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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H01B
管理番号 1381381
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2022-02-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-10-19 
確定日 2022-01-25 
事件の表示 特願2019− 69718「イオン濃度勾配発生システム、装置、方法、及び、温度応答性電解質材料」拒絶査定不服審判事件〔令和 1年 9月12日出願公開、特開2019−153589、請求項の数(9)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2012年(平成24年)8月17日を国際出願日とする出願(特願2013−529997号(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2011年8月19日、2012年5月14日、ともに米国))の一部を、平成29年8月30日に特許法第44条第1項の規定による新たな出願(特願2017−165950号)とし、更にその一部を平成31年4月1日に新たな出願(特願2019−69718号)としたものであって、同年同日付けで上申書が提出され、令和2年2月19日付けで拒絶理由通知がされ、同年6月24日付けで手続補正がされるとともに意見書が提出され、同年7月13日付けで拒絶査定(原査定)がされ、これに対し、同年10月19日に拒絶査定不服審判の請求がされたものである。

第2 原査定の概要
原査定(令和2年7月13日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。

本願請求項1−9に係る発明は、以下の引用文献1に記載された発明に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献等一覧
1.特開2004−43749号公報

第3 本願発明
本願請求項1−9に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」−「本願発明9」という。)は、令和2年6月24日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1−9に記載された事項により特定される発明であり、本願発明1は以下のとおりの発明である。

「【請求項1】
イオン化可能な塩基性電離基を有するモノマー成分と、
架橋性モノマー成分と、
極性基を有するモノマー成分と疎水性基を有するモノマー成分の2つのモノマー成分とを又は極性基及び疎水性基とを有するモノマー成分とを、
含んだモノマー成分を共重合して得られる高分子を含む微粒子を備えた二酸化炭素吸収用温度応答性電解質材料。」

なお、本願発明2−9は、本願発明1を減縮した発明である。

第4 引用文献、引用発明等
1 引用文献1について
原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献1には、図面とともに次の事項が記載されている(下線は、当審で付した。以下同じ。)。

「【請求項1】
その水溶液が低温でゾル状態、高温でゲル状態となる熱可逆的なゾル−ゲル転移を示すハイドロゲル形成性の高分子を少なくとも含むハイドロゲルであって;
フェノールレッド(PR)、メチルブルー(MB)、およびミオグロビン(MG)の拡散係数Dの比が、(DPR/DMB)≧2および(DPR/DMG)≧1.2を満たすことを特徴とするハイドロゲル。
【請求項2】
前記ハイドロゲル形成性の高分子が、曇点を有する複数のブロックと、親水性のブロックとが結合した高分子である請求項1項記載のハイドロゲル。
・・・
【請求項5】
前記ハイドロゲル形成性高分子の水溶液が、高温のゲル状態で実質的に水不溶性を示すことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のハイドロゲル。
【請求項6】
更に水を含む請求項1〜5のいずれかに記載のハイドロゲル。
【請求項7】
有用物質と、該有用物質の周囲に配置されたハイドロゲルとを少なくとも含むゲル体であって;
該ハイドロゲルが、その水溶液が低温でゾル状態、高温でゲル状態となる熱可逆的なゾル−ゲル転移を示すハイドロゲル形成性の高分子を少なくとも含み、且つ、
前記ハイドロゲルにおけるフェノールレッド(PR)、メチルブルー(MB)、およびミオグロビン(MG)の拡散係数の比が、(DPR/DMB)≧2および(DPR/DMG)≧1.2を満たすことを特徴とするゲル体。
【請求項8】
前記有用物質が、生理活性物質、着色物質、コスメティックス、および生体由来材料からなる群から選ばれる1以上の物質である請求項7に記載のゲル体。
【請求項9】
有用物質と、該有用物質の周囲に配置されたハイドロゲルとを少なくとも含むゲル体を用いて、有用物質の保持/拡散を制御する方法であって、
該ハイドロゲルが、その水溶液が低温でゾル状態、高温でゲル状態となる熱可逆的なゾル-ゲル転移を示すハイドロゲル形成性の高分子を少なくとも含み、且つ、
前記ハイドロゲルにおけるフェノールレッド(PR)、メチルブルー(MB)、およびミオグロビン(MG)の拡散係数の比が、(DPR/DMB)≧2および(DPR/DMG)≧1.2を満たすことを特徴とする制御方法。
【請求項10】
前記ゾル−ゲル転移温度より低い温度とすることにより、前記ハイドロゲルをゾル状態として、有用物質を回収する請求項9に記載の制御方法。」

「【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、種々の有用物質の保持および/又は拡散(ないし放出)に好適に使用可能なハイドロゲル、該ハイドロゲルを用いたゲル体、および該ハイドロゲルを用いて有用物質の保持および/又は拡散を好適に制御することが可能な制御方法に関する。
【0002】
本発明のハイドロゲルを用いることにより、種々の有用物質(例えば、医薬品等の生理活性物質)の保持/拡散を、種々の条件に適合するように好適に制御することが可能となる。
【0003】
【従来の技術】
ハイドロゲル形成性の高分子(例えば、コラーゲン、寒天、アルギン酸、ヒアルロン酸等)と、水性の分散媒とを少なくとも含むハイドロゲルは、種々の産業(例えば、化学、製薬、食品、農業、等)のみならず個人的・家庭的な用途にも幅広く使用されて来た。水性の分散媒を含むハイドロゲルは、いわゆる「環境に優しい材料」であることから、今後とも、その利用はなお一層拡大することが有望視されている。
【0004】
このようなハイドロゲルの保持/拡散の機能を有効に利用することにより、該ハイドロゲル中に配置された物質の保持および/又は(ないし放出)を好適に制御できる可能性があるため、従来より、ハイドロゲルは、種々の物質の保持および/又は拡散に利用されて来た。例えば、ハイドロゲルの保持/拡散の機能は、所望の生理活性物質を所望のリリースプロファイルで、且つ所望の場所にデリバリーするドラッグデリバリーシステム(DDS)への応用が大いに期待されている。」

