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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H04W
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 H04W
管理番号 1383724
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2022-05-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2021-02-05 
確定日 2022-04-25 
事件の表示 特願2018−168658「WLANにおけるOFDMAリソース管理のためのシステム及び方法」拒絶査定不服審判事件〔平成30年12月27日出願公開、特開2018−207534、請求項の数(24)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯

本願は、2014年(平成26年)12月16日(パリ条約による優先権主張 外国庁受理 2013年12月18日 アメリカ合衆国(US)、2014年6月9日 アメリカ合衆国(US))を国際出願日とする特願2016−540950号の一部を、平成30年9月10日に新たな特許出願としたものであって、その手続の経緯は以下のとおりである。

令和 元年12月20日付け 拒絶理由通知書
令和 2年 4月 6日 手続補正書、意見書の提出
令和 2年 9月24日付け 拒絶査定
令和 3年 2月 5日 審判請求書、手続補正書の提出
令和 3年 5月18日 上申書の提出
令和 3年 8月17日 上申書の提出
令和 3年10月 1日 上申書の提出
令和 3年10月28日付け 拒絶理由通知書(当審)
令和 3年10月29日 令和3年10月20日、及び同月27日に
行われた電話応対等の応対記録の作成
令和 4年 2月 1日 手続補正書、意見書の提出

第2 原査定の概要

原査定(令和2年9月24日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。

進歩性)この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
記 (引用文献等については引用文献等一覧参照)
・請求項 1ないし32
・引用文献等 1及び2
<引用文献等一覧>
1.Stefan Valentin et.al.,Integrating multiuser dynamic OFDMA into IEEE802.11 WLANs − LLC/MAC extensions and system performance,IEEE,2008年5月30日,pages 3328 − 3334,
URL,http://ieeexplore.ieee.org/document/4533662/
2.米国特許出願公開第2010/0135495号明細書

第3 本願発明について

本願の請求項1ないし24に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」ないし「本願発明24」という。)は、令和4年2月1日付け手続補正書による手続補正(以下、「本件補正」という。)により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし24に記載された事項により特定される、以下のとおりの発明である。(下線は請求人が付したものであり補正箇所を示す。)

