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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  B65D
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  B65D
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  B65D
審判 全部申し立て 2項進歩性  B65D
管理番号 1379822
異議申立番号 異議2020-700533  
総通号数 264 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-12-24 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-07-29 
確定日 2021-10-11 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6636979号発明「キャベツを含む青果物の鮮度保持性能に優れた包装体、及び青果物の鮮度保持方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6636979号の明細書、特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書、訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-8〕、〔9-10〕について訂正することを認める。 特許第6636979号の請求項1、5-8に係る特許を維持する。 特許第6636979号の請求項2-4、9、10に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6636979号(以下「本件特許」という)の請求項1?10に係る特許についての出願は、平成29年3月30日の特許出願であり、令和元年12月27日にその特許権の設定登録がされ、令和2年1月29日に特許掲載公報が発行された。
本件特許異議の申立ての経緯は、概略次のとおりである。
令和2年 7月29日 : 特許異議申立人森田弘潤(以下「申立人」という)による請求項1?10に係る特許に対する特許異議の申立て
令和2年10月16日 : 取消理由の通知
(令和2年10月13日付け取消理由通知書)
令和2年12月15日 : 特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
令和3年 2月15日 : 申立人による意見書の提出
令和3年 4月 1日 : 取消理由の通知
(令和3年3月29日付け取消理由通知書(決定の予告))
令和3年 5月28日 : 特許権者による意見書及び訂正請求書の提出

なお、特許権者が平成2年12月15日に提出した訂正請求書による訂正の請求は、特許法第120条の5第7項の規定により、取り下げられたものとみなす。

第2 本件訂正
1 訂正の内容
令和3年5月28日提出の訂正請求書による訂正の請求(以下「本件訂正」という)は、特許第6636979号の明細書、及び特許請求の範囲を、本件請求書に添付した訂正明細書、及び訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1?10について訂正することを求める、というものであって、その内容は以下のとおりである。なお、下線は訂正箇所を示す。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1の「包装体であって、包装体の封止後10℃の条件下で120時間保持した後における内部二酸化炭素濃度が20体積%以上50体積%以下、かつ、内部酸素濃度が0.152体積%以上13.4体積%以下」を「包装体であって、前記包装容器の酸素透過度が、22℃、40%RHにおいて、2000cc/m^(2)/atm/day以上、2500cc/m^(2)/atm/day以下であり、包装体の封止直後における内部二酸化炭素濃度が、20体積%以上50体積%以下であり、包装体の封止直後における内部酸素濃度が、14.7体積%以上70体積%以下であり、包装体の封止後10℃の条件下で120時間保持した後における内部二酸化炭素濃度が38.8体積%以上48.4体積%以下、かつ、内部酸素濃度が13.1体積%以上13.4体積%以下」に訂正する。
請求項1の記載を引用する請求項5?8も同様に訂正する。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2から4を削除する。
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項5の「請求項1から4のいずれか一項に記載の包装体。」を「請求項1に記載の包装体。」に訂正する。
請求項5の記載を引用する請求項6?8も同様に訂正する。
(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項6の「請求項1から5のいずれか一項に記載の包装体。」を「請求項1又は5に記載の包装体。」に訂正する。
請求項6の記載を引用する請求項7?8も同様に訂正する。
(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項7の「請求項1から6のいずれか一項に記載の包装体。」を「請求項1及び5から6のいずれか一項に記載の包装体。」に訂正する。
請求項7の記載を引用する請求項8も同様に訂正する。
(6)訂正事項6
特許請求の範囲の請求項8の「請求項1から7のいずれか一項に記載の包装体。」を「請求項1及び5から7のいずれか一項に記載の包装体。」に訂正する。
(7)訂正事項7
特許請求の範囲の請求項9及び10を削除する。
(8)訂正事項8
明細書の段落【0063】及び【表1】に記載の「実施例3」を「参考例1」に訂正・変更する。
(9)一群の請求項
本件訂正前の請求項1?8は、請求項2?8が、本件訂正の対象である請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する関係にあるから、訂正事項1?6は、一群の請求項〔1?8〕に対して請求するものである。
本件訂正前の請求項9?10は、請求項10が、本件訂正の対象である請求項9の記載を直接的に引用する関係にあるから、訂正事項7は、一群の請求項〔9?10〕に対して請求するものである。
訂正事項8は、本件訂正前の請求項1?10の全てに対するものである。

2 訂正要件の判断
(1)請求項〔1?8〕に係る一群の請求項に対する訂正(訂正事項1?6)について
ア 訂正事項1について
(ア)訂正事項1は、訂正前の請求項1の「包装体」について、「包装容器の酸素透過度」を「22℃、40%RHにおいて、2000cc/m^(2)/atm/day以上、2500cc/m^(2)/atm/day以下」であるものに、「包装体の封止直後における内部二酸化炭素濃度」を「20体積%以上50体積%以下」であるものに、「包装体の封止直後における内部酸素濃度」を「14.7体積%以上70体積%以下」であるものに、さらに、「包装体の封止後10℃の条件下で120時間保持した後における」「内部二酸化炭素濃度」を「38.8体積%以上48.4体積%以下」であるものに、かつ、「内部酸素濃度」を「13.1体積%以上13.4体積%以下」であるものに、それぞれ限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
(イ)a 訂正事項1のうち「包装容器の酸素透過度」についての事項は、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲(以下「本件明細書等」という)の段落【0012】に「酸素透過度が20℃、90%RHにおいて、2000cc/m^(2)/atm/day以下である包装容器を用いることが望ましい。・・・包装容器の酸素透過度は、・・・、2500cc/m^(2)/atm/day以下であることが特に好ましい。」との記載があり、また、包装容器の酸素透過度の測定方法として段落【0013】及び【0055】に「袋を22℃、相対湿度40%の空気中・・・の室内に6時間放置」した後に測定することが記載され、さらに、段落【0063】の表1に実施例1及び2における包装容器の酸素透過率が「2,000」(cc/m^(2)/atm/day)であることが記載されていることから、本件明細書等に記載した事項の範囲内の事項といえる。
b 「包装体の封止直後における内部二酸化炭素濃度」に関連して、本件明細書等の段落【0007】に「包装体の封止直後における内部二酸化炭素濃度が、20体積%以上である」と記載され、また、段落【0021】に「包装体の内部二酸化炭素濃度は、包装体の封止直後の二酸化炭素濃度を調整することで、所望の範囲に調整することが可能である。より具体的には、包装体を作製する際に、包装容器内に充填するガス中の二酸化炭素濃度を調整することで、適宜調整することが可能である。例えば、包装体を作製する際に、包装容器内に充填するガス中の二酸化炭素濃度を、20体積%以上とすることが好ましい。」と記載されていることから、「包装体の封止直後における内部二酸化炭素濃度」は、包装容器内に充填するガス中の二酸化炭素濃度を調整することで、包装体の封止直後における内部二酸化炭素濃度を20体積%以上に調整できることが把握される。さらに、段落【0063】の表1に実施例2における封入ガス組成のうち二酸化炭素が「50」(%)であることが記載されている。
そうすると、「包装体の封止直後における内部二酸化炭素濃度」についての事項は、本件明細書等に記載した事項の範囲内の事項といえる。
c 「包装体の封止直後における内部酸素濃度」に関連して、請求項9に「包装容器内の・・・酸素濃度を14.7体積%以上70体積%以下とする工程を有し、その後に該包装容器を封止する工程を更に有する」と記載され、また、段落【0023】に「包装体の内部酸素濃度は、包装直後の酸素濃度を調整することで、所望の範囲に調整することが可能である。より具体的には、包装体を作製する際に、包装容器内に充填するガス中の酸素濃度を調整することで、適宜調整することが可能である。例えば、包装体を作製する際に、包装容器内に充填するガス中の酸素濃度を、10体積%以上とすることが好ましい。」と記載されていることから、「包装体の封止直後における内部酸素濃度」は、包装容器内に充填するガス中の酸素濃度を調整することで調整できることが把握される。さらに、段落【0063】の表1に実施例1及び3における封入ガス組成のうち酸素がそれぞれ「70」「14.7」(%)であることが記載されている。
そうすると、訂正事項1のうち「包装体の封止直後における内部二酸化炭素濃度」についての事項は、本件明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であるといえる。
d 訂正事項1のうち「包装体の封止後10℃の条件下で120時間保持した後における」「内部二酸化炭素濃度」についての事項は、本件明細書等の段落【0063】の表1に実施例1及び2における120時間の二酸化炭素濃度がそれぞれ「38.8」、「48.4」(%)であることが記載されていることから、本件明細書等に記載した事項の範囲内の事項といえる。
e 訂正事項1のうち「包装体の封止後10℃の条件下で120時間保持した後における」「内部酸素濃度」についての事項は、本件明細書等の段落【0063】の表1に実施例1及び2における120時間の酸素濃度がそれぞれ「13.4」、「13.1」(%)であることが記載されていることから、本件明細書等に記載した事項の範囲内の事項といえる。
f 以上より、訂正事項1は、本件明細書等に記載した事項の範囲内の訂正である。
(ウ)訂正事項1は、既に述べたとおり特許請求の範囲を減縮するものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
イ 訂正事項2について
訂正事項2は、請求項2?4を削除する訂正であるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。請求項の削除は、新規事項を追加するものでなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
ウ 訂正事項3?6について
訂正事項3?6は、訂正事項2による請求項2?4を削除することに伴い、引用する請求項から請求項2?4を削除するものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものといえる。また、引用する請求項から一部の請求項を削除することは、新規事項を追加するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(2)請求項〔9?10〕に係る一群の請求項に対する訂正(訂正事項7)について
訂正事項7は、請求項9、10を削除する訂正であるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。請求項の削除は、新規事項を追加するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(3)訂正事項8
訂正事項8は、訂正事項1に伴い、本件明細書等の実施例の内容が明確に理解できるようにするためのものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものといえる。
また、訂正事項8は、新規事項を追加するものではないし、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(4)小括
以上のとおりであるから、訂正事項1乃至6、訂正事項7及び8は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号又は第3号に掲げる事項を目的とするものに該当し、同条第4項、並びに、同条第9項において準用する同法第126条第4項乃至第6項の規定に適合する。
よって、明細書及び特許請求の範囲を、本件訂正の訂正請求書に添付した訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり訂正することを認める。

第3 本件発明
本件訂正が認められることから、本件特許の請求項1?10に係る発明(以下、「本件発明1」?「本件発明10」といい、総称して「本件発明」ともいう。)は、令和3年5月28日提出の訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1?10に記載された次のとおりのものである。

【請求項1】
延伸ポリプロピレンフィルム、ポリエチレン系フィルム、又は延伸フィルムとポリエチレン系フィルムとの積層体である2枚の高分子フィルムを互いに重ね合わせた状態、または1枚の該高分子フィルムを折り重ねた状態で融着してなる包装容器内にカットキャベツを含む青果物を収納してなる包装体であって、前記包装容器の酸素透過度が、22℃、40%RHにおいて、2000cc/m^(2)/atm/day以上、2500cc/m^(2)/atm/day以下であり、
包装体の封止直後における内部二酸化炭素濃度が、20体積%以上50体積%以下であり、
包装体の封止直後における内部酸素濃度が、14.7体積%以上70体積%以下であり、
包装体の封止後10℃の条件下で120時間保持した後における内部二酸化炭素濃度が38.8体積%以上48.4体積%以下、かつ、内部酸素濃度が13.1体積%以上13.4体積%以下である、上記包装体。
【請求項2】(削除)
【請求項3】(削除)
【請求項4】(削除)
【請求項5】
前記包装容器内に更に窒素が封入されている、請求項1に記載の包装体。【請求項6】
前記高分子フィルムの厚みが、15から45μmである、請求項1又は5に記載の包装体。
【請求項7】
前記高分子フィルムが、少なくとも1種の抗菌剤を含有し、又は少なくとも1種の抗菌剤が塗布されている、請求項1及び5から6のいずれか一項に記載の包装体。
【請求項8】
更に吸湿剤、及び/又は抗菌剤を収納してなる、請求項1及び5から7のいずれか一項に記載の包装体。
【請求項9】(削除)
【請求項10】(削除)

第4 特許権者に通知された取消理由
本件訂正前の請求項1、5?10に係る特許に対して、当審が特許権者に対して令和3年4月1日に通知した取消理由(令和3年3月29日付け取消理由通知書(決定の予告))の概要は、次のとおりである。
・サポート要件: 本件請求項1、5?10に係る特許は、本件請求項1、5?10に係る発明が発明の詳細な説明に記載したものでないため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
進歩性: 本件特許の請求項1、5?8に係る発明は、甲第2号証に記載された発明及び周知の技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、上記請求項に係る発明についての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
・甲第2号証:特開平4-341139号公報

