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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  F02D
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  F02D
審判 全部申し立て 2項進歩性  F02D
管理番号 1385150
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-06-24 
種別 異議の決定 
異議申立日 2021-03-17 
確定日 2022-03-15 
異議申立件数
訂正明細書 true 
事件の表示 特許第6761511号発明「船舶用ディーゼルエンジン状態監視システム」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6761511号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり、請求項〔1ないし3〕について訂正することを認める。 特許第6761511号の請求項1ないし3に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6761511号の請求項1ないし3に係る特許(以下、「請求項1に係る特許」ないし「請求項3に係る特許」という。)についての出願は、令和元年6月5日に出願され、令和2年9月8日にその特許権の設定登録がされ、令和2年9月23日に特許掲載公報が発行された。
その後、その特許に対し、令和3年3月17日に特許異議申立人 猪狩充(以下「申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、当審は、令和3年6月3日付け(発送日:同年6月9日)で取消理由を通知した。特許権者は、その指定期間内である令和3年7月30日に意見書の提出及び訂正の請求を行い、当審は、令和3年9月14日付け(発送日:同年9月22日)で申立人に通知書(訂正請求があった旨の通知)を送付し、申立人は令和3年10月20日に意見書を提出した。

第2 訂正の適否についての判断
1 訂正の内容
令和3年7月30日の訂正の請求(以下「本件訂正請求」という。)による訂正の内容は、以下のとおりである(下線は特許権者が付した。)。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「瞬時評価手段による評価の結果と傾向評価手段による評価の結果を組み合わせることによりエンジンの異常を検出すること」とあるのを、「瞬時評価手段で異常値が検出されても、傾向評価手段で正常値が示される場合は、瞬時評価手段で示された異常値は、一時的あるいは偶発的なものである可能性があると判断することができること」に訂正する。
請求項1を引用する請求項3も同様に訂正する。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2に「瞬時評価手段による評価の結果と傾向評価手段による評価の結果を組み合わせることによりエンジンの異常を検出すること」とあるのを、「瞬時評価手段で異常値が検出されても、傾向評価手段で正常値が示される場合は、瞬時評価手段で示された異常値は、一時的あるいは偶発的なものである可能性があると判断することができること」に訂正する。
請求項2を引用する請求項3も同様に訂正する。

(3)訂正事項3
明細書の段落【0010】と【0011】にそれぞれ「瞬時評価手段による評価の結果と傾向評価手段による評価の結果を組み合わせることによりエンジンの異常を検出すること」とあるのを、「瞬時評価手段で異常値が検出されても、傾向評価手段で正常値が示される場合は、瞬時評価手段で示された異常値は、一時的あるいは偶発的なものである可能性があると判断することができること」に訂正する。

(4)一群の請求項について
請求項1及び2は、どちらも請求項3に引用されている。また、明細書の訂正は請求項1ないし3に係る発明と関連するものである。
したがって、本件訂正請求は、一群の請求項〔1ないし3〕に対して請求されたものである。

2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1について
訂正事項1は、訂正前の請求項1の「瞬時評価手段による評価の結果と傾向評価手段による評価の結果を組み合わせることによりエンジンの異常を検出すること」について、願書に添付した明細書の段落【0020】の記載に基づいて、「瞬時評価手段で異常値が検出されても、傾向評価手段で正常値が示される場合は、瞬時評価手段で示された異常値は、一時的あるいは偶発的なものである可能性があると判断することができること」に減縮するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。そして、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、また、カテゴリーや対象、目的を変更するものには該当しないから、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項及び第6項に適合するものである。

(2)訂正事項2について
訂正事項2は、訂正前の請求項2の「瞬時評価手段による評価の結果と傾向評価手段による評価の結果を組み合わせることによりエンジンの異常を検出すること」について、願書に添付した明細書の段落【0020】の記載に基づいて、「瞬時評価手段で異常値が検出されても、傾向評価手段で正常値が示される場合は、瞬時評価手段で示された異常値は、一時的あるいは偶発的なものである可能性があると判断することができること」に減縮するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。そして、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、また、カテゴリーや対象、目的を変更するものには該当しないから、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項及び第6項に適合するものである。

(3)訂正事項3
訂正事項3は、訂正事項1及び訂正事項2に係る訂正に伴い特許請求の範囲の記載と明細書の記載との整合を図るものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。そして、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、また、カテゴリーや対象、目的を変更するものには該当しないから、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項及び第6項に適合するものである。

3 小括
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、明細書及び特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり、請求項〔1ないし3〕について訂正することを認める。

第3 訂正後の本件発明
本件訂正請求により訂正された請求項1ないし3に係る発明(以下、「本件訂正発明1」ないし「本件訂正発明3」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「【請求項1】
船舶に搭載されるディーゼルエンジン及び/又はその接続装置の所定箇所の温度を測定するための温度測定手段と、
前記温度測定手段による測定値を正常な温度範囲の上限値及び/又は下限値と比較することによりエンジンの状態を評価する瞬時評価手段と、
前記温度測定手段による測定値と正常な温度の基準値との乖離差をデータ集積し、時間による乖離差の変化からエンジンの状態を評価する傾向評価手段と、
を備え、瞬時評価手段で異常値が検出されても、傾向評価手段で正常値が示される場合は、瞬時評価手段で示された異常値は、一時的あるいは偶発的なものである可能性があると判断することができることを特徴とするディーゼルエンジンの状態監視システム。
【請求項2】
船舶に搭載されるディーゼルエンジン及び/又はその接続装置の所定箇所の圧力を測定するための圧力測定手段と、
前記圧力測定手段による測定値を正常な圧力範囲の上限値及び/又は下限値と比較することによりエンジンの状態を評価する瞬時評価手段と、
前記圧力測定手段による測定値と正常な圧力の基準値との乖離差をデータ集積し、時間による乖離差の変化からエンジンの状態を評価する傾向評価手段と、
を備え、瞬時評価手段で異常値が検出されても、傾向評価手段で正常値が示される場合は、瞬時評価手段で示された異常値は、一時的あるいは偶発的なものである可能性があると判断することができることを特徴とするディーゼルエンジンの状態監視システム。
【請求項3】
瞬時評価手段及び傾向評価手段からの異常を知らせる信号の受信により、ディーゼルエンジン又はその接続装置の異常箇所及び/又は異常の要因を画面上に表示する表示手段を備えたことを特徴とする請求項1又は2記載のディーゼルエンジンの状態監視システム。」

第4 取消理由通知に記載した取消理由について
1 取消理由の概要
訂正前の請求項1ないし3に係る特許に対して、当審が令和3年6月3日付けで特許権者に通知した取消理由の概要は、次のとおりである。

本件請求項1ないし3に係る特許は、明細書及び特許請求の範囲の記載が以下の点で不備のため、特許法第36条第4項第1号、同条第6項第1号及び第2号に規定する要件を満たしていない。



本件発明1及び2における「瞬時評価手段による評価の結果と傾向評価手段による評価の結果を組み合わせることによりエンジンの異常を検出する」なる記載(以下、「記載A」という。)が特定しようとする事項が不明確であるから、本件発明1、2及び本件発明1または2を引用する本件発明3は、明確でない。

「瞬時評価手段で異常値が検出されても、傾向評価手段で正常値が示されている場合は、瞬時評価手段で示された異常値は、一時的あるいは偶発的なものである可能性があると判断すること」以外に、本件特許明細書には具体的な説明がされていない実施形態を含み得る記載Aを発明特定事項の一部とする本件発明1、2及び本件発明1または2を引用する本件発明3は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載された発明であるとはいえない。

本件特許明細書の発明の詳細な説明は、「瞬時評価手段で異常値が検出されても、傾向評価手段で正常値が示されている場合は、瞬時評価手段で示された異常値は、一時的あるいは偶発的なものである可能性があると判断すること」以外の実施形態を含み得る記載Aを発明特定事項の一部とする本件発明1、2及び本件発明1または2を引用する本件発明3について、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものとはいえない。

2 当審の判断
本件訂正請求により、請求項1及び2の「瞬時評価手段による評価の結果と傾向評価手段による評価の結果を組み合わせることによりエンジンの異常を検出する」という記載は、「瞬時評価手段で異常値が検出されても、傾向評価手段で正常値が示される場合は、瞬時評価手段で示された異常値は、一時的あるいは偶発的なものである可能性があると判断することができること」と訂正された(訂正事項1及び訂正事項2)。

