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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C08G
審判 全部申し立て 2項進歩性  C08G
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C08G
管理番号 1386118
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-07-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 2021-05-21 
確定日 2022-05-12 
異議申立件数
訂正明細書 true 
事件の表示 特許第6788716号発明「ゴム製品及びその製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6788716号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1−10〕について訂正することを認める。 特許第6788716号の請求項7及び9に係る特許に対する本件特許異議の申立てを却下する。 特許第6788716号の請求項1ないし6、8及び10に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯・本件異議申立の趣旨・審理範囲

1.本件特許の設定登録までの経緯
本件特許第6788716号に係る出願(特願2019−170431号、以下「本願」ということがある。)は、平成29年9月14日に出願人三菱電線工業株式会社(以下「特許権者」ということがある。)によりされた特許出願(特願2017−176309号)の一部を令和元年9月19日に新たに特許出願したものであり、令和2年11月4日に特許権の設定登録(請求項の数10)がされ、令和2年11月25日に特許掲載公報が発行されたものである。

2.本件特許異議の申立ての趣旨
本件特許につき、令和3年5月21日に特許異議申立人山川隆久(以下「申立人」という。)により、「特許第6788716号の特許請求の範囲の全請求項に記載された発明についての特許を取り消すべきである。」という趣旨の本件特許異議の申立てがされた。(以下、当該申立てを「申立て」という。)

3.審理すべき範囲
上記2.の申立ての趣旨からみて、特許第6788716号の特許請求の範囲の全請求項に係る発明についての特許を審理の対象とすべきものであって、本件特許異議の申立てに係る審理の対象外となる請求項は存しない。

4.以降の手続の経緯
令和3年 9月 2日付け 取消理由通知
同年10月29日 意見書・訂正請求書
同年11月 4日付け 通知書(申立人あて)
同年12月 7日 意見書(申立人)

第2 取消理由の概要

1.申立人が主張する取消理由
申立人が主張する取消理由はそれぞれ以下のとおりである。

申立人は、同人が提出した本件特許異議申立書(以下、「申立書」という。)において、下記甲第1号証ないし甲第10号証を提示し、具体的な取消理由として、概略、以下の(1)ないし(3)が存するとしている。

(1)本件の請求項1ないし9に係る発明は、いずれも、甲第1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができるものではないから、本件の請求項1ないし9に係る発明についての特許は、いずれも特許法第29条に違反してされたものであって、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。(以下「取消理由1」という。)
(2)本件の請求項1ないし10に係る発明は、いずれも、甲第1号証に記載の発明及び甲第2号証ないし甲第10号証に記載の技術事項に基づいて、あるいは、甲第7号証に記載の発明並びに甲第1号証、甲第2号証、甲第9号証及び甲第10号証に記載の技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないから、本件特許の請求項1ないし10に係る発明についての特許は、特許法第29条に違反してされたものであって、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。(以下「取消理由2」という。)
(3)本件特許の請求項1ないし10は、いずれも記載不備であり、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていないから、本件特許の請求項1ないし10に係る特許は、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであって、同法第113条第4号の規定に該当し、取り消すべきものである。(以下「取消理由3」という。)

・申立人提示の甲号証
甲第1号証:国際公開第2006/068099号
甲第2号証:特開2006−342241号公報
甲第3号証:特開2002−173543号公報
甲第4号証:特開2001−348462号公報
甲第5号証:2016年9月にダイキン工業株式会社が作成したものと認められる「高機能フッ素ゴム ダイエル」なる商品のカタログ(写し)
甲第6号証:2003年5月にダイキン工業株式会社が作成したものと認められる「ダイエルG−912」なる商品に係る技術資料(写し)
甲第7号証:国際公開第2009/116451号
甲第8号証:特開2000−119468号公報
甲第9号証:特開2004−51834号公報
甲第10号証:国際公開第2019/009250号
(以下、上記「甲第1号証」ないし「甲第10号証」を、それぞれ、「甲1」ないし「甲10」と略す。)

2.当審が通知した取消理由
当審が通知した取消理由は、概略以下のとおりである。

●本件特許の請求項1ないし8及び10に係る発明は、いずれも、甲第1号証に記載された発明又は甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができるものではないから、本件特許の請求項1ないし8及び10に係る発明についての特許は、特許法第29条に違反してされたものであって、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。(以下「取消理由A」という。)
●本件特許の請求項1ないし10は、いずれも記載不備であり、特許法第36条第6項第1号又は第2号に適合するものではなく、同法同条同項(柱書)に規定する要件を満たしていないから、本件特許の請求項1ないし10に係る発明についての特許は、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであって、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。(以下「取消理由B」という。)

第3 令和3年10月29日付け訂正請求について

1.訂正請求の内容
令和3年10月29日付けの訂正請求による訂正(以下「本件訂正」という。)は、訂正前の請求項1ないし10(以下項番に従い「旧請求項1」などという。)を一群の請求項ごとに訂正することにより、訂正後の請求項1ないし10(以下項番に従い「新請求項1」などという。)にすることを含むものであり、以下の訂正事項1ないし7を含むものである。

(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「前記水素サイト保護剤は、分子内に前記炭素のラジカルに結合するアルケニル基を2以上有するパーフルオロ骨格の化合物を含み、」と記載されているのを、「前記水素サイト保護剤は、分子内に前記炭素のラジカルに結合するアルケニル基を2以上有するパーフルオロ骨格の化合物を含み且つ23℃における粘度が30Pa・s以上100Pa・s以下の一液型の液状材料であり、」に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項2〜6及び 10も同様に訂正する)。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項7を削除する。

(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項8に「前記水素サイト保護剤は、分子内に前記炭素のラジカルに結合するビニル基を2以上有するパーフルオロ骨格の化合物であり、」と記載されているのを、「前記水素サイト保護剤は、分子内に前記炭素のラジカルに結合するビニル基を2以上有するパーフルオロ骨格の化合物であり且つ23℃における粘度が30Pa・s以上100Pa・s以下の一液型の液状材料であり、」に訂正する(請求項8の記載を引用する請求項10も同様に訂正する)。

(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項8に「前記架橋助剤は、トリアリルイソシヌレートであり、」と記載されているのを、「前記架橋助剤は、トリアリルイソシアヌレートであり、」に訂正する(請求項8の記載を引用する請求項10も同様に訂正する)。

(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項9を削除する。

(6)訂正事項6
特許請求の範囲の請求項10に「請求項1乃至9のいずれかに記載されたゴム製品の製造方法であって、」とあるうち、請求項1乃至6及び8のうちのいずれかを引用するものについて「請求項1乃至6及び8のいずれかに記載されたゴム製品の製造方法であって、」に訂正する。

(7)訂正事項7
明細書の段落【0006】に「前記水素サイト保護剤は、分子内に前記炭素のラジカルに結合するアルケニル基を2以上有するパーフルオロ骨格の化合物 を含み、」と記載されているのを、「前記水素サイト保護剤は、分子内に前記炭素のラジカルに結合するアルケニル基を2以上有するパーフルオロ骨格の化合 物を含み且つ23℃における粘度が30Pa・s以上100Pa・s以下の一液型の液状材料であり、」に訂正する。

(8)明細書の訂正に係る請求項について
訂正事項7に係る明細書の訂正は、一群の請求項である訂正前の請求項1ないし10に関係する訂正であることが明らかである。

2.訂正事項に係る訂正の適否について

(1)訂正事項1及び3について

ア.訂正の目的について
訂正事項1及び3に係る訂正では、旧請求項1又は旧請求項8における「水素サイト保護剤」につき、それぞれ、旧請求項9に記載された粘度条件及び液型条件に係る事項を直列的に付加しており、「水素サイト保護剤」の選択範囲が実質的に減縮されて新請求項1又は新請求項8にされているから、いずれも特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定の特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ.新規事項の有無及び特許請求の範囲の実質的な拡張・変更の有無
本件訂正に係る訂正事項1又は3に係る各訂正は、上記ア.で検討したとおり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、本件特許の旧請求項9に記載された事項の範囲内で訂正されたことが明らかであって、また、上記訂正によって本件訂正の前後で特許請求の範囲が実質的に拡張又は変更されたものでないことも明らかである。
したがって、本件訂正における訂正事項1又は3に係る各訂正は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項に規定する要件を満たすものといえる。

(2)訂正事項2及び5について

ア.訂正の目的について
訂正事項2及び5に係る訂正では、旧請求項7又は旧請求項9における記載事項を全て削除し、新請求項7及び9としているから、いずれも特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定の特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ.新規事項の有無及び特許請求の範囲の実質的な拡張・変更の有無
本件訂正に係る訂正事項2又は5に係る各訂正は、上記ア.で検討したとおり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、各請求項の記載が全て削除されているから、訂正前の各請求項に記載された事項の範囲内で行われたことが明らかであり、本件訂正の前後で特許請求の範囲が実質的に拡張又は変更されたものでないことが明らかである。
したがって、本件訂正における訂正事項2又は5に係る各訂正は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項に規定する要件を満たすものといえる。

(3)訂正事項4について
本件訂正に係る訂正事項4に係る訂正は、旧請求項8の「トリアリルイソシヌレート」なる技術的に意味が不明で誤記であるものと認められる記載につき、明細書の【0023】及び【0033】の記載に基づき「トリアリルイソシアヌレート」と正して新請求項8としたものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第2号に規定の誤記又は誤訳の訂正を目的とするものである。
そして、本件訂正に係る訂正事項4に係る各訂正は誤記又は誤訳の訂正を目的とするものであるから、訂正前の請求項8に記載された事項の範囲内で訂正されたものであり、本件訂正の前後で特許請求の範囲が実質的に拡張又は変更されたものでないことが明らかであって、本件訂正における訂正事項4に係る訂正は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項に規定する要件を満たすものといえる。

(4)訂正事項6について

ア.訂正の目的について
訂正事項6に係る訂正は、旧請求項1ないし9を引用する旧請求項10につき、上記訂正事項2及び5に係る訂正により全ての記載事項が削除された旧請求項7及び9を引用請求項から除外し、旧請求項10に係る引用関係を単に正したものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定の明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。

イ.新規事項の有無及び特許請求の範囲の実質的な拡張・変更の有無
本件訂正に係る訂正事項6に係る訂正は、上記ア.で検討したとおり、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであり、訂正事項2及び5に係る訂正により全ての記載事項が削除された旧請求項7及び9を引用請求項から除外し、単に引用関係を正したものであるから、訂正前の請求項10に記載された事項の範囲内で訂正されたものであり、本件訂正の前後で特許請求の範囲が実質的に拡張又は変更されたものでないことが明らかである。
したがって、本件訂正における訂正事項6に係る訂正は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項に規定する要件を満たすものといえる。

(5)訂正事項7について

ア.訂正の目的について
訂正事項7に係る訂正は、本件特許明細書の段落【0006】の記載につき、上記(1)で示した訂正事項1又は3に係る訂正により加入された事項を加入することによって、訂正された請求項1又は8並びに同各項を引用する請求項2ないし6及び10の特許請求の範囲の記載と明細書の記載とが不整合となったものを単に正しているものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定の明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。

イ.新規事項の有無及び特許請求の範囲の実質的な拡張・変更の有無
本件訂正に係る訂正事項7に係る訂正は、上記ア.で検討したとおり、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであり、請求項1又は8並びに同各項を引用する請求項2ないし6及び10の特許請求の範囲の記載と明細書の記載とが不整合となったものを単に正したものであるから、訂正前の明細書及び特許請求の範囲に記載された事項の範囲内で訂正されたものであり、本件訂正の前後で特許請求の範囲が実質的に拡張又は変更されたものでないことが明らかである。
したがって、本件訂正における訂正事項7に係る訂正は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項に規定する要件を満たすものといえる。

ウ.訂正事項7に係る訂正の請求項との関係
上記イ.で示したとおり、訂正事項7に係る訂正は、請求項1又は8並びに同各項を引用する請求項2ないし6及び10の特許請求の範囲の記載と明細書の記載とが不整合となったものを正したものであるから、訂正後の請求項1ないし6、8及び10と関係する明細書の記載を訂正したものである。

(6)独立特許要件
なお、本件特許異議の申立ては、本件の旧請求項1ないし10、すなわち全請求項に係る発明についての特許に対してされたものであるから、本件特許異議の申立ては、訂正後の全ての請求項に対してされているものであり、申立てが行われていない請求項に係る特許は存するものでなく、独立特許要件につき検討すべき請求項は存するものではない。

3.本件訂正に係る検討のまとめ
以上のとおり、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号ないし第3号に掲げる目的要件を満たすものであり、同法同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項に規定する要件も満たすものであるから、本件訂正を認める。

第4 本件特許の特許請求の範囲に記載された事項
上記本件訂正により適法に訂正された本件特許の特許請求の範囲には、以下のとおりの請求項1ないし10が記載されている。
「【請求項1】
未架橋ゴム組成物を用いて製造されるゴム製品であって、
前記未架橋ゴム組成物は、水素含有フッ素ゴムと、所定の温度に加熱されたときに前記水素含有フッ素ゴムを架橋させる熱架橋剤と、放射線が照射されたときに前記水素含有フッ素ゴムの炭素−水素間の結合が切断されて生じる炭素のラジカルに結合する水素サイト保護剤と、前記水素含有フッ素ゴムが前記熱架橋剤により架橋するときに、前記水素含有フッ素ゴムの分子間に介在するように前記水素含有フッ素ゴムと結合する架橋助剤とを含有し、
前記水素サイト保護剤は、分子内に前記炭素のラジカルに結合するアルケニル基を2以上有するパーフルオロ骨格の化合物を含み且つ23℃における粘度が30Pa・s以上100Pa・s以下の一液型の液状材料であり、
前記未架橋ゴム組成物における前記水素サイト保護剤の含有量の前記熱架橋剤の含有量に対する比が5.0以上10以下であり、
前記未架橋ゴム組成物における前記架橋助剤の含有量の前記熱架橋剤の含有量に対する比が2.0以上3.0以下であり、
前記未架橋ゴム組成物が、所定の温度に加熱されて前記水素含有フッ素ゴムが前記熱架橋剤により架橋するとともに、前記架橋助剤が前記水素含有フッ素ゴムの分子間に介在するように前記水素含有フッ素ゴムと結合した後、放射線が照射されて前記水素含有フッ素ゴムの炭素−水素間の結合が切断された後の炭素に前記水素サイト保護剤が結合したゴム組成物で形成されているゴム製品。
【請求項2】
請求項1に記載されたゴム製品において、
前記未架橋ゴム組成物における前記水素サイト保護剤の含有量が、前記水素含有フッ素ゴム100質量部に対して1質量部以上20質量部以下であるゴム製品。
【請求項3】
請求項1又は2に記載されたゴム製品において、
前記未架橋ゴム組成物における無機充填剤の含有量が、前記水素含有フッ素ゴム100質量部に対して5質量部以下であるゴム製品。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかに記載されたゴム製品において、前記ゴム製品がシール材であるゴム製品。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかに記載されたゴム製品において、
前記未架橋ゴム組成物における前記熱架橋剤の含有量が、前記水素含有フッ素ゴム100質量部に対して0.5質量部以上2.5質量部以下であるゴム製品。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれかに記載されたゴム製品において、
前記未架橋ゴム組成物における前記架橋助剤の含有量が、前記水素含有フッ素ゴム100質量部に対して1質量部以上10質量部以下であるゴム製品。
【請求項7】(削除)
【請求項8】
未架橋ゴム組成物を用いて製造されるゴム製品であって、
前記未架橋ゴム組成物は、水素含有フッ素ゴムと、所定の温度に加熱されたときに前記水素含有フッ素ゴムを架橋させる熱架橋剤と、放射線が照射されたときに前記水素含有フッ素ゴムの炭素−水素間の結合が切断されて生じる炭素のラジカルに結合する水素サイト保護剤と、前記水素含有フッ素ゴムが前記熱架橋剤により架橋するときに、前記水素含有フッ素ゴムの分子間に介在するように前記水素含有フッ素ゴムと結合する架橋助剤とを含有し、
前記水素含有フッ素ゴムは、ビニリデンフルオライドとヘキサフルオロプロピレンとテトラフルオロエチレンとの共重合体であり、
前記熱架橋剤は、パーオキサイドであり、
前記水素サイト保護剤は、分子内に前記炭素のラジカルに結合するビニル基を2以上有するパーフルオロ骨格の化合物であり且つ23℃における粘度が30Pa・s以上100Pa・s以下の一液型の液状材料であり、
前記架橋助剤は、トリアリルイソシアヌレートであり、
前記未架橋ゴム組成物における前記水素サイト保護剤の含有量が、前記水素含有フッ素ゴム100質量部に対して5質量部以上15質量部以下であり、
前記未架橋ゴム組成物における前記熱架橋剤の含有量が、前記水素含有フッ素ゴム100質量部に対して0.5質量部以上2.0質量部以下であり、
前記未架橋ゴム組成物における前記架橋助剤の含有量が、前記水素含有フッ素ゴム100質量部に対して2質量部以上5質量部以下であり、
前記未架橋ゴム組成物における前記水素サイト保護剤の含有量の前記熱架橋剤の含有量に対する比が5.0以上10以下であり、
前記未架橋ゴム組成物における前記架橋助剤の含有量の前記熱架橋剤の含有量に対する比が2.0以上3.0以下であり、
前記未架橋ゴム組成物が、所定の温度に加熱されて前記水素含有フッ素ゴムが前記熱架橋剤により架橋するとともに、前記架橋助剤が前記水素含有フッ素ゴムの分子間に介在するように前記水素含有フッ素ゴムと結合した後、放射線が照射されて前記水素含有フッ素ゴムの炭素−水素間の結合が切断された後の炭素に前記水素サイト保護剤が結合したゴム組成物で形成されているゴム製品。
【請求項9】(削除)
【請求項10】
請求項1乃至6及び8のいずれかに記載されたゴム製品の製造方法であって、
前記未架橋ゴム組成物を、所定の温度に加熱して前記水素含有フッ素ゴムを前記熱架橋剤により架橋させるとともに、前記架橋助剤を前記水素含有フッ素ゴムの分子間に介在させるように前記水素含有フッ素ゴムと結合させた後、放射線を照射して前記水素含有フッ素ゴムの炭素−水素間の結合を切断して生じる炭素のラジカルに前記水素サイト保護剤を結合させるゴム製品の製造方法。」
(以下、上記請求項1ないし10に係る各発明につき、改めて項番に従い「本件発明1」ないし「本件発明10」といい、併せて「本件発明」と総称することがある。)

