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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 F16F
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F16F
管理番号 1385930
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2022-07-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2021-07-09 
確定日 2022-06-23 
事件の表示 特願2017− 26072「免震機構」拒絶査定不服審判事件〔平成30年 8月23日出願公開、特開2018−132123〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成29年2月15日の出願であって、令和2年10月7日付けで拒絶理由が通知され、同年12月11日に意見書が提出されたが、令和3年4月21日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年7月9日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正書が提出されたものである。

第2 令和3年7月9日付けの手続補正についての補正却下の決定
〔補正却下の決定の結論〕
令和3年7月9日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

〔理由〕
1.本件補正の内容
(1)本件補正後の請求項1の記載
本件補正により補正された特許請求の範囲の請求項1の記載は次のとおりである。
なお、下線部は補正箇所を示す。
「【請求項1】
水平方向に相対変位可能な下部構造体と上部構造体との間に設けられる免震機構において、
前記下部構造体の上部に設けられ、一の水平方向に沿って下側に凸となるV字形状に傾斜した平面状の下部摺動面を有する下部案内部と、
前記上部構造体の底部に設けられ、前記一の水平方向に直交する他の水平方向に沿って上側に凸となる逆V字形状に傾斜した平面状の上部摺動面を有する上部案内部と、
前記下部摺動面と前記上部摺動面との間に配置され、前記下部摺動面に沿って前記下部案内部と前記一の水平方向に相対変位可能であるともに、前記上部摺動面に沿って前記上部案内部と前記他の水平方向に相対変位可能であり、前記下部摺動面および前記上部摺動面の少なくとも一方に沿って摺動する摺動子と、を有し、
前記摺動子は、前記下部摺動面を摺動可能な下部摺動部と、前記下部摺動部の上側に配置されて前記上部摺動面を摺動可能な上部摺動部と、前記下部摺動部と前記上部摺動部との間に配置され、下端が前記下部摺動部とともに前記下部摺動面に沿った方向に変位するとともに上端が前記上部摺動部とともに前記上部摺動面に沿った方向に変位しつつ、水平面内でせん断変形して前記下部摺動部と前記上部摺動部とを水平各方向に相対移動可能に支持する積層ゴムと、を有し、
前記下部構造体と前記上部構造体とが水平方向に相対変位すると、該相対変位に追従して前記積層ゴムが水平方向に変形し、前記積層ゴムの原位置に対する水平変位が所定の水平変位設定値δBを超えた後に、前記摺動子が前記下部摺動面および前記上部摺動面の少なくとも一方で摺動することを特徴とする免震機構。」

(2)本件補正前の請求項1の記載
本件補正前の、本願の願書に最初に添付した特許請求の範囲の請求項1の記載は次のとおりである。
「【請求項1】
水平方向に相対変位可能な下部構造体と上部構造体との間に設けられる免震機構において、
前記下部構造体の上部に設けられ、一の水平方向に沿って下側に凸となるV字形状に傾斜した平面状の下部摺動面を有する下部案内部と、
前記上部構造体の底部に設けられ、前記一の水平方向に直交する他の水平方向に沿って上側に凸となる逆V字形状に傾斜した平面状の上部摺動面を有する上部案内部と、
前記下部摺動面と前記上部摺動面との間に配置され、前記下部摺動面に沿って前記下部案内部と前記一の水平方向に相対変位可能であるともに、前記上部摺動面に沿って前記上部案内部と前記他の水平方向に相対変位可能な摺動子と、を有し、
前記摺動子は、前記下部摺動面を摺動可能な下部摺動部と、前記下部摺動部の上側に配置されて前記上部摺動面を摺動可能な上部摺動部と、前記下部摺動部と前記上部摺動部との間に配置され前記下部摺動部と前記上部摺動部とを水平方向に相対移動可能に支持する積層ゴムと、を有し、
前記下部構造体と前記上部構造体とが水平方向に相対変位すると、該相対変位に追従して前記積層ゴムが水平方向に変形し、前記積層ゴムの原位置に対する水平変位が所定の水平変位設定値δBを超えた後に、前記摺動子が前記下部摺動面および前記上部摺動面の少なくとも一方で摺動することを特徴とする免震機構。」