第5 当審の判断
1 サポート要件について
(1)酸素透過度について
当審で通知した取消理由は、本件訂正前の各請求項に記載された「包装容器の酸素透過度」の測定条件が「20℃、90%RH」であることにより「酸素透過度」が所定値である「高分子フィルムを含んでなる包装容器」は本件発明の課題を解決し得るものと当業者が認識できるように記載されておらず、また、本件訂正前の請求項1で「包装容器の酸素透過度」の上限値が2500cc/m^(2)/atm/dayである点及び下限値が何ら特定されていない点で、また、本件訂正前の請求項9で下限値が何ら特定されていない点で、当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものではない、というものである。
ア 本件訂正により、請求項1の記載において「包装容器の酸素透過度が、22℃、40%RHにおいて、2000cc/m^(2)/atm/day以上、2500cc/m^(2)/atm/day以下」であることが特定された。
イ 発明の詳細な説明では、課題の解決が確認された実施例1及び2の「包装容器の酸素透過度」は、「22℃、40%RH」の測定条件の下で「2000cc/m^(2)/atm/day」であることが示されている(段落【0063】表1)。
本件発明の課題(段落【0005】)は、酸素透過度に加えて、内部酸素濃度及び内部二酸化炭素濃度の特定により解決されるものであり、段落【0012】に「酸素透過度が20℃、90%RHにおいて、2000cc/m^(2)/atm/day以下である包装容器を用いることが望ましい。・・・包装容器の酸素透過度は、・・・、2500cc/m^(2)/atm/day以下であることが特に好ましい。」との記載を考慮すれば、「包装容器の酸素透過度」の観点から、本件訂正後の請求項1に記載された発明である本件発明1が所与の課題が解決できることは十分推認し得る。
本件発明1の発明特定事項を全て含む本件発明5?8についても同様である。
また、本件訂正により請求項9、10は削除されたので、取消理由は該当しないものとなった。
(2)「臭い」と「褐変」の評価について
当審で通知した取消理由は、発明の詳細な説明には、外観及び異臭を客観的、正確に評価したことが把握し得る記載がないから適切な官能評価が記載されているとはいえず、課題を解決できると当業者が認識できる程度に具体例又は説明が記載されていない、というものである。
ア 発明の詳細な説明には、実施例、比較例の評価手法に関し、次の記載がある。
「【0055】以下の実施例/比較例において、各特性の評価は以下の方法で行った。
・・・
(外観)
包装体の封を開けて、取り出した青果物を並べ、キャベツ断面を中心に全体的な褐変部分の面積を目視にてn=3で評価した。併せてカビの有無を観察した。
評価基準は以下のとおり。
A:褐変が全くなく問題ない。
B:褐変はあるが断面全体の10%以下で少し目立つ状態
C:褐変はあるが断面全体の30%以下であり、かなり目立つが販売可能な状態
D:褐変はあるが断面全体の50%以下であり、著しく目立ち消費者により販売不可能な状態
E:褐変大きく、消費者には明らかに販売不可能な状態
(異臭)
包装体の封を開けた時に顔を近づけて内部のにおいを嗅いでn=3で官能評価した。
評価基準は以下のとおり。
A:新鮮な状態で全く問題ない
B:やや臭いがあるが新鮮と言える状態
C:臭いが強いが市販と同じ状態であり、販売可能な状態
D:更に臭いが強く消費者が気にする状態
E:更に臭いが強く販売不可能な状態」
イ 特許権者は、意見書を提出して、次のように主張する。
・ 褐変(外観)については、褐変の面積割合という客観的な外部基準が採用されている。
・ 臭いについても、消費者の容認可否や販売可能性という外部基準が採用されている。
・ 褐変(外観)及び臭いは、客観的な基準により評価されるので、パネラー間で評価を共通するための手順が踏まれたことになる。
ウ 合議体として、特許権者のこれらの主張を踏まえてさらに検討を進める。
まず、「褐変」の評価は、その面積割合に着目したもので、これ自体は、十分客観的なものといえる。また、「褐変」の面積割合は、褐変の程度に直結するものである。したがって、その評価は、客観性が備わったものと考える。
次に、「臭い」については、単純に“よい”“わるい”“強い”“弱い”といったようなものではなく、「新鮮な状態」、「販売可能」な状態、「消費者が気にする」状態といった事項が評価の際に検討されている。そして、当該事項は、臭いに直結するものであって、包装された食品素材の商品価値の観点から定められたものと推察される。また、食品に関する技術分野における評価手法として、官能評価は、よく用いられるものであるが、それは、一定の知識・経験を有した者がパネラーとなって実施されるのが通常である。そして、「キャベツ」についての上記「新鮮な状態」等の事項は、そのようなパネラーにとって共通した認識が持てる程度の、十分な客観性を備えたものと考える。
そうしてみると、発明の詳細な説明において実施例(参考例)、比較例に対して行われた官能評価は、「褐変」、「臭い」それぞれについてのものであって、そのいずれも十分客観性を持ったものであるから、そのような評価による結果を伴った実施例は、課題が解決できることを示す上で十分なものというべきである。
(3)課題を解決できるものとして当業者が認識し得る記載(実施例)について
当審で通知した取消理由は、実施例3は、比較例5との比較において優位であるとは理解できないから、発明をサポートする開示としての適格性を欠く、というものであった。
これに対し、本件訂正により「実施例3」は「参考例」に変更された。
したがって、この点についての取消理由は、解消した。
(4)封止直後の気体組成について
当審で通知した取消理由は、本件訂正前の請求項1は、封止直後における内部二酸化炭素濃度の下限値が20体積%である点及び上限値が何ら特定されていない点、並びに、包装体の封止直後における内部酸素濃度の下限値が5体積%である点及び上限値が何ら特定されていない点で、また、本件訂正前の請求項9は、封止直後における内部酸素濃度の下限値が14.7体積%である点で、当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものではない、というものであった。
ア 本件訂正により、請求項1の記載において「包装体の封止直後における内部二酸化炭素濃度が、20体積%以上50体積%以下であり、包装体の封止直後における内部酸素濃度が、14.7体積%以上70体積%以下であり、」と特定された。
イ 発明の詳細な説明では、課題の解決が確認された実施例1及び2の「包装体の封止直後における内部二酸化炭素濃度」は、それぞれ、30体積%、50体積%であり、また、それら実施例1及び2の「包装体の封止直後における内部酸素濃度」は、それぞれ、70体積%、50体積%であることが示されている(段落【0063】)。
また、本件明細書等の段落【0021】及び【0023】等の記載によれば、“包装体の封止直後”における内部二酸化炭素濃度、内部酸素濃度は、包装容器内に充填するガス中の二酸化炭素濃度、酸素濃度を調整することで調整できることが把握される。
ウ 特許権者は、意見書を提出して、次のように主張する。
・ 本件訂正により包装体の封止直後における内部二酸化炭素濃度及び内部酸素濃度の上限値及び下限値を特定した。
・ 「包装体の封止直後における内部二酸化炭素濃度」の下限値が20体積%である点については、実施例1、2の30体積%、50体積%に近接している上に、青果物の量を多くする等して呼吸により発生する二酸化炭素量を増加させることで所定の120時間後ガス組成を実現することができる。
・ 「包装体の封止直後における内部酸素濃度」の下限値が14.7体積%である点については、「包装体の封止直後における内部酸素濃度」は封止後10℃の条件下で120時間保持した後における所定のガス組成を実現するための手段であり、その値が50体積%を下回る場合であっても、包装容器の酸素透過度を調整する等により所定のガス組成を実現し得るものである。「包装体の封止直後における内部酸素濃度」が14.7%である参考例1を踏まえても、実施例1、2を参照しつつ、120時間後の所定のガス組成を実現することが可能である。青果物の量を減らすことで、酸素の消費量を減らすことができ、120時間後の所定のガス組成を実現することが可能である。
エ 合議体として、特許権者のこれらの主張を踏まえてさらに検討を進める。
本件発明の課題(段落【0005】)は、酸素透過度に加えて、内部酸素濃度及び内部二酸化炭素濃度の特定により解決されるものであり、実施例1及び2に参考例での封入ガスの酸素濃度が14.7%であること及び段落【0021】に「包装体を作製する際に、包装容器内に充填するガス中の二酸化炭素濃度を、20体積%以上とすることが好ましい。」との記載が存在することも合わせて考慮すれば、「包装体の封止直後における内部二酸化炭素濃度が、20体積%以上50体積%以下であり、包装体の封止直後における内部酸素濃度が、14.7体積%以上70体積%以下」であれば、「包装体の封止直後における」「内部二酸化炭素濃度」及び「内部酸素濃度」の観点からは、本件訂正後の請求項1に記載された発明である本件発明1で所与の課題が解決できることは十分推認し得る。補足するに、充填するガスの組成は、目標とする「包装体の封止直後における」「内部二酸化炭素濃度」及び「内部酸素濃度」に近いものとするのが普通であるし、参考例は、120時間になると外観の劣化が見られるものであって、包装体の封止直後における内部酸素濃度が14.7体積%であっても、包装容器の酸素透過度、包装体の封止直後の二酸化炭素濃度、カットキャベツを含む青果物の量等を調整することで所与の課題を解決することできると認められる。
本件発明1の発明特定事項を全て含む本件発明5?8についても同様である。
また、本件訂正により請求項9、10は削除されたので、取消理由は該当しないものとなった。
(5)120時間後の気体組成について
当審で通知したこの点に関する取消理由は、120時間保持した後における気体組成に関して、訂正前の請求項1では、内部二酸化炭素濃度の下限値が20体積%である点及び上限値が50体積%である点、並びに、内部酸素濃度の下限値が0.152体積%である点で、当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものではなく、また、本件訂正前の請求項9では、内部二酸化炭素濃度の下限値が20体積%である点及び上限値が50体積%である点、並びに、内部酸素濃度の下限値が0.152体積%である点で、当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものではない、というものである。
ア 本件訂正により、請求項1の記載において「包装体の封止後10℃の条件下で120時間保持した後における内部二酸化炭素濃度が38.8体積%以上48.4体積%以下、かつ、内部酸素濃度が13.1体積%以上13.4体積%以下である」と特定された。
イ 発明の詳細な説明では、課題の解決が確認された実施例1及び2の「包装体の封止後10℃の条件下で120時間保持した後における」「内部二酸化炭素濃度」は、それぞれ、38.8体積%、43.4体積%であり、また、それら実施例1及び2の「包装体の封止後10℃の条件下で120時間保持した後における」「内部酸素濃度」は、それぞれ、13.4体積%、13.1体積%であることが示されている(段落【0063】)。
そうすると、本件発明1における「包装体の封止後10℃の条件下で120時間保持した後における」「内部二酸化炭素濃度」及び「内部酸素濃度」は、実施例1及び2を踏まえたものということができる。
したがって、本件発明1で所与の課題が解決できると理解できる。
本件発明1の発明特定事項を全て含む本件発明5?8についても同様である。
また、本件訂正により請求項9、10は削除されたので、取消理由は該当しないものとなった。
(6)小括
以上のとおり、本件発明1、5?8は、発明の詳細な説明において、発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものではなく、発明の詳細な説明に記載されたものといえる。
したがって、本件請求項1、5?8に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たす特許出願に対してされたものである。

