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審決分類 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  A61K
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A61K
審判 全部申し立て 2項進歩性  A61K
管理番号 1386109
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-07-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 2021-03-30 
確定日 2022-03-14 
異議申立件数
訂正明細書 true 
事件の表示 特許第6768309号発明「光安定性を向上したシロドシン含有着色錠剤」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6768309号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1〜4〕、〔5〜8〕について訂正することを認める。 特許第6768309号の請求項6〜8に係る特許を維持する。 特許第6768309号の請求項1〜5に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯

特許第6768309号(以下「本件特許」という。)の請求項1〜8に係る特許についての出願(特願2016−41968号)は、平成28年3月4日(優先権主張 平成27年4月28日、平成27年5月29日)を出願日として出願され、令和2年9月25日にその特許権の設定登録がされ、同年10月14日に特許掲載公報が発行された。
その後、本件特許の全請求項について、令和3年3月30日に特許異議申立人 岩田明彦(以下「申立人A」という。)により、同年4月13日に特許異議申立人 田之口良子(以下「申立人B」という。)により、それぞれ特許異議の申立てがなされた。
その後の手続の経緯の概要は次のとおりである。
なお、申立人Bからの意見書の提出はなかった。

令和3年 6月23日付け 取消理由通知
同年 9月28日 意見書・訂正請求書の提出(特許権者)
同年 11月 9日 意見書の提出(申立人A)

第2 訂正の適否についての判断

1 請求の趣旨及び訂正の内容

(1)請求の趣旨
令和3年9月28日提出の訂正請求書により特許権者が行った訂正請求は、「特許第6768309号の特許請求の範囲を、本訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1〜8について訂正することを求める」ことを請求の趣旨とするものである。
そして、上記訂正請求による訂正(以下「本件訂正」という。)の内容は、以下のとおりである(なお、下線は訂正箇所を示す。)。

(2)訂正の内容
ア 訂正事項ア
特許請求の範囲の請求項1〜4を削除する。

イ 訂正事項イ
特許請求の範囲の請求項5を削除する。

ウ 訂正事項ウ
特許請求の範囲の請求項6を「シロドシン及び遮光剤を含有する素錠である錠剤であって、遮光剤が黄色三二酸化鉄、三二酸化鉄より選ばれ、遮光剤の含有量が錠剤全重量に対して、0.01〜1.0重量%であり、遮光剤とシロドシンを含む造粒物を含有する錠剤。」に訂正する。
また、訂正前の請求項6を引用する請求項7〜8についても同様に訂正されることになる。

エ 訂正事項エ
特許請求の範囲の請求項7を「シロドシンの含有量が錠剤全重量に対して、0.5〜10.0重量%である、請求項6に記載の錠剤。」に訂正する。

オ 訂正事項オ
特許請求の範囲の請求項8を「遮光剤とシロドシンを含む造粒物を賦形剤及び滑沢剤と混合して打錠する工程を含む、請求項6または7に記載の錠剤を製造する方法。」に訂正する。

なお、本件訂正は、訂正前の請求項1〜8についてのものであるところ、訂正前の請求項3及び4は請求項1又は2を引用するものであり、訂正前の請求項7及び8は請求項5又は6を、それぞれ直接的又は間接的に引用するものであり、訂正前の請求項1〜4、請求項5〜8は、それぞれ、一群の請求項である。
そして、訂正事項アは、一群の請求項1〜4に対するものであり、また、訂正事項イ〜オは一群の請求項5〜8に対するものである。

2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否

(1)訂正事項アについて
訂正事項アは、訂正前の請求項1〜4を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正である。
そして、訂正事項アは、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(2)訂正事項イについて
訂正事項イは、訂正前の請求項5を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正である。
そして、訂正事項イは、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(3)訂正事項ウについて
訂正事項ウは、訂正前の請求項6において、シロドシン及び遮光剤を含有する素錠である錠剤中の遮光剤の含有量は特定されていなかったのを、「遮光剤の含有量が錠剤全重量に対して、0.01〜1.0重量%であ」ることを特定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正である。
そして、本件特許の願書に添付した明細書の【0020】に、「本発明のシロドシンを含有する錠剤は、遮光剤をさらに含有する。・・・遮光剤は、錠剤全重量に対して0.001〜10.0重量%の範囲で含有されていることが好ましく、・・・さらにより好ましくは0.01〜1.0重量%の範囲で含有され・・・る。」と記載され、【0022】に、「本発明のシロドシンを含有する錠剤は、素錠であることが好ましく」と記載されているから、請求項6についての訂正事項ウは、新規事項の追加には該当しないし、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
また、訂正前の請求項6を引用する請求項7〜8についての訂正事項ウも同様である。

(4)訂正事項エについて
訂正事項エは、訂正事項イにおいて請求項5が削除されたことに伴い、訂正前の請求項7において「請求項5〜6のいずれか」と記載されていた引用請求項において、請求項5を引用しないようにするものであって、引用する請求項の一部を削除することになるから、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正である。
そして、訂正事項エは、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(5)訂正事項オについて
訂正事項オは、訂正事項イにおいて請求項5が削除されたことに伴い、訂正前の請求項8において「請求項5〜7のいずれか」と記載されていた引用請求項において、請求項5を引用しないようにするものであって、引用する請求項の一部を削除することになるから、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正である。
そして、訂正事項オは、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(6)独立特許要件について
特許異議申立ては、訂正前の全ての請求項1〜8についてされているので、訂正事項ア〜オに関して、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項の独立特許要件は課されない。

3 まとめ

以上のとおりであるから、請求項1〜8についての本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1〜4〕、〔5〜8〕について訂正することを認める。

第3 本件発明

上記第2で述べたとおり、本件訂正を認めるので、本件特許の請求項6〜8に係る発明は、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項6〜8に記載された事項により特定される次のとおりのものである。なお、請求項1〜5は、本件訂正により削除された。

「【請求項6】
シロドシン及び遮光剤を含有する素錠である錠剤であって、遮光剤が黄色三二酸化鉄、三二酸化鉄より選ばれ、遮光剤の含有量が錠剤全重量に対して、0.01〜1.0重量%であり、遮光剤とシロドシンを含む造粒物を含有する錠剤。
【請求項7】
シロドシンの含有量が錠剤全重量に対して、0.5〜10.0重量%である、請求項6に記載の錠剤。
【請求項8】
遮光剤とシロドシンを含む造粒物を賦形剤及び滑沢剤と混合して打錠する工程を含む、請求項6または7に記載の錠剤を製造する方法。」

(以下、請求項の項番に応じて「本件発明6」等といい、本件発明6〜8をまとめて「本件発明」ということがある。)

第4 当審が通知した令和3年6月23日付け取消理由及び特許異議申立人が申し立てた理由の概要

1 申立人Aが申し立てた理由の概要

申立人Aは、特許異議申立書(以下「申立書A」という。)において、特許権の設定登録時の請求項1〜8に係る特許を取り消すべき理由として、概略以下の申立理由A1〜A3を主張している。また、証拠方法として、甲第1〜10号証(以下、それぞれ番号順に「甲1」等という。)を提出した。

<申立理由A1(甲1を主引例とする進歩性欠如)>
請求項1、2、5〜8に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明である、甲1に記載の発明に基いて、あるいは、甲1に記載の発明及び甲2〜8に記載の発明を組み合わせることにより、本件特許の優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(当業者)が容易に発明をすることができたものである。
また、請求項3〜4に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明である、甲1に記載の発明及び甲4〜5に記載の発明を組み合わせることにより、あるいは、甲1に記載の発明及び甲2〜8に記載の発明を組み合わせることにより、本件特許の優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものである。
よって、請求項1〜8についての本件特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し取り消されるべきものである。

<申立理由A2(サポート要件違反)>
請求項1〜8についての本件特許は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、同法第113条第4号に該当し取り消されるべきものである。

<申立理由A3(実施可能要件違反)>
請求項1〜8についての本件特許は、明細書の発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、同法第113条第4号に該当し取り消されるべきものである。

<証拠方法>
甲1:国際公開第2014/157137号
甲2:特開2008−44960号公報
甲3:特開2010−229075号公報
甲4:特開2006−306754号公報
甲5:国際公開第2013/062073号
甲6:特開平4−346929号公報
甲7:特開2012−1460号公報
甲8:特開2003−104888号公報
甲9:国際公開第2004/022538号
(以上、特許異議申立書に添付)
甲10:異議2018−700877審判事件についての異議決定
(以上、意見書に添付)

2 申立人Bが申し立てた理由の概要

申立人Bは、特許異議申立書(以下「申立書B」という。)において、特許権の設定登録時の請求項1〜8に係る特許を取り消すべき理由として、概略以下の申立理由B1〜B3を主張するとともに、証拠方法として、甲第1〜11号証(以下、それぞれ番号順に「甲1’」等という。)を提出した。なお、申立人Aの各甲号証と同じ証拠については、括弧書きで甲号証番号を併記した。

<申立理由B1(甲1’を主引例とする進歩性欠如)>
請求項1〜8に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明である、甲1’に記載された発明、及び周知技術(甲2’〜11’)に基いて、本件特許の優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1〜8に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
よって、請求項1〜8についての本件特許は、特許法第113条第2号に該当し取り消されるべきものである。

<申立理由B2(甲10’を主引例とする進歩性欠如)>
請求項1〜8に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明である、甲10’に記載された発明及び甲2’の記載、並びに周知技術(甲1’、3’〜9’、11’)に基いて、本件特許の優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1〜8に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
よって、請求項1〜8についての本件特許は、特許法第113条第2号に該当し取り消されるべきものである。

<申立理由B3(甲4’を主引例とする進歩性欠如)>
請求項1〜8に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明である、甲4’に記載された発明及び甲2’の記載、並びに周知技術(甲1’、3’、5’〜11’)に基いて、本件特許の優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1〜8に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
よって、請求項1〜8についての本件特許は、特許法第113条第2号に該当し取り消されるべきものである。

<証拠方法>
甲1’(甲1):国際公開第2014/157137号
甲2’(甲2):特開2008−44960号公報
甲3’(甲4):特開2006−306754号公報
甲4’:特開2000−7583号公報
甲5’:国際公開第2010/087462号
甲6’:特開2005−263790号公報
甲7’(甲3):特開2010−229075号公報
甲8’:特許第4648491号公報
甲9’:特開2000−191516号公報
甲10’:特開2013−129681号公報
甲11’:「クスリをともだちに−高齢者の方々へ!クスリを安全に飲むための心得−」2006年11月19日発行(HAB研究機構ホームページHABライブラリ おくすり情報バックナンバー No.9 URL:https://hab.or.jp/library/med_info/09.html)

