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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  B32B
審判 全部申し立て 2項進歩性  B32B
管理番号 1385195
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-06-24 
種別 異議の決定 
異議申立日 2021-07-29 
確定日 2022-01-06 
異議申立件数
事件の表示 特許第6824920号発明「吸音テキスタイル複合材」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6824920号の請求項1〜12に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許6824920号の請求項1〜12に係る特許についての出願は、平成30年3月16日(パリ条約による優先権主張 平成29年3月17日 ドイツ、平成29年7月4日 欧州特許庁)にされた出願であって、令和3年1月15日にその特許権の設定登録がされ、令和3年2月3日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許に対し、令和3年7月29日に特許異議申立人特許業務法人朝日奈特許事務所(以下「申立人1」という。)が、令和3年7月30日に特許異議申立人梅田勝子(以下「申立人2」という。)が本件特許異議の申立てを行った。

第2 本件発明
特許6824920号の請求項1〜12に係る発明(以下「本件発明1」等という。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1〜12に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「【請求項1】
a)繊度が3dtex〜17dtexの粗短繊維および繊度が0.3dtex〜2.9dtexの微細短繊維を骨格繊維として含む、少なくとも1つの開孔性支持層、ならびに
b)繊維径が10μm未満のマイクロファイバを含む、前記開孔性支持層上に配置された微多孔性流層、
を含む吸音テキスタイル複合材であって、
前記吸音テキスタイル複合材の流れ抵抗が、250Ns/m3〜5000Ns/m3であり、
前記開孔性支持層が、75:1〜250:1という空気の、繊維に対する体積比を有し、
前記開孔性支持層が、少なくとも部分的に溶融したバインダ繊維をさらなる繊維として含有することを特徴とすることを特徴とする吸音テキスタイル複合材。
【請求項2】
前記吸音テキスタイル複合材の圧縮率が、70%〜100%、および/または、
前記吸音テキスタイル複合材の復元能力が、70%〜100%であることを特徴とする、請求項1に記載の吸音テキスタイル複合材。
【請求項3】
前記開孔性支持層が不織布であることを特徴とする、請求項1または2に記載の吸音テキスタイル複合材。
【請求項4】
前記粗短繊維の分率が、前記開孔性支持層の総重量に対して、40重量%〜80重量%であることを特徴とする、請求項1から3のいずれか一項に記載の吸音テキスタイル複合材。
【請求項5】
前記微細短繊維の分率が、前記開孔性支持層の総重量に対して、10重量%〜50重量%であることを特徴とする、請求項1から4のいずれか一項に記載の吸音テキスタイル複合材。
【請求項6】
前記骨格繊維として使用される微細短繊維および粗短繊維が、互いに独立に、20mm〜80mmの短繊維長を有することを特徴とする、請求項1から5のいずれか一項に記載の吸音テキスタイル複合材。
【請求項7】
前記開孔性支持層がバインダ結合されており、前記バインダ繊維として、ポリアクリレート、ポリスチレン、エチレンポリ酢酸ビニル、ポリウレタン、ならびにそれらの混合物およびコポリマーを使用することを特徴とする、請求項1から6のいずれか一項に記載の吸音テキスタイル複合材。
【請求項8】
前記流層の前記マイクロファイバは、繊維径が0.5μm〜5μmのマイクロファイバであり、前記マイクロファイバが、メルトブロー繊維を含むことを特徴とする、請求項1から7のいずれか一項に記載の吸音テキスタイル複合材。
【請求項9】
前記吸音テキスタイル複合材の目付量が、50g/m2〜350g/m2であることを特徴とする、請求項1から8のいずれか一項に記載の吸音テキスタイル複合材。
【請求項10】
前記吸音テキスタイル複合材の厚さが、5mm〜35mmであることを特徴とする、請求項1から9のいずれか一項に記載の吸音テキスタイル複合材。
【請求項11】
次のステップ
a)繊度が3dtex〜17dtexの粗短繊維および繊度が0.3dtex〜2.9dtexの微細短繊維を骨格繊維として含み、さらに、少なくとも部分的に溶融したバインダ繊維を含み、75:1〜250:1という空気の、繊維に対する体積比を有する、少なくとも1つの開孔性支持層の準備および/または製造、
b)繊維径が10μm未満のマイクロファイバを含む微多孔性流層の準備および/または製造、
c)前記開孔性支持層上での流層の配置、
d)前記開孔性支持層と流層との結合
を含む、および/または次のステップ
a’)繊度が3dtex〜17dtexの粗短繊維および繊度が0.3dtex〜2.9dtexの微細短繊維を骨格繊維として含み、さらに、少なくとも部分的に溶融したバインダ繊維を含み、75:1〜250:1という空気の、繊維に対する体積比を有する、少なくとも1つの開孔性支持層の準備および/または製造、
b’)繊維径が10μm未満のマイクロファイバを含む微多孔性流層としてのメルトブロー不織布の、前記開孔性支持層上への紡糸、
を含む、
250Ns/m3〜5000Ns/m3の流れ抵抗を有する吸音テキスタイル複合材の製造方法。
【請求項12】
自動車部門における吸音を目的とした、請求項1から10のいずれか一項に記載の吸音テキスタイル複合材の使用。」

第3 申立理由の概要
1.申立人1は、次の甲第1号証〜甲第3号証(以下「甲1−1」〜「甲1−3」という。)を提出して、以下の理由1−1〜理由1−2を申立てている。
甲1−1:特開2015−37842号公報
甲1−2:国際公開第2005/019783号
甲1−3:特開2015−121631号公報

(1)理由1−1(新規性
本件発明1、3〜5、8〜10、12は、甲1−1に記載された発明である。
よって、本件発明1、3〜5、8〜10、12は、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであり、その特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

(2)理由1−2(進歩性
本件発明1〜12は、甲1−1〜1−3に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
よって、本件発明1〜12は、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものであり、その特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

