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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  G07G
管理番号 1384015
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-05-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-08-06 
確定日 2022-04-15 
分離された異議申立 true 
異議申立件数
事件の表示 特許第6469758号発明「読取装置及び情報提供システム」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6469758号の請求項1〜4に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6469758号(以下「本件特許」という。)の請求項1〜4に係る特許についての出願は、平成29年5月9日に出願され、平成31年1月25日に特許権の設定登録がされ、同年2月13日に特許掲載公報が発行された。
その後、その請求項1〜4に係る特許に対し、令和1年8月6日に、特許異議申立人田中和幸(以下「申立人」ともいう。)より特許異議の申立てがされ、令和1年8月9日に、特許異議申立人株式会社エフテクトより特許異議の申立てがされ、特許権者及び各特許異議申立人に対して令和1年8月27日付けで手続中止通知書が通知され、その後特許権の移転があったので、新たな特許権者株式会社NIP及び各特許異議申立人に対して令和3年2月25日付けで手続続行通知書が通知され、令和4年1月4日に、特許異議申立人株式会社エフテクトより異議取下書が提出され、特許権者株式会社NIP及び特許異議申立人田中和幸に対して令和4年3月15日付けで手続中止解除通知書が通知されたものである。

第2 本件発明
本件特許の請求項1〜4に係る発明(以下それぞれ「本件発明1」〜「本件発明4」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1〜4に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
物品に付されたRFタグから情報を読み取る据置式の読取装置であって、
前記RFタグと交信するための電波を放射するアンテナと、
前記アンテナを収容し、前記物品を囲み、該物品よりも広い開口が上向きに形成されたシールド部と、
を備え、
前記シールド部が上向きに開口した状態で、前記RFタグから情報を読み取ることを特徴とする読取装置。
【請求項2】
前記アンテナよりも前記開口側に配されて、前記物品が載置される載置部を備えた請求項1に記載の読取装置。
【請求項3】
前記シールド部は、
前記電波を吸収する電波吸収層と、
前記電波吸収層の外側に形成され、前記電波を反射させる電波反射層と、
を備えることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の読取装置。
【請求項4】
請求項1〜請求項3のいずれかに記載の読取装置と、
前記読取装置と通信可能な情報提供装置と、
を備え、
前記情報提供装置は、
前記物品に関する物品情報を前記RFタグの情報に対応付けて記憶する記憶部と、
前記読取装置から前記RFタグの情報を取得する取得部と、
取得した前記RFタグの情報に対応する前記物品情報を前記記憶部から抽出して提供すべき情報を生成する情報生成部と、
生成された前記提供すべき情報を出力する出力部と、
を備える情報提供システム。」

第3 申立ての理由の概要
申立人は、証拠として、以下の甲第1〜5号証(以下「甲1」〜「甲5」ということもある。)を提出するとともに、以下の申立ての理由により請求項1〜4に係る特許を取り消すべきものである旨主張している。

1 申立ての理由
本件発明1〜4は、その出願前に日本国内において、頒布された刊行物である甲1に記載された発明及び甲2〜甲5に記載された技術事項に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本件発明1〜4に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、取り消されるべきものである。

2 証拠方法
甲第1号証:特開2006−48599号公報
甲第2号証:特開平11−120438号公報
甲第3号証:特開2000−259947号公報
甲第4号証:特開2011−34587号公報
甲第5号証:特開2002−216245号公報

