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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  A61K
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A61K
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  A61K
管理番号 1379845
異議申立番号 異議2020-700916  
総通号数 264 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-12-24 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-11-27 
確定日 2021-10-18 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6702783号発明「皮膚浸透促進剤」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6702783号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-4〕について訂正することを認める。 特許第6702783号の請求項1、2に係る特許を維持する。 特許第6702783号の請求項3、4に係る特許についての特許異議申立ては却下する。 
理由 第1 手続の経緯

特許第6702783号(以下「本件特許」という。)に係る特願2016-85987号は、平成28年4月22日を出願日(以下「本件出願日」という。)とするものであって、令和2年5月11日にその特許権の設定登録(請求項の数4)がなされ、同年6月3日に特許掲載公報が発行された。
そして、令和2年11月27日に異議申立人鈴木敏明(以下「申立人」という。)により請求項1?4に係る本件特許に対する特許異議の申立てがなされた。
以後の主要な経緯は以下のとおりである。

令和3年 2月16日付け 取消理由通知書
同年 4月14日 訂正請求書及び意見書の提出(特許権者)
同年 7月21日 意見書の提出(申立人)

第2 訂正の適否についての判断

1 請求の趣旨
令和3年4月14日提出の訂正請求書による訂正請求(以下「本件訂正請求」という。)は、「特許第6702783号の特許請求の範囲を、本訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1?4について訂正することを求める」ことを、請求の趣旨とするものである。

2 訂正の内容
本件訂正請求による訂正(以下「本件訂正」という。)の内容は、以下のとおりである。なお、下線は当審合議体が付した。

(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に、「式(I)で表される化合物・・・ただしR_(2)とR_(3)が同時に水酸基を示すことはない)」とあるのを「4-ブチルレゾルシノール、4-ブチルフェノール、4-ブチルカテコールおよび4-オクチルレゾルシノールからなる群より選択される少なくとも1種」に訂正する。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2に、「式(I)で表される化合物・・・ただしR_(2)とR_(3)が同時に水酸基を示すことはない)」とあるのを「4-ブチルレゾルシノール、4-ブチルフェノール、4-ブチルカテコールおよび4-オクチルレゾルシノールからなる群より選択される少なくとも1種」に訂正する。

(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項3を削除する。

(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項4を削除する。

訂正前の請求項3及び4はそれぞれ請求項1を引用しているので、これらの請求項は、訂正事項1により訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。
また、訂正前の請求項3及び4はそれぞれ請求項2を引用しているので、これらの請求項は、訂正事項2により訂正される請求項2に連動して訂正されるものである。
よって、訂正前の請求項1?4は一群の請求項を構成するものであり、訂正前の請求項1?4に対応する訂正後の請求項1?4は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。
したがって、本件訂正は、一群の請求項〔1-4〕について請求されたものである。

3 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1に係る訂正は、訂正前の請求項1における「式(I)で表される化合物・・・ただしR_(2)とR_(3)が同時に水酸基を示すことはない)」を「4-ブチルレゾルシノール、4-ブチルフェノール、4-ブチルカテコールおよび4-オクチルレゾルシノールからなる群より選択される少なくとも1種」に限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、本件特許の願書に添付した明細書(以下「本件特許明細書」という。)には、訂正前の請求項1における「式(I)で表される化合物」の例として、4-ブチルレゾルシノール、4-ブチルフェノール、4-ブチルカテコール及び4-オクチルレゾルシノールが記載されている(【0015】?【0017】)。
また、本件特許明細書における実施例において、皮膚浸透促進率を測定する評価物質として4-ブチルレゾルシノール、4-ブチルフェノール、4-ブチルカテコール及び4-オクチルレゾルシノールのいずれかが用いられている(【0035】の【表1】、【0037】の【表2】等)。
さらに、訂正前の請求項4には、「式(I)で表される化合物が4-ブチルレゾルシノール、4-ブチルフェノール、4-ブチルカテコールおよび4-オクチルレゾルシノールからなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1?3のいずれか1項記載の皮膚浸透促進剤」が記載されている。
これらの記載からみて、訂正事項1に係る訂正は、新たな技術的事項を導入するものではない。
よって、訂正事項1に係る訂正は、本件特許明細書及び訂正前の特許請求の範囲に記載した事項の範囲内のものであって、新規事項の追加に該当するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものでもない。

(2)訂正事項2に係る訂正は、訂正前の請求項2における「式(I)で表される化合物・・・ただしR_(2)とR_(3)が同時に水酸基を示すことはない)」を「4-ブチルレゾルシノール、4-ブチルフェノール、4-ブチルカテコールおよび4-オクチルレゾルシノールからなる群より選択される少なくとも1種」に限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、上記(1)で説示した訂正事項1に係る訂正と同様の理由により、訂正事項2に係る訂正は、新たな技術的事項を導入するものではない。
よって、訂正事項2に係る訂正は、本件特許明細書及び訂正前の特許請求の範囲に記載した事項の範囲内のものであって新規事項の追加に該当するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものでもない。

(3)訂正事項3に係る訂正は、訂正前の請求項3を削除する訂正であるので、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものでもない。

(4)訂正事項4に係る訂正は、訂正前の請求項4を削除する訂正であるので、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものでもない。

(5)独立特許要件について
本件特許異議の申立てにおいては、訂正前の請求項1?4について特許異議の申立てがされているので、特許法120条の5第9項において読み替えて準用する同法126条7項の独立特許要件は課されない。

4 本件訂正請求についてのまとめ
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正事項1?4に係る訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
よって、本件特許の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-4〕について訂正することを認める。

第3 本件訂正発明

前記第2で述べたとおり、本件訂正は認められるので、本件特許の請求項1?4に係る発明は、本件訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1?4に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。

「【請求項1】
4-ブチルレゾルシノール、4-ブチルフェノール、4-ブチルカテコールおよび4-オクチルレゾルシノールからなる群より選択される少なくとも1種を有効成分として含む皮膚浸透促進剤(ただし、以下の物質を除く:ウルソール酸リン酸エステル及び/又はその塩と、紫外線吸収剤を含有する皮膚外用組成物;下記式(II)に表される化合物及び/又はそれらの薬理学的に許容される塩と紫外線吸収剤を含有する皮膚外用組成物;4-アルキルレゾルシノール及び/又はその塩と、炭素数10?30のアシル基によりアシル化した蛋白加水分解物及び/又はその塩を含有する乳化剤形又は可溶化剤形の皮膚外用剤;ならびに、アルキルレゾルシノールの1種又は2種以上を含有し、多価アルコール、リン脂質及びポリグリセリン脂肪酸エステルを構成成分とする液晶相を経由して調製される乳化剤形の皮膚外用剤、

[式(II)中、R_(1)は、水素原子、炭素数1?8の直鎖又は分岐のアルキル基を表し、R_(2)は、水素原子、無置換又は置換基を有する芳香族基、無置換又は置換基を有する芳香族基により置換された炭素数1?4の脂肪族炭化水素基を表し、R_(3)は、無置換又は置換基を有する芳香族基を表し、nは、1又は2の整数、mは、0?3の整数を表す])。
【請求項2】
4-ブチルレゾルシノール、4-ブチルフェノール、4-ブチルカテコールおよび4-オクチルレゾルシノールからなる群より選択される少なくとも1種からなる、皮膚浸透剤。
【請求項3】(削除)
【請求項4】(削除)」

以下、請求項番号に対応して、それぞれの請求項に係る発明を「本件訂正発明1」等ともいい、本件訂正発明1?4をまとめて「本件訂正発明」ともいう。

第4 令和3年2月16日付け取消理由通知の概要

1 取消理由1(サポート要件)の概要は以下のとおりである。

本件出願日当時の技術水準に照らしても、本件特許明細書の発明の詳細な説明(以下「発明の詳細な説明」という。)の記載から、本件発明1?4のうち、式(I)で表される化合物に相当する実施例で用いられた上記4種類の化合物のいずれかを、実施例で用いられた上記7種類の生理活性成分に対する皮膚浸透促進剤として用いた場合以外の発明によって、本件発明1?4が解決すべき課題を解決できることを、当業者が認識できるとはいえない。
よって、本件発明1?4は、発明の詳細な説明に記載されたものとはいえない。

なお、上記「本件発明1?4」は、訂正前の請求項1?4に係る発明である(以下同様)。そして、取消理由1は、特許異議申立理由のうち、特許法第36条第6項第1号(同法第113条第4項)に係る理由に相当する。

2 取消理由2の概要は以下のとおりである。

本件出願日当時の技術水準に照らしても、発明の詳細な説明の記載から、本件発明1?4のうち、式(I)で表される化合物に相当する実施例で用いられた上記4種類の化合物のいずれかを、実施例で用いられた上記7種類の生理活性成分に対する皮膚浸透促進剤として用いた場合以外の発明によって、本件発明1?4が解決すべき課題を解決できることを、当業者が認識できるとはいえない。
発明の詳細な説明は、当業者が本件発明1?4の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されたものであるとはいえないので、特許法第36条第4項第1号に規定する要件(いわゆる実施可能要件)に適合するものであるとはいえない。