「【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明者は鋭意研究の結果、特定のハイドロゲル形成性の高分子を少なくとも含むハイドロゲルにおいては、特定の物質相互間の拡散係数の比が、種々の有用物質の保持および/又は拡散の機能を直接的に反映する指標として極めて有用であることを見出した。
・・・
【0012】
本発明者の知見によれば、上記した拡散係数の比(DPR/DMB)および(DPR/DMG)は、それぞれ、ハイドロゲル中のハイドロゲル形成性高分子からなる親水性/疎水性バランス、およびハイドロゲル形成性高分子の網目構造による「篩い効果」に基づく、有用物質の拡散における分子量依存性を反映するものと推定される。」

「【0013】
【発明の実施の形態】
以下、必要に応じて図面を参照しつつ本発明を更に具体的に説明する。以下の記載において量比を表す「部」および「%」は、特に断らない限り質量基準とする。
【0014】
(ハイドロゲル)
本発明のハイドロゲルは、ゾル−ゲル転移温度を有するハイドロゲル形成性の高分子を少なくとも含む。該ハイドロゲルは、より低い温度でゾル状態、より高い温度でゲル状態となる熱可逆的なゾル-ゲル転移を示す。
【0015】
(ハイドロゲル形成性高分子)
本発明のハイドロゲルを構成する「ハイドロゲル形成性高分子」とは、架橋(crosslinking)構造ないし網目構造を有し、該構造に基づき、その内部に水等の分散液体を保持することによりハイドロゲルを形成可能な性質を有する高分子をいう。又、「ハイドロゲル」とは高分子からなる架橋ないし網目構造と該構造中に支持ないし保持された(分散液体たる)水を少なくとも含むゲルをいう。
【0016】
架橋ないし網目構造中に保持された「分散液体」は水を主要成分として含む液体である限り、特に制限されない。より具体的に言えば、分散液体は水自身であってもよく、また水溶液及び/又は含水液体のいずれであってもよい。この含水液体は、該含水液体の全体100部に対して、水を80部以上、更には90部以上含むことが好ましい。
【0017】
本発明の目的に反しない限り、上記分散液体は、所定の含量で有機溶媒(例えば、水と相溶性を有するエタノール等の親水性溶媒)を含んでいてもよい。」

「【0027】
(ゲル体)
本発明のゲル体は、有用物質と、該有用物質の周囲に配置された上記ハイドロゲルとを少なくとも含む。
【0028】
(有用物質)
上記したハイドロゲルとともに本発明のを構成する有用物質は、該ハイドロゲル中に保持可能であって、且つ、ハイドロゲル中におけるその保持および/又は拡散(ないし放出)が、何らかの意味で有用である限り、特に制限されない。この「何らかの意味で有用」とは、有用物質が、その特性(例えば、物理的作用、化学的作用、生理的作用、着色、反応性、等)に基づき、その保持および/又は拡散(ないし放出)が、外部から認識可能な何らかの影響を周囲に与えることを言う。
【0029】
このハイドロゲル中における保持は、ハイドロゲル中における保持の目的(例えば、所定のリリースプロファイルでの有用物質の放出、所定の場所へのドラッグデリバリー、等)が達成可能である限り、一時的なものであってもよい。更には、このようなハイドロゲル中における保持が達成可能である限り、有用物質の組成物、状態、性質等は特に制限されない。すなわち、気体、液体、固体のいずれでもよく、また必要に応じて混合物(固溶体、溶液を含む)であってもよい。更には本発明のゲル体は、必要に応じて、複数および/又は複数種類の有用物質を含んでいてもよい。
【0030】
ゲル体の安定性の点からは、この有用物質は、少なくともそれがハイドロゲル中に保持されている時間の範囲内では、ハイドロゲル形成性高分子と実質的に化学的な結合反応を生じないことが好ましい。
【0031】
(有用物質の具体例)
以下に、本発明において使用可能な有用物質の具体例を例示する。
(1)物理的作用に基づき有用な物質
例えば、種々の気体、液体、固体が挙げられる。
より具体的な例を以下に示す。
気体:酸素、空気、窒素、水素、アルゴン、ヘリウム、二酸化炭素、エチレンオキサイドなど
液体:エタノール、メタノール、THF、DMFなどの水と相溶性のものおよびクロロホルム、ジエチルエーテル、シリコン油など水と非相溶性のもの
固体:14Cなどの放射性同位体標識化合物、15Nなどの安定同位体標識化合物、種々の電気的特性あるいは磁気的特性を有する金属あるいは有機物質など」

