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審決分類 |
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 取り消して特許、登録 H01L 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H01L |
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管理番号 | 1381522 |
総通号数 | 2 |
発行国 | JP |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2022-02-25 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2021-03-10 |
確定日 | 2022-01-25 |
事件の表示 | 特願2017−540607「低粒子含有量をもつ調合物」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 8月 4日国際公開、WO2016/120007、平成30年 4月26日国内公表、特表2018−511929、請求項の数(15)〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、2016年1月21日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2015年1月30日、欧州特許庁)を国際出願とする出願であって、令和2年3月6日付けで拒絶理由通知がされ、同年6月9日付けで手続補正がされるとともに意見書が提出され、同年11月6日付けで拒絶査定(原査定)がされ、これに対し、令和3年3月10日に拒絶査定不服審判の請求がされると同時に手続補正がされ、同年7月5日に上申書が提出され、同年8月4日付けで拒絶理由通知(以下、「当審拒絶理由通知」という。)がされ、同年11月8日付けで手続補正がされるとともに意見書が提出されたものである。 第2 原査定の概要 原査定(令和2年11月6日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。 1.(新規性)本願請求項1−10、13−16に係る発明は、以下の引用文献2に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。 2.(進歩性)本願請求項1−10、13−16に係る発明は、以下の引用文献2に記載された発明に基いて、本願請求項11、12に係る発明は、以下の引用文献2に記載された発明及び引用文献1、3に記載されている周知技術に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 引用文献等一覧 1.特表2005−532412号公報(周知技術を示す文献) 2.特開2010−212354号公報 3.特開2002−75642号公報(周知技術を示す文献) 第3 当審拒絶理由の概要 当審拒絶理由の概要は次のとおりである。 1.(進歩性)本願請求項1−16に係る発明は、以下の引用文献Aに記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 引用文献等一覧 A.国際公開第2013/154076号(当審において新たに引用した文献) 第4 本願発明 本願請求項1−15に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」−「本願発明15」という。)は、令和3年11月8日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1−15に記載された事項により特定される発明であり、そのうちの本願発明1は以下のとおりの発明である。 「【請求項1】 1以上の有機半導体材料が、1以上の溶媒に溶解された、1以上の有機半導体材料と1以上の有機溶媒とを含む溶液である調合物であり、調合物リットルあたり、10,000個未満の、0.1〜20μmの範囲の平均サイズを有する粒子を含み、粒子が電気的に活性のない粒子から選ばれ、有機半導体材料が、≦2,000g/molの分子量Mwを有する低分子材料であることを特徴とする調合物。」 なお、本願発明2−15の概要は以下のとおりである。 本願発明2−9は、本願発明1を減縮した発明である。 本願発明10、11は、本願発明1−9何れかの調合物の製造方法の発明である。 本願発明12、13は、本願発明1−9何れかの調合物を使用する、電子素子の少なくとも一つの層の製造方法の発明である。 本願発明14、15は、本願発明1−9何れかの調合物の、電子素子の少なくとも一つの層の製造のための使用の発明である。 第5 引用文献、引用発明等 1 引用文献2について (1)引用文献2に記載の事項 原査定の拒絶の理由に引用された引用文献2(特開2010−212354号公報)には、図面とともに次の事項が記載されている(下線は当審が付与した。以下、同じ。)。 「【特許請求の範囲】 【請求項1】 電荷輸送材料と溶剤とを含有する、有機電界発光素子の陽極と陰極の間に配置される層を湿式成膜法で形成するために用いられる有機電界発光素子用組成物であって、 該組成物は、加熱工程と濾過工程を経て製造されたものであり、 粒度分布の体積平均粒径(d50)が、400nm以下であることを特徴とする、有機電界発光素子用組成物。」 「【技術分野】 【0001】 本発明は、有機電界発光素子を湿式成膜法で形成するために用いられる有機電界発光素子用組成物およびその製造方法に関する。 本発明はまた、この有機電界発光素子用組成物を用いた有機電界発光素子と、この有機電界発光素子を用いた有機EL表示装置および有機EL照明に関する。 【背景技術】 【0002】 有機電界発光素子は、・・・ 【0004】 しかしながら、湿式成膜法で有機電界発光素子の有機層を形成するためには、有機層を形成する材料が溶剤に溶解し、かつ湿式成膜後にも素子の構成層として要求される高い性能を有することが望まれる。特に、湿式成膜法で有機層が形成された有機電界発光素子は、ピンホールやダークスポットの発生が問題となっていた。 【0005】 このような問題を解決するために、湿式成膜法で用いられる有機電界発光素子用組成物を濾過することが考えられる。 なお、特許文献1では、有機電界発光素子の正孔注入輸送層形成用組成物に関して、濾過前の粒度分布を測定して超音波処理を経ることにより、粒度分布が小さくなったことを述べているが、濾過後の粒度分布に関する記述はなく、濾過が適切に行われたかどうか検証する手段を提供していなかった。 ・・・ 【発明の概要】 【発明が解決しようとする課題】 【0007】 本発明は、湿式成膜法により、ピンホールやダークスポットの発生のない有機電界発光素子を形成することができる有機電界発光素子用組成物を提供することを課題とする。」 「【発明の効果】 【0016】 本発明の有機電界発光素子用組成物は、加熱工程と濾過または超音波処理工程を経て製造されたものであり、粒度分布の体積平均粒径(d50)が400nm以下と、ピンホールやダークスポットの原因となる異物や材料の析出などのない極めて均一な組成物である。このため、この有機電界発光素子用組成物を用いて、湿式成膜法により、ピンホールやダークスポットの発生の問題のない、高性能の有機電界発光素子を製造することができ、このような有機電界発光素子を用いて、高品質の有機EL表示装置および有機EL照明を安定的に提供することができる。」 「【0019】 [有機電界発光素子用組成物] 本発明の有機電界発光素子用組成物は、電荷輸送材料と溶剤とを含有する、有機電界発光素子の陽極と陰極の間に配置される層を湿式成膜法で形成するために用いられる有機電界発光素子用組成物であって、該組成物は、加熱工程と濾過工程または超音波処理工程を経て製造されたものであり、粒度分布の体積平均粒径(d50)が、400nm以下であることを特徴とする。 【0020】 このような本発明の有機電界発光素子用組成物は、後述の電荷輸送材料および溶剤を用いて加熱下に電荷輸送材料を溶剤に溶解させるか、または、該加熱溶解後、さらに超音波処理した後、濾過を行い、粒度分布の体積平均粒径(d50)の測定を行って、この値が400nm以下であることを確認することにより製造される。或いは、予め実験により求められた、粒度分布の体積平均粒径(d50)≦400nmを達成し得る加熱、または、加熱および超音波処理、に続く濾過における各条件で組成物を製造することにより、本発明の有機電界発光素子用組成物を得ることができる。 ・・・ 【0023】 {加熱工程} 電荷輸送材料と溶剤を含有する溶液を加熱する加熱工程は、後述の電荷輸送材料と溶剤とを所定の割合で容器に入れ、好ましくは攪拌下に加熱することにより行われる。 ・・・ 【0025】 また、加熱工程において攪拌を行う場合、・・・ 【0026】 この加熱工程は、通常の場合、目視により、電荷輸送材料が溶剤中に溶解したことを確認するまで行われる。従って、加熱工程に要する時間は、この溶解の確認までの時間であり、用いる電荷輸送材料の溶剤への溶解性や、加熱条件、攪拌条件によっても異なるが、通常1分以上で750時間以下である。 【0027】 この加熱工程により、目視により電荷輸送材料の溶解を確認した後、即ち、得られた溶液を目視観察して、未溶解材料や微粒子の存在が認められない状態になった後は、次の濾過工程または超音波処理工程に移行する。 【0028】 {濾過工程} 加熱工程で得られた溶液の濾過手段としては特に制限はないが、例えば、次のようなものが挙げられる。 【0029】 濾過手段としては、・・・ 【0030】 濾材としては、・・・ 【0040】 {粒度分布の体積平均粒径(d50)の測定} 本発明においては、上記加熱工程、または、加熱工程と超音波処理工程を経た後に濾過工程を経て得られた溶液について、粒度分布の体積平均粒径(d50)を測定する。この体積平均粒径(d50)の測定を行って400nm以下であることが確認された有機電界発光素子用組成物は、加熱、または、加熱と超音波処理による溶解プロセスが適切に行われ、また、濾過工程等で異物の混入や析出物の発生などのない、従って、ピンホールやダークスポットの発生の問題のない有機電界発光素子を形成し得る有機電界発光素子用組成物である。 このように、体積平均粒径(d50)≦400nmというナノスケールサイズの粒径を持つ粒子群の測定は、以下の原理を用いて行われる。 【0041】 <測定原理:動的光散乱法(FFTパワースペクトル法)> サイズが数μm以下の粒子は、溶剤分子運動の影響を受けてブラウン運動する。この運動の速さは粒子サイズ(正確には質量であり、質量は粒子の密度が一定であれば、粒子の体積に比例することから、体積と言える。)によって異なり、小さい粒子は速く、大きい粒子はゆっくり動く。これらブラウン運動をしている粒子にレーザー光を照射すると、散乱光の位相がその速度に応じて変化する現象(ドップラーシフト)が生じる。このドップラーシフトは粒子の運動速度すなわち粒子径情報を含んでいるので、それ検出して粒度分布を求めることが可能となる。 【0042】 図2は、この測定原理を示す説明図であり、粒子径情報の検出から粒度分布変換までのプロセスが示されている。 図2に示す如く、動的光散乱法による粒度分布の測定は以下の手順で行われる。 (1) 光ファイバーを通じてレーザーダイオード光をサンプルに照射する。 (2) 反射光をリファレンスとして、粒子径情報を含んだ散乱光も検出部へ伝達する。 (3) 粒子径情報を含んだ位相変化を検出、アナログ/デジタル(A/D)変換する。 (4) デジタル化された情報をFFT(高速フーリエ変換器)にて周波数成分に変換する。 (5) 周波数成分変換されたデータから特殊アルゴリズム(たとえば、装置メーカーの仕様の)を用いて粒度分布を求める。 【0043】 上記測定原理により、サンプル粒子の密度が既知であるならば、体積(頻度、累積)分布が測定可能になる。従って、粒子が球形であると仮定して、体積分布から粒子直径と頻度の関係、すなわち粒度分布に変換することができる。これを体積粒度分布と呼ぶ。ここで、体積粒度累積分布のメジアン値をもって平均の粒子径とすることがもっぱら採用される。これを体積平均粒径と称し、d50と略記する。 ・・・ 【0046】 本発明の有機電界発光素子用組成物は、このようにして測定される粒度分布の体積平均粒径(d50)が400nm以下であることを特徴とする。この体積平均粒径(d50)が400nmを超えるものでは、異物や溶解材料の析出の問題があり、ピンホールやダークスポットの発生のない有機電界発光素子を製造し得ない。体積平均粒径(d50)は小さい程好ましく、従って、特に200nm以下、とりわけ5nm以下であることが好ましいが、体積平均粒径(d50)を過度に小さくするには、そのため処理に多大な手間を要し、処理コストに見合わなくなる。従って、有機電界発光素子用組成物の体積平均粒径(d50)は通常100nm以上である。 ・・・ 【0048】 {用途} 本発明の有機電界発光素子用組成物は、有機電界発光素子の陽極と陰極との間に配置される層、即ち、正孔注入層、正孔輸送層、電子輸送層、電子注入層等の電荷輸送層や発光層等の機能性層を湿式成膜法で形成されるために用いられるものであるが、特に、発光層、或いは正孔輸送層、正孔注入層等の湿式成膜法で形成される層に適用することが好ましい。」 「【0052】 {配合成分組成} 以下に本発明の有機電界発光素子用組成物に含まれる電荷輸送材料および溶剤等の配合成分およびその組成について説明する。 【0053】 本発明の有機電界発光素子用組成物は、電荷輸送材料と溶剤を必須成分として含むが、用途に応じて、更に発光材料やその他の成分を含む。以下において、発光材料と電荷輸送材料を「有機電界発光素子材料」と総称する。 【0054】 <有機電界発光素子材料> 本発明の有機電界発光素子用組成物における有機電界発光素子材料の含有量は、通常0.0001wt%以上、好ましくは0.001wt%以上、より好ましくは0.1wt%以上、また、通常90wt%以下、好ましくは70wt%以下、より好ましくは50wt%以下である。この含有量が上記下限より少ないと湿式成膜法により形成される薄膜の膜厚が薄くなり、素子としたときに、黒点や短絡の原因となる恐れがある。この含有量が上記上限より多いと湿式成膜法により形成される薄膜の膜厚が厚くなり、素子としたときに、駆動電圧が上昇したり、膜の不均一性(塗布ムラ)が生じやすくなり、輝度ムラが生じたりする恐れがある。 【0055】 本発明における有機電界発光素子材料は、低分子であっても高分子であってもよく、本発明の効果を著しく損なわない限り用途に応じて任意に選択される。有機電界発光素子材料が低分子である場合、その分子量は通常10000以下、好ましくは5000以下、より好ましくは4000以下、更に好ましくは3000以下、また、通常100以上、好ましくは200以上、より好ましくは300以上、更に好ましくは400以上の範囲である。また、有機電界発光素子材料が高分子である場合、その分子量(以下、特に断りの無い限り、高分子の分子量は重量平均分子量を指す)は通常1000000以下、好ましくは500000以下、より好ましくは300000以下、また、通常2000以上、好ましくは5000以上、より好ましくは10000以上の範囲である。 ・・・ 【0073】 (電荷輸送材料) 有機電界発光素子において、陽極および陰極から正負の電荷(以下、キャリア記述する場合がある)を効率よく取り出し、輸送し、必要に応じて前述の発光材料に効率よく供給することが望まれる。従って、本発明の有機電界発光素子用組成物は、有機電界発光素子材料として、このような電荷輸送材料を必須成分として含有する。電荷輸送材料としては、正孔輸送性の化合物や電子輸送性の化合物が挙げられる。これらの電荷輸送材料は、単独で用いてもよく、また、例えば前述の発光材料と任意の比率で混合して用いてもよい。発光材料と混合して用いる場合は、これら発光材料が電荷輸送材料から電荷またはエネルギーを受け取って発光することが好ましい。 ・・・ 【0076】 本発明における電荷輸送材料は、低分子であっても高分子であってもよく、本発明の効果を著しく損なわない限り用途に応じて任意に選択される。電荷輸送材料が低分子である場合、その分子量は通常10000以下、好ましくは5000以下、より好ましくは4000以下、更に好ましくは3000以下、また、通常100以上、好ましくは200以上、より好ましくは300以上、更に好ましくは400以上の範囲である。また、電荷輸送材料が高分子である場合、その分子量(以下、特に断りの無い限り、高分子の分子量は重量平均分子量を指す)は通常1000000以下、好ましくは500000以下、より好ましくは300000以下、また、通常2000以上、好ましくは5000以上、より好ましくは10000以上の範囲である。 電荷輸送材料が低分子の場合、その分子量が小さ過ぎると、ガラス転移温度や融点、分解温度等が低くなりやすく、電荷輸送材料および形成される有機薄膜の耐熱性が著しく低下し、再結晶化や分子のマイグレーションなどに起因する膜質の低下や、材料の熱分解に伴う不純物濃度の上昇などを引き起こし、素子性能の低下を引き起こす場合がある。高分子の場合は、低分子ほど顕著ではないものの、分子量が小さ過ぎるとやはり耐熱性の低下に起因する同様の不具合が引き起こされる場合がある。 一方、電荷輸送材料の分子量が大きすぎると、低分子、高分子いずれも電荷輸送材料の構造や組成物(インク)の調製に使用する溶剤の種類によっては溶剤に対する電荷輸送材料の溶解度が小さくなりすぎる場合があり、例えば材料製造工程における精製が困難となる場合がある。また、成膜時に薄膜が形成されない部分が生じたり、形成された有機薄膜の膜厚が薄くなりすぎるなどの問題が生じ、素子としたときに、黒点の発生や短絡の原因となる場合がある。 ・・・ 【0080】 <溶剤> 本発明の有機電界発光素子用組成物は溶剤を含有する。ここで、本発明における溶剤とは、20℃、1気圧の雰囲気において液体であり、本発明の有機電界発光素子用組成物に含有される発光材料や電荷輸送材料を溶解することが可能な化合物である。 【0081】 溶剤としては、一般的に市販されている極性または無極性の溶剤であれば特に制限は無いが、中でもベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン、シクロヘキシルベンゼン、ドデシルベンゼン、テトラリン等の置換または無置換の芳香族炭化水素系溶剤、アニソール、安息香酸エステル、ジフェニルエーテル等の芳香族エーテル系溶剤、芳香族エステル系溶剤、ヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサン等の鎖状または環状アルカン系溶剤、酢酸エチル等のカルボン酸エステル系溶剤、アセトン、シクロヘキサノン等の含カルボニル系溶剤、水、アルコール、環状エーテルなどが好ましく、湿式成膜時に乾燥速度が速くなりすぎ、膜厚ムラなどを生じないためにも、沸点が180℃以上の芳香族炭化水素系溶剤がより好ましく、中でも、トリメチルベンゼン、シクロヘキシルベンゼン、ドデシルベンゼン、テトラリン、シクロヘキサノン、安息香酸エチルなどが好ましい。 【0082】 本発明の有機電界発光素子用組成物中に、溶剤は1種類が含有されていてもよいし、2種類あるいはそれ以上の溶剤の組合せで含まれていてもよいが、通常1種類以上、好ましくは2種類以上、通常10種類以下、好ましくは8種類以下、より好ましくは6種類以下の組み合わせで含有されることが好ましい。」 「【0086】 [有機電界発光素子] 本発明の有機電界発光素子は、陽極、陰極および該陽極と陰極の間に配置された層を有する有機電界発光素子であって、該陽極と陰極の間に配置された層が、前述の本発明の有機電界発光素子用組成物を用いて形成された層であることを特徴とする。