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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  H01M
審判 全部申し立て 2項進歩性  H01M
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  H01M
管理番号 1384149
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-05-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2021-07-26 
確定日 2021-12-13 
異議申立件数
事件の表示 特許第6818960号発明「セル、セルスタック装置、モジュールおよびモジュール収容装置」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6818960号の請求項1〜10に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
本件の特許第6818960号(以下、「本件特許」という。)の請求項1〜10に係る特許についての出願(以下、「本願」という。)は、2020年(令和 2年) 5月26日(優先権主張 令和 元年 6月 3日)を国際出願日とする出願であって、令和 3年 1月 5日にその特許権の設定登録がされ、同年 1月27日に特許掲載公報が発行され、その後、その請求項1〜10(全請求項)に係る特許について、令和 3年 7月21日差出で特許異議申立人である井上 敬也(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。

第2 特許異議の申立てについて
1 本件特許発明
本件特許の請求項1〜10に係る発明(以下、それぞれ「本件特許発明1」〜「本件特許発明10」といい、総称して「本件特許発明」ということがある。)は、その特許請求の範囲の請求項1〜10に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「【請求項1】
第1電極層と、
該第1電極層上に位置し、Zrを含有する固体電解質層と、
該固体電解質層上に位置し、Ce以外の希土類元素を含むCeO2を含有する中間層と、
該中間層上に位置する第2電極層と、を備えた素子部を有し、
前記中間層は、第1中間層と、該第1中間層と前記固体電解質層との間の少なくとも一部に位置し、ZrおよびCeを含む第2中間層と、を有し、
前記第2電極層から平面視したときに、前記中間層の外周部に位置する前記第2中間層は、前記第2電極層の中央と重なる前記第2中間層より厚い部位を有する、セル。
【請求項2】
第1電極層と、
該第1電極層上に位置し、Zrを含有する固体電解質層と、
該固体電解質層上に位置し、Ce以外の希土類元素を含むCeO2を含有する中間層と、
該中間層上に位置する第2電極層と、を備えた素子部を有し、
前記中間層は、第1中間層と、該第1中間層と前記固体電解質層との間の少なくとも一部に位置し、ZrおよびCeを含む第2中間層と、を有し、
前記第2電極層から平面視したときに、前記中間層の外周部に位置する前記第2中間層の平均厚さが、前記第2電極層の中央部と重なる前記第2中間層の平均厚さより厚い、セル。
【請求項3】
前記第2電極層から平面視したとき、前記中間層の輪郭が、3つ以上の角部および3つ以上の辺部を有し、
少なくとも1つの前記角部に前記第2中間層を有する、請求項1または2に記載のセル。
【請求項4】
前記第2電極層から平面視したとき、前記中間層の輪郭が、3つ以上の角部および3つ以上の辺部を有し、
前記辺部のうち少なくとも2つの辺部に前記第2中間層を有する、請求項1〜3のいずれかに記載のセル。
【請求項5】
前記第2電極層から平面視したとき、前記第2電極層の中央部と重なる前記第固体電解質層の平均厚さが、前記外周部と重なる前記固体電解質層の平均厚さより厚い、請求項1〜4のいずれかに記載のセル。
【請求項6】
さらに、少なくとも1つのガス流路を有する支持体を備え、
前記素子部は、前記支持体上に配置されるとともに、前記第2電極層から平面視したとき、前記ガス流路と重なる第1部位と、前記ガス流路と重ならない第2部位と、を有し、
前記第1部位における前記第2中間層の平均厚さは、前記第2部位における前記第2中間層の平均厚さより薄い、請求項1〜5のいずれかに記載のセル。
【請求項7】
少なくとも1つのガス流路を有する支持体と、
該支持体上に位置する第1電極層、該第1電極層上に位置し、Zrを含有する固体電解質層、該固体電解質層上に位置し、Ce以外の希土類元素を含むCeO2を含有する中間層、及び該中間層上に位置する第2電極層を備えた素子部を有し、
前記素子部は、前記第2電極層から平面視したとき、前記ガス流路と重なる第1部位と、前記ガス流路と重ならない第2部位と、を有し、
前記中間層は、第1中間層と、該第1中間層と前記固体電解質層との間の少なくとも一部に位置し、ZrおよびCeを含む第2中間層と、を有し、
前記第1部位における前記第2中間層の平均厚さは、前記第2部位における前記第2中間層の平均厚さより薄い、セル。
【請求項8】
請求項1〜7のうちいずれかに記載のセルが複数積層されたセルスタックを備える、セルスタック装置。
【請求項9】
請求項8に記載のセルスタック装置と、
該セルスタック装置を収容する収容容器と、を備えるモジュール。
【請求項10】
請求項9に記載のモジュールと、
該モジュールの運転を行うための補機と、
前記モジュールおよび前記補機を収容する外装ケースと、を備えるモジュール収容装置。」

2 異議申立理由の概要
申立人は、証拠方法として、後記する甲第1号証〜甲第8号証を提出し、以下の理由により本件特許の請求項1〜10に係る特許を取り消すべき旨主張している。

(1)申立理由1(新規性
ア 申立理由1−1
本件特許発明1、2、6〜10は、甲第1号証に記載された発明であるから、同発明に係る特許は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号により、取り消されるべきものである。

イ 申立理由1−2
本件特許発明1、2は、甲第2号証に記載された発明であるから、同発明に係る特許は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号により、取り消されるべきものである。

(2)申立理由2(進歩性
ア 申立理由2−1−1
本件特許発明1、2は、甲第1号証に記載された発明、及び甲第2号証、甲第3号証の記載事項に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、同発明に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号により、取り消されるべきものである。

イ 申立理由2−1−2
本件特許発明3、4は、甲第1号証に記載された発明、及び甲第3号証、甲第5号証の記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、同発明に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号により、取り消されるべきものである。

ウ 申立理由2−1−3
本件特許発明5は、甲第1号証に記載された発明、及び甲第6号証、甲第7号証の記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、同発明に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号により、取り消されるべきものである。

エ 申立理由2−2−1
本件特許発明3、4は、甲第2号証に記載された発明、及び甲第3号証、甲第5号証の記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、同発明に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号により、取り消されるべきものである。

オ 申立理由2−2−2
本件特許発明5は、甲第2号証に記載された発明、及び甲第6号証、甲第7号証の記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、同発明に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号により、取り消されるべきものである。

(3)申立理由3(サポート要件)
ア 申立理由3−1
本件特許発明1、3〜6、8〜10は、(ア)中間層8の外周部に位置する第2中間層8bが、中間層8の全周における一部分だけ、第2電極層5の中央Cと重なる第2中間層8bより厚くなっている構成、及び(イ)中間層と第2電極層との面積が一致しており、両者の周縁が全周にわたって重なっている構成を含む点で、本件の発明の詳細な説明において「発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲」を超えるものであり、発明の詳細な説明に記載したものとはいえないから、同発明に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第4号により、取り消されるべきものである。

イ 申立理由3−2
本件特許発明2、3〜6、8〜10は、(ア)中間層8の外周部に位置する第2中間層8bが、中間層8の全周における一部分だけ、第2電極層5の中央Cと重なる第2中間層8bの平均厚さより厚くなっている構成、及び(イ)中間層と第2電極層との面積が一致しており、両者の周縁が全周にわたって重なっている構成を含む点で、本件の発明の詳細な説明において「発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲」を超えるものであり、発明の詳細な説明に記載したものとはいえないから、同発明に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第4号により、取り消されるべきものである。

<証拠方法>
甲第1号証:特開2012−181928号公報
甲第2号証:特開2017−117663号公報
甲第3号証:特開2004−119161号公報
甲第4号証:特開2016−207258号公報
甲第5号証:特開2015−35416号公報
甲第6号証:特開2010−238437号公報
甲第7号証:特開平11−86886号公報
甲第8号証:特開2012−104407号公報
(なお、上記甲第1号証〜甲第8号証を、以下、それぞれ「甲1」〜「甲8」という。)

3 本件特許明細書等の記載
本願の願書に添付した明細書及び図面(以下、「本件特許明細書等」という。)には、次の記載がある(下線は当審が付したものである。また、「・・・」は記載の省略を表す。以下、同様。)。
(1)「【技術分野】
【0001】
本開示は、セル、セルスタック装置、モジュールおよびモジュール収容装置に関する。」

(2)「【発明の概要】
【0006】
本開示のセルは、第1電極層と、該第1電極層上に位置し、Zrを含有する固体電解質層と、該固体電解質層上に位置し、Ce以外の希土類元素を含むCeO2を含有する中間層と、該中間層上に位置する第2電極層と、を備えた素子部を有している。前記中間層は、第1中間層と、該第1中間層と前記固体電解質層との間の少なくとも一部に位置し、ZrおよびCeを含む第2中間層と、を有している。前記第2電極層から平面視したときに、前記中間層の外周部に位置する前記第2中間層は、前記第2電極層の中央と重なる前記第2中間層より厚い部位を有する。」

(3)「【発明を実施するための形態】
【0011】
(セル)
セルスタックを構成するセルの例の1つとして、固体酸化物形の燃料電池セルについて説明する。
・・・
【0014】
図1に示すように、セル1は、支持体2と、第1電極層3、固体電解質層4および第2電極層5を有する素子部6と、を有している。支持体2は、一対の対向する平坦面である第1平坦面n1および第2平坦面n2、および第1平坦面n1と第2平坦面n2とを接続する一対の円弧状の側面mを有する柱状であり、中空平板状であってもよい。
【0015】
素子部6は、支持体2の第1平坦面n1上に位置している。以下、第1電極層3を燃料極層、第2電極層5を空気極層として説明する。支持体2の第2平坦面n2上にはインターコネクタ7が位置している。また、図1に示すセル1は、固体電解質層4と第2電極層5との間に、中間層8を有している。
【0016】
支持体2は、内部に長手方向に沿ってガスを流すガス流路2aを有している。図1に示す支持体2は、6つのガス流路2aを有している。
【0017】
支持体2は、ガス透過性を有し、ガス流路2aに流れる燃料ガスを第1電極層3まで透過させる。支持体2は、導電性を有していてもよい。導電性を有する支持体2は、素子部6で生じた電気を第1電極層3から集電する第1集電体となり、生じた電気を素子部6からインターコネクタ7に集電し易くなる。」

