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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61B
管理番号 1385839
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2022-07-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2021-05-24 
確定日 2022-06-15 
事件の表示 特願2017−521544「複数回の取得にわたってコントラストを正規化するための方法およびシステム」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 4月28日国際公開、WO2016/064497、平成29年12月21日国内公表、特表2017−537674〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本件出願は2015年(平成27年)9月17日(パリ条約に基づく優先権主張 2014年(平成26年)10月21日)を国際出願日とする出願であって、令和元年7月5日付けで1回目の拒絶理由通知がなされ、同年10月8日に意見書が提出され、同年12月4日付けで2回目の拒絶理由通知(最初)がなされ、令和2年3月3日に意見書及び手続補正書(以下「第1回補正書」という。)が提出され、同年6月25日付けで3回目の拒絶理由通知(最初)がなされ、同年9月29日に意見書が提出され、令和3年1月19日付けで拒絶査定がなされ、令和3年5月24日に手続補正書(以下「第2回補正書」という。)及び拒絶査定不服審判の請求が同日にされたものである。

第2 本願発明について

1 本願発明

本願の請求項1〜18に係る発明は、上記第2回補正書により補正された特許請求の範囲(以下「審判請求時特許請求の範囲」という。)の請求項1〜18に記載された事項により特定されるものである。
そのうち独立請求項である請求項11は、上記第1回補正により補正された特許請求の範囲における独立請求項である請求項12(以下「原査定時請求項12」という。)と比べ、平仄以外の実質的な変更点(相違)が認められない。
審判請求時特許請求の範囲における請求項11に係る発明(以下「本願発明」という。)は、次のとおりである。ここで、各構成単位冒頭の「A」などは当審で付した分説番号であり、以下当該各構成単位を「構成A」などという。

「 【請求項11】
A 医用イメージング手順のワークフロー方法であって、
B イメージングデバイスから画像データをコンピュータに受信するステップであって、前記画像データは複数の異なる画像取得時間に対応するサブボリュームを含む、受信するステップと、
C 前記サブボリュームのコントラストレベルに基づいて、前記画像データがコントラスト・バンディング・アーチファクトを含むか否かを決定するステップと、
D 前記サブボリュームにわたって前記コントラストレベルを正規化するための画像補正アルゴリズムを適用するステップであって、DC成分の調整が必要であるオブジェクトに対して、マスクを移動させることによりマスクベース補正が適用される、ステップと、
E 補正画像データを表示するステップとを含む、
F ワークフロー方法。」

2 本願明細書の記載
本願発明に関し、本願の出願当初明細書には次の記載がある。

「【発明を実施するための形態】
【0010】
以下の説明は、医用イメージングシステムの様々な実施形態に関する。特に、再構成画像における複数回の取得にわたるコントラスト・バンディング・アーチファクトを補正するための方法およびシステムが提供される。たとえば、コントラスト・バンディング・アーチファクトを補正することは、マスクベース手法を使用して画像のDC成分またはゼロ周波数成分を調整することを含むことができる。本技法に従って処理された画像を取得するために使用され得るコンピュータ断層撮影(CT)イメージングシステムの一例が、図1および図2に提示されている。CTシステムが例として説明されているが、本技法は、トモシンセシス、MRI、PET、SPECT、Cアーム血管造影法、マンモグラフィ超音波などのような他の画像診断法を使用して取得される画像に適用されるときにも有用であり得る。CT画像診断法に関する本説明は、1つの適切な画像診断法の一例としてのみ提供される。
【0011】
図1および図2に示すCTシステムは、複数回の取得からのデータを使用して画像を再構成するように構成することができる。各取得は、イメージングされる被検体内で異なるレベルのコントラストを捕捉し得、それによって、再構成画像内にコントラスト・バンディング・アーチファクトが生成される。コントラスト・バンディング・アーチファクトを除去する後処理方法は、図3および図4に示すように、画像ボリュームを大まかに領域分割すること、画像ボリューム全体を通じて小さなマスクを移動させ、画像ボリュームのDC値を調整すること、および、ストリーク補正を行うことを含む。単純な領域分割を使用して、図5および図6に示すように、画像ボリューム内のオブジェクトを分離することができる。図7、図8、および図9に示すように、マスクベース局所DC補正(mask−based local DC correction)(MBLDCC)アルゴリズムは、以下ではサブボリュームまたはスラブと交換可能に参照され得る複数回の取得にわたってDC値を正規化することができる。MBLDCC法におけるマスクの動きにより、低周波ストリークアーチファクトが正規化画像ボリュームに導入される可能性がある。ストリーク補正を実施する方法は、図10および図11に示すように、MBLDCCの間に偶発的に除去された低周波数成分を正規化画像ボリュームに加算することを含む。CTイメージングシステムを用いた心臓イメージングが、本開示を通じて非限定的な例示的実施例として利用されるが、本開示の利益を享受する当業者は、本技術の新規な特徴が、種類の画像システムに拡張され得、広範囲の被検体に適用され得ることを容易に諒解するであろう。」

「【0014】
いくつかの実施形態では、再構成画像は、複数回の取得からのデータを含み得、これらは時として別々の時間に撮影されたスラブまたはサブボリュームと称され得る。CTシステム100が被検体内の造影剤を画像化するように構成されている例では、各スラブは、造影剤が経時的にではあるが、同じ基礎となる解剖学的構造を灌流するので、異なるレベルのコントラストを含むことができる。そのような例では、CTシステム100は、すべての取得またはスラブにわたってコントラストを正規化することができる。たとえば、本明細書でさらに説明するように、CTシステム100は、基準スラブに対して1つまたは複数のスラブのDC成分を調整することによってコントラスト補正を実施することができる。」

「【0050】
図7は、本発明の一実施形態による、マスクに基づく局所DC補正の例示的な方法700を示す高レベル流れ図である。特に、方法700は、再構成画像内の各サブボリュームまたはスラブのゼロ周波数またはDC成分を正規化することに関する。方法700は、コンピューティングデバイス216によって実行され、実行可能命令として記憶デバイス218の非一時的メモリに格納され得る。
・・・
【0055】
725において、方法700は、MBLDCCマスクをx−y平面全体を通してTSに適用するステップを含むことができる。726において、方法700は、マスクの下のTS内のブロックを分離するステップを含むことができる。727において、方法700は、各ブロックのDCレベルを調整するステップを含むことができる。728において、方法700は、記録されたマスクを処理するステップを含むことができる。所与のyの値に対してMBLDCCを適用する方法は、本明細書において、および、図8に関してさらに説明される。
【0056】
MBLDCCマスクをTSに適用した後、方法700は終了することができる。方法700は、各スラブについて繰り返されてもよい。方法700を各スラブに適用するための例示的なワークフローは、本明細書において、および、図9に関してさらに説明される。
【0057】
図8は、本発明の一実施形態による、所与のスライスに沿ってマスクを適用する例示的な方法800を示す高レベル流れ図である。特に、方法800は、所定のyの値に対して方法700に従ってスラブのDCレベルを補正することに関する。方法800は、コンピューティングデバイス216によって実行され、実行可能命令として記憶デバイス218の非一時的メモリに格納され得る。
・・・
【0062】
830において、方法800は、マスクの下のTS内のブロックを分離するステップを含むことができる。TSのマスクの下にブロックが1つしかない場合、ステップ830は自明である。しかしながら、TSに異なるDC成分を有する2つ以上のブロックが存在する場合がある。TS内の2つ以上のブロックのDC成分を同じ基準値で調整すると、エラーが発生する可能性がある。
【0063】
835において、方法800は、各ブロックのDCレベルまたはゼロ周波数成分を調整するステップを含むことができる。スラブ境界に接触するブロックがある場合、このブロックのDC成分は、RSのDC成分によって調整することができる。スラブ境界に接触していないブロックがある場合、このブロックのDC成分はRSの平均DC成分に基づいて調整することができる。」

第3 原査定の拒絶の理由
原査定時請求項12に係る発明に対する拒絶の理由は、3回目の拒絶理由通知及び拒絶査定によれば、概略下記(1)のとおりのものである。
(1)原査定時請求項12に係る発明は、本願の優先権主張の日(以下「優先日」という。)前に日本国内又は外国において頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記(2)の引用文献1に記載された発明及び引用文献2〜5に示された周知技術に基づいて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
(2)引用文献等
1.特開2005−296332号公報
2.特開平7−239933号公報(周知技術を示す文献)
3.特開平8−140964号公報(周知技術を示す文献)
4.特開2003−150954号公報(周知技術を示す文献)
5.特開2010−239480号公報(周知技術を示す文献)