3 取消理由の概要

特許権の設定登録時の特許請求の範囲の請求項1〜8に係る特許に対し、令和3年6月23日付け取消理由通知書に記載した取消理由は、概略以下のとおりである。

<取消理由(進歩性欠如)>
請求項1〜8に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明である、甲1に記載された発明及び本件特許の優先日前の周知技術(甲2〜8及び甲4’〜6’、8’〜10’)に基いて、本件特許の優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1〜8に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
よって、請求項1〜8についての本件特許は、特許法第113条第2号に該当し取り消されるべきものである。

・引用文献
甲1(甲1’):国際公開第2014/157137号(主たる引用文献)
甲2(甲2’):特開2008−44960号公報
甲3(甲7’):特開2010−229075号公報
甲4(甲3’):特開2006−306754号公報
甲5:国際公開第2013/062073号
甲6:特開平4−346929号公報
甲7:特開2012−1460号公報
甲8:特開2003−104888号公報
甲4’:特開2000−7583号公報
甲5’:国際公開第2010/087462号
甲6’:特開2005−263790号公報
甲8’:特許第4648491号公報
甲9’:特開2000−191516号公報
甲10’:特開2013−129681号公報
(上記の甲2〜甲10’は、周知技術を示す文献である。)

第5 上記第4 3の取消理由についての当審の判断

1 甲1の記載及び甲1に記載された発明

ア 甲1(甲1’)の記載
・請求の範囲
「[請求項1] シロドシンの微粉末を含有する薬物粒子を、非腸溶性高分子を含有するコーティング剤で造粒又は被覆して得られるマスキング粒子であって、非腸溶性高分子含量が、シロドシン100質量部に対して80質量部〜400質量部である、マスキング粒子。
・・・
[請求項13] 請求項1〜12のいずれかに記載のマスキング粒子を含有する経口投与製剤。
[請求項14] 剤形が錠剤である、請求項13記載のマスキング粒子を含有する経口投与製剤。
[請求項15] (a)シロドシンの微粉末と添加剤を混合又は造粒して薬物粒子を調製する工程、及び
(b)工程(a)で得られた薬物粒子に非腸溶性高分子を含有するコーティング剤で造粒又は被覆して、非腸溶性高分子含量が、シロドシン100質量部に対して80質量部〜400質量部である、マスキング粒子を調製する工程を包含することを特徴とする、マスキング粒子を製造する方法。」

・発明の概要
「発明が解決しようとする課題
[0005] 本発明は、極めて苦味の強い薬剤であるシロドシンを、異物感なく水なしでも服用でき、かつ前立腺肥大症に伴う排尿障害等の治療に有効な血中濃度を再現できる溶出性を備えた、新規な経口投与製剤を提供することを課題とする。」

「[0012] 薬物粒子に用いられる添加剤としては、シロドシンと配合変化を起こさない種々の添加剤が用いることができ、例えば、崩壊剤、賦形剤、結合剤、滑沢剤、甘味剤、酸味剤、発泡剤、香料、着色剤等を適宜用いることができる。・・・賦形剤としては、例えば、・・・トウモロコシデンプン、・・・等が挙げられる。・・・滑沢剤としては、例えば、・・・フマル酸ステアリルナトリウム、・・・等が挙げられる。・・・着色剤としては、例えば、食用黄色5号、食用赤色2号、食用青色2号等の食用色素、黄色三二酸化鉄、三二酸化鉄、カラメル色素、酸化チタン等が挙げられる。」

「[0018](経口投与製剤)
本発明のマスキング粒子を用いて種々の剤形の経口投与製剤を製造することができる。・・・
[0019] 本発明の経口投与製剤は、本発明のマスキング粒子と口腔内速崩壊製剤に一般的に使用される医薬品添加物を用いて、製剤分野において慣用の方法により製造することができる。
[0020] 例えば、錠剤の場合には、本発明のマスキング粒子を、口腔内速崩壊製剤に一般的に使用される医薬品添加物と共に、直接粉末圧縮法(直打法)、造粒法等の公知の方法又はそれに準じた方法で錠剤化することにより、経口投与製剤を製造することもできる。
・・・
[0036] 本発明の経口投与製剤において、単位製剤当たりのシロドシン含量は、通常、2〜8mgであり、好ましくは、2mg、4mg又は8mgである。
本発明の経口投与製剤は、例えば、錠剤の場合、1錠当たりの質量として50〜500mg、50〜300mg、100〜250mg、100〜200mg等を挙げることができ、その際のシロドシン含量としては、0.4〜16%を挙げることができる。」

「発明の効果
[0038] 本発明のマスキング粒子は、製剤学的に安定であり、シロドシンの極めて強烈な苦味を抑制し、市販のシロドシンの錠剤(ユリーフ(登録商標)錠)と同様の速やかな溶出性を有するので、水なしでも、異物感がなく服用できる経口投与製剤に用いることができる。また本発明の経口投与製剤は、シロドシン特有の苦味を抑制し、市販のシロドシンの錠剤(ユリーフ(登録商標)錠)と同様の速やかな溶出性及び生物学的同等性を有することから、水なしでも異物感がなく服用できるシロドシン含有製剤として有用である。」

・実施例
「[0051]〔試験例9〕
生物学的同等性試験
(1)試験方法
健康成人男性を対象として、空腹時に、シロドシン4mgを含有する試験製剤を口腔内で崩壊させて水なしで単回経口投与した場合と、シロドシン4mgを含有する市販錠(標準製剤)を水とともに単回経口投与した場合の血漿中シロドシ濃度を測定し、両製剤間の生物学的同等性を検討した。
(2)被験薬
標準製剤は、市販のユリーフ(登録商標)4mg錠を使用した。
試験製剤は、実施例10の方法に準じて表3記載の組成の錠剤を作製した。
[0052][表3]

・・・
[0062]実施例9
・・・
一方、アミノアルキルメタクリレートコポリマーE(エボニックデグサジャパン社製)6825g、ラウリル硫酸ナトリウム(花王社製)682.5g、ステアリン酸(マリンクロット社製)1023.8g及びタルク(松村産業社製)2388.8gを精製水に添加し、コーティング液(c−4)を得た。
また、D−マンニトール(三菱フードテック社製)3000gを精製水に添加し、コーティング液(c−5)を得た。
・・・
[0063]実施例10
シロドシン4400g、部分アルファー化デンプン(日本カラコン社製)16192g及びタルク(松村産業社製)1100gを、流動層造粒乾燥機(NFLO−30SJC、フロイント産業社製)を用いて混合し、ここへヒドロキシプロピルセルロース(日本曹達社製)308gを精製水に添加した溶液をスプレーノズルで噴霧しながら造粒を行った。得られた造粒物を、整粒機(P−02S、ダルトン社製)を用いて、スクリーンサイズφ1.0mmにて整粒し、薬物粒子を得た。
得られた薬物粒子16250gを、流動層造粒乾燥機(NFLO−30SJC、フロイント産業社製)に入れ、コーティング液(c−4)をスプレーし、シロドシン100質量部に対して、アミノアルキルメタクリレートコポリマーEとして175質量部を被覆し、マスキング粒子を得た。
次に得られたマスキング粒子にコーティング液(c−5)をスプレーし、マスキング粒子100質量部に対して、10質量部を被覆した。得られた顆粒を30号の篩を用いて篩過し、オーバーコートしたマスキング粒子(a−10)を得た。
D−マンニトール(フロイント産業社製)19399g、結晶セルロース(旭化成ケミカルズ社製)4095g及びクロスポビドン(ISP社製)1706gを用いて、常法に従い造粒物(b−4)を得た。
オーバーコートしたマスキング粒子(a−10)171.5g、造粒物(b−4)738.5g、トウモロコシデンプン(日本食品化工社製)70g及びフマル酸ステアリルナトリウム(PHARMATRANS SANAQ AG社製)20gを混合し、打錠用混合物を得た。この打錠用混合物を、ロータリー打錠機(CLEANPRESS Correct 12HUK、菊水製作所社製)を用い、杵臼8mm、打錠圧約7kNの条件で打錠し、1錠当たりシロドシン4mgを含有する質量200.0mgの錠剤を得た。」

イ 甲1発明
甲1の上記アの記載、特に、試験例9に、試験製剤として、表3記載の組成を有する錠剤を、実施例10の方法に準じて作製したこと、及び、当該試験製剤は、口腔内で崩壊させて水なしで経口投与するものであることが記載されていることから、甲1には、次の発明が記載されているものと認められる。

「シロドシンを含有する、口腔内で崩壊させて水なしで経口投与する錠剤であって、以下のBの錠剤の製造方法に準じて製造される、以下のAの成分組成を有する、錠剤。
A 錠剤の成分組成;
<マスキング粒子>
シロドシン :4mg
部分アルファー化デンプン :14.72mg
タルク :3.45mg
ヒドロキシプロピルセルロース :0.28mg
アミノアルキルメタクリレートコポリマーE:7mg
ラウリル硫酸ナトリウム :0.7mg
ステアリン酸 :1.05mg
<医薬品添加物>
D−マンニトール、結晶セルロース、クロスポビドン、トウモロコシデンプン、フマル酸ステアリルナトリウム、着色剤、甘味剤、香料:合計169.4mg(マスキング粒子と医薬品添加物の合計 200.6mg)

B 錠剤の製造方法
(b1)シロドシン、部分アルファー化デンプン、タルクを混合し、ここへヒドロキシプロピルセルロースの精製水溶液を噴霧しながら造粒後整粒して薬物粒子を調製する工程、
(b2)薬物粒子を、アミノアルキルメタクリレートコポリマーE、ラウリル硫酸ナトリウム、ステアリン酸及びタルクを精製水に添加して調製したコーティング剤で被覆してマスキング粒子を製造する工程、
(b3)マスキング粒子を、D−マンニトールを精製水に添加して調製したコーティング液でオーバーコートして、オーバーコートしたマスキング粒子を得る工程、
(b4)D−マンニトール、結晶セルロース及びクロスポビドンを用いて、造粒物を得る工程、
(b5)上記(b3)のオーバーコートしたマスキング粒子、上記(b4)の造粒物、トウモロコシデンプン及びフマル酸ステアリルナトリウムを混合して打錠用混合物を得る工程、
(b6)上記(b5)の打錠用混合物を打錠して錠剤を得る工程。」
(以下「甲1発明」という。)

