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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G09F
管理番号 1385752
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2022-07-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2021-03-22 
確定日 2022-04-28 
事件の表示 特願2019−502895「画像表示装置および該画像表示装置の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成30年 9月 7日国際公開、WO2018/159377〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2018年(平成30年)2月20日を国際出願日とする日本語特許出願であって(優先権主張 平成29年2月28日)、その手続の経緯は以下のとおりである。
令和2年 3月30日付け:拒絶理由通知書
令和2年 5月26日 :意見書、手続補正書の提出
令和2年 6月29日付け:拒絶理由通知書(最後)
令和2年 8月31日 :意見書の提出
令和2年12月11日付け:拒絶査定
(同月22日送達、以下「原査定」という。)
令和3年 3月22日 :審判請求書、手続補正書の提出
令和3年10月20日付け:拒絶理由通知書
令和3年12月16日 :意見書、手続補正書の提出


第2 本願発明
本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、令和3年12月16日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された次の事項により特定されるとおりのものと認める。

「 【請求項1】
表示セルと、該表示セルの少なくとも一方の側に配置された偏光板と、該偏光板の周囲端面を覆う封止部と、を備え、
該偏光板が、ヨウ素を含むポリビニルアルコール系樹脂フィルムで構成された偏光膜を含み、
該封止部がシート状の粘着剤組成物で構成されており、該粘着剤組成物がゴム系粘着剤であり、該封止部の厚みが10μm〜50μmであり、該封止部の透湿度が300g/m2/24hr以下であり、
該封止部は、該粘着剤組成物シートのサイズが該偏光板よりも大きく、該偏光板の該表示セルと反対側において該偏光板の外周を構成する4辺すべてから延出し、該延出した部分が該表示セルに直接密着し、該偏光板の該表示セルと反対側の面全面および該周囲端面全面を覆う、
画像表示装置。」


第3 当審拒絶理由の概要
令和3年10月20日付けで当審において通知した拒絶理由(以下「当審拒絶理由」という。)の概要は、次のとおりである。

理由(進歩性) 本願の令和3年3月22日付け手続補正により補正された請求項1〜7に係る発明は、下記の引用文献6に記載された発明及び周知技術に基づいて、本願優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。



・引用文献1:特開2015−172740号公報(周知例として引用)
・引用文献6:国際公開第2014/196236号
・引用文献7:特開2011−231313号公報(周知例として引用)


第4 当審の判断
1 引用発明などについて
(1) 引用文献6に記載された事項と引用発明の認定
ア 引用文献6に記載された事項
当審拒絶理由に引用された上記引用文献6には、以下の事項が記載されている。下線は当審において付したもので、以下同様である。

「[0010] 本発明の第1の態様に係る液晶表示装置は、液晶パネルと、偏光板と、粘着シートと、透光部材とを備える。偏光板は、液晶パネルに貼り付けられる。粘着シートは、偏光板に貼り付けられ、偏光板を覆う。透光部材は、粘着シートに貼り付けられる。粘着シートは、中央部と、周縁部とを含む。中央部は、偏光板に重なる。周縁部は、液晶パネルに貼り付けられ、偏光板の外縁を全周に亘って囲む。
[0011] 上記態様においては、偏光板が、粘着シートと液晶パネルとの間に封入される。そのため、液晶表示装置を高温多湿な環境下で使用する際に発生する水分が偏光板に付着し難くなる。その結果、偏光板の黄変を抑制できる。」

「[0018] [第1の実施の形態]
図1は、本発明の第1の実施の形態による液晶表示装置10の概略構成を示す断面図である。液晶表示装置10は、例えば、スマートフォンやタブレット等のモバイル機器において、画像を表示するために用いられる。液晶表示装置10は、液晶パネル12と、偏光板14と、粘着シート16と、透光部材18とを備える。

[0019] 液晶パネル12は、複数の画素によって形成される表示領域を有する。表示領域には、画像が表示される。液晶パネル12は、アクティブマトリクス基板と、対向基板と、これらの基板間に封入される液晶層とを含む。

