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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  H01B
審判 全部申し立て 2項進歩性  H01B
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  H01B
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  H01B
管理番号 1386103
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-07-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 2021-02-15 
確定日 2022-04-15 
異議申立件数
訂正明細書 true 
事件の表示 特許第6743233号発明「酸化物超電導線材」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6743233号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり訂正後の請求項〔1−3〕について訂正することを認める。 特許第6743233号の請求項1ないし3に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6743233号の請求項1ないし3に係る特許についての出願は、平成31年3月28日に出願され、令和2年7月31日にその特許権の設定登録がされ、令和2年8月19日に特許掲載公報が発行された。本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。
令和3年 2月15日 特許異議申立人 松本征二による特許異議
の申立て
令和3年 2月15日 特許異議申立人 藤本信男による特許異議
の申立て
令和3年 5月26日付け 取消理由通知書(以下、この取消理由通知
書による取消し理由を「取消理由」という
。)
令和3年 7月28日 特許権者による意見書及び訂正請求書(以
下、この訂正請求書による訂正を「本件訂
正」という。)の提出
令和3年 9月16日 特許異議申立人 松本征二による意見書(
以下、「意見書1」という。)の提出
令和3年 9月16日 特許異議申立人 藤本信男による意見書(
以下、「意見書2」という。)の提出
令和3年12月 1日付け 特許権者に対する審尋
令和3年12月28日 特許権者による回答書(以下、「回答書」
めっきという。)の提出
令和4年 1月31日 特許異議申立人 松本征二による上申書(
以下、「上申書1」という。)の提出
令和4年 2月10日 特許異議申立人 藤本信男による上申書(
以下、「上申書2」という。)の提出

第2 訂正の適否についての判断
1 訂正の内容
本件訂正の内容は、以下のとおりである。
(1)特許請求の範囲の請求項1に
「基板上に酸化物超電導層を有する超電導積層体と、
前記超電導積層体の外周を覆うCuめっき層からなる安定化層と、を備え、
前記Cuめっき層のビッカース硬さが70〜195HVの範囲であることを特徴とする酸化物超電導線材。」
とあるのを、
「基板上に酸化物超電導層を有する超電導積層体と、
前記超電導積層体の外周を覆うCuめっき層からなる安定化層と、を備え、
前記Cuめっき層のビッカース硬さが80〜190HVの範囲であり、
引張強度が600MPa以上であることを特徴とする酸化物超電導線材。」
に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項2ないし3も同様に訂正する。)。

(2)発明の詳細な説明の段落【0006】の
「前記課題を解決するため、本発明は、基板上に酸化物超電導層を有する超電導積層体と、前記超電導積層体の外周を覆うCuめっき層からなる安定化層と、を備え、前記Cuめっき層のビッカース硬さが70〜195HVの範囲であることを特徴とする酸化物超電導線材を提供する。」
という記載を、
「前記課題を解決するため、本発明は、基板上に酸化物超電導層を有する超電導積層体と、前記超電導積層体の外周を覆うCuめっき層からなる安定化層と、を備え、前記Cuめっき層のビッカース硬さが80〜190HVの範囲であり、引張強度が600MPa以上であることを特徴とする酸化物超電導線材を提供する。」
に訂正する。

本件訂正は、一群の請求項〔1−3〕に対して請求されたものである。また、明細書に係る訂正は、一群の請求項〔1−3〕について請求されたものである。
なお、下線は訂正箇所を示すものである。

2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)請求項1に係る訂正について
請求項1に係る「酸化物超電導線材」の「前記Cuめっき層のビッカース硬さが80〜190HVの範囲」とすることは、訂正前の「酸化物超電導線材」の「前記Cuめっき層のビッカース硬さが70〜195HVの範囲」を限定するものであり、また、請求項1に係る「酸化物超電導線材」の「引張強度が600MPa以上」とすることは、訂正前の「酸化物超電導線材」について限定を加えるものであるから、「前記Cuめっき層のビッカース硬さが70〜195HVの範囲であること」を「前記Cuめっき層のビッカース硬さが80〜190HVの範囲であり、引張強度が600MPa以上であること」とする訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
次に、明細書の発明の詳細な説明には、「酸化物超電導線材」の実施例としてCuめっき層のビッカース硬さが80〜190HVであるものが、段落【0041】の【表1】において番号2ないし6として記載されており、また、「酸化物超電導線材」の引張強度が600MPa以上であることは、段落【0042】に記載されている。よって、「酸化物超電導線材」の「前記Cuめっき層のビッカース硬さが80〜190HVの範囲であり、引張強度が600MPa以上であること」は、明細書に記載されており、新規事項に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(2)段落【0006】の訂正について
「前記課題を解決するため、本発明は、基板上に酸化物超電導層を有する超電導積層体と、前記超電導積層体の外周を覆うCuめっき層からなる安定化層と、を備え、前記Cuめっき層のビッカース硬さが70〜195HVの範囲であることを特徴とする酸化物超電導線材を提供する。」を
「前記課題を解決するため、本発明は、基板上に酸化物超電導層を有する超電導積層体と、前記超電導積層体の外周を覆うCuめっき層からなる安定化層と、を備え、前記Cuめっき層のビッカース硬さが80〜190HVの範囲であり、引張強度が600MPa以上であることを特徴とする酸化物超電導線材を提供する。」
とする訂正は、上記(1)の特許請求の範囲の訂正に伴う明細書の訂正である。そうすると、上記(2)の訂正は、明瞭でない記載の釈明を目的とする訂正であって、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

3 小括
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、明細書、特許請求の範囲の記載を、訂正請求書に添付した訂正明細書、特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1−3〕について訂正することを認める。

第3 訂正後の本件発明
本件訂正により訂正された訂正請求項1ないし3に係る発明は(以下、それぞれ「本件発明1」ないし「本件発明3」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。

本件発明1
「基板上に酸化物超電導層を有する超電導積層体と、
前記超電導積層体の外周を覆うCuめっき層からなる安定化層と、を備え、
前記Cuめっき層のビッカース硬さが80〜190HVの範囲であり、
引張強度が600MPa以上であることを特徴とする酸化物超電導線材。」

本件発明2
「前記Cuめっき層の平均結晶粒径が0.5〜1.25μmの範囲であることを特徴とする請求項1に記載の酸化物超電導線材。」

本件発明3
「前記Cuめっき層の長さ100μm当たりの平均の粒界の数が80個以上であることを特徴とする請求項1又は2に記載の酸化物超電導線材。」

第4 取消理由について
1 取消理由の概要
訂正前の請求項1ないし3に係る特許に対して、当審が令和3年5月26日に特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。
(1)請求項1に係る発明は、引用文献1に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当するから、請求項1に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである。

(2)請求項1に係る発明は、引用文献6に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当するから、請求項1に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである。

(3)請求項2及び3に係る発明は、引用文献6ないし10に記載された発明に基づいて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、請求項2及び3に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである。

(4)請求項1ないし3に係る特許は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、取り消されるべきものである。

2 引用文献の記載
(1)引用文献1
引用文献1(特開2010−218730号公報、特許異議申立人松本征二による特許異議申立書に記載の甲第1号証)には、図面とともに以下の記載がある。

「【技術分野】
【0001】
本発明は超電導線材および超電導線材の製造方法に関し、たとえばRE123系の超電導層を有する超電導線材および超電導線材の製造方法に関する。」

「【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1の超電導線材では、超電導層上に金属単体または合金よりなる下地安定化薄膜および安定化薄膜が形成されている。しかしながら、金属が積層された上記下地安定化薄膜および安定化薄膜では、機械的強度が十分でないという問題があることを本発明者は初めて明らかにした。
【0007】
そこで、本発明の目的は、機械的強度を向上する超電導線材および超電導線材の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の超電導線材は、基材と、基材上に形成された超電導層とを含むテープ状の本体部と、本体部の外周を覆い、かつ化合物が析出した金属めっき層とを備えている。
【0009】
本発明の超電導線材の製造方法は、基材と、基材上に形成された超電導層とを含むテープ状の本体部を準備する工程と、本体部の外周を覆い、かつ化合物が析出した金属めっき層を形成する工程とを備えている。
【0010】
本発明の超電導線材およびその製造方法によれば、金属めっき層は、異物としての化合物を含んでいる。この化合物により、金属めっき層は硬くなる。この化合物を含む金属めっき層が超電導層を含む本体部の少なくとも一部を覆っている。このため、超電導層が伸びることを抑制できる。したがって、超電導線材の機械的強度を向上することができる。」

「【0019】
(実施の形態1)
図1を参照して、本発明の一実施の形態における超電導線材1について説明する。本実施の形態における超電導線材1は、本体部10と、第1のめっき層21と、第2のめっき層22とを備えている。本体部10は、安定化層15と、安定化層15上に形成された基板11と、基板11上に形成された中間層12と、中間層12上に形成された超電導層13と、超電導層13上に形成された安定化層14とを含んでいる。第1めっき層21は、超電導層13側の最外周に形成され、第2めっき層22は、基板11側の最外周に形成されている。」

「【0021】
超電導層13はたとえばRE123系超電導体よりなっている。RE123系超電導体とは、RExBayCuzO7-dにおいて、0.7≦x≦1.3、1.7≦y≦2.3、2.7≦z≦3.3であることを意味する。また、RE123系超電導体のREとは、希土類元素およびイットリウム元素の少なくともいずれかを含む材質を意味する。また、希土類元素としては、ランタン(La)、ネオジム(Nd)、サマリウム(Sm)、ガドリニウム(Gd)、ホルミウム(Ho)、イットリウム(Y)、ジスプロシウム(Dy)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)およびルテニウム(Lu)からなる群から選択された少なくとも1種が含まれる。RE123系超電導線材は、液体窒素温度(77.3K)での臨界電流密度がビスマス系の超電導線材よりも高いという利点を有している。また、低温下および一定磁場下における臨界電流値が高いという利点を有している。一方で、RE123系超電導体はビスマス系超電導体のようにシース部で被覆することができないので、基板11上に気相法のみまたは液相法のみによって超電導体(超電導薄膜材料)を成膜する方法で製造される。」

「【0023】
第1のめっき層21は、本体部10の基板11側(本実施の形態では安定化層15下)を覆っている。言い換えると、第1のめっき層21は、超電導層13上に位置する本体部10の最外周に形成されている。第1のめっき層21は、化合物が析出した導電性の材料である。言い換えると、第1のめっき層21は、化合物が分散した金属めっき層である。化合物は、たとえばアルミナなどのセラミックス粒子、カーボンファイバーなどである。第1のめっき層21は、たとえば化合物が析出しているCuめっき層、Agめっき層などである。また、化合物の粒径は、たとえば1μm以下が好ましく、200nm以下がより好ましい。この場合、接触抵抗を小さくすることができる。」

「【0034】
以上説明したように、本実施の形態における超電導線材1およびその製造方法によれば、第1のめっき層21は、異物としての化合物を含んでいる。この化合物により、第1のめっき層21は硬くなる。この化合物を含む第1のめっき層21が超電導層13を含む本体部10の少なくとも一部を覆っている。このため、超電導層13が伸びることを抑制できる。したがって、超電導線材1の機械的強度を向上することができる。」

「【0043】
(実施の形態3)
図18を参照して、本実施の形態における超電導線材3は、基本的には実施の形態1の図1に示す超電導線材1と同様の構成を備えているが、第1のめっき層21が本体部10の全周を覆っている点において異なっている。つまり、本実施の形態では、第2のめっき層22が形成されていない。」

上記記載から、引用文献1には(実施の形態3)として、以下の発明(以下、「引用文献1発明」という。)が記載されている。

「安定化層15と、安定化層15上に形成された基板11と、基板11上に形成された中間層12と、中間層12上に形成されたRE123系の超電導層13と、超電導層13上に形成された安定化層14とを含んでいる、本体部10と、
本体部10の全周を覆っている第1のめっき層21を備え、
第1のめっき層21は、超電導線材1の機械的強度を向上することができる、アルミナなどの化合物が析出したCuめっき層である、
超電導線材1。」

(2)周知事項1
ア 引用文献2
引用文献2(特開2001−93364号公報、特許異議申立人松本征二による特許異議申立書に記載の甲第2号証)には、図面とともに以下の記載がある。

「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は超電導線材の製造方法、超電導線材および超電導コイルに関し、特に伸線工程においてフィラメントの断線を起こしにくい超電導線材の製造方法、超電導線材および超電導コイルに関する。」

「【0031】図1は本発明の第1の実施形態における超電導線材の製造工程を表すフロー図であり、図2、3は各工程を示す斜視図又は断面図である。図1に示されるように本実施形態に係るNb3Al超電導線材の製造は以下の工程(1)から(6)によって行われる。
【0032】(1)Nb系金属シート22とAl系金属シート24とを重ねて芯材26に巻き付ける(ラッピング)。このとき、芯材26としてアルミナ分散強化銅が用いられる。
【0033】図2(A)はこの巻き付けを行っている状態を示す斜視図であり、図2(A1)は芯材26の外周面にNb系金属シート22とAl系金属シート24とが巻かれた状態を示す断面図である。図2(A)、(A1)より芯材26の外周面がNb系金属シート22とAl系金属シート24とが交互に層を成した状態に覆われていることが判る。ここで、Nb系金属シート22とAl系金属シート24とが層状に重なったものをNb-Al系積層体28と呼ぶことにする。
【0034】(2)Nb-Al系積層体28で覆われた芯材26を第1のCu系金属管30中に挿入して(組込み)、単芯ビレット32を作成する。
【0035】図3(B)は作成された単芯ビレット32を示す斜視図である。図3(B)に示されるように、単芯ビレット32はNb-Al系積層体28が巻かれた芯材26が第1のCu系金属管30に挿入されたものとして構成される。
【0036】(3)前記単芯ビレット32を伸線加工して単芯線34を作成する。
【0037】図1では伸線加工の前処理として、押出し加工が示されている。これは、芯材26とNb-Al系積層体28との密着を良くして伸線加工時に芯材26とNb-Al系積層体28とが剥がれることのないようにするために行われる。
【0038】図3(C)は単芯線34を示す斜視図である。図3(C)では単芯線34は、6角柱状に整形されている。これは次の工程(4)において、第2のCu系金属管36に多くの単芯線34を収容できるようにするために行われる。図3(C)に示されるように、単芯線34は芯材26がNb-Al系積層体28により被覆され、さらにNb-Al系積層体28が第1のCu系金属管30によって被覆されたものとして構成される。
【0039】ここで、工程(3)の伸線加工後における芯材26とこれを被覆するNb-Al系積層体28の全体をフィラメント35と呼ぶことにする。伸線加工によって芯材26とNb-Al系積層体28は共に長く引き延ばされ、その結果フィラメント35は細線状の形状をしている。フィラメント35のうちNb-Al系積層体28の部分は超電導線材の超電導フィラメントとして機能する部分である。
【0040】(4)前記単芯線34の複数本を第2のCu系金属管36に収容して(組込み)多芯ビレット38を作成する。
【0041】図3(D)は多芯ビレット38を作成する工程の途中の状態を示す斜視図である。図3(D)に示されるように多芯ピレット38は第2のCu系金属管36に単芯線34が収容されたものとして構成される。
【0042】なお、図3(D)では工程(4)の途中の状態を示している関係から、第2のCu系金属管36の一部までしか単芯線34が収容されていない。好ましくは工程(4)において、第2のCu系金属管36内を単芯線34で埋め尽くすまで、単芯線34の第2のCu系金属管36への収容が行われる。これは次工程(5)での多芯化のための伸線加工において、多くの単芯線34を収容することにより、伸線加工時における単芯線の切断等に対する補償となる。
【0043】(5)前記多芯ビレット38を伸線加工して多芯線44を作成する。
【0044】図3(E)は工程(5)によって作成された多芯線44を示す斜視図である。図3(E)に示されるように多芯線44はフィラメント40がCu系マトリクス42に囲まれた(被覆された)構造をなしている。フィラメント40はフィラメント35が更に伸線加工されたものである。即ち、フィラメント35とフィラメント40はどちらも、芯材26とこれを被覆するNb-Al系積層体28に伸線加工がなされたものである。また、Cu系マトリクス42は第1のCu系金属管30及び第2のCu系金属管36が伸線加工によって合体した結果、形成されたものである。
【0045】(6)前記多芯線44に熱処理を施す。
【0046】この熱処理の結果としてフィラメント40がNb3Alの金属間化合物になり、 Nb3Al超電導ケーブルが作成されることになる。」

「【0075】第2のCu系金属管36にアルミナ分散銅を用いると、更に熱処理中に超電導線材の表面にキズがつきにくくなる。即ち、熱処理中でもアルミナ分散強化銅はビッカース硬度(Hv)で130と純銅(ビッカース硬度(Hv):40)と比べ硬度が大きい。このため熱処理中に例えば巻き取り作業を行っても線表面にキズがつきにくくなる。その結果、超電導線材の品質や電気的安定性を低下することなく効率の良い生産方法を適用することが容易になる。この一方、第2のCu系金属管36が例えば純銅であると、線表面が熱処理中に軟化するため表面のくぼみやキズ等が発生し易くなる。その結果、作成した超電導線が電気的に不安定になりやすく、品質管理も困難になる。」