これらの訂正事項により、請求項1、2及びそれらを引用する請求項3は本件特許明細書に具体的に記載された実施形態以外含まないものとなったことは明らかである。
よって、「瞬時評価手段で異常値が検出されても、傾向評価手段で正常値が示される場合は、瞬時評価手段で示された異常値は、一時的あるいは偶発的なものである可能性があると判断することができること」がどのような実施形態を特定しようとしているかは明瞭であり、本件訂正発明1ないし3は明確である。
また、本件訂正発明1ないし3は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載された発明であり、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、本件訂正発明1ないし3について、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものである。

3 意見書における申立人の主張について
「瞬時評価手段で異常値が検出されても、傾向評価手段で正常値が示される場合は、瞬時評価手段で示された異常値は、一時的あるいは偶発的なものである可能性があると判断することができること」について、申立人は令和3年10月20日に提出された意見書において、この可能性の程度や判断の基準等が、各請求項の記載自体からは認めることができない。また、この可能性の程度や判断の基準等について、明細書及び図面の内容を踏まえた上で、出願時の技術常識をもって考慮したとしても、本件訂正発明1及び2に係る発明が明確に把握できるとは認められない旨主張している。
しかし、可能性の程度は発明の具体的適用の際に経験的に把握できるものであり、それが特定できないことをもってして本件訂正発明1ないし3が明確でないとはいえない。さらに、判断基準については、請求項1及び2に記載されているとおり「傾向評価手段で正常値が示される場合」であり明確である。
よって、申立人の上記主張は採用することができない。

第5 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
1 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由の概要

本件請求項1ないし3に係る発明は、甲第1ないし3号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

証拠一覧
甲第1号証:特開2004−353618号公報
甲第2号証:特許第6106806号公報
甲第3号証:特開2011−220204号公報

2 当審の判断
(1)甲号証に記載された事項等
ア 甲第1号証
甲第1号証(以下「甲1」という。)には、次の事項が記載されている(下線は当審で付与した。)。
(ア)「【請求項1】
内燃機関の監視診断システムにおいて、前記内燃機関の各検出部位にそれぞれ取り付けられた温度、圧力等を検出する検出手段と、
前記内燃機関が設置された後の正常運転時の運転初期データに基づいて設定された性能データの正常範囲値を予め格納している正常範囲値データ格納手段と、
前記各検出手段により各検出部位の値を直接的または間接的な手法により検出することによって得られる性能データと前記正常範囲値データ格納手段に格納されている正常範囲値とを比較することにより、前記各検出手段より得られた性能データが正常範囲値から外れている場合に異常を検知する異常検知手段と、
この異常検知手段での検知結果に基づき、前記内燃機関の故障箇所と故障内容とを診断する故障診断手段と、を備えたことを特徴とする監視診断システム。」
(イ)「【請求項9】
前記検出手段の一つが前記内燃機関のクランク室に設けられた圧力センサであり、前記クランク室と前記圧力センサとの間に細孔部を設けることにより、前記クランク室内のピストンやクランクの運動に伴う圧力変動を減衰させて平均的なクランク室圧力を検出することを特徴とする請求項1に記載の監視診断システム。」
(ウ)「【請求項11】
前記検出手段の一つが前記内燃機関のラジエータファンの近傍に設置された温度センサであり、
前記異常検知手段は、前記温度センサによる検出温度と機器外部の空気温度との温度差に基づいて前記ラジエータファンの空気流量を推定して異常を検知することを特徴とする請求項1に記載の監視診断システム。」
(エ)「【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、内燃機関の各部に設置された温度計、圧力計、流量計、振動計などの各検出手段により検出される性能データに基づいて内燃機関の各部の異常を検知し故障を診断する監視診断システムに関する。」
(オ)「【0008】
さらに、各センサの検出データについても、検出部位やセンサの種類(圧力センサ、温度センサ、振動センサ等の種類)によって個別の問題があり、例えば、燃料供給系に設けられる圧力センサでは、配管内燃料の燃料ポンプの噴射に伴う圧力変動(ディーゼルエンジンでは、燃料フィルタ(FOフィルタ)後の燃料油圧には、スピル(噴射終わりの燃料ポンプからの逆流)により大きな圧力変動がある)を考慮せずに燃料圧力を検出した場合には、誤検知が頻繁に発生することになる。また、機関の排気温度を検出する温度センサでは、機関出力が変化することによる排気温度の変化には時間遅れがあるため、この時間遅れを考慮せずに温度センサによる検出温度(排気温度)を異常検知した場合、機関出力変化と排気温度変化とが対応せず、誤検知が頻繁に発生することになる。そのため、このような誤検知をそのまま放置して故障の判断を行ったのでは、精度の高い異常検知が行えないばかりでなく、誤った故障判断を行ってしまうといった問題が発生する。」
(カ)「【0011】
このような特徴を有する本発明によれば、正常範囲値データ格納手段に格納される正常範囲値のデータは、実稼働する作業場に内燃機関が設置された後の正常運転時の運転初期データに基づいて設定されている。これにより、各内燃機関の設置状況に応じた適正な正常範囲値が設定されることになり、このように設定された正常範囲値と、圧力センサや温度センサ等の各検出手段より得られた圧力及び温度に関する性能データとを比較することで、その内燃機関の異常検知の精度を上げることが可能となる。」
(キ)「【0024】
また、本発明では、前記検出手段の一つが前記内燃機関のクランク室に設けられた圧力センサである場合、前記クランク室と前記圧力センサとの間に細孔部を設けることにより、前記クランク室内のピストンやクランクの運動に伴う圧力変動を減衰させて平均的なクランク室圧力を検出することを特徴とする。」
(ク)「【0026】
さらに、本発明では、前記検出手段の一つが前記内燃機関のラジエータファンの近傍に設置された温度センサである場合、前記異常検知手段は、前記温度センサによる検出温度と機器外部の空気温度との温度差に基づいて前記ラジエータファンの空気流量を推定して異常を検知することを特徴とする。」
(ケ)「【0031】
この監視診断システムは、大別すると、内燃機関及び発電機等の被駆動機(以下、「内燃機関」と称す)10の検知部位に設けられた各種センサ群1〜4、データ収集部5、異常検知部6、故障診断部7、正常範囲値データ格納部8、診断マップ格納部9a、ガイダンスマップ格納部9bにより構成されている。
【0032】
温度センサ群1の各温度センサ1aは、主軸受メタルの裏側、各気筒の排気管、潤滑油系、冷却水系などの必要箇所に必要個数取り付けられており、圧力センサ群2の各圧力センサ2aは、主に潤滑油系、冷却水系、吸入空気系、燃料供給系及びシリンダブロックのクランク室などの必要箇所に必要個数取り付けられており、流量センサ群3の各流量センサ3aは潤滑油系や燃料供給系などの必要箇所に必要個数取り付けられており、振動センサ群4の各振動センサ4aは、主軸受メタル、シリンダブロック、ギアケース、排気マニホールドなどの必要箇所に必要個数取り付けられている。
【0033】
