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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  H01M
審判 全部申し立て 特174条1項  H01M
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  H01M
管理番号 1386129
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-07-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 2021-07-05 
確定日 2022-04-21 
異議申立件数
訂正明細書 true 
事件の表示 特許第6806739号発明「リチウム二次電池用正極活物質およびこれを含むリチウム二次電池」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6806739号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1〜10〕について訂正することを認める。 特許第6806739号の請求項1、2、4〜10に係る特許を維持する。 特許第6806739号の請求項3に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6806739号(以下、「本件特許」という。)の請求項1〜10に係る特許についての出願(以下、「本願」という。)は、2018年(平成30年) 7月24日(パリ条約による優先権主張 2017年 7月24日 韓国(KR) 2018年 7月19日 韓国(KR))の出願であって、令和 2年12月 8日に特許権の設定登録がされ、令和 3年 1月 6日に特許掲載公報が発行され、その後、同年 7月 5日にその請求項1〜10(全請求項)に係る特許に対して特許異議申立人 竹下 瑞恵(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。
特許異議申立て後の手続きの経緯は、次のとおりである。

令和 3年 9月27日付け:取消理由通知
同年12月29日差出:特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
令和 4年 2月25日 :申立人による意見書の提出

第2 訂正請求について
1 訂正請求の趣旨、及び訂正の内容
令和 3年12月29日差出の訂正請求書により特許権者が行った訂正請求(以下、「本件訂正請求」という。)に係る訂正(以下、「本件訂正」という。)は、本件特許の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1〜10について訂正を求めるものであり、その訂正の内容は、以下のとおりである。なお、訂正箇所には、当審が下線を付した。

(1)訂正事項1
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1に、
「前記リチウム二次電池用正極活物質は100ppm〜400ppm範囲の硫黄を含むリチウム二次電池用正極活物質。」
とあるのを、
「前記リチウム二次電池用正極活物質は100ppm〜400ppm範囲の硫黄を含み、前記機能性層の平均厚さは3nm〜60nmである、リチウム二次電池用正極活物質。」
に訂正する。
請求項1の記載を直接又は間接的に引用する請求項2、4〜10も同様に訂正する。

(2)訂正事項2
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項3を削除する。

(3)訂正事項3
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項10に、
「請求項1乃至8のいずれか1項に記載の正極活物質」
とあるのを、
「請求項1、2及び4乃至8のいずれか1項に記載の正極活物質」
に訂正する。

2 本件訂正の適否について
(1)一群の請求項について
本件訂正前の請求項2〜10はいずれも訂正前の請求項1を直接又は間接的に引用するものであって、請求項1の訂正に連動して訂正されるものであるので、本件訂正前の請求項1〜10は一群の請求項である。
そして、本件訂正請求は、特定の請求項に係る訂正事項について別の訂正単位とする求めがないから、訂正後の請求項〔1〜10〕を訂正単位とする訂正の請求をするものである。

(2)訂正の目的、特許請求の範囲の実質上の拡張又は変更の存否、及び新規事項追加の有無について
ア 訂正事項1について
(ア)訂正の目的について
訂正事項1に係る訂正は、本件訂正前の請求項1に記載された「機能性層」の態様を限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当する。

(イ)特許請求の範囲の実質上の拡張又は変更の存否、新規事項追加の有無について
上記(ア)のとおり、訂正事項1に係る訂正は、訂正前の請求項1に記載された「機能性層」の態様を限定するものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものとはいえない。
また、訂正後の請求項1に記載された「前記機能性層の平均厚さは3nm〜60nmである」ことは、本願の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「本件明細書等」という。)の【0031】に記載された事項であるから、訂正事項1に係る訂正は、本件明細書等に記載した事項の範囲内での訂正である。

イ 訂正事項2について
(ア)訂正の目的
訂正事項2に係る訂正は、訂正前の請求項3を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当する。

(イ)特許請求の範囲の実質上の拡張又は変更の存否、及び新規事項追加の有無
上記(ア)のとおり、訂正事項2に係る訂正は、訂正前の請求項3を削除するものであるから、本件明細書等に記載した事項の範囲内での訂正であり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものともいえない。

ウ 訂正事項3について
(ア)訂正の目的
訂正事項3に係る訂正は、訂正前の請求項10が請求項1〜8を引用する記載であったところ、訂正事項2によって請求項3が削除されることに伴って、削除される請求項3を訂正後の請求項10が引用しないようにするものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものに該当する。

(イ)特許請求の範囲の実質上の拡張又は変更の存否、新規事項の有無
上記(ア)のとおり、訂正事項3に係る訂正は、削除された請求項を引用しないようにするための訂正にすぎないから、本件明細書等に記載した事項の範囲内での訂正であり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものともいえない。

(3)独立特許要件について
本件特許異議の申立ては、訂正前の全ての請求項に対してされているので、訂正事項1〜3について、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項に規定する独立特許要件は課されない。

3 本件訂正請求についてのむすび
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項及び第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。
したがって、本件特許の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1〜10について訂正することを認める。

第3 本件発明
上記第2の3のとおり、本件訂正請求による訂正は認められるから、本件訂正請求によって訂正された請求項1〜10に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」〜「本件発明10」といい、総称して「本件発明」ということがある。)は、その訂正特許請求の範囲の請求項1〜10に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「 【請求項1】
下記の化学式1で表される化合物を含むコアと、
前記コアの表面に位置する機能性層と、
を含み、
前記コア及び前記機能性層は同じ元素から構成され、
前記コアは、六方晶系結晶構造または層状の六方性結晶構造(当審注:下記第4の1で摘記する段落【0030】等の記載よりみて「六方晶系結晶構造」の誤記と認めた。)を含み、前記機能性層は、立方晶系構造を含み、前記機能性層の平均厚さは3nm〜60nmである、リチウム二次電池用正極活物質であって、
前記リチウム二次電池用正極活物質は100ppm〜400ppm範囲の硫黄を含むリチウム二次電池用正極活物質。
[化学式1]
LiaNixCoyMezO2
前記化学式1において、0.9≦a≦1.1、0.5≦x≦0.93、0<y≦0.3、0<z≦0.3、x+y+z=1であり、Meは、MnまたはAlである。
【請求項2】
前記リチウム二次電池用正極活物質は100ppm〜200ppm範囲の硫黄を含む、請求項1に記載のリチウム二次電池用正極活物質。
【請求項3】(削除)
【請求項4】
前記機能性層は、前記コアの結晶構造と異なる1種の結晶構造のみを含む層を含むものである、請求項1に記載のリチウム二次電池用正極活物質。
【請求項5】
前記機能性層は、
前記立方晶系構造及び少なくとも1種の結晶構造を含む第1層と、前記立方晶系構造を含む第2層とを含む、請求項1に記載のリチウム二次電池用正極活物質。
【請求項6】
前記第1層の平均厚さは、
前記機能性層の平均厚さを基準に、2%〜20%範囲である、請求項5に記載のリチウム二次電池用正極活物質。
【請求項7】
前記第1層は前記コア表面に位置し、
前記第2層は前記第1層の表面に位置する、請求項5に記載のリチウム二次電池用正極活物質。
【請求項8】
前記第1層は、立方晶系構造と六方晶系構造とが混合された構造を含む、請求項5に記載のリチウム二次電池用正極活物質。
【請求項9】
前記化学式1において、xは下記式1の範囲を満足する、請求項1に記載のリチウム二次電池用正極活物質。
[式1]
0.7≦x≦0.93
【請求項10】
請求項1、2及び4乃至8のいずれか1項に記載の正極活物質を含む正極と、
負極活物質を含む負極と、
電解質と、
を含む、リチウム二次電池。」

第4 特許異議の申立てについて
1 申立理由の概要
申立人は、証拠方法として、後記する甲第1〜6号証(以下、単に「甲1」〜「甲6」という。)を提出し、以下の理由により、本件訂正前の請求項1〜10に係る特許は取り消されるべきものである旨主張している。

(1)申立理由1(進歩性)(取消理由として不採用)
本件訂正前の請求項1、2に係る発明は、甲1に記載された発明に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明できたものであるか、あるいは、甲1に記載された発明と甲2〜6のいずれかに記載された事項に基いて、当業者が容易に発明できたものである。また、本件訂正前の請求項3〜10に係る発明は、甲1に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明できたものであるか、あるいは、甲1に記載された発明と甲2〜5のいずれかに記載された事項に基いて、当業者が容易に発明できたものである。
よって、本件訂正前の請求項1〜10に係る特許は、第29条第2項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである。

(2)申立理由2(新規事項の追加)(取消理由として不採用)
本件訂正前の請求項1における「前記コア及び前記機能性層は同じ元素から構成され」という事項は、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「当初明細書等」という。)に記載した事項の範囲内ではない。
よって、上記事項を追加した、本件特許に係る出願について令和 2年 7月30日付けでした手続補正は、当初明細書等の範囲内においてしたものでないから、本件訂正前の請求項1〜10に係る特許は、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない補正をした特許出願に対してされたものであり、同法第113条第1号に該当し、取り消されるべきものである。

(3)申立理由3(サポート要件)
ア 申立理由3−1(取消理由として採用)
本件訂正前の請求項1〜10に係る発明は、機能性層の平均厚さを規定しておらず、機能性層の平均厚さが所定範囲を超える場合までをも包含する本件発明1の範囲にまで、出願時の技術常識に照らしても、本願の願書に添付した明細書(以下、「本件明細書」という。)の発明の詳細な説明(以下、「本件発明の詳細な説明」という。)に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない。
したがって、本件訂正前の請求項1〜10の記載は、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものとはいえないものであるから、同請求項に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、取り消されるべきものである。

イ 申立理由3−2(取消理由として不採用)
本件訂正前の請求項4、10に係る発明は、「前記機能性層は、前記コアの結晶構造と異なる1種の結晶構造のみを含む層を含むものである」と規定するが、本件発明の詳細な説明では、機能性層は、立方晶系構造のみ、立方晶系構造+六方晶系構造あるいはこれらの両方のみが開示されているため、これら以外の構造を含む場合、同発明は、本件発明の詳細な説明に記載されたものとはいえない。
したがって、本件訂正前の請求項4、10の記載は、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものとはいえないものであるから、同請求項に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、取り消されるべきものである。

ウ 申立理由3−3(取消理由として不採用)
本件訂正前の請求項5〜8、10に係る発明は、機能性層は、「前記立方晶系構造及び少なくとも1種の結晶構造を含む第1層と、前記立方晶系構造を含む第2層とを含む」と規定するが、本件発明の詳細な説明には、「少なくとも1種の結晶構造」がコアを構成する「六方晶系構造あるいは層状の六方晶系」と異なる結晶構造を1種以上含む構成については何らの開示も示唆もなく、第2層についても「立方晶系構造のみ」からなる場合以外については、本件発明の詳細な説明には開示も示唆もない。
したがって、本件訂正前の請求項5〜8、10の記載は、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものとはいえないものであるから、同請求項に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、取り消されるべきものである。

(4)申立理由4(明確性
ア 申立理由4−1(取消理由として不採用)
本件発明4、10は、「前記機能性層は、前記コアの結晶構造と異なる1種の結晶構造のみを含む層を含むものである」と規定するが、機能性層が立方晶系構造のみからなるのか、立方晶系構造以外で、かつ、コアの結晶構造である六方晶系構造とは異なる結晶構造を含む層をさらに備えることを規定しているのかが明確でない。よって、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないから、同法第113条第4号の規定に該当する。