[0020] 偏光板14は、液晶パネル12を通過する光のうち、特定の方向に振動している光のみを通過させる。偏光板14は、液晶パネル12において観察者側に位置する表面12Aに貼り付けられる。

[0021] 粘着シート16は、偏光板14において観察者側に位置する表面14Aに貼り付けられる。粘着シート16は、表面14Aの全体を覆う。粘着シート16は、均一な厚みを有する。粘着シート16は、透明である。粘着シート16の透過率は、好ましくは、95%以上である。粘着シート16の厚みは、好ましくは、50〜200μmである。粘着シート16の屈折率は、好ましくは、1.4〜1.6である。ここで、粘着シート16の透過率は、粘着シート16を透過した光量の粘着シート16に入射した光量に対する割合(粘着シート16を透過した光量/粘着シート16に入射した光量)として規定される。粘着シート16の屈折率は、JIS K7142(日本工業規格におけるプラスチック−屈折率の求め方)により規定される。

[0022] 透光部材18は、液晶パネル12を保護するための保護ガラス基板であってもよいし、タッチパネルであってもよい。透光部材18において液晶パネル12側に位置する表面18Aが、粘着シート16に貼り付けられる。透光部材18は、粘着シート16が偏光板14に貼り付けられた後で、粘着シート16に貼り付けられる。

[0023] ここで、粘着シート16は、偏光板14だけでなく、液晶パネル12にも貼り付けられる。この点について、図2を参照しながら、説明する。図2は、偏光板14に貼り付けられているときの粘着シート16と、偏光板14との関係を示す表面図である。

[0024] 偏光板14に貼り付けられているとき、粘着シート16には、偏光板14に重なる部分(以下、中央部20と称する)と、偏光板14の外側に位置する部分、つまり、偏光板14と重ならない部分(以下、周縁部22と称する)とが存在する。中央部20は、表面14Aに貼り付けられ、表面14Aの全体を覆う。周縁部22は、表面12Aに貼り付けられ、偏光板14の外縁(具体的には、偏光板14の端面14B)を全周に亘って囲む。周縁部22を表面12Aに安定して貼り付けるためには、図1に示すように、周縁部22の幅Xは、偏光板14の厚さtの2倍以上の大きさであればよい。周縁部22と端面14Bとの間には、隙間が形成されていてもよいし、隙間が形成されていなくてもよい。本実施形態では、図1に示すように、周縁部22と端面14Bとの間に隙間が形成されている。

[0025] 上記液晶表示装置10においては、粘着シート16のうち、液晶パネル12に貼り付けられる周縁部22が、偏光板14の外縁(具体的には、端面14B)を全周に亘って囲む。つまり、偏光板14が粘着シート16と液晶パネル12との間に封入されている。そのため、液晶表示装置10を高温多湿な環境下で使用する際に発生する水分、具体的には、透光部材18と液晶パネル12との間に形成される空間のうち、粘着シート16の外側の空間に発生する水分が、粘着シート16の内側に侵入して、偏光板14に付着するのを防ぐことができる。その結果、偏光板14の黄変を抑制できる。」

「[図1]


「[図2]



引用発明の認定
上記アの記載事項を総合すると、引用文献6には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。

「偏光板14、粘着シート16、液晶パネル12、透光部材18を備え([0018])、
偏光板14は、液晶パネル12に貼り付けられ([0010]、図1)、
液晶パネル12を保護するための保護ガラス基板である透光部材18において、液晶パネル12側に位置する表面18Aが、粘着シート16に貼り付けられ([0022]、図1)、
偏光板14に貼り付けられているとき粘着シート16には、偏光板14に重なる部分(以下、中央部20と称する)と、偏光板14の外側に位置する部分、つまり、偏光板14と重ならない部分(以下、周縁部22と称する)とが存在し、中央部20は、偏光板14の表面14Aに貼り付けられ、偏光板14の表面14Aの全体を覆い、周縁部22は、液晶パネル12の表面12Aに貼り付けられ、偏光板14の端面14Bを全周に亘って囲み、周縁部22と端面14Bとの間には、隙間が形成されていてもよいし、隙間が形成されていなくてもよく([0024]、図1、2)、
粘着シート16の厚みは、好ましくは50〜200μmであり([0021])、
偏光板14が粘着シート16と液晶パネル12との間に封入されているため、液晶表示装置10を高温多湿な環境下で使用する際に発生する水分が、粘着シート16の内側に侵入して、偏光板14に付着するのを防ぐことができる([0025]、図1)
液晶表示装置10。([0018])」