このような各センサ群1〜4の取り付け自体は、従来技術でも示しているように、内燃機関の分野においては従来から行われていることであり、特に目新しいことではない。また、これらの各センサ1a〜4aからデータを収集すること自体も従来から行われていることである。ただし、本発明では、後述するように、任意のセンサの検知による性能データの検出方法に工夫を凝らせている。
【0034】
このような各センサ群1〜4により検出された性能データは、データ収集部5によって収集された後、異常検知部6に送られる。
【0035】
異常検知部6では、データ収集部5を介して得られる各センサ1a〜4aからの性能データと出力に重み付き移動平均処理して、正常範囲値データ格納部8に格納されている正常範囲値(これについては後述する)とを比較することにより、各センサ1a〜4aより得られた性能データが正常範囲値から外れている場合に異常を検知する。
【0036】
故障診断部7は、この異常検知部6での検知結果に基づき、診断マップ格納部9aに格納されている診断マップ(これについては後述する)を参照して、内燃機関10の故障箇所と故障内容とを診断し、その診断結果を出力する。また、故障診断部7は、診断マップから検索した故障名に基づき、ガイダンスマップ格納部9bに格納されているガイダンスマップ(これについても後述する)から対策情報を抽出し、診断結果として出力する。」
(コ)「【0039】
−正常範囲値データ格納部8に格納される正常範囲値の説明−
正常範囲値データ格納部8に格納される正常範囲値のデータは、内燃機関10が設置された後の正常運転時の運転初期データに基づいて設定される。すなわち、内燃機関10は、設置場所や設置環境等によって正常運転時に得られる運転データが異なる。例えば、冬の厳しい北海道で使用する場合と、夏の暑い沖縄で使用する場合とでは、正常運転時に得られる運転データは当然に異なることになる。そのため、本発明では、正常範囲値データ格納部8に格納する正常範囲値のデータを、内燃機関10を設置した後の正常運転時に得られる運転初期データに基づいて設定する。これにより、内燃機関10の設置状況に応じた適正な正常範囲値が設定されることになる。」
(サ)「【0044】
なお、この正常範囲値による異常検知の手法については、上記で説明した内燃機関10の排気温度に限らず、給気圧力、冷却水の温度及び圧力、海水の圧力、潤滑油の温度及び圧力、燃料油の圧力及び流量など検出する大部分のデータに適用する。
【0045】
−異常検知部6の説明−
図3は、内燃機関10の正常運転時に得られる運転初期データの一例であり、排気温度(℃)と内燃機関10の出力(kW)との関係を示している。従来は、最大出力に対する排気温度を基に上限温度を設定し、この上限温度を超えたときに異常と判断していたが、本実施形態では、この運転初期データを、上記数式(1)〜(4)に当てはめて正常範囲値(正常範囲幅)を計算している。
【0046】
図4は、計算により求めた正常範囲値(図中、斜線を付して示す幅)を図3に示す運転初期データに重ね合わせて示したグラフである。すなわち、本実施形態の異常検知部6では、内燃機関10の出力(以下、「機関出力」ともいう。)に対して、排気温度がその機関出力に対する正常範囲値(斜線部分)内にある場合には正常と判断し、この正常範囲値を超えた場合に異常を検知する。」
(シ)「【0052】
これに対し、図8は、機関出力及び排気温度の両方を、異なる数(出力の移動平均数=60、排気温度の移動平均数=1)で移動平均処理を行った結果を示している。このような重み付き移動平均処理を行った結果、排気温度の実測データと正常範囲値の変化の時間遅れがほぼ一致したものとなっており、図7に示した場合に比べて異常検知の精度が大きく改善され、誤検知の回数が0回となっており、出力変動が大きいときの異常検知の精度が向上している。なお、図8には移動平均処理をしていない機関出力(符号98により示す)も参考に示している。」
(ス)「【0062】
(2)クランク室内圧によるブローバイ検出
エンジン11のクランク室の圧力を測定する圧力センサ2aでは、クランク室内のピストンやクランクの運動に伴う圧力変動を考慮せずにクランク室圧力を検出した場合には、誤検知が頻繁に発生することになる。
【0063】
図14は、クランク室の圧力を測定する系の概略図であり、本発明の一例として、エンジン11の図示しないクランク室への給油口41部分を分岐して、絞りφ0.2の圧力取出管42を接続し、この圧力取出管42に圧力センサ2aを接続している。すなわち、圧力取出管42に絞りφ0.2の細孔部42aを設けることにより、クランク室内のピストンやクランクの運動に伴う圧力変動を減衰させて平均的なクランク室圧力を測定する構成としている。」
(セ)「【0077】
また、故障診断部7では、異常検知部6での検知結果に加え、異常と判断された検知項目の性能データの時間変化率の大小を加味することにより、該当する故障名をさらに絞り込む構成としている。
【0078】
例えば、燃料油圧の低下を検知した場合でも、その変化率が小さい場合(ゆっくりと変化する場合)には、例えば燃料こし器の目詰まりが考えられ、その変化率が大きい場合(急に変化する場合)には、燃料供給管の漏油や破損、燃料フィードポンプの異常や破損等が考えられる。なお、図18では、変化率が大きい故障名を○、小さい故障名を●で示している。
【0079】
このように、性能データの時間変化率の大小を加味することで、今まで区別できなかった燃料こし器の目詰なのか、燃料フィードポンプの漏油や破損等なのかを区別することが可能となり、故障診断の精度がさらに向上することになる。」
(ソ)「【0082】
故障診断部7は、診断マップから検索した故障名に基づき、ガイダンスマップから対策情報を抽出し、診断結果として出力する。
【0083】
具体的には、図20に示すガイダンスマップを参照すると、診断マップから検索された故障名が例えば「燃料供給管漏油・破損」の場合(同図(a)参照)、その不良要因としては、「継手部シール不良」、「振動大による折損」、「スピル圧大による破損」とが対応付けられており、そのときの点検方法として、「管継手ボルトの緩み」、「管継手部パッキンの破損」、「燃料配管の振動大、亀裂」、「スピル圧の過大」、「燃料配管の振動大、亀裂」がそれぞれに対応付けられており、その修理・整備方法として、「増し締め」、「パッキン交換」、「振れ止め増強、配管交換」、「圧力低減装置設置:減衰弁など」、「燃料配管の補強・振止め、交換」がそれぞれに対応付けられている。診断結果として出力するのは、このような一覧表そのものを図示しない表示部に表示し、またはプリンタ等の出力手段から印字出力するようにしてもよいし、不良要因からさらに絞り込んだ内容のみを表示または印字出力するようにしてもよい。この場合、各表の上部に記載されている「異常内容、異常検知、最終状態」といった内容も合わせて表示または印字出力してもよい。ただし、出力形態としては、このような一覧表形式に限るものではなく、必要に応じて種々の形態に加工することが可能である。」
(タ)「【0086】
この監視診断システムは、図1に示す異常検知部6と故障診断部7とが無線及び/または有線による通信回線(例えば、パケット通信網等)Nを介して接続されており、異常検知部6の検知結果が通信回線Nを通じて故障診断部7に送信される構成となっている。具体的には、データ収集部5、異常検知部6、正常範囲値データ格納部8が内燃機関10とともに例えば船舶等101に搭載されており、故障診断部7、診断マップ格納部9a、ガイダンスマップ格納部9bが遠隔地の例えばサービスセンターSSに設置されたパソコン等の情報処理装置102に搭載されている。これにより、内燃機関10の異常情報が遠隔地に設置された情報処理装置102で収集可能となり、内燃機関10の診断が遠隔地のサービスセンターSSで可能となる。サービスセンターSSでは、情報処理装置102により内燃機関10の診断、チェックを行って内燃機関10を常に監視し、その診断結果に基づいてメンテナンスや修理等の各種のサービスを提供する。」
(チ)「【図4】