イ 申立理由4−2(取消理由として不採用)
本件発明5〜8、10は、機能性層は、「前記立方晶系構造及び少なくとも1種の結晶構造を含む第1層と、前記立方晶系構造を含む第2層とを含む」と規定するが、「少なくとも1種の結晶構造」がコアを構成する「六方晶系構造あるいは層状の六方性結晶構造」と同じものであるか否かが明確でない。よって、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないから、同法第113条第4号の規定に該当する。

<証拠方法>
甲1:特開2009−266712号公報
甲2:特開2006−228604号公報
甲3:特開2017−117700号公報
甲4:国際公開第2012/131779号
甲5:特開2013−137947号公報
甲6:特開2003−59490号公報

2 令和 3年 9月27日付け取消理由通知における取消理由の概要
本件訂正前の請求項1〜10に係る特許に対して、当審が令和 3年 9月27日付けで特許権者に通知した取消理由の概要は、次のとおりである。

(1)取消理由1(サポート要件:申立理由3−1に対応)
本件発明が解決しようとする課題(以下、「本件課題」という。)は、高容量、高安定性および優れた寿命特性を有するリチウム二次電池用正極活物質、若しくは前記正極活物質を含むリチウム二次電池を提供することである。
一方、本件課題のうちのリチウム二次電池用正極活物質が高容量および優れた寿命特性を備えることを達成するためには、少なくともリチウム二次電池用正極活物質が、発明の詳細な説明の【0032】に記載の100ppm〜400ppm範囲の硫黄を含む構成に加え、本件発明の詳細な説明の【0031】に記載の機能性層の平均厚さを3nm〜60nmとする構成も備えることを要するが、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1、2、4〜10には、機能性層の平均厚さについての規定はなく、同請求項に係る発明は、上記課題を解決できると当業者が認識できる範囲を超える態様を含むものであるといえる。
したがって、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1、2、4〜10の記載は、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものとはいえないものであるから、同請求項に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、取り消されるべきものである。

第5 本件明細書等の記載事項及び甲1〜6の記載事項
1 本件明細書等の記載事項
本件明細書等には、以下の記載がある。(なお、下線は当審が付した。「・・・」は、省略を表す。以下、同様。)

「【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウム二次電池用正極活物質およびこれを含むリチウム二次電池に関する。」

「【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の一実施形態は、高容量、高安定性および優れた寿命特性を有するリチウム二次電池用正極活物質を提供する。
【0007】
本発明の他の実施形態は、前記正極活物質を含むリチウム二次電池を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
一側面において、本発明は、下記の化学式1で表される化合物を含むコア、および前記コア表面に位置する機能性層を含み、前記機能性層は、前記コアの結晶構造と異なる1種の結晶構造を含むリチウム二次電池用正極活物質であって、前記正極活物質は100ppm〜400ppm範囲の硫黄を含むリチウム二次電池用正極活物質を提供する。
【0009】
[化学式1]
LiaNixCoyMezO2
前記化学式1において、0.9≦a≦1.1、0.5≦x≦0.93、0<y≦0.3、0<z≦0.3、x+y+z=1であり、
Meは、MnまたはAlである。
【0010】
他の側面において、本発明は、前記正極活物質を含む正極、負極活物質を含む負極、および電解質を含むリチウム二次電池を提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の一実施形態によるリチウム二次電池用正極活物質は、正極の構造安定化および電解液との副反応の抑制などに寄与して、電池性能を画期的に向上させることができる。したがって、前記正極活物質を含む正極を適用した本発明によるリチウム二次電池は、高容量および高安定性を有し、かつ寿命特性を画期的に向上させることができる。」

「【0014】
また、明細書全体で、ある部分がある構成要素を「含む」というとき、これは特に反対になる記載がない限り、他の構成要素を除くのではなく他の構成要素をさらに含むことができるのを意味する。」

「【0019】
・・・ニッケル(Ni)系複合酸化物はリチウム原子1つが抜ける充電反応の際、Ni2+→Ni4++2eのように反応して2つの電子を発生させるため、1つの電子だけ発生させるコバルト(Co)、マンガン(Mn)などの他の元素と比較する時、ニッケル(Ni)含有量が増加するほど容量が増加する長所がある。
【0020】
しかし、ニッケル(Ni)系複合酸化物の場合、従来のリチウムコバルト酸化物と比較する時、リチウムが脱離される充電反応の際、脱離されるリチウムの量が多くて構造が不安定で相対的によく崩れ、充電および放電を経ながら容量劣化が相対的に著しく現れるという問題がある。
【0021】
そこで、本発明の発明者らは、リチウム二次電池用正極活物質としてニッケル(Ni)系複合酸化物を使用しながらも高容量化および優れた寿命特性を同時に実現するために研究を重ねた結果、ニッケル(Ni)系複合酸化物を含むコア表面に機能性層を形成させ、前記機能性層の少なくとも一部がコアの結晶構造と異なる1種の結晶構造を含む場合、上記のような目的を達成できることを見出し、本発明の一実施形態を実現した。
【0022】
図1には、本発明の一実施形態によるリチウム二次電池用正極活物質の断面を例示的に示した。
【0023】
図1を参照すると、本発明の一実施形態によるリチウム二次電池用正極活物質150は、コア101と前記コア101の表面に位置する機能性層102とを含むことを特徴とする。
【0024】
この時、前記コア101は、下記の化学式1で表される化合物を含むことができる。
【0025】
[化学式1]
LiaNixCoyMezO2
【0026】
前記化学式1において、0.9≦a≦1.1、0.5≦x≦0.93、0<y≦0.3、0<z≦0.3、x+y+z=1であり、Meは、MnまたはAlである。一実施形態によると、0<y≦0.2、0<z≦0.1であってもよい。
【0027】
また、前記正極活物質に含まれるコアはニッケル含有量が高い、すなわち、xが0.5〜0.93の化合物である。特に、前記化学式1において、前記xは0.7≦x≦0.93または0.8≦x≦0.9であってもよい。
【0028】
このようにニッケル含有量が高い、すなわち、xが0.5〜0.93の前記化学式1の化合物を正極活物質のコアに使用する場合、高容量を有するリチウム二次電池を製造することができる。すなわち、xが0.5未満である、ニッケル含有量が低い化合物をリチウム二次電池の正極活物質として使用する場合に比べて、非常に高い容量を示すリチウム二次電池を実現することができる。
【0029】
前記機能性層102は前記コア101の結晶構造と異なる1種の結晶構造を含むことができ、特に、前記コア101の結晶構造と異なる1種の結晶構造のみを含む層を含むことができる。
【0030】
一方、コア101は六方晶系(hexagonal)結晶構造または層状の六方晶系結晶構造を含み、機能性層102はコア101と他の1種の結晶構造を含むことができる。この時、前記1種の結晶構造は、例えば、立方晶系(cubic)構造であってもよい。
【0031】
前記機能性層102の平均厚さは3nm〜60nm、または5nm〜30nmであってもよい。機能性層の平均厚さが3nm以上の場合寿命特性が向上し、60nm以下の場合には、高い容量を有するリチウム二次電池を実現することができる。前記機能性層の平均厚さはTEM分析で得られ、例えば、試料の5ポイントに対して得たTEM分析の平均値で得ることができる。
【0032】
前記リチウム二次電池用正極活物質150は、100ppm〜400ppm範囲、または100ppm〜200ppmの硫黄(sulfur)を含んでもよい。全体正極活物質を基準に硫黄の含有量が100ppm以上の場合高容量のリチウム二次電池を実現でき、400ppm以下の場合には、リチウム二次電池の寿命特性を向上させることができる。
このように、正極活物質が前記コアの結晶構造と異なる1種の結晶構造を含む機能性(当審注:機能性層の誤記と認められる)を含む場合、構造的により安定されるので、電池の充電・放電時に正極活物質の構造がよく維持されることができ、よってサイクル寿命の特性及び安定性に優れることができる。
【0033】
以下、図2を参照して、本発明の他の実施形態によるリチウム二次電池用正極活物質を説明する。図2は、本発明の他の実施形態によるリチウム二次電池用正極活物質の断面を例示的に示した図である。本実施形態の正極活物質151の説明において、上述した図1によるリチウム二次電池用正極活物質150と実質的に同一の構成に対する詳細な説明は省略する。
【0034】
図2を参照すると、本実施形態によるリチウム二次電池用正極活物質151は、コア101と前記コア101の表面に位置する機能性層102とを含む。本実施形態において、前記機能性層102は、少なくとも2種の結晶構造を含む第1層102aと、第1層102aの表面に位置する第2層102bとを含んでもよい。第2層102bは、コア101と異なる少なくとも1種の結晶構造を含んでもよい。
【0035】
この時、第1層102aは、立方晶系構造および六方晶系構造が混合された構造を含んでもよい。また、第2層102bは立方晶系構造を含んでもよい。第2層102bは立方晶系構造および六方晶系構造を含んでもよいが、立方晶系構造が六方晶系構造よりも多いことがある。また、第2層102bは立方晶系構造だけで形成されてもよい。機能性層に含まれる六方晶系構造も六方晶系構造または層状の六方晶系構造であってもよい。
【0036】
本実施形態で第1層102aはコア101の表面に位置し、第2層102bは、第1層102aの表面に位置することができる。すなわち、第2層102bは、リチウム二次電池用正極活物質151の最外郭に位置することができる。
【0037】
前記機能性層102の平均厚さは、3nm〜60nmまたは5nm〜30nmであってもよい。機能性層の平均厚さが3nm以上の場合寿命特性が向上し、60nm以下の場合には、高い容量を有するリチウム二次電池を実現することができる。
【0038】
この時、第1層102aの平均厚さは、前記機能性層102全体の平均厚さを基準に、2%〜20%範囲であってもよい。機能性層102全体で立方晶系結晶構造で構成される第1層102aの平均厚さが前記範囲を満足する場合、リチウムの脱離および挿入の際、正極活物質の構造劣化を抑制することができる。
【0039】
一方、実施形態によるリチウム二次電池用正極活物質は、例えば、混合物製造、1次熱処理、洗浄、脱水、乾燥および2次熱処理を含む方法で製造されることができる。
【0040】
混合物製造は、例えば、リチウム含有化合物、ニッケル含有化合物、コバルト含有化合物、Me(MeはMnまたはAlである)含有化合物を混合する方法で行ってもよい。前記ニッケル含有化合物、前記コバルト含有化合物および前記Me(MeはMnまたはAlである)含有化合物は一般的に不純物としてSを含み、例えば、1000pppm〜2000pppmの含量で含んでもよい。
・・・
【0046】
次に、1次熱処理は、例えば、700℃〜1000℃で行ってもよく、この時、1次熱処理時間は5時間〜30時間であってもよい。また、1次熱処理は、酸素(O2)雰囲気、または大気(air)雰囲気下で行ってもよい。この熱処理工程で前記化学式1で表される化合物を含むコアが形成され得る。
【0047】
前記洗浄は、例えば、コアおよび溶媒を0.5〜1.5:1の重量比で混合し、1分〜60分間攪拌する工程で行ってもよい。前記溶媒としては水を用いてもよい。前記コア及び溶媒の混合比が前記範囲を外れる場合、例えば、溶媒を過量または少量用いる場合、適合した機能性層が形成されず、適切でない。
【0048】
この時、得られた混合液のpHは3〜13であってもよく、適切には7〜13であってもよい。また、前記溶媒温度は15℃〜35℃範囲であってもよい。上記溶媒として塩基溶媒を用いてもよい。この際に塩基溶媒はアンモニア、水酸化ナトリウムまたはこれらの組み合わせの塩基を水に添加したものを用いてもよい。この際に、前記塩基溶媒の濃度は塩基溶媒のpHが約11.5〜13.5になるように調節してもよい。例えば、塩基としてアンモニアを用いる場合、塩基溶媒の濃度は10重量%〜30重量%であってもよく、塩基として水酸化ナトリウムを用いる場合、塩基溶媒の濃度は5重量%〜15重量%であってもよい。
【0049】
上記洗浄工程によって、上記コアに含まれる硫黄の含有量を調節することができる。
【0050】
以降、脱水および乾燥工程を経た後、100℃〜700℃の温度範囲で2次熱処理して、実施形態によるリチウム二次電池用正極活物質を製造することができる。この時、脱水工程は、当該技術分野においてよく知られた通常の方法で行ってもよく、乾燥は80〜240℃の温度範囲で行ってもよい。」