2 進歩性について
(1)甲第2号証(特開平4-341139号公報)の記載事項
ア 甲第2号証には、以下の記載がある。
(ア)「【特許請求の範囲】
【請求項1】カット野菜の包装体において、該包装体にはヒートシール性を有し、減圧下で窒素および/または炭酸ガスを導入することにより、初期の残存酸素濃度が0.1?10%の範囲内でガス置換包装することが可能な、適度の酸素透過性を有するフィルムよりなる袋状体を用いたことを特徴とするカット野菜の包装体。
【請求項2】カット野菜が葉菜類であるあしたば、キャベツ、こまつ菜、サラダ菜、春菊、はくさい、パセリ、ほうれんそうまたはみつばのいずれかである請求項1記載のカット野菜の包装体。
・・・
【請求項10】包装体は、カット野菜の下部に位置する吸水性シートとカット野菜および吸水性シートの外側を被覆する袋状体からなり、前記吸水性シートは、カット野菜側に位置する透水性シートと、透水性シートあるいは非透水性シートと、前記両シートの間に挟着された高吸水性樹脂とから構成されている請求項1ないし9のいずれかに記載のカット野菜の包装体。
【請求項11】透水性シートが、紙および/または不織布よりなる請求項1ないし10のいずれかに記載のカット野菜の包装体。
【請求項12】適度な酸素透過度性を有するフィルムの23℃における酸素透過度が、100?10000cc/m^(2)・atm・24hrsである請求項1ないし11のいずれかに記載のカット野菜の包装体。
【請求項13】野菜を洗浄後、必要に応じて剥皮、カッティング、洗浄、脱水、計量工程を経たカット野菜を、適度な酸素透過性を有し、かつヒートシール性を有するフィルムよりなる袋状体に入れ、一旦減圧下に保持した後、窒素および/または炭酸ガスを包装体内に導入し、初期の酸素濃度が0.1%?10%の範囲内となるようにガス置換包装した後、ヒートシール密封し、冷蔵することを特徴とするカット野菜の包装方法。」
(イ)「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、カット野菜の包装体およびその包装方法に関し、さらに詳しくは、カット野菜の保存時の褐変、アルコール臭の発生、ドリップによる品質の低下、雑菌の繁殖を防止し得るカット野菜の包装体およびその包装方法に関する。」
(ウ)「【0004】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、従来のこのような包装形態では、包装系内の酸素および炭酸ガス濃度に関しては全く考慮されておらず、酸素濃度の低下に起因するアルコール臭の発生、過剰呼吸に起因する褐変等により鮮度変化による鮮度低下が著しく、冷蔵で保管した場合でも、可食期間は1日ないしは2日程度、加熱調理を前提としたものでも5日程度と非常に短いものであった。すなわち、野菜をカッティングすることにより、呼吸量の増大、細胞液の滲出、表面積の増大が付随して起こるため、それらに起因する褐変、異臭、腐敗、萎凋、菌の増殖は鮮度低下の大きな原因となっていた。
【0005】前記の点は野菜の種類によってもその状態は種々変化するものである。また、包装系内の酸素濃度をカット野菜の呼吸作用により低下させ、適性酸素濃度に維持する簡易CA包装も試みられているが、酸素濃度低下がカット野菜の呼吸量に依存しているため、適正酸素濃度になるのに時間がかかる為、その間に鮮度が低下する場合が多かった。
【0006】本発明者は、先にカットレタスの包装体およびその包装方法について提案したが(特願平2-274466号)、本発明は、前記先行発明の技術がレタス以外のカット野菜にも適用できることを知見し、前述の問題点を解消したものである。すなわち、本発明は、カット野菜製品のイメージアップを図り、かつ消費拡大を可能とするために、保存性が良く、しかも野菜本来のフレッシュ感を有するカット野菜の包装体とその製造方法を提供することを目的としている。
【0007】
【課題を解決するための手段】前記目的を達成するため、本発明者らは鋭意研究を重ねた結果、カット野菜の状態と包装材料、包装条件を組合せることが効果的であることを知見し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は、冷蔵で長期間の保存が可能であり、かつ野菜本来のフレッシュ感を有するカット野菜製品の包装体とそれを製造する方法に関する。
【0008】具体的には、本発明のカット野菜の包装体は、野菜を洗浄後、必要に応じて剥皮、カッティング、洗浄、脱水、計量工程を経たカット野菜を被覆する適度な酸素透過性を有するフィルムによる袋状体よりなるカット野菜の包装体であって、前記袋状体はヒートシール性を有し、被覆後減圧下で窒素および/または炭酸ガスを導入することによりカット野菜を、初期の残存酸素濃度が0.1%?10%の範囲内でガス置換包装することができ、その後冷蔵で保存することができることを特徴とする。
【0009】本発明が適用可能な野菜としては根菜類(かぶ、ごぼう、だいこん等)茎葉菜類(あしたば、うど、きゃべつ、ねぎ等)、果菜類(かぼちゃ、なす等)土物類(さつまいも、さといも等)芽物、つま物(あさつき、しょうが等)菌茸類(えのきだけ、わらび等)の日常食用に供される野菜類すべてが対象とされる。また、本発明のカット野菜の包装方法は、野菜を洗浄後、必要に応じて剥皮、カッティング、洗浄、脱水、計量工程を経たカット野菜を、適度な酸素透過性を有し、かつヒートシール性を有するフィルムよりなる袋状体に入れ、一旦減圧下に保持した後、窒素および/または炭酸ガスを包装体内に導入し、初期の酸素濃度が0.1%?10%の範囲内となるようにガス置換包装した後、ヒートシール密封し、冷蔵することを特徴とする。
【0010】以下、本発明を詳細に説明する。本発明において、適度な酸素透過度を有するフィルムとしては、通常の熱可塑性樹脂の厚みを変化させて、酸素透過度を調整したもの、2種以上のフィルムを貼合し酸素透過度を調整したもの等であり、熱可塑性樹脂としては、ポリエチレン、エチレン酢ビコポリマー、アイオノマー、ポリピロピレン、ポリブタジエン、ポリエステル、ポリアミド、ポリスチレン等を使用でき、フィルムの23℃における酸素透過度は100?10000cc/m^(2)・atm・24hrsのものが望ましい。
【0011】酸素透過度が100cc/m^(2)・atm・24hrs未満であると、カット野菜を包装した際に、包装系内に流入してくる酸素量が少なくなり、カット野菜が窒息する場合や、嫌気的呼吸によりエタノールやアルデヒドを発生し、商品価値が低下する。また、酸素透過度が10000cc/m^(2)・atm・24hrsを越えると、包装系内に流入してくる酸素量が多くなり、包装系内の酸素濃度が低下せず、カット野菜の呼吸量は低下せず、褐変の原因となる。
・・・
【0013】従来のシール密封包装では、包装系内の酸素濃度低下はカット野菜の呼吸量に依存していたため、適正酸素濃度になるのに時間がかかり、その間にカット野菜は褐変する場合が多かったが、初期の残存酸素濃度が0.1%?10%の範囲内となるように窒素および/または炭酸ガス置換包装することにより包装体内の酸素濃度は、速やかに適正濃度まで低下し、その後、包装体外からの酸素透過量と、呼吸による酸素消費量のバランスが取れ、適正酸素濃度に維持されるため、褐変は発生しない。初期の残存酸素濃度が0.1%以下であると、保存中にカット野菜は嫌気的呼吸を行い、エタノールまたはアルデヒドは発生し、異臭の原因となる。また、初期の残存酸素濃度が10%以上であると、適正酸素濃度に低下するのに時間がかかり、その間に褐変が発生する場合がある。」
(エ)「【0020】
【実施例2】坪量25g/m^(2)の紙(メーテル(株)社製MSP25)の上に高吸水性樹脂(住友精化(株)製 アクアキープ10SHP)を20g/m^(2)、バインダー(東レ(株)社製 ケミットR272S)を2g/m^(2)の量で均一に散布し、この上をさらに前述の坪量25g/m^(2)の紙で覆い、80℃の加熱エンボスロールで挟着一体化した。
【0021】このシートを300mm×300mmにカッティングし、不織布(クラレ(株)製NA240JP2096)上に載せ、下部の不織布を原紙サイドに折り込んだ。さらに上部より不織布を給紙し、サイド部をギアロールにより120℃でヒートシールした。またエンド部はシールバーにより、130℃でヒートシールし、さらに全体を加熱エンボスロールを通し、80℃で挟着一体化した。一体化後、エンド部において310mm×310mmにカッティングし、上記高吸水性樹脂の層を上部2層、下部2層の積層材料の間に挟着した吸水性シートを作成した。
【0022】キャベツの芯を除去し、半分に分割後、その切断面より約5mm幅でカッティングし、冷オゾン水(水温:約5℃,オゾン濃度:約5ppm)に約10分間浸漬し、洗浄・殺菌処理を行い、脱水装置で脱水した後、1kg計量した。上記カットキャベツおよび吸水性シートを線状低密度ポリエチレン(LLDPE)で作成したパウチ(出光石油化学(株)社製 モアテック0238N,サイズ:0.03mm×400mm×500mm,23℃における酸素透過度:8500cc/m^(2)・24hrs・atm)に入れ、250mmHgに一旦減圧し、その後、窒素・炭酸ガス混合ガス(1:1混合ガス)で、ガス置換包装を行った。ガス置換包装時の包装体内の残存酸素濃度は、3.5%であった。」
(オ)「【0031】[比較例1]実施例2と同様に作成した吸水性シートおよびパウチを用いて、実施例1と同様にカットレタスをガス置換包装せずに包装した。
[比較例2]実施例2と同様に作成した吸水性シートとともに、実施例1と同様に処理したカットレタスを延伸ナイロン(ON)/未延伸ポリプロピレン(CPP)製のパウチ(厚み:ON15μ/CPP60μ,サイズ:実施例2と同様)を用いて、実施例1と同条件でガス置換包装した。ガス置換包装後の残存酸素濃度は、3.0%であった。
【0032】[比較例3]実施例2と同様に作成した吸水性シートおよびパウチを用いて、実施例2と同様に処理したカットキャベツをガス置換包装せずに包装した。
[比較例4]実施例2と同様に作成した吸水性シートとともに、実施例2と同様に処理したカットキャベツを延伸ナイロン(ON)/未延伸ポリプロピレン(CPP)製のパウチ(厚み:ON15μ/CPP60μ,サイズ:実施例2と同様)を用いて、実施例2と同条件でガス置換包装した。ガス置換包装後の残存酸素濃度は、3.9%であった。」
(カ)「【0036】・・・
実験1
実施例1?6および比較例1?12のカット野菜包装体を10℃で保存し、保存中の外観の変化についてしらべた結果を表1?表6に示す。
・・・
【0038】
【表2】



(キ)「【0043】実験2
実施例1?6および比較例1?12の包装袋内の酸素濃度を経時的に測定した結果を表7?表12に示す。
・・・
【0045】
【表8】



(ク)「【0050】表1?表12より明らかなように、本発明のカット野菜包装体およびその包装方法によれば、10℃で7日間保存後も、褐変や異臭は発生は認められなかった。」
イ 上記(カ)【表2】及び(ク)の記載事項を合わせると、実施例2のカット野菜包装体には、10℃で5日間保存後も、褐変や異臭の発生は認められなかったことが分かる。
ウ 上記(ア)及び上記(イ)の記載を踏まえ、特に実施例2に着目すると、甲第2号証には、以下の発明(以下「甲2発明」という)が記載されていると認められる。
「ポリエチレン、ポリピロピレン等の熱可塑性樹脂を使用して酸素透過度を調整したフィルムをヒートシール密封してなる袋状体内にカットキャベツを収納してなる包装体であって、袋状体のヒートシール後10℃の条件下で5日保存後も褐変や異臭の発生は認められず、残存酸素濃度が1.0%である、上記包装体であり、
包装体の酸素透過度が、23℃において、8500cc/m^(2)・24hrs・atmであり、
ガス置換包装時の包装体内の炭酸ガス濃度は48.25体積%であり、
ガス置換包装時の包装体内の酸素濃度は3.5%であり、
ガス置換包装時の包装体内の窒素濃度は48.25%であり、
吸水性シートを入れてある、包装体。」

(2)対比・判断
ア 本件発明1について
(ア)本件発明1と甲2発明とを対比する。
・甲2発明の「ポリエチレンの熱可塑性樹脂」は本件発明1の「ポリエチレン系フィルム」に相当し、同様に、「カットキャベツ」は「カットキャベツを含む青果物」に、「ガス置換包装時」は「包装体の封止直後」に、「10℃の条件下で5日保存後」は「10℃の条件下で120時間保持した後」に、それぞれ相当する。
・甲2発明の「フィルムをヒートシール密封してなる袋状体」は、「高分子フィルムを融着してなる包装容器」という限りにおいて、本件発明1の「2枚の高分子フィルムを互いに重ね合わせた状態、または1枚の該高分子フィルムを折り重ねた状態で融着してなる包装容器」と一致する。
・甲2発明の「包装体の酸素透過度が、23℃において、8500cc/m^(2)・24hrs・atmであ」ることと本件発明1の「22℃、40%RHにおいて、2000cc/m^(2)/atm/day以上、2500cc/m^(2)/atm/day以下」であることは、いずれも「包装容器の酸素透過度が所定値」であるということはできる。
・甲2発明の「ガス置換包装時の包装体内の炭酸ガス濃度」は、本件発明1の「包装体の封止直後における内部二酸化炭素濃度」に相当し、甲2発明における濃度が「48.25体積%」であることは、本件発明1における濃度が「20体積%以上50体積%以下」に包含される。また、甲2発明の「ガス置換包装時の包装体内の酸素濃度」は、本件発明1の「包装体の封止直後における内部酸素濃度」に相当し、甲2発明における濃度が「3.5体積%」であることと本件発明1における濃度が「14.7体積%以上70体積%以下」であることは、いずれも、濃度が「所定値」であるということはできる。
・甲2発明の「残存酸素濃度が1.0%である」ことと本件発明1の「内部酸素濃度が13.1体積%以上13.4体積%以下であ」ることは、いずれも、「内部酸素濃度が所定値」であるということはできる。
以上を踏まえると、両発明の一致点及び相違点は以下のとおりである。
<一致点>
「ポリエチレン系フィルムの高分子フィルムを融着してなる包装容器内にカットキャベツを含む青果物を収納してなる包装体であって、
前記包装容器の酸素透過度が所定値であり、
包装体の封止直後における内部二酸化炭素濃度が、20体積%以上50体積%以下であり、
包装体の封止直後における内部酸素濃度が所定値であり、
包装体の封止後10℃の条件下で120時間保持した後における内部二酸化炭素濃度、内部酸素濃度がそれぞれ所定値である、上記包装体。」
<相違点1>
高分子フィルムを融着してなる包装容器に関して、本件発明1では、2枚の高分子フィルムを互いに重ね合わせた状態、または1枚の該高分子フィルムを折り重ねた状態で融着してなるのに対して、甲2発明では、フィルムの重ね合わせの態様は不明である点。
<相違点2>
“包装容器の酸素透過度”が、本件発明1では、22℃、40%RHにおいて、2000cc/m^(2)/atm/day以上、2500cc/m^(2)/atm/day以下であるのに対して、甲2発明では、23℃において、8500cc/m^(2)・24hrs・atmである点。
<相違点3>
“包装体の封止直後における”“内部酸素濃度”について、本件発明1では14.7体積%以上70体積%以下であるのに対して、甲2発明では3.5%である点。
<相違点4>
包装体の封止後10℃の条件下で120時間保持した後において、本件発明1では、内部二酸化炭素濃度が38.8体積%以上48.4体積%以下、かつ、内部酸素濃度が13.1体積%以上13.4体積%以下であるのに対して、甲2発明では、内部二酸化炭素濃度は不明で、かつ、内部酸素濃度は1.0%である点。
(イ)事案に鑑み、相違点4を中心に検討していく。
相違点4から明らかなことであるが、包装体の封止後10℃の条件下で120時間保持した後における、本件発明1と甲2発明の内部酸素濃度は、明らかに異なっている。
そもそも、相違点3にあるように、包装体の封止直後における内部酸素濃度は、甲2発明では本件発明1よりも明白に低いものといえる。
また、相違点2にあるように、包装容器の酸素透過度は、甲2発明は、本件発明1よりも明白に大きいものが採用されている。
そうしてみると、甲2発明において、包装体の封止後10℃の条件下で120時間保持した後における内部酸素濃度を1.0%から13.1体積%以上13.4体積%以下に向上させようという動機付けがない上に、包装体の封止直後における内部酸素濃度も包装容器の酸素透過度も本件発明1とは明らかに異なるものが採用されているのであるから、甲2発明に基づいて、その包装体の封止後10℃の条件下で120時間保持した後における内部酸素濃度を13.1体積%以上13.4体積%以下にすることが当業者にとって容易に想到し得たことということはできない。
したがって、甲2発明において、相違点4に係る本件発明1の発明特定事項を当業者が容易に採用し得たということはできない。
そうすると、本件発明1は、他の相違点について検討するまでもなく、甲2発明及び周知の技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

