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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  H01L
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  H01L
管理番号 1384226
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-05-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2021-10-11 
確定日 2022-02-28 
異議申立件数
事件の表示 特許第6859496号発明「ガス孔をもつ半導体製造装置部品の洗浄方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6859496号の請求項1ないし15に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6859496号の請求項1〜15に係る特許についての出願は、2020年(令和2年)8月26日(優先権主張 令和1年8月28日)に国際出願され、令和3年3月29日にその特許権の設定登録がされ、令和3年4月14日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許に対し、令和3年10月11日に特許異議申立人菊間靖郎は、特許異議の申立てを行った。

第2 本件発明
特許第6859496号の請求項1〜15の特許に係る発明は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1〜15に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
半導体ウエハを処理する枚葉式の半導体製造装置において用いられる、緻密な堆積物が付着したガス孔をもつ半導体製造装置部品の洗浄方法であって、
前記ガス孔をもつ半導体製造装置部品は、アルミニウム又はアルミニウム合金からなり、複数のガス孔を有する分散板を備えており、
前記分散板のウエハに面する側の表面であるガス噴射面をレーザービームで走査し、前記ガス噴射面の表面及び前記ガス孔の表面付近に付着している前記堆積物を除去するとともに、前記ガス孔の奥に付着している前記堆積物の膜にクラックを生じさせる、又は、前記ガス孔の内壁から前記堆積物の膜を剥離させる工程(1)と、
前記ガス噴射面及び前記ガス孔の内部を、無機酸を含むクリーニング液と接触させ、前記堆積物の膜に生じたクラック又は前記堆積物の膜と前記ガス孔の内壁との間に生じた隙間にクリーニング液を浸透させる工程(2)と
を含む、ガス孔をもつ半導体製造装置部品の洗浄方法であって、
前記レーザービームが赤外線であり、
前記レーザービームの平均エネルギー密度が1×103〜1×1011W/m2である、ガス孔をもつ半導体製造装置部品の洗浄方法。
【請求項2】
前記レーザービームの平均エネルギーが10〜5000Wである、請求項1に記載のガス孔をもつ半導体製造装置部品の洗浄方法。
【請求項3】
前記レーザービームがパルスビームである、請求項1又は2に記載のガス孔をもつ半導体製造装置部品の洗浄方法。
【請求項4】
前記パルスビームのパルス周波数が10Hz〜500kHzである、請求項3に記載のガス孔をもつ半導体製造装置部品の洗浄方法。
【請求項5】
前記レーザービームが、CO2レーザー、YAGレーザー、Nd:YAGレーザー、Er:Nd−YAGレーザー、ファイバーレーザー及び高出力ダイオードレーザーからなる群から選択されるいずれか1つによって生成される、請求項1〜4のいずれか1項に記載のガス孔をもつ半導体製造装置部品の洗浄方法。
【請求項6】
前記レーザービームの波長が700nm〜1000μmである、請求項1〜5のいずれか1項に記載のガス孔をもつ半導体製造装置部品の洗浄方法。
【請求項7】
前記レーザービームの走査速度が0.01〜100mm/秒である、請求項1〜6のいずれか1項に記載のガス孔をもつ半導体製造装置部品の洗浄方法。
【請求項8】
前記無機酸が、硝酸、塩酸、硫酸及びフッ酸からなる群から選択される少なくとも1種を含む、請求項1〜7のいずれか1項に記載のガス孔をもつ半導体製造装置部品の洗浄方法。
【請求項9】
前記クリーニング液が酸化剤を含む、請求項1〜8のいずれか1項に記載のガス孔をもつ半導体製造装置部品の洗浄方法。
【請求項10】
前記工程(2)において、前記ガス孔をもつ半導体製造装置部品を前記クリーニング液に浸漬する、請求項1〜9のいずれか1項に記載のガス孔をもつ半導体製造装置部品の洗浄方法。
【請求項11】
前記ガス孔をもつ半導体製造装置部品を前記クリーニング液に0.5〜24時間浸漬する、請求項10に記載のガス孔をもつ半導体製造装置部品の洗浄方法。
【請求項12】
前記分散板の前記ガス噴射面及び前記ガス孔に堆積物が付着しており、前記堆積物は、エッチングガスとアルミニウムとの反応生成物を含む、請求項1〜11のいずれか1項に記載のガス孔をもつ半導体製造装置部品の洗浄方法。
【請求項13】
前記分散板の前記ガス噴射面及び前記ガス孔に堆積物が付着しており、前記堆積物は、成膜ガスに由来する化合物を含む、請求項1〜12のいずれか1項に記載のガス孔をもつ半導体製造装置部品の洗浄方法。
【請求項14】
前記工程(1)と前記工程(2)との間に、前記ガス噴射面に超音波を照射する工程(3)を備える、請求項1〜13のいずれか1項に記載のガス孔をもつ半導体製造装置部品の洗浄方法。
【請求項15】
前記ガス孔をもつ半導体製造装置部品がシャワーヘッドである、請求項1〜14のいずれか1項に記載のガス孔をもつ半導体製造装置部品の洗浄方法。」

第3 申立理由の概要
特許異議申立人菊間靖郎は、主たる証拠として以下の文献1、及び、従たる証拠として以下の文献2〜10を提出し、請求項1〜15に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、請求項1〜15に係る特許を取り消すべきものである旨、及び、請求項12に係る特許は、特許請求の範囲の記載が不備のため、特許法第36条第6項1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、請求項12に係る特許を取り消すべきものである旨を主張する。

<証拠一覧>
1.特開2012−64773号公報
2.特開2011−184774号公報
3.特開平8−27584号公報
4.特表2010−507252号公報
5.電気学会雑誌、昭和60年、105巻、10号、p.944〜950
6.精密工学会誌、2017年、Vol.83、No.6、p.514〜518
7.日本金属学会会報、1975年、第14巻、第6号、p.417〜429
8.特表平10−502166号公報
9.特開2007−5472号公報
10.特開2013−95974号公報

第4 文献の記載
1 文献1の記載、引用発明など
(1)文献1の記載(下線は合議体が付加した。以下同じ。)
「【技術分野】
【0001】
本発明は、プラズマ処理技術に係り、特に処理室内壁に付着する微小な粒子(異物)を低減して生産性を向上することのできるプラズマ処理技術に関する。」