なお、取消理由2は、特許異議申立理由のうち、特許法第36条第4項第1号(同法第113条第4項)に係る理由に相当する。

第5 本件特許明細書に記載された事項

本件特許明細書には以下の記載がある。なお、下線は当審合議体が付した。

1 背景技術、発明が解決しようとする課題、課題解決手段、及び発明の効果についての記載
「【背景技術】
【0002】
薬物、保湿剤、美白剤等の生理活性成分を経皮的に投与する皮膚外用組成物は、投与が簡便かつ比較的安全性が高いことから、医薬または化粧料として広く利用されている。
【0003】
しかしながら、皮膚外用組成物には、生理活性成分の皮膚への透過性によりその効果が制限されるという問題がある。皮膚表面には角質層が存在し、この角質層は外部から異物の侵入を防ぐバリアー機能を有しているので生理活性成分を透過しにくい。とりわけ、分子量が大きいものや水溶性が高いものは、皮膚に透過し難いと考えられている。したがって一般的には、皮膚外用組成物は、生理活性成分の皮膚への透過を促進させる皮膚浸透促進剤(または経皮吸収促進剤ともいう)を含有する。・・・。
・・・
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、皮膚への生理活性成分の浸透を促進する物質に関する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、4-アルキルレゾルシノールまたはその類縁体に、他の物質の皮膚浸透を促進するというこれまで知られていなかった新たな作用があることを見出し、本発明を完成した。
【0008】
したがって、本発明は、式(I)で表される化合物:

(式中、
R_(1)は炭素数2?10の飽和直鎖アルキル基を示し、
R_(2)およびR_(3)は、各々独立に水素または水酸基を示すが、ただしR_(2)とR_(3)が同時に水酸基を示すことはない)
を含む皮膚浸透促進剤を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、生理活性成分の皮膚浸透性が向上した、より有効性の高い皮膚外用組成物を提供することができる。」

2 発明を実施するための形態についての記載
「【0010】
皮膚浸透促進剤は、それ自身以外の他の化合物の皮膚への浸透(あるいは経皮吸収ということもできる)を促進する物質である。すなわち、ある生理活性成分を皮膚浸透促進剤とともに皮膚に塗布した場合、該皮膚浸透促進剤と併用しない場合と比較して、該生理活性成分の皮膚への浸透量は向上する。ところで、4-ブチルレゾルシノール等のアルキルレゾルシノールは、従来、化粧料などの皮膚外用組成物において、該組成物に美白作用などの生理活性を付与するための生理活性成分として使用されていた。しかしながら、それ自身以外の他の生理活性成分の皮膚浸透促進を目的として使用されたことはなかった。すなわち、4-アルキルレゾルシノールまたはその類縁体に皮膚浸透促進剤としての作用があることは、これまで知られていなかった。
【0011】
本発明は、目的物質の皮膚浸透促進のために使用するという、4-アルキルレゾルシノールまたはその類縁体の新たな用途を提供する。」

「【0012】
したがって、本発明は、下記式(I)で表される化合物(以下、式(I)化合物とも称する)を有効成分として含む皮膚浸透促進剤を提供する。

【0013】
上記式(I)中、R_(1)は炭素数2?10の飽和直鎖アルキル基を示し、好ましくは炭素数4?8の飽和直鎖アルキル基を示す。・・・。
【0014】
上記式(I)中、R_(2)およびR_(3)は、各々独立に水素または水酸基を示す。ただしR_(2)とR_(3)が同時に水酸基を示すことはない。・・・。
・・・
【0015】
式(I)化合物の例としては、4-エチルレゾルシノール、4-プロピルレゾルシノール、4-ブチルレゾルシノール(ルシノール)、・・・、4-オクチルレゾルシノール、・・・から選択される4-アルキルレゾルシノール化合物;4-エチルフェノール、4-プロピルフェノール、4-ブチルフェノール、・・・から選択される4-アルキルフェノール化合物;ならびに4-エチルカテコール、4-プロピルカテコール、4-ブチルカテコール、・・・から選択される4-アルキルカテコール化合物が挙げられる。」

「【0023】
本発明の皮膚外用組成物は、上記皮膚浸透促進剤以外に、生理活性または薬効をもたらす生理活性成分を含有する。該生理活性成分は、皮膚外用組成物に使用され得るものであれば特に制限されず、水溶性成分でも脂溶性成分でもよい。好適には、該生理活性成分は、水オクタノール分配係数(Log Ko/w)が、好ましくは-10?+5の範囲であり、より好ましくは-7?+4の範囲である。さらに本発明の皮膚外用組成物は、所望する効能に応じて、1種または2種以上の有効成分を含有することができる。
【0024】
本発明の皮膚外用組成物に含有され得る上記生理活性成分の例としては、消炎・鎮痛剤、抗炎症剤、抗菌剤、ホルモン剤、抗ヒスタミン剤、ステロイド剤、抗アレルギー剤、血管拡張剤、強心剤、抗不整脈剤、抗狭心症剤、抗高血圧剤、インスリン製剤、金属イオン封鎖剤、ビタミン類、皮膚軟化剤、保湿剤、美白剤、抗シワ剤、収斂剤、紫外線吸収剤、発毛・育毛剤、発汗防止剤、防臭剤などが挙げられるが、これらに限定されない。上記生理活性成分のより具体的な例としては、限定ではないが、アンチピリン等の消炎・鎮痛剤、アスコルビン酸もしくはその誘導体(アスコルビン酸グルコシド、アスコルビン酸エチル等)およびアルブチン等の美白剤、リボフラビン等のビタミン剤、トランス-3,4’-ジメチル-3-ヒドロキシフラバノン等の発毛もしくは育毛剤、イソプロピルメチルフェノール等の殺菌剤、などを挙げることができる。・・・。」

3 実施例についての記載
「【実施例】
【0033】
以下、実施例に基づき本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0034】
実施例1 皮膚浸透性試験1
表1に示す評価物質を、表1記載の濃度でPBSに添加し、さらに生理活性成分としてピリン系鎮痛解熱剤アンチピリンを試験溶液中で5mg/mLとなるよう添加して、試験溶液を調製した。
・・・
【0035】

【0036】
実施例2 皮膚浸透性試験2
アンチピリン以外の様々な生理活性成分を用いて、実施例1と同様の手順で皮膚浸透性を調べた。試験溶液には、4-ブチルレゾルシノールまたは4-オクチルレゾルシノールの0.2%溶液を用いた。生理活性成分の溶解性を鑑み、トランス-3,4’-ジメチル-3-ヒドロキシフラバノンとイソプロピルメチルフェノールを含む試験溶液の溶媒には50%エタノールを用いた。結果を表2に示す。
・・・
【0037】



第6 取消理由1についての判断

1 発明の詳細な説明の記載(上記「第5」)から、本件訂正発明が解決すべき課題(以下「本件訂正発明の課題」という。)は、生理活性成分の皮膚浸透性が向上した、より有効性の高い皮膚外用組成物を提供することである(【0003】及び【0006】等)。
そして、その解決手段は、4-ブチルレゾルシノール、4-ブチルフェノール、4-ブチルカテコール及び4-オクチルレゾルシノールからなる群より選択される少なくとも1種を有効成分として含む皮膚浸透促進剤(本件訂正発明1)、又は4-ブチルレゾルシノール、4-ブチルフェノール、4-ブチルカテコール及び4-オクチルレゾルシノールからなる群より選択される少なくとも1種からなる皮膚浸透促進剤(本件訂正発明2)を用いることであると解される(【0007】?【0009】等)。

2 発明の詳細な説明には、本件訂正発明1又は本件訂正発明2の皮膚浸透促進剤について、以下の内容が記載されていると認められる。

(1)本件訂正発明1又は本件訂正発明2の皮膚浸透促進剤によって皮膚浸透性が促進される生理活性成分としては、皮膚外用組成物に使用され得るものであれば水溶性成分でも脂溶性成分でもよく、そして水溶性又は脂溶性の物性を表す指標として、水オクタノール分配係数(LogKo/w)を用い、使用され得る好適な生理活性成分のLogKo/wが、好ましくは-10?+5の範囲であり、より好ましくは-7?+4の範囲であること(【0023】)。
なお、水オクタノール分配係数(LogKo/w)は、化合物の水溶解度と高い相関を示す物性値である(要すれば「Bull.Jap.Env.Sanit.Cent.(日環セ所報),1994,No.21,p.101-110」の「6.1 水溶解度(Sw)とオクタノール/水分配係数(Pow)との関係」の項目を参照。)。

(2)上記生理活性成分のより具体的な例としては、限定ではないが、例えばアンチピリン等の消炎・鎮痛剤、アスコルビン酸若しくはその誘導体(アスコルビン酸グルコシド、アスコルビン酸エチル等)及びアルブチン等の美白剤、リボフラビン等のビタミン剤、トランス-3,4’-ジメチル-3-ヒドロキシフラバノン等の発毛若しくは育毛剤、イソプロピルメチルフェノール等の殺菌剤等が挙げられること(【0024】)。

(3)実施例1の皮膚透過性試験1において、4-ブチルレゾルシノール、4-ブチルフェノール、4-ブチルカテコール及び4-オクチルレゾルシノールのいずれを用いた場合でも、レゾルシノール(比較例)を用いた場合と比較して、アンチピリンに対して、高い皮膚浸透促進率(%)が得られたこと(【0034】?【0035】)。

(4)実施例2の皮膚透過性試験2において、4-ブチルレゾルシノール及び/又は4-オクチルレゾルシノールを用いた場合に、アスコルビン酸グルコシド(LogKo/wは-6.78)、アスコルビン酸エチル(LogKo/wは-3.31)、アンチピリン(LogKo/wは-1.507)、リボフラビン(LogKo/wは-1.46)、アルブチン(LogKo/wは-0.98)、トランス-3,4’-ジメチル-3-ヒドロキシフラバノン(LogKo/wは2.74)、イソプロピルメチルフェノール(LogKo/wは3.52)に対して、高い経皮吸収促進率(%)が得られたこと(【0036】?【0037】)