「【0045】
(ゲル中における有用物質の拡散)
本発明のハイドロゲルは、ハイドロゲル中の有用物質の拡散速度を任意に制御することができる。例えば、親水性物質と疎水性物質を、それらの親水/疎水性の程度に応じて、異なる拡散速度で拡散させることができる。水溶性親水性物質の拡散は、ハイドロゲル形成性高分子の3次元網目構造による分子篩い効果によって制御される。従って水溶性親水性物質の拡散速度を低下させるには、ハイドロゲルを構成するハイドロゲル形成性高分子の濃度を高めれば良い。また、水溶性親水性物質の拡散は、その物質の分子量にも依存する。ハイドロゲルを構成するハイドロゲル形成性高分子の濃度が一定であれば分子量の大きな物質ほどその拡散速度は遅くなる。
【0046】
本発明のハイドロゲル中における水溶性疎水性物質の拡散は、ハイドロゲル形成性高分子の3次元網目構造による分子篩い効果に加えて、ハイドロゲル形成性高分子の疎水性部分への分配によっても影響を受け、ハイドロゲル形成性高分子中の疎水性部分の割合によっても制御されるため、水溶性親水性物質の拡散よりも通常遅くなる。」

「【0085】
(ハイドロゲル形成性の高分子)
上述したような熱可逆的なゾル−ゲル転移を示す(すなわち、ゾル−ゲル転移温度を有する)限り、本発明のハイドロゲルに使用可能なハイドロゲル形成性の高分子は特に制限されない。生理的温度(0〜42℃程度)において好適なゾル−ゲル変化を示すことが容易な点からは、例えば、該ハイドロゲル形成性の高分子中の曇点を有する複数のブロックと親水性のブロックの曇点、両ブロックの組成および両ブロックの疎水性度、親水性度、および/又は分子量等をそれぞれ調整することによって、好適なゾル−ゲル転移温度を達成することが好ましい。
【0086】
その水溶液がゾル−ゲル転移温度を有し、該転移温度より低い温度で可逆的にゾル状態を示す高分子の具体例としては、例えば、ポリプロピレンオキサイドとポリエチレンオキサイドとのブロック共重合体等に代表されるポリアルキレンオキサイドブロック共重合体;メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース等のエーテル化セルロース;キトサン誘導体(K.R.Holme.et al. Macromolecules、24、3828(1991))等が知られている。
・・・
【0090】
これに対して、本発明者らの検討によれば、好ましくは0℃より高く42℃以下であるゾル−ゲル転移温度を有するハイドロゲル形成性の高分子(例えば、曇点を有する複数のブロックと親水性のブロックが結合してなり、その水溶液がゾル−ゲル転移温度を有し、且つ、ゾル−ゲル転移温度より低い温度で可逆的にゾル状態を示す高分子)を用いて本発明のハイドロゲルを構成した場合に、上記問題は解決されることが判明している。
【0091】
(好適なハイドロゲル形成性の高分子)
本発明のハイドロゲルとして好適に使用可能な疎水結合を利用したハイドロゲル形成性の高分子は、曇点を有する複数のブロックと親水性のブロックが結合してなることが好ましい。該親水性のブロックは、ゾル−ゲル転移温度より低い温度で該ハイドロゲルが水溶性になるために存在することが好ましく、また曇点を有する複数のブロックは、ハイドロゲルがゾル−ゲル転移温度より高い温度でゲル状態に変化するために存在することが好ましい。換言すれば、曇点を有するブロックは該曇点より低い温度では水に溶解し、該曇点より高い温度では水に不溶性に変化するために、曇点より高い温度で、該ブロックはゲルを形成するための疎水結合からなる架橋点としての役割を果たす。すなわち、疎水性結合に由来する曇点が、上記ハイドロゲルのゾル−ゲル転移温度に対応する。
【0092】
ただし、該曇点とゾル−ゲル転移温度とは必ずしも一致しなくてもよい。これは、上記した「曇点を有するブロック」の曇点は、一般に、該ブロックと親水性ブロックとの結合によって影響を受けるためである。
【0093】
本発明に用いるハイドロゲルは、疎水性結合が温度の上昇と共に強くなるのみならず、その変化が温度に対して可逆的であるという性質を利用したものである。1分子内に複数個の架橋点が形成され、安定性に優れたゲルが形成される点からは、ハイドロゲル形成性の高分子が「曇点を有するブロック」を複数個有することが好ましい。
【0094】
一方、上記ハイドロゲル形成性の高分子中の親水性ブロックは、前述したように、該ハイドロゲル形成性の高分子がゾル−ゲル転移温度よりも低い温度で水溶性に変化させる機能を有し、上記転移温度より高い温度で疎水性結合力が増大しすぎて上記ハイドロゲルが凝集沈澱してしまうことを防止しつつ、含水ゲルの状態を形成させる機能を有する。
【0095】
(曇点を有する複数のブロック)
曇点を有するブロックとしては、水に対する溶解度−温度係数が負を示す高分子のブロックであることが好ましく、より具体的には、ポリプロピレンオキサイド、プロピレンオキサイドと他のアルキレンオキサイドとの共重合体、ポリN−置換アクリルアミド誘導体、ポリN−置換メタアクリルアミド誘導体、N−置換アクリルアミド誘導体とN−置換メタアクリルアミド誘導体との共重合体、ポリビニルメチルエーテル、ポリビニルアルコール部分酢化物からなる群より選ばれる高分子が好ましく使用可能である。上記の高分子(曇点を有するブロック)の曇点が4℃より高く40℃以下であることが、本発明に用いる高分子(曇点を有する複数のブロックと親水性のブロックが結合した化合物)のゾル−ゲル転移温度を4℃より高く40℃以下とする点から好ましい。
・・・
【0097】
本発明に使用可能なポリN−置換アクリルアミド誘導体、ポリN−置換メタアクリルアミド誘導体の具体的な例を以下に列挙する。
ポリ−N−アクロイルピペリジン;ポリ−N−プロピルメタアクリルアミド;ポリ-N-イソプロピルアクリルアミド;ポリ−N、N−ジエチルアクリルアミド;ポリ−N−イソプロピルメタアクリルアミド;ポリ−N−シクロプロピルアクリルアミド;ポリ−N−アクリロイルピロリジン;ポリ−N、N−エチルメチルアクリルアミド;ポリ−N−シクロプロピルメタアクリルアミド;ポリ−N−エチルアクリルアミド。
【0098】
