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審決分類 審判 判定 判示事項別分類コード:なし 属さない(申立て不成立) E03F
管理番号 1379894
判定請求番号 判定2021-600005  
総通号数 264 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許判定公報 
発行日 2021-12-24 
種別 判定 
判定請求日 2021-02-10 
確定日 2021-10-25 
事件の表示 上記当事者間の特許第3718279号の判定請求事件について、次のとおり判定する。 
結論 イ号図面及びその説明書に示す「被包型側溝」は、特許第3718279号発明の技術的範囲に属しない。 
理由 第1 請求の趣旨と手続の経緯
本件判定請求の趣旨は、イ号図面及びその説明書に示す被包型側溝は、特許第3718279号発明の技術的範囲に属する、との判定を求めるものである。

特許第3718279号(以下「本件特許」という。)に係る手続の経緯は、平成8年3月10日に出願され、平成17年9月9日に特許権の設定登録がなされ、平成27年11月4日に特許無効審判(無効2015-800202)が請求され、平成28年1月15日付けで訂正請求書が提出され、平成28年6月28日に訂正を認め請求不成立の審決(確定済み)がなされ、さらに平成29年1月30日に特許無効審判(無効2017-800010)が請求され、平成29年9月21日に請求不成立の審決(確定済み)がなされ、令和1年5月7日に(平成31年4月25日付け)判定請求(判定2019-600014)が差出され、令和1年8月30日にイ号図面及びその説明書に示す「被包型側溝」は、特許第3718279号発明の技術的範囲に属しない旨の判定がされた。
そして、令和3年2月10日に(令和3年2月9日付け)本件判定請求が差出され、同年5月26日に被請求人より判定請求答弁書が提出されたものである。


第2 本件特許発明について
1 本件特許発明
本件特許の請求項1に係る発明(以下「本件特許発明」という。)は、本件特許明細書及び図面の記載からみて、無効2015-800202の審理において提出された平成28年1月15日付け訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものである(なお、分説した構成要件及び記号A?Cは、判定請求書における請求人の主張のとおりである。)。

「A 断面凸状の曲面からなる当接部を有する側溝蓋と、
B1 前記側溝蓋で閉蓋可能な開口部を水平支持部材の上面の略中央に有し、
B2 前記開口部の端部に前記側溝蓋の当接部の曲面と略相似の断面凹状の曲面からなり、
B3 下端に沿って連続的に前記側溝蓋の前記当接部の下端部との間に所定の隙間を形成するためのせぎり部が形成された支持面を有するとともに、
B4 前記水平支持部材の両端辺から下方に垂直支持部材が夫々延設された
B5 側溝と
C を具備することを特徴とする被包型側溝。」

2 本件特許明細書及び図面の記載
(1)「【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、被包型側溝に関するものであり、特に、略逆U字型の形状を呈し、覆い被せるスタイルで側溝を構成する被包型側溝に関するものである。」

(2)「【0002】
【従来の技術】
従来より、図6に示すような断面が略逆U字型の形状を呈した被包型側溝が知られている。図6は従来の被包型側溝を示す分解斜視図である。
【0003】
図6に示すように、この被包型側溝の側溝50は、平面方向に略長方形の形状を呈する水平支持部材52と、この水平支持部材52の両端辺より各々に下方へ垂直に延設され、平面方向に略長方形の形状を呈する垂直支持部材53とで構成されている。水平支持部材52は一般道路を通過する自動車等による鉛直方向に加わる荷重に耐えるのに必要な強度と厚さを有しており、垂直支持部材53は水平支持部材52の受ける鉛直荷重に耐えるのに必要な強度と厚さを有している。
【0004】
水平支持部材52には、略中央に長方形の形状を呈し、幅方向に2つの垂直支持部材53の内側面に挟まれた部分まで開口された開口部54が設けられている。開口部54の幅方向両側部には、水平面55aと垂直面55bとで構成され側溝蓋60を支持する支持部55が形成されている。
【0005】
側溝蓋60は、略平面方向に長方形の形状を呈し、長さ方向の一端部の略中央に凹状の手掛部62が形成されている。水平支持部材52の開口部54の支持部55によって支持される当接部61は、水平面61aと垂直面61bとで構成されている。この側溝蓋60は、幅方向の両端辺が支持されたとき、一般道路を通過する自動車等による鉛直方向に加わる荷重に耐えるのに必要な強度と厚さを有している。
【0006】
つまり、この被包型側溝では、側溝蓋60の幅方向両端部の当接部61が開口部54の幅方向両端部の支持部55によって支持されており、当接部61の水平面61aが支持部55の水平面55aに、当接部61の垂直面61bが支持部55の水平面55aに各々当接している。即ち、側溝蓋60は着脱可能に開口部54を閉蓋しており、側溝蓋60の上面と側溝50の水平支持部材52の上面が略面一になっている。
【0007】
また、各々の垂直支持部材53の長さ方向の両端部には、断面凹状の目地溝53aが鉛直方向に水平支持部材52の上面まで延設されている。側溝50を隣接状態で連ねて施工した後、この目地溝53aにモルタル等が流し込まれる。」

(3)「【0008】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、上記のような従来の被包型側溝では、側溝蓋60を支持する側溝50の支持部55が水平面55a及び垂直面55bで構成されているとともに、側溝蓋60の当接部61も水平面61a及び垂直面61bで構成されていた。したがって、側溝蓋60は平面によって支持されるため、側溝蓋60及び側溝50を成形する際に生じる誤差等により、側溝蓋60ががたつくという問題が生じていた。つまり、成形する際に、側溝50においては、隣り合う水平面55aの平行精度に、側溝蓋60においては、下面の平行精度にどうしても誤差が生じていた。たとえ数mm程度の僅かな誤差であっても、側溝蓋60の上面を車両や人が通過すると、側溝蓋60はがたつき、騒音が発生していた。しかも、この騒音を発生しない精度の成形は、経済性を考慮した加工法では事実上不可能であった。
【0009】
また、仮に精度よく側溝50及び側溝蓋60を成形できたとしても、側溝50の支持部55の水平面55aには、土や小石等が溜り易く、人の手で清掃する必要があった。しかも、これらの土や小石等により、側溝蓋60ががたつくこともあり、騒音発生の原因になることもあった。
【0010】
そこで、本発明は、簡易な構成により、側溝蓋のがたつきを抑制し、騒音が発生しない被包型側溝の提供を課題とするものである。」

