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審決分類 審判 全部申し立て ただし書き3号明りょうでない記載の釈明  B66B
審判 全部申し立て ただし書き1号特許請求の範囲の減縮  B66B
審判 全部申し立て 2項進歩性  B66B
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  B66B
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  B66B
管理番号 1386138
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-07-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 2021-08-10 
確定日 2022-04-11 
異議申立件数
訂正明細書 true 
事件の表示 特許第6841372号発明「エレベータ用操作装置、及び該エレベータ用操作装置を備えるエレベータ」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6841372号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1〜7〕について訂正することを認める。 特許第6841372号の請求項2ないし7に係る特許を維持する。 特許第6841372号の請求項1に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6841372号の請求項1〜7に係る特許についての出願は、令和2年9月3日に出願され、令和3年2月22日にその特許権の設定登録がされ、令和3年3月10日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許について、令和3年8月10日に特許異議申立人IDEC株式会社(以下、「異議申立人A」という。)により、また、令和3年8月27日に特許異議申立人武田早代子(以下、「異議申立人B」という。)により特許異議の申立てがされ、当審は、令和3年10月29日付けで取消理由を通知した。特許権者(フジテック株式会社)は、その指定期間内である令和3年12月23日に意見書の提出及び訂正の請求を行い、その訂正の請求(以下、「本件訂正請求」という。)に対して、異議申立人Aは、令和4年2月4日付けで、異議申立人Bは、令和4年2月7日付けで意見書を提出した。

第2 訂正の適否についての判断
1 訂正の内容
本件訂正請求による訂正の内容は、以下のとおりである(下線は訂正箇所である。)。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1を削除する。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2に、
「前記検知手段は、」と記載されているのを、
「可動する押しボタンと、
前記押しボタンを可動させる可動機構と、
前記押しボタンの作動に伴って操作されるスイッチ本体と、を備え、
前記押しボタンの裏面に対向し、且つ前記押しボタンの作動によって可動しない位置に、前記押しボタンから離間した所定位置に利用客の指先が到達したことを検知する非接触式の検知手段を備え、
前記スイッチ本体の操作又は前記検知手段の検知のいずれかによってエレベータの登録操作が可能な
エレベータ用操作装置であって、
前記押しボタンは、表面に、凸文字又は凸マークである表示部を備え、
前記検知手段は、」
に訂正する(請求項2の記載を直接的又は間接的に引用する請求項3〜7も同様に訂正する。)。
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項2に、
「前記押しボタンの表面から直交する方向に第1所定距離だけ離間した位置までの空間領域は利用客の指先が到達したことを検知せず、」
と記載されているのを、
「利用客の指先が前記押しボタンに接することによって前記検知手段が検知することを抑制するために、前記押しボタンの表面から直交する方向に第1所定距離だけ離間した位置までの空間領域は利用客の指先が到達したことを検知せず、」に訂正する(請求項2の記載を直接的又は間接的に引用する請求項3〜7も同様に訂正する。)。
(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項2に、
「前記押しボタンの表面から直交する方向に第1所定距離だけ離間した位置から前記押しボタンの表面から直交する方向に第2所定距離だけ離間した位置までの空間領域は利用客の指先が到達したことを検知する、
請求項1に記載のエレベータ用操作装置。」
と記載されているのを、
「前記押しボタンの表面から直交する方向に第1所定距離だけ離間した位置から前記押しボタンの表面から直交する方向に第2所定距離だけ離間した位置までの空間領域は利用客の指先が到達したことを検知する、
エレベータ用操作装置。」
に訂正する(請求項2の記載を直接的又は間接的に引用する請求項3〜7も同様に訂正する。)。
(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項3に、
「前記検知手段が光電センサである
請求項1又は2に記載のエレベータ用操作装置。」
と記載されているのを、
「前記検知手段が光電センサである
請求項2に記載のエレベータ用操作装置。」
に訂正する(請求項3の記載を直接的又は間接的に引用する請求項4〜7も同様に訂正する。)。
(6)訂正事項6
特許請求の範囲の請求項5に、
「前記スイッチ本体と前記検知手段が並列に接続される
請求項1乃至4のいずれか1項に記載のエレベータ用操作装置。」
と記載されているのを、
「前記スイッチ本体と前記検知手段が並列に接続される
請求項2乃至4のいずれか1項に記載のエレベータ用操作装置。」
に訂正する(請求項5の記載を直接的又は間接的に引用する請求項6及び7も同様に訂正する。)。
(7)訂正事項7
特許請求の範囲の請求項6に、
「前記所定位置は、前記押しボタンの水平方向投影面内の所定位置である
請求項1乃至5のいずれか1項に記載のエレベータ用操作装置。」
と記載されているのを、
「前記所定位置は、前記押しボタンの水平方向投影面内の所定位置である
請求項2乃至5のいずれか1項に記載のエレベータ用操作装置。」
に訂正する(請求項6の記載を引用する請求項7も同様に訂正する。)。
(8)訂正事項8
特許請求の範囲の請求項7に、
「請求項1乃至6に記載のエレベータ用操作装置。」
と記載されているのを、
「請求項2乃至6に記載のエレベータ用操作装置。」
に訂正する。

訂正前の請求項1〜7について、請求項2〜7は、請求項1を直接的又は間接的に引用しているものであるから、本件訂正請求は、一群の請求項〔1〜7〕に対して請求されたものである。

2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1について
訂正事項1は、請求項1を削除するというものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるといえる。
訂正事項1は、請求項1を削除するというものであるから、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。
(2)訂正事項2について
ア 訂正事項2のうち、「可動する押しボタンと、前記押しボタンを可動させる可動機構と、前記押しボタンの作動に伴って操作されるスイッチ本体と、を備え、前記押しボタンの裏面に対向し、且つ前記押しボタンの作動によって可動しない位置に、前記押しボタンから離間した所定位置に利用客の指先が到達したことを検知する非接触式の検知手段を備え、前記スイッチ本体の操作又は前記検知手段の検知のいずれかによってエレベータの登録操作が可能なエレベータ用操作装置であって、」を追加する訂正は、訂正事項1によって請求項1が削除されたことに伴って、請求項1の記載を引用する請求項2の記載を当該請求項1の記載を引用しないものとすることを目的とするものであるといえ、また、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、さらに、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。
イ 訂正事項2のうち、「前記押しボタンは、表面に、凸文字又は凸マークである表示部を備え、」を追加する訂正は、訂正前の請求項1の「押しボタン」について、発明特定事項を追加し限定するための訂正であり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるといえる。
かかる追加された発明特定事項は、願書に最初に添付した明細書の段落【0025】の「押しボタン13の表面には、・・・表示部22が設けられている。」との記載、及び段落【0056】の「表示部22は、凸文字(マーク)であっても良い。」との記載に基づくものであるから、訂正事項2は、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。
また、かかる発明特定事項の追加により、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、訂正事項2は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。
(3)訂正事項3について
訂正事項3は、請求項2の「検知手段」の検知の構成を「利用客の指先が前記押しボタンに接することによって前記検知手段が検知することを抑制するため」の構成に限定するものであるといえるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるといえる。
訂正事項3は、願書に最初に添付した明細書の段落【0036】の記載に基づくものであるから、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。
また、訂正事項3により、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、訂正事項3は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。
(4)訂正事項4
訂正事項4は、訂正事項1によって請求項1が削除されたことに伴って、請求項1の記載を引用する請求項2の記載を当該請求項1の記載を引用しないものとすることを目的とするものであるといえ、また、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、さらに、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。
(5)訂正事項5〜8
訂正事項5〜8は、訂正前の請求項3及び5〜7が、請求項1の記載を引用するものであったところ、訂正事項1によって請求項1が削除されたことに伴い、請求項1の記載を引用しないものとし、引用する請求項の数を減少させるものといえるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものといえる。
訂正事項5〜8は、引用する請求項の数を減少させるものであるから、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。
(6)小括
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、本件特許の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1〜7〕について訂正することを認める。