(ツ)「【図8】



上記記載事項から、甲1には、次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されている。

〔甲1発明〕
「船舶等101に搭載されたディーゼルエンジンである内燃機関10の各気筒の排気管などの必要箇所に必要個数取り付けられた温度センサ群1の各温度センサ1a、圧力センサ群2の各圧力センサ2a、流量センサ群3の各流量センサ3a及び振動センサ群4の各振動センサ4aと、
正常範囲値データ格納部8に格納されている正常範囲値とを比較することにより、各センサ1a〜4aより得られた性能データが正常範囲値から外れている場合に異常を検知する異常検知部6と、
異常検知部6での検知結果に加え、異常と判断された検知項目の性能データの時間変化率の大小を加味することにより、該当する故障名をさらに絞り込む構成としており、診断マップから検索した故障名に基づき、ガイダンスマップから対策情報を抽出し、診断結果として出力する故障診断部7と、
を備えた内燃機関の監視診断システム。」

イ 甲第2号証
甲第2号証(以下「甲2」という。)には、次の事項が記載されている。
(ア)「【0001】
本発明は、内燃機関のピストンリングの異常を把握するための技術に関する。」
(イ)「【0007】
上記の判定装置において、前記取得手段は、複数の時点の各々に関し、前記内燃機関の負荷の大小を示す負荷指標を取得し、前記判定手段は、前記掃気温度データと前記排気温度データとの両方が、前記掃気温度データ及び前記排気温度データの各々に関し前記負荷指標に応じて定められた基準値から乖離するように上昇した期間の後、前記掃気温度データと前記排気温度データとの両方が、前記基準値を越えた状態で安定した場合、前記ピストンリングが異常であると判定する、という構成としてもよい。」
(ウ)「【0010】
また、上記の判定装置において、前記取得手段は、複数の時点の各々に関し、内燃機関が過給機から吸気した加圧気体の圧力を示す圧縮圧力データ、及び前記内燃機関で燃焼した前記加圧気体の最大の圧力である燃焼最大圧力を示す燃焼最大圧力データを取得し、前記判定手段は、更に、前記圧縮圧力データと前記燃焼最大圧力データとの両方が下降を示した後に下降後の状態で安定した場合、前記ピストンリングが異常であると判定する、という構成としてもよい。」
(エ)「【0025】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しつつ説明する。以下の説明で参照する各図において、各部材、各領域等を認識可能な大きさとするために、実際とは縮尺を異ならせている場合がある。
図1は、本発明の一実施形態に係る船舶1の模式図を示す。
船舶1は、例えばコンテナ船で、船舶1の本体である船体100と、動力発生部200と、冷却機300と、コンピュータ装置400と、計測装置500とを備える。動力発生部200は、船体100に設けられ、船尾側に設けられたプロペラを回転させるための動力を発生させる。動力発生部200は、ディーゼル機関等の内燃機関(主機)を備え、船舶1の動力を発生させる。冷却機300は、ここでは船体100に設けられた熱交換器で、動力発生部200の内燃機関を水冷方式により冷却する。コンピュータ装置400は、船体100に設けられ、船員が活動するための居住区410に配置されたコンピュータ装置である。計測装置500は、例えば外気温度を計測する温度計や、風向風速計、気圧計、温度計、雨量計及び波高計を備え、船舶1の航行中における気象及び海象の状態(以下「気象海象状態」という。)を示す気象海象データを計測する。また、計測装置500は、平均船速、航行距離及び燃料消費量等の、船舶1の出発地から目的地までの航海に関する情報(航行情報)を特定するためのデータを計測する。」
(オ)「【0030】
内燃機関210には、掃気温度センサ250−1〜250−6(以下「掃気温度センサ250」と総称することがある。)と、排気温度センサ260−1〜260−6(以下「排気温度センサ260」と総称することがある。)を備える。掃気温度センサ250−1〜250−6は各々、掃気レシーバ224からシリンダ211−1〜211−6へと加圧気体を導く導通管内に配置され、過給機220からシリンダ211の各々に供給される加圧気体(掃気)の温度(掃気温度)を計測し、掃気温度を示す掃気温度データを出力する。排気温度センサ260−1〜260−6は各々、シリンダ211−1〜211−6から排出された排気ガスを排気レシーバ225へと導く導通管内に配置され、内燃機関210(シリンダ211の各々)の排気温度を計測し、排気温度を示す排気温度データを出力する。」
(カ)「【0033】
負荷取得部280は、内燃機関210の負荷(主機負荷)を取得する負荷取得手段として機能する。本願において内燃機関の負荷とは、内燃機関の単位時間当たりの仕事量を意味する。負荷取得部280は、例えば、過給機220の掃気圧力データを主機210の負荷のデータとして取得する。船舶1が建造された際の試運転時において、内燃機関210の各種データ(掃気圧力を含む。)を計測、記録してあるため、試運転時の掃気圧力データと比較しての主機210の負荷を推定することが可能である。掃気圧力は、内燃機関210の負荷の大小の指標となる。そして、負荷取得部280は、取得(推定)した負荷のデータを出力する。」
(キ)「【0042】
図8において実線のグラフは、各データの移動平均、即ち、単位期間毎の平均値を示す。また、図8(最上段及び第2段を除く。)において一点鎖線のグラフは、各時点における負荷に応じた基準値を示す。例えば、図8の最下段における一点鎖線のグラフは、グラフの横軸に示される各時刻における内燃機関210の負荷に応じたシリンダ211−1の掃気温度データの基準値を示す。制御部401は、例えば、負荷帯毎に、過去の所定時間長の期間(ステップS4の判定において、ピストンリング213が異常であると判定された期間を除く。)におけるシリンダ211−1の掃気温度データの平均値を算出し、それらを負荷帯毎の基準値とする。負荷帯は、主機210の負荷の全体の範囲を予め定められた範囲毎(例えば、10%毎)に複数段階に区分した場合の各範囲を示す。例えば、負荷の最大値を100%として10%毎に区切った場合、10%毎に区切った各範囲を負荷帯とする。図8の最下段において点Xで示される点の縦軸の値は、時刻t1における内燃機関210の負荷が属する負荷帯において、ピストンリング213が異常でない状態で、シリンダ211−1において所定時間長の期間に計測されたシリンダ211−1の掃気温度データの平均値を示す。
【0043】
図8に示されるように、期間Iから期間IIIの全期間を通して、気象海象状態は晴天であり、海水温度データは安定している。また、期間Iにおいては、温度調整弁231の開度、シリンダ211−1の冷却水出口温度データ、シリンダ211−1の排気温度データ、及びシリンダ211−1の掃気温度データの経時的な変化が小さく、基準値の付近で概ね安定している。従って、期間Iにおいては、シリンダ211−1内のピストンリング213に異常はないと推定される。期間IIにおいては、温度調整弁231の開度、シリンダ211−1の排気温度データ、及びシリンダ211−1の掃気温度データが上昇している。従って、期間IIにおいて、シリンダ211−1内のピストンリング213が異常であることが疑われる。その理由は以下のとおりである。」
(ク)「【0049】
以上説明した実施形態によれば、温度調整弁231の開度、冷却水出口温度データ、排気温度データ、及び掃気温度データの経時的な変化に基づいて、内燃機関210が備えるピストンリング213の異常を把握するための情報を出力できる。」
(ケ)「【0053】
(3)内燃機関210が有するピストンリング213の異常を把握するための情報を生成するために、コンピュータ装置400の制御部401(取得手段401A)は、掃気温度データ、及び排気温度データに代えて、複数の時点の各々に関し、内燃機関210が過給機220から吸気した加圧気体の圧力を示す圧縮圧力データ、及び内燃機関210で燃焼した加圧気体の最大の圧力を示す燃焼最大圧力データをそれぞれ取得してもよい。」
(コ)「【0055】
図10は、図8で説明した期間I,II,IIIの各期間における圧縮圧力データ、及び燃焼最大圧力データの経時的な変化を説明する。
期間Iのシリンダ211−1内のピストンリング213に異常がない期間においては、シリンダ211−1における圧縮圧力データ、及び燃焼最大圧力データの経時的な変化は小さく、基準値の付近で概ね安定する。
シリンダ211−1内のピストンリング213の異常が疑われる期間IIにおいては、シリンダ211−1における圧縮圧力データ、及び燃焼最大圧力データは、経時的に低下する。ここでは、圧縮圧力データ、及び燃焼最大圧力データは、期間Iから期間IIに遷移したタイミングで低下した後、低い状態で概ね安定する。例えばピストンリング213が損傷して、シリンダ211−1の気密性が損なわれた場合、シリンダ211−1内のガスがピストンリング213の位置よりも下部に吹き抜けて、掃気ポートを介して掃気レシーバ224に流れることにより、シリンダ211−1内の圧力が低下するからである。期間II後の期間IIIでは、シリンダ211−1内の圧縮圧力データ、及び燃焼最大圧力データが低下した後、低い状態で概ね安定する。従って、制御部401(判定手段401B)は、圧力センサ262−1から取得した圧縮圧力データ、及び燃焼圧センサ264−1から取得した燃焼最大圧力データが、以上説明した経時的な変化を示す場合、シリンダ211−1のピストンリング213が異常である、と判定する。シリンダ211−2〜211−6に関しても同様である。
【0056】
また、制御部401(出力手段401C)は、圧力センサ262−1から取得した圧縮圧力データの経時的な変化を示す第7出力と、当該第7出力と同一の時点における、燃焼圧センサ264−1から取得した燃焼最大圧力データの経時的な変化を示す第8出力とを出力する。制御部401は、ここでは、第7,第8出力としてのグラフを表示部403に出力する。例えば、制御部401は、図10に示すような、圧縮圧力データの経時的な変化を示すグラフと、当該グラフと時間軸を共有する燃焼最大圧力の経時的な変化を示すグラフとを出力する。また、シリンダ211−2〜211−6に関しても同様である。
なお、制御部401は、上述した実施形態で説明した、掃気温度データ、及び排気温度データと、圧縮圧力データ、及び燃焼最大圧力データとを組み合わせて、ピストンリング213の異常を把握するための情報を生成してもよい。制御部401は、更に温度調整弁231の開度、及び冷却水出口温度データを組み合わせて、ピストンリング213の異常を把握するための情報を生成してもよい。」
(サ)「【図8】