イ 本件発明5?8について
本件発明5?8は、いずれも、本件発明1の発明特定事項を全て含み他の発明特定事項を付加したものであるから、本件発明1と同様に、甲2発明及び周知の技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

ウ 小括
以上のとおり、本件発明1、5?8は、甲2発明及び周知の技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、特許法第29条第2項に規定される発明に該当しない。

第6 取消理由通知(決定の予告)において採用しなかった特許異議申立理由について
1 明確性要件違反
申立人は、初期気体組成、保存環境下における気体の流出入に関する容器の特性、内容物の呼吸の程度のどれ一つとして全く特定されてないため、発明の範囲が明確であっても、発明特定事項の技術的意味を理解することができず、出願時の技術常識を考慮すると発明特定事項が不足していることが明らかであるから、明確性要件違反である旨主張している。
しかしながら、本件訂正前の発明は、封止後の時間経過後における気体濃度を特定していたことから発明が明確であったといえるし、仮に、申立人が主張するとおり、技術的に発明特定事項が不足することで発明が技術的に不明確であったとしても、本件訂正後の発明は、その発明特定事項として、包装容器の酸素透過度、封止直後における内部二酸化濃度及び内部酸素濃度、封止後の時間保持した後における内部二酸化濃度及び内部酸素濃度を特定するものである。
したがって、申立人の主張は採用することができない。

2 実施可能性要件違反
申立人は、明確性要件違反やサポート要件違反と同様の主張を用いて、本件発明は、当業者といえども過度な試行錯誤を要することなく実施できたとは到底認められない旨の主張をしている。
しかし、明確性要件を満たすこと及びサポート要件を満たすことは上記述べたとおりであるし、本件特許明細書を参照すると、【0063】の【表1】の実施例として、カットキャベツ包装袋の評価結果として、封入ガス組成、高分子フィルムを含んでなる包装容器における孔及び酸素透過率、時間経過後の酸素濃度及び二酸化炭素濃度について記載されており、【0054】以降に実施例についての詳細な説明も記載されている。また、訂正により特定された「酸素透過度」、「内部酸素濃度」及び「内部二酸化炭素濃度」に係る事項から考慮して、カットキャベツを含む青果物の量等を調整することで所与の課題は解決できるし、その調整に際し、過度の試行錯誤を要するとは認められない。
してみると、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、当業者が実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものである。
したがって、申立人の主張は採用することができない。

3 進歩性について
(1)甲各号証
・甲第1号証:特開2011-81号公報
・甲第2号証:特開平4-341139号公報
・甲第3号証:特開2011-78369号公報
・甲第4号証:今堀 義洋、「低酸素貯蔵環境における青果物の品質保持と代謝調節機構に関する研究」、日本食品保蔵科学会誌 VOL.32 NO.2、2006年
・甲第5号証:M. V. Rama et al、「Effects on Fruit and Vegetables」、ENCYCLOPEDIA OF FOOD SCIENCES AND NUTRITION (Second Edition)、 2003年、1607-1615ページ
・甲第6号証:泉 秀実、「カット野菜の品質特性と微生物的安全性」、日本食品保蔵科学会誌 VOL.27 NO.3、2001年
・甲第7号証:壇 和弘 外二名、「数種野菜の呼吸におよぼす低酸素の影響」、日本食品低温保蔵学会誌 VOL.21 NO.1 1995年
・甲第8号証:河野 澄夫 外一名、「カット野菜の加工・流通過程における品質保持技術」、日本食品工業学会誌 第36巻 第2号、1989年2月
・甲第9号証:特開2005-112442号公報
・甲第10号証:森田 弘潤、「試験結果報告書」、2020年7月28日
・甲第11号証:山下 市二、「野菜のMA包装における機能性フィルムの利用」、日本食品化学工学会誌 第45巻第12号、1998年12月
・引用文献12:三井 俊、「酸素バリヤー性を有する食品包装材料」、愛産研食品工業技術センターニュース、平成21年3月24日発行(インターネット検索日:令和2年9月17日 URLhttp://www.aichiinst.jp/shokuhin/other/shokuhin_news/s_no41_02.pdf)(周知技術を示すための文献、当審が職権で探知)

(2)甲第1号証を主引用発明とした場合について
ア 甲1に記載された発明(以下「甲1発明」という。)
甲1の段落【0024】において「・・・気相を調整した酸素、炭酸ガス及び窒素の混合ガスを充填させた上で包装商品の開口部を密閉して・・・10℃の環境で保存し、24時間毎に・・・細菌数、褐変等の外観の変化、味・臭気についてチェックを行」うこと、また、段落【0025】?【0028】において「製造から168時間経過した時点で」「総合判定」することが記載されているから、甲1の実施例は、製造から120時間保持した時点でもチェックを行い、細菌数、褐変等の外観の変化、味・臭気の判定が合格基準に達したものであることが分かる。
かかる事項と、甲1の【請求項1】、【請求項6】、【0001】?【0009】、【0020】?【0038】、【0026】、【0035】、【0049】?【0052】の記載を踏まえて、実施例1(a08)、(a09)、実施例2(b09)(b10)に注目すると、甲1には、次の甲1発明が記載されていると認められる。

「二軸延伸ポリプロピレン等からなる外部との空気の出入りを略遮断する袋状に形成した包装資材の内部にカットキャベツ、千切りキャベツ等のキャベツ単体又はカットキャベツとニンジン等をミックスしたキャベツミックスを詰めてなる包装商品であって、気相を調整した酸素、炭酸ガス及び窒素の混合ガスを充填させた上で包装商品の開口部を密閉した後10℃の環境で保存して、120時間保持した時点でチェックを行い、細菌数、褐変等の外観の変化、味・臭気が合格基準に達したものである、包装商品であり、
充填させる混合気の炭酸ガス濃度が、20体積%又は25体積%であり、
充填させる混合気の酸素濃度が、25体積%であり、
充填させる混合気は窒素を含んでいる、包装商品。」

イ 本件発明1について
(ア)対比
本件発明1と甲1発明とを対比すると、甲1発明の「二軸延伸ポリプロピレン」は本件発明1の「延伸ポリプロピレンフィルム」に相当し、同様に、「カットキャベツ、千切りキャベツ等のキャベツ単体又はカットキャベツとニンジン等をミックスしたキャベツミックス」は「カットキャベツを含む青果物」に、「詰めて」は「収納して」に、「包装商品」は「包装体」に、それぞれ相当する。
甲1発明の「二軸延伸ポリプロピレン等からなる外部との空気の出入りを略遮断する袋状に形成した包装資材」は、「高分子フィルムを融着してなる袋状に形成した包装容器」という限りにおいて、本件発明1の「2枚の高分子フィルムを互いに重ね合わせた状態、または1枚の該高分子フィルムを折り重ねた状態で融着してなる包装容器」と一致する。
甲1発明の「気相を調整した酸素、炭酸ガス及び窒素の混合ガスを充填させた上で包装商品の開口部を密閉した後10℃の環境で保存して、120時間保持した時点でチェックを行い、細菌数、褐変等の外観の変化、味・臭気が合格基準に達したものである」ことは、「包装体の封止後10℃の条件下で120時間保持した後に」所定の判定を行うという限りにおいて、本件発明1の「前記包装容器の酸素透過度が、22℃、40%RHにおいて、2000cc/m^(2)/atm/day以上、2500cc/m^(2)/atm/day以下であり、
包装体の封止直後における内部二酸化炭素濃度が、20体積%以上50体積%以下であり、
包装体の封止直後における内部酸素濃度が、14.7体積%以上70体積%以下であり、包装体の封止後10℃の条件下で120時間保持した後における内部二酸化炭素濃度が38.8体積%以上48.4体積%以下、かつ、内部酸素濃度が13.1体積%以上13.4体積%以下である」ことと一致する。
そうすると、本件発明1と甲1発明の一致点と相違点は以下のとおりである。
<一致点>
「延伸ポリプロピレンフィルムの高分子フィルムを融着してなる包装容器内にカットキャベツを含む青果物を収納してなる包装体であって、包装体の封止後10℃の条件下で120時間保持した後に所定の判定を行う、上記包装体。」
<相違点1-1>
高分子フィルムを融着してなる包装容器に関して、本件発明1では、2枚の高分子フィルムを互いに重ね合わせた状態、または1枚の該高分子フィルムを折り重ねた状態で融着してなるのに対して、甲1発明では、袋状に形成するための具体的な態様は不明である点。
<相違点1-2>
包装体の封止後10℃の条件下で120時間保持した後に所定の判定を行うことに関して、本件発明1では、「前記包装容器の酸素透過度が、22℃、40%RHにおいて、2000cc/m^(2)/atm/day以上、2500cc/m^(2)/atm/day以下であり、
包装体の封止直後における内部二酸化炭素濃度が、20体積%以上50体積%以下であり、
包装体の封止直後における内部酸素濃度が、14.7体積%以上70体積%以下であり、
包装体の封止後10℃の条件下で120時間保持した後における内部二酸化炭素濃度が38.8体積%以上48.4体積%以下、かつ、内部酸素濃度が13.1体積%以上13.4体積%以下である」のに対して、甲1発明では、細菌数、褐変等の外観の変化、味・臭気が合格基準に達したものである点。
(イ)判断
相違点1-2について検討する。
甲1発明は、包装体の封止後10℃の条件下で120時間保持した後に所定の判定を行うことに関して、判定の前提となる、包装容器の酸素透過度、包装体封止直後の内部二酸化濃度及び内部酸素濃度について、それらの数値範囲を含め具体化するものではない。
そして、相違点1-2に係る本件発明1の発明特定事項については、他の証拠を参照しても導き出せるものではなく、周知技術であるともいえない。
したがって、相違点1-2は実質的な相違点であることに加えて、当業者が容易に想到し得たものともいえない。
したがって、本件発明1は、相違点1-1を検討するまでもなく、甲1発明ではなく、また、甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

ウ 本件発明5?8
本件発明5?8は、いずれも、本件発明1の発明特定事項を全て含み、他の発明特定事項を付加したものであるから、本件発明1と同様に、甲1発明ではなく、また、甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