第5 当審の判断
当審は、
本件の請求項7及び9に係る特許に対する本件特許異議の申立ては、適法にされた上記本件訂正によりその記載事項が全て削除されたことによって、申立ての対象を欠く不適法なものとなり、その補正ができないものであるから、特許法第120条の8で準用する同法第135条の規定により、却下すべきもの、
申立人が主張する上記取消理由及び当審が通知した上記取消理由についてはいずれも理由がなく、ほかに各特許を取り消すべき理由も発見できないから、本件の請求項1ないし6、8及び10に係る発明についての特許は、いずれも取り消すべきものではなく、維持すべきもの、
と判断する。
以下、取消理由1ないし3並びに取消理由A及びBにつきそれぞれ検討・詳述する。

I.取消理由A、取消理由1及び2について

1.各甲号証に記載された事項及び各甲号証に記載された発明
取消理由A、取消理由1及び2は、いずれも特許法第29条に係るものであるから、上記各甲号証に係る記載事項を確認し、甲1及び甲7に記載された発明を認定する。

(1)甲1

ア.甲1に記載された事項
甲1には、以下の事項が記載されている。

(1a)
「請求の範囲
[1] (a) 架橋性フッ素ゴムと、
該架橋性フッ素ゴム100重量部に対して、
(b) 2価パーフロロポリエーテル構造または2価パーフロロアルキレン構造を有し、末端あるいは側鎖に少なくとも有機珪素化合物(c)中のヒドロシリル基と付加反応可能なアルケニル基を2個以上有する反応性フッ素系化合物(架橋性フッ素ゴム(a)を除く)と、
(c) 分子中に2個以上のヒドロシリル基を有し少なくとも前記反応性フッ素系化合物(b)中のアルケニル基と付加反応可能な反応性有機珪素化合物とを合計[(b)+(c)]で1〜10重量部の量で含有し、さらに、
(d)加硫剤(d−1)と、必要により共架橋剤(d−2)とを含むゴム組成物。
[2] 上記反応性フッ素系化合物(b)と、上記反応性有機珪素化合物(c)とが液状であり、触媒の存在下に反応してゲル化し得るものであることを特徴とする請求項1に記載のゴム組成物。
[3] 上記架橋性フッ素ゴム(a)が、
(イ)フッ化ビニリデン系の架橋性フッ素ゴム(FKM)単独、または
(ロ)上記架橋性FKMに加えて、架橋性パーフルオロフッ素ゴム(FFKM)を含むものであることを特徴とする請求項1〜2の何れかに記載のゴム組成物。
[4] 上記架橋性フッ素ゴム(a)100重量部に対して、反応性フッ素系化合物(b)と反応性有機珪素化合物(c)とを合計で1〜10重量部の量で、加硫剤(d−1)を0.5〜2.5重量部の量で、共架橋剤(d−2)を3〜6重量部の量で含む請求項1〜3の何れかに記載のゴム組成物。
[5] 請求項1〜4の何れかに記載のゴム組成物を一次加硫成形後、150℃〜300℃の温度で、常圧〜減圧下に二次加硫してなるプラズマ処理装置用シール材。」

(1b)
「技術分野
[0001] 本発明は、反応性を有する硬化前のゴム組成物、及びプラズマ処理装置用シール材に関し、さらに詳しくは、特に半導体製造プロセスなどで、高温下で長時間継続的に使用しても相手部材とのベタツキ・固着が発生し難く、パーティクル発生の問題がなく、低コストで製造可能であるプラズマ処理装置用シール材を得ることができ、反応性を有する硬化前の未加硫ゴム組成物、及び該組成物を加硫成形してなるプラズマ処理装置用シール材等に関する。
背景技術
[0002] 従来より半導体製造分野などでは、耐プラズマ性に優れたエラストマー材料として、パーフロロエラストマー(FFKM)が使用されていた。
しかしながら、パーフロロエラストマーは非常に高価である。そのため、パーフロロエラストマー(FFKM)に代えて、より安価なフッ素ゴム(FKM)が使用されることが多い。
[0003] ところが、近年半導体の微細化傾向が強まり、半導体製造工程において、半導体用部材の微細化加工に際し、気相中でプラズマによりエッチング処理するドライエッチング方式が主流となっている。
このドライプロセスにおいて、半導体製造装置に組み込まれているフッ素ゴム(FKM)製シール部材の使用環境は厳しくなりつつあり、フッ素ゴム製シール部材までも、プラズマエッチングされて劣化し、シール性能の低下を引起したり、あるいは、フッ素ゴム製シール部材中に配合されている充填材が露出・脱落し、パーティクルの発生などが起こり、メンテナンス回数の増加につながり、半導体製造工程に悪影響を及ぼす可能性がある。
[0004] またフッ素ゴム(FKM)成形品を、耐プラズマ性などが求められる半導体製造分野などで継続使用すると、フッ素ゴム成形品の表面にベタツキ(粘着)が発生し、相手部材と粘着してしまうことがある。この現象は、特に半導体製造プロセスで用いられるような高温下で起こりやすい。そのため、例えば、各種半導体製造プロセスで使用される各種処理装置の出入口に設置されるゲート弁などの開閉部のシール材としてフッ素ゴムシール材を使用した場合には、ゲート弁の迅速な開閉に支障をきたし、ゲート弁の開閉の遅延、脱落などのトラブルが発生するという問題もある。
・・(中略)・・
発明の開示
発明が解決しようとする課題
[0011] 本発明は、上記のような従来技術に伴う問題点を解決しようとするものであって、半導体製造プロセス等で高温下に長時間継続的に使用しても相手部材とのベタツキ・固着が発生し難く、パーティクル発生の問題が生じないプラズマ処理装置用シール材が低コストで得られるような、加硫可能で反応性を有する硬化前のゴム組成物、及び該組成物を加硫成形してなるプラズマ処理装置用シール材を提供することを目的としている。」

(1c)
「発明の効果
[0015] 本発明によれば、従来のフッ素ゴム(FKM)よりも耐プラズマ性に優れ、半導体製造プロセス等で高温下に長時間継続的に使用しても相手部材とのベタツキ・固着が発生し難く、パーティクル発生の問題が生じないプラズマ処理装置用シール材が低コストで得られるような、加硫可能なゴム組成物が提供される。
また本発明によれば、該組成物を一次加硫成形後、150〜300℃、好ましくは200℃〜280℃の温度で常圧〜減圧下に、好ましくは真空オーブン中で二次加硫してなる、上記諸特性を具備したプラズマ処理装置用シール材が提供される。
[0016] 上記ゴム組成物の一次加硫成形後の二次加硫を上記条件下、特に、好ましい条件下に行うと、諸反応をより完結に近づけることができ、その結果未反応成分の残量が極めて少なくなり、プラズマ処理装置用シール材として使用してもパーティクルの発生がなく、相手材との固着がなく、耐プラズマ性などにバランスよく優れるため好ましい。
また、本発明に係るプラズマ処理装置用シール材に代表される加硫成形物は、相手部材との非粘着性に優れ、金型離型性が良好であるため、熱プレス等によりプラズマ処理装置用シール材などを、効率よく低コストで安全に製造可能である。」

(1d)
「[0020] 以下、この未加硫ゴム組成物に含まれる各成分について初めに説明する。
<架橋性フッ素ゴム(a)>
架橋性フッ素ゴム(a)としては、本発明の目的に照らして各種半導体ドライプロセスで使用されるプラズマ(プラズマエッチング処理)に対する耐性を示すシール材が得られるようなゴム材が望ましく、ベースゴム材料(a)としては一般的に耐プラズマ性に優れた公知のフッ素ゴムが使用される。
[0021] 本発明では、上記架橋性フッ素ゴム(a)としては、
(イ)フッ化ビニリデン系の架橋性フッ素ゴム(FKM)単独で用いてもよく、また
(ロ)上記架橋性FKMに加えて、架橋性パーフルオロフッ素ゴム(FFKM)を含んでいてもよい。
架橋性フッ素ゴム(a)としては、例えば、「フッ素系材料の開発」(1997年、シーエムシー社刊、山辺、松尾編、64pの表1)に挙げられているようなものを使用でき、具体的には、
(1)2元系のビニリデンフルオライド(VDF)/ヘキサフルオロプロピレン(HFP)共重合体ゴム(FKM)、四フッ化エチレン(TFE)/プロピレンゴム、3元系のビニリデンフルオライド(VDF)/ヘキサフルオロプロピレン(HFP)/テトラフルオロエチレン(TFE)共重合体ゴム、四フッ化エチレン(TFE)/プロピレン/ビニリデンフルオライド(VDF)共重合体ゴム、ビニリデンフルオライド(VDF)/四フッ化エチレン(TFE)/パーフルオロメチルビニルエーテル共重合体ゴムに代表されるように、主鎖炭素(C)−炭素(C)結合を構成している炭素(C)の一部に直接結合する水素が存在し、主鎖炭素(C)−水素(H)結合が存在する通常のフッ化ビニリデン系のフッ素ゴム(FKM);
・・(中略)・・
などが挙げられる。
[0022] このような架橋性フッ素ゴム(a)のうちで、上記架橋性のFKMとしては、商品名「バイトン」(デュポン社製)、「ダイエルG902、G912」(ダイキン工業社製)、「ミラフロン」(旭化成社製)、「フローレル」(3M社製)、「テクノフロン」(ソルベイソレクシス社製)などの商品名で上市されているものを何れも使用可能である。
本発明においては、ベースゴム(a)として、より安価なFKMが単独で、またはFKMを主成分とし、FFKMなどを少量で配合したものが主に使用される。耐プラズマ性の観点からは、架橋性のFFKMを用いると最も優れたシール材を与えるが、コスト高となる。これに対して本発明では、より安価で汎用性のあるFKMをベースに、その耐プラズマ性、粘着性を改善し、低コストで半導体シール材としての使用に十分に耐えうるシール用ゴム材料が得られている。」

(1e)
「[0023]・・(中略)・・
<反応性フッ素系化合物(b)>
反応性フッ素系化合物(b)としては、2価パーフロロポリエーテル構造または2価パーフロロアルキレン構造を有し、末端あるいは側鎖に少なくとも有機珪素化合物(c)中のヒドロシリル基(≡Si−H)と付加反応可能なアルケニル基を2個以上有するものが用いられる。この2価パーフロロポリエーテル構造または2価パーフロロアルキレン構造は、硬化反応に寄与する。
[0024] このような反応性フッ素系化合物(b)としては、好適には、前記特開2003−183402号公報(特許文献2)の[0016]〜[0022]に記載のフッ素系エラストマー、特開平11−116684号公報(特許文献3)あるいは特開平11−116685号公報(特許文献4)[0006]〜[0014]に記載のパーフルオロ化合物等と同様のものが使用可能である。
[0025] 具体的には、反応性フッ素系化合物(b)は、前記特開2003−183402号公報(特許文献2)にも記載されているように、下記式(1)で表される。
CH2=CH−(X)p−(Rf−Q)a−Rf−(X)p−CH=CH2 ・・・・・(1)
式(1)において、Xは独立に−CH2−、−CH2O−、CH2OCH2−、−Y−NR1SO2−または−Y−NR1−CO−(但し、Yは−CH2−または−Si(CH3)2−Ph−(Ph:フェニレン基)であり、R1は水素原子又は置換あるいは非置換の1価炭化水素基)を示し、Rfは2価パーフロロアルキレン基又は2価パーフロロポリエーテル基を示し、pは独立に0又は1であり、aは0以上の整数である。また、Qは下記一般式(2)、(3)または(4)で表される。
[0026][化1]
(式は省略)
[0027] 式(2)〜(4)において、X、p、R1は上記と同様の意味を示し、R3は置換または非置換の2価炭化水素基である。また、R4は結合途中に酸素原子、窒素原子、ケイ素原子及び硫黄原子の1種又は2種以上を介在させてもよい置換または非置換の2価炭化水素基、あるいは下記式(5)又は(6)で表される官能基である。
[0028][化2]
(式は省略)
[0029] 式(5)、(6)において、R5は置換または非置換の1価炭化水素基、R6は炭素原子、酸素原子、窒素原子、ケイ素原子及び硫黄原子の1種又は2種以上を主鎖構造中に含む基である。
このような反応性フッ素系化合物(b)として、上市されているものとしては、例えば、「SIFEL」(信越化学工業(株)製)が挙げられる。」

(1f)
「[0038]・・(中略)・・
<加硫剤(d−1)、共架橋剤(d−2)>
本発明に係る未加硫ゴム組成物には、架橋成分(d)として、通常、加硫剤(d−1)と、必要により共架橋剤(d−2)とが含まれ、好ましくは加硫剤と共架橋剤の両者が含まれている。
[0039] このような加硫剤(d−1)及び共架橋剤(d−2)としては、従来より公知のものを広く使用でき、加硫剤(d−1)としては、未加硫ゴム組成物中の架橋性フッ素ゴム(a)の種類等に応じて種々選択され、好ましく用いられるFKMの加硫形式としては、ポリアミン加硫、ポリオール加硫、パーオキサイド加硫(過酸化物加硫)、トリアジン加硫などが選択可能であり、中でも、パーオキサイド加硫が好ましい。パーオキサイド加硫では、パーティクルの発生源となる酸化マグネシウム、水酸化カルシウムなどの受酸剤を未加硫ゴム組成物中に配合する必要がなく、得られたシール材の使用中にパーティクルを発生させる恐れがない点で好ましい。
[0040] このパーオキサイド加硫では、例えば、本願出願人が先に提案した特開2003−155382号公報の[0018]等に記載の過酸化物架橋剤を好ましく用いることができる。
また、共架橋剤(d−2)としては、同公報の[0019]等に記載の過酸化物架橋用架橋助剤を用いることができる。
[0041] まず、加硫剤(d−1)として使用される上記過酸化物架橋剤としては、具体的には、例えば、具体的には、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン(日本油脂社製「パーヘキサ 25B」)、ジクミルパーオキサイド(日本油脂社製「パークミル D」)、2,4−ジクロロベンゾイルパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、t−ブチルジクミルパーオキサイド(日本油脂社製「パークミル D」)、ベンゾイルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5ジ(t−ブチルパーオキサイド)ヘキシン−3(日本油脂社製「パーヘキシン25B」)、2,5−ジメチル−2,5ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、α,α'−ビス(t−ブチルペルオキシ−m−イソプロピル)ベンゼン(日本油脂製「パーブチル P」)、α,α'−ビス(t−ブチルパーオキシ−m−イソプロピル)ベンゼン、t−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、パラクロルベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルパーベンゾエート等を挙げることができる。
[0042] これらのうち、2,4−ジクロロベンゾイルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド(日本油脂社製「パークミル D」)、ベンゾイルパーオキサイド(日本油脂社製「ナイパーB」)、α,α'−ビス(t−ブチルパーオキシ−m−イソプロピル)ベンゼン(日本油脂製「パーブチル P」)が好ましく用いられる。これらの架橋剤は、1種又は2種以上組み合わせて用いることができる。
[0043]
本発明においては、上記加硫剤として過酸化物架橋剤を単独で使用してもよいが、必要により、この過酸化物架橋剤(d−1)と共に共架橋剤(d−2)(過酸化物架橋用架橋助剤とも言う。)を用いることができる。
共架橋剤(d−2)としては、例えば、トリアリルイソシアヌレート(日本化成社製「タイク、TAIC」)、トリアリルシアヌレート(TAC)、トリアリルトリメリテート、N,N'−m−フェニレンビスマレイミド、ジプロパギルテレフタレート、ジアリルフタレート、テトラアリルテレフタルアミド、エチレングリコール・ジメタクリレート(三新化学社製「サンエステル EG」)、トリメチロールプロパントリメタクリレート(三新化学社製「サンエステル TMP」)、多官能性メタクリレートモノマー(精工化学社製「ハイクロス M」)、多価アルコールメタクリレートおよびアクリレート、メタクリル酸の金属塩などのラジカルによる共架橋可能な化合物が挙げられる。これらの共架橋剤は、1種または2種以上組合わせて用いることができる。
[0044] これらの共架橋剤のうちでは、反応性に優れ、得られるシール材の耐熱性を向上させる傾向があるトリアリルイソシアヌレートが好ましい。」

(1g)
「[0044]・・(中略)・・
<配合組成>
本発明に係るゴム組成物には、上記架橋性フッ素ゴム(固形分)(a)100重量部に対して、反応性フッ素系化合物(b)と反応性有機珪素化合物(c)とを合計で通常1〜10重量部、好ましくは2〜6重量部の量で、
加硫剤(架橋剤)(d−1)を通常0.5〜2.5重量部、好ましくは0.5〜2.0重量部の量で、
必要により共架橋剤(d−2)を含む場合には、共架橋剤(d−2)を通常3〜6重量部、好ましくは4〜6重量部の量で含むことが望ましい。
[0045] 上記反応性フッ素系化合物(b)と反応性有機珪素化合物(c)との合計((b)+(c))が上記範囲より少ないと、得られるシール材の耐プラズマ性の向上が認められない傾向があり、また上記範囲より多いと製造工程上、混練り作業がきわめて困難となる傾向がある。
また、上記加硫剤(架橋剤)(d−1)が上記範囲より少ないと架橋反応が不十分となる傾向があり、また上記範囲より多いと反応が早すぎて、完全な所望の成型物を得るのが困難となる傾向がある。
[0046] また、上記共架橋剤(d−2)が上記範囲より少ないと架橋不足となる傾向があり、また上記範囲より多いと得られるシール材を、特にプラズマ処理装置用シール材として用いる上で、その架橋密度が高くなりすぎて、伸び等の物性面に悪影響を及ぼし、シール材に高温、圧縮時に割れが発生するなどの傾向がある。
なお、反応性フッ素系化合物(b)と反応性有機珪素化合物(c)とは、通常、ほぼ等量(重量比)で用いられるが、必要により例えば、(b)>(c)の量で用いてもよい。
[0047] 上記(未加硫)ゴム組成物には、必要により、さらに受酸剤、充填材などが含まれていてもよい。
・・(中略)・・
<充填材>
本発明では、充填材は可能な限り使用しないのが望ましいが、本発明の目的・効果を逸脱しない範囲で必要に応じて(例えば、物性の改善などを目的として)、有機、無機系の各種充填材を配合することもできる。
[0048] 無機充填材としては、例えば、カーボンブラック、シリカ、硫酸バリウム、酸化チタン、酸化アルミニウム等が挙げられる。
有機充填材としてはポリテトラフルオロエチレン樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリイミド樹脂等が挙げられる。
これら有機、無機充填材は、1種または2種以上組合わせて用いてもよい。」

