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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H05B
管理番号 1382754
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2022-04-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-10-08 
確定日 2022-03-02 
事件の表示 特願2015−204655「有機発光デバイス」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 5月19日出願公開、特開2016− 86160〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 事案の概要
1 手続等の経緯
特願2015−204655号(以下「本件出願」という。)は、平成27年10月16日(パリ条約による優先権主張 平成26年10月23日 英国)を出願日とする出願であって、その手続等の経緯の概要は、以下のとおりである。
平成27年12月24日 :手続補正書
令和 元年 9月13日付け:拒絶理由通知書
令和 元年12月23日 :意見書
令和 元年12月23日 :手続補正書
令和 2年 6月 3日付け:拒絶査定(以下「原査定」という。)
令和 2年10月 8日 :審判請求書
令和 3年 4月30日付け:拒絶理由通知書(この拒絶理由通知書により通知した拒絶の理由を、以下「当審拒絶理由」という。)
令和 3年 8月10日 :意見書
令和 3年 8月10日 :手続補正書

2 本願発明
本件出願の請求項1〜請求項20に係る発明は、令和3年8月10日にした手続補正後の特許請求の範囲の請求項1〜請求項20に記載された事項によって特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明は、次のものである(以下「本願発明」という。)。
「 正孔輸送層および発光層を備えるOLEDであって、前記正孔輸送層が、ゲル透過クロマトグラフィーによって測定したポリスチレン等価ポリマー重量の5%以下が50,000未満の分子量を有する鎖からなる正孔輸送ポリマーを含み、前記正孔輸送ポリマーが1×105から1×106の範囲の重量平均分子量を有し、前記正孔輸送ポリマーが分画ポリマーである、OLED。」

3 当審拒絶理由の概要
当審拒絶理由の理由1(進歩性)の概要は、本件出願の請求項1〜請求項22に係る発明(令和元年12月23日にした手続補正後のもの)は、その優先権主張の日(以下「本件優先日」という。)前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基づいて、本件優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない、というものである。
引用文献1:国際公開第2010/119891号
引用文献2:国際公開第2010/067746号
引用文献3:特表2013−546173号公報
(当合議体注:引用文献1〜3は、いずれも、主引用例として引用したものである。)

第2 当合議体の判断
1 引用文献の記載及び引用発明等
(1)引用文献2について
当審拒絶理由において引用された国際公開第2010/067746号(以下「引用文献2」という。)は、本件優先日前に日本国内又は外国において電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明が記載されたものであるところ、そこには以下の記載事項がある。なお、当合議体が発明の認定等に用いた箇所に下線を付した。

ア 「技術分野
[0001] 本発明は、有機エレクトロルミネッセンス素子、表示装置及び照明装置に関する。」

イ 「発明が解決しようとする課題
[0009] 本発明の目的は、長時間駆動後も、駆動電圧の上昇がなく、長寿命な有機エレクトロルミネッセンス素子、表示装置及び照明装置を提供することである。」

ウ 「課題を解決するための手段
[0010] 本発明の上記目的は、以下の構成により達成された。
[0011] 1.陽極と陰極の間に、少なくともリン光発光性ドーパントと、下記一般式(1)で表される部分構造を含み、末端がエンドキャップ処理された高分子化合物とを含有する有機化合物層が挟持されてなる有機エレクトロルミネッセンス素子であって、該リン光発光性ドーパントが5員または6員の芳香族炭化水素環または芳香族複素環と、5員の含窒素芳香族複素環が結合した配位子を有する金属錯体であることを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。
[0012] [化1]

[0013] 式中、Ar1、Ar3はそれぞれ独立して、置換基を有してもよいアリーレン基を表し、Ar1、Ar3はそれぞれ連結基を介して結合していてもよい。Ar2、Ar4は、それぞれ独立して、置換基を有してもよいアリール基または芳香族複素環基を表す。n1、n2は0〜2の整数を表し、n1とn2が同時に0となることはない。n3は10〜1000の整数を表す。
・・省略・・
[0017] 3.前記一般式(1)で表される部分構造を含む高分子化合物が下記一般式(2)で表される部分構造を含むことを特徴とする前記1または2に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
[0018]
[化3]

[0019] 式中、Ar5、Ar7はそれぞれ独立して、置換基を有してもよいアリーレン基を表し、Ar6は置換基を有してもよいアリール基または芳香族複素環基を表し、n4は10〜1000の整数を表す。
[0020] 4.前記一般式(1)で表される部分構造を含む高分子化合物が下記一般式(3)で表される部分構造を含むことを特徴とする前記1または2に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
[0021] [化4]