「 【請求項1】
ワイヤレスローカルエリアネットワーク(WLAN)においてアクセスポイント側装置によって実施される方法であって、
伝送リソースを1つ以上の無線局(STA)にシグナリングするステップであって、前記伝送リソースが、前記WLANにおける前記1つ以上のSTAによる直交周波数分割多元接続(OFDMA)同時伝送を可能にする、ステップを有し、
前記シグナリングは、前記1つ以上のSTAのうちの1つのSTAのための媒体アクセス制御(MAC)フレームのOFDMAサブヘッダで搬送され、前記OFDMAサブヘッダは、OFDMA制御情報を前記1つ以上のSTAのうちの前記1つのSTAに搬送するためのOFDMA制御フィールドとして専用のものである、方法。
【請求項2】
前記OFDMA制御情報が、前記1つ以上のSTAのうちの前記1つのSTAに割り当てられたサブキャリアのグループを示す、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記MACフレームが、MACデータフレームである、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記WLANにおける前記1つ以上のSTAのOFDMA通信のための1つ以上の伝送リソースを決定するステップであって、決定することが、複数のサブキャリアを前記1つ以上のSTAに割り当てることを含む、ステップをさらに有し、
伝送リソースを1つ以上のSTAにシグナリングする前記ステップが、決定された前記1つ以上の伝送リソースを前記1つ以上のSTAにシグナリングするステップを含む、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
1つ以上の伝送リソースを決定する前記ステップが、
1つの伝送のために前記1つ以上のSTAの各々に割り当てられる複数のサブキャリアのうちの少なくとも1つのサブキャリアを決定するステップと、
前記1つ以上のSTAのうち、OFDMA伝送の発生に参加するSTAを選択するステップと、
前記少なくとも1つのサブキャリアを、選択したSTAに割り当てるステップと
を含む、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記伝送リソースの前記シグナリングが、OFDMA制御情報を前記1つ以上のSTAに搬送する明示的なシグナリングである、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記OFDMAサブヘッダが、前記1つ以上のSTAに通信パラメータを示すための複数のサブフィールドを含む、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
ワイヤレスローカルエリアネットワーク(WLAN)において直交周波数分割多元接続(OFDMA)リソースを管理するための装置であって、
プロセッサと、
前記プロセッサによる実行のためのプログラムを格納するコンピュータ読み取り可能な非一時的記憶媒体と
を具備し、
前記プログラムは、
伝送リソースを1つ以上の無線局(STA)にシグナリングするための命令であって、前記伝送リソースが、前記WLANにおける前記1つ以上のSTAによる直交周波数分割多元接続(OFDMA)同時伝送を可能にする、命令を含み、
前記シグナリングは、前記1つ以上のSTAのうちの1つのSTAのための媒体アクセス制御(MAC)フレームのOFDMAサブヘッダで搬送され、前記OFDMAサブヘッダは、OFDMA制御情報を前記1つ以上のSTAのうちの前記1つのSTAに搬送するためのOFDMA制御フィールドとして専用のものである、装置。
【請求項9】
前記OFDMA制御情報が、前記1つ以上のSTAのうちの前記1つのSTAに割り当てられたサブキャリアのグループを示す、請求項8に記載の装置。
【請求項10】
前記MACフレームが、MACデータフレームである、請求項8に記載の装置。
【請求項11】
前記プログラムが、
前記WLANにおける前記1つ以上のSTAのOFDMA通信のための1つ以上の伝送リソースを決定するための命令であって、決定することが、複数のサブキャリアを前記1つ以上のSTAに割り当てることを含む、命令をさらに含み、
伝送リソースを1つ以上のSTAにシグナリングするための前記命令が、決定された前記1つ以上の伝送リソースを前記1つ以上のSTAにシグナリングするための命令を含む、請求項8から10のいずれか一項に記載の装置。
【請求項12】
1つ以上の伝送リソースを決定するための前記命令が、
1つの伝送のために前記1つ以上のSTAの各々に割り当てられる複数のサブキャリアのうちの少なくとも1つのサブキャリアを決定するための命令と、
前記1つ以上のSTAのうち、OFDMA伝送の発生に参加するSTAを選択するための命令と、
前記少なくとも1つのサブキャリアを、選択したSTAに割り当てるための命令と
を含む、請求項11に記載の装置。
【請求項13】
前記伝送リソースの前記シグナリングが、OFDMA制御情報を前記1つ以上のSTAに搬送する明示的なシグナリングである、請求項8から12のいずれか一項に記載の装置。
【請求項14】
前記OFDMAサブヘッダが、前記1つ以上のSTAに通信パラメータを示すための複数のサブフィールドを含む、請求項8から13のいずれか一項に記載の装置。
【請求項15】
ワイヤレスローカルエリアネットワーク(WLAN)における無線局(STA)側装置によって実施される方法であって、
1つ以上のSTAへの伝送リソースのシグナリングを、アクセスポイント(AP)から受信するステップであって、前記伝送リソースが、前記WLANにおける前記1つ以上のSTAによる直交周波数分割多元接続(OFDMA)同時伝送を可能にし、前記シグナリングが、前記1つ以上のSTAのうちの1つのSTAのための媒体アクセス制御(MAC)フレームのOFDMAサブヘッダで搬送され、前記OFDMAサブヘッダが、OFDMA制御情報を前記1つ以上のSTAのうちの前記1つのSTAに搬送するためのOFDMA制御フィールドとして専用のものである、ステップと、
前記OFDMA制御情報に従って、前記APと通信を行うステップと
を有する、方法。
【請求項16】
前記OFDMA制御情報が、前記1つ以上のSTAのうちの前記1つのSTAに割り当てられたサブキャリアのグループを示す、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記MACフレームが、MACデータフレームである、請求項15に記載の方法。
【請求項18】
前記伝送リソースの前記シグナリングが、OFDMA制御情報を前記1つ以上のSTAに搬送する明示的なシグナリングである、請求項15から17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
前記OFDMAサブヘッダが、前記1つ以上のSTAに通信パラメータを示すための複数のサブフィールドを含む、請求項15から18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
ワイヤレスローカルエリアネットワーク(WLAN)における直交周波数分割多元接続(OFDMA)をサポートする無線局(STA)側装置であって、
プロセッサと、
前記プロセッサによる実行のためのプログラムを格納するコンピュータ読み取り可能な非一時的記憶媒体と
を具備し、
前記プログラムは、
1つ以上のSTAへの伝送リソースのシグナリングを、アクセスポイント(AP)から受信するための命令であって、前記伝送リソースが、前記WLANにおける前記1つ以上のSTAによる直交周波数分割多元接続(OFDMA)同時伝送を可能にし、前記シグナリングが、前記1つ以上のSTAのうちの1つのSTAのための媒体アクセス制御(MAC)フレームのOFDMAサブヘッダで搬送され、前記OFDMAサブヘッダが、OFDMA制御情報を前記1つ以上のSTAのうちの前記1つのSTAに搬送するためのOFDMA制御フィールドとして専用のものである、命令と、
前記OFDMA制御情報に従って、前記APと通信を行うための命令と
を含む、装置。
【請求項21】
前記OFDMA制御情報が、前記1つ以上のSTAのうちの前記1つのSTAに割り当てられたサブキャリアのグループを示す、請求項20に記載の装置。
【請求項22】
前記MACフレームが、MACデータフレームである、請求項20に記載の装置。
【請求項23】
前記伝送リソースの前記シグナリングが、OFDMA制御情報を前記1つ以上のSTAに搬送する明示的なシグナリングである、請求項20から22のいずれか一項に記載の装置。
【請求項24】
前記OFDMAサブヘッダが、前記1つ以上のSTAに通信パラメータを示すための複数のサブフィールドを含む、請求項20から23のいずれか一項に記載の装置。」

