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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 F16H
管理番号 1385977
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2022-07-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2021-07-30 
確定日 2022-06-28 
事件の表示 特願2017−125567「車両用制御装置」拒絶査定不服審判事件〔平成31年 1月17日出願公開、特開2019− 7591、請求項の数(1)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本件に係る出願は、平成29年 6月27日の出願であって、令和2年10月5日付けで拒絶理由通知がされ、同年11月20日に意見書が提出されるとともに手続補正がされ、令和3年4月2日付けで最後の拒絶理由通知がされ、同年4月23日に意見書が提出されるとともに手続補正がされたが、当該手続補正は、同年7月1日付けで補正の却下の決定がされるとともに同日付で拒絶査定(以下、「原査定」という。)がされた。
これに対し、同年7月30日に拒絶査定不服審判の請求がされるとともに手続補正(以下、「本件補正」という。)がされたものである。

第2 本件補正の適否について
1. 本件補正の内容
(1)本件補正後の特許請求の範囲
令和3年7月30日にした手続補正(以下、「本件補正」という。)により、特許請求の範囲の記載は、次のとおり補正された(下線部は、補正箇所である。)。

「【請求項1】
アクセル操作量に応じて出力制御される走行用のエンジンと、係合圧を制御可能な油圧式の摩擦係合装置により前記エンジンと駆動輪との間の動力伝達を接続遮断する断接装置と、該断接装置が接続される走行レンジと該断接装置が遮断される非走行レンジとに切り換えることができるレンジ選択装置と、を有する車両に適用され、
前記摩擦係合装置を係合させる際の係合過渡圧を制御する係合圧制御部を備えている車両用制御装置において、
前記断接装置は、前記摩擦係合装置を複数備えており、該複数の摩擦係合装置の係合解放状態に応じて変速比が異なる複数の走行ギヤ段を形成することができる自動変速機であり、
前記非走行レンジが選択された車両停止時に前記エンジンを回転停止させるエンジン自動停止制御を行なう一方、該エンジン自動停止制御の実行中に前記レンジ選択装置によって前記非走行レンジから前記走行レンジへ切り換えるレンジ切換操作が行なわれると、前記エンジンを始動するとともに前記自動変速機の前記複数の走行ギヤ段の中の所定の発進ギヤ段を形成して走行可能とする復帰制御を行なうストップ&スタート制御部を備えており、
前記ストップ&スタート制御部は、前記発進ギヤ段を形成する第1係合装置に加えてスクォート制御用の第2係合装置を係合させることにより、該発進ギヤ段よりも変速比が小さいスクォートギヤ段を一時的に形成した後に、該第2係合装置を解放して前記発進ギヤ段を形成するスクォート制御を行なうものであり、
前記係合圧制御部は、作動油を急速充填した後に係合過渡圧の指示圧を一定に保持する定圧待機圧に関し、前記アクセル操作量が大きい場合には小さい場合に比較して前記定圧待機圧が高くなるように増圧補正する増圧補正部を有する一方、前記ストップ&スタート制御部により前記復帰制御が行なわれる際には、エンジン回転速度またはエンジントルクが所定値以上になる予め定められた制限解除条件を満たすまで、前記増圧補正部による前記アクセル操作量に応じた前記定圧待機圧の増圧補正を制限して該定圧待機圧を低圧に維持し、前記制限解除条件を満たしたら前記制限を解除するもので、前記制限解除条件として、前記スクォートギヤ段が形成されるタイミングに合わせて前記定圧待機圧の増圧補正が行なわれるように、前記第2係合装置の油圧制御の開始時間を基準として該増圧補正の制限を解除する遅延時間が定められる
ことを特徴とする車両用制御装置。」

(2)本件補正前の特許請求の範囲
本件補正前の特許請求の範囲の記載は、令和2年11月20日に手続補正した特許請求の範囲の記載によって特定される次のとおりである。

「【請求項1】
アクセル操作量に応じて出力制御される走行用のエンジンと、係合圧を制御可能な摩擦係合装置により前記エンジンと駆動輪との間の動力伝達を接続遮断する断接装置と、該断接装置が接続される走行レンジと該断接装置が遮断される非走行レンジとに切り換えることができるレンジ選択装置と、を有する車両に適用され、
前記摩擦係合装置を係合させる際の係合過渡圧を制御する係合圧制御部を備えている車両用制御装置において、
前記非走行レンジが選択された車両停止時に前記エンジンを回転停止させるエンジン自動停止制御を行なう一方、該エンジン自動停止制御の実行中に前記レンジ選択装置によって前記非走行レンジから前記走行レンジへ切り換えるレンジ切換操作が行なわれると、前記エンジンを始動するとともに前記摩擦係合装置の係合により前記断接装置を接続して走行可能とする復帰制御を行なうストップ&スタート制御部を備えており、
前記係合圧制御部は、前記アクセル操作量が大きい場合には小さい場合に比較して前記係合過渡圧を高くする一方、前記ストップ&スタート制御部により前記復帰制御が行なわれる際には、エンジン回転速度またはエンジントルクが所定値以上になる予め定められた制限解除条件を満たすまで、前記アクセル操作量に応じた前記係合過渡圧の制御を制限して該係合過渡圧を低圧に維持し、前記制限解除条件を満たしたら前記制限を解除する
ことを特徴とする車両用制御装置。」

2.本件補正の目的及び新規事項の追加の有無について
ア 本件補正は、摩擦係合装置が「油圧式」であることを特定し、断接装置が「前記断接装置は、前記摩擦係合装置を複数備えており、該複数の摩擦係合装置の係合解放状態に応じて変速比が異なる複数の走行ギヤ段を形成することができる自動変速機であり」と特定するとともに、本件補正前の「前記摩擦係合装置の係合により前記断接装置を接続して」との発明特定事項を「前記自動変速機の前記複数の走行ギヤ段の中の所定の発進ギヤ段を形成して」と自動変速機の具体的な接続態様に減縮するものであるから、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
当該補正は、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「当初明細書等」という。)の段落【0009】、【0013】に記載されているから、当初明細書等に記載された事項の範囲内においてするものであって、特許法第17条の2第3項の規定に適合する。

イ 本件補正は、ストップ&スタート制御部が「前記ストップ&スタート制御部は、前記発進ギヤ段を形成する第1係合装置に加えてスクォート制御用の第2係合装置を係合させることにより、該発進ギヤ段よりも変速比が小さいスクォートギヤ段を一時的に形成した後に、該第2係合装置を解放して前記発進ギヤ段を形成するスクォート制御を行なうもの」であることを特定するものであるから、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
当該補正は、当初明細書等の段落【0013】に記載されているから、当初明細書等に記載された事項の範囲内においてするものであり、特許法第17条の2第3項の規定に適合する。