第4 当審の判断
1 各甲号証の記載事項等
(1)甲1の記載事項等
ア 甲1の記載事項
本件特許の出願前に頒布された甲1には、図面とともに、以下の事項が記載されている。
(1a)
「【技術分野】
【0001】
本発明は、商品データの読み取り処理を実行するチェックアウトカウンタに関する。
【背景技術】
【0002】
この種のチェックアウトカウンタとして、従来、例えば、図7に例示するようなものがある。このチェックアウトカウンタ101は、載置された商品籠102のための占有空間103を上面に有する天板104の上面に、定置式のバーコードスキャナ105とタッチパネル付きの表示器106とを配置している。バーコードスキャナ105の前面は、商品籠102から取り出した商品107に付された図示しないバーコードをバーコードスキャナ105に読み取らせるために、商品107を通過可能な空間として構成されている。
【0003】
このようなチェックアウトカウンタ101には、天板104の一部を開口させて形成した凹部108が設けられている。この凹部108は、チェックアウトカウンタ101の前面空間に連通している。このような凹部108の役割は、商品籠102から取り出した商品107の買物袋109への袋詰め作業を支援することにある。つまり、凹部108には複数枚の買物袋109が積層状態で収納保持されており、そのうちの一枚の買物袋109を開いた状態で位置付けることができるようになっている。そこで、操作者は、商品107に付されたバーコードをバーコードスキャナ105に読み取らせる作業の流れで、凹部108の内部で商品を開いた状態に位置付けた買物袋109にバーコード読み取り後の商品107を次々と入れていくことが可能となる。これにより、買物袋109に対する商品107の袋詰め作業の作業性が向上する。」
(1b)
「【0014】
チェックアウトカウンタ201には、載置された商品籠301の占有空間203に隣接させて、購入しようとする商品302の袋詰めを支援するための構造が用意されている。つまり、天板202の一部が開口して形成された凹部501が設けられている。この凹部501は、側面のうち前面のみが開放され、他の三つの側面は側壁502によって覆われて形成されている。また、凹部501の底面は底壁503となっている。したがって、凹部501は、三つ側壁502と底壁503との四面で囲まれている。このような凹部501には、商品収納用の複数枚の買物袋504を積層状態で収納保持する袋保持部505が設けられている。
・・・
【0016】
図3は、凹部501に収納保持された買物袋504のうちの一枚の買物袋504が開いた状態で凹部501に位置付けられた状態を示す袋保持部505の斜視図である。フック506に支持させた複数枚の買物袋504のうち、最も手前側に位置する買物袋504をフック506から外す。この際、買物袋504は二つの把手507を有し、各把手507に開口部508が形成されているので、手前側に位置する把手507のみをフック506から外すようにする。すると、もう一方の把手507はフック506に支持されたままなので、買物袋504は、自ずと開いた状態になる。つまり、フック506によって構成されている袋保持部505は、複数枚の買物袋504を積層状態で収納保持するのみならず、収納保持された買物袋504のうちの一枚の買物袋504を開いた状態で凹部501に位置付けるという役割も果たす。
【0017】
図4は、開かされた買物袋504に商品302が袋詰めされた状態を示す全体の正面図である。袋保持部505によって、買物袋504のうちの一枚の買物袋504は開かれた状態で凹部501に位置付けられることから、この買物袋504に対する商品302の袋詰め作業が容易になる。そこで、お客様は、次から次へと、開かれた状態で凹部501に位置付けられている買物袋504に商品302を袋詰めすることができる。
【0018】
ここで、図1及び図4に示すように、凹部501の三つの側壁502及び底壁503には、RFID用アンテナ405が設けられている。図1及び図4では、三つの側壁502及び底壁503の四面全てにRFID用アンテナ405を示しているが、RFID用アンテナ405は少なくとも1つの面に配置されていれば良い。つまり、RFID用アンテナ405は、開いた状態で凹部501に位置付けられる買物袋504の周囲空間の少なくとも一部に配置されていれば良い。
【0019】
RFID用アンテナ405が設けられていることからも明らかなように、チェックアウトカウンタ201は、買物袋504に袋詰めされた商品302との間でRFID技術を利用した通信を実行する。つまり、個々の商品302には、その商品302の商品コード等の商品データを記憶する図示しないRFIDタグが付されている。そこで、チェックアウトカウンタ201は、買物袋504に袋詰めされた商品302に付されたRFIDタグとの間で無線通信を実行し、これによってRFIDタグが記憶する商品データを獲得する(無線通信手段)。この際、無線通信手段は、RFIDタグとの間でRFID用アンテナ405を介して無線通信を実現する。
