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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A61B
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 A61B
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61B
管理番号 1385043
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2022-06-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2021-09-07 
確定日 2022-04-28 
事件の表示 特願2017−181205「電極付挿入体」拒絶査定不服審判事件〔平成31年4月11日出願公開、特開2019−55026〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成29年9月21日の出願であって、令和2年11月2日付けで拒絶の理由が通知され、令和3年1月7日に意見書及び手続補正書が提出され、同月28日に意見書がさらに提出され、令和3年2月3日付けで拒絶の理由(最初)が通知され、同年4月16日に意見書が提出されたところ、同年6月2日付けで拒絶査定がなされ、それに対して、同年9月7日に拒絶査定不服審判の請求がなされると同時に手続補正(以下「本件補正」という。)がなされ、同年12月8日に上申書(以下。単に「上申書」という。)が提出されたものである。

第2 本件補正についての補正の却下の決定

[補正の却下の決定の結論]

本件補正を却下する。

[理由]

1.本件補正について
本件補正は、特許請求の範囲の請求項1〜3の記載を含む補正であり、本件補正により、特許請求の範囲の請求項1は、令和3年1月7日提出の手続補正書における下記(1)のものから、下記(2)のものへと補正された。

(1)令和3年1月7日提出の手続補正書における請求項1
令和3年1月7日提出の手続補正書における請求項1(以下「本件補正前請求項1」といい、該請求項に係る発明を「本件補正前発明」という)は次のとおりである。ここで、各構成単位冒頭の「pA」などは分説番号であり、以下、各構成単位について、この番号により「構成pA」などという。

「pA 女性の尿道内に挿入される細長いシャフトと、
pB 前記シャフトの先端部近傍に配置され、女性の膀胱内で膨張可能なバルーンと、
pC 前記シャフトの尿道内挿入時に膀胱頸部近傍に位置して女性の陰部神経を刺激する、バルーン基端部側に設けられる刺激電極と、を有し、
pD 前記刺激電極は、先端部側に位置する第1電極と基端部側に位置する第2電極との電極対からなり、
pE 前記シャフトには前記刺激電極のみが設けられ、
pF 筋活動電位を記録する記録電極は設けられていないことを特徴とする、
pG 女性の球海綿体反射モニタリングに使用される、
pH 電極付挿入体。」

(2)本件補正後の請求項1
本件補正後の請求項1(以下「本件補正請求項1」といい、該請求項に係る発明を「本件補正発明」という)は次のとおり。下線部は請求人による、補正箇所を示したもの。分説番号については上記(1)と同様である。

「A 女性の尿道内に挿入される細長いシャフトと、
B 前記シャフトの先端部近傍に配置され、女性の膀胱内で膨張可能なバルーンと、
C 前記シャフトの尿道内挿入時に膀胱頸部近傍に位置して女性の陰部神経を刺激する、バルーン基端部側に設けられる刺激電極と、を有し、
D 前記刺激電極は、先端部側に位置する第1電極と基端部側に位置する第2電極との電極対からなり、
E 前記シャフトには前記バルーン基端部側にのみ前記刺激電極が設けられ、
F 筋活動電位を記録する記録電極は設けられていないことを特徴とする、
G 女性の球海綿体反射モニタリングに使用される、
H 電極付挿入体。」

2.補正の適否

(1)本件補正
本件補正は、本件補正前請求項1の構成pEにおいて特定されていた、シャフトに対する刺激電極の設置形態について、構成pEでは「前記シャフトには前記刺激電極のみが設けられ」るとしていたものを、本件補正後の構成Eでは「前記シャフトには前記バルーン基端部側にのみ前記刺激電極が設けられ」ると補正したものである。

(2)新規事項の有無についての検討
本件出願の願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲及び図面(以下「当初明細書等」という。)のうち、【0009】には「バルーン基端部側に設けられる刺激電極」なる記載があり、【図1】(下記「参考」参照)からは、シャフト100上において、刺激電極300がバルーン200の基端部側のみに設けられていることが看取できる。
よって、構成pEに係る本件補正は、当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものである。

(参考:当初明細書等【図1】)




(3)補正の目的要件違反についての検討
上記本件補正には、刺激電極の設置箇所についての補正と、シャフトに設けられる部材の種類についての補正とが含まれるといえる。以下、ア、イにおて、これらについて個別に検討する。

ア 刺激電極の設置箇所についての補正
シャフトに対する刺激電極の取り付け形態については、本件補正により補正されていない構成C(pC)において、その取り付け位置について「前記シャフトの尿道内挿入時に膀胱頸部近傍に位置して女性の陰部神経を刺激する、バルーン基端部側に設けられる刺激電極と、を有」ること、すなわち、取り付け位置が「バルーン基端部側」である点が別途特定されているが、構成Cの特定のみでは、「バルーン基端部側」以外の位置に別の刺激電極を付加的に設けることは排除されていない。
この点について、本件補正により、シャフトにおける刺激電極の取り付け位置が、シャフトのバルーン基端部側以外にないことが限定されたということができる。
よって、本件補正は、刺激電極の設置箇所についてみた場合、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる、いわゆる特許請求の範囲の限定的減縮を目的としたものといえる。

イ シャフトに設けられる部材の種類についての補正
構成pEにおける「前記シャフトには前記刺激電極のみが設けられ」なる記載には、シャフトに設けられる部材が「刺激電極」のみであるとの特定事項も含まれる。
しかし、本件補正後の構成Eでは、「前記シャフトには前記バルーン基端部側にのみ前記刺激電極が設けられ」、すなわち、シャフトにおける刺激電極の設置位置が「バルーン基端部側」のみである点は特定されているものの、シャフトに設けられる部材が「刺激電極」のみであるとの特定事項が含まれているとはいえない。
また、当該特定事項が本件請求項1の別の構成により特定されているともいえない。
よって、シャフトに設けられる部材の種類に関し、本件補正により、構成pEにおける《シャフトに設けられる部材が「刺激電極」のみであるとの特定事項》が削除されたと解される。
そうすると、本件補正は、シャフトに設けられる部材の種類についてみた場合、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる、いわゆる特許請求の範囲の限定的減縮を目的としたものとはいえない。
そして、前記特定事項について記載不備を指摘されていた等の事情もないことから、同項に掲げる他の何れの事項を目的としたものともいえない。

ウ 小括
以上ア、イのとおりであるから、本件補正は特許法第17条の2第5項の各号に掲げる事項を目的とするものではない。
よって、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

3.本件補正発明の独立特許要件についての検討
上記2.(3)のとおり、本件補正はいわゆる目的外補正にあたり、却下すべきものである。
しかしながら、上記2.(3)アのとおり、特許請求の範囲の限定的減縮を目的とする補正事項も含むことから、本件補正発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるかについて、以下検討を続けることとする。

(1)本件補正発明について

本件補正発明は、上記1.(2)に示したとおりのものである。

(2)引用文献1に記載された発明

ア 引用文献1の記載事項
原査定の拒絶理由において提示された、本願の出願前に頒布された刊行物である、《古屋聖児 他、「誘発筋電図による球海綿体反射の伝導時間測定」、日本泌尿器科學會雑誌、1983年、Vol.74、No.1、pp.15−24》(以下「引用文献1」という。)には、次の事項が記載されている(下線は当審にて付した。また、各文末に記載された参考文献番号(例:「1)2)」)は省略した。以下同様。)