「【0077】以上のように本発明に係る超電導線材の製造方法は第1のCu系金属管30または第2のCu系金属管36にアルミナ分散強化銅を使用しているため、伸線加工においてフィラメントの断線が生じにくく、超電導線材の臨界電流密度(超電導線材全体の断面積当たりの臨界電流)を大きくし易い。」

「【0079】さらに、熱処理工程における芯材26の柔軟化などに起因する超電導線材の断線、くびれ等が低減される。」

「【0093】熱処理炉54内部の温度分布を例えば50℃から800℃とする。多芯線44を例えば800℃で熱処理してそのまま大気中に取出すと、多芯線44の表面に厚い酸化銅が形成される。この酸化銅は多芯線44からはく離し多芯線44の線径が崩れる。特にCu系マトリクス42表面の銅が酸化により剥がれるとCu系マトリクス42は超電導線材の超電導状態を熱的、電気的に安定化する安定化銅として機能しなくなる。その結果、超電導線材のクエンチ時(超電導特性がなくなり常電導性になって抵抗を生じる)に超電導線材がジュール熱で断線する可能性が大きくなる。このため、多芯線44の排出口55付近では温度を50℃程度として、多芯線44が熱処理炉54内部から巻き取り側ドラム56によって排出された際の酸化銅の形成を制限している。」

【図3】

上記記載から、引用文献2には、以下の事項が記載されている。

「Nb−Al系積層体28が巻かれた芯材28を第1のCu系金属管30に挿入し、単芯ビレット32を構成し、
単芯ビレット32を伸線加工し、単芯線34を作成し、
単芯線34の複数本を、ビッカース硬度(Hv)130のアルミナ分散化銅を用いた第2のCu系金属管36に収容して、多芯ビレット38を作成し、
多芯ビレット38を伸線加工して多芯線44を作成し、
多伸線44を熱処理し、
Nb3Al超電導ケーブルを製造すること。」

イ 引用文献3
引用文献3(特開平7−21851号公報、特許異議申立人松本征二による特許異議申立書に記載の甲第3号証)には、図面とともに以下の記載がある。

「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、超電導体の安定化を図るために超電導体に添設されて使用される安定化材に関する。」

「【0015】図1には本発明の一実施例に係る超電導体用安定化材21の断面図が示されている。
【0016】この安定化材21は、高純度のアルミニウム材22と、このアルミニウム材22を被覆するように設けられた銅材23との複合構成に形成されている。
【0017】アルミニウム材22と銅材23との界面は凹凸面24に形成されており、特に凸面25と凹面26とには電気絶縁材であるアルミナ(Al2O3)層27が形成されている。アルミナ層27は、凹面26に比べて表面に近い凸面25により厚く形成されており、凸面25と凹面26との境界部分28にはほとんど形成されていない。
【0018】このような構成の超電導体用安定化材21は、図2に示す工程を経て製作される。まず、同図(a) に示すように、外径がたとえば 2mmで、内周面に軸方向に延びる溝30を複数有した銅管31を用意し、この銅管31内にたとえば外径が 0.3mmの高純度のアルミニウム線を多数挿入した後に線引きし、一体化してアルミニウム材22を銅材23で被覆してなる複合材33を形成する。前述した溝30の存在によって、アルミニウム材22と銅材23との界面に凹凸面24が形成される。」

「【0023】なお、酸化銅被膜34中の酸素を拡散浸透させてアルミニウム材22と銅材23との界面にアルミナ層27を形成させるには、600 〜750 ℃で熱処理する必要がある。高純度の銅は熱処理温度である600 〜750 ℃で機械的強度が大きく低下する。すなわち、室温でビッカース硬度Hvが100 から40程度に低下する。したがって、銅材23の代りに600〜750℃で硬度の低下し難いアルミナ分散強化銅(室温でHv=150、600〜750℃でHv=130)を用いてもよい。このようにアルミナ分散強化銅を用いた場合でも、界面にアルミナ層を点在生成させることができ、また合成比抵抗も高純度アルミニウム材単独の場合に近付けることができる。」

【図1】

上記記載から、引用文献3には、以下の事項が記載されている。

「超電導体用安定化材21を、高純度のアルミニウム材22と、このアルミニウム材22を被覆するように設けられたアルミナ分散強化銅(室温でHv=150、600〜750℃でHv=130)との複合構成に形成されていること。」

ウ 引用文献4
引用文献4(特開平8−31244号公報、特許異議申立人松本征二による特許異議申立書に記載の甲第4号証)には、図面とともに以下の記載がある。

「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、超電導線材、およびその製造方法に係り、さらに詳しくは、熱処理,圧延の繰り返し工程でも、均一な超電導体層を維持して良好な特性を呈する超電導線材、およびそのような超電導線材の製造方法に関する。」

「【0011】本発明において、芯線(中心線)を成す700℃以上の温度下で、硬度100以上の素材としては、たとえばAl2O3分散強化銅のような分散強化銅,Al2O3分散強化銀のような分散強化銀,銅Ta,Cu−Nb合金,Wなどが挙げられる。そして、この芯線は、超電導体層自体、もしくは超電導体層自体との間に介在するシース材層(たとえばAg層)の軟化や柔軟性による変形のし易さなどを抑制するため、700℃以上の温度下で、硬度100以上の特性を有することが必要である。図1および図2は、たとえばAl2O3分散強化銅について、焼きなまし温度とビッカース硬度との関係(図1の曲線A)、850℃での焼鈍時間と0.2%耐力(Mpa)との関係(図2)をそれぞれ示したもので、前記超電導体化温度で、高い硬度を維持しており、たとえばAg系シース材層の軟化や柔軟性による変形などの抑制に寄与する。」

【図1】

図1には、曲線Aとして、Al2 O3分散強化銅のビッカース硬度が130〜150であることが示されている。

そうすると、上記記載から、引用文献4には、以下の事項が記載されている。

「超電導体線材において、
芯線(中心線)に、ビッカース硬度が130〜150であるAl2O3分散強化銅を用いること。」

エ 引用文献5
引用文献5(特開平4−22016号公報、特許異議申立人松本征二による特許異議申立書に記載の甲第5号証)には、図面とともに以下の記載がある。

「(産業上の利用分野)
本発明は、化合物超電導体の製造方法に係わり、さらに詳しくは化合物超電導体の構成元素等の拡散による安定化材の電気抵抗の低下を防止した化合物超電導導体の製造方法に関する。」(第2頁左上欄16行ないし20行)

「実施例1
まず、第1図(a)に示すように、Cu系マトリックスとして外径50mmφの12重量%Sn-Cu合金からなる円筒部材を用意し、このCu-Snマトリツクス11の長手方向に多数の孔を開けて、この孔内にNb芯線12をそれぞれ埋設した。
次に、第1図(b)に示すように、上記Nb芯線12を埋設したCu-Snマトリツクス11を0.1重量%の酸素を含有するCu管13内に挿入し、さらにこれらを安定化材用のCu管14に挿入して、中間焼鈍を施しながら一体化しつつ所定の径まで減面加工を施した。
なお、上記酸素含有Cu管13は、大気中にて300℃で20時間の熱処理を施して、表面に酸化銅層を形成した後、3×10−6Torrの真空中にて725℃×5時間の条件で熱処理を施して、酸素を拡散させることにより、Cu中に酸素を含有させたものである。また、安定化材用のCu管14は3×10−6Torrの真空中にて700℃×10時間の条件で軟化熱処理を施したものである。
次いで、第1図(C)に示すように、上記減面加工後の線材に、大気中にて300℃で50時間の熱処理を施して、安定化材用Cu管14の表面にCuの酸化物(CuO+Cu2O)層15を形成した。
この後、3×10−6Torrの真空中において、700℃で100時間の熱処理を施し、Nb芯線12とCu-Snマトリツクス11中のSnとを反応させて、第1図(d)に示すようにNb芯線12の外周上にNb3Sn層16を形成した。
この熱処理の際に、Cu-Snマトリツクス11中のSnは、酸素含有Cu管13中を拡散するが、このCu管13中に含まれる酸素と化合し、Snの拡散はある程度押さえられるが、さらに酸素含有Cu管13中を拡散する。そこで、この実施例においては、安定化材用Cu管14の表面に形成したCuの酸化物層15の酸素か、安定化材用Cu管14中を拡散するため、酸素含有Cu管13中を拡散してくるSnを酸化物として捕獲し、酸素含有Cu層13と安定化材用Cu層14との間にSnの酸化物等からなるバリア層17が形成される。これによって、安定化材用Cu層14かSn等で汚染されることが防止されている。
このようにして得た化合物超電導線の安定性の基準となるRRRと臨界温度直上の20Kにおけるρ(以下同じ)を測定したところ、RRRは510で、ρは1×10-7Ω・cmであった。
また、本発明との比較のために、酸素含有Cu管を用いないと共に、安定化材用Cu管の表面に酸化物層の形成を行わない以外は、同様の工程により形成した化合物超電導線のRRRは13であり、またρは9×10-7Ω・cmであった。
これらの結果から、本発明の実施例による化合物超電導線は、RRRで40倍近く向上しており、安定性の大幅な向上が期待できることが分る。
また、これらの臨界電流密度を測定したところ、この実施例による化合物超電導線は、15テスラで230A/mm2と従来構造のものと比べて明らかな差は認められなかったが、上記RRRの測定結果からTa等による拡散防止層を用いることなく、安定化材の純度を保ち得ることが明らかとなった。」(第5頁右上欄5行ないし第6頁左上欄4行)

「実施例3
上記実施例1における酸素含有Cu管として、アルミナ分散強化Cuを用いた管状部材を用い、このアルミナ分散強化Cu管の外表面に、上記実施例2と同様に平目ローレット加工によって山形溝を形成したものを使用する以外は、実施例1と同一工程によって化合物超電導線を作製した。
このようにして得られた超電導線の断面を顕微鏡で観察したところ、酸素含有Cu層と安定化材用Cu層との境界面の凹凸形状がより明確に保持されていることを確認した。
これは、アルミナ分散強化Cuは、通常のCuに比べて高硬度(通常のCuはビッカーズ硬度でHv200g=40程度であるのに対し、アルミナ分散強化Cuはビッカーズ硬度でHv200g=120程度)であるため、このアルミナ分散強化Cu管の外表面に平目ローレット加工によって山形溝を形成し、この上に軟らかい安定化材用Cu管を被せることによって、山形溝の谷側に安定化材用Cuがくい込み易すくなるためである。
これによって、酸素含有Cu層と安定化材用Cu層との境界面からCu−3nマトリツクスまでの距離に明確な差が生じるため、より凹凸形状の谷側てSnの酸化物層を形成することが容易となり、電流の通路を確保し易くなる。
また、アルミナ分散強化Cuを用いることによって、酸素含をCu管としてのCu中に酸素を拡散させるための熱処理等が不要となるという利点も得られる。」(第6頁右上欄19行ないし右下欄7行)

上記記載から、引用文献5には、以下の事項が記載されている。

「化合物超電導体の製造方法において、
Nb芯線12を埋設したCu-Snマトリツクス11を内挿した、アルミナ分散強化Cuを用いた酸素含有Cu管13の、アルミナ分散強化Cuは、ビッカーズ硬度でHv200g=120程度であること。」

オ 上記アないしエから、「超電導線材に用いられる、アルミナ分散強化銅からなる芯線や管状部材のビッカース硬度は、120〜150Hvであること。」は、周知の事項(以下、「周知事項1」という。)であると認められる。

(3)引用文献6
引用文献6(特開2015−28912号公報、特許異議申立人藤本信男による特許異議申立書に記載の甲第1号証)には、図面とともに以下の記載がある。

「【技術分野】
【0001】
本発明は、希土類系酸化物超電導体により形成された超電導線材を巻回してなる超電導コイルの使用時にクエンチが生じたとき、十分な保護機能を発揮することができる超電導線材及びそれを用いた超電導コイルに関する。」

「【0018】
(第1実施形態)
以下、本発明の第1実施形態を図1〜図5に基づいて詳細に説明する。
図1に示すように、テープ状をなす超電導線材11は、基板12上に中間層13を介して超電導層14が形成され、それらの外周部に保護層15を介して銅製の安定化層16が被覆され、その安定化層16を覆うように銅より柔らかい金属製の金属層17が形成されて構成されている。なお、図1、図3及び図5は、理解を容易にするため模式的に描かれ、各層の厚さは実際より厚く描かれている。後述する第2〜第4実施形態の各図においても、同様に模式的に描かれている。」

「【0020】
超電導層14は、希土類系酸化物超電導体のCVD法(化学蒸着法)により、例えば厚さ約1μm、幅10mmに形成されている。希土類元素としては、ランタン(La)、ネオジム(Nd)、サマリウム(Sm)、ユウロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、イットリウム(Y)、イッテルビウム(Yb)等が挙げられる。希土類系酸化物としては、RE・Ba・Cu・O等が挙げられる。但し、REは希土類元素を表す。この超電導層14として具体的には、イットリウム・バリウム・銅酸化物(Y・Ba・Cu酸化物)、ランタン・バリウム・銅酸化物(La・Ba・Cu酸化物)等が挙げられる。」

「【0022】
前記安定化層16は銅により形成され、超電導状態が不安定になって抵抗が生じた場合でも、超電導層14に流れている電流を保護層15から安定化層16に迂回させて後述する超電導コイル10の超電導特性を安定化させる機能を有している。安定化層16を形成する銅には銅合金も含まれる。この安定化層16の厚さは通電電流の大きさに応じて厚くなるが、実用的には5〜30μmであることが好ましい。安定化層16の厚さが5μmより薄い場合には、安定化層16を流れる電流量が低下し、安定化層16としての機能が十分に発揮できなくなって好ましくない。その一方、安定化層16の厚さが30μmより厚い場合には、超電導線材11の剛性が高くなって取扱いが難しくなる傾向にあり、超電導コイル10の形成が困難になったりして好ましくない。
【0023】
この安定化層16は、銅めっきによって形成されることが好ましい。銅めっきは電気めっきの常法に従って行われるが、硫酸銅等のめっき液を用い、電極間に所要の電流を流すことにより行われる。この銅めっきにより、安定化層16を容易かつ安定した状態で形成することができる。
【0024】
次に、前記金属層17は、安定化層16を形成する銅よりも柔らかい金属により形成され、超電導線材11を巻回して超電導コイル10を形成したとき、隣り合う超電導線材11の金属層17間の密着性が良く、超電導線材11間の接触抵抗を低減できるようになっている。そして、超電導コイル10の使用時にクエンチが生じた場合には、隣接する超電導線材11の金属層17へ電流を流して局部的な発熱を抑え、超電導線材11を保護できるようになっている。
【0025】
金属層17を形成する金属としては、モース硬さ(モース硬度)が3.0未満の金属であることが好ましい。なお、銅のモース硬さは3.0である。この金属のモース硬さが3.0以上の場合には、超電導線材11を巻回して超電導コイル10を形成したとき、金属層17間の密着性が悪くなって超電導線材11間の接触抵抗が高くなり、クエンチが生じたときに発生電圧が高くなって超電導コイル10を保護することが難しくなる。」

【図1】

上記記載から、引用文献6には以下の発明(以下、「引用文献6発明」という。)が記載されている。

「基板12上に中間層13を介して超電導層14が形成され、それらの外周部に保護層15を介して銅製の安定化層16が被覆され、その安定化層16を覆うように銅より柔らかい金属製の金属層17が形成されて構成されているテープ状をなす超電導線材11であって、
超電導層14は、RE・Ba・Cu・Oからなる、希土類系酸化物超電導体であり、
安定化層16は、銅めっきにより形成され、モース硬さは3.0である、
超電導線材11。」

(4)周知事項2
ア 引用文献7
引用文献7(E.Wilfred Taylor、”Correlation of Mohs’s scale of hardness with the Vickers’s hardness numbers”、 Mineralogical Magazine and Journal of the Mineralogical Society、 Volume28、 Issue206、 September 1949、p.718−721、特許異議申立人藤本信男による特許異議申立書に記載の甲第2号証の1)


(第721頁)

「It will be seen that the quantitative Vickers's numbers are in the same sequence as Mohs's scale of hardness and that it may now be possible to correlate them, though it must be admitted that the numbers given for the first three minerals in the table are only approximate.」(第721頁1行ないし5行)
(和訳:定量的なビッカース数は、モース硬さのスケールと同じ順序であり、両者を相関させることができることが分かるが、表の最初の3つの鉱物に示されている数値は概算にすぎないことを認める必要がある。)

TABLE I.には、「モーススケールとビッカース硬度の数値との比較」が示されており、モース硬度3の方解石のビッカース硬度は105〜145であることが示されている。

イ 引用文献8
引用文献8(「鉱物の硬度」、[online]、2012年4月6日、iStone、[2021年2月10検索]、インターネット、特許異議申立人藤本信男による特許異議申立書に記載の甲第3号証の1)

モース硬度3の方解石のビッカース硬度は136であることが示されている。

ウ 引用文献9
引用文献9(「モース硬度」、[online]、2016年6月17日、熊谷質店、[2021年2月10検索]、インターネット、特許異議申立人藤本信男による特許異議申立書に記載の甲第4号証の1)

モース硬度3のカルサイトのビッカース硬度は140であることが示されている。

エ 上記アないしウから、「モース硬度3の方解石(カルサイト)は、ビッカース硬度の105〜145程度に対応すること。」は、周知の事項(以下、「周知事項2」という。)であると認められる。

