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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 H01L 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 H01L 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 H01L |
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管理番号 | 1384288 |
総通号数 | 5 |
発行国 | JP |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2022-05-27 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2021-12-20 |
確定日 | 2022-04-08 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第6893835号発明「シリコンウェーハ用仕上げ研磨液組成物」の特許異議申立事件について,次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6893835号の請求項1〜10に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第6893835号の請求項1〜10に係る特許についての出願は,平成29年6月23日に出願され,令和3年6月4日にその特許権の設定登録がされ,同年6月23日に特許掲載公報が発行された。その後,その特許に対し,同年12月20日に特許異議申立人 和田雅彦(以下,「申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。 第2 本件発明 特許第6893835号の請求項1〜10の特許に係る発明(以下,それぞれ「本件発明1〜10」といい,まとめて「本件発明」ともいう。)は,それぞれ,その特許請求の範囲の請求項1〜10に記載された事項により特定される次のとおりのものである。 「【請求項1】 シリカ粒子A,塩基性化合物B,及び水溶性高分子Cを含むシリコンウェーハ用仕上げ研磨液組成物であって, 前記研磨液組成物中に存在するシリカ粒子Aの平均粒径dと,前記研磨液組成物と同じ濃度でシリカ粒子A及び塩基性化合物Bを含有する水分散液中に存在するシリカ粒子Aの平均粒径d0との比d/d0が1.1以下であり, 水溶性高分子Cのシリコンウェーハに対する吸着量が750ng/cm2以上である, シリコンウェーハ用仕上げ研磨液組成物。 【請求項2】 水溶性高分子Cのシリカ粒子Aに対する吸着量が3質量%以下である,請求項1に記載のシリコンウェーハ用仕上げ研磨液組成物。 【請求項3】 水溶性高分子Cがポリビニルアルキルエーテルである,請求項1又は2に記載のシリコンウェーハ用仕上げ研磨液組成物。 【請求項4】 25℃におけるpHが9.0以上12.0以下である,請求項1から3のいずれかに記載のシリコンウェーハ用仕上げ研磨液組成物。 【請求項5】 研磨液組成物中のシリカ粒子Aのゼータ電位が,−30mV以下である,請求項1から4のいずれかに記載のシリコンウェーハ用仕上げ研磨液組成物。 【請求項6】 シリコンウェーハのエッチング速度が,30nm/h未満である,請求項1から5のいずれかに記載のシリコンウェーハ用仕上げ研磨液組成物。 【請求項7】 水溶性高分子Cの含有量に対するシリカ粒子Aの含有量の比A/Cが,3以上である,請求項1から6のいずれかに記載のシリコンウェーハ用仕上げ研磨液組成物。 【請求項8】 水溶性高分子Cの含有量に対するシリカ粒子Aの含有量の比A/Cが,170以下である,請求項1から7のいずれかに記載のシリコンウェーハ用仕上げ研磨液組成物。 【請求項9】 請求項1から8のいずれかに記載のシリコンウェーハ用仕上げ研磨液組成物を用いて被研磨シリコンウェーハを研磨する工程を含む,研磨方法。 【請求項10】 請求項1から8のいずれかに記載のシリコンウェーハ用仕上げ研磨液組成物を用いて被研磨シリコンウェーハを研磨する工程を含む,半導体基板の製造方法。」 第3 申立理由の概要 特許異議申立人は,証拠として甲第1号証〜甲第4号証を提出し,以下の理由により,請求項1〜10に係る特許を取り消すべきものである旨主張している。 1 申立理由1(新規性) 本件発明1〜10は,甲第1号証〜甲第4号証のいずれかに記載された発明であって,特許法第29条第1項第3号に該当するから,請求項1〜10に係る特許は,特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。 2 申立理由2(進歩性) 本件発明1〜10は,甲第1号証〜甲第4号証に記載された発明に基づいて,その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下,「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから,請求項1〜10に係る特許は,特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。 3 申立理由3(サポート要件) 本件発明1〜10は,発明の詳細な説明に記載されたものではないから,請求項1〜10に係る特許は,特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。 4 申立理由4(明確性) 本件発明1〜10は,特許請求の範囲の記載が明確でないから,請求項1〜10に係る特許は,特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。 [証拠方法] 甲第1号証:国際公開第2015/053207号 甲第2号証:特開2016−9759号公報 甲第3号証:国際公開第2014/126051号 甲第4号証:国際公開第2016/132676号 第4 甲号証の記載事項 1 本件特許に係る出願の日前に公知となった甲第1号証(国際公開第2015/053207号)には,以下の事項が記載されている(なお,下線は当合議体が付加したものである。以下,同様である。)。 「発明が解決しようとする課題 ・・・ [0007] 本発明は,このような事情に鑑みてなされたものであり,シリコンウェーハの表面研磨において,ウェーハ表面を高精度に平滑化し,COPの抑制に有効な半導体用濡れ剤及び研磨用組成物を提供することを課題とするものである。」 「発明の効果 [0010] 本発明の半導体用濡れ剤は,研磨後のウェーハ表面への吸着性に優れるものである。このため,該半導体用濡れ剤を含む研磨用組成物を用いることにより,研磨後のウェーハ表面の平滑性を高め,かつ,耐エッチング性に優れることからCOPを抑制することが可能となる。さらに,シリカの分散性も良好であることから,凝集したシリカ砥粒による擦傷や表面荒れも少なく,無傷性に優れたウェーハ表面を得ることができる。」 「発明を実施するための形態 ・・・ [0017] 式(2)において,Xは炭素数1〜10のアルキル基を有するアルキルエーテル基,炭素数6〜10のアリール基,式(3)若しくは式(4)で表される有機基,炭素数1〜10のアルキル基を有するウレタンアルキル基,炭素数3以上のアルキレン基を有するアルキレンオキシド基,水素又は炭素数1〜3のアルキル基である。Xは,これらの内の1種でもよく,又2種以上を併用してもよい。上記の内,ウェーハに対する吸着性が良好であり,かつ,対応する原料が入手し易い点から,炭素数1〜10のアルキル基を有するアルキルエーテル基,式(3)若しくは式(4)で表される有機基が好ましい。また,耐アルカリ加水分解性が良好である点から炭素数1〜10のアルキル基を有するアルキルエーテル基がさらに好ましい。 [0018] また,水溶性高分子において,式(2)で表される構造単位は1〜30mol%の範囲にあることが必要である。該構造単位の好ましい範囲は5〜30mol%であり,より好ましい範囲は10〜25mol%である。式(2)で表される構造単位は,ウェーハへの吸着性を付与するために重要な構造単位である。 式(2)で表される構造単位が1mol%未満の場合はウェーハへの吸着性が不十分となる場合があり,30mol%を超える場合は水への溶解性が不十分となることが懸念される。 ・・・ [0021] 式(2)で表される構造単位を有する単量体の具体的な化合物としては,メチルビニルエーテル,エチルビニルエーテル,n−プロピルビニルエーテル,イソプロピルビニルエーテル,n−ブチルビニルエーテル,イソブチルビニルエーテル,t−ブチルビニルエーテル,n−ヘキシルビニルエーテル,2−エチルヘキシルビニルエーテル,n−オクチルビニルエーテル,n−ノニルビニルエーテル及びn−デシルビニルエーテル等の炭素数1〜10のアルキル基を有するアルキルビニルエーテル類;スチレン,ビニルトルエン及びビニルキシレン等の芳香族ビニル化合物;メチル(メタ)アクリルアミド,エチル(メタ)アクリルアミド,n−プロピル(メタ)アクリルアミド,イソプロピル(メタ)アクリルアミド,n−ブチル(メタ)アクリルアミド及び2−エチルヘキシル(メタ)アクリルアミド等のN−アルキル(メタ)アクリルアミド;メチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド,ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド,エチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド及びジエチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド等の(ジ)アルキルアミノアルキルアミド類;メチルアミノエチル(メタ)アクリレート,ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート,エチルアミノエチル(メタ)アクリレート及びジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート等の(ジ)アルキルアミノアルキル(メタ)アクリレート類;エチレン,プロピレン,ブチレン等のα―オレフィン類等が挙げられ,これらの内の1種又は2種以上を用いることができる。 ・・・ [0032] 本発明における水溶性高分子は,ウェーハ表面等への吸着性に優れ,特に完全に酸化膜が除去された状態のウェーハ表面に対して高い吸着性を示す。このため,ウェーハの表面処理工程に本発明の半導体用濡れ剤を用いた場合,研磨後のウェーハ表面の平滑性を高め,COP及びパーティクル付着による汚染等を低減することができる。これらの効果が得られる理由として,以下のメカニズムを想定している。 ウェーハ表面の平滑性に関しては,半導体用濡れ剤中の水溶性高分子がウェーハ表面に吸着することで,CMPのメカニカル研磨においてウェーハ表面と砥粒との間の摩擦が緩和される。このため,メカニカル研磨によりウェーハ表面に形成される微小な凹凸が低減され,平滑性が向上すると考えられる。 ・・・ [0039] アルカリ化合物としては,水溶性のアルカリ化合物であれば特に制限はなく,アルカリ金属水酸化物,アミン類又はアンモニア若しくは4級水酸化アンモニウム塩等を使用することができる。アルカリ金属水酸化物としては,水酸化カリウム,水酸化ナトリウム,水酸化ルビジウム及び水酸化セシウム等が挙げられる。アミン類としては,トリエチルアミン,モノエタノールアミン,ジエタノールアミン,トリエタノールアミン,ジイソプロパノールアミン,エチレンジアミン,ヘキサメチレンジアミン,ジエチレントリアミン,トリエチルペンタミン及びテトラエチルペンタミン等が挙げられる。4級水酸化アンモニウム塩としては,水酸化テトラメチルアンモニウム,水酸化テトラエチルアンモニウム及び水酸化テトラブチルアンモニウム等が挙げられる。これらの内では,半導体基板に対する汚染が少ないという点からアンモニア又は4級水酸化アンモニウム塩が好ましい。 本発明の研磨用組成物は,前記アルカリ化合物を添加することにより,そのpHが8〜13となるように調整されるのが好ましい。pHの範囲は8.5〜12に調整するのがより好ましい。」 「実施例 ・・・ [0044]<耐エッチング性(E.R.)> ガラスカッターで3×6cmに切出したウェーハの重量を測定後,3%フッ酸水溶液に20秒浸漬してウェーハ表面の酸化膜を除去し,その後純水で10秒洗浄した。この工程をウェーハの表面が完全撥水になるまで繰り返した。次いで,アンモニア:水の重量比が1:19であるアンモニア水に,水溶性高分子の濃度が0.18wt%となるように半導体用濡れ剤を加えて,エッチング薬液を調整した。ウェーハをエッチング薬液に完全に浸漬させ,25℃,12時間静置してエッチングした。エッチング前後のウェーハ重量変化から,次式に従いエッチングレート(E.R.)を算出した。 [数1] ・・・ [0048]<シリカ分散性> 9ccスクリュー瓶にコロイダルシリカ(1次粒子径:30〜50nm)5.0gに樹脂固形分20%の水溶性高分子水溶液を0.5g加えて,良く混合した。一晩静置後のシリカの粒子径(A)を動的光散乱法(ELSZ−1000,大塚電子製)により測定し,水溶性高分子を加えていないコロイダルシリカの粒子径(B)からの変化率を下式に従って算出し,以下の基準より判定した。 変化率(%)={(A−B)/B}×100 ○:変化率が10%未満 △:変化率が10%以上〜30%未満 ×:変化率が30%以上 [0049]製造例1 ≪酢酸ビニルとアルキルビニルエーテル共重合体の合成≫ 攪拌翼,還流冷却管,温度計,各種導入管を備えた3Lの4つ口フラスコを用意し,初期モノマーとして酢酸ビニル(日本酢ビ・ポバール社製,以下「VAc」という)375部及びn−プロピルビニルエーテル(日本カーバイド社製,以下「NPVE」という)250部,重合溶剤としてメタノールを250部を仕込み,攪拌混合した。さらに窒素導入管から10ml/minの流量にて窒素を吹き込みつつ,40minかけて混合液を60℃に昇温した。 昇温を確認後,2,2−アゾビス−2,4−ジメチルバレロニトリル(和光純薬工業製,商品名「V−65」)2.0部をメタノール50部に溶解した初期開始剤の溶液を一括で加え,重合を開始した。 