「甲1発明の錠剤を製造する方法であって、以下の工程からなる製造方法に準じて製造する方法。
(b1)シロドシン、部分アルファー化デンプン、タルクを混合し、ここへヒドロキシプロピルセルロースの精製水溶液を噴霧しながら造粒後整粒して薬物粒子を調製する工程、
(b2)薬物粒子を、アミノアルキルメタクリレートコポリマーE、ラウリル硫酸ナトリウム、ステアリン酸及びタルクを精製水に添加して調製したコーティング剤で被覆してマスキング粒子を製造する工程、
(b3)マスキング粒子を、D−マンニトールを精製水に添加して調製したコーティング液でオーバーコートして、オーバーコートしたマスキング粒子を得る工程、
(b4)D−マンニトール、結晶セルロース及びクロスポビドンを用いて、造粒物を得る工程、
(b5)上記(b3)のオーバーコートしたマスキング粒子、上記(b4)の造粒物、トウモロコシデンプン及びフマル酸ステアリルナトリウムを混合して打錠用混合物を得る工程、
(b6)上記(b5)の打錠用混合物を打錠して錠剤を得る工程。」(以下「甲1製法発明」という。)

2 甲2の記載事項

・特許請求の範囲
「【請求項1】a)活性成分として式:

で表される化合物、b)D−マンニトール、c)コーンスターチ、d)低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、およびe)ヒドロキシプロピルセルロースを含有してなる錠剤であって、該錠剤は、日本薬局方溶出試験法第2法(パドル法)で水を試験液とし、回転数を50回/分とする溶出試験における85%溶出時間が60分以下であることを特徴とする錠剤。
・・・
【請求項8】
遮光性コーティングの施された、請求項1〜7のいずれか一項記載の錠剤。
【請求項9】
遮光性コーティング剤が、酸化チタンを配合した、請求項8記載の錠剤。
・・・
【請求項10】
排尿障害を改善するために使用される、請求項1〜9のいずれか一項記載の錠剤。
・・・」

・発明の詳細な説明
「【技術分野】
【0001】
本発明は排尿障害治療用経口固形医薬に関するものである。詳しくは、活性成分として、・・・式(I)・・・で表されるインドリン化合物(以下、KMD−3213という)、そのプロドラッグ、若しくはそれらの薬理学的に許容される塩、またはそれらの薬理学的に許容される溶媒和物を含有する排尿障害治療用医薬であって、・・・である経口固形医薬に関するものである。」
(当審注:上記式(I)で表される「KMD−3213」は、本件特許明細書の【0001】に化合物名で記載される「シロドシン」に相当する。)

「【0011】
KMD―3213は光に対して比較的不安定であり、また、医薬品添加物の種類によっては配合変化を起こして分解物を生じやすく、さらに、賦形剤として最も一般的な乳糖との相性も悪く、乳糖を使用した場合、良好な溶出特性が得られにくく、錠剤の硬度が低くなるなどの問題を有している。また、KMD―3213は付着性が強く、錠剤またはカプセル剤の製造において滑沢剤が不可欠である一方で、この滑沢剤添加による溶出時間の遅延を生じやすいなどの問題を有している。従って、KMD―3213若しくはその薬理学的に許容される塩、またはそれらの薬理学的に許容される溶媒和物を含有する経口固形医薬は、通常の製造方法によっては、実用に供されうる製剤を製造することが困難である。」

「【0040】
本発明の経口固形医薬に活性成分として含有されるKMD−3213は光に対して比較的不安定で、保存方法によっては経時的に活性成分の含有量が減少するため、保存及び取扱いに注意を要する。従って、通常の製剤の場合、遮光性の包装での保存が必須であるが、不透明の包装では異物等の混入の判別が困難で、不良品の検査に支障をきたす危険性が高く、さらに、実際に服用する患者は、遮光包装から取り出した状態で保管することも予想されるため、遮光包装の必要のない光安定性の高い製剤が望まれる。
【0041】
このため、カプセルまたはコーティング剤に配合させるに好適な遮光性物質について検討した結果、遮光性物質としては酸化チタンが最も好適であり、酸化チタンを配合したカプセルまたは酸化チタンを配合したコーティング剤を使用することによって、極めて良好な、光安定性の高いカプセル剤または錠剤を製造できることを見出した。」

「【0051】
また、錠剤は以下のようにして製造することができる。すなわち、カプセル剤と同様にして顆粒を製し、これに滑沢剤、好ましくはステアリン酸マグネシウムを、使用量1%以下、好ましくは約0.6〜約0.8%、さらに好ましくは約0.7%加えて混合し、一般的な方法により打錠して素錠を製造する。さらに、適当な溶媒に、フィルムコーティング剤、遮光剤、好ましくは酸化チタン、および可塑剤を加え、また必要に応じて適当な滑沢剤、凝集防止剤、着色剤を加えて溶解または分散させてコーティング溶液を製し、これを素錠に噴霧コーティングして製造する。・・・。」

・また、試験例6(【0088】〜【0091】、【図5】)として、KMD−3213を含む内容物が、酸化チタン配合カプセルに充填されたカプセル剤についての、光分解物(類縁物質)量、変色を指標とする光安定性試験の結果が記載されており、カプセル剤に配合される好ましい遮光剤である酸化チタンの配合量を増加させるにつれて、光分解物(類縁物質)量の増加及び変色が抑制され、KMD−3213の光安定性が改善した結果が示されている。

3 本件特許の優先日前の周知技術

<周知技術1>
以下に示すとおり、光に対して不安定である様々な構造の有効成分を含む医薬製剤において、黄色三二酸化鉄や三二酸化鉄、食用黄色4号、食用黄色4号アルミニウムレーキ、などの着色剤や光吸収剤を配合したり被覆することで、有効成分の光安定性を向上させ、有効成分の分解や類縁体の生成、製剤の変色を抑制することは、本件特許の優先日前に周知の技術であった。

・甲3(甲7’):光に不安定な薬物であるイミダフェナシンを含有する口腔内崩壊錠中に0.05質量%以上の三二酸化鉄(黄色三二酸化鉄又は赤色三二酸化鉄)を配合することで、光安定性を改善し、分解物の生成量を抑制できること(要約、特許請求の範囲、【0007】、【0014】、試験例1)。
・甲4(甲3’):アムロジピンに三二酸化鉄や黄色三二酸化鉄を配合することで光安定化し、酸化体の生成量や外観の色変化を抑制できること(特許請求の範囲、【0011】、【実施例1】の表1及び2)、これら酸化鉄の添加量は、例えば黄色三二酸化鉄を含有する錠剤の場合は、更に好ましい添加量が0.03〜1重量%であること(【0016】)。
・甲5:着色剤である黄色三二酸化鉄や赤色三二酸化鉄、酸化チタンは光安定化剤としても挙動すること([0049])、着色剤である光安定化剤の配合量を組成物全体に対して好適には0.2〜5重量%とすること([0055])、組成物は錠剤に成形されること([0080])、錠剤100部当たり赤色三二酸化鉄を1部含有する塩酸ラモセトロン含有錠剤を得たこと(製造例1)。
・甲6:メシル酸ブロモクリプチンを含有する固型剤形の薬物物質を黄色三二酸化鉄及び三二酸化鉄からなる着色剤を含む被覆剤で被覆することで、光安定性を確保し、変色やメシル酸ブロモクリプチンの分解を抑制できること(要約、【0004】)。
黄色三二酸化鉄と三二酸化鉄の併用により黄色から赤色へと遮光波長域が広がるため光安定化効果が効果的になること(【0009】)。
・甲7:光に不安定な薬物に遮光性・吸光性の粒子による光バリア層を形成して光安定性を担保した製剤とすること(要約)、三二酸化鉄等の被覆により遮光すること(実施例1)。
・甲8:三二酸化鉄や黄色三二酸化鉄等の酸化鉄を配合したフィルムコーティングを有する錠剤とすることで、ジヒドロピリジン誘導体の光安定性を向上させ、光による分解を抑制することができること(要約、特許請求の範囲、【0008】)。
・甲4’:光に不安定な脂溶性薬物に黄色及び赤色の着色剤から選ばれる1種以上の物質を配合して光安定性の向上した製剤とすること、赤色の着色剤として三二酸化鉄、黄色の着色剤として黄色三二酸化鉄、食用黄色4号、食用黄色4号アルミニウムレーキが挙げられること(特許請求の範囲、【0006】)、具体例として、食用黄色4号等を添加した製剤とすることで光照射後のメナテトレノンの残存率が高くなったこと(実験例の表1及び表2)。
・甲5’:光に不安定な薬物を含有する内核を、三二酸化鉄、黄色三二酸化鉄、食用黄色4号、食用黄色4号アルミニウムレーキ等の光吸収物質を含有する外層で覆った口腔内崩壊錠として薬物の光安定性を向上すること(請求の範囲)、「光吸収物質」は、薬物の光分解に関与する波長を吸収することで白色以外の着色作用を有する物質を意味すること([0016])、具体例として、ニフェジピンを含有する口腔内崩壊錠においてニフェジピンの分解物の生成と錠剤の外観(色)の変化を抑制できたこと(実験例1及び試験例1)。また、酸化チタンやタルク等は、光を照射しても光が通過しない物質「光遮蔽物質」であり、目視でほぼ白色に見える物質を意味すること([0016])。
・甲6’:ワルファリンカリウムを含有する核や核の被膜に、三二酸化鉄及び/又は黄色三二酸化鉄を含有させて光安定性にすることで、光によるワルファリンカリウムの含量低下や、変色を抑制することができること(特許請求の範囲、【0003】、試験例2)。
・甲8’:式(I)で表される所定のジベンゾ[b,e]オキセピン誘導体を含有する顆粒に三二酸化鉄、黄色三二酸化鉄を配合することで、光安定性を改善し、光照射後の類縁物質の生成量を抑制することができること(特許請求の範囲、【0001】、【0003】、【実施例4】〜【実施例7】、【0052】の試験例2)。
・甲9’:光に不安定な薬物を含有する粉体を、着色剤を含む結合液で湿式造粒して光による製剤中の薬物の色変、含有量低下を防止して光安定性の向上を図ること(要約、特許請求の範囲、【0001】、実施例3、4及び試験例)、食用黄色4号、黄色三二酸化鉄、三二酸化鉄等の着色剤が、250〜500nmの波長領域の光を吸収する性質を有する着色剤であること(【0007】)。
・甲10’:光に対し不安定な薬物と、着色剤を懸濁又は溶解した液で着色された粉体又は造粒物状の添加剤とを混合して打錠することで、光に対して不安定な薬物の光による変色及び分解を防止し、光に対する安定性を向上した経口固形製剤とすることができること(特許請求の範囲、【0008】、【0009】)、着色剤としては、三二酸化鉄、食用黄色4号、食用黄色4号アルミニウムレーキ、タルク等が挙げられること(【0024】)、着色剤は経口固形製剤全体の0.001〜1.5重量%が好ましいこと(【0019】)、経口固形製剤は、種々の形態に製剤化されてよいが、なかでも、錠剤であること(【0031】)。