(5)引用文献10
引用文献10(萩原秀樹、外2名、「フィルドビア硫酸銅めっきからの析出銅結晶の特性評価」、エレクトロニクス実装学会誌、Vol.9、No.2、2006年3月1日発行、p.113−118、特許異議申立人松本征二による特許異議申立書に記載の甲第9号証)には、以下の記載がある。

「一般に硫酸銅めっきによって成膜された銅被膜の結晶は、放置時間や熱処理によって再結晶化が起こる。その結果、結晶サイズが大きくなることが知られている。むろん、添加剤の種類やめっき条件にも影響を受けるが、この結晶サイズの増大化は結晶粒界を低減させ、その効果により皮膜の機械的物性や体積抵抗率、エッチング特性などが改善される。」(第113頁左欄6行ないし12行)

「2.実験
評価には、硫酸銅5水塩(mg/dm3):硫酸(mg/dm3):塩酸(mg/dm3)のみで構成された浴をVMSと称し、Table 1に示すような市販の4種のめっき浴を準備した。浴の選択にはビアフィリング用硫酸銅めっき浴として(1)染料系のフィルドA浴、(2)非染料系のフィルドB浴、(3)非染料系のフィルドC浴、比較として(4)非染料系のハイスローD浴を用いた。フィルドA浴はポリエーテル系有機化合物を主成分とするsuppressor、硫黄系有機化合物を主成分とするbrightenerおよびアゾ系有機化合物を主成分とするlevellerにより構成されている。フィルドBおよびC浴はポリエーテル系有機化合物を主成分とする。suppressorおよび硫黄系有機化合物を主成分とするbrightenerにより構成されている。ハイスローD浴はポリエーテル系有機化合物を主成分とするsuppressor、硫黄系有機化合物を主成分とするbrightenerおよびポリアミン系有機化合物を主成分とするlevellerにより構成されている。
これらめっき浴の特性を評価するため、まずポテンショスタット(北斗電工社製 HZ−3000)を用いて電流/電位曲線を測定し、そこから4浴における攪拌スピードと銅の析出量の関係を検討した。この時、作用極には5mmφの白金回転ディスク電極を、対局には3mmφ×50mm長さの銅棒を、参照電極には銀−塩化銀電極を用いた。また、攪拌スピードの調整は白金回転ディスク電極の回転数で行った。さらに、電流/電位曲線の測定はスキャン速度を100mV/sとしたサイクリックボルタンメトリー法で行い、そのデータには波形が安定する3サイクル目を採用した。設定電位(−0.225V〜1.575V)あたりの銅の析出量(mC)は、電流/電位曲線における銅の剥離曲線部分を付属の解析ソフトを用い積分計算して得た。
今回の評価で用いたテストピースには、ブラインドビアホール(以下:ビアホールと記す)径100および140μmφ、深さ65μmの設けられているパネル基板と、ビアホール径70μmφ、ランド径120μmφ、深さ45μmの設けられているパターン基板の2種を用いた。パネル基板ではビアホールへの析出性を確認するため、2A/dm2で20μmのめっき後にビアホールの断面観察を行った。さらに、めっき後の経時変化に伴う結晶子サイズの変化をX−ray diffraction(島津製作所社製 XRD−6100 以下:XRDと記す)測定から求めた。また皮膜の硬度測定を微小硬度計(AKASHI社製 MVK−G3)を用い、体積抵抗率を低抵抗率計(三菱化学社製 ロレスターEP)を用いて測定した。
パターン基板では代表してフィルドA、BおよびC浴を用い2A/dm2で15μmめっきした後、2週間室温で放置した後にFocused Ion Beam(エスアイアイ・ナノテクノロジーズ社製 SMI3050SE 以下:FIBと記す)を用い、ビアホール断面部のScanning Ion Microscopy(以下:SIMと記す)像の観察を行い結晶の見かけ上の粒径を求めた。さらに、この粒径とXRD測定によって算出された結晶子サイズとの大きさを比較した。」(第113頁右欄12行ないし第114頁右欄19行)


(第114頁左欄)

「3.4 硬度の測定
次に被膜の結晶特性と硬度の関係を確認するため、めっき直後から2週間経過するまでの被膜の硬度を測定した。その結果をFig.6に示す。いずれの浴もめっき直後は180Hv以上の高い硬度を示していたが、24時間後にはフィルドA浴以外の3浴において120Hvまでの低下が確認された。しかし、フィルドA浴は2週間経過しても他の3浴ほど硬度は低下しなかった。この原因もアゾ系のlevellerが関与していると考えられた。」(第116頁左欄22行ないし右欄7行)

「3.6 FIBによるSIM像観察
フィルドA,BおよびC浴を用いて、めっきしたパターン基板に設けられているビアホール周辺部の被膜をFIBによって削りだし、SIM像によって観察した結果をFig.8に示す。これらの像からは前述までの結果と一転し、いずれの浴においても銅の見かけ上の結晶粒径は1〜2μm程度であることがわかる。」(第116頁右欄20行ないし117頁左欄4行)


(第116頁右欄)

「これまでの報告から、一般にめっき被膜の硬さは、その結晶粒子の大きさに起因していることが知られている。これは、結晶粒径が微細になると結晶粒界が増加し、それはすべり面を固定することから結晶は動けなくなり、その結果、金属は硬くなるというものである。」(第117頁左欄18行ないし22行)

上記記載から、引用文献10には以下の事項(以下、「引用文献10記載事項」という。)が記載されている。

「めっき被膜の硬さは、結晶粒径に依存し、結晶粒径が微細になるほど硬くなり、硬度120Hv〜180Hv程度の銅めっき被膜の、結晶粒径は1〜2μm程度であること。」

3 当審の判断
(1)特許法第29条第1項第3号について
ア 請求項1に係る特許について
(ア)引用文献1発明について
本件発明1と引用文献1発明とを対比すると以下のことがいえる。
a 引用文献1発明の「基板11」、「RE123系の超電導層13」は、それぞれ本件発明1の「基板」、「酸化物超電導層」に相当する。

b 引用文献1発明の「安定化層15と、安定化層15上に形成された基板11と、基板11上に形成された中間層12と、中間層12上に形成されたRE123系の超電導層13と、超電導層13上に形成された安定化層14とを含んでいる、本体部10」は、「基板11」上に「超電導層13」を積層しているといえるから、引用文献1発明の「本体部10」は、本件発明1の「超電導積層体」に相当する。

c 本件特許明細書の段落【0018】に記載されているように、本件発明1の「安定化層」は、「酸化物超電導層12及び保護層14を機械的に補強」するものであり、また、「Cuめっき層からなる」ものである。
そして、引用文献1発明の「第1のめっき層21」は、「本体部10の全周を覆っている」ものであり、「本体部10」の外周を覆うものであるといえるから、引用文献1発明の「超電導線材1の機械的強度を向上することができる、アルミナなどの化合物が析出したCuめっき層」である「第1のめっき層21」は、本願発明1の「前記超電導積層体の外周を覆うCuめっき層からなる安定化層」に相当する。

d そして、引用文献1発明の「超電導線材1」は、本件発明1の「酸化物超電導線材」に対応する。

e してみると、本件発明1と、引用文献1発明とは、以下の点で一致し、また相違する。

[一致点]
「基板上に酸化物超電導層を有する超電導積層体と、
前記超電導積層体の外周を覆うCuめっき層からなる安定化層と、を備える
酸化物超電導線材。」

[相違点1]
本件発明1の「Cuめっき層からなる安定化層」は、「前記Cuめっき層のビッカース硬さが80〜190HVの範囲である」のに対して、引用文献1発明の「第1のめっき層21」のビッカース硬さについて特定されていない点。

[相違点2]
本件発明1の「酸化物超電導線材」は、「引張強度が600MPa以上である」のに対して、引用文献1発明の「超電導線材1」の引張強度について特定されていない点。

f 相違点についての当審の判断
事案に鑑み、相違点1について先に検討する。
超電導線材のアルミナなどの化合物が析出したCuめっき層からなる安定化層について、そのビッカース硬さを80〜190HVの範囲とすることが、本件特許の出願日前に周知の技術であったとはいえない。
なお、周知事項1にあるように、引用文献2ないし5には、「超電導線材に用いられる、アルミナ分散強化銅からなる芯線や管状部材のビッカース硬度は、120〜150Hvであること。」が記載されている。しかしながら、これらのアルミナ分散強化銅は、芯線や管状部材であり、めっきにより形成されているとはいえないから、周知事項1を根拠として、引用文献1発明の「アルミナなどの化合物が析出したCuめっき層」のビッカース硬さが80〜190HVの範囲であるということはできない。
そうすると、相違点2を検討するまでもなく、本件発明1は、引用文献1発明であるとはいえないから、請求項1に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものであるということはできない。

(イ)引用文献6発明について
本件発明1と引用文献6発明とを対比すると以下のことがいえる。
a 引用文献6発明の「基板12」、「RE・Ba・Cu・Oからなる、希土類系酸化物超電導体であ」る「超電導層14」は、それぞれ本件発明1の「基板」、「酸化物超電導層」に相当する。

b 引用文献6発明の「基板12上に中間層13を介して超電導層14が形成され、それらの外周部に保護層15を介して銅製の安定化層16が被覆され」たものは、「基板12」上に「超電導層14」を積層しているといえるから、本件発明1の「超電導積層体」に相当する。

c 引用文献6発明の「安定化層16」は、「銅めっきにより形成され」ており、また、「基板12上に中間層13を介して超電導層14が形成され、それらの外周部に保護層15を介して銅製の安定化層16が被覆され」ものであるから、引用文献6発明の「安定化層16」は、本願発明1の「前記超電導積層体の外周を覆うCuめっき層からなる安定化層」に相当する。

d そして、引用文献6発明の「超電導線材11」は、本件発明1の「酸化物超電導線材」に対応する。

e そうすると、本件発明1と、引用文献6発明とは、以下の点で一致し、また相違する。

[一致点]
「基板上に酸化物超電導層を有する超電導積層体と、
前記超電導積層体の外周を覆うCuめっき層からなる安定化層と、を備える
酸化物超電導線材。」

[相違点3]
本件発明1の「Cuめっき層からなる安定化層」は、「前記Cuめっき層のビッカース硬さが80〜190HVの範囲である」のに対して、引用文献6発明の銅めっきにより形成された「安定化層16」は、モース硬さが3.0であるとの特定はされているものの、ビッカース硬さについて特定されていない点。

[相違点4]
本件発明1の「酸化物超電導線材」は、「引張強度が600MPa以上である」のに対して、引用文献6発明の「超電導線材11」の引張強度について特定されていない点。

f 相違点についての当審の判断
事案に鑑み、相違点3について先に検討する。
超電導線材の銅めっきにより形成された「安定化層16」について、そのビッカース硬さを80〜190HVの範囲とすることが、本件特許の出願日前に周知の事項であったとはいえない。
なお、周知事項2にあるように「モース硬度3の方解石(カルサイト)は、ビッカース硬度の105〜145程度に対応すること」は周知の事項であるが、このことをもって、銅めっきにより形成されたモース硬さが3.0の「安定化層16」のビッカース硬さが80〜190HVの範囲であるということはできない。
すなわち、標準鉱物と測定試料とを相互にひっかき合わせて傷の有無からその硬度を定める方法である「モース硬度」と、押し込み硬度の一種であり、対面角θが136°の四角錐のダイヤモンドを、一定荷重P[kg]で一定時間測定試料に押し込み、試料表面に圧こんを生じさせ、その対角線の長さから算出する「ビッカース硬さ」とは、測定方法が全く異なっており、それぞれ異なる物理的性質を測定するものである。
してみると、モース硬度3の方解石(カルサイト)のビッカース硬さが105〜145HV程度であることをもって、方解石と物理的性質が異なる、引用文献6発明の銅めっきにより形成されたモース硬さが3.0の「安定化層16」のビッカース硬さが80〜190HVの範囲であるということはできない。
そうすると、相違点4を検討するまでもなく、本件発明1は、引用文献6発明であるとはいえないから、請求項1に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものであるということはできない。

(2)特許法第29条第2項について
ア 請求項1ないし3に係る特許について
本件発明1ないし3は、上記(1)ア(イ)で検討した相違点3における本件発明1の「前記Cuめっき層のビッカース硬さが80〜190HVの範囲である」ことを備えるものである。
そして、超電導線材の銅めっきにより形成された「安定化層16」について、そのビッカース硬さを80〜190HVの範囲とすることは、引用文献7ないし10には記載されておらず、本件特許の出願日前に周知の事項であったともいえない。
してみると、当業者であっても、本件発明1ないし3を、引用文献6発明及び引用文献7ないし10に記載された事項から、容易に発明することができたものであるとはいえない。
そうすると、請求項1ないし3に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるということはできない。

(3)特許法第36条第6項第1号について
本件訂正により、特許請求の範囲の請求項1の記載を
「基板上に酸化物超電導層を有する超電導積層体と、
前記超電導積層体の外周を覆うCuめっき層からなる安定化層と、を備え、
前記Cuめっき層のビッカース硬さが80〜190HVの範囲であり、
引張強度が600MPa以上であることを特徴とする酸化物超電導線材。」
と訂正した。
そして、「前記Cuめっき層のビッカース硬さが80〜190HVの範囲であり、引張強度が600MPa以上であること」は、本件特許明細書の発明の詳細な説明の段落【0041】、【0042】に記載されているから、本件発明1ないし3は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載したものである。
そうすると、請求項1ないし3に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるということはできない。

第5 取消理由において採用しなかった特許異議申立理由及び特許異議申立人の意見書について

1 甲号証の記載
(1)甲第1−1号証(特開2010−218730号公報、特許異議申立人松本征二による特許異議申立書に記載の甲第1号証、当審取消理由の引用文献1)には、上記第4の2(1)に記載された事項が記載されている。

(2)甲第1−2号証(特開2001−93364号公報、特許異議申立人松本征二による特許異議申立書に記載の甲第2号証、取消理由の引用文献2)には、上記第4の2(2)アに記載された事項が記載されている。

(3)甲第1−3号証(特開平7−21851号公報、特許異議申立人松本征二による特許異議申立書に記載の甲第3号証、取消理由の引用文献3)には、上記第4の2(2)イに記載された事項が記載されている。

(4)甲第1−4号証(特開平8−31244号公報、特許異議申立人松本征二による特許異議申立書に記載の甲第4号証、取消理由の引用文献4)には、上記第4の2(2)ウに記載された事項が記載されている。

(5)甲第1−5号証(特開平4−22016号公報、特許異議申立人松本征二による特許異議申立書に記載の甲第5号証、取消理由の引用文献5)には、上記第4の2(2)エに記載された事項が記載されている。

(6)甲第1−6号証(特開平10−69827号公報、特許異議申立人松本征二による特許異議申立書に記載の甲第6号証)には、図面とともに次の記載がある。

「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、高磁場を発生する超電導マグネットに用いられるNb3Sn超電導線の作製方法に関する。
【0002】
【従来の技術】従来よりNb3Sn超電導線の作製においては、Nb3Sn超電導化合物を作るために、Cuマトリックスの中にNb線およびSn線を、またはCuとSnとからなるブロンズマトリックスの中にNb線を挿入してえられる超電導複合材を断面減少加工したのち、該複合材に熱処理を施してSnを熱拡散させる。また、一般的にNb3Sn超電導線の周囲には、発生した熱量をすみやかに発散させるため、また、常電導部発生時電流のバイパスとするために低電気抵抗性のCuなどからなる安定化材を設けることは公知である。」

「【0005】しかし、通常、超電導線はその直径が約1.5mm以下、内部に組み込まれた拡散防止材であるTaの層の厚さが該直径の1/100以下となるように、前記のように断面減少加工を施す。このとき前記拡散防止材を設けたことから、超電導複合材とTaなどからなる拡散防止材とのあいだにおいて、たとえばビッカース硬度についてCuが80〜120、Taが150〜200と、機械的強度に大きな差があるため、図4に示すように、えられる超電導線の径方向にTa層などの形状の変化がおこって波打ちや肌荒れをおこしたり、ばあいによっては拡散防止材および/または超電導線自体が破断してしまうという問題があった。前記のように拡散防止材が破断してCuなどの安定化材が汚染されると、該安定化材が高い電気抵抗値を示すようになり、したがってえられる超電導線を用いて作製した超電導マグネットは熱的擾乱に対し耐えきれず不安定なものとなる。」

「【0008】拡散防止材としてTaまたはTa基合金からなる板を用い、該板とCuまたはCu基合金からなる板とを接合してなるクラッド板を、CuまたはCu基合金の層が内側になるように管状に成形し、前記複合組立に用いるのが好ましい。
【0009】拡散防止材としてNbまたはNb基合金からなる板を用い、該板とCuまたはCu基合金からなる板とを接合してなるクラッド板を、CuまたはCu基合金の層が内側になるように管状に成形し、前記複合組立に用いるのも好ましい。
【0010】また、拡散防止材としての管状のTaまたはTa基合金の内側に管状のCuまたはCu基合金を配置して複合組立するのが好ましい。
【0011】拡散防止材としての管状のNbまたはNb基合金の内側に管状のCuまたはCu基合金を配置して複合組立するのも好ましい。」

