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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  A01B
管理番号 1384256
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-05-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2021-11-22 
確定日 2022-04-05 
異議申立件数
事件の表示 特許第6891136号発明「農作業機」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6891136号の請求項1ないし6に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯

特許第6891136号(以下「本件特許」という。)に係る特許出願は、平成26年7月17日を出願日とする特願2014−146906号の一部を、平成30年1月31日に新たな出願としたものであって、令和3年5月28日にその特許権の設定登録がされ、同年6月18日に特許掲載公報が発行されたものである。
その後、令和3年11月22日に特許異議申立人伊藤 学(以下「申立人」という。)により特許異議申立書(以下「申立書」という。)が提出され、請求項1ないし6に係る発明の特許に対して特許異議の申立てがされた。

第2 本件特許発明

本件特許の請求項1ないし6に係る発明(以下、それぞれ「本件特許発明1」ないし「本件特許発明6」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1ないし6に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

【請求項1】
手動操舵によるマニュアル走行と自動操舵による自動走行とを切替可能な走行機体と、
アワーメータが表示されるメータパネルと、
前記自動走行のモードである際に、前記自動走行のモードであることが表示され、且つ、当該走行機体の走行方向のずれを示す表示が表示される表示装置とを備え、
前記メータパネルと前記表示装置とが互いに別の装置として設けられ、
前記走行機体の操向用のハンドルを備え、
平面視において、前記メータパネルが前記ハンドルと重複する位置に位置し、且つ、前記表示装置の後端が前記ハンドルの前端よりも前方に位置する農作業機。
【請求項2】
前記表示装置は、上端側ほど前方に位置する傾斜姿勢で設けられる請求項1に記載の農作業機。
【請求項3】
前記メータパネル及び前記表示装置が、前記走行機体の幅方向における中央部に設けられている請求項1又は2に記載の農作業機。
【請求項4】
前記表示装置の前端が前記メータパネルの前端よりも前方に位置する請求項1〜3のいずれか1項に記載の農作業機。
【請求項5】
前記表示装置の上端が前記メータパネルの上端よりも上方に位置する請求項1〜4のいずれか1項に記載の農作業機。
【請求項6】
前記走行機体の操向用のハンドルと、
走行機体を前記自動走行のモードに切替える切替レバーとを、備え、
前記切替レバーが前記ハンドルのハンドルポストの側から前記ハンドルの握り部の側に向けて延びている請求項1〜5のいずれか1項に記載の農作業機。

第3 特許異議申立理由の概要

申立人は、本件特許の請求項1ないし6に係る発明に対して、証拠として甲第1号証ないし甲第8号証、甲第9号証(その1)及び甲第9号証(その2)(以下、申立人が「甲第9号証(その1)」及び「甲第9号証(その2)」として提出した証拠を、それぞれ「甲第9号証の1」及び「甲第9号証の2」といい、両者を合わせて「甲第9号証」という。)を提出し、次の特許異議申立理由を申し立てている。

本件特許発明1は、甲第1号証と、周知技術である甲第2号証、甲第3号証、甲第4号証、甲第5号証、甲第6号証、甲第9号証および慣用技術に基いて、
本件特許発明2は、甲第1号証、甲第2号証、甲第3号証、甲第4号証、甲第5号証、甲第6号証、甲第7号証、甲第9号証、慣用技術に基づいて、
本件特許発明3は、甲第1号証、甲第2号証、甲第3号証、甲第4号証、甲第5号証、甲第6号証、甲第7号証、甲第9号証、慣用技術に基いて、
本件特許発明4は、甲第1号証、甲第2号証、甲第3号証、甲第4号証、甲第5号証、甲第6号証、甲第7号証、甲第9号証、慣用技術に基づいて、
本件特許発明5は、甲第1号証、甲第2号証、甲第3号証、甲第4号証、甲第5号証、甲第6号証、甲第7号証、甲第8号証、甲第9号証、慣用技術に基づいて、
本件特許発明6は、甲第1号証、甲第2号証、甲第3号証、甲第4号証、甲第5号証、甲第6号証、甲第7号証、甲第8号証、甲第9号証、慣用技術に基づいて、
当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない(申立書第24ページ下から6行〜下から3行、第25ページ第14〜17行、第26ページ第4〜7行、同第27〜30行、第27ページ第17〜20行、第28ページ第9〜12行)。

(証拠一覧)
甲第1号証 特開2008−92818号公報
甲第2号証 特開2013−253510号公報
甲第3号証 特開2013−70658号公報
甲第4号証 特開2012−60909号公報
甲第5号証 特開2012−157334号公報
甲第6号証 特開2008−131880号公報
甲第7号証 特開2005−176741号公報
甲第8号証 特開2005−65635号公報
甲第9号証の1 吉田剛他、「トプコンの農用車両ガイダンス技術」、
農業機械学会誌第75巻第6号、2013年、第346〜350ページ
甲第9号証の2 TOPCON Precision Agriculture、「System 110/150
Operator's Manual」、表紙、2枚目、第9−31ページ及び第9−
32ページ

第4 当審の判断

1.甲号証
(1)甲第1号証
ア.本件特許の出願前に頒布された甲第1号証には次の記載がある(下線は当審で付した。以下同様。)。

(ア)「【技術分野】
【0001】
本発明は、自律直進走行が可能である農用作業車の技術に関し、より詳しくは、GPS装置を用いた自律走行の制御方法に関する。
(中略)
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そこで本発明では、このような現状を鑑み、GPSにより車体位置を計測しつつ、自律的に直進走行する農用作業車において、次工程への遷移時に植付け開始位置の位置決めが容易にできる技術を提供することを課題としている。」

(イ)「【0017】
次に、発明の実施の形態を説明する。
図1は本発明の一実施例に係る田植機の全体的な構成を示した側面図、図2は同じく田植機の全体的な構成を示した平面図、図3は同じく田植機のメーターパネル部の第一実施例の構成を示した斜視図、図4は同じく田植機のメーターパネル部の第二実施例の構成を示した斜視図、図5は同じく自律走行表示ランプ点灯時の流れを示すフロー図、図6は本発明の一実施例に係るGPS装置の全体的な構成を示した模式図、図7は本発明により生成する目標経路を示す模式図、図8は本発明の一実施例に係るティーチング作業の流れを示すフロー図、図9は本発明の一実施例に係る自律走行時における田植機の挙動を示す模式図、図10は同じく自動旋回時における田植機の挙動を示す模式図、図11は同じく自動旋回禁止時における田植機の挙動を示す模式図、図12は本発明の第一実施例に係る自
動旋回走行時の流れを示すフロー図、図13は本発明の第二実施例に係る自動旋回走行時の流れを示すフロー図である。
尚、以下に示す本発明の実施例の説明においては、農用作業車の一例として、田植機を例にとって説明を行うが、本発明を適用する農用作業車を田植機に限定するものではなく、例えば、トラクタや散布作業機等であってもよく、圃場表面を走査しつつ、肥料・農薬・種・苗等の農用処理物を農作業において消費していく農用作業車に広く適用することが可能である。
【0018】
まず始めに、本発明を実施するための最良の形態に係る田植機の全体構成について、図1及び図2を用いて説明する。
ここで説明する田植機1は、例えば6条植えの乗用田植機とし、機体の後部に昇降リンク機構27を介して植付部4を装着している。
また、車体フレーム3の前部上方にエンジン2を搭載し、前下部にフロントアクスルケース6aを介して前輪6を支持するとともに、後部にリアアクスルケース8aを介して後輪8を支持している。
上記エンジン2はボンネット9に覆われ、該ボンネット9の上方には門型状の取付フレーム24を配設している。そして、前記取付フレーム24の左右両側に予備苗載台10・10を配設し、また上部中央に後述するGPSアンテナ101および操作筐体128を固設している。
また、ボンネット9後部のダッシュボード5上にメーターパネル7やハンドル14を配置しており、該ボンネット9の両側とその後部の車体フレーム3上は車体カバー12で覆われている。
ハンドル14の後方位置には座席13を配置し、ボンネット9の両側と座席13の前部、座席13の左右両側、及び座席13の後方をステップとしている。」