第3 訂正後の本件発明
本件訂正請求により訂正された特許請求の範囲の請求項2〜7に係る発明(以下、それぞれ「本件発明2」〜「本件発明7」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項2〜7に記載された事項により特定される次のとおりのものである(なお、本件訂正請求による訂正によって請求項1は削除された。)。

[本件発明2]
「可動する押しボタンと、
前記押しボタンを可動させる可動機構と、
前記押しボタンの作動に伴って操作されるスイッチ本体と、を備え、
前記押しボタンの裏面に対向し、且つ前記押しボタンの作動によって可動しない位置に、前記押しボタンから離間した所定位置に利用客の指先が到達したことを検知する非接触式の検知手段を備え、
前記スイッチ本体の操作又は前記検知手段の検知のいずれかによってエレベータの登録操作が可能な
エレベータ用操作装置であって、
前記押しボタンは、表面に、凸文字又は凸マークである表示部を備え、
前記検知手段は、
利用客の指先が前記押しボタンに接することによって前記検知手段が検知することを抑制するために、前記押しボタンの表面から直交する方向に第1所定距離だけ離間した位置までの空間領域は利用客の指先が到達したことを検知せず、
前記押しボタンの表面から直交する方向に第1所定距離だけ離間した位置から前記押しボタンの表面から直交する方向に第2所定距離だけ離間した位置までの空間領域は利用客の指先が到達したことを検知する、
エレベータ用操作装置。」
[本件発明3]
「前記検知手段が光電センサである
請求項2に記載のエレベータ用操作装置。」
[本件発明4]
「前記押しボタンの表面全体又は一部は、前記光電センサから照射された光を透過する
請求項3に記載のエレベータ用操作装置。」
[本件発明5]
「前記スイッチ本体と前記検知手段が並列に接続される
請求項2乃至4のいずれか1項に記載のエレベータ用操作装置。」
[本件発明6]
「前記所定位置は、前記押しボタンの水平方向投影面内の所定位置である
請求項2乃至5のいずれか1項に記載のエレベータ用操作装置。」
[本件発明7]
「請求項2乃至6に記載のエレベータ用操作装置を備える
エレベータ。」

第4 取消理由通知に記載した取消理由について
1 取消理由の概要
訂正前の請求項1〜7に係る特許に対して、当審が令和3年10月29日付けで特許権者に通知した取消理由の概要は次のとおりである。

1)(新規性)本件特許の請求項1及び3〜7に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された次の刊行物に記載された発明又は電気通信回路を通じて公衆に利用可能となった発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、請求項1及び3〜7に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。
2)(進歩性)本件特許の請求項1〜7に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された次の刊行物に記載された発明又は電気通信回路を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1〜7に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

○刊行物
引用文献1:中国特許出願公開第111362083号明細書
引用文献2:特開昭49−120175号公報
引用文献3:特開2013−124166号公報
引用文献4:特開2015−151253号公報
引用文献5:特開2018−101555号公報
引用文献1及び2は、それぞれ、異議申立人Aの提出した甲第1及び2号証である。また、引用文献3〜5は、それぞれ、異議申立人Bの提出した甲第1〜3号証である。

2 各引用文献及び甲号証に記載の事項等
(1)引用文献1
引用文献1には次の記載がある(訳は、異議申立人Aが提出した訳を元に当審で訳したものである。また、下線は当審で付したものである。)。



訳「[0029]図1は、非接触式エレベーターの構造の概略図である。図1に示すように、非接触式エレベーターはエレベーター制御システム10、駆動モーター20及び複数の非接触式外部呼び出しパネル30を含む。非接触式外部呼び出しパネル30は複数あり、それぞれ各階のエレベーター乗り場付近に設置されるとともに、バスによって前記エレベータ制御システム10に接続する。エレベーター制御システム10は、駆動モーター20に接続し、駆動モーター20の回転速度、方向転換などを制御することで、かごの上昇、下降及び停止位置などを制御するために用いられる。利用者がエレベーターに乗る必要がある時は、非接触式外部呼び出しパネル30を介してエレベーター呼び出し指令を入力し、エレベーター制御システム10が駆動モーター20の運転を制御し、かごが当該エレベーター呼び出し指令に応答出来るようにする。」




訳「[0033]前記ボタンハウジング336は円環状を呈し、前記ボタンハウジング336の一方の端面の内側にねじ山を設け、ねじ山による取付板35への接続に用い、もう一方の端面(取付板35に対向する端面)に減径口を設け、取付板35から離れる方向に沿って端面の断面を少しずつ縮小させる。このようにして、前記パネル337を前記ボタンハウジング336のもう一方の端面にはめ込むとともに、ボタンハウジング336、取付板35と密閉されたキャビティを形成することができる。
[0034]前記回路基板333は、おおむね平板状を呈し、パネル337、ボタンハウジング336、取付板35が形成する密閉されたキャビティ内に設けられ、前記パネル337と平行になる。回路基板333はプリント配線板333、フレキシブルプリント基板333などとすることができ、その上に電子部品が実装され、さらに信号伝達又は電力供給のため、電子部品間が導電性の金属によって接続される。本実施形態において、回路基板333には2in1センサー334、ボタンスイッチ332及び4つの発光器335が設けられている。2in1センサー334には、赤外線接近センサー331と環境照度センサー(不図示)が集積されている。前記赤外線接近センサー331は、前記パネル337の透光部3372を経て光線を透過することで、検出物によって作動される。一部の実施形態において、赤外線接近センサー331は100mm範囲内の物体の検出を行うことができ、明るい環境から暗い環境まで、接近検出機能はいずれも好適に働く。環境照度センサーは、フォトダイオードを使用し、0.01lux照度下の低ルーメン性能の人の目の視覚反応に近似させることが望ましく、環境光照度の検出に用い、高感度の検出能力を提供することで、2in1センサー334が暗色の透光部3372の後方で動作できるようにする。これにより透光部3372はほぼ視認できず、パネル337の美観が向上する。
[0035]前記ボタンスイッチ332は、軽接触式ボタンスイッチ又は軽接触スイッチとも呼ばれ、使用時は操作力を満足する条件でスイッチ操作方向に圧力をかけるとスイッチ機能がオンになり、圧力をかけなくなるとスイッチは直ちに切れる。その内部構造は金属弾性片の応力変化によってオン/オフを実現する。ボタンスイッチ332のピンは回路基板333に接続するとともに、前記パネル337の方を向き、前記パネル337は力を受けて押されると、前記ボタンスイッチ332と接触して前記ボタンスイッチ332を作動させる。前記発光器35は、LED(発光ダイオード)であることが望ましく、前記赤外線接近センサー331又は前記ボタンスイッチ332が作動された時、前記パネル337のマーク3371を点灯する。本実施形態においては、誤判断を防ぐため、前記上りボタン33と下りボタン34が同時に作動されたとき、前記制御回路31が前記エレベーター制御システム10に上り指令が発せられたと判断することができる。本実施形態においては、上りボタン33又は下りボタン34について、ボタンスイッチ332と赤外線接近センサー331が制御装置311に並列接続するため、上りボタン33のボタンスイッチ332と赤外線接近センサー331の1つが作動されると、上り指令を直ちに発動する。同じ原理により、下りボタン34のボタンスイッチと赤外線接近センサーの1つが作動されると、下り指令を直ちに発動する。
[0036]上述の非接触式エレベーターのボタンは、既存のエレベーターの操作ボタン(上りボタン33又は下りボタン34)と簡単に置き換えることができ、既存の外部呼び出しパネルの構造を変更する必要がない。取り付ける時は、既存の操作ボタンのハウジング336を開け、エレベーターのボタンを取り外し、元々エレベーターボタンに接続していた接続線を制御回路31に接続する。
[0037]使用時、利用者はパネル337から5cmの空間範囲内で非接触式外部呼び出しパネル30を感応作動させるか、ジェスチャーでボタン指令を発動させることができる。手の指がエレベーター呼び出しパネル337のあらかじめ設定した距離に近づくと、赤外線接近センサー331が外部照度と人体の赤外線反射の信号をリアルタイムでモニタリングすることで、利用者の操作の意図を判断し、さらにセンサー内部アレイの画素が利用者の遠隔操作とジェスチャー操作などの動作をスマートに識別し、人間がボタンに直接接触することによる細菌感染を回避できる。
[0038]上述の非接触式外部呼び出しパネル30とエレベーターは、非接触式外部呼び出しパネル30の非接触式ボタンのパネル337に透光部3372を設け、回路基板333に赤外線接近センサー331を設け、赤外線接近センサー331が発する光線がパネル337の透光部3372を透過するようにすることで、検出物によって作動される。それにより利用者が手の指などの物体を非接触式ボタンに近づけると該非接触式ボタンが作動してエレベーター呼び出し指令を発することができ、非接触式エレベーターの利用を実現し、病原菌の交差感染の確率を下げる。」
「図3