「【0090】
実施例1
水酸化リチウム、水酸化ニッケル、水酸化コバルト、アルミニウムヒドロキシドを、Li:Ni:Co:Alが1:0.85:0.13:0.02のモル比となるように混合した。
【0091】
前記混合物を700〜800℃および酸素(O2)雰囲気下で20時間熱処理して、LiNi0.85Co0.13Al0.02O2正極活物質コアを製造した。上記正極活物質コアと水を1:0.75(約1.33:1)の重量比で混合した後、10分程度攪拌して洗浄工程を行った後、脱水および乾燥工程を経た後、700℃で熱処理して上記コアの表面に5nm厚さの結晶化された機能性層が形成された正極活物質を製造した。上記正極活物質と混合した溶媒のpHは7.5であり、上記乾燥工程は180℃で行った。
【0092】
この時、正極活物質コアは層状の六方晶系構造を含み、前記機能性層は全体が立方晶系構造を含むように構成された。また、正極活物質の硫黄含有量は300ppmであった。
【0093】
製造された正極活物質94重量%、ポリフッ化ビニリデンバインダー3重量%およびケッチェンブラック導電材3重量%をN−メチルピロリドン溶媒中で混合して正極活物質組成物を製造した。この正極活物質組成物をAl電流集電体に塗布して、正極を製造した。
【0094】
正極、リチウム金属対極および電解質を使用し、通常の方法でコイン形態の半電池を製造した。前記電解質として1.0M LiPF6が溶解されたエチレンカーボネートおよびジエチルカーボネートの混合溶媒(50:50体積比)を使用した。
【0095】
実施例2
正極活物質コア表面に立方晶系と六方晶系との混合構造からなる第1層を形成し、第1層の表面に立方晶系構造を含む第2層を形成して第1層および第2層を含む機能性層を形成し、正極活物質の硫黄含有量が200ppmとなるように正極活物質コアと水の混合比を重量比1:1で混合した洗浄工程条件を調節したことを除いては、実施例1と同様の方法で正極活物質を製造した。この時、第1層と第2層の平均厚さ比率は1:4であった。上記正極活物質と混合した溶媒のpHは7.5であった。
【0096】
その後、実施例1と同様の方法で正極を製造した後、コイン形態の半電池を製造した。
【0097】
実施例3
水にNaOHを添加してpHが12.5である塩基溶媒(濃度:5重量%)を製造し、正極活物質コアと上記塩基溶媒を1:0.75(約1.33:1)の重量比で混合して洗浄工程を行ったことを除いては、実施例1と同様の方法で正極活物質の硫黄の含有量が400ppmである正極活物質を製造した。
【0098】
その後、実施例1と同様の方法で正極を製造した後、コイン形態の半電池を製造した。
【0099】
実施例4
正極活物質コアの表面に立方晶系と六方晶系との混合構造からなる第1層を形成し、第1層の表面に立方晶系構造を含む第2層を形成し、第1層及び第2層を含む機能性層を形成し、正極活物質の硫黄含有量が100ppmとなるように正極活物質コアと水の混合比を1:1.5(約0.67:1)の重量比で混合した洗浄工程条件を調節したことを除いては、実施例1と同様の方法で正極活物質を製造した。この際に、第1層及び第2層の平均厚さの比率は1:4であった。上記正極活物質と混合した溶媒のpHは7.5であった。
【0100】
その後、実施例1と同様の方法で正極を製造した後、コイン形態の半電池を製造した。
【0101】
比較例1
水にNaOHを添加してpHが12.5である塩基溶媒(濃度:5重量%)を製造し、正極活物質コアと上記塩基溶媒を1:0.5の重量比で混合して洗浄工程を行ったことを除いては、実施例1と同様の方法で別途の機能性層なしに層状の六方晶系構造からなり、硫黄含有量が1000ppmである正極活物質を製造した。
【0102】
その後、実施例1と同様の方法で正極を製造した後、コイン形態の半電池を製造した。
【0103】
比較例2
正極活物質コア表面に立方晶系と六方晶系との混合構造からなる機能性層を形成し、正極活物質の硫黄含有量が500ppmとなるように正極活物質と水を1:0.5の重量比で混合する洗浄工程条件を調節して正極活物質を製造したことを除いては、実施例1と同様の方法で正極活物質を製造した。
【0104】
その後、実施例1と同様の方法で正極を製造した後、コイン形態の半電池を製造した。
【0105】
比較例3
正極活物質コア表面に立方晶系と六方晶系との混合構造からなる機能性層を形成し、正極活物質の硫黄含有量が30ppmとなるように正極活物質と水を1:3の重量比で混合する洗浄工程条件を調節して正極活物質を製造したことを除いては、実施例1と同様の方法で正極活物質を製造した。
【0106】
その後、実施例1と同様の方法で正極を製造した後、コイン形態の半電池を製造した。
【0107】
実施例1〜4および比較例1〜3により製造された正極活物質において、機能性層の結晶構造と平均厚さ、および正極活物質の硫黄含有量を下記表1に示した。
【0108】
【表1】

【0109】
実験例1
実施例1〜4および比較例1〜3により製造された半電池を25℃で、3.0V〜4.3V範囲内で1Cで充放電を200回実施して、放電容量を測定した。また、1回放電容量に対する200回放電容量比率を計算して容量維持率を求め、これをサイクル寿命とした。
【0110】
結果は、下記表2に示した。
【0111】
【表2】

【0112】
表2を参照すると、本発明の一実施形態による正極活物質を含む半電池である実施例1〜4の場合、比較例1〜3と比較すると、容量が優れており、かつ、200回目のサイクルでも優れた寿命特性を示すことが確認できる。」

「【図1】



「【図2】



2 甲1の記載事項
甲1には以下の記載がある。

「【請求項1】
組成式LixNi1−y−zCoyMzO2(MはMn、Al、Zr、Si、Sr及びMgから選ばれる少なくとも1種の元素であり、x、y及びzは0.95≦x≦1.10、0.1≦y≦0.4及び0≦z≦0.1を満足する数である。)で表されるリチウム二次電池用正極活物質であって、レーザー回折式粒度分布測定装置で測定したメジアン径が2〜20μmの範囲にあり、クロスセクションポリッシャで処理した粒子断面のSEM観察による1次粒子径の平均長径が1〜10μmの範囲にあり、(上記メジアン径)/(上記粒子断面の1次粒子径の平均長径)が1.0〜3.0の範囲にあり、体積基準の累積分布の5%径がメジアン径/3以上であると共に95%径がメジアン径の3倍以下であるリチウム二次電池用正極活物質。」

「【請求項3】
(a)コバルト元素と共に、Mg、Mn、Sr、Si、Zr及びAlから選ばれる少なくとも1種の元素Mを含む水酸化ニッケル粒子にLi/(Co+Ni+M)モル比が1.5〜5.0の範囲にて水酸化リチウムを混合し、
(b)得られた混合物を酸化性雰囲気下に730〜950℃で一次焼成し、
(c)得られた焼成物を水洗して、焼成物から余剰のリチウム元素を除去した後、
(d)この焼成物を酸化性雰囲気下に600〜900℃で二次焼成することを特徴とするリチウム二次電池用正極活物質の製造方法。」

「【0019】
本発明によるニッケル酸リチウムは、1次粒子の粒径が大きく、均一であると共に、そのような1次粒子の殆どが空間によってのみ囲まれており、従って、正極活物質として用いるとき、サイクル特性にすぐれるリチウム二次電池を与えるリチウム二次電池用正極活物質を与える。」

「【0032】
更に、本発明によれば、第1、第2及び第3のいずれの方法においても、工程(a)として、コバルト元素(と元素M)を含む水酸化ニッケル粒子にLi/(Co+Ni(+M))モル比が1.5〜5.0の範囲にて水酸化リチウムを加えて、乾式混合し、得られた混合物を一次焼成する。本発明によれば、このように、工程(a)で用いる水酸化リチウムのうち、Li/(Co+Ni(+M))モル比がほぼ1、好ましくは、0.95〜1.05の範囲の水酸化リチウムは、コバルト元素(と元素M)を含む水酸化ニッケル粒子と反応させて、リチウム複合酸化物を生成させるために用いられる。」

「【0039】
次に、本発明によれば、工程(a)において得られたコバルト元素(と元素M)を含む水酸化ニッケル粒子と水酸化リチウムとの混合物を酸化性雰囲気下において、730〜950℃、好ましくは、750〜900℃の温度で一次焼成して、一次焼成物、即ち、余剰のリチウム元素を含むリチウム複合酸化物を得る。
【0040】
一次焼成温度が余りに低いときは、1次粒子が十分に融合、成長せず、従って、得られる正極活物質をリチウム二次電池に用いても、電池のサイクル劣化を十分に抑制することができない。しかし、一次焼成温度が余りに高くても、例えば、950℃を超えるときは、水酸化リチウムが分解し、フラックスとして機能しない。従って、1次粒子が融合、成長しないので、粒界をもつ小さい1次粒子が多数生成し、従って、得られる正極活物質は、リチウム二次電池に用いても、内部抵抗が大きく、充放電特性に劣ることとなる。
【0041】
従って、本発明においては、一次焼成時間は、一次焼成温度にもよるが、例えば、焼成温度を高温とするときは、上記混合物をその焼成温度まで加熱する間に混合物には熱エネルギーが十分に蓄積されるので、混合物を予め定めた焼成温度まで加熱した後は、その温度に短時間保持することによって、混合物を十分に焼成することができる。従って、一次焼成時間は、通常、0.1〜120時間にわたってよいが、好ましくは、0.5〜96時間の範囲である。
【0042】
本発明において、一次焼成は、好ましくは、酸素雰囲気下で行なわれるが、必要に応じて、空気中で行なってもよい。
【0043】
また、本発明によれば、重要な特徴の第2として、最終的に酸化性雰囲気下において、600〜900℃、好ましくは、700〜800℃の温度で二次焼成して、目的とするリチウム複合酸化物を得る。」