(7)甲第1−7号証(特開2014−143056号公報、特許異議申立人松本征二による特許異議申立書に記載の甲第7号証)には、図面とともに次の記載がある。

「【0001】
本発明は、高磁場マグネットなどに応用可能な高Jc(臨界電流密度)なNb3Sn超電導線材の前駆体および超電導線材に関するものである。」

「【0039】
安定化Cu層6は、超電導を安定化させるためのものであり、拡散バリア層5の外周に設けられる。安定化Cu層6は、Cuからなる。」

「【0042】
超電導線材の前駆体1は、Cu-Sn合金からなるCu-Sn合金パイプにNbまたはNb合金からなるロッドを挿入して減面加工した断面六角形状のNbエレメント素線と、CuパイプにSnまたはSn合金からなるロッドを挿入して減面加工した断面六角形状のSnエレメント素線とを束ね、束ねたNbエレメント素線とSnエレメント素線を、内周面にTaシートを設けたCuパイプに収容して多芯ビレットを組み立てた後、押出し、伸線などの減面加工(縮径加工)を経て形成される。多芯ビレットを減面加工することにより、Nbエレメント素線のロッドがNbフィラメント3に、Snエレメント素線のロッドがSnフィラメント4になる。さらに、Nbエレメント素線のCu-Sn合金パイプは第1中間層7となり、Snエレメント素線のCuパイプはCu層2となる。Nbエレメント素線とSnエレメント素線を収容するCuパイプは、減面加工を経て安定化Cu層6となり、その内周面に設けられたTaシートは拡散バリア層5となる。
【0043】
Cuのビッカース硬度は、およそ100〜120程度である。これに対して、Nbフィラメント3がNbからなる場合、Nbフィラメント3のビッカース硬度は約200程度である。Cuのビッカース硬度を120、Nbフィラメント3のビッカース硬度を220とすると、Nbフィラメント3のビッカース硬度は、Cuのビッカース硬度の約1.83倍となる。ビッカース硬度は変形し難さを表す変形抵抗に比例するものであり、ビッカース硬度が1.83倍になると同じ変形をするのに必要な力も1.83倍になる。」

(8)甲第1−8号証(小谷有理子、外3名、「電気銅めっきの皮膜特性における室温経時変化」、京都市産業技術研究所 研究報告、No.5、p43−49、特許異議申立人松本征二による特許異議申立書に記載の甲第8号証)には、次の記載がある。

「しかし,3次元微細構造体を作製するにあたり,構造体の小型化・微細化にともなう強度不足が懸念され,強度不足を補うために硬度の向上が求められている。しかし,硬度及び導電性はそれぞれ結晶粒に依存し互いにトレードオフの関係にあることから,硬度と導電性を高度に両立することは困難とされている。さらに,銅めっきは室温経時によりその結晶粒が成長し,硬度などの物性が変化することが知られている。」(第43頁左欄18行ないし右欄5行)

「2.実験方法
2.1 めっき浴組成及び電解条件
本研究で用いためっき浴の組成及び電解条件を表1に示す。めっき浴の建浴には硫酸銅五水和物と硫酸(いずれも和光純薬工業製特級),純水製造装置(日本ミリポア社製 ElixUV 3)で精製した純水を用いた。
予備検討により,比較的高硬度と良好な導電性を有する添加剤A系,一般的に微細配線に適用されている添加剤SPS系並びに基本浴の各浴から銅めっき皮膜を得た。
素地には銅板(山本鍍金試験器製,陰極面積:4.0cm2)を,陽極には含りん銅板(山本鍍金試験器製,陽極面積:6.25cm2)を用いた。電解条件については,浴温をウォーターバスで25℃とし,2A/dm2の電流密度で,マグ ネティックスターラーで400rpmの撹拌を行いながら定電流電解を行った。電析後,得られた皮膜を十分に水洗し,ドライヤーで冷風乾燥し,試料とした。」(第43頁右欄16行ないし第44頁左欄13行)


(第44頁左欄)

「2.2 めっき皮膜の硬度
硬度測定はJISZ2244に準拠した。硬度測定用試料のめっき厚さは約30mmとし,電析直後(電析から1時間以内)〜室温中で8日間まで1日毎にめっき皮膜の中心部をマイクロビッカース硬度計(HM-221,(株)ミツトヨ製,荷重0.02kg・f)を用いて3点測定し,その平均値から硬さを評価した。なお,皮膜表面粗さに伴う測定誤差を低減するために適宜,エメリー紙で研磨し測定を行った。」(第44頁左欄14行ないし22行)

「2.5 めっき皮膜の結晶粒径
めっき皮膜の結晶粒径は集束イオンビーム試料作製装置(JEM‐9310FIB,(株)日本電子製:以下,FIB)により加工を行い,試料を60度傾斜して,SIM像を観察した。なお,観察用試料のめっき厚さは約10mmとした。
FIB加工の前処理として,タングステンコートを行い,ビームによるダメージから試料最表層を保護した。」(第45頁左欄1行ないし7行)

「3.結果と考察
3.1 硬度に及ぼす室温経時変化の影響
各種添加剤を用いて得られた電気めっき皮膜の硬度に及ぼす室温経時変化を図1に示す。
電析直後では,基本浴から得られためっき皮膜は約110HVを示し,3次元微細構造体として用いるには硬度が不十分であった。微細配線に用いられている添加剤SPS系から得られためっき皮膜は約180HVを示し,高硬度であることが確認された。また,添加剤A系を用いた浴から得られためっき皮膜は電析直後に約150HVと基本浴の約1.4倍の硬さを示した。
8日間の硬度の室温経時変化を観察した結果,電析直後に高硬度であった添加剤SPS系では3日から6日にかけて著しい硬度の低下が確認され,約95HVを示した。一方,添加剤A系では室温経時における硬度の低下は認められず,8日後においても約150HVと一定であった。
以上のように,硬度の室温経時変化は添加剤種により異なり,SPS系では著しい硬度低下を示した。一方,添加剤A系では,比較的高い硬度を有し,室温経時安定性に優れためっき皮膜が得られることが判明した。」(第45頁左欄28行ないし右欄6行)

「3.5 めっき皮膜の結晶粒径に及ぼす添加剤の影響
さらに,結晶粒径と硬度の関連性を明らかにするために電気銅めっき皮膜の熱処理前後の断面FIB/SIM像を観察した。その結果を図6に示す。
添加剤SPS系を用いた皮膜では,電析直後は数百nmの非常に微細な結晶粒から構成されていたが,熱処理により著しい粒成長が確認され,数mmの結晶粒に成長することが観察された。一方,極めて室温経時安定性に優れ,硬度及び導電性が一定であった添加剤A系を用いた皮膜では,電析直後と熱処理後で粒径の著しい変化は観察されず,数百nm〜数mmの結晶粒から構成される皮膜であることが観察された。
金属材料の硬さはホールペッチ則に基づくため,結晶粒が微細なほど高硬度を示す。本検討においても,添加剤SPS系から得られた皮膜では,電析直後の硬さは約180HVと高硬度で,結晶粒が微細であったこととホールペッチ則が一致していた。また,金属材料の導電性は結晶粒径,不純物及び構造体の側面(界面)に依存すると報告されており,一般に結晶粒が微細なほど抵抗が大きくなり,導電性が低下することが知られている。添加剤SPS系から得られた皮膜では,電析直後の導電率は約IACS75%で非常に微細な結晶粒で構成されていた。しかし,熱処理後の導電率は約IACS90%を示し,結晶組織は粗大化した結晶粒で構成されていた。断面FIB/SIM像における添加剤SPS系の電析直後と熱処理後の結果からも,導電性は,構成する結晶粒径に依存することがわかった。上記の結果から,めっき皮膜のような薄膜の金属材料においても硬さ及び導電性はそれぞれ結晶粒径に依存することが示唆された。」(第47頁左欄23行ないし第48行左欄2行)

「4.まとめ
電気銅めっき法による3次元微細構造体の作製技術の開発を最終目的に,種々添加剤を用いて得られた電気銅めっき皮膜の硬度及び導電性の経時変化について検討した結果,以下のことがわかった。
1. 基本浴から得られた電気銅めっき皮膜の硬度は約110HVであり,導電性は約IACS85%を有する皮膜であることから,3次元微細構造体として用いるには硬度が不十分であった。
2. 一般に微細配線に用いられている添加剤SPS系から得られためっき皮膜では,電析直後の硬さ及び導電性は約180HV,約IACS75%であったが,室温経時により著しい硬度の低下(約95HV)並びに導電性の向上(約IACS90%)が生じることから3次元微細構造体として用いるには硬度が不十分であった。一方,添加剤A系から得られためっき皮膜では,電析直後の硬さ及び導電性は約150HV,約IACS80%であり,硬さは基本浴から得られた皮膜の約1.4倍を示した。さらに,室温8日間後でも電析直後と同程度の硬度及び導電性を保つことが認められ,経時安定性に優れていることが判明した。
3. 室温経過におけるめっき皮膜の結晶構造・微細組織について検討した結果,添加剤SPS系における回折パターン,回折強度,結晶子サイズ並びに結晶粒径は,室温経過に伴い大きく変化しており,硬さ及び導電性の室温経過の挙動と対応した。また,添加剤A系における結晶構造・微細組織においても,それら物性の挙動と対応しており,一定であった。すなわちめっき皮膜の室温粒成長に伴う構造の変化は,硬度及び導電性に大きく影響を及ぼすことが示唆された。」(第48頁左欄22行ないし右欄29行)

(9)甲第1−9号証(萩原秀樹、外2名、「フィルドビア硫酸銅めっきからの析出銅結晶の特性評価」、エレクトロニクス実装学会誌、Vol.9、No.2、p113−118、特許異議申立人松本征二による特許異議申立書に記載の甲第9号証、取消理由の引用文献10)には、上記第4の2(5)に記載された事項が記載されている。

(10)甲第1−10(Kozo Osamura et.al.、「Reversible strain limit of critical currents and universality of intrinsic strain effect for REBCO−coated conductors」、Superconductor Science and Technology、Vol.22、2009年1月23日、p.025015−1〜7、特許異議申立人松本征二による意見書1に記載の甲第10号証)には、次の記載がある。

「where Ic is the critical current at the permanent strain state after the applied strain is relieved and Ico is the initial value before the loading experiments.」(第2頁左欄1行ないし3行)
(和訳:ここで、Icは、加えられた歪みが取り除かれた後の永久歪み状態における臨界電流であり、Icoは、荷重実験前の初期値である。)


(第2頁右欄)

「Five different types of REBCO-coated conductors were tested, which were supplied by the manufacturing groups in the project. Their general architecture is as follows; substrate (50- 100 μm)/buffer layer (2-4 μm)/SC layer (0.5-2 μm)/cap layer (<20 μm). In table 1, the substrate and superconducting layer materials are indicated together with the technique of crystal growth of the SC layer. The Ni alloy cladding consisted of Ni/Ni-W bi-layers.
Tensile tests were carried out at room temperature (RT)and 77 K by using the tensile machine」(第2頁右欄1行ないし10行)
(和訳:本プロジェクトの製造グループから提供された5種類のREBCOコート導体を試験した。これらの一般的なアーキテクチャは、基板(50−100μm)/バッファ層(2−4μm)/SC層(0.5−2μm)/キャップ層(<20μm)である。表1に、基板および超電導層の材料が、SC層の結晶成長技術とともに示されている。Ni合金クラッドは、Ni/Ni−Wの2層からなる。
引張機械を用い、室温(RT)および77Kで引張試験を実施した。)

「The critical current measurement was carried out under tensile load in order to investigate the change of Ic as a function of uniaxial tensile strain.」(第2頁右欄17行ないし19行)
(和訳:一軸引張歪みの関数としてのIcの変化を調査するために、引張負荷の下で臨界電流測定を実施した。)


(第4頁左欄)


(第4頁左欄)

「As shown in figure 3, the stress dependence of the critical current depends strongly on the material used for the substrate.The stress level exceeds 1 GPa for two samples with Hastelloy substrates. On the other hand, the stress saturates at a low value for sample D with the Ni-W alloy.
According to the present standard procedure, the specimen was loaded up to the strain A and then the external load was released to zero level, until the strain was reduced to a permanent strain, where the Ic was measured. This procedure was repeated. Figure 4 shows the change of normalized critical current Ic/Icm as a function of strain, where Icm indicates the maximum critical current. As shown in figure 4, the normalized critical current decreases gradually beyond the maximum. After each measurement under the applied strain as shown by point G, the critical current was measured at the unloaded state given at point H. When the Ic/Icm at point H is 99%, point G is defined as the reversible strain limit. Thus the criterion is expressed as ‘99% Ic recovery’. The present definition for the reversible strain limit has been widely accepted by the authors [3, 4]. As shown in figure 4, in the present case, the reversible limit appeared at A(G) = 0.450%. Another criterion is the ‘95% Ic retention’ given by point P in the figure, where A(P) = 0.490%. Both points G and P are listed for all the samples in table 3.
Figure 5 shows the stress dependence of the normalized critical current for sample A, where the points G and P are plotted. The corresponding stresses for the 99% Ic recovery and the 95% Ic retention are listed in table 3.」(第3頁右欄35行ないし第4頁左欄26行)
(和訳:図3に示されるように、臨界電流の応力依存性は、基板に使用される材料に強く依存する。ハステロイ基板を有する2つのサンプルの応力レベルは1GPaを上回る。一方、Ni−W合金が使用されているサンプルDの場合、応力は低い値で飽和する。
この標準手順に従い、試験片に対し、歪みAになるまで負荷を加え、次に、歪みが減少して永久歪みになるまで、外部負荷を取り除いてゼロレベルにし、Icを測定した。この手順を繰り返した。図4は、歪みの関数としての規格化臨界電流Ic/Icmの変化を示し、Icmは最大臨界電流を示す。図4に示されるように、規格化臨界電流は、最大値を超えると徐々に減少する。点Gで示される加えられた歪みの下での各測定の後に、臨界電流を点Hで示される加えられた歪みの下での各測定の後に、臨界電流を点Hで示される無負荷状態で測定した。点HにおけるIc/Icmが99%のときの点Gを可逆歪み限界と定義する。よって、基準は「99%Ic回復」で表される。この可逆歪み限界の定義は、著者らによって、広く受け入れられている[3,4]。図4に示されるように、この場合、可逆限界はA(G)=0.450%にある。もう1つの基準は、図の点Pで示される「95%Ic維持」であり、A(P)=0.490%である。点Gおよび点Pの双方が表3のすべてのサンプルについて示されている。
図5は、サンプルAの規格化臨界電流の応力依存性を示し、点Gおよび点Pがプロットされている。99%Ic維持に対応する応力が、表3に示される。)


(第4頁右欄)


(第4頁右欄)

「(1) The mechanical properties were assessed at RT and 77 K. The greatest contribution to the properties is given by the metallic substrate.」(第6頁右欄17行ないし19行)
(和訳:(1)機械的性質をRTおよび77Kで評価した。この性質に対する寄与が最も大きいのは金属基板である。)

(11)甲第1−11号証(Kozo Osamura et.al.、「Internal residual strain and critical current maximum of a surrounded Cu stabilized YBCO coated conductor」、Superconductor Science and Technology、Vol.22、2009年4月8日、p.065001−1〜6、特許異議申立人松本征二による意見書1に記載の甲第11号証)には、次の記載がある。

「The samples used here were the surrounded Cu stabilized YBCO coated conductors. The manufacturer used the technical term ‘surrounded Cu stabilized' in order to emphasize the present special fabrication process as explained below. The architecture of the present coated conductors is as follows. The original coated conductor consists of Hastelloy substrate (50 μm)+IBAD Mg0(10 nm)+Homo-epi MgO (30 nm)+LMO(30 nm)+YBCO layer (1 μm)+Ag cap layer (2 μm). The original tape width is 12 mm. This original tape is called SCS12050. The tape is cut into widths of about 4 mm. The narrower tape is called SCS4050. The tapes were electrically plated with copper, with a thickness of 20 μm.
Tensile tests were carried out at room temperature (RT) and 77 K.」(第2頁左欄下から7行乃至右欄8行)
(和訳:ここで使用したサンプルは、Cu包囲安定化YBCOコート導体であった。製造業者は、以下で説明するこの特別な製造プロセスを強調するために、「Cu包囲安定化(surrounded Cu stabilized)」という技術用語を使用した。このコート導体のアーキテクチャは次のとおりである。元のコート導体は、ハステロイ基板(50μm)+IBAD MgO(10nm)+ホモエピタキシャルMgO(30nm)+LMO(nm)+YBCO層(1μm)+Agキャップ層(2μm)からなる。元のテープ幅は12mmである。この元のテープはSCS12050と呼ばれる。このテープを約4mmの幅に切断する。細かくなったテープはSDS4050と呼ばれる。これらのテープを銅で電気めっきし、厚さ20μmとした。
引張試験を室温(RT)および77Kで実施した。)

「The critical current measurement was carried out under tensile load in order to investigate the change of Ic as a function of uniaxial tensile strain.」(第2頁右欄15行乃至17)
(和訳:一軸引張歪みの関数としてのIcの変化を調査するために引張負荷の下で臨界電流測定を実施した。)