2.補正の目的の適否及び新規事項の追加の有無について
本件補正は、補正前の請求項1に係る発明の「摺動子」に関して、「前記下部摺動面および前記上部摺動面の少なくとも一方に沿って摺動する」と限定し、同じく「積層ゴム」に関し、「下端が前記下部摺動部とともに前記下部摺動面に沿った方向に変位するとともに上端が前記上部摺動部とともに前記上部摺動面に沿った方向に変位しつつ、水平面内でせん断変形して前記下部摺動部と前記上部摺動部とを水平各方向に相対移動可能に支持する」と特定し、積層ゴムの変位する方向を限定するものであり、補正の前後において発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とする補正に該当する。
また、本件補正により付加された事項は、願書に最初に添付した明細書の段落【0028】、【0029】及び【図3】、【図4】の記載から導かれる事項であり、特許法第17条の2第3項の規定に適合するとともに、同条第4項の規定に違反するところはない。

3.独立特許要件について
上記のとおり、本件補正の請求項1に関する補正は、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とする補正であるところ、本件補正後の請求項1に係る発明(以下、「本願補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか)について、以下検討する。
(1)本願補正発明
本願補正発明は、上記1.(1)に記載したとおりのものと認める。

(2)引用文献1に記載された事項及び引用発明
原査定の拒絶の理由で「引用文献1」として引用され、本願の出願前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった特開2013−130216号公報(以下、「引用文献1」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。
なお、下線は当審で付したものである。

「【請求項1】
免震対象の上部構造体を下部構造体に対して水平各方向に滑動自在に支持するための滑り免震機構であって、
前記上部構造体の底部に固定される上部案内部材と、前記下部構造体の上部に固定される下部案内部材と、前記上部案内部材および前記下部案内部材の間に介装される摺動子からなり、
前記摺動子は、前記上部案内部材に対して水平一方向にのみ摺動可能に保持されているとともに前記下部案内部材に対して前記水平一方向と直交する水平他方向にのみ摺動可能に保持され、
かつ、前記摺動子と前記上部案内部材との摺動面は前記水平一方向に沿ってΛ形に緩慢に傾斜する上部傾斜面とされているとともに、前記摺動子と前記下部案内部材との摺動面は前記水平他方向に沿ってV形に緩慢に傾斜する下部傾斜面とされていることを特徴とする滑り免震機構。」

「【0001】
本発明は、建物や精密機器等を対象とする免震構造に関連し、特に免震対象の上部構造体をそれを支持する下部構造体上に滑動自在に支持するための滑り免震機構に関する。」