第4 引用文献の記載及び引用発明

1 引用文献1に記載された事項

(1)引用文献1の記載事項
引用文献1には次の記載がある。

「【技術分野】
【0001】
本発明は、X線撮影位置を体軸方向に移動して得られる複数枚のX線画像データを用いて長尺画像データの生成を行なうX線診断装置、画像生成装置及び画像生成方法に関する。」
・・・
【0003】
X線診断は、近年ではカテーテル手技の発展に伴い循環器分野を中心に進歩を遂げている。循環器領域におけるX線診断は心血管系をはじめ、全身の動静脈の診断を対象としており、血管内に造影剤を注入した状態でX線透過像を撮影する場合が多い。
・・・
【0006】
例えば、DA撮影では、所定の血管に対して造影剤を注入した後のコントラスト画像を収集することによって血管像が強調されたDA画像データの生成を行なう。
【0007】
腹部大動脈からカテーテルを介して注入された造影剤が足先まで流れる状態を上述のDA撮影によって観察する場合、腹部から足先までの広い範囲におけるDA画像データを1枚のコントラスト画像データから得ることは現状のX線検出部の撮影サイズでは不可能である。
【0008】
このため、Cアームあるいは天板を被検体の体軸方向に順次移動させながら複数の撮影位置においてDA画像データの収集を行ない、得られた複数枚のDA画像データを体軸方向に貼り合わせて長尺画像データを生成する方法が用いられている。
・・・
【0010】
ところで上述の長尺画像データの撮影方法として、ステッピング撮影とボーラスチェース撮影がある。ステッピング撮影によるDA画像データの収集では、例えば、図23(b)に示すように、X線発生部とX線検出部を備えた撮像系を造影剤の到達より早く所定の撮影部位まで移動し、この撮影位置に一旦静止させた状態で下肢血管内に注入された造影剤の到達を待つ。そして、造影剤が到達した時点で撮影を行なったならば前記撮像系を次の撮影位置へ速やかに移動させる。このような方法を繰り返すことによって複数の撮影位置におけるDA画像データの収集を行なう。一方、ボーラスチェース撮影によるDA画像データの収集では、図23(c)に示すように、撮像系を体軸方向に連続的に移動させて下肢血管内の造影剤を追跡し、予め設定された複数の撮影位置において撮影を行なうことによって複数枚のDA画像データを収集する。」

「【0031】
次に、前記X線発生部1から照射され被検体150を透過したX線を検出するX線検出部2には、既に述べたX線I.I.を用いた方式やX線検出器を2次元配列した、所謂X線平面検出器を用いた方式等がある。以下では、X線I.I.を用いた方式について述べるが、X線平面検出器を用いた方式であっても構わない。即ち、図1に示したX線検出部2は、X線I.I.21と、X線テレビカメラ22と、A/D変換器23を備えている。
そして、X線I.I.21は、被検体150を透過したX線を可視光に変換し、更に、光−電子−光変換の過程で輝度の増倍を行なって感度のよい投影データを形成する。一方、X線テレビカメラ22は、CCD撮像素子を用いて上述の光学的な投影データを電気信号に変換し、A/D変換器23は、X線テレビカメラ22から出力された時系列的な電気信号(ビデオ信号)をデジタル信号に変換する。」

「【0035】
一方、画像演算記憶部6は、X線発生部1及びX線検出部2の移動に伴ってX線検出部2のA/D変換器23より順次供給される複数の撮影部位におけるDA画像データを保存する画像データ記憶回路61と、画像データ記憶回路61にて保存された所定の撮影部位のDA画像データに対して所望の画像処理を行なう画像演算回路62を備えている。」

「【0043】
次に、画素値プロフィール生成回路722は、画素値補正前の長尺画像データに設定されたROIの幅方向における複数の画素値から1種類あるいは2種類の代表画素値を設定する。尚、代表画素値として、例えば前記複数の画素値から求められた平均値、最大値、最小値、中央値、最頻値などがあり、これらの中から選択された1種類あるいは2種類の代表画素値に基づいて画素値プロフィールが生成される。
【0044】
以下の説明では、平均値を代表画素値に設定した場合につき図5を用いて説明する。図5は、図4(a)の画素値補正前の長尺画像データ300に設定されたROIAに含まれるDA画像データ1乃至DA画像データ3の画素と、これらの画素における画素値から算出される代表画素値を模式的に示したものであり、説明を簡単にするために、ROIAに含まれる各々のDA画像データは体軸方向に4画素、幅方向に5画素で構成されている。
【0045】
そして、画素値プロフィール生成回路722は、まずDA画像データ1の幅方向に配列された画素A11乃至A15の画素値の平均値a1を算出し、代表画素値に設定する。同様にして画素B11乃至B15の平均画素値b1、画素C11乃至C15の平均値画素値c1、画素D11乃至D15の平均画素値d1を算出し代表画素値に設定する。更に、DA画像データ2に対し同様にして算出された平均画素値a2、b2、c2、d2、DA画像データ3に対して算出された平均画素値a3、b3、c3、d3を夫々代表画素値に設定する。又、同様の手順によって図示しないDA画像データ4乃至DA画像データNについても代表画素値の算出を行なう。
【0046】
次に、画素値プロフィール生成回路722は、算出された代表画素値に基づいて図6に示すような画素値プロフィールP1を生成する。尚、図5では、各DA画像データにおける体軸方向の画素数を4としたが、実際には極めて多くの画素数から構成されている。従って、DA画像データ1の代表画素値d1と隣接したDA画像データ2の代表画素値a2、DA画像データ2の代表画素値d2と隣接したDA画像データ3の代表画素値a3等は略同一部位における代表画素値であり、DA画像データ間における画像濃度に変動が無い場合には同一の値を示すべきものである。しかしながら、既に述べた理由によりDA画像データ間の画像濃度及びコントラストが異なるため、図6に示すようにその境界領域における代表画素値に差異が発生する。
【0047】
一方、図4(a)あるいは図4(b)において、補正前長尺画像データに2つのROI(ROIA及びROIB)が設定される場合には、画素値プロフィール生成回路722は、図7に示すようにROIAによる画素値プロフィールP1とROIBによる画素値プロフィールP2を生成する。尚、画素値プロフィールP2におけるa1’、b1’、c1’、d1’、a2’、b2’、・・・・はROIBにおけるDA画像データ1乃至DA画像データNの代表画素値を示している。
【0048】
次いで、補正関数算出回路723は、画素値プロフィール生成回路722が生成した画素値プロフィールに基づいて、各DA画像データの境界領域における代表画素値(例えば、d1とa2、d2とa3・・・)を一致させるための補正関数を算出する。以下に、このとき算出される補正関数を図8乃至図10を用いて説明する。
【0049】
図8は、補正前長尺画像データ300に設定されたROIAにおける代表画素値が1種類の場合の補正関数を示したものである。例えば、DA画像データn−1を基準にDA画像データn(n=2乃至N)の画素値を補正する場合、その貼り合わせ部位におけるDA画像データn−1の代表画素値をdn−1、DA画像データnの代表画素値をan、DA画像データnにおける補正前の画素値をXnとすれば、DA画像データnの補正後の画素値Ynは下式(1)あるいは下式(2)を示す図8(b)あるいは図8(b)の補正関数に基づいて算出することができる。




・・・
【0051】
次に、上述のROIにおける代表画素値が1種類の場合、この代表画素値と画素値プロフィールの勾配を用いた補正方法について述べる。DA画像データn−1の代表画素値dn−1における画素値プロフィールの勾配をGdn−1、又、DA画像データnの代表画素値anにおける画素値プロフィールの勾配をGanとすれば、このときの補正関数(Xn,Yn)は図9に示すように(an、dn−1)を通り、勾配がGdn−1/Ganの直線となる。代表画素値のみならず画素値プロフィールの勾配の連続性を持たせることによって画素値プロフィール、更にはDA画像データの境界領域における画素値を連続かつ滑らかに繋ぐことが可能となる。