「【0046】
・・・本発明において、二次焼成は、好ましくは、酸素雰囲気下で行なわれるが、必要に応じて、空気中で行なってもよい。」

「【0070】
・・・本発明によるリチウム二次電池は、正極と負極を有し、これらは、非水電解液を含浸させたセパレータを介して対向して、電池容器内に収容されている。・・・」

「【0085】
(電池特性)
得られた正極活物質1gとアセチレンブラック(電気化学工業(株)製デンカブラック粒状品)0.06gとポリフッ化ビニリデン溶液(呉羽化学工業(株)製KFポリマーL#1120とN−メチル−2−ピロリドン重量比1/1溶液)1.16gを混合し、乳鉢で2分間混練してペーストとした。このペーストをロールコータを用いて20μm厚のアルミニウム箔上に乾燥後の活物質重量が0.01g/cm2になるように塗布し、120℃で真空乾燥した後、直径1.5cmの円板状に打ち抜いて正極とした。
【0086】
負極としてリチウム金属を用い、電解液として1M濃度のヘキサフルオロリン酸リチウムを支持塩とするエチレンカーボネートとジメチルカーボネートの等量混合溶液を用いた。露点が−80℃に管理されたアルゴン雰囲気のグローブボックス中でモデルセルを作製した。充放電は、正極に対する電流密度0.5mA/cm2、カットオフ電圧4.3〜3.0Vとし、45℃で測定して、1サイクル(c)目の放電容量d1と100c目の放電容量d100を求め、これより100c目の放電容量維持率(d100/d1)×100(%)を求めた。
【0087】
実施例1
硫酸ニッケルと硫酸コバルトの混合物(Ni/Coモル比0.84/0.16)の水溶液に水酸化ナトリウム水溶液とアンモニア水溶液を少量ずつ滴下しながら、pH12及び温度40℃で反応させた。得られた反応生成物を濾過、水洗した後、120℃で乾燥して、Ni0.84Co0.16(OH)2なる組成を有する水酸化物粒子を得た。」

「【0115】
実施例6
硫酸ニッケルと硫酸コバルトと硫酸マンガンの混合物(Ni/Co/Mnモル比0.79/0.16/0.05)の水溶液に水酸化ナトリウム水溶液とアンモニア水溶液を少量ずつ滴下しながら、pH12及び温度40℃で反応させた。得られた反応生成物を濾過、水洗した後、120℃で乾燥して、Ni0.79Co0.16Mn0.05(OH)2なる組成を有する水酸化物粒子を得た。
【0116】
この水酸化物粒子にLi/(Ni+Co+Mn)モル比が3.32となるように水酸化リチウム1水和物を乾式混合した。
【0117】
得られた水酸化物粒子と水酸化リチウムの混合物を酸素雰囲気中、850℃で24時間焼成した。得られた焼成物を水洗、濾過し、これを繰り返して、余剰のリチウムを十分に除去した後、120℃で24時間真空乾燥して、組成式Li1.00Ni0.79Co0.16Mn0.05O2を有する焼成物を得た。
【0118】
この焼成物を酸素雰囲気中、900℃で1時間焼成して、組成式Li1.00Ni0.79Co0.16Mn0.05O2を有する正極活物質を得た。
【0119】
実施例7
実施例1で得られたNi0.84Co0.16(OH)2なる組成を有する水酸化物粒子にLi/(Ni+Co)モル比が3.33となるように水酸化リチウム1水和物を乾式混合した。得られた水酸化物粒子と水酸化リチウムの混合物を酸素雰囲気中、850℃で72時間焼成した。得られた焼成物を水洗、濾過し、これを繰り返して、余剰のリチウムを十分に除去した後、120℃で24時間真空乾燥して、組成式Li1.01Ni0.84Co0.16O2を有する焼成物を得た。
【0120】
この焼成物に水に加え、攪拌して、スラリーとし、このスラリーにアルミン酸ナトリウム(NaAlO2)をAl/(Ni+Co+Al)モル比が0.05となるように加えた後、硫酸を加えて、スラリーが6〜7のpHを有するように中和した。得られた中和物を濾過、水洗した後、120℃で乾燥した。
【0121】
この乾燥物を酸素雰囲気中、750℃で5時間焼成して、組成式Li0.97Ni0.80Co0.15Al0.05O2を有する正極活物質を得た。」

「【0136】
以上の実施例及び比較例において得られたリチウム複合酸化物の組成(前記一般式(I)における元素M、x、y及びz)と共に、CP処理断面について測定した1次粒子の平均長径、レーザー回折式粒度分布測定装置によって測定した粒度特性及び得られたリチウム二次電池のサイクル特性を表1に示す。
【0137】
【表1】

【0138】
表1に示す結果から明らかなように、本発明による正極活物質を含む正極を備えたリチウムイオン二次電池においては、1c目の放電容量が140mAh/g以上であると共に、100c目の放電容量維持率が90%以上であるという条件を満たすが、比較例による正極活物質を含む正極を備えたリチウムイオン二次電池においては、上記条件の少なくとも一方が満たされない。」

3 甲2の記載事項
甲2には以下の記載がある。

「【請求項1】
一般式Li1+XMn(1−Y−Z)NiYAlZO2(ただし、式中X、Y、Zは、各々−0.05≦X≦0.10、0.33≦Y≦0.50、0<Z≦0.24)で表される六方晶系の層状構造を有し、リチウムイオン二次電池の正極活物質として用いたとき、該リチウムイオン二次電池の初期放電容量が100mAh/g以上であり、正極の安全性評価試験における発熱量が500J/g以下であるリチウムマンガンニッケルアルミニウム複合酸化物。」

「【請求項3】
硫酸根の含有量が0.35質量%以下である請求項1または2に記載のリチウムマンガンニッケルアルミニウム複合酸化物。」

「【0020】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたものであって、リチウムイオン二次電池用正極活物質として、熱安定性が良好で、かつ、安価であり、さらに初期放電容量が実電池としての使用に耐える大きさである正極活物質を提供することを目的とする。」

「【0023】
また、リチウムマンガンニッケルアルミニウム複合酸化物を得るために、マンガンニッケルアルミニウム複合水酸化物とリチウム化合物とを、所定量混合、焼成した場合、原料に硫酸塩を用いていると、多量に含まれる硫酸根によってリチウムが消費され、リチウム不足のリチウムマンガンニッケルアルミニウム複合酸化物となってしまい、そのため、初期放電容量が大きく低下し、実電池として充放電できる材料にならないという問題点があることも本発明者は見出した。」

「【0043】
結晶構造は、六方晶系の層状構造を有することが必要である。六方晶系の層状構造を有することにより、初期放電容量が大きくなる。」

「【0049】
硫酸根の含有量は、0.35質量%以下であることが好ましい。硫酸根の含有量が0.35質量%を上回ると、硫酸根がリチウム化合物と結合してしまい、六方晶系の層状構造が不完全となってしまうからである。」

「【0056】
このマンガンニッケルアルミニウム複合水酸化物は、リチウム化合物と混合する前に、熱処理し、複合酸化物とすることが必要である。熱処理し、複合酸化物とすることが必要な理由は、マンガン、ニッケル、アルミニウムを完全に固溶させることに加え、マンガンニッケルアルミニウム複合水酸化物の原料に硫酸塩を用いた場合にマンガンニッケルアルミニウム複合水酸化物中に含まれることとなる硫酸根を亜硫酸ガスの形態で系外に除去するためである。該熱処理は900〜1000℃で行うことが好ましい。
【0057】
得られたマンガンニッケルアルミニウム複合水酸化物を熱処理せずに、直接リチウム化合物と混合、焼成してリチウムマンガンニッケルアルミニウム複合化物を得ても、マンガン、ニッケル、アルミニウムが十分には固溶しておらず、また、該複合水酸化物中に硫酸根(SO42−)が含まれていると、その硫酸根(SO42−)がリチウム化合物と結合してしまうため、六方晶系の層状構造が不完全となってしまう。このため、得られたリチウムマンガンニッケルアルミニウム複合酸化物を正極材料として用いても、初期充放電容量が著しく低くなってしまうため、正極材料として使用することはできない。
【0058】
これに対し、本発明のように、リチウム化合物と混合する前に、マンガンニッケルアルミニウム複合水酸化物を熱処理してマンガンニッケルアルミニウム複合酸化物にした場合は、得られた複合酸化物中においてマンガン、ニッケル、アルミニウムが固溶していることに加え、硫酸根(SO42−)は熱処理中にSO2ガスの形態で系外に除去されており、硫酸根(SO42−)の含有量は0.35質量%以下となる。したがって、この後、リチウム化合物と混合して所定の熱処理をすれば、六方晶系の層状構造をもつリチウムマンガンニッケルアルミニウム複合酸化物を得ることができ、正極材料として用いた場合、充放電可能な材料となる。なお、熱処理して得られたマンガンニッケルアルミニウム複合酸化物において、マンガン、ニッケル、アルミニウムを十分に固溶させるためには、マンガンニッケルアルミニウム複合水酸化物の熱処理温度が900℃以上であることが好ましく、また、900℃未満の熱処理温度では、マンガンニッケルアルミニウム複合水酸化物中に硫酸根(SO42−)が存在していた場合、硫酸根(SO42−)を十分に除去することができず、好ましくない。一方、該熱処理温度が1000℃を超えるとマンガンニッケルアルミニウム複合酸化物の焼結が進み、粉砕が必要となり、好ましくない。」

4 甲3の記載事項
甲3には以下の記載がある。

「【請求項1】
リチウムニッケル複合酸化物からなる非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法であって、
下記(A)〜(D)の工程を、(A)〜(D)の工程順に含むことを特徴とする非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法。
(A)ニッケルおよびコバルトを含有し、かつ添加元素MとしてMg、Al、Ca、Ti、V、Cr、Mn、Nb、ZrおよびMoから選ばれる少なくとも1種の元素を含む金属化合物の水溶液と、アンモニウムイオン供給体を含む水溶液とを含む反応溶液をアルカリ性に保持して中和晶析した後、固液分離して湿潤状態のニッケル複合水酸化物を得る晶析工程。
(B)晶析工程で得られた湿潤状態のニッケル複合水酸化物とタングステン化合物を混合した後、100〜750℃で熱処理してタングステン混合物を得る熱処理工程。
(C)前記タングステン混合物と、さらにリチウム化合物とを混合し、リチウム混合物を得る混合工程。
(D)前記リチウム混合物を、酸化性雰囲気中において700〜900℃の温度範囲で焼成して、一次粒子および一次粒子が凝集して構成された二次粒子からなるリチウムニッケル複合酸化物を得る焼成工程。
【請求項2】
前記焼成工程で得られたリチウムニッケル複合酸化物の焼成粉末を、水1Lに対して700g〜2000gとなるように水と混合してスラリーを形成し、前記焼成粉末を水洗処理する水洗工程を、さらに備えることを特徴とする請求項1に記載の非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法。」

「【請求項5】
前記ニッケル複合水酸化物の硫酸根含有量が、0.1〜0.4質量%であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法。」

「【請求項10】
前記リチウムニッケル複合酸化物は、一般式:LiaNi1−x−yCoxMyOz(式中、Mは、Mg、Al、Ca、Ti、V、Cr、Mn、Nb、ZrおよびMoから選ばれる少なくとも1種の元素である。aは、0.95≦a≦1.11、xは0<x≦0.15、yは0<y≦0.07、x+yは≦0.16を満たす数値である。)で表され、一次粒子および一次粒子が凝集して構成された二次粒子からなるものであることを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載の非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法。」