3 そして、上記2(1)?(4)を参酌した当業者は、4-ブチルレゾルシノール、4-ブチルフェノール、4-ブチルカテコール及び4-オクチルレゾルシノールのいずれかを用いることにより、水溶性から脂溶性まで幅広い物性範囲の複数種の生理活性成分に対して皮膚浸透促進効果が得られ、本件訂正発明の課題を解決できることを認識できるといえる。
よって、本件訂正発明1及び2は、発明の詳細な説明の記載により、当業者が本件訂正発明の課題を解決できると認識できる範囲内のものであるといえる。

4 申立人の主張について
申立人は、本件特許明細書の実施例は、「4-アルキルレゾルシノール類により構造や活性の異なる様々な化合物の皮膚浸透性が向上することを示している」とは言えず、当業者はかかる記載をみても、訂正後の請求項1又は2に記載されるいかなる4-アルキルレゾルシノール類によっても、あらゆる生理活性成分の皮膚浸透性を向上させることができることを理解できないという趣旨の主張をしている(令和3年7月21日提出の意見書のp.3の第2段落等)。
しかし、実施例を参酌した当業者は、4-ブチルレゾルシノール、4-ブチルフェノール、4-ブチルカテコール及び4-オクチルレゾルシノールのいずれかを用いることにより、水溶性から脂溶性まで幅広い物性範囲の複数種の生理活性成分に対して皮膚浸透促進効果が得られることを理解できるといえることは、上記3で説示したとおりであるから、申立人による上記主張は認められない。

5 小括
以上のとおりであるから、本件明細書の特許請求の範囲の記載は特許法第36条第6項第1号に規定する要件(いわゆるサポート要件)に適合しているといえるので、訂正後の請求項1及び2に係る特許は、取消理由1によって取り消すことはできない。

第7 取消理由2についての判断

1 本件訂正発明は「皮膚浸透促進剤」の発明であるから、特許法第2条第3項第1号にいう「物」の発明であり、「物」の発明の実施には、その「物」を使用する行為が含まれる。
そして、発明の詳細な説明の記載(【0006】?【0009】等)から、本件訂正発明の「皮膚浸透促進剤」を使用する行為は、4-ブチルレゾルシノール、4-ブチルフェノール、4-ブチルカテコール及び4-オクチルレゾルシノールからなる群より選択される少なくとも1種を有効成分として含む皮膚浸透促進剤(本件訂正発明1)、又は4-ブチルレゾルシノール、4-ブチルフェノール、4-ブチルカテコール及び4-オクチルレゾルシノールからなる群より選択される少なくとも1種からなる皮膚浸透促進剤(本件訂正発明2)を用いて、生理活性成分の皮膚浸透性を促進することであると解される。

2 そして、発明の詳細な説明に記載された事項(上記「第6 2」)を参酌した当業者は、4-ブチルレゾルシノール、4-ブチルフェノール、4-ブチルカテコール及び4-オクチルレゾルシノールのいずれかを用いることにより、水溶性から脂溶性まで幅広い物性範囲の複数種の生理活性成分に対して皮膚浸透促進効果が得られることを理解できるといえる。
よって、当業者は、発明の詳細な説明の記載から、本件訂正発明1及び2を実施できることを理解できるといえる。

3 小括
以上のとおりであるから、発明の詳細な説明は、当業者が本件訂正発明1及び2の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されたものであり、特許法第36条第4項第1号に規定する要件(いわゆる実施可能要件)に適合するものであるといえるので、訂正後の請求項1及び2に係る特許は、取消理由2によって取り消すことはできない。

第8 令和3年2月16日付け取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について

1 上記取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由

(1)申立人は、訂正前の請求項1?4に対し、特許法第29条第2項(同法第113条第2項)に係る特許異議申立理由(以下「申立理由1」という。)を主張しており、その概要は以下のとおりである。

請求項1及び2に係る発明は、甲第1号証?甲第3号証に記載された発明に基いて、本件特許の出願日前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
また、請求項3及び4に係る発明は、甲第1号証?甲第3号証に記載された発明及び甲第4号証に記載された周知技術に基いて、本件特許の出願日前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
よって、請求項1?4に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。

また、証拠方法として提出された甲第1号証?甲第4号証は以下のとおりである。
・甲第1号証:特開2014-97941号公報
・甲第2号証:特開2014-97942号公報
・甲第3号証:特開2014-97943号公報
・甲第4号証:特開2009-23947号公報
以下、甲第1号証?甲第4号証を、それぞれ甲1?甲4のように記載する。

(2)上記「第2」で説示したとおり、本件訂正により請求項3及び4は削除されたので、検討を要しない。

(3)よって、以下では、訂正後の請求項1及び2に係る特許に対する申立理由1について検討する。

2 甲1?甲4に記載された事項
(1)甲1(特開2014-97941号公報)には以下の事項が記載されている。なお、下線及び表中の黒枠は、当審合議体が付した。以下同様である。
(摘記1-1)
「【請求項1】
1)下記一般式(化1)に表される化合物及び/又はそれらの薬理学的に許容される塩と、2)紫外線吸収剤を含有することを特徴とする皮膚外用組成物。
【化1】


[式中、Aは、無置換又は置換基を有するアリ-ル基よりなる群からそれぞれ独立に選ばれるジ又はトリアリ-ルメチル基を表し、Xは、窒素原子又はNH基又は酸素原子を表し、R_(1)は、水素原子、水素原子又は炭素原子が複素原子で置換されていてもよい炭素数3?8の環状脂肪族炭化水素基又は芳香族炭化水素基を表し、前記の環状脂肪族炭化水素基又は芳香族炭化水素基の環は、Xが窒素原子の場合のみR_(1)のもう一方の末端がXに再び結合して形成される環も包含する。]
・・・
【請求項4】
4-n-ブチルレゾルシノールを含有することを特徴とする請求項1?3何れか1項に記載の皮膚外用組成物。」(【請求項1】?【請求項4】)

(摘記1-2)
「【0001】
本発明は、皮膚外用組成物に関し、更に詳細には、高い紫外線吸収効果を有し、かつ薬剤の高い経皮吸収効果を有する皮膚外用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
シワ、しみ、たるみ等の皮膚症状は、遺伝的な要因に加え、温度変化、紫外線及び化学物質暴露、物理的刺激の蓄積により、加齢と共に顕在化する皮膚老化症状である。
・・・
【0006】
しかしながら、化学構造が立体的に嵩高い芳香族基又は複素芳香族基(特に、ジフェニルメチル基またはトリフェニルメチル基)を有する化合物が紫外線吸収剤を安定化させ、かつ紫外線吸収剤が立体的に嵩高い芳香族基又は複素芳香族基(特に、ジフェニルメチル基またはトリフェニルメチル基)を有する化合物の経皮吸収性を高めることは全く知られていなかった。
・・・
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
化学構造が立体的に嵩高い芳香族基又は複素芳香族基(特に、ジフェニルメチル基またはトリフェニルメチル基)を有する化合物においても高い経皮吸収性を実現でき、かつ紫外線吸収剤の高温での分解を抑え高い紫外線カット効果を有する、皮膚外用組成物の提供を課題とした。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この様な状況に鑑みて、本発明者らは、化粧品分野で使用できうる原料を検討し、新たな皮膚外用組成物を目指して鋭意研究した結果、以下に示すような新たな皮膚外用組成物が、該課題を解決できることを見出し、本発明を完成させた。すなわち本発明は以下に示すとおりである。
【0010】
<1> 1)下記一般式(化1)に表される化合物及び/又はそれらの薬理学的に許容される塩と、2)紫外線吸収剤を含有することを特徴とする皮膚外用組成物。
【化1】


・・・
<2> 紫外線吸収剤が、サリチル酸ホモメンチル、・・・パラメトキシケイ皮酸2-エチルヘキシル、・・・、2,2’-メチレンビス(6-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-4-(1,1,3,3-テトラメチルブチル)フェノール)から選択される1種乃至は2種以上を含有することを特徴とする、<1>に記載の皮膚外用組成物。
<3> 金属酸化物粉体を含有することを特徴とする<1>又は<2>に記載の皮膚外用組成物。
<4> 4-n-ブチルレゾルシノールを含有することを特徴とする<1>?<3>何れか1つに記載の皮膚外用組成物。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、化学構造が立体的に嵩高い芳香族基又は複素芳香族基(特に、ジフェニルメチル基またはトリフェニルメチル基)を有する化合物においても、高い経皮吸収性を実現でき、かつ紫外線吸収剤の高温での分解を抑え高い紫外線カット効果を有する、皮膚外用組成物の提供ができる。」(【0001】?【0011】)

(摘記1-3)
「【0012】
<本発明に用いる一般式(化1)に表される化合物及び/又はそれらの薬理学的に許容される塩>
前記一般式(化1)に表される化合物の内、・・・2-[(トリフェニルメチル)オキシ]エタノ-ル(化2)、1-(トリフェニルメチル)ピペリジン(化3)及び/又はそれらの薬理学的に許容される塩がより好適に例示出来る。・・・。
【0013】
【化2】


