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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 F16F |
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管理番号 | 1379855 |
異議申立番号 | 異議2021-700615 |
総通号数 | 264 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2021-12-24 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2021-07-02 |
確定日 | 2021-11-01 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第6808554号発明「防振装置」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6808554号の請求項1ないし2に係る特許を維持する。 |
理由 |
1 手続の経緯 特許第6808554号の請求項1及び2に係る特許についての出願は、平成29年3月24日に出願され、令和2年12月11日にその特許権の設定登録がされ、令和3年1月6日に特許掲載公報が発行された。その後、当該請求項1及び2に係る特許に対し、令和3年7月2日に特許異議申立人大藪幸一(以下、「異議申立人」という。)から特許異議の申立てがされたものである。 2 本件発明 特許第6808554号の請求項1及び2に係る発明は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された事項により特定される次のとおりのものである。 「 【請求項1】 振動発生部および振動受部のいずれか一方に取り付けられるブラケットと、 前記振動発生部および振動受部のいずれか他方に取り付けられる第1取付部、前記ブラケットに取り付けられた第2取付部、及び、前記第1取付部と前記第2取付部とを連結する弾性体を有する、本体部と、 を備え、 前記本体部は、前記ブラケットにより区画された挿入空間内に挿入されており、 前記ブラケットは、前記挿入時に前記本体部が所定の挿入方向に挿入されるように前記本体部を案内するガイド部を有し、 前記本体部の前記第2取付部は、前記挿入時に前記ガイド部によって案内される樹脂製の被ガイド部を有し、 前記本体部の前記被ガイド部は、前記被ガイド部における前記挿入方向の奥側の部分に、本体係合部を有し、 前記ブラケットの前記ガイド部は、前記本体係合部と係合し、これにより前記本体部が前記挿入空間から前記挿入方向とは逆方向に抜け出るのを抑制する、ブラケット係合部を、前記ガイド部における前記挿入方向の奥側の部分に有しており、 前記ブラケットは、前記第2取付部の前記挿入方向の奥側に位置し、前記第2取付部のさらなる前記挿入方向への移動を規制する、背壁部を有し、 前記背壁部には、前記本体係合部と対向する位置に貫通孔が設けられている、防振装置。 【請求項2】 前記本体係合部は、前記挿入方向の手前側を向く本体係合面を有しており、 前記本体係合面は、前記本体部の中心軸線に垂直な仮想平面に沿う断面において、前記挿入方向に垂直に延在しているか、または、前記本体部の中心軸線及び前記挿入方向を含む仮想平面に向かうにつれて徐々に前記挿入方向の奥側へ向かうように延在している、請求項1に記載の防振装置。」 3 申立理由の概要 異議申立人は、主たる証拠として以下の甲第1号証及び従たる証拠として以下の甲第2号証?甲第8号証を提出し、本件の請求項1及び2に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、請求項1及び2に係る特許を取り消すべきものである旨主張する。 甲第1号証:特表2010-528233号公報 甲第2号証:仏国特許公開第2810712号明細書 甲第3号証:福島有一、「これだけは知っておきたい金型知識」、日刊工業新聞社、2008年10月30日、第270?273ページ 甲第4号証:大塚正彦、「実践! 