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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 取り消して特許、登録 H01L
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H01L
管理番号 1385048
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2022-06-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2021-09-10 
確定日 2022-05-24 
事件の表示 特願2019−563682「少なくとも1つの電子部材上の少なくとも1つの接触表面の接触領域拡大のためのアダプタシステムおよび接触領域拡大のための方法」拒絶査定不服審判事件〔平成30年10月11日国際公開、WO2018/184755、令和 2年 2月27日国内公表、特表2020−506559、請求項の数(14)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2018年(平成30年)2月6日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2017年4月4日、欧州特許庁)を国際出願日とする出願であって、令和2年9月16日付けで拒絶理由通知がされ、同年12月18日付けで手続補正がされるとともに意見書が提出され、令和3年4月28日付けで拒絶査定(原査定)がされ、これに対し、同年9月10日に拒絶査定不服審判の請求がされると同時に手続補正がされたものである。

第2 原査定の概要
原査定(令和3年4月28日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。

1 本願請求項1〜4、6〜14に係る発明は、以下の引用文献1に記載された発明、引用文献2に記載された技術的事項及び引用文献4に記載された周知技術に基づいて、本願請求項5に係る発明は、以下の引用文献1に記載された発明、引用文献2に記載された技術的事項、引用文献3に記載された周知技術及び引用文献4に記載された周知技術に基づいて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献等一覧
1.特開2000−277557号公報
2.特開2013−51389号公報
3.特開2003−229449号公報(周知技術を示す文献)
4.特開2016−12659号公報(周知技術を示す文献)

第3 審判請求時の補正について
審判請求時の補正は、特許法第17条の2第3項から第6項までの要件に違反しているものとはいえない。
審判請求時の補正によって請求項1、9に記載されていた「前記固定要素が、少なくとも1つの接着剤、ポリマー箔、特にポリイミド箔、またはポリマー基板を有し」を、「前記固定要素が、少なくとも、ポリマー箔、特にポリイミド箔、またはポリマー基板を有し」とする補正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、「前記固定要素が、少なくとも、ポリマー箔、特にポリイミド箔、またはポリマー基板を有し」という事項は、本願の出願当初の明細書の段落【0017】に記載されているから、当該補正は新規事項を追加するものではない。
そして、「第4 本願発明」から「第6 対比・判断」までに示すように、補正後の請求項1〜14に係る発明は、独立特許要件を満たすものである。

第4 本願発明
本願請求項1〜14に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」〜「本願発明14」という。)は、令和3年9月10日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1〜14に記載された事項により特定される発明であり、そのうちの本願発明1は、以下のとおりの発明である。

「【請求項1】
少なくとも1つの電子部材(9、9‘、9“)上の少なくとも1つの接触表面(11、11a‘、11b‘、11c‘、11d‘、11e‘、11“)の接触領域を拡大するためのアダプタシステムであり:
第1面および前記第1面と向き合う第2面を有する少なくとも1つの基板(3、3a‘、3b‘、3“);
少なくとも領域的に前記基板(3、3a‘、3b‘、3“)の前記第1面上に配置される少なくとも1つの接触要素(5、5a‘、5“)を有し、前記接触要素(5、5a‘、5“)が前記第1面を前記電子部材(9,9‘、9“)の前記接触表面(11,11a‘、11b‘、11c‘、11d‘、11e‘、11“)と電気的に接続するために適合され、前記基板(3、3a‘、3b‘、3“)の前記第2面の表面が前記電子部材(9、9‘、9“)の前記接触表面(11、11a‘、11b‘、11c‘、11d‘、11e‘、11“)より大きく、
前記アダプタシステムは、
前記基板(3、3a‘、3b‘、3“)の前記第1面上の少なくとも領域的に前記接触要素(5、5a‘、5“)の周囲に配置された少なくとも1つの固定要素(7、7a‘、7“)をさらに具備し、前記固定要素(7、7a‘、7“)が前記電子部材(9、9‘、9“)を機械的に接触するために特に前記基板(3、3a‘、3b‘、3“)の前記第1面を前記電子部材(9、9‘、9“)と機械的に接続するために適合され、
前記固定要素が、少なくとも、ポリマー箔、特にポリイミド箔、またはポリマー基板を有し、
前記接触要素が焼結ペーストを有し、
前記基板が電導金属要素を有する、アダプタシステム。」