「【0016】
本発明の滑り免震機構の実施形態を図1〜図2を参照して説明する。
本実施形態の滑り免震機構は、免震対象物である上部構造体11をその支持構造物である下部構造体12に対して水平各方向に滑動自在に支持するためのもので、上部構造体11の底部に固定される上部案内部材13と、下部構造体12の上部に固定される下部案内部材14と、それら上部案内部材13および下部案内部材14の間に介装される摺動子15からなり、摺動子15を上部案内部材13に対して水平一方向(図ではX−X方向として示す)にのみ摺動可能に保持するとともに、下部案内部材14に対してはその方向とは直交する水平他方向(図ではY−Y方向として示す)にのみ摺動可能に保持する構成としたことを主眼とする。
【0017】
具体的には、図1(b)に示すように、上部案内部材13および下部案内部材14はいずれも断面矩形の横長のブロック状をなす同一形状、同一寸法の部材であって、長さ方向が互いに直交する向きとされて上下方向に間隔をおいた状態で対向配置され、その状態で図2(b),(c)に示すように上部構造体11の底部と下部構造体12の上部に対してそれぞれ固定されるものである。
【0018】
それら上部案内部材13と下部案内部材14の対向面側(すなわち上部案内部材13の下面側および上部案内部材14の上面側)には、それぞれの長さ方向に沿う溝が形成されているとともに、それらの溝の深さは中央部から両側に向かって漸次浅くなるようにされており、したがって溝の底面は緩慢なV形に傾斜する傾斜面とされている。
そして、上部案内部材13は溝が下向きとなる状態でX−X方向に沿う向きで上部構造体11の底部に固定されることにより、この上部案内部材13に形成されている溝の底面はX−X方向に沿ってΛ形に緩慢に傾斜する下向きの上部傾斜面16となっている。
一方、下部案内部材14は溝が上向きとなる状態でY−Y方向に沿う向きで下部構造体12の上部に固定されることにより、この下部案内部材14に形成されている溝の底面はY−Y方向に沿ってV形に緩慢に傾斜する上向きの下部傾斜面17となっている。
なお、後述するように上部傾斜面16および下部傾斜面17の傾斜角θは十分に小さいものであるが、図では傾斜角θを大きく誇張して示している。
【0019】
摺動子15は、上部案内部材13と下部案内部材14の双方の溝内に同時に配置可能な正方形状の部材であって、図1に示すようにその上面が上部傾斜面16に対応して緩慢なΛ形に傾斜する上向きの傾斜面とされ、下面が下部傾斜面17に対応して緩慢なV形に傾斜する下向きの傾斜面とされている。このような摺動子15は、図1(a)に示すように同一形状、同一寸法とした2部材の一方を反転させて向きを90°変えた状態で双方を重ね合わせて一体化することで容易に製作することができる。
そして、この摺動子15は上面および下面の傾斜面がそれぞれ上部傾斜面16および下部傾斜面17に密着した状態で双方の溝内に保持されて、上部案内部材13に対してはX−X方向にのみ摺動可能とされ、下部案内部材14に対してはY−Y方向にのみ摺動可能とされ、それ以外の方向への変位や摺動は拘束されるようになっている。
したがって、上部構造体11と下部構造体12との間で任意の水平方向への相対変位が生じた際には、摺動子15は上部傾斜面16に対してX−X方向に相対変位しつつ下部傾斜面17に対してY−Y方向に相対変位し、これにより上部構造体11と下部構造体12との間で生じる水平各方向(全方向)への相対変位に追随して変位し得るものとなっている。」

【図1】



【図2】


【図3】



図2及び図3から、上部傾斜面16、下部傾斜面17は平面状であると看取しうる。

以上の記載事項からみて、引用文献1には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
〔引用発明〕
「免震対象の上部構造体11を下部構造体12に対して水平各方向に滑動自在に支持するための滑り免震機構であって、
前記上部構造体11の底部に固定される上部案内部材13と、
前記下部構造体12の上部に固定される下部案内部材14と、
前記上部案内部材13および前記下部案内部材14の間に介装される摺動子15からなり、
前記摺動子15は、前記上部案内部材13に対して水平一方向にのみ摺動可能に保持されているとともに前記下部案内部材14に対して前記水平一方向と直交する水平他方向にのみ摺動可能に保持され、
前記上部案内部材13の前記摺動子15との摺動面は前記水平一方向に沿ってΛ形に緩慢に傾斜する平面状の上部傾斜面16とされているとともに、
前記下部案内部材14の前記摺動子15との摺動面は前記水平他方向に沿ってV形に緩慢に傾斜する平面状の下部傾斜面17とされ、
前記摺動子15は、上面が上部傾斜面16に対応して緩慢なΛ形に傾斜する上向きの傾斜面とされ、下面が下部傾斜面17に対応して緩慢なV形に傾斜する下向きの傾斜面とされ、同一形状、同一寸法とした2部材の一方を反転させて向きを90°変えた状態で双方を重ね合わせて一体化することで製作され、
前記上部構造体11と前記下部構造体12との間で任意の水平方向への相対変位が生じた際には、前記摺動子15は前記上部傾斜面16に対して水平一方向に相対変位しつつ前記下部傾斜面17に対して水平他方向に相対変位する、
滑り免震機構。」

