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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 取り消して特許、登録 H04N
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H04N
管理番号 1384770
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2022-06-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2021-03-01 
確定日 2022-05-24 
事件の表示 特願2016−103693「符号化装置、復号装置及びプログラム」拒絶査定不服審判事件〔平成29年11月30日出願公開、特開2017−212554、請求項の数(4)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成28年5月24日の出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。

令和2年 4月 1日付け:拒絶理由通知書
令和2年 6月 3日 :意見書提出および手続補正
令和2年 7月28日付け:最後の拒絶理由通知書
令和2年10月 5日 :意見書提出および手続補正
令和2年11月18日付け:補正の却下の決定および拒絶査定
令和3年 3月 1日 :審判請求書の提出

第2 令和2年11月18日付けの補正の却下の決定の適否について
審判請求人は、審判請求書の「2.拒絶査定の要点」において、
「原査定は、この出願については令和2年7月28日付け拒絶理由通知書に記載した理由によって拒絶をすべきというものです。
具体的には、審査官殿は、次のように認定し、令和2年10月5日付け手続補正書による補正を却下しています。
・・・
このような認定には承服しかねますので、本出願人は以下において意見を述べます。」
と主張しており、かつ審判請求と同時に補正がなされていないことから、令和2年11月18日付けの補正の却下の決定に対して不服の申立てがあるものと認められる。
したがって、令和2年10月5日にされた手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下するとしている、令和2年11月18日付けの補正の却下の決定の適否について以下に検討する。

1 補正の内容
(1)本件補正後の特許請求の範囲の記載
本件補正により補正された特許請求の範囲は、次のとおりである。なお、補正箇所に下線を付した。

「 【請求項1】
動画像を構成するフレーム単位の原画像を符号化対象ブロックに分割して符号化する符号化装置であって、
イントラ予測処理の種別を示すイントラ予測モードを用いて予測画像を生成するイントラ予測部と、
前記イントラ予測部によって生成された前記予測画像と前記原画像との差分により残差信号を生成する残差信号生成部と、
前記予測画像の生成に用いる参照画素の位置と前記イントラ予測モードとに応じて、予め規定されている直交変換処理群の中から適用する直交変換処理を選択する直交変換部とを具備する符号化装置。
【請求項2】
動画像を構成するフレーム単位の原画像を分割して得たブロック単位で復号する復号装置であって、
イントラ予測処理の種別を示すイントラ予測モードを復号するエントロピー復号部と、
前記イントラ予測モードを用いて予測画像を生成するイントラ予測部と、
量子化された変換係数に対して、逆量子化処理を施す逆量子化部と、
前記予測画像の生成に用いる参照画素の位置と前記イントラ予測モードとに応じて、予め規定されている逆直交変換処理群の中から適用する逆直交変換処理を選択する逆直交変換部とを具備することを特徴とする復号装置。
【請求項3】
コンピュータを、請求項1に記載の符号化装置として機能させるためのプログラム。
【請求項4】
コンピュータを、請求項2に記載の復号装置として機能させるためのプログラム。」

(2)本件補正前の記載
本件補正前の、令和2年6月3日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲は、次のとおりである。

「 【請求項1】
動画像を構成するフレーム単位の原画像を符号化対象ブロックに分割して符号化する符号化装置であって、
イントラ予測モードを用いて予測画像を生成するイントラ予測部と、
前記イントラ予測部によって生成された前記予測画像と前記原画像との差分により残差信号を生成する残差信号生成部と、
前記予測画像の生成に用いる参照画素の位置に応じて、予め規定されている直交変換処理群の中から適用する直交変換処理を選択する直交変換部とを具備する符号化装置。
【請求項2】
前記直交変換部は、前記参照画素が、前記ブロックの上側に隣接する位置と、前記ブロックの左側に隣接する位置とにあるか否かに応じて、前記直交変換処理を制御する請求項1に記載の符号化装置。
【請求項3】
動画像を構成するフレーム単位の原画像を分割して得たブロック単位で復号する復号装置であって、
イントラ予測モードを用いて予測画像を生成するイントラ予測部と、
量子化された変換係数に対して、逆量子化処理を施す逆量子化部と、
前記予測画像の生成に用いる参照画素の位置に応じて、予め規定されている逆直交変換処理群の中から適用する逆直交変換処理を選択する逆直交変換部とを具備することを特徴とする復号装置。
【請求項4】
前記逆直交変換部は、前記参照画素が、前記ブロックの上側に隣接する位置と、前記ブロックの左側に隣接する位置とにあるか否かに応じて、前記逆直交変換処理を制御する請求項3に記載の符号化装置。
【請求項5】
コンピュータを、請求項1又は2に記載の符号化装置として機能させるためのプログラム。
【請求項6】
コンピュータを、請求項3又は4に記載の復号装置として機能させるためのプログラム。」