「【背景技術】
【0002】
プラズマ処理装置においては、処理対象である半導体基板に対する加工寸法の微細化が進むにつれ、処理装置のクリーン化がますます必要とされている。近年では、半導体基板上に付着した100nm以下の微小な粒子であっても製造されるデバイスに悪影響を与える。このため、プラズマ処理装置においてはこのような粒子であっても除去されていることが望ましい。
・・・
【0005】
また、エッチング処理室の耐プラズマ性向上のために用いられるアルミニウム陽極酸化膜、あるいは酸化アルミ部品が消耗して生成したフッ化アルミニウム(AlF)は、揮発性の化合物になり難い。しかし、塩素ガスと臭化水素ガスの混合ガスを用いたプラズマを利用し、さらに基板搭載電極にシリコン基板を搭載してドライクリーニングを実施することにより除去することができる(特許文献2参照)」

「【発明が解決しようとする課題】
【0007】
近年では、プラズマ処理装置を構成する部品に、その消耗を低減するため、酸化イットリウムなどの耐プラズマ性材料が使用されることが多くなっている。
【0008】
しかし、このような耐プラズマ性材料であっても、プラズマエッチング中においては加速されたイオンによりスパッタされてわずかずつではあるが損耗し、損耗した耐プラズマ性材料は処理室内に堆積する。堆積した耐プラズマ性材料は100nm以下の微小粒子の状態で壁に多数付着している場合がある。そして、エッチング処理の際に、半導体基板上に異物として付着し、製造される半導体に悪影響を及ぼす。なお、これらの耐プラズマ性材料の微小粒子は、プラズマ処理によっては揮発性の化合物にならないと一般に考えられており、化学反応を利用して除去するのは困難である。
【0009】
ところで、このような微小粒子はファンデルワールス力によって処理室の内壁に強く付着しており、溶剤や酸を用いて物理的に洗浄を行うウェット洗浄により除去することは可能である。しかし、真空中で剥離させるのは困難である。
【0010】
このため、処理室を大気開放して部品をウェット洗浄せざるを得ないが、ウエット洗浄をする頻度はできるだけ少なくすることが装置の稼働率を向上するうえで重要となる。
【0011】
本発明はこのような問題点に鑑みてなされたもので、真空処理室内の微小粒子を効率よく除去することのできる半導体製造装置を提供するものである。」

「【0016】
まず、本発明の概略を説明する。本発明のプラズマ処理装置は、処理室に付着した有機化合物あるいはシリコン(Si)系の化合物をプラズマクリーニングにより除去した後、処理室内を真空状態、あるいは処理室内に堆積物とならないガス(アルゴン(Ar),窒素(N2),酸素(O2),その他の混合ガス(四フッ化炭素(CF4)+酸素(O2)など)を流した状態とした後、不揮発性の微小粒子が付着している処理室内面に微小粒子を構成する物質が吸収する波長の紫外ないし可視のレーザ光を照射する。これにより微小粒子は剥離したり剥離しやすくなる。その理由を以下に説明する。
【0017】
微小粒子と処理室内面との付着力であるファンデルワールス力について、本願発明者が調査研究したところ、この力を構成する分散力は、微小粒子と処理室内面にあるそれぞれの電子が、鏡像関係の分布になるようにタイミングを合わせて揺らぎ、そこに反対極性同士の引力が生じていると言える。そして、タイミングを合わせてゆらいでいる周波数は、微小粒子と処理室内面の電子に共通し、紫外ないし可視光の吸収波長に相当する周波数である。」

「【0026】
(実施形態1)
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。図1は、第1の実施形態にかかるプラズマエッチング装置を説明する図である。なお、本発明は、微細加工時における処理室のクリーン化に関する技術であるので、プラズマエッチング装置の外にスパッタ装置、CVD装置などに適用することができる。
はじめに、図1に示すプラズマエッチング装置の操作手順について説明する。図に示すように、プラズマエッチング装置は、エッチング処理室101、基板載置電極102、プラズマ生成用のマイクロ波源103、プロセス処理用のガス供給系104、真空排気用のターボ分子ポンプ105、ガス流量調整弁106を備える。被処理材である半導体基板は、基板搬送室から搬送口を介して基板載置電極102上に搬入および搬出される。矢印107は搬入および搬出の経路を示す。なお、前記搬送口にはエッチング処理室101と基板搬送室を隔離するバルブ(図示せず)が設けられる。
エッチング処理室101を高真空排気した状態において、処理用ガスをプロセス処理用ガス供給系104を介して供給する。処理用ガスは石英板に多数の小孔を空けて形成されたシャワープレート108を通してエッチング処理室101に供給される。
・・・
【0030】
この状態で、電極102に基板バイアス電源116から高周波電圧を整合器117を介して印加すると、製品の半導体基板113にはプラズマ中のイオンが入射し、プラズマエッチングが開始される。なお、高周波電圧印加中は、製品の半導体基板113と耐プラズマ性の酸化イットリウム(Y2O3)でコーティングされたアース119との間で高周波電流を流すため、半導体基板113とアース119の双方に加速されたイオンが入射する。このためアース119はスパッタされる。
【0031】
所定の時間あるいは所定の深さまでエッチングが進行した時点で基板バイアス電源116を停止する。次に伝熱用ガス供給系115を停止して製品の半導体基板113の裏面にある伝熱ガスを排気し、静電吸着電源114を停止する。さらに、プロセス処理用のガス供給系104を閉じ、ガス流量調整弁106のコンダクタンスを最大(弁の開度を100%にする)にしてエッチング処理室101内のガスを排気する。最後に、半導体基板113を搬出して、一連のプラズマエッチング処理を終了する。その後、再び新しい製品の半導体基板を導入して同様なエッチング処理を繰返す。
次の製品の半導体基板を処理室に搬入する前に、エッチング処理室101内の壁面、たとえばシャワープレート108、石英製内筒118、アース119などに付着したシリコン(Si)あるいはカーボン(C)を含む反応生成物を除去する場合がある。この場合には、製品の半導体基板113が載置されない状態(あるいはダミーの半導体基板113を載置した状態)で、六フッ化イオウ(SF6)、四フッ化炭素(CF4),酸素(O2)などのガスを用いてプラズマクリーニングが実施される。
しかしながら、以上の処理(製品の半導体基板処理、クリーニング処理)が繰返されると、アース119はスパッタされて、スパッタにより生成された不揮発性の反応生成物が堆積する。前記反応生成物は、プラズマクリーニングを実施したとしても、エッチング処理室101内の壁面に残留し、数十nm以上の微小粒子となると、剥離し、脱落する可能性が増してくる。すなわち、微小粒子が剥離して脱落する確率が増加し、製品の半導体基板が処理室にあるときに剥離した微小粒子は製品の半導体基板113に異物として付着することが多くなる。
【0032】
したがって、プラズマクリーニングでも除去できない不揮発性の微小粒子は、製品の半導体基板113がエッチング処理室101内に存在しない間に剥離除去して、製品の半導体基板113に付着する確率を下げることが必要である。
【0033】
図1に示す例では、レーザ光源123を設け、該光源からのレーザ光をミラー125を用いて広げ、基板載置電極102の上部に位置するシャワープレート108およびアース119に照射する。ここで、レーザ光源はフッ化イットリウム(YF3)の紫外吸収がある200nmより短波長の波長を発振するエキシマーレーザを用いた。すでに述べたようにレーザにより位相の揃った光子を照射することで微小粒子と処理室壁面のファンデルワールス力を弱めることができ、微小粒子が壁面から剥離するのを促進することができる。
【0034】
ここでは、アース表面に酸化イットリウム(Y2O3)をコーティングしたものを用いたが、アース部品としてアルミニウム合金を陽極酸化処理したものを用い、フッ化アルミニウム(AlF3)を対象とした波長の(150nm以下)レーザを用いてもよい。
【0035】
また、処理室天井部が酸化イットリウム(Y2O3)部品である場合、酸化イットリウム(Y2O3)は250nm以下に吸収があるため、波長200nm〜250nmのレーザ光を用いることで、酸化イットリウム(Y2O3)を主成分とする微小粒子の剥離を促進することができる。なお、波長が200nm以上のレーザ光は、石英を透過するため、レーザ導入窓材など光学系に石英を使用することができる。」