(1h)
「[0060] このように本発明に係るプラズマ処理装置用シール材に代表される加硫成形体は、従来品と比較し、飛躍的に耐プラズマ性、非粘着性が向上しており、充填材の配合が全く不要(組成物あるいは加硫成形体中の充填材含有量:0重量%)〜含有するとしても極微量(例:1.0〜10.0重量%程度)に抑制可能であるため、プラズマ処理装置用シール材として用いてもパーティクルが発生しないという優れた効果がある。加えて真空オーブンを用いた二次加硫でゲル化反応を完遂させ未反応成分を実質上揮散させているため、半導体製造装置系内の放出ガスによる汚染も軽減できる。また、該シール材は、その価格がフッ素ゴム(FKM)と同等であり安価である。
[実施例]
以下、本発明の好適態様について実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明はかかる実施例により何ら限定されるものではない。
[測定条件等]
<常態物性>
JIS K6251、K6253に準拠し、常態物性(硬度、引張り強さ、伸び、100%モジュラス)を測定。
<圧縮永久歪(%)>
JIS−K6262に準拠し、200℃×70時間、圧縮率25%の条件で測定を実施。
<固着試験(N)>
サイズAS568A−330のO−リングを成形可能な金型にて成形したO−リングを図1に示すようにフランジに装着し、フランジをメタルタッチ状態までボルト圧締めした後、所定の試験温度(180℃)で72時間電気炉で加熱する。72時間経過後、フランジを速やかに電気炉から取り出し、室温(25℃)まで放冷した後、ボルトを取り外したフランジを300mm/minの速度で引きはがすときの力の最大値からフランジの自重による力を差引いたものを固着力とした。
<耐プラズマ性>
特開2004−134665号公報にも記載されているように、平行平板型低温プラズマ照射装置(電極径φ300mm、電極間距離50mm)を用い、アース側電極とプラズマ源とを対向させ、アース側電極上に試験片となるシール材を載置して、試験片のプラズマ源側表面をパンチングメタルで遮蔽し、さらにその表面をスチールウールで遮蔽して、シール材がプラズマ照射によりイオンの影響を受けず、ラジカルの影響のみを受けるようにセットした。
[0061] 次いで、出力RF500W、プラズマ照射時間3時間、ガス混合比O2/CF4=180/20(cc/分、流量比(容積比))、ガス総流量150sccm、真空度80Paの条件で、プラズマ照射試験を行った。
このときの試験前後のシール材の重量(質量)を測定し、試験前の質量(g)をx、試験後の質量をy(g)として下記式により質量減少率を算出した。
[0062] 該質量減少率(%)が少ないほど耐プラズマ性に優れることを示す。
質量減少率(%)=[(x−y)/x]×100
[実施例1]
架橋性フッ素ゴムとして「ダイエルG912」{パーオキサイド加硫可能な3元系含フッ素共重合体=ビニリデンフルオライド(CF2=CH2)/ヘキサフルオロプロピレン(CF3−CF=CF2)/テトラフルオロエチレン(CF2=CF2)、フッ素含量71質量%、ムニー粘度ML1+10(100℃)76、ダイキン工業(株)製。}に、
2価パーフロロポリエーテル構造または2価パーフロロアルキレン構造を有し、末端あるいは側鎖にヒドロシリル基と付加反応可能なアルケニル基を2個以上有する反応性フッ素系化合物(b)、及び、分子中に2個以上のヒドロシリル基を有しアルケニル基と付加反応可能な反応性有機珪素化合物(c)、及び、(b)と(c)との付加反応用の白金族化合物触媒を含み、(b)と(c)との反応によりゲル化可能な成分である「SIFEL8070A/B」{信越化学工業(株)製}および、
架橋剤{「パーヘキサ25B」、日本油脂社製、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン}、並びに共架橋剤{「TAIC」、日本化成社製、トリアリルイソシアヌレート}を添加(配合)し、
オープンロールを用いて60℃の温度で1.0時間混練し、ゴムコンパウンドを得た。
[0063] このゴムコンパウンドを金型に充填し、圧力50kgf/cm2をかけて、165℃の温度で15分間加熱し、架橋成形を行った(一次加硫成形)。
次いで、上記金型から一次加硫された成形体を取り出し、真空オーブン(真空度:30Pa)での減圧下に、200℃で12時間加熱した(二次加硫)。
得られた成形体について、表1に示す常態物性、圧縮永久歪(%)、固着試験(N)、耐プラズマ性(重量減少率(%)、条件3時間遮蔽)を上記試験条件下で測定した。
[0064] その結果を表1に示す。
[実施例2〜5]
実施例1において、配合組成等を表1のように変えた以外は、実施例1と同様にして成形体を得た。
得られた成形体について、表1に示す常態物性、圧縮永久歪(%)、固着試験(N)、耐プラズマ性(重量減少率(%)、条件3時間遮蔽)を上記試験条件下で測定した。
[0065]
その結果を表1に示す。
[実施例6]
実施例1において、二次加硫条件を表1に示すように、200℃×12時間から、180℃×12時間に変えた以外は実施例1と同様に一次〜二次加硫成形を行い、成形体を得た。
[0066]
得られた成形体について、表1に示す常態物性、圧縮永久歪(%)、固着試験(N)、耐プラズマ性を上記試験条件下で測定した。
その結果を表1に示す。
実施例6では、表1によれば、未反応成分「有」となっているが、極微量に過ぎず、また基本的な常態物性、圧縮永久歪、固着性、耐プラズマ性は問題なく良好であり、本シール材を装着する箇所がウェハー処理のチャンバー付近以外の配管等であれば、全く問題なく使用できる。またこの実施例6での「有」は極微量の未反応成分量に過ぎず、チャンバー付近でも十分に使用可能である。
[比較例1]
実施例1において、表1の配合組成に示すように、「SIFEL8070A/B」{信越化学工業(株)製}を配合しなかった以外は、実施例1と同様にして、成形体を得た。
[0067] 得られた成形体について、表1に示す常態物性、圧縮永久歪(%)、固着試験(N)、耐プラズマ性を上記試験条件下で測定した。
その結果を表1に示す。
[比較例2]
実施例1において、表1の配合組成に示すように、過酸化物系でない専用の架橋剤及び充填材が含有された「SIFEL3701A/B」{信越化学工業(株)製}をその使用法に従いLIM成形により成形体とした。
[0068] なお、この比較例2は、特開2003−183402号公報(特許文献2)の実施例4に相当する(リム成形タイプの「SIFEL」)。
得られた成形体について、表1に示す常態物性、圧縮永久歪(%)、固着試験(N)、耐プラズマ性を上記試験条件下で測定した。
その結果を表1に示す。
[0069][表1]

[0070][パーティクル試験]
上記実施例1で得られた成形体と同様にしてO−リングを形成し、図2に模式的に示すパーティクル量測定装置20のA部材に形成されたシール装着溝(図示せず)に装着して、流体シリンダによる駆動装置25により前進後退するヘッド23の当接離脱(バルブの開閉動作にあたる)を所定回数行った後、パーティクル発生個数の測定(N=3)を行った。
[0071] その結果、開閉動作回数0万回(取付け直後の100サイクル)では、4.5個/100サイクル、動作回数1万回後では0.6個/100サイクル、3万回後では0.2個/100サイクル、5万回後では0.7個/100サイクル、10万回後では0.3個/100サイクルとなった。
また、実施例2〜6で得られた成形体と同様にして得たO−リング(寸法:同上)についても上記と同様のパーティクル試験を行ったところ、上記と同様の結果、すなわち、動作回数0万回(取付け直後の100サイクル)では数個/100サイクル、1〜5万回では何れも1個以下/100サイクルという極めて少ないパーティクル発生量となった。」

イ.甲1に記載された発明
甲1には、上記ア.の記載事項(特に摘示(1h)の[0060]ないし[0071]の「固着試験」の欄(下線部)、実施例1ないし4及び実施例6及び並びに表1(下線部))からみて、
「パーオキサイド加硫可能なビニリデンフルオライド(CF2=CH2)/ヘキサフルオロプロピレン(CF3−CF=CF2)/テトラフルオロエチレン(CF2=CF2)3元系含フッ素共重合体(a) 100重量部、2価パーフロロポリエーテル構造または2価パーフロロアルキレン構造を有し、末端あるいは側鎖にヒドロシリル基と付加反応可能なアルケニル基を2個以上有する反応性フッ素系化合物(b)、及び、分子中に2個以上のヒドロシリル基を有しアルケニル基と付加反応可能な反応性有機珪素化合物(c)、及び、(b)と(c)との付加反応用の白金族化合物触媒を含み、(b)と(c)との反応によりゲル化可能な「SIFEL8070A/B」又は「SIFEL3701A/B」なる商品名の製品組成物2ないし11重量部、過酸化物架橋剤としての2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン1重量部及び共架橋剤としてのトリアリルイソシアヌレート4重量部からなる未加硫ゴム組成物を加硫成形してなるO−リング 。」
に係る発明(以下「甲1発明1」という。)及び
「パーオキサイド加硫可能なビニリデンフルオライド(CF2=CH2)/ヘキサフルオロプロピレン(CF3−CF=CF2)/テトラフルオロエチレン(CF2=CF2)3元系含フッ素共重合体(a)100重量部、2価パーフロロポリエーテル構造または2価パーフロロアルキレン構造を有し、末端あるいは側鎖にヒドロシリル基と付加反応可能なアルケニル基を2個以上有する反応性フッ素系化合物(b)、及び、分子中に2個以上のヒドロシリル基を有しアルケニル基と付加反応可能な反応性有機珪素化合物(c)、及び、(b)と(c)との付加反応用の白金族化合物触媒を含み、(b)と(c)との反応によりゲル化可能な「SIFEL8070A/B」又は「SIFEL3701A/B」なる商品名の製品組成物2ないし11重量部、過酸化物架橋剤としての2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン1重量部及び共架橋剤としてのトリアリルイソシアヌレート4重量部からなる未加硫ゴム組成物を加硫成形してなるO−リングの製造方法。」
に係る発明(以下「甲1発明2」という。)が記載されている。

(2)甲7

ア.甲7に記載された事項
甲7には、以下の事項が記載されている。

(2a)
「請求の範囲
[1] パーオキサイド架橋性フッ素ポリマーと、ポリオール化合物と、パーオキサイド架橋剤と、共架橋剤とを含有し、
パーオキサイド架橋性フッ素ポリマー100重量部に対して、ポリオール化合物0.1〜3重量部、パーオキサイド架橋剤0.1〜4重量部、共架橋剤1〜9重量部を含有するフッ素ゴム組成物。
[2] 前記ポリオール化合物が、ビスフェノール類である請求項1に記載のフッ素ゴム組成物。
[3] 前記ポリオール化合物が、ビスフェノールAFである請求項1に記載のフッ素ゴム組成物。
[4] 請求項1〜3のいずれかに記載のフッ素ゴム組成物を架橋して得られる耐クラック性シール材。
[5] フッ素ポリマー架橋体とポリオール化合物とを含む耐クラック性シール材。
[6] 前記ポリオール化合物が、ビスフェノール類である請求項5に記載の耐クラック性シール材。
[7] 前記ポリオール化合物が、ビスフェノールAFである請求項5または6に記載の耐クラック性シール材。」(第17頁)

(2b)
「技術分野
[0001] 本発明は、フッ素ゴム組成物および該組成物から得られるシール材に関する。
[0002] さらに詳しくは、本発明は、耐クラック性シール材を形成可能なフッ素ゴム組成物および該組成物から得られる耐クラック性シール材に関する。
背景技術
[0003] フッ素ゴムは、次の性質を有することで知られている。
(1)他の汎用ゴムと同様にゴム本来の特性であるゴム弾力性を有する;
(2)ゴム中の炭素原子に結合している水素原子がフッ素によって置換された状態で炭素鎖が結合され、かつ不飽和結合を含まないため、化学的に極めて安定である;
(3)他の汎用ゴムに比して耐熱性、耐油性、耐薬品性、耐候性、耐オゾン性などの特性に優れている。
[0004] そのため、それらの特性を活かして、例えば、Oリングのように、合成ゴムを主材料とし、これに架橋剤、架橋助剤、充填材などのゴム薬品を配合し、金型によって加圧加熱成型したゴム系シール材などに用いられている。
[0005] このフッ素ゴム系シール材は、柔軟であることから接合面(フランジ表面など)とのなじみがよく、またシール性に優れているために、各種産業の装置・機器に幅広く使用されている。
[0006] このうち、半導体産業においては、フッ素ゴム系シール材が耐熱性、耐薬品性に優れ、パーティクルと呼ばれる微粒子やガスの発生の少ないことから、エッチングなどの工程における薬液ラインのシール材等に使用されている。
[0007] 半導体製造におけるプラズマ処理を使用する工程においては、O2、CF4、O2+CF4、N2、Ar、H2、NF3、CH3F、CH2F2、C2F6、Cl2、BCl3、TEOS(テトラエトキシシラン)、SF6等のプラズマガスが用いられている。特に、エッチング工程では主にフロロカーボン系ガスが用いられ、またアッシング工程では酸素ガスを中心とした混合ガスが用いられている。
[0008] 従来、プラズマガス条件下で使用するシール材としては、耐プラズマ性が優れることから、主にパーフロロエラストマー(主鎖C−C結合に結合する側鎖中の水素原子(H)が実質的に完全にフッ素原子(F)で置換されフッ素化されている架橋性フッ素ポリマー:FFKMに分類される)が使用されてきた。
[0009] しかしながら、パーフロロエラストマーは非常に高価である。それゆえ、プラズマ環境の温和なシール部位では、半導体製造装置用シール材として、より安価な架橋性フッ素ポリマー(主鎖C−C結合に結合する側鎖中の水素原子(H)が不完全にフッ素原子(F)で置換され、一部水素原子(H)を含む未加硫フッ素ゴムポリマー:FKMに分類される)が使用されることが増えてきている。
[0010] ところが、近年、半導体のデザインルール(設計ルール)の微細化、及びスループット(単位時間辺りの処理量)の向上に伴い、シール材の使用環境は厳しくなりつつある。
[0011] シール箇所へのシール材の装着は、装着性、脱落防止等を考慮して、シール材を幾分伸張して装着することが多く、また、シール性を充分に発揮させるため、シール材を圧縮して装着する。
[0012] これらのシール材は、プラズマ照射雰囲気中にさらされると、プラズマ照射を受けて、ゴムが劣化し、シール材表面からゴム成分が揮発することにより重量減少が生じる。
[0013] また、プラズマが照射されることにより、これらのシール材にはクラックが発生しやすく、クラック発生が著しい場合は、クラックが要因となってシール材が切断する場合も見受けられる。これはシール性能の低下を引き起こすなどのシール材の短寿命化による半導体製造装置のメンテナンス回数増加等の問題を引き起こす。
・・(中略)・・
[0019] このため、耐プラズマ性(重量減少率に関連)のみならず、プラズマ照射時における耐クラック性、圧縮永久歪み率(共にシール寿命に関連)にも優れ、パーティクルを発生せず、かつより安価で長寿命のフッ素ゴムシール材が望まれている。
・・(中略)・・
発明が解決しようとする課題
[0024] 本発明の目的は、上記のような従来技術に伴う問題点を解決することにある。
[0025] より詳しくは、シール材としての性能を損なうことなく、プラズマ環境下における耐クラック性に優れた耐クラック性シール材を形成可能なフッ素ゴム組成物および該ゴム組成物から得られる耐クラック性シール材を提供することにある。
[0026] より具体的には、本発明の目的は、耐プラズマ性のみならず、耐クラック性に優れ、かつ圧縮永久歪み率にも優れ、パーティクルを発生せず、かつより安価で長寿命の耐クラック性シール材を形成可能なフッ素ゴム組成物および該ゴム組成物から得られる耐クラック性シール材を提供することにある。」

(2c)
「[0037]フッ素ゴム組成物
本発明に係るフッ素ゴム組成物は、パーオキサイド架橋性フッ素ポリマー100重量部に対して、ポリオール化合物0.1〜3重量部、パーオキサイド架橋剤0.1〜4重量部、共架橋剤1〜9重量部を含有し、耐クラック性シール材を形成可能なものである。
[架橋性フッ素ポリマー]
本発明で用いられる架橋性フッ素ポリマーはパーオキサイド架橋性のものであって、係る架橋性フッ素ポリマーとしては、従来公知のものが使用できる。それらの中でも、主鎖C−C結合に結合する側鎖中の水素原子(H)が不完全にフッ素原子(F)で置換され、一部水素原子(H)を含むフッ素ポリマー(FKM)が、製造コストの面から好ましい。
[0038] 具体的には、例えば、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン/ビニリデンフロライド共重合体(例:ダイキン工業(株)製の「ダイエルG912」)、テトラフルオロエチレン/パーフルオロアルキルビニルエーテル/ビニリデンフロライド共重合体(例:ダイキン工業(株)製の「ダイエルLT302」)、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、エチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル−テトラフルオロエチレン共重合体、テトラフルオロエチレン−プロピレン共重合体などが挙げられる。
[0039] また、ダイキン工業(株)製の「ダイエルシリーズ」、デュポン・ダウエラストマー社製の「バイトンシリーズ」、ソルベイソレクシス社製の「テクノフロンシリーズ」、住友スリーエム社製の「ダイネオンフッ素ゴム」、旭ガラス(株)製の「フルオンアフラスシリーズ」などの市販品を使用してもよい。
[0040] これらのうち、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン/ビニリデンフロライド共重合体、テトラフルオロエチレン/パーフルオロアルキルビニルエーテル/ビニリデンフロライド共重合体が、本発明のフッ素ゴム組成物から得られるシール材の耐プラズマ性が良好であることから好ましい。これらの共重合体は単独で用いても、2種以上を混合して用いてもよい。
[パーオキサイド架橋剤]
本発明のフッ素ゴム組成物に配合されるパーオキサイド架橋剤は、ポリオール架橋、ポリアミン架橋で用いられる酸化マグネシウム、酸化カルシウムのような架橋助剤(受酸剤)を使用せずに架橋させることが可能である。それゆえ、上記パーオキサイド架橋剤を用いると、前記架橋助剤(受酸剤)に由来するパーティクルの発生を生じないという利点を得ることができる。
[0041] パーオキサイド系加硫の架橋剤としては、従来公知のものが広く使用できる。」