(ウ)「【0020】
次に、本発明の一実施例に係る農用作業車のメーターパネルについて、図1乃至図4を用いて説明をする。
図1または図2に示す如く、田植機1のメーターパネル7は、座席13に着座したオペレータ前方のダッシュボード5上に、オペレータから容易に視認できる車体中央付近の位置に配設されている。
【0021】
図3または図4に示す如く、メーターパネル7上には、自動運転表示ランプ41、ティーチング表示ランプ42、GPS通信表示ランプ43、異常表示ランプ44、自律走行位置表示ランプ45、自動運転切替SW46、ティーチングSW47および自律運転SW48等を設けている。また、植付作業で消費される苗や肥料の残量が少なくなったことをオペレータに知らせるために、苗つぎ警告ランプ49、肥料補給警告ランプ50等が設けられている。但し、これらのスイッチやランプ等の配置位置は、図3に示す配置位置に限定されるものではなく、オペレータの操作性を考慮した位置に適宜配置することができる。
【0022】
自動運転表示ランプ41は、自動運転中に点灯するように構成しており、オペレータが自動運転表示ランプ41の点灯状態を確認することにより、現在自動運転中であるか否かを一目見て把握できる構成としている。
ティーチング表示ランプ42は、ティーチングが実行されていない時には消灯しており、また、ティーチングSW47を一度押下してティーチング中である時には、ランプを点滅するようにし、さらに、ティーチングSW47をもう一度押下してティーチングが完了した時には、ランプが点灯するように構成している。このように、オペレータがティーチング表示ランプ42の点灯状態を確認することにより、ティーチング状態を一目見て把握できる構成としている。
GPS表示ランプ43は、GPSユニット102がGPS衛星と通信可能な状態であるときには点灯するように構成しており、オペレータがGPS表示ランプ43の点灯状態を確認することにより、GPSユニット102による測位が使用可能か否かが一目見て把握できる構成としている。
異常表示ランプ44は、田植機1の本体各部やシステムに異常が発生した場合に点灯するようにしており、オペレータが異常表示ランプ44の点灯状態を確認することにより、田植機1各部が正常に作動しているか否かについて、田植機1の運転状態を一目見て把握できる構成としている。
【0023】
自律走行位置表示ランプ45は、左方ズレ表示ランプ45aと、正常走行表示ランプ45bと、右方ズレ表示ランプ45cにより構成している。
図5に示す如く、本発明において、自律運転SW48が「入」の状態であり、田植機1が自律走行する時(S01)には、田植機1は処理部110により生成した目標経路に沿って自律的に走行するようにしている。このとき、自律走行中の実際の走行経路をGPSユニット102により測定し(S02)、目標経路と実際の走行経路の差異(ズレ量)を処理部110で演算し(S03)、予め設定した閾値と比較して判定をするようにしている(S04)。
【0024】
前記ズレ量が閾値を越えない範囲である場合には、前記正常走行表示ランプ45bを点灯するようにしており(S04)、オペレータは田植機1が目標経路に沿って正常に自律走行していることを一目見て確認することができるように構成している。
また、前記ズレ量が閾値を越えている場合には、基準線に対するズレの方向を検知して判定を行い(S06)、左方にズレが生じている場合には前記左方ズレ表示ランプ45aを点灯し(S07)、そのズレ量に応じてステアリング装置を右方向に補正する(S08)。または、右方にズレが生じている場合には前記右方ズレ表示ランプ45cを点灯し(S09)、そのズレ量に応じてステアリング装置を左方向に補正するようにしている(S10)。
このように、オペレータは田植機1が目標経路から外れて自律走行していることを一目見て確認することができるように構成しており、自律運転SW48の「入」状態が継続している(S01)間は、前記のステップを繰り返し、現在位置と目標経路との差異を確認する手順を繰り返しながら目標経路に沿って自律走行するようにしている(S05)。
【0025】
自動運転切替SW46は、自律運転を行うか否かを切替えるためのスイッチであり、スイッチの回動位置によって、自動走行モードか手動走行モードを選択できるようにしている。そして、自動運転モードに切替えている状態であれば、後述する自律運転SW48を「入」とすることにより自律運転をすることができ、手動運転モードに切替えている状態においては、自律運転SW48を「切」とするようにしている。
尚、本実施例においては、図3または図4に示す如く、自動運転切替SW46として回転式のスイッチを採用した例を示しているが、自動運転切替SW46のスイッチの種類を限定するものではない。」

(エ)「【0027】
自律運転SW48は、自律走行の入切を切替えるためのスイッチである。
図3に示す如く、本発明の第一実施例では、自律運転SW48を、自律運転(直進)SW48a(押し込み式スイッチ)と旋回SW48b(回動可能なダイヤル部を有する押しボタンスイッチ)という二つのスイッチにより構成している。
そして、自律運転(直進)SW48aを押下して「入」とするときに自律走行を開始し、また、自律運転(直進)SW48aをもう一度押下して「切」とするときに自律走行を終了するように構成している。
また、自律的に旋回走行するためには、自律走行開始後の最初の旋回には旋回方向を指示するために、オペレータが所望する旋回方向に旋回SW48bを回動操作する必要がある。回動操作を行うと、メーターパネル7上の左右ズレ表示ランプ45a・45cの左右いずれか一方が点滅し、設定された旋回方向をオペレータに示す。オペレータが所望する方向であることを確認した後に旋回SW48bを押下すると、所望する方向に自動的に旋回走行し、その後、次の目標経路を自律的に走行する。尚、次経路走行中には、左右ズレ表示ランプ45a・45cが前述したルールに則って点灯する。それ以降は枕地に到達する度に、左右交互に左右ズレ表示ランプ45a・45cが点滅し、オペレータが旋回SW48bを押下することで、該当方向に自動的に旋回走行し、旋回終了後、引き続き次経路を自律走行するようにしている。また、次経路走行開始後、植付開始位置で自動的に停止する機能も有している。
このように自律運転SW48を操作することにより、田植機1は直線植付部を自律的に走行したり、また、枕地においては、次の植付開始位置に向かって自動的に旋回走行したり、引き続き次の経路を自律的に走行することができる。」
【0028】
つまり、GPSユニット102と、処理部110を備え、GPSユニット102により計測される位置情報に基づいて、処理部110によりティーチング経路を生成し、さらに、処理部110により前記ティーチング経路に対して平行な目標経路を生成し、該目標経路上を自律的に走行する田植機1において、オペレータにより、自律運転SW48が操作されることにより、次の目標経路へ向けて自動的に旋回し、かつ、前記次の目標経路上を自律的に走行するようにしている。また、作業開始および終了位置で、機体を自動停止することも可能である。
これにより、オペレータの手動操作による位置合わせが不要となり、作業性を向上させることができるのである。」