【0020】
図5は、各部の電気的接続のブロック図である。前述した表示器403やタッチパネル404等の各部は、マイクロコンピュータ451によって制御される。マイクロコンピュータ451は、各種演算処理を実行して各部を集中的に制御するCPU452にROM453及びRAM454がバス接続されている構成されている。このように構成されたマイクロコンピュータ451には、表示器403が表示器I/F455を介して接続され、タッチパネル404がタッチパネルI/F456を介して接続されている。また、図示しないPOS端末等のような外部機器との間でのデータ通信を実現するための通信I/F457もマイクロコンピュータ451に接続されている。
【0021】
前述したように、チェックアウトカウンタ201は、無線通信手段を有する。無線通信手段は、買物袋504に袋詰めされた商品302に付されたRFIDタグとの間でRFID用アンテナ405を介して無線通信を実行し、これによってRFIDタグが記憶する商品データを獲得する。このような機能を実現するための構成として、チェックアウトカウンタ201は、RFID用無線部457を備える。このRFID用無線部457は、マイクロコンピュータ451に接続され、マイクロコンピュータ451との間でデジタルデータの送受信が可能になっている。そして、RFID用無線部457は、RFID用アンテナ405を接続し、このRFID用アンテナ405を介して、商品302に付されたRFIDタグとの間での無線通信を実現する無線通信回路を内蔵している。」
(1c)
「【0022】
本実施の形態において、商品302に付されたRFIDタグとしては、パッシブタグが用いられる。そこで、RFID用無線部457は、RFIDタグにパワーを供給し得る構成、具体的には、一例として電磁誘導方式でRFIDタグにパワーを供給する。この場合、一例として、本実施の形態のRFID用無線部457は、13.56MHzの周波数帯を利用する。この周波数帯を利用するRFID通信は、最大で1m程度の交信距離を有するため、買物袋504に袋詰めされた全ての商品302に付されたRFIDタグとの間の通信を実行する上で、適した通信方式であるからである。つまり、13.56MHzの周波数帯を利用するRFID通信は、買物袋504に袋詰めされた全ての商品302に付されたRFIDタグとの間で漏れなく通信したいという要請と、買物袋504に袋詰めされた商品302以外の他の商品302に付されたRFIDタグとの間の通信を抑止したいという要請とを、理想的に調和させ得る。
【0023】
もっとも、RFID通信技術での通信可能距離は、RFID用アンテナ405の磁束の強さやRFIDタグの側のコイルの巻き数等に依存性を持つため、必ずしも13.56MHzの周波数帯を利用した電磁誘導方式のみが唯一の選択肢というわけではない。前述した二つの要請を調和させ得る構成であれば、他の選択肢も許容し得ることは言うまでもない。」
(1d)
「【0024】
図6は、商品データの読み取り処理の流れを示すフローチャートである。CPU452は、初期表示として、表示器403に案内画面を表示させる(ステップS101)。案内画面は、例えば、商品籠301を載置したら買物袋504を開き、商品籠301から取り出した商品302を次々と買物袋504に袋詰めすべきことを案内する。
【0025】
続いて、CPU452は、商品データの読み取り有無の判定に待機する(ステップS102)。この状態で、開いた買物袋504に商品302が投入されると、RFID用無線部457は、RFID用アンテナ405を介して、当該商品302に付されたRFIDタグに電磁誘導方式でパワーを供給する。この際、RFID用無線部457は、RFIDタグに流すパワー供給用の電流に商品データの送信を命令するコマンドデータを載せているため、RFIDタグはそのコマンドに応じて商品データ、少なくとも商品コードの情報を載せた電波をRFID用アンテナ405に向けて送信する。RFID用無線部457は、RFID用アンテナ405を介して商品コードを乗せた電波を受信し、これを増幅し検波してデジタル信号に変換する。そこで、変換したデジタル信号をRFID用無線部457がCPU452に送信することで、CPU452は商品コードを含む商品データを認識する。これにより、CPU452は、商品データの読み取りがあったと判定し(ステップS102のY)、読み取った商品データを例えばRAM454のワークエリア等を利用して一時記憶し(ステップS103)、表示器403に表示する画面表示を更新する(ステップS104)。」
(1e)
図1〜7は、以下のとおりである。