(3)引用文献2に記載された事項
原査定の拒絶の理由で「引用文献2」として引用され、本願の出願前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった特開2002−39266号公報(以下、「引用文献2」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。

「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、例えば、土木、建築及び機械構造物の分野において、地震や台風などの動的荷重を受けて振動する構造体の鉛直荷重を支える免震装置に係り、特に、上部構造体と下部構造体との間に介装される滑り支承ユニットによる免震装置に関する。
【0002】
【従来の技術】地震等の振動を受けて滑り支承ユニットが介装される上下構造体間に変位を生じた場合や、残留変位が残った場合などにおいて、例えば、上部構造体としての柱に偏芯が生じることを避けるために、中小地震では、まず、柱を支承する下部構造体としての基礎コンクリート側の弾性支承体の摺接面を最初に滑らすことにより、上下の復元力を変える必要がある。
【0003】一方、滑り支承ユニット全体としての安定性を向上させるためには、上下構造体を支承する弾性支承体の摺接面の面積が大きい方がよいが、反面、面圧を低下させると、通常の弾性支承体の摺接面を形成する摺動部材では、摩擦係数が増大する傾向がある。ところが、弾性支承体の摺接面の面積を増やしても、摩擦係数を上げたくない場合もある。」

「【0017】図1は、本発明に係る免震装置の建築構造物への介装状態を示す。この免震装置は、上部構造体100と下部構造体200との間に介装される。上部構造体100は、鋼管柱部材101と、この鋼管柱部材101にダイアフラム102を介して接合されるH形鋼梁部材103とからなっている。一方、下部構造体200は、基礎コンクリート201からなっている。
【0018】図2は、本発明に係る免震装置を構成する両面滑り支承ユニットの一実施形態を示す。
【0019】この両面滑り支承ユニット1は、上部構造体100を形成するH形鋼梁部材103の下面側フランジにベースプレート104を介して接合ボルト105にて固定される上部受け部材2と、この上部受け部材2に対向させて下部構造体200を形成する基礎コンクリート201に埋設されたアンカーボルト202を介して締結ナット203にて固定される下部受け部材3と、これら上下両受け部材2,3の互いの対向面に添設される滑り板4A,4Bと、これら滑り板4A,4Bを介して上下両受け部材2,3間に介装される円柱状の弾性支承体5と、弾性支承体5の上下両面に一部埋設状態で添設されて滑り板4A,4Bに対する摺接面を形成する円板状の摺動部材6A,6Bとからなる構成を基本的形態とする。」

「【0038】図4及び図5は、本発明に係る免震装置の第2変形例を示す。この第2変形例では、図2に示す両面滑り支承ユニット1の実施形態において、図4に示すように、弾性支承体5の上下中間部位に鋼板11がゴム層12,12間にサンドイッチされた積層ゴム層10を介装してなる構成を有する。そして、下部受け部材3側のストッパ部材8は、弾性支承体5の中間部位に介装された積層ゴム層10を包括する高さTに設定されている。
【0039】これにより、図5に示すように、地震時に水平荷重が弾性支承体5の摺接面の摩擦力に達するまでは、積層ゴム層10が剪断変形をする。このため、上述した弾性支承体5のみの場合に比べて、上部構造体100の挙動が滑らかになる。しかも、上部構造体100の応答加速度を低減させることが可能になり、居住性の向上が図れる。」