(3)補正事項
上記(1)及び(2)から、本件補正は以下の補正事項1〜4を含むものである。
(補正事項1)補正前の請求項2、4を削除する補正。
(補正事項2)補正前の請求項1に係る発明を特定するために必要な事項である「イントラ予測部」が予測画像の生成に用いる「イントラ予測モード」を、補正後の請求項1において、「イントラ予測処理の種別を示す」ものであることに限定する補正。
(補正事項3)補正前の請求項3に係る発明を特定するために必要な事項である「イントラ予測部」が予測画像の生成に用いる「イントラ予測モード」を、補正後の請求項2において、「イントラ予測処理の種別を示す」ものであり、また、「エントロピー復号部」が「復号する」ものであることに限定する補正。
(補正事項4)補正前の請求項1、3に係る発明を特定するために必要な事項である「直交変換部」又は「逆直交変換部」が、予め規定されている直交変換処理群の中から適用する直交変換処理を、「予測画像の生成に用いる参照画素の位置に応じて」「選択する」ことを、補正後の請求項1、2において、「前記予測画像の生成に用いる参照画素の位置と前記イントラ予測モードとに応じて」「選択する」ことに限定する補正。

2 令和2年11月18日付けの補正の却下の決定の理由の概要
令和2年11月18日付けの補正の却下の決定の理由の概要は、次のとおりである。

請求項1〜4についての補正は限定的減縮を目的としている。
しかしながら、補正後の請求項1〜4に係る発明は、引用文献1に記載された発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
したがって、補正後の請求項1〜4に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができるものではない。
よって、この補正は同法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するものであるから、同法第53条第1項の規定により、令和2年10月5日付け手続補正書でした明細書、特許請求の範囲又は図面についての補正は、却下する。

引用文献1.Shunsuke Iwamura et al., "Direction-dependent scan order with JEM tools", Joint Video Exploration Team (JVET) of ITU-T SG 16 WP 3 and ISO/IEC JTC 1/SC 29/WG 11 3rd Meeting: Geneva, CH, 2016-05-18, [JVET-C0069] (version 2)(令和2年4月1日付けの拒絶理由通知書における引用文献1)

3 補正の却下の決定の適否についての検討
上記補正事項1は、特許法第17条の2第5項第1号に掲げる特許請求の範囲の削除を目的とするものに該当する。
上記補正事項2〜4は、補正前の請求項1、3に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものであって、補正前の請求項1、3に記載された発明と補正後の請求項1、2に記載された発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1〜4に記載されている事項により特定される発明(以下、それぞれ「本件補正発明1」〜「本件補正発明4」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項に規定する要件を満たすか)否かについて以下検討する。

(1)本件補正発明
本件補正発明1〜4は、上記1.(1)に記載したとおりのものであり、以下、本件補正発明2を再掲する。
なお、各構成の符号A〜Eは、当審が付したものである。また、これらの符号が付されたものを、それぞれ、「構成A」〜「構成E」という。

(本件補正発明2)
「 【請求項2】
A 動画像を構成するフレーム単位の原画像を分割して得たブロック単位で復号する復号装置であって、
B イントラ予測処理の種別を示すイントラ予測モードを復号するエントロピー復号部と、
C 前記イントラ予測モードを用いて予測画像を生成するイントラ予測部と、
D 量子化された変換係数に対して、逆量子化処理を施す逆量子化部と、
E 前記予測画像の生成に用いる参照画素の位置と前記イントラ予測モードとに応じて、予め規定されている逆直交変換処理群の中から適用する逆直交変換処理を選択する逆直交変換部
A とを具備することを特徴とする復号装置。」

(2)引用文献1について
ア 引用文献1の記載
令和2年11月18日付けの補正の却下の決定で引用された上記引用文献1には、以下の事項が記載されている。
なお、下線は強調のために当審で付したものであり、また、仮訳は当審で作成したものである。