「【0073】
(DA画像データの生成手順)次に、図1及び図2と図15及び図16を用い、本実施例のX線診断装置100におけるボーラスDA画像データの生成手順について説明する。尚、図15は、ボーラスDA画像データの生成手順を示すフローチャートであり、図16は、ボーラスDA画像データの収集方法を示した図である。但し、図16では、静止した被検体150の体軸方向にX線発生部1及びX線検出部2(以下、これらを纏めて撮像系と呼ぶ。)を移動することによってボーラスDA画像データの生成を行なう場合について述べるが、天板18と共に被検体150を移動してもよい。
・・・
【0076】
次いで、操作者は、被検体150の鼠ケイ部大動脈に造影剤を注入した後(図15のステップS2)操作部9より撮影開始コマンドを入力する。操作部9より撮影開始コマンド信号の供給を受けたシステム制御部10は、機構部3の機構制御回路33に対して制御信号を送り、機構制御回路33は、撮像系移動機構31に駆動信号を供給して撮像系を最初の撮影位置(図16のX1)に対して任意の速度で移動する。
【0077】
一方、機構制御回路33の位置検出器は、撮像系移動機構31に設けられたエンコーダから送られてくる信号に基づいて撮像系の位置検出を継続的に行ない、その検出位置(X)が最初の撮影位置(X1)に一致したならば、一致信号を発生する。そして、この一致信号を受信したシステム制御部10は、高電圧発生部4に対してX線発生のための制御信号を供給する。
【0078】
次いで、システム制御部10からの前記制御信号を受信した高電圧発生部4の高電圧制御回路41は、既に設定されているX線照射条件に基づいて高電圧発生器42を制御して高電圧をX線発生部1のX線管15に印加する。そして、高電圧が印加されたX線管15は、所定パルス幅のX線を、X線絞り器16を介して被検体150に照射し、被検体150を透過したX線は、その後方に設けられたX線検出部2のX線I.I.21に投影される。
【0079】
一方、X線I.I.21は、被検体150を透過したX線を光学画像に変換し、更に、X線テレビカメラ22は、前記光学画像を電気信号(ビデオ信号)に変換する。そして、X線テレビカメラ22から時系列的に出力されるビデオ信号は、A/D変換器23にてデジタル信号に変換された後、画像演算記憶部6の画像データ記憶回路61に撮影位置X1のDA画像データとして保存される。更に、このときの撮影位置情報(X1)も前記DA画像データの付帯情報として保存される(図15のステップS3)。
【0080】
以下、同様の手順によって撮像系を撮影位置X2乃至XNに移動させ、このとき得られたDA画像データとその撮影位置情報を画像データ記憶回路61に順次保存する(図15のステップS3及びS4)
(長尺画像データの生成手順)
次に、本実施例のX線診断装置100による長尺画像データの生成手順につき図1乃至図14と図17乃至図19を用いて説明する。尚、図17は、長尺画像データの生成手順を示すフローチャートである。
【0081】
操作者は、操作部9よりDA画像データによる長尺画像データの生成開始コマンドを入力し、このコマンド信号が操作部9よりシステム制御部10に送られると、システム制御部10は長尺画像データ生成部7の各ユニットに対して指示信号を供給する。
【0082】
この指示信号を受信した長尺画像データ生成部7の画像合成回路71は、既に、撮影位置X1乃至XNにおいて得られ、画像演算記憶部6の画像データ記憶回路61におけるDA画像データ記憶領域に保存されているN枚のDA画像データとその撮影位置情報を読み出し、この撮影位置情報に基づいて前記DA画像データを体軸方向に貼り合わせて画素値補正前の長尺画像データを生成する(図17のステップS5)。そして、システム制御部10は、画像合成回路71によって供給された前記長尺画像データを、例えば図3(c)に示した形態によって表示部8のモニタ83に表示する。
【0083】
一方、図2の画素値補正回路72におけるROI設定回路721は、前記画像合成回路71において生成された前記長尺画像データに対してROIを設定する(図17のステップS6)。
【0084】
次に、画素値プロフィール生成回路722は、補正前長尺画像データに設定されたROIの幅方向における複数の画素値を用いて代表画素値を設定し、体軸方向に得られた複数の代表画素値から画素値プロフィールを生成する(図17のステップS7)。そして、生成された画素値プロフィールを、必要に応じて前記補正前長尺画像データと共に表示部8に表示する。
【0085】
一方、補正関数算出回路723は、画素値プロフィール生成回路722が生成した画素値プロフィールに基づいて、前記長尺画像データを構成する複数のDA画像データの階調とその境界における画素値を一致させるための補正関数を算出する(図17のステップS8)。次いで、画素値演算回路724は、補正関数算出回路723が算出した補正関数を用いて前記DA画像データの各画素値の補正を行なう(図17のステップS9)。
【0086】
次いで、ダイナミックレンジ圧縮回路73のROI設定回路731は、画素値補正後の長尺画像データに対して再度画素値プロフィールを得るためのROIを設定し(図17のステップS10)、画素値プロフィール生成回路732は、ROI設定回路731によって設定されたROIにおける横方向の平均画素値の算出を前記長尺画像データの体軸方向に対して順次行ないダイナミックレンジ圧縮用の画素値プロフィールを生成する(図17のステップS11)。
【0087】
次に、補正係数決定回路733は、生成された画素プロフィールを所定のレンジに納めるための補正係数カーブを予め設定された変換テーブルに基づいて求め(図17のステップS12)、ダイナミックレンジ変換回路734は、前記長尺画像データの画素値に前記補正係数カーブの補正係数を乗算してダイナミックレンジ圧縮を行なう(図17のステップS13)。
【0088】
そして、システム制御部10は、ダイナミックレンジ圧縮後の長尺画像データを表示部8の表示用データ生成回路81に供給し、表示用データ生成回路81は、この長尺画像データとシステム制御部10から供給される被検体情報などの付帯情報を合成して表示用画像データを生成する。次いで、変換回路82は、前記表示用画像データに対してD/A変換とTVフォーマット変換を行なって映像信号を生成しモニタ83に表示する(図17のステップS14)。」

(2)引用文献1の記載から認定できる事項
【0043】、【0049】の式(1)に関する記載、及び【0051】における、プロフィールの勾配をさらに連続させる旨の記載を総合すると、DA画像データの境界領域における代表画素値及びプロフィールの勾配の連続性を持たせるための補正関数について、次の事項(以下「認定事項1」という。)が記載されていると認められる。

「補正関数は、各DA画像データの境界領域における複数の画素値の平均値が設定された代表画素値を一致させるためのものであり、DA画像データ間の画像濃度及びコントラストが異なるため、その境界領域における代表画素値に差異が発生し、例えばDA画像データ1の代表画素値d1と隣接したDA画像データ2の代表画素値a2、DA画像データ2の代表画素値d2と隣接したDA画像データ3の代表画素値a3等は略同一部位における代表画素値であり、DA画像データ間における画像濃度に変動が無い場合には同一の値を示すべきものであって、
前記貼り合わせ部位におけるDA画像データn−1の代表画素値をdn−1、DA画像データnの代表画素値をan、DA画像データnにおける補正前の画素値をXnとすれば、DA画像データnの補正後の画素値Ynは
式(1): Yn=Xn+(dn−1−an)
と表され、これを補正関数とすることもでき、
さらに、代表画素値のみならず画素値プロフィールの勾配の連続性を持たせることによって画素値プロフィール、更にはDA画像データの境界領域における画素値を連続かつ滑らかに繋ぐために、DA画像データn−1の代表画素値dn−1における画素値プロフィールの勾配をGdn−1、又、DA画像データnの代表画素値anにおける画素値プロフィールの勾配をGanとすれば、補正関数(Xn,Yn)は、(an、dn−1)を通り、勾配がGdn−1/Ganの直線、すなわち、DA画像データnの補正後の画素値Ynは、
式(X):Yn={(Gdn−1/Gan)×(Xn−an)}+dn−1
となり、DA画像データnの補正後の画素値Ynを当該補正関数によって求めることができる。」

2 引用発明
上記1に摘記した事項から、引用文献1には下記の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。ここで、分説記号については上記第2と同様であり、各構成単位末尾の括弧内には、認定の根拠となる引用文献1の記載箇所を段落番号で示した。