重合の開始と共に,滴下モノマーとしてVAc450部をモノマー導入管から6時間かけて滴下しながら重合した。一方で,2−メルカプトエタノール(以下,「MTG」という)4.0部をメタノール150部に溶解した連鎖移動剤溶液,及びV−65の8.0部をメタノール120部に溶解した滴下開始剤の溶液も,重合開始共にそれぞれの導入管から6時間かけて滴下した。 6時間重合させた後,フラスコを室温まで冷却し,4−メトキシフェノールを0.3部加えて重合を停止し,共重合体1Aを得た。この共重合体1Aの数平均分子量はMn=10,000であり,重合収率は85%であった。共重合体1Aに含まれる残モノマーは,真空ポンプをフラスコに繋いで,減圧下,50℃で加熱することでメタノールと共に除去した。 ≪水溶性高分子の合成(共重合体の鹸化)≫ フラスコから共重合体1Aを抜出さずに,引き続き鹸化反応を行った。窒素導入管から10ml/minの流量にて窒素を吹き込みつつ,30minかけて混合液を60℃に昇温した。昇温を確認後,水酸化ナトリウム3.9部をメタノール75部に溶かしたアルカリ溶液を一括で加えて鹸化反応を開始した。4時間後,温度を下げて反応を停止した。溶剤をロータリーエバポレーターにてカット後,60℃で一晩真空乾燥して,黄褐色固体の水溶性高分子1Bを得た。 水溶性高分子1Bについて1H−NMRで組成を測定したところ,ポリビニルアルコール/NPVE=77/23mol%の共重合体であり,鹸化率は98.0mol%であった。 [0050]製造例2 製造例1において,使用したMTGの量を10.0部に変更した以外は同様にして,共重合体2Aを得た。共重合体2Aの分子量は,Mn=2,200であり,重合収率は78%であった。 共重合体2Aを製造例1と同様に鹸化して,水溶性高分子2Bを得た。水溶性高分子2Bの組成について測定したところ,ポリビニルアルコール/NPVE=77/23mol%の共重合体であり,鹸化率は98.0mol%であった [0051]製造例3 製造例1において,使用したモノマーのうち,初期モノマーをVAc480部,NPVE200部,滴下モノマーをVAc320部に変更した以外は同様にして,共重合体3Aを得た。共重合体3Aの分子量は,Mn=11,000であり,重合収率は83%であった。 共重合体3Aを製造例1と同様に鹸化して,水溶性高分子3Bを得た。水溶性高分子3Bの組成について測定したところ,ポリビニルアルコール/NPVE=84/16mol%の共重合体であり,鹸化率は98.4mol%であった。 [0052]製造例4 製造例1において,使用したモノマーのうち,初期モノマーをVAc720部,NPVE100部,滴下モノマーをVAc180部に変更した以外は同様にして,共重合体4Aを得た。共重合体4Aの分子量は,Mn=10,000であり,重合収率は81%であった。 共重合体4Aを製造例1と同様に鹸化して,水溶性高分子4Bを得た。水溶性高分子4Bの組成について測定したところ,ポリビニルアルコール/NPVE=91/9mol%の共重合体であり,鹸化率は98.0mol%であった。 [0053]製造例5 製造例4において,NPVEをn−ブチルビニルエーテル(日本カーバイド社製,以下「NBVE」という)100部に変更した以外は同様にして,共重合体5Aを得た。共重合体5Aの分子量は,Mn=9,000であり,重合収率は80%であった。 共重合体5Aを製造例1と同様に鹸化して,水溶性高分子5Bを得た。水溶性高分子5Bの組成について測定したところ,ポリビニルアルコール/NBVE=90/10mol%の共重合体であり,鹸化率は98.1mol%であった。 ・・・ [0055]製造例7 製造例4において,連鎖移動剤の滴下を行わず,初期開始剤0.4部及び滴下開始剤1.6部を用い,さらに溶剤をtert−ブタノールに変更した以外は同様の操作を行い,共重合体7Aを得た。共重合体7Aの分子量は,Mn=170,000であり,重合収率は69%であった。 共重合体7Aを製造例1と同様に鹸化して,水溶性高分子7Bを得た。水溶性高分子7Bの組成について測定したところ,ポリビニルアルコール/NPVE=91/9mol%の共重合体であり,鹸化率は98.1mol%であった。 ・・・ [0062]実施例1 水溶性高分子1Bの濃度が15質量%となるように水を加え,半導体用濡れ剤を調整した。得られた半導体用濡れ剤について,耐エッチング性,濡れ性,ウェーハ外観及び耐アルカリ性の評価を行った。得られた結果について表1に示した。 また,アンモニア水を加えてpHを10.0に調整したコロイダルシリカ分散液(1次粒子系(当審注:「粒子系」は「粒子径」の明らかな誤記であるから,以下,「粒子径」と表記する。)30〜50nm,シリカ固形分10%)10.0g,上記半導体用濡れ剤を0.1g添加して,研磨剤用組成物を得た。得られた研磨剤用組成物についてシリカ分散性を評価し,表1に結果を示した。 [0063]実施例2〜10及び比較例1〜7 表1に示された水溶性高分子を用いた以外は実施例1と同様に半導体用濡れ剤及び研磨剤組成物を調製した。ただし,比較例1及び2では,鹸化後の高分子の一部もしくは大部分が水に溶解しないため,濡れ剤及び研磨剤組成物としての評価ができなかった。各試料の評価結果について表1に示した。 [0064] [表1] [0065] 表1に示された水溶性高分子の詳細は以下の通り。 PVA105:完全鹸化ポリビニルアルコール(クラレ社製,商品名「クラレポバール PVA105」,鹸化度98.5mol%,重合度500) PVA505:低鹸化ポリビニルアルコール(クラレ社製,商品名「クラレポバール PVA505」,鹸化度73.5mol%,重合度500) HEC:ヒドロキシエチルセルロース(和光純薬工業社製,重量平均分子量90,000) PVP K30:ポリビニルピロリドン(東京化成工業社製) [0066] 実施例1〜10は,本発明で規定する水溶性高分子を用いた実験例であり,ウェーハへの吸着性が高いため,耐エッチング性,濡れ性及びウェーハへの外観に優れる結果が得られている。また,研磨剤組成物とした場合のシリカ分散性にも優れることが確認された。 一方,式(2)で表される構造単位を有さない水溶性高分子を用いた比較例4は,ウェーハ表面への吸着性が不十分であるため,耐エッチング性,濡れ性及びウェーハ外観の点で劣る結果となった。また,鹸化率の低いポリビニルアルコールを用いた比較例5は,酢酸ビニル由来のユニットの加水分解が生じるため,耐アルカリ性が不足するものであった。本発明の水溶性高分子と構造単位の異なる水溶性高分子を用いた比較例6及び7は,ウェーハ表面への吸着性及びシリカ分散性の点で,満足するものではなかった。 また,上記の通り,比較例1及び2では,鹸化後の高分子が水に溶解しないため,濡れ剤及び研磨剤組成物としての評価ができなかった。比較例1は,式(2)で表される構造単位が多く,鹸化後に得られた高分子の水への溶解性が不十分であったためと思われる。比較例2は,酢酸ビニルとn-ドデシルビニルエーテルとの共重合性が悪いことから,n−ドデシルビニルエーテルを主成分とする水に不溶な高分子成分が生成したためと推察される。 産業上の利用可能性 [0067] 本発明の半導体用濡れ剤は,研磨後のウェーハ表面への吸着性に優れるため,該半導体用濡れ剤を含む研磨用組成物を用いることにより,研磨後のウェーハ表面の平滑性を高め,かつ,COPを抑制することが可能となる。さらに,シリカの分散性も良好であることから,シリコンウェーハの仕上げ研磨用組成物として特に有用である。」 「[請求項1] 分子中に,式(1)で表される構造単位70〜99mol%及び式(2)で表される構造単位1〜30mol%を有する水溶性高分子を含む半導体用濡れ剤。 [−CH2CH(OH)−] (1) [−CH2CH(X)−] (2) 〔式(2)中,Xは炭素数1〜10のアルキル基を有するアルキルエーテル基,炭素数6〜10のアリール基,式(3)若しくは式(4)で表される有機基,炭素数1〜10のアルキル基を有するウレタンアルキル基,炭素数3以上のアルキレン基を有するアルキレンオキシド基,水素又は炭素数1〜3のアルキル基を表す。〕 −C(=O)O−(CH2)m−R1 (3) 〔式(3)中,R1は炭素数1〜8のアルキル基,炭素数1〜4のアルキル基を有するアルキルアミノ基又はジアルキルアミノ基,mは0〜3の整数を表す。〕 −C(=O)NH−(CH2)n−R2 (4) 〔式(4)中,R2は炭素数1〜8のアルキル基,炭素数1〜4のアルキル基を有するアルキルアミノ基又はジアルキルアミノ基,nは0〜3の整数を表す。〕 ・・・ [請求項4] 請求項1〜3のいずれかに記載の半導体用濡れ剤,水,砥粒及びアルカリ化合物を含んでなることを特徴とする研磨用組成物。 [請求項5] 前記砥粒がコロイダルシリカである請求項4に記載の研磨用組成物。 [請求項6] シリコンウェーハの仕上げ研磨用である,請求項4又は5に記載の研磨用組成物。 [請求項7] 分子中に,式(1)で表される構造単位70〜99mol%及び式(2)で表される構造単位1〜30mol%を有する水溶性高分子を用いて,シリコンウエーハを研磨する方法。 [−CH2CH(OH)−] (1) [−CH2CH(X)−] (2) 〔式(2)中,Xは炭素数1〜10のアルキル基を有するアルキルエーテル基,炭素数6〜10のアリール基,式(3)若しくは式(4)で表される有機基,炭素数1〜10のアルキル基を有するウレタンアルキル基,炭素数3以上のアルキレン基を有するアルキレンオキシド基,水素又は炭素数1〜3のアルキル基を表す。〕 −C(=O)O−(CH2)m−R1 (3) 〔式(3)中,R1は炭素数1〜8のアルキル基,炭素数1〜4のアルキル基を有するアルキルアミノ基又はジアルキルアミノ基,mは0〜3の整数を表す。〕 −C(=O)NH−(CH2)n−R2 (4) 〔式(4)中,R2は炭素数1〜8のアルキル基,炭素数1〜4のアルキル基を有するアルキルアミノ基又はジアルキルアミノ基,nは0〜3の整数を表す。〕」 2 本件特許に係る出願の日前に公知となった甲第2号証(特開2016−9759号公報)には,以下の事項が記載されている。 「【請求項1】 砥粒の存在下で用いられるシリコンウェーハ研磨用組成物であって, シリコンウェーハ研磨促進剤と, アミド基含有ポリマーAと, アミド基を含有しない有機化合物Bと, 水と を含み, 前記アミド基含有ポリマーAは,下記一般式(1): 【化1】 (式中,R1は水素原子,炭素原子数1〜6のアルキル基,アルケニル基,アルキニル基,アラルキル基,アルコキシ基,アルコキシアルキル基,アルキロール基,アセチル基,フェニル基,ベンジル基,クロロ基,ジフルオロメチル基,トリフルオロメチル基またはシアノ基である。Xは,(CH2)n(ただし,nは4〜6の整数である。),(CH2)2O(CH2)2または(CH2)2S(CH2)2である。);で表わされる単量体に由来する構成単位Sを主鎖に有しており, 前記アミド基含有ポリマーAの分子量MAと前記有機化合物Bの分子量MBとの関係が次式: 200≦MB<MA; を満たす,シリコンウェーハ研磨用組成物。 ・・・ 【請求項7】 前記砥粒はシリカ粒子である,請求項1から6のいずれか一項に記載のシリコンウェーハ研磨用組成物。」 「【発明が解決しようとする課題】 ・・・ 【0005】 そこで本発明は,研磨対象物表面のヘイズを低減する性能に優れ,かつ,凝集性(研磨用組成物に含まれる粒子が該組成物中で凝集する性質)が低減したシリコンウェーハ研磨用組成物を提供することを目的とする。」 「【発明を実施するための形態】 ・・・ 【0017】 上記アミド基含有ポリマーAはノニオン性であることが好ましい。換言すれば,アニオン性やカチオン性の構成単位を実質的に含まないポリマーが好ましい。ここで,アニオン性やカチオン性の構成単位を実質的に含まないとは,これらの構成単位のモル比が3%未満(例えば1%未満,好ましくは0.5%未満)であることをいう。ノニオン性のアミド基含有ポリマーを含む研磨用組成物を用いることによって,欠陥やヘイズの低減効果が好適に発揮される。その理由を明らかにする必要はないが,ノニオン性のアミド基含有ポリマーAは,研磨時に砥粒やシリコンウェーハに適度に吸着することによりヘイズ低減に寄与していると考えられ得る。また,上記適度な吸着は,洗浄工程における砥粒や研磨屑の残留を好適に抑制して欠陥低減に寄与していると考えられ得る。 ・・・ 【0058】 ここに開示される研磨用組成物は,シリコンウェーハの研磨に特に好ましく使用され得る。例えば,シリコンウェーハのファイナルポリシングまたはそれよりも上流のポリシング工程に用いられる研磨用組成物として好適である。例えば,上流の工程によって表面粗さ0.01nm〜100nmの表面状態に調製されたシリコンウェーハのポリシング(典型的にはファイナルポリシングまたはその直前のポリシング)への適用が効果的である。ファイナルポリシングへの適用が特に好ましい。 ・・・ 【0065】 研磨液のpHの下限値は特に限定されない。例えばpHは8.0以上であることが好ましく,さらに好ましくは9.0以上であり,もっとも好ましくは9.5以上である。研磨液のpHが8.0以上(さらに好ましくは9.0以上,もっとも好ましくは9.5以上)であれば,シリコンウェーハの研磨速度が向上し,効率よく表面精度の高いシリコンウェーハを得ることができる。また研磨液中粒子の分散安定性が向上する。研磨液のpHの上限値は特に制限されないが,12.0以下であることが好ましく,11.0以下であることがさらに好ましい。研磨液のpHが12.0以下(さらに好ましくは11.0以下)であれば,研磨液に含まれる砥粒(特にコロイダルシリカ,フュームドシリカ,沈降シリカ等のシリカ粒子)が塩基性化合物によって溶解することを防ぎ,砥粒による機械的な研磨作用の低下を抑制することができる。上記pHは,例えば上記塩基性化合物,上記その他の成分のうちの有機酸または無機酸によって調整され得る。上記pHは,シリコンウェーハの研磨に用いられる研磨液(例えばファイナルポリシング用の研磨液)に好ましく適用され得る。研磨液のpHは,pHメーター(例えば,堀場製作所製のガラス電極式水素イオン濃度指示計(型番F−23))を使用し,標準緩衝液(フタル酸塩pH緩衝液 pH:4.01(25℃),中性リン酸塩pH緩衝液 pH:6.86(25℃),炭酸塩pH緩衝液 pH:10.01(25℃))を用いて,3点校正した後で,ガラス電極を研磨液に入れて,2分以上経過して安定した後の値を測定する。 ・・・ 【0079】 <研磨用組成物の調製> (実施例1) 砥粒,水溶性ポリマー,有機化合物,アンモニア水(濃度29%)および脱イオン水を混合して,研磨用組成物の濃縮液を得た。