なお、本願発明2〜14の概要は以下のとおりである。
本願発明2〜8は、本願発明1を減縮した発明である。
本願発明9は、本願発明1に対応する方法の発明であり、本願発明1とカテゴリ表現が異なるだけの発明である。
本願発明10〜13は、本願発明9を減縮した発明である。
本願発明14は、本願発明1の「アダプタシステム」を引用する「電子部材」の発明である。

第5 引用文献、引用発明等
1 引用文献1について
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1には、図面とともに次の事項が記載されている。

「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、半導体素子の電極とボンディングワイヤ等の接続部材との接合構造に関する。
【0002】
【従来の技術】従来の半導体装置においては半導体素子の(FETの場合)ドレイン電極は外部回路基板あるいは金属板に直接はんだ等の接合部材で接合され、ゲート電極、ソース電極はアルミニュウム製のボンディングワイヤ(金属細線)を介して外部回路と超音波振動により接合されている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】しかし、特に大電力半導体装置では大電流を流すため、大電流を流すソース電極に接続されているアルミニュウム製のボンディングワイヤの本数を多くする必要があるが、電極の面積により制限され、また、ボンディングワイヤの本数が多いと接合時間が多く掛かる。また、ボンディングワイヤはもともと電極に対する接合面積が小さいため、ボンディングワイヤと電極との接合部分の接続抵抗が少しでも大きいと、ボンディングワイヤが大電流のため大きな発熱を起こし接合部分が剥離する場合がある。またボンディングワイヤの接合抵抗を小さくするために、すなわち確実に接続するために、超音波振動工程における加重、時間等の負荷を掛け過ぎると電極に傷がはいる等して素子が破壊する。
【0004】本発明の目的は、半導体素子の電極の接合部分が剥離することなく大電流を流すことができ、また超音波振動による半導体素子の破壊を防止することにある。」

「【0006】
【発明の実施の形態】本発明の第1の実施の形態に係る半導体装置を図1を用いて説明する。
【0007】図1は第1の実施の形態に係る半導体装置を示す図で、(a)は斜視図、(b)はA−A断面図である。1はその上面に、大電流が流れる2個のソース電極3と、信号電流が流れるゲート電極4が配置され、裏面にドレイン電極2が配置された半導体素子である。尚、本実施の形態の場合、半導体素子1の表面にあるソース電極3とゲート電極4以外の領域は防湿等を目的としてコーティングが施されており、非実装領域とされる。
【0008】5はソース電極3と接合される電極接合部71を有するソースリード部材である。ソースリード部材5は厚さ約0.2mm、幅約2.0mmをなし、銅合金板からプレス成形された平板形状のものである。そしてソースリード部材5の一端が電極接合部71として構成され、その他端がはんだ付けによりソースパターン9と接合されている。本図の場合、2つのソース電極3に対応して2本のソースリード部材3が設けられている。
【0009】この電極接合部71はソースリード部材5より延設されたものであるが、ソース電極3(四角形状を有している)とほぼ同じ面積の平板形状をなすものである。この電極接合部71ははんだ91を介してソース電極3と接合されるものである。
【0010】そして、本実施の形態の場合、本図(b)に示すようにソース電極3と電極接合部71とが所定の間隔で対向するよう、ソース電極3と対向する面の電極に当接する箇所にプレス押し出しで形成された直径0.6mm、高さ0.1〜0.5mmの少なくとも1つの突起51が形成されている。これによって、突起51の厚さの分はんだ91が厚くなり、大電流によって発生する接合部にかかる熱応力をはんだ91で吸収することができる。
【0011】尚、本実施の形態では該突起51は2つのソース電極3に対して夫々1個づつ設けられている。
【0012】6はゲート電極4とゲートパターン10とを接続するアルミニウム製のボンディングワイヤである。7は表面に2箇所設けられたドレインパターン8,81、ソースパターン9、ゲートパターン10を配置するベース基板である。
【0013】またベース基板7にはこれらドレインパターン81、ソースパターン9、ゲートパターン10とからの電気信号を集約し、装置外部との接続に用いられる外部接続部材11が3本立設されている。」