2.申立人2は、次の甲第1号証〜甲第7号証(以下「甲2−1」〜「甲2−7」という。)を提出して、以下の理由2−1〜理由2−2を申立てている。
甲2−1:特開2015−121631号公報
甲2−2:特開2012−136803号公報
甲2−3:特開2007−279649号公報
甲2−4:特開2009−184296号公報
甲2−5:特表2002−505209号公報
甲2−6:“各種繊維の性能表”,p.1〜2,[online],2016年8月3日,[2021年7月30日検索],インターネット<URL:http://www.nbc-jp.com/product/images/pdf_spec.pdf>
甲2−7:中村義男 編集,久保栄一 著,“機能性不織布の開発と応用”,株式会社シーエムシー,1989年6月30日第1刷発行,p.32〜35

(1)理由2−1(新規性
本件発明11、12は、甲2−4に記載された発明である。
よって、本件発明11、12は、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであり、その特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

(2)理由2−2(進歩性
本件発明1〜12は、甲2−1〜2−7に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
よって、本件発明1〜12は、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものであり、その特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

第4 文献の記載及び引用発明
1.甲1−1には、以下の事項が記載されている。なお、下線は当審で付与した。以下同様。
(1)「【0008】
本発明は、従来の自動車用内装材をさらに改善するために提案されたものであり、吸音性および難燃性が優れ、しかも厚み、重量、密度のバランスのとれた軽量フェルト材を提供することを目的としている。本発明の他の目的は、単に自動車や車両の内装材用だけでなく、産業資材用、防寒衣料用などにも適した軽量フェルト材を提供することである。」

(2)「【0017】
本発明に係る軽量フェルト材1は、図1に示すように、2層の硬綿層2,3の間に不織シート5を介在させて一体化させる。硬綿層2,3は、通常、同一の厚み、密度および目付配分であり、所望に応じて両者の厚みなどを適宜調整してフェルト材1の吸音性能をいっそう高めてもよい。フェルト材1には、内装材として使用する際には、好適な外観、触感や立毛感などを有する表皮材を常温または加熱処理でさらに接着する。」

(3)「【0027】
不織シート5は、繊維径が2〜20μmの極細繊維で構成することが望ましく、該不織シートは前記の各方法で製造でき、好ましくはメルトブローン法で製造する。メルトブローン不織シート5は、低密度で嵩高であり、且つドレープ性に富んでしなやかである。メルトブローン不織シート5について、ウェブにおいて隣り合う単繊維同士が複数本集束され、繊維長さ方向の少なくとも一部が相互に接着した連結部を形成する。例えば、メルトブローン不織シートでは、熱風を吹き付けながら混練樹脂をノズルからコンベア上に押し出し、極細繊維を熱で絡ませてシート状にする。メルトブローン不織シートにおいて、連結部を含む連結繊維は、メルトブローンウェブを構成する繊維との交点で接着していることが望ましい。
【0028】
不織シート5は、厚さが0.1〜1.0mmの比較的薄くてドレープ性に富んだ不織布であり、目付が20〜100g/m2であることが望ましく、好適な仕様は厚さ約0.3mm、目付約40g/m2である。不織シート5の目付が30g/m2未満であるとフェルト材1の吸音性能を十分に高めることができず、一方、100g/m2を超えても吸音性能の向上が少ないうえに柔軟性が低下しやすい。」

(4)「【0032】
熱処理機22は、第2カード・クロスラッパー12の後方に設置し、機内を循環する熱風により、第2ウェブ16、不織シート5および第1ウェブ14の3層積層体24(図4参照)をコンベア8上で均一に加熱する。この加熱温度はウェブ14,16内の低融点繊維の融点を越えることを要し、これによって低融点繊維を溶融する。熱処理機22の後方には、さらに1対の加圧ローラ26および冷却機28を順次設置する。熱処理機22および1対の加圧ローラ26により、3層積層体24から軽量フェルト材1を得る。
【0033】
フェルト製造装置7において、まず第1カード・クロスラッパー10で極細繊維、中空繊維および低融点繊維などを絡合し、下方の硬綿層3に対応する第1ウェブ14をコンベア8上に送り出す。ついで、コンベア8上において、第1ウェブ14の上に長寸の不織シート5を連続的に載置する。第2カード・クロスラッパー12では、所定量の極細繊維、中空繊維および低融点繊維などを絡合し、上方の硬綿層2に対応する第2ウェブ16をコンベア8上に送り出し、不織シート5上に連続的に載置して3層積層体24とする。」

(5)「【実施例1】
【0037】
次に、本発明を実施例に基づいて説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。図1に示す軽量フェルト材1を製造するために、図3に示すフェルト製造装置7を用い、繊度0.75デニールの極細ポリエステル繊維40%、繊度15デニールの中空ポリエステル繊維15%、繊度4デニールの低融点ポリエステル繊維25%、繊度3デニールのポリエステル短繊維20%を混綿し、目付150g/m2の2枚のウェブ14,16を形成する。不織シート5として、目付40g/m2のポリエステルメルトブローンシート(商品名:クラフレックスBTS0040EM、クラレ製)を用いる。
【0038】
不織シート5を前記のウェブ14,16で挟み、全体を加熱接着させる。得た軽量フェルト材1は、不織シート5をフェルト材中心に位置させ、上方および下方の硬綿層2,3の厚みおよび目付配分は均等である。この軽量フェルト材1は厚さ38mmおよび目付340g/m2である。」

(6)「【図1】



(7)また、甲1−1の実施例1の下方硬綿層の「空気の体積/繊維の体積」を計算すると、通気性基材100cm角あたりの体積19000cm3(=100[cm]×100[cm]×厚さ1.9[cm])に対して、繊維の体積は109cm3(=150[g]/ポリエステルの密度1.38[g/cm3])である。したがって、支持層における、「空気の体積/繊維の体積」は、173(=(19000−109)/109)である。

(8)したがって、上記記載事項を特に実施例1について総合すると、甲1−1には次の発明(以下、「甲1−1発明」という。)が記載されている。
「繊度3デニールのポリエステル短繊維および繊度0.75デニールの極細ポリエステル繊維を含む、下方硬綿層、ならびに
繊維径が2〜20μmの極細繊維を含む、下方硬綿層上に配置された不織シート、
を含む軽量フェルト材であって、
下方硬綿層が、173:1という空気の、繊維に対する体積比を有し、
下方硬綿層が、溶融した低融点ポリエステル繊維を含有する軽量フェルト材。」