「a X線撮影位置を体軸方向に移動して得られる複数枚のX線画像データを用いて長尺画像データの生成を行なうX線画像生成方法であって、(【0001】)
b 操作者が被検体に造影剤を注入した後、X線発生部及びX線検出部からなる撮像系が最初の撮影位置に移動され、X線発生部のX線管が被検体にX線を照射し、被検体を透過したX線がX線検出部のX線I.I.に投影され、X線I.I.は該X線を光学画像に変換し、該光学画像がX線検出部のX線テレビカメラによりビデオ信号に変換され、
該ビデオ信号がデジタル信号に変換された後、画像演算回路も備える画像演算記憶部の画像データ記憶回路に撮影位置X1のDA画像データとして保存され、以下、同様の手順によって撮像系を撮影位置X2乃至XNに移動させ、このとき得られたDA画像データとその撮影位置情報を画像データ記憶回路に順次保存され、(【0031】、【0035】、【0073】、【0076】〜【0080】)
c 画像合成回路が、撮影位置X1乃至XNにおいて得られたN枚のDA画像データを体軸方向に貼り合わせて画素値補正前の長尺画像データを生成し、該長尺画像データに対してROIを設定し、ROIの幅方向における複数の画素値を用いて代表画素値として該複数の画素値から求められた平均値を設定し、体軸方向に得られた複数の代表画素値から画素値プロフィールを生成し、補正関数算出回路が、画素値プロフィールに基づいて、前記長尺画像データを構成する複数のDA画像データの階調とその境界における代表画素値を一致させるための補正関数を算出し、(【0043】、【0082】〜【0085】)
c1 該補正関数は、各DA画像データの境界領域における代表画素値を一致させるためのものであり、
DA画像データ間の画像濃度及びコントラストが異なるため、その境界領域における代表画素値に差異が発生し、例えばDA画像データ1の代表画素値d1と隣接したDA画像データ2の代表画素値a2、DA画像データ2の代表画素値d2と隣接したDA画像データ3の代表画素値a3等は略同一部位における代表画素値であり、DA画像データ間における画像濃度に変動が無い場合には同一の値を示すべきものであって、
前記貼り合わせ部位におけるDA画像データn−1の代表画素値をdn−1、DA画像データnの代表画素値をan、DA画像データnにおける補正前の画素値をXnとすれば、DA画像データnの補正後の画素値Ynは
式(1): Yn=Xn+(dn−1−an)
と表され、これを補正関数とすることもでき、
c2 さらに、代表画素値及び画素値プロフィールの勾配の連続性を持たせることによって画素値プロフィール、更にはDA画像データの境界領域における画素値を連続かつ滑らかに繋ぐために、DA画像データn−1の代表画素値dn−1における画素値プロフィールの勾配をGdn−1、又、DA画像データnの代表画素値anにおける画素値プロフィールの勾配をGanとすれば、補正関数(Xn,Yn)は、(an、dn−1)を通り、勾配がGdn−1/Ganの直線、すなわち、
式(X):Yn={(Gdn−1/Gan)×(Xn−an)}+dn−1
となり、DA画像データnの補正後の画素値Ynを当該補正関数によって求めることができ、(認定事項1)
d 次いで、画素値演算回路は、補正関数算出回路が算出した前記補正関数を用いて前記DA画像データの各画素値の補正を行ない、(【0085】)
e 次いで、前記画素値補正後の長尺画像データに対して再度画素値プロフィールを得るためのROIを設定し、ダイナミックレンジ圧縮用の画素値プロフィールを生成し、記長尺画像データの画素値にダイナミックレンジ圧縮を行ない、システム制御部が、ダイナミックレンジ圧縮後の前記長尺画像データを表示部の表示用データ生成回路に供給し、表示用データ生成回路は表示用画像データを生成し、変換回路が映像信号を生成し、モニタに表示する、(【0086】〜【0088】)
f X線画像生成方法。」

第5 対比・判断

1 対比
本願発明と引用発明とを対比すると、以下のとおりとなる。
(1)ア 構成aの「X線画像生成」は構成Aの「医用イメージング」に下位概念的に相当する。

イ 構成A(F)の「ワークフロー」は「作業の流れ」を意味する英語の「workflow」をもとにする外来語であるから、構成Aの「手順」と同義(類義)であり、構成aの「X線画像生成方法」は、構成Aの「医用イメージング手順のワークフロー方法」に相当するといえる。

(2)ア 構成bの「X線管」・「X線I.I.」・「X線テレビカメラ」を含む「X線発生部及びX線検出部からなる撮像系」は、構成Bの「イメージングデバイス」に相当する。

イ 構成bの「画像演算回路」及び「画像データ記憶回路」を備える「画像演算記憶部」は、演算と記憶の機能を備えることからみて、構成Bの「コンピュータ」に相当するといえる。

ウ(ア)構成bの「DA画像データ」は構成Bの「画像データ」に相当する。
(イ)構成bにおいて、「X線I.I.は該X線を光学画像に変換し、該光学画像がX線検出部のX線テレビカメラによりビデオ信号に変換され、該ビデオ信号がデジタル信号に変換された」≪デジタル信号に変換されたビデオ信号≫が、「画像演算回路も備える画像演算記憶部の画像データ記憶回路に撮影位置X1のDA画像データとして保存」されるためには、「画像演算回路」及び「画像データ記憶回路」を備える「画像演算記憶部」が、その外部手段により前記≪デジタル信号に変換されたビデオ信号≫を受信しなければならない、つまり「画像演算記憶部」による受信工程を含むことが明らかである。そして、この、引用発明における、「画像演算回路も備える画像演算記憶部の画像データ記憶回路に撮影位置X1のDA画像データとして保存」される工程に含まれる前記受信工程は、構成Bの「受信」に相当するといえる。

エ 上記ア〜ウの相当関係から、構成bにおける「被検体を透過したX線がX線検出部のX線I.I.に投影され、X線I.I.は該X線を光学画像に変換し、該光学画像がX線検出部のX線テレビカメラによりビデオ信号に変換され、該ビデオ信号がデジタル信号に変換された後、画像演算回路も備える画像演算記憶部の画像データ記憶回路に撮影位置X1のDA画像データとして保存され」る一連の工程は、構成Bの「イメージングデバイスから画像データをコンピュータに受信するステップ」に相当するといえる。

オ 構成bの、「撮像系が最初の撮影位置に移動され・・・被検体にX線を照射し、被検体を透過したX線がX線検出部のX線I.I.に投影され、X線I.I.は該X線を光学画像に変換し・・・撮影位置X1のDA画像データとして保存され」たあと、「同様の手順によって撮像系を撮影位置X2乃至XNに移動させ、このとき得られたDA画像データとその撮影位置情報を画像データ記憶回路に順次保存され」るまでの一連の工程において、撮影位置X1、X2・・・XNにおける被検体へのX線の照射とそれによるDA画像データの保存が順に遅れた時間、即ち異なる時間になされることが明らかであるといえる。

カ 「サブボリューム」について
(ア)本願発明について本願明細書【0010】では上記第2の2で摘記したとおり、「本技法に従って処理された画像を取得するために使用され得るコンピュータ断層撮影(CT)イメージングシステムの一例が、図1および図2に提示されている。CTシステムが例として説明されているが、本技法は、トモシンセシス、MRI、PET、SPECT、Cアーム血管造影法、マンモグラフィ超音波などのような他の画像診断法を使用して取得される画像に適用されるときにも有用であり得る。」との記載があり、本願発明においても「医用イメージングシステム」について何ら特定されていないことから、本願発明は、CTなどによる多層の画像データのみならず、少なくとも「Cアーム血管造影法」など2次元のX線透視撮像法による単層の画像データもその適用対象に含むものである。
(イ)実際、「サブボリューム」なる用語は、医用画像処理の分野において、2次元の部分画像データに対しても用いられるものである。このことは例えば下記a・bに挙げる、本願優先日前に公知となった文献の記載により裏付けられる(改行や行頭スペースは省略した。)。
a 特表2014−526946号公報(公表日:平成26年10月9日)には例えば次の記載がある。
・「【0004】・・・3D描写インタラクションは3Dボリュームの2Dサブボリューム(“スライス”)において表示される。」
・「【0011】。前記3D画像データセット(”ボリューム”)は、スライスとも呼ばれる2Dサブボリューム画像から構成されか又はそれらの画像を生成することを可能にする。」
b 特表2008−517670号公報には次の記載がある。
・「【請求項12】特徴は2次元サブボリュームについて決定される・・・。」
・「【0013】・・・サブボリュームは2次元であって、視覚化ならびに特徴は2次元サブボリュームについて決定される。」
(ウ)以上(ア)・(イ)のとおりであるから、本願発明の「サブボリューム」にはCアーム血管造影法など透視撮像によるものをはじめとする単層の2次元画像データが含まれるといえる。

キ 以上、特にオ・カのとおりであるから、構成bの、前記撮影位置X1、X2・・・XNにおける各「DA画像データ」は、構成Bの「複数の異なる画像取得時間に対応するサブボリューム」に相当する。

(3)ア(ア)構成Cで特定される「コントラスト」なる用語について、本願明細書の【0014】には「本明細書でさらに説明するように、CTシステム100は、基準スラブに対して1つまたは複数のスラブのDC成分を調整することによってコントラスト補正を実施することができる。」との記載がある。
(イ)また、上記【0014】の記載での「DC成分」については同【0063】などに「DCレベルまたはゼロ周波数成分を調整する」のように、「ゼロ周波数成分」と並列されて記載されている。
(ウ)ここで、「ゼロ周波数成分」とは、技術常識に照らし、ある領域の画像データにおける周波数ゼロ、すなわち非波動成分を意味し、例えば該画像データの全体または一部の平均濃度(画素値平均)値などが含まれる概念であると理解される。
(エ)「DCレベル」も、「DC」が直流を意味する用語であることから、画像データの「直流レベル」を意味し、これはすなわち非波動成分と少なくとも類義、または同義であると理解される。この理解は、前記のとおり「DC成分」と「ゼロ周波数成分」とが並列的に記載されていることと矛盾しない。
(オ)一方、「コントラスト」を、例えば濃淡差など濃度の分布に関する意味であると捉えた場合、コントラストに関するパラメータは、画像内での濃淡差は最大値や最小値など画像内での濃度の変動に関する何らかの解析によらなければ得られないから、そのような解釈は、上記【0014】で説明される、コントラストが濃度分布の非波動成分であるDC成分の調整により補正されるとの記載と整合しない。
(カ)また、「コントラスト」に関し、それを示すパラメータを、画像データ内の極値を含む何らかの濃度変動成分から求めることについて、本願明細書中に特段の開示はない。