ウ 本件補正は、「前記アクセル操作量が大きい場合には小さい場合に比較して前記係合過渡圧を高くする」との発明特定事項を「作動油を急速充填した後に係合過渡圧の指示圧を一定に保持する定圧待機圧に関し、前記アクセル操作量が大きい場合には小さい場合に比較して前記定圧待機圧が高くなるように増圧補正する増圧補正部を有する」とするものである。
また、本件補正は、「前記アクセル操作量に応じた前記係合過渡圧の制御を制限して該係合過渡圧を低圧に維持し」との発明特定事項を「前記増圧補正部による前記アクセル操作量に応じた前記定圧待機圧の増圧補正を制限して該定圧待機圧を低圧に維持し」とするものである
当該補正の「定圧待機圧」は、「係合過渡圧」の一部分であって、「定圧待機圧が高くなるように増圧補正する増圧補正部を有する」ことは、「係合過渡圧を高くする」ことを具体的に特定するものであり、また、「定圧待機圧の増圧補正を制限して該定圧待機圧を低圧に維持」することは、「過渡圧を低圧に維持する」ことを具体的に特定するものであるから、当該補正は、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
当該補正は、当初明細書等の段落【0027】に記載されているから、当初明細書等に記載された事項の範囲内においてするものであり、特許法第17条の2第3項の規定に適合する。

エ 本件補正は、制限解除条件が「前記制限解除条件として、前記スクォートギヤ段が形成されるタイミングに合わせて前記定圧待機圧の増圧補正が行なわれるように、前記第2係合装置の油圧制御の開始時間を基準として該増圧補正の制限を解除する遅延時間が定められる」ことを特定するものであるから、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
当該補正は、当初明細書等の段落【0029】に記載されているから、当初明細書等に記載された事項の範囲内においてするものであり、特許法第17条の2第3項の規定に適合する。

上記ア〜エのとおり、本件補正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるから、特許法第17条の2第6項で準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下、検討する。

3.独立特許要件について
3−1 本願発明について
本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、本件補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、上記第2の1.(1)のとおりである。

3−2 引用文献に記載された事項及び引用発明
(1)引用文献等一覧
引用文献1:特開2012−72875号公報
引用文献2:特開平11−303981号公報(拒絶査定時の引用文献1)
引用文献3:特開2008−201229号公報
引用文献4:特開平8−334169号公報(新たに引用する引用文献)
引用文献5:特開平2−142965号公報(拒絶査定時の引用文献2)

(2)引用文献1に記載された事項及び引用発明
補正の却下の決定で引用され、本願出願前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献1には、次の事項が記載されている。なお、下線は当審が付したものである(以下同様。)。

ア 「【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジン始動制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の車両では、燃費の向上や排気ガスの排出量の低減等を目的として、車両の走行時にドライバによるトルク要求がない場合には、エンジンを停止して車両を惰性で走行させたり、車両を一時的に停止させる場合にエンジンを停止させたりする制御技術が開発されている。例えば、特許文献1に記載された車両のエンジン再始動時の制御装置では、シフトポジションを非駆動ポジションにするなどの所定の条件が成立した場合に、エンジンを停止し、再びシフトポジジョンを駆動ポジションにするなどの所定の条件が成立した場合に、エンジンの再始動を行っている。
【0003】
また、車両に搭載される変速装置が、油圧によって制御されるクラッチやブレーキの係合や解放を切替えることによって変速を行う自動変速機である場合、エンジンの停止時には、自動変速機のクラッチ等の作動に用いる油圧を発生させるオイルポンプも停止する。このため、エンジンの停止時には、自動変速機のクラッチ等の係合力が低下する場合がある。従って、特許文献1に記載された制御装置では、エンジンの再始動時に即座に駆動力を発生させるために、自動変速機のクラッチの係合力を高めるための油圧を急速に増圧させる制御を行っている。」

イ「【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、エンジンは、燃焼室で燃料が燃焼した場合における堆積物であるデポジットの状態や、エンジンの現在の温度、エンジン個体のバラツキ等のエンジンの状態や、エンジンの始動に用いるスタータを駆動させるバッテリの劣化など、エンジンの始動に関わる様々な状態に応じて、始動性が変化する場合がある。燃費の向上等を目的としてエンジンを停止する制御を行う場合におけるエンジンの停止後の再始動時に、このようにエンジンの始動性が変化した場合、意図したエンジンの始動と、クラッチの係合力との同期タイミングに、ズレが生じる場合がある。これにより、エンジン回転速度の上昇量を確保することができない場合があり、この場合、エンジンの始動性が悪化したり、クラッチの係合時にショックが発生したりする場合があった。
【0006】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであって、車両の運転時にエンジンを停止することによる燃費の向上と、エンジンの停止後の再始動時における始動性の確保とを両立することのできるエンジン始動制御装置を提供することを目的とする。」

ウ「【0014】
〔実施形態〕
図1は、実施形態に係るエンジン始動制御装置を備える車両の概略図である。同図に示し、本実施形態に係る始動制御装置70を備える車両1は、走行時における動力源として内燃機関であるエンジン4が設けられており、エンジン4は、変速装置の一例である自動変速機20に連結されている。また、自動変速機20は、動力伝達経路を介して最終減速機26に連結されており、最終減速機26は、ドライブシャフトを介して駆動輪28に連結されている。
【0015】
このように、エンジン4と最終減速機26との間に介在する自動変速機20は、複数の変速要素である遊星歯車機構と、クラッチ、ブレーキ等の複数の摩擦係合要素22とを組み合わせて構成される変速機構と、流体を介してトルクの伝達を行うトルクコンバータと、を備える多段式の変速装置として設けられている。このうち、クラッチは、係合要素同士が係合した際に遊星歯車機構の歯車等と共に回転をする摩擦係合要素22となっており、ブレーキは、係合要素同士が係合した際に回転が停止する摩擦係合要素22となっている。このように複数の摩擦係合要素22と遊星歯車機構とを有して設けられる自動変速機20は、摩擦係合要素22の係合の組み合わせを変化させることにより、エンジン4と最終減速機26との間の変速比を切替えることが可能になっている。即ち、自動変速機20は、摩擦係合要素22の係合の組み合わせを変化させることにより、変速段を切替えることができる。
【0016】
また、自動変速機20に設けられる摩擦係合要素22は、油圧が付与されることにより作動可能に設けられており、エンジン4には、摩擦係合要素22に付与する油圧を発生させることのできるオイルポンプ30が接続されている。このオイルポンプ30は、エンジン4で発生する動力によって作動し、油圧を発生させることが可能に設けられている。」

