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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  E04B
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  E04B
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  E04B
審判 全部申し立て 2項進歩性  E04B
管理番号 1382350
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-03-25 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-08-13 
確定日 2021-12-15 
異議申立件数
訂正明細書 true 
事件の表示 特許第6648989号発明「木質構造部材」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6648989号の特許請求の範囲を、令和3年9月6日付け訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1及び2〕について訂正することを認める。 特許第6648989号の請求項1及び2に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6648989号の請求項1及び2に係る特許についての出願は、平成27年6月12日に出願され、令和2年1月20日にその特許権の設定登録がされ、令和2年2月19日に特許掲載公報が発行された。本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。

令和 2年 8月13日 :特許異議申立人丸山博隆(以下「申立人」と いう。)による請求項1及び2に係る特許に 対する特許異議の申立て
令和 2年10月22日付け:取消理由通知書
令和 2年12月23日 :特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
令和 3年 3月15日 :申立人による意見書の提出
令和 3年 3月30日付け:取消理由通知書(決定の予告)
令和 3年 6月 3日 :特許権者による意見書の提出
令和 3年 7月 1日付け:取消理由通知書(決定の予告)
令和 3年 9月 6日 :特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
令和 3年10月19日 :申立人による意見書の提出

なお、令和3年9月6日に訂正の請求がなされたので、令和2年12月23日になされた訂正の請求は、特許法第120条の5第7項の規定により取り下げられたものとみなす。


第2 訂正の適否
1 訂正の内容
令和3年9月6日提出の訂正請求(以下「本件訂正請求」という。)による訂正(以下「本件訂正」という。)の内容は以下のとおりである(下線は訂正箇所を示す。)。

(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に
「木質の荷重支持部と、
前記荷重支持部の外側に間隔をあけて配置される木質の燃代層と、
不燃材料又は前記荷重支持部よりも着火温度が高い材料で構成された充填材が、前記荷重支持部と前記燃代層との間に充填されて硬化することで形成される燃止層と、
を備え、
前記充填材は、石膏及びモルタルのいずれか一つを材料として構成されている、」
と記載されているのを、
「上下方向に沿って配置された木質の荷重支持部と、
前記荷重支持部の下端部の外側にスペーサーを入れて間隔をあけて配置された木質の燃代層と、
石膏及びモルタルのいずれか一つを材料とする充填材が、前記荷重支持部と前記燃代層との間に充填されて硬化することで形成された筒状の燃止層と、
を備えている」
に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項2も同様に訂正する)。

以下、訂正事項1のうち、
本件訂正前の請求項1の「木質の荷重支持部」との記載を「上下方向に沿って配置された木質の荷重支持部」に訂正する点を、「訂正事項1−1」といい、
本件訂正前の請求項1の「前記荷重支持部の外側に間隔をあけて配置される木質の燃代層」との記載のうち、「前記荷重支持部の外側に間隔をあけて配置され」を「前記荷重支持部の下端部の外側にスペーサーを入れて間隔をあけて配置され」に訂正する点を、「訂正事項1−2」といい、
本件訂正前の請求項1の「前記荷重支持部の外側に間隔をあけて配置される木質の燃代層」との記載のうち、「配置される木質の燃代層」を「配置された木質の燃代層」に訂正する点を、「訂正事項1−3」といい、
本件訂正前の請求項1の「、前記充填材は、石膏及びモルタルのいずれか一つを材料として構成されている、」との記載を削除するとともに、本件訂正前の請求項1の「不燃材料又は前記荷重支持部よりも着火温度が高い材料で構成された充填材」との記載を「石膏及びモルタルのいずれか一つを材料とする充填材」に訂正する点を、「訂正事項1−4」といい、
本件訂正前の請求項1の「燃止層」との記載を「筒状の燃止層」に訂正する点を、「訂正事項1−5」という。

2 一群の請求項
本件訂正前の請求項2は、本件訂正前の請求項1を引用しており、請求項2は、訂正事項1によって訂正される請求項1に連動して訂正がされるものであるから、本件訂正前の請求項1及び2は特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項を構成する。
したがって、訂正事項1の訂正は、当該一群の請求項〔1及び2〕に対して請求されたものである。

3 訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1−1について
訂正事項1−1に係る請求項1についての訂正は、「木質の荷重支持部」を「上下方向に沿って配置された」ものに限定する訂正であるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げられた事項である特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
「木質の荷重支持部」が「上下方向に沿って配置された」ものであることについては、願書に添付した明細書の段落【0018】の「木質柱100の軸方向は、鉛直方向(Z方向)である」との記載や、図3ないし5に照らして荷重支持部110がZ方向に沿って配置されていることが看取されることに基づくものであるから、訂正事項1−1は新規事項を追加するものではなく、また、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるから、実質的に特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(2)訂正事項1−2について
訂正事項1−2に係る請求項1についての訂正は、「木質の燃代層」について「前記荷重支持部の外側に間隔をあけて配置され」ることが、荷重支持部の外側の「下端部」に「スペーサーを入れて」いることによるものであることを限定する訂正であるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げられた事項である特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
「木質の燃代層」について「前記荷重支持部の外側に間隔をあけて配置され」ることが、荷重支持部の外側の「下端部」に「スペーサーを入れて」いることによるものであることについては、願書に添付した明細書の段落【0030】の「スペーサー54で荷重支持部110と燃代層130との隙間Tを一定にする」との記載や、図4に照らしてスペーサー54は荷重支持部110の下端部の外側に設けられていることが看取されることに基づくものであるから、訂正事項1−2は新規事項を追加するものではなく、また、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるから、実質的に特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(3)訂正事項1−3について
訂正事項1−3に係る請求項1についての訂正は、本件訂正前の請求項1において「前記荷重支持部の外側に間隔をあけて配置される木質の燃代層」とは、「木質の燃代層」について「荷重支持部の外側に間隔をあけ」た位置に既に「配置」されたものであるか否かが不明瞭であったところ、訂正事項1−3によって既に「配置された」ものであることを明瞭にするものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げられた事項である明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
「燃代層」が荷重支持部の外側に間隔をあけて「配置された」ものである点については、荷重支持部の外側に間隔をあけて配置することが本件訂正前の請求項1に記載されていたことに鑑みれば、訂正事項1−3は新規事項を追加するものではなく、また、実質的に特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(4)訂正事項1−4について
訂正事項1−4に係る請求項1についての訂正は、「充填材」の「材料」について「不燃材料」及び「前記荷重支持部よりも着火温度が高い材料」という2つの選択肢が示されていたところ、このうち「前記荷重支持部よりも着火温度が高い材料」を削除するとともに、残された「不燃材料」を「石膏及びモルタルのいずれか一つ」に下位概念化するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げられた事項である特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
ここで、「石膏」が「不燃材料」の一種であることについては、願書に添付した明細書の段落【0023】に「燃止層120は、不燃材料である石膏Sで構成されているので不燃であり、」と記載されている。また、願書に添付した明細書の段落【0076】ないし【0078】に「上記実施形態では、荷重支持部110、210、310と燃代層130、230、330との間に充填されて硬化する充填材は石膏Sであったが、これに限定されない。例えば、グラウト材、コンクリート、モルタル及び繊維補強コンクリートであってもよい。・・・(中略)・・・或いは、不燃ではないが、荷重支持部110、210、310よりも着火温度が高い充填材、例えば樹脂製のコーキング材であってもよい。」と記載されていることに鑑みれば、「モルタル」も「不燃材料」の一種として記載されていることは明らかである。よって訂正事項1−4は新規事項を追加するものではなく、また、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるから、実質的に特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(5)訂正事項1−5について
訂正事項1−5に係る請求項1についての訂正は、「燃止層」について、「筒状」のものに限定する訂正であるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げられた事項である特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
「燃止層」が「筒状」であることについては、願書に添付した明細書の段落【0020】の「円筒状の燃止層120」との記載等に基づくものであるから、訂正事項1−5は新規事項を追加するものではなく、また、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるから、実質的に特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

4 小括
上記のとおり、訂正事項1に係る訂正は、特許法第120条の5第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、特許請求の範囲を、本件訂正請求の訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1及び2〕について訂正することを認める。


第3 本件訂正発明
本件訂正請求により訂正された本件特許の請求項1及び2に係る発明(以下、それぞれ「本件訂正発明1」及び「本件訂正発明2」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。