(4)「【0011】
【課題を解決するための手段】
本発明にかかる被包型側溝は、断面凸状の曲面からなる当接部を有する側溝蓋と、前記側溝蓋で閉蓋可能な開口部を水平支持部材の上面の略中央に有し、前記開口部の端部に前記側溝蓋の当接部の曲面と略相似の断面凹状の曲面からなり、下端に前記側溝蓋の前記当接部の下端部との間に所定の隙間を形成するためのせぎり部が形成された支持面を有するとともに、前記水平支持部材の両端辺から下方に垂直支持部材が夫々延設された側溝とを備えたものである。
【0012】
したがって、本発明の被包型側溝によれば、水平支持部材の一部に穿設された開口部の側溝蓋を支持する支持面の形状が曲面であり、側溝蓋の当接部も曲面であることから、側溝蓋より受ける荷重は、分散されるとともに密着性がよくなる。なお、支持面には平面部分がないために、小石、砂利、土等が堆積しにくく、堆積したときも非常に除去しやすい。」

(5)「【0013】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施形態について説明をする。図1は本発明の第一実施形態である被包型側溝を示す分解斜視図、図2は図1の被包型側溝のX-X断面を示す断面図である。
【0014】
図1及び図2に示すように、本実施形態の被包型側溝は、側溝1と側溝蓋10とで構成されている。この被包型側溝の側溝1は、平面方向に略長方形を呈し、幅方向の両端辺が支持されたとき、一般道路を通過する自動車等による鉛直方向に加わる荷重に耐えるのに必要な強度と厚さを有する水平支持部材2と、この水平支持部材2の両端辺より各々に下方へ延設され、平面方向に略長方形を呈し、水平支持部材2の受ける鉛直荷重に耐えるのに必要な強度と厚さを有する垂直支持部材3とで構成されている。
【0015】
水平支持部材2には、略中央に長方形を呈し、幅方向に2つの垂直支持部材3の内側面に挟まれた部分まで開口された開口部4が設けられている。この開口部4の幅方向両側部には断面が凹状の曲面形状を呈し、側溝蓋10を支持する支持面5が形成されている。また、この支持面5の下端にはせぎり部5aが形成されている。
【0016】
側溝蓋10は略平面方向に長方形を呈し、幅方向の両端辺が支持されたとき、一般道路を通過する自動車等による鉛直方向に加わる荷重に耐えるのに必要な強度と厚さを有しており、長さ方向の一端部の略中央に凹状の手掛部12を形成されている。そして、側溝蓋10の幅方向両端部には、側溝1の支持面5と略同形状の相似形の凸状の曲面を呈した当接部11が形成されている。つまり、側溝蓋10の当接部11は曲面で側溝1の支持面5に当接状態で支持されることにより、側溝蓋10は側溝1の開口部4に着脱可能に嵌込装着される。そして、開口部4は水平支持部材2の上面と側溝蓋10の上面が略面一になった状態で側溝蓋10によって閉蓋される。
【0017】
側溝1の各々の垂直支持部材3には、長さ方向の両端部に断面形状が凹状の目地溝3aが鉛直方向に形成されており、この目地溝3aは水平支持部材2の上面まで延設されている。側溝1を隣接状態で連ねて施工した後、この目地溝3aにモルタル等が流し込まれる。
【0018】
すなわち、本実施形態の被包型側溝は、上記図6に示した従来の被包型側溝の側溝蓋60の当接部61の構造が水平面61a及び垂直面61bからなる平面によるものであったのに対して、図1及び図2に示すように側溝蓋10の当接部11の構造が断面凸状の曲面からなる点と、上記図6に示した従来の被包型側溝の側溝50の支持部55の構造が水平面55a及び垂直面55bからなる平面によるものであったのに対して、図1及び図2に示すように側溝1の支持面5の構造が断面凹状の曲面からなる点で大きく相違している。側溝1の支持面5の断面凹状の曲面は、側溝蓋10の当接部11の断面凸状の曲面と略相似である。つまり、この相違点が本実施形態の被包型側溝の特徴とするところである。」

(6)「【0026】
特に、本実施形態の被包型側溝は、断面凸状の曲面からなる当接部11を有する側溝蓋10と、この側溝蓋10で閉蓋可能な開口部4を水平支持部材2の上面の略中央に有し、開口部4の端部に側溝蓋10の当接部11の曲面と略相似の断面凹状の曲面からなる支持面5を有するとともに、水平支持部材2の両端辺から下方に垂直支持部材3が各々延設された側溝1とで構成されていることから、施工後に上面を車両等が通過しても、側溝蓋10ががたつくことがなく、騒音が発生しない。
【0027】
つまり、側溝蓋10を支持する支持面5の受ける力は支持面5が曲面であるために、側溝蓋10に作用する垂直荷重が側溝蓋10の当接部11から側溝1の支持面5を介して分散されて側溝1に伝達されるとともに、側溝蓋10と側溝1との密着性がよくなるため、側溝蓋10の上面に加わる力の不均衡によりがたつかず、騒音が発生しない。また、支持面5には平面部分がないために、小石、砂利、土等が堆積しにくく、堆積したときも非常に除去し易いので、側溝蓋10を装着するのに手間がかからない。しかも、この支持面5の下端にはせぎり部5aが形成されており、側溝蓋10の当接部11の下端部と側溝1の支持面5の下端部との間に所定の隙間が形成されるので、施工後には砂利、土等はこの隙間に集まり、側溝蓋10の当接部11と側溝1の支持面5とは面接触状態が維持される。更に、側溝蓋10に垂直荷重が作用した場合に、側溝蓋10と側溝1との接触面が曲面であるために、力線の作用方向が分散され、側溝蓋10及び側溝1にかかる負担が軽減され、耐用年数が延びる。
【0028】
すなわち、本実施形態の被包型側溝は、従来の被包型側溝の作用及び効果に加えて、側溝蓋10の上面を車両や人が通過しても、側溝蓋10ががたついて騒音が発生しないとともに、被包型側溝50の設置工事または保守点検等の場合に側溝蓋10を外した際には支持面5に小石、砂利、土等が堆積しにくく、堆積したときも非常に除去しやすい。」