(オ)「【0029】
また、図4に示す如く、本発明の第二実施例では、自律運転SW48を自動車の方向指示器の如くレバー式のスイッチで構成するようにしている。そして、自律運転SW48を下側の「入」状態と、上側の「切」状態を取り得るように構成して、また、左右に対応する略前後の回動操作で旋回方向(左右)を指示することができるようにしている。尚、この場合には、旋回方向指示と同時に旋回走行を開始するようにしている。」

(カ)図1、図2及び図4は次のものである(当審注:図1及び図2は右に90度回転している。)。
【図1】

【図2】

【図4】


イ.上記「ア.(カ)」の各図からは次の事項を看取することができる。
(ア)図1からは、「メーターパネル7は、上端側ほど前方に位置する傾斜姿勢で設けられる」ことが看て取れる。

(イ)図2からは、「メーターパネル7は、平面視でハンドル14と重複する位置に位置している」ことが看て取れる。
また、段落【0020】の記載を踏まえると、図2からは、「メーターパネル7は、車体の幅方向における中央付近の位置に配設されている」ことが看て取れる。

(ウ)図4からは、「メーターパネル7は、自動運転表示ランプ41及び自律走行位置表示ランプ45を含む表示部を囲む枠を有しており、前記枠の下方には別の表示部を囲む枠があり、前記別の表示部は3つの小さな領域に分割され、前記小さな領域のうちの1つには給油装置のアイコンが付されたメーターが配置されている」ことが看て取れる。

ウ.以上を総合すると、甲第1号証には次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されている。

(甲1発明)
「自律直進走行が可能である農用作業車であって、
農用作業車は田植機であって、機体の後部に昇降リンク機構を介して植付部を装着しているものであり、
ボンネット後部のダッシュボード上にメーターパネルやハンドルを配置しており、
メーターパネルは、座席に着座したオペレータ前方のダッシュボード上に、オペレータから容易に視認できる位置に配設され、
メーターパネル上には、自動運転表示ランプ、自律走行位置表示ランプ等を設けており、
自動運転表示ランプは、自動運転中に点灯するように構成しており、オペレータが自動運転表示ランプの点灯状態を確認することにより、現在自動運転中であるか否かを一目見て把握できる構成としており、
自律走行位置表示ランプは、左方ズレ表示ランプと、正常走行表示ランプと、右方ズレ表示ランプにより構成しており、
GPSユニットにより計測される位置情報に基づいて、処理部によりティーチング経路を生成し、さらに、処理部により前記ティーチング経路に対して平行な目標経路を生成し、
自律走行する時には、処理部により生成した目標経路に沿って自律的に走行するようにしており、このとき、自律走行中の実際の走行経路をGPSユニットにより測定し、目標経路と実際の走行経路の差異(ズレ量)を処理部で演算し、予め設定した閾値と比較して判定をするようにし、
前記ズレ量が閾値を越えている場合には、基準線に対するズレの方向を検知して判定を行い、左方にズレが生じている場合には前記左方ズレ表示ランプを点灯し、そのズレ量に応じてステアリング装置を右方向に補正し、右方にズレが生じている場合には前記右方ズレ表示ランプを点灯し、そのズレ量に応じてステアリング装置を左方向に補正しており、
自動走行モードか手動走行モードを選択できるものであり、
自律運転SWは、自律走行の入切を切替えるためのスイッチであり、
自律運転SWを自動車の方向指示器の如くレバー式のスイッチで構成するようにしており、
メーターパネルは、上端側ほど前方に位置する傾斜姿勢で設けられ、車体の幅方向における中央付近の位置に配設されており、
メーターパネルは、平面視でハンドルと重複する位置に位置しており、
メーターパネルは、自動運転表示ランプ及び自律走行位置表示ランプを含む表示部を囲む枠を有しており、前記枠の下方には別の表示部を囲む枠があり、前記別の表示部は3つの小さな領域に分割され、前記小さな領域のうちの1つには給油装置のアイコンが付されたメーターが配置されている農用作業車。」

(2)甲第2号証
ア.本件特許の出願前に頒布された甲第2号証には次の記載がある。

(ア)「【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンと、前記エンジンからの動力によって駆動する車輪と、前記エンジンからの動力によって駆動するモーアユニットとを備えた作業車に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に芝刈機と呼ばれる、上記のような作業車は、エンジンからの動力によって車輪とモーアユニットとを駆動することで、走行しながらの草刈り(芝刈り)作業を行うことができる。(後略)」

(イ)「【0018】
運転席13に着座した運転者の正面に位置する第1パネルモジュール46aは、前パネル43bの上面に配置され表示面を作り出している。また、運転席13に着座した運転者の手に対応するように位置している第2パネルモジュール46bと第3パネルモジュール46cとは、後パネル43aの左右一対の突出部の各上面に配置されている。第2パネルモジュール46bはステアリングホイール40を向いた面に左側操作面を作り出しており、第3パネルモジュール46cはステアリングホイール40を向いた面に右側操作面を作り出している。ここでは、ステアリングホイール40の下方に位置する運転者との間のマンマシーンインターフェース面として、表示面と左側操作面と右側操作面とが含まれている。
【0019】
図6に示すように、第1パネルモジュール46aには、第1表示部を作り出す第1表示ユニットとして大型のフラットパネルディスプレイ5aが組み込まれ、さらにその両側に第2表示部を作り出す第2表示ユニットとしてLEDパネルユニット5bが組み込まれている。フラットパネルディスプレイ5aには各種情報を示す数値・文字・記号・イラストなどが表示される。これらの表示に対する、運転席13に着座した運転者の視認性を高めるため、フラットパネルディスプレイ5aは、図5から明らかなように、ディスプレイ面法線とステアリングホイール回転軸芯とがステアリングホイールの上方で交差するように、傾斜している。これは、ステアリングホイール40は手で操作されるため、ステアリングホイール回転軸芯の延長線より後方に運転者の顔が位置するように運転席13が配置されることから、フラットパネルディスプレイ5aを上述のように傾斜させることでその着座姿勢での運転者がフラットパネルディスプレイ5aの画面が見やすくなるからである。
なお、フラットパネルディスプレイ5aを構築するには、液晶の使用が一般的であるが、これに限定されるわけではなく、有機エレクトロルミネッセンス、LED(発光ダイオード)、VFD(蛍光表示管)、PDP(プラズマディスプレイパネル)などを使用してもよい。また、LEDパネルユニット5bに代えて、他の照明デバイスや発光素子からなるパネルユニットを用いてもよい。つまり、本願におけるフラットパネルディスプレイ5aとは、従来のCRTタイプのディスプレイ以降に製品化されたパネルタイプのディスプレイであり、その表示面は曲面であってもよい。」

(ウ)「【0041】
この実施形態では、図6に示されているように、第1パネルモジュール46aの中央部にフラットパネルディスプレイ5aが配置され、その左右両側と下側とにLEDパネル5bが配置されている。フラットパネルディスプレイ5aの画面は、燃料計領域、水温計領域、エンジン回転数表示領域、アワーメータ表示領域、エンジンモード表示領域に区分けられている。エンジンモード表示領域は、図6の例ではエンジン回転数表示領域の右上に割り当てられており、ここではボトル状のエンジンモードアイコンEMが形成されており、このエンジンモードアイコンEMが点灯していることでアイソクロナス制御モードが選択されていることを示し、このエンジンモードアイコンEMが消灯していることでドループ制御モードが選択されていることを示す。アワーメータ表示領域はアルファベット・数字表示セグメントで構成されており、車両状態情報である車両制御エラーメッセージの表示領域及びは車両メンテナンスを促すメンテナンスメッセージの表示領域と兼用化されている。従って、このアワーメータ表示領域のセグメントには、アワーメータを示す数値だけではなく、所定のタイミングで、「Err00」といったような車両制御エラーメッセージを示すエラーコード、あるいは、「Ser1」といったようなメンテナンスを促すメッセージを示すサービスコードが表示される。(後略)」

