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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01R
管理番号 1382737
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2022-04-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-09-24 
確定日 2022-03-02 
事件の表示 特願2016− 23458「予備組立された導管アダプタを備えたコネクタ」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 8月18日出願公開、特開2016−149362〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成28年2月10日(パリ条約による優先権主張2015年2月12日、欧州特許庁(EP))に出願された特願2016−23458号であり、その手続の経緯は、概略、以下のとおりである。
令和 2年 1月15日付け:拒絶理由通知書
令和 2年 4月13日 :意見書、手続補正書の提出
令和 2年 5月15日付け:拒絶査定
令和 2年 9月24日 :審判請求書の提出
令和 3年 4月28日付け:拒絶理由通知書
令和 3年 8月 6日 :意見書、手続補正書(以下、この手続補正書による手続補正を「本件補正」という。)の提出

第2 本願発明
本願の請求項に係る発明は、本件補正によって補正された特許請求の範囲の請求項1ないし14に記載された事項により特定されるものと認められるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、以下のとおりのものである。

「電気コネクタアセンブリ(100)に割り当てられた導管アダプタ(200)を具備した導管アダプタシステム(1)であって、
導管アダプタ(200)は、第1シェル(210)および第2シェル(220)を具備し、
前記第1シェル(210)は、少なくとも1つの第1固定要素(211;212;213;214)を具備し、前記第2シェル(220)は、少なくとも1つの対応した第2固定要素(221;222;223;224)を具備し、前記第1および第2シェルは、一体に固定されることが可能であり、
前記第1シェル(210)は、少なくとも1つの予備ロック手段(215;216)を具備し、当該予備ロック手段は、前記電気コネクタアセンブリ(100)の対応した予備ロック手段(115;116)と係合して、予備組立された状態において、前記第1シェル(210)を前記電気コネクタアセンブリ(100)にロックすることが可能であり、
前記第1シェル(210)と前記第2シェル(220)とは、ヒンジ(230)を介して接続されており、これにより前記ヒンジは、前記第1シェルに対する前記第2シェルのねじり軸を提供し、前記第2シェルの前記電気コネクタアセンブリのケーブルの周りの回避動作を可能にしており、
前記第1シェル(210)と前記第2シェル(220)とを接続した前記ヒンジ(230)は、前記第1シェル(210)の第1前端部(10)と前記第2シェル(220)の第2前端部(20)との間に配置され、前記第1前端部(10)は、予備組立された状態にある前記電気コネクタアセンブリ(100)とは反対を向いており、前記第2前端部(20)は、前記第1シェル(210)および前記第2シェル(220)が一体に固定された場合に、前記第1前端部(10)と同一の方向に向いていることを特徴とする導管アダプタシステム(1)。」

第3 拒絶の理由
令和3年4月28日付けの当審が通知した拒絶理由のうちの理由4は、つぎのとおりのものである。
本願の請求項1ないし15に係る発明は、本願の出願(優先日)前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった以下の引用文献1に記載された発明及び引用文献1ないし4に記載された事項に基いて、その出願(優先日)前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

・引用文献1:特開2010−62034号公報
・引用文献2:特開2008−293810号公報
・引用文献3:特開2013−16399号公報
・引用文献4:特開2010−34018号公報

第4 引用文献の記載事項
1 引用文献1には、以下の事項が記載されている(下線は、当審で付した。)。
「【0001】
本発明は、一対の半割体で構成され、コネクタハウジングの後方に取り付けられるコネクタカバーに関する。」