(2) 引用文献1に記載された事項及び周知技術の認定
ア 引用文献1に記載された事項
当審拒絶理由において引用された上記引用文献1には、以下の事項が記載されている。

「【0003】
偏光子としては、従来からポリビニルアルコール系フィルムが用いられている。前記偏光子は吸湿性を有するため、前記偏光子は水分を吸収しやすい。偏光子が多量の水分を吸収した場合には、偏光子の特性が低下する傾向がある。一方、前記偏光子は、通常、偏光子の片面または両面に透明保護フィルムを設けた偏光フィルムとして用いられる。前記偏光子が水分を吸収しないように、例えば、偏光フィルムに用いる透明保護フィルムとして、例えば、低透湿性の透明保護フィルムを用いることが提案されている。しかし、低透湿性の透明保護フィルムによる水分の遮断効果は、低透湿性の透明保護フィルムの厚みに依存するため、有効に水分を遮断するには、低透湿性の透明保護フィルムの厚みを厚くすることが必要であった。また、低透湿性の透明保護フィルムを用いた偏光フィルムを、粘着剤層付偏光フィルムの態様で用いる場合には、粘着剤層と偏光フィルムの密着性が十分ではなかった。」

「【0009】
特許文献1、2で得られた薄型化偏光フィルムは、いずれも、偏光子の片面を透明保護フィルムで保護した片面保護の偏光フィルムであり、当該偏光フィルムを透明導電層付き液晶セル等に貼り合せた場合、偏光子と透明導電層とが粘着剤を介して貼り合せられることとなる。片面保護のヨウ素系偏光子の偏光子面に、粘着剤層を介して透明導電層が貼り合わせられると、ヨウ素系偏光子からの微量のヨウ素が粘着剤層中に染み出し、それが透明導電層に到達して、透明導電層を劣化(腐食)させることが分かった。透明導電層が劣化すると、例えば、透明導電層を帯電防止層用途として使用する場合においては、液晶パネルにおいて静電気ムラを生じ、帯電防止性能が低下するものであった。また、透明導電層をタッチパネルの電極用途として使用する場合においては、電極の劣化により、電気抵抗値が増大し、感知不良等の誤作動が発生したり、タッチパネルの感度の低下等の種々の問題を生じるものであった。
【0010】
偏光フィルムの薄型化の手法としては、特許文献1、2に記載されているような、偏光子自体を薄型化する手法や偏光子の片面のみに透明保護フィルムを積層する手法の他、透明保護フィルムの厚みを薄くする手法もあった。偏光子の両面に透明保護フィルムを有する両面保護偏光フィルムであっても、透明保護フィルムとして前記薄膜化された透明保護フィルムを用いる場合には、ヨウ素系偏光子からヨウ素が粘着剤中に染み出して透明導電層を劣化させる現象が起こる場合があった。特に、高い透湿度を有する薄膜化透明保護フィルムにおいて、上記現象が起こりやすいことが分かった。」