(2d)
「[0045] 上記架橋剤は、架橋性フッ素ポリマー100重量部に対して、通常0.1〜4.0重量部、好ましくは0.3〜2.0重量部、より好ましくは0.5〜1.5重量部の割合で配合される。
[0046] このような範囲で上記架橋剤を配合すると、良好な常態物性、圧縮永久歪率を示すシール材が得られる点で好ましい。
[共架橋剤]
パーオキサイド加硫では、通常パーオキサイド架橋剤と共架橋剤とが併用して用いられる。共架橋剤(加硫助剤)としては、従来公知のものを広く用いることができる。
[0047] 具体的には、例えば、トリアリルイソシアヌレート(日本化成社製、商品名「TAIC」)、トリアリルシアヌレート、トリアリルホルマール、トリアリルトリメリテート、N,N'−m−フェニレンビスマレイミド、ジプロパギルテレフタレート、ジアリルフタレート、テトラアリルテレフタルアミド、などのラジカルによる共架橋可能な化合物が挙げられる。
[0048] これらのうちでは、トリアリルイソシアヌレートが、反応性に優れ、かつ、良好な耐熱性、圧縮永久歪を示すシール材が得られるなどの点で好ましい。
[0049] これらの共架橋剤は、1種または2種以上組み合わせて用いてもよい。
[0050] 上記共架橋剤は、架橋性フッ素ポリマー100重量部に対して、通常1〜9重量部、好ましくは2〜7重量部、より好ましくは3〜6重量部の割合で配合される。
[0051] このような範囲で上記架橋剤を配合すると、良好な常態物性、圧縮永久歪率を示すシール材が得られる点で好ましい。・・(後略)」

(2e)
「[0065] ・・(中略)・・
[フッ素ゴム組成物および該組成物から得られるシール材の製造方法]
本発明に係る上記ゴム組成物及びシール材は、従来公知の方法で製造することができる。
[0066] 具体的には、例えば、オープンロール、バンバリーミキサー、加圧式ニーダー、二軸ロール等の混練装置にて架橋性フッ素ポリマーを素練りし、必要であれば、加工助剤、充填剤、可塑剤、受酸剤を添加して混錬りする。その後、ポリオール化合物、共架橋剤を添加して混錬りし、最後にパーオキサイド加硫剤を添加し混錬りしてゴムコンパウンド(フッ素ゴム組成物)を調製する。
[0067] 次いで、所定形状の金型にゴムコンパウンド(すなわち本発明のフッ素ゴム組成物)を充填し、100〜200℃の加熱温度で、約0.5〜120分程度、熱プレス成形することにより、シール材などの所定のゴム成形体を得ることができる。
[0068] 本発明においては、好ましくは、ゴム成形体をオーブン中などに所定時間おき(例:150〜250℃程度の温度および常圧下にて4〜48時間程度保持することにより)二次加硫することが望ましい。
[0069] さらに好ましくは、真空中で二次加硫を実施することが、半導体製造において問題となるゴム成形体からの放出ガスやパーティクルを低減する上で望ましい。
[0070] 本発明のゴム組成物およびシール材は、従来公知の方法で製造することができる。
[0071] 具体的には、オープンロール、バンバリーミキサー、二軸混錬り機などの混練装置にて上記ゴム成分を素練りし、さらに、架橋剤等の他の配合成分を加えて上記ゴムコンパウンドを調製する。
[0072] 次いで、所定形状の金型にゴムコンパウンド充填し、熱プレス成形することにより、所定のゴム成形体を得ることができる。
[0073] さらに、好ましくは、ゴム成形体を空気還流電気炉、真空電気炉などに所定時間おきに二次加硫をすることが望ましい。二次加硫は加硫反応を十分に完結させるとともに、特に半導体製造において問題となるアウトガスやパーティクルを低減させる効果もある。
[耐クラック性シール材]
本発明の耐クラック性シール材は、架橋性フッ素ポリマー、ポリオール化合物、およびパーオキサイド架橋剤を含有する本発明のフッ素ゴム組成物をパーオキサイド加硫することで得られる耐クラック性に優れたシール材である。
[0074] また、本発明の耐クラック性シール材は、耐プラズマ性に優れているので半導体製造工程などにおける被処理物へのプラズマ照射時にもシール材由来のパーティクルを生じることなく、また、耐クラック性、耐圧縮歪に優れているので長寿命である。」

(2f)
「実施例
[0075] 以下、本発明に係るフッ素ゴム組成物および耐クラックシール材について実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明は係る実施例により何ら限定されるものではない。
[0076] 下記の実施例と比較例とを対比すれば明らかなように、本発明のフッ素ゴム組成物から得られるシール材は、耐プラズマ性、特にこれまで問題となっていた、プラズマによるクラック発生が低減されている(優れた耐クラック性)。それゆえ、該シール材は、プラズマエッチング、プラズマアッシング、CVDなど半導体製造において多用されるプラズマ処理工程おいて使用される半導体処理装置用のシール材をはじめとする各種ゴム部材として優れるという効果を奏する。
(3−1)試料の成形方法
表1に示す条件で試料を配合し、その配合物をオープンロールにて混練りして得たゴムコンパウンド(フッ素ゴム組成物)を金型にセットした。次いで、金属にセットしたゴムパウンドを、50t圧縮真空プレスを用いて50kgf/cm2の圧力にて160℃の温度で30分間加熱し成形を行い、次いで、真空電気炉(真空度14Pa)での減圧下にて180〜230℃の温度で16時間二次加硫を行いOリング成形体(シール材)を得た。
Oリングの寸法:AS568B−214、内径24.99mm、線径3.53mm。
3−2)評価項目の測定方法
(1) 耐プラズマ性(重量減少率)
電極径:φ100mm、電極間距離:50mmの平板プラズマ処理装置(平野光音社製)を用いて、RF300W、ガス流量比=O2:CF4=9:1、ガス流量200sccm、真空度1torrの条件下、試料にプラズマを6時間照射した。
[0077] なお、試料はプラズマ電極より10cm離れた場所に設置した。次いで、試験前後の試料の重量を測定して下式より重量(質量)減少率(%)を求めるとともに、耐プラズマ性を評価した。
[0078] 試料の重量減少率(質量減少率(%))=[(x−y)/x]×100。
[0079] ここで、xは試験前の質量(g)、yは試験後の質量(g)である。
[0080] 上記重量(質量)減少率(%)が少ないほど耐プラズマ性に優れると言える。
(2) 耐クラック性
電極径:φ100mm、電極間距離:50mmの平行平板プラズマ処理装置(平野光音社製)を用いて、RF300W、ガス流量比=O2:CF4=9:1、ガス流量200sccm、真空度1torrの条件下、試料にプラズマを2時間照射し、クラック発生の有無を確認した。
[0081] なお、試料としては「AS568B−214 Oring」を用いた。Oringは、その内径の伸長率が28%となるように円柱に装着し、プラズマ電極より10cm離れた場所に設置した。クラック発生の有無は、マイクロスコープを用いてOringの表面を20倍に拡大して確認した。
3) 圧縮永久歪率
ゴムシール材としての物性を評価するための項目はいくつかあるが、その中でも圧縮永久歪率は、シール寿命を判断する最も重要な評価項目であるといえる。よって、圧縮永久歪率を測定することにより各試料が半導体シール材として必要な物性を有するかどうかの目安とした。
[0082] 圧縮永久歪み率は、JIS K 6262に記載の方法に従って測定した。
[0083] 具体的には次のとおりである。
[0084] 試料(AS214 Oring)を圧縮率25%で鉄板に挟み込み、200℃の温度で70時間、電気炉で加温した。次いで、圧縮を解放し、30分間放冷後のOringの歪量を下式で計算し、圧縮永久歪率(%)を算出した。
[0085] 圧縮永久歪率(%)={T0−T1/T0−T2}×100%
T0=試験前Oringの高さ(Oリングの中心軸方向の厚み)。
T1=圧縮を素早く開放してOringを圧縮板から取り出してから30分後のOring高さ。
T2=スペーサーの厚さ。
[0086] なお、各実施例、比較例等で使用した各成分(表1参照)は以下の通りである。
[0087] (イ)FKMポリマー1:「ダイエルG912」ダイキン工業社製、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン/ビニリデンフロライド共重合体、ムーニー粘度(ML1+10、100℃):76、比重:1.90、フッ素含量:71w%。
[0088] (ロ)FKMポリマー2:「ダイエルLT302」ダイキン工業社製、テトラフルオロエチレン/パーフルオロアルキルビニルエーテル/ビニリデンフロライド共重合体、ムーニー粘度ML1+10、100℃):65、比重:1.79、フッ素含量:62wt%。
[0089] (ハ)FKMポリマー3:「ダイエルG701M BP」ダイキン工業社製、ヘキサフルオロプロピレン/ビニリデンフロライド共重合体、ムーニー粘度(ML1+10、100℃):55、比重:1.81、フッ素含量:66wt%。
[0090] FKMポリマー4:「ダイエルG621」ダイキン工業社製、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン/ビニリデンフロライド共重合体(4級アンモニウム塩、ビスフェノールAF含有のマスターバッチ)、ムーニー粘度(ML1+10、100℃):88、比重:1.90、フッ素含量71%。
[0091] FKMポリマー5:「ダイエルG801」ダイキン工業社製、ヘキサフルオロプロピレン/ビニリデンフロライド共重合体、ムーニー粘度(ML1+10、100℃):66、比重:1.81、フッ素含量66%。
[0092] (ニ)ビスフェノールAF:2、2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)パーフルオロプロパン、東京化成社製。
[0093] (ホ)ビスフェノールS:ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン、東京化成社製。
[0094] (ヘ)キュラティブVC20:トリフェニルベンジルホスホニウムクロライド(有効成分33%のマスターバッチ)デュポンエラストマー社製。
[0095] (ト)キョーワマグ#150:酸化マグネシウム、協和化学社製。
[0096] (チ)カルディック#2000:水酸化カルシウム、近江化学社製。
[0097] (リ)TAIC:トリアリルイソシアヌレート、日本化成社製。
[0098] (ヌ)パーヘキサ25B:2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルペルオキシ)ヘキサン、日本油脂社製。
[0099] (ル)パーブチルP :α,α’−ビス(t−ブチルパーオキシ)ジイソプロピルベンゼン、日本油脂社製。
[0100] 以下、各実施例、比較例において、試料の配合条件を表1に示し、各種試験の結果を表2に示す。
[0101][表1]

[0102][表2]



イ.甲7に記載された発明
甲7には、上記ア.で摘示した甲7の記載からみて、特に摘示(2f)の[0076]ないし[0102]、特に「実施例1」の記載から、
「FKMポリマー1(テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン/ビニリデンフロライド共重合体、「ダイエルG912」、ダイキン工業社製)100重量部と、ビスフェノールAF(2、2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)パーフルオロプロパン、東京化成社製)0.5重量部と、TAIC(トリアリルイソシアヌレート、日本化成社製)4重量部と、パーヘキサ25B(2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−プチルペルオキシ)ヘキサン、日本油脂社製)1.5重量部とを含有するゴムコンパウンド(未架橋ゴム組成物)から製造されたOリング成形体(シール材)。」
に係る発明(以下「甲7発明1」という。)、並びに、特に摘示(2a)の[請求項1]及び[請求項4]、摘示(2c)の[0037]並びに摘示(2d)の[0046]ないし「0049]の記載から、
「主鎖C−C結合に結合する側鎖中の水素原子(H)が不完全にフッ素原子(F)で置換され、一部水素原子(H)を含むフッ素ポリマー(FKM)などのパーオキサイド架橋性フッ素ポリマーと、ポリオール化合物と、パーオキサイド架橋剤と、トリアリルイソシアヌレートなどの共架橋剤とを含有し、
パーオキサイド架橋性フッ素ポリマー100重量部に対して、ポリオール化合物0.1〜3重量部、パーオキサイド架橋剤0.1〜4重量部、共架橋剤1〜9重量部を含有するフッ素ゴム組成物を架橋して得られる耐クラック性シール材。」
に係る発明(以下「甲7発明2」という。)が記載されている。

(3)その他の甲号証に記載された事項

ア.甲2
甲2には、その記載事項(特に【請求項4】及び【0074】ないし【0076】の実施例1で具体的に製造され、表1にて各種物性が測定されていること実施例1及び表1(下線部))からみて、
(a) 架橋性フッ素ゴムと、
該架橋性フッ素ゴム100重量部に対して、
(b) 2価パーフロロポリエーテル構造または2価パーフロロアルキレン構造を有し、末端あるいは側鎖に少なくとも有機珪素化合物(c)中のヒドロシリル基と付加反応可能なアルケニル基を2個以上有する反応性フッ素系化合物[架橋性フッ素ゴム(a)を除く。]と、
(c) 分子中に2個以上のヒドロシリル基を有し少なくとも前記反応性フッ素系化合物(b)中のアルケニル基と付加反応可能な反応性有機珪素化合物とを合計[(b)+(c)]で1〜10重量部の量で含有し、さらに、
(d)共架橋剤とを含むゴム組成物を加熱下に加圧して予備成形し、得られた予備成形体に、放射線処理することを特徴とするフッ素ゴムシール材の製造方法が記載されている。

イ.甲3
甲3には、ふっ素系熱可塑性エラストマーなどのふっ素系エラストマーを、架橋剤により成形した後、電離性放射線によって更に架橋してなる耐プラズマ性ふっ素系エラストマー成形体が記載され(【請求項1】ないし【請求項3】)、当該ふっ素系エラストマーとして、フッ化ビニリデン/ヘキサフロロプロピレン共重合体、テトラフロロエチレン/プロピレン共重合体などの炭素−水素結合を有するものが使用できること(【0020】、【0021】)、当該架橋剤として、有機過酸化物とトリアリルイソシアヌレートなどの共架橋剤との組合せが使用できること(【0024】〜【0026】)並びに耐プラズマ性ふっ素系エラストマー成形体の製造につき、架橋剤を除く全成分を添加混練して組成物とした後、架橋剤を添加して成形原料とし、この成形原料を所望形状の金型に充填し加熱プレスした後、電離性放射線を照射することによって行うこと(【0032】)もそれぞれ記載されている。
また、甲3には、請求項に記載された事項を具備する実施例1ないし3として、「ダイエルG912」なる製品名のふっ素系エラストマー100重量部、過酸化物系架橋剤0.2〜4重量部及び共架橋剤「TAIC」0.2〜4重量部を含有するコンパウンドを金型に充填し、加熱架橋した後、電子線を照射して成形体を得たことも記載されている(【0038】〜【0040】)。

ウ.甲4
甲4には、フッ素ゴムとフロロシリコーンゴムとの混合物をゴム成分とし、かつ過酸化物架橋剤を含有する耐プラズマ性ゴム組成物を所定形状に成型し、架橋してなるプラズマ処理装置用ゴム材料が記載され(【請求項1】及び【請求項2】)、当該過酸化物架橋が可能なフッ素ゴムとして、テトラフロロエチレン/プロピレン系共重合体、ビニリデンフロライド/ヘキサフロロプロピレン/テトラフロロエチレン系共重合体、エチレン/テトラフロロエチレン/パーフロロアルキルビニルエーテル系共重合体などが好適であること(【0014】)、過酸化物架橋剤を使用するにあたって、有機過酸化物とトリアリルイソシアヌレートなどの共架橋剤との組合せを使用すること(【0013】、【0016】、【0017】)並びに混練機でフッ素ゴムとフロロシリコーンゴムを混練りした後、過酸化物架橋剤、共架橋剤、更には充填剤をそれぞれ所定量添加してゴム組成物とし、当該ゴム組成物を所望形状の金型に充填し、加熱プレスによって架橋することによりシート状、棒状、リング状、各種の複雑なブロック形状等、その用途に応じて任意の形状の本発明のゴム材料が得られること(【0022】〜【0023】)がそれぞれ記載されている。

エ.甲5及び甲6
甲5は、ダイキン工業株式会社の「ダイエル」なる製品名の高機能フッ素ゴムの製品群に係るカタログであるものと認められるところ、その製品群には、パーオキサイド加硫グレードとして「G−912」なるグレードがあることが記載されている(第6頁)。
そして、甲6は、上記「ダイエル」の「G−912」につきダイキン工業株式会社が作成した技術資料であるものと認められるところ、「ダイエルG−912」100重量部にパーオキサイド1.5重量部及びトリアリルイソシアヌレート4重量部からなる配合組成物につき、加熱プレスなどにより加硫したものを試験片として、種々の機械的性質、圧縮永久ひずみ、耐熱性、耐溶剤性などの耐液体性などの諸物性が記載されており(第2頁〜第6頁)、種々のシール用途などに使用できることも記載されている(第7頁「8.用途」)。

オ.甲8
甲8には、ビニリデンフルオライド(VDF)−ヘキサフルオロプロピレン(HFP)系重合体などの架橋可能な含フッ素エラストマー(A)と、該含フッ素エラストマーとの相溶性に優れた共架橋剤(B)と、ラジカル重合開始剤である重合開始剤(C)とを含有し、粒状充填剤を含有していないことを特徴とする含フッ素エラストマー組成物を架橋してなる、酸素プラズマを照射した場合にパーティクルの発生がない含フッ素エラストマー架橋体からなる液晶・半導体製造装置用のシール材が記載され(【請求項1】〜【請求項14】)、上記共架橋剤(B)として、一般に有機過酸化物架橋において用いられる助剤であって、特に多官能反応性モノマーが好ましく、前記含フッ素エラストマー(A)との相溶性により優れたトリアリルイソシアヌレート、トリアリルシアヌレート、トリアリルトリメリテートがより好適であること(【0029】、【0030】)並びに重合開始剤(C)として、ラジカル重合開始剤が好ましく用いられ、ラジカル重合開始剤としては、無機または有機の過酸化物(例:3,5,6−トリクロロパーフルオロヘキサノイルパーオキサイド、過硫酸アンモニウム、過酸化水素等)等が挙げられ、これらのうち、有機過酸化物が好ましく用いられること(【0033】、【0034】)もそれぞれ記載されている。
また、甲8には、上記液晶・半導体製造装置用のシール材が、とりわけ、プラズマを用いる装置類(ドライエッチング装置、プラズマCVD装置、アッシング装置、プラズマ洗浄装置等)用のシール材には特に好適に用いられることも記載されている(【0045】〜【0048】)。

