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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  E04F
管理番号 1384179
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-05-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2021-08-20 
確定日 2022-01-06 
異議申立件数
事件の表示 特許第6859414号発明「煙突ユニット取付け方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6859414号の請求項1ないし3に係る特許を維持する。 
理由 1 手続の経緯
特許第6859414号の請求項1ないし3に係る特許についての出願は、令和1年10月10日に出願され、令和3年3月29日に特許権の設定登録がされ、令和3年4月14日に特許掲載公報が発行された。
その後、その特許に対し、令和3年8月20日に、特許異議申立人 片山 裕次郎(以下「申立人」という。)より、特許異議申立書(以下「申立書」という。)が提出され、請求項1ないし3に係る特許に対して特許異議の申立てがされた。

2 本件発明
特許第6859414号の請求項1ないし3の特許に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」ないし「本件発明3」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
建物躯体内部の煙突スペース内で筒形の複数の煙突ユニットを段積み状に接続することによって構築される煙突における下段側煙突ユニットに接続される上段側煙突ユニットが、上記躯体のスラブに吊り下げ状に取り付けられる煙突ユニット取付け方法であって、
下段側煙突ユニットに上段側煙突ユニットを段積み状に接続する接続工程と、この接続工程で下段側煙突ユニットに接続された上段側煙突ユニットを上記躯体のスラブに吊り下げ状に取り付ける取付け工程と、を有し、
上記接続工程が、下段側煙突ユニットの上端部に設けられた鞘筒に上段側煙突ユニットの下端部に設けられた筒形の差込み部を挿入する第1操作と、下段側煙突ユニットの上端面と上段側煙突ユニットの下端面との間に間隔を保持し得る上段側煙突ユニットの取付け高さ位置を定める第2操作とを含み、
接続工程に含まれる上記第2操作では、下段側煙突ユニットの上端部に設けられた第1フランジに対して、上段側煙突ユニットの下端部に設けられた第2フランジを、ボルトとナットとを用いて高さ方向で位置決めすることにより、下段側煙突ユニットの上端面と上段側煙突ユニットの下端面との間に上記間隔を保持し得る上段側煙突ユニットの取付け高さ位置を定めるものであって、
上段側煙突ユニットの第2フランジに固定されて下方に伸び出た長尺の上記ボルトを、上記第1操作を通じて下段側煙突ユニットの第1フランジに設けられているボルト挿通孔部に挿入すると共に、当該長尺の上記ボルトにあらかじめねじ込まれている上記ナットを下段側煙突ユニットの第1フランジに当接させることにより下段側煙突ユニットの第1フランジに対して上段側煙突ユニットの第2フランジを高さ方向で位置決めして下段側煙突ユニットの上端面と上段側煙突ユニットの下端面との間に上記間隔を保持し得る上段側煙突ユニットの取付け高さ位置を定めることを特徴とする煙突ユニット取付け方法。
【請求項2】
下段側煙突ユニットの上端面に重ね合わされた耐熱性を有する圧縮可能なパッキンを、上記接続工程に含まれる第1操作及び第2操作を通じて上段側煙突ユニットの下端面で押圧させることによって圧縮限界域に達しない範囲で圧縮することにより、このパッキンを下段側煙突ユニットの上端面と上段側煙突ユニットの下端面とによって挟圧させる請求項1に記載した煙突ユニット取付け方法。
【請求項3】
上記取付け工程で上段側煙突ユニットを上記躯体のスラブに吊り下げ状に取り付けた後、上記ボルトと上記ナットとを撤去する請求項1又は請求項2に記載した煙突ユニット取付け方法。」

3 申立理由の概要
申立人は、以下の甲第1号証ないし甲第3号証(以下、それぞれ「甲1」ないし「甲3」という。)を提出し、請求項1ないし3に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、請求項1ないし3に係る特許を取り消すべきものである旨主張する。