上記の高分子は単独重合体(ホモポリマー)であっても、上記重合体を構成する単量体と他の単量体との共重合体であってもよい。このような共重合体を構成する他の単量体としては、親水性単量体、疎水性単量体のいずれも用いることができる。一般的には、親水性単量体と共重合すると生成物の曇点は上昇し、疎水性単量体と共重合すると生成物の曇点は下降する。従って、これらの共重合すべき単量体を選択することによっても、所望の曇点(例えば4℃より高く40℃以下の曇点)を有する高分子を得ることができる。
【0099】
(親水性単量体)
上記親水性単量体としては、N−ビニルピロリドン、ビニルピリジン、アクリルアミド、メタアクリルアミド、N−メチルアクリルアミド、ヒドロキシエチルメタアクリレート、ヒドロキシエチルアクリレート、ヒドロキシメチルメタアクリレート、ヒドロキシメチルアクリレート酸性基を有するアクリル酸、メタアクリル酸およびそれらの塩、ビニルスルホン酸、スチレンスルホン酸等、並びに塩基性基を有するN、N−ジメチルアミノエチルメタクリレートN、N−ジエチルアミノエチルメタクリート、N、N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミドおよびそれらの塩等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0100】
(疎水性単量体)
一方、上記疎水性単量体としては、エチルアクリレート、メチルメタクリレート、グリシジルメタクリレート等のアクリレート誘導体およびメタクリレート誘導体、N−n−ブチルメタアクリルアミド等のN−置換アルキルメタアクリルアミド誘導体、塩化ビニル、アクリロニトリル、スチレン、酢酸ビニル等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0101】
(親水性のブロック)
一方、上記した曇点を有するブロックと結合すべき親水性のブロックとしては、具体的には、メチルセルロース、デキストラン、ポリエチレンオキサイド、ポリビニルアルコール、ポリN−ビニルピロリドン、ポリビニルピリジン、ポリアクリルアミド、ポリメタアクリルアミド、ポリN−メチルアクリルアミド、ポリヒドロキシメチルアクリレート、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリビニルスルホン酸、ポリスチレンスルホン酸およびそれらの塩;ポリN、N−ジメチルアミノエチルメタクリレート、ポリN、N−ジエチルアミノエチルメタクリレート、ポリN、N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミドおよびそれらの塩等が挙げられる。
【0102】
曇点を有するブロックと上記の親水性のブロックとを結合する方法は特に制限されないが、例えば、これらのブロックを有するブロック共重合体、またはグラフト共重合体またはデンドリマー型共重合体として得ることが好ましい。
曇点を有するブロックと親水性のブロックとの結合は、上記いずれかのブロック中に重合性官能基(例えばアクリロイル基)を導入し、他方のブロックを与える単量体を、このように重合性官能基を導入したブロックと共重合させることによって行うことができる。また、曇点を有するブロックと上記の親水性のブロックとの結合物は、曇点を有するブロックを与える単量体と、親水性のブロックを与える単量体とのブロック共重合によって得ることも可能である。また、曇点を有するブロックと親水性のブロックとの結合は、予め両者に反応活性な官能基(例えば水酸基、アミノ基、カルボキシル基、イソシアネート基等)を導入し、両者を化学反応により結合させることによって行うこともできる。この際、親水性のブロック中には通常、反応活性な官能基を複数導入する。
【0103】
また、曇点を有するポリプロピレンオキサイドと親水性のブロックとの結合に関しては、例えば、アニオン重合またはカチオン重合で、プロピレンオキサイドと「他の親水性ブロック」を構成するモノマー(例えばエチレンオキサイド)とを繰り返し逐次重合させることで、ポリプロピレンオキサイドと「親水性ブロック」(例えばポリエチレンオキサイド)が結合したブロック共重合体を得ることができる。このようなブロック共重合体は、ポリプロピレンオキサイドの末端に重合性基(例えばアクリロイル基)を導入後、親水性のブロックを構成するモノマーを共重合させることによっても得ることができる。更には、親水性のブロック中に、ポリプロピレンオキサイド末端の官能基(例えば水酸基)と結合反応し得る官能基を導入し、両者を反応させることによっても、本発明に用いる高分子を得ることができる。また、ポリプロピレングリコールの両端にポリエチレングリコールが結合した、プルロニック F-127(商品名、旭電化工業(株)製)等の材料を連結させることによっても、本発明に用いるハイドロゲル形成性の高分子を得ることができる。
【0104】
この曇点を有するブロックを含む態様における本発明の高分子は、曇点より低い温度においては、分子内に存在する上記「曇点を有するブロック」が親水性のブロックとともに水溶性であるため、完全に水に溶解し、ゾル状態を示す。しかしながら、この高分子の水溶液の温度を上記曇点より高い温度に加温すると、分子内に存在する「曇点を有するブロック」が疎水性となり、疎水的相互作用によって、別個の分子間で会合する。
【0105】
一方、親水性のブロックは、この時(曇点より高い温度に加温された際)でも水溶性であるため、本発明の高分子は水中において、曇点を有するブロック間の疎水性会合部を架橋点とした三次元網目構造を持つハイドロゲルを生成する。このハイドロゲルの温度を再び、分子内に存在する「曇点を有するブロック」の曇点より低い温度に冷却すると、該曇点を有するブロックが水溶性となり、疎水性会合による架橋点が解放され、ハイドロゲル構造が消失して、本発明の高分子は、再び完全な水溶液となる。このように、好適な態様における本発明の高分子のゾル−ゲル転移は、分子内に存在する曇点を有するブロックの該曇点における可逆的な親水性、疎水性の変化に基づくものであるため、温度変化に対応して、完全な可逆性を有する。
【0106】
(ゲルの溶解性)
上述したように水溶液中でゾル−ゲル転移温度を有する高分子を少なくとも含む本発明のハイドロゲル形成性の高分子は、該ゾル−ゲル転移温度より高い温度(d℃)で実質的に水不溶性を示し、ゾル−ゲル転移温度より低い温度(e℃)で可逆的に水可溶性を示す。」