射出成形金型設計ワンポイント改善ノウハウ集」、日刊工業新聞社、2017年2月22日、第6?7ページ及び第140?141ページ 甲第5号証:本間精一、「射出成形特性を活かすプラスチック製品設計法」、日刊工業新聞社、2011年7月27日、第118?123ページ 甲第6号証:特開2006-216375号公報 甲第7号証:特開昭58-136391号公報 甲第8号証:特許第5647087号公報 なお、甲第2号証について、異議申立人は特許異議申立書において、証拠方法として「仏国特許発明第2810712号明細書」としているが、正しくは、仏国特許公開第2810712号明細書であるので、上記のとおりとした。 4 各証拠の記載事項等 (1)甲第1号証 甲第1号証には次の記載がある。 ア「【請求項1】 少なくとも主振動軸(V)に対して変形できるように構成されたエラストマー体(20, 120)によって相互に接続された第一、第二強度部材(22、 24; 122、 124)を含み、前記第一強度部材(22、122)は前記主振動軸(V)に平行な軸に対して環状であり、そして、 実質的に前記主振動軸(V)に垂直な取り付け方向(T)に伸びる平行に対向した2つの開いた溝から形成される少なくともひとつの滑動部(50; 150)を有する支持材(12、 112)を含み、前記第一強度部材(22; 122)はそれぞれ2つの前記滑動部(50; 150)に前記取り付け方向(T)に取り付けられた2つの外部縦肋材(61; 161)を含み、前記第一強度部材(22; 122)はスナップフィッティングにより前記滑動部(50; 150)に固定されたことを特徴とする防振装置。 【請求項2】 前記第一強度部材(22; 122)は係合方向である前記取り付け方向(T)に前記支持体(12; 112)と接し、そして、 前記第一強度部材(22; 122)は前記係合方向と反対の引き抜き方向にスナップフィッティングによって前記支持体(12; 112)に固定されている請求項1に記載の防振装置。」 イ「【請求項9】 前記支持体はそれぞれ滑動部(50)を有する2つの縦分枝(14a)を備え、前記縦分枝(14a)は底部(14c)と接続されるとともに前記第一強度部材(22)が固定される開口(14b)を区切る、前記第一強度部材(22)は前記開口(14b)の近傍にスナップフィッティングされることで前記滑動部(50)に固定される請求項1ないし8のいずれかに記載の防振装置。 【請求項10】 前記第一強度部材(22)は、前記取り付け方向(T)に伸び前記支持体に形成された補助穴(72)に係合するように構成された二つのピン(71)を備える請求項1ないし9のいずれかに記載の防振装置。」 ウ「【0001】 この発明は防振装置に関するものである。」 エ「【0011】 図1は本発明の第一実施形態の防振装置10を表し以下の接続で構成される: 一方では、たとえば乗り物の車体などの第一剛性要素、 他方では、たとえば乗り物のエンジンなどの第二剛性要素。 【0012】 防振装置10はたとえばプラスチック材料から一体成形され、または軽金属から一体的に鋳造された支持体12を備え以下の特徴を有する: 乗り物の車体に支持体12を固定するための固定位置15(図2と3を参照)を備えた水平ベース14(固定位置15はたとえばボルトが通り抜ける穴である)、 ベース14(軸V、Lの平面)から実質的に垂直に伸び、前述のベースを内部スペース13と区切る境界アーチ16。 【0013】 図3、4にてより詳細に理解できる通り、ベース14は概ねU字型であり、以下を備える: 開口14bを定義する自由端である2つの水平な側方分枝14aと、 前述の側方分枝を開口14bと反対の端部で結合する湾曲した底部14c。 【0014】 ここで考えた例では、前述の固定位置15は前述の側方分枝14aから外側に水平に伸びる壁に配置される。 【0015】 防振装置はさらに、図1に示すように支持体12の内部スペース13に搭載された防振要素18を備える。防振要素18は、成形され、かつ、この例ではそれぞれ下部強度部材と上部強度部材である第一強度部材22、第二強度部材24に密着したエラストマー体20を備える。第一強度部材22は支持体12のベース14に固定され、第二強度部材24は乗り物のエンジンに固定される。 【0016】 たとえば、第二強度部材24は、エンジンに固定されたアームを支えるように構成された筐体26の範囲を定めることができ、たとえばアームは乗り物の横断方向Tの方向を向いていても良い。 【0017】 防振要素は特に、エラストマー体20によって内部で区切られ、狭窄された通路によって下部補償チャンバーと接続された上部作業チャンバーを含む水力学的要素であっても良く、これらの二つのチャンバーは液体で満たされている(これらの要素はここでは示さないが、技術的にはよく知られている)。 