(エ)「【0044】
なお、図11で示した形態では、フラットパネルディスプレイ5aが表示ECU50を介してセンサECU90から受け取った各種車両状態信号に基づく車両状態情報を表示する第1表示部として用いられ、LEDパネル5bが、センサECU90ないしは検出デバイスから直接受け取った検出デバイスの検出信号に基づいて当該検出デバイスが検出した車両状態を表示する第2表示部として用いられている。これに代えて、第1表示部と第2表示部とを別体の独立した表示パネルの形で装備してもよい。」

(オ)図1、図5及び図6は次のものである(当審注:図1及び図6は右に90度回転している。)。
【図1】

【図5】

【図6】


イ.上記「ア.(オ)」の各図からは次の事項を看取することができる。
(ア)図1からは、「運転席13が、車体の幅方向における中央部に設けられている」点が看て取れる。

(イ)図5からは、「フラットパネルディスプレイ5aが、ステアリングホイール40と垂直方向に重複している」点が看て取れる。

ウ.以上を総合すると、甲第2号証には次の発明(以下「甲2発明」という。)が記載されている。

(甲2発明)
「運転席に着座した運転者の正面に位置する第1パネルモジュールは、前パネルの上面に配置され表示面を作り出しており、
第1パネルモジュールには、第1表示部を作り出すフラットパネルディスプレイが組み込まれ、さらにその両側に第2表示部を作り出すLEDパネルユニットが組み込まれ、
フラットパネルディスプレイには各種情報を示す数値・文字・記号・イラストなどが表示され、これらの表示に対する、運転席に着座した運転者の視認性を高めるため、フラットパネルディスプレイは、ディスプレイ面法線とステアリングホイール回転軸芯とがステアリングホイールの上方で交差するように、傾斜させることでその着座姿勢での運転者がフラットパネルディスプレイの画面が見やすくなるものであり、
フラットパネルディスプレイを構築するには、液晶、有機エレクトロルミネッセンス、LED(発光ダイオード)、VFD(蛍光表示管)、PDP(プラズマディスプレイパネル)などを使用してもよく、
フラットパネルディスプレイの画面は、燃料計領域、水温計領域、エンジン回転数表示領域、アワーメータ表示領域、エンジンモード表示領域に区分けられており、アワーメータ表示領域はアルファベット・数字表示セグメントで構成されており、車両状態情報である車両制御エラーメッセージの表示領域及びは車両メンテナンスを促すメンテナンスメッセージの表示領域と兼用化されており、
第1表示部を作り出すフラットパネルディスプレイと第2表示部を作り出すLEDパネルユニットとを別体の独立した表示パネルの形で装備してもよく、
運転席が、車体の幅方向における中央部に設けられており、
フラットパネルディスプレイが、ステアリングホイールと垂直方向で重複している芝刈機。」

(3)甲第3号証
ア.本件特許の出願前に頒布された甲第3号証には次の記載がある。

(ア)「【0062】
図12に示すように、情報表示部36には、累計稼動時間(アワーメータ)及びエンジン回転数を表示する4桁の数値表示部37が備えられている。そして、この数値表示部37は、アワーメータやエンジン回転数を表示するだけではなく、アルファベット及び*印等を表示することができるようになっており、後述するエンジン自動発停制御についての表示としても利用するようになっている。(後略)」

(イ)「【0095】
(4)上記実施形態では、作業車として乗用型田植機を例示したが、本発明は乗用型の直播機や乗用型耕耘機等の作業車にも適用できる。」

(4)甲第4号証
ア.本件特許の出願前に頒布された甲第4号証には次の記載がある。

(ア)「【0082】
〔6〕(操縦部パネルの構成)
図11に示すように、機体操縦部9の操縦部パネル62には、中央部にステアリングハンドル19が備えられ、操縦部パネル62におけるステアリング操作軸83aを囲う状態で支持するハンドルポスト83の前部に、各種の表示情報を表示する表示手段としての表示装置Fが備えられ、操縦部パネル62におけるハンドルポスト83の左側の横側箇所に、上記した各種の自動制御動作における設定状態を手動操作にて変更するための制御用設定手段としての制御用設定操作部65が備えられている。
【0083】
説明を加えると、図1に示すように、操縦部パネル62には、ハンドルポスト83の左右両側箇所に前方上方向きに緩かに傾斜する緩傾斜面62Aが形成されており、この緩傾斜面62Aの前側に前方上方向きに急傾斜する急傾斜面62Bが形成されている。そして、図11に示すように、ハンドルポスト83の左側に位置する緩傾斜面62Aに制御用設定操作部65が備えられ、急傾斜面62Bに形成された凹部62B0に入り込ませる状態で表示装置Fが備えられている。
【0084】
ステアリングハンドル19のスポーク19Aは、直進状態において緩やかな略への字状に設けられており、運転座席9aに着座した操作者が、ステアリングハンドル19の内部の略への字状に設けられたスポーク19Aの前方側に大きく開放された領域を通して、表示装置Fを目視することになり、表示装置Fが見易い状態で配備されている。」

(イ)「【0093】
前記情報表示部F1には、左側に燃料の残量を表示する燃料残量表示部90が備えられ、右側にエンジン冷却水の温度を表示する温度表示部91が備えられている。又、中央の下側には、累計稼動時間(アワーメータ)を表示したり、エンジン回転数を表示する数値表示部92、その数値表示部92の上側には,数値表示部92にて表示しているのがアワーメータであるかことを示すアワーメータ指示部93、数値表示部92にて表示しているのがエンジン回転数であることを示すエンジン回転数指示部94が備えられている。
【0094】
数値表示部92の上側であってエンジン回転数指示部94の左側には、自動植付け制御を実行している状態であれば点灯し、制御を実行していなければ消灯する自動植付け制御表示部95が備えられている。
すなわち、この自動植付け制御表示部95は、上記〔4〕にて説明した植付け制御スイッチ82が制御入り状態に切り換えられると点灯状態になり、植付け制御スイッチ82が制御切り状態に切り換えられると消灯状態になるように構成されている。
【0095】
前記数値表示部92は、電源が投入されるとアワーメータを表示し、エンジン5が始動するとエンジン回転数を表示するように表示状態が制御されるが、数値表示部92は、上記したような自動ローリング制御における設定傾斜角度を設定するときの表示としても利用するようになっている。」