引用文献1の記載より、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されているといえる。

[引用発明1]
「ボタンハウジング336と、
ボタンハウジング336の一方の端面にはめ込まれたパネル337と、
回路基板333とを含むエレベーターの上りボタン33であって、
回路基板333には赤外線接近センサー331と環境照度センサーが集積された2in1センサー334、ボタンスイッチ332および4つの発光器335が設けられ、
赤外線接近センサー331は、パネル337に設けられた透光部3372の後方に設けられ、赤外線接近センサー331が発する光線が透光部3372を透過するようにすることで、検出物によって作動され、
パネル337は力を受けて押されると、ボタンスイッチ332と接触してボタンスイッチ332を作動させ、
ボタンスイッチ332と赤外線接近センサー331は、その1つが作動されると上り指令を発動するように制御装置311に並列接続されている、
エレベーターの上りボタン33。」

(2)引用文献2
引用文献2には次の記載がある。
「このように構成された光学系において、発光ダイオードを用いた光源Aが光軸aを中心として指向角δの幅で赤外線を放射する。一方、受光器Bは光軸bを中心として指向角γの幅で受光感度を持つている。従つて、この放射領域と受光感度領域との交叉領域Eが感知領域となる。いま、前述したw〜zの任意の方向から感知領域Eに被検出物が侵入すると、光源Aより放射された赤外線は被検出物に反射した後にフイルタCを介して受光器Bに入射し、ここに於いて検出される。従つて、このような構成においては、感知領域Eに被検出物が侵入した場合にはすべて検出することができ、また距離l,l’、角度θ、指向角δ,γを調整することにより、感知領域Eを自由に変化させることができる。」(第2頁右上欄第14行〜左下欄第8行)

(3)引用文献3
引用文献3には次の記載がある(下線は当審で付したものである。)。
「【0002】
エレベータの乗場には、乗場呼び登録を行なうための乗場呼び操作部が設置されている。また、エレベータの乗りかご内には、行き先階登録やドアの開閉を行なうためのかご内操作部が設置されている。なお、これらの操作部には、タッチ式又は押し込み式のボタンが用いられている(例えば、特許文献1参照)。」
「【0005】
本発明の目的は、指先等で触れることなく操作可能な非接触式操作部を備えたエレベータを提供することである。そして、当該エレベータにおいて、誤操作を十分に防止する手段を提供する。」
「【0011】
本発明によれば、乗場呼び操作部及び/又はかご内操作部を非接触式操作部としたことにより、利用者はそれらの操作部に触れることなく目的とする操作を行うことが可能となり、衛生面に優れたエレベータを提供することができる。そして、非接触の操作を可能としながら、誤操作を十分に防止することができる。」
「【0015】
図1〜図3に、エレベータ10を示す。
エレベータ10は、昇降路内において、乗りかご11が各階床に設置された乗場の間を昇降する昇降機構部と、その動作を制御する制御装置30とで構成されている。昇降路は、建造物内等に鉛直方向に貫通して設けられた乗りかご11の通路である。昇降路の上には、例えば、乗りかご11を昇降させる巻き上げ機や制御装置30が配置された機械室が設けられる。」
「【0017】
乗りかご11は、さらに、かご内操作盤20を備える。かご内操作盤20は、行き先階を登録する行き先階操作部21、かごドア12を開閉操作するドア開閉操作部22、乗りかご11の移動方向等を表示するインジケータ27、及び外部との連絡手段であるインターホン28などを有する。かご内操作盤20は、制御装置30に接続されており、その操作信号は制御装置30に送信される。
【0018】
かご内操作盤20に搭載されたかご内操作部である行き先階操作部21及びドア開閉操作部22は、いずれも非接触式操作部である。非接触式操作部は、操作部に手を触れることなく、例えば、その近傍に手をかざすことで操作可能な操作部である。本実施形態では、非接触式操作部として、赤外線を用いる光電センサ23を例示する。但し、非接触式操作部は、これに限定されず、例えば、静電容量センサとしてもよい。
【0019】
図2に例示する行き先階操作部21の各々は、光電センサ23と、表示部26とを有する非接触式操作部である。表示部26は、正面視略四角形状を呈し、その中央部に階を示す数字が形成されている。また、表示部26の裏側には、LED等の照明が内蔵されており、表示部26の周縁部は、行き先登録がなされたときに点灯する。
【0020】
表示部26は、例えば、押し込み式のボタンとしても機能する。つまり、図2に例示する行き先階操作部21は、その近傍に手をかざすことで操作可能であり、且つ表示部26を押して操作することも可能である。なお、ドア開閉操作部22は、サイズがやや大きい点を除き、行き先階操作部21と同様の構成を有する。
【0021】
光電センサ23は、一対の投光器24及び受光器25を含んで構成されている。光電センサ23は、投光器24から出た赤外線が対となる受光器25に入射する、又は投光器24から対となる受光器25に入射していた赤外線が遮断される、即ち、受光器25に赤外線が入射しなくなることにより操作信号を出力する。なお、検出感度等の観点から前者の方式が好ましい。一対の投光器24及び受光器25は、表示部26の周囲に配置されることが好適であり、例えば、表示部26の周縁部のうち左右両側の上下方向中央部に配置される。」
「【0023】
図4及び図5は、それぞれ、図3に示すかご内操作盤20を上方(矢印Aの方向)から見た図、側方(矢印Bの方向)から見た図である。
投光器24は、例えば、表示部26から所定距離離れた前方を赤外線が通過し、且つ受光器25と反対方向には赤外線が広がらないように、赤外線を出射することが好適である。所定距離としては、例えば、表示部26の前方10mm程度が好ましい。また、上下方向に対する赤外線の広がりは、例えば、表示部26の前方10mmの位置において、表示部26の上下方向長さの範囲内であることが好ましい。
【0024】
光電センサ23は、投光器24と受光器25との間において、表示部26の前方10mm〜30mm程度の範囲で、指100等の対象物を検知可能な設定とすることが好ましい。光電センサ23により検知される対象物は、赤外線を反射する物であれば特に限定されないが、以下では指100を例示する。図4及び図5では、指100の検知範囲Zを網目ハッチングで示している。光電センサ23では、検知範囲Zに指100がある場合に、投光器24から出射された赤外線が指100にあたって反射し、受光器25に入射するように構成されている。このような構成は、投光器24、受光器25の向きや配置などを調整することにより実現できる。例えば、検知範囲Zから外れた位置で指100に赤外線があたる場合には、受光器25は、当該反射光が入射しないように受光方向が調整される。」
「【0029】
強度判定手段32は、行き先階操作部21及びドア開閉操作部22の操作により出力される操作信号の信号強度が閾値強度以上である場合に、当該操作信号に対応する制御を実行する。強度判定手段32は、操作信号を閾値時間以上継続して取得したときに、さらに当該操作信号の信号強度と閾値強度とを比較して制御の実行条件を限定する。信号強度は、例えば、検知範囲Zの中心から外れるほど小さくなる傾向にあり、これにより、指100が目的としない検知範囲Zの端を通るような場合に発生する誤操作を防止する。」
「【図1】〜【図5】