イ 甲1に記載された発明
摘記(1c)及び(1e)から、甲1には、次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。

[甲1発明]
「側面のうち前面のみが開放され、他の三つの側面は側壁502によって覆われ、底面は底壁503となっている、三つ側壁502と底壁503との四面で囲まれている凹部501の、三つの側壁502及び底壁503の少なくとも1つには、RFID用アンテナ405が設けられ、
開かれた状態で凹部501に位置付けられている買物袋504に袋詰めされた商品302に付されたRFIDタグとの間で、RFID用アンテナ405を介して無線通信を実行しRFIDタグが記憶する商品データを獲得する無線通信手段を有する、
商品データの読み取り処理を実行するチェックアウトカウンタ201。」

(2)甲2の記載事項
本件特許の出願前に頒布された甲2には、図面とともに、以下の事項が記載されている。
(2a)
「【0006】本発明は上記の点に着目してなされたもので、スムーズな精算処理を可能にして利便性の向上を図った低コストの精算システムを提供することを目的とする。
・・・
【0014】
【発明の実施の形態】以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。図1は、本実施形態の精算システムの構成を示すブロック図を示す。図1において、本精算システムは、例えば、スーパーマーケット等の店内に置かれる各商品1に、商品情報を非接触で発信する商品情報発信手段としてのタグ10がそれぞれ取り付けられる。商品情報は、例えば、その商品の識別データ及び価格等を示すものとする。タグ10は、商品情報等を記憶する記憶部10aと、該記憶部10aの記憶情報を外部に発信すると共に、外部から送られる信号を受信して記憶部10aの情報を書き換える通信部10bとを内蔵する。
【0015】また、店内には、商品を持ち運ぶための容器としての、例えば、買物かごやカート等が用意され(ここでは、カート2を使用するものとする)、それぞれのカート2には、投入された商品1に付されたタグ10から発信される商品情報を受信する容器内アンテナとしてのアンテナ20と、受信した商品情報を基にカート2内の商品の出入りを管理し商品の価格の合計金額を求めると共に、その管理情報を外部に発信する管理演算手段としての管理演算部21と、求められた合計金額を利用者に表示する出力手段としての表示部22と、が設けられる。
【0016】図2には、カート2の外観図を示す。図のように、カート2は、例えば、かご部の内側の全面がアンテナ20とされ、外側の側面を図示されないシールド材で覆うことによって、かご部の内部のみがアンテナ20の受信範囲となり、このアンテナ20には、管理演算部21が接続されている。また、管理演算部21で演算された合計金額を表示する表示部22が、カート2を押す利用者の見やすい位置に設けられる。」
(2b)
図2は、以下のとおりである。

(3)甲3の記載事項
本件特許の出願前に頒布された甲3には、図面とともに、以下の事項が記載されている。
(3a)
「【0011】
【課題を解決するための手段】上記目的を達成するために、本発明の第1の特徴とする販売管理システムは、予め商品情報が記録された電子タグを用いた商品の販売を管理する販売管理システムであって、前記商品の販売情報を管理するためのサーバと、前記電子タグが付された購入対象商品を収納して運搬するカートと、前記カートに配設され前記電子タグと前記サーバとの間で商品情報の送受信を非接触で行なうクライアントとから成ることを特徴とする。
・・・
【0023】次に、図4及び図1によりカートについて説明する。図4(a)はカートの斜視図で、(b)はカートを上から見た図でカート内面を表したものである。図4から分かるようにカート本体6の内面には送受信器B31のアンテナ311nと送受信器A33のアンテナ331nとが交互に複数配設されており、これらのアンテナは制御装置32を介して処理装置21に接続されている。また、アンテナ311n,331nはクライアント2に接続されている。更に、カート6の外面は金属性の薄板材などマイクロ波などを遮断するような材質で作成されている。これは、他のカートなどの意図しない電子タグからの情報を不正に受信しないためである。また、それぞれのカートには、カート毎の売価計算を行うためのカート番号札が付けられている。」
(3b)
図4は、以下のとおりである。

(4)甲4の記載事項
本件特許の出願前に頒布された甲4には、図面とともに、以下の事項が記載されている。
(4a)
「【0016】
本発明はこのような事情に基づいてなされたものであり、その目的とするところは、複数の無線タグが不規則に存在し得る環境下においても、無線タグリーダまたは無線タグリーダ・ライタが無線通信を行う対象の無線タグとのみ確実に通信を行えるようにする電波遮蔽ケースを提供しようとするものである。
・・・
【0037】
(第2の実施の形態)
第2の実施の形態における電波遮蔽ケース5の外観を図3に示す。また、この電波遮蔽ケース5を無線タグリーダ・ライタ2に適用した一例を図4に示す。なお、第1の実施の形態と同一部分については同一符号を付し、詳しい説明を省略する。
【0038】
図示するように、電波遮蔽ケース5は、ケース本体50を、略正六面体をなす矩形状のボックスで構成している。すなわち、略正方形の第1の面51と、この第1の面51の4辺からそれぞれ鉛直方向に同一サイズで連設された略正方形の第2〜第5の面52〜55(53は不図示)と、これら第2〜第5の面52〜55の第1の面51と接合した辺とは反対側の各辺に接合する略正方形の第6の面56とから、ケース本体50を構成している。第1〜第6の各面51〜56は、いずれも金属板からなる。
【0039】
ケース本体50は、その第2の面52の略中央部に、無線タグリーダ・ライタ2のアンテナ22を挿入可能なアンテナ用スリット57を形成している。アンテナ用スリット57は、その長手方向を第1の面51と平行な方向としている。
また、ケース本体50は、その第2の面52の中央部より第6の面56側に、無線タグ3が貼付されたラベル30を挿入可能な無線タグ用スリット58を、前記アンテナ用スリット57と略平行に形成している。ケース本体50の内面は、前記アンテナ用スリット57と無線タグ用スリット58とが形成された部分を除いて、電波吸収体59で被覆している。
・・・
【0046】
ここで、本実施の形態では、アンテナ22の読取り面23がケース本体50の内部に収容された状態で、その読取り面23からタグ問合せ用の電波が送信される。この電波は、読取り面23からいかなる方向へ伝播してもケース本体50の内面に貼り付けられた電波吸収体19を通って、金属板からなる第1〜第6の面51〜56で反射する。したがって、電波がケース本体50の外部に漏れることはほとんどない。また、電波吸収体19を通過することによって、各面51〜56での反射波は弱いものとなる。」
(4b)
図3、図4は、以下のとおりである。

