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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01R
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01R
管理番号 1382175
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2022-03-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2021-02-05 
確定日 2022-02-16 
事件の表示 特願2017−237296号「ケーブル用、特に同軸ケーブル用、好ましくは楽器および/または音響効果装置接続用のプラグ装置」拒絶査定不服審判事件〔平成30年6月28日出願公開、特開2018−101620号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2017年(平成29年)12月12日(パリ条約による優先権主張2016年12月13日、ドイツ(DE))の出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。
平成30年 3月16日 :翻訳文提出書の提出
令和 1年10月23日付け:拒絶理由通知書
令和 2年 3月25日 :意見書、手続補正書の提出
令和 2年 5月15日付け:拒絶理由通知書
令和 2年 8月18日 :意見書、手続補正書の提出
令和 2年 9月23日付け:拒絶査定
令和 3年 2月 5日 :審判請求書と同時に手続補正書の提出

第2 令和3年2月5日付けの手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
令和3年2月5日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。
[理由]
1 補正の内容
(1)本件補正後の特許請求の範囲の記載
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおり補正された。(下線は補正箇所を示すため当審が付与したものである。)
「【請求項1】
ケーブル(11)用に設計され、楽器および/または音響効果装置への接続が意図されたプラグ装置(10)であって、
前記プラグ装置(10)を対応する継手に接続するための遠位継手(13)と、
前記ケーブル(11)を受け入れて収容するための近位継手(12)と、
前記遠位継手(13)に対する前記近位継手(12)の方位を変更するための方位調整装置(23)であって、前記遠位継手(13)から取り外された前記近位継手(12)においてのみ、前記近位継手(12)の方位の変更ができるように構成されている前記方位調整装置(23)と、
を有し、
前記方位調整装置(23)は、前記ケーブル(11)が前記遠位継手(13)に部分的に導入されており、前記ケーブル(11)の少なくとも一部が導入された状態において、前記方位の調整が行われ得るように構成されていることを特徴とするプラグ装置。」

(2)本件補正前の特許請求の範囲の記載
本件補正前の令和2年8月18日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおりである。
「【請求項1】
ケーブル(11)用に設計され、楽器および/または音響効果装置への接続が意図されたプラグ装置(10)であって、
前記プラグ装置(10)を対応する継手に接続するための遠位継手(13)と、
前記ケーブル(11)を受け入れて収容するための近位継手(12)と、
前記遠位継手(13)に対する前記近位継手(12)の方位を変更するための方位調整装置(23)であって、前記遠位継手(13)から取り外された前記近位継手(12)においてのみ、前記近位継手(12)の方位の変更ができるように構成されている前記方位調整装置(23)と、を有することを特徴とするプラグ装置。」

2 補正の適否
2−1 補正の目的
本件補正は、本件補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「方位調整装置(23)」について、「前記方位調整装置(23)は、前記ケーブル(11)が前記遠位継手(13)に部分的に導入されており、前記ケーブル(11)の少なくとも一部が導入された状態において、前記方位の調整が行われ得るように構成されている」との限定を付加するものであって、本件補正前の請求項1に記載された発明と本件補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法第17条の2第5項第2号に掲げられた特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に記載された事項により特定される発明(以下「本願補正発明」という。)が、同条第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下検討する。

2−2 本件補正発明
本件補正発明は、上記1(1)に記載されたとおりのものである。

2−3 独立特許要件
(1)引用文献の記載事項等
(1−1)引用文献1
ア 引用文献1の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用文献1として示され、本願の優先権主張の日(以下「優先日」という。)前に国内で頒布された特開昭62−115680号公報には、以下の事項が記載されている(下線は当審で付した。以下同様。)。
(ア)特許請求の範囲 第10項
「ケーブルの所定長を係止するためのケーブル通路を有し、該通路が応力解放部内で略45°分曲がっている該応力解放部と、
2つの開口部を有し、第1の該開口部は本体部前面に設けられてコネクタプラグを収容するようになっており、かつ第2の該開口部は該本体部の後面隅部に設けられて、前記応力解放部を該本体部に対し少なくとも4つの方向で収容するようになっている該本体部と、
前記本体部内で前記応力解放部を前記4つの方向の各々で係止するものであって、前記本体部の内部部分と前記応力解放部の外部部分とからなる係止手段と、
からなることを特徴とする多方向コネクタ。」