2-[(トリフェニルメチル)オキシ]エタノ-ル
【0014】
【化3】


1-(トリフェニルメチル)ピペリジン
【0015】
<本発明に用いる紫外線吸収剤>
前記紫外線吸収剤としては、化粧料などの皮膚外用剤の分野で使用されているものであれば特段の限定なく適応することができ、桂皮酸系紫外線吸収剤、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、安息香酸系紫外線吸収剤、サリチル酸系紫外線吸収剤、ジベンゾイルメタン系紫外線吸収剤、アントラニル酸系紫外線吸収剤、ウロカニン酸系紫外線吸収剤などが例示できる。具体的には、サリチル酸ホモメンチル、パラメトキシケイ皮酸2-エチルヘキシル、・・・2,2’-メチレンビス(6-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-4-(1,1,3,3-テトラメチルブチル)フェノール)などが好適に例示出来る。皮膚外用組成物中に、好ましくは総量で0.001?20質量%、より好ましくは総量で0.01?10質量%含有させることがよい。
・・・
【0017】
<本発明に用いる4-n-ブチルレゾルシノール>
本発明に用いる4-n-ブチルレゾルシノールは、化粧料などの皮膚外用剤の分野で使用されているものであれば特段の限定なく適応することができる。皮膚外用組成物中に、好ましくは総量で0.01?3質量%、より好ましくは総量で0.1?0.5質量%含有させることがよい。」(【0012】?【0017】)

(摘記1-4)
「【0020】
<本発明の皮膚外用組成物の製造例>
以下に示す処方に従って、本発明の皮膚外用組成物を作製した。すなわち、表1の実施例1の(A)を60℃に加熱し、乳化機にて5000rpmで攪拌混合しながら、(A)に各々均一に溶解、分散させた(B)、(C)、(D)、(E)を添加し、その後1000rpmに攪拌スピードを低下させ、30℃まで冷却して、実施例1の皮膚外用組成物を得た。
・・・
【0022】
<本発明の皮膚外用組成物>
実施例1に対し、2-[(トリフェニルメチル)オキシ]エタノ-ルを1-(トリフェニルメチル)ピペリジンに置換した実施例2を調製した。・・・実施例1,2に対し、4-n-ブチルレゾルシノールを削除した実施例11,12、・・・パラメトキシケイ皮酸-2-エチルヘキシルを削除した比較例5,6、・・・も同様に調製した。表1?4に示す。
・・・
【0026】
<試験例1 皮膚外用組成物のSPF値>
・・・
【0027】
<試験例2 皮膚外用組成物の経皮吸収性評価>
パネル10名の前腕内側部に1cm×1cmの部位を6つ設け、それぞれに前記調製した皮膚外用組成物である試験サンプルを7μL塗布し、1時間20℃で静置した後、テトラヒドロフラン(THF)を含浸させた脱脂綿で皮膚を拭き取り、この脱脂綿を100mlのTHFで3回抽出し、抽出物中の2-[(トリフェニルメチル)オキシ]エタノ-ルあるいは1-(トリフェニルメチル)ピペリジンの回収量を高速液体クロマトグラフィーで定量した。回収率を経皮吸収性とし(値が低いほど経皮吸収性が高い)、各試験サンプルを2回評価し、その平均を表1?4に示す。
【0028】
<試験例3 皮膚外用組成物の色、においの評価>
・・・
【0029】
[色、におい評価基準]
・・・
【0030】
表1?4の結果より、本発明によれば、化学構造が立体的に嵩高い芳香族基又は複素芳香族基(特に、ジフェニルメチル基またはトリフェニルメチル基)を有する化合物においても、高い経皮吸収性を実現でき、かつ紫外線吸収剤の高温での分解を抑え高い紫外線カット効果を有する、皮膚外用組成物の提供ができる。」(【0020】?【0030】)

(摘記1-5)
実施例1、2、11、12、比較例5及び6(甲1に記載された表の体裁を保持した上で、当審合議体が一部を抜粋して作成した表である。また、各成分の含有量の単位は質量%である。)


(2)甲2(特開2014-97942号公報)には、以下の事項が記載されている。

(摘記2-1)
「【請求項1】
1)下記一般式(化1)に表される化合物及び/又はそれらの薬理学的に許容される塩と、2)紫外線吸収剤を含有することを特徴とする皮膚外用組成物。
【化1】


[式中、R_(1)は、水素原子、炭素数1?8の直鎖又は分岐のアルキル基を表し、R_(2)は、水素原子、無置換又は置換基を有する芳香族基、無置換又は置換基を有する芳香族基により置換された炭素数1?4の脂肪族炭化水素基を表し、R_(3)は、無置換又は置換基を有する芳香族基を表し、nは、1又は2の整数、mは、0?3の整数を表す。]
・・・
【請求項4】
4-n-ブチルレゾルシノールを含有することを特徴とする請求項1?3何れか1項に記載の皮膚外用組成物。」(【請求項1】?【請求項4】)

(摘記2-2)
「【0001】
本発明は、皮膚外用組成物に関し、更に詳細には、高い紫外線吸収効果を有し、かつ薬剤の高い経皮吸収効果を有する、皮膚外用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
シワ、しみ、たるみ等の皮膚症状は、遺伝的な要因に加え、温度変化、紫外線及び化学物質暴露、物理的刺激の蓄積により、加齢と共に顕在化する皮膚老化症状である。
・・・
【0006】
しかしながら、システイン酸誘導体が紫外線吸収剤を安定化させ、かつ紫外線吸収剤が立体的に嵩高い分岐構造を有しつつ水溶性である化合物のシステイン酸誘導体の経皮吸収性を高めることは全く知られていなかった。
・・・
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
化学構造が立体的に嵩高い分岐構造を有しつつ水溶性である化合物においても、高い経皮吸収性を実現でき、かつ紫外線吸収剤の高温での分解を抑え高い紫外線カット効果を有する、皮膚外用組成物の提供を課題とした。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この様な状況に鑑みて、本発明者らは、化粧品分野で使用できうる原料を検討し、新たな皮膚外用組成物を目指して鋭意研究した結果、以下に示すような新たな皮膚外用組成物が、該課題を解決できることを見出し、本発明を完成させた。すなわち本発明は以下に示すとおりである。
【0010】
<1> 1)下記一般式(化1)に表される化合物及び/又はそれらの薬理学的に許容される塩と、2)紫外線吸収剤を含有することを特徴とする皮膚外用組成物。
【化1】


・・・
<2> 紫外線吸収剤が、サリチル酸ホモメンチル、・・・パラジメチルアミノ安息香酸2-エチルヘキシル、・・・2,2’-メチレンビス(6-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-4-(1,1,3,3-テトラメチルブチル)フェノール)から選択される1種乃至は2種以上を含有することを特徴とする、<1>に記載の皮膚外用組成物。
<3> 金属酸化物粉体を含有することを特徴とする<1>又は<2>に記載の皮膚外用組成物。
<4> 4-n-ブチルレゾルシノールを含有することを特徴とする<1>?<3>何れか1つに記載の皮膚外用組成物。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、化学構造が立体的に嵩高い分岐構造を有しつつ水溶性である化合物においても、高い経皮吸収性を実現でき、かつ紫外線吸収剤の高温での分解を抑え高い紫外線カット効果を有する、皮膚外用組成物の提供ができる。」(【0001】?【0011】)

(摘記2-3)
「【0012】
<本発明に用いる一般式(化1)に表される化合物及び/又はそれらの薬理学的に許容される塩>
前記一般式(化1)に表される化合物の内、・・・N-(p-トルイル)システイン酸、N-(p-メトキシベンゾイル)システイン酸及び/又はそれらの薬理学的に許容される塩がより好適に例示出来る。・・・。
【0013】
【化2】


N-(p-トルイル)システイン酸
【0014】
【化3】


N-(p-メトキシベンゾイル)システイン酸
【0015】
<本発明に用いる紫外線吸収剤>
前記紫外線吸収剤としては、化粧料などの皮膚外用剤の分野で使用されているものであれば特段の限定なく適応することができ、桂皮酸系紫外線吸収剤、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、安息香酸系紫外線吸収剤、サリチル酸系紫外線吸収剤、ジベンゾイルメタン系紫外線吸収剤、アントラニル酸系紫外線吸収剤、ウロカニン酸系紫外線吸収剤などが例示できる。具体的には、サリチル酸ホモメンチル、・・・パラメトキシケイ皮酸2-エチルヘキシル、・・・2,2’-メチレンビス(6-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-4-(1,1,3,3-テトラメチルブチル)フェノール)などが好適に例示出来る。皮膚外用組成物中に、好ましくは総量で0.001?20質量%、より好ましくは総量で0.01?10質量%含有させることがよい。
・・・
【0017】
<本発明に用いる4-n-ブチルレゾルシノール>
本発明に用いる4-n-ブチルレゾルシノールは、化粧料などの皮膚外用剤の分野で使用されているものであれば特段の限定なく適応することができる。皮膚外用組成物中に、好ましくは総量で0.01?3質量%、より好ましくは総量で0.1?0.5質量%含有させることがよい。」(【0012】?【0017】)