【請求項1】
上下方向に沿って配置された木質の荷重支持部と、
前記荷重支持部の下端部の外側にスペーサーを入れて間隔をあけて配置された木質の燃代層と、
石膏及びモルタルのいずれか一つを材料とする充填材が、前記荷重支持部と前記燃代層との間に充填されて硬化することで形成された筒状の燃止層と、
を備えている木質構造部材。
【請求項2】
前記燃代層は筒状とされると共に、軸方向と直交する断面の外形は円形とされている、
請求項1に記載の木質構造部材。


第4 特許異議申立理由の概要及び証拠
申立人は、申立書において、概ね以下の1に示す申立理由を主張するとともに、証拠方法として、以下の2に示す各甲号証を提出している。
また、申立人は、令和3年3月15日提出の意見書に添付して、以下の3に示す各甲号証を提出している。

1 特許異議申立理由の概要
申立人が異議申立書において主張する特許異議申立理由は、異議申立書第1〜2頁の「1 申立ての理由の要約」の記載、第3〜31頁の「4−1」及び「4−2」の記載等からみて、概略次のとおりであると認められる。

(1)訂正前の本件特許の請求項1及び2に係る発明(以下、訂正前の本件特許の請求項1及び2に係る発明をそれぞれ「本件特許発明1」及び「本件特許発明2」という。)は、甲第1号証に記載された発明、又は、甲第6号証に記載された発明と同一である。
よって、訂正前の本件特許は特許法第29条第1項第3号の規定に違反しており、特許法第113条第2号により特許を取り消すべきものである。
(第2頁「理由1」、第14〜28頁「4−1−3」、第31〜32頁「むすび」等)

(2)本件特許発明1及び2は、甲第1号証、甲第2号証及び甲第3号証に記載された発明、又は、甲第6号証、甲第2号証及び甲第3号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明することができたものである。
よって、訂正前の本件特許は特許法第29条第2項の規定に違反しており、特許法第113条第2号により特許を取り消すべきものである。
(第2頁「理由2」、第14〜28頁「4−1−3」」、第31〜32頁「むすび」等)

(3)本件特許発明1及び2は、物の発明であるにも関わらず、製法で限定された記載であるので不明瞭である。また、発明の成立を客観的に確認できず、耐火試験に用いた試験体の構成及び試験仕様が明確でなく、追試して検証することもできないので、本件特許明細書は、当業者が容易に実施できる程度に記載されていない。
よって、訂正前の本件特許は特許法第36条第4項第1号及び同条第6項第2号の規定を満足しておらず、特許法第113条第2号により特許を取り消すべきものである。
(第2頁「理由3」、第28〜31頁「4−2」」、第31〜32頁「むすび」等)

2 申立書に添付して提出された証拠方法
甲第1号証: 特開2007−46286号公報
甲第2号証: 特開2015−61969号公報
甲第3号証: 特開昭55−55753号公報
甲第4号証: 特開昭55−65659号公報
甲第5号証: 特開平11−62110号公報
甲第6号証: 「官庁施設における木造耐火建築物の整備指針」(平成
25年 3月29日、国土交通省大臣官房官庁営繕部)
甲第7号証: 特開2015−25245号公報
甲第8号証: 特開2014−114672号公報

3 令和3年3月15日提出の意見書に添付して提出された証拠方法
甲第9号証: 特開2006−97234号公報
甲第10号証: 特開2006−342608号公報
甲第11号証: 特開2007−39915号公報


第5 取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由について
1 取消理由(決定の予告)の概要
当審が令和3年7月1日付けで特許権者に通知した取消理由(決定の予告)の概要は次のとおりである。

(1)令和2年12月23日提出の訂正請求により訂正された本件特許の請求項1に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第6号証に記載された発明及び甲第8号証に記載された技術的事項に基いて、本件特許の出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであって、取り消されるべきものである。

(2)令和2年12月23日提出の訂正請求により訂正された本件特許の請求項2に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第6号証に記載された発明、甲第8号証に記載された技術的事項並びに甲第2号証及び甲第3号証等に記載された周知技術に基いて、本件特許の出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項2に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであって、取り消されるべきものである。

2 甲各号証について
(1)甲第1号証
ア 甲第1号証の記載
本件特許出願前に頒布された甲第1号証には次の事項が記載されている(下線は当審で付した。以下同様。)。

(ア)「【0003】
ところで、木造建築物に火災が発生したとき、これが消火される前に柱,梁などの重要部材が焼失してしまうと、建築物が倒壊してしまうおそれがある。この過程において、柱,梁などが火炎に晒され、その表面から内部に向けて炭化が徐々に進行する。木造建築物の重要部材は、構造耐力の設計上、火災発生から避難までの時間を確保する必要があるが、荷重を受ける矩形断面が徐々に減少し、建築物倒壊までの時間が不明確であった。なお、木造建築部材は、我が国の気候風土に適したものである一方、鉄筋コンクリートや煉瓦などに比べて耐火性能が劣るという特性がある。
【0004】
そこで、本発明は以上のような従来の問題点に鑑み、荷重を受ける構造部とこれを被覆する被覆部とを、構造部に作用した荷重が被覆部に伝達されないようにする層状の絶縁部を介在させて分離することで、構造耐力の設計を容易にすると共に、見栄えを確保しつつ耐火性能を向上させた木製建築部材を提供することを目的とする。」

(イ)「【0010】
以下、添付された図面を参照して本発明を詳述する。
図1は、集成材からなる柱を前提として本発明を適用して具現化した、木製建築部材の第1実施形態を示す。
材軸が鉛直方向に延びる柱10は、荷重を受ける長尺かつ矩形横断面の構造部12と、構造部12の横断面周囲をその全長に亘って被覆する被覆部14と、構造部12と被覆部14との間に層状に介在し、構造部12に作用した荷重が被覆部14に伝達されないようにする絶縁部16と、を含んで構成される。
【0011】
構造部12は、柱10に作用する各種荷重に応じた横断面積を有し、所定寸法に切断された木材板を平行に積み重ね、合成樹脂接着剤により接着して一体化された集成材からなる。被覆部12は、柱10の横断面において所定厚さtを有し、構造部12と同様に、所定寸法に切断された木材板を平行に積み重ね、合成樹脂接着剤により接着して一体化された集成材からなる。絶縁部16は、建築基準法で規定された不燃材料又は難燃材料から構成することが望ましい。ここで、「不燃材料」としては、厚さが9mm以上の石膏ボード(ボード用原紙の厚さが0.6mm以下のもの),厚さが15mm以上の木毛セメント板,厚さが9mm以上の硬質木片セメント板(かさ比重が0.9以上のもの),厚さが30mm以上の木片セメント板(かさ比重が0.5以上のもの),厚さが6mm以上のパルプセメント板などが該当する。「難燃材料」としては、厚さが5.5mm以上の難燃合板,厚さが7mm以上の石膏ボード(ボード用原紙の厚さが0.5mm以下のもの)などが該当する。なお、不燃材料又は難燃材料として石膏ボードを用いれば、建築物で広く利用されている安価かつ耐火上信頼性の高い素材を用いて絶縁部16を実現することができる。絶縁部16は、構造部12に作用する各種荷重が伝達されない程度の弱接合方式、具体的には、釘打ち,合成樹脂接着剤などで構造部12周囲に固定又は半固定される。」

(ウ)図1




(エ)上記(イ)の記載に照らして、上記(ウ)の図1から、構造部12と被覆部14との間に層状に介在する絶縁部16は四角筒状を成していることが看取される。

イ 甲第1号証に記載された発明
上記アより、甲第1号証には、次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されている。

(甲1発明)
「荷重を受ける長尺かつ矩形横断面の構造部12と、構造部12の横断面周囲をその全長に亘って被覆する被覆部14と、構造部12と被覆部14との間に層状に介在し、構造部12に作用した荷重が被覆部14に伝達されないようにする絶縁部16と、を含んで構成され、
構造部12は、所定寸法に切断された木材板を平行に積み重ねた集成材からなり、
被覆部12は、所定寸法に切断された木材板を平行に積み重ねた集成材からなり、
絶縁部16は、不燃材料又は難燃材料から構成され、
不燃材料としては、石膏ボード、木毛セメント板、硬質木片セメント板、木片セメント板、パルプセメント板が該当し、
難燃材料としては、石膏ボードが該当し、
絶縁部16は、構造部12に作用する各種荷重が伝達されない程度の弱接合方式、具体的には、釘打ち、合成樹脂接着剤などで構造部12周囲に固定又は半固定され、
絶縁部16は四角筒状を成している、
材軸が鉛直方向に延びる柱10。」