この濃縮液を脱イオン水で20倍に希釈して,実施例1に係る研磨用組成物を調製した。 砥粒としては,平均一次粒子径35nmのコロイダルシリカを使用した。上記平均一次粒子径は,マイクロメリテックス社製の表面積測定装置,商品名「Flow Sorb II 2300」を用いて測定されたものである。 水溶性ポリマーとしては,Mwが33×104のポリアクリロイルモルホリン(以下「PACMO」と表記)を使用した。 有機化合物としては,Mwが9×103のPEO−PPO−PEO型のトリブロック共重合体(中心部がPPO,両端がPEO,以下「PEO−PPO−PEO」と表記する。)を使用した。上記PEO−PPO−PEOにおけるEO単位とPO単位のモル比は,EO:PO=85:15であった。 砥粒,水溶性ポリマー,有機化合物およびアンモニア水の使用量は,研磨用組成物中における砥粒の含有量が0.46%となり,水溶性ポリマーの含有量が0.010%となり,有機化合物の含有量が0.0025%となり,アンモニア(NH3)の含有量が0.010%となる量とした。 【0080】 (実施例2) 有機化合物として,Mwが378のポリオキシエチレン(エチレンオキサイド付加モル数5)デシルエーテル(以下,「C10PEO5」と表記)を使用し,組成物中に含まれるC10PEO5の含有量を0.0003%とした他は実施例1と同様にして,本例に係る研磨用組成物を調製した。 【0081】 (実施例3) 水溶性ポリマーとしてMwが17×104のPACMOを使用し,有機化合物としてMwが1.2×104のポリビニルアルコール(けん化度95モル%以上;以下,「PVA」と表記)を使用し,組成物中に含まれるPVAの含有量を0.0100%とした他は実施例1と同様にして,本例に係る研磨用組成物を調製した。 【0082】 (実施例4) 有機化合物として,実施例3と同じPVAと,実施例1と同じPEO−PPO−PEOとを使用し,組成物中に含まれるPVAの含有量を0.005%,PEO−PPO−PEOの含有量を0.0025%とした他は実施例1と同様にして,本例に係る研磨用組成物を調製した。 【0083】 (実施例5) 組成物中に含まれる砥粒の含有量を0.35%とした他は実施例1と同様にして,本例に係る研磨用組成物を調製した。 【0084】 (比較例1) 水溶性ポリマーとしてMwが17×104のPACMOを使用したことと,PEO−PPO−PEOを用いなかったこと以外は実施例1と同様にして,本例に係る研磨用組成物を調製した。 【0085】 (比較例2) PEO−PPO−PEOを用いなかったこと以外は実施例1と同様にして,本例に係る研磨用組成物を調製した。 ・・・ 【0088】 <シリコンウェーハの研磨> 各例に係る研磨用組成物をそのまま研磨液として使用して,シリコンウェーハの表面を下記の条件で研磨した。シリコンウェーハとしては,粗研磨を行い直径が300mm,伝導型がP型,結晶方位が<100>,抵抗率が0.1Ω・cm以上100Ω・cm未満であるものを,研磨スラリー(株式会社フジミインコーポレーテッド製,商品名「GLANZOX 2100」)を用いて予備研磨を行うことにより表面粗さ0.1nm〜10nmに調整して使用した。 【0089】 [研磨条件] 研磨機:株式会社岡本工作機械製作所製の枚葉研磨機,型式「PNX−332B」 研磨テーブル:上記研磨機の有する3テーブルのうち後段の2テーブルを用いて,予備研磨後のファイナル研磨1段目および2段目を実施した。 (以下の条件は各テーブル同一である。) 研磨荷重:15kPa 定盤回転数:30rpm ヘッド回転数:30rpm 研磨時間:2分 研磨液の温度:20℃ 研磨液の供給速度:2.0リットル/分(掛け流し使用) 【0090】 <洗浄> 研磨後のシリコンウェーハを,NH4OH(29%):H2O2(31%):脱イオン水(DIW)=1:3:30(体積比)の洗浄液を用いて洗浄した(SC−1洗浄)。より具体的には,周波数950kHzの超音波発振器を取り付けた洗浄槽を2つ用意し,それら第1および第2の洗浄槽の各々に上記洗浄液を収容して60℃に保持し,研磨後のシリコンウェーハを第1の洗浄槽に6分,その後超純水と超音波によるリンス槽を経て,第2の洗浄槽に6分,それぞれ上記超音波発振器を作動させた状態で浸漬した。 【0091】 <ヘイズ測定> 洗浄後のシリコンウェーハ表面につき,ケーエルエー・テンコール社製のウェーハ検査装置,商品名「Surfscan SP2」を用いて,DWOモードでヘイズ(ppm)を測定した。得られた結果を,比較例1のヘイズ値を100%とする相対値に換算して表1に示した。 【0092】 <凝集性評価> 研磨用組成物の凝集性を評価するため,該組成物の凝集率を測定した。ここで,本明細書における研磨用組成物の凝集率とは,研磨用組成物中の粒子の平均粒子径をR1,後述する対照組成物中の砥粒の平均粒子径をR2,としたときのR2に対するR1の比(すなわち,R1/R2)として定義される。上記凝集率が小さいほど,研磨用組成物の凝集性が低いことを示す。以下,研磨用組成物の凝集率の測定方法を具体的に説明する。 まず,研磨用組成物を測定サンプルとし,該組成物中の粒子の平均粒子径(体積平均粒子径)R1を日機装株式会社製の型式「UPA−UT151」を用いた動的光散乱法により測定した(測定装置は以下のR2の測定において同じ)。次に,上記研磨用組成物を作製するのに使用した砥粒,アンモニア水および脱イオン水を,該組成物における含有量と一致するように秤量して混合することにより,対照組成物を調製した。具体的には,水溶性ポリマーおよび有機化合物を使用しないこと以外は研磨用組成物の作製方法と同様にして上記対照組成物を調製した。得られた対照組成物を測定サンプルとし,該対照組成物中の砥粒の平均粒子径(体積平均粒子径)R2を動的光散乱法によって測定した。その結果,実施例1〜4および比較例1〜4の対照組成物中の砥粒の平均粒子径R2はいずれも57nmであり,実施例5の対照組成物中の砥粒の平均粒子径R2は42nmであった。得られたR1およびR2から,R1/R2を算出することにより,研磨用組成物の凝集率を求めた。各例に係る研磨用組成物のR1および凝集率の結果を表1に示す。 【0093】 【表1】 」 3 本件特許に係る出願の日前に公知となった甲第3号証(国際公開第2014/126051号)には,以下の事項が記載されている。 「発明を実施するための形態 ・・・ [0023] 砥粒の平均二次粒子径DP2(当該砥粒自体の体積平均二次粒子径を指す。)は,上記研磨用組成物中の粒子の粒子径分布が所定の条件を満たし得る値であればよく,特に制限されない。好ましい一態様において,平均二次粒子径DP2は10nm以上であり,より好ましくは20nm以上である。砥粒の平均二次粒子径DP2の増大によって,より高い研磨速度が実現され得る。より高い研磨効果を得る観点から,平均二次粒子径DP2は,30nm以上であることが好ましく,35nm以上であることがより好ましく,40nm以上(例えば40nm超)であることがさらに好ましい。また,微小欠陥の低減に適したサイズの粒子として研磨用組成物に存在しやすいという観点から,平均二次粒子径DP2は,60nm未満であることが適当であり,55nm以下であることが好ましく,50nm以下(例えば50nm未満)であることがより好ましい。 砥粒の平均二次粒子径DP2は,対象とする砥粒の水分散液(水溶性ポリマーを含有しない。)を測定サンプルとして,例えば,日機装株式会社製の型式「UPA−UT151」を用いた動的光散乱法により測定することができる。 ・・・ [0063] ここに開示される研磨用組成物は,シリコンウエハの研磨に特に好ましく使用され得る。例えば,シリコンウエハのファイナルポリシングまたはそれよりも上流のポリシング工程に用いられる研磨用組成物として好適である。例えば,上流の工程によって表面粗さ0.01nm〜100nmの表面状態に調製されたシリコンウエハのポリシング(典型的にはファイナルポリシングまたはその直前のポリシング)への適用が効果的である。ファイナルポリシングへの適用が特に好ましい。 ・・・ [0071] 研磨対象物に供給される研磨液(ワーキングスラリー)中における粒子のサイズは,例えば,この研磨液を測定サンプルに用いて動的光散乱法に基づく粒子径測定を行うことによって把握することができる。この粒子径測定は,例えば,日機装株式会社製の型式「UPA−UT151」を用いて行うことができる。本発明者らの検討によれば,上記粒子径測定により得られる体積平均粒子径DAが所定値以下(具体的には60nm以下)である研磨液を用いることにより,よりDAが大きい研磨液を用いた場合に比べて,微小欠陥の数(例えば,後述する実施例に記載の微小欠陥検査により検出される微小欠陥の数)を顕著に低減することができる。 [0072] 上記体積平均粒子径DAの下限は,微小欠陥数低減の観点からは特に制限されない。研磨効果(例えば,ヘイズの低減,欠陥の除去等の効果)等の観点からは,DAは20nm以上が適当であり,30nm以上が好ましい。微小欠陥の低減と研磨効果とをより高レベルで両立させる観点から,DAは35nm以上が好ましく,40nm以上がより好ましく,45nm以上がさらに好ましい。ここに開示される技術の好ましい一態様として,DAが50nm以上(典型的には50nm超)である態様が挙げられる。かかるDAを満たす研磨液によると,微小欠陥の低減とヘイズの低減とが特に高レベルで両立された研磨面が効率よく実現され得る。 [0073] この体積平均粒子径DAは,例えば砥粒の選択(サイズ(DP1,DP2等),形状,粒子径分布等),水溶性ポリマーの選択(組成,Mw,Mw/Mn,分子構造等),砥粒に対する水溶性ポリマーの使用量,界面活性剤の使用の有無および使用する場合における種類や量等の選択により,所望の数値範囲となるように調節することができる。後述する粒子の粒子径分布についても同様である。 [0074] DAの測定は,上述のように,実際に研磨対象物に供給される濃度の研磨用組成物を測定サンプルとして行うことができる。また,概して,各成分の比率を維持したままNVを0.05〜5質量%程度の範囲で異ならせてもDAの値はそれほど変動しないため,実用上は,例えば砥粒の含有量が0.2質量%となる濃度において測定されるDAの値(すなわち,上記濃度の研磨用組成物を測定サンプルに用いて得られるDAの値)を上記範囲とすることにより,この研磨用組成物を砥粒濃度0.2質量%の研磨液として研磨に用いる場合に限らず,該研磨用組成物を他の砥粒濃度(例えば,0.05〜5質量%程度の範囲であって0.2質量%とは異なる濃度)で用いる場合にも上述の効果を得ることができる。 ・・・ [0113] <研磨用組成物の調製> (実施例1) 砥粒としてのコロイダルシリカを20%の濃度で含み,塩基性化合物としてのアンモニア(NH3)を29%の濃度で含むアンモニア水を加えてpH9.0に調整したコロイダルシリカ分散液を用意した。上記コロイダルシリカの平均一次粒子径は23nmであり,平均二次粒子径は45nmであった。上記平均一次粒子径は,マイクロメリテックス社製の表面積測定装置,商品名「Flow Sorb II 2300」を用いて測定されたものであり,上記平均二次粒子径は,上記コロイダルシリカ分散液を測定サンプルとして,日機装株式会社製の型式「UPA−UT151」を用いて測定された体積平均二次粒子径である(以下の例において同じ。)。 上記コロイダルシリカ分散液にさらにアンモニア水を加えて,pH10.3の塩基性分散液を調製した。ヒドロキシエチルセルロース(Mw25×104;以下「HEC−A」と表記することがある。)を1.5%の濃度で含みアンモニアでpH9.0に調整したポリマー水溶液を用意し,このポリマー水溶液を上記塩基性分散液に添加して混合した。さらに超純水を加えて,砥粒濃度3.5%の研磨用組成物濃縮液を調製した。この濃縮液を,砥粒濃度が0.2%となるように超純水で希釈して,表1に示す組成の研磨液を調製した。水溶性ポリマーおよびアンモニア水の使用量は,研磨液中における水溶性ポリマーの含有量が0.010%,アンモニアの含有量が0.005%(砥粒100部に対してそれぞれ5部および2.5部)となるように調整した。得られた研磨液のpHは10.1であった。 [0114] このようにして得られた研磨液(砥粒濃度0.2%)を測定サンプルとして,日機装株式会社製の型式「UPA−UT151」により動的光散乱法に基づく粒子径測定を行った。その結果,上記測定サンプルに含まれる粒子の体積平均粒子径DAは56nmであった。表1には,研磨液の組成とともに,砥粒の平均一次粒子径DP1,砥粒の平均二次粒子径DP2および上記測定サンプルに含まれる粒子の体積平均粒子径DAの測定値を示している(以下の例において同じ。)。 [0115] (実施例2) 実施例1のポリマー水溶液に代えて,HEC−Aを1.5%の濃度で含みアンモニアでpH9.0に調整したポリマー水溶液と,界面活性剤の水溶液とを使用した。界面活性剤としてはPEO−PPO−PEOブロック共重合体(Mw9000)を使用し,その使用量は研磨液中の含有量が0.001%(砥粒100部に対して0.5部)となるように調整した。その他の点は実施例1と同様にして,表1に示す組成の研磨液を調製した。実施例1と同様にして測定した粒子の体積平均粒子径DAは57nmであった。 ・・・ [0124] (実施例6) 水溶性ポリマーとしてMwが7×104のポリアクリロイルモルホリン(以下「PACMO−1」と表記することがある。)を使用した他は実施例2と同様にして,表2に示す組成の研磨液を調製した。実施例1と同様にして測定した粒子の体積平均粒子径DAは48nmであった。 [0125] (実施例7) 水溶性ポリマーとしてMwが1.3×104のポリビニルアルコール(ビニルアルコール単位80モル%,ヘキサン酸ビニル単位20モル%;以下「PVA−2」と表記することがある。)を使用した他は実施例2と同様にして,表2に示す組成の研磨液を調製した。実施例1と同様にして測定した粒子の体積平均粒子径DAは46nmであった。 [0126] (実施例8) 水溶性ポリマーとしてMwが0.5×104のポリビニルアルコール(ビニルアルコール単位80モル%,ヘキサン酸ビニル単位20モル%;以下「PVA−3」と表記することがある。)を使用した他は実施例2と同様にして,表2に示す組成の研磨液を調製した。実施例1と同様にして測定した粒子の体積平均粒子径DAは46nmであった。 ・・・ [0130] <シリコンウエハの研磨> 各例に係る研磨液を用いて,シリコンウエハの表面を下記の条件で研磨した。