(摘記2-4)
「【0020】
<本発明の皮膚外用組成物の製造例>
以下に示す処方に従って、本発明の皮膚外用組成物を作製した。すなわち、表1の実施例1の(A)を60℃に加熱し、乳化機にて5000rpmで攪拌混合しながら、(A)に各々均一に溶解、分散させた(B)、(C)、(D)、(E)を添加し、その後1000rpmに攪拌スピードを低下させ、30℃まで冷却して、実施例1の皮膚外用組成物を得た。
・・・
【0022】
<本発明の皮膚外用組成物>
実施例1に対し、N-(p-トルイル)システイン酸をN-(p-メトキシベンゾイル)システイン酸に置換した実施例2を調製した。・・・実施例1,2に対し、4-n-ブチルレゾルシノールを削除した実施例11,12、・・・パラメトキシケイ皮酸-2-エチルヘキシルを削除した比較例5,6、・・・も同様に調製した。表1?4に示す。
・・・
【0026】
<試験例1 皮膚外用組成物のSPF値>
・・・
【0027】
<試験例2 皮膚外用組成物の経皮吸収性評価>
パネル10名の前腕内側部に1cm×1cmの部位を6つ設け、それぞれに前記調製した皮膚外用組成物である試験サンプルを7μL塗布し、1時間20℃で静置した後、テトラヒドロフラン(THF)を含浸させた脱脂綿で皮膚を拭き取り、この脱脂綿を100mlのTHFで3回抽出し、抽出物中のN-(p-トルイル)システイン酸あるいはN-(p-メトキシベンゾイル)システイン酸の回収量を高速液体クロマトグラフィーで定量した。回収率を経皮吸収性とし(値が低いほど経皮吸収性が高い)、各試験サンプルを2回評価し、その平均を表1?4に示す。
【0028】
<試験例3 皮膚外用組成物の色、においの評価>
・・・
【0029】
[色、におい評価基準]
・・・
【0030】
表1?4の結果より、本発明によれば、化学構造が立体的に嵩高い分岐構造を有しつつ水溶性である化合物においても、高い経皮吸収性を実現でき、かつ紫外線吸収剤の高温での分解を抑え高い紫外線カット効果を有する、皮膚外用組成物の提供ができる。」(【0020】?【0030】)

(摘記2-5)
実施例1、2、11、12、比較例5及び6(甲2に記載された表の体裁を保持した上で、当審合議体が抜粋して作成した表である。また、表中、各成分の含有量の単位は質量%である。)


(3)甲3(特開2014-97943公報)には、以下の事項が記載されている。

(摘記3-1)
「【請求項1】
1)ウルソール酸リン酸エステル及び/又はその塩と、2)紫外線吸収剤を含有することを特徴とする皮膚外用組成物。
【化1】


・・・
【請求項4】
4-n-ブチルレゾルシノールを含有することを特徴とする請求項1?3何れか1項に記載の皮膚外用組成物。」(【請求項1】?【請求項4】)

(摘記3-2)
「【0001】
本発明は、皮膚外用組成物に関し、更に詳細には、高い紫外線吸収効果を有し、かつ薬剤の高い経皮吸収効果を有する、皮膚外用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
トリテルペンは、高麗人参などのウコギ科の植物類、チョレイ、サルノコシカケなどの真菌類をはじめとするほとんどの生薬の基源となる植物体中に存在し、これまでにも数多くのトリテルペン骨格を有する化合物が単離精製されている。・・・特に、ウルソ-ル酸、ウルソ-ル酸誘導体は、しわ改善作用、美肌作用、抗酸化作用、メラニン産生抑制作用、抗炎症作用などの様々な生物活性を示すことが知られているが、これらの作用を十分に発揮させるまでの配合が困難であった。
・・・
【0006】
しかしながら、ウルソ-ル酸リン酸エステルが紫外線吸収剤を安定化させ、かつ紫外線吸収剤がウルソ-ル酸リン酸エステルの経皮吸収性を高めることは全く知られていなかった。
・・・
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ウルソ-ル酸リン酸エステルの高い経皮吸収性を実現でき、かつ紫外線吸収剤の高温での分解を抑え高い紫外線カット効果を有する、皮膚外用組成物の提供を課題とした。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この様な状況に鑑みて、本発明者らは、化粧品分野で使用できうる原料を検討し、新たな皮膚外用組成物を目指して鋭意研究した結果、以下に示すような新たな皮膚外用組成物が、該課題を解決できることを見出し、本発明を完成させた。すなわち本発明は以下に示すとおりである。
【0010】
<1> 1)ウルソール酸リン酸エステル及び/又はその塩と、2)紫外線吸収剤を含有することを特徴とする皮膚外用組成物。
【化1】


<2> 紫外線吸収剤が、サリチル酸ホモメンチル、・・・パラメトキシケイ皮酸2-エチルヘキシル、・・・2,2’-メチレンビス(6-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-4-(1,1,3,3-テトラメチルブチル)フェノール)から選択される1種乃至は2種以上を含有することを特徴とする、<1>に記載の皮膚外用組成物。
<3> 金属酸化物粉体を含有することを特徴とする<1>又は<2>に記載の皮膚外用組成物。
<4> 4-n-ブチルレゾルシノールを含有することを特徴とする<1>?<3>何れか1つに記載の皮膚外用組成物。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、ウルソ-ル酸リン酸エステルの高い経皮吸収性を実現でき、かつ紫外線吸収剤の高温での分解を抑え高い紫外線カット効果を有する、皮膚外用組成物の提供ができる。」(【0001】?【0011】)

(摘記3-3)
「【0012】
<本発明に用いるウルソール酸リン酸エステル及び/又はその塩>
ウルソール酸リン酸エステル及び/又はその塩は、水酸基を有するウルソール酸の該水酸基の少なくとも1個をリン酸化してなる。・・・この様な塩としては、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩、・・・アルギニン塩等の塩基性アミノ酸塩等が好ましく例示でき、カリウム塩がより好ましい。・・・。
【0013】
<本発明に用いる紫外線吸収剤>
前記紫外線吸収剤としては、化粧料などの皮膚外用剤の分野で使用されているものであれば特段の限定なく適応することができ、桂皮酸系紫外線吸収剤、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、安息香酸系紫外線吸収剤、サリチル酸系紫外線吸収剤、ジベンゾイルメタン系紫外線吸収剤、アントラニル酸系紫外線吸収剤、ウロカニン酸系紫外線吸収剤などが例示できる。具体的には、サリチル酸ホモメンチル、・・・パラメトキシケイ皮酸2-エチルヘキシル、・・・2,2’-メチレンビス(6-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-4-(1,1,3,3-テトラメチルブチル)フェノール)などが好適に例示出来る。皮膚外用組成物中に、好ましくは総量で0.001?20質量%、より好ましくは総量で0.01?10質量%含有させることがよい。
・・・
【0015】
<本発明に用いる4-n-ブチルレゾルシノール>
本発明に用いる4-n-ブチルレゾルシノールは、化粧料などの皮膚外用剤の分野で使用されているものであれば特段の限定なく適応することができる。皮膚外用組成物中に、好ましくは総量で0.01?3質量%、より好ましくは総量で0.1?0.5質量%含有させることがよい。」(【0012】?【0015】)

(摘記3-4)
「【0018】
<本発明の皮膚外用組成物の製造例>
以下に示す処方に従って、本発明の皮膚外用組成物を作製した。すなわち、表1の実施例1の(A)を60℃に加熱し、乳化機にて5000rpmで攪拌混合しながら、(A)に各々均一に溶解、分散させた(B)、(C)、(D)、(E)を添加し、その後1000rpmに攪拌スピードを低下させ、30℃まで冷却して、実施例1の皮膚外用組成物を得た。
・・・
【0020】
<本発明の皮膚外用組成物>
実施例1に対し、ウルソール酸リン酸エステルをウルソール酸リン酸エステルカリウム塩に置換した実施例2を調製した。・・・実施例1,2に対し、4-n-ブチルレゾルシノールを削除した実施例11,12、・・・・・・パラメトキシケイ皮酸-2-エチルヘキシルを削除した比較例5,6、・・・も同様に調製した。表1?4に示す。
・・・
【0024】
<試験例1 皮膚外用組成物のSPF値>
・・・
【0025】
<試験例2 皮膚外用組成物の経皮吸収性評価>
パネル10名の前腕内側部に1cm×1cmの部位を6つ設け、それぞれに前記調製した皮膚外用組成物である試験サンプルを7μL塗布し、1時間20℃で静置した後、テトラヒドロフラン(THF)を含浸させた脱脂綿で皮膚を拭き取り、この脱脂綿を100mlのTHFで3回抽出し、抽出物中のウルソール酸リン酸エステルあるいはウルソール酸リン酸エステルカリウム塩の回収量を高速液体クロマトグラフィーで定量した。回収率を経皮吸収性とし(値が低いほど経皮吸収性が高い)、各試験サンプルを2回評価し、その平均を表1?4に示す。
【0026】
<試験例3 皮膚外用組成物の色、においの評価>
・・・
【0027】
[色、におい評価基準]
・・・
【0028】
表1?4の結果より、本発明によれば、ウルソ-ル酸リン酸エステルの高い経皮吸収性を実現でき、かつ紫外線吸収剤の高温での分解を抑え高い紫外線カット効果を有する、皮膚外用組成物の提供ができる。」(【0018】?【0028】)

(摘記3-5)
実施例1、2、11、12、比較例5及び6(甲3に記載された表の体裁を保持した上で、当審合議体が抜粋して作成した表である。また、表中、各成分の含有量の単位は質量%である。)


(4)甲4(特開2014-97943公報)には、以下の事項が記載されている。

(摘記4-1)
「【請求項1】
1)4-アルキルレゾルシノール及び/又はその塩と、2)炭素数10?30のアシル基によりアシル化した蛋白加水分解物及び/又はその塩を含有することを特徴とする、乳化剤形又は可溶化剤形の皮膚外用剤。
・・・
【請求項7】
前記4-アルキルレゾルシノールは、4-n-ブチルレゾルシノール、・・・、4-イソブチルレゾルシノール、4-ターシャリーブチルレゾルシノール、・・・、4-(1-イソブチル-3-メチルブチル)レゾルシノール及び4-イソステアリルレゾルシノールの少なくとも一つであることを特徴とする、請求項1?6の何れか一項に記載の皮膚外用剤。」
(【請求項1】?【請求項7】)