(ア)「緒言
球海綿体反射(Bulbocavernosus Reflex)は,陰茎亀頭部または,陰核を手指で圧迫するなどの刺激を加えた時に生じる球海綿体筋や肛門括約筋の反射収縮をいう.
・・・
Rushworth(1967)は,陰茎を電気刺激し球海綿体筋より得られる誘発筋電図より,この球海綿体反射の伝導時間を測定した.その後同様の電気生理学的方法で,糖尿病患者や神経因性膀胱患者における球海綿体反射の伝導時間が観察されている.しかし,肛門括約筋の誘発筋電図による,この反射の伝導時間の測定に関する報告は少い.一方,Bradley(1975)は,膀胱頸部または膀胱排尿筋を電気剌激し,反射的な肛門括約筋の収縮を筋電図に記録してその伝導時間を測定した.この反射は,球海綿体反射と同様に仙髄排尿中枢(S2−4)を介すると考えられ,この方法によって,彼らの提唱しているLoopIIIの 障害の有無が検査できると述べている.・・・.我々は,陰茎または陰核の電気刺激と後部尿道の電気刺激により得られる肛門括約筋の誘発筋電図より,両反射の伝導時間を測定した.そして,これらの電気生理学的方法で得られる球海綿体反射の誘発反応測定が,神経因性膀胱の診断やタイプ分類に有用であるかどうかを検討した.」

(イ)「対象
対象症例は,対照群7例,神経因性膀胱群20例,計27例である.対照群は何らかの泌尿器科的疾患を有しているが,神経学的検査および膀胱内圧検査や尿流量測定で異常を認めない症例である.男6例,女1例,年齢は25〜60歳(平均36歳)で,尿管結石3例,膀胱腫瘍1例,水腎症1例,排尿後尿洩れ症例1例,腎結核1例である.神経因性膀胱群は全例,排尿困難や尿失禁などの排尿異常を訴え,膀胱内圧測定,尿流量測定および括約筋(外尿道および肛門)筋電図で明らかな異常を認めた症例である.男12例,女8例で,年齢は28〜82歳(平均51.1歳)である.仙髄排尿中枢(S2−4)を中心として,それより高位中枢での神経障害群を核上型,仙髄排尿中枢の障害群を核型,末梢神経の障害群を末梢型として神経因性膀胱をこの論文では便宣的に分類した.」

(ウ)「方法
検査法として,球海綿体反射の伝導時間の測定,膀胱内圧測定と括約筋筋電図の同時測定,およびベサコリン負荷による膀胱内圧測定を施行した.球海綿体反射の伝導時間は,陰茎背神経および後部尿道を電気刺激してから反射的な肛門括約筋の収縮が誘発される迄の潜時として測定される.陰茎背神経の電気刺激は陰茎背面にとりつけたplate電極またはring電極でおこなった.女性のばあいは,陰核をplate電極で電気刺激した.後部尿道の電気刺激は,ring電極をとりつけたバルーンカテーテルを尿道に挿入,留置して施行した.反射的な肛門括約筋の収縮は,anal plugまたは針電極で記録した(図1).そして,4〜46回の誘発肛門括約筋筋電図の反応波を加算し,その結果得られる平均加算された波形より,伝導時間が測定される(図2).電気刺激の条件は,0.5〜lHz,0.2〜0.5msec duration,10〜20mAである.測定に使用した筋電計は Modular Electrophysiological System (Medelec)である.」

(エ)「結果
1)対照群における球海綿体反射の伝導時間
陰茎または陰核を電気刺激した時の球海綿体反射の伝導時間は32〜45msec(平均38.1msec),後部尿道を刺激した時の伝導時間は60〜84msec(平均71.1msec)であった(表1).従って,前者の場合で50msec以上,後者の場合で90msec以上の伝導時間は異常と考えられる.この群における球海綿体反射の典型的誘発筋電図を図3に示した.」

(オ)「2)神経因性膀胱群における球海綿体反射の伝導時間
(1)核上型神経因性膀胱群陰茎または陰核刺激時の伝導時間は,33〜43msec(平均38.6msec),後部尿道刺激時の伝導時間は50〜90msec(平均74.1msec)であった(表2).この群と対照群の間には,球海綿体反射の伝導時間に差が認められなかった.各症例の誘発筋電図を図4に示す.膀胱内圧曲線のタイプは正常型1例,Hyperreflexia型8例,Areflexia型3例であった.排尿筋一括約筋協調不全は11例中5例に認められた.このうち脊髄損傷3例では全例に,この協調不全が認められた.球海綿体反射の伝導時間と膀胱内圧曲線のタイプ,および排尿筋一括約筋協調不全との間には,一定の関係は認められなかった.
(2)核型神経因性膀胱群
この症例では,陰核刺激時の球海綿体反射の伝導時間は83msec,尿道刺激時の伝導時間は134msecで,対照群や核上型神経因性膀胱群と比較して著明な伝導時間の延長が認められた(図5).しかし示指を肛門に挿入して肛門括約筋の反射的収縮を触知する臨床的神経学的検査法としての球海綿体反射検査では陰性を示した.
(3)末梢型神経因性膀胱群
この群の球海綿体反射の伝導時間は,陰茎または陰核刺激時は40〜70msec(平均55.3msec),尿道刺激時は90〜120msec(平均103.8msec)であった(表3,および図6(.核型神経因性膀胱群と同様に,明らかな伝導時間の延長が認められた.臨床的な球海綿体反射検査法では,症例2,6,7が陰性であった.膀胱内圧曲線のタイプは,正常型2例,Areflexia型4例で,ベサコリン反応性は5例中4例が陽性であった.
(4)その他
典型的な脊髄膜炎症状と尿閉を認めた1症例(男,53歳)で,急性期と回復期で球海綿体反射の伝導時間が変化した.急性期は尿閉状態であり,膀胱内圧曲線はArefleria型を示し,ベサコリン反応性も陰性であった(図7).陰茎刺激時の球海綿体反射の伝導時間は45msec,尿道刺激時は110msecで延長が認められた.自排尿が可能となった回復期では,膀胱内圧曲線は正常型に変わり,球海綿体反射の伝導時間も,陰茎刺激時で43msec,尿道刺激時で78msecと正常化した(表4および図8).」

(カ)「考按
1)球海綿体反射の基礎
陰茎背神経および後部尿道の電気刺激によって誘発される肛門括約筋の反射的収縮に関与する神経系は,陰部神経,骨盤神経と仙髄(S2−4)である.求心性神経としては,陰茎または陰核から仙髄迄は陰部神経,後部尿道から仙髄迄は骨盤神経である.遠心性神経としては,仙髄から肛門括約筋迄は陰部神経である.球海綿体反射の伝導時間は,陰茎または陰核刺激時で平均38.1msec,後部尿道刺激時で平均71.1msecであった.即ち,両者では約2倍の伝導時間の差を認めた.両者の神経伝導路の距離(刺激部位から肛門括約筋迄)は同じであるのに,この伝導時間の差は何んによって生じるのであろうか.球海綿体反射の遠心路の伝導時間は,陰部神経を直接電気刺激して得られる肛門括約筋の誘発筋電図より測定することができる.Chantraine(1973)らは,陰部神経の運動神経の伝導速度は56.3土2.8m/secと報告している.従って,遠心路の距離は約40cmと考えられているので,仙髄より肛門括約筋迄の伝導時間は約7msecである.一方,求心路の伝導時間に関しては,ヒトでは報告がない.我々は,腰椎2−3の間より硬膜外腔にカテーテル電極を挿入後,陰茎背神経を電気刺激してこの力テーテル電極で脊髄誘発電位を記録した.その結果陰茎から仙髄迄の求心路の伝導時間は約9msecであることがわかった(図8).そうすると,陰茎を電気刺激した時の球海綿体反射における仙髄内での伝導時間は38ー(9+7)=12msecである.脊髄内で一つのシナプスを伝導する時間は0.5〜1msecと考えられているので,この球海綿体反射は多シナプス反射であると推定される.しかし,後部尿道から仙髄迄の求心路の伝導時間は現在よくわかっていない.従って,後部尿道刺激のばあいの伝導時間が陰茎刺激のばあいよりも長いのは,後部尿道から仙髄迄の副交感神経(骨盤神経)の神経伝導速度が遅いためか,仙髄内でのシナプスの数が多いためか,という2つの理由が推定される.この脊髄内での伝導速度に関してはヒトのばあい,測定することがきわめて困難であるので,現在実験動物(ネコ)を用いて検討中である.」