(5)甲5の記載事項
本件特許の出願前に頒布された甲5には、以下の事項が記載されている。
(5a)
「【0015】本発明の買い物カゴ2は、図1に示すように、商品識別信号5を発信するタグ4を付設してある商品3を収容自在な収容部7を設け、商品購入予定の上限値を入力自在な入力部8を設け、購入のために選択した商品3のタグ4からの商品識別信号5を受信する受信部9を設け、受信部9で受信した商品識別信号5に対応する商品価額の集計値を算出する演算部11を設け、入力部8で入力した上限値と集計値とを比較して、集計値が上限値を超えた値か否かを判別する判別部12を設け、判別部12により集計値が上限値よりも大きくなったと判別されたときに商品購入者に対して報知する報知部13を設けて構成されている。
・・・
【0023】本発明の店舗1及び買い物カゴ2について、商品購入の流れに沿って説明する。
1)まず、商品購入者が今回の商品購入予定に計画している予算の上限値を入力部から入力した後、店舗1内を移動しながら商品陳列部6から購入する商品3を選択して、商品購入者が搬送している買い物カゴ2の収容部7内に投入していく。
2)収容部7内に投入された各商品3に付設のタグ4から発信される商品個別の商品識別信号5が、受信部9で受信される。
3)次に、受信部9で受信した商品識別信号5に対応する価格情報が記憶部10から引き出され、この価格情報に基づいて収容部7内の商品全ての商品価額が演算部11で集計される。
4)そして、演算部11により演算処理された集計値が、入力部8で入力された予算の上限値よりも大きくなったと判別部12により判別されると、報知ブザー14を作動して商品購入者に対して報知する。この報知により、当初の予算以上に商品3を購入し過ぎたということがわかり、買い物カゴ2内の商品3を減らしたり、価格の安いものと交換したりすることで予算に応じた商品購入を行うことができるようになる。」

2 対比・判断
2−1 本件発明1について
(1)対比
本件発明1と甲1発明とを対比する。

甲1発明の「チェックアウトカウンタ201」が据置式であることは明らかであるから(図1〜4も参照)、甲1発明の「商品302」、「RFIDタグ」及び「商品データの読み取り処理を実行するチェックアウトカウンタ201」は、それぞれ、本件発明1の「物品」、「RFタグ」及び「据置式の読取装置」に相当する。
また、甲1発明の「RFIDタグが記憶する商品データを獲得する」ことは、本件発明1の「RFタグから情報を読み取る」ことに相当する。
したがって、甲1発明の「開かれた状態で凹部501に位置付けられている買物袋504に袋詰めされた商品302に付されたRFIDタグとの間で、RFID用アンテナ405を介して無線通信を実行しRFIDタグが記憶する商品データを獲得する無線通信手段を有する、商品データの読み取り処理を実行するチェックアウトカウンタ201」は、本件発明1の「物品に付されたRFタグから情報を読み取る据置式の読取装置」に相当する。

甲1発明の「RFID用アンテナ405」は、「RFIDタグが記憶する商品データを獲得する無線通信手段」が、「RFIDタグとの間で」「無線通信を実行」するために「介し」ているものであるから、「RFIDタグ」と交信するための電波を放射することが明らかである。
したがって、甲1発明の「RFID用アンテナ405」は、本件発明1の「前記RFタグと交信するための電波を放射するアンテナ」に相当する。