カ.甲9
甲9には、(A)アルケニル基を有するフルオロポリエーテル化合物であって、アルケニル基の濃度が3×10−5〜5×10−3mol/gであり、フッ素の含有率が40重量%以上であるフルオロポリエーテル化合物、(B)平均組成式(1)で表される有機ケイ素化合物、(C)ヒドロシリル化反応触媒を、(B),(C)成分は(A)成分を硬化させる有効量を含有してなる硬化性フルオロポリエーテル組成物の硬化物を含むことを特徴とする半導体製造ライン用、分析・理化学機器用、医療機器用などの用途に有用なO−リング、オイルシール、ガスケットなどのゴム製品が記載され(【請求項1】〜【請求項4】)、上記(A)成分として、両末端にアルケニル基を有するパーフルオロアルキルポリエーテル化合物を使用することが記載されている(【0012】〜【0024】)。

キ.甲10
甲10には、テトラフルオロエチレンに基づく単位および式(1)で表される化合物に基づく単位を有する含フッ素弾性共重合体と、ペルフルオロポリエーテル鎖および2個以上の重合性不飽和結合を有する有機ケイ素化合物と、有機過酸化物である架橋剤及び架橋助剤を含む、含フッ素弾性共重合体組成物を架橋してなる、架橋ゴム物品が記載され([請求項1]〜[請求項15])、上記架橋助剤としてトリアリルイソシアヌレートなどが使用できることが記載されている([0051])。
(ただし、この甲10は、本願の分割の基礎となる出願(特願2017−176309号)の出願日以降に頒布された刊行物であるものと認められる。)

2.取消理由A、取消理由1及び取消理由2について
取消理由A、取消理由1及び取消理由2は、いずれも、本件の各発明が、特許法第29条に違反して特許されたものか否かに係る理由であるので併せて検討する。

(1)甲1発明1及び甲1発明2に基づく検討

ア.本件発明1について

(ア)対比
本件発明1と上記甲1発明1とを対比すると、甲1発明1における「パーオキサイド加硫可能なビニリデンフルオライド(CF2=CH2)/ヘキサフルオロプロピレン(CF3−CF=CF2)/テトラフルオロエチレン(CF2=CF2)3元系含フッ素共重合体(a)」は、ビニリデンフルオライドに由来する炭素−水素結合を有すること及びフッ素ゴムの一種であることは当業者に自明であるから、本件発明1における「水素含有フッ素ゴム」に相当する。
また、甲1発明1における「過酸化物架橋剤としての2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン」は、上記「3元系含フッ素共重合体(a)」を加熱により架橋する「架橋剤」であるから、本件発明1における「所定の温度に加熱されたときに前記水素含有フッ素ゴムを架橋させる熱架橋剤」に相当するし、甲1発明1における「共架橋剤としてのトリアリルイソシアヌレート」は 、上記「架橋剤」と共に上記「3元系含フッ素共重合体」である未加硫ゴムと結合し未加硫ゴムの分子間に架橋を生じさせる剤であって、本件発明における実施例において、架橋助剤として使用されているものでもあるから、本件発明1における「水素含有フッ素ゴムが前記熱架橋剤により架橋するときに、前記水素含有フッ素ゴムの分子間に介在するように水素含有フッ素ゴムと結合する架橋助剤」に相当することが明らかである。
そして、甲1発明1における「未加硫ゴム組成物」は、本件発明1における「未架橋ゴム組成物」に相当すると共に、甲1発明1における「O−リング」は、当該「未加硫ゴム組成物」を加硫成形してなる製品であるから、本件発明1における「ゴム製品」に相当する。
してみると、本件発明1と上記甲1発明1とは、
「未架橋ゴム組成物を用いて製造されるゴム製品であって、
前記未架橋ゴム組成物は、水素含有フッ素ゴムと、所定の温度に加熱されたときに前記水素含有フッ素ゴムを架橋させる熱架橋剤と、水素含有フッ素ゴムが前記熱架橋剤により架橋するときに水素含有フッ素ゴムと結合する架橋助剤を含有し、
前記未架橋ゴム組成物が、所定の温度に加熱されて前記水素含有フッ素ゴムが前記熱架橋剤により架橋したゴム組成物で形成されているゴム製品。」
で一致し、下記の各点で相違する。

相違点1a:「水素サイト保護剤」につき、本件発明1では「放射線が照射されたときに前記水素含有フッ素ゴムの炭素−水素間の結合が切断されて生じる炭素のラジカルに結合する」もので「23℃における粘度が30Pa・s以上100Pa・s以下の一液型の液状材料」であるのに対して、甲1発明1では「放射線が照射されたときに前記水素含有フッ素ゴムの炭素−水素間の結合が切断されて生じる炭素のラジカルに結合する」ことにつき特定されていない「2価パーフロロポリエーテル構造または2価パーフロロアルキレン構造を有し、末端あるいは側鎖にヒドロシリル基と付加反応可能なアルケニル基を2個以上有する反応性フッ素系化合物(b)、及び、分子中に2個以上のヒドロシリル基を有しアルケニル基と付加反応可能な反応性有機珪素化合物(c)、及び、(b)と(c)との付加反応用の白金族化合物触媒を含み、(b)と(c)との反応によりゲル化可能な「SIFEL8070A/B」又は「SIFEL3701A/B」なる商品名の製品組成物」である点
相違点2a:「未架橋ゴム組成物」につき、本件発明1では「前記未架橋ゴム組成物における前記水素サイト保護剤の含有量の前記熱架橋剤の含有量に対する比が5.0以上10以下であり、」「前記未架橋ゴム組成物における前記架橋助剤の含有量の前記熱架橋剤の含有量に対する比が2.0以上3.0以下であ」るのに対して、甲1発明1では「3元系含フッ素共重合体(a)100重量部、2価パーフロロポリエーテル構造または2価パーフロロアルキレン構造を有し、末端あるいは側鎖にヒドロシリル基と付加反応可能なアルケニル基を2個以上有する反応性フッ素系化合物(b)、及び、分子中に2個以上のヒドロシリル基を有しアルケニル基と付加反応可能な反応性有機珪素化合物(c)、及び、(b)と(c)との付加反応用の白金族化合物触媒を含み、(b)と(c)との反応によりゲル化可能な成分である「SIFEL8070A/B」又は「SIFEL3701A/B」なる商品名の製品組成物2ないし11重量部、過酸化物架橋剤としての2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン1重量部及び共架橋剤としてのトリアリルイソシアヌレート4重量部」である点
相違点3a:本件発明1では「放射線が照射されて前記水素含有フッ素ゴムの炭素−水素間の結合が切断された後の炭素に前記水素サイト保護剤が結合した」のに対して、甲1発明1では「未加硫ゴム組成物を加硫成形してなる」点

(イ)検討
●相違点1aについて
上記相違点1aにつき検討すると、甲1発明1における「2価パーフロロポリエーテル構造または2価パーフロロアルキレン構造を有し、末端あるいは側鎖にヒドロシリル基と付加反応可能なアルケニル基を2個以上有する反応性フッ素系化合物(b)」は、化合物としては本件発明1における「分子内に前記炭素のラジカルに結合するアルケニル基を2以上有するパーフルオロ骨格の化合物」と同一であるものの、甲1発明1における「2価パーフロロポリエーテル構造または2価パーフロロアルキレン構造を有し、末端あるいは側鎖にヒドロシリル基と付加反応可能なアルケニル基を2個以上有する反応性フッ素系化合物(b)」は、「分子中に2個以上のヒドロシリル基を有しアルケニル基と付加反応可能な反応性有機珪素化合物(c)、及び、(b)と(c)との付加反応用の白金族化合物触媒」を含み、(b)成分と(c)成分との反応によりゲル化可能な多成分型組成物として使用されているものであるから、「23℃における粘度が30Pa・s以上100Pa・s以下の一液型の液状材料」であるとはいえない。
してみると、上記相違点1aは、実質的な相違点であるものということができる。
そして、上記甲1ないし甲10の記載を検討しても、甲1発明1において、「2価パーフロロポリエーテル構造または2価パーフロロアルキレン構造を有し、末端あるいは側鎖にヒドロシリル基と付加反応可能なアルケニル基を2個以上有する反応性フッ素系化合物(b)、及び、分子中に2個以上のヒドロシリル基を有しアルケニル基と付加反応可能な反応性有機珪素化合物(c)、及び、(b)と(c)との付加反応用の白金族化合物触媒を含み、(b)と(c)との反応によりゲル化可能な「SIFEL8070A/B」又は「SIFEL3701A/B」なる商品名の製品組成物」として「23℃における粘度が30Pa・s以上100Pa・s以下の一液型の液状材料」を使用すべきことを動機づける記載又は示唆が存するものとも認められない。
してみると、上記相違点1aにつき、甲1発明1において、当業者が適宜なし得ることであるということもできない。

(ウ)小括
したがって、上記相違点1aは、実質的な相違点であるのみならず、甲1発明1において、当業者が容易に想到し得るものでもないから、その他の相違点につき検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明1であるということはできず、また、甲1発明1に基づいて、たとえ甲1ないし甲10に記載された事項を組み合わせたとしても、当業者が容易に発明をすることができたということはできない。

イ.本件発明2ないし6について
本件発明2ないし6は、いずれも本件発明1を引用するものであるから、甲1発明1との間で、上記ア.で示した相違点1aないし3aを含むものと認められる。
してみると、上記ア.で説示した理由と同一の理由により、本件発明2ないし6についても、甲1発明1であるということはできず、甲1発明1に基づいて、たとえ甲1ないし甲10に記載された事項を組み合わせたとしても、当業者が容易に発明をすることができたということはできない。

ウ.本件発明8について

(ア)対比
本件発明8と上記甲1発明1とを対比すると、甲1発明1における「パーオキサイド加硫可能なビニリデンフルオライド(CF2=CH2)/ヘキサフルオロプロピレン(CF3−CF=CF2)/テトラフルオロエチレン(CF2=CF2)3元系含フッ素共重合体(a)」は、本件発明8における「水素含有フッ素ゴム」である「ビニリデンフルオライドとヘキサフルオロプロピレンとテトラフルオロエチレンとの共重合体」に相当する。
また、甲1発明1における「過酸化物架橋剤としての2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン」は、上記「3元系含フッ素共重合体(a)」を加熱により架橋する「架橋剤」であるから、本件発明8における「所定の温度に加熱されたときに前記水素含有フッ素ゴムを架橋させる熱架橋剤」である「パーオキサイド」に相当するし、甲1発明1における「共架橋剤としてのトリアリルイソシアヌレート」は 、上記「架橋剤」と共に上記「3元系含フッ素共重合体」である未加硫ゴムと結合し未加硫ゴムの分子間に架橋を生じさせる剤であって、本件発明における実施例において、架橋助剤として使用されているものでもあるから、本件発明8における「水素含有フッ素ゴムが前記熱架橋剤により架橋するときに、前記水素含有フッ素ゴムの分子間に介在するように水素含有フッ素ゴムと結合する架橋助剤」である「トリアリルイソシアヌレート」に相当することが明らかである。
さらに、甲1発明1における「3元系含フッ素共重合体(a)100重量部」に対する「過酸化物架橋剤としての2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン1重量部」及び「共架橋剤としてのトリアリルイソシアヌレート4重量部」は、本件発明8における「前記未架橋ゴム組成物における前記熱架橋剤の含有量が、前記水素含有フッ素ゴム100質量部に対して0.5質量部以上2.0質量部以下であり」及び「前記未架橋ゴム組成物における前記架橋助剤の含有量が、前記水素含有フッ素ゴム100質量部に対して2質量部以上5質量部以下であり」とそれぞれ一点において一致している。
そして、甲1発明1における「未加硫ゴム組成物」は、本件発明8における「未架橋ゴム組成物」に相当すると共に、甲1発明1における「O−リング」は、当該「未加硫ゴム組成物」を加硫成形してなる製品であるから、本件発明8における「ゴム製品」に相当する。
してみると、本件発明8と上記甲1発明1とは、
「未架橋ゴム組成物を用いて製造されるゴム製品であって、
前記未架橋ゴム組成物は、水素含有フッ素ゴムと、所定の温度に加熱されたときに前記水素含有フッ素ゴムを架橋させる熱架橋剤と、前記水素含有フッ素ゴムが前記熱架橋剤により架橋するときに、前記水素含有フッ素ゴムの分子間に介在するように前記水素含有フッ素ゴムと結合する架橋助剤とを含有し、
前記水素含有フッ素ゴムは、ビニリデンフルオライドとヘキサフルオロプロピレンとテトラフルオロエチレンとの共重合体であり、
前記熱架橋剤は、パーオキサイドであり、
前記架橋助剤は、トリアリルイソシヌレートであり、
前記未架橋ゴム組成物における前記熱架橋剤の含有量が、前記水素含有フッ素ゴム100質量部に対して1質量部であり、
前記未架橋ゴム組成物における前記架橋助剤の含有量が、前記水素含有フッ素ゴム100質量部に対して4質量部であり、
前記未架橋ゴム組成物が、所定の温度に加熱されて前記水素含有フッ素ゴムが前記熱架橋剤により架橋するとともに、前記架橋助剤が前記水素含有フッ素ゴムの分子間に介在するように前記水素含有フッ素ゴムと結合したゴム組成物で形成されているゴム製品。」
で一致し、下記の各点で相違する。

相違点1b:「水素サイト保護剤」につき、本件発明1では「放射線が照射されたときに前記水素含有フッ素ゴムの炭素−水素間の結合が切断されて生じる炭素のラジカルに結合する」もので「23℃における粘度が30Pa・s以上100Pa・s以下の一液型の液状材料」であるのに対して、甲1発明1では「放射線が照射されたときに前記水素含有フッ素ゴムの炭素−水素間の結合が切断されて生じる炭素のラジカルに結合する」ことにつき特定されていない「2価パーフロロポリエーテル構造または2価パーフロロアルキレン構造を有し、末端あるいは側鎖にヒドロシリル基と付加反応可能なアルケニル基を2個以上有する反応性フッ素系化合物(b)、及び、分子中に2個以上のヒドロシリル基を有しアルケニル基と付加反応可能な反応性有機珪素化合物(c)、及び、(b)と(c)との付加反応用の白金族化合物触媒を含み、(b)と(c)との反応によりゲル化可能な「SIFEL8070A/B」又は「SIFEL3701A/B」なる商品名の製品組成物」である点
相違点2b:「未架橋ゴム組成物」につき、本件発明8では「前記未架橋ゴム組成物における前記水素サイト保護剤の含有量の前記熱架橋剤の含有量に対する比が5.0以上10以下であり、」「前記未架橋ゴム組成物における前記架橋助剤の含有量の前記熱架橋剤の含有量に対する比が2.0以上3.0以下であ」るのに対して、甲1発明1では「3元系含フッ素共重合体(a)100重量部、2価パーフロロポリエーテル構造または2価パーフロロアルキレン構造を有し、末端あるいは側鎖にヒドロシリル基と付加反応可能なアルケニル基を2個以上有する反応性フッ素系化合物(b)、及び、分子中に2個以上のヒドロシリル基を有しアルケニル基と付加反応可能な反応性有機珪素化合物(c)、及び、(b)と(c)との付加反応用の白金族化合物触媒を含み、(b)と(c)との反応によりゲル化可能な成分である「SIFEL8070A/B」又は「SIFEL3701A/B」なる商品名の製品組成物2ないし11重量部、過酸化物架橋剤としての2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン1重量部及び共架橋剤としてのトリアリルイソシアヌレート4重量部からなる」点
相違点3b:本件発明8では「放射線が照射されて前記水素含有フッ素ゴムの炭素−水素間の結合が切断された後の炭素に前記水素サイト保護剤が結合した」のに対して、甲1発明1では「未加硫ゴム組成物を加硫成形してなる」点

(イ)検討
●相違点1bについて
上記相違点1bにつき検討すると、相違点1bはいずれも上記ア.(ア)で示した相違点1aと同一の事項であるものと認められるところ、ア.(イ)で説示したとおりの理由により、相違点1aにつき、実質的な相違点であるのみならず、また、甲1発明1において、当業者が容易に想到し得るものでもないので、相違点2a及び3aにつき検討するまでもなく、本件発明1は、甲1に記載された発明ではないと共に、甲1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明することができたものでもないのであるから、同様の理由により、本件発明8についても、相違点1bにつき、実質的な相違点であるのみならず、また、甲1発明1において、当業者が容易に想到し得るものでもない。

(ウ)小括
したがって、上記相違点1bは、実質的な相違点であるのみならず、甲1発明1において、当業者が容易に想到し得るものでもないから、その他の相違点につき検討するまでもなく、本件発明8は、甲1発明1であるということはできず、甲1発明1に基づいて、たとえ甲1ないし甲10に記載された事項を組み合わせたとしても、当業者が容易に発明をすることができたということはできない。

エ.本件発明10について

(ア)対比
本件発明1を引用する本件発明10と上記甲1発明2とを対比すると、甲1発明2における「パーオキサイド加硫可能なビニリデンフルオライド(CF2=CH2)/ヘキサフルオロプロピレン(CF3−CF=CF2)/テトラフルオロエチレン(CF2=CF2)3元系含フッ素共重合体(a)」は、ビニリデンフルオライドに由来する炭素−水素結合を有すること及びフッ素ゴムの一種であることは当業者に自明であるから、本件発明10で引用する本件発明1における「水素含有フッ素ゴム」に相当する。
また、甲1発明2における「過酸化物架橋剤としての2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン」は、上記「3元系含フッ素共重合体(a)」を加熱により架橋する「架橋剤」であるから、本件発明10で引用する本件発明1における「所定の温度に加熱されたときに前記水素含有フッ素ゴムを架橋させる熱架橋剤」に相当するし、甲1発明2における「共架橋剤としてのトリアリルイソシアヌレート」は 、上記「架橋剤」と共に上記「3元系含フッ素共重合体」である未加硫ゴムと結合し未加硫ゴムの分子間に架橋を生じさせる剤であって、本件発明における実施例において、架橋助剤として使用されているものでもあるから、本件発明10で引用する本件発明1における「水素含有フッ素ゴムが前記熱架橋剤により架橋するときに、前記水素含有フッ素ゴムの分子間に介在するように水素含有フッ素ゴムと結合する架橋助剤」に相当することが明らかである。
そして、甲1発明2における「未加硫ゴム組成物を加硫成形してなる」は、未加硫ゴム組成物のフッ素ゴムを過酸化物架橋剤と共架橋剤と共に加熱することにより架橋させて加硫していることが明らかであるから、本件発明10における「未架橋ゴム組成物を、所定の温度に加熱して前記水素含有フッ素ゴムを前記熱架橋剤により架橋させるとともに、前記架橋助剤を前記水素含有フッ素ゴムの分子間に介在させるように前記水素含有フッ素ゴムと結合させ(る)」に相当すると共に、甲1発明2における「O−リングの製造方法」は、「O−リング」が「未加硫ゴム組成物」を加硫成形してなる製品であるから、本件発明10における「ゴム製品の製造方法」に相当する。
してみると、本件発明10と甲1発明2とは、
「ゴム製品の製造方法であって、
水素含有フッ素ゴムと、所定の温度に加熱されたときに前記水素含有フッ素ゴムを架橋させる熱架橋剤と、水素含有フッ素ゴムが前記熱架橋剤により架橋するときに水素含有フッ素ゴムと結合する架橋助剤を含有する未架橋ゴム組成物を、所定の温度に加熱して前記水素含有フッ素ゴムが前記熱架橋剤により架橋させるとともに、前記架橋助剤を前記水素含有フッ素ゴムの分子間に介在させるように前記水素含有フッ素ゴムと結合させるゴム製品の製造方法。」
で一致し、下記の各点で相違する。