エ「【0021】
また、車両1の運転席の近傍には、エンジン4で発生する動力の調節が可能なアクセルペダル56と、車両1が有するブレーキ装置(図示省略)で発生する制動力の調節が可能なブレーキペダル60と、が設けられている。さらに、この運転席の近傍には、自動変速機20のレンジを切替えることのできるシフトレバー64が設けられている。自動変速機20のシフトレンジとしては、例えば、P(パーキング)、R(リバース)、N(ニュートラル)、D(ドライブ)、2速、1速等が設定されており、シフトレバー64で所望のレンジを選択することにより、シフトレンジを切替えることができる。」

オ「【0025】
また、この車両1は、例えば、車両1の運転中における信号待ち等の一時的な車両1の停止時に、エンジン4の運転を自動的に停止することができ、即ち、自動停止を行うことが可能になっている。また、エンジン4の自動停止を行った場合には、運転者の始動要求に応じてエンジン4の再始動を自動的に行うことができ、即ち、自動始動を行うことが可能になっている。これらの自動停止や自動始動は、ECU80でエンジン4やMG40を制御することにより可能になっており、このためECU80は、エンジン4の自動停止の制御を行う停止制御装置として設けられていると共に、エンジン4の自動始動の制御を行う始動制御装置70としても設けられている。」

カ「【0027】
また、このように設けられるECU80の処理部は、アクセルセンサ58、ブレーキセンサ62、シフトセンサ66等の、車両1の操作手段の状態を検出するセンサ類や、エンジン回転数センサ8や車速センサ24等の車両1の走行状態を検出するセンサ類での検出結果に基づいて、運転者100の運転操作の状態や車両1の走行状態を取得する運転状態取得手段である運転状態取得部82と、エンジン4の制御など車両1の走行制御を行う走行制御手段である走行制御部84と、エンジン4の自動停止や自動始動を行うか否かを判定する自動制御判定手段である自動制御判定部86と、エンジン4の始動性を判定する始動性判定手段である始動性判定部88と、インバータ44を制御することを介してMG40の作動を制御するMG制御手段であるMG制御部90と、自動変速機20が有する摩擦係合要素22の係合や解放の制御を行うことにより自動変速機20の変速制御を行う変速制御手段として設けられると共に、エンジン4で発生した動力を駆動輪28側に伝達する際に係合する摩擦係合要素22の係合力を制御可能に設けられる係合力制御手段としても設けられる変速制御部92と、を有している。
【0028】
この実施形態に係る始動制御装置70は、以上のごとき構成からなり、以下、その作用について説明する。車両1の走行時には、運転者100が操作をするアクセルペダル56の操作量であるアクセル開度をアクセルセンサ58で検出し、この検出結果を、ECU80が有する運転状態取得部82で取得する。運転状態取得部82で取得したアクセル開度は、ECU80が有する走行制御部84に伝達される。
【0029】
走行制御部84は、運転状態取得部82で取得したアクセル開度や、その他のセンサで取得した車両1の走行状態に基づいてエンジン4の制御を行うことにより、運転者100が要求する動力をエンジン4で発生させる。その際に、走行制御部84は、エンジン回転数センサ8での検出結果等に基づいてエンジン4の運転状態も検出しながら運転制御をする。エンジン4で発生した動力は、自動変速機20や最終減速機26を介して駆動輪28に伝達されることにより、駆動輪28で駆動力を発生する。
【0030】
また、車両1の走行時には、運転者100がシフトレバー64を操作することにより、自動変速機20のシフトレンジを選択する。このシフトレバー64の操作状態は、シフトセンサ66によって検出し、ECU80が有する運転状態取得部82で取得する。このシフトレバー64の操作状態は、ECU80が有する変速制御部92に伝達され、このシフトレバー64の操作状態に応じて、即ち、選択されたシフトレンジに応じて、変速制御部92で、車両1の運転時における運転状態に基づいて自動変速機20の変速制御を行う。これらのように、エンジン4の運転制御や自動変速機20の変速制御を行うことにより、車両1は、運転者100が要求する駆動力を発生して走行する。
【0031】
また、車両1は、自動停止の条件が満たされた場合、エンジン4の運転を停止する。この自動停止の条件としては、例えば、「エンジン4の回転速度がアイドル回転速度以下であること」、「車速が0であること」、「アクセルペダル56の踏込みが行われていないこと」、「自動変速機20のシフトレンジがD、2速、1速のいずれかであること」等が挙げられる。」

キ「【0035】
車両1が自動停止の条件を満たした場合には、このようにエンジン4を停止させることにより、燃料消費量を低減したり、排気ガスの排出量を低減したりするが、エンジン4が停止した状態で、運転者100が駆動力の要求を行っていると判断できる運転操作を行った場合には、エンジン4の再始動を行う。例えば、運転者100がアクセルペダル56を踏込んだ場合には、エンジン4の再始動、即ちエンジン4の自動始動を行う。詳しくは、エンジン4が停止している状態でも、車両1の運転状態は運転状態取得部82で継続的に取得しているので、運転状態取得部82で取得したアクセルペダル56等の操作状態に基づいて、運転者100が駆動力を要求していると判断することができる場合には、エンジン4の自動始動を実行する判定を自動制御判定部86で行う。」

ク「【0037】
ここで、自動変速機20のシフトレンジがD、2速、1速のいずれかが選択されている状態でエンジン4を停止した場合、エンジン4と駆動輪28とは、動力の伝達が可能な状態になっている。このため、エンジン4の自動始動を行う場合には、エンジン4を始動させる制御と並行して、自動変速機20の制御も行う。
【0038】
具体的には、自動変速機20は、車両1が停止する直前には、複数の変速段のうち、低速走行時に使用する変速段に切替えられるが、このため、摩擦係合要素22は、この変速段に切替える摩擦係合要素22が係合した状態になっている。また、この場合における変速段は、停止している車両1を発進させる場合にも適した変速段になっている。しかし、このように所定の変速段が選択され、エンジン4と駆動輪28との間で動力の伝達が可能になっている状態の場合には、MG40で発生した動力によってエンジン4を始動させる場合に、MG40で発生した動力はエンジン4のみでなく、駆動輪28にまで伝達されてしまう。
【0039】
この場合、エンジン4は始動し難くなるので、このように、自動変速機20の所定の変速段が選択されている状態でエンジン4を始動する場合には、この変速段に切替える際に係合させる摩擦係合要素22の係合力を一旦低下させた後、再び係合させる。例えば、自動変速機20が有する複数の摩擦係合要素22のうち、この変速段に切替える際に係合させる摩擦係合要素22がクラッチC1の場合には、エンジン4を始動させる制御に並行して、変速制御部92でクラッチC1を制御し、クラッチC1の係合力を一旦低下させた後、再び上昇させる。」