シリコンウエハとしては,直径が300mm,伝導型がP型,結晶方位が<100>,抵抗率が0.1Ω・cm以上100Ω・cm未満であるものを,研磨スラリー(株式会社フジミインコーポレーテッド製,商品名「GLANZOX 2100」)を用いて予備研磨を行うことにより表面粗さ0.1nm〜10nmに調整して使用した。 [0131] [研磨条件] 研磨機:株式会社岡本工作機械製作所製の枚葉研磨機,型式「PNX−332B」 研磨テーブル:上記研磨機の有する3テーブルのうち後段の2テーブルを用いて,予備研磨後のファイナル研磨1段目および2段目を実施した。 (以下の条件は各テーブル同一である。) 研磨荷重:15kPa 定盤回転数:30rpm ヘッド回転数:30rpm 研磨時間:2分 研磨液の温度:20℃ 研磨液の供給速度:2.0リットル/分(掛け流し使用) ・・・ [0134] <ヘイズ測定> 洗浄後のシリコンウエハ表面につき,ケーエルエー・テンコール社製のウエハ検査装置,商品名「Surfscan SP2」を用いて,DWOモードでヘイズ(ppm)を測定した。その測定結果を以下の3段階で表1,表2に示した。 A:0.10ppm未満 B:0.10ppm以上0.12ppm未満 C:0.12ppm以上 [0135] [表1] [表2] 」 4 本件特許に係る出願の日前に公知となった甲第4号証(国際公開第2016/132676号)には,以下の事項が記載されている。 「発明を実施するための形態 ・・・ [0016] 本実施形態の研磨用組成物中に存在する粒子の平均粒子径は10nm以上であることが好ましく,より好ましくは20nm以上である。研磨用組成物中に存在する粒子の平均粒子径の増大によって,シリコンウェーハの研磨速度が向上する。また,研磨用組成物中に存在する粒子の平均粒子径は200nm以下であることが好ましく,より好ましくは100nm以下である。研磨用組成物中に存在する粒子の平均粒子径の低減によって,研磨用組成物の保管安定性が向上する。なお,粒子の平均粒子径の値は,動的光散乱法による粒度分布測定装置によって測定された体積平均粒子径であり,例えば日機装株式会社製の型式「UPA−UT151」を用いて測定することができる。 ・・・ [0024] 上記水溶性高分子の中でも,シリコンウェーハ基板の研磨面における濡れ性の向上,パーティクルの付着の抑制,及び表面粗さの低減等の観点から,セルロース誘導体,ポリビニルアルコール,ポリビニルピロリドン,ポリアクリロイルモルホリン,又はポリオキシアルキレン構造を有する重合体が好適である。セルロース誘導体の具体例としては,ヒドロキシエチルセルロース,ヒドロキシプロピルセルロース,ヒドロキシエチルメチルセルロース,ヒドロキシプロピルメチルセルロース,メチルセルロース,エチルセルロース,エチルヒドロキシエチルセルロース,カルボキシメチルセルロース等が挙げられる。セルロース誘導体の中でも,シリコンウェーハ基板の研磨面に濡れ性を与える能力が高く,良好な洗浄性を有する点から,ヒドロキシエチルセルロースが特に好ましい。また,水溶性高分子は,一種を単独で用いてもよく,二種以上を組み合わせて用いてもよい。・・・ [0035](pH) 研磨用組成物のpHは8.0以上であることが好ましく,より好ましくは8.5以上であり,更に好ましくは9.0以上である。研磨用組成物のpHの増大によって,シリコンウェーハ基板を研磨する際に高い研磨速度が得られる傾向となる。研磨用組成物のpHは11.0以下であることが好ましく,より好ましくは10.8以下であり,更に好ましくは10.5以下である。研磨用組成物のpHの減少によって,シリコンウェーハ基板の粗さを低減できる傾向となる。 ・・・ [0049] シリコンウェーハ表面の研磨は複数の段階に分けて行なわれることが好ましい。例えば,粗研磨の第1段階,精密研磨の第2段階,及び仕上げ研磨の第3段階という三段階でシリコンウェーハ表面は研磨されてもよい。本発明の研磨用組成物は,複数段階で研磨する際に,仕上げ研磨において使用されるものである。」 「実施例 [0050] 次に,実施例及び比較例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。 (PID欠陥評価試験) それぞれ表1に示される種類と含有量の砥粒,水溶性高分子(ヒドロキシエチルセルロース:HEC,ポリビニルピロリドン:PVP,ポリアクリロイルモルホリン:PACMO),キレート剤,塩基性化合物を含む研磨用組成物を使用して,直径300mmのシリコンウェーハを以下の条件により,研磨,これに続いて洗浄を行い,PID(欠陥)の評価を行った。なお,砥粒として,日機装株式会社製の型式「UPA−UT151」を用いて測定された体積平均粒子径が46nmのコロイダルシリカを用いた。 [0051] [表1] [0052] 研磨機として株式会社岡本工作機械製作所製の枚葉研磨機,型式「PNX−332B」を使用して,荷重を15kPaに設定した。定盤回転数を30rpm,ヘッド回転数を30rpm,組成物の供給速度を2.0リットル/分(掛け流し使用),研磨組成物の温度を20℃とし,120秒間研磨を行った。 研磨後のシリコンウェーハを,NH4OH(29%):H2O2(31%):脱イオン水(DIW)=1:3:30(体積比)の洗浄液を用いて洗浄した(SC−1洗浄)。その際,周波数950kHzの超音波発振器を取り付けた洗浄槽を2つ用意し,それら第1および第2の洗浄槽の各々に上記洗浄液を収容して60℃に保持し,表面処理後のシリコンウェーハを第1の洗浄槽に6分,その後超純水と超音波によるリンス槽を経て,第2の洗浄槽に6分,それぞれ上記超音波発振器を作動させた状態で浸漬した。」 「[請求項1] 砥粒,水溶性高分子,塩基性化合物,キレート剤及び水を含有する研磨用組成物であって, 前記研磨用組成物中に存在する粒子の粒度分布において,粒径が小さい側からの体積累積が10%に相当する粒径をD10とし,粒径が小さい側からの体積累積が50%に相当する粒径をD50とし,粒径が小さい側からの体積累積が90%に相当する粒径をD90とするときに,下記(式1)で定義される粗大粒子頻度パラメータAの値が1.7未満であり, シリコンウェーハ研磨における仕上げ研磨に使用されることを特徴とする研磨用組成物。 A=(D90−D50)/(D50−D10) (式1) ・・・ [請求項6] 請求項1〜5のいずれか一項に記載の研磨用組成物を使用して,シリコンウェーハの研磨における仕上げ研磨を行うことを特徴とするシリコンウェーハの研磨方法。」 第5 当審の判断 1 申立理由1(新規性)について (1)甲号証に記載された発明 ア 甲第1号証に記載された発明 甲第1号証の前記第4 1の記載(特に,実施例1〜5,7)によれば,甲第1号証には,以下の発明(以下,「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。 「アンモニア水を加えてpHを10.0に調整したコロイダルシリカ分散液(1次粒子径30〜50nm,シリカ固形分10%)10.0g,水溶性高分子の濃度が15質量%となるように水を加えて調整した半導体用濡れ剤を0.1g添加して得た,シリコンウェーハの仕上げ研磨用組成物であって, 前記水溶性高分子は,ポリビニルアルコールとn−プロピルビニルエーテルの共重合体,又は,ポリビニルアルコールとn−ブチルビニルエーテルの共重合体であり, 9ccスクリュー瓶に,コロイダルシリカ(1次粒子径:30〜50nm)5.0gに樹脂固形分20%の水溶性高分子水溶液を0.5g加えて,良く混合し,一晩静置後のシリカの粒子径(A)を動的光散乱法(ELSZ−1000,大塚電子製)により測定し,水溶性高分子を加えていないコロイダルシリカの粒子径(B)から算出した変化率(%)={(A−B)/B}×100が10%未満である, シリコンウェーハの仕上げ研磨用組成物。」 イ 甲第2号証に記載された発明 甲第2号証の前記第4 2の記載(特に,実施例1〜5)によれば,甲第2号証には,以下の発明(以下,「甲2発明」という。)が記載されていると認められる。 「砥粒,水溶性ポリマー,有機化合物,アンモニア水(濃度29%)および脱イオン水を混合して,研磨用組成物の濃縮液を得て,この濃縮液を脱イオン水で20倍に希釈して調製した,シリコンウェーハのファイナルポリシングに使用される研磨用組成物であって, 2−1)前記砥粒として平均一次粒子径35nmのコロイダルシリカを使用し,前記水溶性ポリマーとしてMwが33×104のポリアクリロイルモルホリンを使用し,前記有機化合物としてMwが9×103のPEO−PPO−PEO型のトリブロック共重合体(中心部がPPO,両端がPEO,以下「PEO−PPO−PEO」と表記する。)を使用し, 前記研磨用組成物中における前記砥粒の含有量が0.46%,前記水溶性ポリマーの含有量が0.010%,前記有機化合物の含有量が0.0025%,前記アンモニア(NH3)の含有量が0.010%であり,又は, 2−2)前記有機化合物としてMwが378のポリオキシエチレン(エチレンオキサイド付加モル数5)デシルエーテル(以下,「C10PEO5」と表記)を使用し,前記研磨組成物中に含まれるC10PEO5の含有量を0.0003%とした他は前記2−1)と同様であり,又は, 2−3)水溶性ポリマーとしてMwが17×104のPACMOを使用し,前記有機化合物としてMwが1.2×104のポリビニルアルコール(けん化度95モル%以上;以下,「PVA」と表記)を使用し,前記研磨組成物中に含まれるPVAの含有量を0.0100%とした他は前記2−1)と同様であり,又は, 2−4)前記有機化合物として,前記2−3)と同じPVAと,前記2−1)と同じPEO−PPO−PEOとを使用し,前記研磨組成物中に含まれるPVAの含有量を0.005%,PEO−PPO−PEOの含有量を0.0025%とした他は前記2−1と同様であり,又は, 2−5)前記研磨組成物中に含まれる前記砥粒の含有量を0.35%とした他は前記2−1)と同様であり, 日機装株式会社製の型式「UPA−UT151」を用いた動的光散乱法により前記研磨用組成物中の粒子の平均粒子径(体積平均粒子径)R1を測定し(測定装置は以下のR2の測定において同じ),水溶性ポリマーおよび有機化合物を使用しないこと以外は前記研磨用組成物の作製方法と同様にして調整した対照組成物中の砥粒の平均粒子径(体積平均粒子径)R2を動的光散乱法によって測定し,前記R2に対する前記R1の比(すなわち,R1/R2)である凝集率が,前記2−1)のとき1.02,前記2−2)のとき1.07,前記2−3)のとき1.00,前記2−4)のとき1.02,前記2−5)のとき1.05である, シリコンウェーハのファイナルポリシングに使用される研磨用組成物。」 ウ 甲第3号証に記載された発明 甲第3号証の前記第4 3の記載(特に,実施例6〜8)によれば,甲第3号証には,以下の発明(以下,「甲3発明」という。)が記載されていると認められる。 「砥粒としてのコロイダルシリカを20%の濃度で含み,塩基性化合物としてのアンモニア(NH3)を29%の濃度で含むアンモニア水を加えてpH9.0に調整したコロイダルシリカ分散液を用意し,前記コロイダルシリカ分散液にさらにアンモニア水を加えて,pH10.3の塩基性分散液を調製し, 水溶性ポリマーを含むポリマー水溶液と,界面活性剤の水溶液とを用意し,これら水溶液を上記塩基性分散液に添加して混合し,さらに超純水を加えて,砥粒濃度3.5%の研磨用組成物濃縮液を調製し,この濃縮液を,砥粒濃度が0.2%となるように超純水で希釈して調製した,シリコンウエハのファイナルポリシングに用いられる研磨液であって, 3−1)前記水溶性ポリマーとしてMwが7×104のポリアクリロイルモルホリンを使用し,又は, 3−2)前記水溶性ポリマーとしてMwが1.3×104のポリビニルアルコール(ビニルアルコール単位80モル%,ヘキサン酸ビニル単位20モル%)を使用し,又は, 3−3)水溶性ポリマーとしてMwが0.5×104のポリビニルアルコール(ビニルアルコール単位80モル%,ヘキサン酸ビニル単位20モル%)を使用し, 前記研磨液(砥粒濃度0.2%)を測定サンプルとして,日機装株式会社製の型式「UPA−UT151」により動的光散乱法に基づく粒子径測定を行った上記測定サンプルに含まれる粒子の体積平均粒子径DAと,対象とする砥粒の水分散液(水溶性ポリマーを含有しない。)を測定サンプルとして,日機装株式会社製の型式「UPA−UT151」を用いた動的光散乱法により測定した砥粒の平均二次粒子径DP2との比DA/DP2は,前記3−1)のとき1.04,前記3−2)のとき1.00,前記3−3)のとき1.00である, シリコンウエハのファイナルポリシングに用いられる研磨液。」 エ 甲第4号証に記載された発明 甲第4号証の前記第4 4の記載(特に,実施例7〜9)によれば,甲第4号証には,以下の発明(以下,「甲4発明」という。)が記載されていると認められる。 「砥粒,水溶性高分子,キレート剤,塩基性化合物を含む,シリコンウェーハ表面の仕上げ研磨において使用される研磨用組成物であって, 4−1)前記砥粒は体積平均粒子径が46nmのコロイダルシリカで濃度が0.09wt%,前記水溶性高分子は重量平均分子量が550000で濃度が0.004wt%のポリアクリロイルモルホリン及び重量平均分子量が13000で濃度が0.004wt%のポリビニルアルコール,前記塩基性化合物はアンモニアで濃度が0.006wt%であり,又は, 4−2)前記砥粒は体積平均粒子径49nmのコロイダルシリカで濃度が0.09wt%,前記水溶性高分子は重量平均分子量が550000で濃度0.004wt%のポリアクリロイルモルホリン及び重量平均分子量が13000で濃度が0.004wt%のポリビニルアルコール,前記塩基性化合物はアンモニアで濃度が0.006wt%であり,又は, 4−3)前記砥粒は体積平均粒子径46nmのコロイダルシリカで濃度が0.18wt%,前記水溶性高分子は重量平均分子量が350000で濃度が0.004wt%のポリアクリロイルモルホリン及び重量平均分子量が106000で濃度が0.005wt%のポリビニルアルコール,前記塩基性化合物はアンモニアで濃度が0.011wt%であり, 前記体積平均粒子径は,研磨用組成物中に存在する粒子を動的光散乱法による粒度分布測定装置によって測定したものであり, 動的光散乱法による粒度分布測定装置によって測定される前記砥粒の体積基準粒度に基づく前記研磨用組成物中に存在する粒子の粒度分布において,粒径が小さい側からの体積累積が50%に相当する粒径D50は,前記4−1)のとき49nm,前記4−2)のとき49nm,前記4−3)のとき46nmである, シリコンウェーハ表面の仕上げ研磨において使用される研磨組成物。」 (2)甲1発明を主引用発明とする新規性について ア 本件発明1について (ア)対比 本件発明1と甲1発明とを対比する。 a 甲1発明「1次粒子径30〜50nm」の「コロイダルシリカ」,「アンモニア」,「水溶性高分子」は,それぞれ,本件発明1の「シリカ粒子A」,「塩基性化合物B」,「水溶性高分子C」に相当する。 b 本件発明1の「前記研磨液組成物中に存在するシリカ粒子Aの平均粒径d」と,「前記研磨液組成物と同じ濃度でシリカ粒子A及び塩基性化合物Bを含有する水分散液中に存在するシリカ粒子Aの平均粒径d0」について,本件特許明細書の【0082】には,「研磨液組成物中での成分Aの平均粒径dは,成分Aの濃度が0.15質量%,成分Bの濃度が0.01質量%となるように研磨液組成物の濃縮液をイオン交換水で希釈して得た研磨液組成物をDisposable Sizing Cuvette(ポリスチレン製10mmセル)に下底からの高さ10mmまで入れ,動的光散乱法(装置名:「ゼータサイザーNanoZS」,シスメックス社製)を用いて測定した。 成分A及び成分Bの水分散液中での成分Aの平均粒径d0は,成分Aの濃度が0.15質量%,成分Bの濃度が0.01質量%となるように,成分Bの水溶液に成分Aを添加して得られた水分散液をDisposable Sizing Cuvette(ポリスチレン製10mmセル)に下底からの高さ10mmまで入れ,動的光散乱法(装置名:「ゼータサイザーNanoZS」,シスメックス社製)を用いて測定した。」と記載されているから,上記「平均粒径d」の測定対象は研磨液組成物であり,上記「平均粒径d0」の測定対象は,成分A(シリカ粒子A)及び成分B(塩基性化合物B)を含有する水分散液である。 一方,甲1発明の「粒子径(A)」の測定対象は,「コロイダルシリカ(1次粒子径:30〜50nm)5.0gに樹脂固形分20%の水溶性高分子水溶液を0.5g加えて,良く混合し,一晩静置後」の水溶液であって,研磨用組成物ではない。また,甲1発明の「粒子径(B)」の測定対象は,上記「粒子径(A)」の測定対象である水溶液に,「水溶性高分子を加えていない」液であり,当該液は,「コロイダルシリカ」及び「アンモニア」を含有する液であるとはいえない。 そうすると,甲1発明の「粒子径(A)」,「粒子径(B)」の測定対象は,それぞれ本件発明1の「平均粒子径d」,「平均粒子径d0」の測定対象とは,成分が異なるものであるから,その測定結果である,甲1発明の「粒子径(A)」,「粒子径(B)」と,本件発明1の「平均粒子径d」,「平均粒子径d0」とは,いずれも同じ値になるとはいえない。 したがって,甲1発明の「粒子径(A)」,「粒子径(B)」は,本件発明1の「平均粒子径d」,「平均粒子径d0」に相当しない。 c 甲1発明の「シリコンウェーハ」は,本件発明1の「シリコンウェーハ」に相当し,甲1発明の「シリコンウェーハの仕上げ研磨用組成物」は,本件発明1の「シリコンウェーハ用仕上げ研磨液組成物」に相当する。 d 以上から,本件発明1と甲1発明との一致点と相違点は以下のとおりとなる。 <一致点> 「シリカ粒子A,塩基性化合物B,及び水溶性高分子Cを含むシリコンウェーハ用仕上げ研磨液組成物である, シリコンウェーハ用仕上げ研磨液組成物。」 <相違点> 相違点1−1:本件発明1は,「前記研磨液組成物中に存在するシリカ粒子Aの平均粒径dと,前記研磨液組成物と同じ濃度でシリカ粒子A及び塩基性化合物Bを含有する水分散液中に存在するシリカ粒子Aの平均粒径d0との比d/d0が1.1以下であ」るのに対し,甲1発明は,そのような構成を備えていえるか不明である点。 相違点1−2:本件発明1は,「水溶性高分子Cのシリコンウェーハに対する吸着量が750ng/cm2以上である」のに対し,甲1発明は,そのような構成を備えているか不明である点。 (イ)判断 a 相違点1−1について 上記(ア)bで検討したとおり,甲1発明の「粒子径(A)」,「粒子径(B)」は,それぞれ,本件発明1の「平均粒子径d」,「平均粒子径d0」に相当しないから,甲1発明における「比d/d0」の値は不明である。 したがって,相違点1−1は,実質的な相違点である。 b 相違点1−2について 甲第1号証の[0039]には,「本発明における水溶性高分子は,ウェーハ表面等への吸着性に優れ,特に完全に酸化膜が除去された状態のウェーハ表面に対して高い吸着性を示す。」と記載されているものの,「水溶性高分子」の「シリコンウェーハ」に対する吸着量の具体的な数値は何ら記載されていない。 また,甲1発明の「水溶性高分子」である「ポリビニルアルコールとn−プロピルビニルエーテルの共重合体,又は,ポリビニルアルコールとn−ブチルビニルエーテルの共重合体」の「シリコンウェーハ」に対する吸着量は不明である。 したがって,相違点1−2は,実質的な相違点である。 c よって,本件発明1は,甲1発明ではない。 イ 本件発明2〜10について 本件発明2〜8は,いずれも本件発明1の全ての構成を有する発明であり,本件発明9は,請求項1から8のいずれかに記載のシリコンウェーハ用仕上げ研磨液組成物を用いる研磨方法の発明であり,本件発明10は,請求項1から8のいずれかに記載のシリコンウェーハ用仕上げ研磨液組成物を用いる半導体基板の発明であり,本件発明2〜10と甲1発明とは,少なくとも上記相違点1−1及び1−2の点で相違するから,上記ア(イ)で検討したのと同様に,本件発明2〜10は,甲1発明であるとはいえない。 (3)甲2発明を主引用発明とする新規性について ア 本件発明1について (ア)対比 本件発明1と甲2発明とを対比する。 a 甲2発明の「砥粒として」の「コロイダルシリカ」,「アンモニア」,「水溶性ポリマー」は,それぞれ,本件発明1の「シリカ粒子A」,「塩基性化合物B」,「水溶性高分子C」に相当する。 b 本件発明1の「前記研磨液組成物中に存在するシリカ粒子Aの平均粒径d」と,「前記研磨液組成物と同じ濃度でシリカ粒子A及び塩基性化合物Bを含有する水分散液中に存在するシリカ粒子Aの平均粒径d0」について,本件特許明細書の【0082】には,「研磨液組成物中での成分Aの平均粒径dは,成分Aの濃度が0.15質量%,成分Bの濃度が0.01質量%となるように研磨液組成物の濃縮液をイオン交換水で希釈して得た研磨液組成物をDisposable Sizing Cuvette(ポリスチレン製10mmセル)に下底からの高さ10mmまで入れ,動的光散乱法(装置名:「ゼータサイザーNanoZS」,シスメックス社製)を用いて測定した。 成分A及び成分Bの水分散液中での成分Aの平均粒径d0は,成分Aの濃度が0.15質量%,成分Bの濃度が0.01質量%となるように,成分Bの水溶液に成分Aを添加して得られた水分散液をDisposable Sizing Cuvette(ポリスチレン製10mmセル)に下底からの高さ10mmまで入れ,動的光散乱法(装置名:「ゼータサイザーNanoZS」,シスメックス社製)を用いて測定した。」と記載されているから,本件発明1の「平均粒径d」の測定対象は,成分Aの濃度が0.15質量%,成分Bの濃度が0.01質量%となるように研磨液組成物の濃縮液をイオン交換水で希釈して得た研磨液組成物であり,「平均粒径d0」の測定対象は,成分Aの濃度が0.15質量%,成分Bの濃度が0.01質量%となるように,成分Bの水溶液に成分Aを添加して得られた水分散液である。 一方,甲2発明の「平均粒子径(体積平均粒子径)R1」の測定対象は, 2−1’)「前記砥粒の含有量が0.46%,前記水溶性ポリマーの含有量が0.010%,前記有機化合物の含有量が0.0025%,前記アンモニア(NH3)の含有量が0.010%」である「研磨用組成物」,又は, 2−2’)上記2−1’)の有機化合物に含まれる「C10PEO5の含有量を0.0003%」とした「研磨用組成物」,又は, 2−3’)上記2−1’)の「有機化合物としてMwが1.2×104のポリビニルアルコール(けん化度95モル%以上;以下,「PVA」と表記)を使用し」,当該「PVAの含有量を0.0100%」とした「研磨用組成物」,又は 2−4’)有機化合物として,上記2−3’)と同じPVAと,上記1−1’)と同じPEO−PPO−PEOとを使用し,当該「PVAの含有量を0.005%,PEO−PPO−PEOの含有量を0.0025%」とした「研磨用組成物」,又は, 2−5’)前記2−1’)の「砥粒の含有量を0.35%」とした「研磨用組成物」である。 そうすると,甲2発明の「平均粒子径(体積平均粒子径)R1」と,本件発明1の「平均粒子径d」とは,測定対象が,「研磨液組成物」(研磨用組成物)である点で共通しているものの,両者の「砥粒として」の「コロイダルシリカ」(シリカ粒子A),「アンモニア」(塩基性化合物B),「水溶性ポリマー」(水溶性高分子C)の含有量はいずれも同じであるとはいえない。 したがって,甲2発明の「平均粒子径(体積平均粒子径)R1」の測定対象と,本件発明1の「平均粒子径d」の測定対象とは,成分含有量が異なるものであるから,その測定結果である,甲2発明の「平均粒子径(体積平均粒子径)R1」と,本件発明1の「平均粒子径d」とは,同じ値になるとはいえない。 また,甲2発明の「平均粒子径(体積平均粒子径)R2」の測定対象は,「水溶性ポリマーおよび有機化合物を使用しないこと以外」は,上記2−1’〜2−5’)の「研磨用組成物の作製方法と同様にして調整した対照組成物」である。 そうすると,甲2発明の「平均粒子径(体積平均粒子径)R2」と,本件発明1の「平均粒子径d0」とは,測定対象が,「水溶性ポリマー」(水溶性高分子C)を含んでいない点で共通しているものの,両者の「砥粒として」の「コロイダルシリカ」(シリカ粒子A),「アンモニア」(塩基性化合物B)の含有量はいずれも同じであるとはいえない。 したがって,甲2発明の「平均粒子径(体積平均粒子径)R2」の測定対象と,本件発明1の「平均粒子径d0」の測定対象とは,成分含有量が異なるものであるから,その測定結果である,甲2発明の「平均粒子径(体積平均粒子径)R2」と,本件発明1の「平均粒子径d0」とは,同じ値になるとはいえない。 よって,甲2発明の「平均粒子径(体積平均粒子径)R1」,「平均粒子径(体積平均粒子径)R2」は,それぞれ,本件発明1の「平均粒子径d」,「平均粒子径d0」に相当しない。 c 甲2発明の「シリコンウェーハのファイナルポリシングに使用される研磨用組成物」は,本件発明1の「シリコンウェーハ用仕上げ研磨液組成物」に対応する。 d 以上から,本件発明1と甲2発明との一致点と相違点は以下のとおりとなる。 <一致点> 「シリカ粒子A,塩基性化合物B,及び水溶性高分子Cを含むシリコンウェーハ用仕上げ研磨液組成物である, シリコンウェーハ用仕上げ研磨液組成物。」 <相違点> 相違点2−1:本件発明1は,「前記研磨液組成物中に存在するシリカ粒子Aの平均粒径dと,前記研磨液組成物と同じ濃度でシリカ粒子A及び塩基性化合物Bを含有する水分散液中に存在するシリカ粒子Aの平均粒径d0との比d/d0が1.1以下であ」るのに対し,甲2発明は,そのような構成を備えていえるか不明である点。 相違点2−2:本件発明1は,「水溶性高分子Cのシリコンウェーハに対する吸着量が750ng/cm2以上である」のに対し,甲2発明は,そのような構成を備えているか不明である点。 (イ)判断 a 相違点2−1について 上記(ア)bで検討したとおり,甲2発明の「平均粒子径(体積平均粒子径)R1」,「平均粒子径(体積平均粒子径)R2」は,それぞれ,本件発明1の「平均粒子径d」,「平均粒子径d0」に相当しないから,甲2発明における「比d/d0」の値は不明である。 したがって,相違点2−1は,実質的な相違点である。 b 相違点2−2について 甲第2号証には,「水溶性ポリマー」の「シリコンウエハ」に対する吸着量の具体的な数値は何ら記載されていない。 また,甲2発明の「水溶性ポリマー」である「Mwが33×104のポリアクリロイルモルホリン」,「Mwが17×104のPACMO」の「シリコンウェーハ」に対する吸着量は不明である。 したがって,相違点2−2は,実質的な相違点である。 c よって,本件発明1は,甲2発明ではない。 イ 本件発明2〜10について 本件発明2〜8は,いずれも本件発明1の全ての構成を有する発明であり,本件発明9は,請求項1から8のいずれかに記載のシリコンウェーハ用仕上げ研磨液組成物を用いる研磨方法の発明であり,本件発明10は,請求項1から8のいずれかに記載のシリコンウェーハ用仕上げ研磨液組成物を用いる半導体基板の発明であり,本件発明2〜10と甲2発明とは,少なくとも上記相違点2−1及び2−2の点で相違するから,上記ア(イ)で検討したのと同様に,本件発明2〜10は,甲2発明であるとはいえない。 (4)甲3発明を主引用発明とする新規性について ア 本件発明1について (ア)対比 本件発明1と甲3発明とを対比する。 a 甲3発明の「砥粒としてのコロイダルシリカ」,「塩基性化合物としてのアンモニア」,「水溶性ポリマー」は,それぞれ,本件発明1の「シリカ粒子A」,「塩基性化合物B」,「水溶性高分子C」に相当する。 b 上記(3)ア(ア)bで検討したとおり,本件発明1の「平均粒径d」の測定対象は,成分Aの濃度が0.15質量%,成分Bの濃度が0.01質量%となるように研磨液組成物の濃縮液をイオン交換水で希釈して得た研磨液組成物であり,「平均粒径d0」の測定対象は,成分Aの濃度が0.15質量%,成分Bの濃度が0.01質量%となるように,成分Bの水溶液に成分Aを添加して得られた水分散液である。 一方,甲3発明の「粒子の体積平均粒子径DA」の測定対象は,「水溶性ポリマーを含むポリマー水溶液と,界面活性剤の水溶液とを用意し,これら水溶液」を「砥粒としてのコロイダルシリカを20%の濃度で含み,塩基性化合物としてのアンモニア(NH3)を29%の濃度で含むアンモニア水を加えてpH9.0に調整したコロイダルシリカ分散液」に「添加して混合し,さらに超純水を加えて,砥粒濃度3.5%の研磨用組成物濃縮液を調製し,この濃縮液を,砥粒濃度が0.2%となるように超純水で希釈して調製した」「研磨液(砥粒濃度0.2%)」である。 そうすると,甲3発明の「粒子の体積平均粒子径DA」と,本件発明1の「平均粒子径d」とは,測定対象が,「研磨液」(研磨用組成物)である点で共通しているものの,両者の「砥粒としてのコロイダルシリカ」(シリカ粒子A),「塩基性化合物としてのアンモニア」(塩基性化合物B),「水溶性ポリマー」(水溶性高分子C)の含有量はいずれも同じであるとはいえない。 