(シ)「【図10】



ウ 甲第3号証
甲第3号証(以下「甲3」という。)には、次の事項が記載されている。
(ア)「【0001】
本発明は、ディーゼル機関の状態監視運転方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、コンテナ船、バルクキャリア、カーフェリー等の大型船舶や陸上発電プラント用として、環境に優しい2サイクル、4サイクルのディーゼル機関が用いられているが、この種のディーゼル機関においては、経済的運転の重要性が非常に高まっている。」
(イ)「【0016】
本発明のディーゼル機関の状態監視運転方法によれば、シリンダライナに対するピストンリングの摺動状態、燃焼状態及びシリンダ投入空気温度状態を機関運転中に正確に把握しつつ、機関の状態に応じた最も経済的となる運転のための推奨値を算出し得、該推奨値に基づいて経済的運転を行うことができ、運転コスト低減を図り得るという優れた効果を奏し得る。」
(ウ)「【0025】
又、前記ディーゼル機関10には、大気温度を検出する温度センサ64と、大気湿度を検出する湿度センサ65とを設けると共に、前記過給機55のコンプレッサ55aの出側には、過給後の空気温度を検出する温度センサ66を設け、前記掃気室53には、前記空気冷却器56通過後の過給吸入空気の温度を検出する温度センサ67と、前記空気冷却器56通過後の過給吸入空気の圧力を検出する圧力センサ68とを設け、前記シリンダ45には、シリンダライナ温度を検出する温度センサ69と、燃焼最高圧力並びに燃焼室最高圧縮圧力を検出するシリンダ内圧計測装置70とを設け、前記排気流路59には、前記排気弁60から排出される排ガスの温度を検出する温度センサ71と、前記過給機55のタービン55bの入側の排ガスの温度を検出する温度センサ72と、該タービン55bの出側の排ガスの温度を検出する温度センサ73とを設けてある。」
(エ)「【0032】
前記パターン1は、例えば、各シリンダライナ温度を例に取ると、図8に示す如く、負荷を横軸に取り、縦軸に各シリンダライナ温度を取ったグラフにおいて、その状態診断項目における各負荷(この例では50%負荷、75%部分負荷、85%通常負荷、100%最大負荷)での通常値(この例では170[℃]、180[℃]、190[℃]、220[℃])を登録しておくと共に、各負荷での上限値(この例では200[℃]、210[℃]、230[℃]、250[℃])と下限値(この例では150[℃]、155[℃]、165[℃]、185[℃])とを登録しておき、判定負荷は50%以上で、通常値の間、上限値の間、下限値の間はそれぞれ二次曲線で補完し、このグラフに、計測値(この例では通常負荷において201[℃])をプロットし、続いて、前記通常値を基準として上限値を100%、下限値を−100%に変換したものを縦軸に取り、負荷を横軸に取ったグラフに、前記計測値を%に変換した値(この例では28%)をプロットし、更に、日付を横軸に取ったグラフに、前記計測値を%に変換した値をプロットし、予め設定された判定指数テーブルに従い、判定指数eを算出するようにしたものである。因みに、この例の場合、前記計測値を%に変換した値が28%であるため、判定指数eは「4」として算出される形となる。尚、前記プロットした点をつなぐ近似曲線(直線)を数式y=kx+Cより算出し、該近似曲線のON−OFF(表示又は非表示)は選択方式としてある。
【0033】
前記パターン2は、例えば、燃焼室最高圧縮圧力を例に取ると、図9に示す如く、過給機回転数を横軸に取り、縦軸に燃焼室最高圧縮圧力を取ったグラフにおいて、その状態診断項目における各負荷の過給機回転数(9000[rpm]、11500[rpm]、12500[rpm]、13500[rpm])に対する通常値(この例では8.0[MPa]、10.4[MPa]、11.7[MPa]、13.7[MPa])を登録しておくと共に、各負荷の過給機回転数に対する上限値(この例では9.0[MPa]、11.4[MPa]、12.7[MPa]、14.7[MPa])と下限値(この例では7.0[MPa]、9.4[MPa]、10.7[MPa]、12.7[MPa])とを登録しておき、判定過給機回転数は9000[rpm]以上で、通常値の間、上限値の間、下限値の間はそれぞれ二次曲線で補完し、このグラフに、計測値(この例では過給機回転数が12500[rpm]において11.2[MPa])をプロットし、続いて、前記通常値を基準として上限値を100%、下限値を−100%に変換したものを縦軸に取り、過給機回転数を横軸に取ったグラフに、前記計測値を%に変換した値(この例では−50%)をプロットし、更に、日付を横軸に取ったグラフに、前記計測値を%に変換した値をプロットし、予め設定された判定指数テーブルに従い、判定指数eを算出するようにしたものである。因みに、この例の場合、前記計測値を%に変換した値が−50%であるため、判定指数eは「5」として算出される形となる。尚、前記プロットした点をつなぐ近似曲線(直線)を数式y=kx+Cより算出し、該近似曲線のON−OFF(表示又は非表示)は選択方式としてある。」
(オ)「【図8】


(カ)「【図9】



(2)対比・判断
ア 本件訂正発明1について
本件訂正発明1と甲1発明とを対比すると、甲1発明における「船舶等101に搭載されたディーゼルエンジンである内燃機関10の各気筒の排気管などの必要箇所に必要個数取り付けられた温度センサ群1の各温度センサ1a」は、その機能、構成又は技術的意義からみて本件訂正発明1の「船舶に搭載されるディーゼルエンジン及び/又はその接続装置の所定箇所の温度を測定するための温度測定手段」に相当し、同様に、「正常範囲値データ格納部8に格納されている正常範囲値とを比較することにより、各センサ1a〜4aより得られた性能データが正常範囲値から外れている場合に異常を検知する異常検知部6」は「温度測定手段による測定値を正常な温度範囲の上限値及び/又は下限値と比較することによりエンジンの状態を評価する瞬時評価手段」に相当する。
また、甲1発明における「異常検知部6での検知結果に加え、異常と判断された検知項目の性能データの時間変化率の大小を加味することにより、該当する故障名をさらに絞り込む構成としており、診断マップから検索した故障名に基づき、ガイダンスマップから対策情報を抽出し、診断結果として出力する」ことと本件訂正発明1における「瞬時評価手段で異常値が検出されても、傾向評価手段で正常値が示される場合は、瞬時評価手段で示された異常値は、一時的あるいは偶発的なものである可能性があると判断することができる」こととは、「瞬時評価手段による評価の結果とデータの傾向を組み合わせることによりエンジンの異常を検出する」ことという限りにおいて一致している。
そうすると、本件訂正発明1と甲1発明との間には、次の一致点、相違点がある。

〔一致点〕
「船舶に搭載されるディーゼルエンジン及び/又はその接続装置の所定箇所の温度を測定するための温度測定手段と、
前記温度測定手段による測定値を正常な温度範囲の上限値及び/又は下限値と比較することによりエンジンの状態を評価する瞬時評価手段と、
を備え、瞬時評価手段による評価の結果とデータの傾向を組み合わせることによりエンジンの異常を検出するディーゼルエンジンの状態監視システム。」

〔相違点1〕
本件訂正発明1は「温度測定手段による測定値と正常な温度の基準値との乖離差をデータ集積し、時間による乖離差の変化からエンジンの状態を評価する傾向評価手段」を備えるのに対して、甲1発明は「検知項目の性能データの時間変化率」を使うものであるから、それを取得する手段を備えているがその具体的態様は不明である点。

〔相違点2〕
「瞬時評価手段による評価の結果とデータの傾向を組み合わせることによりエンジンの異常を検出する」ことについて、本件訂正発明1は「瞬時評価手段で異常値が検出されても、傾向評価手段で正常値が示される場合は、瞬時評価手段で示された異常値は、一時的あるいは偶発的なものである可能性があると判断することができる」のに対して、甲1発明は「異常検知部6での検知結果に加え、異常と判断された検知項目の性能データの時間変化率の大小を加味することにより、該当する故障名をさらに絞り込む構成としており、診断マップから検索した故障名に基づき、ガイダンスマップから対策情報を抽出し、診断結果として出力する」点。

事案に鑑み、上記相違点2について検討する。
甲1発明においては、性能データの時間変化率を加味するのは故障名をさらに絞りこむためである。すなわち、性能データが正常範囲値から外れている場合には異常であることは確定するものである。そして、甲1には、傾向評価手段で正常値が示される場合は、瞬時評価手段で示された異常値は、一時的あるいは偶発的なものである可能性があると判断することができることについては記載も示唆もない。
また、甲2及び甲3にも、傾向評価手段で正常値が示される場合は、瞬時評価手段で示された異常値は、一時的あるいは偶発的なものである可能性があると判断することができることについては記載も示唆もなく、そのことが当業者にとって周知の技術であるともいえない。

そして、本件訂正発明1は、傾向評価手段で正常値が示される場合は、瞬時評価手段で示された異常値は、一時的あるいは偶発的なものである可能性があると判断することができることにより、段落【0006】に記載された「単にエンジンの温度等が適正な範囲内にあるか判断するだけでなく、適正な範囲から外れた場合にも、それが一時的あるいは偶発的なものであるかの判断を踏まえ、エンジンの異常を正確に警告することができる」という特有の効果を奏するものである。