(7)「【0031】
【発明の効果】
以上のように、本発明の被包型側溝は、水平支持部材の一部に穿設された開口部の側溝蓋を支持する支持面の形状が曲面であり、側溝蓋の当接部も曲面であることから、側溝蓋より受ける荷重は、分散されるとともに密着性がよくなるので、側溝蓋の上面を車両や人が通過するときに、がたついて騒音が発生することはない。なお、支持面には平面部分がないために、小石、砂利、土等が堆積しにくく、堆積したときも非常に除去しやすいので、側溝蓋を装着するのに手間がかからない。」

(8)【図1】


(9)【図2】


(10)【図3】



第3 イ号物件について
1 請求人によるイ号物件の特定
(1)イ号物件が備える構成
請求人は、「イ号図面及び説明書」(別紙1)並びに甲第4号証?甲第8号証の2から、イ号物件は、以下(i)?(vi)の構成を備えるものと認定している。
(i)略逆U字型の形状の側溝(以下「側溝本体」という。)と2枚の側溝蓋からなる被包型側溝である。
(ii)側溝蓋は、上面、下面、一対の長さ方向両側の端部及び一対の長さ方向に延びる側部からなる。
(iii)側溝蓋の両側部には、断面が斜め下方に凸状の曲面からなる湾曲部と、
該湾曲部の下端から、より鉛直方向に近い方向に延びる凸部としても下端部を有し、
湾曲部と凸部は、被包型側溝の長さ方向に連続して形成される。
(iv)側溝本体は、水平な上板と、上板の幅方向両側から下方にそれぞれ延設された垂直な2枚の側板からなり、上板の上面の略中央に開口部を有し、開口部は側溝蓋で閉蓋可能である。
(v)開口部の側板側には、
断面が側溝蓋の湾曲部の曲面と略相似の斜め下方に凹状の曲面からなる曲面部と、
曲面部の下端から内側且つ下方に延びる急傾斜部と、
急傾斜部の下端から急傾斜部よりも緩やかな角度で内側且つ下方に延びる緩傾斜部が連続して構成され、
曲面部の下端において急傾斜部及び緩傾斜部により段差部が形成され、段差部は、被包型側溝の長さ方向に連続して形成される。
(vi)側溝本体の段差部には、側溝蓋の凸部が入り込む。
(判定請求書7頁4行?8頁1行)

(2)イ号物件の特定
請求人は、上記(1)の(i)?(vi)を本件特許発明の構成要件A?Cに合わせて整理することで、イ号物件を、構成要件A?Cに対応する構成a?cを備えるものとして、以下のとおり特定している。
「a 上面、下面、一対の長さ方向両側の端部及び一対の長さ方向に延びる側部を有し、両側部には、断面が斜め下方に凸状の曲面からなる湾曲部と、該湾曲部の下端から、より鉛直方向に近い方向へ延びる凸部(下端部)を有し、湾曲部と凸部は、被包型側溝の長さ方向に連続して形成される側溝蓋と、
b1 側溝蓋で閉蓋可能な開口部を水平な上板の上面の略中央に有し、
b2 開口部の側板側には、断面が側溝蓋の湾曲部の曲面と略相似の斜め下方に凹状の曲面からなる曲面部と、曲面部の下端から内側且つ下方に延びる急傾斜部と、急傾斜部の下端から急傾斜部よりも緩やかな角度で内側且つ下方に延びる緩傾斜部が連続して構成され、
b3 曲面部の下方において急傾斜部及び緩傾斜部により形成されると共に、被包型側溝の長さ方向に連続する段差部が形成され、
b4 上板の幅方向両端から下方に垂直な側板が夫々延設された
b5 略逆U字型の側溝本体
c とを具備する側溝。」
(判定請求書8頁3?19行)

2 被請求人によるイ号物件の特定
被請求人は、甲第2号証、甲第5号証、甲第7号証、甲第8号証の1、甲第8号証の2で特定されるイ号物件を、上記1(2)の表現方法に沿って分説し、以下のとおり特定している。
「a 断面凸状曲面からなる当接部と、前記当接部の下部に回転防止用突起部を有する側溝蓋と、
b1 前記側溝蓋で閉蓋可能な開口部を水平支持部材の上面の略中央に有し、
b2 前記開口部の端部に前記側溝蓋の当接部の曲面と略一致する断面凹状の曲面からなる支持面を有し、
b3 前記支持面より下方において、連続的に前記側溝蓋の前記突起部と係合し、前記側溝蓋の回転を阻止する切欠部が形成されるとともに、
b4 前記水平支持部材の両端辺から下方に垂直支持部材が夫々延設された
b5 側溝と
c を具備することを特徴とする被包型側溝」
(判定請求答弁書9頁12?末行)