[0022] 式中、Ar8は置換基を有してもよいアリール基または芳香族複素環基を表し、n5は10〜1000の整数を表す。
[0023] 5.前記一般式(1)で表される部分構造を含む高分子化合物の重量平均分子量が、ポリスチレン換算で50000〜500000であることを特徴とする前記1〜4のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。」

エ 「発明の効果
[0029] 本発明により、長時間駆動させても、駆動電圧の上昇がなく、長寿命な有機エレクトロルミネッセンス素子、青色発光素子、白色発光素子、表示装置、及び照明装置を提供することができた。」

オ 「発明を実施するための形態
[0031] 本発明者等は、上記従来の問題に対し様々な解決策を検討したが、これまで検討されてきたものより、高分子量化された高分子化合物を用いることで、電圧上昇が抑制されることが見出され、電圧上昇を抑えることで長寿命化が実現されることが分かり本発明を成すに至った。
[0032] これらの知見は、従来技術では実施されていない新しい領域を丹念に調査することで初めて明らかになった点であり、極めて重要な技術であると認識している。
[0033] 本発明に係る一般式(1)〜(3)のいずれかで表される部分構造を有する高分子化合物を使用することで、ウェットプロセスに適した耐溶剤適性が高くかつ表面の平滑な層を形成でき、更に積層構成をウェットプロセスで作製することが可能となった。
・・省略・・
[0071] 以下、本発明に係る一般式(1)〜(3)で表される部分構造を含む高分子化合物の具体例を示すが、本発明はこれらに限定されない。
[0072]
[化13]

・・省略・・
[0076] 尚、上記nは重合度を表し、10〜1000の整数を表す。
・・省略・・
[0079] まず、例示化合物(50)の合成例として、重量平均分子量や分子量分布の異なる化合物50a〜50dの合成を以下に示す。
[0080] 《例示化合物50aの合成》
[0081] [化17]

[0082] 化合物50−1(15.0g)及び化合物50−2(18.0g)をトルエン200mlに溶解し、窒素下において、Aliquat336(1.0g)及び2mol/Lの炭酸水素ナトリウム溶液30mlを加えた。この混合物を激しく撹拌し、2時間加熱還流した後、1gのブロモベンゼンを加え5時間加熱した。この反応液を60℃まで冷却し、3Lのメタノールと300mlの純水の混合液中に、撹拌下ゆっくりと添加した。
[0083] 析出物を濾取し、メタノールと純水で繰り返し洗浄したのち、真空オーブン内で60℃において10時間乾燥させ、例示化合物50a(19.0g、重量平均分子量5000、分子量分布2.2)を得た。
[0084] 例示化合物50aの構造は、1H−NMR、13C−NMR等を用いて確認した。
[0085] 《例示化合物50b、50c、50dの合成》
反応時間を2時間から10時間に変更した以外は同様の処理を行い、化合物50b(重量平均分子量55000、分子量分布2.0)を、反応時間を2時間から20時間に変更した以外は同様の処理を行い、化合物50c(重量平均分子量80000、分子量分布1.9)を、反応時間を2時間から50時間に変更した以外は同様の処理を行い、化合物50d(重量平均分子量150000、分子量分布1.9)を得た。
[0086] 例示化合物50b、50c、50dの各々の構造は、1H−NMR、13C−NMR等を用いて確認した。
・・省略・・
[0094] 本発明に係る一般式(1)〜(3)のいずれかで表される部分構造を有する高分子化合物は、発光効率、素子寿命の観点から、低分子量成分や重金属などの混入が少なく、分子量分布が小さいことが好ましい。
[0095] 具体的には重量平均分子量が1000以下の有機物成分の含有量が1%以下であること、更には、重量平均分子量が1000以下の有機物成分の含有量が1%以下であることが好ましい。
[0096] また、本発明に係る一般式(1)〜(3)で表される部分構造を含む高分子化合物の重量平均分子量の範囲は、50,000〜500,000の範囲であることが好ましく、更に好ましくは、70,000〜100,000の範囲である。
[0097] 更に、分子量分布(Mw/Mn)は、3以下であることが好ましく、更に好ましくは2.5以下である。
[0098] 本発明に係る一般式(1)〜(3)で表される部分構造を含む高分子化合物中の重金属(Pd、Cu、Pt等)の含有量は500ppm以下であることが好ましく、更に好ましくは50ppm以下である。
・・省略・・
[0106] 本発明では、下記の測定条件にて分子量測定を行った。
[0107] (測定条件)
装置:東ソー高速GPC装置 HLC−8220GPC
カラム:TOSOH TSKgel Super HM−M
検出器:RI及び/またはUV
溶出液流速:0.6ml/分
試料濃度:0.1質量%
試料量:100μl
検量線:標準ポリスチレンにて作製:標準ポリスチレンSTK standard ポリスチレン(東ソー(株)製)Mw=1000000〜500迄の13サンプルを用いて検量線(校正曲線ともいう)を作成、分子量の算出に使用した。13サンプルは、ほぼ等間隔にすることが好ましい。
・・省略・・
[0130] 本発明の有機EL素子の発光層には、発光性ドーパント(リン光発光性ドーパントや蛍光ドーパント等)化合物と、発光ホスト化合物を含有する。
・・省略・・
[0140] 以下に、リン光発光性ドーパントとして用いられる公知の化合物の具体例を示すが、本発明はこれらに限定されない。
・・省略・・
[0144]
[化25]