上記アを踏まえると、甲1発明の「開かれた状態で凹部501に位置付けられている買物袋504に袋詰めされた商品302に付されたRFIDタグとの間で、RFID用アンテナ405を介して無線通信を実行しRFIDタグが記憶する商品データを獲得する無線通信手段を有する、商品データの読み取り処理を実行するチェックアウトカウンタ201」と、本件発明1の「前記シールド部が上向きに開口した状態で、前記RFタグから情報を読み取る」「読取装置」とは、「前記RFタグから情報を読み取る読取装置」において、共通している。

以上を踏まえると、本件発明1と甲1発明との一致点及び相違点は、以下のとおりである。
<一致点>
「物品に付されたRFタグから情報を読み取る据置式の読取装置であって、
前記RFタグと交信するための電波を放射するアンテナを備え、
前記RFタグから情報を読み取る読取装置。」
<相違点>
「前記RFタグから情報を読み取る」ことについて、本件発明1では、「前記アンテナを収容し、前記物品を囲み、該物品よりも広い開口が上向きに形成されたシールド部を備え、前記シールド部が上向きに開口した状態で、」前記RFタグから情報を読み取るのに対して、甲1発明では、「開かれた状態で凹部501に位置付けられている買物袋504に袋詰めされた商品302に付されたRFIDタグとの間で、RFID用アンテナ405を介して無線通信を実行しRFIDタグが記憶する商品データを獲得する無線通信手段を有」し、「商品データの読み取り処理を実行する」が、シールド部を備えていない点。

(2)判断
ア 相違点について
相違点について、以下検討する。
(ア)

甲2について、摘記(2a)の段落【0016】の「図2には、カート2の外観図を示す。図のように、カート2は、例えば、かご部の内側の全面がアンテナ20とされ、外側の側面を図示されないシールド材で覆うことによって、かご部の内部のみがアンテナ20の受信範囲とな」るという記載と、図2(摘記(2b))とを参照すると、「カート2」の「かご部」は、かご部の外側の側面をシールド材で覆う構成に加え、かご部の底の外側もシールド材で覆う構成も、実質的に備えているものと解され、当該記載の「シールド材」は、内側の全面がアンテナ20とされたカート2のかご部の内部のみがアンテナ20の受信範囲となるように、カート2のかご部の外側の全面を覆うシールド材として認定できる。
したがって、甲2には、「内側の全面がアンテナ20とされたカート2のかご部の内部のみがアンテナ20の受信範囲となるように、カート2のかご部の外側の全面を覆うシールド材」(以下「甲2に記載された技術事項」という。)が記載されていると認められる。
甲2に記載された技術事項の「内側の全面がアンテナ20とされたカート2のかご部」は、商品(物品)を入れるための開口が上向きに形成された凹部の態様となっていることが明らかである(摘記(2b)の図2も参照。)。
このことを踏まえると、甲2に記載された技術事項の「カート2のかご部の外側の全面を覆うシールド材」は、カート2のかご部(商品(物品)を入れるための開口が上向きに形成された凹部)の全ての壁の外側に設けられ、アンテナを収容し、物品を囲み、該物品よりも広い開口が上向きに形成されたシールド部となっているといえるから、甲2に記載された技術事項「内側の全面がアンテナ20とされたカート2のかご部の内部のみがアンテナ20の受信範囲となるように、カート2のかご部の外側の全面を覆うシールド材」は、「開口が上向きに形成された凹部の全ての壁の外側に設けられた、アンテナを収容し、物品を囲み、該物品よりも広い開口が上向きに形成されたシールド部」であるといえる。

摘記(3a)の段落【0023】の記載から、甲3には、「内面に送受信器B31のアンテナ311nと送受信器A33のアンテナ331nとが交互に複数配設されているカート本体6の、金属性の薄板材などマイクロ波などを遮断するような材質で作成されている外面」(以下「甲3に記載された技術事項」という。)が記載されていると認められる。
甲3に記載された技術事項の「内面に送受信器B31のアンテナ311nと送受信器A33のアンテナ331nとが交互に複数配設されているカート本体6」は、商品(物品)を入れるための開口が上向きに形成された凹部の態様となっていることが明らかである(摘記(2c)の図4も参照。)。
このことを踏まえると、甲3に記載された技術事項の「カート本体6の、金属性の薄板材などマイクロ波などを遮断するような材質で作成されている外面」は、部カート本体6(商品(物品)を入れるための開口が上向きに形成された凹部)の全ての壁の外側に設けられ、アンテナを収容し、物品を囲み、該物品よりも広い開口が上向きに形成されたシールド部となっているといえるから、甲3に記載された技術事項「内面に送受信器B31のアンテナ311nと送受信器A33のアンテナ331nとが交互に複数配設されているカート本体6の、金属性の薄板材などマイクロ波などを遮断するような材質で作成されている外面」は、「開口が上向きに形成された凹部の全ての壁の外側に設けられた、アンテナを収容し、物品を囲み、該物品よりも広い開口が上向きに形成されたシールド部」であるといえる。