「【0032】
ニッケル化合物として用いられるニッケル複合水酸化物は、硫酸根(SO4)の含有量が0.1〜0.4質量%であることが好ましく、0.1〜0.3質量%であることがより好ましい。これにより、後工程の焼成において、リチウムニッケル複合酸化物の結晶性の制御が容易になる。
【0033】
すなわち、硫酸根の含有量を0.1〜0.4質量%とすることで、例えばc軸の長さを容易に制御することができる。また、焼成時における一次粒子の成長による二次粒子の収縮を適度なものとすることができるので、空隙率も容易に制御できる。
しかしながら、硫酸根の含有量が0.1質量%未満になると、結晶化の進行が速くなり過ぎ、結晶性が十分に制御できないことがある。また、一次粒子が成長して二次粒子の収縮が大きくなり、比表面積や空隙率が小さくなり過ぎることがある。一方、硫酸根の含有量が0.4質量%を超えると、一次粒子の成長が抑制されるため、比表面積や空隙率が大きくなり過ぎることがある。
【0034】
また、ニッケル複合水酸化物から得られたニッケルオキシ複合水酸化物及び、熱処理工程で得られるニッケル複合酸化物は、ニッケル複合水酸化物に含有される硫酸根とほぼ同量の硫酸根を含有する。
したがって、ニッケル複合水酸化物の硫酸根(SO4)の含有量を0.1〜0.4質量%とすることで、ニッケル複合水酸化物から得られるニッケルオキシ複合水酸化物、あるいはニッケル複合酸化物を原料として活物質を得た場合も同様の効果が得られる。」

「【0064】
(E)水洗工程
水洗工程は、焼成工程で得られたリチウムニッケル複合酸化物の焼成粉末を水洗処理する工程であり、焼成工程の後に備えることができる。
具体的には、水1Lに対して焼成粉末が700g〜2000gとなるようにスラリーを形成して、水洗処理した後、濾過、乾燥してリチウムニッケル複合酸化物粉末(水洗粉末)を得る。
【0065】
水洗工程では、水洗処理中の水洗温度が、好ましくは10〜40℃、より好ましくは10〜30℃となるように調整される。
このように温度を調整することで、リチウムニッケル複合酸化物の焼成粉末の表面に存在する不純物が除去されるとともに、表面に存在する炭酸リチウムや水酸化リチウムなどの残渣リチウム量を粉末全体に対して0.10質量%以下とすることができる。」

「【0072】
水洗処理後の乾燥は、下記のように乾燥せることが好ましい。
水洗後のリチウムニッケル複合酸化物焼成粉末を乾燥する温度や方法は特に限定されないが、 乾燥温度は、80〜500℃が好ましく、120〜250℃がより好ましい。」

「【0140】
(実施例1)
まず、反応槽内の温度を49.5℃に設定し、20質量%水酸化ナトリウム溶液により反応槽内の反応溶液を液温25℃基準でpH13.0に保持しながら、反応溶液に硫酸ニッケルと硫酸コバルトの混合水溶液、アルミン酸ナトリウム水溶液、25質量%アンモニア水を添加し、オーバーフローにより回収した。さらに液温25℃基準のpHが12.5の45g/L水酸化ナトリウム水溶液で洗浄した後、水洗し、乾燥させてニッケル複合水酸化物を得た(中和晶析法)。
【0141】
このニッケル複合水酸化物をICP法により分析したところ、Ni:Co:Alのモル比が94:3:3のニッケル複合水酸化物であることを確認した。このニッケル複合水酸化物にタングステン酸ソーダ粉末を添加・混合し、120℃の大気乾燥機で24時間熱処理し、乾燥させた。
得られたニッケル複合水酸化物の組成をICP法により分析したところ、タングステン含有量はNi、CoおよびAlの原子数の合計に対して0.35原子%の組成であることを確認した。
このニッケル複合水酸化物のレーザー回折散乱法測定による体積基準の平均粒径MVは13μmであった。
また、ICP発光分析法により硫黄を定量分析し、硫黄は全て酸化して硫酸根(SO4)になるものとして係数を乗じることによって求めたところ、硫酸根含有量は0.28質量%であった。ニッケル複合水酸化物の硫酸根含有量を表1に示す。
【0142】
次に、このニッケル複合水酸化物を、大気雰囲気下で、600℃の温度で酸化焙焼してニッケル複合酸化物とした後、モル比でNi:Co:Al:Li=0.94:0.03:0.03:1.025となるように、ニッケル複合酸化物と水酸化リチウム−水和物を秤量し混合して、リチウム混合物を得た。
【0143】
得られたリチウム混合物は、電気炉を用いて酸素雰囲気下において、500℃の温度で3時間仮焼した後、745℃で3時間保持し、昇温開始から保持終了までを20時間として焼成した。その後、室温まで炉内で冷却し、解砕処理を行い、焼成粉末を得た。
得られた母材をICP法による分析を行ったところ、Ni:Co:Al:Liのモル比が0.94:0.03:0.03:1.024であることを確認した。
【0144】
次に、得られた母材に20℃の純水を加えて、水1Lに対して母材が750g含まれるスラリーとし、このスラリーを20分間攪拌後、フィルタープレスで固液分離し、さらに乾燥し、正極活物質を得た。
また、得られた正極活物質のBET法による比表面積は、0.93m2/gであった。」

5 甲4の記載事項
甲4には以下の記載がある。

「[請求項13] 一般式(II):
LitNi1−x−yCoxMyO2
(II)
(式中、0.95≦t≦1.15、0≦x≦0.22、0≦y≦0.15、x+y<0.3、Mは添加元素であり、Mg、Al、Ca、Ti、V、Cr、Mn、Zr、Nb、MoおよびWからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素を示す)
で表され、リチウムニッケル複合酸化物からなる正極活物質の製造方法であって、
請求項7、8、9、10、11または12記載のニッケル複合水酸化物粒子を熱処理する工程と、
前記熱処理後の粒子をリチウム化合物と混合してリチウム混合物を形成する混合工程と、
該混合工程で形成された前記リチウム混合物を、700〜850℃の温度で焼成する焼成工程と有する
ことを特徴とする非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法。
[請求項14] 前記リチウム混合物に含まれるリチウムの原子数とリチウム以外の金属の原子数の和との比(リチウムの原子数/リチウム以外の金属の原子数の和)を、0.95/1〜1.15/1に調整する
ことを特徴とする請求項13記載の非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法。
[請求項15] 前記焼成工程後に水洗して濾過、乾燥する
ことを特徴とする請求項13または14記載の非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法。
[請求項16] 前記焼成工程の前に、前記リチウム化合物と前記熱処理後の粒子が反応し得る温度で仮焼する
ことを特徴とする請求項13、14または15記載の非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法。
[請求項17] 一般式(II):
LitNi1−x−yCoxMyO2
(II)
(式中、0.95≦t≦1.15、0≦x≦0.22、0≦y≦0.15、x+y<0.3、Mは、Mg、Al、Ca、Ti、V、Cr、Mn、Zr、Nb、MoおよびWからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素を示す)
で表され、リチウム含有複合酸化物により構成されるリチウムニッケル複合酸化物からなる正極活物質であって、
平均粒径が2〜8μmであり、粒度分布の広がりを示す指標である〔(d90−d10)/平均粒径〕が0.65以下であって
反応面積の大きさを示す指標である〔比表面積×平均粒径〕が5.5以上である
ことを特徴とする非水系電解質二次電池用正極活物質。」

「[0085](水洗)
また、熱処理粒子にリチウム化合物の混合割合を化学量論比よりも高くした場合は、焼成後にリチウムニッケル複合酸化物粒子の表面にリチウム化合物が残留する可能性がある。したがって、かかる残留した余剰のリチウム化合物を除去するために、焼成後にリチウムニッケル複合酸化物粒子を水洗することが好ましい。リチウムニッケル複合酸化物粒子の表面に余剰のリチウム化合物が残留していると、このリチウムニッケル複合酸化物粒子からなる正極活物質を用いた正極を非水系二次電池に使用した場合には、非水系二次電池内において副反応を引き起こしガス発生による電池の膨張などの原因となるため安全性を損なうおそれがあるからである。
[0086]
上記水洗の方法はとくに限定されないが、リチウムニッケル複合酸化物と水とを混合して水洗スラリーを形成した後、この水洗スラリーを撹拌した後、濾過し、乾燥することにより行うことができる。
[0087]
なお、上記水洗において、水洗スラリーの濃度は、500g/L〜2500g/Lとなるように調整することが好ましい。上記スラリー濃度が500g/L未満の場合には、リチウムニッケル複合酸化物粒子から過剰にリチウムが溶出し、非水系電解質二次電池用正極活物質の電気特性が悪化してしまうことがある一方、スラリー濃度が2500g/Lを超えると、水洗スラリーの粘度が高すぎて、均一撹拌が難しくなり、十分な効果が得られないからである。」

6 甲5の記載事項
甲5には以下の記載がある。

「【請求項1】
正極活物質を含む正極と、負極活物質を含む負極と、前記正極および前記負極の間に配されたセパレータと、非水電解液と、を備えるリチウムイオン二次電池であって、
前記正極活物質は、一次粒子で構成された二次粒子からなり、
前記一次粒子の表面の一部がリチウム金属酸化物の層で被覆され、残りの一次粒子の表面が立方晶の金属酸化物の層で被覆されたリチウムニッケル複合酸化物であって、
前記リチウム金属酸化物は、メタホウ酸リチウム、ニオブ酸リチウム、チタン酸リチウム、タングステン酸リチウム、モリブデン酸リチウムからなる群より選択される少なくとも一種であり、
前記リチウム金属酸化物の層の厚さは、0.5nm以上5nm以下であり、
前記立方晶の金属酸化物は酸化ニッケルであり、
前記立方晶の金属酸化物の層の厚さは、0.5nm以上10nm以下であり、
前記リチウム金属酸化物の層の平均被覆率xは、0.85以上0.95未満であり、
前記金属酸化物の層の被覆率yは、0.05以上0.15未満(x+y=1)であることを特徴とするリチウムイオン二次電池。」

「【請求項4】
リチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法であって、
前記正極活物質は、一次粒子で構成された二次粒子からなり、
前記一次粒子の表面の一部がリチウム金属酸化物の層で被覆され、残りの一次粒子の表面が立方晶の金属酸化物の層で被覆されたリチウムニッケル複合酸化物であって、
前記リチウム金属酸化物を水あるいは有機溶媒を用いて前記リチウムニッケル複合酸化物の表面に被着させる工程と、
前記リチウム金属酸化物を被着させたリチウムニッケル複合酸化物リチウムを加熱処理する加熱工程と、
前記加熱処理したリチウムニッケル複合酸化物を水洗処理する工程と、
前記水洗したリチウムニッケル複合酸化物を乾燥する乾燥工程と、
を有するリチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法。」

「【0010】
そこで、本発明者らは、鋭意検討の結果、正極活物質の少なくとも一つの一次粒子表面の一部をリチウム金属酸化物で被覆し、残りの表面を結晶構造が立方晶である金属酸化物で被覆した正極材料を採用したリチウムイオン二次電池を高充電電圧でサイクルさせた場合において、リチウム金属酸化物層において電解液との副反応を抑制し、金属酸化物層でリチウムイオン導電性を確保することにより、耐高電圧性とレート特性が向上することを見出した。」

