-515387(P2017-515387)
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (H01M)
P 1 651・ 537- YAA (H01M)
P 1 651・ 536- YAA (H01M)
P 1 651・ 161- YAA (H01M)
最終処分 維持  
前審関与審査官 式部 玲  
特許庁審判長 粟野 正明
特許庁審判官 平塚 政宏
村川 雄一
登録日 2020-02-10 
登録番号 特許第6658744号(P6658744)
権利者 株式会社GSユアサ
発明の名称 非水電解質蓄電素子用負極  
代理人 松本 悟  
代理人 松本 悟  

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