(4)「【0027】
中間層8は、例えばCe以外の希土類元素を含むCeO2系焼結体を用いてもよい。CeO2系焼結体は、例えば、(CeO2)1−x(REO1.5)xで表される組成を有していてもよい。(CeO2)1−x(REO1.5)xの式中において、REはSm、Y、YbおよびGdのうち少なくとも1種であり、xは0<x≦0.3を満足する数である。
【0028】
中間層8は、固体電解質層4と第2電極層5との間に位置し、固体電解質層4の成分と第2電極層5の成分とを反応し難くする役割を有する。固体電解質層4の成分、例えばZrと、第2電極層5の成分、例えば空気極中のSrとが反応すると、高い電気抵抗を有する反応層が生成される。中間層8が固体電解質層4と第2電極層5との間に存在することで、固体電解質層4の成分と第2電極層5の成分とが反応し難くなる。さらに、電気抵抗を低減するという点から、中間層8のREとしてSmまたはGdを用いてもよい。例えば(CeO2)1−x(REO1.5)xとして10〜20モル%のSmO1.5またはGdO1.5が固溶したCeO2を用いてもよい。
【0029】
セル1の中間層8は、第1中間層8aと第2中間層8bとを有している。第1中間層8aは、第2電極層5に接している。第1面8a1は、中間層8の第2電極層5と接する側の面である。第1面8a1の面積は、第2電極層5の面積と同じ、または第2電極層5の面積より大きい。第2電極層5の輪郭は、第1面8a1の輪郭と同じ、または第1面8a1の輪郭の内側に位置している。固体電解質層4の面積は、第1面8a1の面積より大きくてもよい。なお、第1面8a1の輪郭を中間層8の輪郭といい、第1面8a1の面積を中間層8の面積という場合もある。
【0030】
第2中間層8bは、固体電解質層4と第1中間層8aとの間の少なくとも一部に存在する。中間層8に含まれるCeO2と、固体電解質層4に含まれるZrO2とが反応して高い電気抵抗を有する成分が生じることがある。第2中間層8bは、このCeO2とZrO2とが反応した、ZrおよびCeを含む層である。
【0031】
ここで、Zr、CeおよびCe以外の希土類元素の合計100原子%に対し、Zrの比率が15原子%未満である領域を第1中間層8aとし、Ceの比率が5原子%以上、85原子%以下の領域を第2中間層8bとする。第1中間層8aは、Zr、CeおよびCe以外の希土類元素の合計に対し、85原子%以上のCeを含んでいてもよい。固体電解質層4は、Zr、CeおよびCe以外の希土類元素の合計に対し、5原子%未満のCeを含んでいてもよい。
【0032】
中間層8は、例えばCe以外の希土類元素を含むCeO2の原料粉末に溶剤等を添加して作製したスラリーを、固体電解質層4上に塗布し、熱処理して原料粉末を焼結させることで形成される。焼結した中間層8では、固体電解質層4との界面の全面にわたってCeO2とZrO2とが反応しており、第2中間層8bは、中間層8と固体電解質層4との界面全面にわたって概ね均等な厚さとなりやすい。
【0033】
ここで、図2に示すように、平面視した第2電極層5の面積重心を中央Cとし、中央Cから第1面8a1の輪郭までの距離をDとする。このとき、中間層8の外周部とは、中央Cからの距離がD/2以上の部位とし、第2電極層5の中央部とは、中央Cからの距離がD/2未満の部位とする。図3〜図6は、素子部6及びその周辺の中央Cを含む任意の断面を示す。」

(5)「【0034】
本開示のセル1の第1の例の1つでは、第2電極層5から平面視したときに、中間層8の外周部に位置する第2中間層8bが、図3〜6に示すように、第2電極層5の中央Cと重なる第2中間層8bより厚い部位を有している。以下、各層の厚さとは、第1電極層3、固体電解質層4および中間層8が積層された積層方向の厚さである。
【0035】
なお、「中間層8の外周部に位置する第2中間層8b」を単に「外周部の第2中間層8b」といい、「第2電極層5の中央Cと重なる第2中間層8b」を単に「中央Cの第2中間層8b」という場合もある。
【0036】
ZrおよびCeを含む第2中間層8bは、高い電気抵抗を有する。高い電気抵抗を有する第2中間層8bが、素子部6に存在すると、セル1の発電効率を低下させる懸念がある。素子部6は、第1電極層3、固体電解質層4および第2電極層5が重なり合う領域であり、セル1の発電を担う部位である。一般に、平面視したときの第2電極層5の面積は、第1電極層3および固体電解質層4よりも小さいので、発電を担う素子部6の面積は第2電極層5の面積と概ね一致する。したがって、素子部6に位置する第2中間層8bの厚さを薄くする、特に第2電極層5の中央Cと重なる第2中間層8bの厚さを薄くすることで、セル1の発電効率に対する第2中間層8bの影響を小さくすることができる。
【0037】
第2中間層8bは、第1中間層8aの成分と固体電解質層4の成分とが反応して形成されているので、第1中間層8aと固体電解質層4とを強く結合させることができる。したがって、第2中間層8bが厚い、すなわち反応層が厚いと、第1中間層8aが固体電解質層4により強く結合する。
【0038】
第1中間層8aは、特に中間層8の外周部で固体電解質層4から剥離しやすい。中間層8の外周部の第2中間層8bが、第2電極層5の中央Cの第2中間層8bより厚い部位を有することで、外周部において第1中間層8aを固体電解質層4から剥離し難くすることができる。
【0039】
第2電極層5から平面視したとき、中間層8の面積は、第2電極層5の面積より大きくてもよい。このとき、セル1は、中間層8の外周部のうち第2電極層5と重ならない部位に、第2電極層5の中央Cの第2中間層8bより厚い第2中間層8bを有していてもよい。高い電気抵抗を有する第2中間層8bが、外周部のうち第2電極層5と重ならない部位に存在しても、セル1の発電効率には影響しない。
【0040】
また、特に中間層8の輪郭の近傍は、第1中間層8aが固体電解質層4から剥離する起点となりやすい。セル1が、中間層8の輪郭の近くに、中央Cの第2中間層8bよりも厚い第2中間層8bを有することで、第1中間層8aを固体電解質層4からより剥離し難くすることができる。図4に示すように、第2中間層8bは、第2電極層5の輪郭と中間層8の輪郭との間に、最大の厚さを有する部位を有していてもよい。なお、セル1は、中間層8の外周部に、中央Cの第2中間層8bの厚さより薄い第2中間層8bを有していてもよい。
【0041】
また、セル1は、第2電極層5の中央Cと重なる第2中間層8bを有していなくてもよい。」

(6)「【0042】
中間層8の外周部に位置する第2中間層8bの厚さ、および第2電極層5の中央Cと重なる第2中間層8bの厚さは、例えば外周部の積層方向に沿う断面と、中央Cの積層方向に沿う断面の元素分析を行うことで確認できる。具体的には、Zr元素およびCe元素について、断面の面分析または積層方向の線分析を行うことにより第2中間層8bの厚さを確認できる。元素分析は、たとえばエネルギー分散型X線分光(STEM−EDS:Scanning Transmission Electron Microscope−Energy Dispersive x−ray Spectroscopy)を用いて行ってもよい。
【0043】
また、中間層8に含まれるZrおよびCeの比率をSTEM−EDSを用いた定量分析結果から算出し、第2中間層8bの厚さを確認してもよい。具体的には、FIB(Focused Ion Beam)−マイクロサンプリング法を用いて、セル1の第2電極層5、中間層8および固体電解質層4を含む断面の評価用試料を作製する。作製した評価用試料の断面を積層方向に沿って、STEM−EDSを用いて定量分析することで、ZrおよびCeの比率を確認できる。
【0044】
具体的には、中間層8の外周部、および第2電極層5の中央Cにおいて、積層方向に沿って含有元素の定量分析を行う。Zr、CeおよびCe以外の希土類元素の合計100原子%に対し、Ceの比率が5原子%以上、85原子%以下の領域を第2中間層8bとしてその厚さを測定し、比較すればよい。」

(7)「【0045】
本開示のセル1の第2の例の1つでは、第2電極層5から平面視したときに、中間層8の外周部に位置する第2中間層8bの平均厚さが、第2電極層5の中央部と重なる第2中間層8bの平均厚さより厚い。「第2電極層5の中央部と重なる第2中間層8b」を単に「中央部の第2中間層8b」という場合もある。
【0046】
第2の例では、第2電極層5の中央部すなわち素子部6の中央部の第2中間層8bの平均厚さを薄くすることで、素子部6における中間層8の電気抵抗が低くなり、セル1の発電効率に対する第2中間層8bの影響を小さくすることができる。
【0047】
また、第2の例の場合も、外周部において第1中間層8aを固体電解質層4から剥離し難くすることができる。
【0048】
また、外周部の第2中間層8bの平均厚さが厚く、中央部の第2中間層8bの平均厚さが薄いことにより、外周部の中間層8の電気抵抗よりも、中央部の中間層8の電気抵抗が相対的に低くなる。その結果、セル1で生じた電気が中央部に流れやすくなり、セル1の電流経路を制御しやすくなる。
【0049】
セル1は、中間層8の外周部の少なくとも一部に、中央部の第2中間層8bの最大厚さより厚い第2中間層8bを有していてもよい。」

(8)「【0055】
第1の例および第2の例の中間層8は、例えば、固体電解質層4上の該当部分に異なる濃度のCeO2を塗布することで、形成してもよい。また、所望する第2中間層8bの厚さに応じて、固体電解質層4へのCeO2の拡散量を異ならせるようにすることで、中間層8を形成してもよい。
【0056】
固体電解質層4へのCeO2の拡散量を異ならせることで第2中間層8bの厚さを調整する場合には、例えば以下のような方法で中間層8を作製してもよい。まず、Ce以外の希土類元素を含むCeO2原料粉末に溶剤等を添加して作製したスラリーを、固体電解質層4上の第2電極層5を配置する領域の外周部に印刷塗布、または転写し、1400℃以上の最高温度で焼成することで焼結層を形成する。シート状の中間層用成形体を作製して、固体電解質層4の上の第2電極層5を配置する領域の外周部に積層し、焼成して焼結層を形成してもよい。
【0057】
次に、例えば、パルスレーザー蒸着(PLD:Pulesd Laser Deposition)、イオンアシスト蒸着(IAD:Ion Assist Deposition)等の物理・化学蒸着方法等を用いて、固体電解質層4上の第2電極層5を配置する領域の中央部にCe以外の希土類元素例えばGd、Sm等を含むCeO2を製膜する。
【0058】
これにより、Ce以外の希土類元素を含むCeO2とともに固体電解質層4が高温で焼成された外周部には、CeとZrを含む第2中間層8bが形成される。一方、第2電極層5が配置される固体電解質層4上の領域には、物理・化学蒸着法によりCe以外の希土類元素を含むCeO2膜が形成される。この物理・化学蒸着法により形成された膜は比較的緻密であり、粉末を焼結させるような高温、例えば1400℃以上で熱処理する必要がない。そのため、物理・化学蒸着法により形成された膜の場合、CeO2とZrO2とが反応し難い。したがって、第2電極層5が配置される固体電解質層4上の領域には、CeとZrを含む第2中間層8bが形成されにくい。その結果、中間層8の外周部に位置する第2中間層8bには、第2電極層5の中央Cと重なる第2中間層8bの厚さ、または中央部と重なる第2中間層8bの平均厚さよりも厚い部位が生じる。焼結層の固体電解質層4と反応しなかった部位、および蒸着されたCe以外の希土類元素を含むCeO2膜は、第1中間層8aである。なお、熱処理した焼結層上にさらにCe以外の希土類元素を含むCeO2を製膜してもよい。」