「【0036】
(実施形態2)
・・・
【0038】
基板載置電極202の下方(下流側)には、真空排気系とエッチング処理室を隔離する弁221が設けられ、その下流にはガス流量調整弁206とターボ分子ポンプ205が設置されている。なお、シャワープレート208には酸化イットリウムが用いられる。
【0039】
本実施形態では、レーザ光源として複数の半導体レーザ223a、223bを用いる。個々のレーザ光源から出たレーザ光224はそれぞれ光路を広げられ処理室天井に照射されている。一方のレーザの波長は200ないし250nmであり、酸化イットリウム(Y2O3)の粒子の剥離を目的としている。他方レーザの波長は、250ないし350nmであり、一部がフッ化したイットリウムの非化学量論的な反応生成物の剥離を目的としている。」

「【0041】
(実施形態3)
(実施形態3)
図3は、第3の実施形態にかかるプラズマエッチング装置を説明する図である。図1に示す第1の実施形態と異なる点は、レーザ光を石英製の天板を透過して上部から照射する点にある。照射するレーザの波長は、天板への吸収が小さく、微小粒子あるいはプラズマにさらされたシャワープレート表面での吸収は大きい波長に選択する必要がある。本実施形態では波長200nmないし250nmのレーザ光源を用いた。
【0042】
なお、図3において図1に示される部分と同一部分については同一符号を付してその説明を省略する。また、シャワープレート308には石英を用いた。
【0043】
この例においては、シャワープレート308には、アース119の表面の酸化イットリウム(Y2O3)のコーティング膜から剥離した酸化イットリウム(Y2O3)の微小粒子が付着していた。このような場合、200nmないし250nmのレーザ光を照射すると、照射されたレーザ光を酸化イットリウム(Y2O3)の粒子が吸収し、酸化イットリウム(Y2O3)の粒子と石英のプラズマにさらされて変質した表面との付着を弱め、酸化イットリウム微小粒子の剥離を促進することができる。」

「【0055】
図6は、処理室内に付着する粒子の主な組成と、それを除去するに好適なレーザ光の波長範囲を示す。
【0056】
一般的には堆積物(微小粒子)の吸収スペクトルを測定することにより、適切なレーザの波長を選ぶことができる。特にプラズマ処理を行う装置の処理室に付着する微小粒子の組成は化学量論的な比にならない場合が多い。例えば、図6示すフッ化アルミニウム(AlF3)などの真空紫外域しか吸収がない物質を主成分とした物質であっても、実際には紫外域に吸収がある場合が存在し、この場合は紫外レーザ光でも効果がみられる。
【0057】
対象とする不揮発性の堆積物の粒子に色がついている場合は、堆積物に可視光の波長の吸収があることを示している。このように対象とする堆積物の粒子に色がついている場合には、その色の補色が吸収波長であり、これをもとに照射するレーザの好適な波長を選ぶことができる。
【0058】
なお、以上の例では、真空紫外レーザとしてのエキシマーレーザを例に説明したが、希ガス−ハロゲンレーザ、半導体レーザなどの紫外レーザを使用することができる。また、波長範囲は分散力に寄与する周波数という理由から、電子励起に関わる真空紫外から可視領域の波長範囲で対象粒子に吸収がある波長であれば上述の効果を奏することができる。また、レーザの発振は連続発振でもパルス発振でも効果がある。」

図1、6は、以下のとおりのものである。



(2)文献1の記載事項
上記記載から、文献1には、次の技術的事項が記載されているものと認められる。
ア 文献1に記載された技術は、プラズマ処理技術に係り、特に処理室内壁に付着する微小な粒子(異物)を低減して生産性を向上することのできるプラズマ処理技術に関するものであり(【0001】)、真空処理室内の内壁に付着した、酸化イットリウムなどの耐プラズマ性材料の微小粒子を効率よく除去することのできる半導体製造装置を提供することを課題としたものである(【0007】〜【0011】)。

イ プラズマ処理装置は、処理室内を真空状態、あるいは処理室内に堆積物とならないガスを流した状態とした後、不揮発性の微小粒子が付着している処理室内面に微小粒子を構成する物質が吸収する波長の紫外ないし可視のレーザ光を照射する(【0016】)。

ウ 微細加工時における処理室のクリーン化に関する技術であり、プラズマエッチング処理装置の被処理材は半導体基板であり、プラズマエッチング装置は、処理用ガスをエッチング処理室101に供給する、石英板に多数の小孔を空けて形成されたシャワープレート108を備える(【0026】)。

エ エッチング処理室101内の壁面、たとえばシャワープレート108などに付着した、反応生成物である不揮発性の微小粒子を、レーザ光を基板載置電極102の上部に位置するシャワープレート108に照射することで、微小粒子を壁面から剥離除去する(【0030】〜【0033】)。

(3)引用発明
上記(1)、(2)から、文献1には、以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「半導体基板を処理するプラズマエッチング装置において用いられる、エッチング処理室101内の壁面、たとえばシャワープレート108などに付着した、反応生成物である不揮発性の微小粒子を壁面から剥離除去する、処理室のクリーン化方法であって、
プラズマエッチング装置は、処理用ガスをエッチング処理室101に供給する、石英板に多数の小孔を空けて形成されたシャワープレート108を備えており、
レーザ光を基板載置電極102の上部に位置するシャワープレート108に照射することで、微小粒子を壁面から剥離除去する、処理室のクリーン化方法であり、
処理室内を真空状態、あるいは処理室内に堆積物とならないガスを流した状態とした後、不揮発性の微小粒子が付着している処理室内面に微小粒子を構成する物質が吸収する波長の紫外ないし可視のレーザ光を照射する、処理室のクリーン化方法。」