ケ「【0040】
図2は、自動始動時における摩擦係合要素のプリチャージの説明図である。エンジン4の自動始動を行う際には、このようにクラッチC1の係合力の制御を行うが、エンジン4の停止時に運転者100が駆動力の要求を行った場合、運転者100は早急に駆動力を要求している場合がある。この場合、運転者100が要求する駆動力に応じて加速応答を高めるために、エンジン4の始動中に制御するクラッチC1の係合力を、要求駆動力に応じて高める。即ち、エンジン4の自動始動を行う場合には、運転者100の要求駆動力に応じてエンジン4の始動制御を行いつつ、クラッチC1等の発進時に係合する発進クラッチの係合力を、エンジン4の始動が完了する前に高める制御であるプリチャージを行う。
【0041】
エンジン4の自動始動時におけるプリチャージについて説明すると、エンジン4の自動始動を行うと自動制御判定部86で判定した場合には、まず、変速制御部92で自動変速機20を制御することにより、クラッチC1に係合力を発生させる場合にクラッチC1に付与する油圧であるC1圧110を低下させる。具体的には、クラッチC1を完全に解放させず、伝達率が低下した状態でクラッチC1によって力の伝達を行うことができる範囲内でC1圧110を低下させる。
【0042】
また、このC1圧110の制御と同時に、MG40をスタータとして使用する際に走行制御部84から出力する信号であるスタータ信号130をOFFの状態からONにする。これにより、MG40を作動させ、クランク軸6を回転させる。このように、クランク軸6がMG40の動力によって回転することにより、エンジン回転数150は上昇する。また、この場合、C1圧110は、クラッチC1によって力の伝達が行える範囲の圧力になっているので、クランク軸6の回転を介して自動変速機20に伝達されるMG40の動力の一部は、駆動輪28に伝達される。即ち、C1圧110はプリチャージの状態になっているため、エンジン4側から自動変速機20に入力される力の一部は、駆動輪28側に出力される。これにより、車両1は加速を開始し、エンジン4の自動始動の制御開始の直後から、加速度160は上昇し始める。
【0043】
さらに、この状態で、走行制御部84でエンジン4を制御することにより、インジェクタから燃料を噴射しつつ、エンジン点火信号140をOFFの状態からONにする。これにより、エンジン4の燃焼室(図示省略)内で燃料の燃焼が開始するので、この燃焼時のエネルギによって、エンジン回転数150は上昇し、これに応じて加速度160も上昇する。このように、燃料の燃焼時のエネルギによってエンジン4を運転し、エンジン回転数150が、外部から力を付与しなくてもエンジン4が安定して運転することができる所定の回転数以上になった場合には、スタータ信号130をOFFにしてMG40からエンジン4への動力の入力を停止する。
【0044】
また、このように、エンジン回転数150が所定の回転数以上になり、エンジン4の運転状態が安定状態になった場合には、C1圧110を上昇させて、クラッチC1の係合力を増加させる。このため、エンジン4で発生した動力が駆動輪28に伝達される伝達率も増加するので、これによっても加速度160は上昇する。
【0045】
エンジン4の自動始動時には、このように自動変速機20が有する摩擦係合要素22のプリチャージを行うことにより、自動始動制御の開始直後から加速度160が上昇する。これにより、運転者100が要求する駆動力に応じて加速する際における応答性が高い状態で加速する。」

コ「【0078】
また、上述した始動制御装置70では、エンジン4の自動停止の条件として、「エンジン4の回転速度がアイドル回転速度以下であること」、「車速が0であること」、「アクセルペダル56の踏込みが行われていないこと」、「自動変速機20のシフトレンジがD、2速、1速のいずれかであること」を一例として挙げているが、エンジン4の自動停止の条件はこれ以外でもよい。例えば、「自動変速機20のシフトレンジがN、またはPであること」を条件としてもよい。自動変速機20のシフトレンジがN、またはPの場合には、運転者100が駆動力を要求していないことは明らかであるため、この場合にエンジン4を停止することにより、エンジン4を自動停止させる制御と、運転者100の意思とを、より確実に合致させることができる。
【0079】
なお、このように、シフトレンジがN、またはPであることを含めてエンジン4の自動停止の条件が満たされているか否かの判定を行う場合は、条件が所定の時間成立しているか否かも含めて判定するのが好ましい。例えば、シフトレバー64は、シフトレンジの切替え選択操作を行う場合には、選択しない他のレンジを通過する場合があり、上記のシフトレンジが選択されていない場合でも、シフトレバー64の操作時に上記のシフトレンジを通過する場合がある。このため、自動停止の条件となるシフトレンジが選択されているか否かを判定する場合には、選択されている状態が所定の時間維持されているか否かも含めて判定するのが好ましい。」

サ「【図2】



シ 【図2】のC1圧のグラフから、プリチャージ中のC1の係合過渡圧を急速充填が行われた後に圧力を一定に保持する定圧待機圧とすることが看取できる。

以上の事項から、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。

(引用発明)
「アクセル開度に基づいてエンジン4の制御を行うことにより、運転者100が要求する動力を発生させるエンジン4と、油圧が付与されることにより作動可能に設けられた摩擦係合要素22により、エンジン4と最終減速機26との間に介在する、複数の変速要素である遊星歯車機構とクラッチ、ブレーキ等の複数の摩擦係合要素22とを組み合わせて構成される変速機構と、流体を介してトルクの伝達を行うトルクコンバータとを備える多段式の自動変速機2と、P(パーキング)、R(リバース)、N(ニュートラル)、D(ドライブ)、2速、1速等の自動変速機20のレンジを切替えることのできるシフトレバー64と、を有する車両1に適用され、
自動変速機は、摩擦係合要素22の係合の組み合わせを変化させることでエンジン4と最終減速機26との間の変速比を切替えることが可能な自動変速機20であり、
「自動変速機20のシフトレンジがN、またはPであること」が所定時間継続していること、等の自動停止の条件が満たされた場合、エンジン4の運転を停止する一方で、運転者100がアクセルペダル56を踏込んだ場合には、エンジン4の自動始動を行うとともに、自動変速機20が有する複数の摩擦係合要素22のうち、エンジン4を始動させる制御に並行して、変速制御部92でクラッチC1を制御し、クラッチC1の係合力を一旦低下させた後、再び上昇させるECU80を備えており、
ECU80は、クラッチC1等の発進時に係合する発進クラッチの係合力をエンジン4の始動が完了する前に高める制御であるプリチャージを行い、プリチャージ中の摩擦係合要素22の係合過渡圧を急速充填が行われた後に圧力を一定に保持する定圧待機圧とし、エンジン回転数150が所定の回転数以上になった場合には、C1圧110を上昇させて、クラッチC1の係合力を増加させる、車両の始動制御装置70。」