(9)「【0065】
本開示のセル1の第3の例の1つについて説明する。図7に示すように、素子部6を第2電極層5から平面視したときに、素子部6のガス流路2aと重なる部位を第1部位6aとし、ガス流路2aと重ならない部位を第2部位6bとする。第3の例の1つでは、第1部位6aにおける第2中間層8bの平均厚さが、第2部位6bにおける第2中間層8bの平均厚さより薄い。ガス流路2aには燃料ガスが流れており、燃料ガスはガス流路2aから支持体2を透過して素子部6に到達する。したがって、ガス流路2aと重なる第1部位6aは、第2部位6bよりも発電量が大きい。第1部位6aにおける第2中間層8bの厚さを、第2部位6bにおける第2中間層8bの厚さよりも薄くすることで、発電量の大きい第1部位6aにおける中間層8の電気抵抗が低くなり、セル1の発電効率を高めることができる。」

(10)「【図1】




(11)「【図2】




(12)「【図3】




(13)「【図7】




4 各甲号証の記載事項、及び引用発明
(1)甲1の記載事項、及び甲1に記載された発明
ア 甲1の記載事項
本願の優先権主張の日前に公知となった甲1には、「固体酸化物形燃料電池セルおよび燃料電池モジュール」(発明の名称)に関し、次の記載がある。
(ア)「【請求項1】
固体電解質層と、該固体電解質層の一方側に燃料極層を、他方側に空気極層を具備してなり、前記固体電解質層と前記空気極層との間に中間層を具備する固体酸化物形燃料電池セルであって、前記中間層が第1中間層と第2中間層とを具備し、前記第1中間層が、前記固体電解質層表面に形成された多数の突部を具備し、前記第2中間層が多孔質体からなるとともに、前記第1中間層の多数の前記突部間に前記第2中間層を構成する材料が充填されていることを特徴とする固体酸化物形燃料電池セル。」

(イ)「【技術分野】
【0001】
本発明は、固体酸化物形燃料電池セルおよび燃料電池モジュールに関し、特に、固体電解質層と、該固体電解質層の一方側に燃料極層を、他方側に空気極層を具備してなり、固体電解質層と空気極層との間に中間層を具備する固体酸化物形燃料電池セルおよび燃料電池モジュールに関するものである。」

(ウ)「【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記した特許文献1、2に記載された燃料電池セルでは、固体電解質層と第1中間層が同時に焼成されて形成された緻密質な層であり、この緻密質な第1中間層表面に、第2中間層を、第1中間層よりも低い温度で焼き付けて形成されていたため、第1中間層に対する第2中間層の接合強度が未だ低く、第2中間層が第1中間層から剥離し易いという問題があった。これにより、空気極層と第1中間層との間に剥離が生じやすく、発電性能が低下するという問題があった。
【0008】
本発明は、第1中間層に対する第2中間層の接合強度が高い固体酸化物形燃料電池セルおよび燃料電池モジュールを提供することを目的とする。」

(エ)「【0013】
図1は、本形態の固体酸化物形燃料電池セルの一例を示すものであり、(a)はその横断面図、(b)は中間層およびその近傍における断面の走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。なお、図1には、燃料電池セル10の各構成を一部拡大して示している。
【0014】
この燃料電池セル10は、中空平板型の燃料電池セル10で、断面が扁平状で、全体的に見て楕円柱状をしたNiを含有してなる多孔質の導電性支持体1を備えている。導電性支持体1の内部には、適当な間隔で複数の燃料ガス流路2が長手方向(紙面に対して垂直方向)に形成されており、燃料電池セル10は、この導電性支持体1上に各種の部材が設けられた構造を有している。
【0015】
導電性支持体1は、図1に示されている形状から理解されるように、互いに平行な一対の平坦面nと、一対の平坦面nをそれぞれ接続する弧状面(側面)mとで構成されている。平坦面nの両面は互いにほぼ平行に形成されており、一方の平坦面n(下面)と両側の弧状面mを覆うように多孔質な燃料極層3が設けられており、さらに、この燃料極層3を覆うように、緻密質な固体電解質層4が積層されている。また、固体電解質層4の上には、中間層5を介して、燃料極層3と対面するように、多孔質な空気極層6が積層されている。また、燃料極層3および固体電解質層4が積層されていない他方の平坦面n(上面)には、密着層7を介してインターコネクタ8が形成されている。」

(オ)「【0017】
燃料電池セル10は、燃料極層3と空気極層6とが固体電解質層4を介して対面している部分が電極として機能して発電する。即ち、空気極層6の外側に空気等の酸素含有ガスを流し、且つ導電性支持体1内の燃料ガス流路2に燃料ガス(水素含有ガス)を流し、所定の作動温度まで加熱することにより発電する。そして、かかる発電によって生成した電流は、導電性支持体1に取り付けられているインターコネクタ8を介して集電される。」

(カ)「【0027】
固体電解質層4は、3〜15モル%のY、Sc、Yb等の希土類元素を含有した部分安定化あるいは安定化ZrO2からなる緻密質なセラミックスを用いるのが好ましい。また、希土類元素としては、安価であるという点からYが好ましい。さらに、固体電解質層4は、ガス透過を防止するという点から、相対密度(アルキメデス法による)が93%以上、特に95%以上の緻密質であることが望ましく、かつその厚みが5〜50μmであることが好ましい。
【0028】
なお、固体電解質層4と後述する空気極層6との間に、固体電解質層4と空気極層6との接合を強固とするとともに、固体電解質層4の成分と空気極層6の成分とが反応して電気抵抗の高い反応層が形成されることを抑制する目的で中間層5を備えている。
【0029】
ここで、中間層5としては、CeとCe以外の他の希土類元素とを含有する組成にて形成することができ、例えば、(CeO2)1−x(REO1.5)x(式中、REはSm、Y、Yb、Gdの少なくとも1種であり、xは0<x≦0.3を満足する数)で表される組成を有していることが好ましい。さらには、電気抵抗を低減するという点から、REとしてSmやGdを用いることが好ましく、例えば15〜25モル%のSmO1.5またはGdO1.5が固溶したCeO2からなることが好ましい。」

(キ)「【0037】
そして、本形態の中間層5は、図1に示すように、第1中間層5aと第2中間層5bとから構成されており、第1中間層5aが、固体電解質4表面に形成された多数の突部5a1を具備してなり、第2中間層5bが多孔質体から構成されている。第1中間層5aの多数の突部5a1間には、図1(b)に示すように、第2中間層5bを構成する材料が充填され、充填部5b1が形成され、これにより、第1中間層5aは気孔率5.0%以下の緻密質となっている。
【0038】
第2中間層5bは、第1中間層5aよりも大きい気孔率を有しており、例えば、気孔率10%以上、特には10〜35%、25〜35%の多孔質とされている。これらの気孔率は、電子顕微鏡写真を基に画像解析装置により測定することができる。
【0039】
中間層5は、上記したように、CeとCe以外の他の希土類元素とを含有する組成にて形成することができ、第1中間層5aと第2中間層5bは同一材料で構成されている。
【0040】
なお、第1中間層5aと第2中間層5bとを異なる材料から形成することもでき、例えば、(CeO2)1−x(REO1.5)x(式中、REはSm、Y、Yb、Gdの少なくとも1種であり、xは0<x≦0.3を満足する数)において、xの値が異なる材料を採用することもでき、さらには、REが異なる材料を用いることができる。
【0041】
第1中間層5aの厚み、すなわち、突部5a1の高さは、0.5〜3.0μm、特には0.5〜2.0μmとされている。突部5a1は、図2に示すように、平面視した場合に、短い線状のものが連結した形状をしており、突部5a1間には、固体電解質層4表面が露出している。固体電解質層4表面における突部5a1の割合は、面積比で30〜50%とされている。このような突部5a1は、後述するように、固体電解質層4と第1中間層5aとを同時焼成することにより形成されているため、固体電解質層4に第1中間層5aを構成する突部5a1が強固に接合している。短い線状のものが連結した形状の突部5a1が形成できる理由は明確ではないが、固体電解質層4を形成するZrO2とCeO2との焼結温度の差に基づき、固体電解質層4が焼結する温度では、CeO2が焼結途中であるため、固体電解質層4の表面に短い線状のものが連結した形状の突部5a1が形成されると考えている。第2中間層5bの厚みは、5〜15μmとされている。
【0042】
そして、後述するように、固体電解質層4の第1中間層5a上に、第2中間層5bを形成するぺーストを塗布し、このペーストを突部5a1間に充填し、固体電解質層4と第1中間層5aとの同時焼成時の温度よりも低い温度で焼成することにより形成されるため、第2中間層5bは焼結がそこまで進行せず多孔質体となり、突部5a1間に充填部5b1が形成された第1中間層5aは緻密質となる。
【0043】
上記したように、第1中間層5aと第2中間層5bとの焼成温度が異なるため、中間層5の任意断面を電子顕微鏡にて確認すると、突部5a1とその間の充填部5b1とを区別して確認することができる。」

(ク)「【図1】




(ケ)「【図2】




イ 甲1に記載された発明
上記アに摘記した甲1の記載事項を総合勘案し、特に、請求項1の記載、及び図1に示された固体酸化物形燃料電池セルの一例に着目すると、甲1には、次の発明が記載されていると認められる。