(摘記4-2)
「【0001】
本発明は、4-アルキルレゾルシノールを含有する、乳化剤形又は可溶化剤形の皮膚外用剤に関する。
【背景技術】
【0002】
化粧料などの皮膚外用剤に於いては、乳化技術、或いは、可溶化技術などのミセルの形成技術は一つのキー技術である。これは、乳化剤形又は可溶化剤形を取ることにより、親油性の成分と、親水性の成分とを同時に皮膚に投与できる長所が存するためである。
一方、4-アルキルレゾルシノールは、メラニン産生抑制作用に優れる皮膚外用剤の有効成分であることが既に知られているが(例えば、特許文献1、特許文献2、特許文献3を参照)、かかる成分は、乳化剤形又は可溶化剤形の皮膚外用剤に配合する場合には、形成されたエマルション粒子(エマルションの分散相粒子)やミセルが種々の環境の影響を受けて合一・会合を起こし、これらの粒子径が増大しやすいという問題がある。・・・。」(【0001】?【0002】)

2 本件訂正発明1又は2と、甲1に記載された発明との対比・判断
(1)甲1に記載された発明
甲1における請求項1を引用する請求項4の記載(摘記1-1)から、甲1には以下の発明が記載されていると認められる。
「下記一般式(化1)に表される化合物及び/又はそれらの薬理学的に許容される塩と、紫外線吸収剤、及び4-n-ブチルレゾルシノールを含有する皮膚外用組成物。
【化1】


[式中、Aは、無置換又は置換基を有するアリ-ル基よりなる群からそれぞれ独立に選ばれるジ又はトリアリ-ルメチル基を表し、Xは、窒素原子又はNH基又は酸素原子を表し、R_(1)は、水素原子、水素原子又は炭素原子が複素原子で置換されていてもよい炭素数3?8の環状脂肪族炭化水素基又は芳香族炭化水素基を表し、前記の環状脂肪族炭化水素基又は芳香族炭化水素基の環は、Xが窒素原子の場合のみR_(1)のもう一方の末端がXに再び結合して形成される環も包含する。]」(以下「甲1発明」という。)

(2)本件訂正発明1と甲1発明との対比・判断
ア 甲1発明における「4-n-ブチルレゾルシノール」は本件訂正発明1の「4-ブチルレゾルシノール」に相当する。
そして、両発明は、いずれも「ウルソール酸リン酸エステル及び/又はその塩と、紫外線吸収剤を含有する皮膚外用組成物;下記式(II)に表される化合物及び/又はそれらの薬理学的に許容される塩と紫外線吸収剤を含有する皮膚外用組成物;4-アルキルレゾルシノール及び/又はその塩と、炭素数10?30のアシル基によりアシル化した蛋白加水分解物及び/又はその塩を含有する乳化剤形又は可溶化剤形の皮膚外用剤;ならびに、アルキルレゾルシノールの1種又は2種以上を含有し、多価アルコール、リン脂質及びポリグリセリン脂肪酸エステルを構成成分とする液晶相を経由して調製される乳化剤形の皮膚外用剤、

[式(II)中、R_(1)は、水素原子、炭素数1?8の直鎖又は分岐のアルキル基を表し、R_(2)は、水素原子、無置換又は置換基を有する芳香族基、無置換又は置換基を有する芳香族基により置換された炭素数1?4の脂肪族炭化水素基を表し、R_(3)は、無置換又は置換基を有する芳香族基を表し、nは、1又は2の整数、mは、0?3の整数を表す]」の発明には相当しない。
そうすると、両発明は、「4-ブチルレゾルシノールを含む剤又は組成物(ただし、以下の物質を除く:ウルソール酸リン酸エステル及び/又はその塩と、紫外線吸収剤を含有する皮膚外用組成物;下記式(II)に表される化合物及び/又はそれらの薬理学的に許容される塩と紫外線吸収剤を含有する皮膚外用組成物;4-アルキルレゾルシノール及び/又はその塩と、炭素数10?30のアシル基によりアシル化した蛋白加水分解物及び/又はその塩を含有する乳化剤形又は可溶化剤形の皮膚外用剤;ならびに、アルキルレゾルシノールの1種又は2種以上を含有し、多価アルコール、リン脂質及びポリグリセリン脂肪酸エステルを構成成分とする液晶相を経由して調製される乳化剤形の皮膚外用剤、

[式(II)中、R_(1)は、水素原子、炭素数1?8の直鎖又は分岐のアルキル基を表し、R_(2)は、水素原子、無置換又は置換基を有する芳香族基、無置換又は置換基を有する芳香族基により置換された炭素数1?4の脂肪族炭化水素基を表し、R_(3)は、無置換又は置換基を有する芳香族基を表し、nは、1又は2の整数、mは、0?3の整数を表す])。」の発明である点で一致し、以下の点で相違する。

(相違点1)
本件訂正発明1は、4-ブチルレゾルシノールを有効成分とする皮膚浸透促進剤であるのに対し、甲1発明は、一般式(化1)に表される化合物(一般式(化1)は省略)及び/又はそれらの薬理学的に許容される塩と、紫外線吸収剤、及び4-n-ブチルレゾルシノールを含有する皮膚外用組成物である点。

イ 上記相違点1について検討する。
(ア)甲1には、「紫外線吸収剤が立体的に嵩高い芳香族基又は複素芳香族基(特に、ジフェニルメチル基またはトリフェニルメチル基)を有する化合物の経皮吸収性を高める」こと(摘記1-2の【0006】)が記載されている。
そして、上記「立体的に嵩高い芳香族基又は複素芳香族基(特に、ジフェニルメチル基またはトリフェニルメチル基)を有する化合物」は、甲1発明における「一般式(化1)に表される化合物」に相当する。
このように、甲1発明においては、紫外線吸収剤が、一般式(化1)に表される化合物の経皮吸収性を高める有効成分として用いられている。

(イ)摘記1-4の【0027】における「抽出物中の2-[(トリフェニルメチル)オキシ]エタノ-ルあるいは1-(トリフェニルメチル)ピペリジンの回収量を高速液体クロマトグラフィーで定量した。回収率を経皮吸収性とし(値が低いほど経皮吸収性が高い)」という記載から、摘記1-5における「経皮吸収性」の項目に記載されている数値は、2-[(トリフェニルメチル)オキシ]エタノ-ル又は1-(トリフェニルメチル)ピペリジンの回収率を示す数値であり、当該回収率の数値が低いほど経皮吸収性が高いといえる。
そして、甲1における実施例1及び2には、一般式(化1)に表される化合物に相当する2-[(トリフェニルメチル)オキシ]エタノ-ル又は1-(トリフェニルメチル)ピペリジン(摘記1-3)、紫外線吸収剤であるパラメトキシケイ皮酸2-エチルヘキシル(摘記1-3)、及び4-ブチルレゾルシノールの両方を含む組成物において、2-[(トリフェニルメチル)オキシ]エタノ-ル又は1-(トリフェニルメチル)ピペリジンの回収率がいずれも10という低い数値であること、すなわち、これらの化合物の経皮吸収性が高いことが記載されている(摘記1-5)。
また、甲1における実施例11及び12には、2-[(トリフェニルメチル)オキシ]エタノ-ル又は1-(トリフェニルメチル)ピペリジン、及び紫外線吸収剤であるパラメトキシケイ皮酸2-エチルヘキシルを含むが、4-ブチルレゾルシノールを含まない組成物において、2-[(トリフェニルメチル)オキシ]エタノ-ル又は1-(トリフェニルメチル)ピペリジンの回収率がいずれも20という数値であること、すなわち、これらの化合物の経皮吸収性が実施例1及び2の場合よりも僅かに低いことが記載されている(摘記1-5)。
これに対し、甲1における比較例5及び6には、2-[(トリフェニルメチル)オキシ]エタノ-ル又は1-(トリフェニルメチル)ピペリジン、及び4-ブチルフェノールを含むが、紫外線吸収剤であるパラメトキシケイ皮酸2-エチルヘキシルを含まない組成物において、2-[(トリフェニルメチル)オキシ]エタノ-ル又は1-(トリフェニルメチル)ピペリジンの回収率がそれぞれ70及び75という高い数値であること、すなわち、これらの化合物の経皮吸収性が実施例1及び2の場合よりも大幅に低いことが記載されている(摘記1-5)。
このような実施例1及び2、実施例11及び2、比較例5及び6の記載から、甲1において、4-ブチルレゾルシノール自体が、2-[(トリフェニルメチル)オキシ]エタノ-ル又は1-(トリフェニルメチル)ピペリジンの経皮吸収性を高める有効成分であることが記載されているとはいえない。

(ウ)本件出願日当時、4-ブチルレゾルシノール等の4-アルキルレゾルシノールは、メラニン産生抑制作用に優れる皮膚外用剤の有効成分であることが知られていたが(甲4の摘記4-1及び4-2)、4-ブチルレゾルシノール等の4-アルキルレゾルシノール自体が他の化合物の経皮吸収性を高める有効成分であることが知られていたとはいえない。

(エ)上記(ア)?(ウ)から、甲1には、4-ブチルレゾルシノール自体が、一般式(化1)に表される化合物の経皮吸収性を高める有効成分であるという技術思想が記載されているとはいえない。
そうすると、甲1発明を、4-ブチルレゾルシノール自体を有効成分とする皮膚浸透促進剤にして本件訂正発明1の構成を備えたものとすることを、当業者が容易に想到しえたとはいえない。