第4 引用例の記載事項及び引用発明

1.引用例1について
原査定の拒絶理由で引用された、Stefan Valentin et.al.,Integrating multiuser dynamic OFDMA into IEEE802.11 WLANs − LLC/MAC extensions and system performance(以下、「引用例1」という。)には、以下の事項が記載されている。(下線は当審で付した。)

(1) 「

」(3329ページ左欄、Fig.1)

(当審仮訳:図1 (セルと呼ばれる)同一の衝突領域内におけるJ^個のうちJ個の無線端末(WT)に対して、独立した時間及び周波数選択性フェージングチャネルを介して伝送する1つのアクセスポイント(AP)を備えた、考慮されるWLANシナリオ)

(2) 「We explain the differences between the standard RTS/CTS cycle and our OFDMA-extended RTS/CTS scheme (eRTS/eCTS for short) using the example of Fig. 4; here, the AP transmits a single LLC frame to each of two WTs. Standard IEEE 802.11 needs two independent, sequential RTS/CTS cycles (Fig. 4(a)). The eRTS/eCTS scheme supports the simultaneous OFDMA broadcast of both frames in the two transmitted LLC fragments (Fig. 4(b)).」(3331ページ右欄5行ないし12行)

(当審仮訳: 我々は、図4の例(ここでAPは2つのWTそれぞれに対して単一のLLCフレームを伝送する)を用いて、標準のRTS/CTSサイクル及び我々のOFDMA拡張RTS/CTS(eRTS/eCTSと略す)方式の間の相違について説明する。標準のIEEE802.11は、2つの独立した連続的なRTS/CTSサイクルを必要とする(図4(a))。eRTS/eCTS方式は、2つの伝送されたLLCフラグメントにおいて両方のフレームの同時OFDMAブロードキャストをサポートする(図4(b))。)