「固体電解質層4と、該固体電解質層4の一方側に燃料極層3を、他方側に空気極層6を具備してなり、前記固体電解質層4と前記空気極層6との間に中間層5を具備する固体酸化物形燃料電池セルであって、前記中間層5が第1中間層5aと第2中間層5bとを具備し、前記第1中間層5aが、前記固体電解質層4表面に形成された多数の突部5a1を具備し、前記第2中間層5bが多孔質体からなるとともに、前記第1中間層5aの多数の前記突部5a1間に前記第2中間層5bを構成する材料が充填されている固体酸化物形燃料電池セルにおいて、
前記燃料極層3は、内部に適当な間隔で複数の燃料ガス流路2が長手方向に形成された多孔質の導電性支持体1の一方の平坦面n(下面)と両側の弧状面mを覆うように設けられたものであり、
前記固体電解質層4は、3〜15モル%のY、Sc、Yb等の希土類元素を含有した部分安定化あるいは安定化ZrO2からなる緻密質なセラミックスが用いられ、
前記中間層5としては、CeとCe以外の他の希土類元素とを含有する組成にて形成することができ、例えば、(CeO2)1−x(REO1.5)x(式中、REはSm、Y、Yb、Gdの少なくとも1種であり、xは0<x≦0.3を満足する数)で表される組成を有しているものであり、
前記第1中間層5aの前記突部5a1は、前記固体電解質層4と前記第1中間層5aとを同時焼成することにより形成されているため、強固に結合しており、
前記第2中間層5bは、ペーストを前記突部5a1間に充填し、前記固体電解質層4と前記第1中間層5aとの同時焼成時の温度よりも低い温度で焼成することにより形成されるため、焼結がそこまで進行せず多孔質体となったものであり、
前記第1中間層5aの前記突部5a1間に形成された充填部5b1が形成された前記第1中間層5aは、緻密質となる、
固体酸化物形燃料電池セル。」(以下、「甲1発明」という。)

(2)甲2の記載事項、及び甲2に記載された発明
ア 甲2の記載事項
本願の優先権主張の日前に公知となった甲2には、次の記載がある。
(ア)「【請求項1】
カソード層と、
前記カソード層の一方側に設けられ、かつ、ジルコニア(ZrO2)を含む電解質層と、
前記電解質層の一方側に設けられたアノード層と、
前記カソード層と前記電解質層との間に設けられ、かつ、セリア(CeO2)を含むバリア層と、を備え、
前記電解質層と前記バリア層との間には、
前記ジルコニアと、前記セリアと、前記ジルコニアと前記セリアとの固溶体((Zr,Ce)O2)と、が共存する共存層が設けられた固体酸化物型燃料電池セル。」

(イ)「【0008】
本発明は、上述した問題を解決するためになされたものであり、固体酸化物型燃料電池セルの出力特性について、容易に評価を行うことができる固体酸化物型燃料電池セル及びその評価装置を提供することを目的としている。」

(ウ)「【0009】
本発明の固体酸化物型燃料電池セルは、カソード層と、前記カソード層の一方側に設けられ、かつ、ジルコニア(ZrO2)を含む電解質層と、前記電解質層の一方側に設けられたアノード層と、前記カソード層と前記電解質層との間に設けられ、かつ、セリア(CeO2)を含むバリア層と、を備え、前記電解質層と前記バリア層との間には、前記ジルコニアと、前記セリアと、前記ジルコニアと前記セリアとの固溶体((Zr,Ce)O2)と、が共存する共存層が設けられている。
【0010】
本発明の固体酸化物型燃料電池セルによれば、固体酸化物型燃料電池セルが、電解質層とバリア層との間に、ジルコニアと、セリアと、ジルコニアとセリアとの固溶体と、が共存する共存層を有するので、ジルコニアとセリアとの固溶体が存在することによってイオン伝導が低下し、固体酸化物型燃料電池セルのIR損が増大する。ここで、共存層の厚みが大きければ、焼成時にジルコニウム(又はジルコニア)又はセリウム(又はセリア)が広範囲に拡散してジルコニア−セリア固溶体がより多く生成している可能性が高まり、IR損がより大きくなり得る。よって、共存層の厚みを固体酸化物型燃料電池セルの出力特性の評価指針とすることで、より容易にセルの評価を行うことができる。」

(エ)「【0016】
(SOFC)
まず、SOFCセルの本実施形態に係る単セルCの構成について説明する。図1に示すとおり、単セルCは、それぞれ平らな薄膜状のアノード層1とカソード層2との間に、電解質層3とバリア層4とが積層された、いわゆる平板型のセル構成を有する。単セルCは、アノード層1、電解質層3、バリア層4、カソード層2の順に積層される。本実施形態に係る電解質層3はジルコニアを含有する固体酸化物型電解質材料よりなる。バリア層4はセリアを含有する。電解質層3とバリア層4との間には、ジルコニアと、セリアと、ジルコニアとセリアとの固溶体((Zr,Ce)O2)と、が共存する共存層5が存在する。なお、各図面中では、各電池要素層の実際の寸法比は無視されている。また単セルCは、平板型に限定されず円筒型でもよい。
【0017】
(アノード層)
アノード層1は、燃料ガスと電解質層3中を移動してきた酸素イオンとが接して、燃料ガスの酸化と電子の授受を伴う電極反応が進行する燃料極である。燃料ガスとしては主に水素を用いることができ、電極反応の結果水蒸気が生成する。なお、アノード層1は、単セルCの他層を支持する基板(換言すれば「支持体」)としての機能を有していてもよい。
・・・
【0020】
(電解質層)
電解質層3は、アノード層1の一方側に接合するように設けられる。電解質層3には、還元・酸化両雰囲気下で作動温度にて安定で、高いイオン伝導性、低い電子導電性及び緻密な電解質膜を容易に調整できる等の条件が要求される。蛍石型構造の安定化ジルコニアは、電解質材料として広い利用実績と高い信頼性を有する。本実施形態の電解質層3は、ジルコニアを含有する。更に、ジルコニアを主成分とすることが好ましい。
・・・
【0022】
(バリア層)
バリア層4は、電解質層3とカソード層2との間において、電解質層3の一方側及びカソード層2の他方側に接合するように設けられる。バリア層4は、後述するLSC、SSC、LSFCのような低温動作が期待される材料を含むカソード層2中に電解質層3中のジルコニアに由来するジルコニウムが拡散し、高抵抗層成分(La2Zr2O7,SrZrO3)が生成する界面反応を抑制するために介在される。
【0023】
バリア層4には、セリウム酸化物を含有するセリア系材料を用いることができる。具体的には、Ce1−xFxO2(FはCa、Y、Sm、Gd、La、Mg、Sc、Nd、Yb、Pr、Pb、Sr、Eu、Dy、Ba、Beのうち、少なくとも1種以上であり、0≦x≦0.50)の組成式で表わされる。好ましくは、SDC、GDCを用いることができる。バリア層4の厚みは、例えば30〔μm〕以下、或いは20〔μm〕以下程度であれば好ましい。
【0024】
(共存層)
共存層5は、ジルコニアを含む電解質前駆体31又は電解質層3に、セリアを含むバリア層前駆体41を積層して焼成した後に、電解質層3とバリア層4との間に生成する層であり(図2a、2b参照)、電解質層3とバリア層4との間に設けられる。共存層5中には、ジルコニアとセリアとジルコニア−セリア固溶体とが共存する。共存層5中のジルコニウムの濃度は、電解質層3からバリア層4に向けて積層方向Lyに沿って徐々に低下する。共存層5は、電解質層3とバリア層4との間に、積層方向Lyに沿った所定の間隔(厚み)を有する領域を占める。
【0025】
図5に、単セルCを積層方向Lyに切断した断面の観察部位に対して、EDX分析(エネルギー分散型X線分析)を行った結果を示した。電解質層3とバリア層4との間を積層方向Lyに沿ってライン分析し、この間のジルコニウムの濃度勾配を計測した。図示のとおり、ジルコニウムの濃度は、電解質層3の内方(アノード層側)においてほぼ一定の最大値を示し、緩やかに減少した後に急傾斜をなして減少し、再び緩やかに減少しながらバリア層4の内方(カソ−ド層側)においてほぼ一定の最小値を示す。ここで、電解質層3に含まれるジルコニウムの最大濃度から減少方向に濃度変化する間の領域を、共存層として把握することもできる。実施例で後述するとおり、例えば、ジルコニウムの最大濃度に対して10〜90%のジルコニウム濃度を示す領域の積層方向Lyの間隔を、共存層の厚みと規定することができる。この場合に、共存層5の好ましい厚みは、3〔μm〕以下であり、より好ましくは1.5〔μm〕以下である。なお、図5には、エネルギー分散型Xライン分析を行った評価結果例を示したが、ジルコニウム濃度を積層方向Lyに沿ってライン分析できる所定の元素分析装置を用いて同様に計測を行うことができる。
また、セリウムの濃度は、バリア層4の内方(カソ−ド層側)においてほぼ一定の最大値を示し、緩やかに減少した後に急傾斜をなして減少し、再び緩やかに減少しながら電解質層3の内方(アノード層側)においてほぼ一定の最小値を示す。
【0026】
(カソ−ド層)
カソード層2は、空気中の酸素を電極中に導電される電子によって還元し、その酸素イオンをジルコニア系の電解質層3に移動させる空気極である。空気中の酸素分子は、気相から電極粒子の表面に拡散し、電極粒子の表面に吸着し、解離し、電極粒子の表面又は内部を拡散しながら電子を受け取って還元される電極反応を経て電解質層3に達する。この電極反応の際に、後述する反応抵抗Raが生じる。燃料電池の出力特性を考察する際には、内部抵抗であるIR損と反応抵抗Raとを個別に検討することが望まれている。なお、アノード層1における電極反応においても同様に、反応抵抗Raが考慮されるべきである。
【0027】
カソード層2に用いられる材料としては、特に限定されず公知の空気極材料を用いることができる。具体的には、La、Sr、及びSm等のうち、少なくとも1種をAサイトに含有し、Ca、Mn、Co、Fe、Cr、及びNi等のうち少なくとも1種をBサイトに含有し、ペロブスカイト型(ABO3)の結晶構造を有する公知の希土類金属酸化物を用いることができる。Bサイト元素として、Coを含有するものであれば好ましい。Bサイト元素としてCoを含むペロブスカイト型希土類酸化物は、低温作動条件でのカソード層2の構成材料として適している。具体的には、LSC、SSC、LSFC、等を挙げることができる。」

(オ)「【図1】




(カ)「【図5】




イ 甲2に記載された発明
上記アに摘記した甲2の記載事項を総合勘案し、特に、請求項1の記載、及び図1に示された固体酸化物型燃料電池(SOFC)セルに係る単セルCに着目すると、甲2には、次の発明が記載されていると認められる。