(4)対比・判断
ア 対比
本願補正発明と引用発明とを対比する。
後者の「下部構造体12」、「上部構造体11」は、前者の「下部構造体」、「上部構造体」にそれぞれ相当するとともに、後者の「下部構造体12」、「上部構造体11」は、両者の「間で任意の水平方向への相対変位が生じ」るものであるので、前者の「水平方向に相対変位可能な下部構造体と上部構造体」に相当する。
後者の「免震対象の上部構造体11を下部構造体12に対して水平各方向に滑動自在に支持するための滑り免震機構」は、前者の「下部構造体と上部構造体との間に設けられる免震機構」に相当する。
後者の「水平一方向と直交する水平他方向」、「水平一方向」は、前者の「一の水平方向」、「一の水平方向に直交する他の水平方向」にそれぞれ相当する。
後者の「下部構造体12の上部に固定される」ことは、前者の「下部構造体の上部に設けられ」ることに相当する。
後者の「水平他方向に沿ってV形に緩慢に傾斜する」ことは、前者の「一の水平方向に沿って下側に凸となるV字形状に傾斜した」ことに相当し、後者の「平面状の下部傾斜面17」は、摺動子15との摺動面であるので、前者の「平面状の下部摺動面」に相当する。
後者の「下部案内部材14」は、下部構造体12の上部に固定され、下部傾斜面17を備えるので、前者の下部構造体の上部に設けられ、下部摺動面を有する「下部案内部」に相当する。
後者の「上部構造体11の底部に固定される」ことは、前者の「上部構造体の底部に設けられ」ることに相当する。
後者の「水平一方向に沿ってΛ形に緩慢に傾斜する」ことは、前者の「一の水平方向に直交する他の水平方向に沿って上側に凸となる逆V字形状に傾斜した」ことに相当し、後者の「平面状の上部傾斜面16」は、摺動子15との摺動面であるので、前者の「平面状の上部摺動面」に相当する。
後者の「上部案内部材13」は、上部構造体11の底部に固定され、上部傾斜面16を備えるので、前者の上部構造体の底部に設けられ、上部摺動面を有する「上部案内部」に相当する。
後者の「摺動子15」は、上部案内部材13の上部傾斜面16と下部案内部材14の下部傾斜面17とにそれぞれ摺動するものであるので、後者の「上部案内部材13および下部案内部材14の間に介装される摺動子15」は、前者の「下部摺動面と上部摺動面との間に配置され」た「摺動子」に相当する。
後者の「摺動子15は」「下部傾斜面17に対して水平他方向に相対変位する」ことは、前者の摺動子が「下部摺動面に沿って下部案内部と一の水平方向に相対変位可能である」ことに相当する。
後者の「摺動子15は上部傾斜面16に対して水平一方向に相対変位」することは、前者の摺動子が「上部摺動面に沿って前記上部案内部と前記他の水平方向に相対変位可能であ」ることに相当する。
後者の「摺動子15は、上部案内部材13に対して水平一方向にのみ摺動可能に保持されているとともに下部案内部材14に対して水平一方向と直交する水平他方向にのみ摺動可能に保持され」ることは、摺動子15が上部案内部材13の上部傾斜面16及び下部案内部材17の下部傾斜面17に対して摺動するものであるので、前者の摺動子が「下部摺動面および上部摺動面の少なくとも一方に沿って摺動する」ことに相当する。
後者の「摺動子15は、上面が上部傾斜面16に対応して緩慢なΛ形に傾斜する上向きの傾斜面とされ、下面が下部傾斜面17に対応して緩慢なV形に傾斜する下向きの傾斜面とされ、同一形状、同一寸法とした2部材の一方を反転させて向きを90°変えた状態で双方を重ね合わせて一体化」されたものであることは、摺動子15が上向きの傾斜面を有した上側の部材と下向きの傾斜面を有した下側の部材とからなることであるので、前者の「摺動子は、下部摺動面を摺動可能な下部摺動部と、下部摺動部の上側に配置されて上部摺動面を摺動可能な上部摺動部と、」「を有」することに相当する。
そうすると、両者は、
「水平方向に相対変位可能な下部構造体と上部構造体との間に設けられる免震機構において、
前記下部構造体の上部に設けられ、一の水平方向に沿って下側に凸となるV字形状に傾斜した平面状の下部摺動面を有する下部案内部と、
前記上部構造体の底部に設けられ、前記一の水平方向に直交する他の水平方向に沿って上側に凸となる逆V字形状に傾斜した平面状の上部摺動面を有する上部案内部と、
前記下部摺動面と前記上部摺動面との間に配置され、前記下部摺動面に沿って前記下部案内部と前記一の水平方向に相対変位可能であるともに、前記上部摺動面に沿って前記上部案内部と前記他の水平方向に相対変位可能であり、前記下部摺動面および前記上部摺動面の少なくとも一方に沿って摺動する摺動子と、を有し、
前記摺動子は、前記下部摺動面を摺動可能な下部摺動部と、前記下部摺動部の上側に配置されて前記上部摺動面を摺動可能な上部摺動部と、を有した、
免震機構。」
である点で一致し、以下の点で相違する。
〔相違点〕
本願補正発明は、摺動子が「下部摺動部と上部摺動部との間に配置され、下端が下部摺動部とともに下部摺動面に沿った方向に変位するとともに上端が上部摺動部とともに上部摺動面に沿った方向に変位しつつ、水平面内でせん断変形して下部摺動部と上部摺動部とを水平各方向に相対移動可能に支持する積層ゴム」を有し、「下部構造体と上部構造体とが水平方向に相対変位すると、該相対変位に追従して積層ゴムが水平方向に変形し、積層ゴムの原位置に対する水平変位が所定の水平変位設定値δBを超えた後に、摺動子が下部摺動面および上部摺動面の少なくとも一方で摺動する」ものであるのに対して、引用発明は、摺動子15が積層ゴムを備えるものではない点。