「The stress dependence of the normalized critical current is shown in figure 5. Both sets of data scaled well in the region up to point G. As shown later, point G indicates the reversible elastic limit. Thus the gradual decreasing behavior is a characteristic feature of the stress/strain dependence of the critical current.」(第4頁右欄27行乃至32行)
(和訳:規格化臨界電流の応力依存性を図5に示す。点Gまでの領域において、どちらのデータセットも良好に調整されていた。後に示すように、点Gは可逆弾性限界を示す。したがって、徐々に減少する挙動は,臨界電流の応力/歪み依存性の特徴的な特色である。)


(第5頁)

(第5頁左欄)

(第5頁右欄)

「Figure 7 shows the change of normalized critical current Ic/Icm as a function of strain. The loading curve means that the Ic-value was determined under the load keeping a strain level Aa. The unloading curve means that the load was released near to the permanent strain (Ap).
The normalized critical current was found to decrease gradually with increasing strain. After each measurement under the applied load as shown by point G, the critical current was measured at the unload state given at point H. When the Ic /Ico at point H is 99%, the point G is called the reversible limit qualifying as the 99% Ic recovery. Further, the reversible limit as the 99.5% Ic recovery was estimated.」(第5頁左欄1行乃至右欄1行)
(和訳:図7は、歪みの関数としての規格化臨界電流Ic/Icmの変化を示す。荷重曲線は、歪みレベルAaを維持する負荷の下でIc値が求められたことを意味する。負荷除荷曲線は、負荷が永久歪み(Ap)近くまで取り除かれたことを意味する。
規格化臨界電流は、歪みの増大に伴って徐々に減少することがわかった。点Gで示される負荷の下で各測定の後に、臨界電流を点Hで示される無負荷状態で測定した。点HにおけるIc/Icoが99%のときの点Gを、99%Ic回復と認められる可逆限界と呼ぶ。さらに、99.5%Ic回復における可逆限界を推定した。)

「The mechanical properties were assessed at RT and 77 K. The greatest contribution to the properties is given by the two metallic components: the Hastelloy substrate and Cu stabilized layers.」(第6頁左欄下から2行乃至右欄2行)
(和訳:機械的性質をRTおよび77Kで評価した。この性質に対する寄与が最も大きいのは、ハステロイ基板およびCu安定化層という2つの金属部品である。)

(12)甲第1−12号証(特開2012−109309号公報、特許異議申立人松本征二による意見書1に記載の甲第12号証)には、図面とともに次の記載がある。

「【技術分野】
【0001】
本発明は、超電導コイルに係り、更に詳しくは、巻芯に多層構造の薄膜超電導線材を巻き回してなるレーストラック、鞍型、楕円、長円、矩形等の円形ではない非円形の超電導コイルにおいて、超電導コイル内部に発生する剥離力を小さくし、超電導コイルの安定性を向上させた超電導コイルに関するものである。」

「【0023】
また、超電導テープ線1は、線材長手方向に対しては600MPaオーダの引張力に対しても熱電導特性が低下せず、高い機械的強度(耐応力)を有するが、長手方向に対して垂直方向の力である剥離方向の力に対しては長手方向より1桁以下の機械的強度しか有さず、弱いことが知られている。」

(13)甲第1−13号証(特開2016−53190号公報、特許異議申立人松本征二による意見書1に記載の甲第13号証)には、図面とともに次の記載がある。

「【技術分野】
【0001】
本発明は、分散強化銅含有材料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電線用導体や端子金具といった導電部材の材料などとして、分散強化銅が用いられている。分散強化銅は、銅を母材とし、この母材中に硬質粒子が分散した複合材料である。硬質粒子は、銅よりも硬い材質で構成される粒子である。具体的な硬質粒子の材質としては、金属炭化物、金属酸化物、および金属ホウ化物などのセラミックスが挙げられる。」

「【0110】
《試料2-2》
電解液に分散させる硬質粒子として、平均一次粒子径が25nmのAl2O3粉末を1cm3(4.0g)用いた以外は試験例1の試料1-1と同様にして分散強化銅をカソード上に電析させた。その後、得られた分散強化銅を試験例1と同様の剥離工程により剥離して試料2-2とし、そのビッカース硬さを測定した。この結果を表2に示す。」

「【0115】
【表2】



(14)甲第1−14号証(特表2012−532253号公報、特許異議申立人松本征二による意見書1に記載の甲第14号証)には、図面とともに次の記載がある。

「【技術分野】
【0001】
本発明は、基板上に金属-セラミック複合コーティングを製造する改善されためっき又はコーティング方法に関する。」

「【0090】
Al2O3ゾルを従来の電気めっきCu液中に添加することにより、Cu-Al2O3複合コーティングを調製した。前駆物質としてのトリ-sec-ブトキシド((C2H5CH(CH3)O)3Al)を使用して、Al2O3ゾルを合成した。少量の無水エタノールをビーカー中の97%Alトリ-sec-ブトキシド1.7017gに添加し、8.0630gの質量の増加を無水エタノールの重量として記録した。アルミニウムイソ-プロポキシドと水のモル比は、0.01:12.4であった。磁気撹拌下、脱イオン水158mLを、Alトリ-sec-ブトキシド及びエタノールの混合物中にゆっくり添加し、30%硝酸数滴を溶液中に添加して、pH値を3.5に調整した。この段階で、溶液は白色沈殿を含んでおり、全ての白色沈殿が溶解するまで60℃のホットプレート上でこれを撹拌した。最終的に、透明な酸化アルミニウムゾルを調製した。
【0091】
図31は、コーティングの微小硬さへのAl2O3ゾル濃度の影響を示す。Cuコーティングの約145HV50と比較して、ゾル増強Cu-Al2O3コーティングは、約181HV50の最大微小硬さを有し、約25%の改善を示す。」

(15)甲第1−15号証(C Barht et.al.、「Elector−mechanical properties of REBCO coated conductors from various industrial manufacturers at 77K,self−field and 4.2K,19T」、Superconductor Science and Technology、Vol.28、2015年2月13日、p.045011−1〜10、特許異議申立人松本征二による意見書1に記載の甲第15号証)には、次の記載がある。

「In this work, we will compare the influence of mechanical strains and stresses on the current carrying capabilities of REBCO coated conductor tapes from five major industrial manufacturers.」(第2頁左欄6行ないし9行)
(和訳:本論文では、我々は、主要な製造業者5社によるREBCOコート導体テープの通電能力に対する機械的な歪みおよび応力の影響を比較する。)


(第2頁)

「REBO tapes are layered conductors. By chemical or physical means, layers of metal oxides (buffer layers), a superconducting REBCO layer and stabilizing silver and copper layer are deposited with a two dimensional texture upon a substrate of structural material (usually Hastelloy R, stainless steel or nickel alloys). Due to this type of manufacturing, REBCO tapes are often referred to as coated conductors. Their layout is shown schematically in figure 1.」(第2頁左欄27行ないし34行)
(和訳:REBCOテープは積層導体である。化学的または物理的手段により、金属酸化物層(バッファ層)、超電導REBCO層、ならびに銀および銅の安定化層を、構造材料(通常はハステロイ、ステンレス鋼またはニッケル合金)からなる基板上に平面的に堆積させた。REBCOテープは、このように製造されることからコート導体と呼ばれることが多い。図1にこれらのレイアウトを概略的に示す。)

「3.4. Investigated samples
In this work, REBCO coated conductors from the major industrial manufacturers Bruker HST, Fujikura, SuNAM, SuperOx and SuperPower are characterized. An overview of the investigated samples including their strain corrections, zero strains εzero and bending strains εbending is given in table 1.」(第4頁右欄21行ないし27行)
(和訳:3.4 調査したサンプル
本論文では、主要な製造業者であるBruker HST、Fujikura、SuNAM、SuperOx、およびSuperPowerによるREBCOコート導体の特徴を説明する。調査したサンプルの、歪み補正、ゼロ歪みεZEROおよび曲げ歪みεbendingを含む概要を、表1に示す。)


(第5頁)

「4.2. Stress - strain correlation
As described in subsection 3.3, the samples’ correlation of applied strain and mechanical stress is measured at 77K and 4.2 K. The 77K data is shown in graph (a) of figure 8 and the 4.2K data in graph (b). For the sake of readability, all 'mini loops' (partial release of the stress at certain strains) have been removed from the graphs. Young’s moduli are obtained at the 'mini loops' performed at 0.3% strain. The highest Young’s modulus and yield strength are encountered for the tape from SuperOx, followed by SuperPower and SuNAM. With its stainless steel substrate, the stress - strain curve of the Bruker HTS tapes is more 'round' resulting in the poorest mechanical properties. For the other manufacturers, the differences are mainly due to varying copper - Hastelloy ratios. Comparing 77K and 4.2 K, all sample’s mechanical properties are very similar: their Young’s modulus are identical at both temperatures while their mechanical yield strengths Rp0.2 are roughly 10% higher at 4.2 K.」(第6頁左欄34行ないし右欄14行)
(和訳:4.2 応力と歪みの相関
3.3節に記載したように、サンプルの、加えられた歪みと機械適応力の相関を、77Kおよび4.2Kで測定した。77Kのデータは図8のグラフ(a)に、4.2Kのデータは図8のグラフ(b)に示される。読み取り易くするために、すべての「ミニループ」(特定の歪みにおける応力の部分的解放)をグラフから削除した。0.3%の歪みで実施された「ミニループ」においてヤング率が得られる。ヤング率および降伏強度が最も大きいのはSuperOxのテープであり、SuperPowerおよびSuNAMのテープがそれに続いている。基板がステンレス鋼であるBruker HTSのテープの応力歪み曲線は、「丸み」がより大きく、結果として機械的性質が最も劣っている。他の製造業者については、違いは主として銅とハステロイの比率の相違によるものである。77Kと4.2Kとを比較すると、すべてのサンプルの機械的性質は極めてよく似ており、ヤング率はどちらの温度でも同一であるのに対し、機械的降伏強度Rp0.2は4.2Kの方がおおよそ10%高い。)

「4.3. Normalized critical current vs. stress
Combining the strain dependent current carrying capabilities (subsection 4.1) with the samples’ stress - strain correlation (subsection 4.2) yields their normalized critical current versus mechanical stress. The 77 K, self-field stress dependence is shown in graph (a) of figure 10 and the 4.2 K, 19T stress dependence in graph (b). The differences between the samples are lower in stress than in strain, as the tapes from Bruker HTS which exhibit high irreversible strain εirr have low mechanical properties due to their stainless steel substrate, leading to lower irreversible stress (σirr of 660-670MPa at 77K and 740-750MPa at 4.2 K). The high mechanical strength of Hastelloy results in high irreversible stress limits even for the tapes with low irreversible strain(σirr of 690-700MPa, 740-760MPa at 77K and 690-760MPa, 770-800MPa at 4.2K for Fujikura respectively SuperOx tapes). This brings the irreversible stress limits σirr of all investigated REBCO tapes close together, especially at 4.2K where all irreversible limits are within the 740-840MPa range.」(第7頁左欄3行ないし右欄10行)
(和訳:4.3 規格化臨界電流 vs 応力歪みに依存する通電能力(4.1節)を、サンプルの応力と歪みの相関(4.2節)と組み合わせると、サンプルの規格化臨界電流vs機械的応力が得られる。77K、自己磁場における応力依存性は図10のグラフ(a)に、4.2K、19Tにおける応力依存性は図10のグラフ(b)に示される。これらのサンプル間の相違は、歪みよりも応力の方が小さく、不可逆歪みεirrが大きいBruker HTSによるテープは、その基板がステンレス鋼であることに起因して機械的性質が悪く、結果として不可逆応力は小さくなる(σirrが77Kで660〜670MPa、4.2Kで740〜750MPa)。ハステロイは機械的強度が大きく、結果として、不可逆歪みが小さいテープであっても不可逆応力限界は高くなる(FujikuraおよびSuperOxのテープはそれぞれ、σirrが、77Kで690〜760MPa、740〜760MPaであり、4.2Kで690〜760MPa、770〜800MPaである)。よって、調査したすべてのREBCOテープの不可逆応力限界σirrは互いに近く、特に、4.2Kではすべての不可逆限界が740〜840MPaの範囲にある。)


(第8頁)

(第8頁)

「In a third step, the WASP measurements are combined with the samples mechanical properties yielding the samples’ dependence of their reduced critical current on applied stress. While the investigated coated conductor tapes are very different in their irreversible strain limits, their irreversible stress behavior is much more similar. Especially at 4.2 K, 19 T, stresses have almost no effect on the current carrying capabilities within the reversible region and the irreversible stress limits of all samples are in the 740 - 840MPa range. The irreversible stress limits are lowest for Bruker HTS due its 'round' stress - strain correlation combined with a low yield strength and highest for SuperPower. Below 600MPa, there are no differences in the samples’ strain dependencies of their critical currents. All mechanical and electro-mechanical properties of the investigated REBCO tapes are summarized in table 2 at 77 K, self-field and 4.2 K, 19 T.
Below 0.4% strain and below 600MPa longitudinal tensile stress, there are no differences between the samples. On the other hand, in the case of applications where conductors are exposed to higher strains or stresses, great attention needs to be paid to the choice of the conductor.」(第8頁右欄14行ないし第9頁左欄13行)
(和訳:第3段階において、WASP測定値をサンプルの機械的性質と組み合わせることにより、サンプルの低下した臨界電流の、加えられた応力に対する依存性を得る。調査したコート導体テープは、その不可逆歪み限界に大きな相違があるが、その不可逆応力挙動は非常によく似ている。特に4.2K、19Tにおいて、応力は、可逆領域内の通電能力に対してほとんど何の効果もなく、すべてのサンプルの不可逆応力限界は740〜840MPaの範囲に含まれる。不可逆応力限界が最も低いのは、その「丸い」応力歪み相関が低い降伏強度と組み合わさっているBruker HTSであり、最も高いのはSuperPowerである。600MPa未満において、サンプルの臨界電流の応力依存性に違いはない。調査したREBCOテープの、77K、自己磁場、および4.2K、19Tにおける、すべての機械的および電子機械的性質は、表2にまとめられている。
歪みが0.4%未満でありかつ長手方向引張応力が600MPa未満である場合、サンプル間に相関はない。一方、導体がより大きな歪みまたは応力に晒される用途の場合は、導体の選択に一層注意を払う必要がある。)

(16)甲第1−16号証(特開2008−234957号公報、特許異議申立人松本征二による意見書1に記載の甲第16号証)には、図面とともに次の記載がある。

「【技術分野】
【0001】
本発明は、超電導電力ケーブル、超電導マグネット、超電導エネルギー貯蔵装置、超電導変圧器、超電導限流器、MRI装置などの超電導機器に用いられる薄膜超電導線の接続方法及びその接続構造体に関する。」

「【0007】
しかしながら、特許文献1では、銀層が非常に薄いために、接続された 2本の超電導線に引張り応力や曲げ応力が加わると、銀層と超電導層の間で剥離が起きたり、銀層が切れたりし、機械的に弱い問題があった。また、線材の臨界電流に近い電流が流れると、2本の線材間の接続抵抗によって発熱し、接続部から超電導破壊を起こして、接続部が焼損する問題があった。」

「【実施例1】
【0038】
接続する第1の薄膜超電導線10としては、ハステロイ(登録商標:以下同様)(ニッケル-鉄合金)を圧延して、幅10mm、厚さ0.1mmにした基板(1)11の上に、イオンビームアシストスパッタリング法によりYSZ(イットリウム安定化ジルコニア)の中間層(1)12を0.5μm形成し、さらにその上にプラズマレーザー堆積法でYBCO(イットリウム-バリウム-銅-酸素)酸化物を1μm積層して超電導層(1)13を形成した。超電導層(1)13の劣化防止のために超電導層(1)13の上には、5μmの銀を真空蒸着法でつけ金属保護層(1)14を形成し、さらにその上に、低融点金属Aで厚さ0.1mmの銅テープを接合して銅からなる安定化金属層15を形成して第1の薄膜超電導線10を製作した。この第1の薄膜超電導線10を、液体窒素に入れて臨界電流を測定したところ200Aであり、さらに過電流に対する耐性として700Aの電流を2秒間流したが、焼損や臨界電流の低下などの劣化が全くなかった。また、この超電導線の引っ張り試験を室温で行ったところ、1000MPaで線材が破断した。」

(17)甲第2−1号証(特開2015−28912号公報、特許異議申立人藤本信男による特許異議申立書に記載の甲第1号証、取消理由の引用文献6)には、上記第4の2(3)に記載された事項が記載されている。

(18)甲第2−2号証(E.Wilfred Taylor、”Correlation of Mohs’s scale of hardness with the Vickers’s hardness numbers”、 Mineralogical Magazine and Journal of the Mineralogical Society、 Volume28、 Issue206、 September 1949、p.718−721、特許異議申立人藤本信男による特許異議申立書に記載の甲第2号証の1、取消理由の引用文献7)には、上記第4の2(4)アに記載された事項が記載されている。

(19)甲第2−3号証(「鉱物の硬度」、2012年4月6日、iStone、インターネット、特許異議申立人藤本信男による特許異議申立書に記載の甲第3号証の1、取消理由の引用文献8)には、上記第4の2(4)イに記載された事項が記載されている。

(20)甲第2−4号証(「モース硬度」、2016年6月17日、熊谷質店、インターネット、特許異議申立人藤本信男による特許異議申立書に記載の甲第4号証の1、取消理由の引用文献9)には、上記第4の2(4)ウに記載された事項が記載されている。