3 当審によるイ号物件の特定
(1)イ号物件が備える構成
判定請求書に添付された「イ号図面及び説明書」の記載によれば、イ号物件は、以下の構成を備えるものと認められる。
ア 断面が略逆U字型の形状の側溝本体と側溝蓋からなる側溝である。
イ 側溝蓋は、水平な上面と下面、一対の長さ方向両側の端部及び一対の長さ方向に延びる側部からなる。
ウ 側溝蓋の両側部には、断面が斜め下方に凸状の曲面からなる湾曲部と、
該湾曲部の傾斜が緩やかになった下端から鉛直に近い斜め内側下方に延びる縦辺と該縦辺の下端に繋がる側溝蓋の水平な下面の端部によって構成された突起を有する。
エ 側溝本体は、水平な上板と、上板の幅方向両端から下方に夫々延設された垂直な側板からなり、上板の幅方向略中央に開口部を有し、開口部は側溝蓋で閉蓋可能である。
オ 開口部の側板側には、断面が側溝蓋の湾曲部の曲面と略相似の斜め上方に向けて凹状の曲面からなる曲面部と、
該曲面部の傾斜が緩やかになった下端から鉛直に近い内側下方に延びる急傾斜面部と、該急傾斜面部の下端から斜度の緩やかな内方に延びる緩傾斜面部によって構成された切欠きを有する。
カ 側溝本体の切欠きに側溝蓋の突起が位置しており、側溝蓋の突起を構成する縦辺・下面と、側溝本体の切欠きを構成する急傾斜面部・緩傾斜面部とは、それぞれ略対向して隙間が形成されている。
キ 側溝蓋の湾曲部の下端付近は、側溝本体の曲面部の下端付近に載置されている。

(2)イ号物件の特定
上記(1)のアないしキを、本件特許発明の分説A?Cに合わせて整理すると、イ号物件は、分説A?Cに対応する分説a?cを備えるものとして、以下のとおり特定されるものである。

「a 水平な上面と下面、一対の長さ方向両端の端部及び一対の長さ方向に延びる側部を有し、両側部には、断面が斜め下方に凸状の曲面からなる湾曲部と、湾曲部の傾斜が緩くなった下端から鉛直に近い斜め内側下方に延びる縦辺と該縦辺の下端に繋がる側溝蓋の水平な下面の端部によって構成された突起を有する側溝蓋と、
b1 側溝蓋で閉蓋可能な開口部を水平な上板の幅方向略中央に有し、
b2 開口部の側板側には、断面が側溝蓋の湾曲部の曲面と略相似の斜め上方に向けて凹状の曲面からなる曲面部であって、
b3 その下端付近に側溝蓋の湾曲部の下端付近が載置される曲面部と、該曲面部の傾斜が緩くなった下端から鉛直に近い内側下方に延びる急傾斜面部と該急傾斜面部の下端から斜度の緩やかな内方に延びる緩傾斜面部によって構成された切欠きを有し、
側溝本体の切欠きに側溝蓋の突起が位置しており、側溝蓋の突起を構成する縦辺・下面の端部と、側溝本体の切欠きを構成する急傾斜面部・緩傾斜面部とは、それぞれ略対向して隙間が形成され、
b4 上板の幅方向両端から下方に垂直な側板が夫々延設された
b5 断面が略逆U字型の側溝本体
c とを具備する側溝。」


第4 当事者の主張
1 請求人の主張について
(1)各構成要件の充足性について
請求人は、判定請求書において、イ号物件の構成a、b1、b2、b4、b5、cは、本件特許発明の構成要件A、B1、B2、B4、B5、Cを充足する旨(判定請求書8頁下から2行?9頁下から3行、11頁18行?12頁12行)、主張し、本件特許発明の構成要件B3とイ号物件の構成b3との対比については、以下のとおり主張している。
ア 構成b3の「曲面部の下方において急傾斜部及び緩傾斜部により形成されると共に、被包型側溝の長さ方向に連続する段差部」は、構成aの「断面が斜め下方に凸状の曲面からなる湾曲部」の一部及び「該湾曲部の下端から、より鉛直方向に近い方向に延びる凸部である下端部」との間に隙間を生じさせる。そのため、構成要件B3の「前記側溝蓋の前記当接部の下端部との間に所定の隙間を形成するためのせぎり部」に相当する。
(判定請求書9頁末行?10頁6行)

イ 「せぎり」とは、通常、ある構造面に「段付け」(甲10の1)、「段差形状」(甲11の1、2、甲12、甲13の2、甲13の4等)を設定して、構造面を変更させた部分を言う。
また、「せぎり」は、ある構造面(金型等)に切り込みを入れるないしは切削する(甲10の1)、あるいは彫り込みを入れる(甲10の2)こと等によって設定される。
さらに、本件特許明細書の段落【0027】第3文の記載によれば、せぎり部5aは、側溝蓋10の当接部11の下端部と側溝1の支持面5の下端部との間に所定の隙間を形成するものとして記載されている。この点は、構成要件B3自体からも裏付けられる。
以上によれば、構成要件B3の「せぎり部」は、「隙間を生じさせるための段差」といった意味で用いられているから、構成b3の「段差部」も構成要件B3の「せぎり部」に相当する。
(判定請求書12頁18行?13頁10行、10頁7?10行)

ウ 構成要件B2は、構成要件B3の「支持面」を修飾していることが明らかであるから、構成要件B3の「支持面」は、「前記開口部の端部に前記側溝蓋の当接部の曲面と略相似の断面凹状の曲面からなり、」且つ「下端に沿って連続的に前記側溝蓋の前記当接部の下端部との間に所定の隙間を形成するためのせぎり部が形成された」ものである。
すなわち、本件特許発明の「支持面」は、「側溝蓋の当接部の曲面と略相似の断面凹状の曲面」と「せぎり部」を有するものであり、本件特許明細書等で説明されている「せぎり部」の作用効果を考慮すれば、「せぎり部」自体は、「側溝蓋の当接部の曲面と略相似の断面凹状の曲面」であることは要件とされていない。別の観点で言えば、本件特許発明の「支持面」は、側溝蓋を支持するための側溝本体の面(せぎり部を含む。)であり、これは、本件特許発明の「垂直支持部材」の上部に位置する面である。
この前提に立てば、イ号物件の構成b2の「曲面部」、「急傾斜部」、「緩傾斜部」を組み合わせたもの(換言すると、構成b2の「曲面部」と構成b3の「段差部」を組み合わせたもの)が、構成要件B3の「支持面」に相当する。
さらに、構成要件B3の「下端に沿って連続的に」に関し、ここにいう「下端」とは、「支持面」の下端であり、「側溝蓋の当接部の曲面と略相似の断面凹状の曲面」の下側に「せぎり部」(段差部)が設けられるという程度の意味で用いられており、イ号物件の構成b2の「曲面部」、「急傾斜部」、「緩傾斜部」を組み合わせたもの(換言すると、構成b2の「曲面部」と構成b3の「段差部」を組み合わせたもの)を排除するものではない。
よって、イ号物件の構成b3は、本件特許発明の構成要件B3を充足する。
(判定請求書10頁19行?11頁17行)

