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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H01R
管理番号 1385984
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2022-07-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2021-08-04 
確定日 2022-07-05 
事件の表示 特願2019−4453「防水構造」拒絶査定不服審判事件〔令和2年7月27日出願公開、特開2020−113475、請求項の数(3)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成31年1月15日に出願された特願2019−4453号であり、その手続の経緯は、概略次のとおりである。

令和2年11月27日付け:拒絶理由通知書
令和3年1月18日 :意見書、手続補正書の提出
令和3年3月5日付け :拒絶理由通知書(最後の拒絶理由)
令和3年4月19日 :意見書、手続補正書の提出
令和3年6月15日付け :令和3年4月19日の手続補正についての補正
の却下の決定及び拒絶査定
令和3年8月4日 :審判請求書、手続補正書の提出
令和3年10月18日 :上申書の提出

第2 原査定の概要
原査定(令和3年6月15日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。

本願の請求項1〜4に係る発明は、引用文献6に記載された発明及び引用文献1〜4に記載された技術的事項に基いて、また、請求項5に係る発明は、引用文献6に記載された発明及び引用文献1〜5に記載された技術的事項に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献等一覧
引用文献1:特開平9−7686号公報
引用文献2:特開2002−8793号公報
引用文献3:特開2003−234138号公報
引用文献4:特開2011−14260号公報
引用文献5:特開2002−302601号公報
引用文献6:特開2008−269858号公報

第3 審判請求時の補正について
審判請求時の補正(令和3年8月4日の手続補正による補正)は、特許法第17条の2第3項から第6項までの要件に違反しているものとはいえない。
審判請求時の補正は、補正前の請求項1に記載された「バリ切り部」に関して、「前記バリ切り部の一部が、前記ハウジングに覆われ、前記バリ切り部のうち前記ハウジングによりオーバーラップされた前記一部の外径が、それ以外の部分の外径より小さい」との限定を付加し、補正前の請求項3及び4を削除し、補正前の請求項5を引用する請求項を改めて請求項3とするものである。
請求項1についての補正は、補正の前後において発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるので、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とする補正である。また、補正により付加される事項は、願書に最初に添付した明細書の段落【0052】及び【図7】の記載に基づくものであり、新規事項を追加するものではないといえる。
請求項3〜5についての補正も、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とする補正であり、新規事項を追加するものではない。
そして、「第4 本願発明」から「第6 当審の判断」までに示すように、補正後の請求項1〜3に係る発明は、いわゆる独立特許要件を満たすものである。

第4 本願発明
本願の請求項1〜3に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」〜「本願発明3」という。)は、令和3年8月4日の手続補正によって補正された特許請求の範囲の請求項1〜3に記載された事項により特定される発明であり、以下のとおりの発明である。

[本願発明1]
「被取付部の取付け穴に挿通される被覆電線の周囲を覆う絶縁性の弾性部材により形成されたシール部と、
前記シール部を覆うように前記被覆電線の端末部に設けられて前記弾性部材より剛性が高い絶縁樹脂により形成されたハウジングと、
前記ハウジングの少なくとも一端部に連続して設けられ前記被覆電線の周囲を覆う絶縁性の弾性部材により形成されたバリ切り部と、
を備え、
前記シール部と前記バリ切り部とが、前記被覆電線に沿う方向に所定の距離を有して分離されており、
前記バリ切り部の一部が、前記ハウジングに覆われ、前記バリ切り部のうち前記ハウジングによりオーバーラップされた前記一部の外径が、それ以外の部分の外径より小さいことを特徴とする防水構造。」
[本願発明2]
「前記シール部と前記バリ切り部とが、同一材料で形成されたことを特徴とする請求項1に記載の防水構造。」
[本願発明3]
「前記シール部及び前記バリ切り部の少なくとも一方が、熱収縮チューブまたは固化した接着材であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の防水構造。」