(3) 「

」(3331ページ右欄、Fig.4)

(当審仮訳:(a) 標準伝送に対する2つのRTS/CTSサイクル
(b) 動的OFDMAに対する1つのeRTS/eCTSサイクル
図4 2つのWTのそれぞれに対して単一のLLCフレームを伝送するために必要とされる標準及び拡張RTS/CTSサイクルのMSCの例)

(4) 「The AP proceeds by fragmenting the LLC frames for all J WTs according to the current subcarrier allocation (Sec. III) and transmits, an SIFS after the last eCTS, the first fragment for each WT (Fl in Fig. 4(b)). At the beginning of a fragment, a single extended PLCP (ePLCP) header is transmitted at the lowest PHY rate over all subcarriers and signals the allocated subcarriers and transmission rates to each WT. Each WT demodulates the ePLCP, determines itsassigned subcarriers for its payload, and receives its first LLC fragment.」(3332ページ左欄17行ないし25行)

(当審仮訳:APは、現在のサブキャリア割り当て(セクションIII)に従って、J個のWT全てに対する全LLCフレームをフラグメント化することで処理を進め、そして、最後のeCTSからSIFSの1期間経過後に、各WTに対する最初のフラグメントを伝送する(図4(b)のF1)。フラグメントの先頭で、単一の拡張PLCP(ePLCP)ヘッダが、全サブキャリアにわたって最低のPHYレートで送信され、そして、割り当てられたサブキャリア及び伝送レートを各WTにシグナリングする。各WTは、ePLCPを復調し、自身のペイロードのための自身に割り当てられたサブキャリアを決定し、自身の第1のLLCフラグメントを受信する。)

(5) 「 The subcarrier allocations included in the ePLCP headers allow the WTs to only demultiplex and demodulate from the allocated subcarriers which significantly decreases PHY complexity [13].」(3332ページ右欄9行ないし12行)

(当審仮訳: ePLCPヘッダに含まれるサブキャリア割り当ては、WTに対して、割り当てられたサブキャリアからのデマルチプレクスおよび復調を行うことのみを可能にし、これはPHYの複雑さを著しく低減する[13]。)

引用例1の上記記載、及び無線LAN分野における技術常識を考慮すると、次のことがいえる。

ア 上記(4)には、「APは、・・・各WTに対する最初のフラグメントを伝送する(図4(b)のF1)。フラグメントの先頭で、単一の拡張PLCP(ePLCP)ヘッダが、・・・送信され、そして、割り当てられたサブキャリア・・・を各WTにシグナリングする。」と記載されており、また、上記(1)には、「無線端末(WT)」及び「アクセスポイント(AP)」と記載されており、さらに、上記(5)には、「ePLCPヘッダに含まれるサブキャリア割り当て」と記載されている。
一方、上記(3)の図4(b)からは、「eRTS/eCTSサイクル」の一部において、「AP」が、「WT1」及び「WT2」に対して「DATA1(F1)」ないし「DATA2(F1)」を送ることが見て取れる。
そうすると、引用例1には、eRTS/eCTSサイクルの一部において、アクセスポイントが、各無線端末に対する最初のフラグメントを伝送し、フラグメントの先頭で、サブキャリア割り当てを含むePLCPヘッダが、送信され、割り当てられたサブキャリアを各無線端末にシグナリングすることが、記載されている。

イ 上記(3)の図4(b)からは、「eRTS/eCTSサイクル」は、上記「ア」で検討したアクセスポイントから各無線端末への最初のフラグメントの伝送に加え、アクセスポイントから各無線端末へのeRTSの送信や、各無線端末からアクセスポイントへのeCTSの送信といった複数の手順を含むことが見てとれ、また、上記(1)には、「無線端末(WT)に対して、・・・伝送する1つのアクセスポイント(AP)を備えた、・・・WLAN」と記載されている。
そうすると、前記「eRTS/eCTSサイクル」は、無線端末及びアクセスポイントを備えたWLANにおいて実施される方法といえる。
そして、上記「ア」で検討した、各無線端末への最初のフラグメントの伝送によって、割り当てられたサブキャリアを各無線端末にシグナリングすることは、前記「eRTS/eCTSサイクル」という方法の一部としてアクセスポイントによって実施されるから、引用例1には、WLANにおいて実施されるeRTS/eCTSサイクルのうち、アクセスポイントによって実施される方法が記載されている、といえる。