「カソード層2と、
前記カソード層2の一方側に設けられ、かつ、ジルコニア(ZrO2)を含む電解質層3と、
前記電解質層3の一方側に設けられたアノード層1と、
前記カソード層2と前記電解質層3との間に設けられ、かつ、Ce1−xFxO2(FはCa、Y、Sm、Gd、La、Mg、Sc、Nd、Yb、Pr、Pb、Sr、Eu、Dy、Ba、Beのうち、少なくとも1種以上であり、0≦x≦0.50)の組成式で表わされるセリア系材料を含むバリア層4と、を備え、
前記電解質層3と前記バリア層4との間には、
前記ジルコニアと、前記セリアと、前記ジルコニアと前記セリアとの固溶体((Zr,Ce)O2)と、が共存する共存層5が設けられた固体酸化物型燃料電池セル。」(以下、「甲2発明」という。)

(3)甲3の記載事項
本願の優先権主張の日前に公知となった甲3には、次の記載がある。
ア 「【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は固体電解質型燃料電池用単電池及びこれを用いた燃料電池並びに固体電解質型燃料電池用単電池の製造方法に関する。更に詳しくは、燃料極を基板として用いる支持膜式構造であり、固体電解質層と空気極と間に反応防止層を備える固体電解質型燃料電池用単電池及びこれを用いた燃料電池並びに固体電解質型燃料電池用単電池に関する。」

イ 「【0003】
この支持膜式の単電池では、空気極にはAサイトの一部をSrで置換したLaMnO3系酸化物、固体電解質層にはイットリア安定化ジルコニアが多用されている。しかし、LaMnO3系酸化物とイットリア安定化ジルコニアとは反応性が高く、製造時に空気極と固体電解質層との界面に高抵抗の反応相が生成し、電池の出力が低下するという問題がある。これに対して、酸化セリウムを主成分とした反応防止層を空気極と固体電解質層との間に形成することで問題を解決しようとする技術が知られている(例えば、特許文献2参照。)。」

ウ 「【0005】
【発明が解決しようとする課題】
上記特許文献2では、反応防止層の大きさや、セパレータとの関係については検討されていない。更に、より優れた発電性能を発揮できる単電池等が求められている。
本発明は上記に鑑みて成されたものであり、反応防止層の割れや剥がれを生じ難く、固体電解質型燃料電池とした場合にセパレータと単電池とのシール部における信頼性が高く、優れた発電性能を発揮できる固体電解質型燃料電池用単電池を提供する。また、この単電池を用い、信頼性が高く、より優れた電池性能を発揮できる固体電解質型燃料電池を提供する。更に、この単電池が安定して、より少ない工程で効率よく得ることができる固体電解質型燃料電池用単電池の製造方法を提供することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、反応防止層が形成された単電池等について検討した。その結果、固体電解質層(図3の12)と面積が同じであるか又はそれより大きい反応防止層(図3の13)を備える単電池(図3参照)や、燃料極層(図4の11)と固体電解質層(図4の12)との積層体の全面に反応防止層(図4の13)がコーティングされた単電池(図4参照)は、端面に反応防止層が露出しているため、取り扱いを慎重にしないと反応防止層の角部からクラックを生じたり、割れを生じたりすることがあった。」

(4)甲4の記載事項
本願の優先権主張の日前に公知となった甲4には、次の記載がある。
ア 「【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1に電池内リード材用のNi層とCu層とNi層とが接合された3層構造のクラッド材では、500℃から600℃で1時間保持するという条件下で熱処理すると開示されている。例えば、600℃の温度で1時間保持するという条件下でバッチ式熱処理を行うと、Cu層とNi層の接合領域に生成される拡散層の厚みのばらつきが大きくなりやすい。こうした厚みのばらつきが大きい拡散層が生成されると、部分的にCu層の厚みが小さくなり、これに起因して電池内リード材における電気的な損失が大きくなってしまう場合があった。加えて、例えば、500℃の温度で1時間保持するという条件下でバッチ式熱処理を行うと、電池内リード材を容器(負極端子)に対して抵抗溶接する際に、電池内リード材と負極端子との溶接強度を確保できなくなる場合があった。
【0006】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、この発明の1つの目的は、電池負極リード材と電池負極との溶接強度を確保しつつ、電池負極リード材における電気的な損失が大きくなるのを抑制することが可能な電池負極リード材用クラッド材およびその電池負極リード材用クラッド材の製造方法を提供することである。」

イ 「【0049】
この2次焼鈍されたクラッド材50には、2次焼鈍によって、図3に示すように、Ni層51およびCu層52の界面に0.5μm以上3.5μm以下の厚みt1を有する拡散層54が形成されるとともに、Cu層52およびNi層53の界面に0.5μm以上3.5μm以下の厚みt2を有する拡散層55が形成される。さらに、拡散層54の厚みt1のばらつき、および、拡散層55の厚みt2のばらつきが約1.3μm以下になるように形成される。なお、2次焼鈍されたクラッド材50において、拡散層54の厚みt1および拡散層55の厚みt2は、0.5μm以上約2.0μm以下であるのが好ましい。また、拡散層54の厚みt1のばらつき、および、拡散層55の厚みt2のばらつきは、約1.0μm以下であるのが好ましい。」

ウ 「【0064】
また、実施例1〜7および比較例1〜7のクラッド材の拡散層の厚みのばらつきを求めた。具体的には、実施例1〜7および比較例1〜7の長尺のクラッド材の断面のうち、クラッド材の長手方向の一方端部周辺の異なる任意の3か所を測定範囲として選択した。この3か所の測定範囲は、各々、長手方向に100μmの範囲を有している。そして、3か所の測定範囲における拡散層の厚みの平均値をそれぞれ求めた。その後、3つの拡散層の厚みの平均値の平均を算出することによって、クラッド材の長手方向の一方端部周辺における拡散層の厚みを求めた。同様に、クラッド材の長手方向の他方端部周辺の異なる任意の3か所を測定範囲として選択した。この3か所の測定範囲は、各々、長手方向に100μmの範囲を有している。そして、3か所の測定範囲における拡散層の厚みの平均値をそれぞれ求めた。その後、3つの拡散層の厚みの平均値の平均を算出することによって、クラッド材の長手方向の他方端部周辺における拡散層の厚みを求めた。最後に、一方端部周辺における拡散層の厚みと他方端部周辺における拡散層の厚みとの差の絶対値を算出することによって、実施例1〜7および比較例1〜7のクラッド材の拡散層の厚みのばらつきを求めた。」

エ 「【0069】
(実験結果)
【表1】




オ 「【図3】




(5)甲5の記載事項
本願の優先権主張の日前に公知となった甲5には、次の記載がある。
ア 「【0025】
図1に示されるように、本発明の一例である固体酸化物形燃料電池セル1は、固体電解質層2と、固体電解質層2の一方の面側に形成された空気極層3と、固体電解質層2の他方の面側に形成された燃料極層4とを有する。固体電解質層2と空気極層3との間に中間層5が形成され、中間層5の少なくとも一部に元素拡散防止層6が含有される。
【0026】
固体電解質層2は、固体酸化物形燃料電池の作動時に、空気極層3において発生したイオンを、燃料極層4へと移動させる機能を有する。固体電解質層2中を移動するイオンの好適例として、酸素イオンを挙げることができる。
【0027】
固体電解質層2は、電解質材料を有する。電解質材料は、Zrを含有することが好ましく、例えば、ジルコニア系、セリア系、及びペロブスカイト系の材料を用いることができ、ジルコニア系の材料を用いることが特に好ましい。ジルコニア系の材料としては、イットリア安定化ジルコニア(YSZ),スカンジア安定化ジルコニア(ScSZ)、及びカルシア安定化ジルコニア(CaSZ)を用いることができ、イットリア安定化ジルコニア(YSZ)を用いる例が好適例として挙げられる。」

イ 「【0036】
元素拡散防止層6は、少なくとも1種の希土類元素とZrとを含有する複合酸化物からなる。希土類元素は、Ce及びGdの少なくとも1種であることが好ましい。
・・・
【0038】
元素拡散防止層6は、YSZとGDC(ガドリニウムドープセリア)とからなることがさらに好ましい。・・・」

ウ 「【図1】




エ 「【図2】




(6)甲6の記載事項
本願の優先権主張の日前に公知となった甲6には、次の記載がある。
ア 「【0007】
ここで、固体電解質層2は、酸化物イオンの移動媒体であると同時に、燃料ガスと空気を直接接触させないための隔壁としても機能するので、ガス不透過性の撤密な構造となっている。この固体電解質層2は、酸化物イオン伝導性が高く、空気極層3側の酸化性雰囲気から燃料極層4側の還元性雰囲気までの条件下において化学的に安定で、熱衝撃に強い材料から構成する必要があり、かかる要件を満たす材料として、例えばイットリアを添加した安定化ジルコニア(YSZ)で構成されている。」

イ 「【0027】
このように、発電セル5Aの固体電解質層2の厚みが、面の中心部から周辺部に行くに従い徐々に薄くなるように形成されている場合、運転中に発電セル5Aの面内で中心部が高く周辺部が低くなるような温度分布が生じても、発電セル5Aの面内でできるだけ均一な電流密度を維持することができるようになる。
【0028】
その結果、高効率・高出力化に寄与することができ、また同じ効率であれば一層の薄肉化が可能になる。しかも、電流密度の均一化に伴って厚みを増すことができるようになることから、発電セル5Aの製造時や発電時における割れ対策にも効果を奏することができる。」

ウ 「【0038】
なお、上記実施形態における固体電解質層2Aは、平面形状が円形の場合を想定して述べたが、平面形状が角形であっても勿論よい。また、上記実施形態においては、固体電解質層2Aの両面が凸になったものを示したが、片面凸のものであってもよく、いずれにしろ中心部から周辺部にかけて徐々に薄くなるように厚み変化が与えられているものであればよい。」