「【0011】
<実施形態1>
本発明の実施形態1を図1ないし図11の図面を参照しながら説明する。図1は、本実施形態のコネクタカバー10をコネクタ50の後方に取り付けた状態を示す斜視図である。コネクタカバー10は、可撓性を有するヒンジ部40により連結された一対の半割体20,30を互いに組み付けることによって構成されている。コネクタカバー10は、図2に示す両半割体20,30の組み付け状態では、前方に開口するフード状をなしてコネクタ50のコネクタハウジング51を収容するコネクタ収容部11と、コネクタハウジング51から後方に引き出された電線Wを収容する電線収容部12とを備えている。
【0012】
コネクタハウジング51の後端部51Rにおける左右両側には、図3に示すように、一対のハウジング係止部52が突出して設けられている。このハウジング係止部52は、コネクタ収容部11の両側面部11Sに貫通して設けられた抜け止め孔13に嵌合し、前後方向に係止可能とされている。ハウジング係止部52を抜け止め孔13に嵌合して両半割体20,30を組み付けると、コネクタハウジング51がコネクタ収容部11の内部に抜止状態に保持される。
【0013】
次に、両半割体20,30を組み付け状態にロックするロック構造について説明する。本実施形態のロック構造としては、3箇所のロック部がコネクタカバー10の上下両側に分かれて設けられている。
【0014】
第1のロック部は、コネクタ収容部11の上面部11Uに設けられている。この第1のロック部は、図4に示すように、一方の半割体20に設けられた第1のロック突部14Aと、他方の半割体30に設けられた第1のロック孔14Bとによって構成されている。図8は、他方の半割体30における第1のロック孔14Bを下方から見た図(図4におけるA−A線断面図)である。第1のロック孔14Bは、一方の半割体20の一側突き当て部21と突き当たる他側突き当て部31から突出して設けられた第1のロック片32Aを上下方向に貫通して形成されている。第1のロック突部14Aは、図9に示す両突き当て部21,31の突き当て状態で第1のロック孔14Bの内周壁(ロック片32A)と左右方向に係止する。
【0015】
第2のロック部は、コネクタ収容部11の下面部11Lに設けられている。この第2のロック部は、図4に示すように、一方の半割体20に設けられた第2のロック突部15Aと、他方の半割体30に設けられた第2のロック孔15Bとによって構成されている。第2のロック孔15Bは、図7に示すように、他側突き当て部31から突出して設けられた第2のロック片32Bを上下方向に貫通して形成されている。第2のロック突部15Aは、図10に示す両突き当て部21,31の突き当て状態で第2のロック孔15Bの内周壁(ロック片32B)と左右方向に係止する。
【0016】
第3のロック部は、電線収容部12の下面側を構成する支持部12Lに設けられている。この第3のロック部は、図4に示すように、一方の半割体20に設けられた第3のロック突部16Aと、他方の半割体30に設けられた第3のロック孔16Bとによって構成されている。第3のロック孔16Bは、図6に示すように、支持部12Lの先端を除く部分を左右方向に切り欠いて上下方向に貫通して形成されている。第3のロック突部16Aは、図11に示すように、第3のロック孔16Bを構成する内壁(支持部12Lの先端)と左右方向に係止する。」

「【0024】
本実施形態は以上のような構成であって、続いてその作用を説明する。まず、電線Wが備え付けられたコネクタ50を一方の半割体20の内面側に取り付け、ハウジング係止部52を抜け止め孔13に嵌合させる。ゴム栓60の貫通孔61から後方に引き出された小径電線W1を両リブ22U,22L間に通し、下側リブ22Lの後端屈曲面で折り返し、斜め前方に屈曲させる。さらに、小径電線W1を第2の電線ガイド部23の前方位置で後方に屈曲させるとともに、電線Wを電線収容溝23A内に押し込む。このとき電線Wは、圧入リブ23Bによって圧入状態で保持される。
【0025】
次に、ヒンジ部40を折り曲げて他方の半割体30によってコネクタ50を覆うようにして両半割体20,30を互いに組み付ける。これにより、他方の半割体30の抜け止め孔13がハウジング係止部52に嵌合し、第1のロック突部14Aが第1のロック孔14Bに嵌合し、第2のロック突部15Aが第2のロック孔15Bに嵌合し、第3のロック突部16Aが第3のロック孔16Bに嵌合する。こうして、両半割体20,30によってコネクタカバー10が構成されるとともに、コネクタ50がコネクタ収容部11内に抜け止め状態に保持される。これにより、小径電線W1および電線Wが電線収容部12によって覆われる。特にタイヤ裏の低い場所に設置されるABSセンサのコネクタの場合には、小径電線W1を飛び石などから保護することができる。」