「【0041】
<偏光子>
偏光子は、特に制限されず、各種のものを使用できる。偏光子としては、例えば、ポリビニルアルコール系フィルム、部分ホルマール化ポリビニルアルコール系フィルム、エチレン・酢酸ビニル共重合体系部分ケン化フィルムなどの親水性高分子フィルムに、ヨウ素や二色性染料などの二色性材料を吸着させて一軸延伸したもの、ポリビニルアルコールの脱水処理物やポリ塩化ビニルの脱塩酸処理物などポリエン系配向フィルムなどが挙げられる。これらのなかでもポリビニルアルコール系フィルムとヨウ素などの二色性物質からなる偏光子を用いた場合に本発明の効果が顕著である。これら偏光子の厚みは特に制限されないが、一般的に80μm程度以下である。偏光子の厚みは、通常、15〜35μmであるのが好ましい。
【0042】
ポリビニルアルコール系フィルムをヨウ素で染色し一軸延伸した偏光子は、例えば、ポリビニルアルコールをヨウ素の水溶液に浸漬することによって染色し、元長の3〜7倍に延伸することで作製することができる。必要に応じてホウ酸やヨウ化カリウムなどの水溶液に浸漬することもできる。さらに必要に応じて染色の前にポリビニルアルコール系フィルムを水に浸漬して水洗してもよい。ポリビニルアルコール系フィルムを水洗することでポリビニルアルコール系フィルム表面の汚れやブロッキング防止剤を洗浄することができるほかに、ポリビニルアルコール系フィルムを膨潤させることで染色のムラなどの不均一を防止する効果もある。延伸はヨウ素で染色した後に行っても良いし、染色しながら延伸してもよし、また延伸してからヨウ素で染色してもよい。ホウ酸やヨウ化カリウムなどの水溶液中や水浴中でも延伸することができる。
【0043】
また偏光子としては厚みが10μm以下の薄型の偏光子を用いることができる。薄型化の観点から言えば当該厚みは1〜7μmであるのが好ましい。このような薄型の偏光子は、厚みムラが少なく、視認性が優れており、また寸法変化が少ないため耐久性に優れ、さらには偏光板としての厚みも薄型化が図れる点が好ましい。」

イ 周知技術について
前記アの記載に例示されるように、次の事項は周知技術であると認める(以下「周知技術1」という。)。

<周知技術1>
「ヨウ素を含むポリビニルアルコール系樹脂フィルムで構成された偏光膜を含む偏光板が吸湿性を有しており、水分を吸収した場合には、偏光板の特性が低下する傾向があること」

(3) 引用文献7に記載された事項の認定
ア 引用文献7に記載された事項
当審拒絶理由において引用された上記引用文献7には、以下の事項が記載されている。

「【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量平均分子量30万〜50万のポリイソブチレン系樹脂(A)、重量平均分子量1千〜25万のポリブテン樹脂(B)、ヒンダードアミン系光安定剤(C)およびヒンダードフェノール系酸化防止剤(D)を含み、
前記ポリブテン樹脂(B)を前記ポリイソブチレン系樹脂(A)100質量部に対して5〜100質量部含むことを特徴とする粘着性組成物。
【請求項2】
前記ヒンダードアミン系光安定剤(C)が3級のヒンダードアミン基を有し、ヒンダードフェノール系酸化防止剤(D)においてヒンダードフェノール基のベータ位が2つともターシャリーブチル基で置換されていることを特徴とすることを請求項1に記載の粘着性組成物。
【請求項3】
請求項1または2に記載の粘着性組成物からなる粘着層を有することを特徴とする粘着性シート。
【請求項4】
波長550nmにおける可視光線透過率が90%以上であることを特徴とする請求項3に記載の粘着性シート。
【請求項5】
40℃、95%RHにおける水蒸気透過率が5g/m2/day以下であることを特徴とする請求項3に記載の粘着性シート。
【請求項6】
有機EL素子の封止用途として用いられることを特徴とする請求項3〜5のいずれか一項に記載の粘着性シート。
【請求項7】
重量平均分子量30万〜50万のポリイソブチレン系樹脂(A)、重量平均分子量1千〜25万のポリブテン樹脂(B)、ヒンダードアミン系光安定剤(C)およびヒンダードフェノール系酸化防止剤(D)を配合して得られ、
前記ポリブテン樹脂(B)を前記ポリイソブチレン系樹脂(A)100質量部に対して5〜100質量部配合することを特徴とする粘着性組成物。」