エ 「【図1】




オ 「【図2】




(7)甲7の記載事項
本願の優先権主張の日前に公知となった甲7には、次の記載がある。
ア 「【0007】・・・例えば、図3bに示した平板型セルに、電極上での改質を必要としない燃料ガスおよび酸化剤ガスを流した場合、燃料ガスと酸化剤ガスはどちらも電極上での電池反応によって消費されるため、ガス流路の下流に行くほどその濃度が低下していく。ガス濃度の低下は電池反応量の滅少につながり、電池反応には発熱を伴うので、このような平板型セルでは、ガス流路の上流ほど温度が高く、下流に行くほど温度が低くなるような温度分布がセルに形成されることとなる。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】このような温度分布、つまり温度の不均一がセルに生じると、セル内部での熱膨張の違いによる応力が発生するため、セルの変形や、電極や電解質膜の剥離や割れの原因となる。
・・・
【0009】そこで本発明は、セル構成部材の中で最も抵抗が大きい電解質の厚さを調整して電池反応量を制御し、発熱量を調整することによってセル温度の均一化を図ろうとするものである。
【0010】
【課題を解決するための手段】
(第1の手段)本発明は、固体電解質、燃料電極、酸化剤電極より構成される固体電解質型燃料電池であって、該固体電解質の厚さを、該固体電解質型燃料電池に作られた燃料ガス流路の出口および酸化剤ガス流路の出口から、それぞれの流路の入口に向かうにしたがって厚くなるようにしたことを特徴とする。
・・・
【0012】(第3の手段)本発明は、第1および第2の手段として記載した固体電解質の材料がイットリア安定化ジルコニアであり、燃料電極の材料がイットリア安定化ジルコニアとニッケルよりなるサーメットであり、酸化剤電極の材料がランタンマンガナイトにストロンチウムをドープした複合酸化物であることを特徴とする。
【0013】
【作用】燃料電池は、燃料ガスと酸化剤ガスとが反応することにより発電を行い、この時同時に熱を発生する。熱の発生量は、それぞれのガス濃度の積が大きいほど大きく、発熱量の大きなところほど高温となる。例えば、図3bに示した平板型のセルにおいて、燃料電極、電解質、および酸化剤電極の材料組成はどれも均一で、発電反応以外の反応は起こらないとすれば、セルにはおおよそ、図4の等温線で示したような温度分布が形成される。
【0014】ここで、燃料電池を構成する燃料電極、電解質、および酸化剤電極の材料組成や構造と電池反応との関係を見た場合、電解質ではその電気伝導度が0.1S/cm程度と特に小さく、電解質膜の厚さをわずかに変えるだけでセル抵抗を大きく変化させることができる。電池反応量は、セル抵抗が大きいほど小さくなるので、電解質膜の厚さを調整することにより電池反応量を制御することができる。また、発熱量は電池反応量が大きいほど大きくなるので、電解質の膜厚を大きくすることにより発熱量を低下させ、温度を下げることができる。そこで、例えば図4に示したセルでは、電解質の厚さが均一である場合に対応する等温線をもとに、高温部ほど電解質の膜厚が大きくなるような構造とすれば、セル温度の均一化を図ることができる。」

イ 「【図1】




(8)甲8の記載事項
本願の優先権主張の日前に公知となった甲8には、次の記載がある。
ア 「【請求項1】
ジルコニウム系酸化物からなる固体電解質をアノード側電極とカソード側電極とで挟んで形成され、前記固体電解質と前記カソード側電極の間に中間層が介装された電解質・電極接合体であって、
前記カソード側電極は、少なくとも、BaxSr1-xCoyFe1-yO3、LaxSr1-xCoyFe1-yO3、又はLaxSr1-xCoO3で表されるペロブスカイト型複合酸化物からなり且つ前記中間層に隣接する第1層を有し、
前記中間層は、セリウム系酸化物からなり、且つ前記固体電解質から拡散したZr量が40原子%以下であることを特徴とする電解質・電極接合体。」

イ 「【0039】
また、固体電解質16は、例えば、Y2O3が8mol%添加されたY2O3安定化ZrO2(8YSZ)からなる。
【0040】
中間層18は、カソード側電極14に含まれる元素が固体電解質16中に拡散すること、換言すれば、カソード側電極14と固体電解質16が相互反応を起こすことを防止する役割を果たす。すなわち、中間層18は、反応防止層として機能する。中間層18の厚みは、この反応防止機能を営める程度であればよく、具体的には0.1〜5μm程度で十分である。
【0041】
中間層18の材質は、このような機能を営むものであれば特に限定されるものではないが、好適には、Sm2O3ドープCeO2(SDC)、Y2O3ドープCeO2(YDC)、Gd2O3ドープCeO2(GDC)、La2O3ドープCeO2(LDC)が挙げられる。特には、Sm2O3を10〜20mol%ドープしたCeO2(10〜20SDC)が用いられる。
【0042】
中間層18には、Zrが含まれることがある。この理由は、中間層18を焼き付ける際の加熱によって固体電解質16に含まれるZrが活性化され、中間層18に拡散するためであると推察される。
【0043】
中間層18にZrが過度に含まれる場合、上記したように、カソード側電極14がLSC又はLSCF等のペロブスカイト型複合酸化物であるので、LaやSr等がZrと反応を起こす可能性がある。このため、中間層18としては、XPS等の分析機器によって求められるZrの拡散量が40原子%以下であるものが好適に選定される。なお、中間層18中のZrの拡散量は、下記の式(1)によって算出される。
Zrの拡散量=Zr/(Ce+Zr) …(1)
【0044】
Zrの拡散量は、例えば、中間層18を焼き付ける際の焼成処理温度によって制御することが可能である。すなわち、焼成処理温度が過度に高いと、Zrの活性化の度合いも大きくなり、中間層18への拡散量が多くなる。これとは逆に、焼成処理温度が低いと、Zrがさほどは活性化されないので、中間層18への拡散量が少なくなる。」

5 当審の判断
(1)申立理由1−1、2−1−1、2−1−2、2−1−3(甲1を主引用例とした新規性進歩性)について
ア 本件特許発明1について
(ア)本件特許発明1と甲1発明との対比
a 本件特許発明1と甲1発明とを対比すると、甲1発明の「燃料極層3」、「3〜15モル%のY、Sc、Yb等の希土類元素を含有した部分安定化あるいは安定化ZrO2からなる緻密質なセラミックスが用いられ」「一方側に燃料極層3を」「具備」する「固体電解質層4」、「固体電解質層4」の「他方側に」「具備してな」る「空気極層6」、及び「固体電解質層4と空気極層6との間に」「具備」され「(CeO2)1−x(REO1.5)x(式中、REはSm、Y、Yb、Gdの少なくとも1種であり、xは0<x≦0.3を満足する数)で表される組成を有している」「中間層5」は、それぞれ本件特許発明1の「第1電極層」、「該第1電極層上に位置し、Zrを含有する固体電解質層」、「該中間層上に位置する第2電極層」、及び「該固体電解質層上に位置し、Ce以外の希土類元素を含むCeO2を含有する中間層」に相当する。

b 甲1発明の「燃料極層3」、「固体電解質層4」、「中間層5」、及び「空気極層6」を含む構造は、本件特許発明1の「素子部」に相当する。

c 甲1発明の「多孔質体からなる」「第2中間層5b」は、本件特許発明1の「第1中間層」に相当する。

d 甲1発明の「多数の突部5a1を具備」するとともに、「多数の突部5a1間に第2中間層5bを構成する材料が充填されて」「形成された充填部5b1が形成された」「緻密質となる」「第1中間層5a」と、本件特許発明1の「第2中間層」とは、「第1中間層と固体電解質層との間の少なくとも一部に位置」する「中間層」である点で共通する。

e 甲1発明の「固体酸化物形燃料電池セル」は、本件特許発明1の「セル」に相当する。

f そうすると、本件特許発明1と甲1発明とは、
(一致点1)
「第1電極層と、
該第1電極層上に位置し、Zrを含有する固体電解質層と、
該固体電解質層上に位置し、Ce以外の希土類元素を含むCeO2を含有する中間層と、
該中間層上に位置する第2電極層と、を備えた素子部を有し、
前記中間層は、第1中間層と、該第1中間層と前記固体電解質層との間の少なくとも一部に位置する第2中間層と、を有する、セル。」
である点で一致し、以下の点で相違する。

(相違点1)
第2中間層について、本件特許発明1では、「ZrおよびCeを含む」ものであるのに対して、甲1発明では、「ZrおよびCeを含む」ものであるか否かが不明な点。

(相違点2)
本件特許発明1は、「前記第2電極層から平面視したときに、前記中間層の外周部に位置する前記第2中間層は、前記第2電極層の中央と重なる前記第2中間層より厚い部位を有する」のに対して、甲1発明は、外周部に位置する第2中間層が第2電極層の中央と重なる前記第2中間層より厚い部位を有するか否か不明な点。

(イ)相違点についての判断
a 事案に鑑みて、まず上記相違点2について検討するに、上記4(1)ア(キ)に摘記したとおり、甲1には、本件特許発明1の「第2中間層」に対応する「第1中間層5a」の厚みに関して、「突部5a1の高さは、0.5〜3.0μm、特には0.5〜2.0μmとされている。」、「第2中間層5bの厚みは、5〜15μmとされている。」とは記載されているものの、上記「第1中間層5a」を平面視したときに、外周部に位置する層の厚さが中央と重なる位置の層よりも厚い部位を有することについての明記はなく、また、本願出願当時の技術常識を考慮しても、甲1発明における「第2中間層5b」について、外周部に位置する層の厚さが中央と重なる位置の層よりも厚い部位を有することが明らかとはいえない。

b この点につき、申立人は、特許異議申立書の第20頁第11行〜第21頁第18行において、「本件特許明細書には、第2中間層の厚さの具体的な測定方法(測定部位の位置など)について記載も示唆もされていないため、甲1発明においても、自由に測定部位を選択して『ZrおよびCeを含む層』の厚さの大小比較をすればよいことになる。甲1発明では、図1(b)および図2に示すように、空気極層6から平面視したときに、複数の突部5a1および複数の充填部5b1が広範囲に散在しており、『中間層5の外周部に位置する突部5a1』や『空気極層6の中央と重なる充填部5b1』が存在する。そうすると、これらの『中間層5の外周部に位置する突部5a1』と『空気極層6の中央と重なる充填部5b1』とに着目すれば、甲1発明では、中間層5の外周部に位置する突部5a1における『ZrおよびCeを含む層』の厚さは、空気極層6の中央と重なる充填部5b1における『ZrおよびCeを含む層』の厚さより厚いことになる。・・・要するに、本件特許発明1は、第2中間層に相当する構成の厚さの測定方法次第で、意図せずに偶発的に本件特許発明1の発明特定事項C(当審注:上記相違点2に係る特定事項)を満たす『公知技術(甲1発明等)』を包含するものであり、『発明公開の代償として特許権を付与する』という特許制度の趣旨に全く合致しないものであると言わざるを得ない。」と主張しているので、以下検討する。