「【0031】本発明の第3の実施の形態に係る半導体装置を図3を用いて説明する。
【0032】図3は第3の実施の形態に係る半導体装置の断面を示す図である。尚、第1の実施の形態に係る半導体装置と同じ構成に付いては、同じ符号を付し説明を省略する。19は銅合金または鉄ーニッケル合金など電極材と熱膨張係数の近似した金属材料からなり、2つのソース電極3に対応する位置に2つのパッド脚部20が設けられたパッドである。
【0033】このパッド脚部20のソース電極3と接合する部分の面積はソース電極3の面積とほぼ同じとなるよう形成されており、それぞれの脚部20ははんだ94でソース電極3に接合されている。
【0034】パッド19の上面にはこの2つのソース電極3に対応するべく2つのボンディングワイヤ16、16aの一端が超音波振動によりそれぞれ接合されている。またこのボンディングワイヤ16、16aの他端は共通してソースパターン9に超音波振動により接合されている。
【0035】次に製造方法について説明する。尚、本実施の形態はソース電極とパッドの接続方法のみ異なるのでこの部分の説明をする。
【0036】本実施の形態では、2つのソース電極3とパッド19の脚部20をそれぞれリフロー接合法によりはんだ94で接合する。
【0037】次に、パッド19のソース電極3との接合面の反対面、すなわち上面にボンディングワイヤ16、16aの一端を超音波振動で接合する。またボンディングワイヤ16、16aの他端はソースパターン9に超音波振動で接合される。
【0038】以上説明したように本実施の形態によれば、第2の実施の形態による作用効果だけでなく、1つのパッド上に複数のボンディングワイヤを接合させることができ、半導体素子の特性に合わせて接合させるべきボンディングワイヤの本数の自由度を向上させることができる。
【0039】尚、本例のような脚部20を第1の実施の形態のソースリード部材5に適用しても良い。」

図1,3は、以下のとおりのものであり、図3から、パッド19の上面は半導体素子1のソース電極3より大きいことが見てとれる。




引用文献1の段落【0037】の記載から、半導体装置において、パッド19の下面がソース電極3との接合面となることは明らかである。
したがって、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「上面に2個のソース電極3が配置された半導体素子1と、
金属材料からなり、下面側であって、2つのソース電極3に対応する位置に2つのパッド脚部20が設けられたパッド19を備え、
それぞれの脚部20ははんだ94でソース電極3に接合されており、
パッド19の上面にはこの2つのソース電極3に対応するべく2つのボンディングワイヤ16、16aの一端がそれぞれ接合されており、
パッド19の上面は半導体素子1のソース電極3より大きい半導体装置。」

2 引用文献2について
また、原査定の拒絶の理由に引用された引用文献2には、図面とともに次の事項が記載されている。

「【背景技術】
【0002】
近年パワーモジュールパッケージにおいては小型、低背、高密度実装化が進み、その実現のために、従来のワイヤーボンドによる実装方式から、セラミックス多層基板等を用いて半導体素子をフリップチップ接続する実装方式を用いた半導体モジュールが提案されている。フリップチップ接続とは、半導体素子上にバンプと呼ばれる導電性の突起を配置し、セラミックス多層基板上の半導体素子を搭載する位置に、バンプを合わせて、セラミックス多層基板に直接接合する接合方法であり、半導体素子の実装に必要な面積を20〜30%程度減らす事ができ、高密度実装に寄与する事ができる。
【0003】
このようなフリップチップ実装方式を用いた半導体モジュールには、セラミックス多層基板と半導体素子との間のバンプ間の空隙に、従来の有機材料を封止材として用いたものに加えて、無機系材料が充填されたものがある(例えば、特許文献1)。
・・・
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
フリップチップ実装により更に高密度実装化が進む半導体素子パワーモジュールにおいては、放熱面積の低下によりサイズ効果による放熱特性が劣化するため、半導体素子からセラミック多層基板への更なる熱拡散性能の向上が必要である。しかしながら、従来の半導体素子パワーモジュールでは、封止材充填工程における気泡の発生や、使用時の熱応力に起因する接合部分へのクラックの発生などによりセラミックス多層基板と半導体素子との間に空間が発生し、空気が入り込むなどの問題がある。そのため、従来の半導体素子パワーモジュールでは、半導体素子からセラミックス多層基板への熱拡散性能の低下による半導体素子の放熱性能の低下、および、セラミックス多層基板と半導体素子との間の接合強度の低下を招くおそれがある。」