(イ)2頁右上欄16〜19行
「本発明は、電子コネクタプラグに関し、特に電子コネクタプラグとこれに接続するケーブルとの間の接続をシールドするコネクタハウジングユニットに関する。」

(ウ)3頁右上欄1〜4行
「本発明の他の目的は、作業者にとって容易に調節可能であり操作可能であり、しかも作業者の設計上の要求を満足する電子プラグコネクタハウジングを提供することである。」

(エ)4頁左上欄3〜9行
「第1及び第2の本体半部2,4は更に保持溝31A,31Bと、上記収容凹部29,31とを有する。保持溝31A,31Bはケーブル中継又は扇形領域16,17間に略配され、又収容凹部29,31は第3図に示す如く、応力解放部1の第1及び第2の応力解放半体部6,8の凸状フランジ部30,32を収容して保持する。」

(オ)4頁左下欄8〜18行
「第5図はコネクタ本体部3を示し、これは本体半部2,4からなる。固定部材(ネジ)26は本体半部2,4を一緒に固定した状態で示されている。プラグ13は保持溝12,14内に保持された状態で示されている。
本体部3の固定部材(ネジ)26が取外されると、第1の本体半部2は第2の本体半部4から離間され、これにより応力解放部1の前面凸状係止部分37(第4図参照)が本体部3(第5図参照)の略四角形開口40を介して第6図〜第9図に示した4つの方向の何れかの方へ挿入される。」

(カ)5頁右上欄7〜12行
「第10図は第6図の10−10線に沿う一部切断平面図である。同図は応力解放部1を通過しかつ挾持部24により応力解放部1内に固定されたケーブル18を示している。ケーブル18の端部にはケーブルワイヤ19が示されており、これらは接続ピン即ちコネクタ11に夫々溶接又他の方法で固着される。」

(キ)5頁左下欄19行〜同頁右下欄4行
「本発明になる多方向プラグコネクタによれば、作業者は、スペース上及び/又は設計上の要求に従い、ケーブル18の出口方向の方向付けをした後、電気プラグ13をコンピュータ端子又は電話スイッチングシステム等の電子装置(図示せず)へ係止できることが容易に理解される。」

(ク)5頁右下欄15〜20行
「勿論、本発明は、一般に電子又は電気パルスシステムのみならず、コンピュータシステム、A/Cシステム、D/Cシステム、光ファイバシステム等を含む広範囲の種々の特別の電子システムに対しても、広い応用性を有することが理解される。」

(ケ)引用文献1には、以下の図が示されている。






イ 記載事項からの認定事項
引用文献1には、上記記載事項(キ)から、「スペース上及び設計上の要求に従い、ケーブル18の出口方向の方向付けをした後、電気プラグ13をコンピュータ端子又は電話スイッチングシステム等の電子装置へ係止できる多方向コネクタ」について記載されているところ、以下の事項が認定できる。
(ア)特許請求の範囲の第10項(記載事項(ア))の「コネクタプラグ」は、実施例の「電気プラグ13」を指しているところ、各構成要素に、実施例の各構成要素に付与されている符号を付与すると、「多方向コネクタ」は、
ケーブル18の所定長を係止するためのケーブル通路20、22を有し、該通路20、22が応力解放部1内で略45°分曲がっている該応力解放部1と、
2つの開口部を有し、第1の該開口部は本体部3前面に設けられて電気プラグ13を収容するようになっており、かつ第2の該開口部は該本体部3の後面隅部に設けられて、前記応力解放部1を該本体部3に対し少なくとも4つの方向で収容するようになっている該本体部3と、
前記本体部3内で前記応力解放部1を前記4つの方向の各々で係止するものであって、前記本体部3の内部部分と前記応力解放部1の外部部分とからなる係止手段とを有すること。