「【0137】
製造例3
N−イソプロピルアクリルアミド(イーストマンコダック社製)96g、N−アクリロキシスクシンイミド(国産化学(株)製)17g、およびn−ブチルメタクリレート(関東化学(株)製)7gをクロロホルム4000mlに溶解し、窒素置換後、N、N’−アゾビスイソブチロニトリル1.5gを加え、60℃で6時間重合させた。反応液を濃縮した後、ジエチルエーテルに再沈(再沈殿)した。濾過により固形物を回収した後、真空乾燥して、78gのポリ(N−イソプロピルアクリルアミド−コ−N−アクリロキシスクシンイミド−コ−n−ブチルメタクリレート)を得た。
【0138】
上記により得たポリ(N−イソプロピルアクリルアミド−コ−N−アクリロキシスクシンイミド−コ−n−ブチルメタクリレート)に、過剰のイソプロピルアミンを加えてポリ(N−イソプロピルアクリルアミド−コ−n−ブチルメタクリレート)を得た。このポリ(N−イソプロピルアクリルアミド−コ−n−ブチルメタクリレート)の水溶液の曇点は19℃であった。
【0139】
前記のポリ(N−イソプロピルアクリルアミド−コ−N−アクリロキシスクシンイミド−コ−n−ブチルメタクリレート)10g、および両末端アミノ化ポリエチレンオキサイド(分子量6、000、川研ファインケミカル(株)製)5gをクロロホルム1000mlに溶解し、50℃で3時間反応させた。室温まで冷却した後、イソプロピルアミン1gを加え、1時間放置した後、反応液を濃縮し、残渣をジエチルエーテル中に沈澱させた。濾過により固形物を回収した後、真空乾燥して、複数のポリ(N−イソプロピルアクリルアミド−コ−n−ブチルメタクリレート)とポリエチレンオキサイドとが結合した本発明のハイドロゲル形成性高分子(TGP−3)を得た。
【0140】
このようにして得たTGP−3を氷冷下、5質量%の濃度で蒸留水に溶解し、そのゾル−ゲル転移温度を測定したところ、約21℃であった。
・・・
【0143】
製造例5
N−イソプロピルアクリルアミド37gと、n−ブチルメタクリレート3gと、ポリエチレンオキサイドモノアクリレート(分子量4,000、日本油脂(株)製:PME−4000)28gとを、ベンゼン340mlに溶解した後、2、2′−アゾビスイソブチロニトリル0.8gを加え、60℃で6時間反応させた。得られた反応生成物にクロロホルム600mlを加えて溶解し、該溶液をエーテル20L(リットル)に滴下して沈澱させた。得られた沈殿を濾過により回収し、該沈澱を約40℃で24時間真空乾燥した後、蒸留水6Lに再び溶解し、分画分子量10万のホローファイバー型限外濾過膜(アミコン社製H1P100−43)を用いて10℃で2lまで濃縮した。
【0144】
該濃縮液に蒸留水4lを加えて希釈し、上記希釈操作を再度行った。上記の希釈、限外濾過濃縮操作を更に5回繰り返し、分子量10万以下のものを除去した。この限外濾過により濾過されなかったもの(限外濾過膜内に残留したもの)を回収して凍結乾燥し、分子量10万以上の本発明のハイドロゲル形成性高分子(TGP−4)60gを得た。
【0145】
上記により得た本発明のハイドロゲル形成性高分子(TGP−4)1gを、9gの蒸留水に氷冷下で溶解した。この水溶液のゾル−ゲル転移温度を測定したところ、該ゾル−ゲル転移温度は25℃であった。
・・・
【0163】
製造例8
N−イソプロピルアクリルアミド71.0gおよびn−ブチルメタクリレート4.4gをエタノール1117gに溶解した。これにポリエチレングリコールジメタクリレート(PDE6000、日本油脂(株)製)22.6gを水773gに溶解した水溶液を加え、窒素気流下70℃に加温した。窒素気流下70℃を保ちながら、N,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミン(TEMED)0.8mLと10%過硫酸アンモニウム(APS)水溶液8mLを加え30分間攪拌反応させた。さらにTEMED0.8mLと10%APS水溶液8mLを30分間隔で4回加えて重合反応を完結させた。反応液を10℃以下に冷却後、10℃の冷却蒸留水5Lを加えて希釈し、分画分子量10万の限外ろ過膜を用いて10℃で2Lまで濃縮した。
【0164】
該濃縮液に冷却蒸留水4Lを加えて希釈し、上記限外ろ過濃縮操作を再度行った。上記の希釈、限外ろ過濃縮操作を更に5回繰り返し、分子量10万以下のものを除去した。この限外ろ過によりろ過されなかったもの(限外ろ過膜内に残留したもの)を回収して凍結乾燥し、分子量10万以上の本発明のハイドロゲル形成性高分子(TGP−5)72gを得た。
【0165】
上記により得た本発明のハイドロゲル形成性高分子(TGP−5)1gを、9gの蒸留水に氷冷下で溶解した。この水溶液のゾル−ゲル転移温度を測定したところ、該ゾル−ゲル転移温度は20℃であった。
【0166】
製造例9
N−イソプロピルアクリルアミド42.0gおよびn−ブチルメタクリレート4.0gをエタノール592gに溶解した。これにポリエチレングリコールジメタクリレート(PDE6000、日本油脂(株)製)11.5gを水65.1gに溶解した水溶液を加え、窒素気流下70℃に加温した。窒素気流下70℃を保ちながら、N,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミン(TEMED)0.4mLと10%過硫酸アンモニウム(APS)水溶液4mLを加え30分間攪拌反応させた。さらにTEMED0.4mLと10%APS水溶液4mLを30分間隔で4回加えて重合反応を完結させた。反応液を5℃以下に冷却後、5℃の冷却蒸留水5Lを加えて希釈し、分画分子量10万の限外ろ過膜を用いて5℃で2Lまで濃縮した。
【0167】
該濃縮液に冷却蒸留水4Lを加えて希釈し、上記限外ろ過濃縮操作を再度行った。上記の希釈、限外ろ過濃縮操作を更に5回繰り返し、分子量10万以下のものを除去した。この限外ろ過によりろ過されなかったもの(限外ろ過膜内に残留したもの)を回収して凍結乾燥し、分子量10万以上の本発明のハイドロゲル形成性高分子(TGP−6)40gを得た。
【0168】
上記により得た本発明のハイドロゲル形成性高分子(TGP−6)1gを、9gの蒸留水に氷冷下で溶解した。この水溶液のゾル−ゲル転移温度を測定したところ、該ゾル−ゲル転移温度は7℃であった。
【0169】
製造例10
N−イソプロピルアクリルアミド45.5gおよびn−ブチルメタクリレート0.56gをエタノール592gに溶解した。これにポリエチレングリコールジメタクリレート(PDE6000、日本油脂(株)製)11.5gを水65.1gに溶解した水溶液を加え、窒素気流下70℃に加温した。窒素気流下70℃を保ちながら、N,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミン(TEMED)0.4mLと10%過硫酸アンモニウム(APS)水溶液4mLを加え30分間攪拌反応させた。さらにTEMED0.4mLと10%APS水溶液4mLを30分間隔で4回加えて重合反応を完結させた。反応液を10℃以下に冷却後、10℃の冷却蒸留水5Lを加えて希釈し、分画分子量10万の限外ろ過膜を用いて10℃で2Lまで濃縮した。
【0170】
該濃縮液に冷却蒸留水4Lを加えて希釈し、上記限外ろ過濃縮操作を再度行った。上記の希釈、限外ろ過濃縮操作を更に5回繰り返し、分子量10万以下のものを除去した。この限外ろ過によりろ過されなかったもの(限外ろ過膜内に残留したもの)を回収して凍結乾燥し、分子量10万以上の本発明のハイドロゲル形成性高分子(TGP−7)22gを得た。
上記により得た本発明のハイドロゲル形成性高分子(TGP−7)1gを、9gの蒸留水に氷冷下で溶解した。この水溶液のゾル−ゲル転移温度を測定したところ、該ゾル−ゲル転移温度は37℃であった。」