【0018】 第一強度部材22を支持体12に取り付けるために、ベース14は、この例ではたとえばTの方向に伸びるように表された二つの平行で直線的な滑動部50(特に図2、4で見ることができる)を備える。ここで考える例では、滑動部50はベースの平行分枝14aの内部に配置された溝によって形成されている。 【0019】 図4に示されるように、各滑動部50は、下部肋材54と上部肋材56の間まで伸びる外部垂直側面52によって外部から区切られている。 【0020】 図3、4に示されるように、ここで考えている例では、各滑動部50の下部肋材54は、水平内側すなわち第一強度部材22へ向かって開いた二つのノッチ58を備える。 【0021】 各ノッチは、開口14bの方向について、以下の特徴を有する戻り止め58aによって区切られている: 一方では、引き出し防止垂直面58bが実質的にL、V方向の平面まで伸び、底部14cに向かった方向に垂直であり、 他方では、傾斜垂直面58cが側方分枝14aの内側方向および底部14c方向に斜めに伸びる。 【0022】 図2、3に示されるように、第一強度部材22は全体としては環状の形状であり、T方向に平行でそれぞれの滑動部50に遊び無く適合するサイズの2つの直線的な外部側方肋材61を備え、前述の滑動部に開口14bから底部14cの方向に向かって挿入されている。 【0023】 図5bに示されるように、第一強度部材22はそれぞれ上部と下部の部品である部品22aと22bから形成され、たとえばそれぞれプラスチック材料で形成される。これらの二つの部品はたとえば摩擦や超音波溶接により組み立てられる。エラストマー体20は第一強度部材22の上部分22a上に成形されこれに密着する。前述の肋材61は二つの部品22a、22bに部分的に形成されて第一強度部材を形成する。 【0024】 それぞれの肋材61の下に第一強度部材22は、たとえば支持体12のノッチ58に弾性的にそれぞれ係合するように構成された二つのスナップフィッティング突起62(図3、5a、5bを参照)などの二つの引き抜き防止弾性体を備える。 【0025】 それぞれのスナップフィッティング突起62は対応するノッチ58に類似する形状を有するとともに以下を有する: 底部14cの方向を向く、つまり、第一強度部材が滑動部50に挿入される方向の面に向く傾斜した垂直主面64、そして前述の傾斜した面64は底部14c方向および側方分枝14aの内側方向に斜めに伸びる、そして、 軸V、Lと平行で前述の開口14b方向に向いた引き出し防止隣接面66。 【0026】 第一強度部材22が滑動部50に係合した場合、ノッチ58を区切る戻り止め58aそしてスナップフィッティング突起を通過するときにスナップフィッティング突起62は弾性変形し、第一強度部材の前方部分63がベース14の底部14cと接したときにノッチ58に弾性的に係合する。支持体12の側方分枝14aはこの係合による弾性変形によりわずかに開くことができる、そのため突起62の戻り止め58aへの通過を容易化できる。 【0027】 突起62がノッチ58に係合すると、前述の突起の引き出し防止隣接面66がノッチ58aの引き出し防止面58bと接し協調する、こうして第一強度部材の肋材61が支持体12の滑動部50から抜けることを防止する。 【0028】 さらに、強度部材22は、Tの方向に伸び、ベースの底部14cにおいて対応関係となるように形成された補助穴72に係合するように構成され、支持体12に対する第一強度部材22の位置修正を容易化する二つの水平ピン71(図4、5a、5bを参照)を備えることができる。 【0029】 ノッチ58と突起62の数は4以外でもよく、それらは上述した実施形態とは異なるように配置されてもよく、他のスナップフィッティングの手段に置き換えられてもよいことに注意すべきである。」 オ「【図1】 」 カ「【図2】 」 キ「【図3】 」 ク「【図4】 」 ケ「【図5a】 」 コ「【図5b】 」 以上の記載より、甲第1号証には次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されているといえる。 [甲1発明] 「乗り物の車体に固定される支持体12、乗り物のエンジンに固定される第二強度部材24、 エラストマー体20によって相互に接続された第一強度部材22及び第二強度部材24を含んだ防振要素18であって、プラスチック材料で形成される前記第一強度部材22は、取り付け方向(T)に伸びる平行に対向した2つの開いた溝から形成される少なくともひとつの滑動部50を有する支持体12を含み、 前記防振要素18は、前記支持体12の内部スペース13に搭載されるものであり、 前記支持体12はそれぞれ滑動部50を有する2つの側方分枝14aを備え、前記側方分枝14aは、底部14cと接続されるとともに前記第一強度部材22が固定される開口14bを区切るものであり、 前記第一強度部材22はそれぞれ2つの前記側方分枝14aの前記取り付け方向(T)に取り付けられた2つの外部側方肋材61を含み、 前記第一強度部材22の前方部分63は前記取り付け方向(T)に前記支持体12の底部14cと接し、 底部14cには補助穴72が形成され、 前記第一強度部材22はスナップフィッティング突起62を備え、支持体12の滑動部50に備えられたノッチ58に係合し、 前記第一強度部材22は前記開口14bの近傍にスナップフィッティングされることで前記係合方向と反対の引き抜き方向に前記滑動部50に固定されている、 防振装置。」 (2)甲第2号証 甲第2号証には次の記載がある(訳は申立人の提出した訳を参考に当審で訳したものである。)。 ア「 」 (明細書部分第6ページ第5?8行) 訳「図33は、本発明の対象である防振支持装置の主要構成要素を示している。防振支持装置は、車体側ブラケット1とパワートレイン側ブラケット2の他に、防振装置本体3、バルブ4、カセット5、ダイヤフラム6、クロージングリング7を有している。」 イ「 」 (明細書部分第11ページ第33行?第12ページ23行) 訳「ブロック本体3の開口部34の内部に棒状部材22を軸Y-Y’に沿って軸方向に挿入することから始める。 もちろん、棒状部材22の長さはY-Y’に従う開口部34の寸法に対応するように選択される(図37を参照。) 次に、パワートレイン側ブラケット2と防振装置本体3とにより構成されるアセンブリ体を、車体側ブラケット1の内部に長手方向に沿って、やはり軸方向に挿入する。 このために、下方補強部材31のサイド翼状部材312とスライド溝14の斜面15とを対応させる。 もちろんこの挿入はスライド14の開口する正面部分によりなされる。 このスライドの深さは、ストロークエンドにおいて舌片部313各々が受入スロット142内に挿入されるように設定される。 舌片部の長さはスロットの長さをほぼ上回り、その結果、舌片部の自由端部はスロットの外部へ十分に大きく突き出る。このことは、舌片部を上部に向かって曲げ、舌片部を壁部位110の外側面に押し当てて舌片部のはめ込み固定を確実にすることを可能にする。 相対する面上では、はめ込み固定用の隆起縁部316を、今回は下部に向かって台座10の対応する面に接して下ろすことができる。 この前方面は、この隆起縁部を受けるのに適した座ぐり加工部(窪み)143の上に張り出す突出縁部160を呈することに注目されたい(図4を参照。)。 かくしてブロック本体3はケース1の内部で長手方向の向きにおいて完璧に固定された状態となる。 翼状部材312と、隆起縁部316と、隆起縁部315との下にエラストマー被覆があることは、キャビティ33の開口全周囲にわたって密封性の高い連結を確実にする。」 ウ「図3 」 エ「図4 」 オ「図9 」 カ「図13 」 (3)甲第3号証 甲第3号証の図3-116(第272ページ)には、スナップフィットの係合部の背後の壁に対して入れ子(インロー)金型を抜くための貫通孔を形成したものが、「アンダーカットにならないよう片持ちばりの根元に角穴を設ける。」(第271ページ第3行)という記載とともに示されている。 (4)甲第4号証 甲第4号証の第141ページの図には、後壁を備えたフック型の係合構造に関して、インロー型抜き用の貫通孔を有するスナップフィット成形品が示されている。 また、第6ページ第2?4行には、「樹脂成形品では、樹脂の弾性を活用したヒンジ形状、あるいは、スナップフィット形状を多用することが多いです。この形状を形成するにはインロー(はめ込み)構造が必要になります。」との記載がある。 (5)甲第5号証 甲第5号証の図4.57(b)(第121ページ)には、後壁を備えた収容空間内の側壁内面において、後壁近くに係合用突起等を形成するに際して、後ろ壁を貫通するインロー型抜き用の貫通孔を設けることでアンダーカットを避けて樹脂成形を可能にすることが示されている。 (6)甲第6号証 甲第6号証には次の記載がある。 