(21)甲第2−5号証(C Barht et.al.、「Elector−mechanical properties of REBCO coated conductors from various industrial manufacturers at 77K,self−field and 4.2K,19T」、Superconductor Science and Technology、Vol.28、2015年2月13日、p.045011−1〜10、特許異議申立人藤本信男による意見書2に記載の甲第5号証)には、上記(15)に記載された事項が記載されている。

(22)甲第2−6号証(Kozo Osamura et.al.、「Reversible strain limit of critical currents and universality of intrinsic strain effect for REBCO−coated conductors」、Superconductor Science and Technology、Vol.22、2009年1月23日、p.025015−1〜7、特許異議申立人藤本信男による意見書2に記載の甲第6号証)には、上記(10)に記載された事項が記載されている。

(23)甲第2−7号証(Kozo Osamura et.al.、「Internal residual strain and critical current maximum of a surrounded Cu stabilized YBCO coated conductor」、Superconductor Science and Technology、Vol.22、2009年4月8日、p.065001−1〜6、特許異議申立人藤本信男による意見書2に記載の甲第7号証)には、上記(11)に記載された事項が記載されている。

(24)甲第2−8号証(宮崎寛史 外7名、「イットリウム系含浸コイルのフープ力印可試験」、第82回2010年度春期低温工学・超電導学会講演概要集、2010年5月12日、p.203、特許異議申立人藤本信男による意見書2に記載の甲第8号証)には、次の記載がある。

「1.はじめに
超電導コイルを励磁すると、フープ力により超電導線材に引張応力が発生する。イットリウム系線材は、Hastelloy基板の線材で600MPa以上、NiW基板の線材においても400MPa以上の引張応力下で超電導特性が低下しないことが報告されており、イットリウム系超電導コイルは、これまでにない高い引張強度を有することが期待されている。」(第203頁左欄1行ないし7行)

(25)甲第2−9号証(特開2006−299363号公報、特許異議申立人藤本信男による意見書2に記載の甲第9号証)には、図面とともに次の記載がある。

「【技術分野】
【0001】
本発明は、優れたバネ性及び導電性が要求される電気接点用途に適したCuめっき鋼板を製造する方法に関する。」

「【0012】
めっき工程を冷間圧延の前に置いたことからめっき原板がCuめっき層と共に冷間圧延されるので、めっき原板として母材硬さ:300HV以下が必要である。冷間圧延では被圧延材が変形することにより板厚が減少するが、母材とCuめっき層で変形難易度が大きく異なると母材/Cuめっき層の断面積比に変動をきたす。母材,Cuめっき層をほぼ同じ断面減少率で圧下するためには母材/Cuめっき層の硬度差を小さくする必要がある。Cuめっき層の硬さは通常80〜160HVの範囲にあるので、母材硬さを300HV以下とすることにより硬度差を減少した。なお、母材硬さは、鋼材組成,熱間圧延時の巻取り温度,熱間圧延後の焼鈍温度等で調整できる。」

(26)甲第2−10号証(特開2014−188655号公報、特許異議申立人藤本信男による意見書2に記載の甲第9号証)には、図面とともに次の記載がある。

「【技術分野】
【0001】
本発明は、多結晶シリコンを切断するための多結晶シリコン切削用ワイヤ工具および、これを用いた多結晶シリコンの切断方法に関するものである。」

「【0047】
また、めっき層15は、銅、亜鉛、銀などの金属が使用可能であるが、銅が最も好ましい。めっき層15のビッカース硬度が60HV以上200HV以下であることが好ましく、80HV以上180HV以下であることがより好ましい。めっき層15の硬度が60HVより小さいと、砥粒13の保持力が不十分になり、加工中に脱落する砥粒が多くなってしまう。めっき層15の硬度が200HVより大きいと、砥粒13の保持力は十分であるが、めっき層15の金属が硬く、ウエハを傷つけてしまう恐れが多くなる。また、80HV以上であると、めっき層の硬さが60HVの場合より確実に砥粒を保持できるのでより好ましい。」

「【0060】
(実施例1)
本発明にかかるワイヤ工具は以下のように製造した。直径120μmのピアノ線上に銅めっきが1μm被覆された芯線に、平均粒径9.6μmのダイヤモンドを銅めっき層5.0μm形成し固定した。ダイヤモンドは、キャタリスト・アクセレレータ法で、表面にパラジウムを担時した。このダイヤモンドを硫酸銅、硫酸、光沢剤で構成されためっき浴に添加し複合めっきをすることで、ダイヤモンド砥粒を取り込みながらめっき層を形成した。このワイヤ工具のめっき層のビッカース硬度を測定したところ、80HVであった。
【0061】
(実施例2〜3)
また、実施例2、実施例3は光沢剤の量を変えることで硬度を調整した他は、実施例1と同様にして製造した。実施例2、実施例3のそれぞれのめっき層のビッカース硬度を測定したところ、142HV、196HVであった。また、本発明では、実施例2に硫酸塩浴を用いたが、硫酸塩浴に変えて、シアン化物浴を用いることも可能である。」

「【0071】
【表1】



(27)乙第3号証(神田良照 外1名、「岩石と鉱物のビッカース硬度」、粉体工学研究会誌、1976年、13巻9号、p.487−489、特許権者による意見書における乙第3号証)

「1. はじめに
岩石あるいは鉱物 の硬度は,建築材料とくに表面装飾などに用いられる岩石の摩耗や,岩石の切削に用いる刃先の摩耗,それに鉱物の粉砕性1)などを問題とする場合に,考えなくてはならない性質である。
これまで,岩石や鉱物の硬度としては,測定の簡単なモース硬度が一般に広く使用されてきている。これは任意に選んだ10種類の標準鉱物と測定試料とを相互に引っかき合わせて傷の有無からその硬度を定める方法であり,定量的にきちんと比較して定められたものではないという問題を含んでいる。」(第15頁左欄1行ないし12行)

「2. 装置ならびに実験方法
ビッカース硬度Hvは,押し込み硬度の一種である。対面角θが136°の四角錐形のダイアモンドを,一定荷重p〔Kg〕で一定時間測定試料に押し込み,試料表面に圧こんを生じさせ,その対角線の長さdx, dy〔mm〕からEq.(1)を用いて算出するもので,〔Kg/mm2〕の単位である4)。」(第15頁左欄20行ないし25行)

「4. モース硬度とビッカース硬度との関係
これまで, 岩石や鉱物の硬度として, 一般に広く使用されてきたモース硬度と, 著者らが今回測定したビッカース硬度との関係を求めることは, 実用上重要な意味を持つと思う。Fig. 6に, 各試料について測定したモース硬度Hとビッカース硬度Hvとの関係を, 両対数紙上に示した。
Fig. 6からわかるように, この両者の間には, ほぼ一定の関係が成立していた。」(第16頁右欄3行ないし第17頁左欄7行)


(第17頁右欄)

(28)乙第7号証(Hyung−Seop Shin et.al.、「The strain effect on critical current in YBCO coated conductors with different stabilizing layers」、Superconductor Science and Technology、2005年、p.S364−S368、特許権者による意見書における乙第7号証)

「For Ic measurement during tensile tests, GFRP sheets were inserted between the specimen and the gripping holder for electrical insulation. Voltage taps were attached at the central region of the specimen with a separation of 20 mm. I-V curves were measured using the four-probe method at 77 k in self-field, and Ic was defined by a 1 μVcm-1 criterion. During loading in tensile tests, Ic was measured at specific strain or stress levels after stopping the resting machine intermittently, and also after lowering the load to 10 N (referred to as 'unloading' in this paper) catch time to check whether the Ic recovers reversibly. Ic was normalized by the Ic0 value obtained at the as-cooled state. From the I-V curve obtained, the n-value was also calculated by a linear fitting in the voltage range of 0.2-5.0 μVcm-1.」(S365右欄下から11行ないしS366左欄3行)

(和訳:引張試験中のIcの測定では、試験片と把持ホルダーの間にGFPRシートを挿入し、電気的に絶縁した。電圧タップは試験片の中央部に20mm話した状態で取り付けた。I−V曲線は4探針法を用いて77Kで自己遮断して測定し、Icは1μVcm−1を基準として定義した。引張試験時における負荷時には、試験機を断続的に停止させ、さらに負荷を10Nまで下げる(本稿では「除荷」と呼ぶ)たびに、特定のひずみまたは応力レベルでIcを測定し、Icが可逆的に回復するかどうかをチェックした。Icは冷却時のIc0値で規格化した。また、得られたI−V曲線から、0.2〜5.0μVcm−1の電圧範囲で線形フィッティングを行い、n値を算出した。)


(S366左欄)

2 特許異議申立人 松本征二の特許異議申立理由について
(1)特許法第29条第2項について
特許異議申立人 松本征二は、特許異議申立書において、訂正前の請求項1ないし3に係る発明ついて、甲第1−1号証(引用文献1)ないし甲第1−9号証を示した上で、引用文献1発明と、本件特許の出願日前における周知技術から、当業者が容易に想到し得るものである旨主張している。
しかしながら、本件発明1ないし3は、上記第4の3(1)ア(ア)で検討した、相違点1における本件発明1の「前記Cuめっき層のビッカース硬さが80〜190HVの範囲である」ことを備えており、このことは、引用文献1には記載されていない。
また、上記本件発明1ないし3の「前記Cuめっき層のビッカース硬さが80〜190HVの範囲である」ことは、甲第1−2号証ないし甲第1−9号証には記載されておらず、本件特許の出願日前に周知の事項であったともいえない。
そうすると、本件発明1ないし3を、引用文献1発明及び甲第1−2号証ないし甲第1−9号証に記載された事項から当業者が容易に発明することができたものであるとはいえない。

(2)特許法第36条第6項第2号について
ア 特許異議申立人 松本征二は、特許異議申立書において、訂正前の請求項1について「Cuめっき層のビッカース硬さ」を測定する時期が特定されておらず、訂正前の請求項2について「Cuめっき層の平均結晶粒子粒径」を測定する時期が特定されていないことについて、Cuめっき層のビッカース硬さ及び結晶粒径が経時変化することは周知の事項であることをもって、「Cuめっき層のビッカース硬さ」や「Cuめっき層の平均結晶粒子粒径」を測定する時期が特定されていない、訂正前の請求項1及び2に係る発明は、不明確であり、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない旨主張する。
しかしながら、訂正後の請求項1及び2は、それぞれ「前記Cuめっき層のビッカース硬さが80〜190HVの範囲であ」ること、及び、「前記Cuめっき層の平均結晶粒径が0.5〜1.25μmの範囲であること」が特定されており、その「Cuめっき層のビッカース硬さ」や「Cuめっき層の平均結晶粒子粒径」を測定する時期が特定されていなくても、訂正後の請求項1及び2の「酸化物超電導線材」の「前記Cuめっき層のビッカース硬さが80〜190HVの範囲であ」ることや、「前記Cuめっき層の平均結晶粒径が0.5〜1.25μmの範囲であること」は明確であり、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしている。

イ 特許異議申立人 松本征二は、特許異議申立書において、訂正前の請求項3に係る発明について、本件特許明細書の段落【0040】に「Cuめっき層の長さ100μm当たりの平均の粒界の数(個)は、長さ100μmを上述の平均結晶粒径(μm)で除して得られる数値として算出した。」との記載、及び、Cuめっき層の結晶粒径が経時変化することから、Cuめっき層の長さ100μm当たりの平均の粒界の数も経時変化しており、Cuめっき層の長さ100μm当たりの平均の粒界の数を測定する時期が特定されていない、訂正前の請求項3に係る発明は、不明確であり、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない旨主張する。
しかしながら、訂正後の請求項3は、「前記Cuめっき層の長さ100μm当たりの平均の粒界の数が80個以上であること」が特定されており、その「Cuめっき層の長さ100μm当たりの平均の粒界の数」を測定する時期が特定されていなくても、訂正後の請求項3の「酸化物超電導線材」の「前記Cuめっき層の長さ100μm当たりの平均の粒界の数が80個以上であること」は明確であり、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしている。

3 特許異議申立人 藤本信男の特許異議申立理由について
(1)特許法第36条第4項第1号について
特許異議申立人 藤本信男は、特許異議申立書において、Cuめっき層のビッカース硬さ、平均結晶粒径、及びCuめっき層の単位長さあたりの平均の粒界の数は、めっき液の濃度、めっき浴の種類、電流密度、過電圧の程度、温度、添加剤の有無及び種類、電気めっき後の熱処理の有無等によって変化するから、めっき液を構成する硫酸銅五水和物、硫酸及び塩酸の割合、並びに、添加剤の種類及び濃度が開示されておらず、また、電流密度の範囲が電流密度の諸承知の13倍の範囲にまでわたっており、加えて、過電圧の程度、温度、電気めっき後の熱処理の有無等の条件が開示されていない、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載だけでは、訂正前の請求項1ないし3に係る発明を実施することができない旨主張する。
しかしながら、本件特許明細書段落【0025】に
「Cuめっき層の平均結晶粒径、又はCuめっき層の単位長さ当たりの平均の粒界の数を調整する方法としては、Cuの電気めっきにおける条件を、少なくとも1以上変更することが挙げられる。具体的な電気めっきの条件としては、例えばめっき液の濃度、めっき浴の種類、電流密度、過電圧の程度、温度、添加剤の有無、電気めっき後の熱処理の有無等が挙げられる。めっき浴の添加剤としては、特に限定されないが、錯化材、pH調整剤、レベラー等が挙げられる。」と記載し、段落【0037】に
「次に、超電導積層体15に対し、第1主面15aの方向及び第2主面15bの方向からのスパッタ法により、Cu下地層を成膜した。
次に、硫酸銅めっきにより、Cuめっき層からなる厚さ20μmの安定化層16を形成した。
実施例では、めっき液の組成は硫酸銅五水和物、硫酸、塩酸、添加剤とし、電流密度は1〜13A/dm2の範囲でサンプルごとに変更した。」
と記載しているのであるから、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載だけでは訂正後の請求項1ないし3に係る発明を実施することができない、とはいえない。

4 特許異議申立人 松本征二による意見書1について
(1)特許法第29条第2項について
特許異議申立人 松本征二は、意見書1において、
ア 上記相違点2について、甲第1−10号証ないし甲第1−12号証を提示した上で、酸化物超電導線材の引張強度を600MPa以上とすることは、本件特許の出願時において当業者に周知の技術的事項であるとし、引用文献1発明の「超電導線材1」の引張強度を600MPa以上とすることは、当業者にとって容易に想到し得る旨主張し、(意見書1の第2頁、第3頁)

イ 上記相違点1について、甲第1−13号証、甲第1−14号証を提示した上で、アルミナ分散銅めっき層のビッカース硬さが80〜190HVの範囲にあることは、アルミナ分散銅めっき層のビッカース硬さとしは通常の範囲であり、相違点1は実質的相違点ではない、または、相違点1に係る技術的事項は想到容易である、旨主張し、(意見書1の第3頁、第4頁)

ウ 本件発明1ないし3は、当業者が、引用文献1発明と本件特許の出願時における周知技術とに基づいて容易に想到し得る旨主張する。(意見書1の第3頁)

エ 上記主張についての当審の判断
事案に鑑み、最初に、上記イの主張について検討する。
甲第1−13号証及び甲第1−14号証に記載された、アルミナ分散銅めっき層は、それぞれ「電線用導体や端子金具といった導電部材」(甲第1−13号証、段落【0002】)及び「基板上に金属−セラミック複合コーティング」を行うもの(甲第1−14号証、段落【0001】)であり、引用文献1発明の「超電導線材1」の「第1のめっき層」とは用途が異なっている。
そうすると、甲第1−13号証及び甲第1−14号証に記載された、アルミナ分散銅めっき層のビッカース硬さが80〜190HVの範囲であることをもって、用途の異なる、引用文献1発明の「超電導線材1」の「第1のめっき層」のビッカース硬さを80〜190HVの範囲であるということはできない。
また、上記のとおりであるから、引用文献1発明の「超電導線材1」の「第1のめっき層」のビッカース硬さについて、用途の異なる甲第1−13号証及び甲第1−14号証に記載された、アルミナ分散銅めっき層のビッカース硬さを適用する動機付けはない。
そうすると、本件発明1ないし3は、上記アについて検討するまでもなく、引用文献1発明から当業者が容易に発明できたものであるとはいえない。