<周知技術2>
以下に示すとおり、酸化チタンに光触媒作用があり、薬物によっては、酸化チタンにより光による分解が促進されることがあることは本件特許の優先日前に周知の知見であった。

・甲5’:酸化チタンは光触媒作用があり、薬物によっては光によって分解促進することもあること([0004])。
・甲4(甲3’):アムロジピンに酸化チタンを配合すると光による分解が促進され安定性が改善しないこと(【0009】)。

4 本件発明6について

ア 対比
本件発明6と甲1発明とを対比する。
甲1発明の錠剤は、Bの製造方法によればシロドシンの造粒物であるマスキング粒子を含む。
また、甲1発明において、着色剤は、マスキング粒子の成分とは別の、医薬品添加剤として記載されているものの、その製造方法からは、着色剤がシロドシンを含む造粒物であるマスキング粒子に含有されているのか該マスキング粒子には含有されていないのかは判然としない。
そうすると、本件発明6と甲1発明とは、以下の点で一致し、以下の点で相違する。

<一致点>
シロドシンを含有する錠剤であって、シロドシンを含む造粒物を含有する錠剤。
<相違点1>
本件発明6においては、錠剤が「素錠」と特定されているのに対し、甲1発明においては、かかる特定はされていない点。
<相違点2>
本件発明6においては、錠剤が「遮光剤」を含有することが特定され、また、遮光剤が「黄色三二酸化鉄、三二酸化鉄より選ばれる」ものであり、その含有量が「錠剤全重量に対して、0.01〜1.0重量%」であることが特定されているのに対し、甲1発明においては、「着色剤」を含有することが特定されており、「遮光剤」を含有するとの特定はないし、その種類や含有量についても特定されていない点。
<相違点3>
シロドシンを含む造粒物を含有する錠剤について、本件発明6においては、「遮光剤とシロドシンを含む造粒物を含有する」ことが特定されているのに対し、甲1発明では、かかる特定はされていない点。

イ 判断
(ア)相違点1について
甲1発明の錠剤は、Bの錠剤の製造方法に準じて製造されるものであり、何らかの材料でコーティングされたものではないから、「素錠」であると認められる。
したがって、相違点1は、実質的には相違点ではない。

(イ)相違点2及び3について
a 相違点2及び3に関し、取消理由通知では、以下の(a1)〜(a3)を指摘した。なお、下線は当審で付した。以下同様である。
(a1)相違点2に関し、甲1には、「着色剤としては、例えば、食用黄色5号、食用赤色2号、食用青色2号等の食用色素、黄色三二酸化鉄、三二酸化鉄、カラメル色素、酸化チタン等が挙げられる。」([0012])と記載されており、甲1には、甲1発明における着色剤として、本件発明6の遮光剤と同じ「黄色三二酸化鉄、三二酸化鉄」が例示されているし、本件発明6で特定される遮光剤の含有量である「錠剤全重量に対して、0.01〜1.0重量%」という数値は、着色剤の含有量として一般的な範囲を含む(必要なら、上記3の周知技術1の甲5の[0055]、[0080]及び製造例1等、甲10’の【0019】及び【0031】参照。)。

(a2)相違点3に関し、甲1の[0011]には、甲1発明の「薬物粒子」に関し、「『シロドシンの微粉末を含有する薬物粒子』は、シロドシンのほかに、適当な添加剤を使用するのが望ましく、シロドシンと適当な添加剤との混合物、シロドシンと適当な添加剤との造粒物及び適当な添加剤をシロドシンで被覆したもの等が挙げられる」と記載され、[0012]には、「薬物粒子に用いられる添加剤としては、シロドシンと配合変化を起こさない種々の添加剤が用いることができ、例えば、崩壊剤、賦形剤・・・着色剤等を適宜用いることができる。」と記載されている。

(a3)着色剤を含有する錠剤の製造にあたり、着色剤を、有効成分と共に造粒物として存在させる手法は一般的である(甲3の実施例1、甲4’の実施例4参照。)し、甲1の[0020]には、造粒法により錠剤化する手法に関し、「造粒法では、・・・本発明のマスキング粒子と賦形剤、崩壊剤等の混合物を・・・造粒後、さらに滑沢剤を添加して混合機を用いて混合した後、打錠して経口投与製剤を製造することもできる」こと、つまり、シロドシンを含むマスキング粒子を、賦形剤等の医薬品添加剤を含む造粒物としてから錠剤化する手法で錠剤化することが記載されている。

b 甲1発明における着色剤として、本件発明6の遮光剤と同じ「黄色三二酸化鉄、三二酸化鉄」が例示されていることから、まず、相違点3について検討する。
(b1)甲1には、上記(a2)のとおり、「シロドシンの粉末を含有する薬物粒子」であって、「シロドシンと適当な添加剤との造粒物」([0011])であるものが記載され、また、上記(a1)のとおり、着色剤として「黄色三二酸化鉄、三二酸化鉄」も例示されている([0012])。
しかしながら、甲1には、錠剤を製造するシロドシン造粒物に着色剤を含有せしめた具体例の記載はなく、「マスキング粒子の製造方法」として具体的に記載されているのは、シロドシンとD−マンニトール等の添加剤や水溶性結合剤を添加して造粒する製造例である([0014]、[0015])。
また、甲1の[0020]には、上記(a3)のとおりの記載はあるが、[0020]には、造粒法により錠剤化する手法に関し、「造粒法では、賦形剤、崩壊剤等の混合物を・・・造粒後、本発明のマスキング粒子、滑沢剤等と混合機を用いて混合した後、打錠してもよい」ことも記載されており、甲1には、シロドシンを含むマスキング粒子を、賦形剤等の医薬品添加剤を含む造粒物としてから錠剤化する手法のみならず、医薬品添加物からの造粒物と、シロドシンを含むマスキング粒子を含む混合物から錠剤化する手法が記載されている。
さらに、製剤例3及び4([0026]及び[0027])には、シロドシンを含むマスキング粒子とは別の造粒物である医薬品添加物からの造粒物(顆粒(1)(あるいは顆粒(2)))を、シロドシンを含むマスキング粒子と混合して錠剤とする具体例とともに、顆粒(1)(顆粒(2))の製造における「医薬品添加物の混合」工程あるいは、打錠前の、マスキング粒子、顆粒(1)(顆粒(2))、滑沢剤の「混合」工程において、「必要に応じて、さらに・・・着色剤等を・・・添加してもよい」ことが記載されている。
つまり、甲1には、着色剤について言及された具体的な製造例としては、医薬品添加剤である着色剤を、シロドシンを含むマスキング粒子とは別の、医薬品添加物の造粒物として、あるいは、シロドシンを含むマスキング粒子とは別の混合添加成分として錠剤中に含有させる場合のみが記載されている。

(b2)加えて、甲1には、薬物粒子に用いられる添加剤として、「シロドシンと配合変化を起こさない種々の添加剤」を用いることが記載されるところ([0012])、甲1において、着色剤として列記される「黄色三二酸化鉄」又は「三二酸化鉄」が、実際に、シロドシンと同じ造粒物に存在する場合に配合変化を起こさないことを確認しているわけではないから、甲1発明において、黄色三二酸化鉄又は三二酸化鉄をシロドシンを含むマスキング粒子の中に含有させて、両成分を密接に存在させた場合にも配合変化が生じないことが明らかであるとまではいえない。

(b3)そうすると、上記(a1)〜(a3)を踏まえても、甲1発明において、錠剤に含有させる着色剤として本件発明6における「遮光剤」に相当する「黄色三二酸化鉄」又は「三二酸化鉄」を選択した上で、さらに、それらを「シロドシンを含む造粒物」中に含有させた錠剤とすることを、当業者が当然に想到するとまではいえない。

c 次に、相違点2について検討する。
(c1)本件発明6は、シロドシンの光に対する化学的な安定性を向上させ、原薬由来の分解産物(類縁体)の発生量を抑制することや、光による錠剤表面の色調変化を防止することを課題とする発明である(本件特許明細書【0007】)。そして、本件発明6では、「シロドシン及び遮光剤を含有する素錠である錠剤であって、遮光剤が黄色三二酸化鉄、三二酸化鉄より選ばれ、遮光剤の含有量が錠剤全重量に対して、0.01〜1.0重量%であり、遮光剤とシロドシンを含む造粒物を含有する錠剤」という手段を用いることにより、前記の課題を解決したものである。
一方、甲1発明は、甲1の[0005]に、「本発明は、極めて苦味の強い薬剤であるシロドシンを、異物感なく水なしでも服用でき、かつ前立腺肥大症に伴う排尿障害等の治療に有効な血中濃度を再現できる溶出性を備えた、新規な経口投与製剤を提供することを課題とする。」と記載されるとおり、シロドシンの苦味をマスキングした経口投与製剤を提供することを課題としており、本件発明6の課題についての記載はないし、甲1においては、シロドシンの苦味をマスキングした経口投与製剤を提供するという課題を、「シロドシンの微粉末を含有する薬物粒子を非腸溶性高分子を含有するコーティング剤で造粒又は被覆して得られるマスキング粒子」を用いることで解決した点に特徴を有しており(甲1の[0006]〜[0007])、着色剤を含有する点は、甲1発明における特徴点ではない。

(c2)さらに、着色剤は、着色の種類に応じて、特定の波長の光を吸収し、特定の波長の光を反射するもの、つまり、特定の波長の光を遮る機能を有するものであって、「遮光剤」としての機能を有するものであるとはいえる(必要なら、甲6の【0009】、甲5’の[0016]、甲9’の【0007】参照。)が、「遮光剤」と「着色剤」とを書き分けている文献もあり(例えば、甲2の【0051】、甲4の【0003】)、「着色剤」としての添加目的が、必ず「遮光」を目的とするといえるものでもないし、甲1には、シロドシンを含有する錠剤が光に対して不安定であるという記載もない。

(c3)そうすると、上記(a1)を踏まえても、甲1の記載からは、黄色三二酸化鉄又は三二酸化鉄であってもよい着色剤を、「遮光」目的で含有量を好適化して配合することが動機付けられるとはいえない。

d 甲1発明を、相違点2及び3の両方に係る本件発明6の構成を備えたものとする点について
(d1)甲1において、黄色三二酸化鉄及び三二酸化鉄は着色剤として用いられるものであるところ、同じ物質であっても、錠剤の着色剤として用いる場合と、シロドシンの光安定化を図るための遮光剤として用いる場合とでは、その目的に応じて錠剤中における好適な含有量のみならず、好適な配合形態も異なるものとなることが想定される。