第5 各引用文献の記載
1.引用文献6
原査定の拒絶の理由に主たる引用例として引用された引用文献6には次の記載がある(下線は当審で付したもの。)。

「【0001】
本発明は、ケーブルの末端に設けられるコネクタに関し、特にその防水構造に関する。」
「【0013】
コネクタ10は、導体16と、これを被覆する被覆材14を含むケーブル12に設けられる。コネクタ10は、被覆材14から突出して露出した導体16と接合する端子18を有する。・・・。」
「【0015】
また、コネクタ10は、一次樹脂成形部材20と、これを一体に覆う二次樹脂成形部材22とを有する。これらの成形部材は、金型に絶縁性の樹脂を加圧して射出、充填する加工法、いわゆる射出成形により成形される。一次成形樹脂部材20は、端子18と被覆材14のそれぞれの隣接部分を一体に覆い、この部分の対絶縁性、防水性及び防塵性を向上させている。さらに、一次樹脂成形部材20は、導体16の露出している部分と、端子18の導体16に結合している部分を覆っている。導体16の露出している部分が全て一次樹脂成形部材20で覆われることにより、導体16の露出している部分も同様に、耐絶縁性等が確保されている。
【0016】
一次樹脂成形部材20と被覆材14とが接合する第一接合部分28には、一次樹脂成形部材20と被覆材14との隙間を封止する第一シーリング材24が配置される。二次樹脂成形部材22は、一次樹脂成形部材20とともに第一シーリング材24も覆うように成形される。第一シーリング材24は、粘性を有する液状のシール材料、例えばシリコーンからなる。第一シーリング材24は、これの接着力と、二次樹脂成形部材22が成形されるときの圧力とにより、二次樹脂成形部材22と第一接合部分28とに隙間なく密着し、ここを封止する。これにより、ケーブル12側から被覆材14と二次樹脂成形部材22の隙間を通ってくる水が、さらにコネクタ12の内部、すなわち端子18側へ浸入することを防止することができる。
【0017】
二次樹脂成形部材22は、径方向に張り出す板状のフランジ部42を有する。このフランジ部42を、電気機器38の端子を収容するハウジング40の端部に当接させて、ここをネジなどの締め付け金具(図示せず)で固定することにより、コネクタ10が電気機器38に固定される。また、二次樹脂成形部材22には、これの外周側から、環状のゴムリング32が装置されている。ゴムリング32は、コネクタ10が電気機器38に固定されるとき、ハウジング40の内周壁に隙間なく嵌合し、ここを封止する。これにより、外部からハウジング40と二次樹脂成形部材22との隙間を通って、水が浸入することを防止することができる。
【0018】
また、二次樹脂成形部材22と被覆材14とが接合する第二接合部分30には、二次樹脂成形部材22と被覆材14との隙間を封止する第二シーリング材26が配置される。第二シーリング材26は、第一シーリング材24と同様に、粘性を有する液状のシール材料、例えばシリコーンからなる。第二シーリング材26には、外部からの接触による第二シーリング材26の損傷を保護する目的により、保護テープ36が第二シーリング材26の外周に巻き付けられている。第二シーリング材26は、これの接着力により、第二接合部分30に隙間なく密着し、ここを封止する。これにより、ケーブル12側から被覆材14と二次樹脂成形部材22の隙間に、水が浸入することを防止することができる。」
「【図2】



2.引用文献1〜5
原査定の拒絶の理由に従たる引用文献として引用された引用文献1〜5にはそれぞれ次の記載がある。
(1)引用文献1
「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、ケーブルや端子が埋め込まれた樹脂製のハウジングを備えた電気コネクタ及びその製造方法に関する。」
「【0008】
【実施例】以下、本発明の実施例について説明する。図1は本発明の電気コネクタの一実施例を示す、(a)はケーブルの長手方向に切断した断面図、(b)は(a)のA−A断面図である。電気コネクタ10は、ケーブル30の一端部30aから露出している導電線の露出部32に接続された接続部12aを有する2つの端子12と、第1ハウジング22及び第2ハウジング24を有するハウジング20とを備えている。第1ハウジング22はケーブル30の一端部30aの外周面30bを被覆しているが、一端部30aの先端部30cは第1ハウジング22で被覆されていない。また、第1ハウジング22には多数の環状の突起22aが形成されており、この突起22aによって、第2ハウジング24との密着性を向上させている。第2ハウジング24には、第1ハウジング22の突起22aが形成された部分、端子12の接続部12a、及び導電線の露出部32が埋め込まれている。従って、第1ハウジング22及び第2ハウジング24を有するハウジング20によって、導電線の露出部32、端子12の接続部12a、及びケーブル30の一端部30aが一体に埋め込まれている。尚、端子12の中央部には、第2ハウジング24と同じ材料で形成された保持部材26が予め形成されている。」
「【図1】