第7 むすび
以上のとおり、本件請求項1、5?8に係る特許は、取消理由通知書に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議の申立ての理由によって取り消すことができない。さらに、他に本件請求項1、5?8に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
また、本件請求項2?4、9、10は、本件訂正により削除され、本件請求項2?4、9、10に係る特許についての特許異議の申立ては、その対象が存在しないものとなったので、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
キャベツを含む青果物の鮮度保持性能に優れた包装体、及び青果物の鮮度保持方法
【技術分野】
【0001】
本発明は、キャベツを含む青果物の鮮度保持性能に優れた包装体に関し、より具体的には、高分子フィルムを有する包装容器内にキャベツを含む青果物を収納してなり、該キャベツを含む青果物の褐変及び臭気の発生を有効に抑制することができる包装体に関する。
【背景技術】
【0002】
高分子フィルム基材に気体透過部を設けて、この気体透過部から酸素、二酸化炭素、水蒸気等の気体を透過させる気体透過性フィルムは、食品分野において、青果物、特にカット野菜等の生鮮野菜の包装材として好適に使用されている。このような気体透過性フィルムを用いて、例えば野菜、果物等を包装すると、内容物である野菜、果物の鮮度保持に適した酸素濃度、例えば1から4%程度の酸素濃度、を保つことで、比較的長い期間にわたり鮮度を保持して内容物を保管することができることが知られている。
例えば特許文献1には、青果物を密封した高分子フィルムよりなる青果物入り包装体において、前記包装体が(A)有孔高分子フィルムと(B)無孔高分子フィルムにより構成されており、前記(A)、(B)の少なくとも一方のフィルム特性が25℃、相対湿度75%の条件下で測定した水蒸気透過率が前記包装体の有効表面積を基準にして50?800gm^(-2)d^(-1)であり、前記(A)の開孔面積比率は前記包装体の有効表面積に対し3×10^(-6)?7×10^(-4)%であることを特徴とする青果物入り包装体が記載されており、より具体的には、(A)有孔高分子フィルムとして、厚さ35μmの延伸ポリプロピレンからなり、平均孔径30μmの孔を95個あけたもの、平均孔径が60μmの孔を9個開けたもの等が使用されている。
【0003】
青果物の中でも、キャベツは、最も広く流通する野菜の1つであり、上述の様な包装体、保管方法を好適に適用することができる。特にキャベツを切断したカットキャベツは、簡便に食事に供することができることなどから近年需要が増加しており、またキャベツがサラダ用などとして最も一般的な野菜の一つであることから、高い経済的価値を有する。このため、カットキャベツの鮮度保持に特に適した包装体、保管方法の検討が活発に行われており、包装体の酸素透過速度、二酸化炭素透過速度、及び水蒸気透過速度、並びに包装体内の酸素濃度、及び二酸化炭素濃度を、特定の値に設定することが提案されている(例えば、特許文献2参照。)。
しかしながら、上記技術によっても、依然としてカットキャベツをはじめとする、キャベツを含む青果物の褐変の抑制と臭気の防止とを長期間にわたって両立させることは、必ずしも容易ではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】 特開平5-168400号公報
【特許文献2】 特開2004-242504号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記の背景技術の限界に鑑み、包装容器内にキャベツを含む青果物を収納してなる包装体であって、当該キャベツを含む青果物の褐変の抑制と異臭の防止とを、長期間にわたって、従来技術の限界を超えて高いレベルで両立するなど、該青果物の鮮度保持機能に優れた包装体を提供することを課題とする。
本発明者は、鋭意検討の結果、包装体内部に所定濃度の二酸化炭素を導入するとともに、包装体の内部酸素濃度を制御し、包装体の封止から所定時間経過時の内部二酸化炭素濃度及び内部酸素濃度をそれぞれ特定値以上とすることが、キャベツを含む青果物の長期間にわたる褐変の抑制及び異臭の防止等の鮮度保持に特に有効であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【課題を解決するための手段】
【0006】
すなわち本発明は、
[1]
高分子フィルムを含んでなる包装容器内にキャベツを含む青果物を収納してなる包装体であって、包装体の封止後10℃の条件下で120時間保持した後における内部二酸化炭素濃度が20体積%以上50体積%以下、かつ、内部酸素濃度が0.10体積%以上である、上記包装体
、である。
【0007】
以下、[2]から[14]は、それぞれ本発明の一態様又は好ましい実施形態の一つである。
[2]
前記包装容器の酸素透過度が、20℃、90%RHにおいて、4500cc/m^(2)/atm/day以下である、[1]に記載の包装体。
[3]
前記キャベツを含む青果物の褐変、及び異臭の発生を、包装体の封止後10℃の条件下で120時間にわたって抑制する、[1]又は[2]に記載の包装体。
[4]
包装体の封止直後における内部二酸化炭素濃度が、20体積%以上である、[1]から[3]のいずれか一項に記載の包装体。
[5]
包装体の封止直後における内部酸素濃度が、5体積%以上である、[1]から[4]のいずれか一項に記載の包装体。
[6]
前記包装容器内に更に窒素が封入されている、[1]から[5]のいずれか一項に記載の包装体。
[7]
前記高分子フィルムの厚みが、15から45μmである、[1]から[6]のいずれか一項に記載の包装体。
[8]
前記高分子フィルムが、延伸ポリプロピレンフィルム、ポリエチレン系フィルム、又は延伸フィルムとポリエチレン系フィルムとの積層体である、[1]から[7]のいずれか一項に記載の包装体。
[9]
前記高分子フィルムが、少なくとも1種の抗菌剤を含有し、又は少なくとも1種の抗菌剤が塗布されている、[1]から[8]のいずれか一項に記載の包装体。
[10]
前記キャベツがカットキャベツである、[1]から[9]のいずれか一項に記載の包装体。
[11]
更に吸湿剤、及び/又は抗菌剤を収納してなる、[1]から[10]のいずれか一項に記載の包装体。
[12]
高分子フィルムを含んでなり、酸素透過度が、20℃、90%RHにおいて、2000cc/m^(2)/atm/day以下である包装容器内にキャベツを含む青果物を収納する工程、及び該包装容器内の二酸化炭素濃度を20体積%以上、かつ酸素濃度を5体積%以上とする工程、及び該包装容器を封止する工程、を有する、青果物の鮮度保持方法。
[13]
前記キャベツを含む青果物の褐変、及び異臭の発生を、前記包装容器を封止する工程から120時間にわたって抑制する、[12]に記載の、青果物の鮮度保持方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、包装体内部に所定濃度の二酸化炭素を導入するとともに、包装体の内部酸素濃度を所定値以上に制御することで、キャベツの褐変の抑制及び異臭の防止を長期間にわたって両立し、キャベツを含む青果物の鮮度を有効に抑制することができるという、実用上高い価値を有する包装体、及び青果物の鮮度保持方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を実施するための形態を説明する。
本発明は、高分子フィルムを含んでなる包装容器内にキャベツを含む青果物を収納してなる包装体であって、包装体の封止後10℃の条件下で120時間保持した後における内部二酸化炭素濃度が20体積%以上50体積%以下、かつ、内部酸素濃度が0.10体積%以上である、上記包装体である。すなわち、本発明の包装体は、少なくとも、包装容器と、そこに収納された青果物と、を有するものである。
【0010】
包装容器
本発明の包装体を構成する包装容器は、高分子フィルムを含んでなるものである。ここで「高分子フィルムを含んでなる」とは、包装容器の全部が高分子フィルムで構成されている場合、及び蓋材等包装容器の一部が高分子フィルムで構成されている場合、の双方を含む趣旨である。
従って、上記包装容器は、全部又は主要部が可撓性の高分子フィルムで構成された可撓性の包装容器、いわゆる包装袋であってもよく、可撓性の高分子フィルムとコーティング紙等のそれ以外の可撓性の部材を組み合わせた可撓性の包装容器であってもよく、あるいは可撓性の高分子フィルムと剛直な部材とを組み合わせた包装容器、例えば、蓋材としての高分子フィルムと、トレー、カップ等の剛直な部材とを組み合わせた形態のものであってもよい。
【0011】
包装容器がいわゆる包装袋である実施形態においては、例えば、2枚の高分子フィルムを互いに重ね合わせた状態、または1枚の高分子フィルムを折り重ねた状態で、3辺または2辺を熱シールにより融着させる等して包装袋を形成することができる。残る1辺は、青果物等の内容物を包装袋内に配置した後、同様に熱シールにより融着させるなどして封止することができる。
なお、このような包装袋は、その平面視での形状は円形、三角形、四角形、四角形以上の多角形でもよいが、加工性や取扱いの容易さの観点から長方形をなすことが好ましい。
【0012】
本発明で用いる包装容器は、以上説明した様に高分子フィルムを含んでなるものであり、その酸素透過度には特に限定は無いが、酸素透過度が20℃、90%RHにおいて、2000cc/m^(2)/atm/day以下である包装容器を用いることが望ましい。
酸素透過度が20℃、90%RHにおいて、2000cc/m^(2)/atm/day以下である包装容器を用いることが望ましい。
酸素透過度が上記範囲にある包装容器を用いることで、内部ガス、とりわけ二酸化炭素の流出、外気の流入、青果物の呼吸等による内部ガス組成の変動が抑制、又は緩和され、キャベツを含む青果物の鮮度保持に適した環境の維持が容易となる。包装容器の酸素透過度は、4500cc/m^(2)/atm/day以下であることがより好ましく、3500cc/m^(2)/atm/day以下であることがより好ましく、2500cc/m^(2)/atm/day以下であることが特に好ましい。
包装容器の酸素透過度には特に下限は存在しないが、キャベツを含む青果物にある程度の呼吸を許容し、異臭の発生を一層効果的に防止する観点からは、1200cc/m^(2)/atm/day以上であることが好ましく、1500cc/m^(2)/atm/day以上であること、1800cc/m^(2)/atm/day以下であることが特に好ましい。また、コスト等を考慮して、通常入手可能な高分子フィルムを用い、比較的単純な構造で包装容器を構成する限り、その酸素透過度は、500cc/m^(2)/atm/day以上となることが一般的である。
【0013】
包装容器の酸素透過度は、例えば以下の方法により測定することができる。
まず、次の方法で内寸a(cm)×b(cm)の袋を形成する。
1枚のフィルムをほぼ均等に2つ折りにし約5mm幅で、インパルスシーラー(富士インパルス社製、品番Fi-200-10WK)で加熱条件の目盛を3に設定してヒートシールを行い、当該ヒートシール辺がほぼ中央にくるようにヒートシール辺とほぼ垂直をなす辺の一方の全体を、他方の辺の一方の連通部となる端部約2cmを除く全体をヒートシールして、内寸a(cm)×b(cm)の袋を形成する。
次に前記連通部から窒素ガスを注入し、袋内が飽和状態になれば袋内のガスを連通部からほぼすべて排出する。この操作を5回繰り返した後、窒素ガスを注入して袋内を窒素ガスで飽和させて連通部を前記インパルスシーラーで同様の条件でヒートシールする。窒素ガスを飽和させた袋を22℃、相対湿度40%の空気中(1気圧、酸素濃度:21%、窒素濃度:79%)の室内に6時間放置する。
次にサンプリング針チューブで約20ccサンプリングして食品包装用ジルコニア酸素濃度計(東レエンジニアリング社製、型番LC-750F)にて袋中の酸素濃度を測定する。さらに、袋中の気体の体積を測定し、下記の式から酸素透過度を算出する。
(式) 酸素透過度=内部酸素濃度変化(%)/100×体積(cm^(3))×24×60/時間(360分)×10000cm^(2)/面積(2×a×b×cm^(2))/酸素の分圧(0.21atm)
包装容器の酸素透過度は、包装容器を構成する高分子フィルムの材質、厚み、層構成、コーティングの有無、種類、適用面積などを適宜選択、調整することで、所望の範囲に調整することができる。高分子フィルムの詳細については、後述する。
また、高分子フィルムに開口部を設ける(或いは設けない)ことによっても、包装容器の酸素透過度を適宜調整することができる。酸素透過度は、この開口部の、大きさ、形状、個数によっても適宜調整することができる。開口部の詳細についても、後述する。
【0014】
青果物
本発明の包装体は、上記包装容器内にキャベツを含む青果物を収納してなる。ここで、同青果物がキャベツを「含む」とは、当該青果物の全部がキャベツで構成されている場合、及び当該青果物の一部がキャベツで構成されている場合、の双方を包含する趣旨である。従って、包装容器内に収納される青果物は、キャベツ以外の野菜、果物等を含んでいてもよく、含んでいなくともよい。更には、キャベツを含んでいる限りにおいては、青果物以外の成分、例えば青果物以外の食品、調味料、食品添加物等を含んでいてもよい。
【0015】
本発明の包装体を構成する(包装容器に収納される)「キャベツ」は、アブラナ科アブラナ属に属する結球野菜一般を包含する概念であり、「キャベツ」の名称そのもので流通する野菜には限定されない。
すなわち、ここでいう「キャベツ」は、その好ましい例として、寒玉(冬)キャベツ、春キャベツ、高原キャベツ、レッドキャベツ、グリーンボール(丸玉)、サボイキャベツ(ちりめんキャベツ)、芽キャベツ、プチヴェール、みさき甘藍/とんがりきゃべつ等の全てを包含する概念であるが、これらには限定されない。
【0016】
本発明において包装容器内に、キャベツとともに収納することができるキャベツ以外の青果物には特に制限は無く、キャベツとともに食用に供され得る、非加熱又は加熱の青果物を適宜収納することができる。その様な青果物の具体例としては、バナナ、マンゴー、ウメ、リンゴ、イチゴ、ミカン、ブドウ、和梨、西洋梨のような果実類、ダイコン、ニンジン、ナガイモ、ゴボウのような根菜類、トマト、キュウリ、ナス、ピーマン、エダマメ、オクラのような果菜類、緑豆モヤシ、大豆モヤシ、トウミョウのような芽物類、シイタケ、シメジ、エリンギ、マイタケ、マツタケのような菌茸類(キノコ類)、ブロッコリー、ホウレンソウ、コマツナ、チンゲンサイ、レタス、アスパラガスのような葉茎菜類、花卉または苗を挙げることができるが、これらには限定されない。酸素濃度を制御し、これにより保持するという本実施形態の作用からは、実質的に呼吸を行っている形態の青果物の鮮度保持に特に有効である。
【0017】
本発明において包装容器に収納され鮮度保持されるキャベツを含む青果物の形態にも特に制限は無い。従って、キャベツを含む青果物は、収穫されたままのものであってもよく、外葉等を除去したいわゆる前処理済みのものであってもよく、カット済みのいわゆるカット野菜(カットキャベツ)であってもよい。また、青果物は、洗浄、冷却、脱水等の処理のいずれか又は全てを行ったものであってもよく、またこれらの処理のいずれも行わないものであってもよい。
なお、収納され鮮度保持されるキャベツがカットされたキャベツの場合には、カット、洗浄、脱水および/または乾燥処理を行い、適正な水分量に調整されていることが好ましい。より具体的には、例えばカットされたキャベツを「大量調理施設衛生管理マニュアル」(厚生省)に基づき80?120ppm、10?20分の次亜塩素酸洗浄後に「栄養表示基準における栄養表示等の分析方法」(消費者庁)に基づき70℃で5時間の減圧乾燥をおこなったときの重量減少を元に測定した水分量が10?20%の範囲にすることが、臭気発生の防止および褐変等外観の劣化の防止のバランスの観点から特に好ましい。
【0018】
カット野菜は、簡便に食事に供することができることなどから近年需要が増加しており、高い経済的価値を有する。カットキャベツは、カット野菜の代表的なものであり、そのままサラダ等として簡便に食事に供することができるので、特に高い経済的価値を有する。一方、野菜、特にキャベツはカットされることにより呼吸作用や代謝反応が急激に活発化し、品質が急激に低下する傾向がある。本実施形態は、この様なカットキャベツの鮮度保持に有効に用いることができるので、特に高い経済的価値を有する。
【0019】
キャベツ(及び存在する場合にはキャベツとともに収納される青果物)の種類及び形態により、鮮度保持に好ましい二酸化炭素濃度及び酸素濃度は、本発明の範囲内である程度異なり、それに伴い好ましい酸素透過度、並びにその様な酸素透過度を与える高分子フィルムの態様も異なるが、これらを適切に設定することで、上記キャベツ(及び存在する場合にはキャベツとともに収納される青果物)のいずれについても、本発明によって有効に鮮度保持を行うことができる。
【0020】
包装体
本発明の包装体の、包装体の封止後10℃の条件下で120時間保持した後における内部二酸化炭素濃度は20体積%以上50体積%以下であり、内部酸素濃度は0.10体積%以上である。包装体の封止後10℃の条件下で120時間保持した後における内部二酸化炭素濃度が20体積%以上であり、かつ、内部酸素濃度が0.10体積%以上であることによって、包装容器内に収容されたキャベツを含む青果物の褐変の抑制と異臭の防止とを、長期間にわたって両立することができる。