(ウ)図11は次のものである。
【図11】


(5)甲第5号証
ア.本件特許の出願前に頒布された甲第5号証には次の記載がある。

(ア)「【技術分野】
【0001】
本発明は苗の植付けを連続的に行う田植機に関する。」

(イ)「【0027】
(実施の形態1)
以下本発明を実施の形態1に係る田植機を示す図面に基づいて詳述する。図1は右後方から見た田植機を略示する斜視図であり、図2は左前方から見た田植機を略示する斜視図、図3はアームを略示する斜視図である。
(中略)
【0032】
前記植付部10の左側に上下に延びる軸17が設けてあり、該軸17の上端部にリヤカメラ18が設けてある。リヤカメラ18は、植付部10の後方を撮像するように苗載台11の上側に配置してある。前記ダッシュボードパネル5の上側に、表示パネル(例えば液晶パネル)を有する表示部8が、表示パネルの表示面を運転席6側に向けて設けてある。
【0033】
表示パネルの左右方向中央部に、表示部8に表示される苗の列に沿う上下に延びる線100(指標、後述する図8参照)が配置してある。該線100は走行部1の進行方向、すなわち田植機の進行方向をも示している。また線100は、視認される態様であればよく、例えば表示パネルの表面に予め印刷されているか又は表示パネルにて画像として表示される。前記左右のフロントカメラ又はリヤカメラ18にて撮像された画像は表示部8に表示される。なお表示部8と左右のフロントカメラ21、23及びリヤカメラ18とは、後述するコントローラを介して接続してある。線100の左右方向の位置は中央に限定されず、中央よりも右寄り又は左寄りであってもよい。また指標として線を使用しているが、破線、矢印又は苗の並び方向を示すその他の図形又は記号を使用してもよい。
【0034】
図4はダッシュボードパネル5付近を略示する平面図である。ダッシュボードパネル5には、田植機の状態を表示する表示ユニット50と、進行方向及び走行速度の切替に使用する主変速レバー51と、走行速度を一定にする場合に使用する変速固定レバー52と、植付部10の昇降、植付部10のオン/オフ及び左右のフロントカメラ21、23の切替を行う植付昇降レバー53と、走行部1を自動走行させる自動走行スイッチ54と、植付部10を設定された高さにする昇降ボタン55と、表示部8にリヤカメラ18の画像を表示させるバックモニタスイッチ56とが配設してある。
(中略)
【0036】
自動走行スイッチ54がオンになった場合、走行部1は予め設定された所定の速度で走行する。自動走行スイッチ54がオフになった場合、走行部1は、主変速レバー51、変速固定レバー52又はブレーキペダル61などの操作部の操作に基づいて、走行する。」

(ウ)「【0059】
図10は、右フロントカメラ21によって撮像された画像の一例を表示した表示部8を示す模式図である。図10に示すように、右フロントカメラ21によって圃場を撮像した場合、圃場に植付けられた苗140が表示部8に表示される。操作者は、表示された苗140の最も左の列と線100とを重畳させる、換言すれば左右方向の位置を一致させることによって、田植機の進行方向と苗140の並び方向とを略一致させることができる。また苗の左右の間隔も、植付部10において予め設定した間隔となる。その結果、植付部10にて植付けられる苗は、既に圃場に植付けた苗140の列と同方向に沿って植付けられ、また左右の間隔も略同じになり、整列する。
(中略)
【0065】
コントローラ90のCPU91は、自動走行スイッチ54からオン信号が入力されるまで待機する(ステップS1:NO)。自動走行スイッチ54からオン信号が入力された場合(ステップS1:YES)、CPU91は、表示パネルに表示された画像を縦長の複数の帯状領域101、101、・・・、101に分割して認識し(図14A参照)、一の帯状領域101を抽出する(ステップS2)。そして抽出した帯状領域101における緑色の画素を計数する(ステップS3)。このとき計数する画素数としては、所定の時間間隔で計数した画素数の移動平均値又は所定の時刻における画素数が挙げられる。なお画素数に限定されず、苗140を認識するための特徴を示す値を計算してもよい。例えば帯状領域101の全画素数に占める緑色の画素数の割合を計算してもよい。
(中略)
【0068】
次にCPU91は、全ての帯状領域101について緑色の画素を計数したか否かを判定する(ステップS7)。例えばCPU91は、アドレスを参照し、フラグが未設定の記憶領域が存在するか否かを判定する。全ての帯状領域101、101、・・・、101について緑色の画素を計数していない場合(ステップS7:NO)、例えばフラグが未設定の記憶領域が存在する場合、CPU91はステップS2に処理を戻す。全ての帯状領域101、101、・・・、101について緑色の画素を計数した場合(ステップS7:YES)、例えばフラグが未設定の記憶領域が存在しない場合、CPU91は、候補フラグを設定した帯状領域101の中から、田植機の進行方向の基準となる苗140の列を表示する帯状領域101を選択する(ステップS8)。
(中略)
【0072】
操舵量の演算は、例えば以下のように行われる。左右方向において、線100の中央に位置する画素から選択した領域の中央に位置する画素までの画素数を求める。求めた画素数を距離に変換する。なお画素数と距離との関係を示す情報は、ROM92に記憶してあるものとする。CPU91はROM92からRAM93に前記情報を読み込んで、RAM93から前記情報を参照可能であるとする。またCPU91は、走行部1の速度を検出する。なお田植機は図示しない車速センサを備えており、該車速センサの検出値によって速度を検出するものとする。そしてCPU91は、所定時間を設定し、該所定時間、前記速度及び距離に基づいて、操舵量を演算する。
【0073】
操舵量を演算したCPU91は、電磁切換弁201に切換信号を出力する(ステップS11)。電磁切換弁201は切り換わり、走行部1を右又は左に操舵する。そしてCPU91は、タイマ95を用いて、前記所定時間が経過するまで待機する(ステップS12:NO)。
(中略)
【0075】
図15は操舵処理後に表示部8に表示される画像の一例を示す模式図である。図中、選択された帯状領域101を破線ハッチングにて示している。左端に位置する苗140の列が、選択された帯状領域101内に認められる。自動走行している場合であっても、操舵処理によって苗を整列させることができる。」

(エ)「【0130】
実施の形態5においては、例えば緑色の植物で覆われた畔の画像に基づいて、初期の走行方位を決定しているが、緑色に限定されない。土の畔を示す茶色、コンクリートからなる畔を示す灰色、又はビニルを被せた畔を示す黒、青若しくは緑の画素群が、右側又は左側に存在することが認識された場合に、当該画素群を畔を示す画像として認識してもよい。
また畔の縁を示すエッジを検出し、該エッジに沿って自動的に操舵してもよい。例えば表示部の左右端部において、前後に長いライン状にエッジが検出された場合に、該エッジに沿って自動的に操舵する。エッジの検出は例えば以下のように行われる。表示部の左右端部において、左右に隣接する画素間の輝度差が予め設定した閾値以上である場合に、該隣接する画素部分を、水の張っている圃場内を示す画素と畔を示す画素との境界を示すエッジ候補と認識する。そしてエッジ候補として認識された部分が前後に所定数以上連続して存在している場合に、エッジとして確定する。なおエッジ候補を表示部8に表示し、エッジであるか否かの最終的な確定は、操作者の操作によって実行されるようにしてもよい。
また植付作業の途中で自動操舵処理を実行する場合には、苗の画像に基づいて初期の走行方位を決定してもよい。」

(オ)図4及び図15は次のものである。
【図4】

【図15】


イ.上記「ア.(オ)」の各図からは、次の点を看取することができる。
(ア)図4からは「表示部8と表示ユニット50とが別の装置である」点が看て取れる。
(イ)図4からは「平面視で表示部8の後端がハンドル7の前端よりも前方に位置している」点が看て取れる。
(ウ)段落【0075】(上記「ア.(ウ)」)の記載を踏まえると、図15からは「操舵処理後に表示部に表示される画像では、左端に位置する苗140の列が、線100と一致している」点が看て取れる。