「2 Direction-dependent sub-TU scan order
To simplify the explanation of the proposed DDSO, angular modes of intra prediction are classified into three categories as shown in Figure 1.
・・・
When intra CU is divided into quadtree TUs and intra prediction direction is set to Category 1, half of the reference samples used for prediction of the upper-right TU are not available since the reference samples located in the lower-left TU are not decoded at this point. In that case, unavailable reference samples are substituted by immediately neighboring available reference sample. Figure 2 illustrates an example of inaccurate intra prediction caused by reference substitution process, where, gray pixels are unavailable reference samples and the value of the immediately neighboring available reference sample 'α' is copied to those gray pixels. As a result, all the red bordered pixels inside predicted signals have same value.
・・・
To avoid this inaccurate intra prediction, direction-dependent intra sub-TU scan order is proposed. If intra prediction direction is set to Category 1 or 3, sub-TU z-scan order is vertically or horizontally reversed.」
(仮訳:2 方向依存のサブTUスキャン順
提案するDDSOの説明を簡単にするために、イントラ予測の角度モードを図1に示すように3つのカテゴリに分類する。
・・・
イントラCUを4分木のTUに分割し、イントラ予測方向をカテゴリ1とした場合、左下のTUにある参照サンプルはこの時点では復号されていないため、右上のTUの予測に用いる参照サンプルの半分は使用できない。この場合、利用できない参照サンプルは、すぐ隣の利用可能な参照サンプルで置換される。図2は、参照サンプル置換処理による不正確なイントラ予測の例を示しており、ここで、灰色のピクセルが使用できない参照サンプルで、その灰色のピクセルにすぐ隣の使用可能な参照サンプル‘α’の値がコピーされる。その結果、予測信号内の赤枠のピクセルはすべて同じ値になってしまう。
・・・
この不正確なイントラ予測を回避するために、方向依存のイントラサブTUのスキャン順が提案される。イントラ予測の方向がカテゴリ1または3に設定された場合、サブTUのzスキャン順序は垂直または水平に反転される。)

「3 Residual flipping for reversed reference position
As mentioned in section 2, immediately lower reference samples can be used for prediction for upper-left and upper-right TUs when the scan order is vertically reversed. If the reference sample position is changed, the residual statistics may also be changed since prediction accuracy has strong correlation with a distance between reference samples and predicted pixels. Table 1 shows a relationship between residual statistics, prediction mode and reference position. Figures in the table indicate residual statistics, where darker region nearby reference samples and lighter region far from reference samples are prone to be a small and large residual, respectively.
・・・
In HEVC, DCT-II and DST-VII are adopted as transformation, and DST-VII is applied for small intra TU. The idea of the use of DST-VII which has asymmetric basis is coming from the fact that residual nearby reference samples is prone to be a small value.
In this contribution, adaptive residual flipping according to the reference position is proposed. If the scan order of sub-TUs is determined to be vertically/horizontally reversed and if the reference sample position can be also vertically/horizontally reversed, the residuals are vertically/horizontally flipped before transform. At the decoder side, the reconstructed residuals are also vertically/horizontally flipped after inverse transform.」
(仮訳:3 参照位置が反転した場合の残差反転
セクション2で述べたように、左上と右上のTUの予測には、スキャン順序が垂直方向に逆転している場合、すぐ下の参照サンプルを使用することができる。予測精度は参照サンプルと予測された画素の距離と強い相関があるため、参照サンプルの位置が変わると、残差の統計も変化しうる。表1に残差の統計と予測モード、参照位置の関係を示す。表中の図は残差の統計を示しており、参照サンプルに近い暗い領域は残差が小さく、参照サンプルから遠い明るい領域は残差が大きい傾向がある。
・・・
HEVCでは、DCT−IIとDST−VIIが変換に採用されており、小さいイントラTUにはDST−VIIが適用される。非対称基底を持つDST−VIIを使用する思想は、参照サンプル近傍の残差が小さな値になりやすいことに由来している。
本寄書では、参照位置に応じた適応的な残差の反転を提案する。サブTUのスキャン順序が垂直・水平に反転していると判断され、かつ参照サンプルの位置も垂直・水平に反転できる場合、残差は変換前に垂直・水平に反転される。デコーダ側でも、逆変換後に再構成された残差が垂直/水平に反転される。)