(3)本件訂正発明2と甲1発明との対比・判断
本件訂正発明2と甲1発明とは、「4-ブチルレゾルシノールを含む剤又は組成物。」の発明である点で一致し、以下の点で相違する。

(相違点2)
本件訂正発明2は、4-ブチルレゾルシノールからなる皮膚浸透促進剤であるのに対し、甲1発明は、一般式(化1)に表される化合物及び/又はそれらの薬理学的に許容される塩と、紫外線吸収剤、及び4-n-ブチルレゾルシノールを含有する皮膚外用組成物(一般式(化1)は省略)である点。

上記相違点2について検討する。
上記(2)イで説示したように、甲1には、4-ブチルレゾルシノール自体が、一般式(化1)に表される化合物の経皮吸収性を高める有効成分であるという技術思想は記載されていないのであるから、甲1発明を、4-ブチルレゾルシノール自体からなる皮膚浸透促進剤にして本件訂正発明2の構成を備えたものとすることを、当業者が容易に想到しえたとはいえない。

3 本件訂正発明1又は2と、甲2に記載された発明との対比・判断
(1)甲2に記載された発明
甲2における請求項1を引用する請求項4の記載(摘記2-1)から、甲2には以下の発明が記載されていると認められる。
「下記一般式(化1)に表される化合物及び/又はそれらの薬理学的に許容される塩と、紫外線吸収剤、及び4-n-ブチルレゾルシノールを含有することを特徴とする皮膚外用組成物。
【化1】

[式中、R_(1)は、水素原子、炭素数1?8の直鎖又は分岐のアルキル基を表し、R_(2)は、水素原子、無置換又は置換基を有する芳香族基、無置換又は置換基を有する芳香族基により置換された炭素数1?4の脂肪族炭化水素基を表し、R_(3)は、無置換又は置換基を有する芳香族基を表し、nは、1又は2の整数、mは、0?3の整数を表す。]」(以下「甲2発明」という。)

(2)本件訂正発明1と甲2発明との対比・判断
ア 甲1発明における「4-n-ブチルレゾルシノール」は本件訂正発明2の「4-ブチルレゾルシノール」に相当する。
そして、甲2発明は、本件訂正発明1から除かれる物質を特定するただし書きにおける「下記式(II)に表される化合物及び/又はそれらの薬理学的に許容される塩と紫外線吸収剤を含有する皮膚外用組成物」に相当する。
そうすると、両発明は「4-ブチルレゾルシノールを含む剤又は組成物。」の発明である点で一致し、以下の点で相違する。

(相違点3)
本件訂正発明1は、4-ブチルレゾルシノールを有効成分とする皮膚浸透促進剤であり、ただし書で特定される物質を除く発明であるのに対し、甲2発明は、一般式(化1)に表される化合物及び/又はそれらの薬理学的に許容される塩(一般式(化1)は省略)と、紫外線吸収剤、及び4-n-ブチルレゾルシノールを含有する皮膚外用組成物である点。

イ 上記相違点3について検討する。
(ア)甲2には「紫外線吸収剤が立体的に嵩高い分岐構造を有しつつ水溶性である化合物のシステイン酸誘導体の経皮吸収性を高める」こと(摘記2-2の【0006】)が記載されている。
そして、上記「立体的に嵩高い分岐構造を有しつつ水溶性である化合物のシステイン酸誘導体」は、甲2発明における「一般式(化1)に表される化合物」に相当する。
このように、甲2発明においては、紫外線吸収剤が、一般式(化1)に表される化合物の経皮吸収性を高める有効成分として用いられている。

(イ)摘記2-4の【0027】における「抽出物中のN-(p-トルイル)システイン酸あるいはN-(p-メトキシベンゾイル)システイン酸の回収量を高速液体クロマトグラフィーで定量した。回収率を経皮吸収性とし(値が低いほど経皮吸収性が高い)」という記載から、摘記2-5における「経皮吸収性」の項目に記載されている数値は、N-(p-トルイル)システイン酸又はN-(p-メトキシベンゾイル)システイン酸の回収率を示す数値であり、当該回収率の数値が低いほど経皮吸収性が高いといえる。
そして、甲2における実施例1及び2には、一般式(化1)に表される化合物に相当するN-(p-トルイル)システイン酸又はN-(p-メトキシベンゾイル)システイン酸(摘記2-3)、紫外線吸収剤であるパラメトキシケイ皮酸2-エチルヘキシル(摘記2-3)、及び4-ブチルレゾルシノールを含む組成物において、N-(p-トルイル)システイン酸又はN-(p-メトキシベンゾイル)システイン酸の回収率がいずれも10という低い数値であること、すなわち、これらの化合物の経皮吸収性が高いことが記載されている(摘記2-5)。
また、甲2における実施例11及び12には、N-(p-トルイル)システイン酸又はN-(p-メトキシベンゾイル)システイン酸、及び紫外線吸収剤であるパラメトキシケイ皮酸2-エチルヘキシルを含むが、4-ブチルレゾルシノールを含まない組成物において、N-(p-トルイル)システイン酸又はN-(p-メトキシベンゾイル)システイン酸の回収率がいずれも20という数値であること、すなわち、これらの化合物の経皮吸収性が実施例1及び2の場合よりも僅かに低いことが記載されている(摘記2-5)。
これに対し、甲2における比較例5及び6には、N-(p-トルイル)システイン酸又はN-(p-メトキシベンゾイル)システイン酸、及び4-ブチルレゾルシノールを含むが、紫外線吸収剤であるパラメトキシケイ皮酸2-エチルヘキシルを含まない組成物においては、N-(p-トルイル)システイン酸又はN-(p-メトキシベンゾイル)システイン酸の回収率がそれぞれ70及び75という高い数値であること、すなわち、これらの化合物の経皮吸収性が実施例1及び2の場合よりも大幅に低いことが記載されている(摘記2-5)。
このような実施例1及び2、実施例11及び12、比較例5及び6の記載から、甲2において、4-ブチルレゾルシノール自体が、N-(p-トルイル)システイン酸又はN-(p-メトキシベンゾイル)システイン酸の経皮吸収性を高める有効成分であることが記載されているとはいえない。

(ウ)本件出願日当時、4-ブチルレゾルシノール等の4-アルキルレゾルシノールは、メラニン産生抑制作用に優れる皮膚外用剤の有効成分であることが知られていたが(甲4の摘記4-1及び4-2)、4-ブチルレゾルシノール等の4-アルキルレゾルシノール自体が他の化合物の経皮吸収性を高める有効成分であることが知られていたとはいえない。

(エ)上記(ア)?(ウ)から、甲2には、4-ブチルレゾルシノール自体が、一般式(化1)に表される化合物の経皮吸収性を高める有効成分であるという技術思想が記載されているとはいえない。
そうすると、甲2発明を、4-ブチルレゾルシノール自体を有効成分とする皮膚浸透促進剤にして本件訂正発明1の構成を備えたものとすることを、当業者が容易に想到しえたとはいえない。

(3)本件訂正発明2と甲2発明との対比・判断
本件訂正発明2と甲2発明とは、「4-ブチルレゾルシノールを含む剤又は組成物。」の発明である点で一致し、以下の点で相違する。

(相違点4)
本件訂正発明2は、4-ブチルレゾルシノールからなる皮膚浸透促進剤であるのに対し、甲2発明は、一般式(化1)に表される化合物及び/又はそれらの薬理学的に許容される塩と、紫外線吸収剤、及び4-n-ブチルレゾルシノールを含有する皮膚外用組成物(一般式(化1)は省略)である点。

上記相違点4について検討する。
上記(2)イで説示したように、甲2には、4-ブチルフェノール自体が、一般式(化1)に表される化合物の経皮吸収性を高める有効成分であるという技術思想は記載されていないので、甲2発明を、4-ブチルレゾルシノール自体からなる皮膚浸透促進剤にして本件訂正発明2の構成を備えたものとすることを、当業者が容易に想到しえたとはいえない。

4 本件訂正発明1又は2と、甲3に記載された発明との対比・判断
(1)甲3に記載された発明
甲3における請求項1を引用する請求項4の記載(摘記3-1)から、甲3には以下の発明が記載されていると認められる。
「ウルソール酸リン酸エステル及び/又はその塩、紫外線吸収剤、及び4-n-ブチルレゾルシノールを含有する皮膚外用組成物。」(以下「甲3発明」という。)

(2)本件訂正発明1と甲3発明との対比・判断
ア 甲3発明における「4-n-ブチルレゾルシノール」は本件訂正発明1の「4-ブチルレゾルシノール」に相当する。
そして、甲3発明は、本件訂正発明から除かれる物質を特定するただし書における「ウルソール酸リン酸エステル及び/又はその塩と、紫外線吸収剤を含有する皮膚外用組成物」に相当する。
そうすると、両発明は「4-ブチルレゾルシノールを含む剤又は組成物。」の発明である点で一致し、以下の点で相違する。

(相違点5)
本件訂正発明1は、4-ブチルレゾルシノールを有効成分とする皮膚浸透促進剤であり、ただし書で特定される物質を除く発明であるのに対し、甲3発明は、ウルソール酸リン酸エステル及び/又はその塩、紫外線吸収剤、及び4-n-ブチルレゾルシノールを含有する皮膚外用組成物である点。

イ 上記相違点5について検討する。
(ア)甲3には「紫外線吸収剤がウルソ-ル酸リン酸エステルの経皮吸収性を高める」こと(摘記3-2の【0006】)が記載されている。
このように、甲3発明においては、紫外線吸収剤が、ウルソ-ル酸リン酸エステルの経皮吸収性を高める有効成分として用いられている。