この本発明の有機電界発光素子用組成物を用いて形成された層は、陽極と陰極との間の層であればよく、特に制限はないが、前述の如く、発光層、正孔注入層、正孔輸送層のうちの1層または2層以上であることが好ましい。 【0087】 以下に、本発明の有機電界発光素子の層構成およびその一般的形成方法等について、図1を参照して説明する。図1は本発明の有機電界発光素子10の構造例を示す断面の模式図であり、図1において、1は基板、2は陽極、3は正孔注入層、4は正孔輸送層、5は発光層、6は正孔阻止層、7は電子輸送層、8は電子注入層、9は陰極を各々表す。」 図1は、以下のとおりのものである。 (2)引用文献2に記載された発明 したがって、上記引用文献2には、次の発明(以下、「引用発明2」という。)が記載されていると認められる。 「電荷輸送材料と溶剤とを含有する、有機電界発光素子の陽極と陰極の間に配置される層を湿式成膜法で形成するために用いられる有機電界発光素子用組成物であって、 該組成物は、加熱工程と濾過工程を経て製造されたものであり、 電荷輸送材料および溶剤を用いて加熱下に電荷輸送材料を溶剤に溶解させた後、目視により電荷輸送材料に未溶解材料や微粒子の存在が認められない状態になった後、濾過を行い、粒度分布の体積平均粒径(d50)の測定を行って、この値が400nm以下であることを確認することにより製造されたものであり、 電荷輸送材料は、低分子であっても高分子であってもよく、低分子である場合、その分子量は、3000以下の範囲であり、 溶剤は、電荷輸送材料を溶解することが可能な化合物であり、 溶剤は1種類が含有されていてもよいし、2種類あるいはそれ以上の溶剤の組合せで含まれていてもよく、 粒度分布の体積平均粒径(d50)が400nm以下であり、5nm以下であることが好ましい、有機電界発光素子用組成物。」 2 引用文献1について また、原査定の拒絶の理由で周知技術を示す文献として提示された引用文献1(特表2005−532412号公報)には、次の事項が記載されている。 「【技術分野】 【0001】 本発明は、ポリマー半導体溶液及びそのエレクトロニクス工業への使用に関するものである。」 「【0003】 一般的には、低分子量半導体とポリマー状有機半導体の両方は、前記した多くの可能性ある用途に好適のものと考えることができる。その用途に応じて、1つ又はそれ以上の物質変更は特別の利点を有しながら、未希釈又は実質的に未希釈の半導体の使用を必要とする用途の場合には、低分子量又はポリマー状半導体用の適当なコーティング法が、原理的には以下に示すようにすぐれていたものであるということができる。 *低分子量半導体は、通常、バキュームプロセスにより適当な層に適用される。構造物化は、例えば、マスキングプロセスにより実施される。溶液法、例えば、各種のプリンティングプロセス、ドクターブレードコーティング又はスピンコーティングによる適用は、一般的には、未希釈化低分子量半導体にとっては不適当である。それは多くの場合、アモルファス層を形成するものが必要とされるからである。これらの物質の場合、溶液からは殆ど成功することはない。 *ポリマー状半導体は、通常、溶液からのみ形成される。この場合、その構造物化は、コーティングプロセス(例えば、各種の印刷技術)又はその後の加工(例えば、フォトストラクチャリング)によって実施することができ、あるいはフォトレジスト技術(架橋化、未架橋部の除去、再生コーティング等)を利用して実施することができる。 従って、低分子量又はポリマー状半導体を用いるときの重要かつ顕著な特徴は、そのコーティング法である。 溶液からのコーティングは、スケールアップするには非常に容易である。バキュームコーティングは通常バッチプロセスであるが、溶液プロセスは、適当な方法を用いるときには連続プロセスで操作することができる。この場合には、大きなコスト上の利点が得られ、大量生産上の利点がある。 従って、一定品質を有するポリマー状半導体の高品質溶液を提供することは、経済的に非常に重要なことである。 ・・・ 【0006】 前記したように、それ故、一定品質を有するポリマー状半導体溶液の高品質溶液を提供することは、商業的に大きな利点がある。 このことは、本発明の1つの目的である。 【0007】 良好な生産性、再現性及び使用特性を達成するには、次のパラメータが重要である。 1.非常にコンスタントな濃度/粘度比。このものは、非常にコンスタントな分子量(非常に小さなバッチ/バッチフラクション) によって達成することができる。 2.高純度溶媒。 3.ダストパーティクル、一般的パーティクルのないこと。 4.工業的規模の量での入手可能性。 5.長期間にわたっての溶液の安定性。 ・・・ 【0009】 ポイント3もまた、ポリマー半導体の場合には重要な問題を与える。高分子量のポリマーの結果のように、対応溶液の濾過は容易ではない。高分子量ポリマーは、時には、溶液中で「スーパーモルキュラ」構造(化学的又は物理的凝集)を形成する。そして、これは、もともと大きなポリマー分子のサイズをさらに増大させる。さらにこのことは、フィルターが非常に早く(ブロック)を起こす原因となる。そして、このことは、第1に非経済的であり、第2には、プロセスを非常に遅い(高コスト)ものあるいは、時には不可能なものとする。 驚くべきことには、本発明者は、前記した特性を有するポリマー半導体溶液を、単純かつ効率よく、しかも再現性よく製造し得ることを見出した。」 「【発明が解決しようとする課題】 【0010】 本発明は、ポリマー半導体溶液を単純かつ効率よく、しかも再現性よく製造する方法を提供することをその課題とする。」 「【0028】 本発明のプロセスを実施するには、ポリマー状半導体(1つ又はそれ以上、例えば、前記クラスの中から選ばれるもの)を、溶媒、例えば、前記で示したものの中から選ばれるものに溶解する。 本発明では、所望濃度に必要なポリマー量を、所望すればそれよりいく分多い量を、先ず、必要量の溶媒に加える。調製する溶液中のポリマー状半導体の濃度は、0.01〜20重量%、好ましくは0.1〜15重量%、特に好ましくは0.25〜10重量%、さらに好ましくは0.25〜5重量%である。本発明においては、1つ以上のポリマー状半導体の混合物(ブレンド)もまた、使用可能である。 溶液自体は、所望量に適した容器中で調製される。例えば、少量(約500mlまで)のものは、適当なガラスやプラスチックのボトル中で問題なく調製することができる。 中量(約20リットルまで)のものは、例えば、スタンダードラボラトリーガラスやフューズドシリカの装置中で調製することができる。 