(2)甲第2号証
ア 甲第2号証の記載
本件特許出願前に頒布された甲第2号証には次の事項が記載されている。

(ア)「【技術分野】
【0001】
本発明は、建築構造部材として使用できる耐火性物品およびその製造方法に関する。」

(イ)「【0004】
これまで、可燃性である木材で構成される集成材を用いて耐火構造を実現するために種々の構造材が提案されている。例えば、特開2005−036456号公報、特開2005−048585号公報および特開2008−031743号公報は、積層材および集成材などの複合木質構造材を提案している。すなわち一定の強度をもつ集成材などを芯材として、その外周囲に、石膏ボード、モルタルやセメントなどの無機物や、各種の難燃剤成分、難燃剤処理した木材、あるいは高密度の木材を耐火層として配置させるものである。しかし、それらの構造材を製造するためには、特定サイズのボードや板を複数用意したり、高粘度物を芯材表面に被覆しなければならず、その工程はかなり複雑なものになる。
さらに構造材の断面形状を任意のもの(例えば、円形の断面)にすることがより困難であり、それらの構造材を製造するには非常に手間がかかる。」

(ウ)「【0012】
本発明によれば、従来よりも簡便な方法で耐火性物品を製造することができる。
また、自由な断面形状(例えば、円形の断面)を有している耐火性物品も、簡単な工程で容易に製造できる。
本発明の耐火性物品は、優れた耐火性、耐熱性、防火性、断熱性を有する。耐火層に使用しているポリイソシアヌレート樹脂の比重(約1.2)は、石膏やモルタルの比重に比較して小さいので、本発明の耐火性物品は、軽量である。」

(エ)「【0017】
図2は、芯材、耐火層および表面層を有する耐火性物品の他の態様の断面図である。耐火性物品20において、芯材21の周囲に耐火層22が配置され、耐火層22の周囲に表面層23が配置されている。一般に、耐火層22は芯材21および表面層23に密着している。あるいは、芯材21と耐火層22の間にまたは耐火層22と表面層23の間の一方または両方に中間層(図示せず)が存在していてもよい。中間層は、例えば、芯材21、耐火層22および表面層23への付着性に優れている材料(例えば、接着剤)、および耐熱性に優れている材料(例えば、金属、特に鉄)の一方または両方からできていてよい。表面層23は、燃え代層として働く。表面層は、装飾として機能することが好ましい。
【0018】
図1および図2の耐火性物品は、正方形の断面を有している四角柱である。
図1および図2は、耐火性物品が正方形の断面を有する態様を表しているが、耐火性物品の断面は、正方形以外の形状であってよい。他の断面形状として、例えば、長方形(例えば、板状)、四角形以外の多角形、円形、楕円形が挙げられる。」

(オ)「【0021】
芯材は、一般木材、無垢の木材、集成材、CLT(Cross Laminated Timber)などからできていてよい。」

(カ)「【0038】
表面層は、種々の材料からできていてよいが、木材からできていることが好ましい。表面層は、装飾性を発揮する層であり、燃え代層として働く。
【0039】
耐火性物品は、
(i)芯材と枠の間に空間をとるように芯材の外側周囲に枠を配置する工程、
(ii)芯材と枠の間の空間にポリイソシアヌレート原料液を流し込む工程、および
(iii)ポリイソシアヌレート原料液を反応させて固体のポリイソシアヌレート樹脂の層を得る工程
を有する製造方法によって製造できる。」

(キ)「【0042】
これらから製造される耐火層は、耐火性能が高くかつ形状設計の自由度も高いため、耐火層厚みを調整すれば必要とされる耐火性能をもつ、さまざまな形状の耐火性物品を容易に得ることができる。
耐火層の厚み(製造方法の工程における芯材と枠の距離)は、一つの耐火性物品においては、ほぼ一定とすることが好ましい。これは本発明においては、耐火性能は耐火層の厚みに比例するからであり、部分的に耐火層の厚みに違いがあると、耐火性能にも違いが生じてしまうため好ましくない。
【0043】
表面層を有する耐火性物品は、工程(i)において、表面層と芯材の間に空間を形成するように枠の内側に表面層を配置することによって製造することが好ましい。これにより、表面層を有する耐火性物品が容易に得られる。ポリイソシアヌレート樹脂は、一般に、芯材および表面層に接着性を有するので、接着剤の使用を省略できるという利点がある。
あるいは、上記製造方法によって表面層を有しない物品を製造した後に、表面層を貼り合わせてもよい。」

イ 甲第2号証に記載された技術的事項
上記ア(キ)の段落【0043】の記載に照らして、上記ア(カ)の段落【0039】の「枠」に係る構成は、それぞれ上記ア(キ)の段落【0043】の「表面層」に係る構成に換えることができるといえる。
よって、上記アより、甲第2号証には、次の技術的事項(以下「甲2技術的事項」という。)が記載されている。

(甲2技術的事項)
「建築構造部材として使用できる耐火性物品において、
芯材21の周囲に耐火層22が配置され、耐火層22の周囲に、燃え代層として働く表面層23が配置され、
耐火層22は芯材21および表面層23に密着し、
芯材は、一般木材、無垢の木材、集成材、CLT(Cross Laminated Timber)であり、
表面層は、木材からできており、
耐火性物品は、
(i)芯材と表面層の間に空間をとるように芯材の外側周囲に表面層を配置する工程、
(ii)芯材と表面層の間の空間にポリイソシアヌレート原料液を流し込む工程、および
(iii)ポリイソシアヌレート原料液を反応させて固体のポリイソシアヌレート樹脂の層を得る工程
を有する製造方法によって製造できる点。」

(3)甲第3号証
ア 甲第3号証の記載
本件特許出願前に頒布された甲第3号証には次の事項が記載されている。

(ア)「この発明は柱材およびその製法に関するものである。
近年木材資源の枯渇にともなって建築用に使用される柱材も年々不足してきている。そこで、この対策として、集成材を使用する柱が注目されてきている。」(第1頁右欄第2−7行)

(イ)「この発明で用いる中空の柱基材としては、例えば、合板、集成材等を第1図ないし第3図のように成形して成形体1〜3をつくり、それをそれぞれ2個1組にして中空の柱状にしたものが用いられる。」(第2頁左上欄第12−16行)

(ウ)「〔実施例1〕
第1図に示す断面略L字形の成形体1を2個組合わせて中空の四角柱状柱基材をつくり、その内部に、通常用いられる木片−セメント系組成物スラリを注入して硬化させ、第4図に示すような、高強度で、軽量で、加工性のよい柱材4を得た。第4図において、5は柱基材,6は木片−セメント系組成物硬化体である。
・・・(中略)・・・
〔実施例4〕
断面略L字形の成形体に代えて、第3図に示す断面半円状の成形体を2個組合わせて中空の円柱状柱基材をつくった。それ以外は実施例1と同様にして、高強度で、軽量で、加工性のよい柱材を得た。」(第2頁右下欄第18行−第3頁右上欄第2行)

イ 甲第3号証に記載された技術的事項
上記アより、甲第3号証には、次の技術的事項(以下「甲3技術的事項」という。)が記載されている。

(甲3技術的事項)
「建築用に使用される柱材において、
合板、集成材を成形して成形体をつくり、それをそれぞれ2個1組にして中空の柱状にした中空の柱基材の内部に、木片−セメント系組成物スラリを注入して硬化させ、柱材4を得る点。」