(2)特許法第36条第6項2号について
特許異議申立人 松本征二は、意見書1において、訂正後の請求項1の「酸化物超電導線材」の「引張強度が600MPa以上であること」について、本件特許明細書、特許請求の範囲または図面には、「酸化物超電導線材」の「引張強度」の定義・測定方法が記載されていないとした上で、甲第1−10号証、甲第1−11号証、甲第1−16号証を提示し、酸化物超電導線材の引張強度に様々な定義・測定法が存在しており、本件発明1の「酸化物超電導線材」の「引張強度」の定義・測定方法が不明であり、訂正後の請求項1ないし3に係る発明は明確でない旨主張する。
しかしながら、酸化物超電導線材の引張強度は、甲第1−10号証、甲第1−11号証に、酸化物超電導線材について、(正規化)臨界電流の応力依存性について記載されているように、どのような引張り応力まで超電導状態を維持するか(臨界電流の応力依存)を目的として測定されるものであることは、技術常識である。
そうすると、訂正後の請求項1の「酸化物超電導線材」の「引張強度が600MPa以上であること」は、臨界電流における引張応力により定義されることは明らかである。
なお、甲第1−16号証は、「超電導機器に用いられる薄膜超電導線の接続方法及びその接続構造体」についての発明が記載されており(甲第1−16号証の段落【0001】)、発明が解決しようとする課題として記載された「接続された2本の超電導線に引張り応力や曲げ応力が加わると、銀層と超電導層の間で剥離が起きたり、銀層が切れたりし、機械的に弱い問題があった。」(甲第1−16号証の段落【0007】)ことを解決するための発明であり、そのために、「また、この超電導線の引っ張り試験を室温で行ったところ、1000MPaで線材が破断した。」(甲第1−16号証の段落【0038】)ことを試験している。
それに対して、本件発明1ないし3は、「酸化物超電導線材」について機械的に弱いという問題を解決する発明でないことから、訂正後の請求項1の「酸化物超電導線材」の「引張強度が600MPa以上であること」が、破断時の引張る力を意味するとすることはできない。

5 特許異議申立人 藤本信男による意見書2について
(1)特許法第29条第2項について(その1)
特許異議申立人 藤本信男は、意見書2において、
ア 上記相違点4について、甲第2−5号証ないし甲第2−8号証を提示した上で、600MPa以上の引張強度を有する酸化物超電導線材は、本件特許の出願時において周知の技術的事項であるとし、引用文献6発明の「超電導線材11」の引張強度を600MPa以上とすることは、当業者にとって容易に想到し得る旨主張し、(意見書2の第2頁、第3頁)

イ 上記相違点3について、引用文献7ないし9及び乙第3号証から、モース硬度3は、少なくとも90〜145HVのビッカース硬さに対応していることは、本件特許の出願日当時における周知事項であり、実質的には相違点でない旨主張し、(意見書2の第3頁)

ウ 特許権者の意見書における「方解石のモース硬度とビッカース硬度との関係だけから、異なる物理的性質を備える他の物質についてまで、モース硬度とビッカース硬度との一般的な関係を導き出すことはできない」との主張について、引用文献7には、「It will be seen that the quantitative Vickers's numbers are in the same sequence as Mohs's scale of hardness and that it may now be possible to correlate them, though it must be admitted that the numbers given for the first three minerals in the table are only approximate.」(第721頁1行ないし5行)(和訳:定量的なビッカース数は、モース硬さのスケールと同じ順序であり、両者を相関させることができることが分かるが、表の最初の3つの鉱物に示されている数値は概算にすぎないことを認める必要がある。)と記載され、また、乙第3号証には、「4. モース硬度とビッカース硬度との関係
これまで, 岩石や鉱物の硬度として, 一般に広く使用されてきたモース硬度と, 著者らが今回測定したビッカース硬度との関係を求めることは, 実用上重要な意味を持つと思う。Fig. 6に, 各試料について測定したモース硬度Hとビッカース硬度Hvとの関係を, 両対数紙上に示した。
Fig. 6からわかるように, この両者の間には, ほぼ一定の関係が成立していた。」(第16頁右欄3行ないし第17頁左欄7行)と記載されていることから、特許権者の上記主張は採用されるべきではない旨主張し、(意見書2の第3頁)

エ 特許権者の意見書における「引用文献7のTable1において、モース硬度が6のorthoclase(正長石)のビッカース硬度が714Hvであるのに対し、モース硬度が7のQuartz(石英)のビッカース硬度が480Hvと逆転した関係となっており、モース硬度をビッカース高度に換算することの困難づけられております。」との主張について、この主張はモース硬度3と大きく離れたモース硬度6及びモース硬度7に基づく主要にすぎず、乙第3号証のFig.6に見られるように、モース硬度3では、モース硬度とビッカース硬度との間には、ほぼ一定の関係が成立しているから、特許権者の上記主張は採用されるべきではない旨主張し(意見書2の第3頁、第4頁)

オ 特許権者の意見書における、「引用文献6の0025段落には、「金属層17を形成する金属としては、モース硬さ(モース硬度)が3.0未満の金属であることが好ましい。なお、銅のモース硬さは3.0である。この金属のモース硬さが3.0以上の場合には、超電導線材11を巻回して超電導コイル10を形成したとき、金属層17間の密着性が悪くなって超電導線材11間の接触抵抗が高くなり、クエンチが生じたときに発生電圧が高くなって超電導コイル10を保護することが難しくなる。」との記載があ」ることを指摘していることについて、この記載は、安定化層16とは関係のない金属層17に関する記載であり、採用されるべきではない旨主張する。(意見書2の第4頁)

カ そして、本件発明1は、引用文献6発明と本件特許の出願時における周知技術とに基づいて容易に想到し得る旨主張する。(意見書2の第5頁)

キ 本件発明2及び3は、引用文献6発明と、引用文献10に記載された発明と本件特許の出願時における周知技術とに基づいて容易に想到し得る旨主張する。(意見書2の第5頁)

ク 上記主張についての当審の判断
事案に鑑み、最初に、上記イないしエについて、まとめて検討する。
上記第4の3(1)(イ)gで検討したように、モース硬度とビッカース硬さは、測定方法が全く異なっており、それぞれ異なる物理的性質を測定するものであるから、モース硬度3の方解石が、ビッカース硬さの105〜145程度に対応することをもって、引用文献6発明の銅めっきにより形成されたモース硬さが3.0の「安定化層16」のビッカース硬さが80〜190HVの範囲であるということはできない。
このことは、異議申立人 藤本信男の上記主張の根拠となる、引用文献7ないし9及び乙第3号証の何れの文献にも、銅めっきにより形成されたモース硬さが3.0の銅のビッカース硬さが80〜190HVの範囲であることが示されていないことからも明らかである。また、上記のとおりあるから、モース硬度3の方解石が、ビッカース硬さの105〜145程度に対応することをもって、銅めっきにより形成されたモース硬さが3.0の銅の、ビッカース硬さを80〜190HVの範囲とすることを想到することはできない。
そうすると、本件発明1ないし3は、上記ア及びオについて検討するまでもなく、引用文献6発明から当業者が容易に発明できたものであるとはいえない。

(2)特許法第29条第2項について(その2)
特許異議申立人 藤本信男は、意見書2において、
ア 上記相違点4について、甲第2−5号証ないし甲第2−8号証を提示した上で、600MPa以上の引張強度を有する酸化物超電導線材は、本件特許の出願時において周知の技術的事項であるとし、引用文献6発明の「超電導線材11」の引張強度を600MPa以上とすることは、当業者にとって容易に想到し得る旨主張し、(意見書2の第5頁、第6頁)

イ 上記相違点3について、甲第2−9号証及び甲第2−10号証を提示した上で、Cuめっき層のビッカース硬さとして、80〜190HVは通常の硬さであり、本件特許の出願時において当業者に周知の硬さであるから、引用文献6発明の銅めっきにより形成された「安定化層16」のビッカース硬さを80〜190HVのとすることは、当業者が容易に想到することである旨主張し、(意見書2の第6頁)

ウ そして、本件発明1は、引用文献6発明と本件特許の出願時における周知技術とに基づいて容易に想到し得る旨主張する。(意見書2の第6頁)

エ 本件発明2及び3は、引用文献6発明と、引用文献10に記載された発明と本件特許の出願時における周知技術とに基づいて容易に想到し得る旨主張する。(意見書2の第6頁、第7頁)

オ 上記主張についての当審の判断
事案に鑑み、最初に、上記イの主張について検討する。
甲第2−9号証及び甲第2−10号証に記載された、Cuめっき層は、それぞれ「優れたバネ性及び導電性が要求される電気接点用途に適したCuめっき鋼板」(甲第2−9号証、段落【0001】)及び「多結晶シリコン切削用ワイヤ工具」(甲第2−10号証、段落【0001】)であり、引用文献6発明の「超電導線材11」の銅めっきにより形成された「安定化層16」とは用途が異なっている。
そうすると、甲第2−9号証及び甲第2−10号証に記載された、Cuめっき層のビッカース硬さが80〜190HVの範囲であることをもって、用途の異なる、引用文献6発明の「超電導線材11」の銅めっきにより形成された「安定化層16」のビッカース硬さを80〜190HVの範囲であるということはできない。
また、上記のとおりであるから、引用文献6発明の「超電導線材11」の銅めっきにより形成された「安定化層16」のビッカース硬さについて、用途の異なる甲第2−9号証及び甲第2−10号証に記載された、Cuめっき層のビッカース硬さを適用する動機付けはない。
そうすると、本件発明1ないし3は、上記アについて検討するまでもなく、引用文献6発明から当業者が容易に発明できたものであるとはいえない。

(3)特許法第29条第2項について(その3)
特許異議申立人 藤本信男は、意見書2において、
ア 本件発明1と甲第2−5号証に記載された発明について、本件発明1の「Cuめっき層からなる安定化層」は、「前記Cuめっき層のビッカース硬さが80〜190HVの範囲である」のに対して、甲第2−5号証に記載された発明の「Cu電気めっき層からなる安定化層」のビッカース硬さが特定されていない点で相違する旨主張し、(意見書2の第7頁)

イ 引張強度が600MPa以上である甲第2−5号証に記載された発明の酸化物超電導線材に含まれる「Cu電気めっき層からなる安定化層」のビッカース硬さも、80〜190HVの範囲にある旨主張し、(意見書2の第7頁、第8頁)

ウ また、そうでないとしても、甲第2−9号証及び甲第2−10号証を提示した上で、Cuめっき層のビッカース硬さとして、80〜190HVは通常の硬さであり、本件特許の出願時において当業者に周知の硬さであるから、甲第2−5号証に記載された発明の「Cu電気めっき層からなる安定化層」のビッカース硬さを80〜190HVのとすることは、当業者が容易に想到することである旨主張し、(意見書2の第8頁)

エ そして、本件発明1は、甲第2−5号証に記載された発明であり、また、甲第2−5号証に記載された発明と本件特許の出願時における周知技術とに基づいて容易に想到し得る旨主張し、(意見書2の第8頁)

オ 本件発明2及び3は、甲第2−5号証に記載された発明と、引用文献10に記載された発明と本件特許の出願時における周知技術とに基づいて容易に想到し得る旨主張する。(意見書2の第8頁)

カ 上記主張についての当審の判断
「銅の安定化層」を備える「REBCOテープ」について、その引張強度は、「銅の安定化層」だけで決定されるものでないことは明らかであるから、甲第2−5号証に記載された発明の引張強度が600MPa以上であることをもって、「銅の安定化層」のビッカース硬さが80〜190HVの範囲であるとはいえない。
してみると、本件発明1は、甲第2−5号証に記載された発明であるとはいえない。
また、上記(2)オで判断したと同様に、甲第2−5号証に記載された発明の「REBCOテープ」の「銅の安定化層」のビッカース硬さについて、用途の異なる甲第2−9号証及び甲第2−10号証に記載された、Cuめっき層のビッカース硬さを適用する動機付けはない。
そうすると、本件発明1ないし3は、甲第2−5号証に記載された発明から当業者が容易に発明できたものであるとはいえない。

(4)特許法第29条第2項について(その4)
特許異議申立人 藤本信男は、意見書2において、
ア 本件発明1と甲第2−7号証に記載された発明について、本件発明1の「Cuめっき層からなる安定化層」は、「前記Cuめっき層のビッカース硬さが80〜190HVの範囲である」のに対して、甲第2−7号証に記載された発明の「Cu電気めっき層からなる安定化層」のビッカース硬さが特定されていない点で相違する旨主張し、(意見書2の第8頁、第9頁)

イ 引張強度が600MPa以上である甲第2−7号証に記載された発明の酸化物超電導線材に含まれる「Cu電気めっき層からなる安定化層」のビッカース硬さも、80〜190HVの範囲にある旨主張し、(意見書2の第8頁)

ウ また、そうでないとしても、甲第2−9号証及び甲第2−10号証を提示した上で、Cuめっき層のビッカース硬さとして、80〜190HVは通常の硬さであり、本件特許の出願時において当業者に周知の硬さであるから、甲第2−7号証に記載された発明の「Cu電気めっき層からなる安定化層」のビッカース硬さを80〜190HVのとすることは、当業者が容易に想到することである旨主張し、(意見書2の第9頁、第10頁)

エ そして、本件発明1は、甲第2−7号証に記載された発明であり、また、甲第2−5号証に記載された発明と本件特許の出願時における周知技術とに基づいて容易に想到し得る旨主張し、(意見書2の第10頁)

オ 本件発明2及び3は、甲第2−7号証に記載された発明と、引用文献10に記載された発明と本件特許の出願時における周知技術とに基づいて容易に想到し得る旨主張する。(意見書2の第10頁)

カ 上記主張についての当審の判断
上記(3)カで検討したと同様に、甲第2−7号証に記載された発明の酸化物超電導線材の引張強度が600MPa以上であることをもって、Cu電気めっき層からなる安定化のビッカース硬さも、80〜190HVの範囲にあるとはいえない。
してみると、本件発明1は、甲第2−7号証に記載された発明であるとはいえない。
また、甲第2−7号証に記載された発明の酸化物超電導線材のCu電気めっき層からなる安定化のビッカース硬さについて、用途の異なる甲第2−9号証及び甲第2−10号証に記載された、Cuめっき層のビッカース硬さを適用する動機付けはない。
そうすると、本件発明1ないし3は、甲第2−7号証に記載された発明から当業者が容易に発明できたものであるとはいえない。

(5)特許法第36条第6項第1号について
特許異議申立人 藤本信男は、意見書2において、
ア 安定化層を構成するCuめっき層のビッカース硬さ、平均結晶粒径及び長さ100μmあたりの平均の粒界の数を特定するのみで、それ以外の事項について何ら特定しない本件発明1なし3は、課題を解決するための手段が反映されておらず、本件明細書の発明の詳細な説明に記載したものであるとはいえない旨主張する。(意見書2の第10頁ないし第14頁)

イ 上記主張についての当審の判断
上記第4の3(3)で検討したように、「前記Cuめっき層のビッカース硬さが80〜190HVの範囲であり、引張強度が600MPa以上であること」は、本件特許明細書の発明の詳細な説明の段落【0041】、【0042】に記載されているから、本件発明1ないし3は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載したものである。
そうすると、請求項1ないし3に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるということはできない。

(6)特許法第36条第4項第1号について
特許異議申立人 藤本信男は、意見書2において、
ア Cuめっき層ビッカース硬さ、平均結晶粒径、及びCuめっき層の単位長さあたりの平均の粒界の数は、めっき液の濃度、めっき浴の種類、電流密度、過電圧の程度、温度、添加剤の有無及び種類、電気めっき後の熱処理の有無等によって変化するから、これらの条件が開示されていない、本件特許の明細書の発明の詳細な説明の記載は、本件発明1ないし3を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとはいえない旨主張する。(意見書2の第14頁、第15頁)

イ 上記主張についての当審の判断
上記3(1)で検討したように、本件特許明細書の発明の詳細な説明の段落【0025】及び【0037】に電気めっきによりCuめっき層を形成する際の条件が記載されているから、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載だけでは、本件発明1ないし3を実施することができないとはいえない。

6 特許異議申立人 松本征二による上申書1及び特許異議申立人 藤本信男による上申書2について
ア 特許異議申立人 松本征二は、上申書1において、甲第1−10号証、甲第1−11号証、甲第1−15号証、甲第1−16号証に記載された事項を根拠として、本件特許の請求項1の「引張強度が600MPa以上である」の記載は、明確でない旨主張する。

イ 特許異議申立人 藤本信男は、上申書2において、甲第2−5号証、甲第2−6号証、甲第2−7号証、乙第7号証に記載されたに記載された事項を根拠として、本件特許の請求項1の「引張強度が600MPa以上である」の記載は、明確でない旨主張する。

ウ しかしながら、上記4(2)で検討したように、本件特許の請求項1の「引張強度が600MPa以上である」との記載は明確であり、特許法第36条第6項第2号の要件を満たしている。