甲1:特開2016−56633号公報
甲2:特開2007−269454号公報
甲3:特開昭52−68720号公報

4 証拠の記載
(1)甲1
ア 甲1には、以下の事項が記載されている。(下線は、当審で付した。以下同様。)
(ア)「【0015】
以下、本発明の実施形態を図面にしたがって説明する。
図1〜図7は、本発明の第1実施形態を示したものである。図1に示すように、建物1の躯体1a内に煙突用吹き抜け1sが設けられている。煙突用吹き抜け1sは、建物1を鉛直に吹き抜けている。煙突用吹き抜け1s内に煙突10が設置されている。詳細な図示は省略するが、建物1にはボイラーや発電機等のガス排出を伴う設備が設けられており、これら設備の排気ダクトが煙突10の下端部に接続されている。煙突10の上端部は、建物1の屋上等に突出されている。煙突10は、複数の煙突ユニット11,11・・・に分割されている。これら煙突ユニット11,11・・・が、上下へ一列に積層されることによって、煙突10が構成されている。
【0016】
図2に示すように、各煙突ユニット11は、軸線を鉛直(上下)に向けた四角形の筒状(角筒形)になっている。図1及び図2に示すように、各煙突ユニット11は、4つの断熱壁材12と、コーナー材13と、水平材14とを含む。各断熱壁材12は、珪酸カルシウム等の硬質の断熱材料にて構成され、平らなパネル状になっている。4つの断熱壁材12が、互いに平面視で四角形になるように組み合わされている。煙突ユニット11の4つの隅角部には、L形鋼からなるコーナー材13が鉛直に設置されている。煙突ユニット11の4つの外側面には、形鋼からなる複数の水平材14が互いに上下に間隔を置いて水平に架け渡されている。したがって、煙突ユニット11は、剛性体であり、それ自体が水平力によって撓むことは殆どない。
【0017】
さらに、図3に示すように、煙突ユニット11の上端面及び下端面には、パッキン15が設けられている。パッキン15は、ガラスフェルト等の高耐熱性及び高弾力性のシール材にて構成されている。このパッキン15が上下の煙突ユニット11の断熱壁材12どうし間に挟まれて圧縮されている。これによって、煙突10の気密性能が高められている。
なお、図2においては、パッキン15の図示が省略されている。
【0018】
図5に示すように、煙突10における相対的に下側の煙突ユニット11上に相対的に上側の11が同軸をなすように順次継ぎ足されている。以下、これら上下に隣接する2つの煙突ユニット11,11を互いに区別するときは、上側の煙突ユニット11の符号を11Uと表記し、下側の煙突ユニット11の符号を11Lと表記する(図3参照)。勿論、上側の煙突ユニット11Uであるか下側の煙突ユニット11Lであるかは相対的であり、各煙突ユニット11が、直下の煙突ユニット11に対しては上側の煙突ユニット11Uとなり、直上の煙突ユニット11に対しては下側の煙突ユニット11Lとなる。
【0019】
図5に示すように、上下の煙突ユニット11U,11Lどうし間には、ジョイント部20が設けられている。図2及び図3に示すように、ジョイント部20は、枠部材21と、スペーサ22を含む。枠部材21は、4つの鋼板によって構成され、煙突10の外周に沿う四角環状に組まれている。この枠部材21が、上下の煙突ユニット11U,11Lの対向端部の外周部どうし間に跨るとともに、前記対向端部を囲んでいる。図3に示すように、枠部材21の下側部分24が、下側(一方)の煙突ユニット11L(11)のコーナー材13及び水平材14に、直接又はスペーサ22を介して接合(固定)されている。したがって、下側煙突ユニット11Lと枠部材21とは一体構造になっている。」

(イ)「【0022】
図1に示すように、各煙突ユニット11の上端近くの側部には、複数(ここでは4つ)の側方保持部30が設けられている。図2に示すように、側方保持部30は、煙突ユニット11の左右の側部の前後方向(図2において上下)の両側にそれぞれ配置されている。
【0023】
図4(a)に示すように、各側方保持部30は、側方アーム31と、アーム拘束部32を含む。側方アーム31は、水平板31aと、縦リブ31bとを有し、煙突ユニット11から左右側方へ突設されている。水平板31a及び縦リブ31bは、共に長方形の鋼板にて構成されている。図4(b)に示すように、水平板31aの上面の幅方向の中央部に縦リブ31bが鉛直に立設されている。したがって、側方アーム31の断面形状は、逆さT字形になっている。これら水平板31a及び縦リブ31bの基端部が、煙突ユニット11のコーナー材13又は水平材14に溶接又はボルト締め等にて接合されている。
【0024】
図1に示すように、建物1の躯体1aにおける、例えば鋼桁1bには、支持台1dが取り付けられている。図4に示すように、この支持台1dの上面に側方アーム31の先端部が載置(保持)されている。これによって、煙突ユニット11の側部が、側方保持部30を介して支持台1dひいては躯体1aの鋼桁1bに支持(保持)されている。言い換えると、側方保持部30が、煙突10を倒れないように側方から支えている。
【0025】
なお、上側の煙突ユニット11Uの荷重の一部分又は大部分は下側の煙突ユニット11Lに掛かっている。残りの荷重が側方保持部30を介して躯体1aに掛かっている。
或いは、上側の煙突ユニット11Uのほぼ全荷重が下側の煙突ユニット11Lに掛かり、側方アーム31は単に支持台1dに添えられているだけであってもよい。
逆に、上側の煙突ユニット11Uの荷重のほぼ全荷重が側方保持部30を介して躯体1aに掛かり、下側の煙突ユニット11Lには、上側の煙突ユニット11Uの荷重が殆ど掛かっていなくてもよい。」