包装体内の酸素濃度を所定値以上に調整することで、包装体内に収納された青果物の無酸素呼吸による異臭の発生を防止し得ることは、従来から知られていた。しかし、酸素濃度を所定値以上とすると、青果物の通常の呼吸により、褐変等の外観の劣化が発生するという問題があった。青果物のなかでもキャベツは特に褐変が生じ易く、キャベツを含む青果物の鮮度保持においては、褐変の抑制と異臭の防止の両立は、従来困難であった。
本発明においては、所定値以上の内部酸素濃度を有する、キャベツを含む青果物を収納した包装体において、併せて二酸化炭素を導入し、内部二酸化炭素濃度を所定値以上とすることで、褐変の抑制と異臭の防止とを、従来技術の限界を超えて高いレベルで、しかも長期間にわたって両立させるという、驚くべき効果が実現される。
本発明において、包装体の封止後所定時間経過後における内部二酸化炭素濃度が所定値以上であり、かつ、内部酸素濃度が所定値以上であることによって、包装容器内に収容されたキャベツを含む青果物の褐変の抑制と異臭の防止とが、長期間にわたって両立できるメカニズムは必ずしも明らかではないが、呼吸で消費される酸素の供給を制限するよりも、むしろ呼吸で発生する二酸化炭素量を過剰とすることで、キャベツを含む青果物の無酸素呼吸を極力抑えながら、その通常の呼吸を制限し得ることと、なんらかの関係があるものと推定される。
【0021】
包装体の封止後10℃の条件下で120時間保持した後における内部二酸化炭素濃度は、26体積%以上であることが好ましく、32体積%以上であることより好ましく、35体積%以上であることが特に好ましい。
包装体の封止後10℃の条件下で120時間保持した後における内部二酸化炭素濃度は、49体積%以下であることが好ましく、48.5体積%以下であることが、より好ましい。
包装体の内部二酸化炭素濃度は、包装体の封止直後の二酸化炭素濃度を調整することで、所望の範囲に調整することが可能である。より具体的には、包装体を作製する際に、包装容器内に充填するガス中の二酸化炭素濃度を調整することで、適宜調整することが可能である。例えば、包装体を作製する際に、包装容器内に充填するガス中の二酸化炭素濃度を、20体積%以上とすることが好ましい。
また、包装体の内部二酸化炭素濃度は、包装体外に流出する二酸化炭素量、及び/又は包装体内のキャベツを含む青果物の呼吸により発生する二酸化炭素量を調整することでも、所定の濃度に調整することが可能である。より具体的には、包装容器のガス透過度を調整することで、包装体外に流出する二酸化炭素量を調整することが可能であり、包装容器に収納するキャベツを含む青果物の量及び/または包装容器内に充填する酸素の量を調整することで、キャベツを含む青果物の呼吸により発生する二酸化炭素量を調整することが可能である。
【0022】
ここで、「包装体の封止後」とは、包装容器内にキャベツを含む青果物を収納した後、包装容器を封止してからの経過時間をいう。すなわち、「包装体の封止後10℃の条件下で120時間保持した後」とは、包装容器内にキャベツを含む青果物を収納した後、包装容器を封止してから10℃の条件下で120時間保持した直後の状態をいう。
本発明の包装体においては、内部二酸化炭素濃度が、大気の二酸化炭素濃度よりも通常高いため、外部への二酸化炭素の流出により、内部二酸化炭素濃度が経時的に減少する場合が多い。従って、封止後120時間における内部二酸化炭素濃度が20体積%以上である本実施形態においては、封止後0から120時間にわたって、内部二酸化炭素濃度が20体積%以上である可能性が高い。この様な二酸化炭素濃度の履歴は、青果物中のキャベツの褐変及び異臭の発生を一層有効に抑制するうえで、特に好ましい。
包装容器内の二酸化炭素濃度および酸素濃度は、例えば、Dansensor製食品包装用O_(2)/CO_(2)分析計Check Mate 3等により測定することができる。
【0023】
包装体の封止後10℃の条件下で120時間保持した後における内部酸素濃度は、0.12体積%以上であることが好ましく、0.15体積%以上であることが、より好ましい。
包装体の封止後10℃の条件下で120時間保持した後における内部酸素濃度には、特に上限は存在しないが、褐変等の外観の劣化を一層有効に抑制するなどの観点からは、9.0体積%以下であることが好ましく、8.5体積%以下であることが、より好ましい。
包装体の内部酸素濃度は、包装直後の酸素濃度を調整することで、所望の範囲に調整することが可能である。より具体的には、包装体を作製する際に、包装容器内に充填するガス中の酸素濃度を調整することで、適宜調整することが可能である。例えば、包装体を作製する際に、包装容器内に充填するガス中の酸素濃度を、10体積%以上とすることが好ましい。
また、包装体の内部酸素濃度は、包装体外に流出し、若しくは包装体外から流入する酸素量、及び/又は包装体内のキャベツを含む青果物の呼吸により消費される酸素量を調整することでも、所定の濃度に調整することが可能である。より具体的には、包装容器の酸素透過度を調整することで、包装体外に流出し、若しくは包装体外から流入する酸素量を調整することが可能であり、包装容器に収納する青果物の量及び/又は包装容器内に充填する酸素の量を調整することで、青果物の呼吸により消費される酸素量を調整することが可能である。
包装容器内の酸素濃度は、例えば、以下の方法により測定することができる。
サンプリング針チューブで包装体内のガスを約20ccサンプリングして、食品包装用ジルコニア酸素濃度計にて袋中の酸素濃度を測定する。
【0024】
上述した所望の内部二酸化炭素濃度、及び内部酸素濃度を実現する観点から、包装容器内には、更に窒素が封入されていることが好ましい。包装容器の封止時に窒素をともに封入することで、内部二酸化炭素濃度、及び内部酸素濃度を独立に調整することができるからである。
【0025】
本発明の包装体においては、キャベツを含む青果物の褐変、及び異臭の発生を、包装体の封止後10℃の条件下で120時間にわたって抑制することが好ましい。
この好ましい実施形態は、キャベツを含む青果物の褐変、及び異臭の発生を、包装体の封止後10℃の条件下で120時間にわたって抑制することで、流通上十分と考えられる長期間にわたって、キャベツを含む青果物の鮮度を高いレベルで維持することができるので、実用上、経済上高い価値を有する。
この好ましい実施形態においては、キャベツを含む青果物の褐変、及び異臭の発生を、包装体の封止後10℃の条件下で144時間にわたって抑制することが特に好ましい。
【0026】
高分子フィルム
また、本発明に用いる包装容器において上述した好ましい酸素透過度を実現するためには、酸素透過度が所定値以下である高分子フィルムを用いて、包装容器を構成することが望ましい。
すなわち、本発明において用いる高分子フィルムの酸素透過度は、20℃、90%RHにおいて、4500cc/m^(2)/day以下であることが好ましい。20℃、90%RHにおける酸素透過度が上記値以下である高分子フィルムを用いることによって、好ましい実施形態である、酸素透過度が20℃、90%RHにおいて、4500cc/m^(2)/atm/day以下である包装容器を、比較的簡単な構成及び製法で、比較的低コストで製造することができる。
本発明において用いる高分子フィルムの酸素透過度は、20℃、90%RHにおいて、3500cc/m^(2)/day以下であることがより好ましく、2500cc/m^(2)/day以下であることが特に好ましい。
高分子フィルムの酸素透過度には特に下限は存在しないが、ガスバリアコーティング等を行っていない、通常の高分子フィルムを使う限りにおいて、20℃、90%RHにおいて、500cc/m^(2)/day以上となることが一般的である。
また、収納された青果物からの異臭の発生を一層効果的に防ぐ観点からは、高分子フィルムは、青果物の呼吸が可能な程度の酸素透過率を有することが好ましい。この観点からは、高分子フィルムの酸素透過度は、20℃、90%RHにおいて、1200cc/m^(2)/day以上であることが好ましく、1500cc/m^(2)/day以上であることがより好ましく、1800cc/m^(2)/day以上であることが特に好ましい。
【0027】
本発明で用いる高分子フィルムの酸素透過度の測定方法は、例えば包装容器の酸素透過度の測定方法に関して上記で説明した方法と同様の方法により、測定することができる。
【0028】
高分子フィルムの材質、厚さ、加工方法等を適宜選択することで、高分子フィルムの酸素透過度を適宜調節することができる。例えば、二軸延伸ポリプロピレン(OPP)フィルムの場合には、厚みを10μm以上とすることで、20℃、90%RHにおける酸素透過度を、4500cc/m^(2)/day以下とすることができるので好ましい。機械的強度等も併せて考慮すれば、高分子フィルムの厚みは、10?50μmであることがより好ましく、15?45μmであることが特に好ましい。
【0029】
上述の様に、高分子フィルムの酸素透過度は、高分子フィルムの材質、厚さ、加工方法等を適宜選択することで、調節することができるので、必ずしも、酸素透過度の調節のために高分子フィルムに開口部を設けることを要しない。特に、本発明の好ましい実施形態における、20℃、90%RHにおける4500cc/m^(2)/day以下の酸素透過度は、高分子フィルムに開口部を設けることなしに実現することができる。
高分子フィルムに開口部を設ける必要が無いため、製造プロセスがより簡便、低コストなものとなり、また開口部の大きさ、形状等を精密に制御することも不要となる。
高分子フィルム中に開口部が存在しないことは、例えば、包装容器を構成する高分子フィルムが、インク洩れチェッカーで確認できる貫通孔を有さないことにより、確認することができる。
【0030】
一方で、本発明の一実施形態においては、厚い高分子フィルムや、酸素透過度の低い高分子素材を使用する必要がある場合等に、所望の酸素透過度を実現するために、高分子フィルムに設けた開口部を併用しても良い。開口部の形状には特に限定は無く、円形、略円形であってもよく、スリット状であってもよい。円形、略円形の開口部は、加工が容易である点等において好ましく、スリット状での開口部は、異物の侵入を有効に防止できる点等において好ましい。
個々の開口部の大きさと、開口部の個数は、高分子フィルムの酸素透過度が適切な限りにおいて、適宜設定、変更可能であり、その際には、高分子フィルムの有効面積に占める開口部の数が指針となる。例えば2mmの長さのスリット状の開口部であって、閉じた状態では光学顕微鏡(オリンパス社製、型式SZH-131)にて倍率4倍による観察では貫通口としての幅は視認することができないものを設ける場合、200mm×200mmの包装容器に対して例えばレーザー加工により設けた孔が1つ存在するごとに約1000cc/m^(2)/day/atmの酸素透過度を上げる効果があり、この様な知見に基づき必要とされる包装容器全体の酸素透過度からスリット開口部の数を決めることが好ましい。
【0031】
本実施形態で用いる高分子フィルムの厚みには特に制限は無く、好適な酸素透過度、包装容器を形成した際の可撓性、強度、透明性、経済性、開口部によってもたらされる酸素透過量、開口部の形成の際の精度や容易性、等の観点から、高分子フィルムを形成する材料との関係において適宜好適な厚みを選択すればよい。典型的には、高分子フィルムの厚みは、10から50μmであることが好ましく、15?45μmであることがより好ましい。
【0032】
高分子フィルムの材質には、特に制限は無いが、従来の青果物包装用のフィルムに用いられる高分子を適宜使用することができる。例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリスチレン、ナイロン(ポリアミド)、エチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネート・アジペート、ポリ乳酸等を挙げることができる。また、例えば、セロハン等の天然高分子を用いることもできる。更にこれらのうちのいずれかの材質を単独で用いても良く、これらの複数をブレンドして、及び/又はラミネートして用いてもよい。
【0033】
加工の容易さやコストの観点からは、上記高分子フィルムの材質は、熱可塑性樹脂であることが好ましい。該熱可塑性樹脂としては、例えば、エチレン、プロピレン、1-ブテン、1-ヘキセン、4-メチル・1-ペンテン、1-オクテン等のα-オレフィンの単独重合体または共重合体が挙げられる。具体的には、高圧法低密度ポリエチレン、線状低密度ポリエチレン(LLDPE)、高密度ポリエチレンなどのエチレン系重合体、プロピレン単独重合体、プロピレン・α-オレフィンランダム共重合体、プロピレンブロック共重合体などのプロピレン系重合体、ポリ1-ブテン、ポリ4-メチル・1-ペンテンなどのポリオレフィンが挙げられる。また、該熱可塑性樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル、ナイロン-6、ナイロン-66、ポリメタキシレンアジパミド等のポリアミド、ポリ塩化ビニル、ポリイミド、エチレン・酢酸ビニル共重合体またはその鹸化物、ポリビニルアルコール、ポリアクリロニトリル、ポリカーボネート、ポリスチレン、アイオノマー、ポリ乳酸、ポリブチレンサクシネート等の生分解性樹脂、あるいはこれらの混合物等が挙げられる。これらの熱可塑性樹脂は一種を用いてもよく、二種以上を併用してもよい。これらの中でも、該熱可塑性樹脂としては、ポリオレフィン、ポリエステル、ポリアミド等が剛性、透明性に優れるため好ましい。また、該熱可塑性樹脂としては、エチレン系重合体、プロピレン系重合体が軽量でフィルム加工性に優れるためより好ましく、柔軟性、透明性の観点からプロピレン系重合体がさらに好ましい。
【0034】
<プロピレン系重合体>
前記プロピレン系重合体としては、ポリプロピレンの名称で製造、販売されているプロピレン単独重合体(ホモPPとも呼ばれている)、プロピレン・α-オレフィンランダム共重合体(ランダムPPとも呼ばれている)、プロピレン単独重合体と、低結晶性または非晶性のプロピレン・エチレンランダム共重合体との混合物(ブロックPPとも呼ばれている)などのプロピレンを主成分とする結晶性の重合体が挙げられる。また、プロピレン系重合体は、分子量が異なるプロピレン単独重合体の混合物であってもよく、プロピレン単独重合体と、プロピレンとエチレン又は炭素数4から10のα-オレフィンとのランダム共重合体との混合物であってもよい。
【0035】
前記プロピレン系重合体としては、具体的には、ポリプロピレン、プロピレン・エチレン共重合体、プロピレン・エチレン・1-ブテン共重合体、プロピレン・1-ブテン共重合体、プロピレン・1-ペンテン共重合体、プロピレン・1-ヘキセン共重合体、プロピレン・1-オクテン共重合体などのプロピレンを主要モノマーとし、これとエチレン及び炭素数4から10のα-オレフィンから選ばれる少なくとも1種類以上との共重合体が挙げられる。これらは一種を用いてもよく、二種以上を併用してもよい。
【0036】
前記プロピレン系重合体の密度は、0.890?0.930g/cm^(3)であることが好ましく、0.900?0.920g/cm^(3)であることがより好ましい。また、前記プロピレン系重合体のMFR(ASTM D1238 荷重2160g、温度230℃)は、0.5?60g/10分が好ましく、0.5?10g/10分がより好ましく、1?5g/10分がさらに好ましい。
【0037】
<エチレン系重合体>
前記エチレン系重合体としては、エチレンの単独重合体、エチレンを主要モノマーとし、それと炭素数3から8のα-オレフィンの少なくとも1種類以上との共重合体、エチレン・酢酸ビニル共重合体、そのケン化物及びアイオノマーが挙げられる。具体的には、ポリエチレン、エチレン・プロピレン共重合体、エチレン・1-ブテン共重合体、エチレン・1-ペンテン共重合体、エチレン・1-ヘキセン共重合体、エチレン・4-メチル-1-ペンテン共重合体、エチレン・1-オクテン共重合体などのエチレンを主要モノマーとし、これと炭素数3から8のα-オレフィンの少なくとも1種類以上との共重合体が挙げられる。これらの共重合体中のα-オレフィンの割合は、1?15モル%であることが好ましい。
【0038】
また、前記エチレン系重合体としては、ポリエチレンの名称で製造・販売されているエチレンの重合体が挙げられる。具体的には、高圧法低密度ポリエチレン(LDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)が好ましく、LLDPEがより好ましい。LLDPEは、エチレンと、少量のプロピレン、ブテン-1、ヘプテン-1、ヘキセン-1、オクテン-1、4-メチル-ペンテン-1等との共重合体である。また、前記エチレン系重合体は、エチレンの単独重合体であってもよく、LLDPE等のエチレンを主体とする重合体であってもよい。
【0039】
前記エチレン系重合体の密度は0.910?0.940g/cm^(3)が好ましく、0.920?0.930g/cm^(3)がより好ましい。該密度が0.910g/cm^(3)以上であることにより、ヒートシール性が向上する。また、該密度が0.940g/cm^(3)以下であることにより、加工性および透明性が向上する
【0040】
なお、ブレンド、及び/又はラミネートは、上記の高分子のうちのいずれか同士のブレンド、及び/又はラミネートであってもよく、また上記の高分子のうちのいずれかと、高分子以外の材料とのブレンド、及び/又はラミネートであってもよい。すなわち、高分子フィルムは、高分子以外の素材、例えば耐熱安定剤(酸化防止剤)、耐候安定剤、紫外線吸収剤、滑剤、スリップ剤、核剤、ブロッキング防止剤、帯電防止剤、防曇剤、顔料、染料等の他、タルク、シリカ、珪藻土などの各種フィラー類を含んでいてもよいし、高分子フィルムと金属箔、紙、不織布等とのラミネートであってもよい。