ウ 上記(5)には、「ePLCPヘッダに含まれるサブキャリア割り当て」と記載されており、また、上記(4)には、「各WTは、ePLCPを復調し、自身のペイロードのための自身に割り当てられたサブキャリアを決定し、自身の第1のLLCフラグメントを受信する。」と記載されており、ここでePLCPを復調することでePLCPヘッダに含まれるサブキャリア割り当ても復調されることは明らかであるから、引用例1には、各無線端末に割り当てられたサブキャリアは、ePLCPヘッダから決定され、各無線端末が自身の第1のLLCフラグメントを受信するために使用されることが記載されている、といえる。

エ 上記(2)には、「eRTS/eCTS方式は、2つの伝送されたLLCフラグメントにおいて両方のフレームの同時OFDMAブロードキャストをサポートする(図4(b))。」と記載されている。

以上を総合すると、引用例1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「 WLANにおいて実施されるeRTS/eCTSサイクルのうち、アクセスポイントによって実施される方法であって、
アクセスポイントが、各無線端末に対する最初のフラグメントを伝送し、フラグメントの先頭で、サブキャリア割り当てを含むePLCPヘッダが、送信され、割り当てられたサブキャリアを各無線端末にシグナリングすることを有し、
各無線端末に割り当てられたサブキャリアは、ePLCPヘッダから決定され、各無線端末が自身の第1のLLCフラグメントを受信するために使用され、
eRTS/eCTS方式は、2つの伝送されたLLCフラグメントにおいて両方のフレームの同時OFDMAブロードキャストをサポートする、方法。」

2.引用例2について
原査定の拒絶理由で引用された、米国特許出願公開第2010/0135495号明細書(以下、「引用例2」という。)には、以下の記載がある。(下線は当審で付した。)

(1) 「In another aspect, methods for wireless communications can include operating one or more base stations to provide wireless communications to wireless devices based on Orthogonal Frequency Division Multiple Access (OFDMA); and providing media access control (MAC) layer packet data unit (PDU) header types to reduce transmission overhead and support adaptive subheaders for OFDMA wireless communications.」(段落[0015])

(当審仮訳:別の側面において、ワイヤレス通信のための方法は、OFDMA(Orthogonal Frequency Division Multiple Access)に基づく無線デバイスに対して無線通信を提供するように1つ以上の基地局を動作させること、及び、伝送オーバーヘッドを低減するとともにOFDMA無線通信のための適応サブヘッダをサポートするために、メディアアクセス制御(MAC)層パケットデータユニット(PDU)ヘッダのタイプを提供すること、を含み得る。」

そうすると、引用例2には、「ワイヤレス通信のための方法は、OFDMA無線通信のための適応サブヘッダをサポートするために、メディアアクセス制御(MAC)層パケットデータユニット(PDU)ヘッダのタイプを提供することを含み得る」という技術的事項が記載されていると認められる。

第5 対比・判断

1.本願発明1について
本願発明1と引用発明とを対比する。
(1) 引用発明の「WLAN」は、Wireless Local Area Network、すなわちワイヤレスローカルエリアネットワーク、を意味することが、無線LAN分野の技術常識であるから、本願発明1の「ワイヤレスローカルエリアネットワーク(WLAN)」に相当する。
また、引用発明の「アクセスポイント」は、装置により実現されることが明らかであるから、本願発明1の「アクセスポイント側装置」に相当する。
そうすると、引用発明の「WLANシナリオにおいて実施されるeRTS/eCTSサイクルのうち、アクセスポイントによって実施される方法」は、「ワイヤレスローカルエリアネットワーク(WLAN)においてアクセスポイント側装置によって実施される方法」である点で、本願発明1と一致する。