「【0042】
A.第1実施例:
A1.半導体パワーモジュールの概略構成:
図1は、第1実施例における半導体パワーモジュール10の概略構成を示す断面図である。図2は、第1実施例における回路基板20について説明する説明図である。半導体パワーモジュール10は、回路基板20と、半導体素子130とを備える。回路基板20は、セラミックス多層基板100と、接合層110と、拡散層120とを備える。
【0043】
セラミックス多層基板100は、セラミックス材料により形成されている。セラミックス材料としては、例えば、酸化アルミナ(Al2O3)、窒化アルミニウム(AlN)、窒化珪素(Si3N4)などが用いられる。セラミックス多層基板100は、半導体素子が実装される第1の面105と、該面と対向し、制御回路やコンデンサなどのその他の電子部品が搭載され得るもう一方の第2の面106間を電気的に接続するための内層ビアホール101と、配線パターン109と、第2の面106上に配置された外部接続用の電極端子104を備える。配線パターン109は、セラミックス多層基板100の表面、内部の層の表面に形成されている。図1では、セラミックス多層基板100の表面に形成された配線パターンは省略されている。また、セラミックス多層基板100の第1の面105上、および第2の面106上には、半導体素子130やその他の電子部品を搭載するための電極ランド(図示省略)が形成されている。半導体素子130は、内層ビアホール101および配線パターン109を介して、第2の面106上に配置されている電極端子104と電気的に接続されている。
【0044】
接合層110は、セラミックス多層基板100の第1の面105上に配置され、導電接合部111と、絶縁接合部112とを備える平面状の薄膜層である。
【0045】
導電接合部111は、導電接続部111aと半導体素子130の電極パッド131とから構成され、半導体素子130とセラミックス多層基板100とを電気的に接続する。導電接続部111aは、導電性の金属を主成分として形成されており、図2に示すように、セラミックス多層基板100の第1の面105上であって、内層ビアホール101に対応する第1の部位107(太実線で示す)上に配置されている。導電性の金属として、例えば、銅、銀、アルミニウム金属などを用いてもよい。導電接続部111aは、後述する絶縁接合部112よりも薄く形成されており、絶縁接合部112と導電接続部111aとにより窪みが形成される。該窪みに、電極パッド131が嵌りこむように配置されることによって、導電接合部111が形成される。
【0046】
絶縁接合部112は、半導体素子130とセラミックス多層基板100とを絶縁する。絶縁接合部112は、図2に示すように、セラミックス多層基板100の第1の面105上であって、第1の部位107とは異なる第2の部位108(太破線で示す)に配置されている。絶縁性の無機系材料を主成分とし、半導体素子の実装時の加熱工程により軟化する粉末ガラスにより形成されている。粉末ガラスは、例えば、ZnO−B2O3−SiO2、など、酸化ケイ素、酸化亜鉛、酸化ホウ素、酸化ビスマスなどの混相として形成される。
・・・
【0051】
半導体素子130は、電極パッド131を備える。電極パッド131は、例えば、金(Au)を主成分として形成されている。半導体素子130は、電極パッド131が、接合層110の導電接続部111aに接するように、接合層110上に配置されている。半導体素子130は、電極パッド131および導電接続部111a(すなわち、導電接合部111)を介してセラミックス多層基板100と電気的に接続されている。
【0052】
A2.製造方法:
半導体パワーモジュール10の製造方法を、図3〜図6を用いて説明する。図3は、第1実施例における半導体パワーモジュール10の製造方法を説明する工程図である。
・・・
【0054】