「【0017】
・・・立方晶の金属酸化物は酸化ニッケルである。
立方晶の金属酸化物の層12の厚さは、0.5nm以下の場合では、電解液との副反応が抑制できず、10nm以上の場合では容量が低下してしまう傾向があることから、0.5nm以上10nm以下であることが好ましい。」

「【0022】
被覆工程は、リチウム金属酸化物を活物質表面に被着させる工程と、被覆させたリチウム金属酸化物の被覆強度を向上させるための加熱処理工程と、被覆したリチウム金属酸化物の層を一部除去するための水洗処理工程と、リチウム金属酸化物を除去した部に金属酸化物の層を設けさせるための乾燥工程からなる。
【0023】
前記被着させる工程は、リチウム金属酸化物を水や有機溶媒に溶解あるいは分散させることにより異種元素を含む溶液を調整した後、リチウムニッケル複合酸化物を前記リチウム金属酸化物を含む溶液に分散させ、加温することにより完全に溶媒を除去し、リチウムニッケル複合酸化物表面にリチウム金属酸化物を被着させた。」

「【0048】
(実施例1)
(1)リチウムニッケル複合酸化物の作製
メタホウ酸リチウム1gを、水中に溶解した。得られた溶液中にリチウムニッケル複合酸化物(LiNi0.8Co0.16Al0.04O2:NCA)100gを分散させた。次に、攪拌しながら過熱することにより、溶媒を完全に除去した。得られた混合物を、真空雰囲気において250℃で12時間加熱処理することにより、メタホウ酸リチウムで被覆されたリチウムニッケル複合酸化物を得た。得られたメタホウ酸リチウムで被覆されたリチウムニッケル複合酸化物を水中に分散させ、吸引濾過で水分を除去することにより、メタホウ酸リチウム層を一部溶解させたリチウムニッケル複合酸化物を得た。さらに、得られたメタホウ酸リチウム層を一部溶解させたリチウムニッケル複合酸化物を真空中150℃で5時間加熱し、メタホウ酸リチウムで被覆されていない表面を酸化することにより、少なくとも一つの一次粒子表面の一部をメタホウ酸リチウム層で被覆され、その残りの表面を酸化ニッケル層で被覆されたリチウムニッケル複合酸化物を得た。このときのメタホウ酸リチウム層は4nm、酸化ニッケル層は5nmの厚さを有していた。また、このときのメタホウ酸リチウム層の平均被覆率は0.9、酸化ニッケル層の平均被覆率は0.1であった。」

7 甲6の記載事項
甲6には以下の記載がある。

「【0014】ニッケルコバルトマンガン複合水酸化物
本発明の製造方法工程1により得られる原料であるニッケルコバルトマンガン複合水酸化物の走査式電子顕微鏡(以下SEMという。)写真を図1に示す。写真の倍率は5000倍である。写真から原料粒子は実質的に球状であることがわかる。また、1次粒子が密に充填されていることがわかる。複合酸化物の元素分析値およびその他の物性値の一例を表1に示す。
【0015】
表 1
組 成
Ni(wt%) 21.1
Co(wt%) 21.1
Mn(wt%) 19.8
Ni(mol%) 33.4
Co(mol%) 33.2
Mn(mol%) 33.4
タップ密度(g/cc) 1.95
バルク密度(g/cc) 1.23
粒径(μm) 9.0
比表面積(m2/g) 13.5
SO4(%) 0.03
Ni:Co:Mn 1.00:1.00:1.00」

「【図1】



第6 当審の判断
1 取消理由について
(1)取消理由1について
ア 特許請求の範囲の記載がサポート要件(特許法第36条第6項第1号)に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、発明の詳細な説明に記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものであるから(知的財産高等裁判所特別部平成17年(行ケ)第10042号判決参照。)、以下、当該観点に立って検討する。

イ 本件課題について
本件発明の詳細な説明の【0006】、【0007】の記載から、本件課題は、高容量、高安定性および優れた寿命特性を有するリチウム二次電池用正極活物質、若しくは前記正極活物質を含むリチウム二次電池を提供することと認められる。

ウ 本件課題を解決するための手段について
(ア)本件発明の詳細な説明の【0021】、【0032】には、「ニッケル(Ni)系複合酸化物を含むコア表面に機能性層を形成させ、前記機能性層の少なくとも一部がコアの結晶構造と異なる1種の結晶構造を含む場合、上記のような目的を達成できることを見出し、本発明の一実施形態を実現した」こと、「正極活物質が前記コアの結晶構造と異なる1種の結晶構造を含む機能性層を含む場合、構造的により安定されるので、電池の充電・放電時に正極活物質の構造がよく維持されることができ、よってサイクル寿命の特性及び安定性に優れることができる」ことが記載されている。

(イ)また、本件発明の詳細な説明の【0032】には、「リチウム二次電池用正極活物質」が「100ppm〜400ppm範囲」の「硫黄(sulfur)を含」むことができ、「全体正極活物質を基準に硫黄の含有量が100ppm以上の場合高容量のリチウム二次電池を実現でき、400ppm以下の場合には、リチウム二次電池の寿命特性を向上させることができる」ことが記載されている。

(ウ)さらに、本件発明の詳細な説明の【0031】には、「機能性層」の「平均厚さ」を「3nm〜60nm」とすることができ、「機能性層の平均厚さが3nm以上の場合寿命特性が向上し、60nm以下の場合には、高い容量を有するリチウム二次電池を実現することができる」ことが記載されている。

(エ)上記(ア)〜(ウ)の記載を勘案すれば、本件発明の詳細な説明には、高容量、高安定性および優れた寿命特性を有するリチウム二次電池用正極活物質、若しくは前記正極活物質を含むリチウム二次電池を提供するという本件課題に対応して、「ニッケル(Ni)系複合酸化物を含むコア表面に機能性層を形成させ、前記機能性層の少なくとも一部がコアの結晶構造と異なる1種の結晶構造を含む」こと、「リチウム二次電池用正極活物質」が「100ppm〜400ppm範囲」の「硫黄(sulfur)を含」むこと、及び「機能性層」の「平均厚さ」を「3nm〜60nm」とすることが、当業者が本件課題を解決できると認識できる範囲として記載されていると認められる。

エ 一方、上記第3にて摘記したとおり、本件発明1、2、4〜10は、「リチウム二次電池用正極活物質」が、
(ア)「下記化学式1で表される化合物を含むコアと、前記コアの表面に位置する機能性層」と、
[化学式1]
LiaNixCoyMezO2
前記化学式1において、0.9≦a≦1.1、0.5≦x≦0.93、0<y≦0.3、0<z≦0.3、x+y+z=1であり、Meは、MnまたはAlである。
(イ)「前記コアは、六方晶系結晶構造または層状の六方晶系結晶構造」を含み、「前記機能性層は、立方晶系構造を含」むことと、
(ウ)「前記機能性層の平均厚さは3nm〜60nmである」ことと、
(エ)「前記リチウム二次電池用正極活物質は100ppm〜400ppm範囲の硫黄を含む」ことと、
を発明特定事項として含んでおり、上記(ア)によればコアがニッケル系複合酸化物を含むことは明らかであり、また上記(イ)によれば機能性層がコアの結晶構造と異なる1種の結晶構造を含むことは明らかである。
そうすると、本件発明1、2、4〜10には、上記ウ(エ)に示した、当業者が当該課題を解決できると認識できる範囲を超えるところは見当たらない。

オ 取消理由1についてのまとめ
よって、本件発明1、2、4〜10について、特許請求の範囲の記載は、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであるといえるから、同発明に係る特許が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとはいえない。

2 取消理由として採用しなかった異議申立理由について
(1)申立理由1について
ア 甲1に記載された発明
上記第5の2に摘記した事項を総合勘案し、特に、【0085】〜【0087】、【0115】〜【0121】、【0136】〜【0138】、実施例6、7に着目すると、甲1には、次の発明が記載されていると認められる。

「硫酸ニッケルと硫酸コバルトと硫酸マンガンの混合物(Ni/Co/Mnモル比0.79/0.16/0.05)の水溶液に水酸化ナトリウム水溶液とアンモニア水溶液を少量ずつ滴下しながら、pH12及び温度40℃で反応させて得られた反応生成物を濾過、水洗した後、120℃で乾燥して、Ni0.79Co0.16Mn0.05(OH)2なる組成を有する水酸化物粒子を得て、この水酸化物粒子にLi/(Ni+Co+Mn)モル比が3.32となるように水酸化リチウム1水和物を乾式混合し、得られた水酸化物粒子と水酸化リチウムの混合物を酸素雰囲気中、850℃で24時間焼成して得られた焼成物を水洗、濾過し、これを繰り返して、余剰のリチウムを十分に除去した後、120℃で24時間真空乾燥して、組成式Li1.00Ni0.79Co0.16Mn0.05O2を有する焼成物を得て、この焼成物を酸素雰囲気中、900℃で1時間焼成して得られた、組成式Li1.00Ni0.79Co0.16Mn0.05O2を有する正極活物質。」(以下、「甲1実施例6発明」という。)

「硫酸ニッケルと硫酸コバルトの混合物(Ni/Coモル比0.84/0.16)の水溶液に水酸化ナトリウム水溶液とアンモニア水溶液を少量ずつ滴下しながら、pH12及び温度40℃で反応させて得られた反応生成物を濾過、水洗した後、120℃で乾燥して、Ni0.84Co0.16(OH)2なる組成を有する水酸化物粒子を得て、この水酸化物粒子にLi/(Ni+Co)モル比が3.33となるように水酸化リチウム1水和物を乾式混合し、得られた水酸化物粒子と水酸化リチウムの混合物を酸素雰囲気中、850℃で72時間焼成し、得られた焼成物を水洗、濾過し、これを繰り返して、余剰のリチウムを十分に除去した後、120℃で24時間真空乾燥して、組成式Li1.01Ni0.84Co0.16O2を有する焼成物を得て、この焼成物に水に加え、攪拌して、スラリーとし、このスラリーにアルミン酸ナトリウム(NaAlO2)をAl/(Ni+Co+Al)モル比が0.05となるように加えた後、硫酸を加えて、スラリーが6〜7のpHを有するように中和した。得られた中和物を濾過、水洗した後、120℃で乾燥し、この乾燥物を酸素雰囲気中、750℃で5時間焼成して得られた、組成式Li0.97Ni0.80Co0.15Al0.05O2を有する正極活物質」(以下、「甲1実施例7発明」という。)

「甲1実施例6発明の正極活物質を含む正極と、リチウム金属を用いた負極と、電解液と、を含むリチウム二次電池。」(以下、「甲1実施例6電池発明」という。)

「甲1実施例6発明の正極活物質を含む正極と、リチウム金属を用いた負極と、電解液と、を含むリチウム二次電池。」(以下、「甲1実施例7電池発明」という。)