第6 むすび
以上のとおり、本件発明1ないし3に係る特許は、特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては取り消すことはできない。さらに、他に本件発明1ないし3に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】酸化物超電導線材
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化物超電導線材に関する。
【背景技術】
【0002】
RE123系酸化物超電導体(REBa2Cu3Oy、REは希土類元素)は、液体窒素温度(77K)を超える温度(約90K)で超電導性を示す。この超電導体は、他の高温超電導体に比べて磁場中での臨界電流密度が高いため、コイル、電力ケーブル等への応用が期待されている。例えば特許文献1には、基板上に酸化物超電導層とAg安定化層とを形成した後、電気めっきによりCu安定化層を形成した酸化物超電導線材が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−80780号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
酸化物超電導線材は、機械特性として引張強度が必要である。安定化層には、一般に銅(Cu)が使用されるが、基板と比較してCuの硬さが低い。そのため、安定化層を厚くするほど酸化物超電導線材の断面積における安定化層の占める割合が増えるため、酸化物超電導線材全体としての引張強度が低下する。
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、引張強度が優れた酸化物超電導線材を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するため、本発明は、基板上に酸化物超電導層を有する超電導積層体と、前記超電導積層体の外周を覆うCuめっき層からなる安定化層と、を備え、前記Cuめっき層のビッカース硬さが80〜190HVの範囲であり、引張強度が600MPa以上であることを特徴とする酸化物超電導線材を提供する。
【0007】
前記Cuめっき層の平均結晶粒径が0.5〜1.25μmの範囲であってもよい。
前記Cuめっき層の長さ100μm当たりの平均の粒界の数が80個以上であってもよい。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、安定化層を構成するCuめっき層のビッカース硬さが大きいため、引張強度が優れた酸化物超電導線材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】実施形態に係る酸化物超電導線材の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、好適な実施形態に基づき、図面を参照して本発明を説明する。
【0011】
図1に示すように、実施形態に係る酸化物超電導線材10は、超電導積層体15と、超電導積層体15の外周を覆う安定化層16と、を備えている。超電導積層体15は、基板11上に酸化物超電導層13を有すればよい。超電導積層体15が、例えば、基板11、中間層12、酸化物超電導層13、及び保護層14を有する構成であってもよい。
【0012】
基板11は、例えば、厚さ方向の両側に、それぞれ第1主面11a及び第2主面11bを有するテープ状の金属基板である。金属基板を構成する金属の具体例として、ハステロイ(登録商標)に代表されるニッケル合金、ステンレス鋼、ニッケル合金に集合組織を導入した配向Ni−W合金などが挙げられる。金属の結晶の並びを揃えて配向させた配向基板を基板11として用いる場合、中間層12を形成せずに、基板11上に直接、酸化物超電導層13を形成することができる。基板11上に酸化物超電導層13が形成される側を第1主面11aといい、第1主面11aと反対側である裏面を第2主面11bという。基板11の厚さは、目的に応じて適宜調整すれば良く、例えば10〜1000μmの範囲である。
【0013】
中間層12は、多層構成でもよく、例えば基板11側から酸化物超電導層13側に向かう順で、拡散防止層、ベッド層、配向層、キャップ層等を有してもよい。これらの層は必ずしも1層ずつ設けられるとは限らず、一部の層を省略する場合や、同種の層を2以上繰り返し積層する場合もある。中間層12は、金属酸化物であってもよい。配向性に優れた中間層12の上に酸化物超電導層13を成膜することにより、配向性に優れた酸化物超電導層13を得ることが容易になる。
【0014】
酸化物超電導層13は、例えば酸化物超電導体から構成される。酸化物超電導体としては、例えば一般式REBa2Cu3Oy(RE123)等で表されるRE−Ba−Cu−O系酸化物超電導体が挙げられる。希土類元素REとしては、Y、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Luのうちの1種又は2種以上が挙げられる。RE123の一般式において、yは7−x(酸素欠損量)である。また、RE:Ba:Cuの比率は1:2:3に限らず、不定比もあり得る。酸化物超電導層13の厚さは、例えば0.5〜5μm程度である。
【0015】
酸化物超電導層13には、人工的な結晶欠陥として、異種材料による人工ピンなどが導入されてもよい。酸化物超電導層13に人工ピンを導入するために用いられる異種材料としては、例えば、BaSnO3(BSO)、BaZrO3(BZO)、BaHfO3(BHO)、BaTiO3(BTO)、SnO2、TiO2、ZrO2、LaMnO3、ZnO等の少なくとも1種以上が挙げられる。
【0016】
保護層14は、事故時に発生する過電流をバイパスしたり、酸化物超電導層13と保護層14の上に設けられる層との間で起こる化学反応を抑制したりする等の機能を有する。保護層14を構成する材料としては、銀(Ag)、銅(Cu)、金(Au)又はこれらの1種以上を含む合金(例えばAg合金、Cu合金、Au合金)が挙げられる。保護層14の厚さは、例えば1〜30μm程度が好ましく、保護層14を薄くする場合は、10μm以下、5μm以下、2μm以下等でもよい。保護層14は、超電導積層体15の側面15s又は基板11の第2主面11bにも形成されてもよい。超電導積層体15の異なる面に形成される保護層14の厚さは、略同等でも異なってもよい。保護層14は、2種以上の金属又は2層以上の金属層から構成されてもよい。保護層14は、蒸着法、スパッタ法等により形成することができる。
【0017】
安定化層16は、超電導積層体15の第1主面15a、第2主面15b、側面15sを 含む全周にわたって形成することができる。超電導積層体15の第1主面15aは、例え ば保護層14の表面であるが、これに限定されない。超電導積層体15の第2主面15b は、例えば基板11の第2主面11bであるが、これに限定されず、例えば保護層14が 基板11の第2主面11b上にも形成された場合の保護層14上の面でもよい。超電導積 層体15の側面15sは、厚さ方向の両側のそれぞれの面である。
【0018】
安定化層16は、事故時に発生する過電流をバイパスしたり、酸化物超電導層13及び保護層14を機械的に補強したりする等の機能を有する。安定化層16は、銅(Cu)めっき層からなる。安定化層16の厚さは特に限定されないが、例えば1〜300μm程度が好ましく、例えば200μm以下、100μm以下、50μm以下、20μm等でもよい。超電導積層体15の異なる面に形成される安定化層16の厚さは、略同等でも異なってもよい。
【0019】
安定化層16を構成するCuめっき層において、Cuめっき層のビッカース(Vickers)硬さが70〜195HVの範囲であることが好ましい。Cuめっき層のビッカース硬さが大きいことにより、酸化物超電導線材10の引張強度を向上することができる。ビッカース硬さは、例えばJIS Z 2244(ビッカース硬さ試験−試験方法)に従って測定することができる。酸化物超電導線材10の引張強度は、酸化物超電導線材10の長手方向に垂直な断面積に占める各層の割合に影響される。このため、Cuめっき層のビッカース硬さが大きいと、安定化層16を厚くした場合でも、酸化物超電導線材10の引張強度を向上することができる。基板11のビッカース硬さと安定化層16のビッカース硬さとの関係は特に限定されないが、前者が後者より大きくてもよく、前者が後者より小さくてもよく、前者と後者とが略同等でもよい。
【0020】
安定化層16を構成するCuめっき層において、Cuめっき層の平均結晶粒径が0.5〜1.25μmの範囲であることが好ましい。Cuめっき層の平均結晶粒径が比較的小さいことにより、金属組織が緻密となり、ビッカース硬さを大きくすることができる。
【0021】
また、安定化層16を構成するCuめっき層において、Cuめっき層の長さ100μm当たりの平均の粒界の数が80個以上であることが好ましい。Cuめっき層の単位長さ当たりの平均の粒界の数が多いことにより、金属組織が緻密となり、ビッカース硬さを大きくすることができる。単位長さとしては、例えば酸化物超電導線材10の長手方向の長さ100μmが挙げられる。Cuめっき層の長さ100μm当たりの平均の粒界の数の上限は特に限定されないが、例えば、100個、120個、150個、180個、200個等が挙げられる。
【0022】
Cuめっき層の平均結晶粒径、及びCuめっき層の単位長さ当たりの平均の粒界の数は、例えば、走査型電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)を用いたCuめっき層の断面写真を用いて測定することができる。
【0023】
安定化層16を構成する銅めっき層は、例えば電気めっきにより形成することができる。電気めっきにより銅めっき層を形成する場合、事前に下地層として、銀(Ag)、銅(Cu)、スズ(Sn)等の金属層を、蒸着法、スパッタ法等により形成してもよい。Cuめっき層の電気めっきに用いるめっき浴としては、硫酸銅めっき浴、シアン化銅めっき浴、ピロリン酸銅めっき浴などが挙げられる。硫酸銅めっき液としては、一般的には、硫酸銅五水和物、硫酸、添加剤、塩素イオンを含む水溶液などが用いられる。
【0024】
Cuめっき層の少なくとも一部を無電解めっきにより形成することもできる。この場合は、ホルムアルデヒド浴、グリオキシル酸浴、次亜リン酸塩浴、コバルト塩浴などが用いられる。一般的なホルムアルデヒド浴は第二銅塩と還元剤(ホルムアルデヒド等)と錯化剤(ロッセル塩等)、pH調整剤(水酸化ナトリウム)、添加剤(シアン化合物)を含むめっき液が用いられる。
【0025】
Cuめっき層の平均結晶粒径、又はCuめっき層の単位長さ当たりの平均の粒界の数を調整する方法としては、Cuの電気めっきにおける条件を、少なくとも1以上変更することが挙げられる。具体的な電気めっきの条件としては、例えばめっき液の濃度、めっき浴の種類、電流密度、過電圧の程度、温度、添加剤の有無、電気めっき後の熱処理の有無等が挙げられる。めっき浴の添加剤としては、特に限定されないが、錯化材、pH調整剤、レベラー等が挙げられる。
【0026】
本実施形態の酸化物超電導線材10によれば、安定化層16を構成するCuめっき層において、結晶粒径が小さく、又は単位長さ当たりの平均の粒界の数が多いため、安定化層16のビッカース硬さを大きくすることができる。これにより、安定化層16を厚くしても、酸化物超電導線材10の引張強度の低下を抑制し、又は、酸化物超電導線材10の引張強度を向上することができることができる。
【0027】
以上、本発明を好適な実施形態に基づいて説明してきたが、本発明は上述の実施形態に限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の改変が可能である。改変としては、各実施形態における構成要素の追加、置換、省略、その他の変更が挙げられる。
【0028】
中間層12及び酸化物超電導層13の成膜法は、金属酸化物の組成に応じて適宜の成膜が可能であれば特に限定されない。成膜法としては、例えばスパッタ法、蒸着法等の乾式成膜法、ゾルゲル法等の湿式成膜法が挙げられる。蒸着法としては、電子ビーム蒸着法、イオンビームアシスト蒸着(IBAD:Ion−Beam−Assisted Deposition)法、パルスレーザー蒸着(PLD:Pulsed Laser Deposition)法、化学気相蒸着(CVD:Chemical Vapor Deposition)法等が挙げられる。
【0029】
中間層12の拡散防止層は、基板11の成分の一部が拡散し、不純物として酸化物超電導層13側に混入することを抑制する機能を有する。拡散防止層は、例えば、Si3N4、Al2O3、GZO(Gd2Zr2O7)等から構成される。拡散防止層の厚さは、例えば10〜400nmが挙げられる。
【0030】
中間層12のベッド層は、基板11と酸化物超電導層13との界面における反応を低減し、その上に形成される層の配向性を向上する等の機能を有する。ベッド層の材質としては、例えばY2O3、Er2O3、CeO2、Dy2O3、Eu2O3、Ho2O3、La2O3等が挙げられる。ベッド層の厚さは、例えば10〜100nmが挙げられる。
【0031】
中間層12の配向層は、その上のキャップ層の結晶配向性を制御するために2軸配向する物質から形成される。配向層の材質としては、例えば、Gd2Zr2O7、MgO、ZrO2−Y2O3(YSZ)、SrTiO3、CeO2、Y2O3、Al2O3、Gd2O3、Zr2O3、Ho2O3、Nd2O3等の金属酸化物を例示することができる。配向層はIBAD法で形成することが好ましい。
【0032】
中間層12のキャップ層は、配向層の表面に成膜されて、結晶粒が面内方向に自己配向し得る材料からなる。キャップ層の材質としては、例えば、CeO2、Y2O3、Al2O3、Gd2O3、ZrO2、YSZ、Ho2O3、Nd2O3、LaMnO3等が挙げられる。キャップ層の厚さは、例えば50〜5000nmが挙げられる。
【0033】
酸化物超電導線材の外周には、酸化物超電導線材の周囲に対する電気絶縁を確保するため、ポリイミド等の絶縁テープを巻きつけたり、樹脂層を形成したりしてもよい。なお、絶縁テープや樹脂層等の絶縁被覆層は必須ではなく、酸化物超電導線材の用途に応じて絶縁被覆層を適宜設けてもよく、あるいは絶縁被覆層を有しない構成とすることもできる。
【0034】
酸化物超電導線材を使用して超電導コイルを作製するには、例えば酸化物超電導線材を巻き枠の外周面に沿って必要な層数巻き付けてコイル形状の多層巻きコイルを構成した後、巻き付けた酸化物超電導線材を覆うようにエポキシ樹脂等の樹脂を含浸させて、酸化物超電導線材を固定することができる。
【実施例】
【0035】
以下、具体的な実施例を用いて、酸化物超電導線材10の製造方法について説明する。なお、以下の実施例は本発明を限定するものではない。
【0036】
まず、次の手順により、所定幅の超電導積層体15を準備した。
(1)ハステロイ(登録商標)C−276の金属テープからなる基板11の研磨。
(2)アセトンによる基板11の脱脂・洗浄。
(3)イオンビームスパッタ法によるAl2O3拡散防止層の成膜。
(4)イオンビームスパッタ法によるY2O3ベッド層の成膜。
(5)IBAD法によるMgO配向層の成膜。
(6)PLD法によるCeO2キャップ層の成膜。
(7)PLD法によるGdBa2Cu3O7−x酸化物超電導層13の成膜。
(8)酸化物超電導層13の表面方向からのスパッタ法によるAg保護層14の成膜。
(9)超電導積層体15の酸素アニール処理。
(10)4mm幅のスリット加工による超電導積層体15の細線化処理。
【0037】
次に、超電導積層体15に対し、第1主面15aの方向及び第2主面15bの方向からのスパッタ法により、Cu下地層を成膜した。
次に、硫酸銅めっきにより、Cuめっき層からなる厚さ20μmの安定化層16を形成した。
実施例では、めっき液の組成は硫酸銅五水和物、硫酸、塩酸、添加剤とし、電流密度は1〜13A/dm2の範囲でサンプルごとに変更した。
【0038】
次に、得られた酸化物超電導線材10について、引張強度を測定した。また、安定化層16を構成するCuめっき層のビッカース硬さ及び平均結晶粒径を測定した。
【0039】
Cuめっき層の平均結晶粒径は、1つのサンプルごとに、断面SEM写真(23μm×23μmの視野範囲)を45枚撮影し、1枚の写真ごとに、酸化物超電導線材10の長手方向に線分を3本引き、JIS H 0501(伸銅品結晶粒度試験方法)の切断法に従って、線分によって完全に切られる結晶粒数を数え、その切断長さの平均値として求められるμm単位の結晶粒度をそのまま用いた。酸化物超電導線材10の長手方向に引いた3本の線分は、厚さ20μmの安定化層16の表面から約3.2μm、約10.0μm、約16.8μmの深さの位置(安定化層16厚さに対して、それぞれ、約16%、約50%、約84%の位置)に引いた。
【0040】
Cuめっき層の長さ100μm当たりの平均の粒界の数(個)は、長さ100μmを上述の平均結晶粒径(μm)で除して得られる数値として算出した。
以上の測定結果を、表1に示す。
【表1】

【0042】
一般的に、酸化物超電導線材に必要とされる引張強度は、600MPa以上である。そこで、評価結果としては、引張強度が600MPa以上のサンプルを良品(OK)、引張強度が600MPa未満のサンプルを不良品(NG)と判定した。安定化層を構成するCuめっき層のビッカース硬さが大きいほど、酸化物超電導線材の引張強度の値が向上する結果が示された。
【0043】
番号7のサンプルは、ビッカース硬さを高めるために、Cuめっき層を形成する際の電流密度を大きくした。しかし、いわゆる「めっき焼け」の状態となり、結晶粒の観察や引張強度の測定ができなくなったため、外観不良により不良品(NG)と判定した。このため、番号7のサンプルでは、ビッカース硬さだけ測定した。
【符号の説明】
【0044】
10…酸化物超電導線材、11…基板、11a…基板の第1主面、11b…基板の第2主面、12…中間層、13…酸化物超電導層、14…保護層、15…超電導積層体、15a…超電導積層体の第1主面、15b…超電導積層体の第2主面、15s…超電導積層体の側面、16…安定化層。
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に酸化物超電導層を有する超電導積層体と、
前記超電導積層体の外周を覆うCuめっき層からなる安定化層と、を備え、
前記Cuめっき層のビッカース硬さが80〜190HVの範囲であり、
引張強度が600MPa以上であることを特徴とする酸化物超電導線材。
【請求項2】
前記Cuめっき層の平均結晶粒径が0.5〜1.25μmの範囲であることを特徴とする請求項1に記載の酸化物超電導線材。
【請求項3】
前記Cuめっき層の長さ100μm当たりの平均の粒界の数が80個以上であることを特徴とする請求項1又は2に記載の酸化物超電導線材。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照
異議決定日 2022-03-28 
出願番号 P2019-064778
審決分類 P 1 651・ 113- YAA (H01B)
P 1 651・ 121- YAA (H01B)
P 1 651・ 536- YAA (H01B)
P 1 651・ 537- YAA (H01B)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 恩田 春香
特許庁審判官 小田 浩
小川 将之
登録日 2020-07-31 
登録番号 6743233
権利者 株式会社フジクラ
発明の名称 酸化物超電導線材  
代理人 丹野 拓人  
代理人 棚井 澄雄  
代理人 片岡 央  
代理人 小室 敏雄  
代理人 小室 敏雄  
代理人 五十嵐 光永  
代理人 五十嵐 光永  
代理人 棚井 澄雄  
代理人 丹野 拓人  
代理人 清水 雄一郎  
代理人 及川 周  
代理人 清水 雄一郎  
代理人 及川 周  
代理人 清水 雄一郎  
代理人 片岡 央  
代理人 清水 雄一郎  

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