上記a及びbのとおりであるから、甲2ないし甲3には、「開口が上向きに形成された凹部の全ての壁の外側に設けられた、アンテナを収容し、物品を囲み、該物品よりも広い開口が上向きに形成されたシールド部」(以下「甲2ないし甲3に記載された周知技術」という。)が記載されていると認められる。
なお、甲4については、摘記(4a)の段落【0038】の「第1〜第6の各面51〜56は、いずれも金属板からなる」という記載、同【0039】の「第2の面52の略中央部に、無線タグリーダ・ライタ2のアンテナ22を挿入可能なアンテナ用スリット57を形成している」という記載、同【0046】の「電波は、・・・金属板からなる第1〜第6の面51〜56で反射する」という記載、及び、図3、図4を参照すると、「金属板からなる」「第2の面52」が上側の面となっており、上側の面である「金属板からなる」「第2の面52」には、「アンテナ用スリット57」等が形成れているものの、上側は大部分が「金属板」で覆われているから、開口が上向きに形成されているとまではいえず、甲4の「金属板」は、開口が上向きに形成されたシールド部の態様とはなっていないから、甲4には、上記の周知技術が開示されているとはいえないし、甲5については、シールド技術自体が記載されていないから、上記の周知技術が開示されているとはいえない。
(イ)
甲1発明は、「凹部501」の「側面のうち前面のみが開放され」ているところ、前面が開放されていることにより、前面及び上面から手を凹部501に入れることができるから、すなわち、楽な姿勢で手を凹部501に入れることができるから、「買物袋504」を開く動作もその「開かれた状態」を維持することも楽な姿勢で行うことができ、「表示器403に」「表示さ」れる「案内画面」(摘記(1d)の段落【0024】)を見ながら、「商品302」を「開かれた状態で凹部501に位置付けられている買物袋504に袋詰め」することが容易にできるという作用効果が得られることが明らかである。
この作用効果は、甲1発明の前提となる背景技術を説明する段落【0003】の「この凹部108は、チェックアウトカウンタ101の前面空間に連通している。このような凹部108の役割は、商品籠102から取り出した商品107の買物袋109への袋詰め作業を支援することにある。」という記載からも、明らかである。
(ウ)
これに対して、甲1発明において「凹部501」の前面を壁などで覆ってしまうと、凹部の上面からだけしか手を入れることができなくなり、「買物袋504」を開く際に腕が前面の壁に当たるなどして開く動作が困難になるし、「開かれた状態」を維持するためには不自然な姿勢をとり続ける必要があり、「表示器403に」「表示さ」れる「案内画面」を見ながら、「商品302」を「開かれた状態で凹部501に位置付けられている買物袋504に袋詰め」することが楽な姿勢で容易に行うことができなくなることが明らかである。
したがって、甲1発明において、「凹部501」の前面を覆うと、上記(イ)で述べた作用効果が得られなくなるから、甲1発明において、「凹部501」の前面を覆うことには、阻害要因が存在する。
(エ)
ここで、甲1の「買物袋504に袋詰めされた全ての商品302に付されたRFIDタグとの間で漏れなく通信したいという要請と、買物袋504に袋詰めされた商品302以外の他の商品302に付されたRFIDタグとの間の通信を抑止したいという要請とを」「調和させ得る構成であれば、他の選択肢も許容し得ることは言うまでもない」という記載(摘記(1c))を参照すると、甲1発明において、「他の選択肢」として、上記(ア)で述べた甲2ないし甲3に記載された周知技術「開口が上向きに形成された凹部の全ての壁の外側に設けられた、アンテナを収容し、物品を囲み、該物品よりも広い開口が上向きに形成されたシールド部」を採用しようとする動機付けは十分にあるといえる。
しかしながら、甲1発明に甲2ないし甲3に記載された周知技術を適用して、甲1発明において、「側面のうち前面のみが開放され、他の三つの側面は側壁502によって覆われ、底面は底壁503となっている、三つ側壁502と底壁503との四面で囲まれている凹部501」の4つの側面と底面の外側全てにシールドを設けて、「RFID用アンテナ405」を収容するように、開口が上向きに形成されたシールド部を備えるようにしようとしても、甲1発明の凹部501は、前面が開放されており前面には壁が存在しておらず、当該凹部501は開口が上向きに形成された凹部ではなく、この凹部501の前面をシールド部で覆うことには、上記(ウ)で述べたとおり阻害要因が存在するから、甲1発明に当該周知技術を適用することはできない。
さらに、上記の周知技術の適用の際に、上記イで述べた阻害要因を回避するために、当該周知技術の一部分だけを取り出して適用し、甲1発明において、凹部501の三つ側壁502と底壁503の外面を全てシールド部で覆うことができたとしても、甲1発明の前面は開放したままであるから、開口が上向きに形成されることはなく、アンテナを収容し、物品を囲み、該物品よりも広い開口が上向きに形成されたシールド部にはならない。
(オ)
したがって、甲1発明に甲2ないし甲3に記載された周知技術を適用して、上記相違点に係る本件発明1の構成とすることは、当業者が容易になし得たとはいえない。
(カ)
また、本件発明1について、念のため、甲1発明に甲4、甲5を適用することについても検討すると、甲4に記載された技術事項及び甲5に記載された技術事項は、上記1(4)及び(5)のとおりであって、これらの技術事項については、上記(ア)cで述べたとおりのことがいえるから、甲1発明に甲4ないし甲5に記載された技術事項を適用して、上記相違点に係る本件発明1の構成とすることは、当業者が容易になし得たとはいえない。