(2) 引用発明の「サブキャリア」は、伝送リソースの一種であることが無線LAN分野における技術常識であるから、本願発明1の「伝送リソース」に相当し、また、引用発明の「無線端末」は、本願発明1の「無線局(STA)」に含まれる。
そして、「各無線端末にシグナリングする」とあるように、引用発明のシグナリングが1つ以上の無線端末に対してなされることは明らかであるから、引用発明の、「アクセスポイントが、・・・サブキャリアを各無線端末にシグナリングすること」は、「伝送リソースを1つ以上の無線局(STA)にシグナリングするステップ」である点で、本願発明1と共通する。

一方、引用発明の「2つの伝送されたLLCフラグメントにおいて両方のフレームの同時OFDMAブロードキャストをサポートする」ことは、アクセスポイントから無線端末(例えばWT1)へ向けたLLCフラグメントのフレームと、当該アクセスポイントから他の無線端末(例えばWT2)へ向けたLLCフラグメントのフレームとの、OFDMA同時伝送を意味するといえる。
そうすると、引用発明のeRTS/eCTS方式、すなわちeRTS/eCTSサイクルは、アクセスポイントが、各無線端末に対する最初のフラグメントを伝送し、フラグメントの先頭で、サブキャリア割り当てを含むePLCPヘッダが送信され、各無線端末に割り当てられたサブキャリアは、ePLCPヘッダから決定され、各無線端末が自身の第1のLLCフラグメントを受信するために使用されることにより、2つの伝送されたLLCフラグメントにおいて両方のフレームの同時OFDMAブロードキャストをサポートするものといえるから、引用発明の「割り当てられたサブキャリア」は、「前記WLANにおける前記1つ以上のSTAによる直交周波数分割多元接続(OFDMA)同時伝送を可能にする」点で、本願発明1の「前記伝送リソース」と共通するといえる。
以上をまとめると、引用発明の「アクセスポイントが、各無線端末に対する最初のフラグメントを伝送し、フラグメントの先頭でサブキャリア割り当てを含むePLCPヘッダが送信され、割り当てられたサブキャリアを各無線端末にシグナリングすること」、「各無線端末に割り当てられたサブキャリアは、ePLCPヘッダから決定され、各無線端末が自身の第1のLLCフラグメントを受信するために使用され」ること、及び「eRTS/eCTS方式は、2つの伝送されたLLCフラグメントにおいて両方のフレームの同時OFDMAブロードキャストをサポートするものである」ことは、「伝送リソースを1つ以上の無線局(STA)にシグナリングするステップであって、前記伝送リソースが、前記WLANにおける前記1つ以上のSTAによる直交周波数分割多元接続(OFDMA)同時伝送を可能にする、ステップ」である点で、本願発明1と一致する。

以上のことから、本願発明1と引用発明の一致点及び相違点は、次のとおりである。

(一致点)
「 ワイヤレスローカルエリアネットワーク(WLAN)においてアクセスポイント側装置によって実施される方法であって、
伝送リソースを1つ以上の無線局(STA)にシグナリングするステップであって、前記伝送リソースが、前記WLANにおける前記1つ以上のSTAによる直交周波数分割多元接続(OFDMA)同時伝送を可能にする、ステップを有する、方法。」

(相違点)
本願発明1は、「前記シグナリングは、前記1つ以上のSTAのうちの1つのSTAのための媒体アクセス制御(MAC)フレームのOFDMAサブヘッダで搬送され、前記OFDMAサブヘッダは、OFDMA制御情報を前記1つ以上のSTAのうちの前記1つのSTAに搬送するためのOFDMA制御フィールドとして専用のものである」という発明特定事項を有するのに対して、引用発明は、シグナリングは、各無線端末に対する最初のフラグメントの先頭でePLCPヘッダにより伝送され、当該発明特定事項を有しない点。