上記段落【0095】、【0097】から、「曇点を有する複数のブロック」の具体的な例として、ポリN置換アクリルアミド誘導体、ポリN−置換メタアクリルアミド誘導体とN−置換メタアクリルアミド誘導体との共重合体が使用可能であり、ポリN置換アクリルアミド誘導体、ポリN−置換メタアクリルアミド誘導体の具体的な例として、ポリ−N−イソプロピルアクリルアミドが記載されており、また、段落【0137】−【0170】に記載の上記の製造例3、5等において得られたハイドロゲル形成性高分子は、「N−イソプロピルアクリルアミド」を使用して重合させて得たものであるから、上記引用文献1には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「有用物質と、該有用物質の周囲に配置されたハイドロゲルとを少なくとも含むゲル体であって;
該ハイドロゲルが、その水溶液が低温でゾル状態、高温でゲル状態となる熱可逆的なゾル−ゲル転移を示すハイドロゲル形成性の高分子を少なくとも含み、且つ、
前記ハイドロゲルにおけるフェノールレッド(PR)、メチルブルー(MB)、およびミオグロビン(MG)の拡散係数の比が、(DPR/DMB)≧2および(DPR/DMG)≧1.2を満たすゲル体であり、
前記ハイドロゲル形成性の高分子が、曇点を有する複数のブロックと、親水性のブロックとが結合した高分子であり、
前記ハイドロゲルが、更に水を含み、
曇点を有するブロックは該曇点より低い温度では水に溶解し、該曇点より高い温度では水に不溶性に変化するために、曇点より高い温度で、該ブロックはゲルを形成するための疎水結合からなる架橋点としての役割を果たし、すなわち、疎水性結合に由来する曇点が、上記ハイドロゲルのゾル−ゲル転移温度に対応し、
曇点を有する複数のブロックは、ポリ−N−イソプロピルアクリルアミドとN−置換メタアクリルアミド誘導体との共重合体であり、
前記ハイドロゲル形成性の高分子は、単量体と他の単量体との共重合体であってもよく、このような共重合体を構成する他の単量体として、親水性単量体を用いることができ、上記親水性単量体として、例えば、塩基性基を有するN、N−ジメチルアミノエチルメタクリレートN、N-ジエチルアミノエチルメタクリート等が挙げられ、
曇点を有するブロックと上記の親水性のブロックとの結合物は、曇点を有するブロックを与える単量体と、親水性のブロックを与える単量体とのブロック共重合によって得ることも可能であり、また、曇点を有するブロックと親水性のブロックとの結合は、予め両者に反応活性な官能基を導入し、両者を化学反応により結合させることによって行うこともでき、この際、親水性のブロック中には、反応活性な官能基を複数導入し、
前記ハイドロゲル形成性高分子は、N−イソプロピルアクリルアミドを使用して重合させて得たものであり、
例えば、二酸化炭素である前記有用物質の保持/拡散の機能を有する、ゲル体。」