2 文献2〜文献10について
(1)文献3の記載、文献3に記載された技術的事項
「【特許請求の範囲】
【請求項1】 金属材料の表面に、エネルギー密度10J/mm2 〜100J/mm2 のレーザ光を照射することを特徴とする金属材料の洗浄方法。
【請求項2】 金属材料の表面にレーザ光を照射して材料表面に存在する酸化皮膜を除去した後、金属皮膜の表面に新規な酸化皮膜を形成することを特徴とする金属材料の洗浄方法。
【請求項3】 金属材料の表面にレーザ光を照射することにより、材料表面の撥水性を高めることを特徴とする金属材料の表面処理方法。」

「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、加速器、放射光装置、分析装置などの真空容器、半導体製造装置、医薬品機器等に用いられる金属材料のレーザによる洗浄方法および真空容器や食品関連容器の表面の撥水性を高めるための表面処理方法に関する。」

「【0004】
【発明が解決しようとする課題】ところで金属部材の表面には酸化皮膜が存在し、この酸化皮膜に汚染物質が含まれ、前記の酸による洗浄や電解研磨による方法では、酸化皮膜中の汚染物質を除去することができないばかりでなく、水酸化物を形成するなどかえって汚染することがあった。
【0005】また加熱脱ガス処理は、高真空以上を必要とする場合、真空立ち上げに極めて長時間を必要とするという問題があった。本発明は前記従来の問題に留意し、金属部材の表面ならびに酸化皮膜中に残存する汚染物質を確実に除去できる乾式の金属材料の洗浄方法と、金属材料の表面に取り込まれている水分子を短時間で除去して撥水性を高めることができる金属材料の表面処理方法を提供することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】前記目的を達成するために本発明の金属材料の洗浄方法は、金属材料の表面に、レーザ光をエネルギー密度10J/mm2〜100J/mm2で照射する金属材料の洗浄方法とする。
【0007】また本発明の金属材料の洗浄方法は、金属材料の表面の酸化皮膜にレーザ光を照射して前記酸化皮膜を除去した後、金属材料の表面に新規な酸化皮膜を形成する金属材料の洗浄方法とする。
【0008】さらに本発明の金属材料の表面処理方法は、金属材料の表面にレーザ光を照射することにより、材料表面の撥水性を高めるものとする。
【0009】
【作用】上記金属材料の洗浄方法は、金属表面の酸化皮膜中に存在する汚染物質が、レーザ照射により除去され、また汚染物質の巣となっている金属材料の粒界に多く存在する介在物、たとえば金属間化合物や非金属介在物も除去できる。
【0010】さらにはレーザ照射で酸化皮膜も除去することによって汚染物質を根こそぎに除去でき、その後に汚染物質の存在しない新規な酸化皮膜を形成することで、加速器、半導体製造装置、製薬機器等に有用な金属材料とすることとなる。
【0011】また金属材料の表面処理方法は、レーザ光を照射することにより、大気中では金属材料の表面に、水分子が分離された緻密な酸化被膜を形成することができ、これにより撥水性を高めることができ、たとえば真空容器では加熱脱ガス処理を無くすか、または短時間で処理できて、高真空度を得ることができる。または食品容器では撥水性を高めることにより耐腐食性を向上させることができる。」

「【0012】
【実施例】以下に本発明に係る金属材料の洗浄方法の実施例について説明する。図1において、1はアルミニウム材である。このアルミニウム材1はアルゴン雰囲気で押し出したものであり、表面には酸化皮膜2が存在している。そして酸化皮膜2の表面には汚染物質が幾分か残存している。
【0013】レーザ光4はレンズ3を通して前記アルミニウム材1に照射される。さらに具体的には5×20mmのビーム通過孔をもつマスク(図示せず)を介してレーザ光4を照射し、その1ショット当りのエネルギーは215ジュール/パルスとする。そして最も良好な条件としては52ジュール/mm2であり、適正なエネルギー密度範囲は10〜100ジュール/mm2であった。
【0014】・・・レーザ光4の照射をくり返えすことにより、所期の汚染物質の除去ができた。・・・
【0016】つぎにレーザ照射前後のオージエ分析結果を図2および図3を示す。図2はレーザ照射前のアルミニウム材のオージエ分析結果であり、図3はレーザ照射後のアルミニウム材のオージェ結果を示す。図示のようにレーザ照射前に対し、レーザ照射後に不純物であるカーボンCが極度に減少しており、表面汚染が激減して汚染のない新しい厚い酸化皮膜が形成されており、その清浄化効果が見られる。
【0017】次に本発明に係る金属材料の撥水性を高めるための表面処理方法の一実施例を図4および図5に基づいて説明する。図4は大気中で使用された実験装置の概略構成を示し、11は50Wの赤外CO2 レーザ光12を発振するレーザ発振器で、このレーザ発振器11から発振されたレーザ光12は、集光レンズ13を介して、回転軸が45°傾斜された回転移動ホルダー14上の被処理金属材(金属材料)15の表面に照射され、レーザ光12が均一に照射されるように回転移動ホルダー14が駆動装置(図示せず)により左右に移動されるとともに回転されてスキャニングされる。16は反射光トラップ板である。
・・・
【0019】その結果、レーザ光を照射することにより、被処理金属材15の表面の揮発性を高めることが実証できた。また同じエネルギー密度では、照射時間が長いほど撥水性が大きくなることがわかった。
【0020】これは、図5に示すように、圧延された後のアルミニウム合金製の被処理金属材5-1では、表面層(汚染された酸化皮膜)21にAl2O3とAl(OH)3 が混在した状態であり、この表面に赤外線CO2 レーザ光12をした場合には、Al2O3 +2Al(OH)3 →2Al2O3 +3H2O となり、緻密化された酸化被膜層22が形成されるからである。
【0021】上記方法によれば、被処理金属材3の表面に緻密な酸化被膜表面層22を形成することにより、表面層21の水分子を蒸発させて撥水性を高めることができる。したがって、たとえば金属製真空容器の内面にレーザ光を照射することにより、加熱脱ガス処理を行わないか、または短時間の加熱脱ガス処理で所定の真空度にすることができる。また金属製食品容器では表面にレーザ光12を照射することにより、撥水性を高めて耐腐食性を向上させることができる。」