イ(ア)また、構成Cの「バンディング・アーチファクト」(banding artifacts)とは、下記a・bに、本願優先日前公知の文献中での用法を例示するとおり、X線画像等の医用イメージングの分野において、種々の要因によって生じる濃淡縞状の画像歪み(ノイズ)を指す慣用の用語である。

a 全国循環器撮影研究会誌,Vol.25,2013,16頁











b 特開2011−136002号公報

「【0072】
図13に、本実施形態により表示されるxz面のMPR画像の一例を示す。また、図14に、従来の方法により表示されるxz面のMPR画像の一例を示す。図13および図14に示すこれらの画像G0,G1は、図11の例のように、スキャン開始位置Zsからスキャン終了位置Zfまで、コンベンショナルスキャンを4回連続して行い、スキャン領域R1〜R4がz方向に隣接した空間に対応したMPR画像の例である。z方向に隣接する複数回のコンベンショナルスキャンを行って断層像を生成する場合、硬いX線でスキャンされた断層像と軟らかいX線でスキャンされた断層像とが隣り合わせとなる。そのため、従来の方法によれば、xz面やyz面などのMPR画像では、物質の画素値がz方向に不均一となり、図14に示すように、z方向に断層像の不連続線Atが発生する。例えば、ヨウ素を含む造影剤の入った血管のCT値がずれてしまい、バンディングアーチファクトとして見えてしまう。一方、本実施形態によれば、xz面やyz面などを断面とするMPR画像でも、物質に対応する画素値がz方向の略均一となり、図13に示すように不連続線やバンディングアーチファクトが発生しない。」





(イ)例えば、隣接する(単位)画像間で共通要素の濃淡に差異があれば、こうした濃度差のある画像を複数貼り合わせた場合、画像の配列方向にみて画像単位で濃淡が縞状に変化する(変化して見える)ことは明らかであるといえ、これは上記(ア)で説明した慣用の用語としての「バンディング・アーチファクト」に該当するといえる。

ウ(ア)上記アで説示したとおり、構成Cの「コントラスト」(「コントラストレベル」)は、それが上記認定のとおり画像データの非波動成分(「DC成分」、「ゼロ周波数成分」)を意味すると解される。
(イ)上記(ア)の解釈を前提とすれば、構成cの、「画像合成回路が、撮影位置X1乃至XNにおいて得られたN枚のDA画像データを体軸方向に貼り合わせて画素値補正前の長尺画像データを生成し、該長尺画像データに対して」設定した「ROI」について、「ROIの幅方向における複数の画素値を用いて代表画素値として該複数の画素値から求められた平均値を設定」する工程における「代表画素値として該複数の画素値から求められた平均値」は、「ROI」が「DA画像」の一部であり、「ROIの幅方向における複数の画素」が前記「DA画像」中に設定した「ROI」の一部であって、該「複数の画素」の「画素値から求められた平均値」すなわち非波動成分であるから、構成Cの「前記サブボリュームのコントラストレベル」に相当するといえる。

エ 構成c2の「代表画素値及び画素値プロフィールの勾配」は、該勾配が小さい(大きい)ということ(部分)が「代表画素値及び画素値プロフィール」の変動幅が小さい(大きい)こと(部分)に対応するといえることから、個々のDA画像データにおける、中央(平均)階調値やそれを中心とするプロフィール(代表画素値)の変動幅(明暗変化の度合い、階調)を決める要素であるといえる。
よって、上記ウの認定・解釈とは離れ、構成Cの「コントラスト」が、仮に濃淡差など濃度の変動幅のみ意味すると解釈されるとすれば、構成Cの「コントラスト」に相当するといえる。

オ(ア)構成c1の補正関数「式(1): Yn=Xn+(dn-1−an)」は、「各DA画像データの境界領域における代表画素値を一致させるためのものであり、DA画像データ間の画像濃度及びコントラストが異なる場合、その境界領域における代表画素値に差異が発生し、例えばDA画像データ1の代表画素値d1と隣接したDA画像データ2の代表画素値a2、DA画像データ2の代表画素値d2と隣接したDA画像データ3の代表画素値a3等は略同一部位における代表画素値であり、DA画像データ間における画像濃度に変動が無い場合には同一の値を示すべきものであ」るとの条件のもとで、「貼り合わせ部位におけるDA画像データn−1の代表画素値をdn−1、DA画像データnの代表画素値をan」としたときのものである。
(イ)そして、前記式(1)における差値「(dn-1−an)」は、2枚のDA画像データn−1とnとの貼り合わせ部位、すなわち境界に接するn−1側の代表画素値とn側の代表画素値との差であり、前記式(1)は、前記差値が0以外であれば、DA画像データn側の各画素値は該差値分だけ加減算の補正がされ、0であれば(既に境界領域における代表画素値は一致しているから)DA画像データnの各画素値に対し該加減算の補正がされないことを示している。
(ウ)また、構成c1の式(1)において、差値「(dn-1−an)」が0でないということは、「DA画像データ間における画像濃度に変動が無い場合には同一の値を示すべき」画素代表値「dn-1」・「an」の間に差があることを示し、このことは、隣接したDA画像データの境界領域において画像の濃度に段差が生じていることを示す。
(エ)そして、連続してDA画像データが貼り合わされた長尺画像データにおいて、順次貼り合わせ部分を境にDA画像データ単位で画像(データ)濃度に段差を生じるということは、DA画像データ単位で短冊状に濃淡縞を生じることに外ならない。
(オ)以上のとおりであるから、上記(エ)で説示した、構成c1の式(1)において上記差値が0でない場合に生じうる「長尺画像データにおいDA画像データ単位で生じる短冊状の濃淡縞」は、医用イメージングによる撮像対象の性状を反映したものではなく、医用イメージング装置によって取得したデータ上の現象である。よって、この「長尺画像データにおいDA画像データ単位で生じる短冊状の濃淡縞」は、「コントラスト」の解釈について、上記ウ(ア)の前提に立てば、構成Cの「コントラスト・バンディング・アーチファクト」に相当するといえる。

カ(ア)構成Cの「コントラスト」の解釈について上記エで説示した前提に立つ場合であっても、上記オと同様に、構成c2の補正関数の式(X)において、DA画像データの境界において上記差値が0でない、すなわち(an≠dn−1)こと及び/又は同境界において画素値プロフィールの勾配が等しくない(Gdn−1/Gan≠1)ことによって、DA画像データが貼り合わされた長尺画像データにおいて、順次貼り合わせ部分を境に画像(データ)濃度や濃淡の変化度合いについて、DA画像データ単位で縞状の変化が生じることに変わりはない。
(イ)よって、上記(ア)の場合であっても、構成c2の式(X)で、隣接するDA画像データが(an≠dn−1)及び/又は(Gdn−1/Gan≠1)の関係を有することで、「順次貼り合わせ部分を境にDA画像データ単位で画像(データ)濃度や濃淡の変化度合いにDA画像データ単位で縞状に変化が生じること」が、構成Cの「コントラスト・バンディング・アーチファクト」に相当するといえる。

キ(ア)構成c1(及びその補正関数である式(1))では「DA画像データ間の画像濃度及びコントラストが異なるため、その境界領域における代表画素値に差異が発生」するのであるから、引用発明(及びその式(1))は、逆に、境界領域における代表画素値に差異が発生していなければ、DA画像データ間で画像濃度及びコントラストが異ならない、との判断基準を前提としているといえる。
そうすると、構成Cの「コントラスト」の解釈について上記ウの前提に立った場合において、構成c1の「境界領域における代表画素値に差異が発生」していること、つまり式(1)の上記差値が0でないことは、構成Cの「コントラスト・バンディング・アーチファクトを含む」ことに相当し、該差値が0であることは、構成Cで「コントラスト・バンディング・アーチファクトを・・・否」つまり「コントラスト・バンディング・アーチファクトを含」まないことに相当するといえる。
(イ)構成c2(及びその補正関数である式(X))でも同様に、隣接するDA画像データの境界領域において、代表画素値及び画素値プロフィールの勾配について差異が発生していなければ((an=dn−1)、(Gdn−1/Gan=1))、DA画像データ間の画像濃度及びコントラストが異ならない、との判断基準を前提としているといえる。
そうすると、構成Cの「コントラスト」の解釈について上記エの前提に立った場合において、構成c2の式(X)で(an≠dn−1)、(Gdn−1/Gan≠1)であることは、構成Cの「コントラスト・バンディング・アーチファクトを含む」ことに相当し、(an=dn−1)、(Gdn−1/Gan=1)であることは、構成Cで「コントラスト・バンディング・アーチファクトを・・・否」つまり「コントラスト・バンディング・アーチファクトを含」まないことに相当するといえる。
(ウ)以上(ア)、(イ)のとおりであるから、構成c1において式(1)を、または構成c2において式(X)を各DA画像データについて計算することで、隣接するDA画像データの境界領域における画素値の関係に応じて、DA画像データの補正を行うか否かの実質的な場合分けが行われているといえる。