(4)甲第4号証
ア 甲第4号証の記載
本件特許出願前に頒布された甲第4号証には次の事項が記載されている。

(ア)「第1図に示すように、押圧面1に突起2をもつ上金型3と押圧面4が平らな下金型5の間に複数枚の単板6を入れ、その状態で圧締,接着して内壁面に凹部を有する断面略L字形の集成材7をつくり、これを2個組合わせて第2図に示すように内壁面に凹部8をもつ中空の四角柱状柱基材9をつくった。つぎに、その中空の四角柱状柱基材9の内部に、セメントと、木粉,木片,木毛のような木質材料とを主成分とする木質−セメントスラリを注入して充填し、その状態で硬化させた。その結果、図示のように、中空の柱基材9の内部に木質−セメント系硬化体(補強充填体)10が充填されて、凹部8により強固に固定されている柱材11を得た。」(第2頁左上欄最終行〜右上欄第13行)

(5)甲第5号証
ア 甲第5号証の記載
本件特許出願前に頒布された甲第5号証には次の事項が記載されている。

(ア)「【0007】図2を参照して、地盤10から立設された竹材4の地盤10の直上に位置する部分の補強について説明すると、地盤10から立設された竹材4で地盤10の上に位置する節402と、この節402の下方で地盤10中に位置する節402との間における筒状の茎部分404の内部406に充填材12が充填されている。充填材12は、茎部分404の内部406に充填されることで該部分の許容曲げ荷重を高めるためのものであり、充填材12として例えば、軽量無収縮モルタル、あるいは、砂、あるいは、石膏などを用いることができ、充填するときに液状で充填後固化するものは収縮率の小さいものが好ましい。」

(6)甲第6号証
ア 甲第6号証の記載
甲第6号証には、次の事項が記載されている。

(ア)「・・・現在、部材ごとに耐火構造としての認定が取得され、建築物として実現している工法には、「メンブレン型工法」、「燃え止まり型工法」、「鋼材内蔵型工法」の3通りがある。・・・」(第21頁第3〜5行)

(イ)「3.1 メンブレン型建築物の技術的事項
メンブレン型建築物の整備に当たっては、工法の特性に合わせた計画を行う。
メンブレン型建築物とは、構造耐力上主要な部分である心材(木部)を強化せっこうボード等で被覆することでメンブレン層(耐火被覆)を形成し、所定の耐火性能を確保する工法を用いた建築物であり、木造軸組工法によるものと枠組壁工法によるものがある。」(第21頁第8〜13行)

(ウ)「メンブレン型部材イメージ」(第21頁)の図は、次のものである。




この図に示される「メンブレン型部材」がメンブレン型建築物の部材であることは、この「メンブレン型部材イメージ」が上記(イ)の「3.1メンブレン型建築物の技術的事項」の欄に掲載されていることからも明らかである。

(エ)「3.2 燃え止まり型建築物の技術的事項
燃え止まり型建築物の整備に当たっては、工法の特性に合わせた全体計画を行う。
燃え止まり型建築物とは、構造耐力上主要な部分である心材(木材)を難燃処理木材、モルタル等で被覆することで燃え止まり層を形成し、所定の耐火性能を確保する工法を用いた建築物であり、さらに燃えしろとして機能する化粧用木材で被覆する場合がある。」(第30頁第1〜6行)

(オ)「燃え止まり型部材イメージ」(第30頁)の図は、次のものである。




この図に示される「燃え止まり型部材」が燃え止まり型建築物の部材であることは、この「燃え止まり型部材イメージ」が上記(エ)の「3.2 燃え止まり型建築物の技術的事項」の欄に掲載されていることからも明らかである。してみれば、ここに示される「燃えしろ層」が、上記(エ)の「燃えしろとして機能する化粧用木材」を意味していることも明らかである。
そして、この「燃え止まり型部材イメージ」からは、「燃え止まり型部材」の「心材が上下方向に延びる四角柱状であり、燃え止まり層が心材の全周面を被覆しており、燃えしろ層が心材の外側に間隔をあけて配置されて燃え止まり層の全周面を被覆している」点が看て取れる。

イ 甲第6号証に記載された発明
上記アより、甲第6号証には、次の発明(以下「甲6発明」という。)が記載されている。

(甲6発明)
「構造耐力上主要な部分である心材(木材)をモルタルで被覆することで燃え止まり層を形成し、さらに燃えしろとして機能する化粧用木材からなる燃えしろ層で被覆する燃え止まり型部材であって、
前記心材が上下方向に延びる四角柱状であり、
前記燃え止まり層が心材の全周面を被覆しており、
前記燃えしろ層が、前記心材の外側に間隔をあけて配置され、前記燃え止まり層の全周面を被覆している、
燃え止まり型部材。」

(7)甲第7号証
ア 甲第7号証の記載
本件特許出願前に頒布された甲第7号証には次の事項が記載されている。

(ア)「【0077】
また、例えば、上記実施形態では、モルタル板112は、第二外層部104にビス50で締結したが、これに限定されない。モルタル板112を心材部12に締結してもよい。或いは、第二外層部104の凹部22に防水加工を施したうえで、モルタル材を流し込んで固化させてもよい。」

(8)甲第8号証
ア 甲第8号証の記載
本件特許出願前に頒布された甲第8号証には次の事項が記載されている。

(ア)「【技術分野】
【0001】
本発明は、燃え止まり層を有する耐火木質構造部材の製造方法に関する。」

(イ)「【0020】
燃え止まり層14は、一般木材を板状に加工した板部材により形成された木質部20と、燃え止まり材としてのモルタルMを硬化させて形成したモルタル部22とを、梁心材12の外周面に沿った周方向24(梁部材10の梁成方向26と梁幅方向28)へ交互に複数配置することによって形成されている。また、図1のA−A断面図である図2に示すように、木質部20及びモルタル部22は、長尺の板状に形成されており、梁部材10の梁長方向30に沿って設けられている。」

(ウ)「【0027】
本発明の第1実施形態に係る耐火木質構造部材の製造方法では、図3(c)に示すように、流動化した状態のモルタルMを凹部32に塗り付けて充填することによって燃え止まり層14を形成する。
【0028】
これにより、燃え止まり層14を容易に形成することができる。また、燃え止まり部材としてのプレキャスト製のモルタルバーを木質層38に形成された凹部32に組み付ける従来の製造方法において必要とされていた、凹部32に隙間なくモルタルバーを組み付ける作業や、高い寸法精度でのモルタルバーの製作が不要となる。
【0029】
すなわち、従来の製造方法よりも効率よく燃え止まり層14を形成することができる。これにより、燃え止まり層14の形成に係わる作業の工数を減らすことができ、コストダウンに貢献することができる。」

(エ)「【0033】
なお、第1実施形態では、燃え止まり材としてのモルタルMを流動化した状態で凹部32にコテ等により塗り付けて、凹部32にモルタルMを充填する例を示したが、燃え止まり材としてのモルタルMを流動化した状態で凹部32に圧入することによって、凹部32に充填してもよい。
【0034】
この場合の梁部材10の製造は、まず、図4(a)の横断面図に示すように、梁心材12の外周面に接着剤や釘等により木質部20を取り付ける。木質部20は、木質部20の間に凹部32を形成するようにして、周方向24に間隔をおいて複数配置する。これにより、梁心材12の外周面に、凹部32と木質部20とを備えた木質層38が形成される。
【0035】
次に、図4(b)の横断面図に示すように、梁心材12の外周面から突出部36を突出させるようにして、梁心材12にネジ部材34をねじ込んで固定し、凹部32内にネジ部材34を設ける。
【0036】
次に、図4(c)の横断面図に示すように、木質層38の外周面に接着剤や釘等によりパネル部材18A、18B、18Cを取り付ける。これにより、木質層38の外周面に燃え代層16が形成される。また、凹部32を燃え代層16で覆うことによって、空洞40が形成される。
【0037】
次に、図4(d)の横断面図に示すように、燃え止まり材としてのモルタルMを流動化した状態で空洞40(凹部32)に圧入することにより、空洞40(凹部32)にモルタルMを充填する。そして、モルタルMが硬化してモルタル部22となり、梁心材12の外周面上に燃え止まり層14が形成されて、梁部材10が完成する。」

(オ)「【0068】
なお、第1及び第2実施形態では、図2及び図7に示すように、燃え止まり層14、52を、木質部20とモルタル部22とによって形成した例を示したが、木質部20は、木材によって形成されていればよい。また、モルタル部22は、モルタルM以外の燃え止まり材によって形成された燃え止まり部としてもよい。燃え止まり部を形成する燃え止まり材は、塗り付けや圧入によって凹部32に充填可能な材料であり、且つ、凹部32に充填することにより、火炎及び熱の進入を抑えて燃え止まり効果を発揮する燃え止まり層を形成できるものであればよい。例えば、凹部32に充填する燃え止まり材は、流動化した状態のモルタル、繊維補強セメント、石膏等の無機質材料等としてもよい。これらの材料は、一般木材よりも熱容量が大きいので、高い吸熱効果が期待できる。」