セラミックス多層基板100の第1の面105上であって、内層ビアホール101に対応する第1の部位に、導電接続部111aを配置する(ステップS12)。図3は、ステップS12における導電接続部111aの配置工程を説明する説明図である。図3に示すように、後述するステップS18における加熱工程により溶融する金属種を主成分とする金属の突起を導電接続部111aとして形成する。この金属の突起はバンプとも呼ばれる。バンプは、所望の位置にボール状に形成された金属を配置し、加熱処理により柱状形状とするボール搭載法により形成しても良いし、セラミックス多層基板100の第1の面105の第1の部位107に、予め対応する位置にバンプとなる金属を転写する方法や導電接続部111aの材料として既述した金属種を主成分とするペーストを、スクリーン印刷により印刷する方法、セラミックス多層基板100の第1の面105の第1の部位107にフォトリソパターンによりマスキングを施しメッキ法により所望の位置に金属バンプを形成してもよい。
【0055】
導電接続部111aを配置したセラミックス多層基板100の第1の面105上の、第1の部位とは異なる第2の部位に絶縁接合部112を配置する(ステップS14)。具体的には、粉末ガラスと熱分解性の有機結着剤とを、有機溶媒や水などの溶媒を用いて混練してガラス粉末ペーストを生成し、ガラス粉末ペーストを、セラミックス多層基板100の第1の面105上の、導電接続部111aの空隙を埋めるようにスクリーン印刷によりに印刷する。
【0056】
図5は、ステップS14における絶縁接合部112のスクリーン印刷について説明する説明図である。スクリーン印刷機200は、スクリーン202と、スキージ203と、スキージホルダー204とを備える。スクリーン202には、導電接続部111aに対応する部位を除く部位、すなわち、絶縁接合部112に対応する部位にのみ開口部が形成されている。ガラス粉末ペースト250をスクリーン202に載せ、スクリーン202上からスキージ203を摺動させる。こうすることにより、ガラス粉末ペースト250は開口部を通過し、セラミックス多層基板100の第1の面105上の、導電接続部111aが配置されている部位を除いた部位、すなわち、絶縁接合部112が配置される部位に転写される。この結果、導電接続部111aと絶縁接合部112とからなり、セラミックス多層基板100の第1の面105側が平面上に形成された接合部110a(図2)が形成される。なお、ステップS12,S14の順序は、逆であってもよい。なお、接合部110aの結着に用いられる有機成分(有機結着剤)は、後述する加熱処理工程において、分解、除去される。
【0056】
形成された接合部110a上に、半導体素子130を配置する(ステップS16)。具体的には、導電接続部111aと絶縁接合部112とから形成される窪みに、電極パッド131を嵌め込むように半導体素子130を配置する。導電接続部111aと電極パッド131とが接触することにより、半導体素子130と導電接続部111aとの導通が確保される。
【0058】
セラミックス多層基板100、接合層110および半導体素子130を加熱圧着して、半導体パワーモジュールを製造する(ステップS18)。図6は、第1実施例における半導体パワーモジュール10の接合工程を説明する説明図である。図6に示すように、セラミックス多層基板100、接合層110および半導体素子130を、加圧するとともに、導電接続部111aと絶縁接合部112とが熱融着する温度に加熱する。こうすることにより、導電接続部111a、絶縁接合部112、セラミックス多層基板100の第1の面105および導電接合部111及び絶縁保護膜よりなる半導体素子130の表面が溶融し、セラミックス多層基板100と接合層110の間、および、接合層110と半導体素子130の間は、空隙の存在しない均一な平面で拡散接合される。導電接続部111aと絶縁接合部112とが熱融着する温度とは、例えば、導電接続部111aの材料として、融点660℃のアルミニウム金属を用い、絶縁接合部112の材料として軟化点640℃のZnO−B2O3−SiO2ガラスを用いた場合には、両材料が熱融着する温度670℃で加熱する。」