相違点1c:「水素サイト保護剤」につき、本件発明10で引用する本件発明1では「放射線が照射されたときに前記水素含有フッ素ゴムの炭素−水素間の結合が切断されて生じる炭素のラジカルに結合する」もので「23℃における粘度が30Pa・s以上100Pa・s以下の一液型の液状材料」であるのに対して、甲1発明2では「放射線が照射されたときに前記水素含有フッ素ゴムの炭素−水素間の結合が切断されて生じる炭素のラジカルに結合する」ことにつき特定されていない「2価パーフロロポリエーテル構造または2価パーフロロアルキレン構造を有し、末端あるいは側鎖にヒドロシリル基と付加反応可能なアルケニル基を2個以上有する反応性フッ素系化合物(b)、及び、分子中に2個以上のヒドロシリル基を有しアルケニル基と付加反応可能な反応性有機珪素化合物(c)、及び、(b)と(c)との付加反応用の白金族化合物触媒を含み、(b)と(c)との反応によりゲル化可能な「SIFEL8070A/B」又は「SIFEL3701A/B」なる商品名の製品組成物」を使用する点
相違点2c:「未架橋ゴム組成物」につき、本件発明10で引用する本件発明1では「前記未架橋ゴム組成物における前記水素サイト保護剤の含有量の前記熱架橋剤の含有量に対する比が5.0以上10以下であり、」「前記未架橋ゴム組成物における前記架橋助剤の含有量の前記熱架橋剤の含有量に対する比が2.0以上3.0以下であ」るのに対して、甲1発明2では「3元系含フッ素共重合体(a)100重量部、2価パーフロロポリエーテル構造または2価パーフロロアルキレン構造を有し、末端あるいは側鎖にヒドロシリル基と付加反応可能なアルケニル基を2個以上有する反応性フッ素系化合物(b)、及び、分子中に2個以上のヒドロシリル基を有しアルケニル基と付加反応可能な反応性有機珪素化合物(c)、及び、(b)と(c)との付加反応用の白金族化合物触媒を含み、(b)と(c)との反応によりゲル化可能な成分である「SIFEL8070A/B」又は「SIFEL3701A/B」なる商品名の製品組成物2ないし11重量部、過酸化物架橋剤としての2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン1重量部及び共架橋剤としてのトリアリルイソシアヌレート4重量部」である点
相違点3c:本件発明10では「放射線を照射して前記水素含有フッ素ゴムの炭素−水素間の結合が切断された後の炭素のラジカルに前記水素サイト保護剤を結合させる」のに対して、甲1発明2では「未加硫ゴム組成物を加硫成形してなる」点

(イ)検討
上記相違点1cないし3cは、いずれも上記ア.(ア)で示した相違点1aないし3aとそれぞれ同一の事項であるものと認められるところ、ア.(イ)で説示したとおりの理由により、相違点1aにつき、実質的な相違点であるのみならず、また、甲1発明1において、当業者が容易に想到し得るものでもないので、相違点2a及び3aにつき検討するまでもなく、本件発明1は、甲1に記載された発明ではないと共に、甲1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明することができたものでもないのであるから、同様の理由により、本件発明1を引用する本件発明10についても、相違点1cにつき、実質的な相違点であるのみならず、また、甲1発明2において、当業者が容易に想到し得るものでもないので、相違点2c及び3cにつき検討するまでもなく、本件発明10は、甲1発明2、すなわち甲1に記載された発明ではないと共に、甲1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明することができたものでもない。

(ウ)小括
したがって、本件発明10は、甲1に記載された発明であるということはできず、甲1に記載された発明に基づいて、たとえ甲1ないし甲10に記載された事項を組み合わせたとしても、当業者が容易に発明をすることができたということはできない。

オ.甲1発明1及び甲1発明2に基づく検討のまとめ
以上のとおりであるから、本件発明1ないし6、8及び10は、いずれも甲1発明1又は甲1発明2ではなく、また、甲1発明1又は甲1発明2に基づいて、たとえ甲1ないし甲10に記載された事項を組み合わせたとしても、当業者が容易に発明をすることができたということはできない。
よって、甲1に記載された発明に基づく取消理由A、取消理由1及び2はいずれも理由がない。

(2)甲7発明1及び甲7発明2に基づく検討

(2−1)甲7発明1に基づく検討

ア.本件発明1について

(ア)対比
本件発明1と甲7発明1とを対比すると、甲7発明1における「FKMポリマー1(テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン/ビニリデンフロライド共重合体、「ダイエルG912」、ダイキン工業社製)」は、ビニリデンフルオライド単位部に側鎖中の水素原子(H)を含むフッ素ゴムの一種であることは当業者に自明であるから、本件発明1における「水素含有フッ素ゴム」に相当する。
また、甲7発明1における「パーヘキサ25B(2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−プチルペルオキシ)ヘキサン、日本油脂社製)」は、上記「FKMポリマー1」を加熱により架橋する「架橋剤」であるから、本件発明1における「所定の温度に加熱されたときに前記水素含有フッ素ゴムを架橋させる熱架橋剤」に相当するし、甲7発明1における「TAIC(トリアリルイソシアヌレート、日本化成社製)」は、上記「架橋剤」と共に上記「FKMポリマー1」である未加硫ゴムと結合し未加硫ゴムの分子間に架橋を生じさせる剤であって、本件発明における実施例において、トリアリルイソシアヌレートは架橋助剤として使用されているものでもあるから、本件発明1における「水素含有フッ素ゴムが前記熱架橋剤により架橋するときに、前記水素含有フッ素ゴムの分子間に介在するように水素含有フッ素ゴムと結合する架橋助剤」に相当することが明らかである。
さらに、甲7発明1における「パーヘキサ25B(2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−プチルペルオキシ)ヘキサン、日本油脂社製)1.5重量部」及び「TAIC(トリアリルイソシアヌレート、日本化成社製)4重量部」は、本件発明1における「前記未架橋ゴム組成物における前記架橋助剤の含有量の前記熱架橋剤の含有量に対する比が2.0以上3.0以下であり」とも一点(2.7程度)において一致している。
そして、甲7発明1における「ゴムコンパウンド(未架橋ゴム組成物)」は、本件発明1における「未架橋ゴム組成物」に相当すると共に、甲7発明1における「Oリング成形体(シール材)」は、「ゴムコンパウンド(未架橋ゴム組成物)から製造されたOリング成形体(シール材)」なる製品であるから、本件発明1における「ゴム製品」に相当する。
してみると、本件発明1と上記甲7発明1とは、
「未架橋ゴム組成物を用いて製造されるゴム製品であって、
前記未架橋ゴム組成物は、水素含有フッ素ゴムと、所定の温度に加熱されたときに前記水素含有フッ素ゴムを架橋させる熱架橋剤と、水素含有フッ素ゴムが前記熱架橋剤により架橋するときに水素含有フッ素ゴムと結合する架橋助剤を含有し、
前記未架橋ゴム組成物における前記架橋助剤の含有量の前記熱架橋剤の含有量に対する比が2.7であり、
前記未架橋ゴム組成物が、所定の温度に加熱されて前記水素含有フッ素ゴムが前記熱架橋剤により架橋したゴム組成物で形成されているゴム製品。」
で一致し、下記の各点で相違する。

相違点5a:本件発明1では「水素サイト保護剤」につき「分子内に前記炭素のラジカルに結合するアルケニル基を2以上有するパーフルオロ骨格の化合物を含み」、「放射線が照射されたときに前記水素含有フッ素ゴムの炭素−水素間の結合が切断されて生じる炭素のラジカルに結合する」もので「23℃における粘度が30Pa・s以上100Pa・s以下の一液型の液状材料」であるのに対して、甲7発明1では当該「水素サイト保護剤」又は「分子内に前記炭素のラジカルに結合するアルケニル基を2以上有するパーフルオロ骨格の化合物」を使用することにつき特定されていない点
相違点6a:「未架橋ゴム組成物」につき、本件発明1では「前記未架橋ゴム組成物における前記水素サイト保護剤の含有量の前記熱架橋剤の含有量に対する比が5.0以上10以下であ」るのに対して、甲7発明1では「FKMポリマー1(テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン/ビニリデンフロライド共重合体、「ダイエルG912」、ダイキン工業社製)100質量部」に対して、「TAIC(トリアリルイソシアヌレート、日本化成社製)4質量部と、パーヘキサ25B(2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−プチルペルオキシ)ヘキサン、日本油脂社製)1.5質量部とを含有する」点
相違点7a:本件発明1では「放射線が照射されて前記水素含有フッ素ゴムの炭素−水素間の結合が切断された後の炭素に前記水素サイト保護剤が結合した」のに対して、甲7発明1では「水素サイト保護剤」又は「分子内に前記炭素のラジカルに結合するアルケニル基を2以上有するパーフルオロ骨格の化合物」を使用することにつき特定されていない点

(イ)検討
●相違点5aについて
上記相違点5aにつき検討すると、甲7には、甲7発明1における「フッ素ゴム組成物」として「分子内に前記炭素のラジカルに結合するアルケニル基を2以上有するパーフルオロ骨格の化合物を含み」、「放射線が照射されたときに前記水素含有フッ素ゴムの炭素−水素間の結合が切断されて生じる炭素のラジカルに結合する」もので「23℃における粘度が30Pa・s以上100Pa・s以下の一液型の液状材料」である「水素サイト保護剤」を含有するものを使用することにつき、記載又は示唆されておらず、甲7の記載([0051]〜[0062])によれば、別途「ポリオール化合物」が添加使用され、当該「ポリオール化合物」は、パーオキサイド架橋性フッ素ポリマーとは反応せず、耐クラック性を優れたものとする目的で配合・使用されるといえる。
してみると、甲7発明1において、パーオキサイド架橋性フッ素ポリマーである「FKMポリマー1」に化学反応する他の成分を使用する動機付けがあるとはいえず、たとえ、甲1又は甲2に、架橋性フッ素ゴムと化学反応する成分として反応性フッ素系化合物が記載されているとしても、甲7発明に甲1及び甲2に記載された事項を組み合わせることを動機付ける事項が存するものとは認められない。
したがって、上記相違点5aは、甲7発明において、たとえ他の甲号証に記載の技術事項を組み合わせたとしても、当業者が適宜なし得たことということはできない。
よって、上記相違点5aは、甲7発明に基づいて、当業者が容易に想到し得るものではない。

(ウ)小括
よって、上記相違点5aは、甲7発明1に基づいて、当業者が容易に想到し得るものではないから、その余の相違点につき検討するまでもなく、本件発明1は、甲7発明1に基づいて、たとえ甲1ないし10に記載された事項を組み合わせたとしても、当業者が容易に発明をすることができたということはできない。

イ.本件発明2ないし6及び10について
本件発明2ないし6及び10は、いずれも本件発明1を引用するものであるから、甲7発明との間で、上記ア.で示した相違点5aないし7aを含むものと認められる。
してみると、上記ア.で説示した理由と同一の理由により、本件発明2ないし6及び10についても、甲7発明1に基づいて、たとえ甲1ないし甲10に記載された事項を組み合わせたとしても、当業者が容易に発明をすることができたということはできない。

ウ.本件発明8について

(ア)対比
本件発明8と上記甲7発明1とを対比すると、甲7発明1における「FKMポリマー1(テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン/ビニリデンフロライド共重合体、「ダイエルG912」、ダイキン工業社製)」は、本件発明8における「水素含有フッ素ゴム」である「ビニリデンフルオライドとヘキサフルオロプロピレンとテトラフルオロエチレンとの共重合体」に相当する。
また、甲7発明1における「パーヘキサ25B(2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−プチルペルオキシ)ヘキサン、日本油脂社製)」は、上記「FKMポリマー1」を加熱により架橋する「架橋剤」であるから、本件発明8における「所定の温度に加熱されたときに前記水素含有フッ素ゴムを架橋させる熱架橋剤」である「パーオキサイド」に相当するし、甲7発明1における「TAIC(トリアリルイソシアヌレート、日本化成社製)」は、上記「架橋剤」と共に上記「FKMポリマー1」である未加硫ゴムと結合し未加硫ゴムの分子間に架橋を生じさせる剤であって、本件発明における実施例において、架橋助剤として使用されているものでもあるから、本件発明8における「水素含有フッ素ゴムが前記熱架橋剤により架橋するときに、前記水素含有フッ素ゴムの分子間に介在するように水素含有フッ素ゴムと結合する架橋助剤」である「トリアリルイソシアヌレート」に相当することが明らかである。
さらに、甲7発明1における「FKMポリマー1(テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン/ビニリデンフロライド共重合体、「ダイエルG912」、ダイキン工業社製)100質量部」に対する「パーヘキサ25B(2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−プチルペルオキシ)ヘキサン、日本油脂社製)1.5質量部」及び「TAIC(トリアリルイソシアヌレート、日本化成社製)4質量部」は、本件発明8における「前記未架橋ゴム組成物における前記熱架橋剤の含有量が、前記水素含有フッ素ゴム100質量部に対して0.5質量部以上2.0質量部以下であり」及び「前記未架橋ゴム組成物における前記架橋助剤の含有量が、前記水素含有フッ素ゴム100質量部に対して2質量部以上5質量部以下であり」とそれぞれ一点において一致しており、本件発明8における「前記未架橋ゴム組成物における前記架橋助剤の含有量の前記熱架橋剤の含有量に対する比が2.0以上3.0以下であり」とも一点(2.7程度)において一致している。
そして、甲7発明1における「ゴムコンパウンド(未架橋ゴム組成物)」は、本件発明8における「未架橋ゴム組成物」に相当すると共に、甲7発明1における「Oリング成形体(シール材)」は、当該「ゴムコンパウンド(未架橋ゴム組成物)」を加硫成形してなる製品であるから、本件発明8における「ゴム製品」に相当する。
してみると、本件発明8と上記甲7発明1とは、
「未架橋ゴム組成物を用いて製造されるゴム製品であって、
前記未架橋ゴム組成物は、水素含有フッ素ゴムと、所定の温度に加熱されたときに前記水素含有フッ素ゴムを架橋させる熱架橋剤と、前記水素含有フッ素ゴムが前記熱架橋剤により架橋するときに、前記水素含有フッ素ゴムの分子間に介在するように前記水素含有フッ素ゴムと結合する架橋助剤とを含有し、
前記水素含有フッ素ゴムは、ビニリデンフルオライドとヘキサフルオロプロピレンとテトラフルオロエチレンとの共重合体であり、
前記熱架橋剤は、パーオキサイドであり、
前記架橋助剤は、トリアリルイソシヌレートであり、
前記未架橋ゴム組成物における前記熱架橋剤の含有量が、前記水素含有フッ素ゴム100質量部に対して1。5質量部であり、
前記未架橋ゴム組成物における前記架橋助剤の含有量が、前記水素含有フッ素ゴム100質量部に対して4質量部であり、
前記未架橋ゴム組成物における前記架橋助剤の含有量の前記熱架橋剤の含有量に対する比が2.7であり、
前記未架橋ゴム組成物が、所定の温度に加熱されて前記水素含有フッ素ゴムが前記熱架橋剤により架橋するとともに、前記架橋助剤が前記水素含有フッ素ゴムの分子間に介在するように前記水素含有フッ素ゴムと結合したゴム組成物で形成されているゴム製品。」
で一致し、下記の各点で相違する。

相違点5b:本件発明8では「水素サイト保護剤」につき「分子内に前記炭素のラジカルに結合するアルケニル基を2以上有するパーフルオロ骨格の化合物を含み」、「放射線が照射されたときに前記水素含有フッ素ゴムの炭素−水素間の結合が切断されて生じる炭素のラジカルに結合する」もので「23℃における粘度が30Pa・s以上100Pa・s以下の一液型の液状材料」であるのに対して、甲7発明1では当該「水素サイト保護剤」又は「分子内に前記炭素のラジカルに結合するアルケニル基を2以上有するパーフルオロ骨格の化合物」を使用することにつき特定されていない点
相違点6b:「未架橋ゴム組成物」につき、本件発明8では「前記未架橋ゴム組成物における前記水素サイト保護剤の含有量の前記熱架橋剤の含有量に対する比が5.0以上10以下であ」るのに対して、甲7発明1では「FKMポリマー1(テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン/ビニリデンフロライド共重合体、「ダイエルG912」、ダイキン工業社製)100質量部」に対して、「TAIC(トリアリルイソシアヌレート、日本化成社製)4質量部と、パーヘキサ25B(2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−プチルペルオキシ)ヘキサン、日本油脂社製)1.5質量部とを含有する」点
相違点7b:本件発明8では「放射線が照射されて前記水素含有フッ素ゴムの炭素−水素間の結合が切断された後の炭素に前記水素サイト保護剤が結合した」のに対して、甲7発明1では「水素サイト保護剤」又は「分子内に前記炭素のラジカルに結合するアルケニル基を2以上有するパーフルオロ骨格の化合物」を使用することにつき特定されていない点

(イ)検討
●相違点5bについて
上記相違点5bにつき検討すると、相違点5bは、上記ア.(ア)で示した相違点5aと同一の事項であるところ、上記ア.(イ)で説示したとおりの理由により、上記相違点5aは、甲7発明1に基づいて、当業者が容易に想到し得るものではないのであるから、相違点5bについても、甲7発明1に基づいて、当業者が容易に想到し得るものではない。