(4)ア(ア)構成Dの「画像補正アルゴリズム」は文理上「DC成分の調整が必要であるオブジェクトに対して、マスクを移動させることによりマスクベース補正が適用される」ものであると理解できる。
(イ)そして、上記「マスクを移動させることによ」る「マスクベース補正」について本願明細書には上記第2の2で摘記したとおりの【0011】の記載がある。ここでは、「コントラスト・バンディング・アーチファクトを除去する後処理方法は、・・・画像ボリュームを大まかに領域分割すること、画像ボリューム全体を通じて小さなマスクを移動させ、画像ボリュームのDC値を調整すること・・・を含む。」とされ、「画像ボリューム全体を通じて小さなマスクを移動させ、画像ボリュームのDC値を調整すること」については「マスクベース局所DC補正(mask−based local DC correction)(MBLDCC)アルゴリズムは、以下ではサブボリュームまたはスラブと交換可能に参照され得る複数回の取得にわたってDC値を正規化することができる。」と説明されている。

イ 構成Dにおける「正規化」の具体的な手順については、本願明細書に次の(ア)〜(エ)の各記載がある。
(ア)「【0037】
・・・各サブボリュームのゼロ周波数成分を正規化して基準サブボリュームのゼロ周波数成分と一致させることによってコントラスト・バンディング・アーチファクトを除去する」

(イ)「【0050】
・・・方法700は、再構成画像内の各サブボリュームまたはスラブのゼロ周波数またはDC成分を正規化することに関する。
・・・
【0052】
・・・方法700は、基準スラブ(RS)を選択することを含むことができる。一例では、基準スラブは、スラブの所定の順序に基づいて自動的に選択されてもよい。別の例では、予め定められた範囲内の特定のスラブのコントラストレベルに基づいて、特定のスラブを基準スラブとして選択によって、各スラブのコントラストレベルに基づいて基準スラブが自動的に選択されてもよい。さらに別の例では、基準スラブは、システム200のオペレータによって、たとえばオペレータコンソール220を使用して手動で選択されてもよい。領域分割画像を含む他の各スラブのDC成分は、RSのDC成分に基づいて調整することができる。用語に関して、RSに関して積極的に補正されているスラブは、以下ではこのスラブ(TS)と称される場合がある。
・・・
【0055】
725において、方法700は、MBLDCCマスクをx−y平面全体を通してTSに適用するステップを含むことができる。726において、方法700は、マスクの下のTS内のブロックを分離するステップを含むことができる。727において、方法700は、各ブロックのDCレベルを調整するステップを含むことができる。728において、方法700は、記録されたマスクを処理するステップを含むことができる。所与のyの値に対してMBLDCCを適用する方法は、本明細書において、および、図8に関してさらに説明される。
・・・
【0057】
図8は、本発明の一実施形態による、所与のスライスに沿ってマスクを適用する例示的な方法800を示す高レベル流れ図である。特に、方法800は、所定のyの値に対して方法700に従ってスラブのDCレベルを補正することに関する。
・・・
【0063】
835において、方法800は、各ブロックのDCレベルまたはゼロ周波数成分を調整するステップを含むことができる。スラブ境界に接触するブロックがある場合、このブロックのDC成分は、RSのDC成分によって調整することができる。」

(ウ)「















(エ)「






(オ)上記(ア)・(イ)で摘記した【0037】や【0050】の記載から、本願発明における「コントラスト」についての「正規化」とは、各サブボリュームのゼロ周波数成分を基準サブボリュームのゼロ周波数成分と一致させることを指すか、該指す場合を少なくとも含むと理解される。

エ また、構成Dや明細書の「DC成分」または「DC値」については、本願明細書中にその定義について特段の説明はないが、上記(3)ア(イ)〜(エ)で説示したとおり、本願明細書中で「ゼロ周波数成分」と並列的に記載され、「DC」が直流を意味する用語であることから、画像データの全体または一部の平均濃度(画素値平均)値などを含む、直流成分、すなわち非波動成分を意味すると理解される。

オ また、【0050】〜【0063】の個々の工程については何れも「・・・してもよい。」と任意選択的に記載される中、同【0052】・【0063】の記載から、本願発明におけるコントラストの正規化についての処理が、ある基準スラブ(RS)に隣接するスラブ(TS)について、RSとのスラブ境界に接触するブロックのDC成分は、RSのDC成分によって調整する処理である場合を少なくとも含むといえる。

カ 上記エから、構成cの「代表画素値」は、「ROIの幅方向における複数の画素値」の「平均値」すなわち非波動成分であるから、構成Dの「DC成分」に相当するといえる。
また、構成cにおける個々の「DA画像データ」について、全画素値の平均値(平均画素値)なるパラメータも観念できるが、このパラメータもDA画像データの非波動成分(直流成分)であるから、構成Dの「DC成分」に相当するといえる。

キ(ア)構成dの「補正関数算出回路が算出した前記補正関数を用いて前記DA画像データの各画素値の補正を行な」う工程は、具体的には構成c1・c2の特定事項により説明され、構成dの補正対象である「前記DA画像データ」は、構成c1・c2における「DA画像データn」に対応し、構成dの「前記DA画像データの各画素値」は構成c1・c2の式(1)又は式(X)における「Xn」に対応する。
(イ)構成dの「前記補正関数」は、構成c1で
「該補正関数は、各DA画像データの境界領域における代表画素値を一致させるためのものであり、DA画像データ間の画像濃度及びコントラストが異なるため、その境界領域における代表画素値に差異が発生し、例えばDA画像データ1の代表画素値d1と隣接したDA画像データ2の代表画素値a2、DA画像データ2の代表画素値d2と隣接したDA画像データ3の代表画素値a3等は略同一部位における代表画素値であり、DA画像データ間における画像濃度に変動が無い場合には同一の値を示すべきものであって、前記貼り合わせ部位におけるDA画像データn−1の代表画素値をdn−1、DA画像データnの代表画素値をan、DA画像データnにおける補正前の画素値をXnとすれば、DA画像データnの補正後の画素値Ynは
式(1): Yn=Xn+(dn-1−an)」
と表されるものとして、または、構成c2で
「代表画素値及び画素値プロフィールの勾配の連続性を持たせることによって画素値プロフィール、更にはDA画像データの境界領域における画素値を連続かつ滑らかに繋ぐために、DA画像データn−1の代表画素値dn−1における画素値プロフィールの勾配をGdn−1、又、DA画像データnの代表画素値anにおける画素値プロフィールの勾配をGanとすれば、補正関数(Xn,Yn)は、(an、dn−1)を通り、勾配がGdn−1/Ganの直線、すなわち、DA画像データnの補正後の画素値Ynは、
式(X):Yn={(Gdn−1/Gan)×(Xn−an)}+dn−1
となり、DA画像データnの補正後の画素値Ynを当該補正関数によって求めることができ」るもの、
として定義されている。

ク(ア)構成c1において、式(1)の補正関数による補正を適用すると、隣接するDA画像データ個々の、画像データ境界に接する画素群の各代表画素値の差「dn−1−an」だけ、DA画像データn側の全画素値がシフトされ、DA画像データの境界において、画素平均値である代表画素値の段差がなくなる。
よって、構成Dの「コントラスト」についての上記(3)ア〜ウのとおりの解釈によるなら、構成c1における当該補正の適用は、「各サブボリュームのゼロ周波数成分を正規化して基準サブボリュームのゼロ周波数成分と一致させること」に相当するといえるから、構成Dの「サブボリュームにわたって前記コントラストレベルを正規化する」ことに相当し、当該式(1)の補正関数は構成Dの「サブボリュームにわたって前記コントラストレベルを正規化するための画像補正アルゴリズム」に相当するといえる。