ア「【0026】 ・・・略・・・さらにプラグ2をソケット2に挿入すると、図3,図4に示すように、プラグボディ4の後側の端部がプラグ収納空間14の最奥部でソケットボディ15のプラグ挿入口13を開口形成した側面と反対側の側面(側壁)に突き当たり、それ以上の挿入が規制され、これと同時に、各ロックバネ8,9の切欠き10が各固定ロック係合部18に対応し、各ロックバネ8,9が外側方に向かって自動的に弾性復帰し、各ロックバネ8,9の前側の端部がソケットボディ4の上部幅狭部の内側面に圧着することによって、各ロックバネ8,9のロック係合部11が各固定ロック係合部18と係合し、プラグ2の完全挿入位置からの抜止めが行われ、プラグ2がソケット3に対して完全挿入状態でロックされ、プラグ2とソケット3が完全嵌合状態でロックされる。」 イ「【図1】 」 ウ「【図3】 」 エ「【図4】 」 (7)甲第7号証 甲第7号証には次の記載がある。 ア「尚、蓋本体6の凹環部9にあつてその底部の凸部10下の部分と凸部11下の部分及び凸部12下の部分には夫々本来が型抜き用である孔20、21、22を形成している。」(第2ページ右下欄第12?15行。) イ「・・・装飾環18を上方より進めて透視板13周囲の凹環部9内に嵌め入れることに併せその弾性爪19を夫々凸部12に弾性係合させると、該装飾環18が蓋本体6に取着されて上記透視板13の戻りを阻止する様になる・・・」(第3ページ左上欄第5?10行。) ウ「更に組立後の強度管理も、凸部10,11に対するフツク部15,16の係合具合を見るだけで確認でき、このことからその管理も実に容易にできて不良品を発生させることもない。」(第3ページ右上欄第8?11行。) エ「第7図 」 オ「第8図 」 (8)甲第8号証 甲第8号証には次の記載がある。 ア「【0005】 本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、その目的は、蓋部の弾性爪部を本体の嵌合部に嵌合させることにより蓋部を本体に装着する構成において、弾性爪部が嵌合部の正規位置に嵌合したことを容易に確認することができる二部材の嵌合装置を提供することにある。 イ「【0014】 ここで、ボス部6の背面側は閉鎖部12で閉鎖されており、その閉鎖部12において嵌合部10の背面となる部位には当該閉鎖部12を貫通する矩形状の窓部16が形成されている。この窓部16は、平面部9に設けられた嵌合部10に嵌合するノブ1の弾性爪部15の嵌合状態を視認可能とするために設けられている。・・・」 ウ「【図1】 」 5 当審の判断 (1)請求項1に係る発明について ア 対比 本件の請求項1に係る発明(以下、「本件発明」という。)と甲1発明とを対比すると次のことがいえる。 (ア)甲1発明の「乗り物のエンジン」及び「乗り物の車体」は、それぞれ本件発明の「振動発生部」及び「振動受部」に相当する。 (イ)甲1発明の「支持体12」は、本件発明の「ブラケット」に相当するから、甲1発明の「乗り物の車体に固定される支持体12」は、本件発明の「振動受部」「に取り付けられるブラケット」に相当する。 (ウ)甲1発明の「防振要素18」、「エラストマー体20」、「第一強度部材22」及び「第二強度部材24」は、それぞれ本件発明の「本体部」、「弾性体」、「第2取付部」及び「第1取付部」に相当し、甲1発明の「接続する」とことは、本件発明の「連結する」ことに相当するから、甲1発明の「エラストマー体20」が、「第一強度部材22及び第二強度部材24を」「相互に接続」することは、本件発明の「弾性体」が「前記第1取付部と前記第2取付部とを連結する」ことに相当する。 (エ)甲1発明の「支持体12」は「滑動部50を有する」ものであるから、甲1発明の「前記第一強度部材22は前記開口14bの近傍にスナップフィッティングされることで前記係合方向と反対の引き抜き方向に前記滑動部50に固定されて」いることは、第一強度部材22が支持体12に取り付けられているといえ、本件発明の「第2取付部」が「前記ブラケットに取り付けられ」ていることに相当する。 (オ)上記(ア)及び(ウ)を踏まえると、甲1発明の「乗り物のエンジンに固定される第二強度部材24」は、本件発明の「第1取付部」が「前記振動発生部」に「取り付けられる」ことに相当する。 (カ)甲1発明の「支持体12の内部スペース13」は、本件発明の「ブラケットにより区画された挿入空間」に相当し、甲1発明の「搭載され」るは、本件発明の「挿入される」に相当するから、甲1発明の「前記防振要素18は、前記支持体12の内部スペース13に搭載される」ことは、本件発明の「前記本体部は、前記ブラケットにより区画された挿入空間内に挿入されて」いることに相当する。 (キ)甲1発明の「取り付け方向(T)」は、本件発明の「所定の挿入方向」または「挿入方向」に相当する。 