(a)上記3(5)に摘記した本件特許明細書等の【0036】、【0038】には、「第2中間層8b」の作用について、「素子部6に位置する第2中間層8bの厚さを薄くする、特に第2電極層5の中央Cと重なる第2中間層8bの厚さを薄くすることで、セル1の発電効率に対する第2中間層8bの影響を小さくすることができる。」、「第1中間層8aは、特に中間層8の外周部で固体電解質層4から剥離しやすい。中間層8の外周部の第2中間層8bが、第2電極層5の中央Cの第2中間層8bより厚い部位を有することで、外周部において第1中間層8aを固体電解質層4から剥離し難くすることができる。」と記載され、また上記3(6)に摘記した本件特許明細書等の【0042】〜【0044】には、「第2中間層8b」の厚さを確認する方法について、積層方向に沿う断面の元素分析(例えば、STEM−EDS)により行うことが記載されている。

(b)そうすると、本件特許発明1の「前記第2電極層から平面視したときに、前記中間層の外周部に位置する前記第2中間層は、前記第2電極層の中央と重なる前記第2中間層より厚い部位を有する」との特定事項は、上記「第2中間層8b」が、「層」として、上記(a)の作用を発揮し得るものであるとともに、上記(a)の断面における元素分析によって有意に厚さを確認できる程度の均一性を備えているものであることを前提としていると解するほかない。

(c)この観点からすると、申立人の上記主張が前提としているように、第2中間層5bの外周部に位置する部位に、中央と重なる部位よりも厚いところが局所的に存在しているか否かにのみ着目して、これが、本件特許発明1のように「前記第2電極層から平面視したときに、前記中間層の外周部に位置する前記第2中間層は、前記第2電極層の中央と重なる前記第2中間層より厚い部位を有する」との特定事項に相当するとはいえないことは、明らかである。

(d)したがって、申立人の上記主張は採用しない。

c そうすると、上記相違点2は、実質的なものであるといえる。

d そして、上記4(1)〜(8)に摘記した甲1〜甲8のいずれの記載を参照しても、甲1発明において、上記相違点2に係る特定事項を備えようとする動機付けを見出すことはできない。

e よって、上記相違点1について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲1に記載された発明であるとはいえず、また、甲1に記載された発明、及び甲2〜甲8に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

イ 本件特許発明2について
(ア)本件特許発明2と甲1発明との対比
本件特許発明2と甲1発明とを対比すると、上記ア(ア)a〜eにおいて検討したのと同様であるから、本件特許発明2と甲1発明とは、上記(一致点1)の点で一致し、以下の点で相違する。

(相違点3)
第2中間層について、本件特許発明2では、「ZrおよびCeを含む」ものであるのに対して、甲1発明では、「ZrおよびCeを含む」ものであるか否かが不明な点。

(相違点4)
本件特許発明2は、「前記第2電極層から平面視したときに、前記中間層の外周部に位置する前記第2中間層の平均厚さが、前記第2電極層の中央部と重なる前記第2中間層の平均厚さより厚い」のに対して、甲1発明は、外周部に位置する第2中間層の平均厚さが第2電極層の中央部と重なる前記第2中間層の平均厚さより厚いか否か不明な点。

(イ)相違点についての検討
事案に鑑みて、まず上記相違点4について検討するに、上記ア(イ)a〜eにおいて上記相違点2について検討したのと同様であるから、上記相違点3について検討するまでもなく、本件特許発明2は、甲1に記載された発明であるとはいえず、また、甲1に記載された発明、及び甲2〜甲8に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

ウ 本件特許発明7について
(ア)本件特許発明7と甲1発明との対比
a 甲1発明の「複数の燃料ガス流路2」、「導電性支持体1」は、それぞれ本件特許発明7の「少なくとも1つのガス流路」、「支持体」に相当する。

b 甲1発明の「燃料極層3」、「3〜15モル%のY、Sc、Yb等の希土類元素を含有した部分安定化あるいは安定化ZrO2からなる緻密質なセラミックスが用いられ」「一方側に燃料極層3を」「具備」する「固体電解質層4」、「固体電解質層4」の「他方側に」「具備してな」る「空気極層6」、及び「固体電解質層4と空気極層6との間に」「具備」され「(CeO2)1−x(REO1.5)x(式中、REはSm、Y、Yb、Gdの少なくとも1種であり、xは0<x≦0.3を満足する数)で表される組成を有している」「中間層5」は、それぞれ本件特許発明7の「第1電極層」、「該第1電極層上に位置し、Zrを含有する固体電解質層」、「該中間層上に位置する第2電極層」、及び「該固体電解質層上に位置し、Ce以外の希土類元素を含むCeO2を含有する中間層」に相当する。

c 甲1発明の「燃料極層3」、「固体電解質層4、「中間層5」、及び「空気極層6」を含む構造は、「内部に適当な間隔で複数の燃料ガス流路2が長手方向に形成された多孔質の導電性支持体1」の「一方の平坦面n(下面)」を覆うように形成されたものであるから、本件特許発明7の「支持体上に位置する」「前記第2電極層から平面視したとき、前記ガス流路と重なる第1部位と、前記ガス流路と重ならない第2部位と、を有」する「素子部」に相当する。

d 甲1発明の「多孔質体からなる」「第2中間層5b」は、本件特許発明7の「第1中間層」に相当する。

e 甲1発明の「多数の突部5a1を具備」するとともに、「多数の突部5a1間に第2中間層5bを構成する材料が充填されて」「形成された充填部5b1が形成された」「緻密質となる」「第1中間層5a」と、本件特許発明7の「第2中間層」とは、「第1中間層と固体電解質層との間の少なくとも一部に位置」する「中間層」である点で共通する。

f 甲1発明の「固体酸化物形燃料電池セル」は、本件特許発明7の「セル」に相当する。

g そうすると、本件特許発明7と甲1発明とは、
(一致点2)
「少なくとも1つのガス流路を有する支持体と、
該支持体上に位置する第1電極層、該第1電極層上に位置し、Zrを含有する固体電解質層、該固体電解質層上に位置し、Ce以外の希土類元素を含むCeO2を含有する中間層、及び該中間層上に位置する第2電極層を備えた素子部を有し、
該素子部は、前記第2電極層から平面視したとき、前記ガス流路と重なる第1部位と、前記ガス流路と重ならない第2部位と、を有し、
前記中間層は、第1中間層と、該第1中間層と前記固体電解質層との間の少なくとも一部に位置する第2中間層と、を有する、セル。」
である点で一致し、以下の点で相違する。

(相違点5)
第2中間層について、本件特許発明7では、「ZrおよびCeを含む」ものであるのに対して、甲1発明では、「ZrおよびCeを含む」ものであるか否かが不明な点。

(相違点6)
本件特許発明7は、「前記第1部位における前記第2中間層の平均厚さは、前記第2部位における前記第2中間層の平均厚さより薄い」のに対して、甲1発明は、そのような構成を備えているか否か不明な点。

(イ)相違点についての判断
a 事案に鑑みて、まず上記相違点6について検討するに、上記4(1)ア(キ)に摘記したとおり、甲1には、本件特許発明7の「第2中間層」に対応する「第1中間層5a」の厚みに関して、「突部5a1の高さは、0.5〜3.0μm、特には0.5〜2.0μmとされている。」、「第2中間層5bの厚みは、5〜15μmとされている。」とは記載されているものの、上記「第1中間層5a」を平面視したときに、「前記第1部位における前記第2中間層の平均厚さは、前記第2部位における前記第2中間層の平均厚さより薄い」ことについての明記はなく、また、本願出願当時の技術常識を考慮しても、甲1発明における「第2中間層5b」について、外周部に位置する層の厚さが中央と重なる位置の層よりも厚い部位を有することが明らかとはいえない。

b この点につき、申立人は、特許異議申立書の第42頁第4行〜第43頁第7行において、上記ア(イ)bと同様の主張をしているが、このような主張を採用し得ないことは、上記ア(イ)b(a)〜(d)において検討したのと同様である。

c そうすると、上記相違点6は、実質的なものであるといえる。

d そして、上記4(1)〜(8)に摘記した甲1〜甲8のいずれの記載を参照しても、甲1発明において、上記相違点6に係る特定事項を備えようとする動機付けを見出すことはできない。

e よって、上記相違点5について検討するまでもなく、本件特許発明7は、甲1に記載された発明であるとはいえず、また、甲1に記載された発明、及び甲2〜甲8に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

エ 本件特許発明3〜6、8〜10について
本件特許発明3〜6、8〜10は、本件特許発明1、2、7のいずれかの発明特定事項を全て備えたものであるから、上述のとおり、本件特許発明1、2、7が、甲1に記載された発明であるとはいえず、また、甲1に記載された発明、及び甲2〜甲8に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない以上、同様に、甲1に記載された発明であるとはいえず、また、甲1に記載された発明、及び甲2〜甲8に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

オ 小括
以上のとおり、本件特許発明1、2、6〜10は、甲1に記載された発明であるとはいえないから、申立理由1−1によって、同発明に係る特許を取り消すことはできない。
また、本件特許発明1〜5は、甲1に記載された発明、及び甲2〜甲8に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないから、申立理由2−1−1、2−1−2、2−1−3によって、同発明に係る特許を取り消すことはできない。

(2)申立理由1−2、2−2−1、2−2−2(甲2を主引用例とした新規性進歩性)について
ア 本件特許発明1について
(ア)本件特許発明1と甲2発明との対比
a 甲2発明の「アノード層1」、「ジルコニア(ZrO2)を含む電解質層3」、「Ce1−xFxO2(FはCa、Y、Sm、Gd、La、Mg、Sc、Nd、Yb、Pr、Pb、Sr、Eu、Dy、Ba、Beのうち、少なくとも1種以上であり、0≦x≦0.50)の組成式で表わされるセリア系材料を含むバリア層4」、及び「カソード層2」は、それぞれ本件特許発明1の「第1電極層」、「該第1電極層上に位置し、Zrを含有する固体電解質層」、「該固体電解質層上に位置し、Ce以外の希土類元素を含むCeO2を含有する中間層」における「第1中間層」、及び「該中間層上に位置する第2電極層」に相当する。

b 甲2発明の「アノード層1」、「ジルコニア(ZrO2)を含む電解質層3」、「Ce1−xFxO2(FはCa、Y、Sm、Gd、La、Mg、Sc、Nd、Yb、Pr、Pb、Sr、Eu、Dy、Ba、Beのうち、少なくとも1種以上であり、0≦x≦0.50)の組成式で表わされるセリア系材料を含むバリア層4」、及び「カソード層2」を備えた構造は、本件特許発明1の「素子部」に相当する。

c 甲2発明の「前記電解質層3と前記バリア層4との間に」設けられた「前記ジルコニアと、前記セリアと、前記ジルコニアと前記セリアとの固溶体((Zr,Ce)O2)と、が共存する共存層5」は、本件特許発明1の「該第1中間層と前記固体電解質層との間の少なくとも一部に位置し、ZrおよびCeを含む第2中間層」に相当する。

d 甲2発明の「固体酸化物型燃料電池セル」は、本件特許発明1の「セル」に相当する。

e そうすると、本件特許発明1と甲2発明とは、
(一致点3)
「第1電極層と、
該第1電極層上に位置し、Zrを含有する固体電解質層と、
該固体電解質層上に位置し、Ce以外の希土類元素を含むCeO2を含有する中間層と、
該中間層上に位置する第2電極層と、を備えた素子部を有し、
前記中間層は、第1中間層と、該第1中間層と前記固体電解質層との間の少なくとも一部に位置し、ZrおよびCeを含む第2中間層と、を有する、セル。」
である点で一致し、以下の点で相違する。