(ウ)「【0033】
前記煙突10の構築方法を説明する。
図5に示すように、下側の煙突ユニット11Lが設置済であり、かつ該煙突ユニット11Lの上端部には枠部材21が取り付け済であるものとする。この枠部材21における枠上側部分23が、煙突ユニット11Lから上方へ突出されている。この枠上側部分23の内側に上側の煙突ユニット11Uの下部を差し込んで、下側煙突ユニット11L上に設置する。これによって、煙突ユニット11Uを煙突ユニット11Lに簡単に継ぎ足すことができる。
【0034】
これと同時に、上側の煙突ユニット11Uの各側方アーム31が、対応する支持台1dの上面に載置される。この時、煙突ユニット11ひいては側方アーム31が躯体1aに対して厳密に位置決めされていなくても、過大穴31cの直径がボルト穴1cの直径よりも十分に大きいために、過大穴31cとボルト穴1cとが確実に重なるようにできる。したがって、ボルト33を支持台1dの下方からボルト穴1cに差し入れて、過大穴31cに確実に挿通することができる。
【0035】
続いて、ガイド筒34を上方からボルト33の外側に嵌める。
更に、ガイド部37を、ガイド筒34の外側に嵌めて水平板31a上に配置する。この段階におけるガイド部37は、側方アーム31とは未接合であるから、側方アーム31に対する配置位置を調節できる。したがって、側方アーム31の設置精度に拘わらず、ガイド部37のガイド穴37cとガイド筒34とを位置合わせして、簡単に嵌め込むことができる。要するに、ガイド部37の位置調節によって、側方アーム31の設置誤差を埋め合わせることができる。
その後、ガイド部37を水平板31aに溶接して固定する。
また、ワッシャ35を介してダブルナット36をボルト33にねじ込むことで、ガイド筒34を位置固定する。これによって、側方アーム31が、躯体1aに対して上方へ変位可能に拘束される。
【0036】
図6に示すように、地震の際は、水平力によって建物1に層間変形が生じる。このとき、ジョイント部20によって、上側の煙突ユニット11Uの下端部が、下側の煙突ユニット11Lに対し横ずれするのが規制される。一方、上側の煙突ユニット11Uが下側の煙突ユニット11Lに対して傾斜するのは許容される。したがって、上側の煙突ユニット11Uは、下側の煙突ユニット11Lに対して微小回転(ロッキング)する。このとき、上側の煙突ユニット11Uの下端部における傾斜側(図6において右側)の部分は、ジョイント部20の枠上側部分23に引っ掛かる。一方、上側の煙突ユニット11Uにおける傾斜側とは反対側(図6において左側)の部分は、下側の煙突ユニット11Lから浮き上がる。これに伴い、傾斜側とは反対側の側方アーム31が支持台1dから上方へ変位する。これによって、煙突10を建物1の層間変形に追従させることができる。この結果、煙突10が破損するのを防止できる。」

(エ)図3及び図5
図3




図5




イ 上記アからみて、甲1には、次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されているものと認める。
「建物1の躯体1a内に煙突用吹き抜け1sが設けられ、
煙突用吹き抜け1s内に煙突10が設置されており、
煙突10は、複数の煙突ユニット11,11・・・に分割され、これら煙突ユニット11,11・・・が、上下へ一列に積層されることによって構成されており、
各煙突ユニット11は、四角形の筒状(角筒形)になっており、
煙突10における相対的に下側の煙突ユニット11L上に相対的に上側の煙突ユニット11Uが同軸をなすように順次継ぎ足されており、
上下の煙突ユニット11U,11Lどうし間には、ジョイント部20が設けられ、
ジョイント部20は、枠部材21と、スペーサ22を含み、枠部材21は、4つの鋼板によって構成され、煙突10の外周に沿う四角環状に組まれており、
枠部材21の下側部分24が、下側の煙突ユニット11Lのコーナー材13及び水平材14に、直接又はスペーサ22を介して接合(固定)され、
各煙突ユニット11の上端近くの側部には、複数の側方保持部30が設けられ、
各側方保持部30は、側方アーム31と、アーム拘束部32を含み、側方アーム31は、水平板31aと、縦リブ31bとを有し、煙突ユニット11から左右側方へ突設されており、
建物1の躯体1aにおける鋼桁1bには、支持台1dが取り付けられ、
上側の煙突ユニット11Uの荷重のほぼ全荷重が側方保持部30を介して躯体1aに掛かり、下側の煙突ユニット11Lには、上側の煙突ユニット11Uの荷重が殆ど掛からないものである煙突10において、
煙突10の構築方法は、
下側の煙突ユニット11Lが設置済であり、かつ下側の煙突ユニット11Lの上端部には枠部材21が取り付け済であり、
枠部材21における枠上側部分23が、下側の煙突ユニット11Lから上方へ突出されており、
枠上側部分23の内側に上側の煙突ユニット11Uの下部を差し込んで、下側の煙突ユニット11L上に設置することによって、上側の煙突ユニット11Uを下側の煙突ユニット11Lに継ぎ足し、
これと同時に、上側の煙突ユニット11Uの側方アーム31が、対応する支持台1dの上面に載置され、
その後、側方アーム31が、躯体1aに対して上方へ変位可能に拘束される、
煙突10の構築方法。」