(カ)「【0073】
また、第1及び第2実施形態では、図1及び図6に示すように、耐火木質構造部材の製造方法により製造される耐火木質構造部材を梁部材10、50とした例を示したが、図12の斜視図に示すような耐火木質構造部材としての柱部材94、図13の斜視図に示すような耐火木質構造部材としての壁部材96や、図14の斜視図に示すような耐火木質構造部材としての床部材98を、第1及び第2実施形態の耐火木質構造部材の製造方法により製造してもよい。
【0074】
図12の柱部材94は、荷重を支持する木製の心材としての柱心材100と、梁心材100(当審注:「梁心材100」との記載は、「柱心材100」の明らかな誤記であると認められる。)の周囲を取り囲む燃え止まり層102と、燃え止まり層102の周囲を取り囲む木製の燃え代層104とを備えており、燃え止まり層102は、木質部20とモルタル部22とを交互に複数配置することによって形成されているので、第1及び第2実施形態で示した燃え止まり層14の形成方法を用いて、柱部材94の燃え止まり層102を形成することができる。」

(キ)図2




(ク)上記(イ)の記載に照らして、上記(キ)の図2から、木質部20は、梁部材10の梁長方向30の両端部にわたって設けられることが看取される。

(ケ)図12




イ 甲第8号証に記載された技術的事項
上記ア(カ)の記載に照らして、上記ア(イ)ないし(エ)及び(ク)の「梁部材10」における「梁心材12」、「燃え止まり層14」、「燃え代層16」に係る構成は、それぞれ上記ア(カ)の「柱部材94」における「柱心材100」、「燃え止まり層102」、「燃え代層104」に係る構成に換えることができるといえる。
よって、上記アより、甲第8号証には、次の技術的事項(以下「甲8技術的事項」という。)が記載されている。

(甲8技術的事項)
「燃え止まり層を有する耐火木質構造部材において、流動化した状態のモルタルMを充填することによって燃え止まり層102を形成することにより、
燃え止まり層102を容易に形成することができ、また、燃え止まり部材としてのプレキャスト製のモルタルバーを組み付ける従来の製造方法において必要とされていた、隙間なくモルタルバーを組み付ける作業や、高い寸法精度でのモルタルバーの製作が不要となり、
従来の製造方法よりも効率よく燃え止まり層102を形成することができ、燃え止まり層102の形成に係わる作業の工数を減らすことができ、コストダウンに貢献することができ、
製造方法は、
柱心材100の外周面に、木質部20を、周方向に間隔をおいて複数配置し、柱心材100の外周面に、凹部32と木質部20とを備えた木質層38を形成し、
木質層38の外周面にパネル部材を取り付けることにより、燃え代層104を形成して、凹部32を燃え代層104で覆うことによって空洞40が形成され、
燃え止まり材としてのモルタルMを流動化した状態で空洞40(凹部32)に圧入することにより、空洞40(凹部32)にモルタルMを充填するものであって、
木質部20は、長尺の板状に形成されており、柱部材94の柱長方向の両端部にわたって設けられるものであり、
充填する燃え止まり材は、石膏としてもよい点。」

(9)甲第9号証
ア 甲第9号証の記載
本件特許出願前に頒布された甲第9号証には次の事項が記載されている。

(ア)「【0020】
上記耐火性パネルに用いる発泡石膏硬化体としては、特に限定されるものではないが、該パネルの耐火性、断熱性、遮音性等の特性に良好な影響をもたらす発泡度合(密度)の硬化体であることが好ましい。発泡石膏硬化体の耐火性としては、結晶水量が多いほど好ましいが、発泡度合との兼ね合いから選ばれる。例えば、密度が0.4及び発泡石膏硬化体の厚さが89mmの材料を用いた場合、耐火1時間程度の耐火性能が得られる。また、断熱性としては、発泡石膏硬化体の密度と水分量によるが、ALCと同程度が得られる。」

(10)甲第10号証
ア 甲第10号証の記載
本件特許出願前に頒布された甲第10号証には次の事項が記載されている。

(ア)「【0038】
防耐火被覆層5を構成するセメント系モルタルは、例えばセメントと砂と水とを所定の配合で練り合わせた左官材料であり、高い防耐火性能を有している。とくに、エトリンガイト又はエトリンガイトの生成物質を多く含有するセメントを用いた場合には、このエトリンガイトに含まれる結晶水分子が蒸発する際に熱エネルギーを消費することで非常に高い防耐火性能を発揮することができる。」

(11)甲第11号証
ア 甲第11号証の記載
本件特許出願前に頒布された甲第11号証には次の事項が記載されている。

(ア)「【0013】
さらに、第1石膏ボード12は、結晶水を含有しており、火災時の熱がアルミ層付ガラス繊維シート14を通して室内側から伝わってくると、この結晶水が水蒸気となって温度の上昇・熱の伝達を阻害することにより、室内側から伝わってきた熱から、骨組み構造11を保護する役割を果たすものである。なお、第1石膏ボード12は、1枚で骨組み構造11を覆うことができない場合には、複数枚の石膏ボードの端面同士を突き合わて、目地部12a(図1参照)を形成しながら連接させた状態で取り付けられる。」

3 当審の判断
(1)請求項1について
ア 対比
本件訂正発明1と甲6発明とを対比すると、次のことがいえる。
(ア)甲6発明の「心材」は、「木材」であり「構造耐力上主要な部分である」とともに「上下方向に延びる」ものであるから、本件訂正発明1の「上下方向に沿って配置された木質の荷重支持部」に相当する。

(イ)甲6発明の「燃えしろ層」は「燃えしろとして機能する化粧用木材」からなるものであって、「前記心材の外側に間隔をあけて配置され」ているものであるから、甲6発明の当該「燃えしろ層」と、本件訂正発明1の「前記荷重支持部の下端部の外側にスペーサーを入れて間隔をあけて配置された木質の燃代層」とは、「前記荷重支持部の外側に間隔をあけて配置された木質の燃代層」である点で共通する。

(ウ)本件訂正発明1の「木質構造部材」の「筒状の燃止層」について、「筒」の通常の意味は「円く細長くて中空になっているもの」(広辞苑第六版)であり(ただし、本件訂正発明では「筒状」と「円筒状」を区別していることから、本件訂正発明1での「筒状」には円いもの以外も含まれるのは明らかである。)、「木質構造部材」は物の発明であるから、本件訂正発明1の「筒状」とは「木質構造部材」が完成した状態での「燃止層」の形状を特定したものと解される。
そして、甲6発明の「燃え止まり型部材」の「燃え止まり層」は、心材をモルタルで被覆することで形成されるため「燃え止まり層」自体は「中空」になっているものであり、「燃え止まり型部材」が完成した状態では「細長い」から「筒状」であるといえる。
したがって、甲6発明の「心材(木材)をモルタルで被覆することで」「形成」され、「心材の全周面を被覆しており」、「燃えしろ層が」「前記燃え止まり層の全周面を被覆している」「燃え止まり層」と、本件訂正発明1の「石膏及びモルタルのいずれか一つを材料とする充填材が、前記荷重支持部と前記燃代層との間に充填されて硬化することで形成された筒状の燃止層」とは、「モルタルを材料とし、前記荷重支持部と前記燃代層との間に形成された筒状の燃止層」である点で共通する。

(エ)甲6発明が、「木材」からなる「心材」及び「燃えしろ層」を有する「燃え止まり型部材」である点は、本件訂正発明1が「木質構造部材」である点に相当する。

したがって、本件訂正発明1と甲6発明は、次の一致点で一致し、相違点で相違するといえる。

<一致点>
「上下方向に沿って配置された木質の荷重支持部と、
前記荷重支持部の外側に間隔をあけて配置された木質の燃代層と、
モルタルを材料とし、前記荷重支持部と前記燃代層との間に形成された筒状の燃止層と、
を備えている
木質構造部材。」