イ 判断
上記相違点について以下検討する。
(ア)
引用文献2には、
上部構造体100に固定される上部受け部材2と、下部構造体200に固定される下部受け部材3と、上下両受け部材2,3の互いの対向面に添設される滑り板4A,4Bを介して上下両受け部材2,3間に介装される円柱状の弾性支承体5と、弾性支承体5の上下両面に添設されて滑り板4A,4Bに対する摺接面を形成する円板状の摺動部材6A,6Bとからなる両面滑り支承ユニット1において(上記(3)イ段落【0019】を参照。)、
弾性支承体5の上下中間部位に鋼板11がゴム層12,12間にサンドイッチされた積層ゴム層10を介装してなる構成を有することで(上記(3)ウ段落【0038】を参照。)、
地震時に水平荷重が弾性支承体5の摺接面の摩擦力に達するまでは、積層ゴム層10が剪断変形をするため、弾性支承体5のみの場合に比べて、上部構造体100の挙動が滑らかになり、しかも、上部構造体100の応答加速度を低減させることが可能になること(上記(3)ウ段落【0039】を参照。)、
が記載されている(以下、「引用文献2に記載の技術的事項」という。)。
引用文献2に記載の技術的事項の、弾性支承体5の上下中間部位に介装された積層ゴム層10は、本願補正発明の「下部摺動部と上部摺動部との間に配置され」た「積層ゴム」に相当し、引用文献2に記載の技術的事項の、地震時に水平荷重が弾性支承体5の摺接面の摩擦力に達するまでは、積層ゴム層10が剪断変形をすることは、本願補正発明の積層ゴムが「下端が下部摺動部とともに下部摺動面に沿った方向に変位するとともに上端が上部摺動部とともに上部摺動面に沿った方向に変位しつつ、水平面内でせん断変形して下部摺動部と上部摺動部とを水平各方向に相対移動可能に支持する」ことに相当するとともに、本願補正発明の「下部構造体と上部構造体とが水平方向に相対変位すると、該相対変位に追従して積層ゴムが水平方向に変形」することに相当する。
そして、引用文献2に記載の技術的事項の、地震時に水平荷重が弾性支承体5の摺接面の摩擦力に達するまでは、積層ゴム層10が剪断変形をすることは、地震時に上部構造物と下部構造物との間に両者を相対的に水平方向に変位させようとする水平荷重が加わったときに、水平荷重が小さく弾性支承体5の摺動部材6A,6Bと上部受け部材2及び下部受け部材3との間の最大静止摩擦力を超えないときには、積層ゴム層10を剪断変形させるに留まり、水平方向荷重が最大静止摩擦力を超えるときには、まず積層ゴム層10が剪断変形し、変形量が最大に達しそれ以上変形しなくなった段階で、摺動部材6A,6Bと上部受け部材2及び下部受け部材3の滑り板4A,4Bとの間で摺動を開始するものと認められる。そうすると、引用文献2に記載の当該技術的事項は、本願補正発明の「積層ゴムの原位置に対する水平変位が所定の水平変位設定値δBを超えた後に、摺動子が下部摺動面および上部摺動面の少なくとも一方で摺動する」構成を備えているといえる。
そうすると、相違点に係る本願補正発明の構成は、引用文献2に記載されているといえる。
(イ)
引用発明において、摺動子15の上向きの傾斜面と上部案内部材13の上部傾斜面16との間、及び、摺動子15の下向きの傾斜面と下部案内部材14の下部傾斜面17との間には、摩擦力が作用し、上部構造体11と下部構造体12とを水平方向に相対変位させようとする水平荷重が最大静止摩擦力を超えた瞬間に摺動子15が上部傾斜面16または下部傾斜面17に対して相対的な変位を開始するものであるから、上部構造体11が下部構造体12に対して急激に変位することは明らかである。そして、このような急激な変位、すなわち急加速度を緩和させることは「滑り免震機構」としての引用発明にとって課題であることは明らかである。
そうすると、引用文献2に記載の技術的事項は、引用発明と同じ「弾性支承体5のみの場合」に比べて、「上部構造体100の挙動が滑らかになり、しかも、上部構造体100の応答加速度を低減させることが可能になる」ものであるので、引用発明に、「上部構造体100の応答加速度を低減させることが可能」な引用文献2に記載の技術的事項を適用する動機付けはあるといえる。
(ウ)
以上のとおりであるので、引用発明の摺動子15に引用文献2に記載の技術的事項を適用し、相違点に係る本願補正発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことといえる。
そして、本願補正発明の奏する作用及び効果を検討しても、引用発明及び引用文献2に記載の技術的事項から予測できる程度のものであって格別のものではない。
よって、本願補正発明は、引用発明及び引用文献2に記載の技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(5)むすび
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1.本願発明
本件補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1及び2に係る発明は、願書に最初に添付した特許請求の範囲の請求項1及び2に記載されたとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、上記第2の1.(2)に記載されたとおりのものである。