(2)甲2
ア 甲2には、以下の事項が記載されている。
(ア)「【0011】
本発明は、前記問題点に鑑みて開発されたものであり、ブロックを積重してエレベータシャフトや煙突、擁壁等のブロック積重構造物を構築するに際して、ブロックの寸法精度が良好でない場合であってもブロックの高さ調整を正確に然も能率的に行うことができ、その上、高さ調整のための調整ボルトをブロックに取り付けたり取り外したりするのが容易であって作業性に優れるブロックの高さ調整具の提供を課題とするものである。又、該高さ調整具を用いてブロックを精度よく然も能率的に積重可能なブロック積重方法の提供を課題とするものである。」

(イ)「【0046】
該高さ調整具1は、本実施例においては図1〜3、図14〜15に示すように、各ブロックBの内面60に着脱可能に固定されるものであり、下のブロックBbに着脱可能に固定される下の固定部材61と、前記上のブロックBaに着脱可能に固定される上の固定部材62と、該上下の固定部材62,61に対して着脱可能の調整ボルト63と、該調整ボルト63の上側雄ネジ部65の上下に螺合される上下のナット部材66,67と、該調整ボルト63の下側雄ネジ部69の上下に螺合される上下のナット部材70,71とを具えている。」

(ウ)「【0058】
かかる構成の高さ調整具1を用いて、上下のブロックBa,Bb間に所要間隙Gを設けて該上のブロックBaを該下のブロックBbに対して高さ調整し、該高さ調整された状態を保持させる作業工程を、前記エレベータシャフト3の最下端に位置する前記第1のブロック1B上に前記第2のブロック2Bを積重する場合を例にとって説明する。
【0059】
そのために、先ず図16〜17に示すように、前記基礎部6上に所要に設置された前記第1のブロック1B(1段目のブロックB1)の内面60の上端側の部分60aに前記下の固定部材61が固定された状態とする。又、前記第1のブロック1Bの、平面視でコ字形を呈する上端面128の縁部に沿って環状に、弾性止水材124の下面126を貼着状態としておく。
・・・(中略)・・・
【0064】
その後、図19〜20に示すように、前記第2のブロック2Bを、PC鋼棒11の前記突出部分132が対応の挿通孔33に挿通するように位置合わせして吊り下ろし、図21に示すように、前記弾性止水材124上に載置する。
・・・(中略)・・・
【0069】
このような作業工程を経ることによって、第2のブロック2Bの鉛直度と、該第2のブロック2Bの前記第1のブロック1Bに対する高さが、概略設定されることになる。そしてこの状態で、上下の水平片106,73が対向し、上下の欠切部109,81が対向状態となる。
【0070】
この状態で図1、図21に示すように、上側雄ネジ部65の上下に所要間隔を置いて上下のナット部材66,67が螺合されると共に前記下側雄ネジ部69の上下に所要間隔を置いて上下のナット部材70,71が螺合されてなる前記調整ボルト63を、該上下の欠切部109,81に横方向に嵌入させる。この嵌入工程を具体的に説明すれば、該上側雄ネジ部65に螺合されている該上下のナット部材66,67間(本実施例においては、前記上下の第2の座金125,125間)65aと、前記下側雄ネジ部69に螺合されている前記上下のナット部材70,71間(本実施例においては前記上下の第2の座金125,125間)69aに、前記上下の欠切部109,81が介在し得るように、該上下の第2の座金125,125間に存する上側雄ネジ部65aを前記上の欠切部109の開放端122(図1)に位置合わせすると共に、前記上下の第2の座金125,125間に存する前記下側雄ネジ部69aを前記下の欠切部81の開放端118(図1)に位置合わせする。この状態で、図21に示すように、該調整ボルト63を上下の欠切部109,81に横方向に嵌入させる。この際、図3に示すように、前記第2の座金125の外端部分111,84が前記両側の規制係合部112,86に当接した状態とする。
【0071】
その後、図22に示すように、前記下側雄ネジ部69に螺合されている上下のナット部材70,71を締め付けて前記下の水平片73を挾持状態とする。これにより前記調整ボルト63は、ボルト下端部分139が前記下の水平片73に固定されて垂直立設状態となる。
【0072】