また、甲1−1には次の発明(以下、「甲1−1方法発明」という。)も記載されている。
「繊度3デニールのポリエステル短繊維および繊度0.75デニールの極細ポリエステル繊維を含み、さらに、溶融した低融点ポリエステル繊維を含み、173:1という空気の、繊維に対する体積比を有する、下方硬綿層の準備、
繊維径が2〜20μmの極細繊維を含む不織シートの準備、
下方硬綿層上での不織シートの配置、
下方硬綿層と不織シートとの加熱接着
を含む、
軽量フェルト材の製造方法。」

2.甲2−1には、以下の事項が記載されている。
(1)「【0004】
本発明は、通気性表皮材の積層により吸音材の吸音性能が効果的に向上した、吸音性能に優れる吸音材の提供を目的とする。」

(2)「【0025】
なお、本発明でいう通気度は以下に説明する通気度の測定方法を用いて測定できる。
(通気度の測定方法)
1.JIS L1096:2010「織物及び編物の生地試験方法」の「通気性」A法(フラジール形法)において、通気度の測定に使用可能なフラジール型通気度試験機を準備する。なお、前記フラジール型通気度試験機における、通気部分の大きさは直径70mmの円形である。
2.測定対象(通気性表皮材や通気性基材)を打ち抜き、直径29mmの円板状の試験片を採取する。
3.中央に直径29mmの円形の開口を有する平板(縦:100mm、横:100mm)の中央に、円筒(外径:35mm、内径:29mm、高さ20mm)の一方の端部が接続一体化した形状の、治具を準備する。
4.治具における円筒部分の内部に試験片を収め、円筒部分と試験片との接触部分にOリング(外径:29mm、内径:25mm)を配置することで、通気度の測定時に円筒部分と試験片の接触部分に通気が生じないようにする。
5.フラジール型通気度試験機における通気部分の中心と、治具に納められている試験片の中心とが重なるようにして、フラジール型通気度試験機における通気部分の上に治具を設置する。なお、この時、フラジール型通気度試験機と治具の接触部分に通気が生じないようにする。
6.差圧が125Paとなる条件で、通気度の測定を行う。なお、このときの試験片の通気部分は直径25mmの円形形状(Oリングの内周形状)である。
7.測定結果を7.84倍し換算することで、測定対象の通気度(単位:cm3/cm2/s)を算出する。なお、7.84倍とは、フラジール型通気度試験機の通気部分(直径70mm)の面積を、試験片の通気部分(直径25mm)の面積で除した値である。
【0026】
本発明でいう「単位厚さあたりの通気抵抗」とは、通気性表皮材および通気性基材の通気度と厚さの値を以下の式に代入することで算出した値である。

σ:単位厚さあたりの通気抵抗(単位:N・s/m4)
ΔP:差圧(125Pa)
Q:通気度(単位:cm3/cm2/s)
t:厚さ(単位:mm)」

(3)「【0040】
(実施例1−6、比較例1−7)
(通気性表皮材の準備)
溶融したポリプロピレン樹脂を紡糸液として使用し、メルトブロー法を用いて紡糸すると共に捕集してなる、メルトブロー不織布A〜Cを準備した。
・メルトブロー不織布A(平均繊維径:1.2μm、通気度:5.3cm3/cm2・s、厚さ:1.1mm、単位厚さあたりの通気抵抗:2.1×106N・s/m4、目付:83g/m2)
・メルトブロー不織布B(平均繊維径:3.4μm、通気度:45.2cm3/cm2・s、厚さ:1.4mm、単位厚さあたりの通気抵抗:2×105N・s/m4、目付:84g/m2)
・メルトブロー不織布C(平均繊維径:9.8μm、通気度:143.8cm3/cm2・s、厚さ:1.4mm、単位厚さあたりの通気抵抗:6.2×104N・s/m4、目付:85g/m2)

また、N,N−ジメチルアセトアミドに溶解させたポリエーテルスルホン樹脂溶液を紡糸液として 使用し、静電紡糸法を用いて紡糸すると共に捕集してなる、静電紡糸不織布を準備した。
・静電紡糸不織布(平均繊維径:0.4μm、通気度:1.3cm3/cm2・s、厚さ:0.1mm、単位厚さあたりの通気抵抗:8.8×107N・s/m4、目付:5g/m2)

(通気性基材の準備)
ポリエステル繊維(繊度:0.9dtex、繊維長:38mm)50質量%とポリエステル中空繊維(繊度:6.6dtex、繊維長:64mm)20質量%および芯鞘型接着繊維(芯部:ポリエステル樹脂、鞘部:共重合ポリエステル樹脂、繊度:4.4dtex、繊維長:51mm)30質量%とを混合した繊維群を、エアレイ装置に供することで繊維を絡み合わせて乾式不織布a〜bを調製した。

・乾式不織布a(通気度:34cm3/cm2・s、厚さ:10.6mm、単位厚さあたりの通気抵抗:3.5×104N・s/m4、目付:505g/m2)
・乾式不織布b(通気度:130cm3/cm2・s、厚さ:9.8mm、単位厚さあたりの通気抵抗:9.8×103N・s/m4、目付:245g/m2)

また、ポリエステル繊維(繊度:22dtex、繊維長:76mm)50質量%とポリエステル繊維(繊度:17dtex、繊維長:51mm)10質量%およびモダアクリル繊維(繊度:17dtex、繊維長:64mm)40質量%を混合した繊維群をカード機へ供した後、ニードルパンチ処理を施すことで乾式ウェブを調製した。
そして、乾式ウェブに塩ビ系バインダをスプレー塗布および含浸して乾式不織布c(通気度:463cm3/cm2・s、厚さ:10.5mm、単位厚さあたりの通気抵抗:2.6×103N・s/m4、目付:307g/m2)を調製した。