(イ)第10図等から、コネクタ11は電気プラグ13のコネクタであるところ、記載事項(カ)から、ケーブル18の端部にはケーブルワイヤ19を有し、これらは電気プラグ13の接続ピン即ちコネクタ11に夫々溶接又他の方法で固着されていること。

(ウ)特許請求の範囲の第10項(記載事項(ア))における「第2の該開口部」は、第3、5図等から、記載事項(エ)における「略四角形開口40」である。また、記載事項(エ)の下線部の記載から、第1及び第2の本体半部2,4は収容凹部29,31とを有するところ、第3、5図等を参照すると、該収容凹部29,31により略四角形開口40が形成されていること。

(エ)特許請求の範囲の第10項(記載事項(ア))における「応力解放部の外部部分」は、第4図等を参照すると、「応力解放部1」の「凸状係止部分37」であること。

(オ)上記(ウ)及び(エ)を踏まえると、記載事項(エ)から、
本体部3の第2の該開口部は略四角形開口40であり、応力解放部1の外部部分は凸状係止部分37であり、前記本体部3は第1の本体半部2及び第2の本体半部4からなり、該第1の本体半部2及び第2の本体半部4は、それぞれ収容凹部29,31を有し、該収容凹部29,31により前記略四角形開口40が形成されており、前記本体部3の固定部材(ネジ)26が取外されると、第1の本体半部2は第2の本体半部4から離間され、これにより応力解放部1の前記前面凸状係止部分37が前記本体部3の前記略四角形開口40を介して4つの方向の何れかの方へ挿入されること。

ウ 引用文献1に記載された発明
上記ア、イによれば、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「スペース上及び設計上の要求に従い、ケーブル18の出口方向の方向付けをした後、電気プラグ13をコンピュータ端子又は電話スイッチングシステム等の電子装置へ係止できる多方向コネクタであって、
ケーブル18の所定長を係止するためのケーブル通路20、22を有し、該通路20、22が応力解放部1内で略45°分曲がっている該応力解放部1と、
2つの開口部を有し、第1の該開口部は本体部3前面に設けられて電気プラグ13を収容するようになっており、かつ第2の該開口部は該本体部3の後面隅部に設けられて、前記応力解放部1を該本体部3に対し少なくとも4つの方向で収容するようになっている該本体部3と、
前記本体部3内で前記応力解放部1を前記4つの方向の各々で係止するものであって、前記本体部3の内部部分と前記応力解放部1の外部部分とからなる係止手段を有し、
前記ケーブル18の端部にはケーブルワイヤ19を有し、これらは前記電気プラグ13の接続ピン即ちコネクタ11に夫々溶接又他の方法で固着され、
前記本体部3の前記第2の該開口部は略四角形開口40であり、前記応力解放部1の前記外部部分は前面凸状係止部分37であり、前記本体部3は第1の本体半部2及び第2の本体半部4からなり、該第1の本体半部2及び第2の本体半部4は、それぞれ収容凹部29,31を有し、該収容凹部29,31により前記略四角形開口40が形成されており、前記本体部3の固定部材(ネジ)26が取外されると、第1の本体半部2は第2の本体半部4から離間され、これにより前記応力解放部1の前記前面凸状係止部分37が前記本体部3の前記略四角形開口40を介して4つの方向の何れかの方へ挿入される多方向コネクタ。」

(1−2)引用文献4
原査定の拒絶の理由に周知技術を示す引用文献4として提示され、本願の優先日前に国内で頒布された特開2004−327316号公報(以下「引用文献4」という。)には、以下の事項が記載されている。
「【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、例えばCDプレーヤやMDプレーヤ等において、電子機器本体とリモコン等とを接続するために使用されるコネクタに関するものであり、特に、例えば3極プラグ部と電源用端子部とが一体化された多極コネクタに関するものである。
【0002】
【従来の技術】
各種音響映像機器、パソコン、テレビゲーム、通信機器等の電子機器類間を接続するために、DINコネクタやDサブコネクタ等の多極コネクタが広く用いられている。」