然る後、前記上側雄ネジ部65に螺合されている上下のナット部材66,67を螺合操作することにより、前記上の固定部材62を介し、上下のブロックBa,Bb間に所要間隙G(図2)を設けて、前記上のブロックBaの高さ調整を行うことができる。本実施例においては、ブロックの四隅において高さ調整具1,1,1,1が配設されているため、夫々の高さ調整具1の前記上側雄ネジ部65の上下のナット部材66,67を、上のナット部材66を下方に向けて螺合操作することによって、或いは、下のナット部材67を上方に向けて螺合操作することによって、前記2段目のブロックB2の鉛直度を確保できると共に、該2段目のブロックB2を1段目のブロックB1に対して所要に高さ調整できる。
・・・(中略)・・・
【0075】
そして、自由状態にあった弾性止水材124の上下の肉厚20mmが、5〜13mmの範囲で圧縮状態とされることにより所要の止水効果(グラウト漏れを防止できる止水効果)が得られる。このように高さ調整された状態で、1段目のブロックB1と2段目のブロックB2の接合部分140(図2)に、弾性止水材124によって囲まれた、液状充填材の前記充填空間59が形成されることになる。
・・・(中略)・・・
【0088】
このようにしてブロック積重を完了した後、図26に示すように、前記夫々の充填空間59にグラウト162a等の液状充填材162を充填するのであるが、その充填は例えば次のようにして行う。前記充填空間59に、高さ調整具1が存在しない部分で、グラウト注入孔163と空気抜き孔とを設け、図26に示すように、該グラウト注入孔163からグラウト注入ホース165を介して、前記充填空間59にグラウト162aを注入する。その際、前記のように弾性圧縮状態にある前記弾性止水材124が、充填されるグラウト162aの漏れを防止し得る止水性を発揮する。そして、前記空気抜き孔から排気されて充填空間59にグラウト162aが円滑に注入され、前記空気抜き孔からのグラウト材の流出によって、充填空間59にグラウトが充填されたことを確認できる。
【0089】
充填空間59の夫々にこのようにしてグラウト162aを充填し、充填完了後、該グラウト注入孔163及び空気抜き孔を詰め栓等で閉じ、該充填されたグラウトを養生硬化させる。硬化したグラウトは前記グラウト充填層7(図8、図7)を構成し、その上に位置するブロックの荷重を安定的に支持できる。このようにグラウトが硬化した後、図13に示すように、前記屋根ブロック9に設けられている挿通孔33の前記拡大孔部49の底面で突出状態にある緊締材12の上端部分169に支持プレート170を嵌めると共に、該上端部分169を上方に引っ張って所要の緊張状態とし、且つ該緊張状態を前記止着具47で止着し、該止着具47を前記拡大孔部49に収容させる。これらにより、鉛直度と水平度が正しく確保された状態でブロック相互が強固に連結一体化され、エレベータの出入口16が所定高さ位置に正しく形成された前記エレベータシャフト2を構築できることになる。なお、止着具47を収容した後に前記拡大孔部49にモルタル168を充填する。
【0090】
然る後、前記上側雄ネジ部65に螺合されている上下のナット部材66,67と、前記下側雄ネジ部69に螺合されている上下のナット部材70,71を緩めると共に、前記第2の座金125と前記規制係合部112,86との係合状態を解除する。その後、該調整ボルト63を横移動させて該調整ボルト63を前記上下の水平片106,73から取り外すと共に、前記上下の固定部材62,61を、前記固定ボルト79を除去することによって上下のブロックBa,Bbから取り外す。このように高さ調整具1を取り外すために、前記昇降路15の有効断面を狭める問題を生じさせない。そして、このように取り外した上下の固定部材62,61と調整ボルト63は、別の施工現場で再利用できる。又、このように上下の固定部材62,61を取り外すと、取り外した跡にインサートの開口が生ずるが、本実施例においては、上下の固定部材61,62を上下のブロックBa,Bbの内面60,60に固定することとしているため、図27に示すように上下のブロックBa,Bbの外面167,167に固定する場合とは異なり、上下の固定部材61,62を取り外した後にブロックに残るインサート77の孔部によってエレベータシャフトの外観が損なわれる恐れがない。」