大量(20〜1000リットル)のものは、有機溶媒の有害可能性のために、適切なプラント及び適切なルームを用いて調製しなければならない。例えば、化学合成用の通常のベッセルを用いることができる。しかし、高純度要求性のために、これらのベッセルは特にクリーンなもの、特に内表面がクリーンなものであることが必要である。特に薄厚のフィルム製造の場合には、金属粒子やイオン不純物による汚染は、一般的には回避しなければならない。従って、原理的には、非常にスムーズで耐摩耗性の容器表面の使用が好ましい。また、金属表面が溶液に接触しないことも望ましいことである。」 したがって、上記の記載からみて、当該引用文献1には、以下の技術的事項が記載されていると認められる。 「ポリマー状半導体を溶媒に溶解したポリマー状半導体溶液の高品質溶液において、ダストパーティクル、一般的パーティクルのないことが重要であり、金属粒子やイオン不純物による汚染は、一般的には回避しなければならないこと。」 3 引用文献3について また、原査定の拒絶の理由で、請求項11、12に係る発明に対して、周知技術を示す文献として提示された引用文献3(特開2002−75642号公報)には、「粒子が電気的に活性のない粒子から選ばれ」という構成は記載されていない。 4 引用文献Aについて 当審拒絶理由に引用された引用文献A(国際公開第2013/154076号)には、図面とともに次の事項が記載されている。 「技術分野 [0001] 本発明は、有機電界発光素子の正孔注入層及び/又は正孔輸送層を形成するために用いられる有機電界発光素子用組成物に関する。 本発明はまた、前記有機電界発光素子用組成物を用いて湿式成膜法により形成された正孔注入層及び/又は正孔輸送層を有する有機電界発光素子に関する。」 背景技術 [0002] 近年、有機薄膜を用いた電界発光素子(以下、「有機電界発光素子」と称する。)の開発が行われている。有機電界発光素子における有機薄膜の形成方法としては、真空蒸着法と湿式成膜法が挙げられる。 このうち、真空蒸着法は積層化が可能であるため、陽極及び/又は陰極からの電荷注入の改善、励起子の発光層封じ込めが容易であるという利点を有する。 [0003] 一方、湿式成膜法は真空プロセスが要らず、大面積化が容易で、1つの層(塗布液)に様々な機能をもった複数の材料を混合して入れることが容易である等の利点がある。 湿式成膜法で有機層を形成した例として、特許文献1には、電荷輸送用組成物に用いられる各種の溶媒や、安息香酸エチルを溶媒として用いた正孔注入層用組成物が開示されている。 [0004] しかし、湿式成膜法においては、異物の混入などが起きた場合、塗布欠陥が起こることがあり、特に有機薄膜を用いた有機電界発光素子においては非常に薄い膜を形成することが要求されるため、異物の混入や組成物中での異物の生成を抑制することが求められていた。 特に有機溶剤を塗布溶媒として用いる場合は、イオン結合によって形成される塩が有機溶剤に対して不溶であることから、水系の溶媒では析出しない微量の不純物によって塩が異物として析出し、成膜時のトラブルや、有機電界発光素子の不良の原因となることがある。 [0005] 湿式成膜法で正孔注入層を形成する例として、特許文献2〜4には水を塗布溶媒として用いた、PEDOT(ポリエチレンジオキシチオフェン)−PSS(ポリスチレンスルホン酸)樹脂系正孔注入材料に関する技術が記載されている。 ・・・ [0007] しかしながら、上記技術は水系という溶媒系の異なるものである。また、水系であるがゆえに、金属成分の混入量が多く、金属の混入量が溶液中濃度として数十ppm以上という非常に汚染レベルが高いものとなっている。 そこで本発明では、上記実情に鑑み、有機電界発光素子の正孔注入層及び/又は正孔輸送層を形成するために用いられる、正孔注入・輸送性材料と有機溶剤とを含有する有機電界発光素子用組成物であって、異物の含有量が少なく成膜時のトラブルの少ない組成物を提供することを課題とする。」 「課題を解決するための手段」 [0008] 本発明者らは鋭意検討した結果、組成物中のZnの含有量(Zn濃度)を0.5ppm未満とすることにより、Znに起因する異物の生成を抑制し、上記課題を解決し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。 [0009] 即ち、本発明の要旨は、以下の<1>〜<22>に存する。 <1>有機電界発光素子の発光層、正孔注入層及び正孔輸送層からなる群より選ばれる少なくとも1層を形成するための有機電界発光素子用組成物であって、重量平均分子量3,000〜1,000,000の芳香族アミン系ポリマーと有機溶剤とを含み、前記組成物中のZn濃度が0.5ppm未満である、有機電界発光素子用組成物。 <2>前記有機電界発光素子用組成物が、有機電界発光素子の正孔注入層及び正孔輸送層の少なくとも1層を形成するための組成物である、前記<1>に記載の有機電界発光素子用組成物。 <3>前記Zn濃度が0.1ppm未満である、前記<1>又は<2>に記載の有機電界発光素子用組成物。 <4>前記組成物1ml中に含まれる長径0.1μm以上のZn含有異物の数が50,000個以下である、前記<1>乃至<3>のいずれか1に記載の有機電界発光素子用組成物。 <5>前記組成物中のS濃度が20ppm未満である、前記<1>乃至<4>のいずれか1に記載の有機電界発光素子用組成物。 <6>前記組成物中のS濃度が5ppm未満である、前記<1>乃至<4>のいずれか1に記載の有機電界発光素子用組成物。 <7>前記組成物中に存在するSが有機化合物由来のものである、前記<5>又は<6>に記載の有機電界発光素子用組成物。 <8>前記芳香族アミン系ポリマーが、下記式(2)で表される繰り返し単位を有するものである、前記<1>乃至<7>のいずれか1に記載の有機電界発光素子用組成物。」 「[0026] 本発明に係る組成物中にZn原子が存在すると、このZn原子が組成物中に含まれる陰イオン成分と経時的に徐々に反応して不溶性の析出物(異物)を形成することが考えられる。そのような析出物は、該組成物を含む有機電界発光素子において、短絡やダークスポット等の原因となりうる。 前記陰イオン成分としては、とりわけ硫黄(S)を含む陰イオン成分が挙げられるが、陰イオン成分については後述する。 Znは原子半径が大きく、ファンデルワールス力が大きいため、有機物との相互作用が強い。そのため、正孔注入層及び/又は正孔輸送層を形成するポリマー中に取り込まれやすい。よって、組成物中にZn原子が存在すると、意図しない錯体形成や分極化作用、分子間相互作用の阻害等により有機電界発光素子の機能を妨害するおそれがある。」 