(キ)「2)球海綿体反射の伝導時間測定の臨床的意義
肛門に示指を挿入して,陰茎亀頭部の刺激後に肛門括約筋の反射的収縮を観察する球海綿体反射検査法は,日常臨床でよくおこなわれているが,この方法では正常人でも約30%がfalsenegativeを示すと報告されている.我々の観察では,対照群および核上型神経因性膀胱群は全例臨床的球海綿体反射検査法で陽性を示した.しかし,核型および末梢型神経因性膀胱では7例中4例が陰性であった.この4例は,電気刺激による肛門括約筋の発筋電図では反応が認められ,その伝導時間に延長を認めた.このように,誘発筋電図による伝導時間の測定は,臨床的な球海綿体反射検査が陰性の症例でも客観的な数値として表らわすことが可能で,定量的な検査法としてもすぐれている.膀胱内圧測定の際,随意的な排尿収縮を示さないものをAreflexia型と呼ぶ.このAreflexia型を示す症例は,排尿筋に対する神経障害のあきらかなもの以外に,正常人においても認められている.排尿筋に対する神経障害の有無の診断はBethanechol denervation supersenitivity testが広くおこなわれている.しかし,この検査法は急性期には陽性とならない.従って,尿閉や排尿困難を主訴とし,膀胱内圧測定にてAreflexia型を示す症例が,排尿筋に対する神経障害を原因とするかどうかは,この球海綿体反射の伝導時間を測定することにより鑑別診断できると考えられる.球海綿体反射の伝導時間の正常値に関しては,陰茎背神経刺激のばあいは27〜42msec,後部尿道刺激のばあいは50〜80msecと報告されている.この伝導時間は,我々の成績と同様に,仙髄より高位中枢の障害のばあいは正常値と差を認めないが,仙髄の障害や糖尿病,多発性神経炎などの末梢神経障害のばあいは延長する.インポテンツの鑑別診断にも用いられ,器質的な原因のばあいは伝導時間の延長が認められるが,機能的な原因のばあいは正常値を示すといわれている.治療によって球海綿体反射の伝導時間が改善した髄膜炎患者を我々は経験したが,同様の報告は横断性脊髄炎患者で認められている.従って,神経因性膀胱の診断や障害部位の鑑別に,この球海綿体反射の伝導時間の測定は有用である.」

(ク)図1(Fig.1)は次のとおりである。













(図の説明文の当審訳:「図1 2つの金属プレート電極による陰茎の刺激またはリング電極による尿道の刺激の後の、球海綿体反射の誘発反応の記録についての模式図」)
(図中要素の記載の当審訳:図1中の各要素についての英語記載の和訳は次のとおり(《「英文」=「和訳文」》の形式で列記する)。
「Bladder」=「膀胱」
「Urethra」=「尿道」
「Penis」=「陰茎」
「Anus」=「肛門」
「Stimulator」=「刺激装置」
「EMG Amplifier」=「筋電図増幅器」
「Averager」=「平均器」
「X−Y Recorder」=「X−Y記録器」)

(ケ)表1(Table 1)は次のとおりである。


(コ)表2(Table 2)は次のとおりである。













イ 図1から看取・認定される事項
便宜のため、上記ア(ク)の図1の各要素に付番した図を下記(ア)に示し、それをもとに看取・認定事項について下記(イ)以下に説明する。

(ア)引用文献1の図1に説明のため付番した図












(イ)上記ア(イ)の「陰茎背神経の電気刺激は陰茎背面にとりつけたplate電極またはring電極でおこなった.女性のばあいは,陰核をplate電極で電気刺激した.後部尿道の電気刺激は,ring電極をとりつけたバルーンカテーテルを尿道に挿入,留置して施行した.反射的な肛門括約筋の収縮は,anal plugまたは針電極で記録した(図1).・・・測定に使用した筋電計は Modular Electrophysiological System (Medelec)である.」なる記載を合わせ読めば、
a)図1の陰茎Iから膀胱Oの頸部開口(尿道口)を経て膀胱内に延在する曲線棒状の部材Cは「バルーンカテーテル」を表していることが理解され、
b)図1の陰茎外表面に取り付けられた2つの部材Mは「陰茎背神経の電気刺激」のために「陰茎背面にとりつけたplate電極またはring電極」を表し、女性の場合は当該電極が陰核に取り付けられたplate電極」に置き換わること、該電極と刺激装置Pとを結ぶ線分Bは該電極に電気刺激を与える導線を表すこと、がそれぞれ理解され、
c)バルーンカテーテルCの膀胱尿道口直下にバルーンカテーテルの軸に沿ってカテーテル先端側と基端側とに離隔して取り付けられた2つ(一対)の部材Nは「後部尿道の電気刺激」を行うための「ring電極」を表し、該一対のring電極Nの個々の電極と刺激装置Pとを結ぶ2つの線路Aは、上記b)の導線Bとの対照から、一対のring電極Nに電気刺激を与える導線を表し、該一対の電極は独立した導線Aによって刺激装置と接続されていることから、独立した電極であると理解されること、
d)肛門J内の器具Kは、「反射的な肛門括約筋の収縮」を検出する「anal plugまたは針電極」を表すこと、
e)筋電図増幅器Q、平均器R、X−Y記録器Sは筋電計に対応し、該筋電計Q・R・Sとanal plugまたは針電極Kとが線路Lで接続されていること、
f)バルーンカテーテルCには、一対のring電極N以外の他の刺激電極の存在は看取できず、刺激電極の存在を示唆する刺激装置Pからの導線も、バルーンカテーテルに伸びるものは上記一対のring電極と接続される上記導線A以外に描かれておらず、筋電計を構成する筋電図増幅器Q、平均器R、X−Y記録器Sと接続される他の電極の存在もバルーンカテーテル上に見いだせず、当該他の刺激電極や他の電極をバルーンカテーテルに設けることについて上記アで摘記した箇所をはじめとする本文中においても言及がないことから、バルーンカテーテルCには、一対のring電極以外に刺激電極や他の電極が設けられていないこと、
がそれぞれ理解・看取される。

(ウ)上記ア(カ)の「陰茎背神経および後部尿道の電気刺激によって誘発される肛門括約筋の反射的収縮に関与する神経系は,陰部神経,骨盤神経と仙髄(S2−4)である.求心性神経としては,陰茎または陰核から仙髄迄は陰部神経,後部尿道から仙髄迄は骨盤神経である.遠心性神経としては,仙髄から肛門括約筋迄は陰部神経である.」なる記載を合わせ読めば、
a)図1のGは「S2−4」なる付記からみても「仙随」を表すことが理解され、
b)電極Mに対応する陰茎I表皮下から仙随Gに至る矢印付きの経路Fは「陰部神経」を表し、バルーンカテーテルCの膀胱頸部(尿道口)直下に取り付けられた電極N近傍の組織は「後部尿道」に対応し、そこから仙随Gに至る矢印付きの経路Eは「骨盤神経」を表し、仙随G内で陰部神経E及び骨盤神経Eと接続され、仙随Gから肛門Jに伸びる矢印付きの経路Hは「陰部神経」を表すこと、がそれぞれ理解される。

ウ 表1・表2から看取される事項
ア(ウ)の「球海綿体反射の伝導時間は,陰茎背神経および後部尿道を電気刺激してから反射的な肛門括約筋の収縮が誘発される迄の潜時として測定される.」なる記載、ア(エ)の「陰茎または陰核を電気刺激した時の球海綿体反射の伝導時間は32〜45msec(平均38.1msec),後部尿道を刺激した時の伝導時間は60〜84msec(平均71.1msec)であった(表1).」なる記載、及び、ア(オ)の「核上型神経因性膀胱群陰茎または陰核刺激時の伝導時間は,33〜43msec(平均38.6msec),後部尿道刺激時の伝導時間は50〜90msec(平均74.1msec)であった(表2).」なる各記載と表1・表2とを合わせ読むと、次の事項(ア)〜(エ)の技術事項を看取・認定できる。