【0041】
本発明において包装容器を構成する高分子フィルムは、無延伸フィルム、延伸フィルムのいずれであってもよい。
機械的強度等の観点からは、各種高分子の延伸フィルムを好適に用いることができる。特に、プロピレン系重合体を用いた延伸フィルム(延伸ポリプロピレンフィルム)は、機械的強度、透明性、耐熱性等に優れるため、本発明に用いる包装容器において、特に好ましく使用することができる。
また、エチレン系重合体を用いたフィルム(ポリエチレン系フィルム)も、無延伸フィルム、延伸フィルムのいずれであってもよいが、ヒートシール性等の観点から、無延伸のものを、特に好ましく使用することができる。
本発明において包装容器を構成する高分子フィルムとして特に好適なものの例として、延伸ポリプロピレンフィルム、ポリエチレン系フィルム、及び延伸フィルムとポリエチレン系フィルムとの積層体を挙げることができる。
【0042】
<延伸ポリプロピレンフィルム>
本発明において好ましく用いられる延伸ポリプロピレンフィルムは少なくとも一方向に延伸されたフィルムから構成されていてもよいし、延伸ポリプロピレンフィルム自体が少なくとも一方向に延伸されていてもよい。また、延伸ポリプロピレンフィルムとして二軸延伸フィルムを得る場合には、例えば逐次、あるいは同時二軸延伸することにより容易に製造することも可能である。延伸ポリプロピレンフィルムとして二軸延伸フィルムを得る場合には、通常、縦方向に5?8倍延伸し、続いて横方向にテンター機構を用いて8?10倍延伸し、フィルムの厚さを最終的に20?40μmとする方法、あるいは、縦方向及び横方向に夫々5?10倍(面倍率で25?100倍)延伸することにより製造することができる。
<ポリエチレン系フィルム>
本発明において好ましく用いられるポリエチレン系フィルムは、前記エチレン系重合体を含むフィルムである。ポリエチレン系フィルムは種々の公知の成型方法を用いることができるが、エクストルーダーによる押出によるキャスト成型が、生産効率の観点から好ましい。
【0043】
<延伸フィルム>
ナイロン6、ナイロン66等からなるポリアミドフィルム、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートに代表されるポリエステルからなるフィルム、ポリカーボネートフィルム、エチレン・ビニルアルコール共重合体フィルム、ポリビニルアルコールフィルム、ポリ塩化ビニルフィルム、ポリ塩化ビニリデンフィルム、ポリスチレンフィルム、ポリプロピレン等のポリオレフィン及びポリL乳酸、ポリD乳酸、またはポリL乳酸とポリD乳酸を精密に配位したステレオコンプレックス晶ポリ乳酸からなる一軸あるいは二軸延伸フィルムである。
【0044】
<延伸フィルムとポリエチレン系フィルムとの積層体>
本発明において好ましく用いられる延伸フィルムとポリエチレン系フィルムとの積層体は上記ポリエチレン系フィルムの層と延伸フィルムの層を積層して得られる。ポリエチレン系フィルムは一方向または二方向に延伸されていてもよいが、包装袋の機械的強度の安定性の観点から、無延伸フィルムであることが好ましい。
予め作製された延伸フィルムとポリエチレン系フィルムとを接着剤により貼着させるドライラミネーションを行うが、ここで接着剤を塗布する延伸フィルム表面にはコロナ処理をしておくことが接着安定性の観点から好ましい。具体的には、コロナ処理後のフィルム表面の表面張力が接着安定性の観点から、35mN/m以上が好ましく、40mN/m以上がより好ましい。
【0045】
また、これらの高分子フィルムは、延伸加工、防曇加工や印刷が施されていてもよく、銀、銅のような無機系抗菌剤や、キチン、キトサン、アリルイソチオシアネートのような有機系抗菌剤が塗布されたものであってもよいし、これらがフィルム中に練り込まれているものであってもよい。
青果物等の内容物の鮮度保持の観点からは、上記高分子フィルムが、少なくとも1種の抗菌剤を含有することが好ましい。
また、上記高分子フィルムの表面に特定の界面活性剤が特定量存在し、又は上記高分子フィルムが特定の界面活性剤を特定量含むことで、抗菌機能を有していてもよい。例えば、パルミチルジエタノールアミン、ステアリルジエタノールアミン、グリセリンモノラウレートおよびジグリセリンモノラウレートからなる群から選択される少なくとも一種の化合物が、上記高分子フィルムの少なくとも一方の表面に存在することが好ましく、当該少なくとも1種の化合物が0.002?0.5g/m^(2)存在することが特に好ましい。あるいは、上記高分子フィルムが、パルミチルジエタノールアミン、ステアリルジエタノールアミン、グリセリンモノラウレートおよびグリセリンモノカプレートからなる群から選択される少なくとも一種の化合物を含有していることが好ましく、0.001?3質量部含有していることが特に好ましい。
上記高分子フィルムの表面に特定の界面活性剤が特定量存在し、又は上記高分子フィルムが特定の界面活性剤を特定量含むことで、該高分子フィルムの表面での結露が抑制され、雑菌の繁殖が抑制されることにより、結露(ドリップ)中での雑菌の増殖が抑制され、抗菌機能が発揮される。
【0046】
透明性、可撓性、コスト等の観点からは、従来当該技術分野において広く用いられていた延伸ポリプロピレンフィルム、又は延伸ポリプロピレンフィルムとポリエチレン系フィルムとの積層体を高分子フィルムとして用いることが特に好ましい。これらのフィルムは一般にヒートシール性に優れるので、包装容器の製造において生産性が良好である。
この場合、延伸プロピレンフィルム単体で用いる場合は、その厚さが10?100μmであることが好ましく、延伸ポリプロピレンフィルムとポリエチレン系フィルムとの積層体を用いる場合には、前者の厚さが10?50μm、後者の厚さが10?120μmであることが好ましい。
【0047】
なお、ヒートシールに必ずしも適さない高分子フィルムを用いる場合には、該高分子フィルムの全部又は一部にシーラント層をラミネートあるいはコーティングすることで形成すればよい。例えば、アクリル樹脂をコーティングしたセロハンフィルム、ポリエチレンテレフタレート(PET)に線状低密度ポリエチレン(LLDPE)ポリスチレンとEVAをラミネートしたフィルムが挙げられ、これらを好適な高分子フィルムとして用いることができる。
【0048】
包装体の製造方法、及び鮮度保持方法
キャベツを含む青果物を本発明の包装容器に収納し、その内部二酸化炭素濃度及び内部酸素濃度を適宜調整することで、本発明の包装体を製造することができ、また本発明の一実施形態である青果物の鮮度保持方法を実施することができる。
以下、本発明の包装体の製造方法を、包装容器内に収納するキャベツを含む青果物がカットキャベツである場合を例に説明する。
【0049】
まず前処理工程において、手作業で外葉を取り除き、2?4分割し、芯を取り除くなどしたキャベツをコンベヤーに供給する。コンベヤーで搬送されたキャベツは、スライサーでカットされ、冷水を満たした洗浄槽で冷却を兼ねて洗浄され、水切り後遠心脱水機等で脱水される。脱水されたカットキャベツは、本実施形態で用いる高分子フィルムを含んでなる包装容器(一辺が封止されていないもの)に詰められ、計量後包装容器が封止され、カットキャベツの鮮度保持用包装体が製造される。
【0050】
カットキャベツの鮮度保持の観点からは、切れ味の良い刃を用い、切断面に生ずる傷をより少なくすることが好ましい。
また、カット幅が狭いほど、切断面積が増加し、鮮度保持がより困難になるため、鮮度保持の観点からは、需要の形態に適合する限りにおいてカット幅が広い方が好ましい。
更に、カットキャベツに当初から雑菌が多く付着していると、鮮度保持がより困難になるため、カットキャベツをよく洗浄するなどして、雑菌の付着をできるだけ低減することが好ましい。洗浄は、雑菌の付着を低減するばかりか、活性の高い酵素等を含み変色等の原因となりうる細胞液等を除去する効果もあるため、鮮度保持のために特に有効である。
加えて、洗浄後にカットキャベツ表面に付着した水分を十分に除去することが、鮮度保持のために重要である。洗浄後静置して水切りを行っても、カットキャベツ表面にはなお多くの水が付着している場合が多いので、遠心脱水機等を用いて水分を除去することが有効である。
これは水分を適正にすることで余分に付着した微小水滴中での雑菌の増殖が抑制できるからである。より具体的には、例えば「大量調理施設衛生管理マニュアル」(厚生省)に基づき80?120ppm、10?20分の次亜塩素酸洗浄後に「栄養表示基準における栄養表示等の分析方法」(消費者庁)に基づき70℃で5時間の減圧乾燥をおこなったときの重量減少を元に測定した水分量を10?20%の範囲とすることが臭気の抑制および褐変等の外観劣化防止の観点から特に好ましい。
【0051】
なお、本実施形態の青果物鮮度保持用包装体の製造にあたっては、キャベツを含む青果物を酸素透過度が4500cc/m^(2)/atm/day以下である包装容器内に収納後に、2℃以上15℃以下の条件の下、所定の組成のガス、例えば二酸化炭素濃度20体積%以上かつ酸素濃度5体積%以上のガスを導入してから封止を行ってもよい。所定の組成のガスの導入を行うことにより、包装容器の所望の二酸化炭素濃度及び酸素濃度に速やかに到達することが可能となり、鮮度保持に有利である。
上記実施形態において導入されるガスの二酸化炭素濃度は、26体積%以上であることがより好ましく、30体積%以上であることが特に好ましい。上記実施形態において導入されるガスの酸素濃度は、7体積%以上であることがより好ましく、12体積%以上であることが特に好ましい。上記実施形態において導入されるガスのそれ以外の成分には特に限定は無いが、入手のし易さや、人体、青果物等への影響の小ささなどの観点から、窒素を用いることが好ましい。
また、流通の過程での効率向上やスペース節約、特定の気体の排除等の観点から、包装容器の封止前、又は封止の際に脱気を行ってもよい。
【0052】
本発明の包装体は、包装容器中にキャベツを含む青果物のみが収納されていてもよいし、更にそれ以外の部材が収納されていてもよい。
例えば、青果物に加えて、吸湿剤、及び/又は抗菌剤が包装容器中に収納されていてもよい。
吸湿剤には特に限定は無く、吸湿効果または調湿効果を有する公知又は市販の材料を使用することができる。吸湿剤として好適に用いられるものとしては、例えば、活性炭、シリカゲル、アルミナゲル、シリカアルミナゲル、無水硫酸マグネシウム、ゼオライト、合成ゼオライト、酸化カルシウム、塩化カルシウム、及び、焼ミョウバン、又はこれらの混合物等が挙げられるが、これらに限定されない。
これらの中でも、青果物への影響や食品である青果物等の近くで使用することに関する懸念の比較的少ない活性炭を用いることが特に好ましい。活性炭は粉末状、粒状どちらでも何ら差し支えなく、原料はヤシ殻、おがくず、木炭、竹炭、褐炭、泥炭、ほね、石油ピッチなどどんなものでも差し支えない。また活性炭は不織布、セロファン、紙などなどで使用単位毎に包装してあることが望ましいが、活性炭自体が繊維状になったものでも差し支えない。活性炭の包材としては、合成樹脂からなる不織布のように、ヒートシール性を有するものが好ましいが、水蒸気透過性を有しかつ活性炭がこぼれないもので有れば、紙、天然繊維などでも何ら問題ない。
【0053】
抗菌剤には特に限定は無く、抗菌作用を有する物質を適宜使用することができるが、青果物への影響や食品である青果物等の近くで使用することに関する懸念の比較的少ない天然性抗菌剤を好ましく使用することができる。より具体的には、天然性抗菌剤であるキトサン、アリルイソチオシアネート、ヒノキチオール、リモネン等を、包装容器内に収納することができる。
【実施例】
【0054】
以下、実施例/比較例を参照しながら、本発明を具体的に説明する。なお、本発明はいかなる意味においても、以下の実施例によって限定されるものではない。
【0055】
以下の実施例/比較例において、各特性の評価は以下の方法で行った。
(開口部の有無)
赤色浸透液(三菱ガス化学株式会社製、商品名:エージレスシールチェックスプレー)を包装容器内に注入後、インパルスシーラーで加熱条件の目盛を3に設定し、約5mm幅でヒートシールして、紙(コクヨ PPC用紙 共用紙 A4)を押しあて、紙へのインクの転写の有無により、開口部の有無を確認した。
(酸素透過度)
まず、次の方法で内寸170mm×235mmの袋を形成した。
1枚のフィルムをほぼ均等に2つ折りにし約5mm幅で、インパルスシーラー(富士インパルス社製、品番Fi-200-10WK)で加熱条件の目盛を3に設定してヒートシールを行い、当該ヒートシール辺がほぼ中央にくるようにヒートシール辺とほぼ垂直をなす辺の一方の全体を、他方の辺の一方の連通部となる端部約2cmを除く全体をヒートシールして、内寸170mm×235mmの袋を形成した。
次に前記連通部から窒素ガスを注入し、袋内が飽和状態になってから袋内のガスを連通部からほぼすべて排出した。この操作を5回繰り返した後、窒素ガスを注入して袋内を窒素ガスで飽和させて連通部を前記インパルスシーラーで同様の条件でヒートシールした。窒素ガスを飽和させた袋を22℃、相対湿度40%の空気中(1気圧、酸素濃度:21%、窒素濃度:79%)の室内に6時間放置した。
次に、袋内のガスを約20ccサンプリングして食品包装用ジルコニア酸素濃度計(東レエンジニアリング社製、型番LC-750F)にて袋中の酸素濃度を測定した。さらに、袋中の気体の体積を測定し、下記の式から酸素透過度を算出した。
(式)酸素透過度=内部酸素濃度変化(%)/100×体積(cm^(3))×24×60/時間(360分)×10000cm^(2)/面積(799cm^(2))/0.21(酸素の分圧)
(酸素濃度・二酸化炭素濃度)
Dansensor製食品包装用O_(2)/CO_(2)分析計Check Mate 3を用いて測定した。
(外観)
包装体の封を開けて、取り出した青果物を並べ、キャベツ断面を中心に全体的な褐変部分の面積を目視にてn=3で評価した。併せてカビの有無を観察した。
評価基準は以下のとおり。
A:褐変が全くなく問題ない。
B:褐変はあるが断面全体の10%以下で少し目立つ状態
C:褐変はあるが断面全体の30%以下であり、かなり目立つが販売可能な状態
D:褐変はあるが断面全体の50%以下であり、著しく目立ち消費者により販売不可能な状態
E:褐変大きく、消費者には明らかに販売不可能な状態
(異臭)
包装体の封を開けた時に顔を近づけて内部のにおいを嗅いでn=3で官能評価した。
評価基準は以下のとおり。
A:新鮮な状態で全く問題ない
B:やや臭いがあるが新鮮と言える状態
C:臭いが強いが市販と同じ状態であり、販売可能な状態
D:更に臭いが強く消費者が気にする状態
E:更に臭いが強く販売不可能な状態
<カットキャベツ>
キャベツを汚れ、傷み部分を除いた後に概ね幅2mmに切り、「大量調理施設衛生管理マニュアル」(厚生省)に基づき100ppm、10分の次亜塩素酸洗浄を行った。その後、適正に脱水、乾燥処理をおこないカットキャベツを得た。
また、カットキャベツ水分量は「栄養表示基準における栄養表示等の分析方法」(消費者庁)に基づき70℃で5時間の減圧乾燥をおこなったときの重量減少を元に測定した水分量は17%であった
【0056】
(比較例1)
厚さ40μmのOPP(二軸延伸ポリプロピレン)フィルム2枚を重ね合わせて、3辺をヒートシールで封止のうえ切断して、1辺が未封止の包装袋(170mm×235mm、内寸の面積:799cm^(2))を作製した。
フィルム中の開口部の有無を観察したところ、開口部が存在しないことが確認された。
包装容器の酸素透過度は、1000CC/m^(2)/atm/dayであった。
包装容器にカットキャベツ150gを封入し、窒素充填後、ヒートシールして包装体を作製した。該包装体を10℃で保管し、1日毎に内部酸素濃度、及び内部二酸化炭素濃度を測定し、臭いセンサー測定を行うとともに、カットキャベツの異臭及び外観を評価した。
結果を表1に示す。
【0057】
(実施例1)
包装容器にレーザ加工にて直径100μmの孔を1個設けたこと、及び窒素に代えて、酸素70%、二酸化炭素30%の混合ガスを封入したことを除くほか、比較例1と同様にして包装体を作製し、評価を行った。
包装容器の酸素透過度は、2000CC/m^(2)/atm/dayであった。
結果を表1に示す。
【0058】
(実施例2)
混合ガスの組成を酸素50%、二酸化炭素50%に変更したことを除くほか、実施例1と同様にして包装体を作製し、評価を行った。
結果を表1に示す。
【0059】
(比較例2)
窒素に代えて、二酸化炭素100%を封入したことを除くほか、比較例1と同様にして包装体を作製し、評価を行った。
結果を表1に示す。
【0060】
(比較例3)
混合ガスに変えて二酸化炭素100%を封入したことを除くほか、実施例1と同様にして包装体を作製し、評価を行った。
結果を表1に示す。
【0061】
(比較例4)
厚さ40μmのOPP(二軸延伸ポリプロピレン)フィルムに直径300μmの針孔を1個設けたことを除くほか、比較例2と同様にして包装体を作製し、評価を行った。
包装容器の酸素透過率は、10000CC/m^(2)/atm/dayであった。
結果を表1に示す。
【0062】
(比較例5)
厚さ40μmのOPP(二軸延伸ポリプロピレン)フィルムに直径300μmの針孔を10個設けたことを除くほか、比較例2と同様にして包装体を作製し、評価を行った。
包装容器の酸素透過率は、30000CC/m^(2)/atm/dayであった。
結果を表1に示す。
【0063】
(参考例1)
混合ガスの組成を、酸素:14.7体積%/窒素:55.3体積%/二酸化炭素:30体積%に変更したことを除くほか、実施例1と同様にして包装体を作製し、評価を行った。
結果を表1に示す。
【表1】