(3)引用文献2に記載された事項
補正の却下の決定で引用され、本願出願前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献2には、次の事項が記載されている。

ア「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、所定の停止条件が成立したときにエンジンを自動停止するとともに、所定の再始動条件が成立したときに該自動停止したエンジンを再始動する車両であって、該再始動の際に自動変速機の所定のクラッチを係合させる車両のエンジン再始動時の制御装置に関する。」

イ「【0029】ところで、車両が停止したときにエンジンを自動停止させる制御は、具体的には種々の実行条件に基づいて実施されている。例えば、車両によっては、シフトポジションがDポジションあるいはRポジション等の走行ポジションではエンジンを自動停止させず、NポジションあるいはPポジション等の非駆動ポジションにあるときにのみ自動停止制御を実行させるようにしたものもある。
【0030】本発明は、このような自動停止制御システムを採用している車両において、シフトポジションが非駆動ポジションにあるときに、または非駆動ポジションにシフトされることによって前記エンジンの所定の停止条件が成立してエンジンが自動停止し、この状態からシフトポジションが非駆動ポジション以外のポジションに移動されることによって前記再始動条件が成立してエンジンが再始動されるときにも全く同様に適用可能である(請求項7、13)。」

(4)引用文献3に記載された事項
補正の却下の決定で引用され、本願出願前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献3には、次の事項が記載されている。

ア「【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンと、差動機構の回転要素に動力伝達可能に連結された電動機の運転状態が制御されることにより前記エンジンに連結された入力軸の回転速度と出力軸の回転速度の差動状態が制御される電気式差動部と、該電気式差動部から駆動輪への動力伝達経路の一部を構成する変速部とを、備えた車両用駆動装置の制御装置に係り、特に、エンジン始動を伴う変速制御に関するものである。」

イ「【実施例2】
【0089】
本実施例の定圧待機圧は、アクセル開度Accに基づく目標トルクに応じた係合圧が供給される。具体的には、第2速ギヤ段から第1速ギヤ段へのダウンシフト変速において、エンジン8の始動を伴うと判定されると、第2ブレーキB2のアクチュエータAB2および第3ブレーキB3のアクチュエータAB3には、アクセル開度Accに基づく目標トルクに応じた待機圧PB2b、PB3bが供給される。なお、他の変速機構10等の構成は前述の実施例と同様であるため、その説明を省略する。
【0090】
図7のブロック線図に示すアクセル開度検出手段90によって検出されたアクセル開度Accに応じて待機圧PB2b、PB3bが供給される場合、運転者の要求トルクに対して速やかに待機圧を供給することが可能となる。すなわち、エンジン8の完爆時には、第2ブレーキB2のアクチュエータAB2および第3ブレーキB3のアクチュエータAB3には予めアクセル開度Accに基づく待機圧が供給されているため、第2ブレーキB2および第3ブレーキB3において過剰な滑りが発生せず、エンジン8の吹き上がりが抑制される。また、待機圧の圧力値は、アクセル開度Accに基づくため、自動変速部20に入力される入力トルクと自動変速部20が許容可能なトルク容量とを略等しくすることができ、油圧の効率的な供給が可能となる。
【0091】
上述のように、本実施例によれば、前述の実施例と同様の効果得られ、さらに、所定の待機圧は、アクセル開度Accに基づく目標トルクに応じた圧力であるため、運転者の要求トルクに対して速やかに自動変速部20の係合圧が制御される。これにより、エンジンの完爆時においても、係合装置(第2ブレーキB2、第3ブレーキB3)には、自動変速部20がその完爆によるトルク上昇に対して許容可能なトルク容量を有するように待機圧が供給されているため、係合装置(第2ブレーキB2、第3ブレーキB3)において過剰な滑りが発生せず、エンジン8の吹き上がりを抑制することができる。」

ウ「【図11】



(5)引用文献4に記載された事項
当審で新たに引用し、本願出願前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献4には、次の事項が記載されている。

ア「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は車両用等に用いられる自動変速機(自動変速を行う無段変速機を含む)に関し、さらに詳しくは、ニュートラルレンジから走行レンジに切り換えたときの変速制御を行う変速制御装置に関する。なお、ここではニュートラルレンジから走行レンジ(前進レンジもしくは後進レンジ)への切換制御をインギヤ制御と称する。」

イ「【0007】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、インギヤ時においてエンジン回転やトルクコンバータのタービン回転が常に一定回転であるとは限らず、むしろ変化することが多いため、このような変化によってタービン軸の回転変化率が所定値以上となることもある。このため、上記のようにタービン軸(変速機入力軸)の回転変化率のみに基づいてフィリング完了(もしくは無効ストローク詰め完了)の判断を行うと誤判断の可能性があるという問題がある。このような誤判断の下でインギヤ制御を行うと、インギヤ遅れやインギヤショックの発生に繋がるおそれがある。
【0008】なお、自動変速機は上記のようにギヤ列を有したものだけではなく、無段変速機構を有した自動変速機もある。このような無段変速機構を有する自動変速機においても、シフトレバー操作により、前進レンジ、ニュートラルレンジおよび後進レンジの切換設定が可能となっており、上記と同様なインギヤ制御の問題がある。
【0009】本発明はこのような問題に鑑みたもので、インギヤ制御に際して無効ストローク詰めの完了を正確に検出することができ、スムーズ且つ迅速なインギヤ制御を達成することができるような自動変速機の変速制御装置を提供することを目的とする。」