「[0034] また、本発明の組成物は、上記のようにZn濃度が低いことから、Znと組成物中の陰イオン成分等との反応で生成する異物が少ないことにも特徴を有する。例えば、本発明の組成物1ml中に含まれる、長径が0.1μm以上のZn含有異物の数は好ましくは50,000個以下、より好ましくは20,000個以下、さらに好ましくは10,000個以下とすることができる。 ここで、組成物中の長径が0.1μm以上のZn含有異物の個数は、少ない程好ましく、組成物中に長径が0.1μm以上のZn含有異物が存在しないことが特に好ましい。」 「[0075] 本発明の組成物中に金属不純物が存在する場合、これらは長期の保管の間に経時的に凝集して、例えば0.1μm程度以上の大きさの異物を形成することがある。本発明の組成物の用途である有機電界発光素子デバイスにおいては、有機層の膜厚は数nmから数十nmあるいは数百nmのレベルであるため、このようなサイズの異物であったとしても、膜の電気物性に影響を与え、電気的短絡を引き起こし、表示欠陥を形成する恐れがある。」 「[0099] 本発明の組成物は、組成物中のS濃度を低減することにより、組成物中に含有される金属が析出して異物を形成することを防止し、異物の含有量が少なく、成膜時のトラブルの少ない組成物とすることができる。 [0100] 本発明の組成物は、Sと組成物中の金属成分とで形成される異物が少ないほど好ましく、孔径0.1μmのフィルターで濾過した際、フィルター上に長径0.5μm以上の粒子が見られないことが好ましい。 なお、異物となる錯体を形成する組成物中の金属成分とは、組成物を構成する芳香族アミン系ポリマー等の固形材料や有機溶剤などの材料から;組成物の調製時におけるこれらを混合する容器から;材料を混合して組成物を調製する際の周囲環境から;更には組成物を充填して保存する容器などから不可避的に組成物中に混入してくるものである。これらのうち、特にZnは、異物を形成し易いことから、本発明の組成物はZn含有量も少ないことが好ましく、Zn含有量は0.5ppm未満であることが好ましい。」 「[0121](分子量について) 本発明における芳香族アミン系ポリマーの重量平均分子量(Mw)は、3,000以上、また、1,000,000以下であり、有機電界発光素子への使用に好適である。 [0122] 芳香族アミン系ポリマーの重量平均分子量が、上記範囲内であると湿式成膜時に、芳香族アミン系ポリマーの有機溶剤に対する溶解性が良好で、また均一な膜が形成しやすくなり、更に、不純物の高分子量化が起き難いため精製が容易で、工業的に不利益が生じ難くなる。 また重量平均分子量がこの下限値を下回ると、ガラス転移温度、融点及び気化温度が低下するため、耐熱性が著しく損なわれるおそれがある。 [0123] この芳香族アミン系ポリマーを含む層を湿式成膜法により形成する場合には、溶解性、成膜性、耐熱性の点から、その重量平均分子量は100,000以下が好ましく、60,000以下がさらに好ましい。同様に、下限値としては5,000以上が好ましく、10,000以上がさらに好ましい。」 「[0138](共役ポリマー) 本発明における芳香族アミン系ポリマーは、共役系の構造を有する繰り返し単位からなるため、十分な電荷輸送能を有し、また有機溶剤に対する十分な溶解性を有する点から、共役ポリマーであることが好ましい。 より具体的には、前記式(2)で表される繰り返し単位からなるポリマーであることが好ましい。」 「[0346][4]濾過工程 本発明の有機電界発光素子用組成物の製造方法においては、濾過工程を含むことが好ましい。また、本発明における濾過工程は、溶解工程の後に行うことが好ましい。 濾過工程に用いるフィルターの孔は、通常5μm以下、好ましくは0.5μm以下、また通常0.02μm以上、好ましくは0.1μm以上である。 この上限値を上回ると、不溶物が混入するおそれがあり、また、この下限値を下回ると濾過ができず目詰まりするおそれがある。」 したがって、上記引用文献Aには、次の発明(以下、「引用発明A」という。)が記載されていると認められる。 「有機電界発光素子の発光層、正孔注入層及び正孔輸送層からなる群より選ばれる少なくとも1層を形成するための有機電界発光素子用組成物であって、 重量平均分子量(Mw)3,000〜1,000,000の芳香族アミン系ポリマーと有機溶剤とを含み、前記組成物中のZn濃度が0.5ppm未満であり、 前記組成物1ml中に含まれる長径0.1μm以上のZn含有異物の数が50,000個以下、さらに好ましくは10,000個以下とすることができ、 組成物中の長径が0.1μm以上のZn含有異物の個数は、少ない程好ましく、組成物中に長径が0.1μm以上のZn含有異物が存在しないことが特に好ましい、有機電界発光素子用組成物。」 第6 原査定についての判断 1 本願発明1について (1)対比 本願発明1と引用発明2とを対比すると、次のことがいえる。 ア 引用発明2における「有機電界発光素子用組成物」は、本願発明1における「調合物」に対応する。 引用発明2における「電荷輸送材料」は、「低分子であっても高分子であってもよ」いものであるから、本願発明1における「有機半導体材料」に対応する。 イ 引用発明2は、「電荷輸送材料と溶剤とを含有する、有機電界発光素子の陽極と陰極の間に配置される層を湿式成膜法で形成するために用いられる有機電界発光素子用組成物」であって、「溶剤は、電荷輸送材料を溶解することが可能な化合物であり、溶剤は1種類が含有されていてもよいし、2種類あるいはそれ以上の溶剤の組合せで含まれていてもよ」いものであるところ、「溶剤」は、本願発明1の「溶媒」に相当するから、本願発明1と引用発明2とは、「1以上の有機半導体材料が、1以上の溶媒に溶解された、1以上の有機半導体材料と1以上の有機溶媒とを含む溶液である調合物」である点で一致する。 ウ 引用発明2は、「電荷輸送材料および溶剤を用いて加熱下に電荷輸送材料を溶剤に溶解させた後、目視により電荷輸送材料に未溶解材料や微粒子の存在が認められない状態になった後、濾過を行い、粒度分布の体積平均粒径(d50)の測定を行って、この値が400nm以下であることを確認することにより製造されたものであり」、「粒度分布の体積平均粒径(d50)が400nm以下であり、5nm以下であることが好ましい」ものであるところ、「粒度分布の体積平均粒径(d50)」の測定を行っているから、「濾過」を行った「電荷輸送材料」は、粒子を含むものであるといえる。 したがって、本願発明1と引用発明2とは、「粒子」を含むものである点で一致する。 