カ 「実施例
[0271] 以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されない。また、実施例に用いる化合物の構造式を下記に示す。尚、実施例において「%」の表示を用いるが、特に断りがない限り「質量%」を表す。
[0272] [化39]

・・省略・・
[0274] 実施例1
《有機EL素子1−1の作製》
陽極としてガラス上にITOを150nm成膜した基板(NHテクノグラス社製:NA−45)にパターニングを行った後、このITO透明電極を設けた透明支持基板をiso−プロピルアルコールで超音波洗浄し、乾燥窒素ガスで乾燥し、UVオゾン洗浄を5分間行った。この基板を窒素雰囲気下に移し、化合物50a(60mg)をトルエン6mlに溶解した溶液を用い1000rpm、30秒の条件にてスピンコート法により成膜した後、真空中150℃にて1時間乾燥し、膜厚30nmの正孔輸送層を設けた。
[0275] 次に、この透明支持基板を市販の真空蒸着装置の基板ホルダーに固定し、一方5つのタンタル製抵抗加熱ボートにCBP、D−9、BCP、Alq3をそれぞれ入れ、真空蒸着装置(第1真空槽)に取り付けた。更に、タンタル製抵抗加熱ボートにフッ化リチウムを、タングステン製抵抗加熱ボートにアルミニウムをそれぞれ入れ、真空蒸着装置の第2真空槽に取り付けた。
[0276] まず、CBPの入った前記加熱ボートとD−9の入ったボートをそれぞれ独立に通電して、発光ホストであるCBPと発光ドーパントであるD−9の蒸着速度が100:6になるように調節し、膜厚30nmの厚さになるように蒸着し発光層を設けた。
[0277] 続けて、BCPの入った前記加熱ボートに通電して加熱し、蒸着速度0.1〜0.2nm/秒で厚さ10nmの第1の電子輸送層を設けた。更にAlq3の入った前記加熱ボートを通電して加熱し、蒸着速度0.1〜0.2nm/秒で膜厚20nmの第2の電子輸送層を設けた。
[0278] 次に、第2の電子輸送層まで成膜した素子を真空のまま第2真空槽に移した後、電子輸送層の上にステンレス鋼製の長方形穴あきマスクが配置されるように装置外部からリモートコントロールして設置した。第2真空槽を2×10−4Paまで減圧した後、フッ化リチウム入りのボートに通電して蒸着速度0.01〜0.02nm/秒で膜厚0.5nmの陰極バッファー層を設け、次いでアルミニウムの入ったボートに通電して、蒸着速度1〜2nm/秒で膜厚150nmの陰極をつけ、有機EL素子1−1を作製した。
[0279] 《有機EL素子1−2〜1−4の作製》
有機EL素子1−1の作製において、表1に記載のように正孔輸送材料を変更した以外は同様にして、有機EL素子1−2〜1−4を作製した。
[0280] 《有機EL素子の評価》
得られた有機EL素子1−1〜1−4を評価するに際しては、作製後の各有機EL素子の非発光面をガラスケースで覆い、厚み300μmのガラス基板を封止用基板として用いて、周囲にシール材として、エポキシ系光硬化型接着剤(東亞合成社製ラックストラックLC0629B)を適用し、これを上記陰極上に重ねて前記透明支持基板と密着させ、ガラス基板側からUV光を照射して、硬化させて、封止して、図1、図2に示すような照明装置を作製して評価した。
[0281] 図1は照明装置の概略図を示し、有機EL素子101はガラスカバー102で覆われている(尚、ガラスカバーでの封止作業は、有機EL素子101を大気に接触させることなく窒素雰囲気下のグローブボックス(純度99.999%以上の高純度窒素ガスの雰囲気下)で行った)。図2は照明装置の断面図を示し、図2において、105は陰極、106は有機EL層、107は透明電極付きガラス基板を示す。なお、ガラスカバー102内には窒素ガス108が充填され、捕水剤109が設けられている。
[0282] (外部取り出し量子効率)
有機EL素子を室温(約23℃〜25℃)、2.5mA/cm2の定電流条件下による点灯を行い、点灯開始直後の発光輝度(L)[cd/m2]を測定することにより、外部取り出し量子効率(η)を算出した。
[0283] ここで、発光輝度の測定はCS−1000(コニカミノルタセンシング製)を用いた。また、外部取り出し量子効率は有機EL素子1−1を100とする相対値で表した。
[0284] (発光寿命及び電圧上昇率)
有機EL素子を室温下、2.5mA/cm2の定電流条件下による連続点灯を行い、初期輝度の半分の輝度になるのに要する時間(τ1/2)を測定した。発光寿命は有機EL素子1−1を100と設定する相対値で表した。
[0285] また、点灯開始時点の初期電圧に対して、輝度が半分になったときの電圧を比較し、その上昇率を電圧上昇率として表現し、有機EL素子1−1での電圧上昇率を100と設定する相対値で表した。
[0286] 得られた結果を表1に示す。
[0287]
[表1]