(イ)構成c2において、式(X)の補正関数による補正を適用すると、「補正関数(Xn,Yn)は、(an、dn−1)を通り、勾配がGdn−1/Ganの直線」であるから、隣接するDA画像データ個々の、画像データ境界に接する画素群の各代表画素値の差「dn−1−an」に応じて、DA画像データn側の全画素値がシフトされて、DA画像データの境界において、画素平均値である代表画素値の段差がなくなるとともに、隣接するDA画像データの境界において、隣接方向への代表画素値の変化率(傾き)が一致する、つまり、画素値の明暗変化の度合い(階調)が整合される。
よって、構成c2における当該補正の適用は、上記(ア)と同様、構成c1の補正と同様に、「各サブボリュームのゼロ周波数成分を正規化して基準サブボリュームのゼロ周波数成分と一致させること」に相当するといえるし、式(X)の補正関数は構成Dの「サブボリュームにわたって前記コントラストレベルを正規化するための画像補正アルゴリズム」に相当するといえる。
また、上記(3)エで説示したとおり、仮に、構成C・Dにおける「コントラスト」を上記(3)ア〜ウの解釈によらず、一般的なコントラストの解釈(例えば、「特に、テレビの画面や写真の、明暗のきわだち具合。」(精選版日本国語大辞典(2003))、「写真・テレビ画像などで、明るい部分と暗い部分との明暗の差。明暗比。」(デジタル大辞泉)など参照。)である、明暗差や明暗比と解したとしても、「隣接方向への代表画素値の変化率(傾き)」は、画像データの明暗の変化度合いに外ならず、前記一般的なコントラストの解釈に相当するから、構成c2における式(X)による補正は、「隣接方向への代表画素値の変化率(傾き)が一致する」ような補正である点で、「サブボリュームにわたって前記コントラストレベルを正規化するための画像補正アルゴリズム」に相当するといえる。

ケ 構成dの「前記DA画像データの各画素値の補正を行ない」における「前記DA画像データ」は、構成c1・c2における補正対象であるDA画像データnにあたる。
よって、構成dの「前記DA画像データ」は、構成Dの「DC成分の調整が必要であるオブジェクト」に相当するといえる。

コ 構成dにおける「前記補正関数を用いて前記DA画像データの各画素値の補正を行な」うことは、構成c1・c2によれば「DA画像データnの補正後の画素値Yn」を求めることであり、ここでの「画素値Yn」はDA画像データnの全画素値であるから、一つの補正関数である式(1)または式(X)による補正は、一つのDA画像データn単位に順次行われているといえる。
このことから、構成dのDA画像データごとの「前記補正関数」は、構成Dの「マスク」に相当し、構成dの「補正」が前記のとおり「一つの補正関数である式(1)または式(X)による補正は、一つのDA画像データn単位に順次行われている」といえることは、補正関数をDA画像データ単位で順次隣接DA画像データへ移動させていることに外ならないから、構成Dの「マスクを移動させる」ことに相当する。
以上からまた、構成dで「補正関数算出回路が算出した前記補正関数を用いて前記DA画像データの各画素値の補正を行」うことは、総合して、構成Dの「マスクベース補正」に相当する。

サ(ア)請求人は審判請求書(4)(b2)において、
a 「引用文献1では、各々のDA画像データの体軸方向における画素値プロフィールに基づいてDA画像データの画素値を補正することにより画素値やコントラストの連続性に優れた長尺画像データを生成することが開示されております。」、
b 「引用文献1は、各DA画像データの画素値プロフィールに基づいて、隣接するDA画像データの境界領域におけるコントラストを一致させることは行っております」、
と主張している。
(イ)上記(ア)の主張は、必ずしも論旨が明確ではないものの、「コントラスト」についての上記(3)エの解釈を前提としたものとも解されるが、上記(ア)bの主張は、上記イ(ウ)における、本願発明に対する引用発明の相当性についての当審の認定を支持するものといえる。

(5)構成eで、最終的に「画素値補正後の長尺画像データ」を「ダイナミックレンジ圧縮」等の処理を経て「モニタに表示する」ことは、構成Eの「補正画像データを表示する」ことに相当する。

2 一致点・相違点

2−1 本願発明の「サブボリューム」が「Cアーム血管造影法」など2次元のX線透視撮像法による単層の画像データを含むと解される場合

構成Bの「サブボリューム」が上記1(2)カ・キで説示したとおり、「Cアーム血管造影法」など2次元のX線透視撮像法による単層の画像データを含むと解される場合については以下のとおりである。

(1)一致点1
「A 医用イメージング手順のワークフロー方法であって、
B イメージングデバイスから画像データをコンピュータに受信するステップであって、前記画像データは複数の異なる画像取得時間に対応するサブボリュームを含む、受信するステップと、
C’ 前記サブボリュームのコントラストレベルに基づいて、前記画像データがコントラスト・バンディング・アーチファクトを含むか否かによって、
D 前記サブボリュームにわたって前記コントラストレベルを正規化するための画像補正アルゴリズムを適用するステップであって、DC成分の調整が必要であるオブジェクトに対して、マスクを移動させることによりマスクベース補正が適用される、ステップと、
E 補正画像データを表示するステップとを含む、
F ワークフロー方法。」

(2)相違点1−1(構成C)
構成Cの「画像データがコントラスト・バンディング・アーチファクトを含むか否か」という場合分けについて、本願発明はそれを「決定する」ステップを含むのに対し、引用発明は、補正関数の計算を通じ、前記場合分けを実質的に行っているとはいえるものの、改めて当該場合分けの結果を「決定」する処理は行っていない点。

2−2 本願発明の「サブボリューム」がCT画像におけるスライスやスラブのみ指すと限定解釈される場合

本願発明の構成B等の「サブボリューム」について、仮に、例示的な実施例に開示される、X線CTやMRIなどのCT3次元再構成画像における2次元や3次元のスラブやボリューム、スライスのみを指すと解釈すべきであるならば、引用発明のDA画像データは、引用文献1中において、その【0008】に「Cアームあるいは天板を被検体の体軸方向に順次移動させながら複数の撮影位置においてDA画像データの収集を行ない、得られた複数枚のDA画像データを体軸方向に貼り合わせて長尺画像データを生成する方法」と記載されるとおり、X線透視撮影による2次元画像(人体等撮影対象の厚み方向の投影画像)である場合についてのみ開示されている。
そうすると、構成Bの「サブボリューム」が、上記1(2)カ・キで説示したものとは異なり、本願明細書に例として説明される実施例において、例えば【0034】に「別々の時間に取得された複数のデータセットから画像再構成中に形成された複数のサブボリューム」と記載されるように、CTの再構成画像におけるスライスやスラブなどのみ指すと限定解釈される場合については、構成bの「DA画像データ」と、構成Bの「サブボリューム」とは、共に単層の画像データである点で共通するにとどまるから、本願発明と引用発明との一致点は、下記(1)(一致点2)のとおりとなり、相違点は、(2)のとおり、上記相違点1−1と共通する相違点2−1のほか、下記相違点2−2で追加的に相違することになる。

(1)一致点2
「A 医用イメージング手順のワークフロー方法であって、
B’ イメージングデバイスから画像データをコンピュータに受信するステップであって、前記画像データは複数の異なる画像取得時間に対応する単層の画像データを含む、受信するステップと、
C’ 前記単層の画像データのコントラストレベルに基づいて、前記画像データがコントラスト・バンディング・アーチファクトを含むか否かによって、
D’ 前記単層の画像データにわたって前記コントラストレベルを正規化するための画像補正アルゴリズムを適用するステップであって、DC成分の調整が必要であるオブジェクトに対して、マスクを移動させることによりマスクベース補正が適用される、ステップと、
E 補正画像データを表示するステップとを含む、
F ワークフロー方法。」

(2)相違点

ア 相違点2−1
構成Cの「画像データがコントラスト・バンディング・アーチファクトを含むか否か」という場合分けについて、本願発明はそれを「決定する」ステップを含むのに対し、引用発明は、補正関数の計算を通じ、前記場合分けを実質的に行っているとはいえるものの、改めて当該場合分けの結果を「決定」する処理は行っていない点。

イ 相違点2−2
本願発明の受信や処理の対象がCT画像における3次元のサブボリュームであるのに対し、引用発明では、透視撮影による2次元画像である点。

3 判断

(1)相違点1−1・2−1について

ア 本願発明は、「前記画像データがコントラスト・バンディング・アーチファクトを含むか否かを決定するステップ」の処理結果、すなわち該「決定」の結果を、後続のステップにおいて特段明示的に利用はしていない。
そうすると、本願発明において、「前記画像データがコントラスト・バンディング・アーチファクトを含むか否か」との判断結果を殊更「決定」する、すなわち、該判断結果を一旦何らかの形であらわにすることは、特段の目的や作用効果に裏付けられたものとはいえず、特段の技術的意義を伴わない設計上の事項にすぎないといえる。