第5 対比・判断
1 本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明とを対比すると、次のことがいえる。

ア 引用発明において、「ゲル体」は、「有用物質と、該有用物質の周囲に配置されたハイドロゲルとを少なくとも含むゲル体であって」、「例えば、二酸化炭素である前記有用物質の保持/拡散の機能を有する」ものであるから、引用発明における「ハイドロゲル」は、本願発明1の「二酸化炭素吸収用温度応答性電解質材料」に対応し、両者は、二酸化炭素吸収用材料である点で共通する。

イ 引用発明において、「ハイドロゲル」が含む「ハイドロゲル形成性の高分子」における「曇点を有する複数のブロック」は、「単量体と他の単量体との共重合体であってもよく、このような共重合体を構成する他の単量体として、親水性単量体を用いることができ、上記親水性単量体として、例えば、塩基性基を有するN、N−ジメチルアミノエチルメタクリレートN、N−ジエチルアミノエチルメタクリート等が挙げられ」るところ、当該メタクリレートは、塩基性基を有するから、本願発明1における「イオン化可能な塩基性電離基を有するモノマー成分」に相当する。

ウ 引用発明において、「前記ハイドロゲル形成性高分子は、N−イソプロピルアクリルアミドを使用して重合させて得たもの」であるところ、「N−イソプロピルアクリルアミド」は、極性基と疎水性基とを有するモノマーであることは技術常識であるから、本願発明1における「極性基と疎水性基とを有するモノマー成分」に相当する。

エ 引用発明において、「前記ハイドロゲル形成性の高分子が、曇点を有する複数のブロックと、親水性のブロックとが結合した高分子であり」、「曇点を有する複数のブロックは、ポリ−N−イソプロピルアクリルアミドとN−置換メタアクリルアミド誘導体との共重合体であり」、「前記ハイドロゲル形成性の高分子は、単量体と他の単量体との共重合体であってもよく、このような共重合体を構成する他の単量体として、親水性単量体を用いることができ、上記親水性単量体として、例えば、塩基性基を有するN、N−ジメチルアミノエチルメタクリレートN、N-ジエチルアミノエチルメタクリート等が挙げられ、曇点を有するブロックと上記の親水性のブロックとの結合物は、曇点を有するブロックを与える単量体と、親水性のブロックを与える単量体とのブロック共重合によって得ることも可能であり」、「前記ハイドロゲル形成性高分子は、N−イソプロピルアクリルアミドを使用して重合させて得たもの」であるところ、「前記ハイドロゲル形成性高分子」は、単量体と、親水性単量体としての「塩基性基を有するN、N−ジメチルアミノエチルメタクリレートN、N−ジエチルアミノエチルメタクリート」との共重合体であるといえるから、引用発明において、「ハイドロゲル形成性高分子」は、「塩基性基を有するN、N−ジメチルアミノエチルメタクリレートN、N−ジエチルアミノエチルメタクリート」と、N−イソプロピルアクリルアミドとを、含んだモノマー成分を共重合して得られる高分子であるといえる。