エ 引用発明2において、「電荷輸送材料」は、「低分子であっても高分子であってもよく、低分子である場合、その分子量は、3000以下の範囲であ」るところ、3000g/mol以下の分子量を有する材料であるといえるから、本願発明1と引用発明2とは、「有機半導体材料が、≦2,000g/molの分子量Mwを有する低分子材料である」点で一致する。 オ したがって、本願発明1と引用発明2との間には、次の一致点、相違点があるといえる。 <一致点> 「1以上の有機半導体材料が、1以上の溶媒に溶解された、1以上の有機半導体材料と1以上の有機溶媒とを含む溶液である調合物であり、粒子を含み、有機半導体材料が、≦2,000g/molの分子量Mwを有する低分子材料である調合物。」 <相違点> <相違点1> 「粒子」の個数とサイズについて、本願発明1では、「調合物リットルあたり、10,000個未満の、0.1〜20μmの範囲の平均サイズを有する粒子」を含むという構成を備えるのに対し、引用発明2は、そのような構成を備えていない点。 <相違点2> 「粒子」について、本願発明1では、「粒子が電気的に活性のない粒子から選ばれ」るものであるのに対し、引用発明2では、そのような特定はなされていない点。 (2)相違点についての判断 ア 事案に鑑み、まず、相違点2について検討する。 引用発明2は、「電荷輸送材料および溶剤を用いて加熱下に電荷輸送材料を溶剤に溶解させた後、目視により電荷輸送材料に未溶解材料や微粒子の存在が認められない状態になった後、濾過を行い、粒度分布の体積平均粒径(d50)の測定を行って、この値が400nm以下であることを確認することにより製造されたもの」であるところ、引用文献2の段落【0040】−【0043】の記載及び技術常識から、「粒度分布の体積平均粒径(d50)の測定」は、粒子群に対する測定であることは明らかである。 また、引用文献2の段落【0016】には、「本発明の有機電界発光素子用組成物は、・・・粒度分布の体積平均粒径(d50)が400nm以下と、ピンホールやダークスポットの原因となる異物や材料の析出などのない極めて均一な組成物である。」と記載されている。 そして、引用発明2における「目視により電荷輸送材料に未溶解材料や微粒子の存在が認められない状態になった後」に、「濾過」を行った後に、有機電界発光素子用組成物に含まれる粒子は、目視により確認できなかった電荷輸送材料の未溶解材料や微粒子であるから、半導体材料である電荷輸送材料であると解される。 一方、引用文献1には、「ポリマー状半導体を溶媒に溶解したポリマー状半導体溶液の高品質溶液において、ダストパーティクル、一般的パーティクルのないことが重要であり、金属粒子やイオン不純物による汚染は、一般的には回避しなければならないこと。」との技術的事項が記載されているものの、「有機半導体材料が、≦2,000g/molの分子量Mwを有する低分子材料」からなる調合物であって、「粒子を含み、粒子が電気的に活性のない粒子から選ばれ」という構成は記載も示唆もされていない。 また、引用文献3には、「粒子が電気的に活性のない粒子から選ばれ」という構成は記載も示唆もされていない。 そうすると、当業者であっても、引用発明2において、引用文献1、3を参酌しても、「有機電界発光素子用組成物」が含む粒子を、「粒子が電気的に活性のない粒子から選ばれ」る構成のものとすることは、当業者が容易になし得たこととは認められない。 したがって、引用発明2において、相違点2に係る本願発明1の構成とすることは、当業者が容易になし得たことであるとはいえない。 イ よって、本願発明1は、引用発明2であるとはいえず、また、当業者であっても、引用発明2及び引用文献1、3に記載された技術的事項に基づいて容易に発明をすることができたものであるともいえない。 2 本願発明2−9について 本願発明2−9も、上記相違点2に係る本願発明1の「粒子が電気的に活性のない粒子から選ばれ」という構成と同一の構成を備えるものであるから、本願発明1と同じ理由により、引用発明2であるとはいえず、また、当業者であっても、引用発明2及び引用文献1、3に記載された技術的事項に基づいて容易に発明をすることができたものであるともいえない。 3 本願発明10−15について 本願発明10、11は、本願発明1−9何れかの調合物の製造方法の発明であり、本願発明12、13は、本願発明1−9何れかの調合物を使用する、電子素子の少なくとも一つの層の製造方法の発明であり、本願発明14、15は、本願発明1−9何れかの調合物の、電子素子の少なくとも一つの層の製造のための使用の発明であり、上記相違点2に係る本願発明1の「粒子が電気的に活性のない粒子から選ばれ」という構成と同一の構成を備えるものであるから、本願発明1と同様の理由により、引用発明2であるとはいえず、また、当業者であっても、引用発明2及び引用文献1、3に記載された技術的事項に基づいて容易に発明をすることができたものであるともいえない。 4 原査定についての判断のまとめ よって、原査定の理由1、2を維持することはできない。 第7 当審拒絶理由について 1 本願発明1について (1)引用発明Aとの対比 本願発明1と引用発明Aとを対比すると、次のことがいえる。 ア 引用発明Aにおける「有機電界発光素子用組成物」、「有機溶剤」は、それぞれ、本願発明1の「調合物」、「溶媒」に対応する。 引用発明Aは、「有機電界発光素子の発光層、正孔注入層及び正孔輸送層からなる群より選ばれる少なくとも1層を形成するための有機電界発光素子用組成物」であるから、該組成物に含まれる「芳香族アミン系ポリマー」が有機半導体材料であることは明らかであるとともに、引用文献Aの段落[0138]にも、「本発明における芳香族アミン系ポリマーは、共役系の構造を有する繰り返し単位からなるため、十分な電荷輸送能を有し」と記載されている。 したがって、引用発明Aにおける「芳香族アミン系ポリマー」は、本願発明1における「有機半導体材料」に相当する。 よって、本願発明1と引用発明Aとは、「1以上の有機半導体材料が、1以上の溶媒に溶解された、1以上の有機半導体材料と1以上の有機溶媒とを含む溶液である調合物」である点で一致する。 イ 引用発明Aにおいて、「前記組成物1ml中に含まれる長径0.1μm以上のZn含有異物の数が50,000個以下、さらに好ましくは10,000個以下とすることができ」るものであるところ、「Zn含有異物」は、本願発明1における「粒子」に相当する。 したがって、本願発明1と引用発明Aとは、「粒子を含」むものである点で一致する。 エ したがって、本願発明1と引用発明Aとの間には、次の一致点、相違点があるといえる。 <一致点> 「1以上の有機半導体材料が、1以上の溶媒に溶解された、1以上の有機半導体材料と1以上の有機溶媒とを含む溶液である調合物であり、粒子を含む調合物。」 <相違点> <相違点A> 「粒子」の個数とサイズについて、本願発明1では、「調合物リットルあたり、10,000個未満の、0.1〜20μmの範囲の平均サイズを有する粒子」を含むという構成を備えるのに対し、引用発明Aでは、「前記組成物1ml中に含まれる長径0.1μm以上のZn含有異物の数が50,000個以下、さらに好ましくは10,000個以下とすることができ、組成物中の長径が0.1μm以上のZn含有異物の個数は、少ない程好ましく、組成物中に長径が0.1μm以上のZn含有異物が存在しないことが特に好ましい」ものの、Zn含有異物について、その個数の上限値が本願発明1とは相違し、また、平均サイズについて特定されていない点。 <相違点B> 「粒子」について、本願発明1では、「粒子が電気的に活性のない粒子から選ばれ」るものであるのに対し、引用発明Aでは、「Zn含有異物」について、そのような特定はなされていない点。 <相違点C> 本願発明1では、「有機半導体材料が、≦2,000g/molの分子量Mwを有する低分子材料である」であるのに対し、引用発明Aにおける「芳香族アミン系ポリマー」は、「重量平均分子量(Mw)3,000〜1,000,000」である点。 (2)相違点についての判断 ア 事案に鑑み、まず、相違点Bについて検討する。 引用文献Aの段落[0026]、[0034]、[0075]には、「Znに起因する異物(析出物)は、該組成物を含む有機電界発光素子において、短絡やダークスポット等の原因となりうる。」旨等が記載されているから、引用発明Aにおける「Zn含有異物」は、「電気的に活性のない粒子」であるとはいえない。また、引用文献Aには、有機電界発光素子用組成物が、「Zn含有異物」以外の粒子を含むことについては記載も示唆もされておらず、さらにまた、「有機電界発光素子用組成物」において、「粒子を含み、粒子が電気的に活性のない粒子から選ばれ」るものとすることが技術常識であるとも認められないから、引用発明Aにおいて、「電気的に活性のない粒子から選ばれ」る粒子を含むものとすることは、当業者には動機付けがない。 一方、引用文献1には、「ポリマー状半導体を溶媒に溶解したポリマー状半導体溶液の高品質溶液において、ダストパーティクル、一般的パーティクルのないことが重要であり、金属粒子やイオン不純物による汚染は、一般的には回避しなければならないこと。」との技術的事項が記載されているものの、「有機半導体材料が、≦2,000g/molの分子量Mwを有する低分子材料」という調合物であり、「粒子を含み、粒子が電気的に活性のない粒子から選ばれ」という構成は記載も示唆もされていない。 また、引用文献3には、「粒子が電気的に活性のない粒子から選ばれ」という構成は記載も示唆もされていない。 そうすると、当業者であっても、引用発明Aにおいて、引用文献1、3を参酌しても、「有機電界発光素子用組成物」が含む粒子を、「粒子が電気的に活性のない粒子から選ばれ」る構成のものとすることは、当業者が容易になし得たこととは認められない。 したがって、引用発明Aにおいて、相違点Bに係る本願発明1の構成とすることは、引用文献1、3を参酌しても、当業者が容易になし得たことであるとはいえない。 イ 次に、相違点Cについて検討する。 引用文献Aには、「芳香族アミン系ポリマー」の「重量平均分子量(Mw)」の好適な数値範囲の下限値「3,000」について、段落[0122]に、「重量平均分子量がこの下限値を下回ると、ガラス転移温度、融点及び気化温度が低下するため、耐熱性が著しく損なわれるおそれがある。」と記載されているから、引用発明Aにおいて、「重量平均分子量(Mw)」の数値範囲の下限値を、「2,000」とすることは阻害要因がある。 したがって、引用発明Aにおいて、相違点Cに係る本願発明1の構成とすることは、当業者が容易になし得たことであるとはいえない。 ウ 以上のとおりであるから、相違点Aについて検討するまでもなく、本願発明1は、当業者であっても、引用発明A及び引用文献1、3に記載された技術的事項に基づいて容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 2 本願発明2−9について 本願発明2−9も、上記相違点Bに係る本願発明1の「粒子が電気的に活性のない粒子から選ばれ、有機半導体材料が、≦2,000g/molの分子量Mwを有する低分子材料である」という構成と同一の構成を備えるものであるから、本願発明1と同じ理由により、当業者であっても、引用発明A及び引用文献1、3に記載された技術的事項に基づいて容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 3 本願発明10−15について 本願発明10、11は、本願発明1−9何れかの調合物の製造方法の発明であり、本願発明12、13は、本願発明1−9何れかの調合物を使用する、電子素子の少なくとも一つの層の製造方法の発明であり、本願発明14、15は、本願発明1−9何れかの調合物の、電子素子の少なくとも一つの層の製造のための使用の発明であり、上記相違点Bに係る本願発明1の「粒子が電気的に活性のない粒子から選ばれ、有機半導体材料が、≦2,000g/molの分子量Mwを有する低分子材料である」という構成と同一の構成を備えるものであるから、本願発明1と同様の理由により、当業者であっても、引用発明A及び引用文献1、3に記載された技術的事項に基づいて容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 第8 むすび 以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。 また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審決日 | 2022-01-05 |
出願番号 | P2017-540607 |
審決分類 |
P
1
8・
113-
WY
(H01L)
P 1 8・ 121- WY (H01L) |
最終処分 | 01 成立 |
特許庁審判長 |
辻本 泰隆 |
特許庁審判官 |
小川 将之 恩田 春香 |
発明の名称 | 低粒子含有量をもつ調合物 |
代理人 | 金子 早苗 |
代理人 | 蔵田 昌俊 |
代理人 | 野河 信久 |
代理人 | 井上 正 |
代理人 | 蔵田 昌俊 |
代理人 | 河野 直樹 |
代理人 | 飯野 茂 |
代理人 | 井上 正 |
代理人 | 飯野 茂 |
代理人 | 金子 早苗 |
代理人 | 河野 直樹 |
代理人 | 野河 信久 |