図1、2は、以下のとおりのものである。


したがって、引用文献2には、以下の技術的事項が記載されていると認められる。

「回路基板20と、半導体素子130とを備える半導体パワーモジュール10であって、
回路基板20は、セラミックス多層基板100と、接合層110と、拡散層120とを備え、
セラミックス多層基板100は、半導体素子が実装される第1の面105と、もう一方の第2の面106間を電気的に接続するための内層ビアホール101と、配線パターン109を備え、
接合層110は、セラミックス多層基板100の第1の面105上に配置され、導電接合部111と、絶縁接合部112とを備える平面状の薄膜層であり、
導電接合部111は、導電接続部111aと半導体素子130の電極パッド131とから構成され、半導体素子130とセラミックス多層基板100とを電気的に接続し、
導電接続部111aは、セラミックス多層基板100上に配置され、バンプと呼ばれる金属の突起であり、
絶縁接合部112は、絶縁性の無機系材料を主成分とし、半導体素子の実装時の加熱工程により軟化する粉末ガラスにより形成されている、半導体パワーモジュール10。」

3 引用文献4
また、原査定において、周知技術を示す文献として提示された引用文献4には、図面とともに次の事項が記載されている。

「【0012】
本実施形態の半導体装置は、配線パターンが形成された絶縁配線基板にIGBT素子やMOSFET素子などの半導体素子1が搭載されている。絶縁配線基板を構成する絶縁基板11には、窒化アルミニウム、窒化ケイ素、アルミナ等が用いられ、表面にはアルミニウムや銅等の金属導体でできた配線パターン8,10がろう付け等により接合され、裏面にはアルミニウムや銅等の金属導体でできた金属箔12がろう付け等により接合されている。そして、半導体素子1の主面に設けられた主電極3および制御電極4上に接合材2aおよび2bを介して主電極用導電材5および制御電極用導電材6が接合されている。接合材2a,2bとしては、はんだや低温焼結を利用した焼結性の銀や銅の微粒子ペーストが用いられる。還元によって銀や銅を生成する酸化銀や酸化銅の微粒子ペーストを用いることもできる。主電極用導電材5および制御電極用導電材6は絶縁材13で固定され、各導電材の上にそれぞれ接続配線7,9が接続され、対応する絶縁基板11上の配線パターン8やケース上に設けた端子(図示せず)と接続されている。」

したがって、引用文献4には、以下の周知技術が記載されていると認められる。

「半導体素子1上の電極3、4と主電極用導電材5、制御電極用導電材6を接合する材料として焼結性のペーストを用いることは周知技術である。」

第6 対比・判断
1 本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明とを対比すると、次のことがいえる。

ア 引用発明における「ソース電極3」、「半導体素子1」、「パッド19」、「はんだ94」は、本願発明1における「接触表面」、「電子部材」、「基板」、「接触要素」に相当する。

イ 引用発明において、「半導体装置」は、「パッド19の上面にはこの2つのソース電極3に対応するべく2つのボンディングワイヤ16、16aの一端がそれぞれ接合されて」いるものであるから、ソース電極3の接触領域を拡大するためのアダプタシステムであるといえる。
したがって、本願発明1と引用発明とは、「少なくとも1つの電子部材上の少なくとも1つの接触表面の接触領域を拡大するためのアダプタシステム」である点で一致する。

ウ 本願発明1の「第1面および前記第1面と向き合う第2面を有する少なくとも1つの基板(3、3a‘、3b‘、3“);少なくとも領域的に前記基板(3、3a‘、3b‘、3“)の前記第1面上に配置される少なくとも1つの接触要素(5、5a‘、5“)を有し、前記接触要素(5、5a‘、5“)が前記第1面を前記電子部材(9,9‘、9“)の前記接触表面(11,11a‘、11b‘、11c‘、11d‘、11e‘、11“)と電気的に接続するために適合され、前記基板(3、3a‘、3b‘、3“)の前記第2面の表面が前記電子部材(9、9‘、9“)の前記接触表面(11、11a‘、11b‘、11c‘、11d‘、11e‘、11“)より大きく」と、引用発明の「上面に2個のソース電極3が配置された半導体素子1と、金属材料からなり、下面側であって、2つのソース電極3に対応する位置に2つのパッド脚部20が設けられたパッド19を備え、それぞれの脚部20ははんだ94でソース電極3に接合されており」、「パッド19の上面は半導体素子1のソース電極3より大きい」とを対比する。
引用発明において、「パッド19(基板)」は、下面と上面を有し、また、「はんだ94(接触要素)」は、パッド19の下面上に配置されるものであり、「はんだ94(接触要素)」が前記下面を半導体素子1(電子部材)のソース電極3(接触表面)と電気的に接続するために適合されたものであることは明らかである。
また、引用発明において、「パッド19の上面は半導体素子1のソース電極3より大きい」ものである。
したがって、本願発明1と引用発明とは、「第1面および前記第1面と向き合う第2面を有する少なくとも1つの基板;少なくとも領域的に前記基板の前記第1面上に配置される少なくとも1つの接触要素を有し、前記接触要素が前記第1面を前記電子部材の前記接触表面と電気的に接続するために適合され、前記基板の前記第2面の表面が前記電子部材の前記接触表面より大き」いものである点で一致する。

エ 引用発明において、「パッド19」は、「金属材料から」なるものであるから、本願発明1と引用発明とは、「前記基板が電導金属要素を有する」ものである点で一致する。

オ したがって、本願発明1と引用発明との間には、次の一致点、相違点があるといえる。

<一致点>
「少なくとも1つの電子部材上の少なくとも1つの接触表面の接触領域を拡大するためのアダプタシステムであり:
第1面および前記第1面と向き合う第2面を有する少なくとも1つの基板;
少なくとも領域的に前記基板の前記第1面上に配置される少なくとも1つの接触要素を有し、前記接触要素が前記第1面を前記電子部材の前記接触表面と電気的に接続するために適合され、前記基板の前記第2面の表面が前記電子部材の前記接触表面より大きく、
前記アダプタシステムは、
前記基板が電導金属要素を有する、アダプタシステム。」