ウ「【0041】以上のようにして各クラッチ、ブレーキの係合制御が行われるのであるが、ここで、シフトレバーをNからDに操作して、Nレンジ(ニュートラルレンジ)からDレンジ(前進レンジ)に切り換える場合の係合制御を図5に示すタイムチャートと図6〜図7に示すフローチャートに基づいて説明する。
【0042】フローチャートに示すように、制御装置内においては、NレンジからDレンジへの切換の有無が検知されており(ステップS2)、Dレンジ切換でないときにはこの制御は行われない。Dレンジに切り換えられたことがステップS2において検出されると、ステップS4において、車速Vが所定車速b(ほぼ零に近い値)より小さいか否かすなわちほぼ停止しているか否かが判断される。車速Vがほぼ零でないときにもこの制御は行われない。
【0043】NレンジからDレンジへの切換が車速Vがほぼ零の状態で行われた場合には、ステップS6に進み、第1タイマー時間t1をセットするとともに、図5にも示すように、ソレノイドバルブSAおよびソレノイドバルブSCをOFFに切り換える(ステップS8)。この制御は、ステップS6においてセットされた第1タイマー時間t1の間行われる(ステップS10)。
【0044】これにより、ともにノーマルオープンタイプであるソレノイドバルブSAおよびSCは全開状態となり、第1および第3クラッチCL1,CL3に急速に作動油が供給され、各ピストン油室に油を充満させるとともにピストンの無効ストローク分の移動を行わせる無効ストローク詰め作動が急速に開始される。
【0045】この状態が第1タイマーt1の設定時間だけ継続され、第1タイマーt1の設定時間が経過すると、ステップS10からステップS12に進み、ソレノイドバルブSCはOFFのまま、ソレノイドバルブSAに中間デューティ比信号を出力する。なお、中間デューテイ比信号とは、クラッチを係合直前状態で保持するために必要とされる油圧を発生させるデューティ比信号である。これにより、第1クラッチCL1への作動油供給が絞られるが、第3クラッチCL3にはそのまま急速な供給が継続される。
【0046】この制御においては、エンジン回転数Ne,トルクコンバータのタービン回転数Ntおよびタービン回転の変化率dNt/dtが検出されており、エンジン回転数Neとタービン回転数Ntの差ΔN(=Ne−Nt)が演算されている。そして、この差ΔNが第1許容差ΔN1より大きくなり且つタービン回転の変化率dNt/dtの絶対値が第1許容率RNt(1)より大きくなったとステップS14,16において判断されると、第3クラッチCL3の無効ストローク詰めが完了したと判断し、ソレノイドバルブSAは中間デューティ比のまま、ソレノイドバルブSCを第1デューティ比に基づいて作動させる制御に移行する(ステップS18)。この第1デューティ比は上記中間デューティ比より若干大きな値で、第3クラッチCL3をある程度係合させることができる油圧を発生させるデューティ比である。これにより、第3クラッチCL3は所定係合状態(緩やかな係合状態)で保持され、第3速段(3RD)が設定される。
【0047】さらにこの後、エンジン回転数Neとタービン回転数Ntの差ΔNが第2許容差ΔN2(ΔN2>ΔN1)より大きくなり且つタービン回転の変化率dNt/dtの絶対値が第2許容率RNt(1)(RNt(2)>RNt(2))より大きくなったとステップS20,22において判断されると、第1クラッチCL1の無効ストローク詰めが完了したと判断し、ステップS24に進み、ソレノイドバルブSCは第1デューティ比制御のまま、ソレノイドバルブSAをフィードバック第1デューティ比制御に基づいて作動させる制御を開始する。なお、このフィードバックデューティ比制御は、タービン回転数Ntおよびタービン回転数変化率dNt/dtを目標値としたフィードバック制御である。
【0048】このフィードバック制御は第1クラッチCL1を徐々に係合させる制御であり、このことから分かるように、ステップS24に移行する時点で、無効ストローク詰め制御から通常係合制御に移行する。
【0049】この後、タービン回転数Ntが所定回転Nt(1)まで低下すると、ステップS26からステップS28に進み、ソレノイドバルブSAはフィードバックデューティ比制御のまま、ソレノイドバルブSCを第2デューティ比に基づいて作動させる。第2デューティ比は第3クラッチCL3の係合油圧P(CL3) をさらに低下させるデューティ比であり、第3クラッチCL3は徐々に解放され、第1速段に変速される。
【0050】そして、タービン回転変化率dNt/dtがほぼ零となったときに、ステップS30からステップS32に進んで、第2タイマーt2をセットし、ソレノイドバルブSCをONにする(ステップS34)。これにより第3クラッチCL3は完全に解放される。第2タイマーt2は第1クラッチCL1が完全に係合するまで待つためのもので、第2タイマーt2の設定時間が経過した時点でステップS36からステップS38に進み、ソレノイドバルブSCはONのままソレノイドバルブSAをOFFにして第1クラッチCL1の係合油圧を最大にする。このとき、第1クラッチCL1は完全係合状態であり、係合油圧が最大となっても変速ショックが発生することがない。以上のようにして、インギヤスクォート制御がスムーズに行われる。」

(6)引用文献5に記載された事項
拒絶査定で引用され、本願出願前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献5には、次の事項が記載されている。

ア「そこで、本装置においては、アクセル操作量Sが小さい値SLの時には、小さい目標ジャーク値JPLに、アクセル操作量Sが小さい値SHの時には、大きい目標ジャーク値JPHに設定する。すなわち、アクセル操作量が大きくなる程、目標ジャーク値、つまり車両の加速度の変化率が大きくなるようにアクセル操作量に対応する圧力増加率dp/dtを設定することで、常に「快適」という官能評価値が得られ、しかもクラッチの耐久性が向上するようにする。」(第4ページ右下欄第19行〜第5ページ左上欄第8行)

イ「

」(第9ページ第2図)

3−3 当審の判断
(1)対比
本願発明と引用発明とを対比する。
引用発明の「アクセル開度」、「エンジン4」は、本願発明の「アクセル操作量」、「エンジン」に相当する。そして、引用発明の「エンジン制御を行うことにより、運転者が要求する動力を発生させる」ことは、エンジンの「出力制御」を行うことであるから、引用発明の「アクセル開度に基づいてエンジン4の制御を行うことにより、運転者100が要求する動力を発生させるエンジン4」は、本願発明の「アクセル操作量に応じて出力制御される走行用のエンジン」に相当する。

引用発明の「摩擦係合要素22」は、本願発明の「摩擦係合装置」に相当する。そして、引用発明の「摩擦係合要素22」は、「油圧が付与されることにより作動可能」であって、「プリチャージ中の摩擦係合要素22の係合過渡圧を急速充填が行われた後に圧力を一定に保持する定圧待機圧とし、エンジン回転数150が所定の回転数以上になった場合には、C1圧110を上昇させて、クラッチC1の係合力を増加させる」ことができることから、係合圧を制御可能なものといえるから、引用発明の「油圧が付与されることにより作動可能に設けられた摩擦係合要素22」は、本願発明の「係合圧を制御可能な油圧式の摩擦係合装置」に相当する。
エンジンと駆動輪との間に自動変速機や最終減速機を配置することが技術常識であることを勘案すると、引用発明の「エンジン4と最終減速機26との間」は、本願発明の「エンジンと駆動輪との間」に相当する。
また、引用発明の「複数の変速要素である遊星歯車機構とクラッチ、ブレーキ等の複数の摩擦係合要素22とを組み合わせて構成される変速機構と流体を介してトルクの伝達を行うトルクコンバータとを備える多段式の自動変速機2」は、「クラッチやブレーキ等の複数の摩擦係合要素22」によって「エンジン4と最終減速機26との間」の動力伝達を接続遮断するものであるから、本願発明の「動力伝達を接続遮断する断接装置」に相当する。