イ 本件発明1について
(ア)甲1実施例6発明との対比
a 本件発明1と甲1実施例6発明とを対比する。

甲1実施例6発明の「組成式Li1.00Ni0.79Co0.16Mn0.05O2を有する正極活物質」は、本件発明1の「下記の化学式1で表される化合物を含むコア」「を含」む「リチウム二次電池用正極活物質」と、「下記化学式1」を満たす「化合物」を含む「正極活物質」という点で共通する。
[化学式1]
LiaNixCoyMezO2
前記化学式1において、0.9≦a≦1.1、0.5≦x≦0.93、0<y≦0.3、0<z≦0.3、x+y+z=1であり、Meは、MnまたはAlである。

そうすると、本件発明1と甲1実施例6発明とは、

「下記化学式1で表される化合物を含む正極活物質。
[化学式1]
LiaNixCoyMezO2
前記化学式1において、0.9≦a≦1.1、0.5≦x≦0.93、0<y≦0.3、0<z≦0.3、x+y+z=1であり、Meは、MnまたはAlである。」

という点で一致し、以下の点で相違する。

(相違点1−1−1)
本件発明1は「コアの表面に位置」し、「コア」と「同じ元素から構成され」、「立方晶系構造を含み」、「平均厚さは3nm〜60nmであ」る「機能性層」を有するのに対し、甲1実施例6発明はそのような機能性層を有するのか否か不明である点。

(相違点1−1−2)
本件発明1は「六方晶系結晶構造または層状の六方晶系結晶構造を含」む「コア」を含むのに対し、甲1実施例6発明はそのようなコアを有するのか否か不明である点。

(相違点1−1−3)
本件発明1は「リチウム二次電池用正極活物質」が「100ppm〜400ppm範囲の硫黄を含む」のに対し、甲1実施例6発明はそのような濃度の硫黄を含むのか否か不明である点。

b 相違点についての検討
(a)事案に鑑みて、上記相違点1−1−1についてまず検討する。
(a−1)まず、相違点1−1−1が実質的な相違点であるかどうか検討する。
(a−1−1)本件明細書等の【0039】〜【0050】の記載によれば、混合物を1次熱処理して上記化学式1で表されるコアを形成した後、コアおよび溶媒を0.5〜1.5:1の重量比で混合し、1分〜60分間攪拌する工程で洗浄した後、脱水および乾燥工程を経た後、100℃〜700℃の温度範囲で2次熱処理するという製造工程により、「コアと同じ元素から構成され、立方晶系構造を含み、平均厚さは3nm〜60nmである「機能性層」とを含む「リチウム二次電池用正極活物質」が製造されると認められる。

(a−1−2)一方、甲1実施例6発明では、正極活物質は混合物を酸素雰囲気中、850℃で24時間焼成して得られた焼成物を水洗、濾過し、120℃で24時間真空乾燥して焼成物を得て、この焼成物を酸素雰囲気中、900℃で1時間焼成して製造されている。

(a−1−3)してみると、甲1実施例6発明の正極活物質の製造方法は、少なくとも「上記化学式1で表されるコアおよび溶媒を0.5〜1.5:1の重量比で混合し、1分〜60分間攪拌する工程で洗浄」する工程を有さない点で、本件明細書等のリチウム二次電池用正極活物質の製造方法とは異なるものである。

(a−1−4)また、本件明細書等の【0047】における「前記コア及び溶媒の混合比が前記範囲を外れる場合、例えば、溶媒を過量または少量用いる場合、適合した機能性層が形成されず、適切でない。」との記載を勘案すれば、上記「上記化学式1で表されるコアおよび溶媒を0.5〜1.5:1の重量比で混合し、1分〜60分間攪拌する工程で洗浄」する工程を有することは、本件発明1に規定された機能性層を有するリチウム二次電池用正極活物質の製造に不可欠なものと認められる。

(a−1−5)そのため、甲1実施例6発明の正極活物質の製造方法が、「上記化学式1で表されるコアおよび溶媒を0.5〜1.5:1の重量比で混合し、1分〜60分間攪拌する工程で洗浄」する工程を有さない点で本件明細書等のリチウム二次電池用正極活物質の製造方法と異なる以上、甲1実施例6発明が本件発明1に規定された、「コアの表面に位置」し、「コア」と「同じ元素から構成され」、「立方晶系構造を含み」、「平均厚さは3nm〜60nmであ」るという特性を満たす機能性層を有するとは直ちにいえない。
よって、相違点1−1−1は実質的な相違点である。

(a−2)次に、相違点1−1−1の容易想到性について検討する。
(a−2−1)上記第5の2に摘記した甲1の記載事項を参照しても、甲1実施例6発明における正極活物質の表面の領域、すなわち、本件発明1の「機能性層」に相当する領域を、本件発明1の「コア」に相当する正極活物質の中心部の領域と同じ元素から構成され、立方晶系構造を含み、平均厚さは3nm〜60nmとすることを示唆する記載は見当たらない。

(a−2−2)また、上記第5の2〜7に摘記した甲2〜甲6の記載事項を参照しても、甲1実施例6発明における正極活物質の表面の領域を、正極活物質の中心部の領域と同じ元素から構成され、立方晶系構造を含み、平均厚さは3nm〜60nmとすることを動機付けるような記載を見いだせない。

(a−2−3)さらに、上記第5の1に摘記した本件明細書等の【0031】における「機能性層」の「平均厚さ」を「3nm〜60nm」とすることができ、「機能性層の平均厚さが3nm以上の場合寿命特性が向上し、60nm以下の場合には、高い容量を有するリチウム二次電池を実現することができる」との記載を考慮すると、本件発明1が上記相違点1−1に係る特定事項を備えることにより、高容量および優れた寿命特性を有するリチウム二次電池用正極活物質を得られるとの効果が奏されると認められるところ、甲1実施例6発明や甲2〜甲6の記載事項からこのような効果を予測することは困難であるといえる。

(a−3)したがって、甲1実施例6発明において、上記相違点1−1−1に係る本件発明1の発明特定事項を得ることは、当業者が容易に想到し得たとはいえない。

(b)そうすると、上記相違点1−1−2、1−1−3について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1実施例6発明に基いて、あるいは、甲1実施例6発明と甲2〜6の記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(イ)甲1実施例7発明との対比
a 本件発明1と甲1実施例7発明とを対比する。

甲1実施例7発明の「組成式Li0.97Ni0.80Co0.15Al0.05O2を有する正極活物質」は、本件発明1の「下記の化学式1で表される化合物を含むコア」「を含」む「リチウム二次電池用正極活物質」と、「下記化学式1」を満たす「化合物」を含む「正極活物質」という点で共通する。
[化学式1]
LiaNixCoyMezO2
前記化学式1において、0.9≦a≦1.1、0.5≦x≦0.93、0<y≦0.3、0<z≦0.3、x+y+z=1であり、Meは、MnまたはAlである。

そうすると、本件発明1と甲1実施例7発明とは、

「下記化学式1で表される化合物を含む正極活物質。
[化学式1]
LiaNixCoyMezO2
前記化学式1において、0.9≦a≦1.1、0.5≦x≦0.93、0<y≦0.3、0<z≦0.3、x+y+z=1であり、Meは、MnまたはAlである。」

という点で一致し、以下の点で相違する。

(相違点1−2−1)
本件発明1は「コアの表面に位置」し、「コア」と「同じ元素から構成され」、「立方晶系構造を含み」、「平均厚さは3nm〜60nmであ」る「機能性層」を有するのに対し、甲1実施例7発明はそのような機能性層を有するのか否か不明である点。

(相違点1−2−2)
本件発明1は「六方晶系結晶構造または層状の六方晶系結晶構造を含」む「コア」を含むのに対し、甲1実施例7発明はそのようなコアを有するのか否か不明である点。

(相違点1−2−3)
本件発明1は「リチウム二次電池用正極活物質」が「100ppm〜400ppm範囲の硫黄を含む」のに対し、甲1実施例7発明はそのような濃度の硫黄を含むのか否か不明である点。

b 相違点についての検討
(a)事案に鑑みて、上記相違点1−2−1についてまず検討する。
(a−1)まず、相違点1−2−1が実質的な相違点であるかどうか検討する。
(a−1−1)本件明細書等の【0039】〜【0050】の記載によれば、混合物を1次熱処理して上記化学式1で表されるコアを形成した後、コアおよび溶媒を0.5〜1.5:1の重量比で混合し、1分〜60分間攪拌する工程で洗浄した後、脱水および乾燥工程を経た後、100℃〜700℃の温度範囲で2次熱処理するという製造工程により、「コアと同じ元素から構成され、立方晶系構造を含み、平均厚さは3nm〜60nmである「機能性層」とを含む「リチウム二次電池用正極活物質」が製造されると認められる。

(a−1−2)一方、甲1実施例7発明では、正極活物質は混合物を酸素雰囲気中、850℃で72時間焼成し、得られた焼成物を水洗、濾過し、120℃で24時間真空乾燥して焼成物を得て、この焼成物に水に加え、攪拌して、スラリーとし、このスラリーにアルミン酸ナトリウム(NaAlO2)をAl/(Ni+Co+Al)モル比が0.05となるように加えた後、6〜7のpHに中和し、濾過、水洗した後、120℃で乾燥し、この乾燥物を酸素雰囲気中、750℃で5時間焼成して製造されている。

(a−1−3)してみると、甲1実施例7発明の正極活物質の製造方法は、少なくとも「上記化学式1で表されるコアおよび溶媒を0.5〜1.5:1の重量比で混合し、1分〜60分間攪拌する工程で洗浄」する工程を有さない点で、本件明細書等のリチウム二次電池用正極活物質の製造方法とは異なるものである。

(a−1−4)また、本件明細書等の【0047】における「前記コア及び溶媒の混合比が前記範囲を外れる場合、例えば、溶媒を過量または少量用いる場合、適合した機能性層が形成されず、適切でない。」との記載を勘案すれば、上記「上記化学式1で表されるコアおよび溶媒を0.5〜1.5:1の重量比で混合し、1分〜60分間攪拌する工程で洗浄」する工程を有することは、本件発明1に規定された機能性層を有するリチウム二次電池用正極活物質の製造に不可欠なものと認められる。

(a−1−5)そのため、甲1実施例7発明の正極活物質の製造方法が、「上記化学式1で表されるコアおよび溶媒を0.5〜1.5:1の重量比で混合し、1分〜60分間攪拌する工程で洗浄」する工程を有さない点で本件明細書等のリチウム二次電池用正極活物質の製造方法と異なる以上、甲1実施例7発明が本件発明1に規定された、「コアの表面に位置」し、「コア」と「同じ元素から構成され」、「立方晶系構造を含み」、「平均厚さは3nm〜60nmであ」るという特性を満たす機能性層を有するとは直ちにいえない。
よって、相違点1−2−1は実質的な相違点である。

(a−2)次に、相違点1−2−1の容易想到性について検討する。
(a−2−1)上記第5の2に摘記した甲1の記載事項を参照しても、甲1実施例7発明における正極活物質の表面の領域、すなわち、本件発明1の「機能性層」に相当する領域を、本件発明1の「コア」に相当する正極活物質の中心部の領域と同じ元素から構成され、立方晶系構造を含み、平均厚さは3nm〜60nmとすることを示唆する記載は見当たらない。

(a−2−2)また、上記第5の2〜7に摘記した甲2〜甲6の記載事項を参照しても、甲1実施例7発明における正極活物質の表面の領域を、正極活物質の中心部の領域と同じ元素から構成され、立方晶系構造を含み、平均厚さは3nm〜60nmとすることを動機付けるような記載を見いだせない。