(1−3)引用文献5
原査定の拒絶の理由に周知技術を示す引用文献5として提示され、本願の優先日前に国内で頒布された特公昭51−8329号公報(以下「引用文献5」という。)には、以下の事項が記載されている。
1頁1欄18〜28行
「本発明は電子楽器における楽音選択方式に関する。
従来、電子楽器特に電子オルガンにおいては、手鍵盤、足鍵盤を有し、各鍵盤の数だけ発振器が必要であり、鍵盤操作によつて合成楽音、フィート律を規定するようになつているので、電子楽器は大型にならざるを得ない実情にあつた。即ち、電子楽器の足鍵盤は、本体よりも大きく、それを結合するには、多極コネクタを使用するのが普通で必然的に大型になり、技術的にもS/N比は悪くなる原因となつていた。」

(2)対比
本願補正発明と引用発明とを対比する。
ア 後者の「ケーブル18」は、前者の「ケーブル(11)」に相当し、後者の「コンピュータ端子又は電話スイッチングシステム等の電子装置」と、前者の「楽器および/または音響効果装置」とは、「電子装置」の限度で共通するから、後者の「スペース上及び設計上の要求に従い、ケーブル18の出口方向の方向付けをした後、電気プラグ13をコンピュータ端子又は電話スイッチングシステム等の電子装置へ係止できる多方向コネクタ」と、前者の「ケーブル(11)用に設計され、楽器および/または音響効果装置への接続が意図されたプラグ装置(10)」とは、「ケーブル用に設計され、電子装置への接続が意図されたプラグ装置」の点で共通する。

イ 後者の「2つの開口部を有し、第1の該開口部は本体部3前面に設けられて電気プラグ13を収容するようになっており、かつ第2の該開口部は該本体部3の後面隅部に設けられて、前記応力解放部1を該本体部3に対し少なくとも4つの方向で収容するようになっている該本体部3」における「電気プラグ13」は「コンピュータ端子又は電話スイッチングシステム等の電子装置へ係止できる」ものであるから、「本体部3」は「多方向コネクタ」を対応する継手に接続するためのものといえる。
そうすると、後者のかかる「本体部3」は、前者の「前記プラグ装置(10)を対応する継手に接続するための遠位継手(13)」に相当する。

ウ 後者の「ケーブル18の所定長を係止するためのケーブル通路20、22を有し、該通路20、22が応力解放部1内で略45°分曲がっている該応力解放部1」は、「ケーブル18」を受け入れて収容することは明らかであるから、前者の「前記ケーブル(11)を受け入れて収容するための近位継手(12)」に相当する。

エ 後者の「前記本体部3内で前記応力解放部1を前記4つの方向の各々で係止するものであって、前記本体部3の内部部分と前記応力解放部1の外部部分とからなる係止手段」は、前者の「前記遠位継手(13)に対する前記近位継手(12)の方位を変更するための方位調整装置(23)」に相当する。また、後者は「前記本体部3の第2の該開口部は該略四角形開口40であり、前記応力解放部1の外部部分は前面凸状係止部分37であ」るところ、「前記本体部3の固定部材(ネジ)26が取外されると、第1の本体半部2は第2の本体半部4から離間され、これにより応力解放部1の前記前面凸状係止部分37が前記本体部3の前記略四角形開口40を介して4つの方向の何れかの方へ挿入される」ものであるから、「本体部3」から取り外された「応力解放部1」においてのみ、前記「応力解放部1」の方位の変更ができるように構成されているものといえる。
そうすると、後者のかかる「係止手段」は、前者の「前記遠位継手(13)から取り外された前記近位継手(12)においてのみ、前記近位継手(12)の方位の変更ができるように構成されている前記方位調整装置(23)」に相当する。