(d2)そうすると、上記(a1)〜(a3)を踏まえても、当業者が、甲1発明において、特徴点ではない錠剤中に含まれる着色剤に着目し、甲1に例示されている中から黄色三二酸化鉄及び三二酸化鉄を選択し、シロドシンを含むマスキング粒子の中に存在させるとともに、シロドシンの光安定性を向上させる「遮光剤」として機能させるように、「遮光」に好適な特定の含有量で含有させた錠剤とし、甲1発明の錠剤を、相違点2及び3に係る本件発明6の構成を備えたものとすることを、当業者が容易に想到することができたとはいえない。

(ウ)本件発明6の効果について
a 本件発明6は、「シロドシンの光に対する化学的な安定性を向上させ、原薬由来の分解産物(類縁体)の発生量を抑制すると共に、さらには光による錠剤の色調変化を防止する効果」(本件特許明細書の【0010】)を奏するものであるところ、甲2には、シロドシンに相当する「KMD−3213」が、「光に対して比較的不安定」(【0011】)であることが記載され、試験例6(【0088】〜【0092】)の表6には、遮光性物質として酸化チタン(【0041】)を配合したカプセル製剤が、その配合量が増すにつれて、光照射による類縁物質の増加や外観の変色がより抑制されることが示されており、シロドシンが光に対して比較的不安定であることは、本件特許の優先日前に当業界において知られていた事項であった。
また、上記3の周知技術1で示したとおり、光に対して不安定である様々な構造の有効成分を含む医薬組成物において、黄色三二酸化鉄、三二酸化鉄、食用黄色4号、食用黄色4号アルミニウムレーキといった、医薬品に使用する周知の着色剤を添加した場合に、有効成分の光安定性が改善され、有効成分の分解が抑制され、また、医薬品の外観の変色が抑制できることは、当業界において広く知られている事項であった。


(b1)しかしながら、本件特許明細書には、本件発明6の効果に関し、具体的な実施例1〜5に、本件発明6の特定を満足する錠剤が、同様の製法で遮光剤を添加せずに製造した錠剤(比較例1)のみならず、甲1の[0012]に着色剤として列記され、甲2の【0051】等においてシロドシンを含有する錠剤の遮光剤として使用されている酸化チタンを使用して製造された錠剤(比較例2、3)や、着色剤として周知であり(甲10’の【0024】)、甲2の試験例1(【0062】〜【0068】の配合変化確認試験)において配合禁忌でない(滑沢剤である)ことが確認されている、タルクを使用した錠剤(比較例4)に比べて、光照射後の分解物であるデヒドロ体や類縁物質総量の増加が抑制され、また、錠剤の色差も小さく、光安定性や色差の点で格別に優れた錠剤となることが示されている(【0024】〜【0036】の実施例1〜5、試験例1〜2、及び図1〜5)。

(b2)また、本件発明6の特定を満足する実施例5と、実施例6、7の比較(図4〜6)、特許権者が令和3年9月28日提出の意見書のp.9において示した比較試験の結果によれば、本件発明6の錠剤は、甲1に着色剤として記載されるか、それ自体着色剤あるいは遮光剤であることが既知である、「食用黄色4号」(実施例6)、「食用黄色4号アルミニウムレーキ」(実施例7及び意見書の参考例2)、「カラメル色素」(意見書の参考例4)、「食用赤色2号」(同参考例1)及び「食用青色2号アルミニウムレーキ」(同参考例3)を用いた錠剤に比べて、光照射により生じるシロドシン由来の光分解物(類縁体)の増加量が少なく、かつ、光照射により生じるシロドシン含有錠剤の色調変化も少ないことが理解できる。

(b3)すなわち、「遮光剤が黄色三二酸化鉄、三二酸化鉄より選ばれ」、「遮光剤の含有量が錠剤全重量に対して、0.01〜1.0重量%であり」、「遮光剤とシロドシンを含む造粒物を含有する」ものである、本件発明6の「シロドシン及び遮光剤を含有する素錠である錠剤」は、甲1に着色剤として記載される化合物を含め、遮光作用を有すると解される既知の種々の着色剤化合物や遮光剤を含有する錠剤とは異なり、光照射により生じるシロドシン由来の光分解物(類縁体)の増加量が少なく、かつ、光照射により生じるシロドシン含有錠剤の色調変化も少ないという優れた効果を奏するものである。
そして、この効果は、取消理由で採用した証拠である甲1〜8、甲4’〜6’、8’〜10’を含め、申立人A及びBが提出したいずれの証拠にも記載のない効果である。

c したがって、本件発明6の効果は、甲1発明及び本件特許の優先日前の周知技術(甲2〜8及び甲4’〜6’、8’〜10’)から当業者が予測し得ない顕著な効果であるといえる。

ウ 小括
よって、本件発明6は、甲1発明及び本件特許の優先日前の周知技術(甲2〜8及び甲4’〜6’、8’〜10’)に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

5 本件発明7について

本件発明7は、本件発明6において、シロドシンの含有量を「錠剤全重量に対して、0.5〜10.0重量%」と特定した発明であり、本件発明6の構成を全て含むものである。
よって、上記4で記載したと同様の理由により、本件発明7について、甲1発明及び本件特許の優先日前の周知技術(甲2〜8及び甲4’〜6’、8’〜10’)に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

6 本件発明8について

本件発明8は、「遮光剤とシロドシンを含む造粒物を賦形剤及び滑沢剤と混合して打錠する工程を含む、請求項6または7に記載の錠剤を製造する方法。」であり、本件発明8は、「本件発明6又は7の錠剤」を製造する方法であるから、本件発明8は、本件発明6又は7の構成を全て含んでいる。
一方、甲1製法発明は、「甲1発明の錠剤」を製造する方法である。
そして、上記4及び5で説示したように、本件発明6及び7について、甲1発明及び本件特許の優先日前の周知技術(甲2〜8及び甲4’〜6’、8’〜10’)に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない以上、本件発明8についても、甲1製法発明及び本件特許の優先日前の周知技術(甲2〜8及び甲4’〜6’、8’〜10’)に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

7 申立人Aの主張について

ア 申立人Aは令和3年11月9日提出の意見書に添付して、甲10(本件特許の分割出願に基づく特許第6321314号に対する異議2018−700877の異議決定の写し)を提出するとともに、甲10における決定の内容に基づいて、取消理由通知で通知された取消理由(進歩性欠如)は、解消していない旨主張する。

イ しかしながら、本件の異議事件の対象となる特許に係る発明(本件発明6〜8)は、上記第3で記載したとおり、いずれも、少なくとも、「シロドシン及び遮光剤を含有する素錠である錠剤であって、遮光剤が黄色三二酸化鉄、三二酸化鉄より選ばれ」、「遮光剤の含有量が錠剤全重量に対して、0.01〜1.0重量%」、「遮光剤とシロドシンを含む造粒物を含有する錠剤」との3つの発明特定事項を備えるものである(しかも、本件特許明細書の実施例等の記載により発明の全範囲にわたってその効果が裏付けられているものでもある。)のに対し、甲10に係る異議事件の対象となる特許に係る発明は、いずれも、これら3つの発明特定事項の全てを備えるものではなく、本件発明6〜8とは異議決定の対象となる発明が異なっている。
そうすると、本件異議事件と甲10における進歩性についての判断が同じとなるものではないから、甲10に基づく申立人Aの主張は失当である。

ウ 以下に、意見書における甲10に基づく主張は、申立人Aが甲10において示された周知技術等の認定や判断内容に関し、同様の主張をする趣旨であるとして検討する。

(ア)意見書の項目(2−1)(ア)〜(エ)及び(2−2)〜(2−4)の申立人Aの主張のうち、(2−1)(イ)の本文、(ウ)、(エ)及び(2−2)〜(2−3)の主張については、上記3における周知技術の認定、並びに、上記4〜6、特に上記4イ(イ)における相違点2及び3についての判断、同(ウ)における本件発明6の効果についての判断として、これらの主張についての当審の判断を実質的に示していることから、以下では、((2−1)の(ア)及び(イ)のなお書き、並びに(2−4)の主張について検討する。

(イ)(2−1)の(ア)及び(イ)のなお書きの主張について
a 申立人Aは、意見書のp.3〜4において、(2−1)の(ア)の主張に関し、甲2には、シロドシン(KMD−3213)が光に対して比較的不安定であることが記載されているから、甲1発明において、「シロドシンの光に対する化学的な安定性を向上させ、原薬由来の分解産物(類縁体)の発生量を抑制することや、光による錠剤表面の色調変化を防止することを課題とすることは、当業者であれば容易に想到することができる」旨を主張する。
また、p.4の(2−1)(イ)のなお書きにおいて、「光に対する安定性を向上させたい物質と、遮光剤とを、物理的に離れた位置に存在させる構成とするより、近い位置に存在させる構成とする方が、光安定化効果は高いと考えられるから、「特定の遮光剤とシロドシンを含む造粒物」の手段を用いることは、至極当たり前」である旨を主張する。

b 上記主張aについて検討する。
(b1)(2−1)(ア)の主張に関し、申立人Aは、申立書のp.43において、甲2の記載から、「シロドシン含有製剤において、シロドシンと共に遮光剤乃至遮光効果のある着色剤を使用することを、当業者に動機付けるものである。」と主張していたので、この点も踏まえて検討する。
甲1と同様、シロドシンを活性成分として含有する排尿障害治療用の錠剤を開示する甲2には、シロドシンが、光に対して不安定であることが記載されている(請求項1、10、【0001】、【0011】及び試験例6)のであるから、当業者は、甲1発明の錠剤に含まれているシロドシンも光に対して不安定であることを容易に理解し、甲1発明の錠剤にシロドシンの光に対する化学的な安定性を向上させる等の課題があることを容易に想到できるといえるし、その際に、錠剤を、遮光剤を含有したものとすることを動機付けられるとはいえる。

(b2)しかしながら、甲2には、光に対して不安定なシロドシンの安定化のための遮光剤として酸化チタンが好適である旨が記載されており(請求項9、【0041】及び【0051】)、当業者は、甲2の記載から、錠剤に酸化チタンを配合することを、検討するものと解されるし、また、甲2には、錠剤への遮光の手法に関し、素錠を遮光剤を加えたコ−ティング剤でコーティングすることが示唆されている(【0051】)のであるから、甲2の記載及び周知技術から甲1発明のシロドシンを含む造粒物を含有する錠剤(素錠)を、光に対して不安定なシロドシンの光安定化等を目的として遮光剤を含有する錠剤とする場合であっても、当業者は、甲1発明の錠剤(素錠)を、酸化チタンからなる遮光剤を含むコーティング剤でコーティングしたものとすることを、まず、想到すると解される。