してみると、上記相違点2に係る本件訂正発明1の発明特定事項は、甲1発明に、甲2及び3に記載された事項を参照しても、当業者が容易になし得たものではない。

したがって、本件訂正発明1は、甲1発明並びに甲2及び3に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

イ 本件訂正発明2について
本件訂正発明2と甲1発明とを対比すると、甲1発明における「船舶等101に搭載されたディーゼルエンジンである内燃機関10の各気筒の排気管などの必要箇所に必要個数取り付けられた・・・圧力センサ群2の各圧力センサ2a」は、その機能、構成又は技術的意義からみて本件訂正発明2の「船舶に搭載されるディーゼルエンジン及び/又はその接続装置の所定箇所の圧力を測定するための圧力測定手段」に相当し、同様に、「正常範囲値データ格納部8に格納されている正常範囲値とを比較することにより、各センサ1a〜4aより得られた性能データが正常範囲値から外れている場合に異常を検知する異常検知部6」は「圧力測定手段による測定値を正常な圧力範囲の上限値及び/又は下限値と比較することによりエンジンの状態を評価する瞬時評価手段」に相当する。
また、甲1発明における「異常検知部6での検知結果に加え、異常と判断された検知項目の性能データの時間変化率の大小を加味することにより、該当する故障名をさらに絞り込む構成としており、診断マップから検索した故障名に基づき、ガイダンスマップから対策情報を抽出し、診断結果として出力する」ことと本件訂正発明2における「瞬時評価手段で異常値が検出されても、傾向評価手段で正常値が示される場合は、瞬時評価手段で示された異常値は、一時的あるいは偶発的なものである可能性があると判断することができる」こととは、「瞬時評価手段による評価の結果とデータの傾向を組み合わせることによりエンジンの異常を検出する」ことという限りにおいて一致している。
そうすると、本件訂正発明2と甲1発明との間には、次の一致点、相違点がある。

〔一致点〕
「船舶に搭載されるディーゼルエンジン及び/又はその接続装置の所定箇所の圧力を測定するための圧力測定手段と、
前記圧力測定手段による測定値を正常な圧力範囲の上限値及び/又は下限値と比較することによりエンジンの状態を評価する瞬時評価手段と、
を備え、瞬時評価手段による評価の結果とデータの傾向を組み合わせることによりエンジンの異常を検出するディーゼルエンジンの状態監視システム。」

〔相違点3〕
本件訂正発明2は「圧力測定手段による測定値と正常な圧力の基準値との乖離差をデータ集積し、時間による乖離差の変化からエンジンの状態を評価する傾向評価手段」を備えるのに対して、甲1発明は「検知項目の性能データの時間変化率」を使うものであるから、それを取得する手段を備えているがその具体的態様は不明である点。

〔相違点4〕
「瞬時評価手段による評価の結果とデータの傾向を組み合わせることによりエンジンの異常を検出する」ことについて、本件訂正発明2は「瞬時評価手段で異常値が検出されても、傾向評価手段で正常値が示される場合は、瞬時評価手段で示された異常値は、一時的あるいは偶発的なものである可能性があると判断することができる」のに対して、甲1発明は「異常検知部6での検知結果に加え、異常と判断された検知項目の性能データの時間変化率の大小を加味することにより、該当する故障名をさらに絞り込む構成としており、診断マップから検索した故障名に基づき、ガイダンスマップから対策情報を抽出し、診断結果として出力する」点。

事案に鑑み、上記相違点4について検討する。
相違点4は、上記アで検討した相違点2と同様のものである。よって、上記アに記載したのと同様の理由により、上記相違点4に係る本件訂正発明2の発明特定事項は、甲1発明に、甲2及び3に記載された事項を参照しても、当業者が容易になし得たものではない。

したがって、本件訂正発明2は、甲1発明並びに甲2及び3に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

ウ 本件訂正発明3について
本件訂正発明3は、本件訂正発明1又は2の発明特定事項を全て含むから、上記と同様に、甲1発明並びに甲2及び3に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

エ 意見書における申立人の主張について
「瞬時評価手段で異常値が検出されても、傾向評価手段で正常値が示される場合は、瞬時評価手段で示された異常値は、一時的あるいは偶発的なものである可能性があると判断することができること」について、申立人は令和3年10月20日に提出した意見書において、甲1の段落【0077】等に記載されたものに相当する旨主張している。
しかし、甲1の段落【0077】等に記載されたものは、故障名をさらに絞りこむために、性能データの時間変化率を加味するものであって、瞬時評価手段の異常値が、一時的あるいは偶発的なものであるかの判断を踏まえ、エンジンの異常を正確に警告するための上記事項に相当するものではない。

また、申立人は参考資料1として特開2007−332932号公報をあげ、上記事項は当業者にとって周知の技術であった旨主張している。
参考文献1には、次の事項が記載されている。
(ア)「【0009】
本発明はこのような実情に鑑みてなされたものであって、その目的は、一時的な異常が生じたときに誤って異常有りの旨判断してしまうことを抑制できる内燃機関の異常診断装置を提供することにある。」
(イ)「【0068】
そこで本実施形態では、学習値Kの更新毎に当該学習値Kが適正範囲外の値であるか否かを判断し、学習値Kが適正範囲外の値であればカウンタCのカウント値を「1」だけカウントアップし、学習値Kが適正範囲内の値であればカウンタCのカウント値を初期値「0」にリセットする。図11の(a)及(b)は、上記学習値Kの更新毎の推移と、それに伴うカウンタCのカウンタ値の推移を示している。このカウンタCにおいては、カウンタ値の初期値が「0」とされており、学習値Kが更新毎に適正範囲外の値となる場合にはカウント値が初期値「0」から「1」ずつ増加してゆく。そして、上記カウンタCのカウンタ値が「2」以上の値である判定値(例えば「3」)以上になったとき(タイミングT10)、言い換えれば学習値Kが適正範囲外の値になった旨の判断が学習値Kの更新毎に複数回(この実施形態では3回)続いたとき、異常ありの旨判断するようにしている。
【0069】
この場合、カウンタCのカウント値が判定値以上になる前に、異常が解消して図11(a)に二点鎖線で示されるように学習値Kが適正範囲内の値に戻ると(タイミングT9)、カウント値が図11(b)に二点鎖線で示されるように初期値「0」にリセットされるため、異常有りの旨判断されることはない。すなわち、更新時の学習値Kが適正範囲外の値になったとしても、それが更新毎に3回続いて生じたものでないと、異常有りの旨判断されない。従って、触媒床温平均値Taveを目標床温Ttに調整できないという異常が一時的に生じたとき、誤って異常有りの旨判断してしまうことを抑制できる。」
(ウ)「【図11】



上記記載事項から、参考文献1には次の事項が記載されている。
「一時的な異常が生じたときに誤って異常有りの旨判断してしまうことを抑制するために、更新時の学習値Kが適正範囲外の値になったとしても、それが更新毎に3回続いて生じたものでないと、異常有りの旨判断されないこと。」
参考文献1に記載された事項は、データが適正な範囲から外れた場合にも、それが一時的あるいは偶発的なものであるかの判断を踏まえ、エンジンの異常を正確に警告することができるという課題において、本件訂正発明1ないし3と共通する課題を有するものであるが、そのための手段として、測定値と正常な基準値との乖離差をデータ集積し、時間による乖離差の変化からエンジンの状態を評価する傾向評価手段を備えたものでもなく、瞬時評価手段で異常値が検出されても、傾向評価手段で正常値が示される場合は、瞬時評価手段で示された異常値は、一時的あるいは偶発的なものである可能性があると判断することができるものでもない。

よって、参考文献1は「瞬時評価手段で異常値が検出されても、傾向評価手段で正常値が示される場合は、瞬時評価手段で示された異常値は、一時的あるいは偶発的なものである可能性があると判断することができること」が当業者にとって周知の技術であることを示すものではないし、そのほかに上記事項が周知の技術であることを示す証拠もない。

以上のとおり、申立人の上記主張はいずれも採用できない。

(3)まとめ
したがって、上記理由は採用できない。

第6 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1ないし3に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1ないし3に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。