(相違点1)
燃代層が荷重支持部の外側に間隔をあけて配置され、荷重支持部と燃代層との間に筒状の燃止層を形成することについて、本件訂正発明1では、荷重支持部の外側の「下端部」に「スペーサーを入れて」間隔をあけ、「充填材が、荷重支持部と燃代層との間に充填されて硬化する」ことで「燃止層」を形成することが特定されているのに対し、甲6発明では、そのように特定されていない点。

イ 判断
(ア)甲8技術的事項に基づく相違点1の検討
a 甲8技術的事項の「柱心材100の外周面に、木質部20を、周方向に間隔をおいて複数配置し、柱心材100の外周面に、凹部32と木質部20とを備えた木質層38を形成し」「木質層38の外周面にパネル部材を取り付けることにより、燃え代層104を形成して、凹部32を燃え代層104で覆うことによって空洞40が形成され」て、「燃え止まり材としてのモルタルMを流動化した状態で空洞40(凹部32)に圧入することにより、空洞40(凹部32)にモルタルMを充填する」ことは、柱心材100の外周面に周方向に間隔をおいて複数配置した木質部20によって、燃え止まり材としてのモルタルMを充填する空洞40(凹部32)の厚みを規定することを意味するとともに、木質部20は「長尺の板状に形成されており、柱部材94の柱長方向の両端部にわたって設けられるものであ」って、柱部材94の下端部にも配されることは明らかであるから、甲8技術的事項の「柱心材100の外周面に、木質部20を、周方向に間隔をおいて複数配置」することは、本件訂正発明1の「前記荷重支持部の下端部の外側にスペーサーを入れて間隔をあけ」ていることに相当する。
また、甲8技術的事項の「燃え止まり層を有する耐火木質構造部材において、流動化した状態のモルタルMを充填することによって燃え止まり層102を形成する」ことであって「燃え止まり材としてのモルタルMを流動化した状態で空洞40(凹部32)に圧入することにより、空洞40(凹部32)にモルタルMを充填する」ことは、本件訂正発明1の「充填材が、荷重支持部と燃代層との間に充填されて硬化する」ことで「燃止層」を形成することに相当する。
よって、甲8技術的事項に係る上記構成は、相違点1に係る本件訂正発明1の、荷重支持部の外側の「下端部」に「スペーサーを入れて」間隔をあけ、「充填材が、荷重支持部と燃代層との間に充填されて硬化する」ことで「燃止層」を形成する構成に相当する。

b そして、甲6発明と甲8技術的事項は、いずれも木製の建築部材の耐火構造に関するものであり、属する技術分野が共通する。また、両者はいずれも燃え止まり層をモルタルによって形成する点で、構成も共通する。そして、甲6発明において「心材(木材)をモルタルで被覆することで燃え止まり層を形成」する際に予め硬化したモルタル製部材を用いるか未硬化のモルタルを用いるかは特定されていないところ、甲8技術的事項は、「燃え止まり部材としてのプレキャスト製のモルタルバーを組み付ける従来の製造方法」よりも、「燃え止まり層を有する耐火木質構造部材において、流動化した状態のモルタルMを充填することによって燃え止まり層102を形成する」方が、「燃え止まり層102を容易に形成することができ、」「隙間なくモルタルバーを組み付ける作業や、高い寸法精度でのモルタルバーの製作が不要となり、」「効率よく燃え止まり層102を形成することができ、燃え止まり層102の形成に係わる作業の工数を減らすことができ、コストダウンに貢献することができ」るものだから、モルタルからなる燃え止まり層を充填で形成することによる有利な効果を示唆するものである。そうすると、甲6発明において甲8技術的事項の構成を適用することには動機付けがあるといえる。

c しかしながら、甲6発明の「燃え止まり層」は、上記ア(ウ)のとおり、心材をモルタルで被覆することで形成されるものであって「筒状」であるところ、仮に甲8技術的事項の「長尺の板状に形成されており、柱部材94の柱長方向の両端部にわたって設けられるものであ」る「木質部20」を適用した場合、モルタルによる燃え止まり層は、木質部によって周方向に分断されて板状の断片となり、もはや「筒状」を呈しているとはいえない。

d したがって、甲6発明において、甲8技術的事項の上記aの点を適用して、相違点1に係る本件訂正発明1の構成とすることは、当業者が容易になし得たことであるとしても、その場合の甲6発明の燃え止まり層は筒状ではなくなるから、甲6発明に甲8技術的事項を適用したものは、燃止層が「筒状」であるという本件訂正発明1の構成を具備しないものとなる。
そうすると、甲6発明に甲8技術的事項を適用しても、本件訂正発明1に至るものではない。この点、甲各号証の記載事項及び周知技術を参酌しても同様であり、当業者が適宜なし得た設計的事項であるとすることもできない。

e また、上記bのとおり、甲6発明のモルタルからなる燃え止まり層について、甲8技術的事項のうち、モルタルの充填により形成する構成を適用することには動機付けがあるといえ、甲6発明において、甲8技術的事項の当該構成を適用して、甲6発明の筒状の燃え止まり層を、モルタルの充填のみにより形成することは、当業者が容易になし得たことであるといえる。
しかしながら、甲6発明において甲8技術的事項の上記構成を適用し、筒状の燃え止まり層をモルタルの充填のみにより形成したとしても、その場合の甲6発明は、相違点1のうち、燃代層が荷重支持部の外側に間隔をあけて配置されることについて荷重支持部の外側の「下端部」に「スペーサーを入れて」間隔をあける構成を具備しないものとなるから、本件訂正発明1に至るものではない。

(イ)甲8技術的事項及び周知技術に基づく相違点1の検討
a 一般の充填工法において、相対して充填領域を画成している部材の間に、その間隔寸法を画定するスペーサーを設けることは、周知の技術であるといえる(以下「周知技術1」という。)。

b しかしながら、燃止層材料を充填して燃止層を形成する際にスペーサーを設けた場合、当該スペーサーの配設箇所には、燃止層材料が充填されないこととなるところ、当該配設箇所をいずれの位置とするかによって燃止層の総合的な耐火特性が変化し得ることは明らかであるから、たとえ上記aの周知技術1が存在するとしても、燃止層の充填形成に際して「荷重支持部の下端部の外側に」スペーサーを入れることまでもが、周知の技術又は技術常識であるとまではいえないし、当業者が適宜なし得た設計的事項であるとすることもできない。

c よって、甲6発明において甲8技術的事項及び周知技術1を適用したとしても、本件訂正発明1に至ることはない。この点、甲各号証の記載事項及び周知技術を参酌しても同様であり、当業者が適宜なし得た設計的事項であるとすることもできない。

(ウ)申立人の主張について
a 申立人は、令和3年10月19日付け意見書において、石膏やモルタルなどを充填する際に隙間を確保するためにスペーサーを設けることは周知であり、端部にスペーサーを配置することは、型枠の設置では極めて常識であり、自明の範囲であるから、本件訂正請求において「前記荷重支持部の下端部の外側にスペーサーを入れて間隔をあけて配置された木質の燃代層と」と訂正した点に進歩性は認められない旨を主張している(第1頁最終行〜第2頁下から4行)。
しかしながら、申立人の上記主張は、当該事項が周知であることを示す証拠を伴うものではないし、上記(イ)aの周知技術1と同等の技術事項について、周知の技術であることを示すに留まるものであって、上記(イ)bのとおり、燃止層の充填形成に際して「荷重支持部の下端部の外側に」スペーサーを配置することまでもが周知の技術又は技術常識であるとまではいえない。

b また、申立人は、同意見書において、令和3年9月6日付けの特許権者の意見書においてなされている、スペーサーが荷重支持部の上下方向の全体に亘って設けられている場合と比較して、燃止層における石膏又はモルタルのしめる部分が大きくなり、耐熱性が向上する旨の説明に対して、本件訂正発明1の「荷重支持部の下端部の外側にスペーサーを入れて」との記載は、他所にスペーサーを配置することを否定するものではないので、当該特許権者の説明は誤解を誘導するものであって、採用することはできない旨を主張している(第2頁下から3行〜第3頁第15行)。
しかしながら、本件訂正発明1の燃止層は「筒状」であるところ、上記ア(ウ)の筒状の解釈等を参酌すると、スペーサーの配置如何にかかわらず、全体としてみれば「細長くて中空になっているもの」であると解される。そうすると、燃止層が「筒状」である本件訂正発明1において、石膏又はモルタルがしめる部分が、スペーサーが荷重支持部の上下方向の全体に亘って設けられている場合と比較して大きいことは明らかというべきである。

c 以上のとおり、申立人の上記主張を考慮しても、上記(ア)及び(イ)の検討と異なる判断をすべき事情を見いだすことはできない。

ウ 小括
以上のとおり、本件訂正発明1は、甲6発明及び甲8技術的事項、又は、甲6発明、甲8技術的事項及び周知技術1に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(2)請求項2について
本件訂正発明2は、本件訂正発明1を引用し、さらに限定した発明であり、本件訂正発明1については、上記(1)において検討したとおりである。
そうすると、本件訂正発明2は、甲6発明及び甲8技術的事項、又は、甲6発明、甲8技術的事項及び周知技術1に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。