したがって、文献3には、以下の技術的事項3−1、3−2が記載されていると認められる。
・技術的事項3−1
「金属材料の表面にレーザ光を照射して材料表面に存在する酸化皮膜を除去した後、金属皮膜の表面に新規な酸化皮膜を形成する金属材料の洗浄方法であって、
レーザ光を金属部材に照射することにより、金属材料の表面に存在している酸化皮膜2の表面に残留している汚染物質が除去されて、表面汚染が激減して汚染のない新しい厚い酸化膜が形成される、金属材料の洗浄方法。」
・技術的事項3−2
「金属材料の表面にレーザ光を照射することにより、材料表面の撥水性を高める金属材料の表面処理方法であって、
大気中で、被処理金属材15、5−1の表面層(汚染された酸化皮膜)21に赤外CO2 レーザ光12を照射し、緻密化された酸化皮膜表面層22を形成することにより、表面層21の水分子を蒸発させて撥水性を高める、金属材料の表面処理方法。」

(2)文献4の記載、文献4に記載された技術的事項
「【特許請求の範囲】
【請求項10】
基板処理構成部品の表面から接着剤残留物をアブレーションする方法であって、
(a)前記接着剤残留物をアブレーションするために十分に高いエネルギ密度で、前記基板処理構成部品の前記表面にわたってレーザビームを走査させるステップを含む方法。
【請求項11】
前記レーザビームが、以下の特性、
(i)前記ビームが、約9.6×106W/cm2〜約8.6×107W/cm2のワット数を提供すること、
(ii)前記ビームがパルス波ビームであること、
(iii)前記ビームが連続波ビームであること、
(iv)前記ビームが、CO2レーザ、Nd−YAGレーザ、Er:Nd−YAGレーザ、アルゴンレーザ、高出力ダイオードレーザまたは他の固体レーザによって生成されること、および
(v)前記ビームが、約100ワット〜約5000ワットの出力領域を有すること、
のうちの少なくとも1つを有する、請求項10に記載の方法。」

「【0001】
本発明の実施形態は、基板処理構成部品の表面からの残留物の洗浄に関する。
【0002】
基板の処理の際にプロセス環境にさらされる基板処理チャンバ構成部品の表面は、プロセスサイクル間に周期的に洗浄される。基板処理中、基板をプロセスチャンバ内に設置し、エネルギが与えられたガスに曝して、基板上に材料を堆積させる、または基板上の材料をエッチングする。構成部品表面に堆積するプロセス残留物としては、CVDもしくはPVDプロセスにおいて堆積される材料、エッチングされた材料、またはエッチングプロセスにおいて除去されたポリマーフォトレジストさえも挙げられる。後に続くプロセスサイクルにおいて、蓄積した残留物が構成部品表面からはげ落ち、基板またはチャンバ内部に落下し汚染することがある。したがって、グリットブラスト、溶媒もしくは研磨材を用いたスクラビング、および二酸化炭素(CO2)ブラストを含む洗浄プロセスを用いて、構成部品の表面を周期的に洗浄する。しかしながら、従来の洗浄方法は多くの場合、構成部品表面を完全には洗浄しないため、結果として構成部品表面が侵食される、または構成部品表面上に有機洗浄堆積物の薄膜が残される。」

「【0034】
洗浄プロセスのさらに別の変形例を使用して、例えば構成部品の改装時に、基板処理構成部品の表面を、例えば残留接着剤などの残留物361を洗浄する。この変形例においては、図4Aに示すように、レーザ400が、適当な波長および十分なエネルギ密度を具備する、パルス波または連続波ビームの形のレーザビーム410を提供し、このレーザビーム410を、残留接着剤418をはぎ取り、また焼き取るまたはアブレーションするように構成部品表面415にわたって走査する。レーザビーム410は、基板処理装置302から構成部品を除去した後、構成部品表面415に適用してもよい。レーザビーム410は、その中に構成部品を設置するレーザビーム処置チャンバ430の窓420を通して、構成部品表面415に適用してもよく、窓420は、光透過性の耐薬品性材料から形成されている。レーザ400は、レーザチャンバ430内側に位置することもできる(図示せず)。キャリアガスを、基板処理構成部品の表面にわたって流すことによって使用して、除去したガス状または蒸発した接着性堆積物をレーザチャンバの下流領域へ運ぶこともできる。
【0035】
適切なレーザ400には、CO2レーザ、Nd−YAGレーザ(ネオジム・イットリウム・アルミニウム・ガーネット)、Er:Nd−YAGレーザ(エルビウム・ND−YAG)、アルゴンレーザ、高出力ダイオードレーザおよび他の固体レーザを備える。アルゴンレーザは488nmまたは514nmの波長を有し、ダイオードレーザは810〜980nmを提供し、ND/YAGレーザは典型的には1064nmの波長を発生させ、Er:Nd−YAGレーザは2940nmを提供し、CO2レーザは9300〜10600nmを提供する。一部が波長範囲を示し、値が提供されているが、これらの範囲および値を他の波長範囲に変更することができることが知られている。」

したがって、文献4には、以下の技術的事項が記載されていると認められる。
「基板処理構成部品の表面から接着剤残留物をアブレーションによって洗浄する方法であって、(a)前記接着剤残留物をアブレーションするために十分に高いエネルギ密度で、前記基板処理構成部品の前記表面にわたってレーザビームを走査させるステップを含み、
前記レーザビームが、(iv)前記ビームが、CO2レーザ、Nd−YAGレーザ、Er:Nd−YAGレーザ、アルゴンレーザ、高出力ダイオードレーザまたは他の固体レーザによって生成されること、を有し、
ガス分配板600の露出面上に残されている接着剤残留物361、418をアブレーションし蒸発させる、方法。」

(3)文献8の記載、文献8に記載された技術的事項
「【特許請求の範囲】
1.レーザービームを有機物質に照射し、前記有機物質に化学変化を生じせしめ、又はレーザーによって生じる化学変化により有機物質を直接除去することを含む、対象物の表面上の有機物質に埋没した汚染物質を対象物の表面から除去する方法。
2.前記対象物は、建物、構造物、工業プラント、船、キャビン、その他の類似のものの表面である第1項記載の方法。
3.前記汚染物質は、放射性、生物学的あるいは化学的な汚染物質である第1項又は第2項記載の方法。
4.前記の汚染物が入り込んだ有機物質は、一または複数の塗料、エポキシ樹脂、密封材、粘着材、プラスチック、布、こけ、地衣類植物、菌類、その他の植物である第1項乃至第3項のいずれかに記載の方法。
5.前記の処理される表面は、コンクリート、モルタル、下塗り、セメント、煉瓦、タイル、しっくい、ステンレススチール、軟鉄、合金、その他の類似のものを含む建築材からなる支持層の表面である第1項乃至第4項のいずれかに記載の方法。
6.レーザービームは、紫外線、可視光線または赤外線のいずれかの波長を有するものである第1項乃至第5項のいずれかに記載の方法。」(第2ページ第1〜18行)