(エ)「【0094】
前記上のブロックの高さ調整に際しては、前記とは逆に、図28〜29に示すように、前記上側雄ネジ部65の上下のナット部材66,67を締め付けて前記上の水平片106を挾持状態として後、前記下側雄ネジ部69の上下のナット部材70,71を螺合操作することによって、前記上の固定部材62を介して前記上のブロックBaの高さ調整を行うこともできる。より具体的には、図28に示すように、前記下側雄ネジ部69に螺合されている上のナット部材70を緩めた状態で前記下のナット部材71を上方向に螺合させれば、前記弾性止水材124を稍圧縮状態にしながら該上のブロックBaを下方向に移動させることができる。逆に図29に示すように、下のナット部材71を緩めた状態で前記上のナット部材70を下方向に螺合されることにより、前記弾性止水材124を弾性復元させながら前記上のブロックBaを上方向に移動させる微調整を行うことができる。」

(オ)図19及び21
図19




図21




(3)甲3
ア 甲3には、以下の事項が記載されている。
(ア)「本発明はプレキヤスト柱、即ち、工場にてあらかじめ製作したプレキヤストコンクリートから成る柱の接合方法に関するものである。」(第1頁左下欄第16〜18行)

(イ)「図において、Aは下部の柱で複数の主筋1とフープ2とを有するプレキヤストコンクリートから成るもので、上端に凹入部3を有し、この凹入部3の内面に沿つて主筋1が露出している。Bは上部の柱で、下部の柱Aと同様に複数の主筋4とフープ5を有するプレキヤストコンクリートから成るもので、下端面中央に突部6を有しており、且つ各主筋4の下端が突出している。又、各柱A,Bの外側四面には夫々支持金物7,8を固定し、下部の支持金物7に固定した複数のボルト9を上部の支持金物8の挿通孔に挿通して該ボルト9に螺着したナツト10にて上部の支持金物8を支えるようにする。」(第1頁右下欄第10行〜第2頁左上欄第2行)

(ウ)「次に柱A,Bの接合方法について説明すれば先ず、下部の柱Aを適宜立設してその上端の凹入部3にモルタル、コンクリート、樹脂等の充填材11を充填し、次いで該凹入部3に上部の柱Bの主筋4を嵌入せしめて主筋4を凹入部3内の主筋1に添接し、下部の柱Aの支持金物7に固定したボルト9を上部の柱Bの支持金物8の挿通孔に挿通してナツト10を回し、金物78間を調節して上部の柱Bの建ちや高さを修正し、一定時間放置して充填材11を硬化させたのちボルト9及びナツト10等を外す。」(第2頁左上欄第8〜18行)

(エ)第1図




5 当審の判断
(1)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲1発明とを対比する。
(ア)甲1発明の「建物1の躯体1a内」の「煙突用吹き抜け1s」、「煙突10」は、それぞれ本件発明1の「建物躯体内部の煙突スペース」、「煙突」に相当する。
また、甲1発明の「煙突10」が「四角形の筒状(角筒形)になって」いる「複数の煙突ユニット11,11・・・に分割され、これら煙突ユニット11,11・・・が、上下へ一列に積層されることによって構成され」ることは、本件発明1の「筒形の複数の煙突ユニットを段積み状に接続することによって構築される煙突」であることに相当する。
よって、甲1発明の「煙突10」について「建物1の躯体1a内に煙突用吹き抜け1sが設けられ、煙突用吹き抜け1s内に煙突10が設置されており、煙突10は、複数の煙突ユニット11,11・・・に分割され、これら煙突ユニット11,11・・・が、上下へ一列に積層されることによって構成されており、各煙突ユニット11は、四角形の筒状(角筒形)になって」いることは、本件発明1の「建物躯体内部の煙突スペース内で筒形の複数の煙突ユニットを段積み状に接続することによって構築される煙突」であることに相当する。

(イ)甲1発明の「下側の煙突ユニット11L」、「上側の煙突ユニット11U」は、それぞれ本件発明1の「下段側煙突ユニット」、「上段側煙突ユニット」に相当する。
また、甲1発明の「側方保持部30」は、「各煙突ユニット11の上端近くの側部に」「設けられ」るものであって、「側方保持部30」に含まれて「水平板31aと、縦リブ31bとを有し、煙突ユニット11から左右側方へ突設されて」いる「側方アーム31」は「躯体1aに対して上方へ変位可能に拘束され」て、「上側の煙突ユニット11Uの荷重のほぼ全荷重が側方保持部30を介して躯体1aに掛かり、下側の煙突ユニット11Lには、上側の煙突ユニット11Uの荷重が殆ど掛からないものである」から、甲1発明の「上側の煙突ユニット11U」は、その荷重のほぼ全荷重が、その上端近くの側部にある側方保持部30を介して躯体1aに支持されるものであって、このことと、本件発明1の「下段側煙突ユニットに接続される上段側煙突ユニットが、上記躯体のスラブに吊り下げ状に取り付けられる」こととは、「下段側煙突ユニットに接続される上段側煙突ユニットが、上記躯体に吊り下げ状に取り付けられる」ことで共通する。