(4)引用文献4
引用文献4には次の記載がある。
「【0001】
この発明は、エレベータの操作盤装置に関するものである。」
「【0014】
かご内操作盤20の行先階ボタン21部分について、図2及び図3を参照しながら説明する。各操作ボタン(行先階ボタン21)には、センサが設けられている。センサは、1つの操作ボタン(行先階ボタン21)につき2以上の所定の個数ずつが対応して設けられている。ここでは、前記所定の個数は4である場合を例に挙げて説明する。すなわち、1つの行先階ボタン21につき、第1のセンサ30a、第2のセンサ30b、第3のセンサ30c及び第4のセンサ30dの4つのセンサが設けられる。
【0015】
これら4つのセンサは、1つの操作ボタン(行先階ボタン21)につき当該操作ボタンの操作面部の中心から見て上下左右にそれぞれ1個ずつ配置される。すなわち、第1のセンサ30aは行先階ボタン21の操作面部の中心から見て上側に配置される。第2のセンサ30bは行先階ボタン21の操作面部の中心から見て向かって右側に配置される。第3のセンサ30cは行先階ボタン21の操作面部の中心から見て下側に配置される。そして、第4のセンサ30dは行先階ボタン21の操作面部の中心から見て向かって左側に配置される。
【0016】
これらの4つのセンサは、対応する行先階ボタン21の操作面部の内側に配置されてもよいし、操作面部の外側に配置されてもよい。ここで説明する図2及び図3に示す例では、4つのセンサは行先階ボタン21の操作面部の内側に配置されている。具体的には、第1のセンサ30aは行先階ボタン21の操作面部の上辺の内側に配置されている。第2のセンサ30bは行先階ボタン21の操作面部の右辺の内側に配置されている。第3のセンサ30cは行先階ボタン21の操作面部の下辺の内側に配置されている。そして、第4のセンサ30dは行先階ボタン21の操作面部の左辺の内側に配置されている。
【0017】
これらのセンサ(第1のセンサ30a、第2のセンサ30b、第3のセンサ30c及び第4のセンサ30d)のそれぞれは、直線状の検出軸上の物体の有無を非接触で検出する。具体的には、第1のセンサ30aは第1の検出軸31a上の物体の有無を非接触で検出する。第2のセンサ30bは第2の検出軸31b上の物体の有無を非接触で検出する。第3のセンサ30cは第3の検出軸31c上の物体の有無を非接触で検出する。そして、第4のセンサ30dは第4の検出軸31d上の物体の有無を非接触で検出する。
【0018】
このようなセンサは、例えばミリ波レーダを用いることにより実装することができる。ミリ波レーダとは波長1〜10mm(周波数約30〜300GHz)の電磁波を射出し、射出した電磁波が検出軸上の物体により反射された反射波を検知することで、検出軸上の物体の有無を検出するものである。
【0019】
1つの操作ボタン(行先階ボタン21)に対応する前記所定の個数(4つ)のセンサの全ての検出軸同士は、空間上の同じ1点において互いに交差するように配置されている。すなわち、第1の検出軸31a、第2の検出軸31b、第3の検出軸31c及び第4の検出軸31dは、空間上の同じ1点である交差点32において互いに交差している。
【0020】
この交差点32は、正面視において当該行先階ボタン21の操作面部の内側に位置している。さらに言えば、この交差点32は、正面視において当該行先階ボタン21の操作面部の中心と重なって配置される。なお、当該行先階ボタン21の操作面部から交差点32までの距離は、30mm〜50mm程度、好ましくは40mm前後に設定される。
【0021】
それぞれの操作ボタン(行先階ボタン21)の各センサ(第1のセンサ30a、第2のセンサ30b、第3のセンサ30c及び第4のセンサ30d)による物体の検出信号は、判定部51に入力される。判定部51は、1つの操作ボタン(行先階ボタン21)に対応する前記所定の個数(ここでは4つ)のセンサの全てが同時に検出軸上に物体を検出した場合に、当該操作ボタンについて操作検出状態にあると判定する。」
「【0047】
さらにまた、操作ボタンは、操作面部に直接に接触する操作を受け付けるものであっても受け付けないものであってもよい。操作面部に直接接触する操作を受け付ける場合には、通常の接触式ボタンの構成・動作(例えば押しボタン等)を適用して実装することが可能である。このような通常の接触式ボタンの機能を兼ね備える場合、ボタンへの接触による操作の方を非接触による操作よりも優先させることが好ましい。」
「【図2】


「【図3】



(5)引用文献5
引用文献5には次の記載がある。
「【0002】
エレベータのかご内や乗場には押しボタン装置が設置されている。このような押しボタン装置は、エレベータに限られず、プラントの制御装置、カメラ等、種々の装置の入力部分に使用されている。」
「【0013】
また、図2の断面図に示すように、押しボタン装置2の裏面側には、ボタントップ8の裏面に取り付けられたスライドプレート10と、押しボタン装置2の本体フレーム12と、本体フレーム12を裏面から補強する補強板14と、ボタントップの裏面と補強板14との間に介在された弾性部材(バネ部材)16とを備えている。また、ボタントップの裏面側の略中央に設けられた作動桿18と、補強板14に取り付けられたスイッチ部20と、スイッチ部20の接点22と、補強板14に取り付けられたランプ24と、弾性部材16と補強板14側の本体フレーム12との間に設けられ、ボタントップ8の押圧操作がされた際にその押圧力を検出する感圧センサ26と、“セリ”発生時に振動して“セリ”を復帰させる振動装置28とが設けられている。」
「【図2】



(6)異議申立人Bの提出した甲第4号証
異議申立人Bの提出した甲第4号証(特開2019−142686号公報)には、次の記載がある。
「【0001】
本発明は、エレベータに関し、特に、非接触式操作盤を備えたエレベータに関する。
【0008】
上記した課題に鑑み、本発明は、上記のような状況になっても、乗客が意図せぬ行先階の過誤登録を防ぐことができるエレベータを提供することを目的とする。
【0009】
上記の目的を達成するため、本発明に係るエレベータは、昇降路を移動するかごの行先階を決定する操作を非接触で検出する複数のセンサを有する非接触式操作盤と、前記操作を検出するための検出条件に基づいて、前記行先階を登録するか否かを制御する制御装置と、を備え、前記制御装置は、前記複数のセンサのうちの前記行先階に対応する行先階センサが第1閾値時間まで継続して前記操作を検出すると当該行先階を登録し、さらに第2閾値時間まで継続して前記操作を検出したときには、その旨を報知する処理を実行し、前記登録を解除することを特徴とする。」
「【0021】
行先階操作部30は、長方形状をしたパネル部分34を含み、このパネル部分34の長手方向に間隔をあけて、センサ32A,32B,…32Cの各々が配設されている。パネル部分34には、センサ32A,32B,…32C各々の配置位置に矩形孔がそれぞれ開設されている。これらの矩形孔各々の奥側に上記反射型光電センサがそれぞれ格納され、透光性を有する保護プレート36A,36B,…36Cによって矩形孔の各々が覆われている。なお、保護プレート36A,36B,…36Cの各々には、乗客の操作を誘導するためのマークがそれぞれ施されている。」

(7)異議申立人Bの提出した甲第5号証
異議申立人Bの提出した甲第5号証(登録実用新案第3037379号公報)には、次の記載がある。
「【0001】
【産業上の利用分野】
本考案は、ボタンスイッチに関するものである。」
「【0014】
図5に示すボタンスイッチ31は、所要の筒状に形成したボタンケース32内に、投光部3と受光部4とを直径方向に対向するように設け、投光部3から放射される光がボタンケース2の内部を直径方向に通過して受光部4に受光されるようにした透過形スイッチを形成すると共に、ボタンケース32内の一端部に、指F等で押しボタン9を直接押すことによって作動するようにした押しボタンスイッチ10を併設したものである。これによれば、投光部3と受光部4とからなる透過形スイッチが故障したような場合には、指F等で押しボタン9を直接押すことによって、スイッチ31を作動させることができる。」
「【図5】