(ア)表1・表2の各行は各被験者の測定結果を示し、後部尿道を電気刺激した時の肛門括約筋の収縮が誘発されるまでの時間の各被験者についての測定結果は、表1・表2の各右端「Urethra→Anus」欄に示され、被検者の性別は各表の「Sex」欄に示されていることが理解できる。
(イ)何れの表でも、「Sex」欄には、男性を表す「M」が記載された行、女性を表す「F」が記載された行が混在しており、該各表の「後部尿道を電気刺激した時の肛門括約筋の収縮が誘発されるまでの時間の各被験者についての測定」は、男性・女性双方を対象に行われたことが理解できる。
(ウ)上記ウ柱書で摘記したア(エ)の記載事項において、「陰茎または陰核を電気刺激した時・・・の伝導時間」及び「後部尿道を刺激した時の伝導時間」が独立して記載され、各部位への刺激とそれによる伝導時間の測定が別々に行われることが理解できる。
(エ)例えば上記ア(オ)の「核上型神経因性膀胱群陰茎または陰核刺激時の伝導時間は,33〜43msec(平均38.6msec),後部尿道刺激時の伝導時間は50〜90msec(平均74.1msec)であった(表2).この群と対照群の間には,球海綿体反射の伝導時間に差が認められなかった.」なる記載があり、これに対応して、表1及び表2において、「陰茎または陰核を電気刺激した時の球海綿体反射の伝導時間」を示す「Penis→Anus」欄と、「後部尿道を電気刺激した時の肛門括約筋の収縮が誘発されるまでの時間」を示す「Urethra→Anus」欄とに個別に時間測定値が記入されている。
また、上記ア(キ)には、「尿閉や排尿困難を主訴とし,膀胱内圧測定にてAreflexia型を示す症例が,排尿筋に対する神経障害を原因とするかどうかは,この球海綿体反射の伝導時間を測定することにより鑑別診断できると考えられる.球海綿体反射の伝導時間の正常値に関しては,陰茎背神経刺激のばあいは27〜42msec,後部尿道刺激のばあいは50〜80msecと報告されている.この伝導時間は,我々の成績と同様に,仙髄より高位中枢の障害のばあいは正常値と差を認めないが,仙髄の障害や糖尿病,多発性神経炎などの末梢神経障害のばあいは延長する.」なる記載がある。
以上の各記載から、前記各伝導時間について、個別に測定、正常値の設定、及び正常値との乖離に基づく障害の診断が行われていることが理解できる。

エ 引用文献1に記載された発明
上記アの各記載事項、上記イ・ウの認定事項から、引用文献1には次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる(分説番号については上記1.(1)と同様。また、各構成単位末尾に主たる引用元となる引用文献1の記載箇所を上記ア〜ウの摘記箇所及び認定事項の番号で記載した。)

「a 男性又は女性の尿道に挿入され、先端は膀胱内に延在して留置されるバルーンカテーテルと、(ア(ウ)、イ(イ)a))
c1 バルーンカテーテルの膀胱尿道口直下に取り付けられ、後部尿道の電気刺激を行う一対のring電極と、を有し、(イ(イ)c))
c2 後部尿道の電気刺激によって誘発される肛門括約筋の反射的収縮に関与する神経系は,陰部神経,骨盤神経と仙髄(S2−4)であり、後部尿道から仙髄迄は骨盤神経、仙髄から肛門括約筋迄は陰部神経であって、(ア(カ))
d 前記一対のring電極は、前記バルーンカテーテルの軸線に沿ってカテーテル先端側と基端側とに離隔して設けられた2つの電極からなり、(イ(イ)c))
e 前記バルーンカテーテルに設けられた電極は、前記一対のring電極以外になく、(イ(イ)e))
g 男性及び女性の、球海綿体反射の伝導時間を測定するために使用される、
h 前記一対のring電極を備えたバルーンカテーテル。」

(3)引用文献2の記載事項
原査定の拒絶理由において提示された、本願の出願前に頒布された刊行物である、《米田勝紀他、「誘発筋電図法による球海綿体反射の検討」、泌尿器科紀要、1984年9月、Vol.30、No.9、pp.1207−1211》(以下「引用文献2」という。)には、次の事項が記載されている(下線は当審にて付した。)

ア 引用文献2に記載された事項

(ア)「緒言
球海綿体反射(Bulbocavernosus reflex;BCRと略す)は仙髄反射弓のひとつであり,臨床的には肛門内に示指を挿入し,陰茎亀頭部を圧迫剌激することにより惹起される肛門括約筋の収縮反応をみて検査している.われわれは,誘発筋電図法によるBCRを観察し,検討したところ,その客観性および再現性により非常に有用な検査法であるとの結論を得たので報告する.」

(イ)「対象
成人男子23名(20〜88歳,平均60.5歳)を対象fc,排尿障害のない正常対象群8例,前立腺肥大症群8例,糖尿病による末梢神経障害群4例,仙髄2〜4以上に障害のある核上型神経因性膀胱群3例を群別に分けて検査,検討をおこなった.」

(ウ)「方法
患者を仰臥位にし,肛門括約筋の左右に使い捨て表面銀電極を貼りつけ,まず括約筋筋電図が得られていることを確認,その後誘発剌激をおこなった.陰部神経の剌激には2個の輪状電極の1本を陰茎冠状溝に,もう1本を陰茎体部に卷きつけ,また骨盤神経の剌激には,バルーンカテーテルに輪状電極を取りつけ後部尿道に留置することでおこなった(Fig.1).筋電計は,日本光電社製Neuropackを使用し,剌激は0.5Hz,0.2〜0.5msec duration,50〜150Vの定電圧でおこない,オシロスコープで剌激による誘発筋電図波形をみて,10〜30回の加算をおこなった.その結果得られた波形より潜時(latency)を測定し伝導時閭とした.」

(エ)「成績
1)正常対象群(n=8)における陰部神経剌激による肛門括約筋反射時間(Penis−Anusと略す)は31.5土5.0msecで,骨盤神経刺激によるそれは(Urethra−Anusと略す)65.4±11.1msecであった(Table1).正常波形をFig.2に示した.統計学的に,+2S.D.以上の遅れを異常とするならば,Penis−Anusで41.5msec以上,Urethra−Anusで87.6msec以上は遅延していると言うことができる.
2)前立腺肥大症群(n=8)における,Penis−Anusは33.0土5.6msec.Urethra−Anusは60.0土6.8msecであった(Table2).膀胱内圧−肛門括約筋筋電図同時測定(CMG−EMGと略す)で,DH(Detrusor Hyperreflexia)とあるのは,この場合腺腫によるinfravesical obstructionが原因であり非神経因性のものと考えており,International Continence SocietyのUnstable bladderの範疇に入るものである.
3)糖尿病による末梢神経障害群(n=4)では,Penis−Anusで43.3±7.3msec,Urethra−Anusで80.0±14.1msecとあきらかに延長していた(Table3上段).76歳,糖尿病で内科受診,排尿障害もあるため当科にて精査,Penis−Anusで49msec.Urethra−Anusで70msecであった症例を示す(Fig.3).
4)核上型神経因性膀胱群(n=3)では,Penis−Anusで37.0±5.6msec,Urethra−Anusで72.5士13.4msecであった(Table3下段).
5)個々の群別にPenis−Anusにおけるt−検定をおこなったところ,末梢神経障害群は,正常人および前立腺肥大症群に比べてあきらかに伝導時間が遅いことがわかった(P<0.01).Urethra−Anusは,例数が少ないものもあるため今回は検討をおこなわなかった(Table4).」

(オ)「考察
BCRは,生理的排尿中枢である仙髄の2〜4を介しておこるものである.反射弓は,求心路として陰茎からは陰部神経が,後部尿道からは骨盤神経が仙髄に至り,遠心路として陰部神経を介して肛門括約筋に至る.」