イ 引用発明
上記アから、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という)が記載されていると認められる。
なお、各構成の符号a〜gは、当審が付したものである。また、これらの符号が付されたものを、それぞれ、「構成a」〜「構成g」という。

(引用発明)
「a イントラ予測の角度モードを3つのカテゴリに分類し、
b イントラCUを4分木のTUに分割し、イントラ予測方向をカテゴリ1とした場合、左下のTUにある参照サンプルはこの時点では復号されていないため、右上のTUの予測に用いる参照サンプルの半分は使用できず、この場合、利用できない参照サンプルは、すぐ隣の利用可能な参照サンプルで置換され、参照サンプル置換処理による不正確なイントラ予測となり、
c この不正確なイントラ予測を回避するために、方向依存のイントラサブTUのスキャン順が提案され、イントラ予測の方向がカテゴリ1または3に設定された場合、サブTUのzスキャン順序は垂直または水平に反転され、
d 左上と右上のTUの予測には、スキャン順序が垂直方向に逆転している場合、すぐ下の参照サンプルを使用することができ、
e サブTUのスキャン順序が垂直・水平に反転していると判断され、かつ参照サンプルの位置も垂直・水平に反転できる場合、残差は変換前に垂直・水平に反転され、デコーダ側でも、逆変換後に再構成された残差が垂直/水平に反転され、
f HEVCでは、DCT−IIとDST−VIIが変換に採用されており、小さいイントラTUにはDST−VIIが適用される、
g デコーダ。」

(3)対比、判断
ア 本件補正発明2について
本件補正発明2と引用発明とを対比する。

(ア)構成Aについて
構成bより、引用発明の「デコーダ」は、CUを単位として扱うものであるということができる。そして、動画像符号化/復号化の分野において、CUが、動画像を構成するフレーム単位の原画像を分割して得られるブロックであることが技術常識であることを鑑みれば、引用発明の「デコーダ」は、本件補正発明2の「動画像を構成するフレーム単位の原画像を分割して得たブロック単位で復号する復号装置」に相当する。
したがって、本件補正発明2と引用発明は、「動画像を構成するフレーム単位の原画像を分割して得たブロック単位で復号する復号装置」である点で一致する。

(イ)構成B、Cについて
構成aの「イントラ予測の角度モード」は、本件補正発明2の「イントラ予測モード」に相当する。
また、構成c、dより、引用発明の「デコーダ」はイントラ予測において参照サンプルを使用しているが、この際参照サンプルから予測画像を生成しているということができる。
したがって、本件補正発明2と引用発明とは、「イントラ予測モードを用いて予測画像を生成するイントラ予測部」を備える点で共通するといえる。
しかしながら、本件補正発明2は、「イントラ予測処理の種別を示すイントラ予測モードを復号するエントロピー復号部」を備えるのに対し、引用発明は、この点を明示的に特定していない点で相違する。

(ウ)構成Dについて
本件補正発明2は、「量子化された変換係数に対して、逆量子化処理を施す逆量子化部」を備えるのに対し、引用発明は、この点を明示的に特定していない点で相違する。

(エ)構成Eについて
また、構成fの「DCT−IIとDST−VII」がいずれも直交変換処理であることは広く知られており、構成eより、デコーダでは、その逆変換である逆直交変換処理が適用されるといえる。
そして、構成fより、DCT−IIとDST−VIIが変換に採用されており、小さいイントラTUにはDST−VIIが適用されることから、引用発明の「デコーダ」は、TUのサイズに応じて、予め規定されている逆直交変換処理群の中から適用する逆直交変換処理を選択するものであるということができる。
以上のことから、本件補正発明2と引用発明とは、「予め規定されている逆直交変換処理群の中から適用する逆直交変換処理を選択する逆直交変換部」を備える点で共通するといえる。
しかしながら、本件補正発明2は、逆直交変換部が「前記予測画像の生成に用いる参照画素の位置と前記イントラ予測モードとに応じて、予め規定されている逆直交変換処理群の中から適用する逆直交変換処理を選択する」のに対し、引用発明は、そのように構成されておらず、TUのサイズに応じて適用する逆直交変換処理を選択する点で相違する。

(オ)一致点及び相違点
上記(ア)〜(エ)より、本件補正発明2と引用発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。