(b3)また、上記4で記載したとおり、甲1には、着色剤等の医薬品添加物を、シロドシンを含むマスキング粒子とは別の造粒物あるいは添加物として錠剤とする具体例が記載される一方、着色剤とシロドシンを含む造粒物を含む錠剤の具体例の記載はないし(上記4イ(イ)b)、シロドシンは、医薬品添加物の種類によっては配合変化を起こして分解物を生じやすくなることも知られていた(甲2の【0011】)。

(b4)さらに、(2−1)(イ)のなお書きの主張には、文献の記載等の具体的な根拠がないし、遮光剤を薬物と共に造粒した錠剤の方が錠剤に遮光コーティングを施した錠剤よりも光安定化効果が優れるとの本件特許の優先日前の技術常識が存在するとも解されない。

(b5)そうすると、甲2の記載及び周知技術を踏まえた当業者が、「特定の遮光剤とシロドシンを含む造粒物」の手段を用いることを至極当たり前に想到するとは到底いえない。

(b6)一方、上記4イ(ウ)で記載したとおり、本件発明の効果は、甲1発明及び本件特許の優先日前の周知技術(甲2〜8及び甲4’〜6’、8’〜10’)から当業者が予測し得ない顕著な効果であるといえる。

c よって、(2−1)(ア)及び(2−1)(イ)のなお書きの申立人Aの主張は採用できない。

(ウ)(2−4)の主張について

a 申立人Aは、意見書において、参考例2(実施例7)の食用黄色4号アルミニウムレーキを含む錠剤は、本件特許明細書の【0036】では光照射後のシロドシン由来の類縁体の増加量が(比較例1〜4の錠剤に比べて)「有意に低い」と記載されており、一方、特許権者の意見書においては、「そのグラフにおいて、検討した遮光剤・着色剤の中で黄色三二酸化鉄、三二酸化鉄、赤色2号を用いたものが他の遮光剤・着色剤と比較して顕著にデヒドロ体の増加を抑制しており、」(当審注:意見書のp.9の5〜8行)と記載され、食用黄色4号アルミニウムレーキは、デヒドロ体の増加抑制に寄与していないことが記載されているから、参考例1〜4のデータは、本件特許明細書の内容を反映していない後出しデータといえ、このような後出しデータによって特許発明の効果を主張することはできない旨主張する。

b そこで検討すると、申立人Aの上記主張の意味内容は必ずしも明らかではないが、まず、参考例2のデータに関し、本件特許明細書には、参考例2に相当する実施例7の錠剤に比べて本件発明6を満足する実施例5の錠剤の方が光照射後のデヒドロ体・総類縁物質の含有量及び錠剤色差の点で優れることが図4〜6に示されており、参考例2のデータは、定性的なデータとしては、本件特許明細書の記載内容を超えるものとまではいえない。
また、参考例1、3、4は、進歩性欠如の取消理由を受けて、進歩性欠如の根拠とされた甲1に記載される着色剤を含有する錠剤との比較のために追加で行われた実験の結果であり、この実験では、上記4イ(ウ)でも説示したとおり、「黄色三二酸化鉄、三二酸化鉄より選ばれ」る遮光剤を含有する本件発明6に相当する錠剤の方が、光照射後のデヒドロ体の含有量及び錠剤色差の点で優れることが示されている。そして、本件特許明細書の【0008】に、「特定の遮光剤によって特定の色で着色されたシロドシン含有口腔内崩壊錠は、シロドシンの光に対する安定性が向上し、原薬由来の類縁体の発生量が有意に抑えられることを発見した。」と記載され、【0020】に「より好ましい」「特定の遮光剤」が「黄色三二酸化鉄又は三二酸化鉄」と記載されていること、実施例1〜7、比較例2〜4及び図1〜6から、「黄色三二酸化鉄、三二酸化鉄から選ばれ」る遮光剤をシロドシンを含む造粒物中に特定量含有する本件発明6の錠剤が、他の遮光剤を含有する錠剤に比べて、光照射後のデヒドロ体の含有量及び錠剤色差の点で優れることが示されていることに照らせば、参考例1、3、4のデータについても、定性的なデータとしては、本件特許明細書の記載内容を超えるものとまではいえない。
よって、上記の点の申立人Aの主張も採用できない。

8 まとめ
以上のとおり、本件発明6〜8は、甲1発明及び本件特許の優先日前の周知技術(甲2〜8及び甲4’〜6’、8’〜10’)に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

第6 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について

申立人Aが申し立てた申立理由A1には、甲1発明に基づく進歩性欠如(訂正前の請求項3、4については、更に甲4、5を組み合わせての進歩性欠如(前者)と、甲1発明と甲2〜8を組み合わせた進歩性欠如の取消理由(後者)が申し立てられていた。
ここで、訂正後の本件発明6並びに訂正後の本件発明6を直接あるいは間接的に引用する本件発明7及び8は、訂正前の請求項4に特定されていたのと同じ発明特定事項が訂正後の請求項6に記載されていることから、申立理由A1のうち前者は、甲1発明及び甲4〜5の記載を組み合わせての進歩性の取消理由を含むが、既に第5で説示したとおり、本件発明6〜8は、申立理由A1の進歩性の取消理由の証拠方法である全ての証拠を含む、甲1発明及び本件特許の優先日前の周知技術(甲2〜8及び甲4’〜6’、8’〜10’)に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないのであるから、甲1発明及び甲4〜5の記載を組み合わせての進歩性欠如の申立理由についても、第5における当審の判断で実質的に検討済みであって、理由がないことは明らかである。
また、後者の理由についても、第5の7ウ(特に、(イ))における申立人Aへの反論として、実質的に検討済みであって、理由がないことは明らかである。
そして、申立人Bが申し立てた申立理由B1(甲1’を主引例とする進歩性欠如)については、実質的に取消理由通知において採用しており、上記第5において検討済みである。

なお、申立人Bにより証拠方法として提出された甲11’に関し、申立書Bのp.32の(b)には、「光に対して不安定である様々な構造の有効成分を含む医薬製剤において、着色剤、典型的には、黄色や赤色の着色剤を添加することにより、有効成分の光安定性を向上させて、有効成分の分解や類縁体の生成を抑制したり(甲第3,5〜11号証)・・・することは・・・周知技術であり」(当審注:下線は当審で付した。また、申立人Bの甲第11号証は、この決定において、「甲11’」と記載している。)と記載されているが、甲11’には、脂溶性薬物が一般的に水に溶けにくい薬であることをうかがわせる記載があるのみで、申立書Bでのp.32(b)に記載される周知技術に関する記載はなく、申立理由B1についての判断に影響するものではないことを付記する。

以下では、申立人A及びBが申し立てた理由のうち、取消理由通知において実質的に採用しなかった、申立理由A1及びB1以外の理由について検討する。

1 申立人Aが申し立てた理由について

(1)申立理由A2(サポート要件違反)について

申立理由A2(サポート要件違反)に関して、申立人Aは、具体的には、概略、(i)シロドシンにはα、β、γの結晶多形、非晶質体が存在し、安定性に差異がある(甲9)が、実施例では、γ型について光安定性を確認しているのみであるから、発明の詳細な説明に記載のない、シロドシンがα、βの結晶多形の場合及び非晶質体の場合の発明では課題を解決できないこと(申立理由A2−1)、及び、(ii)実施例で効果が示されているのは、遮光剤の錠剤全重量に対する含有量が0.05〜0.5重量%の範囲のみであるのに、請求項の記載は、遮光剤の錠剤全重量に対する含有量が0.05〜0.5重量%以外の範囲を包含していること(申立理由A2−2)を理由として、本件発明6〜8について、特許請求の範囲の記載は、サポート要件に違反している旨主張する。

(i)申立理由A2−1(甲9を参酌しての、シロドシンの結晶状態に基づく理由)について

ア 本件特許明細書の発明の詳細な説明(以下、単に「発明の詳細な説明」ともいう。)の【0007】の記載によれば、本件発明6〜8が解決しようとする課題(以下「本件発明の課題」という。)は、「シロドシンを含有する錠剤(特に口腔内崩壊錠)について、シロドシンの光に対する化学的な安定性を向上させ、原薬由来の分解産物(類縁体)の発生量を抑制し、光による錠剤表面の色調変化を防止すること」であるといえる。

イ 一方、発明の詳細な説明には、シロドシンは光に対する安定性が不十分であり、分解物(類縁体)を生じやすいことが報告されていることが記載され(【0003】)、また、「本発明の錠剤は、原薬の光に対する安定性に加え、光による錠剤表面の色調変化を防止できる効果を併せてもつ」ものであり(【0008】)、本発明の錠剤が本件発明6〜8の発明特定事項を有するものであることが記載されている(【0009】の、(1)を引用する(4)を引用する(6)を引用する(7)、(8)、(10)参照。)
また、発明の詳細な説明(【0024】〜【0036】の実施例1〜5、試験例1〜2、及び図1〜6)には、シロドシンがγ型(結晶)である、本件発明6〜7で特定される全ての構成を満足する「錠剤」あるいは本件発明8で特定される全ての構成を満足する「錠剤を製造する方法」により、錠剤に含有されるシロドシンの光に対する化学的な安定性が向上し、原薬であるシロドシン由来の分解産物(類縁体)の発生量が抑制でき、また、光による錠剤表面の色調変化が防止でき、光に対して安定化できたことを示す試験結果が記載されている。

ウ ここで、甲9の実施例(p.9の25行〜p.11の12行、特に、p.11の[表1])の記載及び甲9のp.1の9〜10行にKMD−3213としてシロドシンに相当する化合物が記載されていることからみて、シロドシンには、α、β、γの結晶多形及び非晶質体の存在が知られているといえるし、甲9の安定性試験及びその結果(p.10の17行〜p.11の12行、[表1])並びに吸湿性試験及びその結果(p.11の13行〜p.12の1行、[表2])によれば、結晶状態の違いにより、薬物の保管安定性(外観及び純度)や吸湿性に違いがあることが理解できる。