したがって,甲3発明の「粒子の体積平均粒子径DA」の測定対象と,本件発明1の「平均粒子径d」の測定対象とは,成分含有量が異なるものであるから,その測定結果である,甲3発明の「粒子の体積平均粒子径DA」と,本件発明1の「平均粒子径d」とは,同じ値になるとはいえない。 また,甲3発明の「砥粒の平均二次粒子径DP2」の測定対象は,「対象とする砥粒の水分散液(水溶性ポリマーを含有しない。)」ものである。 そうすると,甲3発明の「砥粒の平均二次粒子径DP2」と,本件発明1の「平均粒子径d0」とは,測定対象が,「水溶性ポリマー」(水溶性高分子C)を含んでいない点で共通しているものの,両者の「砥粒としてのコロイダルシリカ」(シリカ粒子A),「塩基性化合物としてのアンモニア」(塩基性化合物B)の含有量はいずれも同じであるとはいえない。 したがって,甲3発明の「砥粒の平均二次粒子径DP2」の測定対象と,本件発明1の「平均粒子径d0」の測定対象とは,成分含有量が異なるものであるから,その測定結果である,甲3発明の「砥粒の平均二次粒子径DP2」と,本件発明1の「平均粒子径d0」とは,同じ値になるとはいえない。 よって,甲3発明の「粒子の体積平均粒子径DA」,「砥粒の平均二次粒子径DP2」は,それぞれ,本件発明1の「平均粒子径d」,「平均粒子径d0」に相当しない。 c 甲3発明の「シリコンウエハのファイナルポリシングに用いられる研磨液」は,本件発明1の「シリコンウェーハ用仕上げ研磨液組成物」に対応する。 d 以上から,本件発明1と甲3発明との一致点と相違点は以下のとおりとなる。 <一致点> 「シリカ粒子A,塩基性化合物B,及び水溶性高分子Cを含むシリコンウェーハ用仕上げ研磨液組成物であって, シリコンウェーハ用仕上げ研磨液組成物。」 <相違点> 相違点3−1:本件発明1は,「前記研磨液組成物中に存在するシリカ粒子Aの平均粒径dと,前記研磨液組成物と同じ濃度でシリカ粒子A及び塩基性化合物Bを含有する水分散液中に存在するシリカ粒子Aの平均粒径d0との比d/d0が1.1以下であ」るのに対し,甲3発明は,そのような構成を備えていえるか不明である点。 相違点3−2:本件発明1は,「水溶性高分子Cのシリコンウェーハに対する吸着量が750ng/cm2以上である」のに対し,甲3発明は,そのような構成を備えているか不明である点。 (イ)判断 a 相違点3−1について 上記(ア)bで検討したとおり,甲3発明の「粒子の体積平均粒子径DA」,「砥粒の平均二次粒子径DP2」は,それぞれ,本件発明1の「平均粒子径d」,「平均粒子径d0」に相当しないから,甲3発明における「比d/d0」の値は不明である。 したがって,相違点3−1は,実質的な相違点である。 b 相違点3−2について 甲第3号証には,「水溶性ポリマー」の「シリコンウエハ」に対する吸着量の具体的な数値は何ら記載されていない。 また,甲3発明の「水溶性高分子」である「Mwが7×104のポリアクリロイルモルホリン」,「Mwが1.3×104のポリビニルアルコール」,「Mwが0.5×104のポリビニルアルコール」の「シリコンウエハ」に対する吸着量は不明である。 したがって,相違点3−2は,実質的な相違点である。 c よって,本件発明1は,甲3発明ではない。 イ 本件発明2〜10について 本件発明2〜8は,いずれも本件発明1の全ての構成を有する発明であり,本件発明9は,請求項1から8のいずれかに記載のシリコンウェーハ用仕上げ研磨液組成物を用いる研磨方法の発明であり,本件発明10は,請求項1から8のいずれかに記載のシリコンウェーハ用仕上げ研磨液組成物を用いる半導体基板の発明であり,本件発明2〜10と甲3発明とは,少なくとも上記相違点3−1及び3−2の点で相違するから,上記ア(イ)で検討したのと同様に,本件発明2〜10は,甲3発明であるとはいえない。 (5)甲4発明を主引用発明とする新規性について ア 本件発明1について (ア)対比 本件発明1と甲4発明とを対比する。 a 甲4発明の「砥粒」である「体積平均粒子径46nm」の「コロイダルシリカ」,「塩基性化合物」である「アンモニア」,「水溶性高分子(ヒドロキシエチルセルロース:HEC,ポリビニルピロリドン:PVP,ポリアクリロイルモルホリン:PACMO)」は,それぞれ,本件発明1の「シリカ粒子A」,「塩基性化合物B」,「水溶性高分子C」に相当する。 b 上記(3)ア(ア)bで検討したとおり,本件発明1の「平均粒径d」の測定対象は,成分Aの濃度が0.15質量%,成分Bの濃度が0.01質量%となるように研磨液組成物の濃縮液をイオン交換水で希釈して得た研磨液組成物であり,「平均粒径d0」の測定対象は,成分Aの濃度が0.15質量%,成分Bの濃度が0.01質量%となるように,成分Bの水溶液に成分Aを添加して得られた水分散液である。 一方,甲4発明の「砥粒」の「体積平均粒子径」の測定対象は,「研磨用組成物」であり,その中の含まれる成分のそれぞれの含有量は,「4−1)前記砥粒は体積平均粒子径46nmのコロイダルシリカで濃度が0.09wt%,前記水溶性高分子は重量平均分子量が550000で濃度が0.004wt%のPACMO及び重量平均分子量が13000で濃度が0.004wt%のPVA,前記塩基性化合物はアンモニアで濃度が0.006wt%であり,又は, 4−2)前記砥粒は体積平均粒子径46nmのコロイダルシリカで濃度が0.09wt%,前記水溶性高分子は重量平均分子量が550000で濃度0.004wt%のPACMO及び重量平均分子量が13000で濃度が0.004wt%のPVA,前記塩基性化合物はアンモニアで濃度が0.006wt%であり,又は, 4−3)前記砥粒は体積平均粒子径46nmのコロイダルシリカで濃度が0.18wt%,前記水溶性高分子は重量平均分子量が350000で濃度が0.004wt%のPACMO及び重量平均分子量が106000で濃度が0.005wt%のPVA,前記塩基性化合物はアンモニアで濃度が0.011wt%であ」る。 そうすると,甲4発明の「体積平均粒子径」と,本件発明の1の「平均粒子径d」とは,測定対象が,「研磨液組成物」(研磨用組成物)である点で共通しているものの,両者の「砥粒として」の「コロイダルシリカ」(シリカ粒子A),「塩基性化合物」である「アンモニア」(塩基性化合物B),「水溶性高分子(ヒドロキシエチルセルロース:HEC,ポリビニルピロリドン:PVP,ポリアクリロイルモルホリン:PACMO)」(水溶性高分子C)の含有量はいずれも同じであるとはいえない。 したがって,甲4発明の「体積平均粒子径」の測定対象と,本件発明1の「平均粒子径d」の測定対象とは,成分含有量が異なるものであるから,その測定結果である,甲4発明の「砥粒」の「体積平均粒子径」と,本件発明1の「平均粒子径d」とは,同じ値になるとはいえない。 また,甲4発明の「粒径D50」は,「動的光散乱法による粒度分布測定装置によって測定される前記砥粒の体積基準粒度に基づく前記研磨用組成物中に存在する粒子の粒度分布において,粒径が小さい側からの体積累積が50%に相当する」ものである。 そうすると,甲4発明の「粒径D50」と,本件発明1の「平均粒子径d0」とは,測定方法が異なるものであって,両者は同じ値になるとはいえない。 したがって,甲4発明の「粒径D50」は,本件発明1の「平均粒子径d0」に相当しない。 c 甲4発明の「シリコンウェーハ表面の仕上げ研磨において使用される研磨組成物」は,本件発明1の「シリコンウェーハ用仕上げ研磨液組成物」に対応する。 d 以上から,本件発明1と甲4発明との一致点と相違点は以下のとおりとなる。 <一致点> 「シリカ粒子A,塩基性化合物B,及び水溶性高分子Cを含むシリコンウェーハ用仕上げ研磨液組成物であって, シリコンウェーハ用仕上げ研磨液組成物。」 <相違点> 相違点4−1:本件発明1は,「前記研磨液組成物中に存在するシリカ粒子Aの平均粒径dと,前記研磨液組成物と同じ濃度でシリカ粒子A及び塩基性化合物Bを含有する水分散液中に存在するシリカ粒子Aの平均粒径d0との比d/d0が1.1以下であ」るのに対し,甲4発明は,そのような構成を備えていえるか不明である点。 相違点4−2:本件発明1は,「水溶性高分子Cのシリコンウェーハに対する吸着量が750ng/cm2以上である」のに対し,甲4発明は,そのような構成を備えているか不明である点。 (イ)判断 a 相違点4−1について 上記(ア)bで検討したとおり,甲4発明の「体積平均粒子径」,「粒径D50」は,それぞれ,本件発明1の「平均粒子径d」,「平均粒子径d0」に相当しないから,甲4発明の「比d/d0」の値は不明である。 したがって,相違点4−1は,実質的な相違点である。 b 相違点4−2について 甲第4号証には,「水溶性高分子」の「シリコンウェーハ」に対する吸着量の具体的な数値は何ら記載されていない。 また,甲4発明の「水溶性高分子」である「ポリアクリロイルモルホリン」,「ポリビニルアルコール」の「シリコンウェーハ」に対する吸着量は不明である。 したがって,相違点4−2は,実質的な相違点である。 c よって,本件発明1は,甲4発明ではない。 イ 本件発明2〜10について 本件発明2〜8は,いずれも本件発明1の全ての構成を有する発明であり,本件発明9は,請求項1から8のいずれかに記載のシリコンウェーハ用仕上げ研磨液組成物を用いる研磨方法の発明であり,本件発明10は,請求項1から8のいずれかに記載のシリコンウェーハ用仕上げ研磨液組成物を用いる半導体基板の発明であり,本件発明2〜10と甲4発明とは,少なくとも上記相違点4−1及び4−2の点で相違するから,上記ア(イ)で検討したのと同様に,本件発明2〜10は,甲4発明であるとはいえない。 (6)小括 以上のとおり,本件発明1〜10は,甲第1号証〜甲第4号証のいずれかに記載された発明ではなく,特許法第29条第1項第3号に該当しないから,請求項1〜10に係る特許は,特許法第29条第1項の規定に違反してされたものとはいえず,申立理由1には理由がない。 2 申立理由2(進歩性)について (1)本件発明1について 上記相違点1−1〜相違点4−1は同じ事項であり,また,上記相違点1−2〜相違点4−2は同じ事項であるから,それぞれ,まとめて検討する。 ア 相違点1−1〜相違点4−1について 相違点1−1〜相違点4−1に係る本件発明1の構成である「比d/d0」を「1.1以下」とすることは,甲第1〜4号証のいずれにも記載されていないし,本件特許の出願時において周知技術であったともいえない。 したがって,相違点1−1〜相違点4−1に係る本件発明1の構成は,甲1発明〜甲4発明に基づいて,当業者が容易に想到し得たものとはいえない。 イ 相違点1−2〜4−2について 相違点1−2〜相違点4−2に係る本件発明1の構成である「水溶性高分子Cのシリコンウェーハに対する吸着量」を「750ng/cm2以上」とすることは,甲第1〜4号証のいずれにも記載されていないし,本件特許の出願時において周知技術であったともいえない。 したがって,相違点1−2〜相違点4−2に係る本件発明1の構成は,甲1発明〜甲4発明に基づいて,当業者が容易に想到し得たものとはいえない。 ウ 小括 よって,本件発明1は,甲1発明〜甲4発明に基づいて,当業者が容易に発明できたものではない。 (2)本件発明2〜10について 本件発明2〜8は,本件発明1を減縮した発明であり,本件発明9は,請求項1から8のいずれかに記載のシリコンウェーハ用仕上げ研磨液組成物を用いる研磨方法の発明であり,本件発明10は,請求項1から8のいずれかに記載のシリコンウェーハ用仕上げ研磨液組成物を用いる半導体基板の発明であり,いずれも本件発明1の全ての構成を有する発明であるから,上記(1)で検討したのと同様に,甲1発明〜甲4発明に基づいて,当業者が容易に発明できたものではない。 (3)小括 以上のとおり,本件発明1〜10は,甲第1号証〜甲第4号証に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものではないから,請求項1〜10に係る特許は,特許法第29条第2項の規定に違反してされたものとはいえず,申立理由2には理由がない。 3 申立理由3(サポート要件)について (1)本件特許に係る出願の願書に添付した明細書(以下,「本件明細書」という。)の発明の詳細な説明の記載 本件明細書の発明の詳細な説明(以下,単に「発明の詳細な説明」という。)には以下の記載がある。 「【技術分野】 【0001】 本発明は,シリコンウェーハ用仕上げ研磨液組成物,これを用いた研磨方法,並びに半導体基板の製造方法に関する。」 「【発明が解決しようとする課題】 【0006】 しかし,従来の研磨液組成物を用いた仕上げ研磨では,研磨されたシリコンウェーハ表面の更なるヘイズの低減が望まれていた。 【0007】 そこで,本発明は,研磨されたシリコンウェーハ表面のヘイズを低減できるシリコンウェーハ用仕上げ研磨液組成物,及びこれを用いた研磨方法,並びに半導体基板の製造方法を提供する。」 「【発明を実施するための形態】 【0012】 本発明は,シリカ粒子A(以下,「成分A」ともいう),塩基性化合物B(以下,「成分B」ともいう),及び所定の水溶性高分子C(以下,「成分C」ともいう)を含む研磨液組成物をシリコンウェーハの仕上げ研磨に用いることにより,ヘイズを低減できるという知見に基づく。 【0013】 すなわち,本発明は,一態様において,シリカ粒子A,塩基性化合物B,及び水溶性高分子Cを含むシリコンウェーハ用仕上げ研磨液組成物であって,水溶性高分子Cのシリコンウェーハに対する吸着量が750ng/cm2以上である,シリコンウェーハ用仕上げ研磨液組成物に関する。さらに,本発明は,その他の態様において,シリカ粒子A,塩基性化合物B,及び水溶性高分子Cを含むシリコンウェーハ用仕上げ研磨液組成物であって,水溶性高分子Cがポリビニルアルキルエーテルである,シリコンウェーハ用仕上げ研磨液組成物に関する。以下の説明において,これらシリコンウェーハ用仕上げ研磨液組成物をまとめて「本発明の研磨液組成物」ともいう。 【0014】 本発明の効果発現機構の詳細は明らかではないが,以下のように推察される。 本発明では,水溶性高分子Cは,シリカ粒子への吸着が抑制される一方で,被研磨シリコンウェーハに吸着する。これにより,ヘイズの悪化の原因となるシリカ粒子Aが直接被研磨シリコンウェーハに接触することが抑制され,且つ,ヘイズの悪化の原因となる塩基性化合物Bによるウェーハ表面の腐食が抑制され,エッチング速度が抑制されると考えられる。故に,水溶性高分子Cは,研磨されたシリコンウェーハの洗浄工程におけるパーティクル(シリカ粒子や研磨くず)の脱離性向上,エッチング速度の低減,及びヘイズの低減にも寄与すると考えられる。 