「【0033】
【図1】コネクタハウジングの後方にコネクタカバーが取り付けられた状態を示した斜視図
【図2】コネクタカバー単体の内部構造を斜め前方から見た斜視図
【図3】一方の半割体にコネクタハウジングを取り付けて他方の半割体を組み付ける前の状態を示した正面図
【図4】組み付け前のコネクタカバー単体の正面図
【図5】組み付け前のコネクタカバー単体の平面図
【図6】組み付け前のコネクタカバー単体の底面図
【図7】図4のB−B線断面図
【図8】図4のA−A線断面図
【図9】第1のロック部のロック状態を示した断面図
【図10】第2のロック部のロック状態を示した断面図
【図11】第3のロック部のロック状態を示した断面図
【符号の説明】
【0034】
10…コネクタカバー
20…一方の半割体
22…第1の電線ガイド部
22U…上側リブ
22L…下側リブ
23…第2の電線ガイド部
23A…電線収容溝
23B…圧入リブ
30…他方の半割体
50…コネクタ
51…コネクタハウジング
60…ゴム栓
61…貫通孔
L…貫通孔の軸心の延長線
W…電線
W1…小径電線」

「【図1】



「【図2】



「【図3】



「【図4】



「【図5】



「【図6】



「【図7】



2 段落【0011】の「コネクタカバー10は、可撓性を有するヒンジ部40により連結された一対の半割体20,30を互いに組み付けることによって構成されている。」との記載及び段落【0025】の「ヒンジ部40を折り曲げて他方の半割体30によってコネクタ50を覆うようにして両半割体20,30を互いに組み付ける。」との記載、並びに、コネクタハウジング51の後方にコネクタカバー10が取り付けられた状態を示した図1、一方の半割体20にコネクタハウジング51を取り付けて他方の半割体30を組み付ける前の状態を示した図3及び、組み付け前のコネクタカバー10単体を示した図4ないし7の記載内容から、「一方の半割体20と他方の半割体30とを連結した可撓性を有するヒンジ部40は、前記一方の半割体20の一方の前端部と前記他方の半割体30の他方の前端部との間に配置され、前記一方の前端部は、一方の半割体20にコネクタハウジング51を取り付けて他方の半割体30を組み付ける前の状態のコネクタ50とは反対を向いており、前記他方の前端部は、前記一方の半割体20および前記他方の半割体30が組み付けられた状態で、前記一方の前端部と同一の方向に向いている」ことが看取できる。

3 上記から、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「コネクタ50の後方に取り付けたコネクタカバー10を備えたコネクタ50とコネクタカバー10であって、
コネクタカバー10は、一方の半割体20および他方の半割体30を備え、
前記一方の半割体20は、第1のロック突部14A、第2のロック突部15A及び第3のロック突部16Aを備え、前記他方の半割体30は、第1のロック孔14B、第2のロック孔15B及び第3のロック孔16Bを備え、前記両半割体20、30は、互いに組み付け状態にロックされ、
前記一方の半割体20は、抜け止め孔13を備え、当該抜け止め孔13は、前記コネクタ50のハウジング係止部52と嵌合して、コネクタハウジング51に一方の半割体20が取り付けられた状態において、前記一方の半割体20を前記コネクタ50に保持し、
前記一方の半割体20と前記他方の半割体30とは、可撓性を有するヒンジ部40により連結されており、
前記一方の半割体20と他方の半割体30とを連結した前記可撓性を有するヒンジ部40は、前記一方の半割体20の一方の前端部と前記他方の半割体30の他方の前端部との間に配置され、前記一方の前端部は、一方の半割体20にコネクタハウジング51を取り付けて他方の半割体30を組み付ける前の状態の前記コネクタ50とは反対を向いており、前記他方の前端部は、前記一方の半割体20および前記他方の半割体30が組み付けられた状態で、前記一方の前端部と同一の方向に向いているコネクタ50とコネクタカバー10。」