「【0020】
ポリイソブチレン系樹脂(A)は、主鎖又は側鎖にポリイソブチレン骨格を有する樹脂であり、下記構成単位(a)を有する樹脂であり、イソブチレンの単独重合体であるポリイソブチレン、イソブチレンとイソプレン、イソブチレンとn−ブテンあるいはイソブチレンとブタジエンの共重合体、これら共重合体を臭素化または塩素化したハロゲン化ブチルゴム等が挙げられる。なお、ポリイソブチレン系樹脂(A)がイソブチレンとn−ブテンとから得られる共重合体である場合は、原料モノマー中、イソブチレンは主成分として最大量のモノマーである。」

「【0061】
本発明の粘着性シートは、有機EL素子の封止用途として用いられることを特徴とする。図1に、本発明の粘着性シートを用いた有機EL素子の例を示す。この有機EL素子10では、ガラス基板12上に、透明電極、正孔輸送層、発光層および背面電極などが積層された構造体14が形成されている。この構造体14に、さらに本発明の粘着性シート16を介してガスバリアフィルム18が固着されている。有機EL素子10は、ガラス基板12上に構造体14を形成した後、本発明の粘着性シート16を貼付し、次いでシート上にガスバリアフィルム18を貼付して封止される。本発明の粘着性シートによれば、高温加熱や紫外線照射等を必要としないため、簡便に素子を封止できる。
【0062】
さらに、本発明の粘着性シートは、有機EL素子等のディスプレイデバイスに限らず、粘着力や凝集力、低透湿性および耐久性が必要とされる電子デバイスの封止材として好適に用いられる。このような電子デバイスとしては太陽電池などが挙げられる。」

「【図1】



イ 周知技術について
前記アの記載に例示されるように、次の事項は周知技術であると認める(以下「周知技術2」という。)。

<周知技術2>
「電子デバイスの封止材をゴム系粘着剤である粘着性組成物で構成すること」


2 対比
(1) 本願発明と引用発明の対比
本願発明と引用発明を対比する。
ア 引用発明の「液晶パネル」、「液晶表示装置」は、各々が本願発明の「表示セル」、「画像表示装置」に相当する。

イ 引用発明の「液晶パネル12に貼り付けられ」る「偏光板14」は、本願発明の「該表示セルの少なくとも一方の側に配置された偏光板」に相当する。

ウ (ア) 引用発明の「粘着シート16」は、「偏光板14が粘着シート16と液晶パネル12との間に封入されているため、液晶表示装置10を高温多湿な環境下で使用する際に発生する水分が、粘着シート16の内側に侵入して、偏光板14に付着するのを防ぐことができる」から、本願発明の「封止部」に相当する。

(イ) 引用発明の「粘着シート16」の「周縁部22は、液晶パネル12の表面12Aに貼り付けられ、偏光板14の端面14Bを全周に亘って囲」むことは、本願発明において「封止部」が「偏光板の周囲端面を覆う」ことに相当する。

(ウ) 引用発明において「粘着シート16の厚みは、好ましくは50〜200μm」であるから、本願発明において「該封止部の厚みが50μm」であることに相当する。

(エ) 引用発明において「粘着シート16には、偏光板14に重なる部分(以下、中央部20と称する)と、偏光板14の外側に位置する部分、つまり、偏光板14と重ならない部分(以下、周縁部22と称する)とが存在し、中央部20は、偏光板14の表面14Aに貼り付けられ、偏光板14の表面14Aの全体を覆い、周縁部22は、液晶パネル12の表面12Aに貼り付けられ、偏光板14の端面14Bを全周に亘って囲」むから、本願発明の「封止部」と引用発明の「粘着シート」は、「該封止部がシート状に構成され」、「該封止部は、該シートのサイズが該偏光板よりも大きく、該偏光板の該表示セルと反対側において該偏光板の外周を構成する4辺すべてから延出し、該延出した部分が該表示セルに直接密着し、該偏光板の該表示セルと反対側の面全面および該周囲端面全面を覆う」点で共通する。