3 当審の判断
(1)本件発明2について
ア 対比
本件発明2と引用発明1とを対比する。
ア)引用発明1の「エレベーター」は、本件発明2の「エレベータ」に相当する。
イ)引用発明1の「ボタンハウジング336の一方の端面にはめ込まれたパネル337」は、「力を受けて押されると、ボタンスイッチ332と接触してボタンスイッチ332を作動させ」るものであるから、ボタンスイッチ332まで可動する押しボタンといえ、本件発明2の「可動する押しボタン」に相当する。また、引用発明1の「ボタンスイッチ332」は、パネル337の作動に伴って操作されるものといえるから、本件発明2の「スイッチ本体」に相当し、引用発明1の「パネル337は力を受けて押されると」、作動される「ボタンスイッチ332」は、本件発明2の「前記押しボタンの作動に伴って操作されるスイッチ本体」に相当する。
ウ)引用発明1の「赤外線接近センサー331」は、「赤外線接近センサー331が発する光線が透光部3372を透過するようにすることで、検出物によって作動され」るものであり、機能的にみて本件発明2の「非接触式の検知手段」に相当する。
引用発明1において、「検出物」は、エレベーターの利用客の体の一部(例えば、指先)のことを意味するといえるから(引用文献1の段落[0037]を参照。)、引用発明1の「赤外線接近センサー331が発する光線が透光部3372を透過するようにすることで、検出物によって作動され」ることは、パネル337から離間した利用客の指先が到達したことによって、赤外線接近センサー331が作動されることであり(引用文献1の段落[0034]の「赤外線接近センサー331は、100mm範囲内の物体の検出を行うことができ」との記載を参照。)、本件発明2の「前記押しボタンから離間した所定位置に利用客の指先が到達したことを検知する」ことに相当する。
エ)引用発明1の「赤外線接近センサー331」は、「パネル337に設けられた透光部3372の後方に設けられ」ているから、パネル337の裏面に対向した位置に備えられているといえ、引用発明1の「赤外線接近センサー331は、パネル337に設けられた透光部3372の後方に設けられ」ていることは、本件発明2の「非接触式の検知手段」が「前記押しボタンの裏面に対向し」た「位置に」あることに相当する。
オ)引用発明1の「ボタンスイッチ332と赤外線接近センサー331」が「制御装置311に並列接続されている」ことは、ボタンスイッチ332と赤外線接近センサー331の作動のいずれかによって操作可能であるといえる。
そして、引用発明1の「制御装置311」に「上り指令を発動する」ことは、ボタンスイッチ332と赤外線接近センサー331のいずれかにより、エレベータの登録操作をすることである。
したがって、引用発明1の「ボタンスイッチ332と赤外線接近センサー331は、その1つが作動されると上り指令を発動するように制御装置311に並列接続されている」ことは、本件発明2の「前記スイッチ本体の操作又は前記検知手段の検知のいずれかによってエレベータの登録操作が可能」であることに相当する。
カ)引用発明1の「エレベーターの上りボタン33」は、エレベーターを操作するボタンであるから、本件発明2の「エレベータ用操作装置」に相当する。
キ)以上のとおりであるから、本件発明2と引用発明1との一致点及び相違点は次のとおりとなる。

[一致点1]
「可動する押しボタンと、
前記押しボタンの作動に伴って操作されるスイッチ本体と、を備え、
前記押しボタンの裏面に対向した位置に、前記押しボタンから離間した所定位置に利用客の指先が到達したことを検知する非接触式の検知手段を備え、
前記スイッチ本体の操作又は前記検知手段のいずれかによってエレベータの登録操作が可能な
エレベータ用操作装置。」

[相違点1]
本件発明2は、「押しボタンを可動させる可動機構」を備えるものであるのに対し、引用発明1は、「パネル337」を可動させる機構については特定されていない点。
[相違点2]
本件発明2の「非接触式の検知手段」は、「前記押しボタンの作動によって可動しない位置に」備えられているものであるのに対し、引用発明1の「赤外線接近センサー331」が、パネル337の作動によって可動しない位置に備えられているか否かは特定されていない点。
[相違点3]
本件発明2は、「前記押しボタンは、表面に、凸文字又は凸マークである表示部を備え」とされているのに対し、引用発明1の「パネル337」の表面については、かかる特定がされていない点。
[相違点4]
本件発明2は、「検知手段は、利用客の指先が前記押しボタンに接することによって前記検知手段が検知することを抑制するために、前記押しボタンの表面から直交する方向に第1所定距離だけ離間した位置までの空間領域は利用客の指先が到達したことを検知せず、前記押しボタンの表面から直交する方向に第1所定距離だけ離間した位置から前記押しボタンの表面から直交する方向に第2所定距離だけ離間した位置までの空間領域は利用客の指先が到達したことを検知する」ものであるのに対し、引用発明1の「赤外線接近センサー331」は、かかる特定がされてない点。

イ 判断
事案に鑑み相違点4について検討する。
引用文献1には、赤外線接近センサー331が、利用客の指先がパネル337に接することによっても反応してしまうということ(誤操作)を抑制するために、赤外線接近センサー331の検知範囲に不感領域を設けるということは記載されていないし、その示唆もない(引用文献1の段落[0034]、[0037]、及び[0038]を参照。)。
また、引用文献2〜5(さらには、異議申立人Bの提出した甲第4号証(特開2019−142686号公報)及び甲第5号証(登録実用新案第3037379号公報))には、非接触式の検知手段を備えたエレベータ用操作装置において、非接触式の検知手段の誤操作を防ぐために、非接触式の検知手段に不感領域を設けるという技術的事項は記載も示唆もされていない。
さらに、かかる技術的事項が当業者にとって周知・慣用の技術的事項であるとの証拠もない。
してみると、引用発明1において相違点4に係る本件発明2の構成となすことは、当業者といえども容易に想到し得たことではない。
したがって、その他の相違点について検討するまでもなく、本件発明2は、引用発明1及び引用文献2〜5に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(2)本件発明3〜7について
本件発明3〜7は、本件発明2の発明特定事項を全て含みさらに限定したものである。
してみると、本件発明3〜7と引用発明1との間には、少なくとも、相違点4が存在し、引用発明1において、相違点4に係る本件発明3〜7の構成となすことは、上記(1)イと同じ理由により当業者といえども容易に想到し得たことではない。
したがって、本件発明3〜7は、引用発明1及び引用文献2〜5に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(3)特許異議申立人A及びBの意見について
ア 異議申立人Aの意見について
異議申立人Aは、訂正により追加された「検知手段は、利用客の指先が押しボタンに接することによって検知手段が検知することを抑制するために」という発明特定事項に関して、「押しボタンの表面から直交する方向に第1所定距離だけ離間した位置までの空間領域は利用客の指先が到達したことを検知しない」という、引用文献2〜4に記載の当業者には公知であるといえる構成から当業者が容易に想到することが可能であると主張する(令和4年2月4日付け意見書第4頁第11行〜第7頁第3行)。
しかしながら、引用文献2〜4に記載の事項から、非接触式の検知手段に不感領域を設けるということが当業者に周知・慣用であるといえるとしても、非接触式の検知手段を備えたエレベータ用操作装置において、非接触式の検知手段の誤操作を防ぐために不感領域を設けることは記載も示唆もされていない。また、引用文献1にも、赤外線接近センサー331が、利用客の指先がパネル337に接することによっても反応してしまうということを抑制するために、赤外線接近センサー331の検知範囲に不感領域を設けるということは記載も示唆もされていない。
してみれば、訂正により追加された「検知手段は、利用客の指先が押しボタンに接することによって検知手段が検知することを抑制するために」という発明特定事項は、引用文献2〜4に記載の当業者には公知であるといえる構成(押しボタンの表面から直交する方向に第1所定距離だけ離間した位置までの空間領域は利用客の指先が到達したことを検知しない構成)から当業者が容易に想到することが可能であるということはできず、異議申立人Aの令和4年2月4日付け意見書での意見は採用できない。
なお、異議申立人Aによって、令和4年2月4日付け意見書とともに提出された追加の証拠(甲第3号証として提出された、本田美和子、「やさしいエレベータ」p.3、[online]、平成24年、[令和4年1月21日検索]、インターネット、、甲第4号証として提出された特開昭55−108131号公報)にも、エレベータ用操作装置において、利用客の指先が押しボタンに接することによって非接触式の検知手段が検知することを抑制するために、非接触式の検知手段に不感領域を設けることは記載も示唆もされていない。