オ したがって、本願発明1と引用発明との間には、次の一致点、相違点があるといえる。

<一致点>
「イオン化可能な塩基性電離基を有するモノマー成分と、
極性基及び疎水性基とを有するモノマー成分とを、
含んだモノマー成分を共重合して得られる高分子を含む二酸化炭素吸収用材料。」

<相違点>
<相違点1>
高分子について、本願発明1は、「イオン化可能な塩基性電離基を有するモノマー成分と、架橋性モノマー成分と、極性基を有するモノマー成分と疎水性基を有するモノマー成分の2つのモノマー成分とを又は極性基及び疎水性基とを有するモノマー成分とを、含んだモノマー成分を共重合して得られる高分子」であるのに対し、引用発明において、「ハイドロゲル形成性の高分子」は、「架橋性モノマー成分」を含んだモノマー成分を共重合して得られたものではない点。

<相違点2>
本願発明1は、「微粒子を備えた」ものであるのに対し、引用発明はそのような構成を備えてたものではない点。

<相違点3>
本願発明1は、「二酸化炭素吸収用温度応答性電解質材料」であるのに対し、引用発明の「ゲル体」は、「例えば、二酸化炭素である前記有用物質の保持/拡散の機能を有する」ものであり、「ハイドロゲル」は、「二酸化炭素吸収用材料」であるといえるものの、「温度応答性電解質材料」であるか不明である点。

(2)相違点についての判断
ア 上記相違点1について検討する。
「第4 引用文献、引用発明等」に記載のとおり、引用文献1の段落【0093】には、「本発明に用いるハイドロゲルは、疎水性結合が温度の上昇と共に強くなるのみならず、その変化が温度に対して可逆的であるという性質を利用したものである。1分子内に複数個の架橋点が形成され、安定性に優れたゲルが形成される」と、段落【0015】には、「本発明のハイドロゲルを構成する「ハイドロゲル形成性高分子」とは、架橋(crosslinking)構造ないし網目構造を有し、該構造に基づき、その内部に水等の分散液体を保持することによりハイドロゲルを形成可能な性質を有する高分子をいう。又、「ハイドロゲル」とは高分子からなる架橋ないし網目構造と該構造中に支持ないし保持された(分散液体たる)水を少なくとも含むゲルをいう。」と、段落【0105】には、「親水性のブロックは、この時(曇点より高い温度に加温された際)でも水溶性であるため、本発明の高分子は水中において、曇点を有するブロック間の疎水性会合部を架橋点とした三次元網目構造を持つハイドロゲルを生成する。このハイドロゲルの温度を再び、分子内に存在する「曇点を有するブロック」の曇点より低い温度に冷却すると、該曇点を有するブロックが水溶性となり、疎水性会合による架橋点が解放され、ハイドロゲル構造が消失して、本発明の高分子は、再び完全な水溶液となる。このように、好適な態様における本発明の高分子のゾル−ゲル転移は、分子内に存在する曇点を有するブロックの該曇点における可逆的な親水性、疎水性の変化に基づくものであるため、温度変化に対応して、完全な可逆性を有する。」と、段落【0106】には、「本発明のハイドロゲル形成性の高分子は、該ゾル−ゲル転移温度より高い温度(d℃)で実質的に水不溶性を示し、ゾル−ゲル転移温度より低い温度(e℃)で可逆的に水可溶性を示す。」と記載されている。

しかしながら、相違点1に係る本願発明1における「架橋性モノマー成分」を含んだモノマー成分を共重合するという構成は、引用発明における、「該ハイドロゲルが、その水溶液が低温でゾル状態、高温でゲル状態となる熱可逆的なゾル−ゲル転移を示すハイドロゲル形成性の高分子を少なくとも含」むという構成や、引用文献1の上記記載事項のような、熱可逆的な「架橋構造」とは異なる。
したがって、引用発明において、曇点を有するブロック間の疎水性会合部を架橋点とした、熱可逆的な架橋構造ないし三次元網目構造に代えて、「架橋性モノマー成分」を含んだモノマー成分を共重合させるという構成を採用することは、熱可逆的に架橋点の形成によるハイドロゲルの生成と架橋点の解放によるハイドロゲルの消失を行えなくなることであり、引用発明における「前記有用物質の保持/拡散の機能」を有さないものとすることとなるので、当業者が容易になし得たことではない。

以上のとおりであるから、当業者といえども、引用発明及び引用文献1に記載された技術的事項から、相違点1に係る本願発明1の「架橋性モノマー成分」を含んだモノマー成分という構成を容易に想到することはできない。

イ よって、上記相違点2、3について判断するまでもなく、本願発明1は、当業者であっても、引用発明及び引用文献1に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

2 本願発明2−9について
本願発明2−9も、本願発明1の「架橋性モノマー成分」を含んだモノマー成分」と同一の構成を備えるものであるから、本願発明1と同じ理由により、当業者であっても、引用発明及び引用文献1に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

第6 むすび
以上のとおり、本願発明1−9は、当業者が引用発明及び引用文献1に記載された技術的事項に基づいて容易に発明をすることができたものではない。したがって、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。

 
審決日 2022-01-05 
出願番号 P2019-069718
審決分類 P 1 8・ 121- WY (H01B)
最終処分 01   成立
特許庁審判長 河本 充雄
特許庁審判官 恩田 春香
小川 将之
発明の名称 イオン濃度勾配発生システム、装置、方法、及び、温度応答性電解質材料  
代理人 特許業務法人 信栄特許事務所  

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