「汚染除去方法
本発明は建物、構造物、工業プラント、船、キャビンその他の同種類のものの表面から汚染物質を除去する方法に関する。
本発明によれば、対象物の表面上の有機物質内に埋没した汚染物質を対象物の表面から除去する方法が提供され、その方法は、レーザービームを有機物質に照射してその有機物質の化学変化を起こさせるか、又はレーザーにより発生された化学変化により有機物質を直接除去することを含む。
前記の対象物としては、建物、構造物、工業プラント、船、キャビン、その他の同種類のもの等が挙げられる。
前記の汚染物質としては、放射性、生物学的あるいは化学的に汚染したものが挙げられる。
前記の汚染物が埋没した有機物質は、一または複数の塗料、エポキシ樹脂、密封材、粘着材、プラスチック、布、こけ、地衣類植物、菌類、その他の植物等を含む。
前記の処理される表面には、コンクリート、モルタル、下塗り、セメント、煉瓦、タイル、しっくい、ステンレススチール、軟鉄、合金、その他の類似の建築材を含む壁の支持層の表面が挙げられる。
前記のレーザービームは、紫外線、可視光線または赤外線のいずれかの波長を有するものが挙げられる。」(第4ページ第2〜20行)

したがって、文献8には、以下の技術的事項が記載されていると認められる。
「構造物、工業プラント、船、キャビンその他の同種類のものの表面から汚染物質を除去する方法に関して、レーザービームを有機物質に照射し、前記有機物質に化学変化を生じせしめ、又はレーザーによって生じる化学変化により有機物質を直接除去することを含む、対象物の表面上の有機物質に埋没した汚染物質を対象物の表面から除去する方法であって、レーザービームは、紫外線、可視光線または赤外線のいずれかの波長を有する、方法。」

(4)文献2、5〜7、9、10について
文献2,5〜7、9、10のいずれの証拠にも、「半導体製造装置において用いられる、半導体製造装置部品の洗浄方法であって、レーザビームを照射し、前記半導体製造装置部品に付着している堆積物を除去する工程をを含み、レーザビームが赤外線である洗浄方法」との技術的事項、「半導体製造装置において用いられる、半導体製造装置部品の洗浄方法であって、レーザビームで走査する工程と、クリーニング液と接触させる工程とを含む、半導体製造装置部品の洗浄方法」との技術的事項は記載されていない。

第5 当審の判断
1 特許法第29条第2項について
(1)請求項1に係る発明について
ア 対比
請求項1に係る発明(以下、「本件発明1」という。また、請求項2〜15に係る発明をそれぞれ順に「本件発明2」〜「本件発明15」という。」)と引用発明を対比する。

(ア)引用発明は、「半導体基板を処理するプラズマエッチング装置において用いられる、エッチング処理室101内の壁面、たとえばシャワープレート108などに付着した、反応生成物である不揮発性の微小粒子を壁面から剥離除去する、処理室のクリーン方法であって、プラズマエッチング装置は、処理用ガスをエッチング処理室101に供給する、石英板に多数の小孔を空けて形成されたシャワープレート108を備えて」いるものであるところ、「半導体基板」、「プラズマエッチング装置」、「シャワープレート108」、「クリーン化方法」、「多数の小孔」は、それぞれ本件発明1の「半導体ウエハ」、「半導体製造装置」、「半導体製造装置部品」、「洗浄方法」、「複数のガス孔」に相当ないし対応する。
したがって、本件発明1と引用発明とは、「半導体ウエハを処理する半導体製造装置において用いられる、ガス孔をもつ半導体製造装置部品の洗浄方法」である点で共通する。
また、引用発明において、「シャワープレート108」は、「石英板に多数の小孔を空けて形成された」ものであるから、本件発明1と引用発明とは、「前記ガス孔をもつ半導体製造装置部品は、複数のガス孔を有する分散板を備えて」いる点で一致する。

(イ)引用発明は、「エッチング処理室101内の壁面、たとえばシャワープレート108などに付着した、反応生成物である不揮発性の微小粒子を壁面から剥離除去する」、「レーザ光を基板載置電極102の上部に位置するシャワープレート108に照射することで、微小粒子を壁面から剥離除去する」、処理室のクリーン化方法であるところ、レーザ光をシャワープレート108のガス噴射面に照射するものであるといえる。
また、引用発明の「反応生成物である不揮発性の微小粒子」、「レーザ光」は、それぞれ本件発明1の「堆積物」、「レーザービーム」に相当する。
したがって、本件発明1と引用発明とは、「前記分散板のウエハに面する側の表面であるガス噴射面をレーザービームを照射し、前記ガス噴射面の表面に付着している堆積物を除去する工程」を含む点で共通する。

(ウ)したがって、本件発明1と引用発明との間には、次の一致点、相違点があるといえる。
<一致点>
「半導体ウエハを処理する半導体製造装置において用いられる、ガス孔をもつ半導体製造装置部品の洗浄方法であって、
前記ガス孔をもつ半導体製造装置部品は、アルミニウム又はアルミニウム合金からなり、複数のガス孔を有する分散板を備えており、
前記分散板のウエハに面する側の表面であるガス噴射面をレーザービームを照射し、前記ガス噴射面の表面に付着している前記堆積物を除去する工程と
を含む、ガス孔をもつ半導体製造装置部品の洗浄方法。」

<相違点>
<相違点1>
「半導体製造装置部品」について、本件発明1では、「枚様式の半導体製造装置」において用いられ、「緻密な堆積物が付着したガス孔」をもつものであるのに対し、引用発明では、プラズマエッチング装置が「枚様式」のものであるか不明であり、また、シャワープレート108(半導体製造装置部品)の小孔(ガス孔)について、「緻密な堆積物が付着した」ものであるか不明な点。

<相違点2>
「半導体製造装置部品」について、本件発明1は、「アルミニウム又はアルミニウム合金」からなるのに対し、引用発明の「シャワープレート108」は、「石英」から形成されたものである点。

<相違点3>
本件発明1は、「前記分散板のウエハに面する側の表面であるガス噴射面をレーザービームで走査し、前記ガス噴射面の表面及び前記ガス孔の表面付近に付着している前記堆積物を除去するとともに、前記ガス孔の奥に付着している前記堆積物の膜にクラックを生じさせる、又は、前記ガス孔の内壁から前記堆積物の膜を剥離させる工程(1)」を含むのに対し、引用発明では、レーザ光を「走査」することは特定されておらず、また、「前記ガス孔の表面付近に付着している前記堆積物を除去するとともに、前記ガス孔の奥に付着している前記堆積物の膜にクラックを生じさせる、又は、前記ガス孔の内壁から前記堆積物の膜を剥離させる工程」を含むことは特定されていない点。