 
発明の名称 (54)【発明の名称】船舶用ディーゼルエンジン状態監視システム
【技術分野】
【0001】
本発明は、船舶に搭載されるディーゼルエンジン等の所定箇所の温度等を測定し、解析することによりエンジンの状態を監視するディーゼルエンジンの状態監視システムに関する。
【背景技術】
【0002】
船舶に搭載する2サイクルディーゼルエンジンにおいては、運航による性能低下を抑え、半永久的に安全に稼働させるための技術として、特殊なフィルター装置を備えた、シリンダ油の循環供給方法(特許文献1)や、システム油供給システム(特許文献2)が知られているが、洋上において、船舶が安全に航行するためには、ディーゼルエンジンが正常に稼働していることを確認するため、エンジンの状態を正確に監視するシステムが必要となる。
【0003】
従来、船舶に搭載されるディーゼルエンジンは、エンジンの故障を未然に防止するため、所定の箇所の温度を継続的に測定し、測定した温度の値に異常がある場合には、作業員がこれまでの経験をもとにエンジンの所定の箇所を確認し補修するとともに、周辺機器の調整や必要な場合にはエンジンの部品交換を行っていた。
【0004】
そして、このような温度測定による異常の検出方法においては、エンジンの異常を早期に発見するため、僅かな異常を検出すべく適正な温度範囲を狭く設定する必要があった。
【0005】
しかしながら、適正な温度範囲を狭くすると、気候の変化やエンジンの出力によってもエンジンの温度は変化するため、エンジンが正常に稼働しているにもかかわらず、エンジンに異常があるかのごとく信号が発せられることとなる。また、このような誤った信号は、点検する作業員の負担となるとともに、確認作業に時間を要し、航行の妨げとなりやすい。
【0006】
このため、ディーゼルエンジンの監視においては、単にエンジンの温度等が適正な範囲内にあるか判断するだけでなく、適正な範囲から外れた場合にも、それが一時的あるいは偶発的なものであるかの判断を踏まえ、エンジンの異常を正確に警告することができる監視システムの開発が望まれるところである。
【0007】
【特許文献1】特許第6223868号公報
【特許文献2】特許第6157432号公報
【特許文献3】特開平08−291704号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、船舶に搭載されるディーゼルエンジンについて、エンジンの異常を迅速且つ正確に検知し警告するための状態監視システムを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するために本発明者らが検討を行った結果、ディーゼルエンジンの所定箇所の温度等の測定値が、正常な範囲にあるかを判断する瞬時評価手段だけでなく、基準の温度との乖離差をデータ集積することにより判断する傾向評価手段を備えることにより、ディーゼルエンジンの稼働状態を的確に判断することが可能となることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち本発明は、船舶に搭載されるディーゼルエンジン及び/又はその接続装置の所定箇所の温度を測定するための温度測定手段と、
前記温度測定手段による測定値を正常な温度範囲の上限値及び/又は下限値と比較することによりエンジンの状態を評価する瞬時評価手段と、
前記温度測定手段による測定値と正常な温度の基準値との乖離差をデータ集積し、時間による乖離差の変化からエンジンの状態を評価する傾向評価手段と、
を備え、瞬時評価手段で異常値が検出されても、傾向評価手段で正常値が示される場合は、瞬時評価手段で示された異常値は、一時的あるいは偶発的なものである可能性があると判断することができることを特徴とするディーゼルエンジンの状態監視システムである。
【0011】
また本発明は、船舶に搭載されるディーゼルエンジン及び/又はその接続装置の所定箇所の圧力を測定するための圧力測定手段と、
前記圧力測定手段による測定値を正常な圧力範囲の上限値及び/又は下限値と比較することによりエンジンの状態を評価する瞬時評価手段と、
前記圧力測定手段による測定値と正常な圧力の基準値との乖離差をデータ集積し、時間による乖離差の変化からエンジンの状態を評価する傾向評価手段と、
を備え、瞬時評価手段で異常値が検出されても、傾向評価手段で正常値が示される場合は、瞬時評価手段で示された異常値は、一時的あるいは偶発的なものである可能性があると判断することができることを特徴とするディーゼルエンジンの状態監視システムである。
【0012】
さらに本発明は、瞬時評価手段及び傾向評価手段からの異常を知らせる信号の受信により、ディーゼルエンジン又はその接続装置の異常箇所及び/又は異常の要因を画面上に表示する表示手段を備えたことを特徴とするのディーゼルエンジンの状態監視システムである。
【発明の効果】
【0013】
本発明のディーゼルエンジンの状態監視システムによれば、船舶に搭載されるディーゼルエンジンの稼働状態を的確に判断し、エンジンの異常を迅速且つ正確に警告することができ、船舶を長期に亘り安全に航行することが可能となる。また、異常が生じても軽微な作業で修復することができ、エンジンの分解など、大がかりな補修作業を無くすことができる。
【0014】
さらにエンジンに異常が生じた場合には、異常箇所や異常の要因が画面上に表示されるため、確認すべきエンジンあるいは接続装置の点検箇所が特定できるため、エンジンの修復に向け迅速かつ的確な対処が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】ディーゼルエンジンの状態監視システムにおける瞬時評価手段を示すグラフ
【図2】ディーゼルエンジンの状態監視システムの瞬時評価手段によるエンジン等各部位の温度評価グラフ
【図3】ディーゼルエンジンの状態監視システムにおける傾向評価手段を示すグラフ
【図4】ディーゼルエンジンの状態監視システムの傾向評価手段によるエンジン等各部位の温度評価グラフ
【図5】ディーゼルエンジンの状態監視システムの瞬時評価手段によるエンジン等各部位の温度差評価グラフ
【図6】ディーゼルエンジンの状態監視システムの傾向評価手段によるエンジン等各部位の温度差評価グラフ
【図7】ディーゼルエンジンの状態監視システムの瞬時評価手段によるエンジン等各部位の平均温度等評価グラフ
【図8】ディーゼルエンジンの状態監視システムの傾向評価手段によるエンジン等各部位の平均温度等評価グラフ
【図9】ディーゼルエンジンの状態監視システムの瞬時評価手段によるエンジン等各部位の圧力評価グラフ
【図10】ディーゼルエンジンの状態監視システムにおける傾向評価手段によるエンジン等各部位の圧力評価グラフ
【図11】ディーゼルエンジンの状態監視システムの瞬時評価手段によるエンジン等各部位の回転速度等評価グラフ
【図12】ディーゼルエンジンの状態監視システムにおける傾向評価手段によるエンジン等各部位の回転速度等評価グラフ
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。本実施の形態を具体例を挙げながら説明するが、本発明は具体例に限定されるものではない。
【0017】
本発明のディーゼルエンジンの状態監視システムは、船舶に搭載されるディーゼルエンジンの所定箇所の温度を測定するための温度測定手段と、前記温度測定手段による測定値を正常な温度範囲として定めた臨界値(上限値、下限値)と比較することによりエンジンの状態を評価する瞬時評価手段と、前記温度測定手段による測定値と正常な温度の基準値との乖離差をデータ集積し、時間による乖離差の変化からエンジンの状態を評価する傾向評価手段と、を備えることを特徴とする。
【0018】
ディーゼルエンジンの接続装置とは、ディーゼルエンジン本体に接続される装置全般を示すものであり、例えば、ターボチャージャー等の過給機や船舶内の電力を発電するための発電機などの装置を挙げることができる。
【0019】
温度測定手段は、ディーゼルエンジンの所定の箇所の温度を測定し、測定した値を電気的な信号として発信できるものであれば、特に限定されるものではなく、温度センサーなど広く用いることができる。温度の測定箇所としては、例えば、シリンダ出口、過給機入口、吸気口等が挙げられるが、ディーゼルエンジンの構造により、適宜、測定箇所を選定することが好ましい。また、エンジンの稼働により発熱する部位ごとに温度測定手段を設置しておけば、あらゆる温度の異常を検出することができるため、エンジンの異常をもれなく探知することが可能となる。
【0020】
ディーゼルエンジンの状態監視システムは、瞬時評価手段と傾向評価手段を備えており、それぞれの評価手段によりエンジンの異常を検知することができるが、瞬時評価手段と傾向評価手段を組み合わせることで、精度の高いエンジンの監視が可能となる。例えば、瞬時評価手段で異常値が検出されても、傾向評価手段で正常値が示されている場合は、瞬時評価手段で示された異常値は、一時的あるいは偶発的なものである可能性があると判断することができ、エンジンの状態を総合的に判断することが可能となる。
【0021】
瞬時評価手段は、測定した温度の値を正常な温度範囲として定めた臨界値(上限値、下限値)と比較することにより、測定した温度が正常であるか、異常であるか判断する。正常な温度範囲として定める臨界値には、通常、上限値と下限値を設け、測定した温度の値が、上限値を上回る場合あるいは下限値を下回る場合に警告信号が発せられる(図1)。
【0022】
警告信号を発する判断の基準となる臨界値(上限値、下限値)とは別に、注意を促すための閾値を定めることができる。このような閾値を設けておけば、警告信号を発する前に注
意信号を発して監視員にエンジンの状態確認を促すことが可能となる。
【0023】
警告信号を発する基準となる臨界値は、通常、正常な温度の基準値を中心として、上限値と下限値を設定する。正常な温度の基準値は、通常、船舶(エンジン)を購入後、比較的新しい状態で海上での試運転を行うことにより計測する。エンジンの出力(負荷率(Load(%))に応じて正常な温度の基準を設定すれば、エンジンの出力に応じて瞬時評価手段と傾向評価手段を機能させることができるため、より精度の高い監視が可能となる。尚、必ずしも上限値と下限値を設定する必要はなく、測定箇所の温度特性により、上限値のみ、あるいは下限値のみを設定してもよい。
【0024】
警告信号を発する判断の基準となる臨界値(上限値、下限値)や注意を促すための閾値は、エンジン又はその接続装置の温度を測定する箇所に応じて、適宜、設定すべきであるが(図2)、例えば、シリンダ出口であれば、臨界値の上限を正常な温度の基準値に対し+48℃に設定し、臨界値の下限を基準値に対し−48℃に設定することができる(図1)。また、注意を促すための閾値を正常な温度の基準値に対し+40℃と−40℃に設定することができる(表1)。
【0025】
傾向評価手段は、温度測定手段により測定した温度値と正常な温度の基準値との乖離差をデータ集積し、時間による乖離差の変化からエンジンの状態を評価するものである。例えば、図3に示すように、温度の測定値と正常な温度の基準値との乖離差を約1ヶ月の期間グラフ上にプロットし、これらのプロットしたデータから得られる近似直線の傾きが、設定した所定の傾きの上限あるいは下限を超えた場合、エンジンの異常を知らせる警告信号が発せられる。
【0026】
警告信号を発する判断の基準となる直線の傾きや注意を促すための直線の傾きは、エンジン又は接続装置の温度を測定する箇所に応じて、適宜、設定すべきであるが(図4)、例えば、シリンダ出口であれば、図3に示すように、警報の対象となる直線の傾きは、横軸の約1ヶ月間に対し、縦軸の温度の変化が+32℃と−32℃に相当する直線の傾きに設定することができる。また、注意を促すための直線の傾きは、横軸の約1ヶ月間に対し、縦軸の温度の変化が+26℃と−26℃に相当する直線の傾きに設定することができる。
【0027】
また傾向評価手段は、プロットしたデータの近似直線の傾きに限らず、データから得られる近似曲線等を用い、適宜、関数計算を利用するなどして評価することもできる。
【0028】
ディーゼルエンジンの状態監視システムは、測定した温度の値を直接利用することができるが、例えば、過給機の排気出入口など温度差の管理が重要になると考えられる箇所においては、温度差の値について瞬時評価手段(図5)と傾向評価手段(図6)を利用しエンジンの状態を監視することも可能である。
【0029】
また、測定した温度等の値から算出される平均値や偏差値について瞬時評価手段(図7)と傾向評価手段(図8)を利用してエンジンの状態を監視することもできる。
【0030】
ディーゼルエンジンの状態監視システムには、瞬時評価手段や傾向評価手段から警告信号等のエンジンの異常を知らせる信号を受信すると、ディーゼルエンジン等の異常箇所や異常の要因を画面上に表示する表示手段を備えることができる。
【0031】
測定している箇所に温度の異常が生じたことを検知すると、エンジンあるいは過給機等の接続装置の点検すべき箇所が画面上に表示されるため、監視員は、エンジンの修復に向け迅速に対処することができ、エンジンの故障を未然に防止することが可能となる。
【0032】
温度異常が生じた測定箇所から想定される点検すべき箇所は、エンジンの形式や接続装置の種類、また、これまでの実績に基づき適宜設定すべきであるが、例えば、表1に示すように、シリンダ出口において、測定温度が上限値を上回る場合には、燃料噴射弁の不良、燃料噴射ポンプの不良、排気弁の不良、調整リンクの不良が考えられ、燃料噴射弁の不良の要因としては、燃料噴射弁のスティック、燃料噴射弁のシート部の異常、燃料噴射弁の噴口の拡大、燃料噴射弁の開弁圧の低下、燃料噴射弁とノズルの当たり面の不良が具体的に挙げられるとともに、噴射テストの実施が推奨され、これらの内容が画面上に表示されることとなる。一方、シリンダ出口における測定温度が下限値を下回る場合には、燃料噴射弁の不良、燃料噴射ポンプの不良、排気弁の不良、調整リンクの不良が考えられ、燃料噴射弁の不良の要因としては、燃料噴射弁の詰まり、燃料噴射弁のスティック、燃料噴射弁とノズルの当たり面の不良が挙げられるとともに、噴射テストの実施が推奨される。
【0033】
【表1】