(吸音材の調製)
表1に記載する組み合わせの通気性表皮材と通気性基材を、接着することなく積層して吸音材を調製した。
なお、比較例4、6−7では、通気性基材単体を吸音材として使用した。」

(4)「【0042】
【表1】


【0043】
(実施例7−8)
実施例2で使用した通気性表皮材と通気性基材の積層面同士の間に、蜘蛛の巣状の共重合オレフィン系ホットメルト樹脂(目付:5g/m2、軟化点:153℃)を介在させ、通気性表皮材と通気性基材を接着一体化し、実施例7の吸音材(厚さ:10.9mm、通気度:5.2cm3/cm2/s)を調製した。
蜘蛛の巣状の共重合オレフィン系ホットメルト樹脂(目付:20g/m2、軟化点:153℃)を介在させ、通気性表皮材と通気性基材を接着一体化したこと以外は実施例7と同様にして、実施例8(厚さ:10.9mm、通気度:5.3cm3/cm2/s)の吸音材を調製した。

なお、実施例7−8で調製した吸音材を構成する、通気性基材と接着成分が付着した通気性表皮材の通気度は、上述した方法によって算出した。また、通気度の算出を行うため吸音材から切り取った通気性基材の厚さ(特定厚さ)は、5.0mmであった。
測定の結果、調製した実施例7−8の吸音材から算出した、通気性表皮材および通気性基材の、各々の厚さ、通気度、単位厚さあたりの通気抵抗は、吸音材を調製するために使用した、通気性表皮材および通気性基材の、各々の厚さ、通気度、単位厚さあたりの通気抵抗と同じ値であった。」

(5)段落0043には、「通気性表皮材と通気性基材を接着一体化し、実施例7の吸音材(厚さ:10.9mm、通気度:5.2cm3/cm2/s)を調製した。」との記載がある。ここで、段落0025の記載によると、上記の通気度は「JIS L1096:2010「織物及び編物の生地試験方法」の「通気性」A法(フラジール形法)」にて測定されたものであり、差圧が125Paとなる条件で、通気度の測定を行ったことが開示されている。流れ抵抗は、125Pa/(通気度/100)で算出されるため、この実施例7の吸音材の流れ抵抗は、2404Ns/m3(=125/(5.2/100))である。

(6)甲2−1の実施例2の通気性基材である乾式不織布bの「空気の体積/繊維の体積」を計算すると、通気性基材100cm角あたりの体積9800cm3(=100[cm]×100[cm]×厚さ0.98[cm])に対して、繊維の体積は177cm3(=245[g]/ポリエステルの密度1.38[g/cm3])である。したがって、支持層における、「空気の体積/繊維の体積」は、54(=(9800−177)/177)である。

(7)したがって、上記実施例7に即して、上記記載事項を総合すると、甲2−1には次の発明(以下、「甲2−1発明」という。)が記載されている。
「ポリエステル中空繊維(繊度:6.6dtex、繊維長:64mm)およびポリエステル繊維(繊度:0.9dtex、繊維長:38mm)を含む、通気性基材、ならびに
メルトブロー不織布A(平均繊維径:1.2μm)を含む、通気性基材上に配置された通気性表皮材、
を含む吸音材であって、
吸音材の流れ抵抗が、2404Ns/m3であり、
通気性基材が、54:1という空気の、繊維に対する体積比を有し、
通気性基材が、芯鞘型接着繊維を含有する吸音材。」

また、甲2−1には次の発明(以下、「甲2−1方法発明」という。)も記載されている。
「ポリエステル中空繊維(繊度:6.6dtex、繊維長:64mm)およびポリエステル繊維(繊度:0.9dtex、繊維長:38mm)を含み、さらに、芯鞘型接着繊維を含み、54:1という空気の、繊維に対する体積比を有する、通気性基材の準備、
メルトブロー不織布A(平均繊維径:1.2μm)を含む通気性表皮材の準備、
通気性基材上での通気性表皮材の配置、
通気性基材と通気性表皮材との接着一体化
を含む、
2404Ns/m3の流れ抵抗を有する吸音材の製造方法。」

3.甲2−4には、以下の事項が記載されている。
(1)「【0004】
本発明の目的は、上記問題点に鑑み、取り扱いがし易く、且つ軽量で吸音特性に優れた吸音材およびその製造方法を提供することにある。」

(2)「【0014】
(1)熱接着性有機繊維(a)
上記芯鞘構造の熱接着性有機繊維(a)は、ポリオレフィン系樹脂、ポリアミド系樹脂またはポリエステル系樹脂の何れかの熱可塑性樹脂の高融点成分と低融点成分からなる有機繊維からなり、繊度が1.1〜22dtexの芯鞘構造の熱接着性有機繊維であれば、特に限定されない。
具体例としては、ポリエステル繊維(融点250〜270℃程度)と、低融点ポリエステル繊維(融点110〜200℃程度)の芯鞘構造の熱接着性有機繊維、エステル/ナイロンの熱接着性有機繊維、ナイロン/ナイロンの熱接着性有機繊維、ポリエステル/ポリエチレンの熱接着性有機繊維、ポリプロピレン/ポリエチレンの熱接着性有機繊維などが挙げられる。」

(3)「【0033】
(1)不織布の目付重量:試料の3ヶ所から30cm×30cmの試験片をカットし、その重量を測定し、平方メートル(1m2)当たりの重さに換算した。
(2)不織布の厚み:接触面積5cm2、押圧1.96kpaのダイヤルゲージで、試料の10箇所において測定し、その平均値とした。
(3)密度:目付重量(g/m2)を厚み(mm)で割った値を求めて、kg/m3に単位換算して、求めた。
(4)平均繊度:顕微鏡で拡大撮影して算出し、デシテックス(dtx)で表示する。
(5)不織布の通気度:フラジール型通気度試験機を用い、JIS L1096−1979の「一般織物試験方法」に準拠し、傾斜型気圧計は1.27cmに固定して通気度を計測した。」