<相違点4>
本件発明1は、「前記ガス噴射面及び前記ガス孔の内部を、無機酸を含むクリーニング液と接触させ、前記堆積物の膜に生じたクラック又は前記堆積物の膜と前記ガス孔の内壁との間に生じた隙間にクリーニング液を浸透させる工程(2)」を含むのに対し、引用発明は、そのような工程を含むことは特定されていない点。

<相違点5>
「レーザービーム」について、本件発明1では、「前記レーザービームが赤外線であり、前記レーザービームの平均エネルギー密度が1×103〜1×1011W/m2である」のに対し、引用発明では、「微小粒子を構成する物質が吸収する波長の紫外ないし可視のレーザ光」であり、本件発明1のこのような特定はなされていない点。

イ 判断
(ア)相違点5について
事案に鑑み、まず、相違点5について検討する。
引用発明において、「不揮発性の微小粒子が付着している処理室内面」に照射する「レーザ光」は、「微小粒子を構成する物質が吸収する波長の紫外ないし可視のレーザ光」であるところ、赤外光は可視光よりも長波長でエネルギーが小さい光である。
したがって、引用発明において、「微小粒子を構成する物質が吸収する波長の紫外ないし可視のレーザ光」を、より長波長の「赤外線」のレーザ光に換えることは、微小粒子を構成する物質が吸収しづらい、あるいは吸収しない波長のレーザ光に換えることとなるから、当業者にとって直ちに動機付けが存在するものとはいえない。

しかも、文献3には、上記技術的事項3−1の、「金属材料の表面にレーザ光を照射して材料表面に存在する酸化皮膜を除去した後、金属皮膜の表面に新規な酸化皮膜を形成する金属材料の洗浄方法であって、
レーザ光を金属部材に照射することにより、金属材料の表面に存在している酸化皮膜2の表面に残留している汚染物質が除去されて、表面汚染が激減して汚染のない新しい厚い酸化膜が形成される、金属材料の洗浄方法。」、及び、
上記技術的事項3−2の、「金属材料の表面にレーザ光を照射することにより、材料表面の撥水性を高める金属材料の表面処理方法であって、
大気中で、被処理金属材15、5−1の表面層(汚染された酸化皮膜)21に赤外CO2 レーザ光12を照射し、緻密化された酸化皮膜表面層22を形成することにより、表面層21の水分子を蒸発させて撥水性を高める、金属材料の表面処理方法。」は記載されているものの、「半導体製造装置において用いられる、半導体製造装置部品の洗浄方法であって、レーザビームを照射し、前記半導体製造装置部品に付着している堆積物を除去する工程を含み、レーザビームが赤外線である洗浄方法」は記載も示唆もされていない。

また、文献4には、「基板処理構成部品の表面から接着剤残留物をアブレーションする方法であって、(a)前記接着剤残留物をアブレーションするために十分に高いエネルギ密度で、前記基板処理構成部品の前記表面にわたってレーザビームを走査させるステップを含み、(iv)前記ビームが、CO2レーザ、Nd−YAGレーザ、Er:Nd−YAGレーザ、アルゴンレーザ、高出力ダイオードレーザまたは他の固体レーザによって生成されることを有する、方法」は記載されているものの、「半導体製造装置において用いられる、半導体製造装置部品の洗浄方法であって、レーザビームを照射し、前記半導体製造装置部品に付着している堆積物を除去する工程を含み、レーザビームが赤外線である洗浄方法」は記載も示唆もされていない。

また、文献8には、「構造物、工業プラント、船、キャビンその他の同種類のものの表面から汚染物質を除去する方法に関して、レーザービームを有機物質に照射し、前記有機物質に化学変化を生じせしめ、又はレーザーによって生じる化学変化により有機物質を直接除去することを含む、対象物の表面上の有機物質に埋没した汚染物質を対象物の表面から除去する方法であって、レーザービームは、紫外線、可視光線または赤外線のいずれかの波長を有する、方法」は記載されているものの、「半導体製造装置において用いられる、半導体製造装置部品の洗浄方法であって、レーザビームを照射し、前記半導体製造装置部品に付着している堆積物を除去する工程を含み、レーザビームが赤外線である洗浄方法」は記載も示唆もされていない。

更に、文献2、5〜7、9、10には、「半導体製造装置において用いられる、半導体製造装置部品の洗浄方法であって、レーザビームを照射し、前記半導体製造装置部品に付着している堆積物を除去する工程をを含み、レーザビームが赤外線である洗浄方法」は記載も示唆もされていない。

したがって、引用発明において、文献2〜10に記載された技術的事項に基づいて、相違点5に係る本件発明1の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たものではない。

(イ)まとめ
したがって、相違点1〜4について判断するまでもなく、本件発明1は、当業者であっても引用発明及び文献2〜10に記載された技術的事項に基づいて、容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(ウ)特許異議申立人の主張について
特許異議申立人菊間靖郎は、特許異議申立書の「3 申立ての理由」「(1) 申立ての理由の要約」の2ページにおいて、請求項1の「H.前記レーザービームが赤外線であり、」との構成要件の証拠として、甲3、甲4、甲5〜8を挙げるとともに、「(4) 具体的理由」の「(4−2−3) 甲3」の14ページにおいて、甲3の【0007】、【0012】、【0013】、【0017】の記載は、「本件特許発明1の構成要件Hを示し、また・・・本件特許発明2を示唆するものである。」と主張し、「(4−2−4) 甲4」の16ページにおいて、「(d) 甲4の上記請求項11の(ii)の記載は、本件特許発明3を示すものであり、(iv)の記載は本件特許発明1の構成要件Hを示すものであり、・・・」と主張し、「(4−2−8) 甲8」の18ページにおいて、「なお、甲8の請求項6には赤外光レーザービームが記載されている。」と主張し、更に、「(4−3) 本件特許発明と甲1〜10との対比」「(4−3−1) 本件特許発明1」の20ページにおいて、「構成要件H(前記レーザービームが赤外線であり、)は、甲3の【0017】、甲4の【0035】、甲8等に記載されている。」と主張する。
しかし、文献3、4、5〜8(甲3、4、5〜8)については、上記(ア)のとおりであるから、かかる主張には理由がない。