<相違点>
<相違点1>
本願発明1は、「前記アダプタシステム」は、「前記基板(3、3a‘、3b‘、3“)の前記第1面上の少なくとも領域的に前記接触要素(5、5a‘、5“)の周囲に配置された少なくとも1つの固定要素(7、7a‘、7“)をさらに具備し、前記固定要素(7、7a‘、7“)が前記電子部材(9、9‘、9“)を機械的に接触するために特に前記基板(3、3a‘、3b‘、3“)の前記第1面を前記電子部材(9、9‘、9“)と機械的に接続するために適合され、前記固定要素が、少なくとも、ポリマー箔、特にポリイミド箔、またはポリマー基板を有し」という構成を備えるのに対し、引用発明は、パッド19の上面上に、本願発明1の「固定要素」に対応する構成を具備していない点。

<相違点2>
本願発明1は、「前記アダプタシステム」は、「前記接触要素が焼結ペーストを有し」という構成を備えるのに対し、引用発明の「はんだ94」は焼結ペーストを有するとはいえない点。

(2)相違点についての判断
ア 相違点1について
引用発明は、「パッド19の上面にはこの2つのソース電極3に対応するべく2つのボンディングワイヤ16、16aの一端がそれぞれ接合されて」いるものであり、ワイヤボンド実装方式を用いるものである。
それに対して、引用文献2に記載された技術的事項において、回路基板20が備える接合層110の導電接合部111を構成する「導電接続部111a」は、「バンプと呼ばれる金属の突起」であるから、引用文献2の段落【0002】〜【0005】の記載に照らすと、引用文献2に記載された技術的事項は、ワイヤボンドによる実装方式ではなく、フリップチップ接続する実装方式を用いた半導体モジュールに関するものであることは明らかである。
また、引用文献2に記載された「半導体素子130」と「電極パッド131」は、それぞれ引用発明における「半導体素子1」と「ソース電極3」に対応するものであるといえるところ、引用発明における「パッド19」と「はんだ94」に対応する部材は、それぞれ、引用文献2における「セラミックス多層基板100」と「(バンプと呼ばれる)導電接続部111a」であるといえる。そして、引用文献2に記載の技術的事項の「(バンプと呼ばれる)導電接続部111a」は、「セラミックス多層基板100上に配置され」るものである。
そうすると、ワイヤボンド実装方式を用いる引用発明において、「はんだ94」を、引用文献2に記載の技術的事項の、フリップチップ接続する実装方式の半導体モジュールに係る、「(バンプと呼ばれる)導電接続部111a」に代え、かつ、該導電接続部111aと半導体素子1のソース電極3とから構成される導電接合部111と、絶縁接合部112とを備える接合層110を備えるものとすること(すなわち、フリップチップ実装方式に変えること)、あるいは、引用発明において、はんだ94と半導体素子1のソース電極3とから構成される導電接合部の周囲に、引用文献2に記載の技術的事項の、フリップチップ接続する実装方式の半導体モジュールに係る、「絶縁接合部112」を配置する構成を採用すること(ワイヤボンド実装方式のままとすること)は、いずれも、引用発明を、引用文献1の段落【0004】に記載の「半導体素子の電極の接合部分が剥離することなく大電流を流すことができ、また超音波振動による半導体素子の破壊を防止することにある。」との引用発明の課題を解決するものでないものとすることになると認められるから、その動機付けは当業者にはない。

また、引用文献2には、絶縁接合部112が、少なくとも、ポリマー箔、特に、ポリイミド箔、または「ポリマー基板」を有するとの構成は、記載も示唆もされていない。
したがって、仮に、引用発明において、「はんだ94」を、引用文献2に記載の技術的事項の「(バンプと呼ばれる)導電接続部111a」に代え、かつ、該導電接続部111aと半導体素子1のソース電極3とから構成される導電接合部111と、絶縁接合部112とを備える接合層110を備えるものとする場合、あるいは、引用発明において、はんだ94と半導体素子1のソース電極3とから構成される導電接合部の周囲に、引用文献2に記載の技術的事項の、フリップチップ接続する実装方式の半導体モジュールに係る、「絶縁接合部112」を配置する構成を採用する場合であっても、相違点1に係る本願発明1の構成に至らないこととなる。