(ウ)小括
よって、上記相違点5bは、甲7発明1に基づいて、当業者が容易に想到し得るものではないから、その余の相違点につき検討するまでもなく、本件発明8は、甲7発明1に基づいて、たとえ甲1ないし10に記載された事項を組み合わせたとしても、当業者が容易に発明をすることができたということはできない。

エ.甲7発明1に基づく検討のまとめ
以上のとおりであるから、本件発明1ないし6、8及び10は、いずれも甲7発明1に基づいて、たとえ甲1ないし甲10に記載された事項を組み合わせたとしても、当業者が容易に発明をすることができたということはできない。

(2−2)甲7発明2に基づく検討

ア.本件発明1について

(ア)対比
本件発明1と甲7発明2とを対比すると、甲7発明2における「主鎖C−C結合に結合する側鎖中の水素原子(H)が不完全にフッ素原子(F)で置換され、一部水素原子(H)を含むフッ素ポリマー(FKM)などのパーオキサイド架橋性フッ素ポリマー」は、側鎖中の水素原子(H)が不完全にフッ素原子(F)で置換され、一部水素原子(H)を含むフッ素ゴムの一種であることは当業者に自明であるから、本件発明1における「水素含有フッ素ゴム」に相当する。
また、甲7発明2における「パーオキサイド架橋剤」は、上記「パーオキサイド架橋性フッ素ポリマー」を加熱により架橋する「架橋剤」であるから、本件発明1における「所定の温度に加熱されたときに前記水素含有フッ素ゴムを架橋させる熱架橋剤」に相当するし、甲7発明2における「トリアリルイソシアヌレートなどの共架橋剤」は、上記「架橋剤」と共に上記「パーオキサイド架橋性フッ素ポリマー」である未加硫ゴムと結合し未加硫ゴムの分子間に架橋を生じさせる剤であって、本件発明における実施例において、トリアリルイソシアヌレートは架橋助剤として使用されているものでもあるから、本件発明1における「水素含有フッ素ゴムが前記熱架橋剤により架橋するときに、前記水素含有フッ素ゴムの分子間に介在するように水素含有フッ素ゴムと結合する架橋助剤」に相当することが明らかである。
そして、甲7発明2における「フッ素ゴム組成物」は、本件発明1における「未架橋ゴム組成物」に相当すると共に、甲7発明2における「フッ素ゴム組成物を架橋して得られる耐クラック性シール材」は、当該「フッ素ゴム組成物」を架橋して成形してなる「シール材」なる製品であるから、本件発明1における「ゴム製品」に相当する。
してみると、本件発明1と上記甲7発明2とは、
「未架橋ゴム組成物を用いて製造されるゴム製品であって、
前記未架橋ゴム組成物は、水素含有フッ素ゴムと、所定の温度に加熱されたときに前記水素含有フッ素ゴムを架橋させる熱架橋剤と、水素含有フッ素ゴムが前記熱架橋剤により架橋するときに水素含有フッ素ゴムと結合する架橋助剤を含有し、
前記未架橋ゴム組成物が、所定の温度に加熱されて前記水素含有フッ素ゴムが前記熱架橋剤により架橋したゴム組成物で形成されているゴム製品。」
で一致し、下記の各点で相違する。

相違点5c:本件発明1では「水素サイト保護剤」につき「分子内に前記炭素のラジカルに結合するアルケニル基を2以上有するパーフルオロ骨格の化合物を含み」、「放射線が照射されたときに前記水素含有フッ素ゴムの炭素−水素間の結合が切断されて生じる炭素のラジカルに結合する」もので「23℃における粘度が30Pa・s以上100Pa・s以下の一液型の液状材料」であるのに対して、甲7発明2では当該「水素サイト保護剤」又は「分子内に前記炭素のラジカルに結合するアルケニル基を2以上有するパーフルオロ骨格の化合物」を使用することにつき特定されていない点
相違点6c:「未架橋ゴム組成物」につき、本件発明1では「前記未架橋ゴム組成物における前記水素サイト保護剤の含有量の前記熱架橋剤の含有量に対する比が5.0以上10以下であり、」「前記未架橋ゴム組成物における前記架橋助剤の含有量の前記熱架橋剤の含有量に対する比が2.0以上3.0以下であ」るのに対して、甲7発明2では「パーオキサイド架橋性フッ素ポリマー100重量部に対して、」「パーオキサイド架橋剤0.1〜4重量部、共架橋剤1〜9重量部を含有する」である点
相違点7c:本件発明1では「放射線が照射されて前記水素含有フッ素ゴムの炭素−水素間の結合が切断された後の炭素に前記水素サイト保護剤が結合した」のに対して、甲7発明2では「水素サイト保護剤」又は「分子内に前記炭素のラジカルに結合するアルケニル基を2以上有するパーフルオロ骨格の化合物」を使用することにつき特定されていない点
相違点8:甲7発明2では「パーオキサイド架橋性フッ素ポリマー100重量部に対して、ポリオール化合物0.1〜3重量部」を使用するのに対して、本件発明1では「ポリオール化合物」の使用につき開示されていない点

(イ)検討
●相違点5cについて
上記相違点5cにつき検討すると、相違点5cは、上記(2−1)ア.(ア)で示した相違点5aと同一の事項であるところ、上記ア.(イ)で説示したとおりの理由により、上記相違点5aは、甲7発明1に基づいて、当業者が容易に想到し得るものではないのであるから、同様の理由により、相違点5cについても、甲7発明2に基づいて、当業者が容易に想到し得るものではない。

(ウ)小括
よって、上記相違点5cは、甲7発明2に基づいて、当業者が容易に想到し得るものではないから、その余の相違点につき検討するまでもなく、本件発明1は、甲7発明2に基づいて、たとえ甲1ないし10に記載された事項を組み合わせたとしても、当業者が容易に発明をすることができたということはできない。

イ.本件発明2ないし6及び10について
本件発明2ないし6及び10は、いずれも本件発明1を引用するものであるから、甲7発明2との間で、上記ア.で示した相違点5cないし8を含むものと認められる。
してみると、上記ア.で説示した理由と同一の理由により、本件発明2ないし6及び10についても、甲7発明2に基づいて、たとえ甲1ないし甲10に記載された事項を組み合わせたとしても、当業者が容易に発明をすることができたということはできない。

ウ.本件発明8について

(ア)対比
本件発明8と甲7発明2とを対比すると、甲7発明2における「主鎖C−C結合に結合する側鎖中の水素原子(H)が不完全にフッ素原子(F)で置換され、一部水素原子(H)を含むフッ素ポリマー(FKM)などのパーオキサイド架橋性フッ素ポリマー」は、側鎖中の水素原子(H)が不完全にフッ素原子(F)で置換され、一部水素原子(H)を含むフッ素ゴムの一種であることは当業者に自明であるから、本件発明8における「水素含有フッ素ゴム」に相当する。
また、甲7発明2における「パーオキサイド架橋剤」は、上記「パーオキサイド架橋性フッ素ポリマー」を加熱により架橋する「架橋剤」であるから、本件発明8における「所定の温度に加熱されたときに前記水素含有フッ素ゴムを架橋させる熱架橋剤」に相当するし、甲7発明2における「トリアリルイソシアヌレートなどの共架橋剤」は、上記「架橋剤」と共に上記「パーオキサイド架橋性フッ素ポリマー」である未加硫ゴムと結合し未加硫ゴムの分子間に架橋を生じさせる剤であって、本件発明における実施例において、トリアリルイソシアヌレートは架橋助剤として使用されているものでもあるから、本件発明8における「水素含有フッ素ゴムが前記熱架橋剤により架橋するときに、前記水素含有フッ素ゴムの分子間に介在するように水素含有フッ素ゴムと結合する架橋助剤」に相当することが明らかである。
そして、甲7発明2における「フッ素ゴム組成物」は、本件発明8における「未架橋ゴム組成物」に相当すると共に、甲7発明2における「フッ素ゴム組成物を架橋して得られる耐クラック性シール材」は、当該「フッ素ゴム組成物」を架橋して成形してなる「シール材」なる製品であるから、本件発明8における「ゴム製品」に相当する。
してみると、本件発明8と上記甲7発明2とは、
「未架橋ゴム組成物を用いて製造されるゴム製品であって、
前記未架橋ゴム組成物は、水素含有フッ素ゴムと、所定の温度に加熱されたときに前記水素含有フッ素ゴムを架橋させる熱架橋剤と、水素含有フッ素ゴムが前記熱架橋剤により架橋するときに水素含有フッ素ゴムと結合する架橋助剤を含有し、
前記未架橋ゴム組成物が、所定の温度に加熱されて前記水素含有フッ素ゴムが前記熱架橋剤により架橋したゴム組成物で形成されているゴム製品。」
で一致し、下記の各点で相違する。

相違点5d:本件発明8では「水素サイト保護剤」につき「分子内に前記炭素のラジカルに結合するアルケニル基を2以上有するパーフルオロ骨格の化合物を含み」、「放射線が照射されたときに前記水素含有フッ素ゴムの炭素−水素間の結合が切断されて生じる炭素のラジカルに結合する」もので「23℃における粘度が30Pa・s以上100Pa・s以下の一液型の液状材料」であるのに対して、甲7発明2では当該「水素サイト保護剤」又は「分子内に前記炭素のラジカルに結合するアルケニル基を2以上有するパーフルオロ骨格の化合物」を使用することにつき特定されていない点
相違点6d:「未架橋ゴム組成物」につき、本件発明8では「前記未架橋ゴム組成物における前記水素サイト保護剤の含有量の前記熱架橋剤の含有量に対する比が5.0以上10以下であり、」「前記未架橋ゴム組成物における前記架橋助剤の含有量の前記熱架橋剤の含有量に対する比が2.0以上3.0以下であ」るのに対して、甲7発明2では「パーオキサイド架橋性フッ素ポリマー100重量部に対して、」「パーオキサイド架橋剤0.1〜4重量部、共架橋剤1〜9重量部を含有する」である点
相違点7d:本件発明8では「放射線が照射されて前記水素含有フッ素ゴムの炭素−水素間の結合が切断された後の炭素に前記水素サイト保護剤が結合した」のに対して、甲7発明2では「水素サイト保護剤」又は「分子内に前記炭素のラジカルに結合するアルケニル基を2以上有するパーフルオロ骨格の化合物」を使用することにつき特定されていない点
相違点8:甲7発明2では「パーオキサイド架橋性フッ素ポリマー100重量部に対して、ポリオール化合物0.1〜3重量部」を使用するのに対して、本件発明8では「ポリオール化合物」の使用につき開示されていない点

(イ)検討
●相違点5dについて
上記相違点5dにつき検討すると、相違点5dは、上記(2−1)ア.(ア)で示した相違点5aと同一の事項であるところ、上記ア.(イ)で説示したとおりの理由により、上記相違点5aは、甲7発明1に基づいて、当業者が容易に想到し得るものではないのであるから、同様の理由により、相違点5dについても、甲7発明2に基づいて、当業者が容易に想到し得るものではない。

(ウ)小括
よって、上記相違点5dは、甲7発明2に基づいて、当業者が容易に想到し得るものではないから、その余の相違点につき検討するまでもなく、本件発明8は、甲7発明2に基づいて、たとえ甲1ないし10に記載された事項を組み合わせたとしても、当業者が容易に発明をすることができたということはできない。

エ.甲7発明2に基づく検討のまとめ
以上のとおりであるから、本件発明1ないし6、8及び10は、いずれも甲7発明2に基づいて、たとえ甲1ないし甲10に記載された事項を組み合わせたとしても、当業者が容易に発明をすることができたということはできない。

(2−3)甲7発明1及び甲7発明2に基づく検討のまとめ
以上のとおりであるから、本件発明1ないし6、8及び10は、いずれも甲7発明1又は甲7発明2、すなわち甲7に記載された発明に基づいて、たとえ甲1ないし甲10に記載された事項を組み合わせたとしても、当業者が容易に発明をすることができたということはできない。
よって、甲7に記載された発明に基づく取消理由2は理由がない。

3.取消理由A、取消理由1及び2に係る検討のまとめ
以上のとおりであるから、当審が通知した取消理由A並びに申立人が主張する取消理由1及び2は、いずれも理由がない。

II.取消理由B及び3について

1.取消理由B及び3の概要

(1)取消理由Bについて
当審が通知した取消理由Bの各論は以下の点をいうものである。

ア.特許法第36条第6項第2号不適合

(ア)本件請求項1の「前記未架橋ゴム組成物における前記架橋助剤の含有量の前記熱架橋剤の含有量に対する比」に係る規定と、同項を引用する請求項7の同様の比に係る規定とは不一致であり、両者の対応関係が不明である。(以下「取消理由B1」という。)

(イ)本件請求項8における「トリアリルイソシヌレート」なる物質名は、いかなる化合物を意味するのか、技術的に意味が不明である。(以下「取消理由B2」という。)

イ.特許法第36条第6項第1号不適合(以下、「取消理由BA」という。)
本件発明の解決しようとする課題は、「耐プラズマ性の優れるゴム製品」の提供にあるものと認められるところ、本件明細書の発明の詳細な説明の記載を更に検討しても、本件請求項に記載された使用量比で組み合わせたゴム組成物を使用した場合に、また、本件発明において使用する「水素サイト保護剤」としての「分子内に前記炭素のラジカルに結合するアルケニル(ビニル)基を2以上有するパーフルオロ骨格の化合物」につき、ゴム製品が耐プラズマ性に優れたものとなる作用機序につき、記載又は示唆されていない。
また、実施例(比較例)に係る記載を検討しても、「分子内に前記炭素のラジカルに結合するアルケニル基を2以上有するパーフルオロ骨格の化合物」に該当するか不明な特定の商品名の水素サイト保護剤などの特定成分の一定量を組み合わせて使用した極めて限られた単一の実施例のみであり、当該実施例及び比較例の対比により、本件の請求項に記載された事項を具備する本件発明が、上記課題を解決できるものと当業者が認識できるものとは認められない。
そして、本件の各請求項に記載された事項を具備する発明であれば、本件発明に係る上記課題を解決できるであろうと当業者が認識できるような当業者の技術常識が存するものとも認められない。
してみると、本件明細書の発明の詳細な説明には、たとえ当業者の技術常識に照らしても、本件の各請求項に記載された事項を具備する発明が、本件発明に係る上記解決課題を解決できると当業者が認識することができるように記載されているものではないから、本件の各請求項に記載された事項で特定される発明は、本件明細書の発明の詳細な説明に記載したものということはできない。

(2)取消理由3について
申立人が主張する取消理由3の各論は、申立書第85頁ないし第91頁の記載からみて、以下の点をいうものと認められる。

ア.特許法第36条第6項第2号不適合

(ア)「未架橋ゴム組成物における前記架橋助剤の含有量の前記熱架橋剤の含有量に対する比」の規定について、本件請求項1の規定と、同項を引用する請求項 7の規定とが不整合であり、これらの関係が不明確である。(第85頁「(ア)」の欄、以下「取消理由3a−1」という。)

(イ)本件発明1〜9は、「ゴム製品」という物の発明であるが、本件請求項1 及び8における「未架橋ゴム組成物が、所定の温度に加熱されて前記水素含有フッ素ゴムが前記熱架橋剤により架橋するとともに、前記架橋助剤が前記水素含有フッ素ゴムの分子間に介在するように前記水素含有フッ素ゴムと結合した 後、放射線が照射されて前記水素含有フッ素ゴムの炭素−水素間の結合が切断された後の炭素に前記水素サイト保護剤が結合したゴム組成物で形成されている」なる規定が、未架橋ゴム組成物を加熱して架橋した後、放射線を照射してシール材を形成するシール材の製造方法を規定するもので、物の発明についての請求項にその物の製造方法が記載されている場合に相当する。
そして、本件発明1〜9に係るゴム製品は、出願時においてそのゴム製品をその構造又は特性により直接特定することが不可能であるか、又はおよそ実際的でないという事情が存在するともいえないから、請求項1〜9は、発明が不明確である。(第87頁「(ウ)」の欄、以下「取消理由3a−2」という。)

(ウ)本件請求項1〜10では、
「所定の温度に加熱されたときに前記水素含有フッ素ゴムを架橋させる熱架橋剤」、
「放射線が照射されたときに前記水素含有フッ素ゴムの炭素−水素間の結合が切断されて生じる炭素のラジカルに結合する水素サイト保護剤」、
「分子内に前記炭素のラジカルに結合するアルケニル基を2以上有するパーフルオロ骨格の化合物」、
「所定の温度に加熱されて前記水素含有フッ素ゴムが前記熱架橋剤により架橋 する」、
「前記架橋助剤が前記水素含有フッ素ゴムの分子間に介在するように前記水素 含有フッ素ゴムと結合した」、
「放射線が照射されて前記水素含有フッ素ゴムの炭素−水素間の結合が切断された後の炭素に前記水素サイト保護剤が結合した」
なる規定が存在するが、これらは実際に起こっていることが一切証明されていないから、本件請求項1〜10では、実際に起こっていることが明らかでない内容が規定されているため、発明が不明確となっている。(第87頁「(エ)」の欄、以下「取消理由3a−3」という。)

(エ)本件請求項1〜10における「水素含有フッ素ゴム」なる記載が表す化合物がどのような化合物なのか不明確である。このゴムは、水素(H2)を含有しているわけではない。(第88頁「(オ)」の欄、以下「取消理由3a−4」という。)

(オ)本件請求項1〜10では、「パーフルオロ骨格の化合物」なる化合物が規定されているが、「パーフルオロ骨格の化合物」で表される化合物は具体的にどのような化合物であるか不明確である。(第88頁「(カ)」の欄、以下「取消理由3a−5」という。)

(カ)本件請求項1〜7、9及び10では、「水素サイト保護剤は、分子内に前記炭素のラジカルに結合するアルケニル基を 2 以上有するパーフルオロ骨格の化合物を含む」と規定されているが、該水素サイト保護剤は、前記パーフルオロ骨格の化合物の他に何を含むのか、また、どのような量で前記パーフルオロ骨格の化合物を含むのか不明確である。(第88頁「(キ)」の欄、以下「取消理由3a−6」という。)