ウ.(ア)以上を総合すると、甲第5号証には次の発明(以下「甲5発明」という。)が記載されている。

(甲5発明)
「ダッシュボードパネルの上側に、表示パネルを有する表示部が設けてあり、
表示パネルの左右方向中央部に、表示部に表示される苗の列に沿う上下に延びる線が配置してあり、
右フロントカメラによって圃場を撮像した場合、圃場に植付けられた苗が表示部に表示され、
CPUは、表示パネルに表示された画像を縦長の複数の帯状領域に分割して認識し、田植機の進行方向の基準となる苗の列を表示する帯状領域を選択し、その中央に位置する画素から選択した領域の中央に位置する画素までの画素数を距離に変換し、該所定時間、速度及び距離に基づいて、操舵量を演算し、走行部を右又は左に操舵し、
操舵処理後に表示部に表示される画像では、左端に位置する苗の列が線と一致しており、
ダッシュボードパネルには、田植機の状態を表示する表示ユニットが配設してあり、
表示部と表示ユニットとが別の装置であり、
平面視で表示部の後端がハンドルの前端よりも前方に位置している田植機。」

(イ)また、「実施の形態5」に着目すると、甲第5号証には次の技術的事項(以下「甲5技術的事項」という。)が記載されている。

(甲5技術的事項)
「田植機において、
畔の縁を示すエッジを検出し、該エッジに沿って自動的に操舵してもよく、
エッジ候補を表示部に表示し、エッジであるか否かの最終的な確定は、操作者の操作によって実行されるようにしてもよい点。」

(6)甲第6号証
ア.本件特許の出願前に頒布された甲第6号証には次の記載がある。

(ア)「【0017】
自動運転表示ランプ41は、自動運転中に点灯するように構成しており、オペレータが自動運転表示ランプ41の点灯状態を確認することにより、現在自動運転中であるか否かを一目見て把握できる構成としている。
ティーチング表示ランプ42は、ティーチングが実行されていない時には消灯しており、また、ティーチングSW47を一度押下してティーチング中である時には、ランプを点滅するようにし、さらに、ティーチングSW47をもう一度押下してティーチングが完了した時には、ランプが点灯するように構成している。このように、オペレータがティーチング表示ランプ42の点灯状態を確認することにより、ティーチング状態を一目見て把握できる構成としている。
GPS表示ランプ43は、GPSユニット102がGPS衛星と通信可能な状態であるときには点灯するように構成しており、オペレータがGPS表示ランプ43の点灯状態を確認することにより、GPSユニット102による測位が使用可能か否かが一目見て把握できる構成としている。
異常表示ランプ44は、田植機1の本体各部やシステムに異常が発生した場合に点灯するようにしており、オペレータが異常表示ランプ44の点灯状態を確認することにより、田植機1各部が正常に作動しているか否かについて、田植機1の運転状態を一目見て把握できる構成としている。」

(イ)図3は次のものである。
【図3】


(7)甲第7号証
ア.本件特許の出願前に頒布された甲第7号証には次の記載がある。

(ア)図1は次のものである(当審注:右に90度回転している。)。
【図1】


(8)甲第8号証
ア.本件特許の出願前に頒布された甲第8号証には次の記載がある。

(ア)「【0032】
肥料の比重、繰出量等を表示するコントロ−ラの表示部は、その配置側面図と配置正面図を図11、図12に、図11のA矢視図を図13にそれぞれ示すように、操舵ハンドル81の外周より外側にはみだす位置に配置する。操舵ハンドル81の内周位置にはメータパネル82を構成配置し、このメータパネル82の外周部に表示部83を取付ける。このように表示部83を配置することにより、運転中でも表示部83を容易に視認できるので、作業性を向上することができる。」

(イ)図11ないし13は次のものである。


イ.上記「ア.(イ)」の図11からは、表示部83の上端がメータパネル82の上端よりも上方に位置している点を看取することができる。

(9)甲第9号証
ア.本件特許の出願前に頒布された甲第9号証の1には次の記載がある。

(ア)「4.トプコンの農業向けシステム
(1)GNSSライトバーガイダンスシステム「System 110」
視認性の良い着脱式ライトバーとディスプレイにGPS/GLONASSのハイブリッドアンテナを組み合わせたガイダンスシステム(図5)。ライトバーは本体から取り外し,最も視認性の良い位置へ取り付ける事で,作業中に視線を外す事無く作業を行う事ができる。また,操作ポタンは独立しているので手探りでボタン操作を行う事が出来る堅牢性の高いガイダンスシステムである。
現在北海道を中心に普及が進んでいるガイダンスシステムであるが,走行のガイド以外の機能はあまり活用されていない。System110はガイド以外に様々な機能を有するガイダンスシステムである。」(第347ページ右欄下から7行〜第348ページ左欄第7行)

(イ)図5は次のものである。


イ.上記「ア.(ア)」の記載を踏まえると、上記「ア.(イ)」の図5からは、ライトバーが車両のハンドルの前方に取り付けられる点を看取することができる。

ウ.「System 110/150 Operator's Manual」である甲第9号証の2には次の記載がある。

(ア)「○c(当審注:「○c」は「c」を○で囲んだ文字を示す。) Copyright Topcon Precision Agriculture
June, 2010」(表紙下部)

(イ)「Steering with Guidance
This section will explain how to read some of the steering indicators that appear on the screen and light bar while driving to a guidance pattern. The images below display an AB Line Guidance pattern.

When you are travelling in a straight line along a guidance path, only the middle LED should be lit on the lightbar.

If your vehicle is travelling left of the guidance path, the LEDs on the left of the lightbar will begin to light up. The further to the left you move from the guidance path, the more LEDs will be lit.

The indicator screen also indicates how far off center you are. Seeing the red bar (figure 9-58) move closer to the right indicates that you need to steer more to the right to get back on center.

If your vehicle is travelling right of the Guidance path, the LED’s on the right of the lightbar will begin to light up. The further to the right you move from the guidance path, the more LEDs will be lit (figure 9-59).

The screen also indicates with a red bar moving left that you need to steer more to the left to go back to center. The closer you are to center, the less arrows that are displayed and less LEDs are lit.」(第9−31〜9−32ページ)

エ.上記「ウ.(イ)」の記載及び図からは、案内経路(Guidance path)に沿って直進している間はライトバー(light bar)の中央のLEDが点灯し、左又は右に寄るとそれぞれ左側又は右側のLEDが点灯する点を読み取ることができる。

オ.甲第9号証の1が2003年に発行されたものであること、甲第9号証の2に上記「ウ.(ア)」に摘記した2010年6月付けの著作権表示があること、及び、甲第9号証の2は「Operator's Manual」であって一般に製品に添付して配布されるものであること等からみて、甲第9号証の1及び甲第9号証の2に記載された「System110」は本件特許の出願前に公然実施をされたものであると認められる。

カ.そうすると、上記「ア.ないしエ.」を総合すると、次の発明(以下「甲9発明」という。)が本件特許の出願前に公然実施をされたものと認められる。

(甲9発明)
「着脱式ライトバーとディスプレイにGPS/GLONASSのハイブリッドアンテナを組み合わせた農業向けシステムであるガイダンスシステムであって、
ライトバーは本体から取り外し、最も視認性の良い位置へ取り付ける事で、作業中に視線を外す事無く作業を行う事ができ、
ライトバーが車両のハンドルの前方に取り付けられており、
案内経路に沿って直進している間はライトバーの中央のLEDが点灯し、左又は右に寄るとそれぞれ左側又は右側のLEDが点灯するガイダンスシステム。」

2.対比・判断
(1)本件特許発明1について
ア.対比
本件特許発明1と甲1発明とを対比する。

(ア)甲1発明の「自律直進走行が可能であ」り、「自動走行モードか手動走行モードを選択できる」点は、本件特許発明1の「手動操舵によるマニュアル走行と自動操舵による自動走行とを切替可能」である点に相当する。