(カ)図1(Fig.1)は次のとおりである。















イ 引用文献2の記載事項から看取・認定できる事項
便宜のため、上記ア(カ)の図1の各要素に付番した図を下記(ア)に示し、それをもとに看取・認定事項について下記(イ)以下に説明する。

(ア)引用文献2の図1に説明のため付番した図
付番A〜J・L〜Rが示す部材・組織は、上記(2)イ(ア)の説明図と共通である。また、K’は、上記ア(ウ)の「肛門括約筋の左右に使い捨て表面銀電極を貼りつけ」なる記載により説明される表面銀電極に対応する。



(イ)図1(Fig.1)から看取・認定できる事項
上記ア(エ)の「陰部神経の剌激には2個の輪状電極の1本を陰茎冠状溝に,もう1本を陰茎体部に卷きつけ,また骨盤神経の剌激には,バルーンカテーテルに輪状電極を取りつけ後部尿道に留置することでおこなった(Fig.1).」なる記載により参照される上記ア(カ)に摘記した図1は、上記(2)ア(ク)に摘記した引用文献1の図1との比較から、共通の部材・組織について共通の番号を付すと、上記(ア)の説明図のとおりとなる。
この図1において、膀胱O内部に延在するバルーンカテーテルCの先端部D近傍の膀胱内で拡径している部分Xがバルーンカテーテルのバルーンを示すことは明らかである。
よって、引用文献2には、特に上記ア(エ)の摘記箇所及び図1から、「輪状電極を取り付けたバルーンカテーテルを尿道内に挿入し、先端部のバルーンを膀胱内で拡径することにより該バルーンカテーテルを尿道内に留置する」との技術事項(以下「引用文献2技術事項」という。)が記載されていると認められる。

(4)本件補正発明と引用発明との対比

ア 構成aの「男性又は女性の尿道に挿入され、先端は膀胱内に延在して留置されるバルーンカテーテル」は、バルーンカテーテルの技術常識に照らし、尿道に挿入可能な程度に細径のカテーテル(細管)の一部に拡大縮小可能な留置用のバルーン(風船)が取り付けられた構造の器具であると解される。よって、前記構成aのバルーンカテーテルのうちカテーテル(細管)部分は構成Aの「細長いシャフト」に、バルーン(風船)の部分は構成Bの「バルーン」に相当する。
また、構成aのバルーンカテーテルが「男性又は女性の尿道に挿入され」る点は、構成Aの細長いシャフトが「女性の尿道内に挿入される」ことに相当する。

イ(ア)構成c1の「バルーンカテーテルの膀胱尿道口直下に取り付けられ」た「一対のring電極」は、構成Cの「前記シャフトの尿道内挿入時に膀胱頸部近傍に位置」する「刺激電極」に相当する。
(イ)また、構成a〜c2において、「男性又は女性の尿道に挿入され」た「バルーンカテーテルの膀胱尿道口直下に取り付けられ」た、「後部尿道の電気刺激を行う一対のring電極」による「後部尿道の電気刺激によって誘発される肛門括約筋の反射的収縮に関与する神経系は,陰部神経,骨盤神経と仙髄(S2−4)であり、・・・仙髄から肛門括約筋迄は陰部神経であ」ることは、男女共通に、後部尿道の電気刺激による刺激が、少なくとも仙随から肛門括約筋までの神経経路において「陰部神経」を通って伝導されることに外ならない。よって、構成c1・c2における「後部尿道の電気刺激」は、構成Cの「女性の陰部神経を刺激する」ことと、少なくとも女性の神経を刺激するといえる点で共通する。

ウ 構成dで「前記一対のring電極は、前記バルーンカテーテルの軸線に沿ってカテーテル先端側と基端側とに離隔して設けられた2つの電極からな」るのであるから、該「2つの電極」のうち、バルーンカテーテルの先端部側に設けられた電極、同じく基端部側に設けられた電極はそれぞれ、構成Dの「第1電極」、「第2電極」に相当する。
よって、構成dの「前記一対のring電極は、前記バルーンカテーテルの軸線に沿ってカテーテル先端側と基端側とに離隔して設けられた2つの電極」は、構成Dの「前記刺激電極は、先端部側に位置する第1電極と基端部側に位置する第2電極との電極対からな」ることに相当するといえる。

エ 構成eにおいて、「前記バルーンカテーテルに設けられた電極は、前記一対のring電極以外にな」いのであるから、構成Fで特定される「筋活動電位を記録する記録電極」も設けられていない。よって、構成eの「前記バルーンカテーテルに設けられた電極は、前記一対のring電極以外にない」ことは、構成E〜Fの、「前記シャフトには」「筋活動電位を記録する記録電極は設けられていない」ことに相当するといえる。

オ 構成gの(バルーンカテーテルが)「男性及び女性の、球海綿体反射の伝導時間を測定するために使用される」ことは、構成Gの(電極付き挿入体が)「女性の球海綿体反射モニタリングに使用される」ことに相当する。

カ 構成fの「一対のring電極を備えたバルーンカテーテル」は、構成aによれば「男性又は女性の尿道に挿入」されるものであるから、構成Gの「電極付挿入体」に相当するといえる。

(5)一致点・相違点の認定
上記(4)によれば、本件補正発明と引用発明とは、次のアの点で一致し、イの各点で相違する。

ア 一致点
「A 女性の尿道内に挿入される細長いシャフトと、
B’ バルーンと、
C’ 前記シャフトの尿道内挿入時に膀胱頸部近傍に位置して女性の神経を刺激する刺激電極と、を有し、
D 前記刺激電極は、先端部側に位置する第1電極と基端部側に位置する第2電極との電極対からなり、
E’ 前記シャフトには前記刺激電極が設けられ、
F 筋活動電位を記録する記録電極は設けられていない、
G 女性の球海綿体反射モニタリングに使用される、
H 電極付挿入体。」

イ 相違点

(ア)相違点1(構成B)
本件補正発明のバルーンは「前記シャフトの先端部近傍に配置され、女性の膀胱内で膨張可能」であるのに対し、引用発明では、バルーンの配置位置や膨張部位が不明である点。

(イ)相違点2(構成C・E)
相違点1に関連し、本件補正発明では刺激電極の設置位置が「バルーン基端部側」であり「バルーン基端部側にのみ」設けられるものであると特定されるのに対し、引用発明ではバルーンの配置位置が明示的でないことに起因して、バルーンに対する刺激電極の設置位置が不明である点。

(ウ)相違点3(構成C)
本件補正発明が、刺激電極が「女性の陰部神経を刺激」するとしているのに対し、引用発明では構成c2として男女共、「後部尿道の電気刺激によって誘発される肛門括約筋の反射的収縮に関与する神経系は,陰部神経,骨盤神経と仙髄(S2−4)であり、後部尿道から仙髄迄は骨盤神経、仙髄から肛門括約筋迄は陰部神経であ」るとしている点。

(6)各相違点についての判断

ア 相違点1について

(ア)引用発明において、尿道に挿入され、先端は膀胱内に延在して留置されるバルーンカテーテルにおけるバルーンが、カテーテル(シャフト)の先端部近傍に配置され、留置のために膀胱内で膨張するように設計されるものであることは、引用発明と同様に膀胱頸部近傍の上部尿道に刺激電極が位置するように尿道内に挿入・留置されるバルーンカテーテルに関する引用文献2から上記(3)イ(イ)に示す引用文献2技術事項として認定される技術事項からみて、明らかである。
よって、相違点1は実質的なものとはいえない。

(イ)また、仮に上記(ア)のとおり明らかとまでいえないとしても、尿道内に挿入・留置されるバルーンカテーテルを、バルーンカテーテル先端部にバルーンを配置して、該バルーンを膀胱内で膨張させることによって尿道内に留置するようにすることは、上記引用文献2(引用文献2技術事項)のほか、本願の出願前に頒布された刊行物である特開2009−195727号公報(以下「周知文献1」という。下記(a)の摘記事項参照。)、同特開2013−132364号公報(以下「周知文献2」という。下記(b)の摘記事項参照。)にも記載されるとおり周知である。
よって、引用発明における「尿道に挿入され、先端は膀胱内に延在して留置されるバルーンカテーテル」を前記周知の技術事項をもとに具体化して相違点1の構成とすることは、当業者が容易になし得たことである。