イ 異議申立人Bの意見について
異議申立人Bは、訂正により追加された「検知手段は、利用客の指先が押しボタンに接することによって検知手段が検知することを抑制するために」という発明特定事項に関して、かかる発明特定事項は、引用文献3の段落【0005】及び【0023】の記載からすれば、引用文献3に記載の発明において、エレベータの行き先階操作部の表示部と非接触式の操作部である光電センサが指を検知する領域との間の指を検知しない領域がエレベータの誤操作を防止するために設けられているということは、当業者において明確に理解することのできる事項であり、引用文献3に記載の検知領域に関する構成を引用文献1に記載の発明に適用することは容易であると主張する(令和4年2月7日付け意見書第3頁第34行〜第4頁第28行)。
しかしながら、引用文献3に記載の検知領域に関する構成の不感領域が、非接触式の検知手段を備えたかご内操作盤において、光電センサが利用客の指先が表示部に接することによっても反応してしまうことを防ぐために設けられているものであるということは引用文献3には記載も示唆もされていないし、エレベータ用操作装置において、利用客の指先が押しボタンに接することによって非接触式の検知手段が検知することを抑制するために検知手段に不感領域を設けることが、当業者にとって周知・慣用であるとの証拠もない(異議申立人Bによって、令和4年2月7日付け意見書とともに提出された参考資料2(特開2007−314300号公報)、参考資料3(実願昭58−78725号(実開昭59−183467号)のマイクロフィルム、及び参考資料3(FUJITEC、「業界初!「走行お知らせ音」標準装備 天井照明全面LED化、回生電力活用<エクシオ−ル>の機能をさらに充実1」、FUJITEC Press Release 2012年1月16日)もこの点を記載ないし示唆するものではない。)。
してみれば、訂正により追加された「検知手段は、利用客の指先が押しボタンに接することによって検知手段が検知することを抑制するために」という発明特定事項は、引用文献3に記載された事項から当業者が容易に想到することができたことということはできず、異議申立人Bの令和4年2月7日付け意見書での意見は採用できない。

第5 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
1 特許法第29条第2項について
1)異議申立人Bの主張
異議申立人Bは、特許異議申立書において、主たる証拠として、甲第1号証(取消理由通知で引用した引用文献3である特開2013−124166号公報)及び従たる証拠として甲第2号証(取消理由通知で引用した引用文献4である特開2015−151253号公報)、甲第3号証(取消理由通知で引用した引用文献5である特開2018−101555号公報)、甲第4号証(特開2019−142686号公報)、甲第5号証(実用新案登録第3037379号公報)を提出し、訂正前の請求項1〜7に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、訂正前の請求項1〜7に係る特許を取り消すべきものである旨主張する。

2)当審の判断
(1)引用文献3に記載の発明
上記「第4 2(3)」に摘記した引用文献3の記載より、引用文献3には、次の発明(以下、「引用発明2」という。)が記載されているといえる。

[引用発明2]
「押し込み式のボタンとしても機能する表示部26を備え、
表示部26の周囲に配置され、
表示部26の前方10mm〜30mm程度の範囲で、指100等の対象物を検知可能な範囲に設定した、一対の投光器24及び受光器25を含んで構成される光電センサ23を備え、
光電センサ23の近傍に手をかざすこと、又は表示部26を押して操作することも可能である、
エレベータ10の行き先階操作部21。」

(2)本件発明2について
ア 対比
本件発明2と引用発明2を対比する。
ア)引用発明2の「表示部26」は、「押し込み式のボタンとしても機能する」から、本件発明2の「可動する押しボタン」に相当する。
イ)引用発明2の「一対の投光器24及び受光器25を含んで構成される光電センサ23」又は「光電センサ23」は、「表示部26の前方10mm〜30mm程度の範囲で、指100等の対象物を検知可能な範囲に設定した」ものであり、表示部26から離間した所定範囲(位置)に、利用客の指100が到達したことを検知する非接触式の検知手段であるといえるから、本件発明2の「非接触式の検知手段」に相当し、引用発明2の「表示部26の前方10mm〜30mm程度の範囲で、指100等の対象物を検知可能な範囲に設定した、一対の投光器24及び受光器25を含んで構成される光電センサ23」は、本件発明2の「前記押しボタンから離間した所定位置に利用客の指先が到達したことを検知する非接触式の検知手段」に相当する。
ウ)引用発明2の「光電センサ23の近傍に手をかざすこと、又は表示部26を押して操作することも可能である」ことは、表示部26の操作又は光電センサ23の検知のいずれかによってエレベータの行き先階登録が可能であることであるから、本件発明2の「前記スイッチ本体の操作又は前記検知手段の検知のいずれかによってエレベータの登録操作が可能」であることに相当する。
エ)引用発明2の「一対の投光器24及び受光器25を含んで構成される光電センサ23」について、「表示部26の前方10mm〜30mm程度の範囲で、指100等の対象物を検知可能な範囲に設定」することは、表示部26の表面から直交する方向である前方に10mmだけ離間した位置までの空間領域は利用客の指100が到達したことを検知せず、また、表示部26の表面から直交する方向である前方に10mm離れた位置から、30mmだけ離間した位置までの空間領域は利用客の指100が到達したことを検知することであるといえるから、本件発明2の「利用客の指先が前記押しボタンに接することによって前記検知手段が検知することを抑制するために、前記押しボタンの表面から直交する方向に第1所定距離だけ離間した位置までの空間領域は利用客の指先が到達したことを検知せず、前記押しボタンの表面から直交する方向に第1所定距離だけ離間した位置から前記押しボタンの表面から直交する方向に第2所定距離だけ離間した位置までの空間領域は利用客の指先が到達したことを検知する」こととの対比において、「前記押しボタンの表面から直交する方向に第1所定距離だけ離間した位置までの空間領域は利用客の指先が到達したことを検知せず、前記押しボタンの表面から直交する方向に第1所定距離だけ離間した位置から前記押しボタンの表面から直交する方向に第2所定距離だけ離間した位置までの空間領域は利用客の指先が到達したことを検知する」ことの限度で一致する。
オ)引用発明2の「エレベータ10の行き先階操作部21」は、本件発明2の「エレベータ用操作装置」に相当する。
カ)以上のとおりであるから、本件発明2と引用発明2との一致点及び相違点は次のとおりとなる。

[一致点2]
「可動する押しボタンと、
前記押しボタンから離間した所定位置に利用客の指先が到達したことを検知する非接触式の検知手段を備え、
前記スイッチ本体の操作又は前記検知手段の検知のいずれかによってエレベータの登録操作が可能な
エレベータ用操作装置であって、
前記押しボタンの表面から直交する方向に第1所定距離だけ離間した位置までの空間領域は利用客の指先が到達したことを検知せず、
前記押しボタンの表面から直交する方向に第1所定距離だけ離間した位置から前記押しボタンの表面から直交する方向に第2所定距離だけ離間した位置までの空間領域は利用客の指先が到達したことを検知する、
エレベータ用操作装置。」

[相違点A]
「可動する押しボタン」に関し、本件発明2は、「前記押しボタンを可動させる可動機構と、前記押しボタンの作動に伴って操作されるスイッチ本体と、を備え」ているのに対し、引用発明2は、「押し込み式のボタンとしても機能する表示部26」が、かかる構成を備えるとは特定されていない点。
[相違点B]
「非接触式の検知手段」に関し、本件発明2は、「前記押しボタンの裏面に対向し、且つ前記押しボタンの作動によって可動しない位置に」備えられているのに対し、引用発明2の「一対の投光器24及び受光器25を含んで構成される光電センサ23」は、「表示部26の周囲に配置され」ているものである点。
[相違点C]
本件発明2は、「前記押しボタンは、表面に、凸文字又は凸マークである表示部を備え」とされているのに対し、引用発明2の「押し込み式のボタンとしても機能する表示部26」の表面についてはかかる特定がされていない点。
[相違点D]
「押しボタンの表面から直交する方向に第1所定距離だけ離間した位置までの空間領域は利用客の指先が到達したことを検知せず」ということに関し、本件発明2は、「利用客の指先が前記押しボタンに接することによって前記検知手段が検知することを抑制するために」設けられているのに対し、引用発明2はかかる点が特定されていない点。