(ウ)上記(ア)及び(イ)を踏まえると、甲1発明の「枠上側部分23の内側に上側の煙突ユニット11Uの下部を差し込んで、下側の煙突ユニット11L上に設置することによって、上側の煙突ユニット11Uを下側の煙突ユニット11Lに継ぎ足し、これと同時に、上側の煙突ユニット11Uの側方アーム31が、対応する支持台1dの上面に載置され、その後、側方アーム31が、躯体1aに対して上方へ変位可能に拘束され」ることと、本件発明1の「下段側煙突ユニットに上段側煙突ユニットを段積み状に接続する接続工程と、この接続工程で下段側煙突ユニットに接続された上段側煙突ユニットを上記躯体のスラブに吊り下げ状に取り付ける取付け工程」とは、「下段側煙突ユニットに上段側煙突ユニットを段積み状に接続する接続工程と、この接続工程で下段側煙突ユニットに接続された上段側煙突ユニットを上記躯体に吊り下げ状に取り付ける取付け工程」であることで共通する。

(エ)甲1発明の「下側の煙突ユニット11Lの上端部に」「取り付け済であ」る「枠部材21」、「四角形の筒状(角筒形)」である「上側の煙突ユニット11Uの下部」は、それぞれ本件発明1の「下段側煙突ユニットの上端部に設けられた鞘筒」、「上段側煙突ユニットの下端部に設けられた筒形の差込み部」に相当する。
よって、甲1発明の「下側の煙突ユニット11Lから上方へ突出されて」いる「枠部材21における」「枠上側部分23」「の内側に上側の煙突ユニット11Uの下部を差し込んで、下側の煙突ユニット11L上に設置すること」は、本件発明1の「下段側煙突ユニットの上端部に設けられた鞘筒に上段側煙突ユニットの下端部に設けられた筒形の差込み部を挿入する第1操作」に相当する。

(オ)上記(ア)ないし(エ)のとおり、甲1発明の「煙突10」は、下側煙突ユニット11Lに上側煙突ユニット11Uを取り付けて構築するものであるから、甲1発明の「煙突10の構築方法」は、本件発明1の「煙突ユニット取付け方法」に相当する。

(カ)以上のことから、本件発明1と甲1発明とは、次の一致点で一致し、相違点で相違する。
(一致点)
「建物躯体内部の煙突スペース内で筒形の複数の煙突ユニットを段積み状に接続することによって構築される煙突における下段側煙突ユニットに接続される上段側煙突ユニットが、上記躯体に吊り下げ状に取り付けられる煙突ユニット取付け方法であって、
下段側煙突ユニットに上段側煙突ユニットを段積み状に接続する接続工程と、この接続工程で下段側煙突ユニットに接続された上段側煙突ユニットを上記躯体に吊り下げ状に取り付ける取付け工程と、を有し、
上記接続工程が、下段側煙突ユニットの上端部に設けられた鞘筒に上段側煙突ユニットの下端部に設けられた筒形の差込み部を挿入する第1操作を含む、
煙突ユニット取付け方法。」

(相違点1)
接続工程について、本件発明1では、「下段側煙突ユニットの上端面と上段側煙突ユニットの下端面との間に間隔を保持し得る上段側煙突ユニットの取付け高さ位置を定める第2操作」を含み、「第2操作では、下段側煙突ユニットの上端部に設けられた第1フランジに対して、上段側煙突ユニットの下端部に設けられた第2フランジを、ボルトとナットとを用いて高さ方向で位置決めすることにより、下段側煙突ユニットの上端面と上段側煙突ユニットの下端面との間に上記間隔を保持し得る上段側煙突ユニットの取付け高さ位置を定めるものであって、上段側煙突ユニットの第2フランジに固定されて下方に伸び出た長尺の上記ボルトを、上記第1操作を通じて下段側煙突ユニットの第1フランジに設けられているボルト挿通孔部に挿入すると共に、当該長尺の上記ボルトにあらかじめねじ込まれている上記ナットを下段側煙突ユニットの第1フランジに当接させることにより下段側煙突ユニットの第1フランジに対して上段側煙突ユニットの第2フランジを高さ方向で位置決めして下段側煙突ユニットの上端面と上段側煙突ユニットの下端面との間に上記間隔を保持し得る上段側煙突ユニットの取付け高さ位置を定める」ことが特定されているのに対し、甲1発明では、そのように特定されていない点。