第5 対比
1 本願発明と引用発明とを対比する。
機能・構造からみて、引用発明の「コネクタ50」は本願発明の「電気コネクタアセンブリ(100)」に相当し、引用発明の「コネクタ50の後方に取り付けた」態様は本願発明の「電気コネクタアセンブリ(100)に割り当てられた」態様に相当する。
また、引用発明の「コネクタカバー10」は本願発明の「導管アダプタ(200)」に相当し、引用発明の「備え(た)」態様は本願発明の「具備し(た)」態様に相当し、引用発明の「コネクタ50とコネクタカバー10」は本願発明の「導管アダプタシステム(1)」に相当する。

そして、引用発明の「一方の半割体20」及び「他方の半割体30」はそれぞれ本願発明の「第1シェル(210)」及び「第2シェル(220)」に相当する。

また、引用発明の「第1のロック突部14A、第2のロック突部15A及び第3のロック突部16A」は本願発明の「少なくとも1つの第1固定要素(211;212;213;214)」に相当し、引用発明の「第1のロック孔14B、第2のロック孔15B及び第3のロック孔16B」は「少なくとも1つの対応した第2固定要素(221;222;223;224)」に相当する。
そして、引用発明の「両半割体20、30は、互いに組み付け状態にロックされ」る態様は、本願発明の「第1および第2シェルは、一体に固定されることが可能であり」との態様に相当する。

また、引用発明の「抜け止め孔13」と「コネクタ50のハウジング係止部52」はそれぞれ本願発明の「少なくとも1つの予備ロック手段(215;216)」と「電気コネクタアセンブリ(100)の対応した予備ロック手段(115;116)」に相当し、引用発明の「嵌合して」の態様は本願発明の「係合して」の態様に相当する。
そして、引用発明の「コネクタハウジング51に一方の半割体20が取り付けられた状態」は本願発明の「予備組立された状態」に相当し、引用発明の「保持し」との態様は本願発明の「ロックすることが可能であり」との態様に相当する。

本願明細書の段落【0042】に「このヒンジは可撓性ウェブとして形成され」と記載されていることから、本願発明の「ヒンジ(230)」は「可撓性ヒンジ」といえる。そうすると、引用発明の「可撓性を有するヒンジ部40」は本願発明の「ヒンジ(230)」に相当し、引用発明の「可撓性を有するヒンジ部40により連結されており」との態様は本願発明の「ヒンジ(230)を介して接続されており」との態様に相当し、引用発明の「連結した」態様は本願発明の「接続した」態様に相当する。

さらに、引用発明の「一方の前端部」は本願発明の「第1前端部(10)」に相当し、引用発明の「他方の前端部」は本願発明の「第2前端部(20)」に相当する。
そして、引用発明の「一方の半割体20にコネクタハウジング51を取り付けて他方の半割体30を組み付ける前の状態の前記コネクタ50」は本願発明の「予備組立された状態にある電気コネクタアセンブリ(100)」に相当し、引用発明の「前記一方の半割体20および前記他方の半割体30が組み付けられた状態で」の態様は本願発明の「第1シェル(210)および第2シェル(220)が一体に固定された場合に」の態様に相当する。