イ 判断
ア)相違点Bについて検討する。
非接触式の検知手段である、引用発明2の「一対の投光器24及び受光器25を含んで構成される光電センサ23」は、投光器24から出射された赤外線が指100にあたって反射し、受光器25に入射するように構成し、検知範囲Zに指100があることを検知するものであり(引用文献3の段落【0021】、【0024】及び【図4】を参照。)、表示部26によって投光器24からの出射する赤外線、及び受光器25へ入射する赤外線を妨げないために、「表示部26の周囲に配置され」ているものと理解できる。
してみると、引用発明2において、「一対の投光器24及び受光器25を含んで構成される光電センサ23」を「押し込み式のボタンとしても機能する表示部26」の裏面に対向した位置に配置すると、赤外線の出射及び入射が妨げられ、接近センサとしての機能を発揮できなくなってしまうので、接近センサとしての機能を発揮させるための格別の構成を採用する必要が生じることとなる。そして、かかる格別の構成を採用することが当業者にとって設計事項であるとの証拠もない(引用文献1の「赤外線接近センサー331」はパネル337の裏面に対向した位置に配置され、且つパネル337の作動によって可動しない位置に配置されているといえるが、一対の投光器及び受光器を含んで構成されるものではないから、引用文献1に記載の「赤外線接近センサー331」の配置を、引用発明2にそのまま適用することは当業者が容易になし得たことではない。)。
さらに、異議申立人Bの提出した甲第4号証及び甲第5号証にも、非接触式の検知手段を押しボタンの裏面に対向した位置、且つ前記押しボタンの作動によって可動しない位置に配置するという、相違点Bに係る本件発明2の構成は、記載も示唆もされていない。
したがって、引用発明2において、相違点Bに係る本件発明2の構成となすことは、当業者といえども容易に想到し得たことではない。

イ)相違点Dについて
引用文献1の「赤外線接近センサー331」はパネル337の裏面に対向した位置に配置され、且つパネル337の作動によって可動しない位置に配置されているといえる。しかしながら、引用文献1の「赤外線接近センサー331」は、パネル337の表面から直交する方向に所定距離だけ離間した位置までの空間領域を利用者の指が到達したことを検知しない領域を設けることは記載されていないし、示唆もされていないから(引用文献1の段落[0034]、[0037]、及び[0038]を参照。)、引用文献1に記載の「赤外線接近センサー331」が、パネル337の裏面に対向した位置に配置されている構成を、引用発明2に適用しても、利用客の指先がパネル337に接することによっても反応してしまうということを抑制するために、赤外線接近センサーの検知範囲に不感領域を設けるという相違点Dに係る本件発明2の構成に至らない。
また、引用文献2、4及び5(さらには、異議申立人Bの提出した甲第4号証及び甲第5号証)にも、非接触式の検知手段を備えたエレベータ用操作装置において、非接触式の検知手段が利用客の指先が検知手段に接触することによっても反応してしまうことを防ぐために、非接触式の検知手段に不感領域を設けるという技術的事項は記載も示唆もされていない。
さらに、かかる技術的事項が当業者にとって周知・慣用の技術的事項であるとの証拠もない。
してみると、引用発明2において相違点Dに係る本件発明2の構成となすことは当業者といえども容易に想到し得たことではない。
ウ)小括
したがって、その他の相違点について検討するまでもなく、本件発明2は、引用発明2及び引用文献1、2、4及び5、さらには、異議申立人Bの提出した甲第4号証及び甲第5号証に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(3)本件発明3〜7について
本件発明3〜7は、本件発明2の発明特定事項を全て含みさらに限定したものである。
してみると、本件発明3〜7と引用発明2との間には、少なくとも、相違点B及びDが存在し、引用発明2において、相違点Bに係る本件発明3〜7の構成となすことは、上記(2)イのア)と同じ理由により当業者といえども容易に想到し得たことではないし、引用発明2において、相違点Dに係る本件発明3〜7の構成となすことは、上記(2)イのイ)と同じ理由により当業者といえども容易に想到し得たことではない。
したがって、本件発明3〜7は、引用発明2及び引用文献2〜5及び引用文献1、2、4及び5、さらには、異議申立人Bの提出した甲第4号証及び甲第5号証に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

2 特許法第17条の2第3項について
1)異議申立人の主張
(1)異議申立人Aの主張
異議申立人Aは、本件特許について、令和2年12月28日の手続補正によって補正された特許請求の範囲の請求項2に記載された「前記押しボタンの表面から直交する方向に第1所定距離だけ離間した位置から前記押しボタンの表面から直交する方向に第2所定距離だけ離間した位置までの空間領域」との発明特定事項に関し、本件の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面には、表板21と検出領域Pとの位置関係は記載されているものの、押しボタン13の表面と検出領域Pとの位置関係は明記されておらず、自明でもないから、請求項2についての補正は、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてされたものではなく、本件の請求項2及び請求項2を引用する請求項3〜7に係る特許は、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない補正をした特許出願に対してされたものであり、取り消すべきものと主張する(特許異議申立書第13頁第9行〜第32行)。
(2)異議申立人Bの主張
異議申立人Bは、本件特許について、令和2年12月28日の手続補正によって補正された、本件特許の特許請求の範囲の請求項1に記載の「非接触式の検知手段」が「前記押しボタンの作動によって可動しない位置に」備えられている点は、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面には記載されていないから、令和2年12月28日にされた手続補正は、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてされたものではなく、本件の請求項1及び請求項1を引用する請求項2〜7に係る特許は、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない補正をした特許出願に対してされたものであり、取り消すべきものと主張する(特許異議申立書第30頁第12行〜第24行)。

2)当審の判断
(1)異議申立人Aの主張について
本件特許の願書に最初に添付した明細書の段落【0035】には、「図5に示すように、検出領域Pは、表板21から水平方向Xに第1所定距離L1だけ離れた位置から水平方向Xに第2所定距離L2だけ離れた位置までを含む空間領域に設定される。また、検知領域Pは、押しボタン13の水平方向Xの投影面の範囲内に収まる空間領域である。」と記載され、同じく段落【0056】には、「(3)また、上記実施形態に係るエレベータ用操作装置2は、表示部22が押しボタン13の表面と同一高さで示されている構成である。」と記載されている。
かかる記載からすれば、表示部22が押しボタン13の表面と同一高さとされている場合には、「検出領域Pは、表板21から水平方向Xに第1所定距離L1だけ離れた位置から水平方向Xに第2所定距離L2だけ離れた位置までを含む空間領域」と、「前記押しボタンの表面から直交する方向に第1所定距離だけ離間した位置から前記押しボタンの表面から直交する方向に第2所定距離だけ離間した位置までの空間領域」は、水平方向X(【図5】を参照。)においては、同じ空間領域を示しているといえる。
また、本件特許の願書に最初に添付した図面の【図5】には、押しボタン13の表面から直交する方向に第1所定距離L1だけ離れた位置から水平方向Xに第2所定距離L2だけ離れた位置まで空間領域Pとすることが記載されているといえる。
してみると、請求項2の「前記押しボタンの表面から直交する方向に第1所定距離だけ離間した位置から前記押しボタンの表面から直交する方向に第2所定距離だけ離間した位置までの空間領域」を発明特定事項として追加する補正は願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてされたものといえ、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしているといえる。
したがって、異議申立人Aの主張は採用できない。
(2)異議申立人Bの主張について
本件特許の願書に最初に添付した明細書の段落【0027】及び図面の【図5】の記載からすれば、非接触式の検知手段である検知手段18が取り付けられたプリント基板16は、表板21に取り付けられているケース15内に収納されているものであるところ、当業者における技術常識をもってすれば、プリント基板16及びこれに取り付けられた検知手段18が、押しボタン13の操作によっては可動しない(動かない)ものであることは自明であるといえる(プリント基板16が可動であるとすると、押しボタン13の動きをプリント基板16に取り付けられたスイッチ本体17が検知することが困難となるから、スイッチ本体17を取り付けたプリント基板16は、押しボタン13の操作によっては可動しないものとなっていると解される。)。
してみると、訂正後の請求項2に「非接触式の検知手段」が「前記押しボタンの作動によって可動しない位置に」備えられている点を追加する補正は、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてされたものといえ、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしているといえる。
したがって、異議申立人Bの主張は採用できない。