(2) 一致点及び相違点
上記(1)の検討を総合すると、本願発明と引用発明の両者は、以下の一致点で一致し、以下の相違点において相違する。

[一致点]
表示セルと、該表示セルの少なくとも一方の側に配置された偏光板と、該偏光板の周囲端面を覆う封止部と、を備え、
該封止部がシート状に構成され、該封止部の厚みが50μmであり、
該封止部は、該シートのサイズが該偏光板よりも大きく、該偏光板の該表示セルと反対側において該偏光板の外周を構成する4辺すべてから延出し、該延出した部分が該表示セルに直接密着し、該偏光板の該表示セルと反対側の面全面および該周囲端面全面を覆う、
画像表示装置。

[相違点1] 本願発明の「偏光板」が「ヨウ素を含むポリビニルアルコール系樹脂フィルムで構成された偏光膜を含む」のに対し、引用発明の「偏光板14」はそのような構成であるのか不明な点。

[相違点2] 本願発明の「封止部」が「ゴム系粘着剤」である「粘着剤組成物」で構成されているのに対し、引用発明の「粘着シート16」がそのような構成であるか不明である点。

[相違点3] 本願発明の「封止部」の「透湿度が300g/m2/24hr以下」であるのに対し、引用発明の「粘着シート16」の透湿度は不明な点。

3 判断
(1) 相違点1について
ヨウ素を含むポリビニルアルコール系樹脂フィルムで構成された偏光膜を含む偏光板が吸湿性を有しており、水分を吸収した場合には、偏光板の特性が低下する傾向があることは、前記1(2)イの周知技術1に示したとおり、本願の優先日前に周知な事項である。
そうすると、引用発明は「液晶表示装置10を高温多湿な環境下で使用する際に発生する水分が、粘着シート16の内側に侵入して、偏光板14に付着するのを防ぐこと」を解決すべき課題とする発明であるから、これを周知技術1の「吸湿性を有」する「ヨウ素を含むポリビニルアルコール系樹脂フィルムで構成された偏光膜を含む偏光板」に適用して、相違点1に係る構成となすことは、当業者であれば容易になし得たことである。

(2) 相違点2について
電子デバイスの封止材をゴム系粘着剤である粘着性組成物で構成することは、前記1(3)イの周知技術2に示したとおり、本願の優先日前に周知な事項である。
そうすると、引用発明の「粘着シート16」を構成する物質として、周知技術2の「ゴム系粘着剤である粘着性組成物」を適用して、相違点2に係る構成となすことは、当業者であれば容易になし得たことである

(3) 相違点3について
引用発明の「粘着シート16」は、「液晶表示装置10を高温多湿な環境下で使用する際に発生する水分が、粘着シート16の内側に侵入して、偏光板14に付着するのを防ぐ」ためのものであることから、透湿度を低くすることは当然であり、その透湿度をどのくらい低いものとするかは、偏光板14に付着する水分をどの程度まで許容するかに応じて、当業者が適宜に定める設計事項にすぎない。そして、「透湿度が300g/m2/24hr以下」とすることについても、特段の臨界的意義があるものとは認められない。
したがって、引用発明の「粘着シート16」を「液晶表示装置10を高温多湿な環境下で使用する際に発生する水分が、粘着シート16の内側に侵入して、偏光板14に付着するのを防ぐ」ように透湿度を設計し、相違点3に係る構成となすことは、当業者であれば容易になし得たことである。

よって、本願発明1は引用発明、周知技術1及び周知技術2に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(4) 請求人の主張について
ア 請求人の主張
請求人は、令和3年12月16日付け意見書の「(4)本願発明と引用文献に記載の発明との対比」において、次の主張をしている。