(2)引用文献2
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、シールド電線の端末部に設けられて、相手側のシールド壁に形成した貫通孔に取り付けられるシールドコネクタに関する。」
「【0017】本実施形態ののシールドコネクタのハウジング50は、シールド電線10に係るインサート成型品となっている。具体的には、シールド電線10は、金属製フランジ20、第1及び第2のゴム栓30,40を取り付けた状態で、樹脂成型用の金型にインサートされ、そこに、絶縁性の合成樹脂を、溶融状態にして充填して成形される。このとき、金型の樹脂成形空間のうち金属製フランジ20より一方側から溶融樹脂が充填され、金属製フランジ20に形成した樹脂流入孔23を介して、他方側にも樹脂が回ってハウジング50全体が成形される。」
「【図1】



(3)引用文献3
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、端子金具を樹脂製のハウジングに埋め込んで成形されたコネクタに関する。」
「【0017】次にコネクタCの製造手順を説明する。まず電線10の端末の被覆部分10Aにゴムブーツ30を嵌着し、被覆部分10Aより剥き出した芯線部分10Bを端子金具11のバレル部13でかしめ付ける。続いて、ゴムリング20を接着するための加硫接着剤55(本発明の「位置ずれ防止手段」に相当する。図4参照)をくびれ部14の外周面に塗布する。そして、ゴムリング20を接続部12の先端に嵌め付け、後方へスライドさせる。ゴムリング20がくびれ部14に至ると、ゴムリング20の内周面が加硫接着剤55を挟んでくびれ部14の外周面に弾性的に密着するとともに、くびれ部14の前後の段差部14Aがゴムリング20に係止してゴムリング20は前後方向に位置決めされる。そして加熱処理を行い、ゴムリング20と端子金具11とを加硫接着する。
【0018】次に、端子金具11を金型50のキャビティ51内にセットし、上型50Aと下型50Bとを型閉じする。そして、キャビティ51内に溶融樹脂を射出充填する。このとき、ゴムリング20は樹脂圧によって前又は後方向に押圧されるが、くびれ部14に対して互いに係止すると共に互いに接着されていることによってその移動が規制される。また、このときゴムブーツ30も樹脂圧によって押圧されるがゴムブーツ30は、ハウジング40外に突出する部分が金型50のゴムブーツ保持溝53に保持されていることでその移動が規制される。また、ゴムリング20のリップ21は樹脂に押圧されて弾性変形する。こうして樹脂が固化した後、型開きすれば完成したコネクタCが得られる。」
「【図6】



(4)引用文献4
「【0001】
本発明は、防水性を有するコネクタの一体成形方法に関する。」
「【0018】
本実施の形態に係るコネクタ1は、芯線部3が被覆部5に覆われた電線7と、この電線7の芯線部3に接続部9で接続されたターミナル11と、接続部9の周囲に設けられた被覆部材13とを有している。また、被覆部材13は、接続部9の周囲に設けられ被覆部5と接着すると共にターミナル11と圧接して接続部9をシールする弾性樹脂15と、この弾性樹脂15の周囲に設けられ弾性樹脂15と接着すると共にターミナル11と圧接する樹脂17とを有している。
【0019】
そして、このコネクタ1の一体成形方法は、接続部9の周囲に弾性樹脂15を射出成形し、被覆部5と弾性樹脂15とを接着させる第1工程と、この第1工程の後、弾性樹脂15の周囲に弾性樹脂15を押さえ込むように樹脂17を射出成形し、弾性樹脂15とターミナル11とを圧接させて接続部9をシールさせると共に弾性樹脂15と樹脂17とを接着させ、ターミナル11と樹脂17とを圧接させる第2工程とを有する。
【0020】
また、第2工程において、接続部9の周囲に射出成形された弾性樹脂15のうち被覆部5側に位置する部分が露出するように樹脂17を射出成形させる。」
「【0028】
まず、ターミナル11が加締められた電線7の接続部9近傍に対して、金型(不図示)を用いて弾性樹脂15を射出成形し、被覆部5と弾性樹脂15とを接着させる。このとき、弾性樹脂15は、被覆部5と接着するが、ターミナル11には接着されていない。(第1工程)
次に、第1工程終了後の部材を金型19,21にセットし、金型19,21の孔部23,25から樹脂17の材料を射出して弾性樹脂15の周囲に弾性樹脂15を押さえ込むように樹脂17を射出成形させる。このとき、矢印で示すような樹脂17の射出圧によって弾性樹脂15が押しつぶされ、弾性樹脂15とターミナル11とが圧接される。また、弾性樹脂15と樹脂17とが当接する部分が接着され、弾性樹脂15に設けられた孔部27,29から樹脂17が侵入し、弾性樹脂15と樹脂17とが一体化され、ターミナル11と樹脂17とが圧接された状態となる。(第2工程)
この第2工程において、接続部9の周囲に射出成形された弾性樹脂15のうち被覆部5側に位置する部分を、外部に露出する露出部分18となるように樹脂17を射出成形させる。このような樹脂17の射出成形により、露出部分18が位置する電線7の引き出し部は、弾性樹脂15の被覆による強度を確保しつつ、弾性樹脂15の弾性によって屈曲可能となる。このため、電線7の引き出し位置が限定されるような狭い場所などにもコネクタ1を配置させることができる。」
「【図4】