(2)本件発明2〜15について
本件発明2〜15は、請求項1に係る発明に対して、更に技術的事項を追加して限定したものである。よって、上記(1)に示した理由と同様の理由により、本件発明2〜15は、上記文献1に記載された発明及び文献2〜10に記載された技術的事項に基いて当業者が容易になし得るものではない。
以上のとおり、本件発明1〜15は、文献1に記載された発明及び文献2〜10に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(3)小括
したがって、本件発明1〜15は、特許法第29条第2項の規定に違反していない。

2 特許法第36条第6項第1号について
(1)本件発明12について
ア 「【請求項12】」には、「前記分散板の前記ガス噴射面及び前記ガス孔に堆積物が付着しており、前記堆積物は、エッチングガスとアルミニウムとの反応生成物を含む、請求項1〜11のいずれか1項に記載のガス孔をもつ半導体製造装置部品の洗浄方法。」と記載のとおり、本件発明12は、本件発明1〜11のいずれかを引用する発明である。

イ 本件発明12の「前記分散板の前記ガス噴射面及び前記ガス孔に堆積物が付着しており」との構成要件(以下、「構成要件12−1」という。)について、本件特許明細書の【0025】には、「(工程(1))工程(1)では、レーザービームで前記ガス噴射面を走査することにより、前記分散板のウエハに面する側の表面である前記ガス噴射面に付着している堆積物が除去される。また、レーザービームは、前記分散板に設けられているガス孔の内面にも照射されるので、ガス孔の内面に付着している堆積物の少なくとも一部が除去される。」と記載されているから、本件特許明細書には、構成要件12−1が記載されている。

ウ 次に、本件発明12の「前記堆積物は、エッチングガスとアルミニウムとの反応生成物を含む」との構成要件(以下、「構成要件12−2」という。)について、以下検討する。

本件特許明細書の【0002】には、【背景技術】として、以下のように記載されている。「【0002】
半導体ウエハを処理する枚葉式の半導体製造装置においては、半導体ウエハの表面にエッチング処理を施したり成膜処理を施したりする際に、ガスをウエハに対して均一に噴射するためのシャワーヘッドが用いられる。
シャワーヘッドは、通常、アルミニウム又はアルミニウム合金からなり、複数の貫通孔(ガス孔)を有する分散板を備える。この分散板のウエハに面する側の表面(ガス噴射面)には、シャワーヘッドから噴射したガスによって生成した堆積物が付着する。堆積物はガス孔の内部にも付着するので、堆積物を除去せずにシャワーヘッドの使用を続ければ、やがて、ガス孔が閉塞することとなる。そのため、シャワーヘッドのガス噴射面を洗浄して、堆積物を除去することが必要である。」
また、本件特許明細書の【0015】、【0016】には、以下のように記載されている。
「【0015】
<ガス孔をもつ半導体製造装置部品>
前記ガス孔をもつ半導体製造装置部品(以下、単に「半導体製造装置部品」という場合がある。)は、アルミニウム又はアルミニウム合金からなり、複数のガス孔を有する分散板を備えている。
前記分散板は、前記半導体製造装置部品の一部であり、前記半導体製造装置部品の前記分散板以外の部分と一体不可分に構成されていてもよいし、脱着自在に構成されていてもよい。
【0016】
前記ガス孔をもつ半導体製造装置部品の好適な実施形態はシャワーヘッドである。・・・」
また、本件特許明細書には、[実施例1]〜[実施例4]について、それぞれ、【0042】、【0046】、【0050】、【0054】のいずれにも「(レーザー照射)フッ化アルミニウムが付着したアルミニウム合金製シャワーヘッドのプラズマ接触面に、・・・」と記載されている。
これらの段落【0002】、【0015】、【0016】、【0025】、【0042】の記載から、実施例1〜実施例4において、シャワーヘッドのプラズマ接触面に付着した「フッ化アルミニウム」は、アルミニウム合金製シャワーヘッドから噴射したエッチングガスとアルミニウムとの反応生成物であり、シャワーヘッド(半導体製造装置部品)が備えている分散板のガス噴射面に付着している堆積物であることいえること、及び、実施例1〜実施例4において、分散板のガス孔にも、同様に、「フッ化アルミニウム」が付着しているといえることは明らかである。
したがって、本件特許明細書には、分散板のガス噴射面及びガス孔に付着している堆積物は、「エッチングガスとアルミニウムとの反応生成物を含む」との構成、すなわち、構成要件12−2が記載されている。

エ また、本件発明1における工程(1)について、実施例1について【0042】に、実施例2について【0046】に、実施例3について【0050】に、実施例4について【0054】に、いずれにおいても、レーザ照射後、フッ化アルミニウムの除去がレーザー照射面全面にわたって確認された旨が記載されており、本件発明1における工程(2)について、実施例1について【0044】に、実施例2について【0048】に、実施例3について【0052】に、実施例4について【0056】に、いずれにおいても、濃硝酸浸漬による洗浄後、シャワーヘッドのプラズマ接触面の全面にわたってフッ化アルミニウムの除去が確認された旨が記載されている。

オ また、本件発明1における工程(1)、工程(2)については、本件特許明細書の【0025】、【0031】、【0036】にも記載されており、本件発明1のその他の構成要件は、同【0017】、【0027】、【0028】に記載されており、また、本件発明2〜11における【請求項2】〜【請求項11】に記載された構成要件も本件特許明細書に記載されている。
したがって、本件発明12は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載されており、本願は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしている。

カ 特許異議申立人菊間靖郎は、特許異議申立書の「(4) 具体的理由」の「(4−3−7) 本件特許発明12」の22ページにおいて、「なお、本件明細書中にはエッチングガスとしてどのようなものを用いるのか、エッチングガスとアルミニウムとがどのように反応するのか、その反応の結果、どのような反応生成物が生成するかについて一切記載がない。また、エッチングガスとアルミニウムとの反応生成物を洗浄する実施例も全く記載されていない。従って、本件特許発明12は本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載されておらず、特許法第36条第6項第1号に違反する。」と主張する。
しかしながら、上記イ〜オのとおり、本件特許明細書には、反応生成物であるフッ化アルミニウムが生成することや反応生成物であるフッ化アルミニウムを洗浄する実施例1〜実施例4が記載されているから、本件発明12は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載されている。
したがって、本願は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしているから、かかる主張には理由がない。

第6 むすび
以上のとおりであるから、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1〜15に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1〜15に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2022-02-16 
出願番号 P2020-569214
審決分類 P 1 651・ 121- Y (H01L)
P 1 651・ 537- Y (H01L)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 辻本 泰隆
特許庁審判官 恩田 春香
小川 将之
登録日 2021-03-29 
登録番号 6859496
権利者 株式会社新菱
発明の名称 ガス孔をもつ半導体製造装置部品の洗浄方法  
代理人 大浪 一徳  
代理人 伏見 俊介  
代理人 田▲崎▼ 聡  

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