(4)「【0035】
[実施例1]
構成材料として、芯鞘構造の熱接着性ポリエステル短繊維(a)(繊度:2.2dtex、カット長51mm)を40重量%、捲縮構造のポリエステル短繊維(b)(繊度3.3dtex、カット長51mm)を60重量%の割合で、配合ブレンドし、カーディング加工を施し、ウェブを得た。
そのウェブをクロスレイヤー法にて、積層させたシート状不織布(A)の一方向から、目付25g/m2のポリエステルメルトブロー不織布(B)(繊度:0.5dtex)を積層した。
この積層したシート状不織布(A)とポリエステルメルトブロー不織布(B)に、ドライヤーを用いて温度180℃、滞留時間3分間の熱処理をして、シート状不織布(A)の芯鞘構造ポリエステル短繊維(a)を溶融させ、強固に一体化させた。
こうして総目付重量90g/m2、厚み14mmの不織布シートを作製した。
得られた不織布シートの基布物性は、表1の通りであり、軽量で優れた吸音特性を有する。また、この不織布原反から得られた吸音材は、加工性良好であった。
【0036】
[実施例2、3]
実施例2、3は、実施例1と同様の構成材料を用いて、表1に示す割合以外は、実施例1と同様の方法にて、不織布シートを作製した。
得られた不織布シートの物性を表1に示す。
実施例2、3は、後記の比較例1に比べ、軽量で優れた吸音特性を有する。」

(5)「【0046】
【表1】



(6)実施例1〜3では、メルトブロー不織布(B)にポリエステルが用いられており、ポリエステルの比重は、1.38であることから、「繊度が0.5dtexのメルトブロー不織布」は、繊維径に換算すると、「繊維径が6.8μmのメルトブロー不織布」となる。

(7)実施例3において、積層体の通気度が9.6cc/cm2/secであることが記載されており(段落0046、表1、実施例3)、その通気度は、JIS L1096−1979におけるフラジール型通気度試験により測定されたものであることが記載されている(段落0033)。これを流れ抵抗に換算すると、1302Ns/m3(=125/(9.6/100))となる。

(8)実施例3において、有機繊維不織布(A)の厚みは、9.4mm(=吸音材の厚み9.5−メルトブロー不織布(B)の厚み0.06)である。また、有機繊維不織布(A)の目付は、66.6g/m2であるので、その密度は、0.0071g/cm3(=66.6/9.4×10−3)となる。繊維体積は、0.0051cm3(=0.0071/ポリエステルの密度1.38)となる。空気の体積は、0.9949cm3(=1−0.0051)となる。よって、体積比は、195:1(=0.9949:0.0051)となる。

(9)したがって、上記記載事項を実施例3に則して総合すると、甲2−4には次の発明(以下、「甲2−4発明」という。)が記載されている。
「捲縮構造のポリエステル短繊維(繊度:3.3dtex)および高融点成分と低融点成分からなる芯鞘構造の熱接着性ポリエステル短繊維(繊度:2.2dtex)を含む、シート状不織布、ならびに
繊維径が6.8μmの、シート状不織布上に配置されたメルトブロー不織布、
を含む吸音材であって、
吸音材の流れ抵抗が、1302Ns/m3であり、
シート状不織布が、195:1という空気の、繊維に対する体積比を有し、
シート状不織布が、高融点成分と低融点成分からなる芯鞘構造の熱接着性ポリエステル短繊維(繊度:2.2dtex)を含有する吸音材。」

また、甲2−4には次の発明(以下、「甲2−4方法発明」という。)も記載されている。
「捲縮構造のポリエステル短繊維(繊度:3.3dtex)および高融点成分と低融点成分からなる芯鞘構造の熱接着性ポリエステル短繊維(繊度:2.2dtex)を含み、195:1という空気の、繊維に対する体積比を有する、シート状不織布の準備、
繊維径が6.8μmのメルトブロー不織布の準備、
シート状不織布上でのメルトブロー不織布の配置、
シート状不織布とメルトブロー不織布との一体化
を含む、
1302Ns/m3の流れ抵抗を有する吸音材の製造方法。」

第5 当審の判断
1.甲1−1発明及び甲1−1方法発明を主とする新規性及び進歩性について
(1)本件発明1について
ア.本件発明1と甲1−1発明とを対比する。
甲1−1発明の「繊度3デニールのポリエステル短繊維」は、本件発明1の「繊度が3dtex〜17dtexの粗短繊維」及び「骨格繊維」に相当し、以下同様に、「繊度0.75デニールの極細ポリエステル繊維」は「骨格繊維」に、「下方硬綿層」は「少なくとも1つの開孔性支持層」に、「繊維径が2〜20μmの極細繊維」は「繊維径が10μm未満のマイクロファイバ」に、「不織シート」は「微多孔性流層」に、「軽量フェルト材」は「吸音テキスタイル複合材」に、「173:1という空気の、繊維に対する体積比」は「75:1〜250:1という空気の、繊維に対する体積比」に、「溶融した低融点ポリエステル繊維を含有する」ことは「少なくとも部分的に溶融したバインダ繊維をさらなる繊維として含有する」ことに、それぞれ相当する。
また、甲1−1発明の「繊度0.75デニールの極細ポリエステル繊維」と、本件発明1の「繊度が0.3dtex〜2.9dtexの微細短繊維」とは、「繊度が0.3dtex〜2.9dtexの細繊維」の限りで一致する。

そうすると、本件発明1と甲1−1発明とは、
<一致点>
「a)繊度が3dtex〜17dtexの粗短繊維および繊度が0.3dtex〜2.9dtexの細繊維を骨格繊維として含む、少なくとも1つの開孔性支持層、ならびに
b)繊維径が10μm未満のマイクロファイバを含む、前記開孔性支持層上に配置された微多孔性流層、
を含む吸音テキスタイル複合材であって、
前記開孔性支持層が、75:1〜250:1という空気の、繊維に対する体積比を有し、
前記開孔性支持層が、少なくとも部分的に溶融したバインダ繊維をさらなる繊維として含有する吸音テキスタイル複合材」
である点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点1−1−1>
「細繊維」に関して、本件発明1の「微細短繊維」は、「短繊維」であり、「微細」であるのに対して、甲1−1発明の「極細ポリエステル繊維」は、短繊維であるか不明であり、「極細」である点。