甲1発明の「2つの側方分枝14a」の「滑動部50」は、防振要素18の第一強度部材22が固定されるものであるから、防振要素18を案内するガイド部といえ、本件発明の「ガイド部」に相当する。 したがって、甲1発明の「支持体12」が「取り付け方向(T)に伸びる平行に対向した2つの開いた溝から形成される少なくともひとつの滑動部50を有」し、「前記支持体はそれぞれ滑動部50を有する2つの側方分枝14aを備え」ることは、本件発明の「前記ブラケットは、前記挿入時に前記本体部が所定の挿入方向に挿入されるように前記本体部を案内するガイド部を有」することに相当する。 (ク)甲1発明の「2つの外部側方肋材61」及び第一強度部材22における「外部側方肋材61」の下側の部分は、滑動部50にガイドされる部分であるといえる(甲第1号証の段落【0022】?【0024】及び【図1】?【図5b】を参照。)から、本件発明の「被ガイド部」に相当し、また、甲1発明の「第一強度部材22」は「プラスチック材料で形成される」ものであることから、上記(ウ)及び(キ)を踏まえると、甲1発明の「前記第一強度部材22はそれぞれ2つの前記側方分枝14aの前記取り付け方向(T)に取り付けられた2つの外部側方肋材61を含」むことは、本件発明の「前記本体部の前記第2取付部は、前記挿入時に前記ガイド部によって案内される樹脂製の被ガイド部を有」することに相当する。 (ケ)甲1発明の「スナップフィッティング突起62」は本件発明の「本体係合部」に相当し、防振要素18の第一強度部材22(の「外部側方肋材61」の下の部分)に備えられているといえる(甲第1号証の段落【0022】?【0024】及び【図1】?【図5b】を参照。)。 したがって、甲1発明の「前記第一強度部材22はスナップフィッティング突起62を備え」ることは、本件発明の「前記本体部の前記被ガイド部は、前記被ガイド部における延期挿入方向の奥側の部分に、本体係合部を有」することとの対比において、「前記本体部の前記被ガイド部は本体係合部を有」するとの限度で一致する。 (コ)甲1発明の「ノッチ58」は本件発明の「ブラケット係合部」に相当し、「支持体12の滑動部50に備えられ」るから、支持体12の滑動部50は、ノッチ58を有しているといえる。 そして、甲1発明の「ノッチ58」は、スナップフィッティング突起62と係合し、「前記第一強度部材22は前記開口14bの近傍にスナップフィッティングされることで前記係合方向と反対の引き抜き方向に前記滑動部50に固定されて」いるから、スナップフィッティング突起62と係合し、これにより防振要素18が内部スペース13から係合方向と反対(逆)の引き抜き方向に抜け出るのを抑制しているといえる。 したがって、甲1発明の「前記第一強度部材22はスナップフィッティング突起62を備え、支持体12の滑動部50に備えられたノッチ58に係合し、前記第一強度部材22は前記開口14bの近傍にスナップフィッティングされることで前記係合方向と反対の引き抜き方向に前記滑動部50に固定されて」いることは、本件発明の「前記ブラケットの前記ガイド部は、前記本体係合部と係合し、これにより前記本体部が前記挿入空間から前記挿入方向とは逆方向に抜け出るのを抑制する、ブラケット係合部を、前記ガイド部における前記挿入方向の奥側の部分に有して」いることとの対比において、「前記ブラケットの前記ガイド部は、前記本体係合部と係合し、これにより前記本体部が前記挿入空間から前記挿入方向とは逆方向に抜け出るのを抑制する、ブラケット係合部を有して」いるとの限度で一致する。 (サ)甲1発明の「底部14c」は本件発明の「背壁部」に相当し、また、第一強度部材22の前方部分63の取り付け方向(T)の奥側に位置する(甲第1号証の【図2】及び【図3】を参照。)ものである。そして、甲1発明の「前記第一強度部材22の前方部分63は係合方向である前記取り付け方向(T)に前記支持体12の底部14cと接」する構成は、これにより、支持体12における、第一強度部材22の取り付け方向(T)へのさらなる移動を規制するものといえるから、本件発明の「前記ブラケットは、前記第2取付部の前記挿入方向の奥側に位置し、前記第2取付部のさらなる前記挿入方向への移動を規制する、背壁部を有」する構成に相当する。 (シ)甲1発明の「補助穴72」は本件発明の「貫通孔」に相当し、甲1発明の「形成され」ていることは、本件発明の「設けられている」ことに相当するから、甲1発明の「底部14cには補助穴72が形成され」ていることは、本件発明の「前記背壁部には、前記本体係合部と対向する位置に貫通孔が設けられている」こととの対比において、「前記背壁部には貫通孔が設けられている」ことの限度で一致する。 (ス)甲1発明の「防振装置」は本件発明の「防振装置」に相当する。 以上のとおりであるから、本件発明と甲1発明との一致点及び相違点は次のとおりとなる。 [一致点] 「振動発生部および振動受部のいずれか一方に取り付けられるブラケットと、 前記振動発生部および振動受部のいずれか他方に取り付けられる第1取付部、前記ブラケットに取り付けられた第2取付部、及び、前記第1取付部と前記第2取付部とを連結する弾性体を有する、本体部と、 を備え、 前記本体部は、前記ブラケットにより区画された挿入空間内に挿入されており、 前記ブラケットは、前記挿入時に前記本体部が所定の挿入方向に挿入されるように前記本体部を案内するガイド部を有し、 前記本体部の前記第2取付部は、前記挿入時に前記ガイド部によって案内される樹脂製の被ガイド部を有し、 前記本体部の前記被ガイド部は本体係合部を有し、 前記ブラケットの前記ガイド部は、前記本体係合部と係合し、これにより前記本体部が前記挿入空間から前記挿入方向とは逆方向に抜け出るのを抑制する、ブラケット係合部を有しており、 前記ブラケットは、前記第2取付部の前記挿入方向の奥側に位置し、前記第2取付部のさらなる前記挿入方向への移動を規制する、背壁部を有し、 前記背壁部には貫通孔が設けられている、 防振装置。」 [相違点1] 本件発明は、「本体係合部」を「前記被ガイド部における前記挿入方向の奥側の部分に」有し、これに対応して、「ブラケット係合部」を「前記ガイド部における前記挿入方向の奥側の部分に」有する構成となっているのに対し、甲1発明は「スナップフィッティング突起62」及び「ノッチ58」によって、「前記第一強度部材22は前記開口14bの近傍にスナップフィッティングされる」ものである点。 [相違点2] 本件発明では、「貫通孔」が「前記本体係合部と対向する位置に」設けられているものであるのに対し、甲1発明では、「補助穴72」は「ベースの底部14c」「に形成され」るものであり、スナップフィッティング突起62と対向する位置に形成されるものとの特定がされていない点。 イ 判断 相違点1について検討する。 (ア)甲1発明は、防振要素の強度部材を支持体の滑動部に固定するために、打ち抜き作業を要し製造工程が複雑化、高コスト化するという欠点を、防振要素の強度部材を支持体の滑動部にスナップフィッティングにより固定することにより解決しようとするものであると解される(甲第1号証の段落【0002】?【0005】を参照。)。 具体的には、甲1発明において、「前記第一強度部材22は前記開口14bの近傍にスナップフィッティングされることで前記係合方向と反対の引き抜き方向に前記滑動部50に固定」するという構成を具備することにより、上記の欠点を解決するものであるといえる。 このように、甲1発明においては、「前記第一強度部材22は前記開口14bの近傍にスナップフィッティングされることで前記係合方向と反対の引き抜き方向に前記滑動部50に固定」する構成を具備することにより、上記の欠点は既に解決しているものといえるから、斯かる構成において、第一強度部材22を滑動部50に固定するスナップフィッティング(スナップフィッティング突起62とノッチ58)を開口14bの近傍ではなく、あえてガイド部である滑動部50と、被ガイド部である2つの外部縦肋材61及び第一強度部材22における外部縦肋材61の下側の部分の取り付け方向(T)の奥側に設けようとする動機付けは存在しない。 (イ)甲第2号証には、上記4(2)から、ストローク制限補強部材1(本件発明のブラケットに相当する。以下、()内は同様の趣旨。)の内部にアーム2とブロック3(本体部)とにより構成されるアセンブリ体をはめ込み固定するための、下側補強部材31(被ガイド部)の舌片部313とスライド14(ガイド部)のスロット142とで構成される固定手段を、アセンブリ体のストローク制限補強部材1に対する挿入方向の奥側に設けた構成(以下、「甲2技術的事項」という。)が記載されているといえる。 しかしながら、甲2技術的事項の舌片部313とスロット142とで構成される固定手段は、舌片部313をスロット142に挿入した後、スロット142の外部に突き出た舌片部31の先端を曲げることによって固定するものであり(甲第2号証の明細書部分第11ページ第33行?第12ページ23行を参照。)、スナップフィッティングとは具体的固定機構が異なるから、甲1発明のスナップフィッティング(スナップフィッティング突起62とノッチ58のスナップ係合)に相当する構成とはいえない。 