(2)均等論について
請求人は、均等論の適用について言及しており、構成要件A及び構成要件B3について、均等の第1要件?第5要件を満たし、構成a及び構成b3と異なる部分があると仮定した場合でも、均等論の適用は可能である旨主張しており(判定請求書13頁11行?17頁下から6行)、特に、それらの均等の第1要件については以下のとおりである。
ア 構成要件Aについて
第1の無効審判の審決(甲2)で認容された訂正を考慮すれば、本件特許発明の本質的部分の1つは、「下端に沿って連続的に前記側溝蓋の前記当接部の下端部との間に所定の隙間を形成するためのせぎり部が形成された支持面」(構成要件B3)にあると言える。
そうすると、側溝蓋の曲面が何段になっているかは、本件特許発明を特徴付けるものではなく、当該異なる部分は、本件特許発明の本質的部分ではない。よって、均等の第1要件は満たされる。
(判定請求書14頁7?15行)

イ 構成要件B3について
せぎり部の機能は、「下端に沿って連続的に側溝蓋の前記当接部の下端部との間に所定の隙間を形成する」というものである。仮に、せぎり部が支持面自体に形成されておらず支持面に隣り合って形成されていると解釈したとしても、せぎり部の当該機能自体に何ら影響がない。
よって、イ号物件の構成b3の「段差部」が「支持面」に形成されるのではなく、「支持面」に隣り合って形成されるとしても、そのことは、本件特許発明の本質的部分ではなく、均等の第1要件は満たされる。
(判定請求書16頁12?20行)

2 被請求人の主張について
被請求人は、判定請求答弁書において、以下のとおり主張している。
(1)イ号物件の「当接部」と「支持面」の位置
イ号物件では、側溝蓋を設置した際に重なり合って当接状となる側溝蓋の「当接部」は「突起」より上部、また側溝の「支持面」は、側溝蓋の「当接部」に対応した「切欠き」よりも上部の範囲であり、側溝蓋の「突起」は当接部ではない。また、この「突起」と対応する位置にある側溝の「切欠き」は、「当接部」に対応していないので、支持面に存するものでもない。
(判定請求答弁書2頁下から4行?3頁2行)

(2)本件特許発明とイ号物件の対比
ア イ号物件は、側溝の「切欠き」により、側溝蓋の「突起」との間に隙間はあるものの、この隙間は、側溝蓋の「当接部」の下端部との間に形成されたものではなく、したがって、構成要件B3の「側溝蓋の前記当接部の下端部との間に所定の隙間を形成するためのせぎり部」を充足しない。
(判定請求答弁書3頁7?10行)

イ 側溝の「切欠き」を形成しない場合、「切欠き」と対応する位置にある側溝蓋の「突起」のみによって側溝蓋が支持される状態となり、側溝蓋の「当接部」と側溝の「支持面」との間には空間が形成され、当接状態となるものではないから、「突起」は当接部ではなく、またこの「突起」と対応する位置にある「切欠き」は「支持面」にあるともいえないから、イ号物件は、構成要件B3を充足しない。
(判定請求答弁書3頁下から6?末行)

ウ イ号物件では、「切欠き」を設ける目的が、突起と係合させて側溝蓋に偏荷重がかかった際の側溝蓋の回転を防止することにあり、他方、本件特許発明では、「当接面と支持面の間に小石などが堆積しガタつくことの解消」を目的とし、イ号物件では、構成要件B3の「所定の隙間を形成するためのせぎり部が形成された」ということもできない。
(判定請求答弁書4頁1?5行)

(3)均等論の検討
構成要件「B3」、すなわち、本件特許発明とイ号物件の相違部分は、「従来技術には無い本件特許発明の本質的部分」であり、「相違部分を対象製品等におけるものと置き換えた場合、本件特許発明の目的を達成することができず、また、同一の作用効果を奏することもできない。」ものであるから、少なくとも、均等第1要件及び第2要件を充足せず、均等とも言えない。
(判定請求答弁書5頁10?14行)


第5 属否の判断
1 構成要件の充足性について
イ号物件が、本件特許発明の構成要件を充足するか否かについて検討する。
(1)構成要件Aについて
構成aの「側溝蓋」は、構成要件Aの「側溝蓋」に相当する。
構成aの「両側部には、断面が斜め下方に凸状の曲面からなる湾曲部」の下端付近は、構成b3の「曲面部」「の下端付近」に「載置される」から、それらの下端付近において、「湾曲部」は「曲面部」に当接しているといえるので、構成aの「断面が斜め下方に凸状の曲面からなる湾曲部」は、構成要件Aの「断面凸状の曲面からなる当接部」に相当する。
よって、イ号物件の構成aは、本件特許発明の構成要件Aを充足する。

(2)構成要件B1について
構成b1の「開口部」、「水平な上板」は、それぞれ構成要件B1の「開口部」、「水平支持部材」に相当するから、イ号物件の構成b1は、本件特許発明の構成要件B1を充足する。