(イ)摘記3-4の【0025】における「抽出物中のウルソ-ル酸リン酸エステルあるいはウルソ-ル酸リン酸エステルカリウム塩の回収量を高速液体クロマトグラフィーで定量した。回収率を経皮吸収性とし(値が低いほど経皮吸収性が高い)」という記載から、摘記3-5における「経皮吸収性」の項目に記載されている数値は、ウルソ-ル酸リン酸エステル又はウルソ-ル酸リン酸エステルカリウム塩の回収率を示す数値であり、当該回収率の数値が低いほど経皮吸収性が高いといえる。
そして、甲3における実施例1及び2には、ウルソ-ル酸リン酸エステル又はウルソ-ル酸リン酸エステルカリウム塩、紫外線吸収剤であるパラメトキシケイ皮酸2-エチルヘキシル、及び4-ブチルレゾルシノールを含む組成物において、ウルソ-ル酸リン酸エステル又はウルソ-ル酸リン酸エステルカリウム塩の回収率がいずれも10という低い数値であること、すなわちこれらの化合物の経皮吸収性が高いことが記載されている(摘記3-5)。
また、甲3における実施例11及び12には、ウルソ-ル酸リン酸エステル又はウルソ-ル酸リン酸エステルカリウム塩、及び紫外線吸収剤であるパラメトキシケイ皮酸2-エチルヘキシルを含むが、4-ブチルレゾルシノールを含まない組成物において、ウルソ-ル酸リン酸エステル又はウルソ-ル酸リン酸エステルカリウム塩の回収率がいずれも20という数値であること、すなわち、これらの化合物の経皮吸収性が実施例1及び2の場合よりも僅かに低いことが記載されている(摘記3-5)。
これに対し、甲3における比較例5及び6には、ウルソ-ル酸リン酸エステル又はウルソ-ル酸リン酸エステルカリウム塩、及び4-ブチルレゾルシノールを含むが、紫外線吸収剤であるパラメトキシケイ皮酸2-エチルヘキシルを含まない組成物においては、ウルソ-ル酸リン酸エステル又はウルソ-ル酸リン酸エステルカリウム塩の回収率がそれぞれ70及び75という高い数値であること、すなわち、これらの化合物の経皮吸収性が実施例1及び2の場合よりも大幅に低いことが記載されている(摘記3-5)。
このような実施例1及び2、実施例11及び12、比較例5及び6の記載から、甲3において、4-ブチルレゾルシノール自体が、ウルソ-ル酸リン酸エステル又はウルソ-ル酸リン酸エステルカリウム塩の経皮吸収性を高める有効成分であることが記載されているとはいえない。

(ウ)本件出願日当時、4-ブチルレゾルシノール等の4-アルキルレゾルシノールは、メラニン産生抑制作用に優れる皮膚外用剤の有効成分であることが知られていたが(甲4の摘記4-1及び4-2)、4-ブチルレゾルシノール等の4-アルキルレゾルシノール自体が他の化合物の経皮吸収性を高める有効成分であることが知られていたとはいえない。

(エ)上記(ア)?(ウ)から、甲3には、4-ブチルレゾルシノール自体が、ウルソ-ル酸リン酸エステル又はウルソ-ル酸リン酸エステルカリウム塩の経皮吸収性を高める有効成分であるという技術思想が記載されているとはいえない。
そうすると、甲3発明を、4-ブチルレゾルシノール自体を有効成分とする皮膚浸透促進剤にして本件訂正発明1の構成を備えたものとすることを、当業者が容易に想到しえたとはいえない。

(3)本件訂正発明2と甲3発明との対比・判断
本件訂正発明2と甲3発明とは、「4-ブチルレゾルシノールを含む剤又は組成物。」の発明である点で一致し、以下の点で相違する。

(相違点6)
本件訂正発明2は、4-ブチルレゾルシノールからなる皮膚浸透促進剤であるのに対し、甲3発明は、ウルソール酸リン酸エステル及び/又はその塩、紫外線吸収剤、及び4-n-ブチルレゾルシノールを含有する皮膚外用組成物である点。

上記相違点6について検討する。
上記(2)イで説示したように、甲3には、4-ブチルフェノール自体が、ウルソール酸リン酸エステルの経皮吸収性を高める有効成分であるという技術思想は記載されていないので、甲3発明を、4-ブチルレゾルシノール自体からなる皮膚浸透促進剤にして本件訂正発明2の構成を備えたものとすることを、当業者が容易に想到しえたとはいえない。

5 以上1?4のように、甲1?甲3発明、及び甲1?甲4に記載された事項を総合しても、本件訂正発明1又は2の構成を備えた発明を得ることを、当業者が容易に想到しえたとはいえない。

6 本件訂正発明の効果について
本件訂正発明の効果について、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、実施例における実験結果から、4-ブチルレゾルシノール、4-ブチルフェノール、4-ブチルカテコール及び4-オクチルレゾルシノールのいずれかを用いることにより、以下の複数種の生理活性成分の皮膚浸透性が向上したことが示されたこと(【0033】?【0037】)が記載されている。
そして、甲1?甲4のいずれにも、4-ブチルレゾルシノール等自体が、他の有効成分の経皮吸収性を高める有効成分であることについては記載も示唆もされていない。
また、4-ブチルレゾルシノール等自体が、他の化合物の経皮吸収性を高める有効成分であることが、本件出願日当時の技術常識であるともいえない。
よって、本件訂正発明の効果は、甲1?甲3発明、及び甲1?甲4に記載された事項から当業者が予測しえない格別顕著な効果であるといえる。

7 申立人の主張について
申立人は、甲1?甲3には4-n-ブチルレゾルシノールそれ自体が他の化合物の経皮吸収性を促進する作用を有することに基づくことにより、4-n-ブチルレゾルシノールそれ自体を有効成分とする皮膚浸透促進剤、又は4-n-ブチルレゾルシノールそれ自体からなる皮膚浸透促進剤を得ることは、当業者にとって何ら困難性はない、という趣旨の主張をしている(特許異議申立書のp.8?19等)。
しかし、甲1?甲3のいずれにも、4-n-ブチルレゾルシノールそれ自体が他の化合物の経皮吸収性を高める有効成分であるという技術思想が記載されていないことは、上記2(2)イ、3(2)イ及び4(2)イで説示したとおりであるから、申立人による上記主張は認められない。

8 小括
以上のとおりであるから、本件訂正発明1及び2は、甲1?甲3発明、及び甲1?甲4に記載された事項から当業者が容易に発明をすることができたものではないので、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえない。
よって、訂正後の請求項1及び2に係る特許を、申立理由1によって取り消すことはできない。

第9 むすび
以上のとおりであるから、本件訂正後の請求項1及び2に係る特許を、取消理由通知書に記載した取消理由1及び2、又は特許異議申立書に記載した申立理由1によって取り消すことはできない。
また、他に上記訂正後の請求項1及び2に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
そして、上記「第2」で説示したとおり、請求項3及び4は、本件訂正により削除された。これにより、請求項3及び4に係る特許に対する特許異議の申立ては、申立ての対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項において準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
4-ブチルレゾルシノール、4-ブチルフェノール、4-ブチルカテコールおよび4-オクチルレゾルシノールからなる群より選択される少なくとも1種を有効成分として含む皮膚浸透促進剤(ただし、以下の物質を除く:ウルソール酸リン酸エステル及び/又はその塩と、紫外線吸収剤を含有する皮膚外用組成物;下記式(II)に表される化合物及び/又はそれらの薬理学的に許容される塩と紫外線吸収剤を含有する皮膚外用組成物;4-アルキルレゾルシノール及び/又はその塩と、炭素数10?30のアシル基によりアシル化した蛋白加水分解物及び/又はその塩を含有する乳化剤形又は可溶化剤形の皮膚外用剤;ならびに、アルキルレゾルシノールの1種又は2種以上を含有し、多価アルコール、リン脂質及びポリグリセリン脂肪酸エステルを構成成分とする液晶相を経由して調製される乳化剤形の皮膚外用剤、
【化2】

[式(II)中、R_(1)は、水素原子、炭素数1?8の直鎖又は分岐のアルキル基を表し、R_(2)は、水素原子、無置換又は置換基を有する芳香族基、無置換又は置換基を有する芳香族基により置換された炭素数1?4の脂肪族炭化水素基を表し、R_(3)は、無置換又は置換基を有する芳香族基を表し、nは、1又は2の整数、mは、0?3の整数を表す])。
【請求項2】
4-ブチルレゾルシノール、4-ブチルフェノール、4-ブチルカテコールおよび4-オクチルレゾルシノールからなる群より選択される少なくとも1種からなる、皮膚浸透促進剤。
【請求項3】(削除)
【請求項4】(削除)
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2021-10-06 
出願番号 特願2016-85987(P2016-85987)
審決分類 P 1 651・ 537- YAA (A61K)
P 1 651・ 536- YAA (A61K)
P 1 651・ 121- YAA (A61K)
最終処分 維持  
前審関与審査官 岩下 直人今村 明子  
特許庁審判長 藤原 浩子
特許庁審判官 前田 佳与子
穴吹 智子
登録日 2020-05-11 
登録番号 特許第6702783号(P6702783)
権利者 花王株式会社
発明の名称 皮膚浸透促進剤  
代理人 特許業務法人アルガ特許事務所  
代理人 特許業務法人アルガ特許事務所  

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