[0288] 本発明に係る正孔輸送材料50a(重量平均分子量5000)を用いて作製した有機EL素子1−1は、外部取り出し量子効率、発光寿命及び電圧上昇率のすべてにおいて優れた特性を示した。
[0289] 更に、表1から、本発明に係る正孔輸送材料を用いて作製した有機EL素子1−1〜1−4は、各々、外部取り出し量子効率、発光寿命、電圧上昇率共に優れた特性を示すが、重量平均分子量が5000の化合物50aを用いたものに比べて、正孔輸送材料の重量平均分子量が50000〜500000の範囲のもの(50b、50c、50d)を用いた有機EL素子は、更に発光寿命の長寿命化、電圧上昇率の大幅なる低減等の特性向上が達成できることが分かった。」

キ 「[図1]

[図2]



(2)引用文献2に記載された発明
引用文献2には、実施例1として、[0274]〜[0278]に記載の作製方法により作製された「有機EL素子」が記載されており、引用文献2の[0279]には「有機EL素子1−1の作製において、表1に記載のように正孔輸送材料を変更した以外は同様にして、有機EL素子1−2〜1−4を作製した。」との記載があることから、「化合物50d」を用いた「有機EL素子1−4」についても、[0274]〜[0278]に記載の作製方法により作製されていると認められる。
また、「化合物50d」は、引用文献2の[0085]の記載より、[0081]〜[0083]に記載の合成方法のうち、反応時間を2時間から50時間に変更した方法により合成されることが把握できる。
そうすると、引用文献2には、「正孔輸送材料」として「化合物50d」を用いた「有機EL素子」(有機EL素子1−4)の発明として、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。
「陽極としてガラス上にITOを150nm成膜した基板(NHテクノグラス社製:NA−45)にパターニングを行った後、このITO透明電極を設けた透明支持基板をiso−プロピルアルコールで超音波洗浄し、乾燥窒素ガスで乾燥し、UVオゾン洗浄を5分間行い、この基板を窒素雰囲気下に移し、以下の「化合物50dの合成」により得られた化合物50d(60mg)をトルエン6mlに溶解した溶液を用い1000rpm、30秒の条件にてスピンコート法により成膜した後、真空中150℃にて1時間乾燥し、膜厚30nmの正孔輸送層を設け、
次に、この透明支持基板を市販の真空蒸着装置の基板ホルダーに固定し、一方5つのタンタル製抵抗加熱ボートにCBP、D−9、BCP、Alq3をそれぞれ入れ、真空蒸着装置(第1真空槽)に取り付け、更に、タンタル製抵抗加熱ボートにフッ化リチウムを、タングステン製抵抗加熱ボートにアルミニウムをそれぞれ入れ、真空蒸着装置の第2真空槽に取り付け、
CBPの入った前記加熱ボートとD−9の入ったボートをそれぞれ独立に通電して、発光ホストであるCBPと発光ドーパントであるD−9の蒸着速度が100:6になるように調節し、膜厚30nmの厚さになるように蒸着し発光層を設け、
続けて、BCPの入った前記加熱ボートに通電して加熱し、蒸着速度0.1〜0.2nm/秒で厚さ10nmの第1の電子輸送層を設け、更にAlq3の入った前記加熱ボートを通電して加熱し、蒸着速度0.1〜0.2nm/秒で膜厚20nmの第2の電子輸送層を設け、
次に、第2の電子輸送層まで成膜した素子を真空のまま第2真空槽に移した後、電子輸送層の上にステンレス鋼製の長方形穴あきマスクが配置されるように装置外部からリモートコントロールして設置し、第2真空槽を2×10−4Paまで減圧した後、フッ化リチウム入りのボートに通電して蒸着速度0.01〜0.02nm/秒で膜厚0.5nmの陰極バッファー層を設け、次いでアルミニウムの入ったボートに通電して、蒸着速度1〜2nm/秒で膜厚150nmの陰極をつけて作製した、
有機EL素子。