第6 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について

1 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由の概要
申立人が特許異議申立書において主張した特許異議申立理由であって、取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由の概要は、上記第4の1(1)〜(3)に示した以下のとおりのものである。

(1)本件特許発明1及び2は、甲第1号証に記載された発明、又は、甲第6号証に記載された発明と同一である。
よって、訂正前の本件特許は特許法第29条第1項第3号の規定に違反しており、特許法第113条第2号により特許を取り消すべきものである。
(第2頁「理由1」、第14〜28頁「4−1−3」、第31〜32頁「むすび」等)

(2)本件特許発明1及び2は、甲第1号証、甲第2号証及び甲第3号証に記載された発明、又は、甲第6号証、甲第2号証及び甲第3号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明することができたものである。
よって、訂正前の本件特許は特許法第29条第2項の規定に違反しており、特許法第113条第2号により特許を取り消すべきものである。
(第2頁「理由2」、第14〜28頁「4−1−3」」、第31〜32頁「むすび」等)

(3)本件特許発明1及び2は、物の発明であるにも関わらず、製法で限定された記載であるので不明瞭である。また、発明の成立を客観的に確認できず、耐火試験に用いた試験体の構成及び試験仕様が明確でなく、追試して検証することもできないので、本件特許明細書は、当業者が容易に実施できる程度に記載されていない。
よって、訂正前の本件特許は特許法第36条第4項第1号及び同条第6項第2号の規定を満足しておらず、特許法第113条第2号により特許を取り消すべきものである。
(第2頁「理由3」、第28〜31頁「4−2」」、第31〜32頁「むすび」等)

2 当審の判断
(1)甲第1号証又は甲第6号証に基づく新規性について(第4の1(1))
ア 甲第1号証に基づく新規性について
(ア)本件訂正発明1について
甲1発明の「所定寸法に切断された木材板を平行に積み重ねた集成材からな」る「構造部12」、「不燃材料又は難燃材料から構成され」て「四角筒状を成している」「絶縁部16」、「所定寸法に切断された木材板を平行に積み重ねた集成材からな」る「被覆部12」は、それぞれ本件訂正発明1の「木質の荷重支持部」、「筒状の燃止層」、「木質の燃代層」に相当する。
しかしながら、甲1発明の「絶縁部16」は、「構造部12に作用する各種荷重が伝達されない程度の弱接合方式、具体的には、釘打ち,合成樹脂接着剤などで構造部12周囲に固定又は半固定される」ものであって、本件訂正発明1のように、荷重支持部の外側の「下端部」に「スペーサーを入れて」間隔をあけ、「充填材が、荷重支持部と燃代層との間に充填されて硬化する」ことで「筒状の燃止層」を形成するものではない。
したがって、本件訂正発明1と甲1発明とは、少なくとも上記第5の3(1)ア(エ)の相違点1と実質的に同じ相違点において相違するから、本件訂正発明1は甲1発明と同一ではない。

(イ)本件訂正発明2について
本件訂正発明2は、本件訂正発明1を引用し、さらに限定した発明であるから、上記(ア)と同様であって、本件訂正発明2は甲1発明と同一ではない。

イ 甲第6号証に基づく新規性について
甲6発明については、上記第5の3で検討したとおりであって、本件訂正発明1及び2と甲6発明とは、上記第5の3(1)ア(エ)の相違点1において相違するから、本件訂正発明1及び2は甲6発明と同一ではない。

(2)甲第1号証、甲第2号証及び甲第3号証、又は、甲第6号証、甲第2号証及び甲第3号証に基づく進歩性について(第4の1(2))
ア 甲第1号証、甲第2号証及び甲第3号証に基づく進歩性について
(ア)本件訂正発明1について
a 対比
上記(1)ア(ア)のとおり、本件訂正発明1と甲1発明とは、上記第5の3(1)ア(エ)の相違点1と実質的に同じ下記相違点において相違し、その余の点で一致する。
(相違点1’)
燃代層が荷重支持部の外側に間隔をあけて配置され、荷重支持部と燃代層との間に筒状の燃止層を形成することについて、本件訂正発明1では、荷重支持部の外側の「下端部」に「スペーサーを入れて」間隔をあけ、「充填材が、荷重支持部と燃代層との間に充填されて硬化する」ことで「燃止層」を形成することが特定されているのに対し、甲1発明では、そのように特定されていない点。

b 判断
(a)まず、甲1発明に甲2技術的事項又は甲3技術的事項を適用することが、当業者が容易になし得たことであるか否かについて検討する。
甲1発明の「絶縁部16」は「構造部12に作用する各種荷重が伝達されない程度の弱接合方式、具体的には、釘打ち、合成樹脂接着剤などで構造部12周囲に固定又は半固定され」るものである。
一方、甲1発明に甲2技術的事項又は甲3技術的事項を適用して、相違点1’の「充填材が、荷重支持部と燃代層との間に充填されて硬化する」ことで「燃止層」を形成する構成とした場合には、流動物を充填する充填手法における技術常識に照らして、「燃止層」と「荷重支持部」とが密着接合していることは明らかであって、甲1発明は「構造部12に作用する各種荷重が伝達されない程度の弱接合方式」ではなくなるから、「構造部に作用した荷重が被覆部に伝達されないようにする層状の絶縁部を介在させて分離する」作用(上記第5の2(1)ア(ア)を参照。)が損なわれて、課題を解決できないものになる。
そうすると、甲1発明に甲2技術的事項又は甲3技術的事項を適用することには、阻害要因があるといえる。
よって、甲2技術的事項又は甲3技術的事項が、相違点1’に係る本件訂正発明1の構成を具備するとしても、甲1発明において、甲1発明の接合構造と整合しない当該構成を適用することは、当業者が容易になし得たこととはいえない。

(b)次に、甲2技術的事項についてさらに検討する。
甲第2号証には、「耐火層に使用しているポリイソシアヌレート樹脂の比重(約1.2)は、石膏やモルタルの比重に比較して小さいので、本発明の耐火性物品は、軽量である」(上記第5の2(2)ア(ウ)を参照。)ことが記載されている。
そうすると、石膏やモルタルを耐火層に使用する耐火性物品は、ポリイソシアヌレート樹脂を使用する甲第2号証の上記作用を損ない、課題を解決できないものであるから、そのような耐火性物品に該当する甲1発明に、甲2技術的事項の燃止層に係る構成を適用することには、阻害要因があるといえる。
また、甲2技術的事項は、少なくとも相違点1’のうち荷重支持部の外側の「下端部」に「スペーサーを入れて」間隔をあける構成を具備するものではない。