(相違点2)
上段側煙突ユニットが、躯体に吊り下げ状に取り付けられることについて、本件発明1では、躯体の「スラブ」に取り付けられることが特定されているのに対し、甲1発明では、そのように特定されていない点。

イ 判断
上記相違点1について検討する。
(ア)甲1発明においては、「枠上側部分23の内側に上側の煙突ユニット11Uの下部を差し込んで、下側の煙突ユニット11L上に設置することによって、上側の煙突ユニット11Uを下側の煙突ユニット11Lに継ぎ足」して、「これと同時に、上側の煙突ユニット11Uの側方アーム31が、対応する支持台1dの上面に載置され」ているから、この時点で上側及び下側の煙突ユニット間に間隔を保持し得るように上側の煙突ユニットの取付け高さ位置を定める操作を行う必要はなく、接続工程について、相違点1に係る本件発明1の「下段側煙突ユニットの上端面と上段側煙突ユニットの下端面との間に間隔を保持し得る上段側煙突ユニットの取付け高さ位置を定める第2操作」を含むものとする動機付けはない。
また、甲1の段落【0034】ないし【0035】には、側方アーム31の設置誤差を埋め合わせる位置調節が記載されているが、側方アーム31が支持台1dの上面に載置された状態において過大穴31cとボルト穴1cとが重なるように調節するものであって、上側の煙突ユニットの取付け高さ位置を定めるものではない。

(イ)甲2及び甲3には、上記4(2)及び(3)に示した事項が記載されているが、いずれも液状の充填材を注入するために部材間の間隔を調整するものであって(甲2については上記4(2)ア(ウ)の段落【0075】及び【0088】、甲3については上記4(3)ア(ウ)を参照。)、甲1発明に適用する動機付けはない。

ウ 小括
上記ア及びイのとおりであるから、相違点2について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明並びに甲2及び甲3に記載の技術事項に基いて、当業者が容易に発明することができたものではない。

エ 申立人の主張について
申立人は、上記相違点1に関し、甲1における段落【0035】及び【0017】の記載から、下側煙突ユニット11Lの上端面と上側煙突ユニット11Uの下端面との間に間隔を保持し得る上側煙突ユニットの取付け高さ位置を定める第2操作がなされることは明らかである旨を主張している(申立書第8頁下から7行〜下から5行)。
しかしながら、甲1の段落【0017】の記載は、「煙突ユニット11」間がパッキン15によって気密性能が高められているのを示すにとどまり、段落【0035】の記載は、上記イ(ア)に示したとおり、側方アーム31の設置誤差を埋め合わせる位置調節であって、側方アーム31が支持台1dの上面に載置された状態において過大穴31cとボルト穴1cとが重なるように調節することを示すものであるから、上記主張する甲1の段落【0035】及び【0017】の記載を併せみても、上記設置する操作とともに、さらに下側の煙突ユニット11Lの上端面と上側の煙突ユニット11Uの下端面との間に間隔を保持し得るように上側の煙突ユニット11Uの取付け高さ位置を定める操作がなされているとはいえない。
したがって、甲1発明において、「上側の煙突ユニット11Uを下側の煙突ユニット11Lに継ぎ足」す際に、煙突ユニット間の間隔を保持し得る上段の煙突ユニットの取付け高さ位置を定める操作を行うことは、甲1において記載も示唆もなく、採用する動機付けもあるとはいえないから、上記相違点1については、上記イのとおり判断されるべきものである。
よって、申立人の上記主張は採用できない。

(2)本件発明2及び3について
本件発明2及び3は、本件発明1の構成を全て含み、さらに限定を付加した発明であるから、上記(1)に示した理由と同様の理由により、本件発明2及び3は、甲1発明並びに甲2及び甲3に記載の技術事項に基いて、当業者が容易に発明することができたものではない。

6 むすび
したがって、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1ないし3に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1ないし3に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。

 
異議決定日 2021-12-20 
出願番号 P2019-187035
審決分類 P 1 651・ 121- Y (E04F)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 住田 秀弘
特許庁審判官 有家 秀郎
田中 洋行
登録日 2021-03-29 
登録番号 6859414
権利者 コーキ株式会社
発明の名称 煙突ユニット取付け方法  
代理人 早崎 修  

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