化合物50dの合成
化合物50−1(15.0g)及び化合物50−2(18.0g)をトルエン200mlに溶解し、窒素下において、Aliquat336(1.0g)及び2mol/Lの炭酸水素ナトリウム溶液30mlを加え、この混合物を激しく撹拌し、50時間加熱還流した後、1gのブロモベンゼンを加え5時間加熱し、この反応液を60℃まで冷却し、3Lのメタノールと300mlの純水の混合液中に、撹拌下ゆっくりと添加し、
析出物を濾取し、メタノールと純水で繰り返し洗浄したのち、真空オーブン内で60℃において10時間乾燥させ、例示化合物50d(重量平均分子量150000、分子量分布1.9)を得る。
分子量測定は、以下の測定条件にて行った。
(測定条件)
装置:東ソー高速GPC装置 HLC−8220GPC
カラム:TOSOH TSKgel Super HM−M
検出器:RI及び/またはUV
溶出液流速:0.6ml/分
試料濃度:0.1質量%
試料量:100μl
検量線:標準ポリスチレンにて作製:標準ポリスチレンSTK standard ポリスチレン(東ソー(株)製)Mw=1000000〜500迄のほぼ等間隔の13サンプルを用いて検量線(校正曲線ともいう)を作成し、分子量の算出に使用した。






2 対比及び判断
(1)対比
本願発明と引用発明を対比すると、以下のとおりとなる。

ア 正孔輸送層及び正孔輸送ポリマー
引用発明の「正孔輸送層」は、その名称どおり「有機EL素子」における「正孔輸送層」の役割を果たすものであり、また、その作製過程から「化合物50d」を含んでいる。
引用発明の「化合物50d」は、「正孔輸送層」を形成するものであり、化合物「(50)」の化学式から、「ポリマー」であり、「鎖」状であることは明らかである。また、「化合物50d」は「重量平均分子量150000」である。
そうすると、引用発明の「正孔輸送層」、「化合物50d」は、それぞれ、本願発明の「正孔輸送層」、「正孔輸送ポリマー」に相当する。また、引用発明の「正孔輸送層」は、本願発明の「正孔輸送層」と「鎖からなる正孔輸送ポリマーを含」んでいる点で共通し、引用発明の「化合物50d」は、本願発明の「正孔輸送ポリマー」と「正孔輸送ポリマーが1×105から1×106の範囲の重量平均分子量を有」する点で共通する。

イ 発光層
引用発明の「発光層」は、本願発明の「発光層」に相当する。

ウ OLED
引用発明の「有機EL素子」は、「正孔輸送層」及び「発光層」を備えるものであり、本願発明における「OLED」に相当し、「正孔輸送層および発光層を備える」との要件を満たしている。

(2)一致点及び相違点
以上より、本願発明と引用発明とは、
「正孔輸送層および発光層を備えるOLEDであって、前記正孔輸送層が、鎖からなる正孔輸送ポリマーを含み、前記正孔輸送ポリマーが1×105から1×106の範囲の重量平均分子量を有している、OLED。」
の点で一致し、以下の点で相違する。
(相違点1)
「正孔輸送ポリマー」について、本願発明では「ゲル透過クロマトグラフィーによって測定したポリスチレン等価ポリマー重量の5%以下が50,000未満の分子量を有する」のに対して、引用発明ではそのような特定がない点。
(相違点2)
「正孔輸送ポリマー」について、本願発明では「正孔輸送ポリマーが分画ポリマーである」のに対して、引用発明ではそのような特定がない点。