引用発明の「R(リバース)」、「D(ドライブ)」、「2速」、「1速」は、自動変速機2が動力伝達を行うレンジであるから、本願発明の「走行レンジ」に相当し、同じく、引用発明の「P(パーキング)」、「N(ニュートラル)」は、本願発明の「非走行レンジ」に相当する。そして、引用発明の「P(パーキング)、R(リバース)、N(ニュートラル)、D(ドライブ)、2速、1速等の自動変速機20のレンジを切替えることのできるシフトレバー64」は、本願発明の「該断接装置が接続される走行レンジと該断接装置が遮断される非走行レンジとに切り換えることができるレンジ選択装置」に相当する。

引用発明の「車両1」は、本願発明の「車両」に相当する。

引用発明の「自動変速機は、摩擦係合要素22の係合の組み合わせを変化させることでエンジン4と最終減速機26との間の変速比を切替えることが可能な自動変速機20」は、上記のとおり、「自動変速機20」が「複数の変速要素である遊星歯車機構とクラッチ、ブレーキ等の複数の摩擦係合要素22とを組み合わせて構成される変速機構」を備えるものであるから、「複数の摩擦係合要素22」の係合の組み合わせを変化させることで「変速比を切替えることが可能」となっているので、本願発明の「前記断接装置は、前記摩擦係合装置を複数備えており、該複数の摩擦係合装置の係合解放状態に応じて変速比が異なる複数の走行ギヤ段を形成することができる自動変速機」に相当する。

引用発明の「「自動変速機20のシフトレンジがN、またはPであること」が所定時間継続していること、等の自動停止の条件が満たされた場合、エンジン4の運転を停止する」ことは、上記のとおり、引用発明の「P(パーキング)」、「N(ニュートラル)」は、本願発明の「非走行レンジ」に相当するのであるから、本願発明の「前記非走行レンジが選択された車両停止時に前記エンジンを回転停止させるエンジン自動停止制御を行なう」ことに相当する。

引用発明の「運転者100がアクセルペダル56を踏込んだ場合には、エンジン4の自動始動を行うとともに、自動変速機20が有する複数の摩擦係合要素22のうち、エンジン4を始動させる制御に並行して、変速制御部92でクラッチC1を制御し、クラッチC1の係合力を一旦低下させた後、再び上昇させるECU80を備え」ることは、「クラッチC1等」が「発進時に係合する発進クラッチ」であることを勘案すると、「クラッチC1を制御し、クラッチC1の係合力を一旦低下させた後、再び上昇させる」制御は、複数のギア段の中、所定の発進ギア段を形成して走行可能とする制御ということができるから、「運転者の発進操作が行われると、前記エンジンを始動するとともに前記自動変速機の前記複数の走行ギヤ段の中の所定の発進ギヤ段を形成して走行可能とする復帰制御を行なうストップ&スタート制御部を備え」ることの限りにおいて、本願発明の「該エンジン自動停止制御の実行中に前記レンジ選択装置によって前記非走行レンジから前記走行レンジへ切り換えるレンジ切換操作が行なわれると、前記エンジンを始動するとともに前記自動変速機の前記複数の走行ギヤ段の中の所定の発進ギヤ段を形成して走行可能とする復帰制御を行なうストップ&スタート制御部を備え」ることと一致する。

引用発明の「クラッチC1等の発進時に係合する発進クラッチの係合力をエンジン4の始動が完了する前に高める制御であるプリチャージを行い、プリチャージ中の摩擦係合要素22の係合過渡圧を急速充填が行われた後に圧力を一定に保持する定圧待機圧」とすることは、本願発明の「作動油を急速充填した後に係合過渡圧の指示圧を一定に保持する定圧待機圧」とすることに相当する。
また、引用発明の上記構成は、「係合過渡圧を急速充填が行われた後に圧力を一定に保持する定圧待機圧」とするのであるから、本願発明の「前記摩擦係合装置を係合させる際の係合過渡圧を制御する」ことに相当し、してみると、引用発明の「ECU80」は、本願発明の「係合圧制御部」にも相当するといえる。

引用発明の「エンジン回転数150が所定の回転数以上になった場合には、C1圧110を上昇させて、クラッチC1の係合力を増加させる」ことは、「エンジン回転速度が所定値以上になる予め定められた制限解除条件を満たすまで、該定圧待機圧を低圧に維持し、前記制限解除条件を満たしたら前記制限を解除する」限りにおいて、本願発明の「エンジン回転速度またはエンジントルクが所定値以上になる予め定められた制限解除条件を満たすまで、前記増圧補正部による前記アクセル操作量に応じた前記定圧待機圧の増圧補正を制限して該定圧待機圧を低圧に維持し、前記制限解除条件を満たしたら前記制限を解除する」ことと一致する。

引用発明の「車両の始動制御装置70」は、本願発明の「車両用制御装置」に相当する。

してみると、本願発明と引用発明とは、以下の一致点で一致し、相違点で相違する。

(一致点)
「アクセル操作量に応じて出力制御される走行用のエンジンと、係合圧を制御可能な油圧式の摩擦係合装置により前記エンジンと駆動輪との間の動力伝達を接続遮断する断接装置と、該断接装置が接続される走行レンジと該断接装置が遮断される非走行レンジとに切り換えることができるレンジ選択装置と、を有する車両に適用され、
前記摩擦係合装置を係合させる際の係合過渡圧を制御する係合圧制御部を備えている車両用制御装置において、
前記断接装置は、前記摩擦係合装置を複数備えており、該複数の摩擦係合装置の係合解放状態に応じて変速比が異なる複数の走行ギヤ段を形成することができる自動変速機であり、
前記非走行レンジが選択された車両停止時に前記エンジンを回転停止させるエンジン自動停止制御を行なう一方、運転者の発進操作が行われると、前記エンジンを始動するとともに前記自動変速機の前記複数の走行ギヤ段の中の所定の発進ギヤ段を形成して走行可能とする復帰制御を行なうストップ&スタート制御部を備えており、
前記係合圧制御部は、作動油を急速充填した後に係合過渡圧の指示圧を一定に保持する定圧待機圧に関し、エンジン回転速度が所定値以上になる予め定められた制限解除条件を満たすまで、該定圧待機圧を低圧に維持し、前記制限解除条件を満たしたら前記制限を解除する、
車両用制御装置。」