(3)構成要件B2について
構成b2の「開口部の側板側」、「断面が側溝蓋の湾曲部の曲面と略相似の斜め上方に向けて凹状の曲面」は、それぞれ構成要件B2の「開口部の端部」、「側溝蓋の当接部の曲面と略相似の断面凹状の曲面」に相当するから、イ号物件の構成b2は、本件特許発明の構成要件B2を充足する。

(4)構成要件B3について
ア 構成要件B3の「支持面」及び「当接部」について
構成b3の「曲面部」「の下端付近」には、「側溝蓋の湾曲部の下端付近が載置され」ているから、「曲面部」は、「側溝蓋」を支持しているといえるので、構成要件B3の「支持面」に相当し、上記(1)で検討したとおり、構成b3の「湾曲部」は、構成要件B3の「当接部」に相当する。


イ 構成要件B3の「せぎり部」について
(ア)せぎり部に関し、本件特許発明には、「側溝蓋」が「有する」「断面凸状の曲面からなる当接部」(構成要件A)であって、「前記側溝蓋の前記当接部の曲面と略相似の断面凹状の曲面からなり、」(構成要件B2)、「下端に沿って連続的に前記側溝蓋の前記当接部の下端部との間に所定の隙間を形成するためのせぎり部が形成された支持面」(構成要件B3)と特定されていることから、「せぎり部」は、(α)当接部の曲面と略相似の断面凹状の曲面からなる支持面の下端に沿って連続的に形成された、つまり該支持面の下端の一部として形成されたものであり、(β)断面凸状の曲面からなる当接部の下端部との間に所定の隙間を形成するものである、と定義されるものと認められる。

(イ)そこでまず、構成b3の「切欠き」についてみると、「曲面部の傾斜が緩くなった下端から鉛直に近い内側下方に延びる急傾斜面部と該急傾斜面部の下端から斜度の緩やかな内方に延びる緩傾斜面部によって構成された」ものであるから、「曲面部」とは別に形成されたものといえるし、しかも、該「急傾斜面部」は、「凹状の曲面からな」(構成b2)る「曲面部の傾斜が緩くなった下端から鉛直に近い内側下方に延びる」ものであって、「曲面部」の下端付近の「曲面」を延長したものや、該「曲面」に近似した形状のものではないから、該「急傾斜面部」が「曲面部」の形状との連続性が認められないことからも、「曲面部」の一部を成すものとは認められない。よって、構成b3の「切欠き」は、上記(α)の定義を満たしていない。

(ウ)次に、構成b3の「突起」と「切欠き」の関係についてみると、「側溝本体の切欠きに側溝蓋の突起が位置しており、側溝蓋の突起を構成する縦辺・下面の端部と、側溝本体の切欠きを構成する急傾斜面部・緩傾斜面部とは、それぞれ対向して隙間が形成され」ているところ、「側溝蓋の突起を構成する縦辺・下面の端部」は、それぞれ、「湾曲部の傾斜が緩くなった下端から鉛直に近い斜め内側下方に延びる縦辺」・「該縦辺の下端に繋がる側溝蓋の水平な下面の端部」(共に構成a)であるから、「突起」は、「断面が斜め下方に凸状の曲面からなる湾曲部」(構成a)の一部ではなく、よって、「突起」と「切欠き」の間に形成される隙間は、少なくとも、「湾曲部」の「下端部」との間に形成されるものではないから、構成b3の「突起」と「切欠き」とは、上記(β)の定義を満たしていない。

(エ)また、イ号物件において、構成b3の「突起」と「切欠き」は、イ号物件のカタログである甲第4号証(別紙2の3頁)に記載されているように、蓋受け部曲面による蓋の転覆、没落を解消する振れ止め機構として機能することから、本件特許発明における隙間を形成する目的で形成された「せぎり部」とは、それらの形成の目的・機能が相違している。

(オ)以上のことから、構成b3において、「突起」と「切欠き」はそれぞれ、構成要件B3の「当接部」と「支持面」に相当する「湾曲部」と「曲面部」の一部とは認められないから、「切欠き」が「突起」との間に隙間を形成することができたとしても、構成b3の「切欠き」は、構成要件B3の「支持面」に形成された「下端に沿って連続的に前記側溝蓋の前記当接部の下端部との間に所定の隙間を形成するためのせぎり部」に相当しない。

(カ)請求人は、上記「第4の1(1)」のとおり、「せぎり」とは、構造面に「段付け」や「段差形状」を設定した部分をいうから、本件特許発明の構成要件B3の「せぎり部」は、「隙間を生じさせるための段差」といった意味で用いられ、「せぎり部」自体は、「側溝蓋の当接部の曲面と略相似の断面凹状の曲面」であることは要件とされておらず、「下端に沿って連続的に」の「下端」とは、「支持面」の下端であり、「側溝蓋の当接部の曲面と略相似の断面凹状の曲面」の下側に「せぎり部」(段差部)が設けられるという程度の意味で用いられている旨、主張している。

(キ) 上記(カ)の主張について検討する。
a 本件特許の請求項1の記載によれば、「せぎり部」が設けられる位置は、上記(ア)に(α)として定義したとおりであるから、請求人が主張するような、「側溝蓋の当接部の曲面と略相似の断面凹状の曲面」の下側に「せぎり部」(段差部)が設けられるものは含まれない。
また、本件特許の明細書をみると、「せぎり部」が設けられた位置について、「下端に前記側溝蓋の前記当接部の下端部との間に所定の隙間を形成するためのせぎり部が形成された支持面」(上記第2の2(4)【0011】)、「この支持部5の下端にはせぎり部5aが形成されている。」(同(5)【0015】)、「この支持面5の下端にはせぎり部5aが形成されており、」(同(6)【0027】)と記載されている程度であって、「支持面5」と「せぎり部」が別の部位であることが明示的に表現されていない。
また、本件特許の図面(同(9)図2)における5aを指し示した部分をみても、「せぎり部」が、「支持部5」の「曲面」の下端付近の傾斜と比較して顕著に異なる傾斜をしたものと看取することはできない。
よって、本件特許の明細書及び図面を考慮しても、構成要件B3の「せぎり部」に、「側溝蓋の当接部の曲面と略相似の断面凹状の曲面」の下側に「せぎり部」(段差部)が設けられるものが含まれると解することはできない。