エ しかしながら、甲9で確認されているのは、通常より高い保管温度条件や湿度条件下での安定性であって、光に対する安定性が、シロドシンの結晶状態で異なることを示すものではないし、仮に、シロドシンの結晶状態により具体的な光安定化効果の程度に違いが生じる場合であっても、本件発明6〜8における光に対する安定化は、光を遮蔽することでなされるのであり、γ型の結晶以外の結晶形や非晶質体の場合でも、光を遮蔽すれば、シロドシンの光による分解等が抑制でき、また、シロドシンを含む錠剤の光による色調変化も抑制できると当業者は推認できる。
また、シロドシンの結晶状態が違う場合には、光を遮蔽しても、シロドシンの光による分解は抑制できず、シロドシンを含む錠剤の光による色調変化も抑制できないとの本件特許の出願時の技術常識が存在したともいえない。
そうすると、発明の詳細な説明の記載から、当業者は、シロドシンがα、βの結晶多形の場合及び非晶質体の場合の発明であっても、本件発明の課題を解決できると認識するといえる。

(ii)申立理由A2−2(遮光剤の含有量の特定に基づく理由)について

ア 発明の詳細な説明(【0024】〜【0036】の実施例1〜5、試験例1〜2、及び図1〜6)には、「黄色三二酸化鉄、三二酸化鉄から選ばれ」る遮光剤を0.05〜0.5重量%の範囲で含有する本件発明6のシロドシン含有錠剤により、本願発明の課題が解決できることが示されている。

イ ここで、シロドシンの光安定化は、光を遮蔽することでなされるのであるから、当業者は、理論的に、遮光剤の含有量を増してより光を強力に遮蔽すれば、それだけシロドシンの光による分解等が抑制でき、また、シロドシンを含む錠剤の光による色調変化も抑制できると理解すると解されるし、発明の詳細な説明には、「黄色三二酸化鉄、三二酸化鉄から選ばれ」る遮光剤を0.05重量%含有する実施例1、3の錠剤よりも、0.5重量%含有する実施例2、4の錠剤の方が、原薬であるシロドシン由来の分解産物(類縁体)の発生量がより抑制でき、また、光による錠剤表面の色調変化もより防止できることが示されており、遮光剤の量を増やすことで、よりシロドシンを光に対して安定化できる傾向が読み取れる。

ウ また、本件発明6で特定される「0.01〜1.0重量%」の範囲は、発明の詳細な説明で、具体的に光に対する安定化効果が確認されている範囲とそれほど大きくは変わらず、含有される具体的な量に応じてシロドシンの光に対する安定化効果の程度が変化するとはいえ、当業者は、本件発明6で特定される程度に「黄色三二酸化鉄、三二酸化鉄から選ばれ」る遮光剤が含有されていれば、本件発明の課題を解決できると認識できるといえる。

(iii)以上のとおりであるから、申立理由A2−1及びA2−2には理由がなく、本件発明6〜8について、特許請求の範囲の記載はサポート要件を満足するといえる。

(2)申立理由A3(実施可能要件違反)について

実施可能要件違反に関して、申立人Aは、具体的には、概略、(i)シロドシンにはα、β、γの結晶多形、非晶質体が存在し、安定性に差異がある(甲9)が、実施例では、γ型について光安定性を確認しているのみで、シロドシンがα、βの結晶多形の場合及び非晶質体の場合の発明については効果が確認されていないこと(申立理由A3−1)、及び、(ii)実施例では、遮光剤の錠剤全重量に対する含有量が0.05〜0.5重量%の範囲でのみ効果が示されており、これ以外の範囲の場合についての効果は確認されていないこと(申立理由A3−2)を理由として、本件発明6〜8について、発明の詳細な説明の記載は、実施可能要件を満たさない旨主張する。

ここで、物の発明については、発明の詳細な説明の記載が、当該記載及び出願時の技術常識に照らし、当業者が発明に係る物を、製造でき、また、使用できる程度の記載であれば、実施可能要件を満足するといえるし、また、物の製造方法(物を生産する方法)の発明については、発明の詳細な説明に、当該記載及び出願時の技術常識に照らし、当業者が発明に係る物の製造方法を使用できる程度に記載されていれば実施可能要件を満足するといえるので、以下検討する。

(i)申立理由A3−1(甲9を参酌しての、シロドシンの結晶状態に基づく理由)について

本件発明6〜7は、「錠剤」という物の発明であり、また、本件発明8は、「錠剤を製造する方法」という物の製造方法の発明であるところ、発明の詳細な説明の【0023】の記載及び実施例1〜5の記載によれば、シロドシンがα、βの結晶多形の場合及び非晶質体の場合であっても、当業者が本件発明6〜7の錠剤を製造できること、本件発明8の錠剤を製造する方法を使用できることは明らかであるし、また、シロドシンを含有する錠剤は発明の詳細な説明の【0002】や甲2にも記載のとおり、従来から排尿障害治療のために使用されていたものであり、シロドシンがα、βの結晶多形の場合及び非晶質体の場合であっても、本件発明6〜7の錠剤が使用可能であることも明らかである。

(ii)申立理由A3−2(遮光剤の含有量の特定に基づく理由)について

本件発明6〜7は、「錠剤」という物の発明であるところ、発明の詳細な説明の【0023】の記載、及び実施例1〜5の記載によれば、0.05〜0.5重量%の範囲以外の含有量の場合を含め、遮光剤の錠剤全重量に対する含有量が本件発明6〜7で特定される「0.01〜1.0重量%」の範囲の錠剤を当業者が製造できることは明らかであるし、また、シロドシンを含有する錠剤は発明の詳細な説明の【0002】や甲2にも記載のとおり、従来から排尿障害治療のために使用されていたものであるから、遮光剤の錠剤全重量に対する含有量が0.05〜0.5重量%の範囲以外の含有量の場合を含め、本件発明6〜7で特定される範囲の含有量の錠剤が使用可能であることも明らかである。
また、本件発明8は、「錠剤を製造する方法」という物の製造方法の発明であるところ、当業者が、「遮光剤とシロドシンを含む造粒物を賦形剤及び滑沢剤と混合して打錠する工程を含む」本件発明8の錠剤を製造する方法を使用できることは明らかである。

(iii)以上のとおりであるから、申立理由A3−1及びA3−2には理由がなく、本件発明6〜8について、発明の詳細な説明の記載は実施可能要件を満たすといえる。

2 申立人Bが申し立てた理由について

(1)申立理由B2(甲10’を主引例とする進歩性欠如)について

ア 甲10’に記載された発明
甲10’の請求項1を引用する請求項2を引用する請求項5の記載によれば、甲10’には、以下の発明が記載されているといえる。

「光に対し不安定な薬物と、着色剤を懸濁又は溶解した液で着色された粉体又は造粒物状の添加剤と、を混合して打錠して得られる、主剤に対する着色剤の配合割合が0.01〜5重量%である、素錠の形態である経口固形製剤。」(以下「甲10’発明」という。)

イ 本件発明6について
(ア)本件発明6と甲10’発明との対比
本件発明6と甲10’発明とを対比すると、本件発明6のシロドシンは「光に不安定な薬物」である(本件特許明細書の【0003】、甲2’の【0001】及び【0011】)から、両者は、以下の点で一致し、以下の点で相違する。
<一致点>
光に不安定な薬物を含有する素錠である錠剤。
<相違点4>
光に不安定な薬物について、本件発明6では「シロドシン」と特定されているのに対し、甲10’発明では、かかる特定はされていない点。
<相違点5>
素錠である錠剤について、本件発明6では、「遮光剤」を含有することが特定され、また、遮光剤が「黄色三二酸化鉄、三二酸化鉄より選ばれる」ものであり、その含有量が「錠剤全重量に対して、0.01〜1.0重量%」であることが特定されているのに対し、甲10’発明においては、「着色剤」を「主剤に対する着色剤の配合割合が0.01〜5重量%」で含有すると特定されており、「遮光剤」を含有するとの特定はないし、遮光剤の種類や含有量についても特定されていない点。
<相違点6>
錠剤について、本件発明6では、「遮光剤と(光に不安定な薬物である)シロドシンを含む造粒物を含有する」ことが特定されているのに対し、甲10’発明では、「光に対し不安定な薬物と、着色剤を懸濁又は溶解した液で着色された粉体又は造粒物状の添加剤と、を混合して打錠して得られ」たものであると特定されている点。

(イ)判断
a 事案に鑑み、相違点6から検討する。
甲10’発明は、経口固形製剤が、「主剤と、着色剤で着色された粉体又は造粒物状の添加剤とからなることを特徴」としており(請求項1及び【0009】)、「着色剤の溶液を添加剤に適用することにより、添加剤の粒子間及び粒子表面、任意に粒子の内部にまで、着色剤溶液が浸透し、添加剤の少なくとも表面層に、ほぼ均一に着色剤を付着又は浸透させることができ」、「これにより、着色剤が添加剤に対して満遍なく、均一に行き渡り、より少量の着色剤で、主剤の十分な光安定性を与えることができる」ものである(【0021】)。
そして、「添加剤の少なくとも表面層がほぼ均一に着色されており、これを主剤と混合することにより、通常、主剤よりも配合量が多い添加剤が、主剤の粒子を取り囲むことにより、主剤に対する着色剤の付着又は主剤周辺における着色剤の配置が実現され、より微量の着色剤によって、主剤の光安定性を向上させることができる」(【0036】)ものである。

b そうすると、着色剤を含有する錠剤の製造にあたり、着色剤を、有効成分と共に造粒物として存在させる手法は一般的である(甲7’の実施例1、甲4’の実施例4参照。)としても、当業者は、甲10’発明の特徴点である、主剤(光に対し不安定な薬物)と、(主剤とは異なる)着色剤で着色された粉体又は造粒物状の添加剤とからなるものとする点を変更して、主剤(光に対し不安定な薬物)と着色剤とを同じ造粒物に含ませたものとして、相違点6に係る本件発明6の構成を備えたものとすることを動機付けられるとはいえない。
また、申立人Bが提出した他の証拠を参酌しても同様である。

c したがって、他の相違点を検討するまでもなく、本件発明6は、甲10’に記載された発明及び甲2’の記載、並びに周知技術(甲1’、3’〜9’、11’)に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

ウ 本件発明7及び8について
本件発明7及び8は、請求項6に係る発明を直接あるいは間接的に引用する発明であり、少なくとも、上記イ(ア)で記載した相違点4〜6で相違している。
そして、相違点6についての判断は、上記イ(イ)で記載したとおりであり、少なくとも相違点6で甲10’発明と相違する本件発明7及び8についても、甲10’発明、甲2’の記載、並びに周知技術(甲1’、3’〜9’、11’)に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