(5)引用文献5
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、熱可塑性ポリウレタンを含有する樹脂組成物、および、その樹脂組成物を用いた、例えば、電子機器やFA機器などの内部配線の接続部や端末部を保護するのに用いられる熱収縮チューブに関するものである。」
「【0025】実施例1〜6
表1の実施例1〜3は、熱可塑性ポリウレタンエラストマー樹脂90重量%に、融点67℃で密度0.868の超低密度ポリエチレン、融点95℃の1,2−ポリブタジエン、SEBSをそれぞれ10重量%ブレンドした複合樹脂組成物をチューブ層に有する熱収縮チューブである。また、実施例4?6は、熱可塑性ポリウレタンエラストマー樹脂50重量%に、融点67℃で密度0.868の超低密度ポリエチレン、融点95℃の1,2−ポリブタジエン、SEBSをそれぞれ50重量%ブレンドした複合樹脂組成物をチューブ層に有する熱収縮チューブである。これら熱収縮チューブの熱回復率を算出したところ、95%〜100%であり、熱収縮チューブとして十分に機能を発揮することがわかった。また、−40℃下での耐屈曲回数は、23万回〜31万回であった。更に、また、耐摩耗性は、いずれも、10万回以上であった。従って、実施例1〜6は、低温でも耐屈曲性に優れ、かつ耐摩耗性にも優れる熱収縮チューブと言える。」

第6 当審の判断
1.引用発明
上記「第5 各引用文献の記載」の「1.引用文献6」の摘記事項より、次の事項が認定できる。

・被覆材14を含むケーブル12は、電気機器38のハウジング40の内周壁に挿通されている。
・ケーブル12の被覆材14の周囲を覆って、シリコーンからなる粘性を有する液状のシール材料である第一シーリング材24が配置されている。
・二次樹脂成形部材22が、第一シーリング材24を覆うように被覆材14を含むケーブル12の端末に成形されている。
・二次樹脂成形部材22と被覆材14とが接合する部分には、被覆材14を覆って、シリコーンからなる粘性を有する液状のシール材料である第二シーリング材26が配置されている。
・第一シーリング材24と第二シーリング材26とは、被覆材14を含むケーブル12に沿う方向に所定の距離を有して分離されている。

上記「第5 各引用文献の記載」の「1.引用文献6」の摘記事項及び上記認定事項より、引用文献6には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる。

[引用発明]
「電気機器38のハウジング40の内周壁に挿通される被覆材14を含むケーブル12の周囲を覆ってシリコーンからなる粘性を有する液状のシール材料である第一シーリング材24が配置され、
二次樹脂成形部材22が、第一シーリング材24を覆うように被覆材14を含むケーブル12の端末に成形され、
二次樹脂成形部材22と被覆材14とが接合する部分には、被覆材14を覆って、シリコーンからなる粘性を有する液状のシール材料である第二シーリング材26が配置され、
第一シーリング材24と第二シーリング材26とは、被覆材14を含むケーブル12に沿う方向に所定の距離を有して分離されている
防水構造。」