イ(ア)引用発明では、構成c1の補正関数(式(1))を各DA画像データに適用することで、上記差値が補正関数の演算を通じ計算され、該差値が0であれば適用先のDA画像データは結果的に補正されず、単に変数Xnが変数Ynに転写されるのみであり、該差値が0でなければ適用先のDA画像データが補正されるという処理分岐が結果的に行われているといえ、式(1)の演算において前記差値を計算することが、本願発明の「前記画像データがコントラスト・バンディング・アーチファクトを含むか否かを決定する」ことに実質的に相当するといえる。
(イ)また、引用発明では、構成c2の補正関数(式(X))を各DA画像データに適用することで、該補正関数の演算を通じ、(dn-1=an)(上記差値が0と等価)及び(Gdn−1/Gan=1)であれば、適用先のDA画像データは結果的に補正されず、単に変数Xnが変数Ynに転写されるのみであり、逆に(dn-1≠an)(上記差値が0でないことと等価)及び(Gdn−1/Gan≠1)であれば、適用先のDA画像データが補正されるという処理分岐が結果的に行われているといえ、式(X)の演算において前記差値を計算することが、本願発明の「前記画像データがコントラスト・バンディング・アーチファクトを含むか否かを決定する」ことに実質的に相当するといえる。
(ウ)また、仮に前記のとおり実質的に相当するとまでいえないとしても、引用発明において、式(1)・式(X)の計算を行うにあたり、(dn-1=an)であるか否か(及び(Gdn−1/Gan=1)であるか否か)を一旦計算(確認)して、その結果に応じて、例えばフラグを立てるなど何らかの判定・決定するステップを挟むか否かは、演算処理のステップを考慮しても、結果において変わりはなく(むしろ一旦判定・決定した方が処理ステップ数が多くなって、手順の冗長化を招来する可能性がある)、必要に応じて当業者が適宜選択すべき演算手順に関する設計上の事項、または演算手順の作用効果を伴わない単なる冗長化にすぎないといえる。

ウ 以上のとおりであるから、相違点1−1・2−1は実質的なものではないか、実質的なものであるとしても、引用発明において当業者が適宜選択すべき設計上の事項にすぎず、引用発明において相違点1−1・2−1の構成とすることは、当業者が容易になし得たことである。

(2)相違点2−2について

ア(ア)本願発明は、上記第2の2に摘記したとおり、本願明細書【0010】に「本技法に従って処理された画像を取得するために使用され得るコンピュータ断層撮影(CT)イメージングシステムの一例が、図1および図2に提示されている。CTシステムが例として説明されているが、本技法は、トモシンセシス、MRI、PET、SPECT、Cアーム血管造影法、マンモグラフィ超音波などのような他の画像診断法を使用して取得される画像に適用されるときにも有用であり得る。」と説明されるとおり、少なくとも「Cアーム血管造影法」なる、引用発明の「DA画像」と同様の2次元のX線透視撮像法により得られた画像データへの応用や適用が可能なものとして位置づけられるものである。
(イ)そして、本願発明がCTの3次元画像に適用された場合であっても、「サブボリューム」が3次元画像の2次元領域(単層領域)を指して慣用的に用いられることについては、上記1(2)カに例示したとおりであるから、「サブボリューム」が3次元画像データのうちの単層(2次元)についての画像データである場合は排除されていない。

イ(ア)一方、引用発明のDA画像データも、人体を対象とする透視画像であるから、得られる2次元画像は、人体の厚み分のX線透過率情報を持つ、厚みのある単層のボリュームを構成するといえる。
(イ)また、引用発明の、式(1)による隣接画像データ間での画像濃度補正方法は、3次元画像セットから抽出されたある単層の2次元データについてもそのまま適用可能であることは、当業者にとって明らかである。

ウ(ア)また、例えば、本願優先日前に公知となった特開2004−313655号公報には次の記載がある。
「【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、対象物に対する放射線の投影データから対象物の断層像を計算する放射線計算断層画像装置(以下、放射線CT(Computed Topography)装置)、および、断層画像生成方法に関する。
・・・
【0003】
多列検出器を用いた断層像再構成手法として、コーンBP(Back Projection)法が知られている(たとえば、特許文献1参照。)。
多列検出器を有するX線CT装置においてコーンBP法を適用する場合には、たとえば、上述の軸に直交する断面が扇形のコーン状のX線を放射しながら、多列検出器を軸まわりに1回転させる。そして、被検体を通過したX線を多列検出器により検出して被検体の被検部位をスキャンする。1回のスキャン終了後、多列検出器を軸方向に所定ピッチずらして、次のスキャンを行なう。このようなスキャン手法は、アキシャル(axial)スキャンと呼ばれる。X線検出器の列が軸方向に複数存在するため、X線検出器の列の数に応じて、1回のスキャンによって被検体の断層像を複数枚得ることができる。
コーンBP法においては、あるX線検出器の列に対応する断層像を生成する場合に、対象とするX線検出器の列によって得た検出データだけでなく、断層像に対応する被検部位を通過し他のX線検出器の列によって検出されたX線の検出データも利用する。このように画像生成のためのデータが増えることによって、断層像の画質をある程度向上させることができる。
・・・
【0006】
また、従来のコーンBP法では、被検体の軸まわりの1回のスキャンによって得られた検出データのみを用いて断層像を生成する。このため、アキシャルスキャンを行なう場合に、軸方向のある位置におけるスキャンによって得られた断層像と、他の位置における他のスキャンによって得られた断層像との間ではデータの連続性が悪い。データの連続性が悪いと、コーンBP法によって得られた軸方向に直交する複数の断層像を用いた断面変換により得られる他の断層像の画質に悪影響が及ぶ等の不利益が発生する。不利益の例として、断面変換により得られるMPR(Multi Plain Reformation)画像が十分に滑らかではなく、スキャンとスキャンとの境界に相当する部分において縞状のアーチファクト(artifact)が発生することが挙げられる。」
(イ)上記(ア)の記載事実からも裏付けられるとおり、X線CTにおける3次元画像においても、特にコーンビームによるスキャンを用いた場合などに、スキャンタイミングの異なる複数枚の断層像群の間で、データの連続性の悪さから縞状のアーチファクトが発生することは周知であるから、3次元(再構成)X線画像から抽出された画像データにおいても、引用発明と同様な課題が存在するといえ、引用発明を3次元(再構成)画像における画像データに適用する動機は存在するといえる。

エ 以上のとおりであるから、仮に本願発明の対象がCT画像など再構成された3次元の医用画像データ由来の画像データに限られるとしても、引用発明の、単層のX線画像データを対象とするX線画像生成方法を、前記CT等による3次元の医用画像データのうちの各単層のサブボリュームに対し適用して相違点2−2の構成とすることは、当業者であれば容易に想到し得たことであるといえる。

(3)小括
以上のとおりであるから、相違点2−2を考慮したとしても、本願発明は引用発明に基づいて当業者が容易に想到し得たものである。

4 請求人の主張について

(1)請求人は審判請求書において、本願発明(請求項11に係る発明)が進歩性を有することについて、おおむね次の主張(以下「主張1」という。)をしている。

(主張1)本願発明のワークフロー方法では、「前記画像データは複数の異なる画像取得時間に対応するサブボリュームを含」み、さらに、当該ワークフロー方法は、「前記サブボリュームのコントラストレベルに基づいて、前記画像データがコントラスト・バンディング・アーチファクトを含むか否かを決定するステップ」を含んでいるのに対し、この点については、引用文献1−6には開示されていない。
例えば引用文献1では、各々のDA画像データの体軸方向における画素値プロフィールに基づいてDA画像データの画素値を補正することにより画素値やコントラストの連続性に優れた長尺画像データを生成することが開示されている。したがって、引用文献1は、各DA画像データの画素値プロフィールに基づいて、隣接するDA画像データの境界領域におけるコントラストを一致させることは行っているが、各DA画像データの画素値プロフィールに基づいて、長尺画像データがアーチファクトを含むか否かを決定しているわけではない。

(2)主張1についての検討
上記主張1は、上記相違点1に関するものであり、相違点1が実質的なものではないこと、仮に実質的な相違点であるとしても、引用発明において相違点1の構成を備えるようにすることが当業者にとって容易になし得たことは、上記3(1)で説示したとおりである。
よって、上記主張1は上記3の判断を左右するものではない。

第6 むすび
以上のとおり、本願発明(請求項11に係る発明)は、引用発明及び周知技術に基づいて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。



 
別掲 (行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この審決に対する訴えは、この審決の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、特許庁長官を被告として、提起することができます。

審判長 福島 浩司
出訴期間として在外者に対し90日を附加する。
 
審理終結日 2022-01-05 
結審通知日 2022-01-12 
審決日 2022-01-28 
出願番号 P2017-521544
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A61B)
最終処分 02   不成立
特許庁審判長 福島 浩司
特許庁審判官 蔵田 真彦
樋口 宗彦
発明の名称 複数回の取得にわたってコントラストを正規化するための方法およびシステム  
代理人 澤木 亮一  
代理人 小倉 博  

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