【一致点】
動画像を構成するフレーム単位の原画像を分割して得たブロック単位で復号する復号装置であって、
イントラ予測モードを用いて予測画像を生成するイントラ予測部と、
予め規定されている逆直交変換処理群の中から適用する逆直交変換処理を選択する逆直交変換部とを具備することを特徴とする復号装置。

【相違点】
(相違点1)
本件補正発明2は、「イントラ予測処理の種別を示すイントラ予測モードを復号するエントロピー復号部」を備えるのに対し、引用発明は、この点を明示的に特定していない点。

(相違点2)
本件補正発明2は、「量子化された変換係数に対して、逆量子化処理を施す逆量子化部」を備えるのに対し、引用発明は、この点を明示的に特定していない点。

(相違点3)
本件補正発明2は、逆直交変換部が「前記予測画像の生成に用いる参照画素の位置と前記イントラ予測モードとに応じて、予め規定されている逆直交変換処理群の中から適用する逆直交変換処理を選択する」のに対し、引用発明は、そのように構成されておらず、TUのサイズに応じて適用する逆直交変換処理を選択する点。

(カ)相違点についての判断
事案に鑑み、相違点3を先に検討する。
上記(エ)で検討したとおり、引用発明は、適用する逆直交変換処理を、TUのサイズに応じて選択するものであり、予測画像の生成に用いる参照画素の位置とイントラ予測モードとに応じて選択するものではない。
そして、予測画像の生成に用いる参照画素の位置とイントラ予測モードとに応じて、予め規定されている逆直交変換処理群の中から適用する逆直交変換処理を選択することが、本件出願の出願前において、周知技術であるともいえない。

なお、令和2年11月18日付けの補正の却下の決定は、
「引用文献1の第3欄には、「In HEVC, DCT-II and DST-VII are adopted」と記載されており、HEVCにおいて、残差の分布に適した変換を行うために、DCTとDSTがイントラ予測モードに応じて選択されること、すなわち、直交変換処理がイントラ予測モードに応じて選択されることは、当業者にとって周知である。」
とした上で、引用発明及び周知技術に基づいて、本件各発明は、当業者が容易であるとしている。
しかしながら、仮に、直交変換処理がイントラ予測モードに応じて選択されることが当業者にとって周知の事項であり、これを引用発明に適用したとしても、本件補正発明2はイントラ予測モードのみではなく、予測画像の生成に用いる参照画素の位置とイントラ予測モードに基づいて逆直交変換処理を選択するものであることから、相違点3に係る構成に至るとはいえない。

したがって、他の相違点について判断するまでもなく、本件補正発明2は、当業者であっても引用発明に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。

イ 本件補正発明1について
本件補正発明1と、引用文献1から引用発明と同様に認定できる、引用発明と対をなすエンコーダの発明とを対比すると、少なくとも上記相違点3に対応する相違点が存在する。
そして、当該相違点は、上記相違点3の判断と同様に、当業者が容易になし得たものではない。
したがって、本件補正発明1は、当業者であっても引用発明に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。

ウ 本件補正発明3、4について
本件補正発明3、4は、それぞれ本件補正発明1、2に対応するプログラムの発明であり、実質的にカテゴリ表現が異なるだけの発明であるから、本件補正発明1、2と同様の理由により、当業者であっても引用発明に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。

(4)まとめ
以上のとおり、本件補正発明1〜4に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないとすることはできない。
したがって、令和2年11月18日付けの補正の却下の決定には理由がない。
よって、令和2年11月18日付けの補正の却下の決定を取り消す。

第3 本願発明についての判断
以上のとおり、令和2年11月18日付けの補正の却下の決定は取り消されたから、本願の特許請求の範囲の請求項1〜4に係る発明は、令和2年10月5日にされた手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1〜4に記載された事項により特定される、上記第2の1.(1)に記載したとおりのものである。
そして、本願については、原査定の拒絶の理由を検討してもその理由によって拒絶すべきものとすることはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり、審決する。

 
審決日 2022-05-09 
出願番号 P2016-103693
審決分類 P 1 8・ 575- WY (H04N)
P 1 8・ 121- WY (H04N)
最終処分 01   成立
特許庁審判長 清水 正一
特許庁審判官 新井 寛
川崎 優
発明の名称 符号化装置、復号装置及びプログラム  
代理人 キュリーズ特許業務法人  

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