(a−2−3)さらに、上記第5の1に摘記した本件明細書等の【0031】における「機能性層」の「平均厚さ」を「3nm〜60nm」とすることができ、「機能性層の平均厚さが3nm以上の場合寿命特性が向上し、60nm以下の場合には、高い容量を有するリチウム二次電池を実現することができる」との記載を考慮すると、本件発明1が上記相違点1−2−1に係る特定事項を備えることにより、高容量および優れた寿命特性を有するリチウム二次電池用正極活物質を得られるとの効果が奏されると認められるところ、甲1実施例7発明や甲2〜甲6の記載事項からこのような効果を予測することは困難であるといえる。

(a−3)したがって、甲1実施例7発明において、上記相違点1−2−1に係る発明特定事項を備えようとすることは、当業者が容易に想到し得たとはいえない。

(b)そうすると、上記相違点1−2−2、1−2−3について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1実施例7発明に基いて、あるいは、甲1実施例7発明と甲2〜6の記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(ウ)本件発明1についての小括
したがって、本件発明1は、甲1に記載された発明に基いて、あるいは、甲1に記載された発明と甲2〜6の記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

ウ 本件発明2、4〜9について
本件発明2、4〜9に係るリチウム二次電池用正極活物質はいずれも、本件発明1に係るリチウム二次電池用正極活物質を更に技術的に特定するものであるが、上記イで述べたとおり、本件発明1が、甲1に記載された発明に基いて、あるいは、甲1に記載された発明と甲2〜甲6の記載事項に基いて、当業者が容易に発明することができたものとはいえない以上、本件発明2、4〜9についても同様に、甲1に記載された発明に基いて、あるいは、甲1に記載された発明と甲2〜甲6の記載事項に基いて、当業者が容易に発明することができたものとはいえない。

エ 本件発明10について
本件発明10は、本件発明1に係るリチウム二次電池用正極活物質を引用して、リチウム二次電池を特定するものである。そのため、上記イで検討したとおり、本件発明10と甲1実施例6発明とは少なくとも上記イ(ア)aの相違点1−1−1で相違する。また、本件発明10と甲1実施例7発明とは少なくとも上記イ(イ)aの相違点1−2−1で相違する。そして、相違点1−1−1、1−2−1の検討はそれぞれ上記イ(ア)b、イ(イ)bに記載したとおりである。
したがって、本件発明10は、甲1に記載された発明に基いて、あるいは、甲1に記載された発明と甲2〜甲6の記載事項に基いて、当業者が容易に発明することができたものとはいえない。

オ 申立理由1についてのまとめ
以上のとおりであるから、本件発明1、2、4〜10は、甲1に記載された発明に基いて、あるいは、甲1に記載された発明と甲2〜甲6の記載事項に基いて、当業者が容易に発明することができたものとはいえない。

(2)申立理由2について
ア 令和 2年 7月30日付けの手続補正の適否について
本件明細書の段落【0091】には、「正極活物質コアと水を1:0.75(約1.33:1)の重量比で混合した後、10分程度攪拌して洗浄工程を行った後、脱水および乾燥工程を経た後、700℃で熱処理して上記コアの表面に5nm厚さの結晶化された機能性層が形成された正極活物質を製造した」ことが記載されている。そして、当該記載によれば「機能性層」は「コア」から形成されるから、「コア」及び「機能性層」が同じ元素から構成されることは明らかである。
よって、上記補正は、当初明細書等に記載した事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものとはいえない。

イ 申立人の主張について
申立人は、特許異議申立書の第33ページ第15〜20行において、「本件特許明細書の実施例では、機能性層を構成する物質が何であるか、結晶構造の変化以外について何ら検討がなされていない。よって、当業者の技術常識によれば、コアの表面の洗浄によって、当該表面から特定の元素が欠落して、結晶構造の変化がもたらされている可能性があり、機能性層がコアから形成されているとはいえ、コア及び機能性層が同じ元素から構成されることまでが自明であると言うことはできない。」と主張している。
しかしながら、申立人は「コアの表面の洗浄によって、当該表面から特定の元素が欠落して、結晶構造の変化がもたらされている」とする具体的な根拠を示しておらず、また当業者の技術常識を勘案すれば、コア表面の洗浄によって当該表面から特定の元素の量が減少しうるとしても、特定の元素がすべて欠落するとまではいえないから、コアの表面の洗浄によってもコアと機能性層を構成する元素は変化しないと認められる。
よって、上記の補正は新たな技術的事項を導入するものであるとはいえず、申立人の上記主張は採用できない。

ウ まとめ
以上のとおり、令和 2年 7月30日付けの手続補正は、当初明細書等に記載した事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものとはいえない。
したがって、申立理由2によっては、本件発明1、2、4〜10に係る特許が、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない補正をした特許出願に対してされたものとはいえない。

(3)申立理由3−2、3−3について
申立人は、特許異議申立書の第34ページ第14〜17、21〜25行において、「特許明細書では、機能性層は、立方晶系構造のみ、立方晶系構造+六方晶系構造、あるいはこれらの両方のみが開示されているため、これら以外の構造を含む場合、本件特許発明4は、発明の詳細な説明に記載されたものとは認められない。」「一方、当該「少なくとも1種の結晶構造」がコアを構成する「六方晶系構造あるいは層状の六方晶系構造」と異なる結晶構造を1種以上含む構成については何らの開示も示唆もない。第2層についても「立方晶系構造のみ」からなる場合以外については、明細書に何らの開示も示唆もない。」と主張している。
しかしながら、請求項4、5はいずれも請求項1を直接又は間接的に引用するものであるから、本件発明4、5に係るリチウム二次電池用正極活物質はいずれも、本件発明1に係る発明特定事項を全て備えている。よって、上記1(1)にて検討したことと同様に、本件発明4、5も本件課題を解決できることは明らかである。
したがって、申立理由3−2、3−3によっては、本件発明4、5に係る特許が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものとはいえない。請求項4又は請求項5を直接又は間接的に引用する本件特許6〜8、10についても同様である。

(4)申立理由4−1について
上記第3のとおり、本件発明4は「前記機能性層は、前記コアの結晶構造と異なる1種の結晶構造のみを含む層を含む」ものである。
一方、本件発明4にて引用する請求項1には「前記コアは、六方晶系結晶構造または層状の六方晶系結晶構造」を含み、前記機能性層は、立方晶系構造を含み」と記載されているから、本件発明の詳細な説明の【0014】の「ある部分がある構成要素を「含む」というとき、これは特に反対になる記載がない限り、他の構成要素を除くのではなく他の構成要素をさらに含むことができるのを意味する」との記載も考慮すれば、上記「機能性層」は「立方晶系構造を含」むことと「前記コアの結晶構造と異なる1種の結晶構造のみを含む層を含む」ことの両方を満たすものであるとして、本件発明4を明確に把握することができる。
したがって、申立理由4−1によっては、本件発明4に係る特許が、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものとはいえない。請求項4を引用する本件特許10についても同様である。

(5)申立理由4−2について
上記第3のとおり、本件発明5は「前記機能性層は、前記立方晶系構造及び少なくとも1種の結晶構造を含む第1層と、前記立方晶系構造を含む第2層とを含む」ものである。
一方、本件発明5にて引用する請求項1には「前記コアは、六方晶系結晶構造または層状の六方晶系結晶構造」を含み、前記機能性層は、立方晶系構造を含み」と記載されているから、本件発明の詳細な説明の【0014】の「ある部分がある構成要素を「含む」というとき、これは特に反対になる記載がない限り、他の構成要素を除くのではなく他の構成要素をさらに含むことができるのを意味する」との記載も考慮すれば、上記「機能性層」は「立方晶系構造を含」むことと「前記立方晶系構造及び少なくとも1種の結晶構造を含む第1層と、前記立方晶系構造を含む第2層とを含む」ことの両方を満たすものであるとして、本件発明5を明確に把握することができる。
したがって、申立理由4−2によっては、本件発明5に係る特許が、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものとはいえない。請求項5を直接又は間接的に引用する本件特許6〜8、10についても同様である。

3 むずび
以上のとおりであるから、当審の取消理由及び異議申立理由によっては、本件請求項1、2、4〜10に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1、2、4〜10に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
そして、本件訂正によって特許異議の申立てがされた請求項3は削除され、特許異議の申立ての対象となる請求項3は存在しないものとなったから、請求項3に係る特許異議の申立ては、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定によって却下すべきものである。
よって、結論のとおり決定する。

 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の化学式1で表される化合物を含むコアと、
前記コアの表面に位置する機能性層と、
を含み、
前記コア及び前記機能性層は同じ元素から構成され、
前記コアは、六方晶系結晶構造または層状の六方性結晶構造を含み、前記機能性層は、立方晶系構造を含む、リチウム二次電池用正極活物質であって、
前記リチウム二次電池用正極活物質は100ppm〜400ppm範囲の硫黄を含み、
前記機能性層の平均厚さは3nm〜60nmである、リチウム二次電池用正極活物質。
[化学式1]
LiaNixCoyMezO2
前記化学式1において、0.9≦a≦1.1、0.5≦x≦0.93、0<y≦0.3、0<z≦0.3、x+y+z=1であり、Meは、MnまたはAlである。
【請求項2】
前記リチウム二次電池用正極活物質は100ppm〜200ppm範囲の硫黄を含む、請求項1に記載のリチウム二次電池用正極活物質。
【請求項3】(削除)
【請求項4】
前記機能性層は、前記コアの結晶構造と異なる1種の結晶構造のみを含む層を含むものである、請求項1に記載のリチウム二次電池用正極活物質。
【請求項5】
前記機能性層は、
前記立方晶系構造及び少なくとも1種の結晶構造を含む第1層と、前記立方晶系構造を含む第2層とを含む、請求項1に記載のリチウム二次電池用正極活物質。
【請求項6】
前記第1層の平均厚さは、
前記機能性層の平均厚さを基準に、2%〜20%範囲である、請求項5に記載のリチウム二次電池用正極活物質。
【請求項7】
前記第1層は前記コア表面に位置し、
前記第2層は前記第1層の表面に位置する、請求項5に記載のリチウム二次電池用正極活物質。
【請求項8】
前記第1層は、立方晶系構造と六方晶系構造とが混合された構造を含む、請求項5に記載のリチウム二次電池用正極活物質。
【請求項9】
前記化学式1において、xは下記式1の範囲を満足する、請求項1に記載のリチウム二次電池用正極活物質。
[式1]
0.7≦x≦0.93
【請求項10】
請求項1、2及び4乃至8のいずれか1項に記載の正極活物質を含む正極と、
負極活物質を含む負極と、
電解質と、
を含む、リチウム二次電池。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照
異議決定日 2022-04-11 
出願番号 P2018-138314
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (H01M)
P 1 651・ 537- YAA (H01M)
P 1 651・ 55- YAA (H01M)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 平塚 政宏
特許庁審判官 境 周一
土屋 知久
登録日 2020-12-08 
登録番号 6806739
権利者 三星エスディアイ株式会社
発明の名称 リチウム二次電池用正極活物質およびこれを含むリチウム二次電池  
代理人 村山 靖彦  
代理人 阿部 達彦  
代理人 村山 靖彦  
代理人 阿部 達彦  

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