そして、上記第5の3のとおり、引用文献4には、本願発明1の「固定要素」について、記載も示唆もされていない。
本願発明5に対して、周知技術を示す文献として提示された上記引用文献3にも、本願発明1の「固定要素」に対応する構成について、記載も示唆もされていない。

したがって、引用発明において、引用文献2に記載された技術的事項、引用文献3に記載された周知技術及び引用文献4に記載された周知技術に基づいて、相違点1に係る本願発明1の構成とすることは、当業者が容易になし得たことではない。

イ 相違点についての判断のまとめ
以上のとおりであるから、上記相違点2について判断するまでもなく、本願発明1は、引用発明、引用文献2に記載された技術的事項及び引用文献3、4それぞれに記載された周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

2 本願発明2〜8、14について
本願発明2〜8、14も、本願発明1の「前記アダプタシステム」は、「前記基板(3、3a‘、3b‘、3“)の前記第1面上の少なくとも領域的に前記接触要素(5、5a‘、5“)の周囲に配置された少なくとも1つの固定要素(7、7a‘、7“)をさらに具備し、前記固定要素(7、7a‘、7“)が前記電子部材(9、9‘、9“)を機械的に接触するために特に前記基板(3、3a‘、3b‘、3“)の前記第1面を前記電子部材(9、9‘、9“)と機械的に接続するために適合され、前記固定要素が、少なくとも、ポリマー箔、特にポリイミド箔、またはポリマー基板を有し」と同一の構成を備えるものであるから、本願発明1と同じ理由により、引用発明、引用文献2に記載された技術的事項及び引用文献3、4それぞれに記載された周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

3 本願発明9〜13について
本願発明9は、本願発明1に対応する方法の発明であり、本願発明1とカテゴリ表現が異なるだけの発明であり、また、本願発明10〜13は、本願発明9を減縮した発明であるから、本願発明9〜13は、本願発明1の「前記アダプタシステム」は、「前記基板(3、3a‘、3b‘、3“)の前記第1面上の少なくとも領域的に前記接触要素(5、5a‘、5“)の周囲に配置された少なくとも1つの固定要素(7、7a‘、7“)をさらに具備し、前記固定要素(7、7a‘、7“)が前記電子部材(9、9‘、9“)を機械的に接触するために特に前記基板(3、3a‘、3b‘、3“)の前記第1面を前記電子部材(9、9‘、9“)と機械的に接続するために適合され、前記固定要素が、少なくとも、ポリマー箔、特にポリイミド箔、またはポリマー基板を有し」という構成に対応する構成を備えるものである。
したがって、本願発明9〜13は、本願発明1と同様の理由により、引用発明、引用文献2に記載された技術的事項及び引用文献3、4それぞれに記載された周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

第7 原査定について
1 理由1(特許法第29条第2項)について
審判請求時の補正により、本願発明1〜14は「前記アダプタシステム」は、「前記基板(3、3a‘、3b‘、3“)の前記第1面上の少なくとも領域的に前記接触要素(5、5a‘、5“)の周囲に配置された少なくとも1つの固定要素(7、7a‘、7“)をさらに具備し、前記固定要素(7、7a‘、7“)が前記電子部材(9、9‘、9“)を機械的に接触するために特に前記基板(3、3a‘、3b‘、3“)の前記第1面を前記電子部材(9、9‘、9“)と機械的に接続するために適合され、前記固定要素が、少なくとも、ポリマー箔、特にポリイミド箔、またはポリマー基板を有し」という構成を有するものとなっており、拒絶査定において引用された引用文献1に記載された発明、引用文献2に記載された技術的事項及び引用文献3、4それぞれに記載された周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。したがって、原査定の理由1を維持することはできない。

第8 むすび
以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2022-05-09 
出願番号 P2019-563682
審決分類 P 1 8・ 121- WY (H01L)
P 1 8・ 575- WY (H01L)
最終処分 01   成立
特許庁審判長 辻本 泰隆
特許庁審判官 小田 浩
恩田 春香
発明の名称 少なくとも1つの電子部材上の少なくとも1つの接触表面の接触領域拡大のためのアダプタシステムおよび接触領域拡大のための方法  
代理人 林 一好  

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