以上によれば、本願補正発明と引用発明とは、
「ケーブル用に設計され、電子装置への接続が意図されたプラグ装置であって、
前記プラグ装置を対応する継手に接続するための遠位継手と、
前記ケーブルを受け入れて収容するための近位継手と、
前記遠位継手に対する前記近位継手の方位を変更するための方位調整装置であって、前記遠位継手から取り外された前記近位継手においてのみ、前記近位継手の方位の変更ができるように構成されている前記方位調整装置と、
を有するプラグ装置。」
の点で一致し、以下の各点で相違している。

<相違点1>
「電子装置」について、
本願補正発明が、「楽器および/または音響効果装置」であるのに対し、
引用発明は、「コンピュータ端子又は電話スイッチングシステム等」である点。

<相違点2>
本願補正発明が、「前記方位調整装置(23)は、前記ケーブル(11)が前記遠位継手(13)に部分的に導入されており、前記ケーブル(11)の少なくとも一部が導入された状態において、前記方位の調整が行われ得るように構成されている」のに対し、
引用発明は、「前記ケーブル18の端部にはケーブルワイヤ19を有し、これらは前記コネクタプラグの接続ピン即ちコネクタ11に夫々溶接又他の方法で固着され」るものであるが、ケーブル18の少なくとも一部が本体部3に導入された状態において、前記本体部3内で応力解放部1を4つの方向の各々で係止することが特定されていない点。

(3)判断
ア 相違点1について
引用文献4及び5(上記(1)の(1−2)及び(1−3))の記載事項から、電子オルガン等の楽器や各種音響映像機器等の音響効果装置への接続が意図された多極コネクタ自体は、従来周知の技術である。
また、引用文献1の記載事項(ク)に「本発明は、一般に電子又は電気パルスシステムのみならず、コンピュータシステム、A/Cシステム、D/Cシステム、光ファイバシステム等を含む広範囲の種々の特別の電子システムに対しても、広い応用性を有することが理解される。」と記載されているように、引用発明の「多方向コネクタ」は、広範囲の電子システムに用いることができるものであり、楽器および/または音響効果装置に用いることに阻害要因があるとは認められないから、引用発明の「多方向コネクタ」を係止する対象を「コンピュータ端子又は電話スイッチングシステム等」から楽器および/または音響効果装置にすることは、当業者であれば適宜なし得ることである。
したがって、引用発明において、上記相違点1に係る本願補正発明の構成にすることは、当業者であれば容易に想到し得たことである。

イ 相違点2について
引用発明は「前記ケーブル18の端部にはケーブルワイヤ19を有し、これらは前記コネクタプラグの接続ピン即ちコネクタ11に夫々溶接又他の方法で固着され」るものである。
そして、引用文献1の第10図及び第11図には、本体部3内で応力解放部1の係止状態を変えてケーブル18の方位を調整する際に、ケーブル18のケーブルワイヤ19がコネクタ11に夫々固着された状態であることが示されている。
また、引用文献1の記載事項(ウ)によれば、引用発明の目的には、「作業者にとって容易に調節可能であり操作可能であ」ることが含まれていることを踏まえると、ケーブル18のケーブルワイヤ19がコネクタ11に夫々固着された状態、つまり、ケーブル18が本体部3の第1の本体半部2又は第2の本体半部4の収容凹部29又は収容凹部31に導入された状態において、応力解放部1を少なくとも4つの方向に収容することが、容易に調節可能、操作可能にする観点に基づけば合理的かつ自然であるから、引用発明において、「係止手段」は、「ケーブル18」が「本体部3」に部分的に導入されており、前記「ケーブル18」の少なくとも一部が導入された状態において、方位の調整が行われ得るように構成することは、当業者であれば適宜なし得ることである。
したがって、引用発明において、上記相違点2に係る本願補正発明の構成にすることは、当業者であれば容易に想到し得たことである。