2 以上のことから、本願発明と引用発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。
<一致点>
「電気コネクタアセンブリに割り当てられた導管アダプタを具備した導管アダプタシステムであって、
導管アダプタは、第1シェルおよび第2シェルを具備し、
前記第1シェルは、少なくとも1つの第1固定要素を具備し、前記第2シェルは、少なくとも1つの対応した第2固定要素を具備し、前記第1および第2シェルは、一体に固定されることが可能であり、
前記第1シェルは、少なくとも1つの予備ロック手段を具備し、当該予備ロック手段は、前記電気コネクタアセンブリの対応した予備ロック手段と係合して、予備組立された状態において、前記第1シェルを前記電気コネクタアセンブリにロックすることが可能であり、
前記第1シェルと前記第2シェルとは、ヒンジを介して接続されており、
前記第1シェルと前記第2シェルとを接続した前記ヒンジは、前記第1シェルの第1前端部と前記第2シェルの第2前端部との間に配置され、前記第1前端部は、予備組立された状態にある前記電気コネクタアセンブリとは反対を向いており、前記第2前端部は、前記第1シェルおよび前記第2シェルが一体に固定された場合に、前記第1前端部と同一の方向に向いている導管アダプタシステム。」

<相違点>
「前記第1シェル(210)と前記第2シェル(220)とは、ヒンジ(230)を介して接続されて」いることにより、本願発明は「これにより前記ヒンジは、前記第1シェルに対する前記第2シェルのねじり軸を提供し、前記第2シェルの前記電気コネクタアセンブリのケーブルの周りの回避動作を可能にして」いるのに対し、引用発明では、本願発明と一致して「前記一方の半割体20と前記他方の半割体30とは、可撓性を有するヒンジ部40により連結されて」いるものの、「これにより前記可撓性を有するヒンジ部40は、前記一方の半割体20に対する前記他方の半割体30のねじり軸を提供し、前記他方の半割体30の前記コネクタ50の電線Wの周りの回避動作を可能にして」いるか不明である点。

第6 判断
上記相違点について検討する。

引用文献1の図3の記載内容から、「電線W」の右側部分の記載が省略されているといえるところ、その記載が省略されていることを自然に看取すれば、その記載が省略された「電線W」の右側部分は「他方の半割体30」の「保護壁33」の上に真っ直ぐに延長されている、少なくとも、「他方の半割体30」に一部重畳していると看ることができる。このことは図1及び図6の「電線W」の記載状態とも整合しているといえる。
そして、引用文献1の段落【0025】に「ヒンジ部40を折り曲げて他方の半割体30によってコネクタ50を覆うようにして両半割体20,30を互いに組み付ける。これにより、他方の半割体30の抜け止め孔13がハウジング係止部52に嵌合し、第1のロック突部14Aが第1のロック孔14Bに嵌合し、第2のロック突部15Aが第2のロック孔15Bに嵌合し、第3のロック突部16Aが第3のロック孔16Bに嵌合する。こうして、両半割体20,30によってコネクタカバー10が構成されるとともに、コネクタ50がコネクタ収容部11内に抜け止め状態に保持される。これにより、小径電線W1および電線Wが電線収容部12によって覆われる。」と記載されていることからすると、「ヒンジ部40を折り曲げて他方の半割体30によってコネクタ50を覆うようにして両半割体20,30を互いに組み付ける」際には、仮に引用発明の「可撓性を有するヒンジ部40」をその連結方向と直交する方向である自然な折り返し軸によって単純に折り返すならば、少なくとも「他方の半割体30」に一部重畳している「電線W」の上記記載が省略された右側部分が、「他方の半割体30」の重複部分と干渉するといえる。そうすると、上記「組み付ける」際には、当該干渉を避けて、すなわち「電線W」の周りの回避動作をするように「可撓性を有するヒンジ部40を折り曲げ」られるようにすることは、当業者にとって自然なことといえるところ、引用文献1の図3に記載された「可撓性を有するヒンジ部40」がその長さ寸法に対して幅寸法が大きい平板状であることから、その「可撓性を有するヒンジ部40」の平板状の面に対して直交する軸で回転させるようにするよりも、当該面に沿う軸で回転させる方が合理的といえ、すなわち、「一方の半割体30」に対する「他方の半割体30」の「ねじり軸」とする方が合理的といえる。そして、引用発明の「可撓性を有するヒンジ部40」は、その「両半割体20、30」を「互いに組み付け状態にロック」する構造に直接関わるなど、強度に特段の配慮を要するものでないことからしても、「可撓性を有する」程度においてその強度や形状などを当業者が適宜設定し得るといえる。したがって、「可撓性を有するヒンジ部40」をして「一方の半割体20」に対する「他方の半割体30」の「ねじり軸」を提供することを妨げる特段の事情があるとはいえない。
そうであるならば、上記「組み付ける」際の「可撓性を有するヒンジ部40」の作用として、「前記可撓性を有するヒンジ部40は、前記一方の半割体20に対する前記他方の半割体30のねじり軸を提供し、前記他方の半割体30の前記コネクタ50の電線Wの周りの回避動作を可能にして」いるようにすることは、当業者が容易に想到し得たことである。
以上のことからすると、引用発明の「前記一方の半割体20と前記他方の半割体30とは、可撓性を有するヒンジ部40により連結されて」いることをして、「これにより前記可撓性を有するヒンジ部40は、前記一方の半割体20に対する前記他方の半割体30のねじり軸を提供し、前記他方の半割体30の前記コネクタ50の電線Wの周りの回避動作を可能にして」いるようにすることで、引用発明をして上記相違点に係る本願発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。
そして、本願発明の奏する作用効果は、引用発明及び引用文献1に記載された技術的事項の奏する作用効果から予測される範囲内のものにすぎず、格別顕著なものということはできない。