(a)周知文献1の記載事項
下線は特に参照すべき箇所について当審にて付与。以下同様。

「【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は留置カテーテルに関する。さらに詳しくは、動物や人体の尿道を通して膀胱まで挿入し、排尿を容易にしたり、膀胱内から採尿したり、膀胱内に投薬するためなどに用いる留置カテーテルに関する。
・・・
【0004】
他方、人体の治療の場合は、図8に示すように、先端にバルーンを設けたカテーテル(バルーンカテーテル)62を用いて尿道61内に留置している。なお、符号63は膀胱である。カテーテル62の先端には、弾力的に膨縮自在のバルーン部64が設けられており、カテーテル62の基部には枝分かれした空気孔65を設けている。そしてこの空気孔65から空気を送気して膀胱63内に挿入したバルーン部64を拡張させ、空気孔65を閉じることにより、カテーテル62が尿道61から抜けないようにする。」

(b)周知文献2の記載事項
「【0021】
[第1実施例]
図1および図2は、本発明の第1実施例におけるバルーンカテーテルを示している。これらの各図において、1は管腔臓器内に挿入可能な柔軟性に富む筒状のカテーテルシャフトであって、このカテーテルシャフト1は、互いに前後方向にスライド可能な外筒シャフト2と、中筒シャフト3と、内筒シャフト4とにより構成される。外筒シャフト2の先端部2Aと、内筒シャフト4の先端部4A近傍との間には、外部に露出する外表面を有する外バルーン5が設けられ、中筒シャフト3の先端部3Aと、内筒シャフト4の先端部4A近傍との間には、外バルーン5に外表面が囲まれた内バルーン6が設けられる。これら二重の外バルーン5と内バルーン6とにより、カテーテルシャフト1の先端側でバルーン内バルーン構造のバルーン部7が装着される。

・・・
【0047】
[第3実施例]
図4は、本発明の第3実施例におけるバルーンカテーテルを示している。本実施例におけるバルーン部7は、第1実施例と同様に、内バルーン6のシャフト接続口6A,6Bを結ぶ直線が、内バルーン6の中心線に一致して設けられ、外バルーン5のシャフト接続口5A,5Bを結ぶ直線が、外バルーン5の中心線より偏移して設けられている。但し、第1実施例では外バルーン5が内バルーン6と同じく球形であったのに対し、本実施例では内バルーン6が球形であるものの、外バルーン5は扁球状に形成されている。その他の構成は、第1実施例と共通している。
【0048】
つぎに、本実施例におけるバルーンカテーテルの使用方法について説明する。図4は、前立腺中葉肥大の治療に適用した例を示している。
・・・
【0050】
先ず、第1実施例と同様にエアー抜きとバルーン部7の収縮を行なった後、先端ループ型のガイドワイアー23を尿道内に挿入し、このガイドワイアー23を介して、予め収縮させたバルーン部7を、カテーテルシャフト1と共に尿道内に挿入する。バルーン部7を膀胱内にまですすめたら、シリンジ31から送気路21を通じて外バルーン5内の充填部11にエアー(空気)を注入して、外バルーン5を拡張し、シリンジ32から送液路22を通じて内バルーン6内の充填部12に充填剤を注入して、内バルーン6を拡張する。」

イ 相違点2について
上記アで説示したとおり、引用発明のバルーンカテーテルにおけるバルーンを膀胱内に位置し膀胱内で膨張させるものであることは、引用発明の構成に含まれる技術事項であるか、または引用発明(及び周知の技術事項)に基づき容易想到な構成である。
そうすると、引用発明の構成c1において、一対のring電極の取り付け位置として特定される「膀胱尿道口直下」は、前記引用発明または引用発明に基づき容易想到である構成において、バルーンカテーテル(シャフト)の「バルーン基端部側」にあたる。
また、構成eにおいて「前記バルーンカテーテルに設けられた電極は、前記一対のring電極以外にな」いと特定されているのであるから、前記引用発明または引用発明に基づき容易想到である構成において、刺激電極は、バルーンカテーテル(シャフト)の「バルーン基端部側」のみに設けられているといえる。
以上のとおりであるから、相違点2は実質的なものでないか、または、引用発明において相違点2の構成とすることは、周知の技術事項に基づいて当業者が容易になし得たことである。

ウ 相違点3について

(ア)引用発明の構成a〜c2における、
「男性又は女性の尿道に挿入され」た「バルーンカテーテルの膀胱尿道口直下に取り付けられ」た、「後部尿道の電気刺激を行う一対のring電極」による「後部尿道の電気刺激によって誘発される肛門括約筋の反射的収縮に関与する神経系は,陰部神経,骨盤神経と仙髄(S2−4)であり、・・・仙髄から肛門括約筋迄は陰部神経であ」ること
は、男女共通に、後部尿道の電気刺激による刺激(信号)が、少なくとも仙随から肛門括約筋までの神経経路において「陰部神経」を通って伝達されることに外ならず、構成c1・c2における「後部尿道の電気刺激」は男女共通に陰部神経に信号が誘起されるという意味において、いわば陰部神経を間接的に刺激しているといえる 。
そして、構成Cの「陰部神経を刺激」するとは、引用発明のような、刺激が神経経路を介して対象神経に伝達されるような、間接的な刺激を排除しているとはいえない。
よって、相違点3は実質的なものではない。

(イ)仮に、構成Cの「女性の陰部神経を刺激」なる特定事項が、陰部神経の直接的な刺激のみを意味するとした場合について以下検討する。

a.本願発明の装置が陰部神経を刺激するものであるとの請求人の主張について、当初明細書等には、本願発明の装置が刺激する神経に関し、

「【0013】
本発明者らは、陰茎や陰核等の体表にシール電極を貼付する手法では偽陽性の可能性を低減させることは困難であると考え、体表にシール電極を貼付するのではなく患者の尿道内に電極を挿入することにより体内から陰部神経を刺激する手法を考案した。また正確なBCRモニタリングの実現のためには、陰部神経に適切に電気刺激を伝える必要があるため電極を陰部神経近傍に位置させる必要があると考えられてきたが、しかし、本発明においては陰部神経から離間した位置である膀胱頸部近傍に電極を位置させて陰部神経を刺激する。」
「【0022】
図3に示されるように、陰部神経は仙骨神経叢から分岐し、骨盤底を走行し尿道口・生殖器に達する。上述したように、本発明においては、陰部神経に電気刺激を与える刺激電極300を、あえて陰部神経から離間した位置である膀胱頸部近傍に位置させるが、そのために刺激電極300は膀胱内で膨張可能なバルーン200の基端部側に設けられている。膀胱頸部は膀胱と尿道とをつなぐ部分であり、図3では膀胱入口として示されている。なお図3では女性の場合の陰部神経の流れを記載しているが、本発明の適用対象は女性に限定されるものではなく男性にも適用可能であり、更には成人のみならず小児にも適用可能である。
【0023】
図4(A)に示されるように、刺激電極を陰部神経近傍に位置させた場合にあっては患者の体動等により刺激電極が対外に露出してしまう場合がある。一方、図4(B)に示されるように、刺激電極を膀胱頸部近傍に位置させた場合は、意外にも、陰部神経への電気刺激は可能であり、且つ、患者の体動等があっても安定的に刺激電極を体内に留置することが可能である。」