(相違点7)
本件特許発明1は、「前記第2電極層から平面視したときに、前記中間層の外周部に位置する前記第2中間層は、前記第2電極層の中央と重なる前記第2中間層より厚い部位を有する」のに対して、甲2発明は、外周部に位置する第2中間層が第2電極層の中央と重なる前記第2中間層より厚い部位を有するか否か不明な点。

(イ)相違点7についての判断
a 上記4(2)ア(エ)に摘記したとおり、甲2の【0025】には、本件特許発明1の「第2中間層」に対応する「共存層5」の厚みに関して、「電解質層3に含まれるジルコニウムの最大濃度から減少方向に濃度変化する間の領域を、共存層として把握することもできる。実施例で後述するとおり、例えば、ジルコニウムの最大濃度に対して10〜90%のジルコニウム濃度を示す領域の積層方向Lyの間隔を、共存層の厚みと規定することができる。この場合に、共存層5の好ましい厚みは、3〔μm〕以下であり、より好ましくは1.5〔μm〕以下である。」とは記載されているものの、上記「共存層5」を平面視したときに、外周部に位置する層の厚さが中央と重なる位置の層よりも厚い部位を有することについての明記はなく、また、本願出願当時の技術常識を考慮しても、甲2発明における「共存層5」について、外周部に位置する層の厚さが中央と重なる位置の層よりも厚い部位を有することが明らかとはいえない。

b この点につき、申立人は、特許異議申立書の第31頁下から12行〜第32頁第18行において、「甲2発明では、共存層5の厚みは、一律ではなく、各部位によってばらつくことは明らかである。そして、このように厚みがばらつく共存層5において、共存層5の外周部から選択した少なくとも一の部位が、共存層5の中央部の一の部位より厚くなっていることは十分に想定される。すなわち、甲2発明では、共存層5の外周部は、共存層5の中央部より厚い部位を有する蓋然性が極めて高い、と言える。・・・要するに、本件特許発明1は、第2中間層に相当する構成の厚さのばらつきに起因して、意図せずに偶発的に本件特許発明1の発明特定事項C(当審注:上記相違点7に係る特定事項)を満たす『公知技術(甲2発明等)』を包含するものであり、『発明公開の代償として特許権を付与する』という特許制度の趣旨に全く合致しないものであると言わざるを得ない。」と主張しているので、以下検討する。

(a)確かに、甲2発明において、共存層5の厚みが一律ではなく、部位によってばらつくことは想定されるが、上記(1)ア(イ)b(b)で検討したとおり、本件特許発明1の「前記第2電極層から平面視したときに、前記中間層の外周部に位置する前記第2中間層は、前記第2電極層の中央と重なる前記第2中間層より厚い部位を有する」との特定事項は、上記「第2中間層8b」が、「層」として、所定の作用を発揮し得るものであるとともに、断面における元素分析によって有意に厚さを確認できる程度の均一性を備えているものであることを前提としていると解するほかない。

(b)この観点からすると、申立人の上記主張が前提としているように、第2中間層5bの外周部に位置する部位に、中央と重なる部位よりも厚いところが局所的に存在しているか否かにのみ着目して、これが、本件特許発明1のように「前記第2電極層から平面視したときに、前記中間層の外周部に位置する前記第2中間層は、前記第2電極層の中央と重なる前記第2中間層より厚い部位を有する」との特定事項に相当するとはいえないことは、明らかである。

(c)したがって、申立人の上記主張は採用しない。

c そうすると、上記相違点7は、実質的なものであるといえる。

d そして、上記4(1)〜(8)に摘記した甲1〜甲8のいずれの記載を参照しても、甲2発明において、上記相違点7に係る特定事項を備えようとする動機付けを見出すことはできない。

e よって、本件特許発明1は、甲2に記載された発明であるとはいえず、また、甲2に記載された発明、及び甲1、甲3〜甲8に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

イ 本件特許発明2について
(ア)本件特許発明2と甲2発明との対比
本件特許発明2と甲2発明とを対比すると、上記ア(ア)a〜dにおいて検討したのと同様であるから、本件特許発明2と甲2発明とは、上記(一致点3)の点で一致し、以下の点で相違する。

(相違点8)
本件特許発明2は、「前記第2電極層から平面視したときに、前記中間層の外周部に位置する前記第2中間層は、前記第2電極層の中央と重なる前記第2中間層より厚い部位を有する」のに対して、甲2発明は、外周部に位置する第2中間層が第2電極層の中央と重なる前記第2中間層より厚い部位を有するか否か不明な点。

(イ)相違点8についての判断
上記相違点8について検討するに、上記ア(イ)a〜eにおいて上記相違点7について検討したのと同様であるから、本件特許発明2は、甲2に記載された発明であるとはいえず、また、甲2に記載された発明、及び甲1、甲3〜甲8に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

ウ 本件特許発明3〜5について
本件特許発明3〜5は、本件特許発明1、2のいずれかの発明特定事項を全て備えたものであるから、上述のとおり、本件特許発明1、2が、甲2に記載された発明であるとはいえず、また、甲2に記載された発明、及び甲1、甲3〜甲8に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない以上、同様に、甲2に記載された発明であるとはいえず、また、甲2に記載された発明、及び甲1、甲3〜甲8に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

エ 小括
以上のとおり、本件特許発明1、2は、甲2に記載された発明であるとはいえないから、申立理由1−2によって、同発明に係る特許を取り消すことはできない。
また、本件特許発明3〜5は、甲2に記載された発明、及び甲1、甲3〜甲8に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないから、申立理由2−2−1、2−2−2によって、同発明に係る特許を取り消すことはできない。

(3)申立理由3−1、3−2(サポート要件)について
ア 本件特許明細書等には、本件特許発明が解決しようとする課題についての明示的な記載はないが、上記3(5)に摘記した「本開示のセル1の第1の例」(本件特許発明1に対応)に係る【0036】、【0038】〜【0040】の記載からすると、上記第1の例は、セル1の発電効率に対する第2中間層8bの影響を小さくするとともに、外周部において第1中間層8aを固体電解質層4から剥離し難くすることを目的としたものと認められ、また、上記3(7)に摘記した「本開示のセル1の第2の例」(本件特許発明2に対応)に係る【0046】〜【0048】の記載からすると、上記第2の例は、上記第1の例同様、セル1の発電効率に対する第2中間層8bの影響を小さくするとともに、外周部において第1中間層8aを固体電解質層4から剥離し難くすることを目的とするのに加えて、セル1で生じた電気が中央部に流れやすくなり、セル1の電流経路を制御しやすくすることも目的としていると認められ、さらに、上記3(9)に摘記した「本開示のセル1の第3の例」(本件特許発明7に対応)に係る【0065】の記載からすると、上記第3の例は、発電量の大きい第1部位6aにおける中間層8の電気抵抗が低くなり、セル1の発電効率を高めることを目的としたものと認められ、これらを総合勘案すると、本件特許発明が解決しようとする課題は、少なくとも、セルの発電効率に対する中間層の影響を小さくすることにより、中間層を形成した場合であっても、セルの発電効率が低下することを防止することにあると認められる。

イ そして、上記3(5)、(7)、(9)に摘記したとおり、本件特許明細書等の発明の詳細な説明の【0036】〜【0040】、【0046】〜【0048】、【0065】には、上記アの課題を解決するために、上記第1の例については、第2電極層から平面視したときに、中間層の外周部に位置する第2中間層が、上記第2電極層の中央と重なる上記第2中間層より厚い部位を有するように構成し(以下、「構成1」という。)、上記第2の例については、第2電極層から平面視したときに、中間層の外周部に位置する第2中間層の平均厚さが、上記第2電極層の中央部と重なる上記第2中間層の平均厚さより厚くなるように構成し(以下、「構成2」という。)、上記第3の例については、第2電極層から平面視したときに、ガス流路と重なる第1部位における第2中間層の平均厚さが、上記ガス流路と重ならない第2部位における上記第2中間層の平均厚さより薄くなるように構成すること(以下、「構成3」という。)が記載されており、上記構成1〜3うちの少なくとも1つを備えることが、「発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲」であると認められる。

ウ そうすると、本件特許発明1〜10は、上記イに記載した上記構成1〜3の少なくとも1つを発明特定事項として含むものであるから、「発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲」を超えるものとはいえない。

エ この点につき、申立人は、特許異議申立書の第44頁下から5行〜第49頁下から4行において、本件特許発明が解決しようとする課題が、「ZrおよびCeを含む第2中間層8bの存在に起因するセル1の発電効率の低下の防止と、中間層8の外周部における固体電解質層4からの第1中間層8aの剥離の防止」であることを前提として、本件特許発明1〜6、8〜10は、中間層の外周部の全周における一部分だけ、中央部より厚くなっている又は平均厚さが厚くなっている態様を含む点で、特に、上記課題のうちの剥離の防止の点を解決することができない旨主張しているが、上記アで検討したとおり、「中間層8の外周部における固体電解質層4からの第1中間層8aの剥離の防止」の点は、本件特許発明が解決しようとする課題として必須のものとはいえないので、上記主張は、前提を欠くものであるから、採用しない。

オ したがって、本件特許発明1〜10は、発明の詳細な説明に記載したものであるから、申立理由3−1、3−2によって、同発明に係る特許を取り消すことはできない。

6 むすび
以上のとおりであるから、申立人による特許異議の申立ての理由によっては、請求項1〜10に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1〜10に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。

 
異議決定日 2021-12-03 
出願番号 P2020-547249
審決分類 P 1 651・ 113- Y (H01M)
P 1 651・ 121- Y (H01M)
P 1 651・ 537- Y (H01M)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 池渕 立
特許庁審判官 祢屋 健太郎
粟野 正明
登録日 2021-01-05 
登録番号 6818960
権利者 京セラ株式会社
発明の名称 セル、セルスタック装置、モジュールおよびモジュール収容装置  

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