<相違点1−1−2>
本件発明1は、「吸音テキスタイル複合材の流れ抵抗が、250Ns/m3〜5000Ns/m3」であるのに対し、甲1−1発明は、軽量フェルト材の流れ抵抗が不明である点。

イ.上記<相違点1−1−2>について検討する。
軽量フェルト材の流れ抵抗を250Ns/m3〜5000Ns/m3の範囲とすることは、甲1−1には記載も示唆もされておらず、甲1−1発明から容易になし得たこととはいえない。また、他の甲号証をみても、記載されていないし、示唆する記載もない。
したがって、<相違点1−1−1>を検討するまでもなく、本件発明1は、甲1−1発明ではなく、甲1−1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

(2)本件発明2〜10、12について
本件発明2〜10、12は、甲1−1発明にさらに技術的事項を追加し、限定したものである。そして、上記(1)に示したように、本件発明1は、甲1−1発明ではなく、甲1−1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないから、本件発明1に技術的事項を追加し、限定した本件発明2〜10、12も甲1−1発明ではなく、甲1−1発明に基いて当業者が容易になし得るものでもない。

(3)本件発明11について
ア.本件発明11と甲1−1方法発明とは、
<一致点>
「次のステップ
a)繊度が3dtex〜17dtexの粗短繊維および繊度が0.3dtex〜2.9dtexの細繊維を骨格繊維として含み、さらに、少なくとも部分的に溶融したバインダ繊維を含み、75:1〜250:1という空気の、繊維に対する体積比を有する、少なくとも1つの開孔性支持層の準備および/または製造、
b)繊維径が10μm未満のマイクロファイバを含む微多孔性流層の準備および/または製造、
c)前記開孔性支持層上での流層の配置、
d)前記開孔性支持層と流層との結合
を含む、および/または次のステップ
a’)繊度が3dtex〜17dtexの粗短繊維および繊度が0.3dtex〜2.9dtexの細繊維を骨格繊維として含み、さらに、少なくとも部分的に溶融したバインダ繊維を含み、75:1〜250:1という空気の、繊維に対する体積比を有する、少なくとも1つの開孔性支持層の準備および/または製造
を含む、
吸音テキスタイル複合材の製造方法」
である点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点1−2−1>
「細繊維」に関して、本件発明11の「微細短繊維」は、「短繊維」であり、「微細」であるのに対して、甲1−1方法発明の「極細ポリエステル繊維」は、短繊維であるか不明であり、「極細」である点。

<相違点1−2−2>
本件発明11は、「吸音テキスタイル複合材の流れ抵抗が、250Ns/m3〜5000Ns/m3」であるのに対し、甲1−1方法発明は、軽量フェルト材の流れ抵抗が不明である点。

<相違点1−2−3>
本件発明11は、「繊維径が10μm未満のマイクロファイバを含む微多孔性流層としてのメルトブロー不織布の、前記開孔性支持層上への紡糸」というステップを含むのに対し、甲1−1方法発明は、そのようなステップを有しない点。

イ.上記<相違点1−2−2>について検討する。
軽量フェルト材の流れ抵抗を250Ns/m3〜5000Ns/m3の範囲とすることは、甲1−1には記載も示唆もされておらず、甲1−1方法発明から容易になし得たこととはいえない。また、他の甲号証をみても、記載されていないし、示唆する記載もない。
したがって、<相違点1−2−1>及び<相違点1−2−3>を検討するまでもなく、本件発明11は、甲1−1方法発明ではなく、甲1−1方法発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

(4)申立人1の主張について
申立人1は、申立書31ページにおいて表を示し、層の種類、繊維径、材料、目付、厚さについて、甲1−1の不織シートが、本件発明の微多孔性流層と同様の構成をとる場合があることを根拠に、甲1−1の軽量フェルト材と本件発明の吸音テキスタイル複合材について、流れ抵抗の値が同程度になる蓋然性が極めて高いことを主張している。しかし、流れ抵抗の値は、流れ抵抗に影響を与える各種構成の組み合わせが全て一致して初めて、両者の値が同程度になる蓋然性が極めて高いといえるのであって、層の種類、繊維径、材料、目付、厚さのそれぞれについて一致する場合があることをもって、両者の流れ抵抗の値が同程度になる蓋然性が極めて高いとはいえない。さらに、流れ抵抗に影響を与える要因として、層の種類、繊維径、材料、目付、厚さ以外にも、例えば、層内部における繊維と空気の体積比、繊維の捲縮度などが考えられ、それらが一致しているとは限らないことからも、両者の流れ抵抗の値が同程度になる蓋然性が極めて高いとはいえない。
また、申立人1は、甲1−2、甲1−3を挙げて、吸音材の技術分野において、その流れ抵抗を250Ns/m3〜5000Ns/m3の範囲とすることは、何ら困難ではない旨を主張している。しかし、甲1−2に記載されたものは、目付が150〜800g/m2、嵩密度が0.01〜0.2g/cm3である不織布(本件発明の「微多孔性流層」に相当。)に積層される表皮材(本件発明の「開孔性支持層」に相当。)の通気量を50cc/cm2/sec以下とするものであり(請求の範囲[1])、また、甲1−3に記載されたものは、通気性表皮層(本件発明の「開孔性支持層」に相当。)の単位厚さあたりの通気抵抗が、通気性基材(本件発明の「微多孔性流層」に相当。)の単位厚さあたりの通気抵抗の20倍以上2514倍未満の大きさであるものである(【請求項1】)から、甲1−2や甲1−3に記載された通気性から換算される流れ抵抗が相違点1−1−2に係る本件発明1の数値範囲に含まれるものであったとしても、甲1−1における軽量フェルト材の流れ抵抗の値を、吸音材としての甲1−2、甲1−3の値とすることに、困難性がないとはいえない。