b また、仮に請求人が主張するように、「せぎり部」を設ける位置が「支持面」の「曲面」の下側を含むとしても、構成要件B3の「せぎり部」は、「断面凸状の曲面からなる(構成要件A)」「当接部の下端部との間に所定の隙間を形成する」ものであるから、隙間を、「断面凸状の曲面からなる湾曲部」との間ではなく、「側溝蓋の突起を構成する縦辺・下面」との間に形成する構成b3の「側溝本体の切欠きを構成する急傾斜面部・緩傾斜面部」は、構成要件B3の「せぎり部」に相当しない。

c 以上のとおりであるから、請求人の主張は採用できない。

ウ 以上のことから、イ号物件の構成b3は、本件特許発明の構成要件B3を充足しない。

(5)構成要件B4について
構成b4の「垂直な側板」、「幅方向両端」は、それぞれ構成要件B4の「垂直支持部材」、「両端辺」に相当するから、イ号物件の構成b4は、本件特許発明の構成要件B4を充足する。

(6)構成要件B5について
イ号物件の構成b5の「断面が略逆U字型の側溝本体」は、本件特許発明の構成要件B5の「側溝」を充足する。

(7)構成要件Cについて
イ号物件の構成cの「側溝」についてみると、「水平な上板(構成b1)」と「上板の幅方向両端から下方に」「夫々延設された」「垂直な側板(構成b4)」を有した「略逆U字型の側溝本体(構成b5)」を具備している。
これに対し、本件特許発明の構成要件Cの「被包型側溝」について、本件特許明細書には、「略逆U字型の形状を呈し、覆い被せるスタイルで側溝を構成する被包型側溝に関するものである。」(第2の2(1)【0001】)と記載されている。
してみると、構成要件Cの「被包型側溝」と、イ号物件の「側溝本体」つまり、構成cの「側溝」とは、同じ略逆U字型であるから、構成cの「側溝」は「被包型側溝」といえる。
よって、イ号物件の構成cは、本件特許発明の構成要件Cを充足する。

2 均等論について
請求人は均等論の適用について言及しており(上記第4の1(2))、特に均等の第1要件について、せぎり部の機能は、「下端に沿って連続的に側溝蓋の前記当接部の下端部との間に所定の隙間を形成する」というものであって、仮に、せぎり部が支持面自体に形成されておらず支持面に隣り合って形成されていると解釈したとしても、せぎり部の当該機能自体には何ら影響がないから、イ号物件のb3の「段差部」が「支持面」に形成されるのではなく、「支持面」に隣り合って形成されているとしても、そのことは、本件特許発明の本質的部分ではなく、均等の第1要件は満たされる旨(上記第4の1(2))、主張している。
そこで、最高裁判決(最高裁平成10年2月24日第三小法廷判決(最高裁平成6年(オ)第1083号))及び知財高裁大合議判決(知財高裁平成28年3月25日判決(知財高裁平成27年(ネ)第10014号))が判示する次の5つの要件にしたがって、均等論適用の可否について検討する。
(第1要件)特許請求の範囲に記載された構成中のイ号と異なる部分が特許発明の本質的部分ではない(発明の本質的部分)。
(第2要件)前記異なる部分をイ号のものと置き換えても特許発明の目的を達することができ、同一の作用効果を奏する(置換可能性)。
(第3要件)前記異なる部分をイ号のものと置き換えることが、イ号の実施の時点において当業者が容易に想到することができたものである(置換容易性)。
(第4要件)イ号が特許発明の出願時における公知技術と同一又は当業者が公知技術から出願時に容易に推考できたものではない(自由技術の除外)。
(第5要件)イ号が特許発明の特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外される等の特段の事情がない(禁反言:出願等の経緯の参酌)。

(1)本件特許発明とイ号物件の相違点
本件特許発明とイ号物件との異なる部分(相違点)は、上記1(4)イの(ア)?(ウ)に記載したとおり、せぎり部について、本件特許発明の構成要件B3は、断面凹状の曲面からなる支持面の下端に沿って連続的に形成された(支持面の下端の一部として形成された)ものであるのに対し、イ号物件の構成b3は、「斜め上方に向けて凹状の曲面からな」(構成b2)る「曲面部の傾斜が緩くなった下端から鉛直に近い内側下方に延びる急傾斜面部と該急傾斜面部の下端から斜度の緩やかな内方に延びる緩傾斜面部によって構成された切欠き」(構成b3)である点(相違部分1)、隙間について、本件特許発明の構成要件B3は、「断面凸状の曲面からなる」(構成要件A)「当接部の下端部との間に所定の隙間を形成する」のに対し、イ号物件の構成b3は、側溝蓋の突起を構成する縦辺・下面の端部とも間に隙間を形成する点(相違部分2)、にある。

(2)第1要件について
ア 基本的な考え方
上記知財高裁大合議判決の判示事項によれば、第1要件の本質的部分について、
「特許発明における本質的部分とは、当該特許発明の特許請求の範囲の記載のうち、従来技術に見られない特有の技術的思想を構成する特徴的部分であると解すべきである。
そして、上記本質的部分は、特許請求の範囲及び明細書の記載に基づいて、特許発明の課題及び解決手段とその効果を把握した上で、特許発明の特許請求の範囲の記載のうち、従来技術に見られない特有の技術的思想を構成する特徴的部分が何であるかを確定することによって認定されるべきである。」と判示されている。