請求人は、令和3年8月6日の意見書において、「引用文献1に開示されたコネクタでは、予備組立された状態(図3)において、電線Wは、半割体を結合する際に電線Wが半割体と干渉しないように、第2の電線ガイド部23により固定されており、半割体が電線を回避する必要がありません。また、引用文献1のヒンジ部40は、その長さ寸法に対して幅寸法が大きいため、ねじり軸を提供することができません。」(「4.3 本願発明と引用発明との対比」参照。)と主張する。しかしながら、引用文献1の「予備組立された状態(図3)において、電線Wは、半割体を結合する際に電線Wが半割体と干渉しないように、第2の電線ガイド部23により固定されており、半割体が電線を回避する必要がない」のは、「一方の半割体20」についていえることであって、既に述べたとおり「他方の半割体30」については「電線W」を回避する必要があるといえる。また、「引用文献1のヒンジ部40は、その長さ寸法に対して幅寸法が大きい」としても、既に述べたとおり、「可撓性を有するヒンジ部40」がその長さ寸法に対して幅寸法が大きい平板状であることから、その「可撓性を有するヒンジ部40」の平板状の面に対して直交する軸で回転させることは困難といえるものの、当該面に沿う軸で回転させることは困難とまではいえず、すなわち、ねじり軸を提供することができないとまではいえないから、引用発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとの判断を妨げるとまでいえない。したがって、請求人の上記主張はいずれも採用できない。

したがって、本願発明は、引用発明及び引用文献1に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものである。

第7 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。

 
別掲 (行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この審決に対する訴えは、この審決の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、特許庁長官を被告として、提起することができます。

審判長 平田 信勝
出訴期間として在外者に対し90日を附加する。
 
審理終結日 2021-09-29 
結審通知日 2021-10-05 
審決日 2021-10-18 
出願番号 P2016-023458
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (H01R)
最終処分 02   不成立
特許庁審判長 平田 信勝
特許庁審判官 杉山 健一
田村 嘉章
発明の名称 予備組立された導管アダプタを備えたコネクタ  
代理人 森 隆一郎  
代理人 棚井 澄雄  
代理人 阿部 達彦  

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