(相違点1)
「運転者の発進操作」に関して、本願発明は、「該エンジン自動停止制御の実行中に前記レンジ選択装置によって前記非走行レンジから前記走行レンジへ切り換えるレンジ切換操作が行なわれる」ことであるのに対して、引用発明では、「運転者100がアクセルペダル56を踏込んだ場合」である点。

(相違点2)
本願発明では、「前記ストップ&スタート制御部は、前記発進ギヤ段を形成する第1係合装置に加えてスクォート制御用の第2係合装置を係合させることにより、該発進ギヤ段よりも変速比が小さいスクォートギヤ段を一時的に形成した後に、該第2係合装置を解放して前記発進ギヤ段を形成するスクォート制御を行なうもの」であって、「前記係合圧制御部は、作動油を急速充填した後に係合過渡圧の指示圧を一定に保持する定圧待機圧に関し、前記アクセル操作量が大きい場合には小さい場合に比較して前記定圧待機圧が高くなるように増圧補正する増圧補正部を有する一方、前記ストップ&スタート制御部により前記復帰制御が行なわれる際には、エンジン回転速度またはエンジントルクが所定値以上になる予め定められた制限解除条件を満たすまで、前記増圧補正部による前記アクセル操作量に応じた前記定圧待機圧の増圧補正を制限して該定圧待機圧を低圧に維持し、前記制限解除条件を満たしたら前記制限を解除するもので、前記制限解除条件として、前記スクォートギヤ段が形成されるタイミングに合わせて前記定圧待機圧の増圧補正が行なわれるように、前記第2係合装置の油圧制御の開始時間を基準として該増圧補正の制限を解除する遅延時間が定められる」のに対して、引用発明では、「クラッチC1等の発進時に係合する発進クラッチの係合力をエンジン4の始動が完了する前に高める制御であるプリチャージを行い、プリチャージ中の摩擦係合要素22の係合過渡圧を急速充填が行われた後に圧力を一定に保持する定圧待機圧とし、エンジン回転数150が所定の回転数以上になった場合には、C1圧110を上昇させて、クラッチC1の係合力を増加させる」のみである点。

(2)判断
事案に鑑み、相違点2について検討する。
上記3−2(4)イに摘記したとおり、引用文献3には「本実施例の定圧待機圧は、アクセル開度Accに基づく目標トルクに応じた係合圧が供給される。具体的には、第2速ギヤ段から第1速ギヤ段へのダウンシフト変速において、エンジン8の始動を伴うと判定されると、第2ブレーキB2のアクチュエータAB2および第3ブレーキB3のアクチュエータAB3には、アクセル開度Accに基づく目標トルクに応じた待機圧PB2b、PB3bが供給される。」と記載されている。
また、上記3−2(5)ウに摘記したとおり、引用文献4には「NレンジからDレンジへの切換が車速Vがほぼ零の状態で行われた場合」に「第1および第3クラッチCL1,CL3に急速に作動油が供給され、各ピストン油室に油を充満させるとともにピストンの無効ストローク分の移動を行わせる無効ストローク詰め作動が急速に開始され」、その後「エンジン回転数Neとタービン回転数Ntの差ΔN(=Ne−Nt)」と「タービン回転の変化率dNt/dtの絶対値」に応じて制御を行い、「第3クラッチCL3は所定係合状態(緩やかな係合状態)で保持され、第3速段(3RD)が設定され」、「第1クラッチCL1を徐々に係合させ」、「第3クラッチCL3は徐々に解放され、第1速段に変速される」ように、スクォート制御することが記載されている。
しかしながら、本願発明の「前記増圧補正部による前記アクセル操作量に応じた前記定圧待機圧の増圧補正を制限して該定圧待機圧を低圧に維持し、前記制限解除条件を満たしたら前記制限を解除するもので、前記制限解除条件として、前記スクォートギヤ段が形成されるタイミングに合わせて前記定圧待機圧の増圧補正が行なわれるように、前記第2係合装置の油圧制御の開始時間を基準として該増圧補正の制限を解除する遅延時間が定められる」ことは、いずれの引用文献にも記載されておらず、引用文献3及び引用文献4に記載された技術的事項を勘案しても、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。
してみると、相違点1について検討するまでもなく、本願発明は、引用発明及び引用文献2〜5に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本願発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができる発明ということができる。

4.小括
以上のとおり、本願発明は、特許法第17条の2第6項で準用する同法第126条第7項の規定に適合するから、本件補正は、特許法第17条の2第3項から第6項までの要件に違反しているものとはいえない。

第3 原査定について
1.原査定の概要
原査定の概要は次のとおりである。

この出願の請求項1に係る発明は、以下の引用文献2、5に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献2:特開平11−303981号公報(拒絶査定時の引用文献1)
引用文献5:特開平2−142965号公報(拒絶査定時の引用文献2)

2.原査定についての当審の判断
本件補正により、本願発明は、「前記ストップ&スタート制御部は、前記発進ギヤ段を形成する第1係合装置に加えてスクォート制御用の第2係合装置を係合させることにより、該発進ギヤ段よりも変速比が小さいスクォートギヤ段を一時的に形成した後に、該第2係合装置を解放して前記発進ギヤ段を形成するスクォート制御を行なうもの」であって、「前記係合圧制御部は、作動油を急速充填した後に係合過渡圧の指示圧を一定に保持する定圧待機圧に関し、前記アクセル操作量が大きい場合には小さい場合に比較して前記定圧待機圧が高くなるように増圧補正する増圧補正部を有する一方、前記ストップ&スタート制御部により前記復帰制御が行なわれる際には、エンジン回転速度またはエンジントルクが所定値以上になる予め定められた制限解除条件を満たすまで、前記増圧補正部による前記アクセル操作量に応じた前記定圧待機圧の増圧補正を制限して該定圧待機圧を低圧に維持し、前記制限解除条件を満たしたら前記制限を解除するもので、前記制限解除条件として、前記スクォートギヤ段が形成されるタイミングに合わせて前記定圧待機圧の増圧補正が行なわれるように、前記第2係合装置の油圧制御の開始時間を基準として該増圧補正の制限を解除する遅延時間が定められる」という発明特定事項を有するものとなっており、当業者であっても、拒絶査定において引用された引用文献2、5に基いて、容易に発明をすることができたものとはいえない。したがって、原査定の理由を維持することはできない。

第4 むすび
以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2022-06-13 
出願番号 P2017-125567
審決分類 P 1 8・ 121- WY (F16H)
最終処分 01   成立
特許庁審判長 平田 信勝
特許庁審判官 保田 亨介
間中 耕治
発明の名称 車両用制御装置  
代理人 池田 治幸  
代理人 池田 光治郎  

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