イ.特許法第36条第6項第1号不適合
本件発明の解決しようとする課題は、本件特許明細書の【0005】の記載から、耐プラズマ性の優れるゴム製品を提供することにある。
それに対して、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載を検討すると、
(ア)「水素サイト保護剤」としての「分子内に前記炭素のラジカルに結合するアルケニル基(ビニル基)を2以上有するパーフルオロ骨格の化合物」につき、シール材が耐プラズマ性に優れたものとなる作用機序につき記載又は示唆されているものとはいえないと共に、また、実施例に係る記載を検討しても、実施例で使用される「SIFEL3590−N」なる商品のものが、アルケニル基(ビニル基)の数などの化学構造の点で、前記「分子内に前記炭素のラジカルに結合するアルケニル基(ビニル基)を2以上有するパーフルオロ骨格の化合物」に該当するものであるか否か不明であるから、当該実施例に係る記載に基づき、本件請求項1〜10に係る発明において、「分子内に前記炭素のラジカルに結合するアルケニル基(ビニル基)を2以上有するパーフルオロ骨格の化合物」を「水素サイト保護剤」として使用する場合について、前記課題を解決できるような効果を奏し得るものと認識することはできない。
なお、本件の各請求項に記載された「水素サイト保護剤」に係る事項を具備するものであれば、前記課題を解決できると当業者が認識できるような技術常識が存するものとも認められない。
してみると、本件特許明細書の発明の詳細な説明では、当業者が、たとえその技術常識に照らしたとしても、本件の各請求項に記載された事項で特定される発明につき、前記課題を解決できると認識することができるように記載されているものではない。(第87頁「(イ)」の欄、以下「取消理由3b−1」という。)
(イ)本件請求項1〜10では、「水素サイト保護剤の含有量の前記熱架橋 剤の含有量に対する比が5.0以上10以下」であることを規定しているが、本件特許明細書において、所定の課題を解決できた具体的に記載されているのは、水素サイト保護剤の含有量の熱架橋剤の含有量に対する比が6.7である場合のみで、その含有量は課題の解決にあたり重要であると考えられるところ、上記含有量の比が5や10である場合にも、実施例と同様に課題を解決できるとはいえない。
したがって、本件特許の出願時の技術常識に照らしても、本件請求項1〜1 0に係る発明の範囲まで、本件特許の明細書において開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない。(第89頁「(ク)」の欄、以下「取消理由3b−2」という。)
(ウ)本件請求項1〜10では、「水素含有フッ素ゴム」、「熱架橋剤」、「水素サイト保護剤」及び「架橋助剤」なる化合物を用いることが規定されているが、(本件明細書において、)これらの化合物として、実際に課題を解決できたのはそれぞれ、特定の一種の材料を使用した場合のみであり、「水素含有フッ素ゴム」、「熱架橋剤」、「水素サイト保護剤」、及び「架橋助剤」なる記載が表す化合物のいずれを用いても、所定の課題を解決できるとはいえない。例えば、水素含有フッ素ゴムのフッ素含有量が多くなると、フッ素の特性により、他の成分との混和性が著しく悪くなると考えられ、実施例と同様の組成物が得られるとはいえない。また、水素サイト保護剤や架橋助剤に含まれるビニル基やアリル基の数が変化したり、水素含有フッ素ゴムや水素サイト保護剤の分子量が変化すれば、反応性が大きく異なることは当業者であれば容易に理解できることである。
したがって、本件特許の出願時の技術常識に照らしても、本件請求項1〜1 0に係る発明の範囲まで、本件特許の明細書において開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない。(第89頁「(ケ)」の欄、以下「取消理由3b−3」という。)
との理由により、本件の請求項1〜10の記載では、各項に係る発明が本件明細書の発明の詳細な説明に記載したものではないというものと認められる。(以下併せて「取消理由3b」ということがある。)

2.検討
取消理由B及び3は、いずれも特許法第36条第6項に係るものであるので併せてそれぞれ検討する。

(1)取消理由B1及び取消理由3a−1について
取消理由B1及び取消理由3a−1は、同趣旨をいうものであるところ、本件訂正によって、請求項7の記載内容が全て削除されたので同理由は解消された。

(2)取消理由B2について
取消理由B2は、本件訂正によって、「トリアリルイソシヌレート」なる誤記が「トリアリルイソシアヌレート」に訂正されたので、同理由は解消された。

(3)取消理由3a−2について
検討すると、「所定の温度に加熱されて前記水素含有フッ素ゴムが前記熱架橋剤により架橋する」、「前記架橋助剤が前記水素含有フッ素ゴムの分子間に介在するように前記水素含有フッ素ゴムと結合した」及び「放射線が照射されて前記水素含有フッ素ゴムの炭素−水素間の結合が切断された後の炭素に前記水素サイト保護剤が結合した」は、「ゴム製品」を構成する架橋・結合したゴム組成物の化学構造を表している表現であって、本件発明は、水素含有フッ素ゴムを熱架橋剤又は熱架橋剤と架橋助剤との組合せの存在下で熱架橋した後放射線架橋してゴム製品を構成するものであり、「分子内に前記炭素のラジカルに結合するアルケニル基を2以上有するパーフルオロ骨格の化合物を含む一液型の液体材料」はあくまで放射線架橋時に炭素−水素結合の切断により発生する炭素ラジカルに結合して水素が結合していた部分(サイト)に反応して保護する「水素サイト保護剤」であるから、本件発明の「ゴム製品」は、水素含有フッ素ゴムが有する炭素−水素結合のうち、熱架橋に関与せず、放射線架橋時に切断されて発生した炭素ラジカルの架橋に関与しないものにつき当該水素サイト保護剤が結合・保護している構造を有する(架橋)ゴム組成物により形成されているものと解するのが自然であり、いかなるゴム組成物材料により形成されているかは明確であるものといえる。
してみると、本件の請求項1ないし9に係る「ゴム製品」の発明が不明確になっているものとは認められない。

(4)取消理由3a−3について
本件請求項1〜10における「所定の温度に加熱されたときに前記水素含有フッ素ゴムを架橋させる熱架橋剤」、「放射線が照射されたときに前記水素含有フッ素ゴムの炭素−水素間の結合が切断されて生じる炭素のラジカルに結合する水素サイト保護剤」、「分子内に前記炭素のラジカルに結合するアルケニル基を2以上有するパーフルオロ骨格の化合物」、「所定の温度に加熱されて前記水素含有フッ素ゴムが前記熱架橋剤により架橋する」、「前記架橋助剤が前記水素含有フッ素ゴムの分子間に介在するように前記水素含有フッ素ゴムと結合した」及び「放射線が照射されて前記水素含有フッ素ゴムの炭素−水素間の結合が切断された後の炭素に前記水素サイト保護剤が結合した」なる規定は、架橋・結合したことを前提として技術常識に従い記載したものと認められ、当該架橋・結合が起こりえないとすべき技術常識が存するものとも認められない。
(なお、水素含有フッ素ゴムがパーオキサイドで熱架橋できることは、甲1でも見られるとおりである。)
また、本件明細書の実施例に係る記載を検討すると、請求項1に記載された事項を具備する場合に、耐プラズマ性、引張特性及び圧縮永久ひずみに優れたシール材製品が得られることが看取できる。
してみると、本件の各請求項の記載は、上記各規定が存するからといって、発明が明確でないということはできない。

(5)取消理由3a−4及び取消理由3a−5について
上記取消理由3a−4及び取消理由3a−5につき併せて検討すると、本件発明における「水素含有フッ素ゴム」は、明細書【0011】に定義があるが、より具体的にいうと、フッ素ゴムを構成する含フッ素ポリマーにおいて、主鎖を構成する炭素原子に結合する水素が残った含フッ素ポリマーを意味すること並びに「パーフルオロ骨格の化合物」が骨格を構成する炭化水素部分の炭素原子に結合する水素原子が全てフッ素に置換されている骨格を有する化合物であることは、技術常識に照らして当業者に自明である。
してみると、当該表現により、本件の請求項1〜10の記載は、各項に係る発明が明確でないということはできない。

(6)取消理由3a−6について
本件明細書の記載(【0014】)からみて、「水素サイト保護剤」につきは放射線が照射されたときに水素含有フッ素ゴムの炭素−水素間の結合が切断されて生じる炭素のラジカルに結合する化合物である」と定義されており、「分子内に水素含有フッ素ゴムの炭素のラジカルに結合するアルケニル基を有するパーフルオロ骨格の化合物」が好適なものとして例示されているから、当該「パーフルオロ骨格の化合物」が水素サイト保護の機能を有するものと理解するのが自然であって、特に他の成分を含むべきことを要するものとは認められない。
してみると、その他の成分及び組成比が不明であるからといって、本件の請求項1ないし10の記載は、各項に係る発明が明確でないとはいえない。

(7)取消理由BA及び取消理由3bについて
上記取消理由BA及び取消理由3b(取消理由3b−1ないし3b−3を含む)は、いずれも本件の請求項1ないし10の記載の、明細書の発明の詳細な説明によるサポート要件に係るものであるから、併せて検討する。
本件特許に係る明細書の発明の詳細な説明の記載を検討すると、本件発明の解決しようとする課題は、「耐プラズマ性の優れるゴム製品」の提供にあるものと認められる(【0005】)ところ、「本発明によれば、耐プラズマ性の低い部位である水素含有フッ素ゴムの水素サイトが、放射線が照射されたときに炭素−水素間の結合が切断されて炭素のラジカルを生じ、その炭素のラジカルに水素サイト保護剤が結合することにより保護されるので、これを用いることにより耐プラズマ性の優れるゴム製品を製造することができる」と「水素サイト保護剤」を含むことに係る作用機序が記載され(【0008】)、「水素サイト保護剤は、分子内に水素含有フッ素ゴムの炭素のラジカルに結合するアルケニル基を有するパーフルオロ骨格の化合物、及び/又は、分子内に水素含有フッ素ゴムの炭素のラジカルに結合するアルケニル基を有するシロキサン骨格の化合物を含むことが好ましい」ことが記載される(【0015】)と共に、実施例に係る記載(「実施例1」)において、「水素サイト保護剤の一液型の液状材料である分子内にビニル基を有するパーフルオロ骨格の化合物(SIFEL3590−N 信越化学工業社製、粘度(23℃):50Pa・s)」を使用した場合に、具体的データに基づき、本件発明の解決課題を解決できる効果を奏することが開示されているから、当該記載・開示に基づき、当業者であれば、請求項1に記載された事項を具備する本件発明1が、解決すべき課題を解決できるであろうと認識することができるものといえる。
また、申立人が主張する、水素含有フッ素ゴムに対する水素サイト保護剤の含有量及び水素サイト保護剤と熱架橋剤との含有量比に係る請求項1に規定された数値範囲の上限又は下限となった場合に反応性が変化すること(取消理由3b−2)並びに「水素含有フッ素ゴム」、「熱架橋剤」、「水素サイト保護剤」及び「架橋助剤」の各成分の種別につき、実施例で使用された成分以外の成分を使用した場合に実施例と同様の組成物が得られるとはいえないこと及び反応性が変化すること(取消理由3b−3)により、本件発明の課題が解決できないものとなる因果関係については論証されておらず、課題解決ができない場合につき具体的に示されていない。
してみると、本件の請求項1又は8及び同各項を引用する請求項2ないし6及び10の各項に記載された事項を具備する場合であっても本件発明の課題を解決できない場合が存するものとは認められず、本件の請求項1又は8及び同各項を引用する請求項2ないし6及び10の各項に記載された事項を具備する発明であれば本件発明の解決課題を解決できるものと認められる。
したがって、本件の請求項1ないし6、8及び10の記載は、各項に係る発明が、明細書の発明の詳細な説明に記載したものということができる。

3.取消理由B及び取消理由3に係る検討のまとめ
以上を総合すると、本件の請求項1ないし6、8及び10の記載は、特許法第36条第6項第1号及び第2号に適合するものであり、同法同条同項(柱書)に規定する要件を満たしているものである。
よって、当審が通知した取消理由B及び申立人が主張する取消理由3は、いずれも理由がない。

第6 むすび
以上のとおり、本件特許に対する令和3年10月29日付けの訂正請求は、適法であるから、これを認める。
また、本件の請求項7及び9に係る特許に対する本件特許異議の申立ては、適法にされた上記本件訂正によりその記載事項が全て削除されたことによって、申立ての対象を欠く不適法なものとなり、その補正ができないものであるから、特許法第120条の8で準用する同法第135条の規定により却下すべきものである。
そして、本件特許に係る異議申立てにおいて特許異議申立人が主張する取消理由はいずれも理由がなく、また、当審が通知した取消理由についても理由がないから、本件の請求項1ないし6、8及び10に係る発明についての特許は、取り消すことができない。
ほかに、本件の請求項1ないし6、8及び10に係る発明についての特許を取り消すべき理由も発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
未架橋ゴム組成物を用いて製造されるゴム製品であって、
前記未架橋ゴム組成物は、水素含有フッ素ゴムと、所定の温度に加熱されたときに前記水素含有フッ素ゴムを架橋させる熱架橋剤と、放射線が照射されたときに前記水素含有フッ素ゴムの炭素−水素間の結合が切断されて生じる炭素のラジカルに結合する水素サイト保護剤と、前記水素含有フッ素ゴムが前記熱架橋剤により架橋するときに、前記水素含有フッ素ゴムの分子間に介在するように前記水素含有フッ素ゴムと結合する架橋助剤とを含有し、
前記水素サイト保護剤は、分子内に前記炭素のラジカルに結合するアルケニル基を2以上有するパーフルオロ骨格の化合物を含み且つ23℃における粘度が30Pa・s以上100Pa・s以下の一液型の液状材料であり、
前記未架橋ゴム組成物における前記水素サイト保護剤の含有量の前記熱架橋剤の含有量に対する比が5.0以上10以下であり、
前記未架橋ゴム組成物における前記架橋助剤の含有量の前記熱架橋剤の含有量に対する比が2.0以上3.0以下であり、
前記未架橋ゴム組成物が、所定の温度に加熱されて前記水素含有フッ素ゴムが前記熱架橋剤により架橋するとともに、前記架橋助剤が前記水素含有フッ素ゴムの分子間に介在するように前記水素含有フッ素ゴムと結合した後、放射線が照射されて前記水素含有フッ素ゴムの炭素−水素間の結合が切断された後の炭素に前記水素サイト保護剤が結合したゴム組成物で形成されているゴム製品。
【請求項2】
請求項1に記載されたゴム製品において、
前記未架橋ゴム組成物における前記水素サイト保護剤の含有量が、前記水素含有フッ素ゴム100質量部に対して1質量部以上20質量部以下であるゴム製品。
【請求項3】
請求項1又は2に記載されたゴム製品において、
前記未架橋ゴム組成物における無機充填剤の含有量が、前記水素含有フッ素ゴム100質量部に対して5質量部以下であるゴム製品。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかに記載されたゴム製品において、
前記ゴム製品がシール材であるゴム製品。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかに記載されたゴム製品において、
前記未架橋ゴム組成物における前記熱架橋剤の含有量が、前記水素含有フッ素ゴム100質量部に対して0.5質量部以上2.5質量部以下であるゴム製品。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれかに記載されたゴム製品において、
前記未架橋ゴム組成物における前記架橋助剤の含有量が、前記水素含有フッ素ゴム100質量部に対して1質量部以上10質量部以下であるゴム製品。
【請求項7】(削除)
【請求項8】
未架橋ゴム組成物を用いて製造されるゴム製品であって、
前記未架橋ゴム組成物は、水素含有フッ素ゴムと、所定の温度に加熱されたときに前記水素含有フッ素ゴムを架橋させる熱架橋剤と、放射線が照射されたときに前記水素含有フッ素ゴムの炭素−水素間の結合が切断されて生じる炭素のラジカルに結合する水素サイト保護剤と、前記水素含有フッ素ゴムが前記熱架橋剤により架橋するときに、前記水素含有フッ素ゴムの分子間に介在するように前記水素含有フッ素ゴムと結合する架橋助剤とを含有し、
前記水素含有フッ素ゴムは、ビニリデンフルオライドとヘキサフルオロプロピレンとテトラフルオロエチレンとの共重合体であり、
前記熱架橋剤は、パーオキサイドであり、
前記水素サイト保護剤は、分子内に前記炭素のラジカルに結合するビニル基を2以上有するパーフルオロ骨格の化合物であり且つ23℃における粘度が30Pa・s以上100Pa・s以下の一液型の液状材料であり、
前記架橋助剤は、トリアリルイソシアヌレートであり、
前記未架橋ゴム組成物における前記水素サイト保護剤の含有量が、前記水素含有フッ素ゴム100質量部に対して5質量部以上15質量部以下であり、
前記未架橋ゴム組成物における前記熱架橋剤の含有量が、前記水素含有フッ素ゴム100質量部に対して0.5質量部以上2.0質量部以下であり、
前記未架橋ゴム組成物における前記架橋助剤の含有量が、前記水素含有フッ素ゴム100質量部に対して2質量部以上5質量部以下であり、
前記未架橋ゴム組成物における前記水素サイト保護剤の含有量の前記熱架橋剤の含有量に対する比が5.0以上10以下であり、
前記未架橋ゴム組成物における前記架橋助剤の含有量の前記熱架橋剤の含有量に対する比が2.0以上3.0以下であり、
前記未架橋ゴム組成物が、所定の温度に加熱されて前記水素含有フッ素ゴムが前記熱架橋剤により架橋するとともに、前記架橋助剤が前記水素含有フッ素ゴムの分子間に介在するように前記水素含有フッ素ゴムと結合した後、放射線が照射されて前記水素含有フッ素ゴムの炭素−水素間の結合が切断された後の炭素に前記水素サイト保護剤が結合したゴム組成物で形成されているゴム製品。
【請求項9】(削除)
【請求項10】
請求項1乃至6及び8のいずれかに記載されたゴム製品の製造方法であって、
前記未架橋ゴム組成物を、所定の温度に加熱して前記水素含有フッ素ゴムを前記熱架橋剤により架橋させるとともに、前記架橋助剤を前記水素含有フッ素ゴムの分子間に介在させるように前記水素含有フッ素ゴムと結合させた後、放射線を照射して前記水素含有フッ素ゴムの炭素−水素間の結合を切断して生じる炭素のラジカルに前記水素サイト保護剤を結合させるゴム製品の製造方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2022-04-19 
出願番号 P2019-170431
審決分類 P 1 651・ 113- YAA (C08G)
P 1 651・ 121- YAA (C08G)
P 1 651・ 537- YAA (C08G)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 佐藤 健史
特許庁審判官 近野 光知
橋本 栄和
登録日 2020-11-04 
登録番号 6788716
権利者 三菱電線工業株式会社
発明の名称 ゴム製品及びその製造方法  
代理人 特許業務法人前田特許事務所  
代理人 特許業務法人前田特許事務所  

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