ウ そして、本願補正発明の作用効果も、引用発明、引用文献4、5に記載された周知技術から当業者が予測し得る範囲のものであって、格別なものとはいえない。

エ 請求人の主張について
(ア)請求人は、審判請求書(「(3)(3−3)(3−3−1)」の項)で、
「引用文献1の多方向コネクタは、例えばパーソナルコンピュータのような電子機器類をケーブル接続の対象としています。このような電子機器類ではハウジングユニット内での構成部品のスペースの取り合いが難しく、可能な限り省スペース化を図るために、ケーブルの方位を変える必要性があります。
これに対して、本発明のプラグ装置は、楽器(エレキギター)および/または音響効果装置(特にペダルボード)をケーブル接続の対象としています。楽器の演奏者は独特の感性を有しているために、演奏者ごとにケーブルの取り付け方位を個別に設定する必要性があります。本発明のプラグ装置によれば、ケーブル取り付け方位を簡単に変更することができるので、どのような演奏者に対しても容易に対応することができます。このように本発明のプラグ装置と引用文献1の多方向コネクタとは、その用途がまったく異なっています。」と主張する。
しかしながら、引用発明と比べて、本願補正発明において、「演奏者ごとにケーブルの取り付け方位を個別に設定」するための特別な構成、すなわち、上記相違点1、2以外の相違点となる構成は特定されていない。また、上記アで述べたように、引用発明の「多方向コネクタ」を係止する対象を「コンピュータ端子又は電話スイッチングシステム等」から楽器および/または音響効果装置にすることは、当業者であれば適宜なし得ることであるところ、引用発明もケーブル18の方位を変えることができるものであって、引用発明の「多方向コネクタ」を楽器に適用した場合には、演奏者ごとにケーブル18の取り付け方位を個別に設定することは可能なものであるから、請求人が主張する「本発明のプラグ装置によれば、ケーブル取り付け方位を簡単に変更することができるので、どのような演奏者に対しても容易に対応することができます。」との効果は、格別なものとはいえない。
よって、請求人の主張は、採用できない。

オ まとめ
以上のとおり、本願補正発明は、引用発明、引用文献4、5に記載された周知技術に基いて当業者が容易になし得たものであるから、特許出願の際独立して特許を受けることができるものではない。
したがって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1 本願発明
本件補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明は、令和2年8月18日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、上記「第2 1(2)本件補正前の特許請求の範囲の記載」に記載されたとおりのものである。

2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、次の理由を含むものである。

本願の請求項1に係る発明は、引用文献1に記載された発明及び引用文献4、5に記載された周知技術に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
なお、上記引用文献1、4、5は、上記「第2 2 2−3 (1)」に示す引用文献1、4、5である。

3 当審の判断
本願発明は、上記「第2 1(2)本件補正前の特許請求の範囲の記載」に記載されたとおりのものであり、本願補正発明から、「前記方位調整装置(23)は、前記ケーブル(11)が前記遠位継手(13)に部分的に導入されており、前記ケーブル(11)の少なくとも一部が導入 された状態 において、前記方位の調整 が行われ得るように構成されている」との事項を削除したものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項の全てを含み、さらに他の事項を付加したものに相当する本願補正発明が、前記第2[理由]2 2−3(3)に記載したとおり、引用発明、引用文献4、5に記載された周知技術に基いて当業者が容易になし得たものであるから本願発明も同様の理由により、引用発明、引用文献4、5に記載された周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものといえる。

第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明、引用文献4、5に記載された周知技術に基いて当業者が容易になし得たものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、その余の請求項について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
別掲 (行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この審決に対する訴えは、この審決の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、特許庁長官を被告として、提起することができます。

審判長 一ノ瀬 覚
出訴期間として在外者に対し90日を附加する。
 
審理終結日 2021-09-07 
結審通知日 2021-09-14 
審決日 2021-09-30 
出願番号 P2017-237296
審決分類 P 1 8・ 575- Z (H01R)
P 1 8・ 121- Z (H01R)
最終処分 02   不成立
特許庁審判長 一ノ瀬 覚
特許庁審判官 島田 信一
八木 誠
発明の名称 ケーブル用、特に同軸ケーブル用、好ましくは楽器および/または音響効果装置接続用のプラグ装置  
代理人 特許業務法人スズエ国際特許事務所  

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