(3)判断
相違点1及び相違点2はいずれも「正孔輸送ポリマー」に関するものであるため、これらの相違点を併せて検討する。
引用文献2の[0094]には「発光効率、素子寿命の観点から、低分子量成分や重金属などの混入が少なく、分子量分布が小さいことが好ましい」と記載されている。
また、正孔輸送ポリマーの調整方法として、例えば特開2004−119393号公報【0025】〜【0050】、【0075】に記載されているように、分子量分布を高分子量側にするために長時間反応(重合)させた後に、さらに、再沈殿、透析、遠心分離法等によりポリマーを分画して、ポリマー合成後に含まれている不要な低分子量成分を除去することがより好ましいこと(【0048】)は周知である。
そうすると、引用発明の「化合物50d」は、長時間反応させることにより、分子量分布を高分子量側にしたものであるところ、長時間の反応後に、低分子量成分の混入を少なくするために、再沈殿、透析、遠心分離法等によりポリマーを分画して低分子量成分を除去しておくことは、上記周知の事項を心得た当業者にとって通常の創作能力の範囲内のことである。
そして、除去する低分子量成分として、どの程度の分子量未満の成分をどの程度減少させるかについて、低分子量成分や重金属などの混入が少ないことが好ましいという上記引用文献2の記載に沿って「5%以下が50,000未満の分子量を有する」と設定することは当業者が適宜設計する事項である。また、本件出願の明細書には、「5%以下が50,000未満の分子量を有する」と数値を設定することの臨界的な意義について特段の記載はなく、また、実施例として【表1】、【表2】に示される分子量分布を有する「比較正孔輸送ポリマー」及び「正孔輸送ポリマー実施例1」についての比較がなされているのみであることから、当該数値(「5%以下が50,000未満の分子量を有する」)について格別な臨界的意義を有すると認められない。

(4)発明の効果について
本願発明は、本件出願の明細書【0194】に記載のように「改善されたデバイス寿命を有する」という効果を奏するものである。しかしながら、このような効果は、引用発明に、引用文献2に記載の事項及び周知技術を採用することにより、当業者が予測できる、あるいは期待される範囲内のものにすぎない。

(5)審判請求人の令和3年8月10日提出の意見書の主張について
審判請求人は、同意見書において、引用文献2は「このようなポリマーの低分子量成分を除去する利点について何ら開示も示唆もしていない。そして、引用文献1について詳述したように、引用文献2に開示されているポリマー中においても低分子量成分が存在する可能性がある。」、「このようなポリマーの低分子量画分を除去することにより得られる優れた効果について引用文献2には何ら開示も示唆もされていない。」と主張する。
しかしながら、上記(3)に記載のように引用文献2には、低分子量成分の混入が少ない方が発光効率、素子寿命の観点から好ましいことが記載されている。また、効果についての主張についても、上記(4)に示したとおりである。
したがって、審判請求人の上記主張は、採用することができない。

(6)小括
上記(1)〜(5)より、本願発明は、引用文献2に記載された発明、引用文献2に記載された事項及び周知技術に基づいて、本件優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものである。

第3 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用文献2に記載された発明、引用文献2に記載された事項及び周知技術に基づいて、本件優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本件出願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。

 
別掲 (行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この審決に対する訴えは、この審決の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、特許庁長官を被告として、提起することができます。

審判長 榎本 吉孝
出訴期間として在外者に対し90日を附加する。
 
審理終結日 2021-09-15 
結審通知日 2021-09-21 
審決日 2021-10-18 
出願番号 P2015-204655
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (H05B)
最終処分 02   不成立
特許庁審判長 榎本 吉孝
特許庁審判官 関根 洋之
早川 貴之
発明の名称 有機発光デバイス  
代理人 岩瀬 吉和  
代理人 小野 誠  
代理人 重森 一輝  
代理人 城山 康文  
代理人 安藤 健司  
代理人 櫻田 芳恵  
代理人 安藤 健司  
代理人 金山 賢教  
代理人 坪倉 道明  
代理人 岩瀬 吉和  
代理人 金山 賢教  
代理人 城山 康文  
代理人 櫻田 芳恵  
代理人 重森 一輝  
代理人 小野 誠  
代理人 坪倉 道明  

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