ただし,本発明はこれらのメカニズムに限定して解釈されなくてもよい。 ・・・ 【0016】 [シリカ粒子A(成分A)] 本発明の研磨液組成物には,研磨材としてシリカ粒子A(成分A)が含まれる。成分Aの具体例としては,コロイダルシリカ,フュームドシリカ等が挙げられ,ヘイズ低減の観点から,コロイダルシリカが好ましい。 ・・・ 【0026】 研磨液組成物中に存在する成分Aの平均粒径d(以下,「研磨液組成物中での成分Aの平均粒径d」ともいう)と,研磨液組成物と同じ濃度で成分A及び成分Bを含有する水分散液中に存在する成分Aの平均粒径d0(以下,「成分A及び成分Bの水分散液中での成分Aの平均粒径d0」ともいう)との比d/d0は,ヘイズ低減の観点から,1.1以下が好ましく,1.09以下がより好ましく,1.02以下が更に好ましく,そして,1.00以上が好ましい。本発明において,比d/d0は,分散度合いを意味する。比d/d0の値が1に近いほど,分散の度合いがよいことを示す。平均粒径d及びd0はそれぞれ,動的光散乱法により測定される値であり,具体的には,実施例に記載の方法により測定できる。 【0027】 研磨液組成物中の成分Aのゼータ電位は,ヘイズ低減の観点から,−30mV以下が好ましく,−35mV以下がより好ましく,−40mV以下が更に好ましく,そして,研磨速度の観点から,−100mV以上が好ましく,−80mV以上が好ましく,−60mV以上が更に好ましい。 ・・・ 【0030】 [塩基性化合物B(成分B)] 本発明の研磨液組成物は,保存安定性の向上,研磨速度の確保及びヘイズ低減の観点から,塩基性化合物B(成分B)を含む。そして,同様の観点から,成分Bは,水溶性であることが好ましく,すなわち水溶性の塩基性化合物であることが好ましい。本発明において,「水溶性」とは,水(20℃)に対して0.5g/100mL以上の溶解度,好ましくは2g/100mL以上の溶解度を有することをいい,「水溶性の塩基性化合物」とは,水に溶解したとき,塩基性を示す化合物をいう。 ・・・ 【0034】 [水溶性高分子C(成分C)] 本発明の研磨液組成物は,ヘイズ低減,保存安定性の向上及び研磨速度の確保の観点から,水溶性高分子C(成分C)を含有する。本発明において,成分Cの「水溶性」とは,水(20℃)に対して0.5g/100mL以上の溶解度,好ましくは2g/100mL以上の溶解度を有することをいう。成分Cは,天然物を原料とする水溶性高分子であってもよいし,天然物を原料としない合成系の水溶性高分子であってもよい。天然物を原料とする水溶性高分子としては,例えば,従来から使用されているHECが挙げられる。通常,HECは天然物のセルロースを原料とするものであり,セルロール由来の水不溶物が含まれるため,HECを含有する研磨液組成物では,表面欠陥や表面粗さ等の低減効果が十分ではない。また,エッチング速度の低減効果も十分ではない。よって,成分Cは,品質安定性及びエッチング速度の抑制の観点から,合成系の水溶性高分子が好ましい。 【0035】 成分Cの一実施形態としては,エッチング速度の抑制及びヘイズ低減の観点から,例えば,シリコンウェーハに対する吸着量が750ng/cm2以上の水溶性高分子が挙げられる。成分Cのその他の実施形態としては,エッチング速度の抑制及びヘイズ低減の観点から,例えば,ポリビニルアルキルエーテルが挙げられ,具体的には,下記式(1)で表される構成単位aを含む水溶性高分子が挙げられる。シリコンウェーハに対する吸着量については後述する。成分Cは,1種又は2種以上組み合わせて用いることができる。 ・・・ 【0044】 本発明の研磨液組成物に含まれる成分Cの含有量に対する成分Aの含有量の比A/Cは,エッチング速度の抑制及びヘイズ低減の観点から,0.1以上が好ましく,0.5以上がより好ましく,1.0以上が更に好ましく,3.0以上が更により好ましく,5.0以上が更により好ましく,そして,同様の観点から,250以下が好ましく,200以下がより好ましく,170以下が更に好ましく,150以下が更により好ましく,50以下が更により好ましく,30以下が更により好ましい。 【0045】 本発明の研磨液組成物における成分Cの成分Aへの吸着量は,エッチング速度の抑制及びヘイズ低減の観点から,3質量%以下が好ましく,2質量%以下がより好ましく,1質量%以下が更に好ましく,1質量%未満が更により好ましく,0.5質量%未満が更により好ましい。本発明において,成分Cの成分Aへの吸着量は,全有機体炭素(Total Organic Carbon;以下,「TOC」ともいう)法により算出でき,具体的には実施例に記載の方法により測定できる。 ここで,成分Cの成分Aへの吸着量の測定方法の一例を示す。 研磨液組成物を遠心分離処理して成分Aを含む沈殿物と上澄み液に分離し,全有機体炭素計を用いて上澄み液の全有機体炭素量(以下,「TOC値」ともいう)を測定する。また,研磨液組成物と同じ濃度で成分Cを含有する水溶液のTOC値を測定する。そして,これらTOC値の差を,シリカへ吸着した成分Cの吸着量として算出する。 【0046】 本発明の研磨液組成物における成分Cのシリコンウェーハに対する吸着量は,エッチング速度の抑制及びヘイズ低減の観点から,750ng/cm2以上が好ましく,800ng/cm2以上がより好ましく,850ng/cm2以上が更に好ましく,900ng/cm2以上が更に好ましく,そして,研磨速度の観点から,2000ng/cm2以下が好ましく,1500ng/cm2以下がより好ましく,1200ng/cm2以下が更に好ましい。成分Cのシリコンウェーハに対する吸着量は,例えば,水晶振動子マイクロバランス(quartz crystal microbalance with dissipation,QCM-D)法により水晶振動子センサーを用いて測定でき,具体的には,実施例に記載の方法により測定できる。水晶振動子センサーとは,一般的に,水晶振動子(測定基板)の両面にそれぞれ形成された電極に電圧を印加して発振させ,その振動数と波長を測定するセンサーである。 ここで,成分Cのシリコンウェーハに対する吸着量の測定方法の一例を示す。 成分Cの水溶液を水晶振動子センサーに接触させ,水晶振動子センサーの共振周波数を測定する。水晶振動子センサーとしては,水晶振動子の表面がシリコン系材料(例えば,ポリシリコン,単結晶シリコン等)でコーティングされているセンサー(例えば,polysiliconセンサー,siliconセンサー等)が挙げられる。そして,センサー表面への成分Cの吸着により生じる水晶振動子センサーの振動数変化量及び減衰定数変化量を用いて,Sauerbreyの式又はKelvin-Voightの式によってセンサー表面の質量変化量を算出する。この質量変化量を,成分Cのシリコンウェーハに対する吸着量として求めることができる。 ・・・ 【0050】 本発明の研磨液組成物の25℃におけるpHは,研磨速度の確保の観点から,9.0以上が好ましく,9.5以上がより好ましく,10.0以上が更に好ましく,そして,同様の観点から,12.0以下が好ましく,11.5以下がより好ましく,11.0以下が更に好ましい。pHの調整は,成分B及び後述するpH調整剤から選ばれる1種以上を適宜添加して行うことができる。ここで,25℃におけるpHは,pHメータ(東亜電波工業株式会社,HM−30G)を用いて測定でき,pHメータの電極を研磨液組成物へ浸漬して1分後の数値とすることができる。 【0051】 本発明の研磨液組成物は,シリコンウェーハの腐食抑制及びヘイズ低減の観点から,シリコンウェーハのエッチング速度が,30nm/h未満が好ましく,10nm/h以下がより好ましく,5nm/h以下が更に好ましい。 ・・・ 【0064】[半導体基板の製造方法及び研磨方法] 本発明の研磨液組成物は,例えば,半導体基板の製造方法における,被研磨シリコンウェーハを研磨する研磨工程や,被研磨シリコンウェーハを研磨する研磨工程を含む研磨方法に用いられうる。本発明の研磨液組成物の研磨対象である被研磨シリコンウェーハとしては,例えば,単結晶100面シリコンウェーハ,111面シリコンウェーハ,110面シリコンウェーハ等が挙げられ,ヘイズ低減の観点から,単結晶100面シリコンウェーハが好ましい。また,前記シリコンウェーハの抵抗率としては,ヘイズ低減の観点から,好ましくは0.0001Ω・cm以上,より好ましくは0.001Ω・cm以上,更に好ましくは0.01Ω・cm以上,更により好ましくは0.1Ω・cm以上であり,そして,好ましくは100Ω・cm以下,より好ましくは50Ω・cm以下,更に好ましくは20Ω・cm以下である。」 「【実施例】 【0074】 以下,実施例により本発明をさらに詳細に説明するが,これらは例示的なものであって,本発明はこれら実施例に制限されるものではない。 【0075】 1.水溶性高分子C(成分C)の合成又はその詳細 (1)実施例1〜3,比較例2及び参考例1の成分C 実施例1〜3の成分Cには,ポリビニルメチルエーテル(PVME,重量平均分子量:80,000,東京化成工業社製)を用いた。比較例2の成分Cには,ポリビニルピロリドン(PVP,重量平均分子量:36万,東京化成工業社製,「K−60」)を用いた。 参考例1の成分Cには,ヒドロキシエチルセルロース(HEC,重量平均分子量:24万,ダイセルファインケム社製「SE−400」)を用いた。 【0076】 (2)比較例3の成分C 比較例3の成分Cには,下記のようにして合成したHEAA単独重合体(pHEAA)を用いた。 ヒドロキシエチルアクリルアミド150g(1.30mol,興人社製)を100gのイオン交換水に溶解し,モノマー水溶液を調製した。また,別に,2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオンアミジン)ジヒドロクロリド0.035g(重合開始剤,「V−50」,1.30mmol,和光純薬社製)を70gのイオン交換水に溶解し,重合開始剤水溶液を調製した。ジムロート冷却管,温度計及び三日月形テフロン(登録商標)製撹拌翼を備えた2Lセパラブルフラスコに,イオン交換水1,180gを投入した後,セパラブルフラスコ内を窒素置換した。次いで,オイルバスを用いてセパラブルフラスコ内の温度を68℃に昇温した後,予め調製した上記モノマー水溶液と上記重合開始剤水溶液を各々3.5時間かけて撹拌を行っているセパラブルフラスコ内に滴下した。滴下終了後,反応溶液の温度及び撹拌を4時間保持し,無色透明の10質量%ポリヒドロキシエチルアクリルアミド(pHEAA,重量平均分子量:700,000)水溶液1,500gを得た。 【0077】 (3)比較例4の成分C 比較例4の成分Cには,下記のようにして合成したHEAA単独重合体(pHEAA)を用いた。 300mLナスフラスコにヒドロキシエチルアクリルアミド(KJケミカルズ社製)15g,2−シアノ−2−プロピルドデシルトリチオカルボネート(シグマアルドリッチ社製)0.073g,2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)(重合開始剤,「V−65」,和光純薬社製)0.005g,メタノール(和光純薬社製)150g,スターラーチップを入れ,三方コックとジムロート冷却管を取り付けた。30分間窒素バブリングを行なった後,オイルバスを用いてフラスコ内の温度を51℃に昇温し,重合を5時間行った。そして,前記フラスコ内の混合液を氷冷して重合を終了し,ポリマー溶液を得た。次いで,アセトン/n−ヘキサン(=50/50vol比)にポリマー溶液を滴下し,ポリマーを析出させ,ポリマーを取り出し乾燥によりポリマー固体(pHEAA,重量平均分子量:48,000)を得た。 【0078】 2.各種パラメータの測定方法 ・・・ 【0082】 (4)平均粒径d,d0,及び比d/d0 研磨液組成物中での成分Aの平均粒径dは,成分Aの濃度が0.15質量%,成分Bの濃度が0.01質量%となるように研磨液組成物の濃縮液をイオン交換水で希釈して得た研磨液組成物をDisposable Sizing Cuvette(ポリスチレン製10mmセル)に下底からの高さ10mmまで入れ,動的光散乱法(装置名:「ゼータサイザーNanoZS」,シスメックス社製)を用いて測定した。 成分A及び成分Bの水分散液中での成分Aの平均粒径d0は,成分Aの濃度が0.15質量%,成分Bの濃度が0.01質量%となるように,成分Bの水溶液に成分Aを添加して得られた水分散液をDisposable Sizing Cuvette(ポリスチレン製10mmセル)に下底からの高さ10mmまで入れ,動的光散乱法(装置名:「ゼータサイザーNanoZS」,シスメックス社製)を用いて測定した。平均粒径d0は69.6nmであった。 そして,得られた平均粒径d及び平均粒径d0を用いて,比d/d0を求めた。 ・・・ 【0086】 3.研磨液組成物の調製 成分A(コロイダルシリカ,平均一次粒子径35nm,平均二次粒子径70nm,会合度2.0),成分B含有水溶液(28質量%アンモニア水,キシダ化学(株),試薬特級),表1に示す成分C,及び超純水を攪拌混合して,実施例1〜3,比較例1〜4及び参考例1の研磨液組成物の濃縮液を得た。表1における各成分A〜Cの含有量は,濃縮液を50倍に希釈して得た研磨液組成物についての値,すなわち,研磨液組成物の使用時における含有量である。成分A,成分B及び成分Cを除いた残余は超純水である。なお,成分Aの含有量は,SiO2換算濃度である。 【0087】4.研磨方法 上記の研磨液組成物の濃縮液をイオン交換水で50倍希釈して得た研磨液組成物(pH10.6±0.1(25℃))について,研磨直前にそれぞれフィルター(コンパクトカートリッジフィルター「MCP−LX−C10S」,アドバンテック社製)にてろ過を行い,下記の研磨条件でシリコンウェーハ[直径200mmのシリコン片面鏡面ウェーハ(伝導型:P,結晶方位:100,抵抗率:0.1Ω・cm以上100Ω・cm未満)]に対して仕上げ研磨を行った。当該仕上げ研磨に先立ってシリコンウェーハに対して市販の研磨液組成物を用いてあらかじめ粗研磨を実施した。粗研磨を終了し仕上げ研磨に供したシリコンウェーハのヘイズは,2〜3ppmであった。ヘイズは,KLA Tencor社製「Surfscan SP1−DLS」を用いて測定される暗視野ワイド斜入射チャンネル(DWO)での値である。 