(c)また、甲3技術的事項についてもさらに検討する。
甲3技術的事項の「木片−セメント系組成物スラリを注入して硬化させ」ることは、本件訂正発明1の「モルタル」「を材料とする充填材が」「充填されて硬化する」ことに相当する。
一方、甲3技術的事項の「柱材4」は、「中空の柱基材」と「中空の柱基材の内部に、木片−セメント系組成物スラリを注入して硬化させ」たものとの2層であって、それぞれ柱材4の化粧層及び芯部に位置することからみて、「中空の柱基材の内部に、木片−セメント系組成物スラリを注入して硬化させ」たものは、本件訂正発明1の「荷重支持部」に相当する配置及び機能を有するものであって、「筒状の燃止層」に相当する配置及び機能を有するものとはいえない。
また、甲3技術的事項の「柱材4」は、上記のとおり2層の構造であって、「中空の柱基材」と「中空の柱基材の内部に、木片−セメント系組成物スラリを注入して硬化させ」たものとは、両者の間に間隔を空けて配置されるものではない。
よって、甲3技術的事項は、相違点1’の、荷重支持部の外側の「下端部」に「スペーサーを入れて」間隔をあけ、「充填材が、荷重支持部と燃代層との間に充填されて硬化する」ことで「筒状の燃止層」を形成するという構成を具備するものではない。

c 小括
以上のとおり、本件訂正発明1は、甲1発明、甲2技術的事項及び甲3技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(イ)本件訂正発明2について
本件訂正発明2は、本件訂正発明1を引用し、さらに限定した発明であるから、上記(ア)と同様であって、本件訂正発明2は、甲1発明、甲2技術的事項及び甲3技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

イ 甲第6号証、甲第2号証及び甲第3号証に基づく進歩性について
(ア)本件訂正発明1について
a 対比
本件訂正発明1と甲6発明とは、上記第5の3(1)ア(エ)の相違点1において相違し、その余の点で一致する。

b 判断
(a)甲2技術的事項について
甲6発明の「燃え止まり層」は、モルタルによるものであって、上記ア(ア)b(b)の検討と同様、甲第2号証の作用を損ない、課題を解決できないものであるから、甲6発明に甲2技術的事項の燃止層に係る構成を適用することには、阻害要因があるといえる。
したがって、甲2技術的事項が相違点1に係る本件訂正発明1の構成を具備するか否かに関わらず、甲1発明に、甲2技術的事項の燃止層に係る構成を適用することは、当業者が容易になし得たこととはいえない。
また、甲2技術的事項は、少なくとも相違点1のうち荷重支持部の外側の「下端部」に「スペーサーを入れて」間隔をあける構成を具備するものではない。

(b)甲3技術的事項について
上記ア(ア)b(c)の検討と同様、甲3技術的事項は、相違点1の、荷重支持部の外側の「下端部」に「スペーサーを入れて」間隔をあけ、「充填材が、荷重支持部と燃代層との間に充填されて硬化する」ことで「筒状の燃止層」を形成するという構成を具備するものではない。

(c)上記(a)及び(b)のとおりであるから、甲6発明と、甲2技術的事項及び甲3技術的事項とに基づき、相違点1に係る構成を具備する本件訂正発明1に至ることはない。

c 小括
以上のとおり、本件訂正発明1は、甲6発明、甲2技術的事項及び甲3技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(イ)本件訂正発明2について
本件訂正発明2は、本件訂正発明1を引用し、さらに限定した発明であるから、上記(ア)と同様であって、本件訂正発明2は、甲6発明、甲2技術的事項及び甲3技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(3)明確性及び実施可能要件について(第4の1(3))
ア 本件訂正発明1及び2は、上下方向に沿って配置された木質の荷重支持部と、荷重支持部の下端部の外側にスペーサーを入れて間隔をあけて配置された木質の燃代層と、石膏及びモルタルのいずれか一つを材料とする充填材が、荷重支持部と燃代層との間に充填されて硬化することで形成された筒状の燃止層を有する木質構造部材であるといえる。
そして、本件特許明細書の発明の詳細な説明の段落【0018】ないし【0031】等には、本件訂正発明1及び2に係る上記木質構造部材及びその製造(施工)方法が具体的に開示されている。
また、本件特許明細書の発明の詳細な説明の段落【0031】には、「荷重支持部110と燃代層130との隙間Tに流動状の石膏Sを上から流し込んで充填し、充填後に石膏Sが硬化することで燃止層120が形成される。」ことが開示されるとともに、段落【0039】には、「石膏Sは硬化する前は、流動状であるので燃代層130と荷重支持部110とに密着する。更に、荷重支持部110及び燃代層130の表面の木目(凹凸)に石膏Sが入り込む。」ことが開示されている。

イ 申立人は、本件特許発明1の「充填材が、前記荷重支持部と前記燃代層との間に充填されて硬化することで形成される燃止層」との記載は、製造法による限定に該当し、当該記載について物の発明として直接構造を特定できないとも認められないので、不明瞭記載に該当するものであって、本件特許発明1を引用する本件特許発明2も同様であることを主張している。(異議申立書第2頁「理由3」、第28〜29頁「4−2−1」等)
しかしながら、本件訂正発明1の「燃止層」について「充填材が、前記荷重支持部と前記燃代層との間に充填されて硬化することで形成された」との事項は、製造方法を含むものであっても、上記アの本件特許明細書の記載等や技術常識を考慮すれば、当該事項が、「燃止層」について充填材が荷重支持部と燃代層との間に位置するものであるとともに、充填されて硬化した状態のものであることを特定するものと理解することができるから、どのような構造若しくは特性を表しているのか明らかであるといえる。また、本件訂正発明1を引用する本件訂正発明2も同様である。
したがって、申立人の上記主張は採用できない。

ウ 申立人は、本件特許明細書に記載された、本件特許発明に係る木質構造部材を用いた耐火試験について、試験対象の木質構造部材の構成(サイズ、燃代層、燃止層、荷重支持部)などの試験仕様や耐火試験時間が具体的に開示されておらず、当業者が確認できる程度に記載されていないものであって、当業者が本件特許発明の成立を追試などによって確認することができない以上、耐火性能が向上した木質構造部材を製造することができない、あるいは過度な試行錯誤を当業者に強いるものであることを主張している。(異議申立書第2頁「理由3」、第29〜31頁「4−2−2」等)
しかしながら、上記アのとおり、本件特許明細書には、本件訂正発明1及び2に係る木質構造部材及びその製造(施工)方法が具体的に開示されているから、本件訂正発明1及び2に係る木質構造部材は実施可能であるといえるし、当該木質構造部材が実施可能である以上、当該木質構造部材の耐火試験も可能であることは明らかである。
また、一般に、特定の製品の耐火試験を行うにあたり、規格化された標準的な評価要領等に沿って試験仕様や耐火試験時間を定めることは、当業者にとって技術常識に類する事項であって、本件特許明細書に試験仕様や耐火試験時間が具体的に開示されていないことをもって、耐火試験が可能ではないということはできない。
加えて、実施と効果確認は別の工程であるから、当該実施に際して、効果確認にあたる耐火試験の追試可否が影響するとは必ずしもいえない。
したがって、申立人の上記主張は採用できない。

エ 上記アないしウの検討を踏まえると、申立人の明確性及び実施可能要件に係る主張は理由がない。
そして、当業者は、本件特許明細書の発明の詳細な説明の開示等に基づき、本件訂正発明1及び2に係る木質構造部材を把握し実施することが可能であるといえるから、本件訂正発明1及び2は明確であるとともに、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、本件訂正発明1及び2について当業者が実施可能な程度に明確かつ十分に記載したものである。


第7 むすび

以上のとおり、取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由並びに申立人が申し立てた理由及び証拠によっては、本件訂正発明1及び2に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件訂正発明1及び2に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり決定する。

 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
上下方向に沿って配置された木質の荷重支持部と、
前記荷重支持部の下端部の外側にスペーサーを入れて間隔をあけて配置された木質の燃代層と、
石膏及びモルタルのいずれか一つを材料とする充填材が、前記荷重支持部と前記燃代層との間に充填されて硬化することで形成された筒状の燃止層と、
を備えている木質構造部材。
【請求項2】
前記燃代層は筒状とされると共に、軸方向と直交する断面の外形は円形とされている、
請求項1に記載の木質構造部材。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2021-12-02 
出願番号 P2015-119071
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (E04B)
P 1 651・ 537- YAA (E04B)
P 1 651・ 113- YAA (E04B)
P 1 651・ 536- YAA (E04B)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 森次 顕
特許庁審判官 土屋 真理子
田中 洋行
登録日 2020-01-20 
登録番号 6648989
権利者 株式会社竹中工務店
発明の名称 木質構造部材  
代理人 特許業務法人太陽国際特許事務所  
代理人 福田 浩志  
代理人 中島 淳  
代理人 加藤 和詳  
代理人 加藤 和詳  
代理人 福田 浩志  
代理人 特許業務法人太陽国際特許事務所  
代理人 中島 淳  

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