上記相違点について検討すると、伝送リソースをシグナリングする際に、「前記シグナリングは、前記1つ以上のSTAのうちの1つのSTAのための媒体アクセス制御(MAC)フレームのOFDMAサブヘッダで搬送され、前記OFDMAサブヘッダは、OFDMA制御情報を前記1つ以上のSTAのうちの前記1つのSTAに搬送するためのOFDMA制御フィールドとして専用のものである」とすることは、引用例2に記載されておらず、無線LAN分野における周知技術であるともいえない。
そうすると、引用発明において、シグナリングを上記相違点に係る発明特定事項のものとすること、すなわち、「前記シグナリングは、前記1つ以上のSTAのうちの1つのSTAのための媒体アクセス制御(MAC)フレームのOFDMAサブヘッダで搬送され、前記OFDMAサブヘッダは、OFDMA制御情報を前記1つ以上のSTAのうちの前記1つのSTAに搬送するためのOFDMA制御フィールドとして専用のものである」とすることは、当業者であっても、引用発明及び引用例2に記載された技術的事項に基づいて、容易になし得たこととはいえない。

したがって、本願発明は、当業者であっても、引用発明及び引用例2に記載された技術的事項に基づいて、容易に発明をすることができたものとはいえない。

2.本願発明2ないし7について
本願発明2ないし7は、本願発明1の発明特定事項を全て含むから、本願発明1と同じ理由により、当業者であっても、引用発明及び引用例2に記載された技術的事項に基づいて、容易に発明をすることができたものとはいえない。

3.本願発明8ないし14について
本願発明8は、「ワイヤレスローカルエリアネットワーク(WLAN)においてアクセスポイント側装置によって実施される方法」の発明である本願発明1を、「ワイヤレスローカルエリアネットワーク(WLAN)において直交周波数分割多元接続(OFDMA)リソースを管理するための装置」の発明としたものであり、少なくとも、本願発明1の上記相違点に係る発明特定事項と同じ「前記シグナリングは、前記1つ以上のSTAのうちの1つのSTAのための媒体アクセス制御(MAC)フレームのOFDMAサブヘッダで搬送され、前記OFDMAサブヘッダは、OFDMA制御情報を前記1つ以上のSTAのうちの前記1つのSTAに搬送するためのOFDMA制御フィールドとして専用のものである」という発明特定事項を含むものであるから、本願発明1と同じ理由により、当業者であっても、引用発明及び引用例2に記載された技術的事項に基づいて、容易に発明をすることができたものとはいえない。
また、本願発明9ないし14は、本願発明8の発明特定事項を全て含むから、本願発明8と同じ理由により、当業者であっても、引用発明及び引用例2に記載された技術的事項に基づいて、容易に発明をすることができたものとはいえない。

4.本願発明15ないし19について
本願発明15は、「ワイヤレスローカルエリアネットワーク(WLAN)においてアクセスポイント側装置によって実施される方法」の発明である本願発明1と対応する、「ワイヤレスローカルエリアネットワーク(WLAN)における無線局(STA)側装置によって実施される方法」の発明であり、少なくとも、本願発明1の上記相違点に係る発明特定事項と対応する「前記シグナリングが、前記1つ以上のSTAのうちの1つのSTAのための媒体アクセス制御(MAC)フレームのOFDMAサブヘッダで搬送され、前記OFDMAサブヘッダが、OFDMA制御情報を前記1つ以上のSTAのうちの前記1つのSTAに搬送するためのOFDMA制御フィールドとして専用のものである」という発明特定事項を含むものであるから、本願発明1と同じ理由により、当業者であっても、引用発明及び引用例2に記載された技術的事項に基づいて、容易に発明をすることができたものとはいえない。
本願発明16ないし19は、本願発明15の発明特定事項を全て含むから、本願発明15と同じ理由により、当業者であっても、引用発明及び引用例2に記載された技術的事項に基づいて、容易に発明をすることができたものとはいえない。