エ 小括
以上のとおりであるから、申立理由B2には理由がない。

(2)申立理由B3(甲4’を主引例とする進歩性欠如)について

ア 甲4’に記載された発明
甲4’の請求項5には、「光に不安定な脂溶性薬物、油状成分並びに、黄色及び/又は赤色の着色剤を水溶性高分子溶液中に均一に乳化、分散又は懸濁させ、製剤化助剤を加えて混合、造粒又はコーティングし、乾燥してなる光安定性の向上した製剤。」が記載され、該請求項5を引用する請求項8には「製剤が・・・錠剤・・・である」ことが記載されている。
また、請求項2には、請求項1の着色剤について、「黄色の着色剤が黄色三二酸化鉄、黄酸化鉄、食用黄色4号、食用黄色5号、食用黄色4号アルミニウムレーキ及びベンガラ、赤色の着色剤が三二酸化鉄、食用赤色2号、食用赤色3号及び食用赤色102号である」ことが記載され、請求項7には、請求項5において、「混合、造粒又はコーティングが、流動層造粒装置、転動造粒装置、押し出し造粒装置により行われる」ことが記載されている。
さらに、請求項1には、「光に不安定な脂溶性薬物に黄色及び赤色の着色剤から選ばれる1種以上の物質を配合してなる光安定性の向上した組成物。」が記載されるところ、【0007】には、該組成物に関し、「本発明における組成物は、光に不安定な脂溶性薬物と黄色及び/又は赤色の着色剤を混合することにより製造でき、・・・錠剤・・・等とする場合には、さらに、・・・賦形剤を混合し、必要に応じて結合剤等を添加して、造粒又はコーティングすることにより、製造することができる。」(冒頭)、「得られた・・・細粒剤等は必要に応じて崩壊剤、滑沢剤等を混合して錠剤とすることができ・・・る。」(末尾)と記載され、かかる組成物から製造される、請求項5の製剤が錠剤である場合の実施態様として、実施例4に、実施例1で流動層造粒装置で造粒して得られた細粒剤(当審注:実施例4には「実施例1で得た粉末」と記載されるが、これは、甲4’の【0008】の11行に「細粒剤等の粉末製剤」と記載されるとおり、実施例1で得た「細粒剤」のことである。)から錠剤を得たことが記載されている。
そうすると、甲4’には、以下の発明が記載されているといえる。

「光に不安定な脂溶性薬物に黄色及び赤色の着色剤から選ばれる1種以上の物質を配合してなる光安定性の向上した組成物から製造された光安定性の向上した製剤であって、
黄色の着色剤が黄色三二酸化鉄、黄酸化鉄、食用黄色4号、食用黄色5号、食用黄色4号アルミニウムレーキ及びベンガラ、赤色の着色剤が三二酸化鉄、食用赤色2号、食用赤色3号及び食用赤色102号であり、
製剤は、光に不安定な脂溶性薬物、油状成分並びに、黄色及び/又は赤色の着色剤を水溶性高分子溶液中に均一に乳化、分散又は懸濁させ、製剤化助剤を加えて混合、造粒又はコーティングし、乾燥する工程を経て製造され、
混合、造粒又はコーティングが、流動層造粒装置、転動造粒装置、又は押し出し造粒装置により行われ、
製剤が錠剤である、上記製剤。」(以下「甲4’発明」という。)

イ 本件発明6について
(ア)本件発明6と甲4’発明との対比
本件発明6と甲4’発明とを対比する。
本件発明6のシロドシンは「光に不安定な薬物」である(本件特許明細書の【0003】、甲2’の【0001】及び【0011】)し、甲4’発明では、流動層造粒装置、転動造粒装置、又は押し出し造粒装置により光に不安定な脂溶性薬物等を含む材料を製剤化する工程を経て、錠剤が製造されるから、「光に不安定な薬物を含む造粒物を含有する錠剤」であるといえる。
そうすると、本件発明6と甲4’発明とは、以下の点で一致し、以下の点で相違する。
<一致点>
光に不安定な薬物を含有する錠剤であって、光に不安定な薬物を含む造粒物を含有する錠剤。
<相違点7>
光に不安定な薬物について、本件発明6では、「シロドシン」と特定されているのに対し、甲4’発明では、「脂溶性薬物」と特定されている点。
<相違点8>
錠剤について、本件発明6では「素錠」と特定されているのに対し、甲4’発明においては、「素錠」であることは特定されていない点。
<相違点9>
錠剤について、本件発明6においては、「遮光剤」を含有することが特定され、また、遮光剤が「黄色三二酸化鉄、三二酸化鉄より選ばれる」ものであり、その含有量が「錠剤全重量に対して、0.01〜1.0重量%」であること、が特定されているのに対し、甲4’発明においては、「黄色及び赤色の着色剤から選ばれる1種以上の物質」を含有することが特定されており、「遮光剤」を含有するとの特定はなく、また、含有される物質について、「黄色の着色剤が黄色三二酸化鉄、黄酸化鉄、食用黄色4号、食用黄色5号、食用黄色4号アルミニウムレーキ及びベンガラ、赤色の着色剤が三二酸化鉄、食用赤色2号、食用赤色3号及び食用赤色102号」(以下「所定の着色剤」という。)と特定されており、その含有量については特定されていない点。
<相違点10>
光に不安定な薬物を含有する造粒物について、本件発明6では、「(黄色三二酸化鉄、三二酸化鉄より選ばれる)遮光剤」を含むことが特定されているのに対し、甲4’発明では、「(所定の着色剤である)黄色及び赤色の着色剤から選ばれる1種以上の物質」を含むことが特定されている点。

(イ)判断
a 相違点7について検討する。
甲4’には、「光に不安定な脂溶性薬物」に関し、【0002】に「【従来の技術】」として、脂溶性ビタミンを始めとする脂溶性薬物が、光、熱又は酸化に対して、不安定なものが多いこと、及び、種々の脂溶性ビタミンの製剤化に際しての安定化の手法について記載され、また、【0005】に「光に不安定な脂溶性薬物」として、種々の脂溶性ビタミンが記載され、【0009】に、発明の効果として、メナテトレノン等のビタミンKに代表される脂溶性薬物の安定化が可能であることが記載され、実施例においてメナテトレノンの光安定化の具体例が記載されるとおり、甲4’には、甲4’発明の「光に不安定な脂溶性薬物」に関し、専ら脂溶性ビタミンについて開示されるのみである。
つまり、甲4’は、当該文献の記載を総合勘案するに、脂溶性ビタミンを念頭に置いた技術に関するものであるといえる。そうすると、当業者は、甲4’の記載から、脂溶性ビタミンの分野と技術的に異なる排尿障害用の薬物の分野に関する甲2’のシロドシンを、甲4’の「光に不安定な脂溶性薬物として」採用することを動機付けられるとはいえない。

b また、仮に甲4’に「脂溶性薬物」と記載されることから、当業者が脂溶性ビタミン以外の任意の脂溶性薬物を想定する場合であっても、甲4’の【0007】には、「脂溶性薬物」の吸収性・服用性の点で好適な製剤の製造法として、甲4’の請求項5に記載のような「油状成分」を使用する製造法が記載されるのであるし、【0008】の製造に関する記載や実施例1−3(【0019】)の記載をみても、油状成分に脂溶性ビタミンを溶解させたものに水溶性高分子水溶液を添加して乳化液を調製し、これに着色剤を添加する製造例が記載されており、甲4’発明の「脂溶性薬物」とは、「油状成分」に溶解可能な脂溶性薬物を意味すると解される。
これに対し、シロドシンは、甲2’の【0017】に記載のとおり、酸性の液(これには、胃液も含まれる。)には比較的溶解性が高いものであるし、申立人Bが提出した証拠を含め本件異議事件で提出されたいずれの証拠からも、シロドシンの製剤化にあたり、甲4’に記載のように、油状成分に溶解させてから製剤化を行うことが本件特許の優先日前の技術常識であると解されないことを踏まえるに、シロドシンは、甲4’発明の対象として想定されている「脂溶性薬物」に該当するとはいえない。
そうすると、当業者は、甲4’発明の「脂溶性薬物」としてシロドシンを採用することを動機付けられることはなく、甲4’、甲2’を始め、証拠として提示された文献を参酌しても、甲4’発明を、相違点7に係る本件発明6の構成を有するものとすることは動機付けられない。

c よって、他の相違点を検討するまでもなく、少なくとも相違点7で甲4’発明と相違する本件発明6について、甲4’に記載された発明及び甲2’の記載、並びに周知技術(甲1’、3’、5’〜11’)に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

ウ 本件発明7及び8について
本件発明7及び8は、請求項6に係る発明を直接あるいは間接的に引用する発明であり、少なくとも、上記イ(ア)で記載した相違点7〜10で相違している。
そして、相違点7についての判断は、上記イ(イ)で記載したとおりであり、少なくとも相違点7で甲4’発明と相違する本件発明7及び8についても、甲4’に記載された発明及び甲2’の記載、並びに周知技術(甲1’、3’、5’〜11’)に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

エ 小括
以上のとおりであるから、申立理由B3には理由がない。

第7 むすび

以上のとおりであるから、請求項6〜8に係る特許は、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては、取り消すことができない。
また、他に請求項6〜8に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
さらに、特許異議の申立ての対象であった請求項1〜5は、本件訂正により削除されたので、請求項1〜5に係る特許についての特許異議の申立ては、申立ての対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。

 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(削除)
【請求項2】
(削除)
【請求項3】
(削除)
【請求項4】
(削除)
【請求項5】
(削除)
【請求項6】
シロドシン及び遮光剤を含有する素錠である錠剤であって、遮光剤が黄色三二酸化鉄、三二酸化鉄より選ばれ、遮光剤の含有量が錠剤全重量に対して、0.01〜1.0重量%であり、遮光剤とシロドシンを含む造粒物を含有する錠剤。
【請求項7】
シロドシンの含有量が錠剤全重量に対して、0.5〜10.0重量%である、請求項6に記載の錠剤。
【請求項8】
遮光剤とシロドシンを含む造粒物を賦形剤及び滑沢剤と混合して打錠する工程を含む、請求項6または7に記載の錠剤を製造する方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2022-03-03 
出願番号 P2016-041968
審決分類 P 1 651・ 537- YAA (A61K)
P 1 651・ 121- YAA (A61K)
P 1 651・ 536- YAA (A61K)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 藤原 浩子
特許庁審判官 渕野 留香
鳥居 福代
登録日 2020-09-25 
登録番号 6768309
権利者 大原薬品工業株式会社
発明の名称 光安定性を向上したシロドシン含有着色錠剤  
代理人 特許業務法人謝国際特許商標事務所  
代理人 特許業務法人謝国際特許商標事務所  

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