(イ)甲1発明の「農用作業車」である「田植機」の「機体」は、本件特許発明1の「走行機体」に相当する。

(ウ)甲1発明の「自動運転表示ランプは、自動運転中に点灯するように構成しており、オペレータが自動運転表示ランプの点灯状態を確認することにより、現在自動運転中であるか否かを一目見て把握できる構成とし」た点は、本件特許発明1の「前記自動走行のモードである際に、前記自動走行のモードであることが表示され」る点に相当する。
また、甲1発明の「左方ズレ表示ランプ」及び「右方ズレ表示ランプ」は、「自律走行する時には、処理部により生成した目標経路に沿って自律的に走行するようにしており、このとき、自律走行中の実際の走行経路をGPSユニットにより測定し、目標経路と実際の走行経路の差異(ズレ量)を処理部で演算し、予め設定した閾値と比較して判定をするようにし」、「前記ズレ量が閾値を越えている場合には、基準線に対するズレの方向を検知して判定を行い、左方にズレが生じている場合には前記左方ズレ表示ランプを点灯し、」「右方にズレが生じている場合には前記右方ズレ表示ランプを点灯」するものであるから、本件特許発明1の「前記自動走行のモードである際に、」「当該走行機体の走行方向のずれを示す表示」に相当する。
そうすると、甲1発明の「メーターパネル」のうちの「自動運転表示ランプ及び自律走行位置表示ランプを含む表示部」は、本件特許発明1の「前記自動走行のモードである際に、前記自動走行のモードであることが表示され、且つ、当該走行機体の走行方向のずれを示す表示が表示される表示装置」に相当する。

(エ)甲1発明の「別の表示部」は「メーターパネル」の一部であるからメーターパネルであるということができ、また、「3つの小さな領域に分割され、前記小さな領域のうちの1つには給油装置のアイコンが付されたメーターが配置されている」から、当該「別の表示部」と本件特許発明1の「アワーメータが表示されるメータパネル」とは、「メータを含むメータパネル」の点で共通する。

(オ)甲1発明において、「自動運転表示ランプ及び自律走行位置表示ランプを含む表示部」は当該「表示部を囲む枠を有しており」、当該表示部の下方に設けられる「別の表示部」もまた当該「別の表示部を囲む枠があ」るから、「自動運転表示ランプ及び自律走行位置表示ランプを含む表示部」と「別の表示部」とは互いに別の表示部として設けられているものと認められる。
そうすると、甲1発明の当該事項と、本件特許発明1の「前記メータパネルと前記表示装置とが互いに別の装置として設けられ」とは、「メータパネルと表示装置とが互いに別の表示部として設けられ」の点で共通する。

(カ)甲1発明は「ハンドルを配置しており」、「ステアリング装置」を有して「自動走行モードか手動走行モードを選択できる」ところ、当該「ハンドル」が手動走行モードにおいてステアリング装置の操作に用いられることは明らかである。
そうすると、甲1発明が当該「ハンドルを配置して」いる点は、本件特許発明1が「前記走行機体の操向用のハンドルを備え」る点に相当する。

(キ)甲1発明の「メーターパネルは、平面視でハンドルと重複する位置に位置しており」は、本件特許発明1の「平面視において、前記メータパネルが前記ハンドルと重複する位置に位置し」に相当する。

(ク)以上を総合すると、本件特許発明1と甲1発明とは、
「手動操舵によるマニュアル走行と自動操舵による自動走行とを切替可能な走行機体と、
メータを含むメータパネルと、
前記自動走行のモードである際に、前記自動走行のモードであることが表示され、且つ、当該走行機体の走行方向のずれを示す表示が表示される表示装置とを備え、
前記メータパネルと前記表示装置とが互いに別の表示部として設けられ、
前記走行機体の操向用のハンドルを備え、
平面視において、前記メータパネルが前記ハンドルと重複する位置に位置する農作業機。」
の点で一致し、次の点で相違する。

(相違点1)本件特許発明1は「メータパネルと表示装置とが互いに別の装置として設けられている」のに対して、甲1発明は「別の表示部」と「自動運転表示ランプ及び自律走行位置表示ランプを含む表示部」とが互いに別の装置であるか明らかでない点。

(相違点2)本件特許発明1は「メータパネル」が「アワーメータが表示される」ものであるのに対して、甲1発明は「別の表示部」がアワーメータが表示されるものか明らかでない点。

(相違点3)本件特許発明1は「平面視において、表示装置の後端がハンドルの前端よりも前方に位置する」のに対して、甲第1号証では、平面視において、自動運転表示ランプ及び自律走行位置表示ランプを含む表示部の後端がハンドルの前端よりも前方に位置しない点。

イ.判断
事案に鑑み、まず相違点3について検討する。

(ア)甲第2号証について
甲2発明は、「第1表示部を作り出すフラットパネルディスプレイと第2表示部を作り出すLEDパネルユニットとを別体の独立した表示パネルの形で装備してもよ」いものであるが、「フラットパネルディスプレイ」及び「LEDパネルユニット」の位置については、「フラットパネルディスプレイが、垂直方向でステアリングホイールと重複している」に止まり、相違点3に係る本件特許発明1の発明特定事項を備えるものではなく、示唆するものでもない。

(イ)甲第3号証及び甲第4号証について
甲第3号証及び甲第4号証にはそれぞれ、情報表示部に累計稼動時間(アワーメータ)を表示すること等が記載されているものの、相違点3に係る本件特許発明1の発明特定事項については記載も示唆もない。

(ウ)甲第5号証について
a.甲5発明について
甲5発明は「平面視で表示部の後端がハンドルの前端よりも前方に位置している」ものである。
そして、相違点3に係る本件特許発明1の「表示装置」は「走行機体の走行方向のずれを示す表示が表示される」ものであるところ、甲5発明の上記「表示部」は、「操舵処理後に表示部に表示される画像では、左端に位置する苗の列が線と一致して」いることからみて、操舵処理前の画像においては苗の列と線とが一致せずにずれがある場合があるものと認められ、そのような場合には「苗の列」の「画像」と「線」とは結果的にずれを表示するものであるから、田植機の「走行方向のずれを示す表示が表示される」とも解し得る。
しかしながら、甲5発明が「走行方向のずれを示す表示が表示される」といい得るのは、「表示パネルの左右方向中央部に、表示部に表示される苗の列に沿う上下に延びる線が配置してあり」、「圃場に植付けられた苗が表示部に表示され」るという具体的構成を備えることにより、上述のように「苗の列」の「画像」と「線」とが表示される結果である。
一方、甲1発明は「GPSにより車体位置を計測しつつ、自律的に直進走行する農用作業車において、次工程への遷移時に植付け開始位置の位置決めが容易にできる技術を提供する」(段落【0004】。上記「1.(1)ア.(ア)」参照。)という課題を解決するものであると認められるところ、仮に甲1発明において甲5発明の「表示パネルの左右方向中央部に、表示部に表示される苗の列に沿う上下に延びる線が配置してあり」、「圃場に植付けられた苗が表示部に表示され」るという構成を採用する場合には、「表示パネルに表示された画像を縦長の複数の帯状領域に分割して認識し、田植機の進行方向の基準となる苗の列を表示する帯状領域を選択し、その中央に位置する画素から選択した領域の中央に位置する画素までの画素数を距離に変換し、該所定時間、速度及び距離に基づいて、操舵量を演算し、走行部を右又は左に操舵」することとなって、甲1発明の「GPSユニット」による計測に係る構成を備えないものとなるから、上記した甲1発明の課題を解決することができないことになる。
そうすると、甲1発明において甲5発明の「表示部」に係る構成を採用することには阻害要因があるから、甲1発明に甲5発明を適用して相違点3に係る本件特許発明1の発明特定事項とすることは、当業者が容易に成し得たことではない。