【0034】
ディーゼルエンジンの状態監視システムは、船舶に搭載されるディーゼルエンジン等の所定箇所の圧力についても監視することができる。圧力を測定する部位としては、例えば、ディールエンジンの吸気口における吸気圧力や冷却ジャケット内の冷却水の圧力を挙げることができる。
【0035】
圧力によるエンジンの状態監視システムにおいては、測定する対象が圧力であるため、温度測定手段に代えて圧力測定手段を使用する必要があるものの、瞬時評価手段と傾向評価手段については、温度による状態監視システムと同様の手法を用いることができる。圧力による状態監視システムの瞬時評価手段の具体例を図9に示し、傾向評価手段の具体例を図10に示す。
【0036】
さらに、ディーゼルエンジンの状態監視システムは、船舶に搭載されるディーゼルエンジン等の機関回転速度、過給機回転速度、シリンダオイルミスト濃度等についても監視することができる。回転速度やミスト濃度を測定するための測定手段は適宜選択する必要があるものの、瞬時評価手段と傾向評価手段については、温度による状態監視システムと同様の手法を用いることができる。機関回転速度等によるエンジンの状態監視システムにおける瞬時評価手段の具体例を図11に示し、傾向評価手段の具体例を図12に示す。また、図には示さないが、潤滑油の動粘度についても同様の手法を用いて監視することができる。
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
船舶に搭載されるディーゼルエンジン及び/又はその接続装置の所定箇所の温度を測定するための温度測定手段と、
前記温度測定手段による測定値を正常な温度範囲の上限値及び/又は下限値と比較することによりエンジンの状態を評価する瞬時評価手段と、
前記温度測定手段による測定値と正常な温度の基準値との乖離差をデータ集積し、時間による乖離差の変化からエンジンの状態を評価する傾向評価手段と、
を備え、瞬時評価手段で異常値が検出されても、傾向評価手段で正常値が示される場合は、瞬時評価手段で示された異常値は、一時的あるいは偶発的なものである可能性があると判断することができることを特徴とするディーゼルエンジンの状態監視システム。
【請求項2】
船舶に搭載されるディーゼルエンジン及び/又はその接続装置の所定箇所の圧力を測定するための圧力測定手段と、
前記圧力測定手段による測定値を正常な圧力範囲の上限値及び/又は下限値と比較することによりエンジンの状態を評価する瞬時評価手段と、
前記圧力測定手段による測定値と正常な圧力の基準値との乖離差をデータ集積し、時間による乖離差の変化からエンジンの状態を評価する傾向評価手段と、
を備え、瞬時評価手段で異常値が検出されても、傾向評価手段で正常値が示される場合は、瞬時評価手段で示された異常値は、一時的あるいは偶発的なものである可能性があると判断することができることを特徴とするディーゼルエンジンの状態監視システム。
【請求項3】
瞬時評価手段及び傾向評価手段からの異常を知らせる信号の受信により、ディーゼルエンジン又はその接続装置の異常箇所及び/又は異常の要因を画面上に表示する表示手段を備えたことを特徴とする請求項1又は2記載のディーゼルエンジンの状態監視システム。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2022-03-03 
出願番号 P2019-104964
審決分類 P 1 651・ 537- YAA (F02D)
P 1 651・ 121- YAA (F02D)
P 1 651・ 536- YAA (F02D)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 金澤 俊郎
特許庁審判官 西中村 健一
山本 信平
登録日 2020-09-08 
登録番号 6761511
権利者 株式会社 グローバルローエンロー 株式会社赤阪鐵工所
発明の名称 船舶用ディーゼルエンジン状態監視システム  
代理人 木村 浩幸  
代理人 竹内 裕  
代理人 木村 浩幸  
代理人 竹内 裕  
代理人 木村 浩幸  
代理人 木村 浩幸  
代理人 竹内 裕  
代理人 竹内 裕  

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