2.対比・判断
(1)本願発明1について
ア 対比
本願発明1と引用発明とを対比する。
引用発明の「電気機器38」、「ハウジング40の内周壁」及び「被覆材14を含むケーブル12」は、それぞれ本願発明1の「被取付部」、「取付け穴」及び「被覆電線」に相当する。
引用発明の「第一シーリング材24」は、シール作用がある部材であるといえるから、本願発明1の「シール部」に相当し、引用発明の「シリコーンからなる粘性を有する液状のシール材料である第一シーリング材24」は、シリコーンが絶縁性の材料であることを踏まえると、本願発明1の「絶縁性の弾性部材により形成されたシール部」との対比において、「絶縁性の部材により形成されたシール部」との限度で一致する。
引用発明の「二次樹脂成形部材22」は、本願発明1の「ハウジング」に相当し、引用発明の「ケーブル12の端末」は、本願発明1の「被覆電線の端末部」に相当するから、引用発明の「二次樹脂成形部材22」が「ケーブル12の端末に成形」されることは、本願発明1の「ハウジング」が「前記被覆電線の端末部に設けられて」いることに相当する。
そして、引用発明の「二次樹脂成形部材22」は、その成形工程や構造(引用文献6の段落【0015】及び【0017】)等からみて、「シリコーンからなる粘性を有する液状のシール材料である第一シーリング材24」よりも剛性が高い絶縁樹脂であることが技術的にみて明らかであるといえる。
以上を踏まえると、引用発明の「二次樹脂成形部材22が、第一シーリング材24を覆うように被覆材14を含むケーブル12の端末に成形され」ることは、本願発明1の「前記弾性部材より剛性が高い絶縁樹脂により形成されたハウジング」が「前記シール部を覆うように前記被覆電線の端末部に設けられて」いることに相当する。
引用発明の「シリコーンからなる粘性を有する液状のシール材料である第二シーリング材26」は、絶縁性の部材であるといえるから、本願発明1の「絶縁性の弾性部材により形成されたバリ切り部」との対比において、「絶縁性部材により形成された部分」との限度で一致する。
引用発明において、「シリコーンからなる粘性を有する液状のシール材料である第二シーリング材26」は、「二次樹脂成形部材22と被覆材14とが接合する部分に」、「被覆材14を覆って」、配置されるものであるから、二次樹脂成形部材22の一端部に連続して、被覆材14を含むケーブル12の周囲を覆って設けられているといえる。
したがって、引用発明の「二次樹脂成形部材22と被覆材14とが接合する部分には、被覆材14を覆って、シリコーンからなる粘性を有する液状のシール材料である第二シーリング材26が配置され」ることは、本願発明1の「前記被覆電線の周囲を覆う絶縁性の弾性部材により形成されたバリ切り部」が「前記ハウジングの少なくとも一端部に連続して設けられ」ていることとの対比において、「前記被覆電線の周囲を覆う絶縁性部材により形成された部分」が「前記ハウジングの少なくとも一端部に連続して設けられ」ているとの限度で一致する。
引用発明の「第一シーリング材24と第二シーリング材26とは、被覆材14を含むケーブル12に沿う方向に所定の距離を有して分離されている」ことは、本願発明1の「前記シール部と前記バリ切り部とが、前記被覆電線に沿う方向に所定の距離を有して分離されて」いることとの対比において「前記シール部と前記絶縁性部材により形成された部分とが、前記被覆電線に沿う方向に所定の距離を有して分離されて」いるとの限度で一致する。
引用発明の「防水構造」は、「第一シーリング材24」、「二次樹脂成形部材22」及び「第二シーリング材26」を備えるものであるといえるから、本願発明1の「防水構造」に相当する。
以上のとおりであるから、本願発明1と引用発明との一致点及び相違点は次のとおりとなる。

[一致点]
「被取付部の取付け穴に挿通される被覆電線の周囲を覆う絶縁性の部材により形成されたシール部と、
前記シール部を覆うように前記被覆電線の端末部に設けられて前記部材より剛性が高い絶縁樹脂により形成されたハウジングと、
前記ハウジングの少なくとも一端部に連続して設けられ前記被覆電線の周囲を覆う絶縁性部材により形成された部分と、
を備え、
前記シール部と前記絶縁性部材により形成された部分とが、前記被覆電線に沿う方向に所定の距離を有して分離されている、
防水構造。」