5.本願発明20ないし24について
本願発明20は、「ワイヤレスローカルエリアネットワーク(WLAN)における無線局(STA)側装置によって実施される方法」の発明である本願発明15を、「ワイヤレスローカルエリアネットワーク(WLAN)における直交周波数分割多元接続(OFDMA)をサポートする無線局(STA)側装置」の発明としたものであり、少なくとも、本願発明1の上記相違点に係る発明特定事項と対応する「前記シグナリングが、前記1つ以上のSTAのうちの1つのSTAのための媒体アクセス制御(MAC)フレームのOFDMAサブヘッダで搬送され、前記OFDMAサブヘッダが、OFDMA制御情報を前記1つ以上のSTAのうちの前記1つのSTAに搬送するためのOFDMA制御フィールドとして専用のものである」という発明特定事項を含むものであるから、本願発明1と同じ理由により、当業者であっても、引用発明及び引用例2に記載された技術的事項に基づいて、容易に発明をすることができたものとはいえない。
また、本願発明21ないし24は、本願発明20の発明特定事項を全て含むから、本願発明20と同じ理由により、当業者であっても、引用発明及び引用例2に記載された技術的事項に基づいて、容易に発明をすることができたものとはいえない。

第6 原査定についての判断

本願発明1ないし24は、上記「第5」の「1.」ないし「5.」のとおり、当業者であっても、引用発明及び引用例2に記載された技術的事項に基づいて、容易に発明をすることができたものとはいえない。
したがって、原査定の理由を維持することはできない。

第7 当審が通知した拒絶理由について

1.当審拒絶理由の概要
当審が令和3年10月28日付け拒絶理由通知書で通知した拒絶理由(以下、「当審拒絶理由」という。)の概要は次のとおりである。

明確性)この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

●(明確性)について
・請求項 7、8、15、16、21、22、27、及び28
請求項7には、以下の記載がある。
「 前記シグナリングが、トラフィック仕様情報要素の1つ以上の専用フィールドで搬送される、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。」
一方、請求項7の記載で引用された請求項1には、以下の記載がある。
「・・・前記シグナリングは、前記1つ以上のSTAのうちの1つのSTAのための媒体アクセス制御(MAC)フレームのOFDMAサブヘッダで搬送され、前記OFDMAサブヘッダは、OFDMA制御情報を前記1つ以上のSTAのうちの前記1つのSTAに搬送するためのOFDMA制御フィールドとして専用のものである・・・」
ここで、請求項1の「前記1つ以上のSTAのうちの1つのSTAのための媒体アクセス制御(MAC)フレームのOFDMAサブヘッダ」と、請求項7の「トラフィック仕様情報要素の1つ以上の専用フィールド」との対応関係が不明であるから、請求項1の記載を引用する請求項7に係る発明は、「前記シグナリング」が何により搬送されるのか、不明確である。
また、請求項15、21、及び27の記載にも、同様の不備がある。

2.当審拒絶理由についての判断
本件補正により、本件補正前の請求項7、15、21、及び27は削除されたから、当審拒絶理由の「●(明確性)について」「・請求項 7、8、15、16、21、22、27、及び28」で指摘した当審拒絶理由は、全て解消された。

第8 むすび

以上のとおり、本願発明1ないし24は、引用例1に記載された発明及び引用例2に記載された技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでない。
したがって、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。

また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2022-04-06 
出願番号 P2018-168658
審決分類 P 1 8・ 121- WY (H04W)
P 1 8・ 537- WY (H04W)
最終処分 01   成立
特許庁審判長 廣川 浩
特許庁審判官 國分 直樹
圓道 浩史
発明の名称 WLANにおけるOFDMAリソース管理のためのシステム及び方法  
代理人 野村 進  
代理人 実広 信哉  

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