【0064】
本発明所定の内部酸素濃度及び内部二酸化炭素濃度の条件を満たす、各実施例の包装体においては、封止後10℃の条件下で少なくとも96時間にわたって、カットキャベツの褐変及び異臭の発生が有効に抑制された。一方、比較例1においては、10℃の条件下で既に48時間目において異臭が生じ、カットキャベツの商品価値が一部損なわれた。
また、比較例4から5においては、封止後120時間において外観が劣化し、特に比較例5では封止後144時間においてカビが発生し、カットキャベツの商品価値が著しく損なわれた。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明の包装体は、高い経済的価値を有するカットキャベツ等のキャベツを含む青果物の褐変の抑制及び異臭の防止を長期間にわたり両立し、鮮度保持に特に有効であるなど、実用上高い価値を有するものであり、食品加工、流通、外食などの産業の各分野において高い利用可能性を有する。
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
延伸ポリプロピレンフィルム、ポリエチレン系フィルム、又は延伸フィルムとポリエチレン系フィルムとの積層体である2枚の高分子フィルムを互いに重ね合わせた状態、または1枚の該高分子フィルムを折り重ねた状態で融着してなる包装容器内にカットキャベツを含む青果物を収納してなる包装体であって、前記包装容器の酸素透過度が、22℃、40%RHにおいて、2000cc/m^(2)/atm/day以上、2500cc/m^(2)/atm/day以下であり、
包装体の封止直後における内部二酸化炭素濃度が、20体積%以上50体積%以下であり、
包装体の封止直後における内部酸素濃度が、14.7体積%以上70体積%以下であり、
包装体の封止後10℃の条件下で120時間保持した後における内部二酸化炭素濃度が38.8体積%以上48.4体積%以下、かつ、内部酸素濃度が13.1体積%以上13.4体積%以下である、上記包装体。
【請求項2】(削除)
【請求項3】(削除)
【請求項4】(削除)
【請求項5】
前記包装容器内に更に窒素が封入されている、請求項1に記載の包装体。
【請求項6】
前記高分子フィルムの厚みが、15から45μmである、請求項1又は5に記載の包装体。
【請求項7】
前記高分子フィルムが、少なくとも1種の抗菌剤を含有し、又は少なくとも1種の抗菌剤が塗布されている、請求項1及び5から6のいずれか一項に記載の包装体。
【請求項8】
更に吸湿剤、及び/又は抗菌剤を収納してなる、請求項1及び5から7のいずれか一項に記載の包装体。
【請求項9】(削除)
【請求項10】(削除)
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2021-09-30 
出願番号 特願2017-69127(P2017-69127)
審決分類 P 1 651・ 536- YAA (B65D)
P 1 651・ 113- YAA (B65D)
P 1 651・ 537- YAA (B65D)
P 1 651・ 121- YAA (B65D)
最終処分 維持  
前審関与審査官 二ッ谷 裕子  
特許庁審判長 久保 克彦
特許庁審判官 藤原 直欣
村山 達也
登録日 2019-12-27 
登録番号 特許第6636979号(P6636979)
権利者 三井化学東セロ株式会社 三井化学株式会社
発明の名称 キャベツを含む青果物の鮮度保持性能に優れた包装体、及び青果物の鮮度保持方法  
代理人 特許業務法人浅村特許事務所  
代理人 特許業務法人浅村特許事務所  
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