2.甲2−1発明及び甲2−1方法発明について
(1)本件発明1について
ア.本件発明1と甲2−1発明とを対比する。
甲2−1発明の「ポリエステル中空繊維(繊度:6.6dtex、繊維長:64mm)」は、本件発明1の「繊度が3dtex〜17dtexの粗短繊維」及び「骨格繊維」に相当し、以下同様に、「ポリエステル繊維(繊度:0.9dtex、繊維長:38mm)」は「繊度が0.3dtex〜2.9dtexの微細短繊維」及び「骨格繊維」に、「通気性基材」は「少なくとも1つの開孔性支持層」に、「メルトブロー不織布A(平均繊維径:1.2μm)」は「繊維径が10μm未満のマイクロファイバ」に、「通気性表皮材」は「微多孔性流層」に、「吸音材」は「吸音テキスタイル複合材」に、「流れ抵抗が、2404Ns/m3であ」ることは「流れ抵抗が、250Ns/m3〜5000Ns/m3であ」ることに、「芯鞘型接着繊維を含有する」ことは「バインダ繊維をさらなる繊維として含有する」ことに、それぞれ相当する。

そうすると、本件発明1と甲2−1発明とは、
<一致点>
「a)繊度が3dtex〜17dtexの粗短繊維および繊度が0.3dtex〜2.9dtexの微細短繊維を骨格繊維として含む、少なくとも1つの開孔性支持層、ならびに
b)繊維径が10μm未満のマイクロファイバを含む、前記開孔性支持層上に配置された微多孔性流層、
を含む吸音テキスタイル複合材であって、
前記吸音テキスタイル複合材の流れ抵抗が、250Ns/m3〜5000Ns/m3であり、
前記開孔性支持層が、バインダ繊維をさらなる繊維として含有する吸音テキスタイル複合材」
である点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点2−1−1>
通気性基材における、空気の、繊維に対する体積比が、本件発明1は、75:1〜250:1であるのに対して、甲2−1発明は、54:1である点。

<相違点2−1−2>
本件発明1は、「バインダ繊維」が「少なくとも部分的に溶融」しているのに対し、甲2−1発明は、芯鞘型接着繊維が少なくとも部分的に溶融しているか不明である点。

イ.上記<相違点2−1−1>について検討する。
通気性基材における、空気の、繊維に対する体積比を75:1〜250:1の範囲とすることは、甲2−1には記載も示唆もされていない。、また、他の甲号証をみても、当該事項は記載されていないし、示唆する記載もない。よって、甲2−1発明に<相違点2−1−2>に係る本件発明1の構成を適用することは、当業者が甲2−1発明から容易になし得たこととはいえない。

なお、申立人2は、申立書40〜43ページにおいて、空気の繊維に対する体積比を75:1〜250:1としたことに効果が見いだせないから、上記<相違点2−1−1>は、単なる設計事項に過ぎないと主張している。しかし、そもそも甲2−1からは、空気の繊維に対する体積比を、本件発明1の範囲とすることの動機となる記載が見いだせない。さらに、体積比と、吸音テキスタイル複合材の流れ抵抗の値とは連動しているため、体積比の変更は、流れ抵抗に係る新たな相違点を生じさせるおそれがある。
したがって、<相違点2−1−2>を検討するまでもなく、本件発明1は、甲2−1発明ではなく、甲2−1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

(2)本件発明2〜10、12について
本件発明2〜10、12は、甲2−1発明にさらに技術的事項を追加したものである。よって、上記(1)に示した理由と同様の理由により、本件発明2〜10、12は、甲2−1発明ではなく、甲2−1発明に基いて当業者が容易になし得るものでもない。

(3)本件発明11について
ア.本件発明11と甲2−1方法発明とは、
<一致点>
「次のステップ
a)繊度が3dtex〜17dtexの粗短繊維および繊度が0.3dtex〜2.9dtexの微細短繊維を骨格繊維として含み、さらに、バインダ繊維を含む、少なくとも1つの開孔性支持層の準備および/または製造、
b)繊維径が10μm未満のマイクロファイバを含む微多孔性流層の準備および/または製造、
c)前記開孔性支持層上での流層の配置、
d)前記開孔性支持層と流層との結合
を含む、および/または次のステップ
a’)繊度が3dtex〜17dtexの粗短繊維および繊度が0.3dtex〜2.9dtexの微細短繊維を骨格繊維として含み、さらに、バインダ繊維を含む、少なくとも1つの開孔性支持層の準備および/または製造
を含む、
250Ns/m3〜5000Ns/m3の流れ抵抗を有する吸音テキスタイル複合材の製造方法」
である点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点2−2−1>
通気性基材における、空気の、繊維に対する体積比が、本件発明11は、75:1〜250:1であるのに対して、甲2−1方法発明は、54:1である点。

<相違点2−2−2>
本件発明11は、「バインダ繊維」が「少なくとも部分的に溶融」しているのに対し、甲2−1方法発明は、芯鞘型接着繊維が少なくとも部分的に溶融しているか不明である点。

<相違点2−2−3>
本件発明11は、「繊維径が10μm未満のマイクロファイバを含む微多孔性流層としてのメルトブロー不織布の、前記開孔性支持層上への紡糸」というステップを含むのに対し、甲2−1方法発明は、そのようなステップを有しない点。

イ.上記<相違点2−2−1>について検討する。
通気性基材における、空気の、繊維に対する体積比を75:1〜250:1の範囲とすることは、甲2−1には記載も示唆もされておらず、甲2−1方法発明から容易になし得たこととはいえない。
なお、申立人2は、申立書40〜43ページにおいて、空気の繊維に対する体積比を75:1〜250:1としたことに効果が見いだせないから、上記<相違点2−2−1>は、単なる設計事項に過ぎないと主張している。しかし、甲2−1からは、空気の繊維に対する体積比を、本件発明11の範囲とする動機となる記載が見いだせないし、そうすることが周知であるとの証拠もない。さらに、体積比と、吸音テキスタイル複合材の流れ抵抗の値とは連動しているため、体積比の変更は、流れ抵抗に係る新たな相違点を生じさせるおそれがある。
したがって、<相違点2−2−2>及び<相違点2−2−3>を検討するまでもなく、本件発明11は、甲2−1方法発明ではなく、甲2−1方法発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものであるともいえない。