3 特許法第36条第6項第2号について
1)異議申立人の主張
(1)異議申立人Aの主張
異議申立人Aは、本件特許の請求項2及びこれを引用する請求項3〜7の「前記押しボタンの表面から直交する方向に第1所定距離だけ離間した位置」という記載、並びに「前記押しボタンの表面に直交する方向に第2所定距離だけ離間した位置」という記載において、「直交する方向」とは、何に直交する方向であるかが明確でないから、特許を受けようとする発明が明確でなく、請求項2〜7に係る特許は、特許法第36条第6項第2号を満たしていない特許出願についてされたものであり、取り消すべきものであると主張する(特許異議申立書第14頁第1行〜第24行)。
(2)異議申立人Bの主張
異議申立人Bは、本件特許の訂正前の請求項1及びこれを引用する請求項2〜7の「前記押しボタンの作動によって可動しない」との記載を「前記押しボタンの作動によって検知しない」と解釈する場合は、非接触式の検知手段が、所定位置において利用客の指先が到達したことを検知するものであることからすれば、不明瞭な記載となると主張する(特許異議申立書第29頁第11行〜第30頁第9行)。

2)当審の判断
(1)異議申立人Aの主張について
本件特許の訂正後の請求項2及びこれを引用する請求項3〜7においては、「前記押しボタンの表面から直交する方向に第1所定距離だけ離間した位置」と記載され、また、「前記押しボタンの表面に直交する方向に第2所定距離だけ離間した位置」と記載されているように、「直交する方向」が、「前記押しボタンの表面から」の方向であると、その基準が特定されており、エレベータ用操作装置における押しボタンの表面が、多少の凹凸を有する場合があっても、概ね平面状であることが当業者における技術常識であるといえることをも踏まえれば、本件特許の訂正後の請求項2及びこれを引用する請求項3〜7の、「前記押しボタンの表面から直交する方向に第1所定距離だけ離間した位置」との記載、及び、「前記押しボタンの表面に直交する方向に第2所定距離だけ離間した位置」との記載は明確であり、本件特許の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第2号の要件を満たしているといえる。
したがって、異議申立人Aの主張は採用できない。
(2)異議申立人Bの主張について
本件特許の願書に添付した明細書の段落【0027】及び図面の【図5】の記載からすれば、非接触式の検知手段である検知手段18が取り付けられたプリント基板16は、表板21に取り付けられているケース15内に収納されているものであるところ、当業者における技術常識をもってすれば、プリント基板16及びこれに取り付けられた検知手段18は、押しボタン13の操作によっては可動しない(動かない)ものであるといえる。
してみると、異議申立人Bの、本件特許の訂正前の請求項1及びこれを引用する請求項2〜7の「前記押しボタンの作動によって可動しない」との記載を「前記押しボタンの作動によって検知しない」と解釈することを前提として不明瞭であるとする主張は採用できない。

4 特許法第36条第6項第1号及び同法第36条第4項第1号について
1)異議申立人Bの主張
異議申立人Bは、本件特許の訂正前の請求項1及びこれを引用する請求項2〜7の「前記押しボタンの作動によって可動しない位置に」という記載の、「可動しない」との文言について、本件特許の願書に添付した明細書の段落【0028】の記載には、押しボタン13が指で押され、スイッチ本体17を押した際に、検知手段18が可動しない、検知手段18を実装したプリント基板16が可動しないとの記載は見当たらず、また、本件特許の願書に添付した図面の【図5】は、押しボタン13が指で押され、スイッチ本体17を押した際に、検知手段18が可動しない、検知手段18を実装したプリント基板16が可動しないことを示していない、さらには、本件特許の願書に添付した明細書及び図面には、検知手段18を可動しないための具体的構成、態様は何ら記載されていないから、本件特許の願書に添付した明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとはいえず、また、本件特許の請求項1〜7の記載は、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであるとはいえず、本件の訂正前の請求項1〜7に係る発明は、特許法第36条第4項第1号及び同法第3条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、取り消すべきものと主張する(特許異議申立書第28頁第5行〜第29頁第9行)。
2)当審の判断
本件特許の願書に添付した明細書の段落【0027】及び図面の【図5】の記載からすれば、非接触式の検知手段である検知手段18が取り付けられたプリント基板16は、表板21に取り付けられているケース15内に収納されているものであるところ、当業者における技術常識をもってすれば、プリント基板16及びこれに取り付けられた検知手段18が、押しボタン13の操作によっては可動しない(動かない)ものであることは自明であるといえる。
したがって、本件特許の願書に添付した明細書及び図面には、押しボタン13が指で押され、スイッチ本体17を押した際に、検知手段18が可動しない構成が記載されているといえるから、本件特許の願書に添付した明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるといえる。また、本件特許の訂正後の請求項2〜7の記載は、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであるといえる。
よって、異議申立人Bの主張は採用できない。

第6 むすび
以上「第4」及び「第5」のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項2〜7に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項2〜7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
さらに、本件請求項1に係る特許は、本件訂正請求に係る訂正により削除された。これにより、異議申立人A及びBによる特許異議の申立てについて、請求項1に係る申立ては、申立ての対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。



 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(削除)
【請求項2】
可動する押しボタンと、
前記押しボタンを可動させる可動機構と、
前記押しボタンの作動に伴って操作されるスイッチ本体と、を備え、
前記押しボタンの裏面に対向し、且つ前記押しボタンの作動によって可動しない位置に、前記押しボタンから離間した所定位置に利用客の指先が到達したことを検知する非接触式の検知手段を備え、
前記押しボタンから離間した所定位置に利用客の指先が到達したことを検知する非接触式の検知手段を備え、
前記スイッチ本体の操作又は前記検知手段の検知のいずれかによってエレベータの登録操作が可能な
エレベータ用操作装置であって、
前記押しボタンは、表面に、凸文字又は凸マークである表示部を備え、
前記検知手段は、
利用客の指先が前記押しボタンに接することによって前記検知手段が検知することを抑制するために、前記押しボタンの表面から直交する方向に第1所定距離だけ離間した位置までの空間領域は利用客の指先が到達したことを検知せず、
前記押しボタンの表面から直交する方向に第1所定距離だけ離間した位置から前記押しボタンの表面から直交する方向に第2所定距離だけ離間した位置までの空間領域は利用客の指先が到達したことを検知する、
エレベータ用操作装置。
【請求項3】
前記検知手段が光電センサである
請求項2に記載のエレベータ用操作装置。
【請求項4】
前記押しボタンの表面全体又は一部は、前記光電センサから照射された光を透過する
請求項3に記載のエレベータ用操作装置。
【請求項5】
前記スイッチ本体と前記検知手段が並列に接続される
請求項2乃至4のいずれか1項に記載のエレベータ用操作装置。
【請求項6】
前記所定位置は、前記押しボタンの水平方向投影面内の所定位置である
請求項2乃至5のいずれか1項に記載のエレベータ用操作装置。
【請求項7】
請求項2乃至6に記載のエレベータ用操作装置を備える
エレベータ。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照
異議決定日 2022-03-30 
出願番号 P2020-148236
審決分類 P 1 651・ 851- YAA (B66B)
P 1 651・ 536- YAA (B66B)
P 1 651・ 853- YAA (B66B)
P 1 651・ 537- YAA (B66B)
P 1 651・ 121- YAA (B66B)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 平田 信勝
特許庁審判官 田村 嘉章
尾崎 和寛
登録日 2021-02-22 
登録番号 6841372
権利者 フジテック株式会社
発明の名称 エレベータ用操作装置、及び該エレベータ用操作装置を備えるエレベータ  
代理人 松阪 正弘  
代理人 田中 勉  
代理人 浅野 哲平  
代理人 福屋 好泰  
代理人 井田 正道  
代理人 特許業務法人 ユニアス国際特許事務所  
代理人 福屋 好泰  
代理人 浅野 哲平  
代理人 特許業務法人 ユニアス国際特許事務所  

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