[相違点1]
「シール部」に関し、本願発明1は「弾性部材」であるのに対し、引用発明は「シリコーンからなる粘性を有する液状のシール材料」である点。
[相違点2]
「絶縁性部材により形成された部分」に関し、本願発明1は、「弾性部材により形成されたバリ切り部」であるのに対し、引用発明は「シリコーンからなる粘性を有する液状のシール材料である第二シーリング部材26」であり、バリ切り部との特定はされていない点。
[相違点3]
本願発明1は、「前記バリ切り部の一部が、前記ハウジングに覆われ、前記バリ切り部のうち前記ハウジングによりオーバーラップされた前記一部の外径が、それ以外の部分の外径より小さい」とされているのに対し、引用発明の「第二シーリング材26」の「二次樹脂成形部材22」との配置寸法関係について、そのような特定がされていない点。

イ 判断
事案に鑑み相違点2について検討する。
本願発明1は、「弾性部材により形成されたバリ切り部」を「ハウジングの少なくとも一端部に連続して設け」る構成を採用するところ、かかる「バリ切り部」は、金型に設けられたバリ切りを当該バリ切り部の外周に接触させることにより、金型に設けられたバリ切りが被覆電線の被覆に接触することによって被覆に傷が付くということを防ぐものである(本願の明細書の段落【0027】を参照。)。
してみると、本願発明1の「バリ切り部」は、金型に設けられたバリ切りが接触しても、ある程度の抵抗力を生じる程度の弾性を有する「弾性部材により形成されたバリ切り部」と特定されているものと理解できる。
これに対して、引用発明の「第二シーリング材26」は、「シリコーンからなる粘性を有する液状のシール材料」とされ、粘性を有する液状とされていることから、もっぱらシール機能を発揮させるための部材であるといえ、金型に設けられたバリ切りが接触しても、ある程度の抵抗力を生じる程度の弾性を有するものとすることを予定するものとはいえないし、引用文献6には、第二シーリング材26を弾性部材とすることによってバリ切り部とすることを示唆する記載もない。
また、引用文献6の段落【0015】〜【0018】の記載から把握される引用発明の「防水構造」を成形する工程からすれば、引用発明は第二シーリング部材26の配置後に第二シーリング材26をさらに覆う樹脂成形部材を成形するものではないから、引用発明の「第二シーリング材26」をバリ切り部とすることを予定するものとはいえない。
したがって、仮に電線の絶縁被覆上の周囲にシール部材を形成し、その後、ハウジングをシール部材上に射出成形すること、また、電線の絶縁被覆上の周囲に形成されたシール部材上にハウジングを射出成形する際に、シール部材にハウジングの金型の端面を当接させることが当業者に周知の技術的事項であるとしても(前者については引用文献1〜4、後者については引用文献3及び4を参照。)、かかる周知の技術的事項を引用発明に適用し、引用発明の「シリコーンからなる粘性を有する液状のシール材料である第二シーリング材26」を、弾性部材により形成されたバリ切り部とする動機付けはないといえる。
そして、本願発明1は、「弾性部材により形成されたバリ切り部」との相違点2の構成を有することにより、「金型合わせ部の挟み込みによる被覆電線の傷付きを防ぐことができる」という格別の作用効果を奏するものといえる(本願の明細書の段落【0008】及び【0027】を参照。)。
よって、他の相違点について検討するまでもなく、本願発明1は、当業者であっても引用発明及び引用文献1〜5に記載された技術的事項に基いて容易に発明できたものであるとはいえない。

2.本願発明2及び3について
本願発明2及び3も、本願発明1の「弾性部材により形成されたバリ切り部」と同一の構成を備えるものであるから、本願発明1と同じ理由により、当業者であっても、引用発明及び拒絶査定において引用された引用文献1〜5に記載された技術的事項に基いて容易に発明できたものとはいえない。

第7 原査定について
本願発明1〜3は「弾性部材により形成されたバリ切り部」という事項を有しており、当業者であっても、拒絶査定において引用された引用文献6に記載された発明及び引用文献1〜5に記載された技術的事項に基いて、容易に発明できたものとはいえない。したがって、原査定の理由を維持することはできない。

第8 むすび
以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2022-06-20 
出願番号 P2019-004453
審決分類 P 1 8・ 121- WY (H01R)
最終処分 01   成立
特許庁審判長 平田 信勝
特許庁審判官 尾崎 和寛
平瀬 知明
発明の名称 防水構造  
代理人 特許業務法人栄光特許事務所  

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