と、男女の別なく説明されており、女性においてのみ陰部神経が刺激されるとの認識が示されているとはいえない。むしろ、【0013】第1文において「陰茎や陰核」が併記されていることや、【0022】で「なお図3では女性の場合の陰部神経の流れを記載しているが、本発明の適用対象は女性に限定されるものではなく男性にも適用可能であり、更には成人のみならず小児にも適用可能である。」と述べていること、膀胱頸部への刺激電極の配置により女性のみが陰部神経の刺激を受けることについての言及が明細書等に見いだせないこと、からみて、本件補正発明の「シャフトの尿道内挿入時に膀胱頸部近傍に位置」する「刺激電極」は、男女共通に「陰部神経から離間した位置である膀胱頸部近傍に電極を位置させて陰部神経を刺激する」ものであるとの認識に立つものと解される。

b.そして、本件補正発明と引用発明との間で、膀胱(及び尿道)と刺激電極との位置関係について相違がないこと(共に「膀胱頸部近傍」で相違ないこと)は上記(4)・(5)で説示したとおりである。

c.また、「膀胱頸部近傍」なる位置の特定に尿道の長さは関係しないから、当該特定に男女間で差がないことも明らかである。

d.また、引用文献1では、上記特に(2)ア(カ)の摘記事項から明らかなとおり、膀胱頸部及び陰茎・陰核の電気刺激と反射の伝導時間を測定した上で、男女共に前者は後者より長いこと、それが反射弓を構成する神経経路の相違によると推定されること、について考察しているのに対し、本願の明細書等においては、同様の検証を示すことなく、【0022】〜【0023】等の記載において、膀胱頸部への電気刺激が性別を問わず陰部神経を刺激するものと断定しており、その断定根拠が示されていない。よって、そもそも、本件補正発明における(女性において)陰部神経が直接刺激されるとの作用効果の存在自体が、実験的裏付けを欠いており、当該作用効果を発見したといえるのか、又は、仮説にとどまるのか、判然としない。

e.そうすると、相違点3は、「膀胱頸部近傍」なる引用発明と相違ない箇所に対する電気刺激によって直接刺激を受ける神経に、(特に女性の場合)陰部神経が含まれるという作用効果上の相違に過ぎないといえるし、当該作用効果の存在について明細書等における明確な裏付けを欠いてもいる。
さらに、仮に当該作用効果の存在について何らかの裏付けが得られるとしても、当該相違点は、引用発明と相違ない刺激電極による該作用効果の発見にとどまる。

f.以上のとおり、本件補正発明の構成Cにおける、「刺激電極」についての「女性の陰部神経を刺激する」との特定事項は、一致構成である構成C’の手段により、「女性の陰部神経」が刺激され得るとの作用効果を認識、または発見したことを特定するにとどまるから、装置発明である本件補正発明の構成について、当該特定事項の有無により実質的な差異をもたらすものとはいえず、当該作用効果の特定のみによっては、構成Cについて引用発明と相違するとはいえない。
よって、相違点3は実質的なものとは認められない。

エ 小括
以上から、本件補正発明は、引用発明、引用文献2、及び周知の技術事項に基づいて、当業者が容易に発明することができたものである。

(7)請求人の主張について

ア 請求人は審判請求書(主張ア〜エ)及び上申書(主張オ〜キ)において、概略以下の主張をする。

(主張ア)引用文献1の図1には、男性の場合の球海綿体反射の測定が記載されています。電極は二つあります。一つは、陰茎背面の電極です。陰茎背面の電極は陰茎背神経を電気刺激します。もう一つは、Urethra近傍の電極です。Urethra近傍の電極は後部尿道を電気刺激します。
正常男性の尿道の長さは、外尿道口から膀胱頸部まで約20cmです。そのため、Urethra近傍の電極の電気刺激は陰茎背神経には到達しません。男性の場合、陰茎背神経を電気刺激するためには、Urethra近傍に電極を設けるだけでは足りず、陰茎背面に電極を設ける必要があります。
このように、文献1の図1は男性の場合にのみ相当するものです。

(主張イ)本願の図4には女性の場合の球海綿体反射モニタリングに使用される電極付挿入体が記載されています。電極は一つのみ設けられています(第1電極と第2電極とからなりますが機能的には電極は一つです)。それは膀胱頸部近傍に位置する電極です。この膀胱頸部近傍に位置する電極は女性の陰部神経を電気刺激します。なぜならば正常女性の尿道の長さは、外尿道口から膀胱頸部まで約4cmしかないからです。そのため、膀胱頸部近傍の電極の電気刺激は陰部神経に到達するのです。このように男性と女性とでは事情が大きく異なります。

(主張ウ)文献2には「後部尿道からは骨盤神経が仙髄に至り、遠心路として陰部神経を介して肛門括約筋に至る。」と記載されております。ところで正常女性の尿道の長さは外尿道口から膀胱頸部まで約4cmしかありませんが、正常男性の尿道の長さは外尿道口から膀胱頸部まで約20cmもあるため、男性の場合、引用発明1の「刺激電極」は、「後部尿道」を刺激しますが「陰部神経」を刺激するものではありません。

(主張エ)今回の補正では、文献1記載の発明との相違点を明確にしました。即ち、文献1記載の発明では、シャフトには、バルーン基端部側に位置する電極(換言すればシャフトの先端部側に位置する電極)と、シャフトの基端部側に位置する電極と、が設けられています。一方で、本願発明では、シャフトには、バルーン基端部側にのみ刺激電極が設けられています。

(主張オ)文献1の第20頁には、確かに、仙髄から肛門括約筋迄は陰部神経であると記載されています。肛門括約筋とは肛門を取り巻くように走る筋で肛門を閉じる働きがある筋肉です。仙髄とは、脊椎の脊髄腔の中を通り中枢神経系の脊髄の脊椎の最下部の仙骨の中を通る神経部分です。
しかしながら本願発明において陰部神経とは陰核を意味します。
そのため文献1のFig1の膀胱頸部近傍に位置する刺激電極が「仙髄から肛門括約筋までの神経」を刺激するものであっても、本願発明の刺激電極が陰部神経を刺激することを示唆するものではないと思料致します。

(主張カ)文献1ではFig.1に記載されておりますように電極は二つ設けられて降ります。一つは、陰茎背面に位置する電極です。陰茎背面の電極は陰茎背神経を電気刺激します。もう一つは、Urethra近傍に位置する電極です。Urethra近傍の電極は後部尿道を電気刺激します。一方で、本願発明では一方では、バルーン基端部側にのみ刺激電極が設けられています。

(主張キ)確かに引用発明1は女性に用いられるものです。しかしながら引用発明1のFig.1に記載された構成は男性にのみ用いられるものです。Fig.1に記載されているものはあきらかに男性であり、男性の球海綿体反射の伝導時間を測定する場合の図です。女性の場合はこのFig.1の構成を使用致しません。文献1の第16頁右欄には「女性の場合は、陰核をplate電極で電気刺激した」と記載されています。
また、審査官殿は、引用発明1の「後部尿道」を「電気刺激」する「ring電極」で、「陰部神経」を刺激することに、何ら困難性はないと主張しますが、引用発明1のFig.1の図は男性です。男性と女性では性器の構造が相違しますので神経経路に男女の区別がないとする認定は難しいものと思料致します。

イ 請求人の主張について

(ア)主張アについて
(a)上記(2)ア(イ)・(ウ)や、(2)ウ(イ)の記載・認定事項から明らかなとおり、引用文献1のバルーンカテーテルによる後部尿道の電気刺激による球海綿体反射の伝導時間の測定は、男女共に対象として行われるものとして記載され、同(2)ア(ウ)において、バルーンカテーテルを男女で異なる構成とすることは記載されていない。
また、陰茎背神経の電気刺激については、女性を対象とする場合、上記(2)ア(イ)に「女性のばあいは,陰核をplate電極で電気刺激した」と記載されることから、女性を対象とする場合、男性を対象とした図1において陰茎表面に取り付けられているplate電極(M)は、陰核への取り付けに置き換えて解釈すべきことが明らかであるといえる。請求人は「陰茎背神経を電気刺激するためには、Urethra近傍に電極を設けるだけでは足りず、陰茎背面に電極を設ける必要があります。」と主張するが、引用文献1では、女性の場合も陰茎表面に代えて陰核にplate電極を取り付けると説明されている。
また、引用文献1において、陰茎や陰核の電気刺激による伝導時間と、後部尿道の電気刺激による伝導時間とが、相互に独立して測定・評価されていることは、上記(2)ウ(ウ)・(エ)でも説示したとおりであるから、仮に図1において、陰茎背面への電気刺激を、女性を対象とした場合に行わないとしても、後部尿道の電気刺激による伝導時間は測定できることが明らかであり、この点でも、図1が男性を対象として描かれていることが、女性への適用やその想起を妨げる根拠となるとはいえない。
以上から、引用文献1の図1が、そして図1に記載された引用文献1のバルーンカテーテルが、男性のみを対象としたものである旨の請求人の主張は成り立たない。