「引用文献6には封止材の構成材料は開示も示唆もされていません。これに対し、拒絶理由通知書によれば、補正前の請求項3のゴム系粘着剤という限定事項に対しては、一例として引用文献7を挙げられてゴム系粘着剤は周知の材料であると認定されています。しかし、ゴム系粘着剤が周知の材料であったとしても(引用発明に引用文献7の技術事項を適用したとしても)、補正後の本願発明における50μm以下の厚みで適切な透湿度を実現し得る封止部には到達し得ません。引用文献6には、粘着シートの厚みは好ましくは50〜200μmであることが明記されています([0021])。
本件明細書の比較例1から明らかなとおり、アクリル系粘着剤では請求項1に規定する透湿度は得られず、厚みが大きくても(比較例1では100μm)色抜け量は大きくなります。引用文献7には粘着シートの厚みとして0.5〜100μmというきわめて広い範囲が記載されていますが([0049])、実施例および比較例のいずれにおいても(すなわち、実施例および比較例の区別なく)厚み20μmの粘着剤のみが用いられていますから、引用文献7の記載事項は厚みを特定する動機付けにはなり得ません。このように、引用発明に周知技術(例えば、引用文献1および7)を適用しても、補正後の本願発明およびその優れた効果には到達し得ません。」

なお、本願の発明の詳細な説明の段落【0102】に実施例と比較例の比較結果が記載されている。
「【表1】



イ 主張の検討
引用発明の「粘着シート16の厚み」は「好ましくは、50〜200μm」であり、50μmを含む点で本願発明の「封止部」に一致し、相違点ではない。
仮に相違点であったとしても、一般的に部材の厚さと透湿度が逆の相関を持つことは例を示すまでもない技術常識であるから、引用発明の「粘着シート16」として「ゴム系粘着剤である粘着性組成物」を適用する際に、「表示装置10を高温多湿な環境下で使用する際に発生する水分が、粘着シート16の内側に侵入して、偏光板14に付着するのを防ぐ」ように、適宜必要な厚さを選択する程度のことは、いわゆる設計事項の範囲内のものである。
また、ゴム系粘着剤が透湿性が低い性質を有することは広く知られていること(例として、特開2005−304756号公報の段落【0002】や特開2016−66074号公報の段落【0042】の記載を参照。)であるから、引用発明に周知技術2を適用することに技術的困難性があるとはいえない。
また、本願の発明の詳細な説明の段落【0002】に「画像表示装置(例えば、液晶表示装置、有機EL表示装置、量子ドット表示装置)には、その画像形成方式に起因して、多くの場合、表示セルの少なくとも一方の側に偏光板が配置されている。しかし、偏光板は、実質的に偏光板の光学特性を支配する偏光膜の光学特性が加湿環境下で低下するという耐久性の問題がある。より具体的には、偏光膜は、加湿環境下において端部の偏光性能が消失し、結果として、画像表示装置にいわゆる色抜けという現象が生じる場合がある。」と記載されており、この記載から「色抜け」は透湿度が高い封止部により封止されていることが主な原因であることを表している。そうすると、発明の詳細な説明の上記【表1】の実施例と比較例の結果は、封止の状態及び透湿度の大きさで色抜け量が大きくなることが主な原因を表しており、上記のとおり、ゴム系粘着剤が透湿性が低い性質を有することが知られていることからみて、ゴム系粘着剤を用いることにより格別の効果を奏するとまでいえない。

(ウ) まとめ
そうすると、請求人の主張を検討しても、前記(1)〜(3)で検討したとおり、引用発明に周知技術1及び周知技術2を適用して、前記相違点1〜3に係る構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。
したがって、請求人の主張は採用できない。

(5)小括
上記(1)〜(4)で検討したとおり、本願発明は、引用発明、周知技術1及び周知技術2に基づいて当業者が容易に想到し得たものである。
そして、本願発明によって奏される効果は、引用発明、周知技術1及び周知技術2から当業者が予測し得る程度のものにすぎない。
したがって、本願発明は、引用発明、周知技術1及び周知技術2に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

第5 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明、周知技術1及び周知技術2に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について審理するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
別掲 (行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この審決に対する訴えは、この審決の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、特許庁長官を被告として、提起することができます。
 
審理終結日 2022-02-25 
結審通知日 2022-03-01 
審決日 2022-03-14 
出願番号 P2019-502895
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (G09F)
最終処分 02   不成立
特許庁審判長 中塚 直樹
特許庁審判官 濱本 禎広
居島 一仁
発明の名称 画像表示装置および該画像表示装置の製造方法  
代理人 籾井 孝文  

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