【0088】 <仕上げ研磨条件>研磨機:片面8インチ研磨機(岡本工作機械製作所製「SPP600S」)研磨パッド:スエードパッド(東レ コーテックス社製,アスカー硬度:64,厚さ:1.37mm,ナップ長:450um,開口径:60um) シリコンウェーハ研磨圧力:100g/cm2 定盤回転速度:60rpm 研磨時間:5分 研磨液組成物の供給速度:150g/分 研磨液組成物の温度:23℃ キャリア回転速度:62rpm ・・・ 【0090】 6.評価 ・・・ 【0091】 (2)シリコンウェーハのヘイズの評価 洗浄後のシリコンウェーハ表面のヘイズ(ppm)の評価には,KLA Tencor社製「Surfscan SP1−DLS」を用いて測定される,暗視野ワイド斜入射チャンネル(DWO)での値を用いた。ヘイズの数値は小さいほど表面の平坦性が高いことを示す。ヘイズの結果を表1に示した。ヘイズの測定は,各々2枚のシリコンウェーハに対して行い,各々平均値を表1に示した。 【0092】 【表1】 【0093】 表1に示されるように,実施例1〜3の研磨液組成物を用いた場合,比較例1〜4の研磨液組成物を用いた場合に比べて,研磨されたシリコンウェーハのヘイズが低減されていた。さらに,実施例1〜3の研磨液組成物では,エッチング速度が効果的に抑制されていた。」 (2)判断 ア 本件発明が解決しようとする課題 本件明細書の【0007】の記載によれば,本件発明が解決しようとする課題は,「研磨されたシリコンウェーハ表面のヘイズを低減できるシリコンウェーハ用仕上げ研磨液組成物,及びこれを用いた研磨方法,並びに半導体基板の製造方法を提供する」ことである。 イ 発明の詳細な説明の記載について (ア)発明の詳細な説明において,【発明を実施するための形態】の【0012】には,「本発明は,シリカ粒子A(以下,「成分A」ともいう),塩基性化合物B(以下,「成分B」ともいう),及び所定の水溶性高分子C(以下,「成分C」ともいう)を含む研磨液組成物をシリコンウェーハの仕上げ研磨に用いることにより,ヘイズを低減できるという知見に基づく」ことが記載されており,また,同【0026】には,シリカ粒子A(成分A)に関して,研磨液組成物中に存在する成分Aの平均粒径dと,研磨液組成物と同じ濃度で成分A及び成分Bを含有する水分散液中に存在する成分Aの平均粒径d0との比d/d0(以下,単に「比d/d0」ともいう。)は,ヘイズ低減の観点から,1.1以下が好ましいこと,同【0035】には,水溶性高分子C(成分C)に関して,成分Cの一実施形態としては,エッチング速度の抑制及びヘイズ低減の観点から,例えば,シリコンウェーハに対する吸着量(以下,単に「吸着量」ともいう。)が750ng/cm2以上の水溶性高分子が挙げられることが記載されている。 そして,同【0014】には,本件発明の効果発現機構について,「水溶性高分子Cは,シリカ粒子への吸着が抑制される一方で,被研磨シリコンウェーハに吸着することにより,ヘイズの悪化の原因となるシリカ粒子Aが直接被研磨シリコンウェーハに接触することが抑制され,且つ,ヘイズの悪化の原因となる塩基性化合物Bによるウェーハ表面の腐食が抑制され,エッチング速度が抑制されると考えられる」との推察が記載されている。 そうすると,シリカ粒子A,塩基性化合物B,及び水溶性高分子Cを含むシリコンウェーハ用仕上げ研磨液組成物であって,前記研磨液組成物中に存在するシリカ粒子Aの平均粒径dと,前記研磨液組成物と同じ濃度でシリカ粒子A及び塩基性化合物Bを含有する水分散液中に存在するシリカ粒子Aの平均粒径d0との比d/d0が1.1以下であり,水溶性高分子Cのシリコンウェーハに対する吸着量が750ng/cm2以上である,シリコンウェーハ用仕上げ研磨液組成物において,水溶性高分子Cは,シリカ粒子への吸着が抑制される一方で,被研磨シリコンウェーハに吸着するため,ヘイズの悪化の原因となるシリカ粒子Aが直接被研磨シリコンウェーハに接触することが抑制され,且つ,ヘイズの悪化の原因となる塩基性化合物Bによるウェーハ表面の腐食が抑制され,エッチング速度が抑制されるものであるから,上記シリコンウェーハ用仕上げ研磨液組成物は,研磨されたシリコンウェーハ表面のヘイズを抑制できるという効果を奏するといえる。 (イ)次に,発明の詳細な説明の【実施例】(【0074】〜【0093】)には,以下の実施例及び比較例が記載されている。 実施例1〜3:シリカ粒子A,塩基性化合物B,及び水溶性高分子C(含有量が実施例1は0.001質量%,実施例2は0.01質量%,実施例3は0.03質量%)を含み,比d/d0が1.09,吸着量が950ng/cm2である研磨液組成物を用いてシリコンウェーハの仕上げ研磨を行った結果,シリコンウェーハ表面のヘイズ(以下,単に「ヘイズ」ともいう。)は,いずれも0.001ppmであった。 比較例1:シリカ粒子A及び塩基性化合物Bを含み,水溶性高分子Cを含まない研磨液組成物を用いてシリコンウェーハの仕上げ研磨を行った結果,ヘイズは1.543ppmであった。 比較例2:シリカ粒子A,塩基性化合物B,及び水溶性高分子Cを含み,比d/d0が1.22,吸着量が275ng/cm2である研磨液組成物を用いてシリコンウェーハの仕上げ研磨を行った結果,ヘイズは0.026ppmであった。 比較例3:シリカ粒子A,塩基性化合物B,及び水溶性高分子Cを含み,比d/d0が1.39,吸着量が234ng/cm2である研磨液組成物を用いてシリコンウェーハの仕上げ研磨を行った結果,ヘイズは0.035ppmであった。 比較例4:シリカ粒子A,塩基性化合物B,及び水溶性高分子Cを含み,比d/d0が1.04,吸着量が146ng/cm2である研磨液組成物を用いてシリコンウェーハの仕上げ研磨を行った結果,ヘイズは0.007ppmであった。 以上によれば,シリカ粒子A,塩基性化合物B,及び水溶性高分子Cを含み,比d/d0が1.1以下であり,吸着量が750ng/cm2以上のシリコンウェーハ用仕上げ研磨液組成物は, a)水溶性高分子Cを含まないシリコンウェーハ用仕上げ研磨液組成物,又は b)比d/d0が1.1以下との条件及び吸着量が750ng/cm2以上との条件を満たさないシリコンウェーハ用仕上げ研磨液組成物,又は, c)吸着量が750ng/cm2以上との条件を満たさないシリコンウェーハ用仕上げ研磨液組成物 に比べて,研磨されたシリコンウェーハ表面のヘイズが低減されていることが理解できる。 そうすると,上記(ア)における効果は,【実施例】の記載において裏付けられているといえる。 (ウ)以上によれば,上記イ(ア)で示した,発明の詳細な説明に記載された,シリカ粒子A,塩基性化合物B,及び水溶性高分子Cを含むシリコンウェーハ用仕上げ研磨液組成物であって,前記研磨液組成物中に存在するシリカ粒子Aの平均粒径dと,前記研磨液組成物と同じ濃度でシリカ粒子A及び塩基性化合物Bを含有する水分散液中に存在するシリカ粒子Aの平均粒径d0との比d/d0が1.1以下であり,水溶性高分子Cのシリコンウェーハに対する吸着量が750ng/cm2以上である,シリコンウェーハ用仕上げ研磨液組成物と,本件発明1とは,同様の構成を有するものであるから,本件発明1は,発明の詳細な説明に記載された発明であるといえる。 そして,上記イ(イ)で検討したとおり,上記イ(ア)で示したシリコンウェーハ用仕上げ研磨液組成物が,研磨されたシリコンウェーハ表面のヘイズを抑制できるという効果を奏することは,発明の詳細な説明の【実施例】において裏付けられているものであるから,本件発明1は,「研磨されたシリコンウェーハ表面のヘイズを低減できるシリコンウェーハ用仕上げ研磨液組成物」を提供するという上記課題を解決し得るものであることが理解できる。 したがって,本件発明1は,発明の詳細な説明の記載により当業者が上記課題を解決できると認識できる範囲のものである。 (エ)発明の詳細な説明の【発明を実施するための形態】の【0045】には,本件発明2と同様の構成が記載さており,同【0035】には,本件発明3と同様の構成が記載されており,同【0050】には,本件発明4と同様の構成が記載されており,同【0027】には,本件発明5と同様の構成が記載されており,同【0051】には,本件発明6と同様の構成が記載されており,同【0044】には,本件発明7,8と同様の構成が記載されており,同【0064】には,本件発明9,10と同様の構成が記載されているから,本件発明2〜10は,発明の詳細な説明に記載された発明であるといえ,また,本件発明2〜10は,いずれも本件発明1の構成を有するものであるから,本件発明1と同様に,発明の詳細な説明の記載により当業者が上記課題を解決できると認識できる範囲のものである。 ウ 申立人の主張について (ア)申立人は,特許異議申立書44ページ18〜19行において,本件明細書において,上記課題を解決できると認識できるものは,Mw80,000のPVMEを0.001〜0.03質量%で用いたもののみである旨主張する。 また,申立人は,特許異議申立書45ページ13〜19行において,本件明細書の実施例において,上記課題が解決できるものとして記載されているのは,平均一次粒子径35nm,平均二次粒子径70nmのコロイダルシリカを0.15質量%含む研磨用組成物を用いたものに限られており,一方,本件発明1〜10においては,シリカ粒子の種類及び平均粒径を何ら特定しておらず,研磨用組成物において,シリカ粒子として,ヒュームドシリカを含む態様,他の研磨材(例えばアルミナ粒子など)を含む態様,粒子径が大きいシリカ粒子を含む態様,砥粒濃度が1質量%を超える態様を包含する本件発明1〜10の全範囲において,上記課題を解決できるとは到底認められない旨主張する。 しかし,本件発明1〜10が,発明の詳細な説明の記載により上記課題を解決できると認識できる範囲のものであることは,上記イで検討したとおりである。 (イ)申立人は,特許異議申立書45ページ1〜4行において,本件明細書には,Mwが80,000であるPVMEの水(20℃)に対する溶解度が示されておらず,本件明細書で定義される「水溶性」(水(20℃)に対する溶解度が0.5g/100mL以上)高分子に該当するか否か明らかでない(そもそも水l00mLに対して0.5g程度しか溶解しないものを水溶性と言えるのか疑問である)旨主張する。 しかし,本件発明の「水溶性」については,本件明細書の【0034】に,「本発明において,成分Cの「水溶性」とは,水(20℃)に対して0.5g/100mL以上の溶解度,好ましくは2g/100mL以上の溶解度を有することをいう」と定義されており,同【0035】では,成分C,すなわち,水溶性高分子Cとして,ポリビニルアルキルエーテルが挙げられているのであるから,当該ポリビニルアルキルエーテルが,上記で定義された水溶性のものであることは明らかである。 また,申立人は,特許異議申立書45ページ4〜8行において,一般に,PVMEなどのポリビニルアルキルエーテルは,その化学構造から疎水性であると考えられ,アルキルエーテルの炭素数が1〜4であるものや,Mwが15万のサイズを有するものが水溶性を示すとは考え難いし,また,そのような非水溶性高分子を0.03質量%を超えて,例えば1質量%含むものが前記課題を解決できるとは到底考えられない旨主張する。 しかし,ここでの申立人の主張は,申立人の考えを述べているだけで,証拠に基づくものではないし,本件発明が,発明の詳細な説明の記載により上記課題を解決できると認識できる範囲のものであることは,上記イで検討したとおりである。 (ウ)したがって,申立人の上記主張は,いずれも採用できない。 エ 小括 以上のとおり,本件発明1〜10は,発明の詳細な説明に記載されたものであるから,請求項1〜10に係る特許は,特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものとはいえず,申立理由3には理由がない。 4 申立理由4(明確性)について (1)判断 本件発明1〜10は,前記第2に示したとおりのものであり,その記載は,いずれも明確である。 (2)申立人の主張について ア 申立人は,特許異議申立書47ページ1〜5行において,前述のとおり,本件明細書の実施例で用いられている水溶性高分子(Mwが80,000であるPVME)が水溶性高分子であるか否か明らかではなく,少なくとも,本件明細書には,本件発明1で特定される水溶性高分子に該当するものとして,「水溶性」と言えないものが含まれているから,本件発明1で特定される水溶性高分子は,その意味するところが不明確であり,且つ前記水溶性高分子の範囲も不明確である旨主張する。 しかし,本件発明1の「水溶性」については,本件明細書の【0034】に,「本発明において,成分Cの「水溶性」とは,水(20℃)に対して0.5g/100mL以上の溶解度,好ましくは2g/100mL以上の溶解度を有することをいう」と定義されているから,その意味するところは明確であり,かつ,本件発明1の「水溶性高分子」の範囲も明確である。 イ 申立人は,特許異議申立書47ページ6〜8行において,本件発明1は,水溶性高分子Cのシリコンウェーハに対する吸着量が750ng/cm2以上であることを特定するが,前記吸着量の上限値が特定されていないから,本件発明1の範囲は不明確である旨主張する。 しかし,本件発明1の「吸着量が750ng/cm2以上」との記載は明確であり,「吸着量」の上限値が特定されていないことをもって,本件発明1の範囲が不明確であるとはいえない。 ウ したがって,申立人の上記主張は,いずれも採用できない。 (3)小括 以上のとおり,本件発明1〜10は,特許請求の範囲の記載が明確であるから,請求項1〜10に係る特許は,特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものとはいえず,申立理由4には理由がない。 第6 むすび 以上のとおりであるから,特許異議の申立ての理由及び証拠によっては,請求項1〜10に係る特許を取り消すことはできない。 また,他に請求項1〜10に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって,結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2022-03-28 |
出願番号 | P2017-123487 |
審決分類 |
P
1
651・
537-
Y
(H01L)
P 1 651・ 113- Y (H01L) P 1 651・ 121- Y (H01L) |
最終処分 | 07 維持 |
特許庁審判長 |
恩田 春香 |
特許庁審判官 |
河本 充雄 ▲吉▼澤 雅博 |
登録日 | 2021-06-04 |
登録番号 | 6893835 |
権利者 | 花王株式会社 |
発明の名称 | シリコンウェーハ用仕上げ研磨液組成物 |
代理人 | 特許業務法人池内アンドパートナーズ |