(3)構成要件B3に対する第1要件について
ア 上記判例によれば「特許発明の本質的部分」は、特許請求の範囲に記載された構成のうち、従来技術に見られない特有の技術的思想を構成する特徴的部分であるといえる。
この点について本件特許発明を検討すると、本件特許発明は、上記第2の2に示したように、「略逆U字型の形状を呈し、覆い被せるスタイルで側溝を構成する被包型側溝」(【0001】【発明の属する技術分野】)に関する技術であって、従来、「被包型側溝の側溝50」の「水平支持部材52には」「開口部54が設けられ」、「側溝蓋60の幅方向両端部の当接部61が開口部54の幅方向両端部の支持部55によって支持されており、当接部61の水平面61aが支持部55の水平面55aに、当接部61の垂直面61bが支持部55の水平面55a(当審注:「水平面55a」は「垂直面55b」の誤記と認める。)に各々当接している。」(【0002】【従来技術】?【0006】)ところ、「簡易な構成により、側溝蓋のがたつきを抑制し、騒音が発生しない被包型側溝の提供」(【0010】【発明が解決しようとする課題】)を目的(課題)とし、「水平支持部材の一部に穿設された開口部の側溝蓋を支持する支持面の形状が曲面であり、側溝蓋の当接部も曲面であることから、側溝蓋より受ける荷重は、分散されるとともに密着性がよくなるので、側溝蓋の上面を車両や人が通過するときに、がたついて騒音が発生することはない。なお、支持面には平面部分がないために、小石、砂利、土等が堆積しにくく、堆積したときも非常に除去しやすいので、側溝蓋を装着するのに手間がかからない。」(【0031】【発明の効果】)ものである。
特に「せぎり部」については、「この支持面5の下端にはせぎり部5aが形成されており、側溝蓋10の当接部11の下端部と側溝1の支持面5の下端部との間に所定の隙間が形成されるので、施工後には砂利、土等はこの隙間に集まり、側溝蓋10の当接部11と側溝1の支持面5とは面接触状態が維持される。」(【0027】【発明の実施の形態】)ことにより、上記の「密着性がよくなるので、側溝蓋の上面を車両や人が通過するときに、がたついて騒音が発生することはない。」、「小石、砂利、土等が堆積しにくく、堆積したときも非常に除去しやすいので、側溝蓋を装着するのに手間がかからない」との作用効果をより発揮するものと認められる。
したがって、上記相違部分1及び2である本件特許発明の構成要件B3における「下端に沿って連続的に前記側溝蓋の前記当接部の下端部との間に所定の隙間を形成するためのせぎり部が形成された支持面を有する」との構造は、従来技術に見られない特有の技術的思想を構成する特徴的部分であると解すべきである。
よって、本件特許発明は特許請求の範囲に記載された構成中にイ号物件と異なる部分(下端に沿って連続的に前記側溝蓋の前記当接部の下端部との間に所定の隙間を形成するためのせぎり部)があり、かつ、その異なる部分が本件特許発明の本質的部分であるから、上記第1要件を満たしていない。

イ 請求人は、上記第4の1(2)イのとおり、イ号物件の構成b3の「段差部」が「支持面」に形成されるのではなく、「支持面」に隣り合って形成されるとしても、せぎり部の機能自体に何ら影響がないから、構成bの「段差部」が「支持面」に隣り合って形成されるとしても、そのことは、本件特許発明の本質部分ではない旨、主張している。
しかしながら、第2の2(2)?(4)のとおり、従来、側溝蓋の当接部が側溝蓋の開口部の支持部に支持され、当接部の水平面が支持部の水平面に当接していたところ、本件特許発明においては、簡易な構成により、側溝蓋のがたつきを抑制し、騒音が発生しない被包型側溝の提供を課題として、断面凸状の当接部が、略相似形の関係にある断面凹状の支持面で支持されることよって、側溝蓋により受ける荷重が分散されるとともに密着性がよくなり、支持面に平面がないために小石、砂利、土等が堆積しにくくなり、側溝蓋のがたつきや騒音の発生を抑制し、かつ、せぎり部により当接部の下端部と支持面の下端部との間に所定の隙間が形成されるため、砂利、土等が隙間に集まり、当接部と支持面との間の面接触状態が維持され、堆積した小石、砂利、土等も除去しやすい、という効果があるとされる。
そうすると、せぎり部は、本来であれば略相似の関係にある曲面が当接する関係にあった当接部と支持面のうち、支持面の下端の形状を変更することによって、当接部の下端部との間に隙間を設けるという簡易な構成を採用したことに技術的意義があるから、「(支持面の)下端に沿って連続的に」「形成され」、「断面凸状の曲面からなる」「前記側溝蓋の前記当接部の下端部との間に所定の隙間を形成する」ことは、特許請求の範囲に記載された「せぎり部」を特定する構成であって、本件特許発明の本質的部分である。

よって、上記のイ号物件と異なる部分は、従来技術に見られない特有の技術的思想を構成する特徴的部分であるから、本質的部分であるといえるので、請求人の主張は採用できない。

(4)小括
以上のとおりであるから、イ号物件は、上記第2?5要件について検討するまでもなく、本件特許発明の特許請求の範囲に記載された構成と均等なものとして、本件特許発明の技術的範囲に属するとすることはできない。

3 まとめ
よって、イ号物件は本件特許発明の構成要件B3を充足しないから、イ号物件は、本件特許発明の技術的範囲に属しない。


第6 むすび
以上のとおり、イ号物件の構成a、b1、b2、b4、b5及びcは、それぞれ本件特許発明の構成要件A、B1、B2、B4、B5及びCを充足するものの、構成b3は、構成要件B3を充足しないから、イ号物件は、本件特許発明の技術的範囲に属しない。

よって、結論のとおり判定する。

 
別掲























































 
判定日 2021-10-14 
出願番号 特願平8-83259
審決分類 P 1 2・ - ZB (E03F)
最終処分 不成立  
特許庁審判長 森次 顕
特許庁審判官 住田 秀弘
長井 真一
登録日 2005-09-09 
登録番号 特許第3718279号(P3718279)
発明の名称 被包型側溝  
代理人 特許業務法人 松原・村木国際特許事務所  
代理人 加藤 久  

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