イ 作用効果について
そして、本件発明1は、「シールド部内にアンテナが収容されるので、アンテナから放出される電波の広がりを抑制し、他の機器に対する電波の影響を低減させることができる。また、シールド部が物品よりも広い開口を備えているので、シールド内に物品を配したり、開口上に物品を配するなどしてRFタグの読み取りを行うことができる。その際、シールド部は開口したままで読み取りを行うので、従来のように開口を閉めるといった煩わしい動作を要しない。したがって、読み取り時の利便性を確保しつつ、電波の影響を低減することができる。」(本件明細書の段落【0013】)という格別の作用効果を奏する。

ウ 申立人の主張について
申立人は、特許異議申立書の17ページ下から8行〜18ページ1行において、「甲第1号発明には、・・・購入予定の商品のRFIDタグを漏れなく通信したいという要請と、それ以外の商品のRFIDタグとの通信を抑制したいという要請とを調和される必要性があることが記載されていることから、その効果を最大限得るために、上記周知慣用技術である、アンテナを収容し商品を囲むシールド材を備える構造を、甲1発明に開示されている、間口が上向きに形成された凹部501周辺に配置されているアンテナ405を囲むように適用して、本件特許発明1に係る発明を想到することは、当業者であれば容易である。」と主張するが、申立人が主張する「周知慣用技術」(以下これも「周知技術」という。)についても、上記ア(ウ)〜(オ)で述べたとおりであり、甲4、甲5に記載された技術事項の適用については、上記ア(カ)で述べたとおりであるから、この主張は採用できない。

エ 小括
以上から、本件発明1は、甲1発明及び甲2ないし甲3に記載された周知技術、甲4ないし甲5に記載された技術事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

2−2 本件発明2〜4について
本件発明2〜4は、本件発明1の発明特定事項を全て含み、さらに請求項2〜4の発明特定事項をそれぞれ付加して限定したものであるから、上記2−1(2)と同じ理由により、甲1発明及び甲2ないし甲3に記載された周知技術、甲4ないし甲5に記載された技術事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

3 まとめ
以上のとおり、本件発明1〜4は、甲1に記載された発明及び甲2ないし甲3に記載された周知技術、甲4ないし甲5に記載された技術事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないから、本件発明1〜4に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるとはいえない。
したがって、本件発明1〜4に係る特許は、特許法第113条第2号に該当するものではなく、取り消されるべきものであるとはいえない。
よって、申立ての理由は、理由がない。

第5 むすび
以上のとおり、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、請求項1〜4に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1〜4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2022-04-05 
出願番号 P2017-093449
審決分類 P 1 651・ 121- Y (G07G)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 藤井 昇
特許庁審判官 一ノ瀬 覚
出口 昌哉
登録日 2019-01-25 
登録番号 6469758
権利者 株式会社NIP
発明の名称 読取装置及び情報提供システム  
代理人 浅野 哲平  

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