2.原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、この出願の請求項1及び2に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された以下の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

引用文献1.特開2013−130216号公報
引用文献2.特開2002−39266号公報

3.引用文献に記載された事項及び引用発明
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1に記載された事項及び引用発明は、上記第2の3.(2)に記載したとおりであり、引用文献2に記載された事項及び引用文献2に記載の技術的事項は、上記第2の3.(3)及び3.(4)イ(ア)に記載したとおりである。

4.対比・判断
本願発明は、前記第2の2.で検討した本件補正発明から、摺動子に関する「前記下部摺動面および前記上部摺動面の少なくとも一方に沿って摺動する」との特定、及び、積層ゴムに関する「下端が前記下部摺動部とともに前記下部摺動面に沿った方向に変位するとともに上端が前記上部摺動部とともに前記上部摺動面に沿った方向に変位しつつ、水平面内でせん断変形して前記下部摺動部と前記上部摺動部とを水平各方向に相対移動可能に支持する」との限定事項を削除したものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、さらに他の事項を付加したものに相当する本願補正発明が、前記第2の3.(4)に記載したとおり、引用発明及び引用文献2に記載の技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、引用発明及び引用文献2に記載の技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。


 
別掲 (行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この審決に対する訴えは、この審決の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、特許庁長官を被告として、提起することができます。
 
審理終結日 2022-04-18 
結審通知日 2022-04-19 
審決日 2022-05-09 
出願番号 P2017-026072
審決分類 P 1 8・ 575- Z (F16F)
P 1 8・ 121- Z (F16F)
最終処分 02   不成立
特許庁審判長 間中 耕治
特許庁審判官 段 吉享
平田 信勝
発明の名称 免震機構  
代理人 松沼 泰史  
代理人 西澤 和純  
代理人 川渕 健一  

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