b.甲5技術的事項について
甲5技術的事項は「畔の縁を示すエッジを検出し、該エッジに沿って自動的に操舵」するものであるから、甲1発明への適用については上記「a.」と同様のことがいえる。
また、甲5技術的事項は、「畔の縁を示すエッジを検出し、該エッジに沿って自動的に操舵してもよ」いことと、「エッジ候補を表示部に表示し、エッジであるか否かの最終的な確定は、操作者の操作によって実行されるようにしてもよい」こととの2者の事項を開示するものであるところ、前者の事項においては「エッジを検出」するものの表示部に表示するか否かは明らかでないし、後者の事項においては「エッジ候補」を表示部に表示するものの、操作者が確定した「エッジ」を表示するか否かは明らかでないから、甲5技術的事項は、エッジを表示部に表示することを開示するものではない。
そうすると、甲1発明に甲5技術的事項を適用することには阻害要因がある上、仮に甲1発明に甲5技術的事項を適用したとしても相違点3に係る本件特許発明1の発明特定事項には至らない。

(エ)甲第6号証について
甲第6号証には、自動運転表示ランプが自動運転中に点灯すること等が記載されているものの、相違点3に係る本件特許発明1の発明特定事項については記載も示唆もない。

(オ)甲第9号証について
甲1発明の「メーターパネル」上に設けた「自律走行位置表示ランプ」は「左方ズレ表示ランプと、正常走行表示ランプと、右方ズレ表示ランプにより構成し」たものであり、また、甲9発明の「ライトバー」は「案内経路に沿って直進している間はライトバーの中央のLEDが点灯し、左又は右に寄るとそれぞれ左側又は右側のLEDが点灯する」から、甲1発明の「メーターパネル」と甲9発明の「ライトバー」とはいずれも走行機体の走行方向のずれを示す表示が表示される表示装置であるといえる。
しかしながら、甲1発明は「農用作業車」に係るものであって、「メーターパネルは、座席に着座したオペレータ前方のダッシュボード上に、オペレータから容易に視認できる位置に配設され」たものであるから、「メーターパネル」は「農用作業車」に予め一体に配設されたものであって、甲1発明において「メーターパネル」が配設される「オペレータから容易に視認できる位置」は、「メーターパネル」が「農用作業車」に予め一体に配設される際の位置を特定したものであると解される。
一方、甲9発明の「ガイダンスシステム」は、「着脱式ライトバーとディスプレイにGPS/GLONASSのハイブリッドアンテナを組み合わせた」ものであること、及び、「ライトバーが車両のハンドルの前方に取り付けられて」いること等からみて、車両とは別体の「ガイダンスシステム」を既存の車両に取り付けるものであって、車両は一般に車両自体を操作するための表示装置を有しているから、甲9発明の「ライトバー」は、そのような表示装置を備える既存の車両に付加的に取り付けられるものであると認められる。そして、甲9発明において「ライトバー」を取り付ける「最も視認性の良い位置」との事項は、車両が既に表示装置を備えていることを前提に、それ以外の位置に「ガイダンスシステム」のうちの「ライトバー」を取り付ける際の位置を特定したものであると解される。
そうすると、甲1発明の「メーターパネル」と甲9発明の「ライトバー」とは、その設置の態様が大きく異なるものであって、それぞれの設置の態様において視認性に優れた位置に設置されたものであるから、甲1発明において「メーターパネル」を配設する位置を、設置の態様が異なる甲9発明のようにする動機付けはない。
また、甲9発明は「ライトバー」とは別に「ディスプレイ」を備えるものであり、本件特許発明1の「表示装置」における「自動走行のモードであること」の表示(甲1発明における「自動運転表示ランプ」が相当)については何ら開示するものではないから、仮に甲1発明に甲9発明を適用したとしても、甲1発明の「表示部」のうちの「自律走行位置表示ランプ」のみをその後端がハンドルの前端よりも前方に位置するように取り付けるに止まり、「自動運転表示ランプ」をも含む「表示装置」の後端がハンドルの前端よりも前方に位置するように取り付けることにはならない。
そうすると、甲1発明に甲9発明を適用することは当業者が容易になし得たことではなく、また、仮に甲1発明に甲9発明を適用したとしても相違点3に係る本件特許発明1の発明特定事項には至らない。

(カ)周知慣用技術について
上記各甲号証に記載された事項及び農作業機の技術分野における技術常識を踏まえても、相違点3に係る本件特許発明1の発明特定事項が周知技術又は慣用技術であるとする理由はない。

ウ.小括
以上のとおりであって、甲第2号証、甲第3号証、甲第4号証、甲第5号証、甲第6号証及び甲第9号証に記載された発明又は周知技術、並びに、慣用技術を考慮しても、甲1発明において相違点3に係る本件特許発明1の発明特定事項とすることは、当業者が容易に成し得たことではない。
そうすると、その余の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲第1号証に記載された発明、甲第2号証、甲第3号証、甲第4号証、甲第5号証、甲第6号証及び甲第9号証に記載された発明又は周知技術、並びに、慣用技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(2)本件特許発明2ないし6について
ア.判断
(ア)本件特許発明2ないし6は、本件特許発明1の発明特定事項をすべて備え、さらに限定を加えたものであり、本件特許発明1については上記「(1)」において検討したとおり、甲第1号証に記載された発明、甲第2号証、甲第3号証、甲第4号証、甲第5号証、甲第6号証及び甲第9号証に記載された発明又は周知技術、並びに、慣用技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(イ)その余の甲号証について検討しても、甲第7号証(上記「1.(7)」参照。)の図1からは、申立人が主張するように(申立書第18ページ下から2行〜第19ページ第3行)、運転座席の前方に設けられる表示装置(タッチパネル54)が、上端ほど前方に変位する傾斜姿勢で備えられていることが看取されるものの、甲第7号証には相違点3に係る本件特許発明1の発明特定事項については記載も示唆もない。

(ウ)また、甲第8号証(上記「1.(8)」参照。)の図11ないし13からは、申立人が主張するように(申立書第19ページ第4〜7行)、「表示部83」の上端が「メータパネル82」の上端よりも上方に位置していることが看取されるものの、甲第8号証記載の「表示部83」は「肥料の比重、繰出量等を表示する」ものであって、「自動走行のモードであること」や「走行機体の走行方向のずれを示す表示」を表示するものではないから、甲第8号証の記載事項を考慮しても、相違点3に係る本件特許発明1の発明特定事項とすることを当業者が容易になし得たとすることはできない。

イ.小括
そうすると、本件特許発明2ないし4は、甲第1号証に記載された発明、甲第2号証ないし甲第7号証及び甲第9号証に記載された発明又は周知技術、並びに、慣用技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
また、本件特許発明5及び6は、甲第1号証に記載された発明、甲第2号証ないし甲第9号証に記載された発明又は周知技術、及び、慣用技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

第5 むすび

以上のとおりであるから、特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件特許発明1ないし6に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許発明1ないし6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2022-03-25 
出願番号 P2018-014887
審決分類 P 1 651・ 121- Y (A01B)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 住田 秀弘
特許庁審判官 森次 顕
西田 秀彦
登録日 2021-05-28 
登録番号 6891136
権利者 株式会社クボタ
発明の名称 農作業機  
代理人 特許業務法人R&C  

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