3.甲2−4発明及び甲2−4方法発明について
(1)本件発明1について
ア.本件発明1と甲2−4発明とを対比する。
甲2−4発明の「捲縮構造のポリエステル短繊維(繊度:3.3dtex)」は、本件発明1の「繊度が3dtex〜17dtexの粗短繊維」及び「骨格繊維」に相当し、以下同様に、「高融点成分と低融点成分からなる芯鞘構造の熱接着性ポリエステル短繊維(繊度:2.2dtex)」は「繊度が0.3dtex〜2.9dtexの微細短繊維」及び「骨格繊維」に、「シート状不織布」は「少なくとも1つの開孔性支持層」に、「繊維径が6.8μmの、シート状不織布上に配置されたメルトブロー不織布」は「繊維径が10μm未満のマイクロファイバを含む、前記開孔性支持層上に配置された微多孔性流層」に、「吸音材」は「吸音テキスタイル複合材」に、「流れ抵抗が、1302Ns/m3であ」ることは「流れ抵抗が、250Ns/m3〜5000Ns/m3であ」ることに、「195:1という空気の、繊維に対する体積比」は「75:1〜250:1という空気の、繊維に対する体積比」に、「高融点成分と低融点成分からなる芯鞘構造の熱接着性ポリエステル短繊維(繊度:2.2dtex)」は「少なくとも部分的に溶融したバインダ繊維」に、それぞれ相当する。

そうすると、本件発明1と甲2−4発明とは、
<一致点>
「a)繊度が3dtex〜17dtexの粗短繊維および繊度が0.3dtex〜2.9dtexの微細短繊維を骨格繊維として含む、少なくとも1つの開孔性支持層、ならびに
b)繊維径が10μm未満のマイクロファイバを含む、前記開孔性支持層上に配置された微多孔性流層、
を含む吸音テキスタイル複合材であって、
前記吸音テキスタイル複合材の流れ抵抗が、250Ns/m3〜5000Ns/m3であり、
前記開孔性支持層が、75:1〜250:1という空気の、繊維に対する体積比を有し、
前記開孔性支持層が、少なくとも部分的に溶融したバインダ繊維を含有する吸音テキスタイル複合材」
である点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点2−3−1>
本件発明1は、「開孔性支持層が、少なくとも部分的に溶融したバインダ繊維をさらなる繊維として含有する」のに対して、甲2−4発明は、高融点成分と低融点成分からなる芯鞘構造の熱接着性ポリエステル短繊維(繊度:2.2dtex)が、さらなる繊維でない点。

イ.上記<相違点2−3−1>について検討する。
甲2−4は、「熱接着性ポリエステル短繊維(a)」が「低融点成分」を有しているため、溶融する点で作用機能が重複する「溶融したバインダ繊維」を、「さらなる繊維として」甲2−4に追加することには、動機付けがない。
したがって、本件発明1は、甲2−4発明ではなく、甲2−4発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものであるともいえない。

(2)本件発明2〜10、12について
本件発明2〜10、12は、甲2−4発明にさらに技術的事項を追加したものである。よって、上記(1)に示した理由と同様の理由により、本件発明2〜10、12は、甲2−4発明ではなく、甲2−4発明に基いて当業者が容易になし得るものでもない。

(3)本件発明11について
ア.本件発明11と甲2−4方法発明とは、
<一致点>
「次のステップ
a)繊度が3dtex〜17dtexの粗短繊維および繊度が0.3dtex〜2.9dtexの微細短繊維を骨格繊維として含み、少なくとも部分的に溶融したバインダ繊維を含み、75:1〜250:1という空気の、繊維に対する体積比を有する、少なくとも1つの開孔性支持層の準備および/または製造、
b)繊維径が10μm未満のマイクロファイバを含む微多孔性流層の準備および/または製造、
c)前記開孔性支持層上での流層の配置、
d)前記開孔性支持層と流層との結合
を含む、および/または次のステップ
a’)繊度が3dtex〜17dtexの粗短繊維および繊度が0.3dtex〜2.9dtexの微細短繊維を骨格繊維として含み、少なくとも部分的に溶融したバインダ繊維を含み、75:1〜250:1という空気の、繊維に対する体積比を有する、少なくとも1つの開孔性支持層の準備および/または製造
を含む、
250Ns/m3〜5000Ns/m3の流れ抵抗を有する吸音テキスタイル複合材の製造方法」
である点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点2−4−1>
本件発明11は、「開孔性支持層」が、「さらに、少なくとも部分的に溶融したバインダ繊維を含」むのに対して、甲2−4方法発明は、高融点成分と低融点成分からなる芯鞘構造の熱接着性ポリエステル短繊維(繊度:2.2dtex)を、さらに含んでいない点。

<相違点2−4−2>
本件発明11は、「繊維径が10μm未満のマイクロファイバを含む微多孔性流層としてのメルトブロー不織布の、前記開孔性支持層上への紡糸」というステップを含むのに対し、甲2−4方法発明は、そのようなステップを有しない点。

イ.上記<相違点2−4−1>について検討する。
甲2−4は、「熱接着性ポリエステル短繊維」が「低融点成分」を有しているため、溶融する点で作用機能が重複する「溶融したバインダ繊維」を、「さらに」甲2−4に追加することには、動機付けがない。
したがって、<相違点2−4−2>について検討するまでもなく、本件発明11は、甲2−4方法発明ではなく、甲2−4方法発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものであるともいえない。

第6 むすび
したがって、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1〜12に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1〜12に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2021-12-21 
出願番号 P2018-048854
審決分類 P 1 651・ 113- Y (B32B)
P 1 651・ 121- Y (B32B)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 久保 克彦
特許庁審判官 藤井 眞吾
矢澤 周一郎
登録日 2021-01-15 
登録番号 6824920
権利者 カール・フロイデンベルク・カー・ゲー
発明の名称 吸音テキスタイル複合材  
代理人 加藤 久  
代理人 南瀬 透  
代理人 遠坂 啓太  

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