してみると、甲2技術的事項は、甲1発明のスナップフィッティングを開口14bの近傍ではなく、取り付け方向(T)の奥側に設けることを示唆するものではないから、甲1発明に甲2技術的事項を適用し、相違点1に係る本件発明の構成となすことは当業者が容易に想到しうるものではない。 (ウ)また、甲第3号証から甲第8号証に記載の事項も、相違点1に係る本件発明の構成についての記載ではないし、相違点1に係る本件発明の構成を示唆するものでもない。 (エ)そして、本件発明は、相違点1に係る構成を具備することにより、本体部がブラケットから抜け出るのをより効果的に防止することができる(本件特許明細書の段落【0023】を参照。)という格別の作用効果を奏するものということができる。 (オ)よって、相違点2について検討するまでもなく、本件発明は、甲1発明(甲第1号証に記載された発明)及び甲第2号証?甲第8号証に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (カ)異議申立人は、特許異議申立書の第7ページ第6?22行において、「甲1発明において、支持体(12)のノッチ(58)は、甲第1号証の[請求項1]や段落[0029]などの記載からも明らかなように、第一強度部材(22)をスナップフィッティングによって滑動部(50)へ固定し取付方向(T)と逆向きの抜け出しを防止するものであれば良い。それ故、甲1発明においてスナップフィッティングの具体的構造や位置を限定して解釈すべき理由がない。・・・しかも、かかる甲第2号証の防振装置では、ブラケット(2)へ横挿入された防振装置本体(3)の挿入方向とは逆向きへの抜け出しを防止する係合機構(142,313)が、防振装置本体(3)の挿入方向の奥側の部分に設けられている。従って甲1発明において、スナップフィッティングによる固定手段を、滑動部(50)に対する第一強度部材(22)の挿入方向で奥側に設けることは単なる設計事項に過ぎず、当業者であれば容易に想到実施し得るものである。」と主張する。 (キ)しかし、甲第1号証の段落【0029】の記載は、ノッチ58と突起62の位置を、滑動部(50)に対する第一強度部材(22)の挿入方向で奥側に設けることを具体的に示唆するものではなく、しかも、上記(ア)で説示のとおり、甲1発明において、ノッチ58と突起62の位置を、滑動部(50)に対する第一強度部材(22)の挿入方向で奥側に設ける動機付けは存在しないというべきである。 また、上記(イ)で説示のとおり、甲第2号証の固定手段(係合機構)は、甲1発明のスナップフィッティングに相当する構成とはいえず、甲1発明に甲2技術的事項を適用し、相違点1に係る本件発明の構成となすことは当業者が容易に想到しうることではない。 したがって、異議申立人の上記主張には理由がない。 (2)請求項2に係る発明について 請求項2に係る発明(以下、「本件発明2」という。)は、本件発明に対して、さらに発明特定事項を限定するものであって、本件発明の上記相違点1に係る構成と同一の構成を備えるものである。 したがって、上記(1)イの説示と同様の理由により、本件発明2は、甲1発明(甲第1号証に記載された発明)及び甲第2号証?甲第8号証に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 6 むすび 以上のとおりであるから、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、本件発明及び本件発明2に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に本件発明及び本件発明2に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2021-10-18 |
出願番号 | 特願2017-59824(P2017-59824) |
審決分類 |
P
1
651・
121-
Y
(F16F)
|
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 杉山 豊博 |
特許庁審判長 |
間中 耕治 |
特許庁審判官 |
尾崎 和寛 杉山 健一 |
登録日 | 2020-12-11 |
登録番号 | 特許第6808554号(P6808554) |
権利者 | 株式会社ブリヂストン |
発明の名称 | 防振装置 |
代理人 | 杉村 憲司 |
代理人 | 伊藤 怜愛 |
代理人 | 山口 雄輔 |