(b)また、「男性の場合、陰茎背神経を電気刺激するためには、Urethra近傍に電極を設けるだけでは足りず、陰茎背面に電極を設ける必要があります。」との主張についても、引用文献1において、陰茎や陰核の電気刺激による伝導時間と、後部尿道の電気刺激による伝導時間とが、相互に独立して測定・評価されていることは、上記(2)ウ(ウ)・(エ)でも説示したとおりであるから、引用文献1(引用発明)において、陰茎背面と後部尿道との電気刺激は相互に独立であり、両刺激が協働して「陰茎背神経を電気刺激するため」に行われていると解し得る記載は見いだせないから、前記主張は根拠を欠き、失当である。

(イ)主張イ・ウについて
主張イは、仮に何らかの根拠を有する主張であるとしても、膀胱頸部近傍に位置する電極による電気刺激が、(男性であれば陰部神経を電気刺激せず)女性であれば陰部神経を電気刺激する、との、「膀胱頸部近傍に位置する電極」という共通の構成に対する、男女の生体反応の相違を主張するものに過ぎず、本件補正発明と引用発明との装置構成の相違を主張するものではない。
また、引用発明においても、膀胱頸部近傍に配置した電極による電気刺激により刺激を受ける、肛門括約筋に至る神経回路に、陰部神経が含まれることは、構成c2として認定したとおりである。
また、引用発明が女性も対象とするものであることは上述のとおりである。
よって、主張イを考慮しても、上記(6)においてした、本件補正発明の容易想到性の係る判断に変わりはない。主張ウについても同様である。

(ウ)主張エについて
引用発明のバルーンカテーテルには、膀胱尿道口直下に設けられた一対の刺激電極以外に何らの電極も設けられていないことは、構成eとして認定し、対比((5)エ)においても説示したとおりである。
よって、請求人の「文献1記載の発明では、シャフトには、バルーン基端部側に位置する電極(換言すればシャフトの先端部側に位置する電極)と、シャフトの基端部側に位置する電極と、が設けられています。」との主張は失当である。
なお、引用文献1の図1において、「陰茎背面にとりつけたplate電極またはring電極」は、文字通り「陰茎背面」に取り付けられた電極であり、バルーンカテーテルに取り付けられたものではない。

(エ)主張オについて
一般的な技術常識から見れば、陰部神経と陰核とは異なる器官であり同一視できないし、本件明細書中にも、陰部神経とは陰核を意味するとの定義についての言及は見いだせないから、主張オは失当である。
なお、膀胱頸部近傍における電気刺激により陰部神経が刺激されることについては、相違点3として上記(6)ウにおいて説示したとおりである。

(オ)主張カについて
「バルーンカテーテルに設けられた電極は、前記一対のring電極以外にな」いことは(2)イ(イ)の看取・認定事項に基づいて引用発明の構成eとして認定したとおりである。
請求人が主張する、引用文献1に記載された「陰茎背面の電極」は文字通り「陰茎の背面」に取り付けられる電極であって、陰茎内部に挿通されるカテーテル(シャフト)に取り付けられた電極ではないから、構成Eの「前記シャフトには前記バルーン基端部側にのみ前記刺激電極が設けられ」なる特定事項に関係しない。
よって、主張カは失当である。

(カ)主張キについて
請求人も認めるとおり、引用発明は女性にも用いられるものである。
引用文献1の図1に関する本文中の記載
「球海綿体反射の伝導時間は,陰茎背神経および後部尿道を電気刺激してから反射的な肛門括約筋の収縮が誘発される迄の潜時として測定される.陰茎背神経の電気刺激は陰茎背面にとりつけたplate電極またはring電極でおこなった.女性のばあいは,陰核をplate電極で電気刺激した.後部尿道の電気刺激は,ring電極をとりつけたバルーンカテーテルを尿道に挿入、留置して施行した.反射的な肛門括約筋の収縮は,anal plugまたは針電極で記録した(図1).」
において、男女間で相違するとされているのは、カテーテル以外の電極である陰茎・陰核に取り付けられる電極のみであり、カテーテルの構造が男女間で相違するとは記載されておらず、膀胱の尿道口直下という男女間で存否が分かれない電極の取り付け位置からみても、男女間でカテーテルの構造が異なることが自明であるともいえない。
以上から引用文献1において図1に男性を想定した図が記載されているのは例示にすぎず、女性については、前記本文中の記載に基づいて、図中、陰茎外表面の電気刺激(手段)について女性の場合は陰核への電気刺激(手段)に置き換えて解釈する意図であることが明らかである。
よって、主張キは妥当しない。

(8)まとめ
したがって、上記(6)〜(7)において検討したように、本件補正発明は、引用発明、引用文献2の記載事項、及び周知の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができない。

4.むすび
上記3.において検討したことからみて、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について

1.本願発明
本件補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(本件補正前発明)は、上記第2の1.(1)で示したとおりのものである。

2.原査定の拒理の理由
原査定の拒絶の理由は、概略、次のとおりである。

(1)理由1.(新規性):この出願の請求項1に係る発明は引用文献1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。

(2)理由2.(進歩性):この出願の請求項1〜3に係る発明は、引用文献1及び2に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

3.引用文献に記載された事項
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1・2の記載事項は、上記第2の3.(2)・(3)に記載したとおりである。

4.対比・判断
本件補正前発明は、本件補正発明の上記構成Eを上記構成pEに置き換え、シャフトに対する刺激電極の設置形態について、本件補正後の構成Eでは「前記シャフトには前記バルーン基端部側にのみ前記刺激電極が設けられ」ると特定されるものを、構成pEの「前記シャフトには前記刺激電極のみが設けられ」るとの特定へと変更したものにあたる。ここで、「前記刺激電極」は構成pC(構成C)において「前記シャフトの尿道内挿入時に膀胱頸部近傍に位置して女性の陰部神経を刺激する、バルーン基端部側に設けられる刺激電極と、を有」する旨特定されているものである。
一方、構成Cの「刺激電極」に構成c1等の「一対のring電極」が相当することは上記第2の3.(4)イ(ア)で説示したとおりであり、該「一対のring電極」についての構成eの「前記バルーンカテーテルに設けられた電極は、前記一対のring電極以外にな」いとの特定事項は、前記構成pEの「前記シャフトには前記刺激電極のみが設けられ」なる特定事項に相当する。
そうすると、本件補正前発明と引用発明との間に、上記第2の3.(5)イで挙げた各相違点以外の相違点は認められない。

したがって、本件補正前発明は、引用発明、引用文献2、及び周知の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるといえる。

5.むすび
以上のとおり、本件補正前発明は、引用発明、引用文献2、及び周知の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。

したがって、その余の請求項に係る発明について論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。


 
別掲 (行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この審決に対する訴えは、この審決の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、特許庁長官を被告として、提起することができます。
 
審理終結日 2022-02-25 
結審通知日 2022-03-01 
審決日 2022-03-14 
出願番号 P2017-181205
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A61B)
P 1 8・ 113- Z (A61B)
P 1 8・ 575- Z (A61B)
最終処分 02   不成立
特許庁審判長 井上 博之
特許庁審判官 樋口 宗彦
蔵田 真彦
発明の名称 電極付挿入体  
代理人 特許業務法人前田特許事務所  

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